(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016769
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】止水工法、及び排水溝
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20240131BHJP
E04B 1/66 20060101ALI20240131BHJP
E03F 5/04 20060101ALI20240131BHJP
E01C 11/22 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C09K3/10 D
C09K3/10 E
C09K3/10 R
E04B1/66 Z
E03F5/04 Z
E01C11/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119122
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137822
【弁理士】
【氏名又は名称】香坂 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亘
【テーマコード(参考)】
2D051
2D063
2E001
4H017
【Fターム(参考)】
2D051AA01
2D051AC06
2D051AF03
2D051AF12
2D051AG13
2D051AG17
2D051AH03
2D063CA08
2D063CA11
2D063CB02
2E001DA01
2E001FA30
2E001GA06
2E001GA08
2E001HD11
2E001MA03
2E001MA06
4H017AA04
4H017AB01
4H017AB03
4H017AD02
4H017AE03
(57)【要約】
【課題】排水溝における漏水を止水又は防止する新たな技術を提供する。
【解決手段】コンクリート製床版と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを有する鋼製の排水溝における漏水を止水する止水工法であって、鋼製底板に、所定の間隔をあけて、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔を形成する注入孔の削孔工程と、注入孔の削孔工程で形成した孔に、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、 樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤を充填する充填工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製床版と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを有する鋼製の排水溝における漏水を止水する止水工法であって、
鋼製底板に、所定の間隔をあけて、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔を形成する注入孔の削孔工程と、
注入孔の削孔工程で形成した孔に、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、 樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤を充填する充填工程と、を含む止水工法。
【請求項2】
注入孔は、第1の注入孔、第1の注入孔に隣接する第2の注入孔、第2の注入孔に隣接する第3の注入孔、第3の注入孔に隣接する第4の注入孔を有し、
充填工程では、第1の注入孔から止水剤を充填し、第1の注入孔から止水剤を充填しながら、第2の注入孔、及び第3の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第2の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第3の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第1の注入孔からの注入を終了し、第2の注入孔から止水剤を充填し、第2の注入孔から止水剤を充填しながら、第3の注入孔、及び第4の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第3の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第4の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第2の注入孔からの注入を終了する、請求項1に記載の止水工法。
【請求項3】
止水工法は、充填工程において、モルタル層と鋼製底板との隙間に介在する空気を逃がす空気孔を形成する空気孔の削孔工程を更に備える、請求項1に記載の止水工法。
【請求項4】
充填工程では、止水剤の前に水を充填する、請求項1に記載の止水工法。
【請求項5】
コンクリート製床版と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを備える鋼製の排水溝であって、
所定の間隔をあけて鋼製底板に、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔を形成する注入孔の削孔工程と、
注入孔の削孔工程で形成した孔に、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、 樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤を充填する充填工程と、を含む止水工法を行うことで、
モルタル層と、鋼製底板との隙間に止水剤が充填された止水剤領域を更に備える排水溝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水工法、及び排水溝に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の打ち継目やクラック等から漏水が生じた場合に止水する技術がある。例えば、特許文献1には、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20であることを特徴とする止水剤が開示されている。また、特許文献1には、コンクリート構造物の漏水の原因である間隙と交わるように当該コンクリート構造物に注入孔を削孔する工程と、石油樹脂及びアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)とウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを質量比(A液:B液)100:5~100:20で混合して注入孔に圧入する工程と、を有する止水工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、コンクリート構造物からの漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。ここで、構造物からの漏水は、コンクリート構造物に限られたものではない。例えば、構造物からの漏水は、鋼材とコンクリートとの境界など、モルタル層、セメント層、砂層、砕石層と鋼製部材との隙間から漏水が発生することが想定される。鋼材などの金属製部材を含む構造物は、錆による止水性能の変化も懸念される。
【0005】
金属製部材を含む構造物の一例として、鋼製の排水溝がある。鋼製の排水溝の一例として、道路や鉄道の側方に設けられた鋼製の排水溝がある。このような鋼製の排水溝の一例として、コンクリート製の床版と、コンクリート製の床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを有するものがある。このような鋼製の排水溝では、経年により、モルタル層と鋼製底板との間に隙間ができ、この隙間に水が浸入し、最終的に、道路や鉄道の床版から漏水することが懸念されていた。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑み、排水溝における漏水を止水又は防止する新たな技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者は、誠意研究を重ねた結果、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤が、コンクリート以外の部材、例えば、モルタル、セメント、砂、砕石、金属製部材、樹脂製部材、との付着性能にも優れ、更に、防錆性能にも優れていることを見出した。また、本発明者は、誠意研究を重ねた結果、鋼製の排水溝における漏水にも適していることを見出した。
【0008】
詳細には、本発明は、コンクリート製床版と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを有する鋼製の排水溝における漏水を止水する止水工法であって、鋼製底板に、所定の間隔をあけて、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔を形成する注入孔の削孔工程と、注入孔の削孔工程で形成した孔に、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、 樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤を充填する充填工程と、を含む止水工法である。
【0009】
本発明に係る止水工法に用いる止水剤は、コンクリート以外の部材、例えば、モルタル、セメント、砂、砕石、金属製部材、樹脂製部材、との付着性能にも優れている。そのため、本発明に係る止水工法によれば、コンクリート製床版と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを有する鋼製の排水溝における漏水を、短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。また、本発明に係る止水剤は、防錆性能にも優れている。そのため、本発明に係る止水工法によれば、仮に構成床版に錆が発生している場合でも、鋼製の排水溝における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。また、漏水が発生していない場合でも、漏水が想定される隙間に孔を介して止水剤を充填することで、漏水を防止することができる。
【0010】
鋼製の排水溝は、金属製の蓋を更に有するものでもよい。また、構成床版は、モルタル層に代えて、セメント層、砂層、砕石層の上に敷設されていてもよい。鋼製の排水溝には、道路、例えば高速道路の側方に設けられた排水溝が例示されるがこれに限定されない。鋼製の排水溝は、例えば、鉄道の側方に設けられた排水溝でもよい。
【0011】
注入孔の所定の間隔は、排水溝の幅、鋼製底板とモルタル層との隙間等に基づいて、決定することができる。鋼製底板とモルタル層との間に隙間が形成されているか否かについては、打音検査、穿孔してカメラを挿入して確認するカメラ検査等を含む、調査工程を行うことで確認することができる。注入孔の所定の間隔は、例えば、1000mm~500mm、より好ましくは、500mm~300mmとすることができる。なお、注入孔の所定の間隔は、上記に限定されず、1000mm以上としてもよく、また、300mm以下としてもよい。
【0012】
止水剤は、樹脂エマルジョンのA液と、ウレタン組成物のB液を用いる2液型の止水剤である。樹脂エマルジョンのA液は、石油樹脂とアクリル樹脂を水に分散・乳化させたエマルジョンを含有する。石油樹脂は、例えば芳香族(C9)系石油樹脂である。また、石油樹脂は、脂肪族/芳香族共重合(C5/C9)系石油樹脂(C 410:Petroleum resins、CAS番号64742-16-1)でもよく、また、水添石油樹脂、天然ロジンでもよい。ウレタン組成物のB液は、ポリイソシアネートを主材料とするウレタンプレポリマーを含有する。ウレタンプレポリマーは、例えば、合成反応装置にポリオールおよびイソシアネート化合物を仕込んで撹拌し、60~160℃で反応させて得ることができる。
【0013】
ここで、注入孔は、第1の注入孔、第1の注入孔に隣接する第2の注入孔、第2の注入孔に隣接する第3の注入孔、第3の注入孔に隣接する第4の注入孔を有し、充填工程では、第1の注入孔から止水剤を充填し、第1の注入孔から止水剤を充填しながら、第2の注入孔、及び第3の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第2の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第3の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第1の注入孔からの注入を終了し、第2の注入孔から止水剤を充填し、第2の注入孔から止水剤を充填しながら、第3の注入孔、及び第4の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第3の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第4の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第2の注入孔からの注入を終了する、ようにしてもよい。
【0014】
上記のように充填することで、モルタル層と鋼製底板との隙間に、より確実に止水剤を充填することができる。その結果、鋼製の排水溝における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。「隣接する」とは、隣り合っていることを意味し、接している必要はない。隣接する注入孔の間隔は、上述したように、例えば、1000mm~500mm、より好ましくは、500mm~300mmとすることができる。なお、注入孔の所定の間隔は、上記に限定されず、1000mm以上としてもよく、また、300mm以下としてもよい。
【0015】
また、本発明に係る止水工法は、充填工程において、モルタル層と鋼製底板との隙間に介在する空気を逃がす空気孔を形成する空気孔の削孔工程を更に有する止水工法としてもよい。
【0016】
鋼製底板に空気孔を形成することで、モルタル層と鋼製底板との隙間に介在する空気を逃がすことができ、モルタル層と鋼製底板との隙間に、より確実に止水剤を充填することができる。その結果、鋼製の排水溝における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。
【0017】
また、本発明に係る止水工法において、充填工程では、止水剤の前に水を充填するようにしてもよい。水を充填することで、モルタル層と鋼製底板との隙間に介在する空気を逃がすとともに、モルタル層と鋼製底板との隙間に介在するゴミなどの不要物を排除することができる。これにより、止水剤と、モルタル層及び鋼製底板との付着強度を向上することができる。その結果、鋼製の排水溝における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。
【0018】
ここで、本発明は、排水溝として特定してもよい。詳細には、コンクリート製床版と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを備える鋼製の排水溝であって、所定の間隔をあけて鋼製底板に、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔を形成する注入孔の削孔工程と、注入孔の削孔工程で形成した孔に、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、 樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤を充填する充填工程と、を含む止水工法を行うことで、モルタル層と、鋼製底板との隙間に止水剤が充填された止水剤領域を更に備える排水溝である。
【0019】
本発明に係る排水溝では、モルタル層と、鋼製底板との隙間に止水剤が充填されており、漏水が発生していない場合でも、漏水を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、排水溝における漏水を止水又は防止する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】
図2は、実施形態に係る鋼製の排水溝を含む橋脚の平面図を示す。
【
図4】
図4は、実施形態に係る止水工法のフロー図を示す。
【
図5】
図5は、実施形態に係る調査書に記録された空洞領域を示すスケッチ図を示す。
【
図6】
図6は、実施形態に係る止水剤の充填イメージ図を示す。
【
図7】
図7は、止水処理後の排水溝の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明は例示であり、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
【0023】
<止水剤>
実施形態に係る止水剤は、樹脂エマルジョンのA液と、ウレタン組成物のB液を用いる2液型の止水剤であり、コンクリート、金属製部材、樹脂製部材との付着性能に優れ、更に、防錆性能や凍結融解抵抗性にも優れている。
【0024】
樹脂エマルジョンのA液は、石油樹脂とアクリル樹脂を水に分散・乳化させたエマルジョンを含有する。石油樹脂は、例えば芳香族(C9)系石油樹脂である。また、石油樹脂は、脂肪族/芳香族共重合(C5/C9)系石油樹脂(C 410:Petroleum resins、CAS番号64742-16-1)でもよく、また、水添石油樹脂あるいは天然ロジンでもよい。A液における石油樹脂の含有量は、例えば20~60Wt%、望ましくは30~45Wt%である。石油樹脂は、ナフサクラッカーから生成するC5留分やC9留分のカチオン重合により製造することができる。A液のアクリル樹脂は、例えばアクリル酸ブチルエステルである。A液におけるアクリル樹脂の含有量は、例えば5~30Wt%、望ましくは7~20Wt%である。
【0025】
なお、A液は、乳化剤を含有してもよい。乳化剤には、ポリビニルアルコールが例示される。A液における乳化剤の含有量は、例えば1~10Wt%、望ましくは2~4Wt%である。A液における水の含有量は、例えば20~75Wt%、望ましくは35~55Wt%である。
【0026】
また、A液には、イソシアネート化合物を含む硬化促進剤が、使用直前に混合される。硬化促進剤は、例えば、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン縮合物、γ-ブチロラクトン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートを含有する。
【0027】
石油樹脂とアクリル樹脂を水に分散・乳化させたエマルジョンには、アルファー・ゾルG(登録商標:三生化工株式会社)が例示される。また、硬化促進剤には、アルファー・ゾル-ゲル化剤(登録商標:三生化工株式会社)が例示される。なお、硬化促進剤は、A液でなく、B液に混合してもよい。
【0028】
ウレタン組成物のB液は、ポリイソシアネートを主材料とするウレタンプレポリマーを含有する。ウレタンプレポリマーは、例えば、合成反応装置にポリオールおよびイソシアネート化合物を仕込んで撹拌し、60~160℃で反応させて得ることができる。ポリオールは、一種または二種以上のポリオールを含有するものであり、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアセタールポリオールが例示される。
【0029】
ポリエーテルポリオールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエルスリトール、ソルビトール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ペンタンジオール等の多価アルコール類のアルキレンオキサイド付加物が例示される。また、アルキレンオキサイドには、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが例示され、これらの一種または二種以上を付加することができる。
【0030】
また、ポリエーテルポリオールには、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコールに加え、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールの1種または2種以上から構成される2量体その他の低分子量体も含まれる。
【0031】
ポリエステルポリオールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン又はトリメチロールプロパン等のポリオールとコハク酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等の飽和又は不飽和の多価カルボン酸、若しくはこれらの酸無水物との縮合生成物やポリカプロラクトンポリオール等が例示される。
【0032】
イソシアネート化合物には、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが例示される。
【0033】
B液のウレタン組成物は、ウレタンプレポリマーの他、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)や有機酸エステルを含有してもよい。
【0034】
B液におけるウレタンプレポリマーの含有量は、例えば40~90Wt%、望ましくは50~70Wt%である。また、B液におけるポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートの含有量は、例えば0~30Wt%、望ましくは5~15Wt%である。
【0035】
B液には、ハイセル(登録商標:東邦化学工業株式会社)OH-1Xが例示される。
【0036】
実施形態に係る止水剤は、コンクリート、モルタル、セメント、砂、砕石、鋼製部材(金属製部材の一例)、樹脂製部材との付着性能にも優れ、防錆性能及び凍結融解抵抗性にも優れている。そのため、実施形態に係る止水剤は、コンクリート、モルタル、セメント、砂、砕石、鋼製部材、樹脂製部材とのうち少なくとも何れか一つを含む構造物からの漏水を、短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。また、実施形態に係る止水剤によれば、錆が発生している漏水原因箇所や錆の発生が想定される漏水原因箇所からの漏水も短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。更に、実施形態に係る止水剤によれば、寒冷地に存在する構造物からの漏水も短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。また、漏水が発生していない場合には、漏水が想定される漏水原因箇所に止水剤を充填することで、漏水を防止することができる。実施形態に係る止水剤は、金属製部材を含む構造物の一例として、鋼製の排水溝、例えば、道路や鉄道の側方に設けられた鋼製の排水溝であって、コンクリート製の床版と、コンクリート製の床版の上に敷設されたモルタル層と、モルタル層の上に敷設された鋼製底板とを有する排水溝に好適に用いることができる。
【0037】
<充填装置>
図1は、実施形態に係る充填装置を示す。実施形態に係る充填装置6は、第1タンク61、第1ポンプ62、第1配管63、第1バルブ64、第2タンク71、第2ポンプ72、第2配管73、第2バルブ74、変圧器81、混合機91、ノズル92を備える。
【0038】
第1タンク61は、A液及びB液を貯蔵する。第1ポンプ62は、図示しない電源と接続され、第1タンクに貯蔵されたA液及びB液を圧送する。第1配管63は、一端が第1タンク61に接続され、他端が混合機91に接続され、圧送されたA液及びB液が流れる。第1バルブ64は、第1配管63に設けられ、第1配管63の流路を開閉する。
【0039】
第2タンク71は、硬化促進剤を貯蔵する。第2ポンプ72は、図示しない電源と接続され、第2タンクに貯蔵されたB液を圧送する。第2配管73には、圧送された硬化促進剤が流れる。第2バルブ74は、第2配管73に設けられ、第2配管73の流路を開閉する。
【0040】
変圧器81は、電圧を変化させることで、圧送する硬化促進剤の供給量を調整する。これにより、圧送する硬化促進剤の供給量の調整を容易に行うことができる。なお、第1バルブ64や第2バルブ74を絞り弁や流量調整弁で構成し、これらのバルブの開度を調整して、A液、B液、及び硬化促進剤の質量比(混合比)を調整してもよい。混合機91は、攪拌翼を有し、A液、B液、及び硬化促進剤を混合する。ノズル92は、混合された止水剤を吐出する。
【0041】
なお、第1タンク61にA液及び硬化促進剤を貯蔵し、第1ポンプ62でA液及び硬化促進剤を圧送し、第2タンク71にB剤を貯蔵し、第2ポンプ72でB剤を圧送するようにしてもよい。
【0042】
実施形態に係る充填装置6によれば、A液、B液、及び硬化促進剤を効率よく混合して止水剤を生成し、生成した止水剤を漏水原因箇所に充填することができる。
【0043】
<鋼製の排水溝の構成>
次に実施形態に係る止水剤を用いた止水工法について説明する。以下の説明では、鋼製の排水溝の止水を例に説明する。
図2は、実施形態に係る鋼製の排水溝を含む橋脚の平面図であり、
図3は、
図2のA-A断面図、換言すると、実施形態に係る鋼製の排水溝の断面図である。実施形態に係る鋼製の排水溝1は、構造物5の一部を構成する。実施形態に係る構造物5は、高速道路用の橋梁であり、図示しない鉄筋コンクリート製の橋脚(以下、単に橋脚という)、橋脚に連なる鉄筋コンクリート製の床版11(以下、単に床版11ともいう)、床版11に支持される道路2、床版11に支持され、かつ、道路2の側方に設けられ、道路に沿って延びる鋼製の排水溝1、床版11に支持され、かつ、鋼製の排水溝1の側方に設けられ、鋼製の排水溝1に沿って延びる鉄筋コンクリート製の壁高欄3(以下、単に壁高欄3ともいう)によって構成されている。道路2は、アスファルト舗装からなり、鋼製の排水溝1側が低くなるように僅かに傾斜している。そのため、雨天の際、道路上の雨水等は、鋼製の排水溝1に流れ込む。道路2は、アスファルト舗装に限らず、例えばコンクリート舗装でもよい。床版11は、鉄筋コンクリート製の床版に限らず、鋼製の床版、鋼製とRC製を組み合わせた合成の床版等でもよい。壁高欄3は、柵であり、鉄筋コンクリート製の壁高欄に限らず、鋼製の壁高欄、鋼製とRC製を組み合わせた合成の壁高欄等でもよい。
【0044】
鋼製の排水溝1は、コンクリート製の床版11と、床版11の上に敷設されたモルタル層12と、モルタル層12の上に敷設された鋼製底板13と、鋼製底板13を覆う鋼製のカバー14(蓋部)を備える。床版11は、鋼製の排水溝1の他、道路2、及び壁高欄3を支持する。モルタル層12は、鋼製底板13を支持する。モルタル層12は、セメント層、砂層、砕石層等でもよい。鋼製底板13は、道路から流れ込む水が流れる排水溝であり、モルタル層12と接し、道路2面よりも低く形成された平面状の底板部131、底板部131の一方の端部から立ち上げられ、道路2の側面に接する道路側垂直部132、底板部131の他方の端部から立ち上げられ、壁高欄3に接する壁高欄側垂直部133を備える構成である。鋼製のカバー14は、鋼製底板13を覆う。鋼製のカバー14は、省略してもよい。図示では、省略するが、例えば、モルタル層2のモルタルが減少するなどして、鋼製底板13とモルタル層12との間に隙間が形成され、水の通り道が形成され、最終的に床版11下部からの漏水が起こり得る。
【0045】
<止水工法>
図4は、実施形態に係る止水工法のフロー図である。調査工程(S01)では、空隙の状況を確認するとともに、空隙に止水剤が充填されたことを比較して確認するための準備として、調査が行われる。具体的には、まず、鋼製のカバー14が外される。次に、鋼製の排水溝1に堆積している土砂等の清掃が行われる。次に、打音診断棒を用いて鋼製底板13を叩いて空隙の状況確認(空洞調査)が行われる。空隙が形成された領域(空洞領域ともいう)は、鋼製底板13にマーキングされ、かつ、例えば、調査書に記録される。
図5は、実施形態に係る調査書に記録された空洞領域を示すスケッチ図である。鋼製の排水溝1、換言すると鋼製底板13が所定の間隔で区分けされるとともに、識別番号が付され、区分けされた領域ごとに、打音により空洞が形成されていると確認された空洞領域が記録される。
図5において、塗りつぶされた領域が、空洞領域を示す。本実施形態では、所定の間隔を1200mmとしたが、これに限定されない。所定の間隔は、鋼製の排水溝1の幅(鋼製底板13の幅)、空洞領域の状況に応じて、適宜設計することができる。調査工程が終了すると、削孔工程(S02)へ進む。なお、本実施形態では、調査工程において、打音診断棒を用いて鋼製底板13を叩いて、空洞領域を確認することとしたが、他の方式、例えば、カメラを用いて空洞領域を確認するようにしてもよい。カメラには、ファイバースコープカメラ、サーモカメラが例示される。
【0046】
削孔工程(S02)は、注入孔の削孔工程と、空気孔の削孔工程を含む。注入孔の削孔工程では、鋼製底板13に、所定の間隔をあけて、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔が形成される。注入孔の所定の間隔は、排水溝1の幅(本実施形態の鋼製底板13の幅は、430mm)、鋼製底板13とモルタル層との隙間(空洞)等に基づいて、決定することができる。本実施形態の注入孔は、鋼製底板13の幅方向中心付近に、隣接する(隣り合う)注入孔同士の間隔が約400mmとなるように、道路2の長手方向に沿うように直線状に設けられている。換言すると、1200mmで区切られた鋼製底板13毎に3つの注入孔が形成されている。排水溝1の幅が実施形態と比較して大きい場合や、空洞が大きい場合には、注入孔の間隔を小さくしてもよい。また、注入孔の配置に関しても、直線状ではなく、交互(例えば、連続するZ字状)に形成してもよい。また、排水溝1の幅が実施形態と比較して小さい場合や、空洞が小さい場合には、注入孔の間隔を大きくしてもよい。
【0047】
注入孔の削孔工程では、まず、削孔位置がマーキングされる。次に、電気度ドリル(アトラマスター)で、鋼製底板13に孔が開けられる。次に、ねじ切り(タップハンドル)が行われる。次に、ねじ切りされた注入孔に、充填装置6のノズル92の先端を接続するための、補助器具としてのニップルが取り付けられる。ニップルが取り付けられると、削孔工程が終了し、充填工程へ進む。
【0048】
空気孔の削孔工程では、モルタル層と鋼製底板との隙間に介在する空気を逃がす空気孔が形成される。
図6に示す例では、第1の注入孔の近く、換言すると充填する際の始点側に、空気孔が形成されている。空気孔は、充填する際の終点側にも形成することができる。空気孔は、空気孔の削孔工程において、削孔位置がマーキングされ、電気度ドリル(アトラマスター)で、鋼製底板13に孔が開けられることで形成することができる。
【0049】
充填工程(S03)では、充填装置6を用いて、止水剤が充填される。止水剤の充填は、充填状況(注入状況)を確認しながら行われる。ここで、
図6は、実施形態に係る止水剤の充填イメージ図を示す。注入孔は、第1の注入孔、第1の注入孔に隣接する第2の注入孔、第2の注入孔に隣接する第3の注入孔、第3の注入孔に隣接する第4の注入孔を有する。充填工程では、第1の注入孔から止水剤を充填し、第1の注入孔から止水剤を充填しながら、第2の注入孔、及び第3の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第2の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第3の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第1の注入孔からの注入を終了し、第2の注入孔から止水剤を充填し、第2の注入孔から止水剤を充填しながら、第3の注入孔、及び第4の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第3の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第4の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第2の注入孔からの注入を終了する。以上を繰り返し、充填工程が終了する。充填工程が終了すると、確認工程(S04)へ進む。「隣接する」とは、隣り合っていることを意味し、接している必要はない。隣接する注入孔の間隔は、本実施形態では、400mmである。注入孔の所定の間隔は、上記に限定されない。
【0050】
ここで、充填工程では、止水剤の前に水を充填するようにしてもよい。水を充填することで、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に介在する空気を逃がすとともに、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に介在するゴミなどの不要物を排除することができる。これにより、止水剤と、モルタル層12及び鋼製底板13との付着強度を向上することができる。その結果、鋼製の排水溝1における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。
【0051】
確認工程(S04)では、空隙に止水剤が充填されたことが確認される。具体的には、打音診断棒を用いて鋼製底板13を叩いて、空隙に止水剤が充填されたか否か、換言すると、空隙が存在するか否か確認される。確認工程は、調査工程における鋼製底板13のマーキング箇所について、調査工程における調査書の記録と比較して行われる。止水剤の充填が不十分であることが確認された場合には、調査工程(S01)、削孔工程(S02)、充填工程(S03)が再度行われる。止水剤の充填が十分であることが確認された場合には、鋼製のカバー14が設置され、止水工程が終了する。なお、本実施形態では、確認工程において、打音診断棒を用いて鋼製底板13を叩いて、空洞領域を確認することとしたが、他の方式、例えば、カメラを用いて空洞領域を確認するようにしてもよい。カメラには、ファイバースコープカメラ、サーモカメラが例示される。
【0052】
<止水処理後の排水溝>
図7は、止水処理後の排水溝の断面図を示す。実施形態に係る止水処理後(止水工程を行った後)の排水溝1は、コンクリート製床版11と、コンクリート製床版の上に敷設されたモルタル層12と、モルタル層12の上に敷設された鋼製底板13とを備える鋼製の排水溝1であり、所定の間隔をあけて鋼製底板13に、漏水を止水する止水剤を注入する注入孔を形成する注入孔の削孔工程と、注入孔の削孔工程で形成した孔に、石油樹脂とアクリル樹脂をポリビニルアルコールによって水に乳化させた樹脂エマルジョン(A液)と、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物(B液)とを混合して成り、 樹脂エマルジョンとウレタン組成物の質量比(A液:B液)が、100:5~100:20である止水剤を充填する充填工程と、を含む止水工法を行うことで、モルタル層12と、鋼製底板13との隙間に止水剤が充填された止水剤領域Sを更に備える構成である。
【0053】
<試験>
次に、橋梁のコンクリート床版間等からの漏水に対する本発明の止水工法の適用性を確認するために行った室内充填試験について説明する。
【0054】
<室内充填試験の概要、試験体の構造>
室内充填試験では、充填状況を目視で確認できるよう、鋼製底板13に代えて、透明アクリル板を使用した。詳細には、現場の排水溝材質は鋼板であるが、STTG材(止水剤の一例)の充填性確認のため、アクリル板を表面に取り付け、一部鉄板を敷くことにより充填後の付着性を確認することした。なお、現地での打音検査で推定した空隙部の形状のうち、現地の排水溝下部の状況を加味し、STTG材の充填性を最も阻害する形状とした。また、型枠側面の2 箇所に小型カメラを挿入できるスペースを2 箇所確保した。
【0055】
<試験手順>
試験手順は、
図4に示す止水工法のフロー、
図6の充填イメージに準じて行った。具体的には、以下の手順で行った。
a.削孔位置にマーキングを行う。
b.電気ドリル(アトラマスター)で鉄板(鋼製底板13)を削孔して穴をあける。
c.ねじ切り(タップハンドル)を行う。
d.ニップルを取り付ける.
e.水とおしを行う。
f.STTG 材料(止水剤の一例)を注入する。
g.注入状況の確認。
・水を先行注入した後、STTG 材料(止水剤の一例)を第一注入孔から注入開始
・第2注入孔、及び第3注入孔からの止水剤のリーク確認後、第2注入孔にニップルを取り付け追加注入開始
・第3注入孔より止水剤のリーク確認
・上記工程を繰り返し、注入作業を実施
※圧力をかけ注入を行い過ぎると排水溝1が持ち上がってしまうことから、排水溝脇から止水剤がリークした段階で注入を止め、次の注入孔から注入し、止水剤を充填させる。
【0056】
<試験条件の詳細>
図8は、試験体の寸法を示す。試験体1は、予備試験用の試験体である。試験体2、3については、充填部の最深部深さ1cm、充填部の中断部深さ0.5cmとした。
図9は、試験体の断面図を示す。鋼製底板13(透明アクリル板)の幅は、430mm(43cm)、注入孔の間隔は400mm(40cm)とした。始点側と終点側に空気孔が形成されている。また、付着強度を確認するため、始点側、終点側の一部が、アクリル板に代えて鉄板によって形成されている。また、小型カメラ挿入口が2か所形成されている。
図10は、試験体ごとの止水剤の配合を示す。試験体1について、主材として、アルファー・ゾル-STTG 4.0kg、アルファー・ゾル-ゲル化剤 0.12kg、水 0.2kgを使用した。硬化促進剤として、 ハイセルOH-1X(主材に対し6.1%)(重量比)を使用した。ゲルタイムは、24分39秒である。試験体2について、主材として、アルファー・ゾル-STTG 4.0kg、アルファー・ゾル-ゲル化剤 0.12kg、水 0.2kgを使用した。硬化促進剤として、ハイセルOH-1X(主材に対し5.0%)(重量比)を使用した。ゲルタイムは、10分10秒である。試験体3について、主材として、アルファー・ゾル-STTG 4.0kg、アルファー・ゾル-ゲル化剤 0.2kg、水 0.2kgを使用した。硬化促進剤として、ハイセルOH-1X(主材に対し5.3%)(重量比)を使用した。ゲルタイムは、16分1秒である。
【0057】
<室内充填試験の結果>
<<充填状況>>
STTG材(止水剤の一例)の目視により空隙部は見られず、また、ファイバースコープ孔からのSTTG材(止水剤の一例)のリークも確認でき充填性は問題ないことが確認できた。
図11は、充填状況の確認結果を示す。試験体1は、予備試験である。試験体2について、初期は水通しを行わずに注入したため、十分な充填はなされなかった。途中から水通しを行ったことで、充填性が向上したことが確認できた。また、ファイバースコープ孔からの材料のリークが一部確認された。試験体3について、STTG材の目視により空隙(空洞領域)は見られず、また、ファイバースコープ孔からのSTTG材リークも確認でき、充填性は問題ないことが確認できた。ゲルタイムは、16分01秒であった。
【0058】
<<切断試験、付着状況>>
充填性が最も優れていた試験体3について、試験体の切断による充填、及び付着状況の確認を行った。
図13は、試験体の切断箇所を示す。試験体の切断は、
図13における丸付き数字1~5(以下「1」、「2」、「3」、「4」、「5」で示す)の箇所で行った。「1」は、第1注入孔の近傍、かつ、試験体3の始点側、鉄板とアクリル板の境界付近、「2」は、第2注入孔の近傍、かつ、小型カメラ挿入口付近(モルタル「少」)、「3」は、第3注入孔と第4注入孔の中間付近、「4」は、第4注入孔の近傍、かつ、小型カメラ挿入口付近(モルタル「多」)、「5」は、第4注入孔の下流側(第1注入孔を上流側、第4注入孔を下流側)、かつ、試験体3の終点側、鉄板とアクリル板の境界付近である。また、終点側の鉄板について、止水剤と鉄板との付着強度試験を行った。具体的には、鉄板を3つに切断して、試験体A、試験体B、試験体Cを作成して、付着強度試験を行った。
【0059】
切断位置の断面状況を確認したところ、止水剤が、いずれの断面でも排水溝の厚さ方向において、確実に充填されていることが確認された。
図14は、付着強度試験の結果を示す。
図14に示すように、試験体Aについては、付着強度 209N(0.13N/mm
2)、試験体Bについては、付着強度 136N(0.09N/mm
2)、試験体Cについては、付着強度 78N(0.11N/mm
2)であった。今回の付着強度の3個の平均値は、0.11N/mm
2となっており、この結果は、鋼材とSTTG材(止水剤の一例)が隙間なく密着していることを示しており、側溝下の水みちを完全に塞ぐという要求に対しては、十分な結果であったと言える。
【0060】
<効果>
実施形態に係る止水工法によれば、コンクリート製床版11と、コンクリート製床版11の上に敷設されたモルタル層12と、モルタル層12の上に敷設された鋼製底板13とを有する鋼製の排水溝1における漏水を、短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。また、実施形態に係る止水剤は、防錆性能にも優れている。そのため、実施形態に係る止水工法によれば、仮に構成床版11に錆が発生している場合でも、鋼製の排水溝1における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。また、漏水が発生していない場合でも、漏水が想定される隙間に孔を介して止水剤を充填することで、漏水を防止することができる。
【0061】
また、注入孔は、第1の注入孔、第1の注入孔に隣接する第2の注入孔、第2の注入孔に隣接する第3の注入孔、第3の注入孔に隣接する第4の注入孔を有し、充填工程では、第1の注入孔から止水剤を充填し、第1の注入孔から止水剤を充填しながら、第2の注入孔、及び第3の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第2の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第3の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第1の注入孔からの注入を終了し、第2の注入孔から止水剤を充填し、第2の注入孔から止水剤を充填しながら、第3の注入孔、及び第4の注入孔から止水剤がリークするのを確認し、第3の注入孔からの止水剤のリーク確認後、第4の注入孔からの止水剤のリークが確認されると、第2の注入孔からの注入を終了するようにすることで、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に、より確実に止水剤を充填することができる。その結果、鋼製の排水溝1における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。
【0062】
また、充填工程において、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に介在する空気を逃がす空気孔を形成することで、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に介在する空気を逃がすことができ、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に、より確実に止水剤を充填することができる。その結果、鋼製の排水溝1における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。
【0063】
また、充填工程では、止水剤の前に水を充填することで、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に介在する空気を逃がすとともに、モルタル層12と鋼製底板13との隙間に介在するゴミなどの不要物を排除することができる。これにより、止水剤と、モルタル層12及び鋼製底板13との付着強度を向上することができる。その結果、鋼製の排水溝1における漏水を短時間で止水し、また、長期にわたって止水することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明に係る止水工法、排水溝は、これらに限られず、可能な限りこれらを組み合わせることができる。本実施形態では、構造物として、高速道路用の橋梁について説明したが構造物は、これらに限定されない。構造物は、例えば、鉄道用の橋梁でもよい。また、排水溝は、橋梁に設けられたものに限定されない。橋梁以外の道路の側方に設けられた排水溝でもよい。
【符号の説明】
【0065】
1・・・鋼製の排水溝、11・・・床版、12,モルタル層、13・・・鋼製底板、14・・・カバー、2・・・道路、3・・・壁高欄、5・・・構造物6・・・充填装置、61・・・第1タンク、62・・・第1ポンプ、63・・・第1配管、64・・・第1バルブ、71・・・第2タンク、72・・・第2ポンプ、73・・・第2配管、74・・・第2バルブ、81・・・変圧器、91・・・混合機、92・・・ノズル