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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167644
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
F16L59/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083858
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】391029509
【氏名又は名称】イソライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】兪 知樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 勝
(72)【発明者】
【氏名】末吉 篤
【テーマコード(参考)】
3H036
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB15
3H036AB18
3H036AB23
3H036AB24
3H036AE01
3H036AE13
(57)【要約】
【課題】 所望の断熱性を有することに加えて適度な可撓性を有する断熱材を提供する。
【解決手段】 主材としての金属酸化物の無機微粒子1と、耐火繊維2と、赤外線散乱材3と、融着した有機繊維4とが混在した成形体からなり、該成形体は、その厚み方向に対して垂直な方向に耐火繊維2及び有機繊維が4ランダムに配向しており、且つかさ密度が200kg/m以上500kg/m以下の範囲内にあり、試験片として厚さ5mmに成形したものをスパン100mmで曲げ強さ測定を行なったときの破断時の撓み量が15mm以上であり、好適には耐熱温度が1000℃以上1200℃以下であって、600℃での熱伝導率が0.05W/(m・K)以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材としての金属酸化物の無機微粒子と、耐火繊維と、赤外線散乱材と、融着した有機繊維とが混在した成形体からなり、前記成形体は、その厚み方向に対して垂直な方向に前記耐火繊維及び有機繊維がランダムに配向しており、且つかさ密度が200kg/m以上500kg/m以下の範囲内にあり、試験片として厚さ5mmに成形したものをスパン100mmで曲げ強さ測定を行なったときの破断時の撓み量が15mm以上であることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
耐熱温度が1000℃以上1200℃以下であって、600℃での熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であることを特徴とする、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記有機繊維が少なくとも前記無機微粒子に融着していることを特徴とする、請求項1又は2項に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた断熱性と可撓性とを兼ね備えた断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器や電子機器には、熱源を有するものや稼働に伴って発熱するものがあり、また、限られた狭いスペース内に設置されるものもある。このような特定の状況下で使用される産業機器や電子機器の断熱に用いる断熱材には、例えば厚さ数mmで所定の断熱性や耐熱性の要件を満たすことのみならず、熱膨張による圧縮応力に応じて自在に変形できる可撓性を有していることが求められる場合が多い。
【0003】
例えば、充電を行なうことで繰り返し使用することが可能な二次電池のうち、エネルギー密度が高く小型化が可能なため電気自動車やハイブリッドカーの駆動用電源、産業用又は家庭用の蓄電池として近年広く利用されているリチウムイオン二次電池は、複数個の電池セルをスタックした状態で使用することが多いが、個々の電池セルは充放電に伴って発熱するため、互いに隣接する電池セル同士の間の数mm程度の隙間に断熱材を設けることが必要になる。また、充放電時の加熱冷却に伴って電池セルの外装缶は膨張と収縮とを繰り返すので、上記の断熱材にはこれに追従して変形する可撓性も必要になる。
【0004】
更に、リチウムイオン二次電池は、過充電等により電解液が酸化分解したり、機械的な要因で短絡したりすることで電池セルが過度に昇温することがある。この電池セルの過度の昇温が他の電池セルに連鎖すると熱暴走に至り、最終的に発火して約1000℃まで昇温することがある。従って、断熱材には、電池セルの過度の昇温が隣接する電池セルに連鎖するのを防ぐことが可能な断熱性と、上記発火時の約1000℃程度の温度での耐熱性とを有していることも求められている。
【0005】
上記のように、二次電池に代表される産業機器等の断熱に用いる断熱材は、所望の断熱性を有していることに加えて適度な可撓性を有していることが求められており、これら条件を満たした種々の断熱材が提案されている。例えば特許文献1には、好適には多孔体からなる断熱部と、該断熱部よりも圧縮変形しやすい、繊維体、エラストマー成形体、又は金属バネからなる緩衝部とで構成される断熱材が提案されている。この断熱材は、隣接する電池セル同士の間のように、圧縮応力がかかる条件下での使用に適していると記載されている。
【0006】
特許文献2には、例えば管状チューブの断熱材として用いる際に外側に沿って曲げることが可能な可撓性を有する断熱材料を提供する技術が提案されている。この断熱材料は、低熱伝導率材料であるヒュームドシリカ及び炭化ケイ素を溶媒として例えばヘキサンに懸濁させることで混合物を調製した後、該混合物を断熱生地のテキスタイル生地層に充填してから該溶媒を除去することで作製すると記載されている。
【0007】
特許文献3には、熱分解により結晶水を放出することで吸熱作用を発揮する材料である例えば水酸化アルミニウム等の無機水和物を断熱材に用いる技術が提案されている。この断熱材を隣接する電池セル同士の間に介在させることにより、電池セルの熱暴走によって生じた熱によって該無機水和物が熱分解してその結晶水が放出するので、吸熱作用を発揮させることができると記載されている。更に、この断熱材は、結晶水の放出後に形成される多孔質構造によって持続的に断熱作用を発揮させることができるので、一方の電池セルから他方の電池セルに熱暴走が波及するのを抑制できると記載されている。
【0008】
特許文献4には、ナノ粒子を主材とする低熱伝導率材料の成形体と、その少なくとも片方の面に接着された強化材とからなる可撓性を有する複合断熱材が提案されている。この複合断熱材は、熱膨張による圧縮圧力で損壊しない圧縮強さと優れた断熱性を兼ね備えており、曲面を有する容器等に断熱施工する際に曲げても破損することがないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-140968号公報
【特許文献2】特公表2022-508727号公報
【特許文献3】特開2020-119840号公報
【特許文献4】特開2016-205728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の特許文献1~4の技術を採用することで、所望の断熱性と適度な可撓性とを有する断熱材を提供することができると考えられるが、特許文献1の断熱材は、ある程度高い圧縮応力がかかる拘束状態下において、更に圧縮応力が加わったときでも柔軟に弾性変形できるようにするためには、断熱材に占める緩衝部の体積割合を増やしておく必要がある。これは断熱材に占める断熱部の体積割合が相対的に小さくなるため、高い断熱性を維持することが困難になる。
【0011】
特許文献2の断熱材は、可撓性を維持するために実施例におけるブランケットのかさ密度が110~220kg/m程度に小さく抑えられている。よって、圧縮応力が断熱材に加わると塑性変形が生じると考えられる。この場合は、圧縮応力が低減した後は塑性変形した部分に空隙が残ることになるので、断熱性が低下してしまう。
【0012】
特許文献3の断熱材は、無機水和物が保有する結晶水の量によるものの、熱分解してから数分乃至数十分で結晶水が消失すると考えられる。よって、初期の断熱性を複数回継続させるのは困難であると考えられる。
【0013】
特許文献4の断熱材は、スパン600mmでの曲げ撓み量が実施例において14~15mm程度と小さい。よって、曲面に施工する場合は、曲率半径1500mm程度以上のものに限られていた。
【0014】
本発明は、上記した従来の断熱材が抱える課題に鑑みて為されたものであり、所望の断熱性を有することに加えて適度な可撓性を有する断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の断熱材は、主材としての金属酸化物の無機微粒子と、耐火繊維と、赤外線散乱材と、融着した有機繊維とが混在した成形体からなり、前記成形体は、その厚み方向に対して垂直な方向に前記耐火繊維及び有機繊維がランダムに配向しており、且つかさ密度が200kg/m以上500kg/m以下の範囲内にあり、試験片として厚さ5mmに成形したものをスパン100mmで曲げ強さ測定を行なったときの破断時の撓み量が15mm以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所望の断熱性と適度な可撓性とを兼ね備えた断熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の断熱材の一具体例の模式的な縦断面図である。
図2】本発明の断熱材の製造装置の一具体例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る断熱材の実施形態について説明する。本発明の実施形態の断熱材は、図1に示すように、シリカやアルミナ等の無機酸化物からなる無機微粒子1を主材としており、この主材としての無機微粒子1に、耐火繊維2と、赤外線散乱材3と、周囲の材料に融着している有機繊維4とが混在した好ましくはシート状の成形体からなる。これら各材料のうち、耐火繊維2及び有機繊維4は、いずれも該成形体の厚み方向に対してほぼ垂直な方向にランダムに配向している。換言すれば、シート状の断熱材を構成する棒状の耐火繊維2や有機繊維4は、いずれもシート面に対してほぼ平行に延在している。
【0019】
上記の耐火繊維2や有機繊維4がシート面に対してほぼ平行に延在する特徴的な形態は、後述するように、原料混合物から積層体を成形する段階において、自由落下する原料混合物に対して水平方向から空気流を吹きかけて分散させることで得られる。また、上記の融着状態の有機繊維4は、後述するように、成形体を形成する段階において加熱圧縮することによって得られる。このように、周囲に存在する少なくとも無機微粒子1に有機繊維4を融着させることで、有機繊維4にバインダーとしての役割を担わせることができる。本発明の実施形態の断熱材は上記の特徴的な形態を有しているため、破断させることなく曲げることが可能な撓み量が従来のものに比べて大きく、また、圧縮特性にも優れている。更に、赤外線散乱材3及び耐火繊維2を含有することで高い断熱性を有している。
【0020】
具体的には、本発明の実施形態の断熱材においては、600℃の熱伝導率が0.05W/(m・K)以下の断熱性を有しているので、断熱対象物の放散熱量を効果的に低減して熱エネルギー消費量を削減することができる。また、耐熱温度1000℃以上1200℃以下の耐熱性を有しているので、常用使用温度1000℃の場合は極めて長期間に亘って所望の断熱性を維持することができるうえ、発火時においても耐熱性を確保することができる。
【0021】
更に、本発明の実施形態の断熱材は、試料片として厚さ5mmに成形したものをスパン100mmで曲げ強さ測定を行なったときの破断時の撓み量が15mm以上の優れた可撓性を有しているため、曲率半径80mm程度の曲面であっても破断させることなく施工することができる。また、断熱材を施工した部分が局部的に熱膨張しても圧縮応力に応じて断熱材を自在に変形させることができ、冷却により圧縮応力がなくなれば、元の形状に戻すことができるので、スタックされた電池セル間などのように狭小空間においても断熱性を損なうことなく緩衝材として使用することができる。
【0022】
次に、上記の本発明の実施形態の断熱材を構成する各材料について具体的に説明する。無機微粒子は、1000~1200℃程度の高温での耐熱温度を有する金属酸化物からなる。この金属酸化物には、シリカ、アルミナ、ジルコニア又はこれらの1種以上を使用するのが好ましい。シリカの耐熱温度は1000℃程度であるが、シリカに代えて、あるいはシリカに加えてアルミナを用いることで、耐熱温度を1200℃程度まで高めることができるので、常用使用温度1000℃の場合は極めて長期間に亘って使用することができる。この無機微粒子の平均粒径は0.5μm以下であるのが好ましい。これにより、無機微粒子と、耐火繊維や赤外線散乱材との間の空隙のサイズを小さく抑えることができ、高温での気体の対流伝熱を抑制することができる。なお、本明細書内において平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した体積基準の50%径(D50)である。
【0023】
耐火繊維は、600~1600℃程度の耐熱温度を有する無機組成物からなる繊維であり、代表的な耐火繊維としては、限定するものではないが、例えばガラス短繊維、ガラス長繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、ジルコニア繊維、シリカ・アルミナ繊維、AES(アルカリアースシリケート)繊維を挙げることができ、これら繊維からなる群より選択される1種以上を使用するのが好ましい。この耐火繊維は平均繊維径が1μm以上13μm以下であるのが好ましく、2μm以上10μm以下であるのがより好ましい。なお、本明細書内において平均繊維径とは、測定対象の繊維群を電子顕微鏡で撮影し、得られた画像の中から任意に選択した200本以上の繊維の幅方向の距離を計測し、これらを算術平均したものである。
【0024】
上記の耐火繊維には同じ材質の非繊維粒子が含まれていてもよい。この場合の非繊維粒子の含有量は、耐火繊維100質量部に対して60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。特に平均粒径425μm以上の非繊維粒子は3質量部以下であるのが好ましく、1質量部以下であるのがより好ましい。
【0025】
赤外線散乱材は、800℃以上の耐熱温度を有し、ふく射による伝熱を低減可能な組成物からなるものであれば特に限定はないが、赤外線反射性のあるものが好ましい。このような組成物としては、例えば炭化ケイ素、二酸化チタン、珪酸ジルコニウム等を挙げることができ、これら組成物からなる群より選択される1種以上を使用するのが好ましい。また、上記の赤外線散乱材は、平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下であるのが好ましく、特に上限値は、ふく射伝熱をもたらす赤外線の1200℃のピーク波長と同程度の平均粒径である2.0μm以下であるのがより好ましい。
【0026】
有機繊維は、150℃以下で溶融する材質が好ましい。このような有機繊維としては、特に限定するものではないが、例えばポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、及びポリプロピレン、からなる群より選択される1種以上を使用するのが好ましい。特にポリエチレン/ポリプロピレンの芯鞘構造繊維は、溶融後でも芯部分が残るので、より高い可撓性が得られるので好ましい。なお、上記の芯鞘構造繊維とは、ポリプロピレンからなる芯部と、これを略同芯軸状に囲むポリエチレンからなる鞘部との二重構造を有する繊維のことである。繊維は長さL(単位m)と重量W(単位g)とを計測し、これら値を「T=(10000×W)/L)」に代入することにより求まる繊維太さの尺度T(dtex)が0.15~20dtexの範囲内にあるのが好ましく、電子顕微鏡により測定した繊維長が3~20mmの範囲内にあるのが好ましい。
【0027】
本発明の実施形態の断熱材は、上記した各材料の作用・効果を考慮したうえで断熱材として所望の特性が得られるように上記材料の配合割合(含有率)が適宜調整される。具体的には、本発明の実施形態の断熱材を構成する上記各材料の好適な含有率は、無機微粒子では40~82質量%であり、耐火繊維では5~40質量%であり、赤外線散乱材では8~20質量%であり、有機繊維では3~40質量%である。また、これら材料は合計98質量%以上含まれているのが好ましく、不可避不純物や成形助剤が含まれていてもよい。
【0028】
また、本発明の実施形態の断熱材は、かさ密度が200kg/m以上500kg/m以下の範囲内にあり、250kg/m以上350kg/m以下の範囲内にあるのが好ましい。これにより、熱膨張による圧縮応力で容易に損壊することのない圧縮強さと優れた断熱性とを兼ね備えた断熱材を提供することが可能になる。このかさ密度が200kg/m未満では、十分な圧縮強度と撓み量が得られず、ハンドリング性も不十分になるおそれがある。逆にこのかさ密度が500kg/mを超えると、圧縮強度が大きすぎて良好な撓み性が得られなくなる。
【0029】
次に、上記した本発明の実施形態の断熱材の製造方法について説明する。先ず、上記の無機微粒子、耐火繊維、赤外線散乱材、及び有機繊維を、各々所定の含有率となるように配合して混合機で混合し、得られた原料混合物を空気で分散することで、耐火繊維及び有機繊維がいずれも水平に配向するように積層させる。この積層の際、メッシュワイヤーなどの通気性を有する部材の下方で排気しながら該部材の上面に原料混合物を吸着させるのが好ましい。次に、得られた積層体を単体又は複層に重ねた状態で厚み方向に圧力をかけながら雰囲気温度130~150℃程度で熱処理する。これにより、有機繊維の一部又は全体が溶融するので、少なくとも無機微粒子に熱溶着させることができ、好ましくは有機繊維同士1箇所以上で熱溶着させることができる。
【0030】
上記の本発明の実施形態の断熱材の製造方法は、例えば図2に示す製造装置で好適に行なうことができる。すなわち、この図2に示す製造装置は、頂部に原料供給口11aを備えた筒状のチャンバー11からなり、この原料供給口11aから導入された原料混合物は、チャンバー11の下部に設けられているメッシュコンベアー12に向けてチャンバー11内を自由落下する。この自由落下の途中で、原料混合物はチャンバー11の高さ方向の中間部に設けられている空気吹き出し口11bから水平方向に吹き込まれる風速調整された空気流によって分散される。これにより、原料混合物に含まれる耐火繊維及び有機繊維は水平方向に配向し、そのままメッシュコンベアー12の上に堆積する。チャンバー11の底部には、チャンバー11内に吹き込まれた空気を排気するガス吸引口11cが設けられており、これにより上記のメッシュコンベアー12の上に堆積した原料混合物は、メッシュコンベアー12のコンベア面上に吸引されて積層体となる。
【0031】
上記のようにしてメッシュコンベアー12上に形成された原料混合物からなる積層体は、そのままメッシュコンベアー12によってチャンバー11の外部に搬送される。チャンバー11を出た積層体は、単体のまま又は別途形成した積層体と共に複数層重ねられた状態で加熱プレス機13に導入される。ここで1対又は複数対のローラに挟み込まれることで、厚み方向に圧力をかけながら雰囲気温度130~150℃程度の温度条件下で熱処理が施される。これにより、有機繊維が溶融して周囲の少なくとも無機微粒子に熱溶着し、シート状の成形体からなる断熱材が製造される。
【実施例0032】
本発明の実施例及び比較例の断熱材を作製し、それらの各々を下記で定義する、かさ密度、撓み性、圧縮強さ、断熱性、及び耐熱性の観点から評価した。すなわち、かさ密度は、質量を体積で除算して求めた。撓み性は、強度試験機を用いた3点曲げ試験において、距離(スパン)100mmで互いに離間する2つの支点の上に載置した厚さ5mmの試験片に対して、その中央部を押し下げて破断させた時の最大撓み量で評価した。圧縮強さは、強度試験機を用いて圧縮させて歪10%となったときの最大荷重で評価した。断熱性は、平板比較法(JIS A1412-2 付属書A)に準拠した600℃での熱伝導率で評価した。耐熱性は、試験片を24時間加熱したときの加熱線収縮率が3%以下となる最高温度で評価した。
【0033】
[実施例1]
無機微粒子としてのシリカ質微粒子(平均粒径0.2μm)を75質量%、耐火繊維としてのガラス長繊維(Eガラス、平均繊維径13μm、長さ13mm)を5質量%、赤外線散乱材としての炭化ケイ素(平均粒径2μm)を15質量%、及び有機繊維としてポリエチレン/ポリプロピレンの芯鞘構造繊維(繊維径1.7dtex、繊維長5mm)を5質量%の配合割合で混合機に装入して混合した。得られた混合物をチャンバー内で自由落下させながら、風速を調整した空気流を水平方向から吹きかけることで、該混合物に含まれる繊維を水平方向に配向させた状態で積層させると共に、該積層した混合物を該チャンバーの底部に設けたメッシュコンベアーに吸引して積層体を成形した。この積層体を8枚重ねにした状態にて150℃で加熱圧縮成形して厚さ5mmのシート状の成形体からなる断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度320kg/m、撓み量17.8mm、圧縮強さ7.8MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0034】
[実施例2]
積層体の層数を8枚重ねに代えて5枚重ねにしてかさ密度200kg/mとなるように加熱圧縮成形した以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、撓み量15.2mm、圧縮強さ4.8MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0035】
[実施例3]
積層体の層数を8枚重ねに代えて13枚重ねにしてかさ密度500kg/mとなるように加熱圧縮成形した以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、撓み量15.3mm、圧縮強さ8.8MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0036】
[実施例4]
無機微粒子の配合割合を75質量%に代えて40質量%とし、有機繊維の配合割合を5質量%に代えて40質量%としたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ7.6MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0037】
[実施例5]
無機微粒子の配合割合を75質量%に代えて82質量%とし、有機繊維の配合割合を5質量%に代えて3質量%とし、赤外線散乱材を15質量%に代えて10質量%としたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度250kg/m、撓み量15.1mm、圧縮強さ5.1MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0038】
[実施例6]
無機微粒子にシリカ質微粒子に代えてアルミナ質微粒子(平均粒径0.2μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度310kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ7.9MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0039】
[実施例7]
耐火繊維にガラス長繊維に代えてガラス短繊維(Eガラス、平均繊維径13μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ7.6MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0040】
[実施例8]
耐火繊維にガラス長繊維に代えてアルミナ繊維(平均繊維径5μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ6.8MPa、熱伝導率0.05W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0041】
[実施例9]
耐火繊維にガラス長繊維に代えてムライト繊維(平均繊維径6μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量17.0mm、圧縮強さ6.9MPa、熱伝導率0.05W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0042】
[実施例10]
耐火繊維にガラス長繊維に代えてジルコニア繊維(平均繊維径5μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ7.1MPa、熱伝導率0.05W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0043】
[実施例11]
耐火繊維にガラス長繊維に代えてシリカ・アルミナ繊維(平均繊維径3μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量17.5mm、圧縮強さ7.3MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0044】
[実施例12]
耐火繊維にガラス長繊維に代えてAES(アルカリアースシリケート)繊維(平均繊維径3μm、非繊維粒子の含有量は、耐火繊維100質量部に対して50質量部、平均粒径425μm以上の非繊維粒子は1質量部)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ7.1MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0045】
[実施例13]
無機微粒子の配合割合を75質量%に代えて40質量部%とし、耐火繊維の配合割合を5質量%に代えて40質量部%としたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度360kg/m、撓み量15.5mm、圧縮強さ7.6MPa、熱伝導率0.05W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0046】
[実施例14]
耐火繊維の配合割合を5質量%に代えて12質量部%とし、赤外線散乱材の配合割合を15質量%に代えて8質量%としたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量17.3mm、圧縮強さ7.2MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0047】
[実施例15]
無機微粒子の配合割合を75質量%に代えて70質量部%とし、赤外線散乱材の配合割合を15質量%に代えて20質量%としたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量17.2mm、圧縮強さ7.1MPa、熱伝導率0.05W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0048】
[実施例16]
赤外線散乱材に炭化ケイ素に代えて二酸化チタン(平均粒径2μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度320kg/m、撓み量17.2mm、圧縮強さ7.8MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0049】
[実施例17]
赤外線散乱材に炭化ケイ素に代えて珪酸ジルコニウム(平均粒径2μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度320kg/m、撓み量16.2mm、圧縮強さ7.9MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0050】
[実施例18]
無機微粒子にシリカ質微粒子に代えてアルミナ質微粒子(平均粒径0.2μm)、耐火繊維にガラス長繊維に代えてアルミナ繊維(平均繊維径5μm)を用いたこと以外は実施例17と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度340kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ6.8MPa、熱伝導率0.05W/(m・K)、耐熱温度1200℃であった。
【0051】
[実施例19]
有機繊維にポリエチレン/ポリプロピレンの芯鞘構造繊維に代えてポリエステル繊維(繊維径0.15dtex、繊維長5mm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度300kg/m、撓み量16.9mm、圧縮強さ6.4MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0052】
[実施例20]
有機繊維にポリエチレン/ポリプロピレンの芯鞘構造繊維に代えてポリビニルアルコール繊維(繊維径0.15dtex、繊維長5mm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度310kg/m、撓み量17.3mm、圧縮強さ6.8MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0053】
[実施例21]
有機繊維にポリエチレン/ポリプロピレンの芯鞘構造繊維に代えてポリエチレン繊維(繊維径0.15dtex、繊維長5mm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度310kg/m、撓み量18.3mm、圧縮強さ6.2MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0054】
[実施例22]
耐火繊維のガラス長繊維にアルミナ繊維を加えて複数種にしたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度300kg/m、撓み量16.4mm、圧縮強さ6.3MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0055】
[実施例23]
無機微粒子のシリカ質微粒子にアルミナ質微粒子を加えて複数種にしたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度320kg/m、撓み量15.8mm、圧縮強さ6.5MPa、熱伝導率0.04W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0056】
[実施例24]
赤外線散乱材の炭化ケイ素に二酸化チタンを加えて複数種にしたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度310kg/m、撓み量17.1mm、圧縮強さ6.2MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0057】
[実施例25]
無機微粒子にシリカ質微粒子に代えてジルコニア質微粒子(平均粒径0.2μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、かさ密度300kg/m、撓み量16.5mm、圧縮強さ6.6MPa、熱伝導率0.03W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0058】
上記実施例1~25の断熱材の配合割合、物性/形態をまとめたものを下記表1、2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
[比較例1]
積層体の層数を8枚重ねに代えて5枚重ねにしてかさ密度190kg/mとなるように加熱圧縮成形した以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、撓み量3.6mm、圧縮強さ1.9MPa、熱伝導率0.08W/(m・K)、耐熱温度900℃であった。
【0062】
[比較例2]
積層体の層数を8枚重ねに代えて14枚重ねにしてかさ密度510kg/mとなるように加熱圧縮成形した以外は実施例1と同様にして厚さ5mmの断熱材を作製した。得られた断熱材は、撓み量10.2mm、圧縮強さ8.5MPa、熱伝導率0.06W/(m・K)、耐熱温度1000℃であった。
【0063】
上記比較例1~2の配合割合、物性/形態をまとめたものを下記表3に示す。
【0064】
【表3】
【符号の説明】
【0065】
1 無機微粒子
2 耐火繊維
3 赤外線散乱材
4 有機繊維
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-10-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材としての金属酸化物の無機微粒子と、耐火繊維と、赤外線散乱材と、熱溶着した有機繊維とが混在した成形体からなり、前記成形体は、その厚み方向に対して垂直な方向に前記耐火繊維及び有機繊維がランダムに配向しており、且つかさ密度が200kg/m以上500kg/m以下の範囲内にあり、試験片として厚さ5mmに成形したものをスパン100mmで曲げ強さ測定を行なったときの破断時の撓み量が15mm以上であることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
耐熱温度が1000℃以上1200℃以下であって、600℃での熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であることを特徴とする、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記有機繊維が少なくとも前記無機微粒子に熱溶着していることを特徴とする、請求項1又は2項に記載の断熱材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の断熱材は、主材としての金属酸化物の無機微粒子と、耐火繊維と、赤外線散乱材と、熱溶着した有機繊維とが混在した成形体からなり、前記成形体は、その厚み方向に対して垂直な方向に前記耐火繊維及び有機繊維がランダムに配向しており、且つかさ密度が200kg/m以上500kg/m以下の範囲内にあり、試験片として厚さ5mmに成形したものをスパン100mmで曲げ強さ測定を行なったときの破断時の撓み量が15mm以上であることを特徴としている。