(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167651
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】土壌改質剤
(51)【国際特許分類】
C09K 17/16 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
C09K17/16 H ZBP
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083870
(22)【出願日】2023-05-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 匠平
(72)【発明者】
【氏名】小暮 優真
【テーマコード(参考)】
4H026
【Fターム(参考)】
4H026AA07
4H026AB03
(57)【要約】
【課題】植物の生育促進に優れ、特にゲリラ豪雨など大量の雨水に晒された場合であっても植物の生育を損なわない土壌改質剤を提供する。
【解決手段】本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂及び非イオン性界面活性剤を含有し、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂及び非イオン性界面活性剤を含有し、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上である、土壌改質剤。
【請求項2】
種子を含んだ生育基盤材に使用される、請求項1に記載の土壌改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌貯蔵施設や工事現場においては、風による土壌表面の飛散や雨による土壌の流出を防止するため、日々の作業の終了時に即日覆土したり、シートで覆ったりしている。
【0003】
合成樹脂エマルションの土壌改質剤を吹き付けることによって、土壌の飛散、浸食を防止することも行われている。さらに土壌改質剤に種子を混合して吹き付ける等の手段で、発芽し生育する植物により土壌の安定を図ることも行われている。
【0004】
しかし、使用されている樹脂フィルムは使用後に回収作業が必要になるとともに、劣化した樹脂フィルムが飛び散り、また生分解性を持たない合成樹脂は土壌中で分解せず残存する等の問題がった。
【0005】
これらの点の解決を図るため、最近では環境配慮の観点で生分解性を持つ土壌改質剤も提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-218207号公報
【特許文献2】特開2000-159316号公報
【特許文献3】特開2005-130732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、生分解性樹脂は通常、樹脂物性として造膜性が悪いために皮膜が形成され難く、形成された皮膜の強度が弱いという問題があった。その結果、法面のような斜面や、ゲリラ豪雨など大量の雨水に耐えることができず、使用できる環境が制限されている。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、植物の生育促進に優れ、特にゲリラ豪雨など大量の雨水に晒された場合であっても植物の生育を損なわない土壌改質剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を行った。生分解性樹脂の分散剤として非イオン性界面活性剤を使用する場合、樹脂粒子を安定に分散させる点から量を定めるのが通常であり、必要以上に多くすると分散剤によって皮膜の耐水性や植物の生育性が損なわれると考えられていたことから、非イオン性界面活性剤の質量比を必要以上に増やすことはなかった。しかし意外にも、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比を特定範囲以上に増やすと、皮膜の強度が著しく改善され、植物の生育性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂及び非イオン性界面活性剤を含有し、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の土壌改質剤は、植物の生育が良好になると共に、使用後は環境中で分解されるため、回収作業の必要はない。また、樹脂に対して非イオン性界面活性剤を0.2以上とすることで、造膜性が著しく改善されると共に、ゲリラ豪雨など多量の水などで皮膜が流されにくい非常に粘着性の高い膜を形成する。さらに粒子径が細かく揃っていることで細かい土粒子間の接着に効果的であり、土壌の団粒化・保水性の向上にも寄与し、植物の生育性が向上するだけでなく、飛砂防止、及び浸食防止にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
【0011】
本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂及び非イオン性界面活性剤を含有する。
生分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル、ポリカプロラクトン、カプロラクトンと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記生分解性樹脂のうち、共重合体における上記他のヒドロキシカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシバレリン酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシヘプタン酸、2-ヒドロキシオクタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ-2-エチル酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-エチルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-プロピルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-ブチルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-エチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-プロピルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-ブチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-ペンチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-エチルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-プロピルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-ブチルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルオクタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、4-ヒドロキシ酪酸、5-ヒドロキシバレリン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
乳酸及びヒドロキシカルボン酸は、D体、L体、D/L体等の形態をとる場合があるが、いずれの形態であってもよく、制限はない。ポリ乳酸を用いる場合、D-乳酸含有率が1~30モル%であることが好ましく、5~20モル%であることがより好ましい。
【0012】
これらの中でも、本発明の効果を十分得るのに適している点から、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンが好ましく、飛砂防止効果がより向上する観点から、ポリカプロラクトンがより好ましい。
【0013】
生分解性樹脂の分子量としては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸の重量平均分子量は、飛砂防止効果がより向上する観点から、5万~100万が好ましく、10万~80万がより好ましく、20万~60万がさらに好ましい。ポリカプロラクトンの重量平均分子量は、飛砂防止効果がより向上する観点から、1000~20万が好ましく、1万~15万がより好ましく、5万~10万がさらに好ましい。
ポリ乳酸及びポリカプロラクトンの重量平均分子量(Mw)は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、分子量が既知の標準物質と比較することにより後記の実施例欄に記載の方法で求めることができる。
【0014】
本発明の土壌改質剤は、土壌表面で皮膜を形成し高い固化性能を発揮する点から、最低造膜温度(MFT)が低いことが好ましい。大気中の温度で皮膜を形成することを考慮すると、土壌改質剤の最低造膜温度は、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは40℃以下である。生分解性樹脂として最低造膜温度が高いポリ乳酸等を含有する場合には、可塑剤を併用することが好ましい。ポリ乳酸は、最低造膜温度が例えば160℃以上であるが、可塑剤を配合することで100℃以下に下げることができる。
【0015】
本発明の土壌改質剤において、非イオン性界面活性剤は、生分解性樹脂の水系分散体における生分解性樹脂の樹脂粒子を溶媒に安定に分散させる。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系化合物、酸化エチレン・酸化プロピレン共重合体等のポリオキシアルキレン縮合物、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、グリセリンアルキルエステル、ポリオキシアルキレングリセリンアルキルエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリンエステル等が挙げられる。これらの中でも、それ自体も生分解性を持ち、生分解性樹脂を良好に分散可能であり、本発明の効果を十分得るのに適している観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0016】
ポリビニルアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、未変性のポリビニルアルコール、及び変性ポリビニルアルコールを用いることができる。これらの中でも、本発明の効果を十分得るのに適している観点から、変性ポリビニルアルコールがより好ましい。
変性ポリビニルアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボニル変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アルキルエーテル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アセトアミド変性ポリビニルアルコール、ジアセトン基変性ポリビニルアルコール、アクリルニトリル変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、珪素変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。疎水性の官能基もしくは疎水基が共重合したものなど、より疎水性であるほど土壌の団粒化が促進され、本発明の効果を十分得るのに適している観点から、エチレン変性ポリビニルアルコール、カルボニル変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アルキルエーテル変性ポリビニルアルコールがより好ましい。
【0017】
ポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されないが、本発明の効果を十分得るのに適している観点から、98%以下であることが好ましく、96%以下であることがより好ましく、94%以下であることがさらに好ましく、90%以下であることが特に好ましい。また、ポリビニルアルコールのケン化度が、70%以上であることが好ましく、72%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、78%以上であることが特に好ましい。
【0018】
ポリビニルアルコールの分子量としては、特に限定されないが、例えば、生分解性樹脂粒子の分散性や、さらに皮膜形成による固化性能の観点から、粘度平均重合度による平均分子量が、1万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましく、7万以上であることが特に好ましく、9万以上であることが殊更好ましい。生分解性樹脂水系分散体のハンドリング性の観点から、粘度平均重合度による平均分子量が、20万以下であることが好ましく、18万以下であることがより好ましく、16万以下であることがさらに好ましく、14万以下であることが特に好ましく、12万以下であることが殊更好ましい。
【0019】
ポリビニルアルコールの平均分子量は、粘度平均重合度、ケン化度及び酢酸ビニル単位とビニルアルコール単位の分子量から算出することができる。
ポリビニルアルコールの重合度は、JIS K 6726に記載されたように、ポリビニルアルコールを水酸化ナトリウムを用いて再ケン化し、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:リットル/g)から、以下の式に基づいて算出できる。
粘度平均重合度=([η]×10000/8.29)(1/0.62)
この粘度平均重合度に、ケン化度の割合に応じた酢酸ビニル単位とビニルアルコール単位の分子量換算をして平均分子量とする。
変性ポリビニルアルコールの場合も、粘度平均重合度から上記と同様に算出する。
【0020】
本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上である。生分解性樹脂と非イオン性界面活性剤を特定比率で用いることで、粒子径が細かく且つ粒度分布がシャープになる。その結果、造膜性が著しく改善されると共に雨などで皮膜が流されにくく、非常に粘着性の高い膜になることが特徴である。さらに粒子径が細かく揃っていることで細かい土粒子間の接着に効果的であり、土壌の団粒化・保水性の向上にも寄与し、植物の生育性が向上する。これらの観点から生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましく、0.9以上が特に好ましい。生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比の上限値は、特に限定されないが、作業しやすい流動性を確保することや、使用時に著しく泡立つことを回避することによって、本発明の効果を十分得るのに適している観点から20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましく、2.5以下が特に好ましく、1.5以下が殊更好ましい。
【0021】
従来、非イオン性界面活性剤、特にポリビニルアルコールを増やしすぎると、土壌表面に膜を張ってしまい、植物の生育性に悪影響を及ぼすと考えられていたため、敢えて緑化が損なわれる恐れのある増量を試みることはなかった。特にポリビニルアルコールを増やすと耐水性及び生育性が損なわれることが知られている。ところが、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比を0.2以上に増量すると、特異的な物性の皮膜が得られることで、むしろ耐水性が向上し、さらに粒子径が細かく且つ粒度分布がシャープになることで土壌の団粒化・保水性向上に寄与し、生育性が良好になる。このことは、本発明の構成からは予測し得ない顕著な効果である。
【0022】
本発明の土壌改質剤は、可塑剤を配合してもよい。可塑剤は、生分解性樹脂の皮膜特性を改良する。
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジエチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、アジピン酸と2-(2-メトキシエトキシ)エタノール及びベンジルアルコールのエステル等のアジピン酸誘導体、エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸誘導体、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸誘導体、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等のエーテルエステル誘導体、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等のグリセリン誘導体等が挙げられる。これらのうち、アジピン酸誘導体、クエン酸誘導体を用いたものが、造膜性向上効果がより高い点で好ましい。
【0023】
可塑剤は、生分解性樹脂として最低造膜温度が高いポリ乳酸等を含有する場合に好適に配合される。ポリ乳酸は、最低造膜温度が例えば160℃以上であるが、可塑剤を配合することで100℃以下に下げることができる。
【0024】
可塑剤を配合する場合、生分解性樹脂水系分散体の最低造膜温度が50℃以下となるような量が好ましく、40℃以下となるような量がより好ましい。
生分解性樹脂の種類にもよるが、ポリ乳酸を配合する場合を含めた可塑剤の配合量は、可塑化により皮膜特性をより向上する点から、生分解性樹脂100質量部に対して5質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。また、可塑剤のブリードアウトが発生するのをより抑制する点から、生分解性樹脂100質量部に対して50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。
【0025】
本発明の土壌改質剤において、水系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、及び水と相溶する有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
前記混合溶媒において、水の比率は、特に限定されないが、混合溶媒の全量を基準として90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0026】
前記混合溶媒において、有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、一価アルコール、多価アルコール等が挙げられる。一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられ、多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ブチレングリコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明の土壌改質剤は、本発明の効果を損なわない範囲内において、以上に示した以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、特に限定されないが、例えば、アニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤等のイオン性分散剤、有機溶媒、粘度調整剤、pH調整剤、pH緩衝剤、防腐剤、消泡剤等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明の土壌改質剤は、固形分が、土壌改質剤の全量を基準として5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。固形分がこの範囲内であると、水分散体に占める樹脂粒子の割合が多いため乾燥効率が向上する。また水分散体の粘度が適正な範囲となることで、樹脂粒子が安定的に分散する。また、固形分が、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。固形分がこの範囲内であると、水分散体の粘度が高くなりすぎず、土壌改質剤のハンドリング性が良好となる。ここで固形分とは、土壌改質剤の全体量に対して、水分等の水系溶媒の量を差し引いた質量の百分率のことである。
【0029】
本発明の土壌改質剤は、水系溶媒に分散されている生分解性樹脂の樹脂粒子の平均粒子径が3.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましく、1.0μm以下であることが特に好ましい。また生分解性樹脂の樹脂粒子の粒度分布の標準偏差が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。平均粒子径がこの範囲内であると造膜性が著しく改善されると共に雨などで皮膜が流されにくく、非常に粘着性の高い膜になることが特徴である。平均粒子径は小さいほど造膜性が改善されるため、下限値は問わない。さらに粒度分布の標準偏差がこの範囲内であると粒子径が細かく揃っていることで細かい土粒子間の接着に効果的であり、土壌の団粒化・保水性の向上にも寄与し、植物の生育性が向上する。
ここで樹脂粒子の平均粒子径と粒度分布の標準偏差は、後記の実施例欄に記載の方法で測定して得た値である。
【0030】
本発明の土壌改質剤は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、生分解性樹脂及び非イオン性界面活性剤、及び添加する場合にはその他の成分、例えば可塑剤を、水系溶媒と共に混合攪拌することで、生分解性樹脂水系分散体として製造することができる。
【0031】
具体的には、例えば、攪拌装置を有する密閉槽を用い、生分解性樹脂、非イオン性界面活性剤、可塑剤、及び水を同時に仕込み、加熱攪拌しながら加圧して生分解性樹脂を分散させる加圧分散法;加圧下で保持されている熱水中に、生分解性樹脂、非イオン性界面活性剤、及び可塑剤を含む溶融物を添加攪拌して分散させる直接分散法;生分解性樹脂及び可塑剤を加熱溶融させ、これに非イオン性界面活性剤を含む水溶液を添加攪拌して生分解性樹脂を水に分散させる転相法;有機溶媒、水、生分解性樹脂、非イオン性界面活性剤、及び可塑剤を添加攪拌して分散させた後、有機溶媒を除去する方法;生分解性樹脂及び可塑剤の有機溶媒溶液中に、非イオン性界面活性剤を含む水溶液を添加攪拌して分散させた後、有機溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0032】
生分解性樹脂の幅広い種類に適用が可能な点、加水分解の進行を考慮すると、攪拌装置を有する密閉槽に、有機溶媒、水、生分解性樹脂、非イオン性界面活性剤、及び可塑剤を仕込み、攪拌しながら昇温し、固体原料を溶解、分散させた後、冷却し、その後、減圧下に有機溶媒を除去する方法が好ましい。
【0033】
あるいは、攪拌装置を有する密閉槽に、有機溶媒、生分解性樹脂、及び可塑剤を仕込み攪拌昇温し溶解して生分解性樹脂溶解溶液を調製し、別の攪拌槽に水、非イオン性界面活性剤を仕込み、溶解した水溶液を前記密閉槽に添加し、攪拌下で樹脂溶解温度以上に昇温しながら分散させた後、冷却し、その後、減圧下に有機溶媒を除去する方法が好ましい。
【0034】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル等の蟻酸エステル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等のエステル系有機溶媒、クロロホルム、四塩化炭素等の塩素系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの中でも、樹脂の溶解性が良好なエステル系有機溶媒、特に蟻酸エステル類、酢酸エステル類が好ましい。有機溶媒と水との割合は、樹脂や分散剤等の十分な溶解を考慮すると、質量比で、有機溶媒:水=1:9~9:1の割合が好ましく、7:3~3:7の割合がより好ましい。
【0035】
土壌改質剤の製造における分散攪拌装置としては、ホモミキサーや高圧乳化機等を用いてもよいが、これらの特殊な装置を使用せずとも、通常の分散や混合攪拌に使用される、例えば、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼等の攪拌翼を有する回転式攪拌機を用いることができる。また、攪拌速度及び回転速度についても通常の分散や混合で使用する条件であってよい。例えば、分散時の攪拌翼の翼径(d1)と攪拌槽の内径(d2)の比(翼比:d1/d2)が0.5~0.85である攪拌翼を用いることができる。また、攪拌翼の周速は1~8m/sとすることができる。
【0036】
本発明の土壌改質剤は、例えば、土壌改質剤に、水、種子、及びその他に必要に応じて土、肥料、種子吹き付け養生材等を混合し、屋外の法面に散布することで、散布直後は土壌改質剤による土壌表面の固化により一時的な土壌の浸食が防止できるとともに、その後に発芽、生育する植物により土壌の安定を図ることができる。本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上であることで、粒子径が細かく揃い細かい土粒子間の接着に効果的であり、土壌の団粒化・保水性の向上にも寄与し、植物の生育性が向上する。その保水性によって雨水の土壌への浸透を促進して表層水として流失する雨水の量を減少し、土壌の乾燥による植物の発芽不良と乾燥枯れを防止して生育性が良好となり、浸食防止効果が得られる。
【0037】
土壌改質剤を適用する対象としては、特に限定されないが、例えば、トンネル工事、道路工事等による裸地の斜面、盛土、埋立地や造成地の裸地等が挙げられる。
土壌改質剤を土壌表面に適用する方法としては、特に限定されず、散布等により行うことができる。例えば、散布時の作業性や散布効率等を考慮して必要に応じて水で希釈した土壌改質剤を散布してもよく、あるいは土を主体とし、土壌改質剤や必要に応じて種子等を混合した客土を散布してもよい。土壌への散布方法は特に限定されず、シャワーノズル、噴霧器、散水器等を用い、従来公知の方法で散布することができる。
【0038】
本発明の土壌改質剤は、緑化基盤材や植生基盤材等の、種子を含んだ生育基盤材として好適に用いることができる。緑化基盤や植生基盤等の生育基盤は、造成地、道路、ダム等の建設に伴う盛土や切土等の法面に、また開発工事や災害等で発生する山腹の裸地斜面や法面等の緑化困難地等に造成され、植物の生育が可能な表土を再生すること等を目的とする。本発明の土壌改質剤を含有する生育基盤材は、吹き付け等により生育基盤を造成でき、発芽と生育によって植物を密生させることができる。本発明の効果を十分に発揮させる観点から、植生基盤材等の生育基盤材には、バーク堆肥、ピートモス、黒土から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、3種全てを含有することがより好ましい。
【0039】
飛砂防止用途では、例えば、土壌改質剤を水で希釈して屋外の法面に散布することで、散布された土壌改質剤は土壌の表面で皮膜を形成するため、散布面が固化し、土壌の表層から粉塵が飛散することを防止する。本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上であることにより、造膜性が著しく改善され、土壌の表面で強固な表面固着層を形成するため、粉塵の飛散が効果的に防止される。本発明の土壌改質剤は上記のとおり植物の生育促進効果があり、植物の根張りによる副次効果として、土壌の固化性能をより向上させ得る。
【0040】
浸食防止用途でも同様に、例えば、土壌改質剤を水で希釈して屋外の法面に散布することで、散布された土壌改質剤は土壌の表面で皮膜を形成するため、散布面が固化し、風雨等による急激な浸食を防止する。本発明の土壌改質剤は、生分解性樹脂に対する非イオン性界面活性剤の質量比が0.2以上であることにより、土壌の表面で強固な表面固着層を形成するため、風雨等による急激な浸食が効果的に防止される。
【0041】
すなわち、土壌改質剤が土壌に含まれる水で薄まったとしても十分な皮膜を形成することができる。例えば、降雨直後等のように土壌の含水比が高い場合は、散布した土壌改質剤が土壌中の水によって薄まることや、土壌表面に留まらず材料成分が流出してしまうことが考えられるが、本発明の土壌改質剤は土壌に浸み込みにくく、土壌の表面に皮膜が形成されて粉塵の飛散や浸食を防止する効果が得られる。さらに本発明の土壌改質剤は植物の生育促進効果があり、植物の根張りによる副次効果として、土壌の浸食防止性能をより向上させ得る。
【実施例0042】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.土壌改質剤の調製
実施例及び比較例において、土壌改質剤の配合成分は次のものを用いた。
(生分解性樹脂)
ポリ乳酸-1 重量平均分子量約40万
ポリ乳酸-2 重量平均分子量約12万
ポリカプロラクトン-1 重量平均分子量64,000
ポリカプロラクトン-2 重量平均分子量2,000
【0043】
平均分子量
生分解性樹脂の平均分子量、すなわち、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算の平均分子量をいう。
[GPC測定装置]
カラム: 日本分光株式会社製
検出器: 液体クロマトグラム用RI検出器 日本分光株式会社製RI-1530
[測定条件]
溶媒: クロロホルム(特級)
測定温度: 50℃
流速: 1.0ml/分
試料濃度: 15mg/ml
注入量: 2μl
検量線:Universal Calibration
解析プログラム:ChromNAV (Ver.1.19.02)
【0044】
(非イオン性界面活性剤)
PVA-1 ポリビニルアルコール 分子量:100,000 ケン化度:80%
PVA-2 ポリビニルアルコール 分子量:16,000 ケン化度:80%
PVA-3 エチレン変性ポリビニルアルコール 分子量:16,000 ケン化度:80%
ポリオキシエチレン(5モル)ノニルフェニルエーテル
ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル
酸化エチレン(EO)と酸化プロピレン(PO)との共重合体 数平均分子量3300 EOPO比率(EО:PO)=46:54
ポリビニルアルコールの平均分子量は、前記のとおりJIS K 6726に記載された粘度平均重合度、ケン化度及び酢酸ビニル単位とビニルアルコール単位の分子量から算出した値である。
【0045】
(可塑剤)
アジピン酸ジイソブチル
アジピン酸ジイソオクチル
【0046】
表1に示した成分割合で、各成分を密閉分散槽に仕込む。そして、仕込んだイオン交換水の1.5倍量の酢酸エチルをさらに仕込み、65℃に加熱して所定の攪拌分散装置を用いた分散方法によって分散後、40℃まで急冷した。その後、減圧下に酢酸エチルを除去して、土壌改質剤を生分解性樹脂水系分散体として得た。
【0047】
土壌改質剤の最低造膜温度は、井元製作所製の造膜温度測定機IMC-1538により測定した。
【0048】
生分解性樹脂水系分散体中における樹脂粒子の平均粒子径と粒度分布の標準偏差は、島津レーザ回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD-2300型、屈折率1.45-0.00i)を用いて測定した。
【0049】
2.評価
実施例及び比較例の土壌改質剤について、次の評価を行った。
【0050】
(1)生育促進試験
生育促進試験(1)
ステンレスバットに以下の組成比率(質量)で植生基盤材を作製し、それらを用いて、ステンレスバットに傾斜角をつけずに客土吹付工法と厚層基材吹付工法を実施した。実施箇所は、吹付面の厚みがいずれも5mmであった。
植生基盤材組成
バーク堆肥:50%
ピートモス:20%
黒土 :30%
生育促進試験(2)
ステンレスバットに以下の組成比率(質量)で植生基盤材を作製し、それらを用いて客土吹付工法と厚層基材吹付工法を実施し、実施箇所は、傾斜角が約45℃、吹付面の厚みはいずれも5mmであった。屋外に1日放置後、1mの高さから100mm/hr×15分の降雨試験を行った。
植生基盤材組成
バーク堆肥:50%
ピートモス:20%
黒土 :30%
【0051】
上記植生基盤材100質量部に対して、各種原料を以下の組成で混合した。
肥料(旭化成(株)製のハイコントロール700(商品名)):0.3%
種子(牧草:ケンタッキー31フェスク):0.05%
実施例及び比較例の土壌改質剤:5%
【0052】
牧草(ケンタッキー31フェスク)を用いて、発芽率、30日経過後の発芽後の生育状態を測定し、以下の基準で評価した。
[生育性:発芽率]
◎+:95%以上
◎:90%以上95%未満
〇:80%以上90%未満
×:80%未満
【0053】
[生育性:発芽後の生育状態]
土壌改質剤を用いずに播種した以外は上記と同様に作製した植生基盤の試験区をブランクとした。吹付実施から30日経過後における、ブランクと比較した牧草の高さを以下の基準で評価した。
◎+:115%以上
◎:110%以上115%未満
〇:100%超110%未満
×:100%以下
【0054】
(2)飛砂防止試験
ステンレスバットに真砂土(粒度10mm以下)を入れ、これに実施例及び比較例の土壌改質剤を有効成分250g/m2となるように散布し、養生した。
[強度]
デジタルフォースゲージを用いて、経過日数60日後、180日後の強度(N)を測定し、以下の基準で評価した。
◎+:30以上
◎:20以上30未満
○:10以上20未満
×:10未満
【0055】
[粉塵飛散量]
経過日数60日後、180日後の試験体に送風機を稼働し(風速10m/s×5分)、粉塵飛散量を測定した。
粉塵飛散量を測定し、以下の基準で評価した。
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
【0056】
(3)浸食防止試験
ステンレスバットに以下の組成比率(質量)で植生基盤材を作製し、それらを用いて客土吹付工法と厚層基材吹付工法を実施した。実施箇所は、傾斜角が約45℃、吹付面の厚みはいずれも5mmであった。
植生基盤材組成
バーク堆肥:50%
ピートモス:20%
黒土 :30%
上記植生基盤材100質量部に対して、各種原料を以下の組成で混合した。
肥料(旭化成(株)製のハイコントロール700(商品名)):0.3%
種子(牧草:ケンタッキー31フェスク):0.05%
実施例及び比較例の土壌改質剤:5%
【0057】
[崩壊の有無]
屋外に30日放置後、1mの高さから100mm/hr×15分の降雨試験を行った後、崩壊の有無を測定し、以下の基準で評価した。
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
【0058】
[土壌流出量]
屋外に30日放置後、1mの高さから100mm/hr×15分の降雨試験を行った後、土壌流出量を測定し、以下の基準で評価した。
◎+:10%未満
◎:10%以上30%未満
○:30%以上50%未満
×:50%以上
【0059】
上記評価の結果を表1A~表1Cに示す。なお、実施例の土壌改質剤から形成された皮膜は、強度が非常に高く、かつ大量の雨水にも耐えうる土壌への粘着性が高い特徴的な皮膜であった。
【0060】
【0061】
【0062】