(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167678
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】卵凝固促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20241127BHJP
A23L 9/00 20160101ALN20241127BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083911
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔
【テーマコード(参考)】
4B025
4B042
【Fターム(参考)】
4B025LB18
4B025LG26
4B025LG27
4B025LG52
4B025LG53
4B042AC05
4B042AD30
4B042AD40
4B042AE03
4B042AG07
4B042AH09
4B042AH11
4B042AK09
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP04
(57)【要約】
【課題】
本発明は、卵の凝固を促進させるような素材で、比較的低温の温度域において卵の凝固を促進させ、得られる卵加工品の品質も良好にする卵凝固促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類が卵の凝固を促進し、品質の良好な卵加工品が得られることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含む卵凝固促進剤。
【請求項2】
豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類が水溶性大豆多糖類または水溶性エンドウ多糖類である、請求項1記載の卵凝固促進剤。
【請求項3】
以下の(A)~(C)の全工程を有する卵加工食品の製造方法。
(A)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を準備する工程。
(B)(A)の豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類と卵を含む原料とを混合する際、該豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類として、卵の蛋白質の質量に対して0.5~250質量%添加する工程。
(C)(B)で得られる混合物を加熱する工程。
【請求項4】
(C)の工程において、加熱温度が95℃未満である、請求項3記載の卵加工食品の製造方法。
【請求項5】
以下の(a)~(c)の全工程を有する卵加工食品の製造時における卵の凝固促進方法。
(a)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を準備する工程。
(b)(a)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類と卵を含む原料とを混合する際、該豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類として、卵の蛋白質の質量に対して0.5~250質量%添加する工程。
(c)(b)で得られる混合物を加熱する工程。
【請求項6】
(c)の工程において、加熱温度が95℃未満である、請求項5記載の卵の凝固促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵凝固促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、調理済み食品の需要が拡大しており、特に卵加工品は、専用工場で大量製造されたものが、コンビニエンスストア、スーパーマーケットで販売されている。また、ホテルや飲食店では一度に大量調理することで多くの消費者が利用するようになった。これら流通・市販される卵加工品において、特に問題となるのが卵の食感と製造・調理時間の短縮である。
従来、卵はタンパク質の熱凝固性を用いて固めたり、ゼラチンなどのゲル化剤を用いて固めることで調理をしたり卵加工品を産業的に製造している(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-125447号公報
【特許文献2】特開2001-037446号公報
【特許文献3】特開2000-189112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、卵の熱凝固性を利用すると乳原料・調味液・具材といったような卵以外の原料や加熱のばらつきによって品位が安定しない、卵加工品として望ましい固さを得ることができずに品位が確立できないといった課題が生じている。また、熱凝固させるために長時間を必要とするため大量生産に支障が出るといった課題も生じている。
結果として、卵加工品の安定した品位を確立させるために、卵の熱凝固性を利用するよりもゼラチンや寒天などのゲル化剤や加工でんぷんに頼らざるを得ない環境にある。しかし、卵の熱凝固力を利用せずに食感を構築しても卵本来の風味や食感を大きく損なうため望ましくない。
こうした卵の熱凝固力を向上するためには乾燥卵の熱蔵処理が挙げられる。熱蔵処理をすると卵のゲル強度が上がるため一般的に多くの乾燥卵製品は熱蔵処理を欠かすことができない。しかし、乾燥卵はコストも高く、流通量も少ないため大量に使用することが難しい。また、流通量の多い液卵製品では熱蔵処理をすることができないため熱凝固力を上げることができないという問題がある。
また、水溶性ヘミセルロースを用いた卵加工食品用卵素材の製造に関する技術(特許文献3)では、95℃以上の熱水中にヘミセルロースを含む解いた卵を流し込んで卵を凝固させることが記載されているがより低温での加熱で製造するような卵加工品に関する効果は不明である。
本発明は、卵の凝固を促進させるような素材で、比較的低温の温度域において卵の凝固を促進させ、得られる卵加工品の品質も良好にする卵凝固促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題の解決に対し鋭意検討を重ねた結果、豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類が卵の凝固を促進し、品質の良好な卵加工品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含む卵凝固促進剤、
(2)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類が水溶性大豆多糖類または水溶性エンドウ多糖類である、(1)記載の卵凝固促進剤、
(3)以下の(A)~(C)の全工程を有する卵加工食品の製造方法、
(A)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を準備する工程、
(B)(A)の豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類と卵を含む原料とを混合する際、該豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類として、卵の蛋白質の質量に対して0.5~250質量%添加する工程、
(C)(B)で得られる混合物を加熱する工程、
(4)(C)の工程において、加熱温度が95℃未満である、(3)記載の卵加工食品の製造方法、
(5)以下の(a)~(c)の全工程を有する卵加工食品の製造時における卵の凝固促進方法、
(a)豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を準備する工程、
(b)(a)の豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類と卵を含む原料とを混合する際、該豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類として、卵の蛋白質の質量に対して0.5~250質量%添加する工程、
(c)(b)で得られる混合物を加熱する工程、
(6)(c)の工程において、加熱温度が95℃未満である、(5)記載の卵の凝固促進方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含む卵凝固促進剤を用いることで、卵の凝固を促進し、品質の良好な卵加工品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(卵凝固促進剤)
本発明の卵凝固促進剤は、豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含むことを特徴とする。
本発明の卵凝固促進剤を、卵加工食品の製造時に用いることで卵の凝固を促進させることができ、効率よく、品質の優れた卵加工食品を製造することができる。
本発明において卵の凝固促進は、後述する卵の凝固試験において、豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を全卵、卵黄あるいは卵白に添加したものが、無添加の全卵、卵黄あるいは卵白よりも凝固時間が短縮されることを意味する。凝固時間は豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を全卵、卵黄または卵白に添加したものが、無添加の全卵、卵黄または卵白よりも好ましくは、5%以上、より好ましくは10%以上短縮されることをいう。対象となる卵は、全卵または卵黄が好ましい。
また、本発明の卵凝固促進剤は、卵の凝固促進ができるとともに、卵の凝固物の大きさや弾力。硬さなどの凝固した卵加工物の状態や、卵加工物の離水がない等の品質も良好である特徴を有する。この点、他の増粘多糖類を用いた場合、凝固時間が短縮されなかったり、凝固時間が短縮される場合でも凝固物の品質が悪くなり、卵の凝固物の品質の点において、本発明の豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含む卵凝固促進剤は優れている。
また、本発明において卵凝固促進剤は、沸騰温度やそれ以上の温度よりも、比較的低い温度帯で、ある程度時間をかけて加熱する場合により効果を奏する。
この観点から、本発明の卵凝固促進剤で凝固促進させる温度として、好ましくは95℃未満であり、より好ましくは90℃以下である。また、下限の温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは55℃以上、60℃以上または65℃以上とすることができる。
また、加熱時間は好ましくは、5分間以上であり、より好ましくは8分間以上、10分間以上、12分間以上、15分間以上とすることもできる。また、加熱時間の上限は、好ましくは120分間以下であり、より好ましくは100分間以下、90分間以下、80分間以下、70分間以下とすることができる。
本発明の卵凝固促進剤に用いる豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類の、該卵凝固促進剤中の含有量は、固形分中、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、100質量%とすることができる。
本発明の卵凝固促進剤の形態は限定されず、液体、粉末、造粒物などの形態で使用することができる。
【0009】
本発明の卵凝固促進剤には、本発明の効果を損なわない範囲で適宜、他の添加剤と併用することができる。他の添加剤としては、砂糖、グルコース,フルクトース等の単糖類、蔗糖,マルト─ス,ラクトース,ラフィノース,マルトトリオース,トレハロ─ス,スタキオース,マルトテトラオース等の少糖類、及び糖アルコ─ル、ぶどう糖果糖液糖、還元水あめ、水あめ、オリゴ糖、還元オリゴ糖、はちみつ、スクラロース、アスパルテーム、ステビアなどの甘味料、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂などの食用油脂、塩類、食塩、醤油、胡椒、アミノ酸、塩化カルシウム、核酸等の調味料類、酢酸,クエン酸,乳酸,アジピン酸,グルコン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸、アスコルビン酸等の酸味料、湿熱処理澱粉、加工澱粉、ビタミンE等の酸化防止剤、色素等が挙げられる。
【0010】
(豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類)
本発明でいう豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類の原料として、大豆、小豆、緑豆、ササゲ、金時豆、花豆、インゲン豆、バタービーン、ソラ豆、エンドウ豆、ヒヨコ豆、イナゴ豆、ナタ豆、ルピン豆、レンズ豆、落花生などが例示される。本発明で使用する豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類としては、特に水溶性エンドウ多糖類、水溶性大豆多糖類が好ましい。豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類は2種以上を併用して用いることもできる。
【0011】
(水溶性エンドウ多糖類)
本発明でいう水溶性エンドウ多糖類とは、エンドウ豆種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。好ましくはエンドウ豆種子の子実部から抽出されたものであり、更に好ましくは黄色エンドウの種子から抽出されたものである。その製造法は、例えばWO2012/17682号の明細書に記載される製造例で得ることが出来る。商品名としては「FIPEA-D」(不二製油株式会社製)が例示される。
【0012】
(水溶性大豆多糖類)
本発明でいう水溶性大豆多糖類とは、大豆種子から抽出される水溶性の多糖類を指す。好ましくは大豆種子の子実部から抽出されたものであり、更に好ましくは豆腐や分離大豆蛋白などを生産する場合に副産物として生じるオカラから抽出されたものである。脱脂大豆から得られたオカラを使用するのが更に好ましい。その製造法は、例えばオカラを原料とし、アルカリ性域乃至は弱酸性域の条件下で100℃を超える温度、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下で抽出し、固液分離することにより得られる。商品名としては、例えば、「ソヤファイブ-S」(不二製油株式会社製)等が例示される。
【0013】
(卵加工食品)
本発明において、卵加工食品としては、プリン、茶碗蒸し、卵焼き、だし巻き卵等が例示できる。
【0014】
(卵加工食品の製造方法)
本発明の卵加工食品の製造方法について以下に例示して説明する。
豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含む卵凝固促進剤を、卵等の原材料と混合し、加熱することにより卵加工食品が得られる。該卵凝固促進剤は予め水や牛乳等に溶解させて水溶液にしたものを、卵等の原材料と混合し、加熱することにより卵加工食品を得ることもできる。
卵加工食品の製造には、全卵、卵黄、卵白、本発明の凝固促進剤の他、様々な原料を用いることができる。例えば、牛乳、砂糖、グルコース,フルクトース等の単糖類、蔗糖,マルト─ス,ラクトース,ラフィノース,マルトトリオース,トレハロ─ス,スタキオース,マルトテトラオース等の少糖類、及び糖アルコ─ル、ぶどう糖果糖液糖、還元水あめ、水あめ、オリゴ糖、還元オリゴ糖、はちみつ、スクラロース、アスパルテーム、ステビアなどの甘味料、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂などの食用油脂、塩類、食塩、醤油、胡椒、アミノ酸、塩化カルシウム、核酸、出汁等の調味料類、酢酸,クエン酸,乳酸,アジピン酸,グルコン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸、アスコルビン酸等の酸味料、湿熱処理澱粉、加工澱粉、ビタミンE等の酸化防止剤、色素等が挙げられる。
豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類を含む卵凝固促進剤の添加量は、豆類由来のガラクツロン酸を含有する水溶性多糖類として、好ましくは、卵の蛋白質の質量に対して、0.5~250質量%添加する。添加量の下限はより好ましくは、卵の蛋白質の質量に対して、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上とすることができる。また、添加量の上限は、より好ましくは230質量%以下、200質量%以下、150質量%以下、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下とすることができる。
また、加熱温度は好ましくは95℃未満であり、より好ましくは90℃以下である。また、下限の温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは55℃以上、60℃以上または65℃以上とすることができる。
また、加熱時間は好ましくは、5分間以上であり、より好ましくは8分間以上、10分間以上、12分間以上、15分間以上とすることもできる。また、加熱時間の上限は、好ましくは120分間以下であり、より好ましくは100分間以下、90分間以下、80分間以下、70分間以下とすることができる。
【実施例0015】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。尚、例中の%は特に断らない限り質量基準を意味するものとする。
【0016】
本発明において卵凝固促進剤として使用した水溶性多糖類は以下の通りである。
○水溶性大豆多糖類:「ソヤファイブ-S-DA100」(不二製油株式会社製)
○水溶性エンドウ多糖類:「FIPEA-D」(不二製油株式会社製)
○デキストリン:マルデックPH400P(昭和産業株式会社製)
○HMペクチン:GENU pectin type YM-115-LJ(三晶株式会社製)
○アラビアガム:アラビックコールSS(三栄薬品貿易株式会社製)
○プルラン:(株式会社林原製)
○ゼラチン:ニューシルバー顆粒(新田ゼラチン株式会社製)
【0017】
(全卵に対する卵凝固促進の試験)
本発明では卵の凝固促進の度合いを以下の方法で試験する。
表1に示す配合で、原材料を混合し、72℃、60分間加熱し、卵凝固物を得た。
なお、混合は、回転式粘度計(RheolabQC、ヤマト科学製、共軸円筒型ペルチェ温調システム、共軸円筒測定システムCC27/QC-LTD、羽根型測定システム(ST24-2D/2V/2V-30/109(特注))用いて100rpmの攪拌速度で粘度を測定した。加熱条件は、規定の温度(60または72℃)まで10分かけて昇温させ、達温後60分間加熱した。4秒ごとに粘度を測定し、3回連続で粘度の数値が低下した場合に凝固したとみなし、この時間を凝固時間とした。
また、得られた卵凝固物について、卵凝固物の状態、卵凝固物の離水について以下の基準で評価した。結果を表1に示した。
なお、全卵の蛋白質量は12.2%であった。
【0018】
(卵凝固物の評価)
1.卵凝固物の状態
2点:卵凝固物が塊となっている。
卵凝固物は弾力があり、強く押し込んでもつぶれにくい。
1点:卵凝固物が塊となっている。
卵凝固物は弾力があるが、強く押し込むとつぶれやすい。
0点:卵凝固物は小さな粒状が多く存在しており、弾力があまりなく押し込むとつぶれやすい。
-1点:卵凝固物は小さな粒状が多く存在しており、指でつかめないほど弾力が全くない。
2.卵凝固物の離水
1点:離水は全くしていない。
0点:測定機器の底面に少量の水分が発生している程度離水している。
-1点:配合中のほとんどの清水を離水しているため、取り出した容器の底面に離水した水分が多く見られている。
【0019】
(表1)
(*)凝固物の総合評価
凝固物の状態と離水の点数の合計点が、3点:◎、2点:○、1点:△、0点以下:×とした。
◎、○の場合、合格とした。
【0020】
表1に示す結果から、水溶性大豆多糖類を用いると、全卵の凝固促進効果が優れ、卵凝固物の品質も良好になることが確認された。
【0021】
(卵黄に対する卵凝固促進試験)
表2に示す配合で、原材料を混合し、72℃、60分間加熱し、卵凝固物を得た。卵凝固物の評価は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
なお、卵黄の蛋白質量は、16.5%であった。
【0022】
(表2)
(*)凝固物の総合評価
凝固物の状態と離水の点数の合計点が、3点:◎、2点:○、1点:△、0点以下:×とした。
◎、○の場合、合格とした。
【0023】
表2に示す結果から、水溶性大豆多糖類を用いると、卵黄においても凝固促進効果が優れ、卵凝固物の品質も良好になることが確認された。
【0024】
(卵白に対する卵凝固促進試験)
表3に示す配合で、原材料を混合し、60℃、60分間加熱し、卵凝固物を得た。結果を表3に示した。
なお、卵白の蛋白質量は、10.1%であった。
【0025】
【0026】
表3の結果から、卵白の凝固を促進することも確認された。
【0027】
(プリンにおける凝固促進試験)
プリンにおける凝固促進の評価は以下に示す方法で行った。
表4の配合に基づき、全卵、牛乳、水溶性大豆多糖類、清水を原料とし、各原料をマグネチックスターラーで混合した。混合物に生じている泡を取り除き、50mL容のコニカルチューブ(材質:ポリプロピレン)に40g充填した。水溶性大豆多糖類添加区(実施例6)、水溶性大豆多糖類無添加区(比較例8)をそれぞれ、10個用意した。これらを、90℃の恒温水槽に入れて2、4、6、8、10、12、14、16、18、20分間加熱し、氷水を用いて20℃まで冷却し、プリンを得た。
コニカルチューブの蓋を外して1分間逆さまにした時、中に入っているプリンが落ちてこない時の加熱時間のものを、凝固時間とした。結果を表4に示した。
【0028】
【0029】
表4の結果の通り、水溶性大豆多糖類を添加した実施例6では凝固促進することが確認された。
【0030】
(プリンにおける破断荷重上昇率、破断変形上昇率の検討1)
本発明の凝固促進剤を添加したプリンが、物性として良好かどうかを、破断荷重上昇率、破断変形上昇率を測定することで確認した。
表5-1~表5-3の配合に基づき、全卵、牛乳、各多糖類、清水を原料とし、各原料をマグネチックスターラーで混合した。混合物に生じている泡を取り除き、プリンカップに70g充填した。これをコンビオーブン(RATIONAL製、iCombiPro)を用いて、上記100%、風速レベル2の条件で、90℃、20分間加熱後、冷却してプリンを得た。以下に示す方法により、各プリンの破断荷重上昇率、破断変形上昇率を評価した。結果を表5-1(比較例9、実施例7~16)、表5-2(比較例10~16)、表5-3(比較例17~24)に示した。
【0031】
(破断荷重上昇率、破断変形上昇率の評価)
株式会社山電製のレオナーIIを用いて、各プリンの破断荷重、破断変形を測定した。
測定条件は以下の通りである。
・φ12mm球。サンプルの厚さ:30mm。サンプルの厚さの60%を押し込む。プランジャー速度:60mm/分。
以下の式により、多糖類無添加のプリンに対する破断荷重上昇率、破断変形上昇率を算出した。
【0032】
○破断荷重上昇率
本実施例における破断荷重(単位:gf)は、プリンが破断するまでにどの程度の力を要するかを示す指標であり、この値が大きければ硬くしっかりとしたプリンであると評価できる。
破断荷重上昇率が105%以上の場合、合格と判断した。破断上昇率は好ましくは110%以上である。
○破断荷重上昇率(%)=多糖類添加したプリンの破断荷重÷多糖類無添加のプリンの破断荷重×100
【0033】
○破断変形上昇率
また、本実施例における破断変形(単位:mm)は、プリンが破断するまでにどの程度押し込んだかを示す指標であり、多糖類添加のプリンの性質が、多糖類無添加のプリンの性質と同等であるかどうかを評価するものである。破断変形が極端に大きい場合は、ゼラチンプリンのような性質になり好ましくないということになる。
破断変形上昇率が90~150%の場合、合格と判断した。破断変形率は好ましくは95~140%である。
○破断変形上昇率(%)=多糖類添加したプリンの破断変形÷多糖類無添加のプリンの破断変形×100
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
表5-1~表5-3の通り、水溶性大豆多糖類や水溶性エンドウ多糖類を用いた実施例7~16では、破断荷重上昇率、破断変形上昇率が良好なプリンを作成できることが確認された。また、実施例で得られたプリンの離水はなく良好であった。一方、他の多糖類やゼラチンを用いた比較例10~24では破断荷重上昇率及び破断変形上昇率が悪かった。
【0038】
(プリンにおける破断荷重上昇率、破断変形上昇率の検討2)加熱時間の検討
表6に記載の原料で、加熱温度を85℃、加熱時間を15~60分間とした以外は実施例8と同様にしてプリンを作成し、評価を行った。結果を表6に示した。
【0039】
【0040】
水溶性大豆多糖類を用いた実施例で、破断荷重上昇率、破断変形上昇率が良好なプリンを作成できた。また、実施例で得られたプリンの離水はなく良好であった。
【0041】
(だし巻き卵における凝固促進試験)
本発明ではだし巻き卵の凝固促進の評価は以下の方法で試験した。
表7に示す配合で、原材料を混合し、72℃、60分間加熱し、だし巻き卵を得た。
なお、混合は、回転式粘度計(RheolabQC、ヤマト科学製、共軸円筒型ペルチェ温調システム、共軸円筒測定システムCC27/QC-LTD、羽根型測定システム(ST24-2D/2V/2V-30/109(特注))用いて100rpmの攪拌速度で粘度を測定した。加熱条件は、72℃まで10分かけて昇温させ、達温後60分間加熱した。4秒ごとに粘度を測定し、3回連続で粘度の数値が低下した場合に凝固したとみなし、この時間を凝固時間とした。
また、得られただし巻き卵について、だし巻き卵の状態、だし巻き卵の離水について以下の基準で評価した。結果を表7に示した。
【0042】
(だし巻き卵の評価)
1.だし巻き卵の状態
2点:だし巻き卵が塊となっている。
だし巻き卵は弾力があり、強く押し込んでもつぶれにくい。
1点:だし巻き卵が塊となっている。
だし巻き卵は弾力があるが、強く押し込むとつぶれやすい。
0点:だし巻き卵は小さな粒状が多く存在しており、弾力があまりなく押し込むとつぶれやすい。
-1点:だし巻き卵は小さな粒状が多く存在しており、指でつかめないほど弾力が全くない。
2.だし巻き卵の離水
1点:離水は全くしていない。
0点:測定機器の底面に少量の水分が発生している程度離水している。
-1点:配合中のほとんどの清水を離水しているため、取り出した容器の底面に離水した水分が多く見られている。
(*)だし巻き卵の総合評価
だし巻き卵の状態と離水の点数の合計点が、3点:◎、2点:○、1点:△、0点以下:×とした。
◎、○の場合、合格とした。
【0043】
【0044】
表7の結果の通り、水溶性大豆多糖類を添加した実施例18、19では凝固促進することが確認された。また、だし巻き卵の品質も良好であることがわかった。
【0045】
(だし巻き卵における破断荷重上昇率、破断変形上昇率の検討)
本発明の凝固促進剤を添加しただし巻き卵が、物性として良好かどうかを、破断荷重上昇率、破断変形上昇率を測定することで確認した。以下の手順で行った。
1.表8に示す各原料をマグネチックスターラーで混合した。混合は、オクタゴン回転子(38mm×φ8mm、300rpm)を用いて行った。なお、原料の「だし」は、ヤマキ(株)製の「割烹 白だし」を用いた。
2.卵焼き用フライパンを用いてだし巻き卵を調理した。
・菜種油を5g敷いて中火で加熱した。
・スラリーの1/3量を投入し、品温が85℃程度になるまで加熱した。
・卵を巻いて再度菜種油を敷きスラリーの1/3量を投入し、品温が85℃程度になるまで加熱した。
・卵を巻いて残りのスラリーも同様に行った。
3.株式会社山電製のレオナーIIを使用して3とは別に「3cmずつカットしただし巻き卵」の破断荷重と破断変形を測定した。
測定条件は以下の通りとした。
・幅30mmくさび。サンプルの厚さ:18mm。サンプルの厚さの100%押し込む。プランジャー速度:60mm/分。
結果を表8に示した。
なお、全卵の蛋白質量は12.2%であった。
【0046】
○破断荷重上昇率
本実施例における破断荷重(単位:gf)は、だし巻き卵が破断するまでにどの程度の力を要するかを示す指標であり、この値が大きければ硬くしっかりとしただし巻き卵であると評価できる。
破断荷重上昇率が105%以上の場合、合格と判断した。破断上昇率は好ましくは110%以上である。
○破断荷重上昇率(%)=多糖類添加しただし巻き卵の破断荷重÷多糖類無添加のだし巻き卵の破断荷重×100
【0047】
○破断変形上昇率
また、本実施例における破断変形(単位:mm)は、だし巻き卵が破断するまでにどの程度押し込んだかを示す指標であり、多糖類添加のだし巻き卵の性質が、多糖類無添加のだし巻き卵の性質と同等であるかどうかを評価するものである。
破断変形上昇率が90~150%の場合、合格と判断した。破断変形率は好ましくは95~140%である。
○破断変形上昇率(%)=多糖類添加しただし巻き卵の破断変形÷多糖類無添加のだし巻き卵の破断変形×100
【0048】
【0049】
表8に示す通り、だし巻き卵においても破断荷重上昇率、破断変形率とも良好の結果となった。