(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167659
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】TEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20241127BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241127BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241127BHJP
【FI】
G01N23/04
G06T7/00 350C
H01M4/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083884
(22)【出願日】2023-05-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)」事業、研究題目「地域資源活用型エネルギーエコシステム構築するための基盤技術の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 順三
(72)【発明者】
【氏名】松原 伸典
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】キム ギュソン
(72)【発明者】
【氏名】ユン ホジュン
(72)【発明者】
【氏名】澤田 康之
(72)【発明者】
【氏名】チャヤーナパット チョークラットジャルン
【テーマコード(参考)】
2G001
5H050
5L096
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001HA13
2G001LA20
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB07
5H050GA28
5L096BA03
5L096CA18
5L096FA39
5L096FA64
5L096FA67
5L096HA11
5L096JA11
5L096KA04
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】解析対象構造体中の電子の移動経路と正電荷の移動経路とを解析する。
【解決手段】TEM画像解析装置1は、ベクトル化された解析対象構造体のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化する線情報生成部132と、ベクトル化されたTEM画像を白黒反転する画像反転部133と、数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数を生成すると共に、生成された複数の説明変数のうちの解析対象構造体の性能を示す目的変数に関与する説明変数を抽出する説明変数抽出部134とを備え、線情報生成部132は、白黒反転が行われていないTEM画像に含まれる線を抽出して数値化し解析対象構造体中の電子の移動経路である炭素材料の表面を特徴量化し、白黒反転が行われたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化し解析対象構造体中の正電荷の移動経路である隣接する2つの炭素材料の間の空間を特徴量化する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を含み電子が移動可能な構造体である解析対象構造体の透過型電子顕微鏡(TEM)画像をベクトル化する画像ベクトル化部と、
前記画像ベクトル化部によってベクトル化されたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化する線情報生成部と、
前記画像ベクトル化部によってベクトル化されたTEM画像を白黒反転する画像反転部と、
前記線情報生成部によって数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数を生成すると共に、生成された前記複数の説明変数のうちの、前記解析対象構造体の性能を示す目的変数に関与する説明変数を抽出する説明変数抽出部とを備え、
前記線情報生成部は、
前記画像反転部による白黒反転が行われていないTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記解析対象構造体中の前記電子の移動経路である前記炭素材料の表面を特徴量化し、
前記画像反転部による白黒反転が行われたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記電子とは概略逆向きに移動する前記解析対象構造体中の正電荷の移動経路である隣接する2つの前記炭素材料の間の空間を特徴量化する、TEM画像解析装置。
【請求項2】
前記解析対象構造体は、リチウムイオン電池の負極炭素である、請求項1に記載のTEM画像解析装置。
【請求項3】
前記解析対象構造体としての前記負極炭素を含む前記リチウムイオン電池の性能を予測する性能予測部と、
前記解析対象構造体としての前記負極炭素の構造を予測する構造予測部とを備え、
前記性能予測部は、
第1学習用リチウムイオン電池の負極炭素のTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数から抽出された説明変数と、前記第1学習用リチウムイオン電池の性能との組である第1教師データを用いて第1学習が行われた第1モデルを用いることにより、
透過型電子顕微鏡によって撮像された前記解析対象構造体としての前記負極炭素のTEM画像に基づいて、前記解析対象構造体としての前記負極炭素を含む前記リチウムイオン電池の性能を予測し、
前記構造予測部は、
ソリューションプラズマを用いて表面の装飾が行われた第2学習用負極炭素の構造と、表面の装飾が行われた前記第2学習用負極炭素を含む第2学習用リチウムイオン電池の性能との組である第2教師データを用いて第2学習が行われた第2モデルを用いることにより、
前記透過型電子顕微鏡によって撮像された前記解析対象構造体としての前記負極炭素のTEM画像に基づいて、前記解析対象構造体としての前記負極炭素を含む前記リチウムイオン電池の性能を向上させるために必要な表面の装飾が行われた後の前記解析対象構造体としての前記負極炭素の構造を予測する、請求項2に記載のTEM画像解析装置。
【請求項4】
TEM画像解析装置が、炭素材料を含み電子が移動可能な構造体である解析対象構造体のTEM画像をベクトル化する画像ベクトル化ステップと、
前記TEM画像解析装置が、前記画像ベクトル化ステップにおいてベクトル化されたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化する線情報生成ステップと、
前記TEM画像解析装置が、前記画像ベクトル化ステップにおいてベクトル化されたTEM画像を白黒反転する画像反転ステップと、
前記TEM画像解析装置が、前記線情報生成ステップにおいて数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数を生成すると共に、生成された前記複数の説明変数のうちの、前記解析対象構造体の性能を示す目的変数に関与する説明変数を抽出する説明変数抽出ステップとを備え、
前記線情報生成ステップでは、
前記画像反転ステップにおける白黒反転が行われていないTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記解析対象構造体中の前記電子の移動経路である前記炭素材料の表面が特徴量化され、
前記画像反転ステップにおける白黒反転が行われたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記電子とは概略逆向きに移動する前記解析対象構造体中の正電荷の移動経路である隣接する2つの前記炭素材料の間の空間が特徴量化される、TEM画像解析方法。
【請求項5】
プロセッサに、
炭素材料を含み電子が移動可能な構造体である解析対象構造体のTEM画像をベクトル化する画像ベクトル化ステップと、
前記画像ベクトル化ステップにおいてベクトル化されたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化する線情報生成ステップと、
前記画像ベクトル化ステップにおいてベクトル化されたTEM画像を白黒反転する画像反転ステップと、
前記線情報生成ステップにおいて数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数を生成すると共に、生成された前記複数の説明変数のうちの、前記解析対象構造体の性能を示す目的変数に関与する説明変数を抽出する説明変数抽出ステップとを実行させるためのプログラムであって、
前記線情報生成ステップでは、
前記画像反転ステップにおける白黒反転が行われていないTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記解析対象構造体中の前記電子の移動経路である前記炭素材料の表面が特徴量化され、
前記画像反転ステップにおける白黒反転が行われたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記電子とは概略逆向きに移動する前記解析対象構造体中の正電荷の移動経路である隣接する2つの前記炭素材料の間の空間が特徴量化される、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、画像を解析する技術について記載されている。特許文献1に記載された技術では、構造物の表面を示す合成画像または合成前の画像を解析することによって構造物の表面のひび割れが検出され、ひび割れの特徴量等を示すひび割れ情報が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された技術では、構造物内を移動する電子等の移動経路の解析が行われない。そのため、特許文献1に記載された技術を適用することによっては、解析対象構造体(例えばリチウムイオン電池の負極炭素等)中の電子の移動経路と正電荷(例えばリチウムイオン等)の移動経路とを適切に解析することができない。
【0005】
上述した点に鑑み、本発明は、解析対象構造体中の電子の移動経路と正電荷の移動経路とを解析することができるTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、炭素材料を含み電子が移動可能な構造体である解析対象構造体のTEM画像をベクトル化する画像ベクトル化部と、前記画像ベクトル化部によってベクトル化されたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化する線情報生成部と、前記画像ベクトル化部によってベクトル化されたTEM画像を白黒反転する画像反転部と、前記線情報生成部によって数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数を生成すると共に、生成された前記複数の説明変数のうちの、前記解析対象構造体の性能を示す目的変数に関与する説明変数を抽出する説明変数抽出部とを備え、前記線情報生成部は、前記画像反転部による白黒反転が行われていないTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記解析対象構造体中の前記電子の移動経路である前記炭素材料の表面を特徴量化し、前記画像反転部による白黒反転が行われたTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、前記電子とは概略逆向きに移動する前記解析対象構造体中の正電荷の移動経路である隣接する2つの前記炭素材料の間の空間を特徴量化する、TEM画像解析装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、解析対象構造体中の電子の移動経路と正電荷の移動経路とを解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態のTEM画像解析装置1の一例を示す図である。
【
図2】画像ベクトル化部131による処理等の一例を説明するための図である。
【
図3】説明変数(記述子)のデータの分布(形)の一例を示す図である。
【
図4】複数の説明変数(記述子)の相関を示すマップの一例を示す図である。
【
図5】説明変数(記述子)のスクリーニングの一例を示す図である。
【
図6】リチウムイオン電池の負極炭素の炭素材料(グラフェンシート)と電子の移動経路とリチウムイオンの移動経路とを概念的に示した図である。
【
図7】構造予測部136によって予測されるリチウムイオン電池の性能を向上させるために必要な表面の装飾が行われた後の負極炭素の構造の例を示す図である。
【
図8】第1実施形態のTEM画像解析装置1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照し本発明のTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムの実施形態について説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態のTEM画像解析装置1の一例を示す図である。
図1に示す例では、TEM画像解析装置1が、炭素材料を含み電子が移動可能な構造体である解析対象構造体の解析を行う。詳細には、TEM画像解析装置1は、解析対象構造体としてのリチウムイオン電池の負極炭素の解析を行う。TEM画像解析装置1は、コンピュータによって構成されており、入出力インタフェース11と、例えばROM、RAM、ストレージ等のようなメモリ12と、例えばCPU等のようなプロセッサ13とを備えている。プロセッサ13は、画像ベクトル化部131としての機能と、線情報生成部132としての機能と、画像反転部133としての機能と、説明変数抽出部134としての機能と、性能予測部135としての機能と、構造予測部136としての機能とを有する。
画像ベクトル化部131は、例えば下記のURLが示すWEBサイトに記載された技術等を用いることにより、入出力インタフェース11を介してTEM画像解析装置1に入力されたリチウムイオン電池の負極炭素(解析対象構造体)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像をベクトル化する。
https://qiita.com/yizaki0212/items/11a12a06aa703b72fc12
https://magazine.techacademy.jp/magazine/47393
【0011】
図2は画像ベクトル化部131による処理等の一例を説明するための図である。詳細には、
図2(A)は画像ベクトル化部131によってベクトル化されたリチウムイオン電池の負極炭素のTEM画像を示している。
図2(B)は
図2(A)中の矩形で囲まれた部分を拡大して示している。
図2(C)は後述する線情報生成部132により
図2(B)に示す画像に含まれる線を抽出した画像を示している。
図2(D)は後述する画像反転部133により
図2(A)に示すTEM画像を白黒反転した画像を示している。
図2(E)は
図2(D)中の矩形で囲まれた部分を拡大して示している。
図2(F)は線情報生成部132により
図2(E)に示す画像に含まれる線を抽出した画像を示している。
【0012】
図1に示す例では、線情報生成部132が、画像ベクトル化部131によってベクトル化されたTEM画像(
図2(A)及び
図2(B)参照)に含まれる線を、例えば下記のURLが示すWEBサイトに記載された技術等のようにOpenCVを用いることによって、
図2(C)に示すように抽出する。
https://shikaku-mafia.com/cv2-houghlinesp/
また、線情報生成部132は、抽出された線(
図2(C)参照)(詳細には、複数の直線)の数値化を実行する。具体的には、線情報生成部132は、抽出された複数の直線を数値として表すために、抽出された複数の直線のそれぞれの始点、終点、角度等を算出する。
画像反転部133は、画像ベクトル化部131によってベクトル化されたTEM画像(
図2(A)参照)を、
図2(D)に示すように白黒反転する。線情報生成部132は、画像反転部133によって白黒反転されたTEM画像(
図2(D)及び
図2(E)参照)に含まれる線を、
図2(F)に示すように抽出する。
【0013】
説明変数抽出部134は、線情報生成部132によって数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数(記述子)を生成する。説明変数抽出部134によって生成される複数の説明変数(記述子)には、例えば、TEM全体像のすべてのベクトルから得られた角度の値の平均を取った記述子を意味する「AllAngle」、TEM全体像のすべてのベクトルから得られた長さの値の平均を取った記述子を意味する「AllLengthDist」、TEM全体像のすべてのベクトルから得られた角度の値の中央値を取った記述子を意味する「AllLengthPa50」、TEM拡大図でのすべてのベクトルから得られた長さの中央値を取った記述子を意味する「L_medi_length」、TEM全体像の白黒反転図でのすべてのベクトルから得られた長さの中央値を取った記述子を意味する「LR_medi_length」、TEM拡大図でのすべてのベクトルから得られた角度の中央値を取った記述子を意味する「L_medi_Angle」、TEM全体像の白黒反転図でのすべてのベクトルから得られた角度の中央値を取った記述子を意味する「LR_medi_Angle」、TEM拡大図から線が抽出された線抽出図でのすべてのベクトルから得られた長さの中央値を取った記述子を意味する「H_medi_length」、TEM拡大図から線が抽出された線抽出図を白黒反転させた図(白黒反転させたTEM拡大図から線が抽出された線抽出図)でのすべてのベクトルから得られた長さの中央値を取った記述子を意味する「HR_medi_length」、TEM画像内の正電荷の移動経路面の長辺と短辺の長さの比率を意味する「ratio」、TEM画像の白黒反転図内での抽出線同士の交差数を意味する「RBr」、TEM画像内の抽出線同士の交差数を意味する「br」、TEM拡大図からの線抽出図でのすべてのベクトルから得られた角度の中央値を取った記述子を意味する「H_medi_Angle」、TEM拡大図から線が抽出された線抽出図を白黒反転させた図でのすべてのベクトルから得られた角度の中央値を取った記述子を意味する「HR_medi_Angle」、TEM画像内の移動経路面の長辺の長さを意味する「L」、TEM画像内の移動経路面の短辺の長さを意味する「S」、TEM画像の白黒反転図内での移動経路面の長辺の長さを意味する「RL」、TEM画像の白黒反転図内での移動経路面の短辺の長さを意味する「RS」、TEM画像の白黒反転図内での移動経路面の長辺と短辺の長さの比率を意味する「Rratio」等が含まれる。
更に、説明変数抽出部134は、生成された上記の複数の説明変数(記述子)のうちの、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の性能(例えば充電容量(Capacity)、電荷移動抵抗Rct等)を示す目的変数に(高く)関与する説明変数(例えば「AllLengthDist」等を抽出する。
【0014】
図3は説明変数(記述子)「AllAngle」、「AllLengthDist」、「AllLengthPa50」、「L_medi_length」、「LR_medi_length」、「L_medi_Angle」、「LR_medi_Angle」、「H_medi_length」、「HR_medi_length」のデータの分布(形)の一例を示す図である。
説明変数抽出部134は、
図3に示すような説明変数(記述子)のデータの分布(形)を確認し、説明変数のデータの分布が集中していたり、説明変数のデータに極端な異常値が含まれたりする場合に、説明変数のデータの抽出のやり直し(例えば
図2(A)に示すTEM画像の矩形で囲まれた部分とは異なる部分を用いる等)が必要であると判定する。その結果、解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)の解析に適した説明変数が抽出される。
更に、説明変数抽出部134は、例えば下記のURLが示すWEBサイトに記載された技術等を用いることにより、次元削減を行い、複数の説明変数(記述子)のうちの、解析対象構造体の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する。
https://www.jmp.com/support/help/ja/16.2/index.shtml#page/jmp/cluster-variables.shtml
【0015】
図4は複数の説明変数(記述子)の相関を示すマップの一例を示す図である。
図4において、
図4の上図の縦軸の負の値は説明変数同士が類似していない(重複していない)ことを示しており、
図4の上図の縦軸の正の値は説明変数同士が類似している(重複している)ことを示している。
図4の下図は「クラスター」、「メンバー数」、「最も代表的な説明変数」、「クラスター内変動に対する割合」、「全体変動に対する割合」を示している。
説明変数抽出部134は、
図4に示すように、説明変数(記述子)同士のクラスタリングを通じて似通った(類似している)データの形を持つ説明変数(記述子)を探し、その説明変数(記述子)をグループ化する。また、説明変数抽出部134は、重複(類似)している説明変数(記述子)を除去もしくは合成することによって、計算で起こりうる加重値の歪曲を防ぐ。
更に、説明変数抽出部134は、例えば下記のURLが示すWEBサイトに記載された技術等を用いることにより、説明変数(記述子)のスクリーニングを行う。
https://www.jmp.com/support/help/ja/16.2/index.shtml#page/jmp/example-of-predictor-screening.shtml#
【0016】
図5は説明変数(記述子)のスクリーニングの一例を示す図である。
図5に示す例では、説明変数抽出部134が、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の充電容量(Capacity)(目的変数)に関与(寄与)する説明変数の順位付けと、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の電荷移動抵抗Rct(目的変数)に関与(寄与)する説明変数の順位付けとを行っている。詳細には、説明変数抽出部134は、各目的変数に対する複数の説明変数のそれぞれの寄与度(Contribution)及び寄与割合(Portion)を算出している。
説明変数抽出部134は、ランダムフォレスト(ブートストラップフォレスト)を用い、
図5に示すように、目的変数に対する各説明変数の寄与度を算出し、説明変数のスクリーニングを行う。つまり、説明変数抽出部134は、後述する性能予測部135がニューラルネットワーク等を用いてリチウムイオン電池の性能(例えば充電容量、電荷移動抵抗Rct等)を予測する前に、リチウムイオン電池の性能に寄与する説明変数を選別する。
【0017】
本発明者等は、鋭意研究において、解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)中の電子が、負極炭素の炭素材料の表面に沿って移動し、解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)中において電子とは概略逆向きに移動する正電荷(リチウムイオン)が、隣接する2つの炭素材料の間の空間内を移動することを見い出した(
図6参照)。
図6はリチウムイオン電池の負極炭素の炭素材料(グラフェンシート)と電子の移動経路とリチウムイオンの移動経路とを概念的に示した図である。
また、本発明者等は、解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)のTEM画像において、負極炭素の炭素材料の表面が黒色になり、隣接する2つの炭素材料の間の空間が白色になることを見い出した。
更に、本発明者等は、解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)のTEM画像の黒色部分に含まれる線を抽出して解析することによって、電子の移動経路を特徴量化することができ、解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)のTEM画像を白黒反転した後の黒色部分に含まれる線を抽出して解析することによって、正電荷(リチウムイオン)の移動経路を特徴量化することができることを見い出した。
【0018】
上述した点に鑑み、
図1に示す例では、線情報生成部132が、画像反転部133による白黒反転が行われていない解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、解析対象構造体中の電子の移動経路である炭素材料の表面を特徴量化する。
更に、線情報生成部132は、画像反転部133による白黒反転が行われた解析対象構造体のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、電子とは概略逆向きに移動する解析対象構造体中の正電荷(リチウムイオン)の移動経路である隣接する2つの炭素材料の間の空間を特徴量化する。
そのため、
図1に示す例では、解析対象構造体中の電子の移動経路及び正電荷(リチウムイオン)の移動経路を解析することができる。
【0019】
また、
図1に示す例では、性能予測部135が、負極炭素(解析対象構造体)を含むリチウムイオン電池の性能(例えば充電容量、電荷移動抵抗等)を予測する。詳細には、性能予測部135は、例えば、電池性能の検証が実際に行われた第1学習用リチウムイオン電池の負極炭素のTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数から抽出された説明変数と、電池性能の検証が実際に行われた第1学習用リチウムイオン電池の実測等により得られた性能との組である第1教師データを用いて第1学習が行われた第1モデルを用いることにより、透過型電子顕微鏡によって撮像された負極炭素(解析対象構造体)のTEM画像に基づいて、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の性能(例えば充電容量、電荷移動抵抗Rct等)を予測する。
構造予測部136は、リチウムイオン電池の負極炭素(解析対象構造体)の構造を予測する。詳細には、構造予測部136は、例えば、下記のURLが示すWEBサイトに記載されたソリューションプラズマを用いて表面の装飾が行われた第2学習用負極炭素の構造(実際に作製されたサンプルのカーボン構造)と、表面の装飾が行われた第2学習用負極炭素を含む第2学習用リチウムイオン電池の(実測又はシミュレーションにより得られた)性能(例えば充電容量、電荷移動抵抗Rct等)との組である第2教師データを用いて第2学習が行われた第2モデルを用いることにより、透過型電子顕微鏡によって撮像された負極炭素(解析対象構造体)のTEM画像に基づいて、負極炭素(解析対象構造体)を含むリチウムイオン電池の性能を向上させるために必要な表面の装飾が行われた後の負極炭素(解析対象構造体)の構造(最高の電池性能を出せる最適なカーボン構造)を予測する。
https://www.engg.nagoya-u.ac.jp/techno/techno2016/pdf/booth/no05.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/58/12/58_12_810/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/68/3/68_147/_pdf/-char/ja
https://www.chuden.co.jp/resource/seicho_kaihatsu/kaihatsu/kai_library/news/news_2020/news_145_01.pdf
【0020】
図7は構造予測部136によって予測されるリチウムイオン電池の性能を向上させるために必要な表面の装飾が行われた後の負極炭素(解析対象構造体)の構造の例を示す図である。
図7(A)に示すようなグラファイトにアモルファスカーボンをコートしたカーボン構造(ソリューションプラズマを用いて作ることができるカーボン構造)では、そのカーボン構造を有する負極炭素を含むリチウムイオン電池の電荷移動抵抗Rctを下げ、充電容量を向上させることができることを本発明者等は確認した。構造予測部136は、
図7(A)に示すようなカーボン構造と、そのカーボン構造を有する負極炭素を含むリチウムイオン電池の性能との組等を第2教師データとして用いて第2学習が行われた第2モデルを用いることによって、最高の電池性能を出せる最適なカーボン構造を予測することができる。また、構造予測部136によって予測される最高の電池性能を出せる最適なカーボン構造は、ソリューションプラズマを用いることによって作製可能である。
【0021】
本発明者等は下記の条件で関数フィッティングを行った。
・使われた予測法:ニューラルネットワーク
・隠れ層:シグモイド タンジェントハイパボリック(TanH(3))
・ブースティングモデル数:20
・学習率:0.1
・エポック数(Number of tours):100
説明変数抽出部134によって抽出された説明変数(記述子2)を用いたリチウムイオン電池の充電容量の予測精度と、説明変数抽出部134によって抽出された説明変数(記述子2)とは異なる説明変数(記述子1、記述子3)を用いた説明変数抽出部134によって抽出された説明変数(記述子2)を用いたリチウムイオン電池の充電容量の予測精度(平均値:0.24954136、最大値:0.3075813、最小値:0.2087368)は、記述子1を用いたリチウムイオン電池の充電容量の予測精度(平均値:0.17975116、最大値:0.265202、最小値:0.1110717)及び記述子3を用いたリチウムイオン電池の充電容量の予測精度(平均値:0.22153996、最大値:0.2498841、最小値:0.162449)より高くなった。
【0022】
図8は第1実施形態のTEM画像解析装置1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図8に示す例では、ステップS10において、画像ベクトル化部131は、リチウムイオン電池の負極炭素(解析対象構造体)のTEM画像をベクトル化する。
ステップS11では、線情報生成部132が、ステップS10においてベクトル化されたTEM画像に含まれる線を抽出する。また、線情報生成部132は、抽出された線の数値化を実行する。
ステップS12では、ステップS11において数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数(記述子)を生成する。更に、説明変数抽出部134は、生成された複数の説明変数(記述子)のうちの、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する(具体的には、例えば、説明変数(記述子)のデータの分布の確認、次元削減、説明変数(記述子)のスクリーニング等を実行する)。
【0023】
ステップS13では、画像反転部133が、ステップS10においてベクトル化されたTEM画像を白黒反転する。
ステップS14では、線情報生成部132が、ステップS13において白黒反転されたTEM画像に含まれる線を抽出する。また、線情報生成部132は、抽出された線の数値化を実行する。
ステップS15では、ステップS14において数値化されたTEM画像に含まれる全体の線の特徴を表す複数の説明変数(記述子)を生成する。更に、説明変数抽出部134は、生成された複数の説明変数(記述子)のうちの、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する(具体的には、例えば、説明変数(記述子)のデータの分布の確認、次元削減、説明変数(記述子)のスクリーニング等を実行する)。
【0024】
<第2実施形態>
以下、本発明のTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムの第2実施形態について説明する。第2実施形態のTEM画像解析装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態のTEM画像解析装置1と同様に構成されている。
【0025】
上述したように第1実施形態のTEM画像解析装置1は、解析対象構造体としてのリチウムイオン電池の負極炭素の解析を行う。一方、第2実施形態のTEM画像解析装置1は、燃料電池の炭素材料を含む電極材の解析を行う。
上述したように、
図1に示す例(第1実施形態のTEM画像解析装置1の一例)では、画像ベクトル化部131が、リチウムイオン電池の負極炭素(解析対象構造体)のTEM画像をベクトル化する。一方、第2実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、画像ベクトル化部131が、燃料電池の電極材の炭素材料(解析対象構造体)のTEM画像をベクトル化する。
上述したように、
図1に示す例では、説明変数抽出部134が、解析対象構造体(負極炭素)を含むリチウムイオン電池の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する。一方、第2実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、説明変数抽出部134が、解析対象構造体(電極材の炭素材料)を含む燃料電池の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する。
上述したように、
図1に示す例では、説明変数抽出部134は、性能予測部135がリチウムイオン電池の性能を予測する前に、リチウムイオン電池の性能に寄与する説明変数を選別する。一方、第2実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、説明変数抽出部134は、性能予測部135が燃料電池の性能を予測する前に、燃料電池の性能に寄与する説明変数を選別する。
上述したように、
図1に示す例では、線情報生成部132が、画像反転部133による白黒反転が行われていない解析対象構造体(リチウムイオン電池の負極炭素)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、解析対象構造体中の電子の移動経路である炭素材料の表面を特徴量化する。一方、第2実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、線情報生成部132が、画像反転部133による白黒反転が行われていない解析対象構造体(燃料電池の電極材の炭素材料)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、解析対象構造体中の電子の移動経路である炭素材料の表面を特徴量化する。
上述したように、
図1に示す例では、線情報生成部132は、画像反転部133による白黒反転が行われた解析対象構造体のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、電子とは概略逆向きに移動する解析対象構造体中の正電荷(リチウムイオン)の移動経路である隣接する2つの炭素材料の間の空間を特徴量化する。一方、第2実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、線情報生成部132が、画像反転部133による白黒反転が行われた解析対象構造体(燃料電池の電極材の炭素材料)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、電子とは概略逆向きに移動する解析対象構造体(燃料電池の電極材の炭素材料)中の正電荷(プロトン)の移動経路である隣接する2つの炭素材料の間の空間を特徴量化する。
【0026】
<第3実施形態>
以下、本発明のTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムの第3実施形態について説明する。第3実施形態のTEM画像解析装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態のTEM画像解析装置1と同様に構成されている。
【0027】
第3実施形態のTEM画像解析装置1は、炭素材料を含む透明導電膜の解析を行う。
第3実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、画像ベクトル化部131が、透明導電膜の炭素材料(解析対象構造体)のTEM画像をベクトル化する。説明変数抽出部134が、解析対象構造体(炭素材料)を含む透明導電膜の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する。説明変数抽出部134は、透明導電膜の性能に寄与する説明変数を選別する。線情報生成部132は、画像反転部133による白黒反転が行われていない解析対象構造体(透明導電膜の炭素材料)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、解析対象構造体中の電子の移動経路である炭素材料の表面を特徴量化する。また、第3実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、線情報生成部132が、画像反転部133による白黒反転が行われた解析対象構造体(透明導電膜の炭素材料)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、電子とは概略逆向きに移動する解析対象構造体(透明導電膜の炭素材料)中の正電荷(プロトン)の移動経路である隣接する2つの炭素材料の間の空間を特徴量化する。
【0028】
<第4実施形態>
以下、本発明のTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムの第4実施形態について説明する。第4実施形態のTEM画像解析装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態のTEM画像解析装置1と同様に構成されている。
【0029】
第4実施形態のTEM画像解析装置1は、例えば水電解装置の炭素材料を含むプロトン交換膜等のような第1~第3実施形態の解析対象構造体とは異なるものの解析を行う。
第4実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、画像ベクトル化部131が、解析対象構造体(例えば水電解装置のプロトン交換膜に含まれる炭素材料等)のTEM画像をベクトル化する。説明変数抽出部134が、解析対象構造体を含む透明導電膜の性能を示す目的変数に(高く)関与する説明変数を抽出する。説明変数抽出部134は、例えば水電解装置のプロトン交換膜等の性能に寄与する説明変数を選別する。線情報生成部132は、画像反転部133による白黒反転が行われていない解析対象構造体(例えば水電解装置のプロトン交換膜に含まれる炭素材料等)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、解析対象構造体中の電子の移動経路である炭素材料の表面を特徴量化する。また、第4実施形態のTEM画像解析装置1の一例では、線情報生成部132が、画像反転部133による白黒反転が行われた解析対象構造体(例えば水電解装置のプロトン交換膜に含まれる炭素材料等)のTEM画像に含まれる線を抽出して数値化することによって、電子とは概略逆向きに移動する解析対象構造体中の正電荷(プロトン)の移動経路である隣接する2つの炭素材料の間の空間を特徴量化する。
【0030】
以上のように、本発明のTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムの実施形態について図面を参照して説明したが、本発明のTEM画像解析装置、TEM画像解析方法及びプログラムは上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した実施形態の各例の構成を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…TEM画像解析装置、11…入出力インタフェース、12…メモリ、13…プロセッサ、131…画像ベクトル化部、132…線情報生成部、133…画像反転部、134…説明変数抽出部、135…性能予測部、136…構造予測部