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特開2024-167665導電性高分子分散液の製造方法、及び固体電解コンデンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167665
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液の製造方法、及び固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20241127BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/028 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083892
(22)【出願日】2023-05-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「次世代高電力密度パワエレ機器に向けた高性能コンデンサの研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】奥崎 秀典
(72)【発明者】
【氏名】河合 祥紀
(72)【発明者】
【氏名】浜田 圭
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
(57)【要約】
【課題】高耐電圧の固体電解コンデンサを製造するための導電性高分子分散液の製造方法、高耐電圧の固体電解コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性高分子分散液の製造方法は、ポリスチレンスルホン酸が存在する液中で、2-エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させる重合工程を含む。この重合工程では、重合中の液温を30℃以上にする。固体電解コンデンサは、この製造方法により得られた導電性高分子分散液を用いて、陽極体と陰極体との間に固体電解質層を形成することで製造される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレンスルホン酸が存在する液中で、2-エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させる重合工程を含み、
前記重合工程では、重合中の液温が30℃以上であること、
を特徴とする導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記重合工程では、重合中の液温が30℃以上50℃以下であること、
を特徴とする請求項1記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記重合工程を経て得られ、導電性高分子が分散した分散液を、pHが3以上6以下に調整する調整工程を更に含むこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の製造方法により得られた前記導電性高分子分散液を用いて、陽極体と陰極体との間に固体電解質層を形成すること、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの固体電解質を形成するための導電性高分子分散液の製造方法、及び固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に陽極酸化等の処理によって誘電体皮膜を有する。陽極箔と陰極箔との間には電解質が介在する。
【0003】
電解コンデンサは、陽極箔の拡面化により比表面積を大きくすることができ、他種のコンデンサと比べて大きな静電容量を得やすいメリットがある。電解コンデンサは、電解液の形態で電解質を備えている。電解液は、陽極箔の誘電体皮膜との接触面積が増える。そのため、電解コンデンサの静電容量は更に大きくし易い。
【0004】
近年では、導電性が電解液より高い固体電解質を電解質に用いた固体電解コンデンサも注目されている。固体電解コンデンサは、導電性が電解液より高い固体電解質を用いており、低等価直列抵抗(ESR)を実現できる。固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。
【0005】
また誘電体皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子が固体電解質として急速に普及している。導電性高分子は、ポリアニオン等の酸化合物がドーパントとして用いられ、高い導電性が発現する。そのため、固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が低くなる利点を有する。
【0006】
導電性高分子を含む固体電解質は、導電性高分子分散液を陽極体と陰極体との間に塗布又は含浸し、分散媒を乾燥させることで形成される。導電性高分子分散液は、導電性高分子の分散液であり、例えば水を分散媒として用い、導電性高分子を水中に分散させる。導電性高分子は、導電性高分子の単量体ユニットになるモノマー、ドーパント及び酸化剤を混合し、化学酸化重合により生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-60980号公報
【特許文献2】特開2014-152320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コンデンサは各種用途で用いられる。例えばパワーエレクトロニクスの分野において、交流電源の電力をコンバータ回路で直流電力に変換し、この直流電力をインバータ回路にて所望の交流電力に変換する電源回路には、コンバータ回路から出力される直流の脈動を抑制して平滑化してからインバータ回路に入力するために、平滑コンデンサが設けられている。また、窒化ガリウム等の半導体スイッチング素子の安定動作やノイズ除去のために、デカップリングコンデンサが当該半導体スイッチング素子の近傍に設けられる。
【0009】
パワーエレクトロニクスの分野の大電力化に伴い、この固体電解コンデンサにおいても、より高い耐電圧が要望されている。本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、固体電解コンデンサの耐電圧を高める導電性高分子分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本実施形態の導電性高分子分散液の製造方法は、ポリスチレンスルホン酸が存在する液中で、2-エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させる重合工程を含み、前記重合工程では、重合中の液温が30℃以上である。
【0011】
前記重合工程では、重合中の液温が30℃以上50℃以下であるようにしてもよい。
【0012】
前記重合工程を経て得られ、導電性高分子が分散した分散液を、pHが3以上6以下に調整する調整工程を更に含むようにしてもよい。
【0013】
また、この製造方法により得られた前記導電性高分子分散液を用いて、陽極体と陰極体との間に固体電解質層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高耐電圧の固体電解コンデンサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】横軸を重合温度とし、縦軸を固体電解質層の導電率としたグラフである。
図2】横軸を重合温度とし、縦軸を固体電解コンデンサの耐電圧としたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施する形態について説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(導電性高分子分散液)
導電性高分子分散液は、導電性高分子を分散媒中に分散させた分散液である。導電性高分子分散液は、固体電解コンデンサ内の固体電解質層を形成するために用いられる。導電性高分子液の分散媒を乾燥により揮発させることで、導電性高分子を含む固体電解質層が形成される。
【0018】
導電性高分子は、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと称する)がドープされたポリエチル化エチレンジオキシチオフェン(以下、Et-PEDOTと称する)である。Et-PEDOTは、エチル化エチレンジオキシチオフェン(以下、Et-EDOTと称する)を単量体ユニットとする重合体である。エチル化エチレンジオキシチオフェンは、3,4-エチレンジオキシチオフェンにエチル基が付加された2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシンである。
【0019】
導電性高分子分散液の分散媒は、PSSがドープされたEt-PEDOTの粒子または粉末が分散するものであればよい。分散媒は、典型的には水であり、また有機溶媒、若しくは有機溶媒と水の混合液であってもよい。有機溶媒としては、極性溶媒、アルコール類、エステル類、炭化水素類、カーボネート化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
【0020】
極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。エーテル化合物としては、ジオキサン、ジエチルエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。複素環化合物としては、3-メチル-2-オキサゾリジノン等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0021】
導電性高分子分散液には、多価アルコール等の添加剤を含有させてもよい。多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、1-ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。多価アルコールは、沸点が高いため、導電性高分子分散液を乾燥させた後でも固体電解質層に残留する。更に、導電性高分子分散液には他の化合物を含んでもよい。他の化合物は、例えば、有機バインダー、界面活性剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の慣用の添加物である。
【0022】
この導電性高分子分散液において、導電性高分子は重合工程により製造される。重合工程では、モノマーであるEt-EDOT、ドーパントであるPSS、及び酸化剤を混合し、化学酸化重合が完了するまで攪拌する。重合工程後は、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により残留モノマーや不純物を除去する。これにより、導電性高分子分散液が得られる。導電性高分子は、例えば超音波を用いて分散処理する。重合工程では、PSSに代えて、PSSを放出する酸又はそのアルカリ金属塩を混合してもよい。
【0023】
Et-EDOTは、導電性高分子分散液中に1mM以上6.25mM以下の濃度で添加されることが好ましい。この範囲であると、導電性高分子が凝集し難い。また、また、この範囲であると、耐熱性が向上し、固体電解質層が高温環境下に晒されたとしても、固体電解コンデンサの諸特性の劣化が抑制される。
【0024】
PSSの数平均分子量は、1,000~2,000,000、好ましくは10,000~500,000である。数平均分子量が1,000未満では、得られる導電性高分子の導電性が不足するとともに、分散性が低下するため好ましくなく、数平均分子量が2,000,000を超えると、混合液の粘性が増加するため好ましくない。
【0025】
酸化剤としては、無機酸及び有機酸の鉄塩、過硫酸塩が好ましい。例えば、塩化第二鉄六水和物、無水塩化第二鉄、硝酸第二鉄九水和物、硝酸第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸第二鉄n水和物、硫酸第二鉄アンモニウム十二水和物、過塩素酸第二鉄n水和物、テトラフルオロホウ酸第二鉄、塩化第二銅、硫酸第二銅、テトラフルオロホウ酸第二銅、テトラフルオロほう酸ニトロソニウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過ヨウ酸カリウム、過酸化水素、オゾン、ヘキサシアノ第二鉄カリウム、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物、臭素、ヨウ素、ドデシルベンゼンスルホン酸鉄、パラトルエンスルホン酸第二鉄、ナフタレンスルホン酸第二鉄、アントラキノンスルホン酸第二鉄、過ヨウ素酸、ヨウ素酸等が挙げられる。酸化剤は、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。
【0026】
特に、酸化剤としては、硫酸第一鉄等の鉄塩とペルオキソ二硫酸塩を併用することが好ましい。鉄塩が酸化開始剤及び触媒となり、ペルオキソ二硫酸塩が酸化促進剤となる。即ち、酸化剤の二価の鉄イオンと過硫酸イオンとが反応してラジカル硫酸イオンとなり、モノマーの酸化反応がラジカル硫酸イオンによって促進されるためである。過硫酸イオンと反応した二価の鉄イオンは、三価の鉄イオンとなってモノマーを酸化させ、二価の鉄イオンに戻り、再び過硫酸イオンと反応するというサイクルが繰り返される。重合液のpHは、硫酸等を添加して酸性側に調整しておくことが好ましい。例えばpH=1.9等の酸性側に重合液を調整しておくとこで、重合反応が促進する。
【0027】
ここで、固体電解質層の基本特性である導電性を最良な範囲に設定する観点では、重合中の液温、即ち重合温度は20℃以下である。図1は、横軸を重合温度とし、縦軸を固体電解質層の導電率としたグラフである。図1に示すように、重合中の液温が20℃以下の範囲であると、固体電解質層の導電性は最良になる。一方で、重合中の液温が30℃以上であると、PSSがドープされたEt-PEDOTの結晶度が下がる。結晶度が低い、PSSがドープされたEt-PEDOTが固体電解質層に含まれると、固体電解コンデンサの耐電圧は向上する。そこで、パワーエレクトロニクス分野等の大電力化が進展する分野においては、重合中の液温を30℃以上に維持する。好ましくは、重合中の液温を30℃以上50℃以下の範囲に維持する。
【0028】
導電性高分子分散液を濃縮する場合、重合反応後の導電性高分子分散液のpHを3以上6以下に調整しておく。pHが3以上6以下であれば、PSSがドープされたEt-PEDOTの濃度を高めても、導電性高分子分散液に凝集し難い。このpH調整工程では、例えばアンモニア水溶液を導電性高分子分散液に滴下すればよい。尚、濃縮工程は、例えば限外濾過であり、圧力等によって導電性高分子分散液を半透膜に通す。
【0029】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この固体電解コンデンサでは、誘電体皮膜が形成された陽極体と陰極体とが対向し、陽極体と陰極体間に固体電解質層が介在する。固体電解コンデンサは、固体電解質層に加えて、電解液を備えてもよい。また、陽極体と陰極体との間には、陽極体と陰極体のショート阻止及び固体電解質層の保持のためのセパレータが挿入されていてもよい。
【0030】
固体電解質層は、導電性高分子分散液中の導電性高分子を含む。導電性高分子は、陽極体、陰極体及びセパレータの各々を導電性高分子分散液に浸漬及び乾燥させることで、陽極体と陰極体との間に付着する。また、陽極体と陰極体とをセパレータを介して巻回又は積層することでコンデンサ素子を作製してから、このコンデンサ素子を導電性高分子分散液に浸漬及び乾燥させることにより、導電性高分子を付着させてもよい。浸漬の他、導電性高分子分散液を滴下塗布又はスプレー塗布してもよい。乾燥工程は複数回繰り返してもよく、減圧環境下で乾燥してもよい。
【0031】
陽極体及び陰極体は、セパレータを挟んで交互に積層される積層型配置を採る。積層型では、外装を省略した平板型とするほか、例えば、コンデンサ素子をラミネートフィルムによって被覆し、又は耐熱性樹脂や絶縁樹脂などの樹脂をモールド、ディップコート若しくは印刷することで封止する。
【0032】
または、陽極体と陰極体は、セパレータを挟んで交互に積層されて巻回される巻回型配置を採る。巻回型では、例えば、コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、外装ケースの開口端部を加締め加工により封口体で封止する。封口体は、例えば、ゴムから構成され、又はゴムと硬質基板の積層体から構成される。ゴムとしてはエチレンプロピレンゴムやブチルゴム等が挙げられる。
【0033】
陽極体と陰極体は、弁作用金属を材料とする箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%以上が望ましく、陰極体に関して99%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。また、固体電解コンデンサを平板型とする場合、陽極体上に誘電体皮膜を覆うように固体電解質層を形成した後、銀ペースト等の金属ペーストを印刷して乾燥させてもよい。この銀層は、固体電解コンデンサの陰極に相当する。
【0034】
陽極体は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は延伸された箔にエッチング処理を施したエッチング箔として、表面に多孔質構造を有する。多孔質構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体間の空隙により成る。多孔質構造は、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより形成され、若しくは芯部に金属粒子等を蒸着又は焼結することにより形成される。陰極体も必要に応じて表面を多孔質構造にしてもよい。
【0035】
誘電体皮膜は、固体電解コンデンサの誘電体層であり、典型的には、陽極体の表層に形成される酸化皮膜である。陽極体がアルミニウム箔であれば、誘電体皮膜は、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体皮膜は、アジピン酸やホウ酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加して形成される。陰極体にも、必要に応じて誘電体皮膜を形成してもよく、さらに金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物からなる層を蒸着法により形成したもの、あるいは表面に炭素を含有したものを用いてもよい。
【0036】
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0037】
電解液の溶媒は、特に限定されるものではないが、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒を用いることができる。プロトン性の極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類などが代表として挙げられ、例えばエチレングリコール又はプロピレングリコールである。非プロトン性の極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられ、例えばスルホラン、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートである。
【0038】
電解液に含まれる溶質は、アニオン及びカチオンの成分が含まれ、典型的には、アジピン酸や安息香酸等の有機酸若しくはその塩、ホウ酸やリン酸等の無機酸若しくはその塩、又はボロジサリチル酸等の有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。これら有機酸の塩、無機酸の塩、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。
【実施例0039】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。尚、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1乃至3)
実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の製造方法により各導電性高分子分散液を作製した。実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の製造方法は、次の点で共通である。まず、879.619mLの純水に対して、ドーパントであるPSSを73.798g加えた。このPSS水溶液に対し、酸化剤であり、組成式がFeSOで表される硫酸第一鉄を18.775g加え、またpHを調整するため、化学式がHSOで表される硫酸を122.061gが加えた。
【0041】
混合液はスターラーで攪拌され、窒素バブリングにて溶存酸素を除去した。続いて、混合液を2時間かけてホモジナイザーによって攪拌した。この混合液に対して、モノマーであるEt-EDOTを5.747g加え、ホモジナイザー処理とスターラーによる攪拌を30分行った。このとき、モル比においてPSSがEt-EDOTの2倍量となるように、PSSとEt-EDOTの混合量は調整されている。
【0042】
次に、混合液に対して、酸化剤であり、分子式が(NH)Sで表されるペルオキソ二硫酸アンモニウムを84.592mLの純水に15.408g溶かした水溶液を更に混合し、重合を開始させた。
【0043】
重合中、混合液は、実施例1乃至3並びに比較例1乃至3に対応する各重合温度を維持された。比較例1の重合温度は0℃であり、比較例2の重合温度は10℃であり、比較例3の重合温度は20℃である。また、実施例1の重合温度は30℃であり、実施例2の重合温度は40℃であり、実施例3の重合温度は50℃である。重合時間は24時間とし、重合中、ホモジナイザー処理とスターラーによる攪拌を継続した。
【0044】
24時間後、混合液にイオン交換樹脂を投入し、更に24時間攪拌した。そして、イオン交換樹脂を混合液から取り出し、限外濾過を施すことで、残存しているモノマー、ドーパント及び酸化剤を除去した。イオン交換及び限外濾過の後、高圧式のホモジナイザーにより導電性高分子の粒径を微細化した。これにより、実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の導電性高分子分散液が作製された。
【0045】
(耐電圧試験)
実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の導電性高分子分散液を用いて固体電解コンデンサを作製した。実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の導電性高分子分散液は、アンモニアを加えてpHを4に調整されている。また、これら導電性高分子分散液には、導電性高分子分散液に対して10wt%の割合のエチレングリコールと、固形分量、即ち導電性高分子とソルビトールの合計重量に対して85wt%のソルビトールが添加された。
【0046】
陽極体は純度99.99%のアルミニウム箔である。このアルミニウム箔を直流エッチング処理により拡面化した。拡面化されたアルミニウム箔には、化成処理により酸化アルミニウムである誘電体皮膜を形成した。化成処理では、ホウ酸水溶液に浸漬して定電流を流しながら電圧を印加した。電圧は化成電圧が946Vに達するまで印加された。
【0047】
陽極となる領域を除いて絶縁レジスト層を印刷し、陽極体を乾燥させた。絶縁レジスト層の印刷後、陽極体を実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の導電性高分子分散液に浸漬し、誘電体皮膜に導電性高分子を付着させた。導電性高分子分散液から陽極体を引き上げた後、陽極体は60℃の温度環境下で10分静置され、更に110℃の温度環境下で30分静置された。これにより陽極体を乾燥させ、陽極体上に導電性高分子の固体電解質層を形成した。
【0048】
固体電解質層を形成した後、固体電解質層の上にカーボンペーストを塗工し、110℃の温度環境下に30分間放置することで硬化させた。更に、カーボン層の上から銀ペーストを塗工すると同時に、引出端子として銅箔を接着した。銀ペーストは、硬化前の銀ペースト部に銅箔を接着した状態で110℃の温度環境下に30分間放置すること硬化させた。以上のカーボン層、銀層及び銅箔層は、固体電解コンデンサの陰極体に相当する。
【0049】
これら固体電解コンデンサの耐電圧を測定した。耐電圧測定には、高電圧直流電源(高砂製作所製、HV1.5K-02XP)を用いた。測定は、室温下、0Vから印加電圧を1秒間に1V昇圧させて行った。そして、測定対象の固体電解コンデンサに20mAの電流が流れた際の電圧を当該固体電解コンデンサの耐電圧として定めた。
【0050】
下表1は、実施例1乃至3並びに比較例1乃至3の導電性高分子分散液を用いて作製した固体電解コンデンサの耐電圧(V)を、重合温度(℃)と共に示している。また、下表1に基づき、横軸を重合温度とし、縦軸を固体電解コンデンサの耐電圧とした図2のグラフを作製した。尚、固体電解コンデンサは6個ずつ作製され、下表1の耐電圧の値は6個の平均値である。
(表1)
【0051】
上表1及び図2に示すように、比較例1乃至3の導電性高分子分散液を用いて作製した固体電解コンデンサを比較すると、比較例1の耐電圧が最も高く、比較例3の耐電圧が最も低くなった。比較例1の導電性高分子分散液は、重合温度を0℃に設定して製造され、比較例3の導電性高分子分散液は、重合温度を20℃に設定して製造された。このように、重合温度が20℃までは、重合温度を上げるほど耐電圧が低くなる傾向が確認された。
【0052】
一方、実施例1乃至3の導電性高分子分散液を用いて作製した固体電解コンデンサは、比較例1を比較しても耐電圧が高くなった。実施例1乃至3の導電性高分子分散液は、重合温度を30℃以上に設定して製造されている。即ち、重合温度が20℃以下の場合、重合温度が高くなるほど耐電圧が低くなるが、重合温度が30℃以上に上がると、一転して重合温度が0℃の場合の耐電圧を上回ることが確認された。しかも、重合温度が50℃以下の範囲においては、重合温度が高くなるほど、耐電圧が向上することが確認された。
【0053】
このように、PSSが存在する液中で、Et-EDOTを重合させる重合工程を含み、重合工程では重合中の液温を30℃以上にすることで、固体電解コンデンサの耐電圧が向上する。
図1
図2