(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167660
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】化粧シート、化粧板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083885
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】森田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 雄一
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20A
4F100AH03A
4F100AJ11A
4F100AK07B
4F100AK45A
4F100AK51A
4F100AK51D
4F100AK51E
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100CA02A
4F100CA05A
4F100CA23A
4F100CA30B
4F100CC00A
4F100EH17B
4F100EJ65D
4F100EJ65E
4F100EJ91A
4F100HB00C
4F100HB31C
4F100JB09A
4F100JK06
4F100JL09
4F100JL10E
4F100JL11
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】耐候性、耐傷性、耐汚染性の低下を抑制することが可能な、化粧シートと化粧板を提供する。
【解決手段】化粧板10が、基板8と、基板8の少なくとも一方の面に積層された化粧シート1とを備え、化粧シート1が、ポリプロピレン系の樹脂を用いて形成された基材層2と、基材層2の一方の面に積層され、且つ水性塗工液を用いて形成された表面保護層5と、基材層2の他方の面に積層され、且つ絵柄が形成された絵柄模様層4とを備え、水性塗工液は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤とを含み、表面保護層5は、水性塗工液が硬化した硬化塗膜により形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系の樹脂を用いて形成された基材層と、
前記基材層の一方の面に積層され、且つ水性塗工液を用いて形成された表面保護層と、
前記基材層の他方の面に積層され、且つ絵柄が形成された絵柄模様層と、を備え、
前記水性塗工液は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤と、を含み、
前記表面保護層は、前記水性塗工液が硬化した硬化塗膜により形成されている化粧シート。
【請求項2】
前記表面保護層は、前記基材層の一方の面に積層して形成された下塗り層と、前記下塗り層の前記基材層と対向する面と反対の面に積層して形成された上塗り層と、を備える請求項1に記載した化粧シート。
【請求項3】
前記絵柄模様層の前記基材層と対向する面と反対の面に積層された着色層をさらに備える請求項1に記載した化粧シート。
【請求項4】
前記基材層の他方の面に積層されたプライマー層をさらに備える請求項1に記載した化粧シート。
【請求項5】
前記基材層は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを前記ポリプロピレン系の樹脂へ添加して形成される請求項1に記載した化粧シート。
【請求項6】
前記造核剤ベシクルの添加量は、前記ポリプロピレン系の樹脂100質量部に対し、前記造核剤ベシクルが内包する前記造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である請求項5に記載した化粧シート。
【請求項7】
前記造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである請求項5に記載した化粧シート。
【請求項8】
前記造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに前記造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている請求項5に記載した化粧シート。
【請求項9】
基板と、
前記基板の少なくとも一方の面に積層された請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載した化粧シートと、を備える化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートと化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、使用環境の多様化に伴い、高機能化への要望が高くなっている。化粧シートの重要な機能として、意匠の多様性(例えば、幅広い光沢表現)があり、光沢表現は、表面保護層に添加するフィラーの量で調整することが一般的である。具体的には、表面保護層におけるフィラーの添加量が多いと低光沢、表面保護層におけるフィラーの添加量が少ないと高光沢となる。
表面保護層へのフィラー添加量に応じて、耐候性、耐傷性、耐汚染性等の物性に差が生じ、総じて添加量が多い低光沢な意匠の化粧シートでは、各種の物性が低下する傾向がある。特に、耐候性は、光、熱、水等の複合的な要因で劣化が著しく生じる。
耐候性の劣化に対応する技術としては、例えば、特許文献1に開示されているように、表面保護層へ、紫外線吸収剤や光安定剤を添加した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術を含め、従来の構成を有する化粧シートでは、耐候性を向上させるために、表面保護層への、紫外線吸収剤や光安定剤の添加量を多くすることが一般的である。しかしながら、表面保護層への、紫外線吸収剤や光安定剤の添加量を多くすると、表面保護層の耐傷性や耐汚染性等、他の物性を低下させるという問題がある。
すなわち、従来の構成を有する化粧シートにおいて、耐候性の向上と、耐傷性や耐汚染性の向上とは、トレードオフの関係にあった。また、低光沢を実現するために、表面保護層へのフィラーの添加量を多くすることで、フィラーの欠落による耐傷性の低下や、フィラーにより生じる毛管の影響により、耐候性や耐汚染性も総じて低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した問題点を鑑み、耐候性、耐傷性、耐汚染性の低下を抑制することが可能な、化粧シートと化粧板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、基材層と、表面保護層と、絵柄模様層を備える化粧シートである。基材層は、ポリプロピレン系の樹脂を用いて形成された層である。表面保護層は、基材層の一方の面に積層され、且つ水性塗工液を用いて形成された層である。絵柄模様層は、基材層の他方の面に積層され、且つ絵柄が形成された層である。また、水性塗工液は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤とを含む。そして、表面保護層は、水性塗工液が硬化した硬化塗膜により形成されている。
【0007】
また、上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、基板と、基板の少なくとも一方の面に積層された化粧シートとを備える化粧板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、耐候性、耐傷性、耐汚染性の低下を抑制することが可能な、化粧シートと化粧板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一実施形態における化粧板の構成を示す断面図である。
【
図2】グロスコートが施されている部分により形成された線と、絵柄模様層に形成されている絵柄を形成する線との位置関係を表す模式図である。
【
図3】第一実施形態の変形例における化粧板の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。以下に示す実施形態は、本技術の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本技術の技術的思想は、下記の実施形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本技術の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」になり、「右」が「左」になることは勿論である。
【0011】
(第一実施形態)
以下、
図1を参照して、第一実施形態における化粧シート1の構成について説明する。
化粧シート1は、例えば、室内に使用される。具体的には、建具(室内ドア、玄関収納)・造作材(見切り、廻り縁、巾木、窓枠、ドア枠)等の表面に貼り付け、家や部屋毎に、建具・造作材の柄を合わせて使用する。
また、化粧シート1は、
図1に示すように、基材層2と、着色層3と、絵柄模様層4と、表面保護層5と、防湿層6と、プライマー層7を備える。
【0012】
<基材層>
基材層2は、ポリプロピレン系の樹脂(熱可塑性樹脂)を用いて形成された原反層であり、化粧シート1の支持体を形成する層である。
また、基材層2は、第一透明層2aと、コア層2bと、第二透明層2cを備えており、例えば、押出し成形により製造する。なお、基材層2は、
図1において、第一透明層2aと、コア層2bと、第二透明層2cが別の層を形成するように図示しているが、実際は、第一透明層2aと、コア層2bと、第二透明層2cは連続的に形成されている。したがって、第一透明層2aとコア層2bとの界面と、コア層2bと第二透明層2cとの界面は存在しない。
第一実施形態では、第一透明層2aの厚さ:コア層2bの厚さ:第二透明層2cの厚さが、0.5:9:0.5の比率になるように、同時押出しを行い、基材層2の厚さを50[μm]とした場合について説明する。
【0013】
(第一透明層)
第一透明層2aは、透明なポリプロピレン系の樹脂(熱可塑性樹脂)に、ナノサイズの添加剤としての分散剤を添加して形成されている。また、第一透明層2aには、ナノサイズの添加剤としての分散剤に加え、無機フィラーが添加されている。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂等、又は、前述した樹脂を二種類以上用いた混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用することが可能である。
【0015】
特に、近年の環境問題に対する社会的な関心の高まりを考慮すると、熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル樹脂等の塩素(ハロゲン)を含有する熱可塑性樹脂を使用することは好ましくないため、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
また、各種物性や加工性、汎用性、経済性等を考慮すると、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂として、ポリエステル系樹脂(非晶質又は二軸延伸)、又は、ポリオレフィン系樹脂、特にポリオレフィン系樹脂を使用することが最も好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂として、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が95%以上の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を、30質量%以上100質量%以下含むポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂等、又は、前述した樹脂を二種類以上用いた混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用することが可能である。
【0017】
特に、近年の環境問題に対する社会的な関心の高まりを考慮すると、熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル樹脂等の塩素(ハロゲン)を含有する熱可塑性樹脂を使用することは好ましくないため、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
また、各種物性や加工性、汎用性、経済性等を考慮すると、非ハロゲン系の熱可塑性樹脂として、ポリエステル系樹脂(非晶質又は二軸延伸)、又は、ポリオレフィン系樹脂、特にポリオレフィン系樹脂を使用することが最も好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂として、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が95%以上の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を、30質量%以上100質量%以下含むポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。
【0018】
(ナノサイズの添加剤)
ナノサイズの添加剤とは、添加剤をナノサイズ化する手法(ナノ化処理)によってナノサイズの粒子とされた添加剤のことである。
ナノサイズの造核剤は、単層膜の外膜を具備するベシクルに内包された、造核剤ベシクルの形でポリプロピレン樹脂に添加されて使用される。
また、第一透明層2aを構成する樹脂中の造核剤は、造核剤の一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていてもよい。第一透明層2aは、造核剤を含むため、結晶化度を向上させることが可能となり、化粧シート1の耐擦傷性(耐傷性)を向上させることが可能である。
【0019】
(造核剤の粒径)
ナノサイズの造核剤は、平均粒径が可視光の波長領域の1/2以下であることが好ましく、具体的には、可視光の波長領域が400[nm]以上750[nm]以下であるので、平均粒径が375[nm]以下であることが好ましい。
ナノサイズの造核剤は、粒径が極めて小さいため、単位体積当たりに存在する造核剤の数と表面積とが粒子直径の三乗に反比例して増加する。その結果、各造核剤粒子間の距離が近くなるため、樹脂に添加された一の造核剤粒子の表面から結晶成長が生じた際に、結晶が成長している端部が直ちに、一の造核剤粒子に隣接する他の造核剤粒子の表面から成長している結晶の端部と接触し、互いの結晶の端部が成長を阻害して各結晶の成長が止まる。そのため、結晶性樹脂の結晶部における、球晶の平均粒径を小さく、例えば、球晶サイズを小さくして1μm以下とすることが可能である。
【0020】
この結果、結晶化度の高い高硬度の樹脂フィルムとすることが可能であると共に、曲げ加工時に生じる球晶間の応力集中が効率的に分散されるため、曲げ加工時の割れや白化を抑制した樹脂フィルムを実現することが可能である。
造核剤を単純添加した場合、樹脂中の造核剤が2次凝集することで粒径が大きくなる。
一方、造核剤ベシクルを添加する場合、樹脂中における分散性が向上するため、造核剤を単純に添加した場合と比較して添加した造核剤量に対しする結晶核の数が大幅に増加する。
このため、樹脂の結晶部における球晶の平均粒径が小さくなり、曲げ加工時の割れや白化の発生を抑制することが可能である。よって、造核剤ベシクルを添加することにより結晶化度をより高めることができ、弾性率向上と加工性をより両立可能となる。
【0021】
第一透明層2aは、例えば、ポリプロピレン系の樹脂(熱可塑性樹脂)100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲内で造核剤が添加された樹脂材料により形成される。
造核剤ベシクルを用いる場合、樹脂材料への造核剤の添加量は、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算した添加量である。
【0022】
造核剤の添加量が0.05質量部未満の場合、ポリプロピレンの結晶化度が十分に向上せず、第一透明層2aの耐傷性が十分に向上しないおそれがある。
また、造核剤の添加量が0.5質量部を超える場合、結晶核が過多のためポリプロピレンの球晶成長が逆に阻害され、結果的にポリプロピレンの結晶化度が十分に向上せず、第一透明層2aの耐傷性が十分に向上しないおそれがある。
【0023】
(造核剤をナノ化する手法)
また、造核剤をナノ化する手法としては、例えば、固相法、液相法、気相法等の方法を用いることが可能である。
【0024】
固相法は、添加剤に対して、主に機械的な粉砕を行ってナノサイズの粒子を得る方法である。また、固相法としては、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル等を用いることが可能である。
液相法は、添加剤や当該添加剤を溶解させた溶液中でナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う方法である。また、液相法としては、晶析法、共沈法、ゾルゲル法、液相還元法、水熱合成法等を用いることが可能である。
気相法は、添加剤や、添加剤により形成されたガスや蒸気からナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う方法である。また、気相法としては、電気炉法、化学炎法、レーザー法、熱プラズマ法等を用いることが可能である。
【0025】
以下、ナノ化処理の、より具体的な方法を説明する。
固相法の具体例では、例えば、100[g]のイソプロピルアルコールと、50[g]の2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムとの混合物を、ビーズミルで60分間、30[μm]の安定化ジルコニアビーズを用いて、平均粒子径が100[nm]以上150[nm]以下の範囲内程度である、ナノサイズの造核剤粒子を得る。
【0026】
また、晶析法の具体例では、例えば、キシレン96[g]、72[g]のイソプロピルアルコールと、24[g]の水とを混合した混合溶媒に、50[g]の2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムを溶解させた溶液を、マイクロリアクター内でエタノール等の貧溶媒と接触させることで、平均粒子径が1[nm]以上150[nm]以下の範囲内である、ナノサイズの造核剤粒子を析出させる。
また、添加剤内包ベシクルとは、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞状のカプセルのことであり、特に、内部に液相を含むものが添加剤内包ベシクルと呼ばれている。本発明においては、液相中に添加剤が含まれている場合について説明する。
【0027】
また、添加剤内包ベシクルは、互いの外膜同士が反発し合う作用によって粒子が凝集することがなく、極めて高い分散性を有している。そして、互いの外膜同士が反発し合う作用によって、各樹脂層を構成する樹脂組成物中に対し、添加剤を均一に分散させることを可能とする。
ナノ化処理の中で、ナノサイズの添加剤を添加剤内包ベシクルとして得る手法(ベシクル化処理)としては、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法等を用いることが可能である。
【0028】
以下、ベシクル化処理について説明する。
Bangham法は、フラスコ等の容器にクロロホルム又はクロロホルム/メタノール混合溶媒を入れ、さらにリン脂質を入れて溶解させる。その後、エバポレータを用いて溶媒を除去することで、脂質を含む薄膜を形成し、添加剤の分散液を加えた後、ボルテックスミキサーで水和・分散させることにより、ベシクルを得る方法である。
【0029】
エクストルージョン法は、薄膜のリン脂質溶液を調液し、Bangham法において外部摂動として用いたミキサーに代えてフィルターを通過させることにより、ベシクルを得る方法である。
水和法は、Bangham法とほぼ同じ調製方法であるが、ミキサーを用いずに、穏やかに攪拌することで分散させてベシクルを得る方法である。
【0030】
逆相蒸発法は、リン脂質をジエチルエーテルやクロロホルムに溶解し、添加剤を含んだ溶液を加えてW/Oエマルジョンを形成し、形成したエマルジョンから減圧下において有機溶媒を除去した後、水を添加することによりベシクルを得る方法である。
凍結融解法は、外部摂動として冷却・加熱を用いる方法であり、冷却・加熱を繰り返すことによりベシクルを得る方法である。
特に、単層膜の外膜を備える添加剤内包ベシクルを得るための方法として、超臨界逆相蒸発法が挙げられる。
【0031】
超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態又は臨界点以上の温度条件下、もしくは、圧力条件下の二酸化炭素を用いて、対象物質を内包したカプセル(ナノサイズのベシクル)を作製する方法である。超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98[℃])及び臨界圧力(7.3773±0.0030[MPa])以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味する。
臨界点以上の温度条件下、もしくは、圧力条件下の二酸化炭素とは、臨界温度だけ、又は、臨界圧力だけが臨界条件を超えた条件下の二酸化炭素を意味する。
【0032】
超臨界逆相蒸発法による具体的なベシクル化処理は、超臨界二酸化炭素と、外膜形成物質としてのリン脂質と、内包物質としての添加剤の混合流体中に水相を注入し、攪拌することによって超臨界二酸化炭素と水相のエマルジョンを生成する。その後、減圧することで、二酸化炭素が膨張・蒸発して転相が生じ、リン脂質が造核剤粒子の表面を単層膜で覆ったナノカプセル(ナノベシクル)が生成される。
超臨界逆相蒸発法を用いることにより、添加剤粒子表面で分散剤が多重膜となる従来のカプセル化方法とは異なり、容易に単層膜のカプセルを生成することが可能となるので、より小径なカプセルを調製することが可能となる。
なお、造核剤ベシクルは、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法等によって調製される。造核剤ベシクルは、特に、超臨界逆相蒸発法を用いて調整されることが好ましい。
【0033】
ナノカプセルを、多重膜のカプセルとしたい場合には、リン脂質、添加剤、水相の混合流体中に超臨界二酸化炭素を注入することで、容易に作製することが可能となる。
添加剤内包ベシクルを調製する際に用いるリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセルロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質等が挙げられる。また、添加剤内包ベシクルは、リン脂質の外膜を備えることにより、樹脂材料との優れた相溶性を実現することが可能である。
【0034】
また、添加剤内包ベシクルは、分散剤を含む外膜を備えていてもよい。分散剤としては、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、変性樹脂等が挙げられる。
高分子系の界面活性剤としては、脂肪族多価ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アルキルアミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0035】
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸、ラウリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、リシノール酸、ミリスチン酸等とリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム等が結合したものが挙げられる。
シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
チタネートカップリング剤としては、テトラキス[2,2-ビス(アリルオキシメチル)ブトキシ]チタン(IV)、ジ-i-プロポキシチタンジオソステアレート、(2-nーブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、トリイソステアリン酸イソプロピルチタン、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン等が挙げられる。
シリコーンとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル等のオレフィンを重合又は、ポリオレフィンを熱分解したもので、それをさらに酸化又はマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸等によって変性したものが挙げられる。
樹脂としては、ポリオレフィンをマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸等によって変性したものが挙げられる。
【0037】
(造核剤ベシクルを構成する外膜)
造核剤ベシクルを構成する外膜は、例えば、単層膜から構成される。また、造核剤ベシクルを構成する外膜は、例えば、リン脂質等の生体脂質を含む物質から構成される。
以降の説明では、外膜がリン脂質のような生体脂質を含む物質から構成される造核剤ベシクルを、造核剤リポソームと記載する場合がある。
外膜を構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0038】
(外膜となるその他の物質)
ベシクルの外膜となるその他の物質としては、例えば、ノニオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤とコレステロール類、又は、トリアシルグリセロールの混合物等の分散剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種又は2種以上を使用することが可能である。
【0039】
コレステロール類としては、例えば、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5、24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウム又はコレカルシフェロール等を使用することが可能である。
また、リポソームの外膜は、リン脂質と分散剤との混合物から形成してもよい。
【0040】
第一実施形態では、造核剤ベシクルを、リン脂質により形成された外膜を具備したラジカル捕捉剤リポソームとすることが好ましい。これは、外膜をリン脂質から構成することによって、化粧シート1の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を、良好なものとすることが可能となるためである。なお、「主成分」とは、例えば、基材層を構成する樹脂材料の50質量%以上を占める樹脂材料を示す。
造核剤としては、樹脂が結晶化する際に結晶化の起点となる物質であれば、特に限定するものではない。造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー、タルク等が挙げられる。特に、ナノ化処理の効果を最大限に得るために、非溶融型で良好な透明性が期待される、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって材料自体の透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルク等も用いることが可能である。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしてもよい。
【0041】
(コア層2b)
コア層2bは、第一透明層2aの一方の面(
図1では、上側の面)に積層されており、例えば、透明なポリプロピレン系の樹脂(熱可塑性樹脂)に、耐候剤をブレンドしたものを用いて形成されている。
コア層2bには、必要に応じて、例えば、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、防黴剤、減摩剤、光散乱剤、艶調整剤等、各種の添加剤から選択した一種類以上の添加材を添加してもよい。
【0042】
(第二透明層)
第二透明層2cは、コア層2bの一方の面(
図1では、上側の面)に積層されており、透明なポリプロピレン系の樹脂(熱可塑性樹脂)を用いて形成されている。
また、第二透明層2cには、ナノサイズの添加剤としての分散剤に加え、無機フィラーを添加する。
以上により、第一実施形態では、基材層2の構成を、第一透明層2aと、コア層2bと、第二透明層2cの順に積層した、二種類且つ三層で形成された構成とした場合について説明する。
【0043】
(基材層の特徴)
化粧シート1は、基材層2が樹脂材料と造核剤とを含有する点に特徴を有する。
また、化粧シート1は、基材層2を形成する際に、樹脂材料に対してベシクルに内包された造核剤を添加して樹脂材料を結晶化させる点に特徴を有している。造核剤をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料の中、すなわち、基材層2の中への造核剤の分散性が飛躍的に向上するという効果を奏する。
一方、ベシクルに内包された造核剤を、完成された化粧シート1の状態における物の構造や特性にて直接特定することが、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は,次の通りである。
【0044】
ベシクルの状態で添加された造核剤は、高い分散性を有して分散された状態になっており、作製された化粧シート1の前駆体である積層体の状態においても、基材層に高分散されている。
しかしながら、化粧シート1の作製工程において、通常、積層体は、圧縮処理や硬化処理等の種々の処理が施されることで、造核剤を内包するベシクルの外膜の破砕や、化学反応が生じる場合がある。
このため、化粧シート1の処理工程によって、完成後の化粧シート1における造核剤の外膜の破砕や、化学反応の発生状態にばらつきが生じ、造核剤が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高い。
【0045】
そして、造核剤が外膜で包含されていない場合、造核剤の物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また、破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか、造核剤とは別に添加された材料なのか、判定が困難な場合も想定される。
このように、本開示は、従来に比して、化粧シート1に対し、造核剤が高分散で配合されている点で相違があるものの、造核剤を内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シート1の状態において、その構造や特性を、測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
【0046】
以上により、基材層2は、ナノサイズの添加剤としての分散材が添加されている。
また、基材層2は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを、ポリプロピレン系の熱可塑性樹脂へ添加して形成される。
さらに、造核剤ベシクルの添加量は、ポリプロピレン系の熱可塑性樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である。
【0047】
また、第一透明層2aと第二透明層2cは、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを前記ポリプロピレン系の熱可塑性樹脂へ添加して形成される。
また、造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである。
さらに、造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに前記造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている。
【0048】
<着色層>
着色層3は、絵柄模様層4を間に挟んで、基材層2の他方の面(
図1では、下側の面)に積層されている。すなわち、着色層3は、絵柄模様層4の基材層2と対向する面と反対の面(
図1では、下側の面)に積層されている。
また、着色層3は、公知の印刷方法(例えば、グラビア印刷法)を用いて、例えば、透明又は半透明に形成されている。
【0049】
<絵柄模様層>
絵柄模様層4は、基材層2の他方の面に積層され、化粧シート1に意匠性を付与するための絵柄が形成された層である。
絵柄模様層4は、例えば、グラビア印刷法によりウレタン系樹脂で絵柄を印刷して形成されている。なお、絵柄模様層4を形成する印刷方法としては、グラビア印刷法の他に、例えば、オフセット印刷方法、凸版印刷方法、フレキソ印刷方法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、静電印刷法等、各種の印刷方法を用いることが可能である。
【0050】
絵柄模様層4に形成する絵柄の種類は、使用目的や使用者の嗜好等により任意であり、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号、単色無地等、又はそれらの組み合わせ等を用いることが可能である。また、模様の種類は、例えば、全面ベタ印刷等であってもよい。
絵柄模様層4の形成に用いる印刷インキとしては、ウレタン系樹脂以外にも、例えば、有機又は無機の染料や、顔料等の着色剤等を用いることが可能である。
【0051】
絵柄模様層4の乾燥後の重量は、好ましくは0.1[g/m2]以上15[g/m2]以下の範囲内、より好ましくは3[g/m2]以上10[g/m2]以下の範囲内、さらに好ましくは6[g/m2]以上9[g/m2]以下の範囲内である。
また、絵柄模様層4は、例えば、化粧シート1が貼りつけられる下地の色・模様を隠蔽するために、ベタ塗りされた着色基材層と、意匠性を付与するための絵柄を付加するための絵柄層とを有する構成としてもよい。
【0052】
絵柄模様層4の厚さは、1[μm]以上10[μm]以下の範囲内、好ましくは0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内、より好ましくは0.5[μm]以上5[μm]以下の範囲内、さらに好ましくは0.7[μm]以上3[μm]以下の範囲内に設定する。これは、絵柄模様層4の厚さが1[μm]以上である場合、印刷を明瞭にすることが可能であることに起因する。また、絵柄模様層4の厚さが10[μm]以下である場合、化粧シート1を製造する際の印刷作業性が向上し、且つ製造コストを抑制することが可能であることに起因する。
なお、絵柄模様層4には、各種機能を付与するために、例えば、体質顔料、可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤及び硬化遅延剤等の機能性添加剤を添加してもよい。
【0053】
<表面保護層>
表面保護層5(トップコート)は、基材層2の一方の面(
図1では、上側の面)に積層されている。
また、表面保護層5は、水性塗工液を用いて形成されている。
【0054】
水性塗工液は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤とを含む。
そして、表面保護層5は、水性塗工液が硬化した硬化塗膜により形成されている。
具体的に、表面保護層5は、水性塗工液であるトップコート層用コーティング材を、基材層2の一方の面に塗工して硬化させることで形成されている。
【0055】
また、表面保護層5は、下塗り層5aと、上塗り層5bを備える。
下塗り層5aは、基材層2の一方の面に形成されており、ポリカーボネート系ウレタン樹脂とカルボジイミド硬化剤の各成分を少なくとも含んだコーティング材を塗布して、例えば、厚さが6[μm]となるように形成する。
【0056】
上塗り層5bは、下塗り層5aの一方の面(
図1では、上側の面)に積層され、下塗り層5aと同じ樹脂であるとともに、例えば、艶を低くした樹脂を塗布して形成されている。すなわち、上塗り層5bは、下塗り層5aよりも艶が低い。
また、上塗り層5bは、絵柄模様層4に形成された絵柄と同調した絵柄を印刷して形成されている。
【0057】
具体的には、表面保護層5が備える上塗り層5bには、グロスコートと、マットコートが施されている。
そして、上塗り層5bのうち、グロスコートが施されている部分により形成された線及びマットコートが施されている部分により形成された線のうち少なくとも一方と、絵柄模様層4に形成されている絵柄を形成する線とは、絵柄模様層4、基材層2、表面保護層5とを積層した方向から見て、少なくとも一部が互いに重なっている。
なお、グロスコートが施されている部分により形成された線や、マットコートが施されている部分により形成された線や、絵柄模様層4に形成されている絵柄を形成する線は、例えば、絵柄が木目柄である場合には、導管を形成する線である。
【0058】
すなわち、一例として
図2に示すように、グロスコートが施されている部分により形成された線GLと、絵柄模様層4に形成されている絵柄を形成する線KLとが、絵柄模様層4、基材層2、表面保護層5とを積層した方向から見て、少なくとも一部が互いに重なっている。これにより、表面保護層5は、絵柄模様層4に形成された絵柄と同調した絵柄を印刷して形成されている。
なお、図示を省略するが、マットコートが施されている部分により形成された線と、絵柄模様層4に形成されている絵柄を形成する線KLとが、絵柄模様層4、基材層2、表面保護層5とを積層した方向から見て、少なくとも一部が互いに重なっている構成としてもよい。また、図示を省略するが、グロスコートが施されている部分により形成された線GLと、マットコートが施されている部分により形成された線と、絵柄模様層4に形成されている絵柄を形成する線KLとが、絵柄模様層4、基材層2、表面保護層5とを積層した方向から見て、少なくとも一部が互いに重なっている構成としてもよい。
【0059】
以下、表面保護層5を構成する材料等について詳しく説明する。
表面保護層5を構成する材料としては、例えば、電離放射線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が好適に用いられる。
【0060】
電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、各種モノマーや市販されているオリゴマー等、公知の樹脂を用いることが可能である。
具体的には、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET3A)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PET4A)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)等の多官能モノマーや、紫光UV-1700B(日本合成化学製)のような多官能オリゴマー、又は、上述した材料の混合物を用いることが好ましい。
【0061】
熱硬化性樹脂としては、例えば、以下に説明するカルボキシ基を含むポリマーと、硬化剤成分であるカルボジイミド化合物(カルボジイミド硬化剤)とを、熱により硬化させることで形成されるものが好ましい。
カルボキシ基を含むポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、分子構造の伸張等による機械特性的特徴を、表面保護層5に付与することが可能なポリマーであってもよい。また、カルボキシ基を含むポリマーは、例えば、各種アクリルポリマー、各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート、各種ポリウレタン等から、適宜選択して用いられる。
【0062】
上述した樹脂の中でも、表面保護層5を構成する樹脂材料として最も好ましいのは、ポリカーボネート系ウレタン樹脂である。ポリカーボネート系ウレタン樹脂とは、ポリカーボネートジオールを構造単位として有し、イソシアネート化合物やジオール化合物との反応により得られるウレタン樹脂である。
硬化剤成分であるカルボジイミド化合物としては、上記同様、特に限定されるものではないが、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N-3-ジメチルアミノプロピル-N’-エチルカルボジイミド、N-tert-ブチル-N’-エチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-2-モルフォリノエチルカルボジイミドメソ-p-トルエンスルホン酸、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド、等が挙げられる。
【0063】
カルボジイミド化合物の添加量は、カルボジイミド当量(NCN当量)とポリカーボネート系ウレタン樹脂の酸価(mgKOH/g)より算出される、カルボジイミドのモル当量(mmol/g)とポリカーボネート系ウレタン樹脂中のカルボキシ基のモル当量(mmol/g)との当量比(カルボジイミドのモル当量/ポリカーボネート系ウレタン樹脂中のカルボキシ基のモル当量)で1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。
これは、当量比が1以下であると架橋密度が低くなり、耐傷性の低下及び耐汚染性の低下が発生することに起因する。
【0064】
なお、カルボジイミド化合物の添加量の上限値には、特に制限はないが、カルボジイミドのモル当量(mmol/g)とポリカーボネート系ウレタン樹脂中のカルボキシ基のモル当量(mmol/g)との当量比(カルボジイミドのモル当量/ポリカーボネート系ウレタン樹脂中のカルボキシ基のモル当量)が2以下であれば好ましく、1.8以下であればより好ましく、1.6以下であればさらに好ましい。
これは、カルボジイミド化合物の添加量が、当量比で2を超えると、相対的にポリカーボネート系ウレタン樹脂の含有量が少なくなり、硬化反応に寄与しないカルボジイミド化合物の量が多くなるため、表面保護層5の硬度が十分に高まらない場合があることに起因する。
【0065】
また、表面保護層5に含まれる樹脂としては、酸価が10[mgKOH/g]以上のポリカーボネート系ウレタンポリマー(ポリカーボネート系ウレタン樹脂)が、硬化剤(例えば、上述したカルボジイミド硬化剤)により架橋された樹脂であってもよい。また、ガラス転移温度が80[℃]以上であり、且つ酸価が10[mgKOH/g]以上のポリカーボネート系ウレタンポリマーが硬化剤により架橋された樹脂であれば、より好ましい。
ここで、ガラス転移温度が80[℃]以下であると、表面保護層5の表面硬度が低下し、耐傷性能が低下するおそれがある。また、酸価が10[mgKOH/g]以下であると、硬化後の架橋密度が低いため、耐傷性能が低下するおそれがある。
【0066】
なお、表面保護層5に含まれるポリカーボネート系ウレタンポリマーのガラス転移温度の上限値は、特に制限されないが、例えば200[℃]以下が好ましく、180[℃]以下がより好ましく、160[℃]以下がさらに好ましい。これは、表面保護層5を構成する樹脂のガラス転移温度が200[℃]を超えると、表面保護層5の表面硬度が高くなりすぎて、外部からの衝撃に弱くなる可能性があることに起因する。
また、表面保護層5に含まれるポリカーボネート系ウレタンポリマーの酸価の上限値は、特に制限されないが、例えば、200[mgKOH/g]以下が好ましく、100[mgKOH/g]以下がより好ましく、50[mgKOH/g]以下がさらに好ましい。これは、表面保護層5を構成する樹脂の酸価が200[mgKOH/g]を超えると、硬化後の架橋密度が高くなりすぎて、外部からの衝撃に弱くなる可能性があることに起因する。
【0067】
また、表面保護層5に含まれるポリカーボネート系ウレタンポリマーは、水性エマルションの形態で、硬化剤と共に塗工されることが好ましい。これは、表面保護層5に含まれるポリカーボネート系ウレタンポリマーが水性エマルションの形態で、硬化剤と共に塗工されれば、分子量が高い樹脂被膜が得られ、表面保護層5の表面硬度が向上するとともに、耐汚染性が向上することに起因する。ここで、「水性エマルション」とは、分散媒である水又は低級アルコール中に形成されたエマルションを意味する。
下塗り層5aと上塗り層5bは、それぞれ、ポリカーボネート系ウレタン樹脂とカルボジイミド硬化剤とを少なくとも含む硬化塗膜で構成された層であればよい。そのため、下塗り層5aと上塗り層5bは、互いに異なる組成の硬化塗膜であってもよいし、同じ組成の硬化塗膜であってもよい。
【0068】
例えば、カルボジイミド化合物の添加量は、当量比(カルボジイミドのモル当量/ポリカーボネート系ウレタン樹脂中のカルボキシ基のモル当量)で、下塗り層5aの方が上塗り層5bよりも多くてもよいし、少なくてもよい。これは、下塗り層5aと上塗り層5bとで、カルボジイミド化合物の添加量に差を設けることで、表面保護層5全体に柔軟性を付与することが可能となるためである。
下塗り層5aと上塗り層5bとで、カルボジイミド化合物の添加量に差を設ける場合には、一方の層の添加量を他方の層の添加量の1.1倍以上2.0倍以下の範囲内、より好ましくは、1.3倍以上1.5倍以下の範囲内にすれば、上述した効果を得ることが可能となる。
【0069】
表面保護層5には、一般的に光沢調整剤としてフィラーを添加することが多く、例えば、アクリルビーズ、シリコーンビーズ等の有機材料、アルミナやシリカ等の無機材料、いずれも用いることが可能である。特に、耐傷性の点で、無機材料を用いて形成されたシリカ(シリカフィラー)が好ましい。シリカは、他の材料と比較して良好な耐傷性を示すが、これは、シリカが適度な硬度を有することに起因すると考えられる。
シリカの粒子径(平均粒子径D50)は、9[μm]以下であることが好ましく、7[μm]以下であることがより好ましく、5[μm]以下であることがさらに好ましい。また、シリカの粒子径が9[μm]を超えると、擦傷性評価において粒子の欠落が発生し易くなるため好ましくない。
【0070】
なお、シリカの粒子径の下限値は、特に制限されないが、1[μm]以上が好ましく、2[μm]以上がより好ましく、3[μm]以上がさらに好ましい。これは、表面保護層5に添加するシリカの粒子径が1[μm]未満であると、光沢調整剤としての機能が発揮されない可能性があることに起因する。
また、シリカは、1[mL/g]以上の細孔容積を有することが好ましい。シリカは、細孔容積が大きい(具体的には1[mL/g]以上)と耐傷性に優れる傾向を示すが、これは、バインダー樹脂成分がシリカ細孔へ含侵することが影響していると考えられる。また、細孔容積が大きいシリカは、艶を落とす機能も大きく、光沢調整剤の必要添加量を減ずる効果も大きい。なお、光沢調整剤の含有量は、表面保護層5全体の質量に対して、1質量[%]以上30質量[%]以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、2質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内である。
以上説明したように、光沢調整剤として、細孔容積が1[mL/g]以上のシリカ(シリカフィラー)を添加する場合、シリカの含有量は、表面保護層5全体の質量に対して、1質量[%]以上30質量[%]以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、2質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内である。
【0071】
なお、シリカの形状は、球状であってもよい。
また、物性安定性(耐傷性の機能付与)の観点から、シリカ(シリカフィラー)を下塗り層5aにのみに添加する場合、シリカの含有量は、下塗り層5a全体の質量に対して、10質量[%]以上30質量[%]以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、15質量[%]以上25質量[%]以下の範囲内である。
また、シリカは、100[mL/100g]以上200[mL/100g]以下の範囲内の吸油量を有することが好ましく、吸油量が150[mL/100g]以上180[mL/100g]以下の範囲内であればより好ましく、吸油量が160[mL/100g]以上170[mL/100g]以下の範囲内であればさらに好ましい。これは、シリカは、吸油量が大きい(具体的には100[mL/100g]以上200[mL/100g]以下の範囲内)と耐傷性に優れる傾向を示すが、バインダー樹脂成分とシリカ表面との親和性が高まることが影響していると考えられる。また、吸油量が大きいシリカは、艶を落とす機能も大きく、光沢調整剤の必要添加量を減ずる効果も大きい。そのため、光沢調整剤として、吸油量が100[mL/100g]以上200[mL/100g]以下の範囲内であるシリカ(シリカフィラー)を添加する場合、シリカの含有量は、表面保護層5全体の質量に対して、1質量[%]以上30質量[%]以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、2質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内である。また、シリカの含有量は、表面保護層5全体の質量に対して、10質量[%]以上15質量[%]以下の範囲内であればさらに好ましい。
【0072】
なお、第一実施形態では、下塗り層5aにのみフィラーを添加し、上塗り層5bにはフィラーを添加しない構成としてもよい。
また、表面保護層5には、各種の機能を付与するため、例えば、熱安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤、抗菌剤、防カビ剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0073】
また、必要に応じて、表面保護層5に、耐候剤として紫外線吸収剤や光安定剤を添加することも可能である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等を添加することが一般的である。また、光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系等、任意の組み合わせで添加することが一般的である。
つまり、表面保護層5は、耐候剤として、トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤と、NOR型骨格を有する光安定剤とを含んでいてもよい。表面保護層5におけるトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量は、表面保護層5全体の質量に対して、1質量[%]以上15質量[%]以下の範囲内が好ましく、3質量[%]以上6質量[%]以下の範囲内がより好ましい。また、表面保護層5におけるNOR型骨格を有する光安定剤の含有量は、表面保護層5全体の質量に対して、1質量[%]以上10質量[%]以下の範囲内が好ましく、3質量[%]以上6質量[%]以下の範囲内がより好ましい。トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量及びNOR型骨格を有する光安定剤の含有量が、上述した数値の範囲内であれば、耐傷性や耐汚染性等の表面保護層5が有する基本的機能を維持しつつ、耐候性をより向上させることが可能である。
【0074】
また、表面保護層5において、トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量は、NOR型骨格を有する光安定剤の含有量よりも多いことが好ましく、1.5倍以上3倍以下の範囲内が好ましい。トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量が、上述した数値の範囲内であれば、耐傷性や耐汚染性等の表面保護層5が有する基本的機能を維持しつつ、耐候性をさらに向上させることが可能である。
なお、表面保護層5を構成する下塗り層5aと上塗り層5bは、それぞれ、紫外線吸収剤と光安定剤とを含んでいてもよい。例えば、下塗り層5aと上塗り層5bは、互いに異なる種類の紫外線吸収剤及び光安定剤を含んでいてもよいし、同じ種類の紫外線吸収剤及び光安定剤を含んでいてもよい。
【0075】
また、紫外線吸収剤と光安定剤の各添加量は、下塗り層5aの方が上塗り層5bよりも多くてもよいし、少なくてもよい。下塗り層5aと上塗り層5bとで、紫外線吸収剤と光安定剤の各添加量に差を設ける場合には、一方の層の添加量を他方の層の添加量の1.1倍以上2.0倍以下の範囲内、より好ましくは1.5倍以上2.0倍以下の範囲内にすれば、使用上問題のない程度の耐候性が得られるため、好ましい。
また、必要に応じて表面保護層5に、滑剤(ワックス)として、粒子状のポリエチレン系ワックスを添加することも可能である。ここで「ポリエチレン系ワックス」とは、分子量が数万以下の低分子量ポリエチレンを意味する。また、「ワックス」とは、「常温で固体または半固体のもので、融点が40℃以上あり、加熱すると分解することなく溶けて、粘度の低いもの」を意味する。
【0076】
ポリエチレン系ワックスとしては、例えば、三洋化成社製『サンワックス』シリーズや、三井化学社製『ハイワックス』シリーズを用いることが可能である。表面保護層5におけるポリエチレン系ワックスの含有量は、例えば、表面保護層5全体の質量に対して、1質量[%]以上10質量[%]以下の範囲内が好ましく、3質量[%]以上6質量[%]以下の範囲内がより好ましい。ポリエチレン系ワックスの含有量が、上述した数値の範囲内であれば、耐傷性等の表面保護層5が有する基本的機能を維持しつつ、耐汚染性をより向上させることが可能である。
なお、表面保護層5に添加可能な滑剤は、上述した粒子状のポリエチレン系ワックスに限定されず、例えば、粒子状のポリエステル系ワックスであってもよい。
【0077】
なお、上述したワックスは、化粧シート1の表面に機能を付与するため、下塗り層5aには未添加で、上塗り層5bのみに添加する構成としてもよい。
ワックスを上塗り層5bにのみに添加する場合には、ワックスの含有量は、上塗り層5b全体の質量に対して、10質量[%]以上30質量[%]以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、15質量[%]以上25質量[%]以下の範囲内である。
また、必要に応じて、表面保護層5に、銀担持リン酸塩を含有する抗菌剤を添加することも可能である。リン酸塩は、公知であれば特に限定されるものではないが、銀、チタン、セリウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、カリウム、アルミニウム及びガリウムを含む群から選択される金属を一種類以上含むものが好ましい。これらの金属は、同位体の使用が可能である。抗菌能力から、特に銀が好ましい。また、リン酸塩を製造する方法としては、公知の方法が用いられる。
【0078】
銀担持リン酸塩は、表面保護層5中、1×10-4質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内で用いられるのが好ましく、1質量[%]以上15質量[%]以下の範囲内で用いられるのがより好ましく、3質量[%]以上10質量[%]以下の範囲内で用いられるのがさらに好ましく、5質量[%]以上8質量[%]以下の範囲内で用いられるのが最も好ましい。これは、銀担持リン酸塩の含有量が上述した数値の範囲内であれば、抗菌能力が確実に発揮されるためである。
ここで、抗菌性能を得るためには、抗菌剤の添加量が比較的多い方が好ましく、逆に、表面強度は、抗菌剤の添加量が比較的小さい方が好ましく、添加量が多い場合には、十分な表面強度を得ることが困難である。具体的には、例えば、表面保護層5の厚さDが3[μm]以上20[μm]以下の範囲内であるときには、抗菌剤の添加量は、上述したように、表面保護層5全体の質量に対して1×10-4質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内であることが好ましい。これは、抗菌剤の添加量が1×10-4質量[%]未満であると、抗菌性能を発揮することができず、20質量[%]より大きいと、表面強度を確保することが困難であるためである。
【0079】
銀担持リン酸塩の粒子径(平均粒子径D50)は、1[μm]以上であることが好ましい。粒子径が1[μm]未満であると分散性が低下し、抗菌剤としての機能が発揮されない可能性がある。
なお、銀担持リン酸塩の粒子径の上限値は、特に制限されないが、例えば10[μm]以下が好ましい。表面保護層5に添加する銀担持リン酸塩の粒子径が10[μm]を超えると、擦傷性評価において抗菌剤の欠落が発生し易くなるため好ましくない。
抗菌剤の粒子径は、1[μm]以上であって、表面保護層5の厚さDの0.1倍以上1.0倍以下の範囲内であることが好ましく、0.3倍以上0.4倍以下の範囲内であることがより好ましい。これは、抗菌剤の平均粒子径が表面保護層5の厚さDの0.1倍未満であると、抗菌剤の分散性が低下し、十分な抗菌効果を得ることが困難である場合があり、1.0倍を超えると、表面硬度が低下する場合があることに起因する。
【0080】
また、上述した、抗菌剤の粒子径が1[μm]以上であって、表面保護層5の厚さDの0.1倍以上1.0倍以下の範囲内である抗菌剤を「第1の抗菌剤」とし、抗菌剤の粒子径が1[μm]以上であって、表面保護層5の厚さDの1.4倍以上1.6倍以下の範囲内である抗菌剤を「第2の抗菌剤」とした場合、表面保護層5は、第1の抗菌剤と、第2の抗菌剤とを含んでいてもよい。つまり、表面保護層5は、平均粒子径の異なる2種類以上の抗菌剤を含んでいてもよい。第2の抗菌剤を含むことで、表面保護層5の表面から第2の抗菌剤が突起し、第2の抗菌剤が抗菌効果を発揮する。
【0081】
また、第1の抗菌剤の添加量と、第2の抗菌剤の添加量との比(第1の抗菌剤の添加量/第2の抗菌剤の添加量)は、1.5以上10以下の範囲内であればよく、2以上8以下の範囲内であればより好ましく、3以上5以下の範囲内であればさらに好ましい。第1の抗菌剤の添加量/第2の抗菌剤の添加量が、上述した数値の範囲内であれば、高い抗菌効果を得ることが可能となる。
また、第1の抗菌剤と第2の抗菌剤とは、同じ種類の抗菌剤(例えば、同じ種類の銀系抗菌剤)であってもよいし、異なる種類の抗菌剤であってもよい。
なお、表面保護層5に添加可能な抗菌剤としては、上述した銀担持リン酸塩以外に、例えば、無機化合物のゼオライト、アパタイト、ジルコニア等の物質に銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンのいずれかの金属イオンを取り込んで形成した抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア等の無機系抗菌剤が使用可能である。また、抗菌剤として、例えば、ジンクピリジオン、2-(4-チアゾリル)-ベンゾイミダゾール、10、10-オキシビスフェノキサノジン、有機チツソイオウハロゲン系、ピリジン-2-チオール-オキシド等の有機系抗菌剤が使用可能であるが、抗菌効果の点で銀系抗菌剤(銀系材料を含んだ抗菌剤)が優れている。
【0082】
また、抗菌剤は銀系材料が無機材料に担持されている構成であってもよい。「無機材料」としては、例えば「ガラス」を使用することが可能である。
銀成分(銀系材料)を無機物に担持させることで、経時での銀成分の脱落や、隣接する層への転移を防ぐことが可能である。また、抗菌剤は、微粉砕された銀を含んだものであってもよい。
第一実施形態で使用可能な抗菌剤としては、具体的に、ジヨードメチル複合体(商品名:PBM-H7、MIC社製)や、水酸化カルシウム焼成物(商品名:スカロー、細菌研究所社製)、又は、「ビオサイドTB-B100(商品名)」(株式会社タイショーテクノス製)が挙げられる。
【0083】
また、上述した実施形態では、表面保護層5に抗菌剤を添加した場合について説明したが、添加する抗菌剤は、抗ウイルス性能を有する抗ウイルス剤であってもよい。つまり、抗菌剤に代えて、抗ウイルス剤を表面保護層5に添加してもよいし、抗菌剤と抗ウイルス剤の両方を表面保護層5に添加してもよい。
なお、抗ウイルス剤を表面保護層5に添加する場合の添加量や平均粒子径等は、上述した抗菌剤の場合と同じであってもよい。また、抗菌剤の場合と同様に、平均粒子径の異なる2種類以上の抗ウイルス剤を表面保護層5に添加してもよい。
【0084】
また、表面保護層5を構成する樹脂は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂とカルボジイミド硬化剤とを少なくとも含んでいるため、架橋構造を有している。
表面保護層5を架橋構造とすることで、銀成分を含む抗菌剤の転移をブロックすることが可能となる。架橋構造は、紫外線や、電子線等の高エネルギー、又は、熱で架橋させることで、架橋度を上げ、銀成分を含む抗菌剤の転移をさらに抑制することが可能である。
【0085】
また、上述したワックスと同様に、上述した抗菌剤も、化粧シート1の表面に機能を付与するために、下塗り層5aには未添加で、上塗り層5bのみに添加する構成としてもよい。
抗菌剤を上塗り層5bにのみに添加する場合、抗菌剤の含有量は、上塗り層5b全体の質量に対して、1×10-4質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、1質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内であり、さらに好ましくは、10質量[%]以上20質量[%]以下の範囲内である。
表面保護層5を形成する方法は、特に限定されるものではない。表面保護層5は、上述した材料を塗液化したものを、例えば、グラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート等通常の方法で塗布した後、熱硬化、紫外線硬化等材料に適合した方法で硬化させることで形成してもよい。
【0086】
なお、表面保護層5を構成する下塗り層5aと上塗り層5bとの各厚さは、同じであってもよい。また、下塗り層5aの厚さは、上塗り層5bの厚さより厚くてもよいし、薄くてもよい。下塗り層5aの厚さが上塗り層5bの厚さより厚ければ、より好ましい。
下塗り層5aと上塗り層5bとで、厚さに差を設ける場合には、一方の厚さを他方の厚さの1.1倍以上2.0倍以下の範囲内、より好ましくは1.5倍以上2.0倍以下の範囲内にすれば、使用上問題のない程度の耐傷性が得られるため、好ましい。
【0087】
<防湿層>
防湿層6は、基材層2の他方の面に形成されており、例えば、図示を省略するが、アンカーコート層と、蒸着層と、オーバーコート層を積層して形成されている。なお、
図1では、防湿層6を、単層で図示する。
アンカーコート層は、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステルの中から選択した少なくとも一つの材料を有する第一ポリオレフィンを含む層である。
【0088】
蒸着層は、アンカーコート層とオーバーコート層との間に配置されており、金属又は無機化合物を蒸着した層である。
オーバーコート層は、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステルの中から選択した少なくとも一つの材料を有する第二ポリオレフィンを含む層である。
【0089】
<プライマー層>
プライマー層7は、着色層3と、絵柄模様層4と、防湿層6とを間に挟んで、基材層2の他方の面に積層させて形成されており、プライマー(下塗り剤)を防湿層6の他方の面(
図1では、下側の面)に塗布することで形成されている。
プライマー層7の機能には、主として接着性改善があり、さらに、表面処理後の表面安定化、金属表面の防食、粘着性の付与、接着剤の劣化防止等も含まれる。
【0090】
プライマー層7は、例えば、グラビア印刷法により固形分量が1[g/m2]となるようにウレタン系樹脂を塗工して形成している。
プライマー層7には、例えば、ウレタン系、アクリル系、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系、ポリエステル系等を採用することが可能である。特に、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの配合による二液硬化型ウレタン系のプライマー剤等が好ましい。また、プライマー層7の材料に、シリカや硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機質粉末を添加してプライマー層7を形成すると、投錨効果による接着力の向上に有効である。
【0091】
(化粧シートの製造方法)
化粧シート1を製造する製造方法は、インラインで化粧シート1を製造する方法であり、第一工程と、第二工程と、第三工程を有する。
ここで、「インライン」は、フィルム同士をラミネートするラミネート工程が無く、通常では複数の工程となる印刷を、一つのラインで加工することが可能であることを意味する。すなわち、化粧シート1の製造方法では、印刷から表面保護層5を付与するまでの製造工程を、一工程のインラインで行うことが可能である。
【0092】
(1)第一工程
第一工程は、透明なポリプロピレン系の熱可塑性樹脂を用いて形成するコア層2bと、熱可塑性樹脂にナノサイズの添加剤としての分散剤を添加した第一透明層2a及び第二透明層2cとを、押出し成形により形成した基材層2を製造する工程である。
【0093】
(2)第二工程
第二工程は、第一工程で製造した基材層2の一方の面に、表面保護層5を形成する工程である。
また、第二工程、すなわち、表面保護層5を形成する工程では、基材層2の一方の面に、水性塗工液であるトップコート層用コーティング材を塗工して、表面保護層5を形成する。
さらに、表面保護層5は、まず、ポリカーボネート系ウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤と、無機フィラーと、紫外線吸収剤と、光安定剤とを含んだトップコート下塗り層用コーティング材を基材層2の一方の面に塗工して、下塗り層5aを形成する。その後、ポリカーボネート系ウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤と、ワックスと、紫外線吸収剤と、光安定剤と、抗菌剤とを含んだトップコート上塗り層用コーティング材を、下塗り層5aに塗工して、上塗り層5bを形成する。これにより、表面保護層5を形成する。
ここで、トップコート層用コーティング材(トップコート下塗り層用コーティング材、トップコート上塗り層用コーティング材)は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂とカルボジイミド硬化剤とを少なくとも含んでいればよい。また、ポリカーボネート系ウレタン樹脂は、酸価が10[mgKOH/g]以上であり、且つ水性エマルションの状態でトップコート層用コーティング材(トップコート下塗り層用コーティング材、トップコート上塗り層用コーティング材)に含まれていることが好ましい。
【0094】
(3)第三工程
第三工程は、第二工程の後、又は、第二工程に先立ち、第一工程で製造した基材層2の他方の面(
図1では、下側の面)に、着色層3と、絵柄模様層4と、プライマー層7を形成する工程である。
なお、第三工程で形成する層は、着色層3と、絵柄模様層4と、表面保護層5の三層に限定するものではなく、例えば、一層のみ、二層、四層以上としてもよい。
したがって、化粧シート1の製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程の順番と、第一工程、第三工程、第二工程の順番との二通りの順番のうち、一方の順番で行う。
【0095】
<化粧板>
図1を参照して、化粧板10の構成を説明する。
図1に示すように、化粧板10は、例えば、板状に形成されており、化粧シート1と、基板8と、防湿フィルム9を備える。
【0096】
<基板>
基板8は、化粧シート1のうち、プライマー層7の他方の面(
図1では、下側の面)の側に配置されている。
なお、基板8の材料は、木材、鋼材、樹脂材等、種類を問わないが、例えば、不燃仕様の鋼板や、建設省告示1400号で定められた不燃材料を用いてもよい。
【0097】
また、基板8は、折り曲げ加工が施されている構造、又は、三次元の構造を有している。
基板8に化粧シート1を積層する際には、必要に応じて適宜選択した接着剤を介して積層してもよく、また、接着剤等を介さずに積層してもよい。
【0098】
化粧シート1を基板8に積層して接着する方法としては、金属板を接触させて平圧プレスする方法や、円圧式の連続ラミネート方式を用いることが可能である。特に、金属製の無端ベルトを使用した連続ラミネート方式を用いると、表面の反りや波打ち等が無く、さらに、層間の密着性が良く、稠密に硬化一体化された高品質の化粧板10を、高速で連続的に製造することが可能となる。
【0099】
<防湿フィルム>
防湿フィルム9は、例えば、接着剤等を介して、基板8の化粧シート1と対向する面と反対の面(
図1では、下側の面)に積層されている。
また、防湿フィルム9は、例えば、(メタ)アクリル酸系重合体とエチレン・ビニルアルコール共重合体との組成物により形成されたガスバリア層を積層した、ポリプロピレン系防湿フィルムを用いて形成されている。また、例えば、防湿フィルム9は、ポリプロピレンと変性ポリプロピレン重合体を共押し出しした積層シートに、(メタ)アクリル酸系重合体とエチレン・ビニルアルコール共重合体とにより形成されたガスバリア層をコーティングして、横方向へ延伸した透明ポリプロピレンフィルムを用いて形成されている。
【0100】
なお、上述した第一実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した第一実施形態に限定されることはなく、この第一実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0101】
(第一実施形態の効果)
第一実施形態の化粧シート1であれば、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(1)ポリプロピレン系の樹脂を用いて形成された基材層2と、基材層2の一方の面に積層され、且つ水性塗工液を用いて形成された表面保護層5と、基材層2の他方の面に積層され、且つ絵柄が形成された絵柄模様層4とを備える。そして、水性塗工液は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤とを含む。また、表面保護層5は、水性塗工液が硬化した硬化塗膜により形成されている。
その結果、耐候性、耐傷性、耐汚染性の低下を抑制することが可能な、化粧シート1を提供することが可能となる。
【0102】
また、製造時において、他のシートとのラミネート工程を必要としないため、製造工程数を削減することが可能となり、さらに、製造工程を一工程のインラインで行うことが可能となる。
また、化粧シート1が単層であるため、複層の化粧シートと異なり、薄膜化が容易である。さらに、化粧シート1が単層であるため、複数の化粧シートを作製して貼り合わせる構成と比較して、化粧シート1が完成するまでのCO2排出量を削減させることが可能となる。
【0103】
さらに、表面保護層5は、基材層2に水性塗工液を塗工して形成されているため、水を溶媒として表面保護層5を形成することが可能となる。したがって、排出ガスによって人体に対する影響や排出ガス等、健康面や環境面への問題がある溶剤を用いて表面保護層5を形成した構成と比較して、健康面や環境面で優位であり、また、脱墨が容易であるため、化粧シート1をリユースする際に汚れが少ない状態を確保することが可能となり、CO2排出量を削減させることが可能となる。
なお、「脱墨」とは、印刷した古紙等からインキを取り除き、DIP(Deinked Pulp、脱墨パルプ)を製造することであり、古紙等からインキを除去してDIPを製造する際に、薬品として脱墨剤を用いる。
【0104】
脱墨剤としては、脂肪酸(石鹸)、脂肪酸誘導体、油脂誘導体、高級アルコール誘導体、高分子系アルコール等が使用されており、表面保護層5の除去には、主に、高分子系アルコールを用いる。溶剤系の硬化型樹脂を用いて表面保護層5を形成した場合、高分子系アルコールでは表面保護層5等の除去が困難であるが、水性塗工液、すなわち、水性エマルジョン系の材料は、脱墨剤が浸透しやすいため、表面保護層5の除去が容易である。
すなわち、表面保護層5は、基材層2に水性塗工液を塗工して形成されているため、高分子系アルコールの除去剤を用いて、比較的容易に表面保護層5を剥離させることが可能となる。
【0105】
(2)表面保護層5が、基材層2の一方の面に積層して形成された下塗り層5aと、下塗り層5aの基材層2と対向する面と反対の面に積層して形成された上塗り層5bとを備える。
その結果、例えば、下塗り層5aの艶と上塗り層5bの艶とを異ならせることで、化粧シート1の意匠性を向上させることが可能となる。
【0106】
(3)基材層2と絵柄模様層4との間に配置された着色層3をさらに備える。
その結果、化粧シート1に隠蔽性を付与することが可能となる。
【0107】
(4)基材層2の他方の面に積層されたプライマー層7をさらに備える。
その結果、例えば、化粧シート1と基板8との層間密着力を向上させることが可能となる。
【0108】
(5)基材層2は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルをポリプロピレン系の樹脂へ添加して形成される。
その結果、化粧シート1に対し、厚さを低下させた構成であっても、硬度を向上させることが可能となり、耐傷性及び耐摩耗性を向上させることが可能となる。
これに加え、基材層2を構成する樹脂材料の結晶化度が十分に向上するため、耐傷性及び耐摩耗性を十分に有する化粧シート1を提供することが可能となる。
【0109】
(6)造核剤ベシクルの添加量は、ポリプロピレン系の樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である。
その結果、造核剤ベシクルの添加量が、ポリプロピレン系の樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲外である構成と比較して、基材層2を構成する樹脂材料の結晶化度を向上させることが可能となる。
【0110】
(7)造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである。
その結果、基材層2の主な成分であるポリプロピレン系の樹脂とベシクルとの相溶性を、良好なものとすることが可能となる。
【0111】
(8)造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている。
その結果、単層膜の、造核剤を内包したベシクルを容易に生成することが可能となり、より小径な、造核剤を内包したベシクル(カプセル)を調製することが可能となる。
【0112】
(9)基材層2とプライマー層7との間に配置された防湿層6をさらに備える。
その結果、化粧シート1の防湿性を向上させることが可能となる。
【0113】
(10)表面保護層5には、グロスコート及びマットコートのうち少なくとも一方が施されている。
その結果、化粧シート1の意匠性を向上させることが可能となる。
【0114】
(11)グロスコートが施されている部分により形成された線及びマットコートが施されている部分により形成された線のうち少なくとも一方と、絵柄模様層4に形成されている絵柄を形成する線KLとは、基材層2、絵柄模様層4、表面保護層5とを積層した方向から見て少なくとも一部が互いに重なっている。
その結果、表面保護層5に形成された絵柄と、絵柄模様層4に形成された絵柄とを同調させることが可能となり、化粧シート1の意匠性を向上させることが可能となる。
【0115】
また、第一実施形態における化粧板10であれば、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(12)基板8と、基板8の少なくとも一方の面に積層された化粧シート1とを備える。
その結果、耐候性、耐傷性、耐汚染性の低下を抑制することが可能な、化粧板10を提供することが可能となる。
【0116】
(13)基板8の化粧シート1と対向する面と反対の面に積層された防湿フィルム9をさらに備える。
その結果、化粧板10の防湿性を向上させることが可能となる。
【0117】
<第一実施形態の変形例>
(1)第一実施形態では、基材層2の構成を、第一透明層2aと、コア層2bと、第二透明層2cを備える、二種類且つ三層で形成された構成としたが、これに限定するものではなく、例えば、
図3に示すように、基材層2の構成を、一層のみの構成としてもよい。
【0118】
(2)第一実施形態では、防湿層6の構成を、基材層2とプライマー層7との間に配置された構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、化粧シート1の構成を、プライマー層7を備えていない構成とし、防湿層6の構成を、基材層2の他方の面に積層された構成としてもよい。この場合であっても、化粧シート1の防湿性を向上させることが可能となる。
【実施例0119】
第一実施形態を参照しつつ、以下、実施例1から6の化粧シートと、比較例1から3の化粧シートについて説明する。
【0120】
(実施例1)
基材層は、透明なポリプロピレン系の熱可塑性樹脂に、耐候剤を添加して、押出し成形により形成した。
【0121】
着色層は、二液ウレタン系樹脂で形成した。
絵柄層は、グラビア印刷法によりウレタン系樹脂で絵柄を印刷して形成した。
【0122】
表面保護層は、以下に記載する材料を用いて形成した。
樹脂:ポリカーボネート系ウレタンポリマーW-6010(三井化学社製)
硬化剤:カルボジイミド系硬化剤SV-02(日清紡ケミカル製)、添加量1.2
なお、硬化剤の添加量は、カルボジイミドのモル当量/樹脂中のカルボキシ基のモル当量である。
フィラー(シリカ):ミズカシルP803(水澤化学製)、粒子径5[μm]
ワックス(ポリエチレン系):AQUAMAT263(ビックケミー製)
紫外線吸収剤(トリアジン系):Tinuvin400DW(BASF製)
光安定剤(NOR型):Tinuvin123DW(BASF製)
プライマー層は、グラビア印刷法により、固形分量が1[g/m2]となるようにウレタン系樹脂を塗工して形成した。
以上により、実施例1の化粧シートを形成した。
【0123】
(実施例2)
表面保護層の材料である樹脂として、ポリカーボネート系ウレタンポリマーWS―5100(三井化学社製)を用いた点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例2の化粧シートを形成した。
【0124】
(実施例3)
表面保護層の材料である樹脂として、ポリカーボネート系ウレタンポリマーD-6300(大日精化製)を用いた点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例3の化粧シートを形成した。
【0125】
(実施例4)
表面保護層の材料である硬化剤として、ルボジイミド系硬化剤V-02(日清紡ケミカル製)を用いた点と、硬化剤の添加量を1.0とした点を除き、実施例3と同様に形成して、実施例4の化粧シートを形成した。
【0126】
(実施例5)
表面保護層の材料であるフィラーの粒子径を10[μm]とした点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例5の化粧シートを形成した。
【0127】
(実施例6)
抗菌剤として、粒子径が0.2[μm]であるアパタイザーAW(ザンギ製)を添加した点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例6の化粧シートを形成した。
【0128】
(比較例1)
表面保護層の材料である樹脂として、ポリエーテル系ウレタンポリマーW-6061(三井化学製)を用いた点を除き、実施例1と同様に形成して、比較例1の化粧シートを形成した。
【0129】
(比較例2)
表面保護層の材料である硬化剤として、エポキシ系硬化剤EX-810(ナガセケムテック製)を用いた点を除き、実施例1と同様に形成して、比較例2の化粧シートを形成した。
【0130】
(比較例3)
表面保護層の材料である樹脂として、アクリルポリオール6KW―700(大成ファインケミカル製)を用いた点と、表面保護層の材料である硬化剤として、イソシアネートコスモネートPH(三井化学ファイン製)を用いた点を除き、実施例1と同様に形成して、比較例3の化粧シートを形成した。
【0131】
(性能評価)
実施例1から6の化粧シートと、比較例1から3の化粧シートに対し、それぞれ、密着性、耐傷性、耐汚染性、耐候性、脱墨性に対する性能評価を行った。
【0132】
(密着性)
密着性は、表面をカッターでクロスカット加工した表面保護層に対し、セロテープ(登録商標)を剥離させる試験を実施した後、試験後のサンプルを目視で評価した。そして、剥離が無い場合を「○」と評価し、容易に剥離する場合を「×」と評価した。
【0133】
(耐傷性)
耐傷性は、BYK製のホフマンスクラッチハードネステスターを用いて、ホフマンスクラッチ試験を実施した後、試験後のサンプルを目視で評価した。なお、試験条件は、100[g]以上1000[g]以下の範囲内で、荷重を100[g]間隔で変化させる条件とした。そして、500[g]荷重以上のスクラッチで傷が無い場合を「○」と評価し、100[g]荷重未満のスクラッチで傷が発生した場合を「×」と評価した。
【0134】
(耐汚染性)
耐汚染性は、1%水酸化ナトリウム水溶液を表面に滴下し、24時間放置した後の表面状態を目視で評価した。そして、痕跡が無い場合を「○」と評価し、溶解に伴う明確な痕跡が存在した場合を「×」と評価した。
【0135】
(耐候性)
耐候性は、東洋精機製のスーパーキセノン試験機(アトラス・ウエザオメータCi4000)を用いた試験を実施した後、試験後のサンプルを目視で評価した。なお、試験条件は、180Wの光照射、12min降雨/120minサイクル、500hrとした。そして、試験前後で変化が無い場合を「○」と評価し、試験後のサンプルに一部白化している箇所を確認したが、使用上問題のないレベルであった場合を「△」と評価した。
【0136】
(脱墨性)
脱墨性は、10cm角に切除した化粧シートを、高分子系アルコールで浸したベンコットンで10回拭いた後の、表面保護層の除去率で評価した。そして、除去率が80%以上である場合を「○」と評価し、除去率が80%未満である場合を「×」と評価した。
【0137】
【0138】
(評価結果)
表1に示すように、実施例1から6の化粧シートは、密着性、耐傷性、耐汚染性、耐候性、脱墨性の全てに対して、優れた性能を示すことが可能であった。一方、比較例1から3の化粧シートは、密着性、耐傷性、耐汚染性、耐候性、脱墨性の全てに対しては、優れた性能を示すことが不可能であった。
【0139】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることが可能である。
(1)
ポリプロピレン系の樹脂を用いて形成された基材層と、
前記基材層の一方の面に積層され、且つ水性塗工液を用いて形成された表面保護層と、
前記基材層の他方の面に積層され、且つ絵柄が形成された絵柄模様層と、を備え、
前記水性塗工液は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂と、カルボジイミド硬化剤と、を含み、
前記表面保護層は、前記水性塗工液が硬化した硬化塗膜により形成されている化粧シート。
(2)
前記表面保護層は、前記基材層の一方の面に積層して形成された下塗り層と、前記下塗り層の前記基材層と対向する面と反対の面に積層して形成された上塗り層と、を備える前記(1)に記載した化粧シート。
(3)
前記絵柄模様層の前記基材層と対向する面と反対の面に積層された着色層をさらに備える前記(1)又は(2)に記載した化粧シート。
(4)
前記基材層の他方の面に積層されたプライマー層をさらに備える前記(1)~(3)のいずれかに記載した化粧シート。
(5)
前記基材層は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを前記ポリプロピレン系の樹脂へ添加して形成される前記(1)~(4)のいずれかに記載した化粧シート。
(6)
前記造核剤ベシクルの添加量は、前記ポリプロピレン系の樹脂100質量部に対し、前記造核剤ベシクルが内包する前記造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である前記(5)に記載した化粧シート。
(7)
前記造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである前記(5)又は(6)に記載した化粧シート。
(8)
前記造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに前記造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている前記(5)~(7)のいずれかに記載した化粧シート。
(9)
基板と、
前記基板の少なくとも一方の面に積層された前記(1)~(8)のいずれかに記載した化粧シートと、を備える化粧板。
1…化粧シート、2…基材層、2a…第一透明層、2b…コア層、2c…第二透明層、3…着色層、4…絵柄模様層、5…表面保護層、5a…下塗り層、5b…上塗り層、6…防湿層、7…プライマー層、8…基板、9…防湿フィルム、10…化粧板、GL…グロスコートが施されている部分により形成された線、KL…絵柄模様層に形成されている絵柄を形成する線