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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167706
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】圧電繊維とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
D01F6/62 305Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083958
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田實 佳郎
(72)【発明者】
【氏名】常石 浩司
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC01
4L035EE20
4L035HH01
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】本発明は、重量平均分子量が50,000~500,000であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する圧電繊維において、圧電性に優れる圧電繊維を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有し、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が、50,000~500,000であり、結晶化度が52%以上である、圧電繊維である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が、50,000~500,000であり、
結晶化度が52%以上である、圧電繊維。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が、3-ヒドロキシブチレート単位を有する共重合体を含み、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における前記3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合が、85.5モル%以上99.5モル%以下である、請求項1に記載の圧電繊維。
【請求項3】
前記圧電繊維が、1本又は2本以上の単糸を含み、
前記単糸の平均繊度が、0.5dtex以上である、請求項1又は2に記載の圧電繊維。
【請求項4】
前記圧電繊維が、マルチフィラメントである、請求項1又は2に記載の圧電繊維。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の圧電繊維の製造方法であって、
フィラメントを熱処理することにより、前記圧電繊維を得る熱処理工程を有する、圧電繊維の製造方法。
【請求項6】
延伸用フィラメントを延伸することにより、延伸フィラメントたる前記フィラメントを得る延伸工程を更に有する、請求項5に記載の圧電繊維の製造方法。
【請求項7】
溶融物を溶融紡糸法で吐出することにより、前記延伸用フィラメントを得る溶融紡糸工程を更に有する、請求項6に記載の圧電繊維の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程での熱処理の温度が、40℃~140℃である、請求項5に記載の圧電繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電繊維とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電繊維は、抗菌性を発現することから、衣類(靴下、シューズ、コンプレッションウェア、肌着など)、衛生用品(紙おむつ、マスク)の繊維材料として用いられている。
抗菌性を発現する繊維としては、他にも、抗菌剤を含ませた繊維が知られているが、圧電繊維は、抗菌剤を含ませた繊維と異なり、洗濯などの後加工で抗菌性が低下せずに半永久的に抗菌性を持続できるという利点を有する。
また、抗菌剤は有害性を有する場合があり、圧電繊維は、このような抗菌剤を含有しなくても抗菌性を発揮できるという利点を有する。
【0003】
また、圧電繊維は、センシング機能を発現することから、スマートファブリック(デジタル部品(センサー、LED、バッテリー、マイクロチップなど)を組み込んだ衣類)を構成する繊維材料としても用いられ、情報通信、医療、介護、スポーツ等の様々な分野で用いられている。
【0004】
ところで、ポリヒドロキシアルカノエートは、生分解性に優れる樹脂として知られている。
ポリヒドロキシアルカノエートを含有する圧電繊維としては、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸された繊維が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-501480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、重量平均分子量が50,000~500,000であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する圧電繊維を作製したところ、斯かる圧電繊維の圧電性は十分ではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、重量平均分子量が50,000~500,000であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する圧電繊維において、圧電性に優れる圧電繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意研究したところ、重量平均分子量が50,000~500,000であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する圧電繊維において、圧電繊維の結晶化度が所定以上となることにより、圧電繊維の圧電性が高まることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の第一は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が、50,000~500,000であり、
結晶化度が52%以上である、圧電繊維に関する。
【0010】
本発明の第二は、前記圧電繊維の製造方法であって、
フィラメントを熱処理することにより、前記圧電繊維を得る熱処理工程を有する、圧電繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重量平均分子量が50,000~500,000であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する圧電繊維において、圧電性に優れる圧電繊維を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】X線回折分析(XRD分析)の光学配置図。
図2】本実施形態の溶融紡糸工程で用いる装置の概略図。
図3】本実施形態の延伸工程で用いる装置の概略図。
図4】他の実施形態の溶融紡糸工程及び延伸工程で用いる装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
<圧電繊維>
まず、本実施形態に係る圧電繊維について説明する。
本実施形態に係る圧電繊維は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、50,000~500,000である。
本実施形態に係る圧電繊維の結晶化度は、52%以上である。
【0015】
本実施形態に係る圧電繊維は、前記結晶化度が52%以上であることにより、圧電性に優れたものとなる。
前記結晶化度は、好ましくは52.2%以上、より好ましくは52.5%以上である。
前記結晶化度は、概ね60%程度で飽和に達する。結晶化度が高すぎると、白化等により繊維品質に悪影響が出る場合があるので、前記結晶化度は、好ましくは59%以下、より好ましくは57%以下である。
【0016】
前記結晶化度は、X線回折分析(XRD)によって求めることができる。
測定条件としては、例えば、以下が挙げられる。
装置:PANalytical製 X’ Pert PRO MPD
分析条件:使用X線 CuKα線(白色化:集光ミラー)
X線強度 45kV、40mA
検出器 X’ Celerator(半導体一次元検出器)
光学系配置 透過(Debye-Scherrer光学系)
発散スリット 1/2deg
散乱防止スリット 1/2deg
測定範囲 2θ=3~48deg(φ方向は1rpsで回転)
走査速度 0.02deg/秒(step:0.017deg)
例えば、圧電繊維から試料として60本の繊維束を得、図1に示すように、該試料を試料ホルダーに固定し、配向の影響を除去するためにφ方向に試料を回転させた状態で2θスキャンを実施する。取得した2θスキャンプロファイルについてピーク分離解析を行い、結晶性ピークの面積と、非晶質由来のハローピークの面積(非晶質ピークの面積)とを求め、下記式より結晶化度を算出する。
結晶化度[%] = 結晶性ピークの面積/(結晶性ピークの面積+ 非晶質ピークの面積)×100
【0017】
前記圧電繊維は、1本又は2本以上の単糸を含む。
前記圧電繊維は、マルチフィラメントであってもよく、モノフィラメントであってもよい。
一般衣料を含む多用途に使用できるという観点から、前記圧電繊維は、マルチフィラメントであることが好ましい。
前記圧電繊維は、マルチフィラメントである場合には、単糸を、好ましくは30本以上、より好ましくは30~500,000本、更に好ましくは50~300,000本有する。
【0018】
前記単糸としては、例えば、断面が円形状(真円形、略円形、楕円形、及び、略楕円形を含む概念)となる単糸や、異形断面の単糸等を任意に選べることができる。
【0019】
前記単糸の平均繊度は、好ましくは0.5detx以上、より好ましくは1~1000dtex、さらに好ましくは1.5~500dtexである。
前記単糸の平均繊度が0.5dtex以上であることにより、本実施形態に係る圧電繊維は、細くしなやかさが求められる肌着を含む衣料品全般に用いることができるなどの利点を有する。
各単糸の繊度については、オートバイブロ式繊度測定器「DENIERCOMPUTER タイプDC-11」(サーチ社)を使用して、各単糸の繊度を測定することができる。
なお、圧電繊維に含まれる単糸の本数が1本である場合には、単糸の繊度が、単糸の平均繊度を意味する。
また、平均値は算術平均値を意味する。
圧電繊維に含まれる単糸の本数が20本を超える場合には、無作為に選択した単糸20本以上の単糸の繊度を測定して、測定した全ての単糸の繊度の値から算術平均値を求める。
【0020】
本実施形態に係る圧電繊維は、ポリマー成分を含有するポリマー組成物で形成されている。
前記ポリマー成分は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する。
前記ポリマー成分は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂以外に、他のポリマーを含有してもよい。
前記ポリマー組成物は、添加剤を含有してもよい。
【0021】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカン酸をモノマーとするポリエステルである。
すなわち、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、構成単位として3-ヒドロキシアルカン酸を含む樹脂である。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、生分解性を有するポリマーである。
なお、本実施形態における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。具体的には、好気条件ではISO 14855(compost)及びISO 14851(activated sludge)、嫌気条件ではISO 14853(aqueous phase)及びISO 15985(solid phase)等、各環境に適合した試験に基づいて生分解性の有無が判断できる。また、海水中における微生物の分解性については、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)の測定により評価できる。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0022】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、下記式(1)で示される構成単位を含むことが好ましい。
[-CHR-CH-CO-O-] (1)
(前記式(1)中、RはC2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。)
【0023】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含むことが好ましい。
なお、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位を含む樹脂である。ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0024】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、例えば、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HB、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。
ここで、P3HBは、単独重合体たるポリ(3-ヒドロキシブチレート)を意味する。
P3HB3HHは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を意味する。
P3HB3HVは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)を意味する。
P3HB4HBは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)を意味する。
【0025】
なお、P3HBは、P3HB自体、及び、P3HB以外のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化を促進する機能を有するので、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、P3HBを含むことが好ましい。
【0026】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、優れた生分解性と成形加工性の両立の観点から、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBなどが好ましいが、特に限定されない。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、本実施形態に係る圧電繊維の強度及び成形加工性を高めるという観点から、P3HB3HHが好ましい。
【0027】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位を有する共重合体を含み、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における前記3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、85.5モル%以上99.5モル%以下であることが好ましい。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における前記3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、より好ましくは85.5モル%以上97.0モル%以下である。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における前記3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合が85.5モル%以上であることにより、本実施形態に係る圧電繊維の剛性が高くなる。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における前記3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合が99.5モル%以下であることにより、本実施形態に係る圧電繊維が柔軟性に優れる。
【0028】
前記ポリマー成分は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を1種類のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、共重合体(P3HB3HH等)を含む場合には、構成単位の平均組成比が異なる2種類以上の共重合体を含んでもよい。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、構成単位の平均組成比が異なる2種類以上の共重合体を含むことで、融点や剛性を調整しやすくなる。
【0029】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、50,000~500,000であり、好ましくは100,000~450,000である。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が500,000以下であることにより、本実施形態に係る圧電繊維の成形がしやすくなる。
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が50,000以上であることにより、本実施形態に係る圧電繊維の強度を高めることができる。
なお、本実施形態における重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
例えば、カラム温度は40℃とし、対象物質3mgをクロロホルム2mlに溶解したものを10μl注入し、クロロホルム溶離液(移動相)の流量を1.0ml/分にして、重量平均分子量(Mw)を求めることができる。GPC装置としてLC-10Aシステム(島津製作所製)を使用し、カラムとしてGPCK-806M(昭和電工製)を使用することができる。
【0030】
他のポリマーは、生分解性を有することが好ましい。
【0031】
生分解性を有する他のポリマーとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、未変性デンプン、変性デンプン、酢酸セルロース、キトサン等が挙げられる。
前記ポリカプロラクトンは、ε-カプロラクトンが開環重合したポリマーである。
前記ポリマー組成物は、他のポリマーを1種含んでよく、また、2種以上含んでもよい。
【0032】
本実施形態に係る圧電繊維は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有する。
【0033】
本実施形態に係る圧電繊維は、生分解性を有するポリマーを含むことにより、環境中に廃棄されたとしても、環境中で分解されやすいため、環境への負荷を抑制することができる。
【0034】
添加剤としては、例えば、結晶核剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、着色剤(染料、顔料等)、可塑剤、難燃剤、無機充填剤、有機充填剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0035】
前記ポリマー組成物は、結晶核剤を含有することが好ましい。
前記結晶核剤は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化を促進できる化合物である。また、前記結晶核剤は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂よりも融点が高い。
前記結晶核剤としては、無機物(窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、及び金属リン酸塩など);天然物由来の糖アルコール化合物(ペンタエリスリトール、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、及びアラビトール等);ポリビニルアルコール;キチン;キトサン;ポリエチレンオキシド;脂肪族カルボン酸塩;脂肪族アルコール;脂肪族カルボン酸エステル;ジカルボン酸誘導体(ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、及びジブチルセバケート);C=OとNH、S及びOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物(インジゴ、キナクリドン、及びキナクリドンマゼンタなど);ソルビトール系誘導体(ビスベンジリデンソルビトール、及びビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールなど);窒素含有ヘテロ芳香族核(ピリジン環、トリアジン環、及びイミダゾール環など)を含む化合物(ピリジン、トリアジン、及びイミダゾールなど);リン酸エステル化合物;高級脂肪酸のビスアミド;高級脂肪酸の金属塩;並びに分岐状ポリ乳酸等が例示できる。
また、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であるP3HBは、結晶核剤として使用することも可能である。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0036】
前記結晶核剤としては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化速度の改善効果の観点、並びに、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂との相溶性及び親和性の観点から、糖アルコール化合物、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンが好ましい。
また、該糖アルコール化合物のうち、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0037】
前記結晶核剤は、好ましくは、常温(25℃)で結晶構造を有する。
前記結晶核剤が常温(25℃)で結晶構造を有することにより、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化がより促進されるという利点がある。
また、常温(25℃)で結晶構造を有する結晶核剤は、好ましくは、常温(25℃)で粉末状となっている。
さらに、常温(25℃)で粉末状となっている結晶核剤の平均粒子径は、好ましくは10μm以下である。
【0038】
ポリマー組成物における結晶核剤の含有量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。ポリマー組成物における結晶核剤の含有量がポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100質量部に対し0.05質量部以上であることにより、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化をより促進できるという利点がある。
また、ポリマー組成物における結晶核剤の含有量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100質量部に対し、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。ポリマー組成物における結晶核剤の含有量がポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100質量部に対し10質量部以下であることにより、溶融紡糸法で溶融物から圧電繊維を作製する際に、該溶融物の粘度を低くすることができ、その結果、圧電繊維の作製がしやすくなるという利点がある。
なお、P3HBは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であり、且つ、結晶核剤としても機能し得るので、ポリマー組成物がP3HBを含む場合には、P3HBの量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の量にも、結晶核剤の量にも含まれる。
【0039】
本実施形態に係る圧電繊維がマルチフィラメントである場合には、前記ポリマー組成物は、前記滑剤を含有することが好ましい。単糸が滑剤を含むことにより単糸の滑性が良好となり、単糸同士の融着を抑制することが出来る。
該滑剤としては、例えば、アミド結合を有する化合物などが挙げられる。
前記アミド結合を有する化合物は、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、及び、エルカ酸アミドから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0040】
ポリマー組成物における滑剤の含有量は、前記ポリマー成分100質量部に対し、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。ポリマー組成物における滑剤の含有量がポリマー成分100質量部に対し0.05質量部以上であることにより、単糸の滑性に優れるという利点がある。
また、ポリマー組成物における滑剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対し、12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下が最も好ましい。ポリマー組成物における滑剤の含有量がポリマー成分100質量部に対し12質量部以下であることにより、滑剤が圧電繊維の表面にブリードアウトするのを抑制できるという利点がある。
【0041】
本実施形態に係る圧電繊維は、マルチフィラメントである場合には、隣接する単糸どうしの融着を抑制するという観点、隣接する単糸どうしが静電気により離れてしまうのを抑制するという観点などから、単糸の表面に紡糸油剤を更に有することが好ましい。
前記紡糸油剤としては、例えば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、精製エステル化油、鉱油、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、シリコーンオイル、パラフィンワックスなどが挙げられる。これは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
隣接する単糸どうしの融着を抑制するという観点では、前記紡糸油剤としては、シリコーンオイルが好ましい。
隣接する単糸どうしが静電気により離れてしまうのを抑制するという観点では、前記紡糸油剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤が好ましい。
前記紡糸油剤としては、例えば、シリコーンオイルとアニオン界面活性剤とを含む紡糸油剤(例えば、丸菱油化社製の「ポリマックスFKY」)を用いることができる。
【0042】
本実施形態に係る圧電繊維は、繊維のまま用いてもよい。
また、本実施形態に係る圧電繊維を用いて繊維製品(繊維体)を作製してもよい。
該繊維製品は、種々の形状(例えば、不織布状など)にすることができる。
本実施形態に係る圧電繊維、及び、繊維製品は、従来公知の用途に好適に使用することができる。
本実施形態に係る圧電繊維、及び、繊維製品は、例えば、情報通信、医療、介護、スポーツ等の様々な分野で用いることができる。
また、本実施形態に係る圧電繊維は、スマートファブリック(デジタル部品(センサー、LED、バッテリー、マイクロチップなど)を組み込んだ衣類)、衣類(靴下、シューズ、コンプレッションウェア、肌着など)、衛生用品(紙おむつ、マスク)などを構成する繊維材料として用いることができる。
【0043】
<圧電繊維の製造方法>
本実施形態に係る圧電繊維は、上記の如く構成されているが、次に、本実施形態に係る圧電繊維の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態に係る圧電繊維の製造方法は、フィラメントを熱処理することにより、前記圧電繊維を得る熱処理工程を有する。
本実施形態に係る圧電繊維の製造方法は、前記熱処理工程を実施することにより、結晶化度が高く、圧電性能に優れる圧電繊維を得ることができる。
【0045】
以下では、溶融紡糸法で溶融物を吐出することにより、延伸用フィラメントを得る溶融紡糸工程と、該延伸用フィラメントを延伸することにより、延伸フィラメントたる前記フィラメントを得る延伸工程とを更に有し、前記溶融紡糸工程及び前記延伸工程を逐次延伸法で実施し、得られる圧電繊維がマルチフィラメントである圧電繊維の製造方法を例に挙げて、図2、3を参照しつつ、圧電繊維の製造方法について説明する。
【0046】
本実施形態に係る圧電繊維の製造方法では、溶融紡糸法で圧電繊維を作製する。この場合、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量を50,000~500,000とすることで単糸の平均繊度が0.5dtex以上の圧電繊維を比較的容易に、経済的に製造することができる。
【0047】
(溶融紡糸工程)
図2に示すように、前記溶融紡糸工程では、まず、前記溶融物の材料を材料投入部101に投入する。
次に、該材料投入部101から投入された材料を混練押出機102で加熱しながら混練することにより、前記溶融物を得る。前記溶融物は、前記ポリマー組成物が溶融状態となったものである。
前記混練押出機102としては、スクリュー押出機が好適に用いられる。前記混練押出機102は、単軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。
【0048】
そして、複数の吐出孔を有する紡糸ノズル104を用いて、前記混練押出機102で得られた溶融物を複数の前記吐出孔から吐出することで溶融状態の原糸100Aを複数本得る。
なお、紡糸ノズル104の複数の吐出孔から吐出する溶融物の流量は、ギアポンプ103で調整する。
【0049】
前記紡糸ノズル104の温度は、例えば、140~180℃である。
【0050】
前記紡糸ノズル104は、吐出孔を2箇所以上、好ましくは30箇所以上、より好ましくは30~10000箇所、更に好ましくは30~5000箇所有する。
各吐出孔の形状及び大きさは、圧電繊維において要求される特性(例えば、外観、繊度、強度、断面形状など)に合わせて選定される。吐出孔の形状は、例えば、円形状(真円形、略円形、楕円形、及び、略楕円形を含む概念)である。
各吐出孔の面積は、例えば、延伸用フィラメントにおける単糸の断面積の10倍~5000倍になるように決定される。
本実施形態では、吐出孔同士の形状は、略同じになっている。また、吐出孔同士の面積は、略同じになっている。
各吐出孔の面積は、好ましくは1.0×10-3~20mm、より好ましくは5.0×10-3~10mmである。
【0051】
紡糸ノズル104から溶融物が吐出される速度(以下、「紡糸ノズル流速」ともいう。)は、0.02m/min~20m/minが好ましく、0.05m/min~10m/minがより好ましく、0.1m/min~5.0m/minがさらに好ましい。
【0052】
本実施形態では、冷却された複数本の前記原糸100Aそれぞれの表面に、前記紡糸油剤を塗布してもよい。
【0053】
前記溶融紡糸工程では、得られた溶融状態の複数本の前記原糸に気体を吹き付けて30本以上の前記原糸を冷却することにより、延伸用フィラメントを得る。
本実施形態では、第1の冷却ボックス105内で気体で前記原糸100Aを冷却する。
また、本実施形態では、前記第1の冷却ボックス105内で冷却された原糸100Aを、第2の冷却ボックス106内で気体で更に冷却してもよい。
【0054】
前記溶融紡糸工程では、得られた溶融状態の複数本の前記原糸100Aに吹き付ける気体の温度は、好ましくは0~50℃であり、より好ましくは0~40℃、さらに好ましくは15~40℃である。
また、前記気体の温度が0℃以上であることにより、延伸用フィラメントの単糸間の融着を抑制できる。
前記気体の温度が50℃以下であることにより、前記延伸用フィラメントの単糸の繊度ムラが抑制される。また、前記気体の温度が50℃以下であることにより、複数本の原糸100Aのうちの一部が糸切れするのを抑制することができる。
また、前記溶融紡糸工程では、前記気体の温度は、前記ポリマー組成物のガラス転移温度以上であることが好ましい。前記気体の温度は、前記ポリマー組成物のガラス転移温度以上であることにより、ポリマー組成物が塑性変形しやすくなり、原糸100Aが切れ難くなる。
なお、「得られた溶融状態の複数本の前記原糸100Aに吹き付ける気体の温度」とは、前記気体が前記原糸100Aに接触する際の前記気体の温度を意味する。
【0055】
前記溶融紡糸工程では、複数本の前記原糸に吹き付ける前記気体の速度を、好ましくは0.10m/s以上、より好ましくは0.20~5.0m/s、さらに好ましくは0.20~3.0m/s、さらにより好ましくは0.30~3.0m/s、特に好ましくは0.32~3.0m/sにする。
前記気体の速度が0.10m/s以上であることにより、気体による冷却効果が発揮されやすくなる。
前記気体の速度が5.0m/s以下であることにより、紡糸ノズル104から吐出した溶融状態の原糸100Aが気体で揺れることが抑制される。その結果、溶融状態の原糸100A同士の融着及び/又は糸切れ等が生じることが抑制され、すなわち、紡糸安定性が高まる。
なお、「得られた溶融状態の複数本の前記原糸100Aに吹き付ける気体の速度」とは、前記気体が前記原糸100Aに接触する際の前記気体の前記原糸100Aに対する相対速度を意味する。
【0056】
前記気体としては、空気、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)、水蒸気等が挙げられる。
【0057】
気体の吹き付け方法としては、サーキュラー法、背面法などが挙げられる。
前記背面法は、複数本の原糸100Aの長手方向視(前記原糸Aの長手方向に垂直となる、前記原糸Aの断面視)において、複数本の原糸100Aに冷却ボックス内で1方向から前記気体を吹き付ける方法である。
前記サーキュラー法は、円筒状の側壁を有する冷却ボックスを用い、円筒状の側壁の内周面に沿って螺旋状に気体を円筒状のボックス内に吹き付けることにより、複数本の原糸100Aに前記気体を吹き付ける方法である。なお、複数本の原糸100Aの流れ方向は、円筒状の側壁の仮想軸と略平行とする。
前記冷却ボックスは、円筒状の側壁の内側に、円筒状のパンチングメタルを有し、更に、円筒状のパンチングメタルの内側に、円筒状の網(例えば、80メッシュ)を有してもよい。円筒状のパンチングメタルの外径は、円筒状の側壁の内径よりも小さい。円筒状の網の外形は、円筒状のパンチングメタルの内径よりも小さい。
この場合、前記サーキュラー法では、複数本の原糸100Aが円筒状の網の内側を通過する。
気体の吹き付け方法としては、前記サーキュラー法が好ましい。前記サーキュラー法は、複数本の原糸100Aに比較的均一に気体を吹き付けることができ、その結果、複数本の原糸100Aをより一層均一に冷却でき、また、複数本の原糸100Aの繊度のばらつきを抑制し得る。
【0058】
前記溶融紡糸工程では、気体で冷却された複数本の前記原糸100Aを第1の引取ロール部107で引き取る。前記第1の引取ロール部107は、2つのロールで構成されている。なお、第1の引取ロール部107は、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
そして、本実施形態では、第1の搬送ロール部108、第2の搬送ロール部109、第3の搬送ロール部110、及び、第4の搬送ロール部111を用いて、前記第1の引取ロール部107で引き取った複数本の前記原糸100Aを搬送し、搬送ロール部108、109、110、111で搬送された複数本の前記原糸100Aを第1の巻取ロール部112で巻き取ることで、延伸用フィラメントを得る。
前記第1の巻取ロール部112は、ボビンを有する。ボビンは、紙管も含む概念である。ボビンは、鍔を有してもよく、鍔を有してなくてもよい。
前記延伸工程では、具体的には、原糸100Aを第1の巻取ロール部112のボビンで巻き取ることで、延伸用フィラメントを得る。
各搬送ロール部は、図2においては2つのロールで構成されているが、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
【0059】
前記溶融紡糸工程では、複数本の前記原糸100Aを、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下、特に好ましくは40℃以下に冷却する。前記溶融紡糸工程では、複数本の前記原糸100Aを、例えば0℃以上、好ましくは10℃以上に冷却する。
また、前記溶融紡糸工程では、複数本の前記原糸100Aを、好ましくは前記ポリマー組成物のガラス転移温度以上の温度に冷却する。
前記溶融紡糸工程では、0℃以上50℃以下の気体の吹き付けで、30本以上の前記原糸を70℃以下まで冷却してもよい。また、前記溶融紡糸工程では、0℃以上50℃以下の気体の吹き付けで、複数本の前記原糸100Aをある程度まで冷却し、そして、前記第1の引取ロール部107から前記第1の巻取ロール部112まで複数本の前記原糸100Aを搬送している間に周囲の空気で冷却させて、複数本の前記原糸100Aを70℃以下まで冷却してもよい。
【0060】
(延伸工程)
図3に示すように、延伸工程では、延伸用フィラメント100Bを加熱して延伸ロール部114で延伸する。
【0061】
前記延伸工程では、前記第1の巻取ロール部112から延伸用フィラメントを第2の引取ロール部113で引き取る。
次に、前記延伸工程では、前記第2の引取ロール部113で引き取った延伸用フィラメント100Bを前記延伸ロール部114で延伸する。
そして、前記延伸工程では、前記延伸ロール部114で延伸した延伸用フィラメント100Bを第2の巻取ロール部116で巻き取って、延伸フィラメントを得る。
前記第2の巻取ロール部116は、ボビンを有する。ボビンは、紙管も含む概念である。ボビンは、鍔を有してもよく、鍔を有してなくてもよい。
前記延伸工程では、具体的には、延伸された延伸用フィラメント100Bを第2の巻取ロール部116のボビンで巻き取ることで、延伸フィラメントを得る。
なお、図3における前記延伸工程では、前記延伸ロール部114で延伸した延伸用フィラメント100Bを第2の巻取ロール部116で巻き取って、延伸フィラメントを得るが、前記延伸ロール部114で延伸した延伸用フィラメント100Bを第2の巻取ロール部116で巻き取らずに、延伸フィラメントを得てもよい。
また、前記延伸工程では、前記延伸ロール部114で延伸した延伸用フィラメント100Bをテイクオフロール部115で搬送してもよい。
【0062】
前記第2の引取ロール部113は、2つのロールで構成されている。なお、第2の引取ロール部113は、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
前記延伸工程では、延伸用フィラメント100Bを前記第2の引取ロール部113で加熱することが好ましい。
前記延伸工程では、延伸用フィラメント100Bを前記第2の引取ロール部113で加熱することにより、延伸用フィラメント100Bにおける単糸に含まれるポリマー成分の配向性を高めるのに適した温度領域内となるように単糸の温度を調整するのが容易となり、その結果、単糸のポリマー成分の配向性を高めやすくなる。
前記第2の引取ロール部113の温度は、好ましくは15℃以上60℃未満、より好ましくは20~55℃である。
なお、前記延伸工程を実施する環境の温度が15℃以上である場合には、延伸用フィラメント100Bを前記第2の引取ロール部113で加熱しなくてもよい。
【0063】
前記延伸ロール部114は、2つのロールで構成されている。なお、延伸ロール部114は、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
前記延伸工程では、延伸用フィラメント100Bを前記延伸ロール部114で加熱してもしなくてもよい。すなわち、本実施形態では、延伸ロール部114が熱処理ロール部を兼ねていてもよい。
前記延伸工程では、延伸用フィラメント100Bを前記延伸ロール部114で加熱することにより、延伸用フィラメント100Bにおける単糸に含まれるポリマー成分の結晶化を促進し、あるいは該単糸に含まれるポリマー成分の耐熱性を向上させることができる。
前記延伸ロール部(熱処理ロール部)114の温度は、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~90℃である。
【0064】
本実施形態では、テイクオフロール部115が熱処理ロール部を兼ねていることが好ましい。
前記テイクオフロール部115(熱処理ロール部115)は、2つのロールで構成されている。なお、前記テイクオフロール部115(熱処理ロール部115)は、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
前記延伸工程では、延伸用フィラメント100Bを前記熱処理ロール部115で加熱することにより、延伸用フィラメント100Bにおける単糸に含まれるポリマー成分の結晶化を促進し、あるいは該単糸に含まれるポリマー成分の耐熱性を向上させることができる。
前記テイクオフロール部(熱処理ロール部)115の温度は、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~90℃である。
なお、前記延伸ロール部114及び前記テイクオフロール部115の両方又は何れか一方のみが、熱処理ロール部であってもよい。
【0065】
なお、本実施形態の延伸工程では、引取ロール部113、延伸ロール部114、及び、テイクオフロール部115で前記単糸を加熱しているが、単糸のポリマー成分の配向性、結晶化、及び、耐熱性を制御するという目的を達成するために、前記単糸を適宜加熱すればよい。
例えば、第1の巻取ロール部112で前記単糸を加熱してもよい。
また、第2の巻取ロール部116で前記単糸を加熱して、延伸フィラメントを得てもよい。
第1の巻取ロール部112から第2の巻取ロール部116までの全てのロール部で前記単糸を加熱してもよい。また、第1の巻取ロール部112から第2の巻取ロール部116の全てのロール部のうちの一部のロール部のみで前記単糸を加熱し、他のロール部では前記単糸を加熱しない態様であってもよい。
なお、ロール部での前記単糸への加熱のコントロールは、ロール部それぞれで実施するのが好ましい。
【0066】
また、本実施形態の延伸工程での単糸のポリマー成分を加熱する方法(以下、単に「加熱方法」ともいう。)は、ロール部のロールを加熱することで、単糸のポリマー成分を加熱する方法であってもよい。
また、ロール部が、ロールを収容する容器と、該容器に前記ロールとともに収容される液体(水等)とを有し、前記加熱方法が、該液体を加熱することで、単糸のポリマー成分を加熱する方法であってもよい。前記延伸工程では、例えば、浴中延伸を実施してもよい。
さらに、前記加熱方法が、前記ロール部に、又は、前記ロール部付近に、加熱した気体(例えば、空気等)を吹き付けることで、単糸のポリマー成分を加熱する方法であってもよい。
また、これらの加熱方法を併用してもよい。
【0067】
前記延伸工程における延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.7倍以上である。前記延伸工程における延伸倍率は、例えば、20倍以下である。
前記延伸工程における延伸倍率が1.5倍以上であることにより、延伸用フィラメント100Bにおける単糸のポリマー成分の配向性がより一層高くなる。
前記延伸工程における延伸倍率は、下記式によって求めることができる。
前記延伸工程における延伸倍率 = 延伸ロール部の速度(m/min) / 前記延伸工程で用いる引取ロール部(本実施形態では、「第2の引取ロール部113」)の速度(m/min)
【0068】
前記延伸工程において、下記式で求められる緩和率は、好ましくは1~30%、より好ましくは1~15%である。
緩和率(%) = ((前記延伸ロール部114の速度-前記延伸用フィラメントを巻き取る巻取ロール部(本実施形態では、「第2の巻取ロール部116」)の速度)/前記延伸用フィラメントを巻き取る巻取ロール部の速度)×100
【0069】
なお、前記延伸ロール部の速度(m/min)は、延伸ロール部で搬送される延伸用フィラメントの単位時間当たりの長さである。
本実施形態では、延伸ロール部を1つのみ用いるが、延伸ロール部を複数用いてもよい。延伸ロール部を複数用いる場合には、複数のうちで最も高い速度を「延伸ロール部の速度」とする。
前記延伸工程で用いる引取ロール部の速度(m/min)は、該引取ロール部で搬送される延伸用フィラメントの単位時間当たりの長さである。
前記延伸用フィラメントを巻き取る巻取ロール部の速度(m/min)は、該巻取ロール部に巻き取られる延伸用フィラメントの単位時間当たりの長さである。
【0070】
なお、前記延伸工程では、延伸用フィラメント1本のみを延伸することにより、延伸フィラメントを得てもよく、また、複数本の延伸用フィラメントを合糸し、合糸した複数本の延伸用フィラメントを延伸することにより、延伸フィラメントを得てもよい。
【0071】
(熱処理工程)
熱処理工程(以下、「アニール処理工程」ともいう。)では、延伸フィラメントたるフィラメントを熱処理することにより、前記圧電繊維を得る。
【0072】
前記アニール処理工程では、特定温度に恒温化された媒体中に前記フィラメントを所定時間保持することによって、前記フィラメントを熱処理することができる。前記媒体としては、空気、水、オイル等が挙げられる。前記アニール処理工程では、オーブン、恒温浴等を用いることができる。恒温媒体中にフィラメントを保持する際には、フィラメントの両端を固定することが好ましい。また、恒温媒体中にフィラメントを保持する際には、フィラメントをボビンなどに巻いた状態にしてもよい。
また、別の方法としては、加熱ロールに前記フィラメントを所定時間接触させることによって、前記フィラメントを熱処理してもよい。例えば、加熱ゴデットロールにフィラメントを巻く巻き数と、ロール回転時間とを調整することによっても、アニール処理工程を実施することができる。
前記アニール処理工程では、ハンドリングの容易さからオーブンを使用することが望ましい。
【0073】
前記アニール処理工程では、フィラメントの結晶化度を高めつつ、熱処理の時間を短くできるという観点から、熱処理の温度(以下、「アニール処理の温度」ともいう。)は、40℃以上が好ましい。
また、前記アニール処理工程では、フィラメントの結晶化度を高めつつ、フィラメントが溶融するのを抑制できるという観点から、前記アニール処理の温度は、140℃以下が好ましい。
前記アニール処理の温度は、より好ましくは50℃~130℃である。
アニール処理の好ましい時間は温度によって変わる。例えば、アニール処理の温度を60℃にする場合には、アニール処理の時間は10分以上が好ましい。また、アニール処理の温度を120℃にする場合には、アニール処理の時間は5分以下が好ましい。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0075】
例えば、本実施形態に係る圧電繊維の製造方法では、マルチフィラメントを作製するが、他の実施形態に係る圧電繊維の製造方法では、モノフィラメントを作製してもよい。
【0076】
また、本実施形態に係る圧電繊維の製造方法では、前記溶融紡糸工程及び前記延伸工程を逐次延伸法で実施したが、他の実施形態に係る圧電繊維の製造方法では、前記溶融紡糸工程及び前記延伸工程をスピンドロー法で実施してもよい。
スピンドロー法は、溶融物を複数の吐出孔から吐出することで溶融状態の原糸を複数本得る工程と、延伸用フィラメントを延伸ロール部で延伸する工程とを1工程で実施する方法である。スピンドロー法は、「SDY法」や「直接紡糸延伸法」とも呼ばれる。
【0077】
スピンドロー法を実施する他の実施形態では、図4に示すように、前記溶融紡糸工程で溶融状態の複数本の前記原糸100Aに気体を吹き付けて30本以上の前記原糸100Aを冷却することにより、延伸用フィラメント200Bを得、該延伸用フィラメント200Bを引取ロール部207で引き取る。
次に、前記延伸工程では、引取ロール部207で引き取った延伸用フィラメント200Bを、3つの延伸ロール部(第1の延伸ロール部208、第2の延伸ロール部209、及び、第3の延伸ロール部210)で延伸する。
そして、前記延伸工程では、延伸された延伸用フィラメント200Bを巻取ロール部212で巻き取ることで、延伸フィラメントを得る。
前記巻取ロール部212は、ボビンを有する。ボビンは、紙管も含む概念である。ボビンは、鍔を有してもよく、鍔を有してなくてもよい。
前記延伸工程では、具体的には、延伸された延伸用フィラメント200Bを巻取ロール部212のボビンで巻き取ることで、延伸フィラメントを得る。
なお、図4における前記延伸工程では、延伸ロール部で延伸した延伸用フィラメント200Bを巻取ロール部212で巻き取って、延伸フィラメントを得るが、延伸ロール部で延伸した延伸用フィラメント200Bを巻取ロール部212で巻き取らずに、延伸フィラメントを得てもよい。
また、前記延伸工程では、前記延伸ロール部で延伸した延伸用フィラメント200Bをテイクオフロール部211で搬送してもよい。
【0078】
前記溶融紡糸工程では、複数本の前記原糸100Aを第1の冷却ボックス105で冷却することにより延伸用フィラメント200Bを得、前記延伸工程では、該延伸用フィラメント200Bを引取ロール部207で引き取る。
なお、第1の冷却ボックス105で冷却した複数本の前記原糸100Aを第2の冷却ボックス106で冷却することにより延伸用フィラメント200Bを得てもよい。
引取ロール部207は、図1においては2つのロールで構成されているが、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
【0079】
スピンドロー法を実施する他の実施形態では、各延伸ロール部が熱処理ロール部を兼ねていてもよい。
各延伸ロール部208、209、210(各熱処理ロール部208、209、210)は、図1においては2つのロールで構成されているが、1つのロールで構成されてもよく、3つ以上のロールで構成されていてもよい。
延伸用フィラメント200Bにおける単糸に含まれるポリマー成分の結晶化を促進させるという観点、あるいは、該単糸に含まれるポリマー成分の耐熱性を向上させるという観点から、前記熱処理ロール部の温度は、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~90℃である。
なお、延伸工程を実施する環境の温度が30℃以上である場合には、熱処理ロール部を用いなくても、単糸に含まれるポリマー成分の結晶化を促進することができる。
【0080】
〔開示項目〕
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0081】
〔項目1〕
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量が、50,000~500,000であり、
結晶化度が52%以上である、圧電繊維。
〔項目2〕
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が、3-ヒドロキシブチレート単位を有する共重合体を含み、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における前記3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合が、85.5モル%以上99.5モル%以下である、項目1に記載の圧電繊維。
〔項目3〕
前記圧電繊維が、1又は2以上の単糸を含み、
前記単糸の平均繊度が、0.5dtex以上である、項目1又は2に記載の圧電繊維。
〔項目4〕
前記圧電繊維が、マルチフィラメントである、項目1~3の何れか1項に記載の圧電繊維。
〔項目5〕
項目1~4の何れか1項に記載の圧電繊維の製造方法であって、
フィラメントを熱処理することにより、前記圧電繊維を得る熱処理工程を有する、圧電繊維の製造方法。
〔項目6〕
延伸用フィラメントを延伸することにより、延伸フィラメントたる前記フィラメントを得る延伸工程を更に有する、項目5に記載の圧電繊維の製造方法。
〔項目7〕
溶融物を溶融紡糸法で吐出することにより、前記延伸用フィラメントを得る溶融紡糸工程を更に有する、項目6に記載の圧電繊維の製造方法。
〔項目8〕
前記熱処理工程での熱処理温度が、40℃~140℃である、項目5~7の何れか1項に記載の圧電繊維の製造方法。
【実施例0082】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
<実施例1>
逐次延伸法によりフィラメントを作製した。
【0084】
(溶融紡糸工程)
まず、下記の材料を下記の配合割合でドライブレンドし、ドライブレンドした材料を押出機により150℃で溶融混練してペレットを得た。
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂として、(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(3-ヒドロキシヘキサノエートの割合:6mol%、Mw:35万、メルトフローレート(MFR)(165℃、5kg):12g/10min)(P3HB3HH):100質量部
結晶核剤たるペンタエリスリトール(日本合成化学社製、ノイライザ―P):1.0質量部
滑剤たるエルカ酸アミド:0.5質量部
滑剤たるベヘン酸アミド:0.5質量部
ペレットのガラス転移温度は2℃であった。ペレットの結晶化温度は100℃であった。ベレットの融点は146℃であった。ペレットの熱分解温度は180℃であった。
【0085】
そして、図2に示すように、混練押出機102(単軸押出機、スクリュー径:25mm)で前記ペレットを溶融して溶融物を得た。
そして、該溶融物を紡糸ノズル104(温度:175℃、吐出孔の数:368箇所、吐出孔の形状:円形状、吐出孔の直径:0.3mm)から吐出して、原糸100Aを368本得た。
なお、溶融物の流量は、ギアポンプ103で5.6kg/hに調整した。
次に、冷却ボックス105で368本の原糸100Aに20℃の空気を0.7m/sの速度でサーキュラー法により吹き付けた。なお、冷却ボックス106では、気体を吹き付けなかった。
次に、冷却ボックス105、106で冷却された368本の原糸100Aを第1の引取ロール部107(563m/min)で引き取り、368本の原糸100Aが第1の搬送ロール部108(563m/min)、第2の搬送ロール部109(563m/min)、第3の搬送ロール部110(563mm/min)、第4の搬送ロール部111(471m/min)を順に通った後に、368本の原糸100Aを第1の巻取ロール部(552m/min)で巻き取り、室温(5~35℃)で18時間保管して、延伸用フィラメントを得た。
【0086】
(延伸工程)
図3に示すように、第1の巻取ロール部112から延伸用フィラメントを第2の引取ロール部113(55.5m/min、30℃)で引き取り、延伸ロール部114(110m/min、90℃)で延伸し、テイクオフロール部(熱処理ロール部)115(100m/min、100℃)で搬送し、第2の巻取ロール部116(100m/min)で巻き取ることにより、延伸フィラメントたるフィラメントを得た。
延伸倍率は1.8倍とした。
【0087】
なお、引取ロール部及び搬送ロール部としては、それぞれが同一速度及び同一温度の2つのロールで構成されたロール部を用いた。
【0088】
(熱処理工程(アニール処理工程))
フィラメントを第2の巻取ロール部116に巻き取った状態で、オーブンを用いてフィラメントを60℃で10分間熱処理することにより、圧電繊維を得た。
【0089】
<実施例2~5>
アニール処理工程における加熱条件を下記表1の条件にしたこと以外は、実施例1と同様にして圧電繊維を得た。
【0090】
<比較例1>
実施例1で得られた延伸フィラメントを比較例1の圧電繊維とした。言い換えれば、アニール処理工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして圧電繊維を得た。
【0091】
(結晶化度、重量平均分子量、及び、平均繊度)
圧電繊維の結晶化度、圧電繊維におけるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量、及び、圧電繊維における単糸の平均繊度は、上述した方法で測定した。
測定値を下記表1に示す。
【0092】
(出力圧電差)
圧電繊維の出力圧電差を測定した。
出力圧電差は、ベルリンコート法により測定した。印加応力0.1Nで測定し、出力電圧が100mVで圧電定数が0.1pC/Nであるように電荷測定器を調整した。
測定値を下記表1に示す。
出力圧電差が大きいほど、圧電性が高いことを意味する。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、本発明の範囲内である実施例1~4では、結晶化度が51.0%である比較例1に比べて、出力圧電差が大きかった。
従って、本発明によれば、重量平均分子量が50,000~500,000であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する圧電繊維において、圧電性に優れる圧電繊維を提供し得ることがわかる。
また、実施例5では結晶化度が53.5%であり、他の実施例と同様に結晶化度が高かった。このことから、実施例5の圧電繊維も圧電性に優れると思われる。
【符号の説明】
【0095】
100A:原糸、100B:延伸用フィラメント、101:材料投入部、102:混練押出機、103:ギアポンプ、104:紡糸ノズル、105:第1の冷却ボックス、106:第2の冷却ボックス、107:第1の引取ロール部、108:第1の搬送ロール部、109:第2の搬送ロール部、110:第3の搬送ロール部、111:第4の搬送ロール部、112:第1の巻取ロール部、113:第2の引取ロール部、114:延伸ロール部(熱処理ロール部)、115:テイクオフロール部(熱処理ロール部)、116:第2の巻取ロール部、
200B:延伸用フィラメント、207:引取ロール部、208:第1の延伸ロール部(熱処理ロール部)、209:第2の延伸ロール部(熱処理ロール部)、210:第3の延伸ロール部(熱処理ロール部)、211:テイクオフロール部、212:巻取ロール部
図1
図2
図3
図4