(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167640
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】落雷発生予測システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/16 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
G01W1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083852
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】吉元 光児
(57)【要約】
【課題】移動中の車両が位置する空間の電界強度を正確に評価可能とし、これにより落雷発生の予測精度を向上させる。
【解決手段】この落雷発生予測システム10は、複数の車両11に設けられ各車両11が位置する空間の電界強度データを取得可能な電界強度データ取得部12と、車両11の位置データを取得可能な位置データ取得部13と、電界強度データと位置データとに基づいて落雷の発生を予測するデータ処理装置14とを備える。データ処理装置14は、電界強度の影響因子となり得るデータに基づいて、必要と判断した場合に電界強度データを補正し、補正した電界強度データに基づいて落雷の発生を予測する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両に設けられ前記各車両が位置する空間の電界強度データを取得可能な電界強度データ取得部と、前記車両の位置データを取得可能な位置データ取得部と、所定のデータ処理を行うデータ処理装置とを備え、
前記データ処理装置は、前記電界強度データと前記位置データとに基づいて落雷の発生を予測する落雷発生予測システムにおいて、
前記データ処理装置は、前記電界強度の影響因子となり得るデータに基づいて、必要と判断した場合に前記電界強度データを補正し、補正した電界強度データに基づいて落雷の発生を予測することを特徴とする、落雷発生予測システム。
【請求項2】
前記車両の周囲及び上方を撮像する撮像部をさらに備え、
前記データ処理装置は、前記撮像部で撮像して得た画像データから取得した前記車両の周囲及び上方に位置する物体の有無及び前記物体との距離に基づいて、前記電界強度データに対する補正の必要性を判断する請求項1に記載の落雷発生予測システム。
【請求項3】
前記データ処理装置は、前記電界強度データと前記位置データとに基づき、前記電界強度が零となるエリアに前記車両が位置していると判定した場合に、前記電界強度データ取得部の校正を行う請求項1に記載の落雷発生予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷発生予測システムに関し、特に移動中の車両が位置する空間の電界強度を精度よく検出可能とするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造工場など、安定的な稼働が求められる施設においては、安定的な電力供給が必要とされている。その一方で、落雷などの自然現象などによって、電力線等の電力設備が損傷して、停電や瞬低(瞬時電圧低下)などの電力トラブルが不可避的に発生しているのが現状である。
【0003】
ここで、落雷の発生を予測して当該施設に警告を発するためのシステムが特許文献1に記載されている。詳述すると、この特許文献に記載のシステムでは、タワー等の建造物の建設作業現場あるいは建設作業現場の周辺の地点に落雷検出装置を設置すると共に、建造物の建設作業現場または建設作業現場の近隣の地点に静電界検出装置を設置する。そして、落雷検出装置により落雷の発生を検出すると共に、静電界検出装置により雲・大地間の静電界の電界強度を検出し、両検出装置から出力された検出信号のレベルに基づいて、警告出力装置により警告情報のランクを決定して、そのランク付けされた警告情報を警告出力装置から出力する。また、この際、静電界検出装置の検出レベルを優先的に採用して、警告情報を出力する。
【0004】
ところで、製造工場においては、設置された各種機器が高度に電気制御され、また電気によりネットワーク化されているため、施設への落雷による機器の破損などの直接的な被害だけでなく停電や瞬低等による間接的な被害に対する対策(雷害対策)が重要となる。特に、半導体工場などは上述の影響を受けやすいため、従来にも増して精度の高い落雷発生予測が求められる。例えば特許文献1に記載のシステムにおいて落雷発生の予測精度を高めるためには、静電界検知装置の数を増やして広範囲に設置することが考えられるが、数を増やすほど設備コストの高騰につながるため、例えば落雷予測を有料サービスとして相手(工場など)に提供することを考えると、現実的でない。
【0005】
そこで、本出願人は、電界効果トランジスタと、電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるアンテナと、電界効果トランジスタのソース電極とドレイン電極との間に所定の電圧を付与するためのバイアス電源とを具備した電界検知システムであって、アンテナを、車両のボデー金属部とした電界検知システムを提案している(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-250211号公報
【特許文献2】特開2022-147564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるアンテナを車両のボデー金属部とすることによって、非常に大きな面積で電界強度を検出できる。そのため、電界の状態を感度よく検出することができ、これにより高精度に落雷の発生を予測することが可能となる。また、電界効果トランジスタは非常に安価に入手し易く、また車両のボデー金属部をアンテナ代わりとすることで、別個にアンテナを用意する手間及びコストを低減できる。
【0008】
その一方で、上述のように車両のボデー金属部をアンテナとして車両が位置する空間の電界強度を検出しようとした場合、周辺の建物等が車両まわりの電界強度に及ぼす影響を検討する必要がある。すなわち、電界強度は車両の上方に位置する物体や、車両に隣接する建物、樹木などの巨大な物体によって影響を受ける。そのため、車両の近くに大きな建物や遮蔽物が存在する場合、車両まわりの電界の状態が変化して、本来の値とは異なる値の電界強度を検出するおそれがある。これでは落雷の発生を精度よく予測することは難しい。
【0009】
以上の事情に鑑み、本明細書では、移動中の車両が位置する空間の電界強度を正確に評価し、これにより落雷発生の予測精度を向上させることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決は、本発明に係る落雷発生予測システムによって達成される。すなわち、この予測システムは、複数の車両に設けられ各車両が位置する空間の電界強度データを取得可能な電界強度データ取得部と、車両の位置データを取得可能な位置データ取得部と、所定のデータ処理を行うデータ処理装置とを備え、データ処理装置は、電界強度データと位置データとに基づいて落雷の発生を予測する落雷発生予測システムにおいて、データ処理装置は、前記電界強度の影響因子となり得るデータに基づいて必要と判断した場合に電界強度データを補正し、補正した電界強度データに基づいて落雷の発生を予測する点をもって特徴付けられる。
【0011】
本発明に係る落雷発生予測システムでは、電界強度の影響因子となり得るデータに基づいて必要と判断した場合に電界強度データを補正するようにしたので、例えば車両の上方を遮蔽する物体があり、又は車両に建物などの大きな物体が隣接している場合などに、これらの物体の存在を影響因子とみなして電界強度データを補正することができる。電界強度の影響因子となり得る物体がない場合、あるいは当該物体と車両との距離が離れている場合には、補正の必要なしと判断して電界強度データ取得部で取得した電界強度データに基づいて落雷の発生予測が行われる。従って、電界強度の影響因子の有無に関わらず、電界強度の大きさを適正に評価して落雷の発生予測を高精度に実施することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る落雷発生予測システムは、車両の周囲及び上方を撮像する撮像部をさらに備え、データ処理装置は、撮像部で撮像して得た画像データから取得した車両の周囲及び上方に位置する物体の有無及び物体との距離に基づいて電界強度データに対する補正の必要性を判断してもよい。
【0013】
地上における電界強度は、一般に、地表面付近で最も小さく、地表面から上方に遠ざかるにつれて増大する傾向にある。一方で、ビルのような巨大な建物が存在する場合、建物の屋上付近で電界強度が最も小さくなるような電界分布を生じ、かつ当該建物に極めて近い場所(数m以内)では、建物周辺の電界分布の影響を大きく受ける。また、樹木が道路の上方にまで張り出しており、当該道路を走行する車両の上方を覆う場合には、覆う範囲にもよるが、車両が位置する空間の電界が樹木により遮断されることがあり得る。以上の点に鑑み、本発明では、車両の周囲及び上方を撮像可能な撮像部を設けると共に、撮像部で撮像して得た画像データから取得した車両の周囲及び上方に位置する物体の有無及び物体との距離に基づいて、電界強度データに対する補正の必要性を判断した。このように車両の周囲及び上方を撮像して得た画像データに基づいて電界強度データに対する補正の必要性を判断することによって、必要に応じて適正に電界強度データを補正して、より正確に電界強度の大きさを評価することができる。従って、本構成によれば、より高精度に落雷の発生予測を行うことが可能となる。また、例えば樹木などの物体が車両の上方を覆っている場合には、電界強度の正確な値を取得できないものとして、当該電界強度データを落雷発生予測に用いない(排除する)ことができる。これにより、適切に取得した電界強度データのみに基づいて落雷の発生を予測できるので、これによっても落雷の発生予測精度を高めることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る落雷発生予測システムにおいて、データ処理装置は、電界強度データを取得するのに不適切と判定したエリアがマッピングされた地図データと、位置データとに基づいて、車両が不適切エリアに位置していると判定した場合、電界強度データ取得部で取得した電界強度データを落雷発生予測用のデータとして用いなくてもよい。
【0015】
例えばトンネル内や高圧送電線下の道路を走行している際に車両が位置する空間の電界強度データを取得(検出)する場合があり得るが、トンネルのように周囲を完全に覆われた領域では電界が完全に遮断されるため、取得した電界強度データの値は実質的に零となる。また、高圧送電線の直下では、高圧送電線の影響を強く受けて電界強度データが実際よりも大きな値として検出される可能性が高い。一方で、トンネルや高圧送電線は、既存でかつ固定の物体であるから、予めトンネルや高圧送電線が存在するエリアについては電界強度データを取得するのに不適切なエリアであるとしてマッピングしておくことで、当該位置で取得した電界強度データについては、落雷発生予測に際して不要なデータとして処理することができる。このように取得するのに適切でないエリアで取得した電界強度データを排除することにより、取得するのに適切なエリアで取得した電界強度データのみに基づいて落雷の発生を予測できる。従って、これによっても落雷の発生予測精度を高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係るシステムにおいて、データ処理装置は、晴天時に取得した電界強度データの値が予め設定した閾値を超える場合、当該電界強度データを落雷発生予測用のデータとして用いないものとし、かつ、車両が位置したエリアを、電界強度データを取得するのに不適切と判定したエリアがマッピングされた地図データに不適切エリアとして追加してもよい。
【0017】
例えば晴天時においては、当然に雷雲は存在しないため、大きな電界強度データの値が取得(検出)されることはない。にもかかわらず取得した電界強度データの値が大きい場合には、何等かの影響因子の存在により本来よりも大きな値として電界強度データが取得された可能性が高い。よって、このような場合には、取得した電界強度データを落雷発生予測用のデータとして用いないことにし、かつ、その際に車両が位置したエリアを、電界強度データの取得に不適切なエリアがマッピングされた地図データに追加することで、例えば雨天時に同エリアで取得した電界強度データを誤って落雷の発生予測に用いる事態を防止できる。よって、これによっても落雷の発生予測精度を高めることが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る落雷発生予測システムにおいて、データ処理装置は、電界強度データと位置データとに基づき、電界強度が零となるエリアに車両が位置していると判定した場合に、電界強度データ取得部の校正を行ってもよい。
【0019】
上述したようにトンネル内や建物内部では電界強度は零になるため、トンネル内を走行している際に取得した電界強度データの値が零より大きい場合には、電界強度データ取得部の基準値がずれている可能性がある。ここで、例えばデータ処理装置が、上述した不適切エリアがマッピングされた地図データを利用できる場合、この地図データと車両の位置データとから、電界強度が零となるエリアに車両が位置していることが容易に把握できるので、そのような場合には、例えば取得した電界強度データの値の分だけ電界強度データ取得部の基準値を調整する等の校正を行うことにより、電界強度データ取得部による電界強度データの取得性能を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る落雷発生予測システムによれば、移動中の車両が位置する空間の電界強度を正確に評価することができるので、落雷発生の予測精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る落雷発生予測システムの概念図である。
【
図2】
図1に示す予測システムを用いた予測方法の一例に係るフローチャートである。
【
図3】
図2に示す補正判断ステップの詳細な流れを示すフローチャートである。
【
図4】晴天時において検出した電界強度の値と経過時間との関係の一例を示すグラフである。
【
図5】電界強度データの取得に不適切と判定されたエリアがマッピングされた地図データの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る落雷発生予測システムの内容を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る落雷発生予測システム10の概念図を示している。この予測システム10は、複数の車両11に設けられた電界強度データ取得部12と、位置データ取得部13と、データ処理装置14とを具備する。また、本実施形態では、落雷発生予測システム10は撮像部15をさらに具備する。以下、各構成要素の詳細を順に説明する。
【0024】
電界強度データ取得部12は、電界強度データの取得対象となる全ての車両11に設けられる。ここで、電界強度データ取得部12は、車両11が位置する空間の電界強度データを取得可能な限りにおいて任意の構成を採用することができる。本実施形態では、図示は省略するが、電界強度データ取得部12として、電界効果トランジスタ(FET)と、電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるアンテナと、電界効果トランジスタのソース電極とドレイン電極との間に所定の電圧を付与可能なバイアス電源と、ソース電極とドレイン電極との間を流れる電流の大きさを計測するための計測装置、及び電界強度算出部とを具備し、アンテナが、車両11のボデー金属部で構成される電界強度検出装置が用いられる。
【0025】
また、各車両11にはデータ通信装置16が設けられている。この場合、電界強度データ取得部12は、取得した電界強度データをデータ通信装置16に送信する。データ通信装置16の詳細は後述する。
【0026】
位置データ取得部13は、例えばGPS等の衛星測位システム用の衛星(測位衛星)との通信を可能とする衛星測位システムの受信部で構成される。この場合、位置データ取得部13は、例えばカーナビゲーションシステムで構成される。位置データ取得部13は、測位衛星との通信により車両11の位置データを取得(算出)し、取得した車両11の位置データをデータ通信装置16に送信する。もちろん、位置データ取得部13を、カーナビゲーションシステムとは別の専用の機器として車両11に設けてもよい。
【0027】
撮像部15は、車両11の周囲及び上方を撮像可能とするもので、例えば複数のカメラで構成される。この場合、複数のカメラは、例えば車両11前方を撮像可能な位置と、車両11後方を撮像可能な位置と、車両11の幅方向一方側を撮像可能な位置と、車両11の幅方向他方側を撮像可能な位置と、車両11の上方を撮像可能な位置とにそれぞれ配置される。撮像部15は各カメラで撮像して得た車両11の周囲及び上方の画像データをデータ通信装置16に送信する。もちろん上述したカメラの配置態様は一例に過ぎず、例えば広視野角かつ高解像度のカメラを用いて撮像範囲を広げることで、使用するカメラの数を減らしてもよい。また、カメラで撮像される画像データには、静止画データと、動画データの双方が含まれ得る。
【0028】
データ通信装置16は、少なくとも電界強度データ取得部12で検出した電界強度データと、位置データ取得部13で取得した車両11の位置データと、撮像部15で撮像して得た画像データ、及び各データの取得時刻に関するデータ(時刻データ)とをデータ処理装置14に送信可能に構成される。また、データ通信装置16は、上記以外のデータを送信可能に構成してもよい。例えば、データ通信装置16は、車両11の位置データを取得したエリアの気象に関するデータを送信してもよく、例えば温度、湿度、降雨量(降雪量)、降雨エリア、風速、風量、気圧など、およそ一般に気象情報と認識される事象に関する情報を送信可能に構成される。また、これら気象データは、各種計測機器により直接的に計測したデータであってもよく、あるいは例えばワイパーの動作回数など当該自然現象に関連する動作に関するデータから間接的に算出して得たデータであってもよい。
【0029】
なお、データ通信装置16としては、既存のデータ通信可能な装置を幅広く適用することができ、例えば本実施形態に係るデータの通信を専用に行うためのデータ通信機器をデータ通信装置16として車両11に据え付け固定してもよい。あるいは、タブレットやスマートフォンなどの汎用データ通信端末に専用のアプリをインストールしたものを車両11内に設置し、これをデータ通信装置16として使用してもよい。
【0030】
データ処理装置14は、本実施形態では、
図1に示すようにデータ蓄積部17と、データ処理部18とを有する。このうちデータ蓄積部17は、複数の車両11から送信される位置データ、電界強度データ、画像データ、及び気象データを蓄積する。これらのデータは、例えば各車両11から所定時刻おきに送信される。また、車両11以外から送信されるデータがある場合、当該データをデータ蓄積部17に蓄積する。
図1に示す例では、気象情報提供機関20から提供される気象データを受信し、データ蓄積部17に蓄積する。この気象データには、例えば実際に発生した落雷に関連するデータ(地域、時刻、強さなど)が含まれる。
【0031】
また、本実施形態では、データ蓄積部17は、電界強度データを取得するのに不適切と判定したエリアがマッピングされた地図データをさらに蓄積する。すなわち、この地図データは、例えば
図5に示すように、車両11が走行している広域エリアの地図データであって、車両11に設けられた電界強度データ取得部12によって取得される電界強度データに強く影響を及ぼすと考えられる建造物が位置するエリアをマッピングしたものである。ここで、電界強度データに強く影響を及ぼすと考えられる建造物としては、トンネル、高架、屋内駐車場、高圧送電線などが挙げられる。そこで、予めこれら電界強度に強く影響を及ぼすと考えられる建造物が位置するエリアを、電界強度データを取得するのに不適切と判定されたエリア(不適切エリア19)として地図データに追加することで、不適切エリア19が分布した地図データが作成され得る。この地図データは、例えばデータ蓄積部17に蓄積され、データ処理部18により利用可能な状態とする。
【0032】
また、不適切エリア19には、電界強度データが極めて高い値(異常値)を示すエリアである異常値エリア19aと、電界強度が零となるエリアである零エリア19bとが存在する。例えば高圧送電線が道路上方を通るエリアは異常値エリア19aとしてマッピングされ(地図データに記録され)、トンネルが通るエリアは零エリア19bとしてマッピングされる。
【0033】
データ処理部18は、データ通信装置16により送信され、データ蓄積部17に蓄積された各種データに基づいて、落雷の発生予測処理を実行する。
【0034】
ここで、落雷の発生予測処理(具体的には落雷の発生予測を行うためのプログラムの実行)は、例えばAI(人工知能)を用いて行うことが可能である。具体的には、まずデータ蓄積部17に蓄積された各種データを教師データとして用いて、データ処理部18により、落雷の発生地域、時刻、及び強さに関する情報を出力とする学習モデルを生成する(学習モデル生成ステップ)。この際、使用する教師データとしては、各車両11の位置データと電界強度データ、及び実際に発生した落雷に関するデータ(以後、単に落雷データと称する。)が用いられる。言い換えると、過去の落雷データに対応する位置データと電界強度データ、すなわち、データ蓄積部17に蓄積された各種データから、実際に落雷が発生した地域及び時刻における電界強度データを、対応する位置データを利用して抽出する。そして、抽出した電界強度データとその他の気象データを入力とし、落雷データを出力とする学習モデルを生成する。このうち落雷データについては、例えば
図1に示すように、気象情報提供機関20から提供される気象データのうち過去に発生した落雷に関するデータを用いることができる。
【0035】
このようにして落雷発生に関する学習モデルを生成した後、この学習モデルを用いて落雷の発生を予測する(落雷発生予測ステップ)。具体的には、学習モデル生成ステップで生成した学習モデルに、各車両11の位置データ、電界強度データ、その他の気象データを入力して、落雷の発生地域、時刻、及び強さの少なくとも一つを落雷発生の予測結果として出力するプログラムをデータ処理部18により実行する。これにより、落雷の発生予測結果に関する情報を取得する。
【0036】
また、データ処理部18は、上述した落雷の発生を予測するに際し、予測に用いる電界強度データの補正の必要性を事前に判断し、必要に応じて電界強度データの補正を行う。詳細は後述する。
【0037】
次に、上記構成の落雷発生予測システム10を用いた落雷発生予測方法の一例を主に
図1~
図3に基づいて説明する。
【0038】
図2は、落雷発生予測システム10を用いた落雷発生予測方法の手順を説明するためのフローチャートを示している。このフローチャートに示すように、本実施形態に係る落雷発生予測方法は、複数の車両11から位置データ、電界強度データ画像データ、及び気象データを取得する第一データ取得ステップS1と、車両11以外から気象データを取得する第二データ取得ステップS2と、取得した電界強度データに対する補正の必要性を判断する補正判断ステップS3と、取得した各種データに基づいて落雷の発生予測を行う落雷発生予測ステップS4とを具備する。
【0039】
(S1)第一データ取得ステップ
このステップS1では、データ取得の対象となる複数の車両11から、各車両11の位置データ、電界強度データ、画像データ、及び、気温、雨量、風速などの気象データ(以後、便宜的に第一気象データと称する。)を取得する。具体的には、上述した電界強度データ取得部12により車両11が位置する空間の電界強度を検出し、検出した電界強度に関するデータ(電界強度データ)をデータ通信装置16によりデータ処理装置14に送信する。同様に、位置データ取得部13により取得した車両11の位置データをデータ通信装置16によりデータ処理装置14に送信する。また、撮像部15により撮像して得られた車両11の周囲及び上方の画像データをデータ通信装置16によりデータ処理装置14に送信すると共に、図示しない各種センサ等により検出した気象情報を第一気象データとしてデータ通信装置16によりデータ処理装置14に送信する。これら各種データを受信したデータ処理装置14は、受信した各種データをデータ蓄積部17に蓄積する。
【0040】
(S2)第二データ取得ステップ
このステップS2では、気象情報提供機関20から、所定エリア内で過去に発生した落雷に関するデータ(落雷データ)を含む気象データ(以後、便宜的に第二気象データと称する。)を取得する。データ処理装置14は、取得した落雷データ等の気象データ(第二気象データ)をデータ蓄積部17に蓄積する。これにより、所定エリア内の所定時刻における落雷データと、同エリア及び同時刻における電界強度データと各種気象データが、相互に関連付けられた状態でデータ蓄積部17に蓄積される。
【0041】
(S3)補正判断ステップ
このステップS3では、ステップS1で取得した各種データのうち、電界強度データに対して補正の必要性を判断する。本実施形態では、
図3に示すフローに基づいて、電界強度データに対する補正の必要性を判断する。以下、詳細を説明する。
【0042】
まず、取得した車両11の位置データと、予め取得しておいた地図データとに基づいて、電界強度データを取得した際、地図データにおける不適切エリア19(
図5を参照)に車両11が位置していたか否かを判定する(ステップS31)。ここで、車両11が地図データにおける不適切エリア19に位置していたと判定された場合、この際に取得した電界強度データは、落雷発生予測に用いるには著しく信頼性に欠けるとみなし、後述する落雷発生予測処理には用いない(ステップS32)。言い換えると、落雷発生予測用のデータとしてデータ蓄積部17に蓄積せず、一部の例外データ(後述するステップS39に使用されるデータ)を除いて消去する。
【0043】
ステップS31で、車両11が不適切エリア19に位置している際に取得されたと判定された電界強度データを除いた残りの電界強度データに対して、引き続き落雷発生予測用のデータとして必要か否かの判断を行う(ステップS32)。すなわち、このステップS32では、ステップS1で取得した電界強度データのうち、不適切エリア19以外のエリアに車両11が位置していた際に取得されたと判定された電界強度データに対して、必要性の判断を行う。まず電界強度データの取得時に車両11が位置したエリアの天候が晴天であったか否かを、ステップS1で取得した各種気象データに基づいて判定する。そして、晴天であったと判定された場合、取得した電界強度データと、予め設定しておいた電界強度データの閾値とを比較し、取得した電界強度データが閾値を超えている場合(
図4中、時刻tにおける電界強度データの値を参照)、取得した電界強度データは、晴天時であれば通常取得されることのない異常値であるとして、後述する落雷発生予測処理には用いない(ステップS32)。言い換えると、落雷発生予測用のデータとしてデータ蓄積部17に蓄積せず、消去する。なお、閾値は任意に設定可能であり、例えば晴天時における通常の電界強度(10
-1kV/m)とはオーダーが異なる値(例えば10
1kV)が閾値として好適に設定され得る。
【0044】
また、上述のように、晴天時にもかかわらず、取得した電界強度データの値が異常に高い場合、
図5に示すように、取得時に車両11が位置していたエリアp1が不適切エリア19であるとみなして、当該エリアp1を新たな不適切エリア19として地図データに追加する(ステップS34)。
【0045】
以上のようにして落雷発生予測に不必要な電界強度データを選定し、排除した後、残りの電界強度データに対して補正の必要性を判断する(ステップS35)。本実施形態では、ステップS1で取得した画像データから、電界強度データの取得時において車両11の周囲又は上方に、電界強度データに影響を及ぼすような物体(例えばビルなどの比較的大きな建物、樹木など)が存在していたか否かを判定する。そして、当該物体が存在していなかったと判定した場合、対応する電界強度データについて補正の必要性はないものとみなし、ステップS1で取得した電界強度データをそのまま落雷発生予測用のデータに追加する。言い換えると、落雷発生予測用のデータとしてステップS1で取得した電界強度データをそのままデータ蓄積部17に蓄積する(ステップS36)。
【0046】
あるいは、当該物体が車両11の周囲に存在していたと判定した場合、続けて当該物体と車両11との距離を画像データから取得し、取得した距離に基づいて、電界強度データの補正値を設定する。ここで、通常、ビルなどの巨大な建物が車両11の近傍に位置している場合、取得される電界強度データは、当該建物がなかったとした場合に取得されるであろう値よりも小さい値として取得される可能性が高い。また、建物との距離が近いほど上記傾向は強くなる(近いほど小さい値として取得される)。以上の点に鑑み、車両11と物体との距離が一定の値以下(例えば10m以下)であった場合、補正値を1以上の係数として設定する。然る後、設定した補正値を取得した電界強度データの値に掛けて得た値を、補正後の電界強度データとして落雷発生用予測用のデータに追加する。言い換えると、補正後の電界強度データを落雷発生予測用のデータとしてデータ蓄積部17に蓄積する(ステップS37)。
【0047】
一方、車両11の周囲に物体が存在すると認められる場合であっても、当該物体と車両11とが十分に離れている場合、電界強度に及ぼす影響は実質的にないものとみなして、ステップS1で取得した電界強度データをそのまま落雷発生予測用のデータに追加する(ステップS36)。
【0048】
なお、
図3には示していないが、画像データから、電界強度データに影響を及ぼし得る物体を取得したところ、例えば樹木の枝葉が車両11の上方の大部分を覆っているなど車両11の上方が物体によって覆われている場合、正常な電界強度データの値を取得することは難しいと判定して、当該データを落雷発生予測用のデータに用いないようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、ステップS31において車両11が不適切エリア19に位置していたと判定された場合に、続けて、当該車両11が不適切エリア19のうち電界強度が零になるエリア(零エリア19b)に位置していたか否かを判定する(ステップS38)。ここで、車両11が零エリア19bに位置していなかったと判定された場合、言い換えると、異常値エリア19aに位置していたとみなして、対応する電界強度データを落雷発生予測に用いることなく消去する(ステップS32)。
【0050】
一方、ステップS38で車両が電界強度データの取得時において零エリア19bに位置していたと判定された場合、対応する電界強度データを落雷発生予測用データとして用いないよう処理すると共に、当該電界強度データを用いて電界強度データ取得部12の校正を行う(ステップS39)。すなわち、この際に電界強度データ取得部12で取得されるべき電界強度データの値は零であるところ、実際に取得(検出)した電界強度データの値が零以外の値であった場合、実際に取得した電界強度データの値の分だけ基準値(電界強度データ取得部12における電界強度データが零となる点)を修正する。これにより、電界強度データ取得部12の校正が適正に実施され得る。
【0051】
(S4)落雷発生予測ステップ
このステップS4では、ステップS1~S3で取得した各種データに基づいて、データ処理部18により、所定エリア内における落雷の発生予測処理を行う。具体的には、データ処理部18により、各種データを入力とし、落雷の発生予測結果を出力とするプログラムを実行する。ここで、実行可能なプログラムは任意であり、本実施形態では上述した学習モデルを用いた落雷発生予測プログラムを実行する。すなわち、上述した学習モデル生成ステップでは、ステップS1~S3で取得した過去の電界強度データ、位置データ、気象データ、及び落雷データを教師データとして、落雷発生に関する学習モデルを生成する。然る後、所定時刻に取得した電界強度データ、位置データ、及び気象データを学習モデルに入力して、所定時刻以降に発生する落雷の発生地域、時刻、及び強さの少なくとも一つを落雷の発生予測結果として出力するプログラムをデータ処理部18により実行する。これにより、所定時刻以降における落雷の発生予測結果に関する情報を取得する。
【0052】
以上のようにして取得した落雷の発生予測結果に関する情報は、必要とされる場合(例えば対象とされる施設の近傍に落雷が発生する確率がある、との結果が得られた場合)に、必要な施設21(例えば半導体工場などの各種生産施設)に対して適時に提供され、活用(可否判断を含む落雷に対する事前対策の実施など)され得る。
【0053】
以上述べたように、本実施形態に係る落雷発生予測システム10では、電界強度の影響因子となり得るデータ(ここでは画像データと地図データ)に基づいて必要と判断した場合に電界強度データを補正するようにしたので、例えば車両11の上方を遮蔽する物体があり、又は車両11に建物などの大きな物体が隣接している場合などに、これらの物体の存在を影響因子とみなして電界強度データを補正することができる。電界強度の影響因子となり得る物体がない場合、あるいは当該物体と車両11との距離が離れている場合には、補正の必要なしと判断して電界強度データ取得部12で取得した電界強度データに基づいて落雷の発生予測が行われる。従って、電界強度の影響因子の有無に関わらず、電界強度の大きさを適正に評価して落雷の発生予測を高精度に実施することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、車両11の周囲及び上方を撮像可能な撮像部15を設けると共に、撮像部15で撮像して得た画像データから取得した車両の周囲及び上方に位置する物体の有無及び物体との距離に基づいて、電界強度データに対する補正の必要性を判断することにより、必要に応じて適正に電界強度データを補正して、より正確に電界強度の大きさを評価することができる。従って、本構成によれば、より高精度に落雷の発生予測を行うことが可能となる。また、例えば樹木などの物体が車両11の上方を覆っている場合には、電界強度の正確な値を取得できないものとして、当該電界強度データを落雷発生予測に用いない(排除する)ことができる。これにより、適切に取得した電界強度データのみに基づいて落雷の発生を予測できるので、これによっても落雷の発生予測精度を高めることが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、データ処理装置14が、電界強度データを取得するのに不適切と判定したエリア19がマッピングされた地図データと、位置データとに基づいて、車両11が不適切エリア19に位置していると判定した場合、電界強度データ取得部12で取得した電界強度データを落雷発生予測用のデータとして用いないようにした。このように電界強度データを選別することにより、取得するのに適切なエリア(不適切エリア19を除いたエリア)で取得した電界強度データのみに基づいて落雷の発生を予測できる。従って、これによっても落雷の発生予測精度を高めることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、データ処理装置14は、晴天時に取得した電界強度データの値が予め設定した閾値を超える場合、当該電界強度データを落雷発生予測用のデータとして用いないものとし、かつ、車両11が位置したエリアを新たな不適切エリア19として、不適切エリア19がマッピングされた地図データに追加するようにしたので、例えば雨天時に同エリアで取得した電界強度データを誤って落雷の発生予測に用いる事態を防止できる。よって、これによっても落雷の発生予測精度を高めることが可能となる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る落雷発生予測システムは、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 落雷発生予測システム
11 車両
12 電界強度データ取得部
13 位置データ取得部
14 データ処理装置
15 撮像部
16 データ通信装置
17 データ蓄積部
18 データ処理部
19 不適切エリア
19a 異常値エリア
19b 零エリア
20 気象情報提供機関
21 施設