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  • 特開-非水電解液二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167672
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20241127BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241127BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241127BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20241127BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241127BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241127BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241127BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241127BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241127BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/133
H01M4/13
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/58
H01M10/0569
H01M10/0567
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083901
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 亮
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ13
5H029CJ16
5H029CJ23
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB11
5H050GA13
5H050GA18
(57)【要約】
【課題】非水電解液二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】ここで開示される製造方法は、電極体を電池ケースに収容して組立体を構築する構築工程(ステップS1)と、ジフルオロリン酸塩と非フッ素化カーボネートとを含み、フルオロエチレンカーボネートを実質的に含まない第1の非水電解液を上記電池ケースに注液し、上記電極体に含浸させる第1含浸工程(ステップS2)と、フルオロエチレンカーボネートを含む第2の非水電解液を上記電池ケースに注液し、上記電極体に含浸させる第2含浸工程(ステップS4)と、上記組立体を充電する充電工程(ステップS5)と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを有する電極体と、非水電解液と、電池ケースと、を備え、前記負極がSi含有材料を含む、非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記電極体を前記電池ケースに収容して組立体を構築する構築工程と、
ジフルオロリン酸塩と、非フッ素化カーボネートと、を含み、フルオロエチレンカーボネートを実質的に含まない第1の非水電解液を前記電池ケースに注液し、前記電極体に含浸させる第1含浸工程と、
前記第1含浸工程の後、フルオロエチレンカーボネートを含む第2の非水電解液を前記電池ケースに注液し、前記電極体に含浸させる第2含浸工程と、
前記第2含浸工程の後、前記組立体を充電する充電工程と、
を含む、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1含浸工程の後かつ前記第2含浸工程の前に、前記組立体を充電する初回充電工程を含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2の非水電解液は、ジフルオロリン酸塩を実質的に含まない、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の非水電解液は、支持塩を含む、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記Si含有材料は、Si、SiO、およびSiC含有材料のうちの少なくとも1種である、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記非フッ素化カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートのうちの少なくとも1種である、
請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極と非水電解液とを備えた非水電解液二次電池が知られている。非水電解液二次電池では、初期充電の際に非水電解液に含まれる非水電解液の一部(典型的には添加剤や非水溶媒)が分解され、電極(正極および/または負極)の表面にその分解生成物を含む被膜(Solid Electrolyte Interface膜:SEI膜)が堆積される。この被膜によって電極と非水電解液との界面が安定化されることで、電池性能が向上しうる。
【0003】
これに関連する先行技術として、例えば特許文献1には、電池ケースに、所定の添加剤が添加され且つジフルオロリン酸塩が添加されていない第1の非水電解液を注液し、初回充放電を行った後、電池ケースに、ジフルオロリン酸塩が添加され且つ所定の添加剤が添加されていない第2の非水電解液を注液し、2回目の充放電を行う製造方法が記載されている。特許文献1には、上記のように段階的に注液することで、ジフルオロリン酸塩由来の被膜と添加剤とが反応して高抵抗な被膜が形成されることを抑制しうる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-28875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、高容量化等を目的として、負極にSi(シリコン)含有材料を含み、非水電解液に添加剤としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含む非水電解液二次電池が知られている。しかしながら、本発明者の検討によれば、かかる電池を製造する場合、例えば特許文献1の技術を適用して、第1の非水電解液に添加剤としてのFECを添加し、第2の非水電解液にジフルオロリン酸塩を添加すると、例えばFECとジフルオロリン酸塩とを一度にまとめて添加する場合と比べても、かえって電池特性(例えば初期抵抗やサイクル特性)が低下してしまうことが新たに判明した。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負極にSi含有材料を含み、電池特性の優れた非水電解液二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、正極と負極とを有する電極体と、非水電解液と、電池ケースと、を備え、上記負極がSi含有材料を含む、非水電解液二次電池の製造方法が提供される。この製造方法は、上記電極体を上記電池ケースに収容して組立体を構築する構築工程と、ジフルオロリン酸塩と、非フッ素化カーボネートと、を含み、フルオロエチレンカーボネートを実質的に含まない第1の非水電解液を上記電池ケースに注液し、上記電極体に含浸させる第1含浸工程と、上記第1含浸工程の後、フルオロエチレンカーボネートを含む第2の非水電解液を上記電池ケースに注液し、上記電極体に含浸させる第2含浸工程と、上記第2含浸工程の後、上記組立体を充電する充電工程とを含む。
【0008】
本発明者が鋭意検討を重ねたところ、フルオロエチレンカーボネート(FEC)は、例えばカーボネート骨格を有することで、正極(詳しくは正極活物質の表面)に吸着しやすい。よって、特許文献1に記載されるが如く第1の非水電解液にFECを添加すると、負極のSi含有材料に作用するFECの絶対量が減少して、Si含有材料に対するFEC添加の効果が低下してしまうことが示唆された。
【0009】
そこで、本発明では、ジフルオロリン酸塩とFECとを組み合わせて用いるのに際し、第1含浸工程でジフルオロリン酸塩を含む第1の非水電解液を電極体に含浸させた後、第2含浸工程でFECを含む第2の非水電解液を電極体に含浸させるようにしている。これにより、第1含浸工程ではジフルオロリン酸塩を正極に好適に吸着させることができるので、正極の表面にジフルオロリン酸塩由来の成分を含んだ良質な保護被膜を形成できる。また、第2含浸工程では、正極へのFECの吸着を抑制しつつ、負極の近傍に好適にFECを配置することができるので、負極の表面、特にはSi含有材料の表面にFEC由来の成分を含んだ保護被膜を安定して形成できる。したがって、ここに開示される技術によれば、電池特性(例えば初期抵抗やサイクル特性)に優れた非水電解液二次電池を好適に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る非水電解液二次電池を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3図3は、電極体の構成を示す模式図である。
図4図4は、一実施形態に係る製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術のいくつかの好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない非水電解液二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握されうる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0012】
なお、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、非水電解液を介して正極と負極の間で電荷担体が移動することによって繰り返し充放電が可能な電池全般をいう。非水電解液二次電池は、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池と、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタと、を包含する概念である。また、本明細書において、範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「Aより大きい」および「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0013】
<電池100>
まず、ここで開示される製造方法によって製造される非水電解液二次電池(以下、単に電池ともいう。)100について説明する。図1は、電池100の斜視図である。図2は、図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、電池100の短辺方向、短辺方向と直交する長辺方向、短辺方向および長辺方向と直交する上下方向を、それぞれ表すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、電池100の設置形態を何ら限定するものではない。
【0014】
図2に示すように、電池100は、電池ケース10と、電極体20と、正極端子30と、負極端子40と、正極集電部50と、負極集電部60と、非水電解液(図示せず)と、を備えている。電池100は、ここではリチウムイオン二次電池である。電池100は、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0015】
電池ケース10は、電極体20および非水電解液を収容する筐体である。図1に示すように、電池ケース10は、ここでは扁平かつ有底の直方体形状(角形)の外形を有する。電池ケース10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。電池ケース10は、金属製であることが好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等からなることがより好ましい。ただし、他の実施形態において、電池ケース10は、例えばラミネートフィルム製の袋形状であってもよい。図2に示すように、電池ケース10は、開口12hを有する外装体12と、開口12hを塞ぐ封口板(蓋体)14と、を備えている。封口板14は、外装体12の開口12hを塞ぐように外装体12に取り付けられている。電池ケース10は、外装体12の開口12hの周縁に封口板14が接合(例えば溶接接合)されることによって、一体化されている。電池ケース10は、気密に封止(密閉)されている。
【0016】
封口板14には、図2に示すように、注液孔15と、2つの端子引出孔18、19と、が設けられている。注液孔15は、外装体12に封口板14を組み付けた後に電池ケース10内に非水電解液を注液するためのものである。封口板14には、注液孔15が設けられていることが好ましい。注液孔15は、封止部材16により封止されている。端子引出孔18、19は、封口板14の長辺方向Yの両端部(図2の左端部および右端部)にそれぞれ形成されている。端子引出孔18、19は、封口板14を厚み方向(上下方向Z)に貫通している。
【0017】
正極端子30および負極端子40は、図2に示すように、端子引出孔18、19を挿通して封口板14の内部から外部へと延びている。正極端子30および負極端子40は、ここでは、かしめ加工により、封口板14の端子引出孔18、19を囲む周縁部分に、かしめられている。正極端子30および負極端子40の外装体12の側の端部(図2の下端部)には、かしめ部30c、40cが形成されている。
【0018】
正極端子30は、電池ケース10の内部で正極集電部50を介して電極体20の正極タブ群23と電気的に接続されている。正極端子30は、正極絶縁部材70およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。正極端子30は、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることがより好ましい。負極端子40は、電池ケース10の内部で負極集電部60を介して電極体20の負極タブ群25と電気的に接続されている。負極端子40は、負極絶縁部材80およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。負極端子40は、金属製であることが好ましく、例えば銅または銅合金からなることがより好ましい。
【0019】
電極体20は、図2に示すように、電池ケース10の内部(詳しくは、外装体12の内部)に収容されている。1つの電池ケース10の内部に配置される電極体20の数は特に限定されず、1つであってもよく、2つ以上(複数)であってもよい。
【0020】
図3は、電極体20の構成を示す模式図である。図3に示すように、電極体20は、正極22と負極24とセパレータ26とを含んでいる。電極体20は、ここでは扁平形状の捲回電極体である。電極体20は、帯状の正極22と帯状の負極24とが帯状のセパレータ26を介して積層され、捲回軸WLを中心として捲回されて構成されている。ただし、電極体20は、方形状(典型的には矩形状)の正極と方形状(典型的には矩形状)の負極とが絶縁された状態で積み重ねられてなる積層電極体であってもよい。
【0021】
正極22は従来と同様でよく、特に制限はない。正極22は、正極集電体22cと、正極集電体22cの少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層22aおよび正極保護層22pと、を有する。ただし、正極保護層22pは必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。正極集電体22cは、帯状である。正極集電体22cは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。正極集電体22cは、ここでは金属箔、具体的にはアルミニウム箔である。
【0022】
正極集電体22cの長辺方向Yの一方の端部(図3の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。正極タブ22tは、ここでは正極集電体22cの一部であり、金属箔(アルミニウム箔)からなっている。複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方の端部(図3の左端部)で積層されて、図2に示すように、正極タブ群23を構成している。正極タブ群23には、正極集電部50が付設(詳しくは接合)されている。正極タブ群23は、正極集電部50を介して正極端子30と電気的に接続されている。
【0023】
正極活物質層22aは、帯状の正極集電体22cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。正極活物質層22aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含んでいる。正極活物質は特に限定されず、従来と同様であってよい。正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造は特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。いくつかの態様において、リチウム遷移金属複合酸化物は、高エネルギー密度を実現する観点から、空間群C2/mの層状岩塩型結晶構造(所謂、リチウム過剰型の結晶構造)を有することが好ましい。そのような化合物として、下記式(I)で表されるリチウム過剰遷移金属複合酸化物が挙げられる。具体例として、Li(Li1/3Mn2/3)Oが挙げられる。後述する試験例にも記載する通り、正極にリチウム過剰遷移金属複合酸化物を含む場合、ここに開示される技術の効果が特に高いレベルで発揮される。
【0024】
Li(LiNiMn)O 式(I)
式(I)において、a、x、y、zは、0.1≦a≦0.4、0≦x≦0.5、0.5≦y≦0.7、0≦z≦0.2、a+x+y+z=1を満たし、0<zのとき、Mは、Co,Al,Mg,Ca,Ti,V,Cr,Si,Y,Zr,Nb,Mo,Hf,TaおよびWのうちの1種または2種以上の元素である。
【0025】
式(I)において、aは、0.2≦a≦0.4を満たすことが好ましい。一例では、a=1/3である。xは、0≦x≦0.2を満たすことが好ましい。一例では、x=0である。yは、0.6≦y≦0.7を満たすことが好ましい。一例では、y=2/3である。zは、0≦z≦0.1を満たすことが好ましい。一例では、z=0である。
【0026】
また、他のいくつかの態様において、リチウム遷移金属複合酸化物は、空間群R-3mの層状岩塩型結晶構造を有することが好ましい。そのような化合物として、次の式(II):LiMeO(Meは、Li以外の1種または2種以上の遷移金属元素である。);で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。上記Meとしては、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、Ni、Co、Mnをすべて含むことがより好ましい。すなわち、リチウムニッケルコバルトマンガン含有複合酸化物がより好ましい。
【0027】
正極活物質層22aは、正極活物質以外の任意成分、例えば、バインダ、導電材、各種添加成分等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を好適に使用しうる。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等の炭素材料を好適に使用しうる。
【0028】
正極保護層22pは、長辺方向Yにおいて正極集電体22cと正極活物質層22aとの間に設けられている。正極保護層22pは、正極活物質層22aに沿って、帯状に設けられている。正極保護層22pは、無機フィラー(例えば、アルミナ)を含んでいる。正極保護層22pは、無機フィラー以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材およびバインダは、正極活物質層22aに含みうるとして例示したものと同じであってもよい。
【0029】
負極24は、負極集電体24cと、負極集電体24cの少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層24aと、を有する。負極集電体24cは、帯状である。負極集電体24cは、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。負極集電体24cは、ここでは金属箔、具体的には銅箔である。
【0030】
負極集電体24cの長辺方向Yの一方の端部(図3の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。負極タブ24tは、ここでは負極集電体24cの一部であり、金属箔(銅箔)からなっている。複数の負極タブ24tは、長辺方向Yの一方の端部(図3の右端部)で積層されて、図2に示すように、負極タブ群25を構成している。負極タブ群25には、負極集電部60が付設(詳しくは接合)されている。負極タブ群25は、負極集電部60を介して負極端子40と電気的に接続されている。
【0031】
負極活物質層24aは、帯状の負極集電体24cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。負極活物質層24aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含んでいる。本実施形態において、負極活物質は、高容量化等の観点からSi含有材料を必須として含んでいる。Si含有材料の一好適例として、Si、SiO(酸化ケイ素)、SiC含有材料(炭化ケイ素、シリコン粒子の内部に炭素が分散されているSiC複合体を含む。)、SiN含有材料(窒化ケイ素)、多孔質粒子内にナノSi粒子が分散されたもの、等が挙げられる。なかでも、Si、SiO、およびSiC含有材料のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。特に限定されるものではないが、負極活物質の全量を100質量%としたときに、Si含有材料の含有割合は、典型的には50質量%以下であり、例えば1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0032】
負極活物質は、電池特性(例えば高容量化とサイクル特性)を高いレベルで兼ね備える観点等から、Si含有材料に加えて、人造黒鉛や天然黒鉛等の黒鉛を共に含むことがより好ましい。この場合、質量基準で、黒鉛の含有割合がSi含有材料よりも多いことが好ましい。特に限定されるものではないが、Si含有材料と黒鉛との合計を100質量%としたときに、Si含有材料の含有割合は、典型的には50質量%以下であり、例えば1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。負極活物質は、Si含有材料や黒鉛以外の負極活物質材料を含んでいてもよい。Si含有材料や黒鉛以外の負極活物質材料の具体例として、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶質炭素等の炭素材料が挙げられる。
【0033】
負極活物質層24aは、負極活物質以外の任意成分、例えば、バインダ、分散剤、導電材、各種添加成分等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類や、ポリアクリル酸(PAA)等のアクリル樹脂を好適に使用しうる。分散剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロール類を好適に使用しうる。導電材としては、例えば炭素繊維やカーボンナノチューブ等の炭素材料を好適に使用しうる。
【0034】
セパレータ26は、正極22の正極活物質層22aと、負極24の負極活物質層24aと、を絶縁する部材である。セパレータ26は従来と同様でよく、特に制限はない。セパレータ26としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなる樹脂製の多孔性シートが好ましい。セパレータ26は、樹脂製の多孔性シートからなる基材部の表面に、耐熱層(Heat Resistance Layer:HRL)や接着層を有していてもよい。耐熱層や接着層の構成は、従来と同様であってよい。
【0035】
非水電解液は、従来と同様でよく、特に制限はない。非水電解液は、典型的には、非水溶媒と、支持塩(電解質塩)と、を含んでいる。非水溶媒としては、従来、非水電解液二次電池に使用しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。非水溶媒の一例として、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶剤が挙げられる。非水溶媒は、カーボネート類を含むことが好ましい。
【0036】
カーボネート類は、構成元素にフッ素(F)を含むか否かで、非フッ素化カーボネートと、フッ素化カーボネートと、に分けられる。また、カーボネート類は、化学構造によって、鎖状カーボネートと、環状カーボネートと、に分けられる。鎖状カーボネートは、カーボネート骨格(O-CO-O)を有する非環式の(鎖状の)カーボネート化合物である。環状カーボネートは、C-C結合で環状に閉じたカーボネート骨格を有するカーボネート化合物である。
【0037】
本実施形態において、非水溶媒は、少なくとも非フッ素化カーボネートを含むことが好ましい。非フッ素化カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の非フッ素化鎖状カーボネートや、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)等の非フッ素化環状カーボネートが挙げられる。非フッ素化カーボネートは、DMC、DEC、EMC、EC、およびVCのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。非フッ素化カーボネートは、非フッ素化鎖状カーボネートと非フッ素化環状カーボネートとを含むことがより好ましい。
【0038】
好適な一態様において、非水溶媒は、非フッ素化カーボネートに加えて、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を含んでいる。ただし、製造方法の個所で詳しく述べるが、FECは、電池製造時に充電工程等で電気的に分解されて、負極活物質層24a等に被膜を形成するために消費されうる。そのため、電池100の状態において、非水電解液には、FECが含まれて(残存して)いてもよいし、含まれていなくてもよい。非水溶媒は、さらにFEC以外のフッ素化カーボネート、例えばフッ素化鎖状カーボネートや、FEC以外のフッ素化環状カーボネートを含んでいてもよい。
【0039】
支持塩としては、電荷担体を含むものであれば特に限定されず、従来、非水電解液二次電池に使用しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。リチウムイオン二次電池の場合、支持塩の一例として、LiPF、LiBF等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。支持塩は、LiPFを含むことが好ましい。
【0040】
非水電解液は、さらに添加的な成分(添加剤)を含んでもよい。添加剤としては、例えば被膜形成剤等として、従来、非水電解液に添加しうることが知られているものを、1種または2種以上使用することができる。好適な一態様において、非水電解液は、ジフルオロリン酸塩を含んでいる。ジフルオロリン酸塩は、PO で表されるアニオンと、カチオンとの塩である。カチオンとしては、Li、Na、K等のアルカリ金属イオンや、アンモニウムイオン等が挙げられ、なかでもLiが好ましい。ジフルオロリン酸塩の具体例として、ジフルオロリン酸リチウム(リチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)、LiPO)が挙げられる。
【0041】
<電池100の製造方法>
図4は、一実施形態に係る製造方法のフローチャートである。図4に示すように、電池100は、例えば、構築工程(ステップS1)と、第1含浸工程(ステップS2)と、初回充電工程(ステップS3)と、第2含浸工程(ステップS4)と、充電工程(ステップS5)とを、この順で含む製造方法によって製造することができる。ただし、初回充電工程(ステップS3)は任意であり、省略することもできる。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0042】
構築工程(ステップS1)は、電池ケース10に電極体20を収容して、組立体(電池ケース10と電極体20の合体物)を構築する工程である。好適な一実施形態において、本工程は、電極作製工程(ステップS1-1)と、電極体作製工程(ステップS1-2)と、配置工程(ステップS1-3)と、溶接接合工程(ステップS1-4)とを、含む。また、任意の段階で、さらに他の工程を含んでもよい。
【0043】
まず、電極作製工程(ステップS1-1)では、正極22と負極24とをそれぞれ作製する。正極22は、例えば、正極活物質と導電材とバインダと分散溶媒とを混合して、正極合材スラリーを調製し、調製した正極合材スラリーを従来公知の方法で正極集電体22c上に塗布、乾燥し、適宜プレスすることで作製しうる。正極活物質としては、上記したような材料のなかから、1種類を単独で、または2種以上を混合して適宜使用でき、なかでも上記式(I)で表されるリチウム過剰遷移金属複合酸化物や、上記式(II)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を好適に使用できる。
【0044】
負極24は、例えば、負極活物質とバインダと分散剤と分散溶媒とを混合して、負極合材スラリーを調製し、調製した負極合材スラリーを従来公知の方法で負極集電体24c上に塗布、乾燥し、適宜プレスすることで作製しうる。負極活物質としては、必須としてSi含有材料(好ましくは、Si、SiO、およびSiC含有材料のうちの少なくとも1種)を用い、上記したような材料を、さらに1種または2種以上使用できる。なかでもSi含有材料に加えて黒鉛を好適に使用できる。なお、本実施形態では、電極(正極22および/または負極24)を作製しているが、他の実施形態において、電極は、市販品を購入してもよい。
【0045】
次に、電極体作製工程(ステップS1-2)では、上記で作製した正極22と負極24とを、セパレータ26を介して対向させ、電極体20を作製する。次に、配置工程(ステップS1-3)では、外装体12の内部に電極体20を配置する。例えば、外装体12の開口12hから外装体12の内部に電極体20を収容する。次に、溶接接合工程(ステップS1-4)では、外装体12の開口12hに封口板14を嵌め合わせ、開口12hの周縁に封口板14を溶接して、外装体12と封口板14とを一体化する。
【0046】
第1含浸工程(ステップS2)は、第1の非水電解液を電池ケース10の内部に注液し、電極体20に非水電解液を含浸させる工程である。本工程では、まず第1の非水電解液を調製する。第1の非水電解液は、必須として、ジフルオロリン酸塩と、非フッ素化カーボネートと、を含んでいる。ジフルオロリン酸塩としては、LiPOを好適に使用できる。特に限定されるものではないが、ジフルオロリン酸塩は、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、充電工程前の非水電解液全体(第1の非水電解液と後述する第2の非水電解液との合計)に占める割合が、概ね0.1質量%以上、例えば0.5質量%以上となるように、第1の非水電解液に添加することが好ましい。一方、抵抗の増大を抑制する観点から、ジフルオロリン酸塩は、充電工程前の非水電解液全体に占める割合が、概ね5質量%以下、例えば2質量%以下、1質量%以下となるように、第1の非水電解液に添加することが好ましい。
【0047】
非フッ素化カーボネートは、典型的には、ジフルオロリン酸塩を溶解させるための非水溶媒である。非フッ素化カーボネートとしては、上記したような材料のなかから、1種類を単独で、または2種以上を混合して適宜使用でき、なかでもDMC、DEC、EMC、EC、およびVCのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。非フッ素化カーボネートは、非フッ素化鎖状カーボネート(例えば、DMC、DECおよびEMCのうちの1種または2種以上)と、非フッ素化環状カーボネート(例えば、ECおよび/またはVC)と、を含むことがより好ましい。特に限定されるものではないが、第1の非水電解液において、非フッ素化鎖状カーボネートの割合は、体積基準で、非フッ素化環状カーボネートよりも多いことが好ましい。
【0048】
好適な一態様において、第1の非水電解液は、ジフルオロリン酸塩と非フッ素化カーボネートとに加えて、支持塩(リチウムイオン二次電池の場合、リチウム塩)を含んでいる。支持塩としては、上記したような材料のなかから、1種類を単独で、または2種以上を混合して適宜使用でき、なかでもLiPFを好適に使用できる。
【0049】
本実施形態において、第1の非水電解液は、FECを実質的に含まない。本発明者の検討によれば、FECは、例えばカーボネート骨格を有することで、正極22の表面(詳しくは正極活物質の表面)に吸着しやすい。よって、第1の非水電解液にFECを添加すると、負極24のSi含有材料に作用するFECの絶対量が減少して、Si含有材料に対するFEC添加の効果が低下してしまう虞がある。また、後述する第2含浸工程(ステップS4)で添加するジフルオロリン酸塩の正極22の表面(詳しくは正極活物質の表面)への作用が減少し、その結果、正極の抵抗(特に、非水電解液との界面抵抗)が高くなる虞がある。第1の非水電解液は、フッ素化カーボネート全般を(すなわち、FEC以外のフッ素化カーボネートも)実質的に含まないことがより好ましい。
【0050】
なお、本明細書において、「実質的に含まない」とは、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限りにおいて、対象の成分をごく微量含有する場合を許容する用語であり、全体に占める対象の成分の割合(例えば、第1の非水電解液全体に占めるFECの割合)が、0.1質量%未満であることをいう。全体に占める対象の成分の割合(例えば、第1の非水電解液全体に占めるFECの割合)は、0.05質量%未満が好ましく、0.01質量%未満がより好ましい。
【0051】
本工程では、次に、調製した第1の非水電解液を、封口板14の注液孔15から電池ケース10の内部に注液する。注液は、大気圧で行ってもよいし、例えば電極体20内への非水電解液の含浸性を向上させる目的等で、電池ケース10内を減圧した状態で行ってもよい。注液孔15から注液された第1の非水電解液は、電極体20に含浸される。言い換えれば、第1の非水電解液が、電極体20に満遍なく行き渡る。本実施形態において、第1の非水電解液は、ジフルオロリン酸塩を含み、FECを実質的に含まない。ジフルオロリン酸塩は、活物質の表面と相互作用しやすく、活物質の表面に吸着しやすい材料である。そのため、本工程では、第1の非水電解液に含まれるジフルオロリン酸塩を、例えば正極22の表面(詳しくは、正極活物質の表面)に特異的に吸着させることができる。
【0052】
好適な一態様では、注液後、所定の時間、組立体を放置(保持)する。これにより、例えば長辺方向Yの長さが比較的長い場合であっても、長辺方向Yにバランスよく非水電解液が行き渡り、電極体20にしっかりと第1の非水電解液を含浸させることができる。放置温度は、常温(例えば25℃±10℃、25℃±5℃程度)でもよいし、例えば電極体20内への非水電解液の含浸性を向上させる目的等で、35~45℃程度の高温環境としてもよい。放置時間は、例えば電極体20のサイズ(特には長辺方向Yの長さ)や第1の非水電解液の粘度、減圧の有無、放置温度等にもよるため、特に限定されないが、例えば5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、1時間以上が特に好ましい。また、製造効率等の観点から、240時間(10日)以内が好ましく、48時間(2日)以内がより好ましく、24時間(1日)以内が特に好ましい。
【0053】
初回充電工程(ステップS3)は、第1の非水電解液が注液された組立体を、少なくとも一回、充電する工程である。組立体の充電は、従来と同様に行うことができる。典型的には、組立体の正極端子と負極端子との間に外部電源を接続し、組立体が所定の電圧となるまで充電を行う。特に限定されるものではないが、電圧が、概ね4V以上、好ましくは4.1V以上、4.2V以上、例えば4.2Vとなるまで充電することが好ましい。正極活物質としてリチウム過剰遷移金属複合酸化物を使用している場合は、電気化学的に活性な状態として高容量を発現させる観点から、電圧が、概ね4.6V以上、好ましくは4.7V以上、例えば4.7Vとなるまで充電することがより好ましい。充放電レートは、例えば、0.1~2C程度としうる。これにより、第1の非水電解液に含まれるジフルオロリン酸塩が、典型的には第1の非水電解液中の他の成分(非フッ素化カーボネートや支持塩)よりも先に電気分解(主に酸化分解)され、特に正極22の表面(詳しくは正極活物質の表面)に、ジフルオロリン酸塩由来の成分を含んだ良質な保護被膜が形成される。したがって、ジフルオロリン酸塩の保護効果により、正極22を低抵抗化できる。
【0054】
充電は1回でもよく、例えば放電を挟んで、2回以上繰り返し行うこともできる。また充電の後、放電を行ってもよい。好適な一態様では、充電状態(SOC)が、概ね20%以下、好ましくは10%以下、例えば0%となるまで、組立体を放電してもよい。あるいは、電圧が、概ね3.5V以下、3.0V以下、例えば3.0Vとなるまで放電してもよい。また、本工程は、常温(例えば25℃±10℃、25℃±5℃程度)環境下で行ってもよいし、例えば被膜形成を促進する目的等で、35~45℃程度の高温環境下で行ってもよい。
【0055】
第2含浸工程(ステップS4)は、第2の非水電解液を電池ケース10の内部に注液し、電極体20に非水電解液を含浸させる工程である。本工程では、まず第2の非水電解液を調製する。第2の非水電解液は、必須として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を含んでいる。特に限定されるものではないが、FECは、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、充電工程前の非水電解液全体(第1の非水電解液と第2の非水電解液との合計)のなかで、カーボネート類の合計(例えば、非フッ素化カーボネートとFECとの合計)に占める割合が、概ね1体積%以上、例えば5体積%以上となるように、第2の非水電解液に添加することが好ましい。一方、抵抗の増大を抑制する観点から、FECは、カーボネート類の合計に占める割合が、概ね30体積%以下、例えば20体積%以下、10体積%以下となるように、第2の非水電解液に添加することが好ましい。
【0056】
好適な一態様において、第2の非水電解液は、FECに加えて、非フッ素化カーボネートを含んでいる。非フッ素化カーボネートは、第1の非水電解液に添加したものと同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。非フッ素化カーボネートは、非フッ素化鎖状カーボネート(例えば、DMC、DECおよびEMCのうちの1種または2種以上)を含むことがより好ましい。第2の非水電解液は、非フッ素化環状カーボネート(例えば、ECおよび/またはVC)を実質的に含んでいないことが好ましい。
【0057】
第2の非水電解液は、支持塩(リチウムイオン二次電池の場合、リチウム塩)を含んでいてもよい。支持塩は、第1の非水電解液に添加したものと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
第2の電解液は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限りにおいて、ジフルオロリン酸塩を含んでもよい。好適な一態様において、第2の非水電解液は、ジフルオロリン酸塩(例えばLiPO)を実質的に含まない。これにより、後述する充電工程(ステップS5)において、正極22に過剰な被膜が形成されることを抑制し、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0059】
本工程では、次に、調製した第2の非水電解液を、封口板14の注液孔15から電池ケース10の内部に注液する。注液は、大気圧で行ってもよいし、例えば電極体20内への非水電解液の含浸性を向上させる目的等で、電池ケース10内を減圧した状態で行ってもよい。注液孔15から注液された第2の非水電解液は、電極体20に含浸される。言い換えれば、第2の非水電解液が、電極体20に満遍なく行き渡る。これにより、第2の非水電解液に含まれるFECを、例えば負極24の近傍(詳しくは、負極活物質の近傍)に好適に配置することができる。
【0060】
好適な一態様では、注液後、所定の時間、組立体を放置(保持)する。これにより、例えば長辺方向Yの長さが比較的長い場合であっても、長辺方向Yにバランスよく非水電解液が行き渡り、電極体20にしっかりと第2の非水電解液を含浸させることができる。放置温度は、常温(例えば25℃±10℃、25℃±5℃程度)でもよいし、例えば電極体20内への非水電解液の含浸性を向上させる目的等で、35~45℃程度の高温環境としてもよい。放置時間は、例えば電極体20のサイズ(特には長辺方向Yの長さ)や第2の非水電解液の粘度、減圧の有無、放置温度等にもよるため、特に限定されないが、例えば5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、1時間以上が特に好ましい。また、製造効率等の観点から、240時間(10日)以内が好ましく、48時間(2日)以内がより好ましく、24時間(1日)以内が特に好ましい。
【0061】
充電工程(ステップS5)は、第2の非水電解液が注液された組立体を、少なくとも一回、充電する工程である。組立体の充電は、初回充電工程(ステップS3)に準じて、行うことができる。特に限定されるものではないが、好適な一態様では、充電状態(SOC)が、概ね80%以上、好ましくは90%以上、例えば100%となるまで、組立体を充電する。あるいは、電圧が、概ね4V以上、好ましくは4.1V以上、4.2V以上、例えば4.2Vまで充電することが好ましい。なお、初回充電工程(ステップS3)を行った場合は、正極活物質としてリチウム過剰遷移金属複合酸化物を使用している場合であっても、上記SOCないし電圧であってよい。ただし、正極活物質としてリチウム過剰遷移金属複合酸化物を使用し、かつ初回充電工程(ステップS3)を省略した場合は、電気化学的に活性な状態として高容量を発現させる観点から、電圧が、概ね4.6V以上、好ましくは4.7V以上、例えば4.7Vとなるまで充電することが好ましい。充放電レートは、例えば、0.1~2C程度としうる。これにより、第2の非水電解液に含まれるFECが、典型的には非水電解液中の他の成分(例えば非フッ素化カーボネートや支持塩)よりも先に電気分解(主に還元分解)される。そして、特に負極24の表面(詳しくは負極活物質の表面、特にはSi含有材料の表面)に、FEC由来の成分を含んだ保護被膜が安定して形成される。したがって、FECの保護効果により、負極24を高耐久化できる。
以上のようにして、電池100を好適に製造できる。
【0062】
<電池100の用途>
電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、抵抗が低減されて耐久性にも優れることから、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。
【0063】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0064】
≪試験例I(例1,2、比較例1,2)≫
<非水電解液二次電池の構築>
まず、正極と負極を作製した。正極は、次のように作製した。まず、正極活物質としてのLi(Li1/3Mn2/3)Oと、導電材としてのABと、バインダとしてのPVdFとを、活物質:AB:PVdF=100:1:1の質量比で混合し、分散溶媒(NMP)で流動性を調整して、正極合材スラリーを調製した。次に、調製した正極合材スラリーを、正極集電体としてのAl箔上に塗布し、乾燥後、所定の厚みまでプレスした。そして、所定のサイズに切り出して、正極を作製した。
【0065】
負極は、次のように作製した。まず、負極活物質としての黒鉛およびSiO(Si含有材料)とを、黒鉛:SiO=95:5の質量比で混合して、混合物を得た。次に、得られた混合物(100質量部)に、バインダとしてのSBRと、分散剤としてのCMCとを、それぞれ1質量部の割合で添加し、分散溶媒(水)で流動性を調整して、負極合材スラリーを調製した。次に、調製した負極合材スラリーを、負極集電体としてのCu箔上に塗布し、乾燥後、所定の厚みまでプレスした。そして、所定のサイズに切り出して、負極を作製した。
【0066】
次に、組立体を構築した。まず、上記で作製した正極と負極を、セパレータ(PP/PE/PPの三層からなる多孔性シート)を介して対向させ、電極体を作製した。次に、電極体を、アルミニウムラミネートフィルム製の袋状の電池ケースに収容し、組立体を構築した。これを繰り返して、複数の組立体を用意した(構築工程)。
【0067】
(例1)まず、非水電解液A,Bを調製した。非水電解液は、充電工程前の非水電解液全体(全注液量)の組成が、支持塩としてのLiPF(1mol/L)、ジフルオロリン酸塩としてのLiPO(0.5質量%)、非水溶媒としてのFEC+EC+EMC(体積比で1:4:15)となるように、下記2種類を調製した。
・非水電解液A:LiPF(1mol/L)、LiPO(0.625質量%)、EC+EMC(体積比で1:3)
・非水電解液B:LiPF(1mol/L)、FEC+EMC(体積比で1:3)
【0068】
次に、非水電解液A(LiPOを含み、FECを含まない非水電解液)を、全注液量の80%分量、電池ケース内に注液し、12時間静置することにより、非水電解液Aを電極体に含浸させた(第1含浸工程)。次に、非水電解液B(FECを含み、LiPOを含まない非水電解液)を、全注液量の20%分量、電池ケース内に注液した後、電池ケースを封止し、12時間静置することにより、非水電解液Bを電極体に含浸させた(第2含浸工程)。第2含浸工程の後、0.1Cの充電レートで4.7Vまで組立体を定電流充電した後、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電した(充電工程)。以上のようにして、非水電解液二次電池(例1)を構築した。
【0069】
(比較例1)まず、下記2種類の非水電解液C,Dを調製した。
・非水電解液C:LiPF(1mol/L)、FEC+EC+EMC(体積比で1:3:12)
・非水電解液D:LiPF(1mol/L)、LiPO(2.5質量%)、EC+EMC(体積比で1:3)
そして、第1含浸工程で、非水電解液C(FECを含み、LiPOを含まない非水電解液)を、全注液量の80%分量、注液し、第2含浸工程で、非水電解液D(LiPOを含み、FECを含まない非水電解液)を、全注液量の20%分量、注液したこと以外は上記例1と同様に、非水電解液二次電池(比較例1)を構築した。
【0070】
(比較例2)まず、下記1種類の非水電解液Eを調製した。
・非水電解液E:LiPF(1mol/L)、LiPO(0.5質量%)、非水溶媒としてのFEC+EC+EMC(体積比で1:4:15)
そして、第1含浸工程で、非水電解液E(FECとLiPOとを含む非水電解液)を注液し、第2含浸工程を行わなかったこと以外は上記例1と同様に、非水電解液二次電池(比較例2)を構築した。
【0071】
(例2)上記例1の、第1含浸工程と第2含浸工程との間で、初回充電工程を行った。初回充電工程の充放電条件は、例1における充電工程(0.1Cの充電レートで4.7Vまで組立体を定電流充電した後、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電)と同様とした。また、例2の充電工程では、充電電圧を4.2Vとした。これらのこと以外は、上記例1と同様に、非水電解液二次電池(例2)を構築した。
【0072】
<初期特性(初期容量および初期抵抗)の評価>
25℃の環境下、0.1Cの充電レートで4.2Vまで定電流充電を行った後、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電を行ったときの放電容量を、初期容量とした。次に、25℃の環境下、電池の充電状態をSOC50%に調整し、1時間休止した後、5Cの定電流で10秒間の定電流放電を行った。そして、放電直前の開回路電圧(V0)と、10秒放電後の閉回路電圧(V1)から、次の式:初期抵抗=(V0-V1)/5Cの電流値;で、初期抵抗(mΩ)を算出した。結果を表1に示す。
【0073】
<サイクル特性の評価>
25℃の環境下、0.4Cの充電レートで4.2Vまで定電流充電を行った後、0.4Cの放電レートで3.0Vまで定電流放電を行う充放電を1サイクルとして、100サイクルの充放電を繰り返した。そして、初期容量と同様にして「サイクル後容量」を測定し、次の式:容量維持率=(サイクル後容量/初期容量)×100;で、容量維持率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、第1含浸工程で非水電解液C(FECを含む非水電解液)を注液し、第2含浸工程で非水電解液D(LiPOを含む非水電解液)を注液した比較例1は、第1含浸工程で非水電解液E(FECとLiPOとを含む非水電解液)を添加した比較例2に比べて、かえって電池特性が悪化していた。この理由として、(1)FECは正極への吸着性が高いため、第1含浸工程でFECを添加したことで、FECが正極にも吸着し、負極中のSi含有材料に作用するFECの絶対量が減少し、FEC添加の効果が低くなったこと;(2)第1含浸工程で正極にFECが吸着したことで、第2含浸工程で添加したジフルオロリン酸塩の正極への作用が減少したこと;等が考えられた。
【0076】
これら比較例1、2に対して、比較例2とは逆に、第1含浸工程でLiPOを含む非水電解液Aを添加し、第2含浸工程でFECを含む非水電解液Bを添加した例1は、相対的に電池抵抗が低減され、かつサイクル特性も向上していた。特に限定解釈されることを意図したものではないが、この理由として、(1)第1含浸工程で添加したジフルオロリン酸塩が正極表面に特異的に吸着し、良質な保護被膜が形成されたこと;(2)第2含浸工程でFECを添加したことにより、正極へのFECの吸着を抑制しつつ、負極中のSi含有材料へ作用するFECの絶対量が増加したこと;等により、結果として、正極表面がジフルオロリン酸塩の保護効果で低抵抗化され、かつ負極表面(特にはSi含有材料の表面)がFECの保護効果で高耐久化されたことが考えられた。かかる結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0077】
また、第1含浸工程と第2含浸工程との間で初回充電を行った例2は、例1よりもさらにサイクル特性が向上していた。特に限定解釈されることを意図したものではないが、この理由として、例2では、FECを含まない状態で高電圧の処理を行うことにより、FECの酸化分解を抑えることができたことが考えられた。
【0078】
≪試験例II(例3,4、比較例3,4)≫
本試験例では、正極活物質としてLiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)を使用し、充電工程(ないし初回充電工程)の充電電圧を4.2Vとしたこと以外は、試験例Iの例1,2、比較例1,2、非水電解液二次電池(例3,4、比較例3,4)を構築し、評価した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示すように、正極活物質の種類が異なる場合でも、同様の効果が得られた。したがって、ここに開示される技術の効果は、正極活物質の種類に依らず発揮されるものであることがわかった。
【0081】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形例に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形例を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0082】
上記した図1の実施形態では、電池100の外形が、直方体形状(角形)であった。しかしこれには限定されない。他の実施形態において、電池100は、例えば、シート形、円筒形、ボタン形、コイン形等であってもよい。
【0083】
上記した図4の実施形態では、初回充電工程(ステップS3)を含んでいたが、上述の通り、初回充電工程(ステップS3)は任意であり、省略することもできる。その場合は、充電工程(ステップS5)において、正極22側にはジフルオロリン酸塩由来の成分を含んだ被膜が形成され、負極24側にはFEC由来の成分を含んだ被膜が形成される。
【0084】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極と負極とを有する電極体と、非水電解液と、電池ケースと、を備え、上記負極がSi含有材料を含む、非水電解液二次電池の製造方法であって、上記電極体を上記電池ケースに収容して組立体を構築する構築工程と、ジフルオロリン酸塩と、非フッ素化カーボネートと、を含み、フルオロエチレンカーボネートを実質的に含まない第1の非水電解液を上記電池ケースに注液し、上記電極体に含浸させる第1含浸工程と、上記第1含浸工程の後、フルオロエチレンカーボネートを含む第2の非水電解液を上記電池ケースに注液し、上記電極体に含浸させる第2含浸工程と、上記第2含浸工程の後、上記組立体を充電する充電工程とを含む、非水電解液二次電池の製造方法。
項2:上記第1注液工程の後かつ上記第2注液工程の前に、上記組立体を充電する初回充電工程を含む、項1に記載の製造方法。
項3:上記第2の非水電解液は、ジフルオロリン酸塩を実質的に含まない、項1または項2に記載の製造方法。
項4:上記第1の非水電解液は、支持塩を含む、項1~項3のいずれか1つに記載の製造方法。
項5:上記Si含有材料は、Si、SiO、およびSiCのうちの少なくとも1種である、項1~項4のいずれか1つに記載の製造方法。
項6:上記非フッ素化カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートのうちの少なくとも1種である、項1~項5のいずれか1つに記載の製造方法。
【符号の説明】
【0085】
10 電池ケース
20 電極体
22 正極
22a 正極活物質層
24 負極
24a 負極活物質層
100 電池
S1 構築工程
S2 第1含浸工程
S3 初回充電工程
S4 第2含浸工程
S5 充電工程
図1
図2
図3
図4