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特開2024-167693含フッ素ポリマーを含有する紫外光発光素子用レンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167693
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】含フッ素ポリマーを含有する紫外光発光素子用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20241127BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20241127BHJP
   C08F 24/00 20060101ALI20241127BHJP
   C08F 16/32 20060101ALI20241127BHJP
   C08F 34/02 20060101ALI20241127BHJP
   C07D 317/16 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
G02B1/04
C08J5/00 CEW
C08F24/00
C08F16/32
C08F34/02
C07D317/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083943
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真利 大地
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠希
【テーマコード(参考)】
4F071
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA27X
4F071AA30
4F071AA30X
4F071AF25Y
4F071AF30Y
4F071AH19
4F071BC01
4F071BC07
4F071BC12
4J100AE65P
4J100AR32P
4J100AU28P
4J100BA02P
4J100BB07P
4J100BB18P
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA48
4J100DA62
4J100JA33
(57)【要約】
【課題】本開示は、含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含み、高硬度な含フッ素ポリマーを含有する紫外光発光素子用レンズの提供を一つの目的とする。
【解決手段】本開示は次の紫外光発光素子用レンズに関する。
含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む含フッ素ポリマー(A)を含有する紫外光発光素子用レンズであって、
前記含フッ素ポリマー(A)の含フッ素脂肪族環は、環構成原子として1、2、又は3個のエーテル性酸素原子を有し、当該含フッ素脂肪族環が当該エーテル性酸素原子を複数含むときは当該エーテル性酸素原子は互いに隣り合わず、
前記含フッ素ポリマー(A)は、下記の特性(a)及び(b):
(a)240nm~340nmの波長における平均透過率が85%以上
(b)鉛筆硬度がF以上
を有する、紫外光発光素子用レンズ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む含フッ素ポリマー(A)を含有する紫外光発光素子用レンズであって、
前記含フッ素ポリマー(A)の含フッ素脂肪族環は、環構成原子として1、2、又は3個のエーテル性酸素原子を有し、当該含フッ素脂肪族環が当該エーテル性酸素原子を複数含むときは当該エーテル性酸素原子は互いに隣り合わず、
前記含フッ素ポリマー(A)は、下記の特性(a)及び(b):
(a)240nm~340nmの波長における平均透過率が85%以上
(b)鉛筆硬度がF以上
を有する、紫外光発光素子用レンズ。
【請求項2】
前記含フッ素ポリマー(A)が、下記式(A1):
【化1】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5のパーフルオロアルキル基、又はC1-C5のパーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位
を主成分として含む、請求項1に記載の紫外光発光素子用レンズ。
【請求項3】
前記含フッ素ポリマー(A)が、下記式(A1-1):
【化2】
で表される構成単位を主成分として含む、請求項1に記載の紫外光発光素子用レンズ。
【請求項4】
前記含フッ素ポリマー(A)中の全ての構成単位における含フッ素脂肪族環を有する構成単位の割合が、55~100モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の紫外光発光素子用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含フッ素ポリマーを含有する紫外光発光素子用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子用レンズでは、光の照射範囲、照射強度等の調整のため拡散等の機能が求められる。このため、形状に特徴のある発光素子用レンズ(例;フレネルレンズ)が要望されている。非晶質の含フッ素ポリマーの一部は、その透明性を活用し、発光素子(例;UV-LED)用レンズとして用途が報告されている(特許文献1~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-162191号公報
【特許文献2】国際公開第2007/086478号
【特許文献3】特開2016-006832号公報
【特許文献4】国際公開第2019/087348号
【特許文献5】国際公開第2019/043840号
【特許文献6】国際公開第2009/034952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フレネルレンズのような複雑な形状のレンズの製造では、複雑な形状を実現するために切削工程が採用されている。本発明者は、含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む含フッ素ポリマーのような樹脂の切削では、柔らかすぎることにより切削工具に樹脂が付着して正確な切削を阻害する等の問題が生じ得ることに注目した。
本開示は、含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含み、高硬度な含フッ素ポリマーを含有する紫外光発光素子用レンズの提供を一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、例えば次の態様を包含する。
項1.
含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む含フッ素ポリマー(A)を含有する紫外光発光素子用レンズであって、
前記含フッ素ポリマー(A)の含フッ素脂肪族環は、環構成原子として1、2、又は3個のエーテル性酸素原子を有し、当該含フッ素脂肪族環が当該エーテル性酸素原子を複数含むときは当該エーテル性酸素原子は互いに隣り合わず、
前記含フッ素ポリマー(A)は、下記の特性(a)及び(b):
(a)240nm~340nmの波長における平均透過率が85%以上
(b)鉛筆硬度がF以上
を有する、紫外光発光素子用レンズ。
項2.
前記含フッ素ポリマー(A)が、下記式(A1):
【化1】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5のパーフルオロアルキル基、又はC1-C5のパーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位
を主成分として含む、項1に記載の紫外光発光素子用レンズ。
項3.
前記含フッ素ポリマー(A)が、下記式(A1-1):
【化2】
で表される構成単位を主成分として含む、項1又は2に記載の紫外光発光素子用レンズ。
項4.
前記含フッ素ポリマー(A)中の全ての構成単位における含フッ素脂肪族環を有する構成単位の割合が、55~100モル%である、項1~3のいずれか一項に記載の紫外光発光素子用レンズ。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、硬度の高い、含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む含フッ素ポリマーを含有する紫外光発光素子用レンズを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の前記概要は、本開示の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本開示の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本開示のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0008】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本開示が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に断りのない限り、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
【0009】
本明細書中、特に断りのない限り、「含フッ素脂肪族環」は、環構成原子として、複数の炭素原子、及び1、2、又は3個のエーテル性酸素原子を有する。「含フッ素脂肪族環」が環構成原子として複数の酸素原子を含むときは、当該酸素原子は互いに隣り合わない。
「含フッ素脂肪族環」は、フッ素原子を含有する飽和脂肪族の単環を包含する。
「含フッ素脂肪族環」は、4員以上の環(例:4員環、5員環、6員環、7員環)を包含する。
「含フッ素脂肪族環」は、パーフルオロアルキル基(例:C1-C5の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基)及びパーフルオロアルコキシ基(例:C1-C5の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルコキシ基)からなる群から選択される少なくとも1種を置換基として有していてもよい。置換基の数は、1個以上とでき、例えば、1~4個、1~3個、1~2個、1個、2個、3個、又は4個であることができる。
「含フッ素脂肪族環」において、環構成炭素原子はフッ素原子を有していてもよい。
「含フッ素脂肪族環」の例は、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロオキセタン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロテトラヒドロフラン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロジオキソラン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロテトラヒドロピラン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロ-1,3-ジオキサン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロオキセパン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロ-1,3-ジオキセパン、1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロ-1,4-ジオキセパン、及び1個以上の置換基を有していてもよいパーフルオロ-1,3,5-トリオキセパンを含む。
【0010】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルキル基」の例は、メチル、エチル、プロピル(例:n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例:n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)、ペンチル(例:n-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、3-ペンチル)、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシル等の、直鎖状又は分枝鎖状の、C1-C10(好ましくはC1-C7、より好ましくはC1-C6、より一層好ましくはC1-C4、特に好ましくはC1-C3)アルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル等の環状のC3-C10(例えば、C3-C6、C4-C6、C3-C5、C5-C6)アルキル基を包含できる。
【0011】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基である。「フルオロアルキル基」は、直鎖状、又は分枝鎖状のフルオロアルキル基であることができる。
「フルオロアルキル基」の炭素数は、例えば、炭素数1~12、炭素数1~6、炭素数1~5、炭素数1~4、炭素数1~3、炭素数6、炭素数5、炭素数4、炭素数3、炭素数2、又は炭素数1であることができる。
「フルオロアルキル基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルキル基」は、パーフルオロアルキル基を包含する。「パーフルオロアルキル基」は、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルキル基の例は、トリフルオロメチル基(CF-)、ペンタフルオロエチル基(C-)、ヘプタフルオロプロピル基(CFCFCF-)、及びヘプタフルオロイソプロピル基((CFCF-)等の、直鎖状又は分枝鎖状の、C1-C10パーフルオロアルキル基を包含し、直鎖状又は分枝鎖状の、C1-C5パーフルオロアルキル基、C1-C4パーフルオロアルキル基、C1-C3パーフルオロアルキル基等であってよい。
「フルオロアルキル基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基(CF-)、2,2,2-トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基(C-)、テトラフルオロプロピル基(例:HCFCFCH-)、ヘキサフルオロプロピル基(例:(CFCH-)、パーフルオロブチル基(例:CFCFCFCF-)、オクタフルオロペンチル基(例:HCFCFCFCFCH-)、パーフルオロペンチル基(例:CFCFCFCFCF-)及びパーフルオロヘキシル基(例:CFCFCFCFCFCF-)等が挙げられる。
【0012】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルコキシ基」は、RO-[当該式中、Rはアルキル基(例:C1-10アルキル基、C1-C7アルキル基、C1-C6アルキル基、C1-C4アルキル基、C1-C3アルキル基)である。]で表される基であることができる。
「アルコキシ基」の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ(例:n-プロポキシ、イソプロポキシ)、ブトキシ(例:n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ)、ペンチルオキシ(例:n-ペンチルオキシ、tert-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、sec-ペンチルオキシ、3-ペンチルオキシ)、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、及びデシルオキシ等の、直鎖状又は分枝鎖状の、C1-C10(例:C1-C5、C1-C4、C1-C3)アルコキシ基を包含する。
【0013】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルコキシ基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。「フルオロアルコキシ基」は、直鎖状、又は分枝鎖状のフルオロアルキル基であることができる。
「フルオロアルコキシ基」の炭素数は、例えば、炭素数1~12、炭素数1~6、炭素数1~5、炭素数1~4、炭素数1~3、炭素数6、炭素数5、炭素数4、炭素数3、炭素数2、又は炭素数1であることができる。
「フルオロアルコキシ基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルコキシ基」は、パーフルオロアルコキシ基を包含する。「パーフルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
「パーフルオロアルコキシ基」の例は、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基、及びヘプタフルオロイソプロポキシ基等の、直鎖状又は分枝鎖状の、C1-C10パーフルオロアルコキシ基を包含し、直鎖状又は分枝鎖状の、C1-C5パーフルオロアルコキシ基、C1-C4パーフルオロアルコキシ基、C1-C3パーフルオロアルコキシ基等であってよい。。
「フルオロアルコキシ基」として、具体的には、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘプタフルオロプロポキシ基(例:CFCFCFO-、(CFCFO-)、及びノナフルオロブトキシ基(例:CFCFCFCFO-、(CFCO-)等が挙げられる。
【0014】
紫外光発光素子用レンズ
本開示の一実施態様は、含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む含フッ素ポリマー(A)を含有する紫外光発光素子用レンズであって、
前記含フッ素ポリマー(A)の含フッ素脂肪族環は、環構成原子として1、2、又は3個のエーテル性酸素原子を有し、当該含フッ素脂肪族環が当該エーテル性酸素原子を複数含むときは当該エーテル性酸素原子は互いに隣り合わない。
前記含フッ素ポリマー(A)は、下記の特性(a)及び(b):
(a)240nm~340nmの波長における平均透過率が85%以上
(b)鉛筆硬度がF以上
を有することが好ましい。
【0015】
紫外光発光素子用レンズには、高い紫外光透過性を有し、切削加工に耐える高い硬度を有することが望まれる。本開示の紫外光発光素子用レンズは、紫外光透過性に優れている。本開示の紫外光発光素子用レンズは、原料樹脂(含フッ素ポリマー(A))の硬度が高いため、(1)切削加工における切削工具への原料樹脂の付着が抑制されており、また、(2)切削による精密な形状への加工に適している。このため、本開示の紫外光発光素子用レンズは、切削加工により製造されるレンズ(切削加工レンズ)として特に適している。例えば、フレネルレンズ等の微細なレンズのエッジ部では切削による精密加工性が要求されるが、本開示の紫外光発光素子用レンズは、高い硬度を有するため、切削による精密な加工に適している。
【0016】
紫外光発光素子用レンズは、例えば、フレネルレンズ、マイクロレンズ、曲面レンズ、非曲面レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、凸メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凹メニスカスレンズ、シリンドリカルレンズ、トロイダルレンズ、放物面レンズ、異形レンズ、回折レンズ、およびそれらのアレイレンズ等であり、好ましくは、フレネルレンズ、マイクロレンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、異形レンズ、回折レンズ、又はそれらのアレイレンズである。
【0017】
紫外光発光素子用レンズは、含フッ素ポリマー(A)を公知のレンズ成形方法で成形することにより製造できる。成形の条件は、公知の条件を必要に応じて適宜調整することができる。含フッ素ポリマー(A)を切削加工により所望の形状に成形して紫外光発光素子用レンズを製造する、切削加工法が精密な形状のレンズを得るうえで望ましい。含フッ素ポリマー(A)を他の方法、例えば、含フッ素ポリマー(A)を溶解又は分散して型に流し込んで成形するモールド成形、含フッ素ポリマー(A)を溶融して射出する射出成形法、平板状に加工した含フッ素ポリマー(A)を加熱した金型に押し当てて成形するプレス成形法などにより所望の形状に成形して紫外光発光素子用レンズを製造してもよい。
【0018】
紫外光発光素子用レンズが適用される紫外光発光素子は、紫外光発光ダイオード(LED)が好ましい。紫外光発光素子は、紫外光、例えば100nm~400nm(好ましくは240nm~340nm、より好ましくは250~270nm)の波長の光を主として発する素子である。その波長としては、工業的な価値が高いUV-A、UV-B、UV-C等があるが、紫外光発光素子用レンズは、いずれの波長の紫外光発光素子にも適用できるが、UV-C発光素子に適用されるレンズであることが好ましい。
【0019】
本明細書において、「レンズ」は、発光素子用のいわゆる「封止材」を包含しない。
【0020】
含フッ素ポリマー(A)
含フッ素ポリマー(A)は、含フッ素脂肪族環を有する構成単位を主成分として含む。「構成単位を主成分として含む」とは、含フッ素ポリマー(A)中の全ての構成単位における当該構成単位の割合が50モル%以上であることを意味する。
含フッ素ポリマー(A)中の含フッ素脂肪族環を有する構成単位の割合は、少なくとも50モル%以上であり、例えば、50モル%超、55モル%以上等とでき、60モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましい。
【0021】
含フッ素ポリマー(A)中の含フッ素脂肪族環を有する構成単位の種類は1種以上であってよく、好ましくは1~3種類、より好ましくは1又は2種類、特に好ましくは1種類である。
【0022】
含フッ素脂肪族環を有する構成単位は、環構成原子として1、2、又は3個のエーテル性酸素原子を有し、当該含フッ素脂肪族環が当該エーテル性酸素原子を複数含むときは当該エーテル性酸素原子は互いに隣り合わない。
含フッ素脂肪族環は環構成原子として炭素原子を2個以上(例:2個、3個、4個)含み、且つ、隣接する炭素原子間で形成される炭素-炭素結合を1個以上(例:1個、2個、3個、4個、5個、6個)含むことができる。
含フッ素脂肪族環は、環構成原子として、2個以上の炭素原子及び1、2、又は3個の酸素原子を含み、他の原子を含まないことが好ましい。
含フッ素脂肪族環は水素原子を含まないことが好ましい。
含フッ素脂肪族環は全ての水素原子がフッ素原子で置換された脂肪族環であることが好ましい。
【0023】
含フッ素脂肪族環は、4員環、5員環、6員環、又は7員環であることができる。含フッ素ポリマー(A)の種々の物性の観点から、含フッ素脂肪族環は、好ましくは4員環、5員環、又は6員環であり、より好ましくは5員環である。
含フッ素脂肪族4員環は、環構成原子として、3個の炭素原子及び1個の酸素原子を含むことができる。含フッ素脂肪族4員環の例は、パーフルオロオキセタン環を包含する。
含フッ素脂肪族5員環は、環構成原子として、4個の炭素原子及び1個の酸素原子を含んでもよく、又は3個の炭素原子及び2個の酸素原子を含んでもよい。含フッ素脂肪族5員環の例は、パーフルオロテトラヒドロフラン環及びパーフルオロジオキソラン環を包含する。
含フッ素脂肪族6員環は、環構成原子として、5個の炭素原子及び1個の酸素原子を含んでもよく、又は4個の炭素原子及び2個の酸素原子を含んでもよい。含フッ素脂肪族6員環の例は、パーフルオロテトラヒドロピラン環及びパーフルオロ-1,3-ジオキサン環を包含する。
含フッ素脂肪族7員環は、環構成原子として、6個の炭素原子及び1個の酸素原子を含んでもよく、5個の炭素原子及び2個の酸素原子を含んでもよく、又は4個の炭素原子及び3個の酸素原子を含んでもよい。含フッ素脂肪族7員環の例は、パーフルオロオキセパン環、パーフルオロ-1,3-ジオキセパン環、パーフルオロ-1,4-ジオキセパン環、及びパーフルオロ-1,3,5-トリオキセパン環を包含する。
【0024】
含フッ素脂肪族環は、1個以上の置換基を有してもよい。置換基が複数あるときは同一でも異なっていてもよい。
置換基は、パーフルオロアルキル基(例:直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基)及びパーフルオロアルコキシ基(例:直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基)からなる群から選択される少なくとも1種であることができる。置換基の数は、1個以上とでき、例えば、1~4個、1~3個、1~2個、1個、2個、3個、又は4個であることができる。
置換基としては、トリフルオロメチル、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、パーフルオロイソプロピル、トリフルオロメトキシ、及びパーフルオロエトキシからなる群から選択される少なくとも1種の基が好ましく、トリフルオロメチル、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、及びパーフルオロイソプロピルからなる群から選択される少なくとも1種の基がより好ましく、トリフルオロメチル、パーフルオロエチル、及びトリフルオロメトキシからなる群から選択される少なくとも1種の基が特に好ましい。
【0025】
含フッ素脂肪族環を有する構成単位は含フッ素脂肪族環とは別に、1又は2個のパーフルオロアルキレン基を有してもよいし、有していなくてもよい。当該パーフルオロアルキレン基は、含フッ素脂肪族環の環構成炭素原子と結合して、含フッ素ポリマー(A)の主鎖を形成する。
このようなパーフルオロアルキレン基の一例は、下記式(A2-1):
【化3】
で表される構成単位中の、環を構成するパーフルオロメチレンを除いた、2個の-CF-である。構成単位中のパーフルオロアルキレン基は1個でもよい。パーフルオロアルキレン基が2個含まれる場合、同一又は異なっていてよい。
パーフルオロアルキレン基の例は、-(CF)n-[式中、nは1~4の整数を示す。]で表されるアルキレン基である。
含フッ素脂肪族環を有する構成単位に含まれるパーフルオロアルキレン基は、1個以上のパーフルオロアルキル基を置換基として有してもよい。当該置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。置換基の数は、1個以上とでき、例えば、1~4個、1~3個、1~2個、1個、2個、3個、又は4個とできる。
置換基としては、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、及びヘプタフルオロイソプロピルからなる群から選択される少なくとも1種の基が好ましく、トリフルオロメチル及びペンタフルオロエチルからなる群から選択される少なくとも1種の基がより好ましい。
【0026】
含フッ素脂肪族環を有する構成単位は、下記式(A1)~(A3)のいずれかで表される構成単位(本明細書中、各々、「構成単位(A1)」、「構成単位(A2)」、及び「構成単位(A3)」と称することがある。)であってよい。構成単位(A1)、(A2)及び(A3)は、1種単独又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
【化4】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5のパーフルオロアルキル基、又はC1-C5のパーフルオロアルコキシ基を示す。]
【0028】
【化5】
[式中、Rはフッ素原子又はC1-C5のパーフルオロアルキル基を示す。]
【0029】
【化6】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5のパーフルオロアルキル基、又はC1-C5のパーフルオロアルコキシ基を示す。]
【0030】
構成単位(A1)において、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C3の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基、あるいはC1-C3の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルコキシ基とできる。R~Rはそれぞれ独立して、は、フッ素原子、トリフルオロメチル、パーフルオロエチル、又はトリフルオロメトキシが好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル、又はトリフルオロメトキシがより好ましい。
【0031】
好ましい構成単位(A1)は、式(A1)において、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子又はトリフルオロメチルを示す、構成単位である。
【0032】
より好ましい構成単位(A1)は、式(A1)において、
~Rはフッ素原子を示す、
~Rはフッ素原子を示し、Rはトリフルオロメチルを示す、
はトリフルオロメチルを示し、R~Rはフッ素原子を示す、あるいは
及びはトリフルオロメチルを示し、R及びRはフッ素原子を示す、
構成単位である。
【0033】
構成単位(A1)の好ましい例は、下記式で表される構成単位(本明細書中、「構成単位(A1-1)」と称することがある。)を包含する。
【化7】
【0034】
構成単位(A2)において、Rは、フッ素原子あるいはC1-C4の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基とできる。Rは、フッ素原子、トリフルオロメチル、又はパーフルオロエチルが好ましく、フッ素原子又はトリフルオロメチルがより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0035】
構成単位(A2)の好ましい例は、下記式で表される構成単位(各々、本明細書中、「構成単位(A2-1)」、「構成単位(A2-2)」と称することがある。)を包含する。
【化8】
【0036】
構成単位(A3)において、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C3の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基、あるいはC1-C3の直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロアルコキシ基とできる。R~Rはそれぞれ独立して、は、フッ素原子、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、又はトリフルオロメトキシが好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル、又はトリフルオロメトキシがより好ましい。
【0037】
好ましい構成単位(A3)は、式(A3)において、R及びRがそれぞれ独立して、フッ素原子、トリフルオロメチル、又はトリフルオロメトキシを示し、R及びRがそれぞれ独立して、フッ素原子又はトリフルオロメチルを示す、構成単位である。
【0038】
より好ましい構成単位(A3)は、式(A3)において、Rがフッ素原子を示し、Rがフッ素原子、トリフルオロメチル、又はトリフルオロメトキシを示し、R及びRがそれぞれ独立して、フッ素原子又はトリフルオロメチルを示す、構成単位である。
【0039】
特に好ましい構成単位(A3)は、式(A3)において、Rがフッ素原子を示し、Rがフッ素原子又はトリフルオロメトキシを示し、R及びRが同一に、フッ素原子又はトリフルオロメチルを示す、構成単位である。
【0040】
構成単位(A3)の好ましい例は、下記式で表される構成単位(各々、本明細書中、「構成単位(A3-1)」、「構成単位(A3-2)」と称することがある。)を包含する。
【化9】
【0041】
含フッ素ポリマー(A)は、主成分として含まれる含フッ素脂肪族環を有する構成単位に加えて、他の構成単位を含むことができる。含フッ素ポリマー(A)中の全ての構成単位における当該他の構成単位の割合は50モル%以下、50モル%未満、45モル%以下等とでき、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0042】
他の構成単位としては、下記式(A11):
【化10】
[式中、R111は、フッ素原子、C1-C6のパーフルオロアルキル基、又はC1-C6のパーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位(本明細書中、「構成単位(A11)」と称することがある。)が挙げられるが、これに限定されない。
例えば、含フッ素ポリマー(A)は、構成単位(A3-1)及び下記式(A11-1):
【化11】
で表される構成単位(本明細書中、「構成単位(A11-1)」と称することがある。)を含むことができる。
【0043】
111は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C6パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C6パーフルオロアルコキシ基とできる。
好ましいR111は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基である。
より好ましいR111は、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基である。
特に好ましいR111は、フッ素原子又はトリフルオロアルキルである。
【0044】
含フッ素ポリマー(A)の数平均分子量は、例えば、5000~1000000の範囲内とでき、10000~800000の範囲内が好ましく、15000~600000の範囲内がより好ましく、30000~600000の範囲内が特に好ましい。
含フッ素ポリマー(A)の数平均分子量の下限は、例えば、5000以上とでき、10000以上が好ましく、15000以上がより好ましく、30000以上が特に好ましい。含フッ素ポリマー(A)の数平均分子量の上限は、1000000以下が好ましい。前記下限と上限とは適宜組み合わせられてよい。
含フッ素ポリマー(A)の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法(特に、実施例に記載のGPC法)により特定される値である。
【0045】
含フッ素ポリマー(A)は、240nm~340nmの波長における平均透過率が、85%以上であってよく、好ましくは86%以上、より好ましくは87%以上である。平均透過率は次のようにして特定される。
平均透過率
日立分光光度計U-4100を用いてサンプルの所定の波長(240nm~340nm)における平均透過率を測定する。サンプルは平均厚み1mmの平板とする。検出器としては積分球検知器を用いる。
【0046】
含フッ素ポリマー(A)は、鉛筆硬度がF以上であってよく、好ましくはH以上、さらに好ましくは2H以上である。硬度が高いほど、切削加工において、切削工具へ樹脂(切削くず)が付着しにくくなり、精密な加工がし易くなる。鉛筆硬度は次のようにして特定される。
鉛筆硬度
鉛筆硬度はJIS K5600-5-4:1999に準拠して測定する。サンプルは平均厚み1mmの平板とする。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0047】
含フッ素ポリマー(A)の製造方法
含フッ素ポリマー(A)は、公知の方法により合成できる。例えば、含フッ素ポリマーの構成単位に対応するモノマーを重合することにより合成することができる。重合方法としては、ラジカル重合、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等を用いることができる。含フッ素ポリマー(A)が高濃度で溶媒に溶解できる点で、非プロトン性溶媒中で原料モノマーを重合する溶液重合が好ましい。
【0048】
含フッ素ポリマー(A)は、例えば、モノマー(M)及び非プロトン性溶媒(B)の混合物中で、前記モノマー(M)を重合することで製造できる。含フッ素ポリマー(A)は、例えば、原料モノマー(モノマー(M)のみであっても、モノマー(M)と他のモノマーとの組み合わせであってもよい)及び任意に重合開始剤を含有する非プロトン性溶媒(B)を重合条件に供することで前記モノマー(M)を重合させて製造できる。
【0049】
モノマー
「モノマー(M)」は、含フッ素ポリマー(A)に主成分として含まれる構成単位に対応するモノマーである。原料モノマーとしては、モノマー(M)に加え、これとは別のモノマーを使用することができる。本明細書において、含フッ素ポリマー(A)に含まれる構成単位であって、主成分として含まれる構成単位以外の構成単位に対応するモノマーを、「その他のモノマー」と称することがある。
【0050】
当業者は、特定の原料モノマーを重合反応させることにより、この原料モノマーに対応した構成単位を有する含フッ素ポリマー(A)が得られることを理解できる。したがって、当業者は、所望の含フッ素ポリマー(A)を製造するために、適切な原料モノマーを選択できる。
例えば、構成単位(A1)、構成単位(A2)、構成単位(A3)、構成単位(A1-1)、構成単位(A2-1)、構成単位(A2-2)、構成単位(A3-1)、構成単位(A3-2)、及び構成単位(A11-1)に対応するモノマーは、各々、以下に示す、式(M1)、式(M2)、式(M3)、式(M1-1)、式(M2-1)、式(M2-2)、式(M3-1)、式(M3-2)、及び式(M11-1)で表されるモノマー(本明細書中、各々、「モノマー(M1)」、「モノマー(M2)」、「モノマー(M3)」、「モノマー(M1-1)」、「モノマー(M2-1)」、「モノマー(M2-2)」、「モノマー(M3-1)」、「モノマー(M3-2)」、及び「モノマー(M11-1)」と称することがある。)とできる。
【化12】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5のパーフルオロアルキル基、又はC1-C5のパーフルオロアルコキシ基を示し、Rはフッ素原子又はC1-C5のパーフルオロアルキル基を示し、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5のパーフルオロアルキル基、又はC1-C5のパーフルオロアルコキシ基を示す。]
【0051】
モノマー(M1)、モノマー(M2)、及びモノマー(M3)におけるR~Rについては、構成単位(A1)、構成単位(A2)、及び構成単位(A3)におけるR~Rに関する記載が適用できる。
モノマー(M)は1種単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、モノマー(M)とその他のモノマーとを組み合わせて使用できる。例えば、モノマー(M2-1)及びモノマー(M11-1)を組み合わせて、構成単位(A2-1)及び構成単位(A11-1)を含む含フッ素ポリマー(A)を製造できる。
【0052】
非プロトン性溶媒
非プロトン性溶媒としては、パーフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、フルオロ環状エーテル、ハイドロフルオロエーテル、少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物などが挙げられる。パーフルオロ溶媒は、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましくは、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、及びハイドロフルオロエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の溶媒である。さらに好ましくは、含フッ素ポリマー(A)を溶解する性能が高い点から、ハイドロフルオロカーボン及びハイドロフルオロエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の溶媒であり、特に好ましくはハイドロフルオロエーテルである。
【0053】
パーフルオロ芳香族化合物は、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ芳香族化合物である。パーフルオロ芳香族化合物が有する芳香環はベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環からなる群から選択される少なくとも1種の環であってよい。パーフルオロ芳香族化合物は芳香環を1個以上(例:1個、2個、3個)有してもよい。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基であり、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル又はペンタフルオロエチルがより好ましい。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ芳香族化合物の例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエン、パーフルオロキシレン、パーフルオロナフタレンを包含する。
パーフルオロ芳香族化合物の好ましい例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエンを包含する。
【0054】
パーフルオロトリアルキルアミンは、例えば、3つの直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基で置換されたアミンである。当該パーフルオロアルキル基の炭素数は例えば1~10であり、好ましくは1~5、より好ましくは1~4である。当該パーフルオロアルキル基は同一又は異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
パーフルオロトリアルキルアミンの例は、パーフルオロトリメチルアミン、パーフルオロトリエチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリイソプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリsec-ブチルアミン、パーフルオロトリtert-ブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリイソペンチルアミン、パーフルオロトリネオペンチルアミンを包含する。
パーフルオロトリアルキルアミンの好ましい例は、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミンを包含する。
【0055】
パーフルオロアルカンは、例えば、直鎖状、分岐状、又は環状のC3-C12(好ましくはC3-C10、より好ましくはC3-C6)パーフルオロアルカンである。
パーフルオロアルカンの例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロ-2-メチルペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-2-メチルヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(メチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(ジメチルシクロヘキサン)(例:パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン))、パーフルオロデカリンを包含する。
パーフルオロアルカンの好ましい例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタンを包含する。
【0056】
ハイドロフルオロカーボンは、例えば、C3-C8ハイドロフルオロカーボンである。
ハイドロフルオロカーボンの例は、CFCHCFH、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCFCHF、及びCFCFCFCFCFCFを包含する。
ハイドロフルオロカーボンの好ましい例は、CFCHFCHFC、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、CFCHCFH、CFCHCFCHを包含する。
【0057】
フルオロ環状エーテルは、例えば、1個以上のフルオロアルキル基を有してもよいフルオロ環状エーテルである。フルオロ環状エーテルが有する環は3~6員環であってよい。フルオロ環状エーテルが有する環は環構成原子として1個以上の酸素原子を有してよい。当該環は、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の酸素原子を有する。
置換基としてのフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4フルオロアルキル基である。好ましいフルオロアルキル基は直鎖状又は分岐状のC1-C3フルオロアルキル基である。フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基が好ましく、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、C1-C4、又はC1-C3パーフルフルオロアルキル基である。
フルオロ環状エーテルは、パーフルオロ環状エーテルが好ましい。パーフルオロ環状エーテルは1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよい。パーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基である。好ましいパーフルオロアルキル基は直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基である。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
フルオロ環状エーテルの例は、パーフルオロテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-メチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-プロピルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロテトラヒドロピランを包含する。
フルオロ環状エーテルの好ましい例は、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフランを包含する。
【0058】
ハイドロフルオロエーテルは、例えば、フッ素含有エーテルである。
ハイドロフルオロエーテルの地球温暖化係数(GWP)は600以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下が特に好ましい。ハイドロフルオロエーテルの地球温暖化係数(GWP)の下限は1以上であっても5以上であってもよい。
ハイドロフルオロエーテルの例は、CFCFCFCFOCH3、CFCFCF(CF)OCH3、CFCF(CF)CFOCH3、CFCFCFCFOC、CFCF(CF)CFOC、CFCHOCFCHF、CCF(OCH)C、(CFCHOCH、(CFCFOCH、(CFCFCFOCH、(CFCFCFOC、CHFCFOCHCF、CHFCFCHOCFCHF、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCF、トリフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227me)、ジフルオロメチル1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチルエーテル(HFE-227mc)、トリフルオロメチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227pc)、ジフルオロメチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(HFE-245mf)、2,2-ジフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル(HFE-245pf)、1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CFCHFCFOCH)、1,1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CFCFOCHCF)、及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン((CFCHOCH)を含む。
ハイドロフルオロエーテルの好ましい例は、CFCFCFCFOCH3、CFCFCFCFOC、CFCHOCFCHF、CCF(OCH)C、(CFCFCFOCH、(CFCFCFOC、1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CFCHFCFOCH)、1,1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CHFCFOCHCF)、及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン((CFCHOCH)を包含する。
【0059】
ハイドロフルオロエーテルは、下記式(B-1)で表わされる化合物、下記式(B-2)で表される化合物、下記式(B-3)で表わされる化合物、下記式(B-4)で表される化合物、(CFCHOCH、(CFCFOCH、CFCHFCFOCH、CCF(OCH)C、(CFCFCFOCH、(CFCFCFOC、CHFCFOCHCF、及びCFCHFCFOCFからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
式(B-1):
F(CFO(CHH (B-1)
[式中、pは1~6の整数であり、qは1~4の整数である。]
式(B-2):
H(CFO(CFF (B-2)
[式中、p及びqは前記と同意義である。]
式(B-3):
H(CFO(CHH (B-3)
[式中、p及びqは前記と同意義である。]
式(B-4):
X(CFCHO(CFH (B-4)
[式中、Xはフッ素原子又は水素原子を表し、p及びqは前記と同意義である。]
【0060】
ハイドロフルオロエーテルは、下記式(B-5):
21-O-R22 (B-5)
[式中、R21は、一つ以上の水素原子がフッ素原子に置換されている直鎖状又は分岐鎖状のプロピル又はブチルであり、R22は、メチル又はエチルである。]
で表される化合物がより好ましい。式(B-5)で表わされる化合物は、R21がパーフルオロブチルであり、R22がメチル又はエチルである、化合物であってよい。
【0061】
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、その構造中に少なくとも1つの塩素原子を含むC2-C4(好ましくはC2-C3)オレフィン化合物である。少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、二重結合を1又は2個(好ましくは1個)有する、炭素数2~4の炭化水素において、炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つが塩素原子に置換された化合物である。
塩素原子の数は、1~置換可能な最大の数である。塩素原子の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個等とできる。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、少なくとも1つ(例えば、1個、2個、3個、4個、5個等)のフッ素原子を含んでもよい。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物の例は、CH=CHCl、CHCl=CHCl、CCl=CHCl、CCl=CCl、CFCH=CHCl、CHFCF=CHCl、CFHCF=CHCl、CFCCl=CFCl、CFHCl=CFCl、CFHCl=CFClを包含する。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物の好ましい例はCHCl=CHCl、CHFCF=CHCl、CFCH=CHCl、CFCCl=CFClを包含する。
【0062】
非プロトン性溶媒(B)の地球温暖化係数(GWP)は600以下、400以下等とでき、375以下が好ましく、350以下がより好ましく、0が特に好ましい。非プロトン性溶媒(B)の地球温暖化係数(GWP)の下限は1以上であっても5以上であってもよい。
【0063】
重合開始剤
原料モノマーを重合して含フッ素ポリマー(A)を製造する方法では、重合工程において重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤は、モノマー(M)を重合できるものであればいずれも使用でき、例えば、ラジカル重合開始剤である。重合開始剤は、その構造中にフッ素元素を含有しないことが好ましい。重合開始剤は、0℃~160℃の範囲内の10時間半減期温度を有することが好ましい。重合開始剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
重合工程に使用される重合開始剤の好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パ-オキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムを包含する。
重合開始剤のより好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウムを包含する。
【0065】
モノマー(M)を重合させる重合工程
重合反応に用いるモノマー(M)の量は、含フッ素ポリマー(A)における、モノマー(M)に対応する構成単位の割合等に応じて適宜決定できる。例えば、全ての原料モノマーの総モル数に対し、50モル%以上、50モル%超、55モル%以上等とでき、60モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましい。
モノマー(M)に加え他のモノマーを使用する場合、他のモノマーの量は、所望の含フッ素ポリマー(A)における、他のモノマーに対応する構成単位の割合等に応じて適宜決定できる。例えば、全ての原料モノマーの総モル数に対し、50モル%以下、50モル%未満、45モル%以下等とでき、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0066】
重合反応に用いる非プロトン性溶媒(B)の量は、モノマー(M)の量を100質量%とした場合、20~600質量%の範囲内とでき、好ましくは50~500質量%の範囲内とでき、より好ましくは100~400質量%の範囲内とできる。
【0067】
重合反応に用いる重合開始剤の量は、例えば、反応に供される全てのモノマー(つまり、モノマー(M)と他のモノマーの合計量)の1gに対して、0.0001g~0.05gの範囲内とでき、好ましくは0.0001g~0.01gの範囲内であり、より好ましくは0.0005g~0.008gの範囲内であってよい。
【0068】
重合反応は、不活性ガスの存在下又は不存在下で実施できるものの、存在下で実施することが、含フッ素ポリマー(A)のフッ化水素含有量をさらに低減できる観点から好ましい。不活性ガスは、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素等であり、好ましくは窒素、アルゴンであり、より好ましくは窒素である。
【0069】
重合反応の温度は、例えば、-10℃~160℃の範囲内とでき、好ましくは0℃~160℃の範囲内であり、より好ましくは0℃~100℃の範囲内であってよい。
重合反応は、含フッ素ポリマー(A)の主成分となる構成単位に対応するモノマー(M)及び前記非プロトン性溶媒のいずれか低いほうの沸点より20℃高い温度以下、且つ、前記重合開始剤の10時間半減期温度より20℃高い温度以下で行われてもよい。この場合、温度の下限は、例えば-10℃とでき、好ましくは0℃とできる。
【0070】
重合反応の反応時間は、好ましくは、0.5時間~72時間の範囲内、より好ましくは、1時間~48時間の範囲内、さらに好ましくは1時間~30時間の範囲内であってよい。
【0071】
重合反応は、減圧下、大気圧下、又は加圧条件下にて実施され得る。重合反応は、不活性ガスの存在下、かつ加圧下で実施されることが、含フッ素ポリマー(A)のフッ化水素含有量をさらに低減できる観点から好ましい。この場合の加圧は0.05~0.2MPa(ゲージ圧)であることが好ましい。
【0072】
重合反応で生成した含フッ素ポリマー(A)は、所望により、抽出、溶解、濃縮、フィルターろ過、析出、脱水、吸着、クロマトグラフィー等の慣用の方法、又はこれらの組み合わせにより単離、又は精製できる。
【0073】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能であることが理解されるであろう。
【実施例0074】
以下、実施例等によって本開示の実施態様を更に詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0075】
平均透過率
日立分光光度計U-4100を用いてサンプルの所定の波長(240nm~340nm)における平均透過率を測定した。サンプルは平均厚み1mmの平板とした。検出器としては積分球検知器を用いた。
【0076】
鉛筆硬度
鉛筆硬度はJIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した。測定器として、鉛筆硬度測定器5800(BYK Gardner製)を使用し、鉛筆としてUni(三菱鉛筆社製)を使用して測定した。サンプルは平均厚み1mmの平板とした。
【0077】
実施例1
構成単位(A1-1)のホモポリマーを大気下で溶融成形し、平均厚み1mmの平板を作製した。この平板の平均透過率(240nm~340nm)は91.2%、鉛筆硬度は2Hであった。
同様の方法で成形した平均厚み1mmの平板を材料として切削加工を行いフレネルレンズを作製した。株式会社KEYENCE製のレーザー顕微鏡VKX-1000を使用してフレネルレンズ表面の凹凸構造を観察したところ、面粗さSaは74nm、Sqは118nmであった。
【0078】
実施例2
構成単位(A1-1)のホモポリマーに代えて構成単位(A1-1)及び構成単位(M11-1)(テトラフルオロエチレン(本明細書中、「TFE」とも称する。))からなる共重合体(構成単位(A1-1):構成単位(M11-1)=65モル%:35モル%)を使用し、株式会社KEYENCE製のレーザー顕微鏡VKX-1000に代えて株式会社JEOL RESONANCE製の核磁気共鳴分光計JNM-ECZ400S/L1を使用したことを除いて、実施例1と同様にした。平板の平均透過率(240nm~340nm)は89.0%、鉛筆硬度は2Hであった。フレネルレンズの面粗さSaは29nm、Sqは44nmであった。
【0079】
比較例1
構成単位(A1-1)のホモポリマーに代えて構成単位(A2-1)のホモポリマーを使用したことを除いて、実施例1と同様にした。平板の平均透過率(240nm~340nm)は90.5%、鉛筆硬度はHBであった。フレネルレンズの面粗さSaは111nm、Sqは176nmであった。
【0080】
比較例2
構成単位(A1-1)のホモポリマーに代えて構成単位(A3-1)及び構成単位(M11-1)からなる共重合体(TeflonTM AF1600(構成単位(A3-1):構成単位(M11-1)=65モル%:35モル%))を使用したことを除いて、実施例1と同様にした。平板の平均透過率(240nm~340nm)は84.3%、鉛筆硬度は2Bであった。フレネルレンズの面粗さSaは95nm、Sqは151nmであった。