(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167707
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】電圧電流発生器
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20241127BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
G01R19/00 D
G01R27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083959
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】230128026
【弁護士】
【氏名又は名称】駒木 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】杉原 吉信
(72)【発明者】
【氏名】土田 直人
【テーマコード(参考)】
2G028
2G035
【Fターム(参考)】
2G028AA05
2G028BB10
2G028CG08
2G028DH06
2G035AA14
2G035AA18
2G035AB11
2G035AC03
2G035AC11
2G035AD28
2G035AD55
(57)【要約】
【課題】ソースメジャーユニットの出力の応答改善を簡易な設定にて実現可能にする。
【解決手段】電圧電流発生器(1)は、ユーザからの操作を受け付ける操作部(11)と、負荷(30)に対して電気信号を出力する出力部(16)と、出力部(16)が出力した電気信号の測定値を検出する検出部(17,18)と、操作部(11)を介してユーザにより設定された電気信号の目標値と、検出部が検出した電気信号の測定値との偏差に基づき、電気信号の測定値が目標値に近づくように出力部(16)の動作を制御する制御演算部(15)と、を備え、制御演算部(15)は、操作部(11)を介してユーザにより設定された負荷(30)のインピーダンス値に基づき、出力部(16)の出力抵抗及び負荷(30)におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
負荷に対して電気信号を出力する出力部と、
前記出力部が出力した前記電気信号の測定値を検出する検出部と、
前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号の目標値と、前記検出部が検出した前記電気信号の測定値との偏差に基づき、前記電気信号の測定値が前記目標値に近づくように前記出力部の動作を制御する制御演算部と、
を備え、
前記制御演算部は、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記負荷のインピーダンス値に基づき、前記出力部の出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行う、
電圧電流発生器。
【請求項2】
前記制御演算部は、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号のレンジに応じた前記出力部の出力抵抗に基づき、前記出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行う、請求項1に記載の電圧電流発生器。
【請求項3】
前記出力部は、前記負荷に対して、定電圧信号を前記電気信号として出力し、
前記検出部は、前記出力部が出力した前記電気信号の電圧値を前記測定として検出し、
前記制御演算部は、
前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号の電圧の目標値と、前記検出部が検出した前記電気信号の電圧値との偏差に基づき、前記出力部の動作を制御するとともに、
前記負荷のインピーダンス値として、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記負荷の抵抗値及び容量値に基づき、前記出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記補償動作を含む制御を行う、
請求項1又は2に記載の電圧電流発生器。
【請求項4】
前記出力部は、前記負荷に対して、定電流信号を前記電気信号として出力し、
前記検出部は、前記出力部が出力した前記電気信号の電流値を前記測定として検出し、
前記制御演算部は、
前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号の電流の目標値と、前記検出部が検出した前記電気信号の電流値との偏差に基づき、前記出力部の動作を制御するとともに、
前記負荷のインピーダンス値として、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記負荷の抵抗値及びインダクタンス値に基づき、前記出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記補償動作を含む制御を行う、
請求項1又は2に記載の電圧電流発生器。
【請求項5】
前記制御演算部は、前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記制御として、所定の周波数以上の帯域における前記電気信号に対するゲインの最大値が制限された特性を付加するように調整された制御を行う、請求項1又は2に記載の電圧電流発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソースメジャーユニットの電圧電流発生に関する。
【背景技術】
【0002】
ソースメジャーユニット(SMU)は、直流電圧・電流の発生(ソース)と測定(メジャー)機能を一体化したものであり、指定された値の定電圧又は定電流を負荷に供給するとともに、負荷における実際の電圧又は電流を測定することができる機器である。一般的にソースメジャーユニットは、半導体及び電子部品等のデバイスの特性評価及び検査等に使用されている。ソースメジャーユニットにおいては、評価及び検査の効率化のため、電圧及び電流の発生において、目標値への整定時間が短いことが要求される。特許文献1には、ソースメジャーユニットに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のソースメジャーユニットは、ユーザが算出困難なパラメータを設定する必要があり、操作が困難だった。
【0005】
そこで、本開示は、ソースメジャーユニットの出力の応答改善を簡易な設定にて実現可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る電圧電流発生器は、
(1)ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
負荷に対して電気信号を出力する出力部と、
前記出力部が出力した前記電気信号の測定値を検出する検出部と、
前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号の目標値と、前記検出部が検出した前記電気信号の測定値との偏差に基づき、前記電気信号の測定値が前記目標値に近づくように前記出力部の動作を制御する制御演算部と、
を備え、
前記制御演算部は、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記負荷のインピーダンス値に基づき、前記出力部の出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行う。
【0007】
したがって、ユーザは、外部から知ることが困難な出力部の出力抵抗を考慮することなく、負荷のインピーダンス値の設定という簡易な設定を行うだけで、電圧電流発生器の出力の応答を改善することができる。
【0008】
一実施形態において、
(2)前記(1)の電圧電流発生器において、
前記制御演算部は、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号のレンジに応じた前記出力部の出力抵抗に基づき、前記出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記補償動作を含む制御を行ってもよい。
【0009】
したがって、ユーザが外部から知ることが困難なレンジに応じた出力抵抗を設定しなくても、電圧電流発生器は、緻密な制御により出力の応答を改善することができる。
【0010】
一実施形態において、
(3)前記(1)又は(2)の電圧電流発生器において、
前記出力部は、前記負荷に対して、定電圧信号を前記電気信号として出力し、
前記検出部は、前記出力部が出力した前記電気信号の電圧値を前記測定として検出し、
前記制御演算部は、
前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号の電圧の目標値と、前記検出部が検出した前記電気信号の電圧値との偏差に基づき、前記出力部の動作を制御するとともに、
前記負荷のインピーダンス値として、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記負荷の抵抗値及び容量値に基づき、前記出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記補償動作を含む制御を行ってもよい。
【0011】
したがって、ユーザは、簡易な設定を行うだけで、電圧電流発生器の定電圧出力の応答を改善することができる。
【0012】
一実施形態において、
(4)前記(1)から(3)のいずれかの電圧電流発生器において、
前記出力部は、前記負荷に対して、定電流信号を前記電気信号として出力し、
前記検出部は、前記出力部が出力した前記電気信号の電流値を前記測定として検出し、
前記制御演算部は、
前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記電気信号の電流の目標値と、前記検出部が検出した前記電気信号の電流値との偏差に基づき、前記出力部の動作を制御するとともに、
前記負荷のインピーダンス値として、前記操作部を介して前記ユーザにより設定された前記負荷の抵抗値及びインダクタンス値に基づき、前記出力抵抗及び前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記補償動作を含む制御を行ってもよい。
【0013】
したがって、ユーザは、簡易な設定を行うだけで、電圧電流発生器の定電流出力の応答を改善することができる。
【0014】
一実施形態において、
(5)前記(1)から(4)のいずれかの電圧電流発生器において、
前記制御演算部は、前記負荷におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための前記制御として、所定の周波数以上の帯域における前記電気信号に対するゲインの最大値が制限された特性を付加するように調整された制御を行ってもよい。
【0015】
したがって、電圧電流発生器に負荷が接続されていない場合であっても、電圧電流発生器の動作が不安定になることを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一実施形態によれば、ソースメジャーユニットの出力の応答改善を簡易な設定にて実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】比較例に係るソースメジャーユニットの構成を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る電圧電流発生器の構成例を示すブロック図である。
【
図3】ソースメジャーユニットにおける最適な出力波形のグラフの一例を示す図である。
【
図4】ソースメジャーユニットにおけるオーバーシュート及びリンギングが生じた出力波形のグラフの一例を示す図である。
【
図5A】負荷のインピーダンスに対応する回路構成を示す図である。
【
図5B】負荷のインピーダンスに対応する回路構成を示す図である。
【
図6】ローパスフィルタの逆特性を与える回路の一例を示す図である。
【
図9】
図4の出力波形のグラフを最適化した一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<比較例>
図1は、比較例(特許文献1)に係るSMU9の構成を示す図である。ユーザは、ユーザインターフェースを介してSMU9にアクセスし、ゲイン帯域幅(GBW)、補償周波数、及び、ポール/ゼロ比(極/零点比)に対応する3つの所望の値を入力する。GBWは、積分器のゲインがどれだけ高いかに対応する。補償周波数は、ポール周波数とゼロ周波数の幾何平均に対応する。ポール・ゼロ比は、ポール周波数とゼロ周波数の比に対応する。
【0019】
図1のSMU9は、ユーザが入力したGBW、補償周波数、及び、ポール/ゼロ比の値から決定されるパラメータA、B、及び、Fを使用して、フィードバックループを補償する。
図1のように、入力信号x
i(i番目のサンプルを表す)は、乗算器ブロック91、及び、遅延92に入力される。乗算器ブロック91は、入力信号x
iをパラメータAで乗算する。遅延92の出力は、乗算器ブロック93に入力される。乗算器ブロック93は、遅延92の出力をパラメータBで乗算する。加算器95は、乗算器ブロック91の出力、乗算器ブロック93の出力、及び、乗算器ブロック94の出力を入力する。加算器95の出力は、フィードバック信号として遅延96に供給される。乗算器ブロック94は、遅延96の出力をパラメータFで乗算する。
【0020】
A、B、及び、Fのデフォルト値は、SMU9にロードされるデフォルト値に基づいて計算され、その後、ユーザによって変更される。SMU9は、デジタルフィードバックループのGBW、補償周波数、及び、ポール/ゼロ比をプログラム可能とすることで、特定の負荷に対して補償を自由に調整し、オーバーシュート及びリンギングを抑え、整定時間を短縮する。
【0021】
しかし、比較例に係る構成は、GBW、補償周波数、及び、ポール/ゼロ比等の、直感的でない算出が困難なパラメータを入力する必要がある。また、ユーザが適切な設定値を求めるためには、装置内の出力部の出力抵抗も考慮する必要があるが、そのような出力抵抗は一般にユーザに開示されない情報である。出力部の出力抵抗が変化する場合、例えば、レンジ変更時等において、最適な調節状態を維持することができない。このように、比較例に係る構成は、算出が困難なパラメータを設定する必要があり、操作が困難だった。
【0022】
<実施形態>
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。各図面中、同一の構成又は機能を有する部分には、同一の符号を付している。本実施形態の説明において、同一の部分については、重複する説明を適宜省略又は簡略化する場合がある。
【0023】
図2は、一実施形態に係る電圧電流発生器1の構成例を示すブロック図である。電圧電流発生器1は、負荷30に対して、電圧又は電流が目標値に整定された電気信号を発生させる。
図2に示すように、電圧電流発生器1は、操作部11、パラメータ変換部12、比較部13,14、制御演算部15、出力部16、電圧検出部17、及び、電流検出部18を備える。
【0024】
なお、電圧電流発生器1はソースメジャーユニットとして実現し得るが、
図2では、電圧又は電流を目標値に整定するための構成以外については、図示を省略している。例えば、
図2では、電圧又は電流の測定値を平均化する演算部、保存する記憶部、及び、ユーザに表示する表示部等を省略している。また、例えば、
図2は、パラメータ変換部12から比較部13,14に対して目標値を設定するための制御線を示しているが、他の制御線が存在してもよい。具体的には、例えば、パラメータ変換部12から制御対象のブロックへ、レンジ制御及び出力のオンオフ制御に関する制御線が接続されてもよい。
【0025】
操作部11は、電圧又は電流の目標値、負荷30のインピーダンス値(インダクタンスL1、容量C1、及び、抵抗R3)、並びに、レンジ等の操作情報の設定をユーザから受け付ける。操作部11は、例えば、ボタン、スイッチ、及び、タッチパネル等の入力部、並びに、電圧電流発生器1の演算結果等を表示する表示部を備えてもよい。操作部11は、設定値をパラメータ変換部12へ出力する。
【0026】
パラメータ変換部12は、操作部11で受け付けた値を内部情報に変換して、比較部13,14を含む各構成要素に設定する。
【0027】
比較部13,14は、目標値と帰還値との偏差を算出する。比較部13は、電圧に関する目標値と帰還値との偏差を算出する。比較部14は、電流に関する目標値と帰還値との偏差を算出する。比較部13,14は、算出した偏差を制御演算部15へ出力する。
【0028】
制御演算部15は、電圧偏差及び電流偏差の何れか一方を選択するとともに、制御ループの位相補償を行う。後述するように、制御演算部15は、負荷30のインピーダンス値に基づき、出力制御を行う。
【0029】
出力部16は、制御演算部15の出力を受けて、負荷30への出力端子を電気的に駆動する。出力部16は、出力電圧を電圧検出部17へ出力する。出力部16は、出力配線に直列に挿入した電流検出抵抗(シャント抵抗)を備え、電流検出抵抗の両端の電位差を電流検出部18へ出力する。
【0030】
電圧検出部17は、出力電圧に比例した信号をレンジ毎にスケーリングし、数値化する。電圧検出部17は、数値化された出力電圧の信号を比較部13へ出力する。
【0031】
電流検出部18は、出力電流に比例した信号をレンジ毎にスケーリングし数値化する。電流検出部18は、数値化された出力電流の信号を比較部14へ出力する。
【0032】
負荷30は、電圧電流発生器1の出力端子を通じて電圧電流発生器1の出力部16に接続される。
【0033】
電圧電流発生器1による定電圧出力の動作の概要は、次のとおりである。操作部11は、ユーザから設定情報を受け付け、電圧設定値をパラメータ変換部12へ出力する。パラメータ変換部12は、電圧設定値を内部情報に変換し、電圧目標値を比較部13へ出力する。比較部13は、電圧目標値と電圧検出部17の出力とを比較し、電圧偏差を制御演算部15へ出力する。制御演算部15は、電圧偏差を選択して制御ループの位相補償を行い、制御値を出力部16へ出力する。出力部16は、制御演算部15の出力を受けて、負荷30を電気的に駆動する。電圧検出部17は、出力部16から出力された電圧に比例した信号を数値化し、比較部13へ出力する。
【0034】
電圧電流発生器1による定電流出力の動作の概要は、次のとおりである。操作部11は、ユーザから設定情報を受け付け、電流設定値をパラメータ変換部12へ出力する。パラメータ変換部12は、電流設定値を内部情報に変換し、電流目標値を比較部14へ出力する。比較部14は、電流目標値と電流検出部18の出力とを比較し、電流偏差を制御演算部15へ出力する。制御演算部15は、電流偏差を選択して制御ループの位相補償を行い、制御値を出力部16へ出力する。出力部16は、制御演算部15の出力を受けて、負荷30を電気的に駆動する。電流検出部18は、出力部16から出力された電流に比例した信号を数値化し、比較部14へ出力する。このように、電圧電流発生器1は、定電圧、及び、定電流のどちらを出力する場合でも負帰還ループを構成する。
【0035】
電圧電流発生器1においては、出力電圧又は出力電流の目標値が設定された場合、オーバーシュート及びリンギングが小さく、出力電圧又は出力電流を目標値に短時間で整定するような応答特性が望まれる。以下、出力電圧の整定における応答特性につき、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0036】
図3は、一般的なソースメジャーユニットにおける最適な出力波形のグラフ101の一例を示す図である。
図3において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。
図3の例において、グラフ101は、短い時間である時刻t
0で電圧の目標値v
0に到達している。このような望ましい特性は、電圧電流発生器1内の制御演算部15、出力部16、及び、装置の出力抵抗と、装置外の負荷30による応答特性とを合成した特性が、一巡ゲインが1より大きい範囲で1次の積分特性となるように制御演算部15の特性を調節することで得られる。
【0037】
図4は、一般的なソースメジャーユニットにおけるオーバーシュート及びリンギングが生じた出力波形のグラフ102の一例を示す図である。オーバーシュートとは、制御対象の値(電圧、電流等)が目標値を超えて大きく変動することをいう。リンギングとは、制御対象の値が目標値付近で振動して変動することをいう。電圧又は電流についてオーバーシュート又はリンギングが生じると、目標値への整定時間が長くなってしまう。例えば、無負荷のときに、最適な応答を得られるように制御演算部の特性を定めた場合、負荷に容量(コンデンサ)を接続すると、出力部の出力抵抗と負荷容量による積分特性(すなわちローパスフィルタ特性)のために、位相余裕が減少してオーバーシュート及びリンギングが生じる。
【0038】
そこで、本実施形態に係る電圧電流発生器1は、このようなローパスフィルタとしての作用を打ち消すような補償動作を含む制御を行うことで、オーバーシュート及びリンギングを抑えて目標値への整定時間を短縮化する。例えば、出力部16の出力抵抗は既知であるから、負荷30の容量を知ることで時定数を算出できる。そこで、制御演算部15は、電圧又は電流の目標値との偏差に応じた位相補償の制御に加えて、負荷30によるローパスフィルタの逆特性を付加した制御を行い、一巡ゲインを1次の積分特性、即ち、最適な特性にする。後述するように、制御演算部15は、負荷30のインピーダンス値(例えば、インダクタンスL1、容量C1、及び、抵抗R3の少なくともいずれか)に基づき負荷30のローパスフィルタとしての作用を打ち消す逆特性を実現する。したがって、電圧電流発生器1によれば、ソースメジャーユニットの出力の応答改善を簡易な設定にて実現することができる。
【0039】
定電圧を出力する際にこのような逆特性を実現するための処理につき、
図5A、
図5B及び
図6を参照して説明する。
図5A及び
図5Bは、出力部16の出力抵抗及び負荷30に対応する回路構成を示す図である。
図5Aは、負荷30が容量C
1のみで構成される場合を示し、
図5Bは、負荷30が容量C
1と抵抗R
3との並列回路で構成される場合を示す。
図5A及び
図5Bは、出力部16の出力抵抗と負荷30とのインピーダンスをRCローパスフィルタにより模した場合の例を示している。ここで説明の簡略化のため、
図5Aのように負荷30が容量C
1のみの場合について説明する。
図5AのRCローパスフィルタは、入力信号に並列する容量C
1、及び、入力信号と直列する抵抗R
1から成る1次ローパスフィルタである。入力電圧をv
in(t)、出力電圧をv
out(t)、回路を流れる電流をi(t)、出力部16の出力抵抗値をR
1、負荷30のコンデンサの容量をC
1とする。この場合、入力電圧をv
in(t)と出力電圧をv
out(t)とは、数1のような関係となる。
【0040】
【数1】
ここで、
は、v
out(t)を時間tで微分した値である。
【0041】
数1をラプラス変換すると、数2が得られる。
【0042】
【0043】
ここで、時定数τ=R1C1とすると、伝達関数G(s)は数3のようになる。
【0044】
【0045】
伝達関数G(s)の逆関数Ginv(s)は、数4のように表される。
【0046】
【0047】
したがって、制御演算部15は、数4の伝達関数により表される特性を実現することで、出力部16及び負荷30におけるローパスフィルタに類似する作用をキャンセルして、
図5Aのv
out(t)のオーバーシュート及びリンギングを抑えることが可能である。
図6は、このようなローパスフィルタの逆特性を与える回路の一例を示す図である。
図6の回路は、位相反転を除きG
inv(s)の特性を有する。
図6の回路において、入力抵抗及び帰還抵抗は、どちらも抵抗値R
2を有する。また、入力抵抗に並列のコンデンサの容量をC
2とする。ここでR
2とC
2は、数5の要件を満たす。
【0048】
【0049】
図7は、
図5Aの負荷30のゲイン特性を示す図である。
図8は、
図6の回路のゲイン特性を示す図である。換言すると、
図7は伝達関数G(s)のゲイン線図のグラフ103を示し、
図8は逆関数G
inv(s)のゲイン線図のグラフ104を示す。
図7及び
図8において、横軸は角周波数ωの対数を示し、縦軸はdB(デシベル)で表したゲイン(利得)を示す。
図7及び
図8において、簡単のため、グラフ103,104は、折れ線により現実のゲイン線図を近似している。
図7及び
図8が示すように、グラフ103,104の折れ線のコーナーの角周波数ωは、ω=1/τとなる。
【0050】
図7において、角周波数ωが1/τ以上の範囲において、グラフ103は、1次の積分特性を示す。これに対して、
図8において、角周波数ωが1/τ以上の範囲において、グラフ104は微分特性を示している。したがって、
図7のグラフ103に対して
図8のグラフ104を足し合わせた場合、角周波数ωが1/τ以上の範囲におけるグラフ103,104の傾きの影響が互いに打ち消しあう。換言すると、制御演算部15による逆特性の制御は、角周波数ωが1/τ以上の範囲において信号を増幅することに対応する。なお、
図6の例において、出力v
out(t)の位相は入力v
in(t)から反転するため、出力v
out(t)の後段に反転回路を付与してもよい。また、
図6はアナログ素子により逆関数G
inv(s)を構成した例を示しているが、制御演算部15は、デジタル演算により逆関数G
inv(s)を実現してもよい。
【0051】
以上のように、
図5Aのような出力部16の出力抵抗と負荷30の容量とのインピーダンスに基づき発生する、抵抗値R
1の抵抗と容量C
1のコンデンサで構成される1次ローパスフィルタとしての影響に対し、制御演算部15は、時定数が等しい抵抗値R
2と容量C
2で構成される
図6のような回路を実現することにより、出力部16及び負荷30における積分特性をキャンセルすることができる。
図9は、
図4の出力波形のグラフ102を最適化した一例を示す図である。
図9において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。グラフ105は、オーバーシュート及びリンギングが生じた出力波形の例を示す。グラフ106は、出力部16及び負荷30のローパスフィルタとしての特性を相殺する逆特性を制御演算部15により加えて最適化した出力波形の例を示す。
【0052】
このように、電圧電流発生器1は、負荷30のインピーダンス値(例えば、インダクタンスL1、容量C1、及び、抵抗R3の少なくともいずれか)に基づき負荷30のローパスフィルタとしての作用を打ち消す逆特性を取得して、電気信号の出力を制御する。したがって、電圧電流発生器1によれば、ソースメジャーユニットの出力の応答改善を簡易な設定にて実現することが可能となる。
【0053】
上記のように、電圧電流発生器1が負荷30に対して定電圧を出力する場合、負荷30の容量C
1と出力部16の出力抵抗R
1は、
図5Aのような容量C
1と抵抗R
1の並列回路が接続されたローパスフィルタとして作用する。ここで、
図5Bのように、負荷30におけるC
1と並列の抵抗R
3の影響も考慮すると、負荷30によるローパスフィルタの時定数τは、τ=R
1×R
3/(R
1+R
3)×C
1となる。そこで、制御演算部15は、負荷30の容量C
1及び出力部16の出力抵抗R
1に加えて、抵抗R
3も考慮した時定数τ(=R
1×R
3/(R
1+R
3)×C
1)について、R
2C
2=τを満たすようなR
2、C
2に対して
図6の回路により示される逆特性の制御を行ってもよい。このような構成によれば、電圧電流発生器1は、既知の出力抵抗R
1及び負荷30のインピーダンスを用いたより精緻な制御によりオーバーシュート及びリンギングの発生を抑えて、より短時間で出力電圧を目標値に整定することができる。また、ユーザは、負荷30の容量C
1及び抵抗R
3を入力するだけでよいため、操作が容易である。
【0054】
電圧電流発生器1は、負荷30に対して定電流を出力する場合においても、定電圧を出力する場合と同様に負荷30のローパスフィルタとしての作用をキャンセルする制御を行うことで、出力電流を短時間で制定することができる。具体的には、定電流出力の場合、負荷30は、出力部16の既知の出力抵抗R1と、負荷30における負荷抵抗R3と、それに直列のインダクタンスL1に対して、時定数τが、τ=L1/(R1+R3)のローパスフィルタとして作用する。そこで、制御演算部15は、このような負荷30のローパスフィルタとしての作用を打ち消すような逆特性の制御を行ってもよい。このような構成によれば、電圧電流発生器1は、既知の出力抵抗R1を用いたより精緻な制御によりオーバーシュート及びリンギングの発生を抑えて、より短時間で出力電流を目標値に整定することができる。また、ユーザは、負荷30の抵抗R3及び抵抗R3に直列なインダクタンスL1を入力するだけでよいため、操作が容易である。定電流を発生させる場合と同様に、制御演算部15は、デジタル演算により逆特性の制御を実現してもよい。
【0055】
このように、電圧電流発生器1のユーザは、電圧電流発生器1の出力抵抗R1を知らなくても、負荷30のインダクタンスL1、容量C1、及び、抵抗R3を入力するだけで、整定時間が短い定電圧及び定電流を電圧電流発生器1に発生させることができる。また、電圧電流発生器1は、出力の各レンジについての出力抵抗R1を予め保持しておき、ユーザにより選択された電圧又は電流のレンジに応じた出力抵抗R1を用いて負荷30のローパスフィルタとしての作用を打ち消すような逆特性の制御を行ってもよい。このような構成によれば、レンジを変更することで出力部16の出力抵抗R1が変化したとしても、電圧電流発生器1は、ユーザが設定変更のための操作を行うことなく、オーバーシュート及びリンギングが生じない、整定時間が短い最適な調節状態を維持することができる。したがって、例えば、オートレンジとして知られる機能、即ち、測定値に応じて最適なレンジを選択する機能を電圧電流発生器1に導入した場合においても、ユーザは、負荷30のインピーダンス値を設定するだけで、電圧電流発生器1にレンジを自動的に選択させることができる。
【0056】
ここまでは、
図2のように、電圧電流発生器1に負荷30が接続されている場合の動作を説明したが、電圧電流発生器1に負荷30が接続されていない場合に、制御演算部15がローパスフィルタの逆特性を付加するための制御を行うと、動作が不安定になる場合がある。例えば、電圧発生の動作において、出力部16の出力端子が開放されている状態で、制御演算部15が
図8のような逆特性を付与する制御を行うと、
図7に示される一巡ループ内のローパスフィルタの作用がない状態で高周波域でのゲインが過剰になる。そのため、電圧電流発生器1の動作が不安定になる場合がある。電流発生の動作において、出力部16の出力端子が短絡されている状態で、制御演算部15が逆特性を付与する制御を行った場合も、ローパスフィルタの作用がない状態で高周波域でのゲインが過剰になるため、電圧電流発生器1の動作が不安定になる場合がある。
【0057】
このような現象を防止するために、電圧電流発生器1は、付加する逆特性のゲインの最大値を制限するとともに、負荷設定時のループ帯域幅を減少させるように、制御演算部15を調節してもよい。これにより、予期せずに負荷30が断線したような場合でも、電圧電流発生器1は、発振などの不安定な状態にはならず、安定な動作を維持することができる。このような制御演算部15の調節を行う場合においても、ユーザが電圧電流発生器1に対して設定する必要があるパラメータは、外部に接続した負荷30のインピーダンス値のみである。すなわち、ユーザは、負荷30の、負荷抵抗R3、負荷抵抗R3に並列の容量C1、及び、負荷抵抗R3に直列のインダクタンスL1の少なくともいずれかを設定するだけでよい。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る電圧電流発生器1は、操作部11、出力部16、検出部(17,18)、及び、制御演算部15を備える。操作部11は、ユーザからの操作を受け付ける。出力部16は、負荷30に対して電気信号を出力する。検出部(17,18)は、出力部16が出力した電気信号の測定値を検出する。制御演算部15は、操作部11を介してユーザにより設定された電気信号の目標値と、検出部(17,18)が検出した電気信号の測定値との偏差に基づき、電気信号の測定値が目標値に近づくように出力部16の動作を制御する。ここで、制御演算部15は、操作部11を介してユーザにより設定された負荷30のインピーダンス値に基づき、出力部16及び負荷30におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行う。したがって、ユーザは、外部から知ることが困難な出力部16の出力抵抗R1を考慮しなくても、簡易な設定を行うだけで、電圧電流発生器1の出力の応答を改善することができる。
【0059】
なお、電圧電流発生器1は、ユーザが設定する負荷30のインピーダンス値が必ずしも正確でなくても、インピーダンス値に応じた逆特性を電気信号の特性に付加することで、一巡ゲインが1よりも大きい範囲で1次の積分特性となるように特性を調節することができる。したがって、ユーザは、負荷30のインピーダンス値として正確な値が分からない場合であっても、概略値を入力するだけで、電圧電流発生器1の出力の応答を改善することができる。
【0060】
また、制御演算部15は、操作部11を介してユーザにより設定された電気信号のレンジに応じた出力抵抗R1に基づき、出力部16及び負荷30におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための制御を行ってもよい。したがって、ユーザが外部から知ることが困難なレンジに応じた出力抵抗R1を設定しなくても、電圧電流発生器1は、緻密な制御により出力の応答を改善することができる。
【0061】
また、出力部16は、負荷30に対して、定電圧信号を電気信号として出力してもよい。電圧検出部17は、出力部16が出力した電気信号の電圧値を測定として検出してもよい。制御演算部15は、操作部11を介してユーザにより設定された電気信号の電圧の目標値と、電圧検出部17が検出した電気信号の電圧値との偏差に基づき、出力部16の動作を制御してもよい。制御演算部15は、負荷30のインピーダンス値として、操作部11を介してユーザにより設定された負荷30の抵抗値及び容量値に基づき、出力部16及び負荷30におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行ってもよい。したがって、ユーザは、簡易な設定を行うだけで、電圧電流発生器1の定電圧出力の応答を改善することができる。
【0062】
また、出力部16は、負荷30に対して、定電流信号を電気信号として出力してもよい。電流検出部18は、出力部16が出力した電気信号の電流値を測定として検出してもよい。制御演算部15は、操作部11を介してユーザにより設定された電気信号の電流の目標値と、電流検出部18が検出した電気信号の電流値との偏差に基づき、出力部16の動作を制御してもよい。制御演算部15は、負荷30のインピーダンス値として、操作部11を介してユーザにより設定された負荷30の抵抗値及びインダクタンス値に基づき、出力部16及び負荷30におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための補償動作を含む制御を行ってもよい。したがって、ユーザは、簡易な設定を行うだけで、電圧電流発生器1の定電流出力の応答を改善することができる。
【0063】
また、制御演算部15は、負荷30におけるローパスフィルタとしての作用を打ち消すための制御として、所定の周波数以上の帯域における電気信号に対するゲインの最大値が制限された特性を付加するとともに、全帯域に亘ってゲインを減少させるように調整された制御を行ってもよい。したがって、電圧電流発生器1に負荷30が接続されていない場合であっても、電圧電流発生器1の動作が不安定になることを防止することができる。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、電圧電流を印加する電圧電流発生器1において、接続対象のインピーダンスによる影響を抑え、高速で安定した応答を実現することができる。ユーザに必要な操作は、接続対象の負荷30のインピーダンス値(L1,C1,R3)を入力するだけであり、シンプルで分かりやすい操作により電気信号を整定することができる。
【0065】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、ブロック図に記載の複数のブロックは統合されてもよいし、又は1つのブロックは分割されてもよい。その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 電圧電流発生器
9 SMU
11 操作部
12 パラメータ変換部
13,14 比較部
15 制御演算部
16 出力部
17 電圧検出部
18 電流検出部
30 負荷
91 乗算器ブロック
92 遅延
93 乗算器ブロック
94 乗算器ブロック
95 加算器
96 遅延
101~106 グラフ