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特開2024-167719セメント硬化体の圧縮強度の推定方法およびバイオマス焼却灰の選定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167719
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】セメント硬化体の圧縮強度の推定方法およびバイオマス焼却灰の選定方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241127BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20241127BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20241127BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/10 Z
G01N3/00 M
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083978
(22)【出願日】2023-05-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 5年 4月24日に一般社団法人セメント協会より発行された第77回セメント技術大会講演要旨(デジタル/ダウンロード配布)にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 豪
【テーマコード(参考)】
2G061
4G112
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA01
2G061CA08
2G061CB03
2G061EA01
2G061EA10
2G061EC02
4G112PA26
(57)【要約】
【課題】バイオマス焼却灰の品質からこのバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度を推定する方法、およびバイオマス焼却灰の品質に基づき、得られたセメント硬化体に要求される圧縮強度を満たすと推定されるバイオマス焼却灰の選定方法を提供すること
【解決手段】バイオマス焼却灰のNBO/T比を測定する工程(S110)と、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、NBO/T比が測定されたバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度を推定する工程(S120)と、を含むセメント硬化体の圧縮強度の推定方法である。また、本発明はバイオマス焼却灰の選定方法も提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四面体形成イオン数あたりの非架橋酸素数の比率(NBO/T比)が未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を測定するNBO/T比測定工程と、
予め求めた、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、前記NBO/T比が測定されたバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度を推定する推定工程と、を含むことを特徴とするセメント硬化体の圧縮強度の推定方法。
【請求項2】
予め求めた、バイオマス焼却灰の四面体形成イオン数あたりの非架橋酸素数の比率(NBO/T比)と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の要求強度に対応するバイオマス焼却灰のNBO/T比を閾値として定める閾値決定工程と、
NBO/T比未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を測定するNBO/T比測定工程と、
前記測定されたNBO/T比を前記閾値と比較し、比較結果によりセメント組成物用材料として選定するかどうかを判定する判定工程と、を含むことを特徴とするバイオマス焼却灰の選定方法。
【請求項3】
前記バイオマス焼却灰がバイオマス発電所から得られたものであることを特徴とする請求項2に記載のバイオマス焼却灰の選定方法。
【請求項4】
前記バイオマス発電所の炉が循環流動層式であることを特徴とする請求項3に記載のバイオマス焼却灰の選定方法。
【請求項5】
前記NBO/T比が蛍光X線分析により得られることを特徴とする請求項2に記載のバイオマス焼却灰の選定方法。
【請求項6】
前記判定工程の判定が、前記測定されたNBO/T比を前記閾値と比較し、前記閾値より大きければセメント組成物用材料として選定する判定を行うものであることを特徴とする請求項2に記載のバイオマス焼却灰の選定方法。
【請求項7】
前記NBO/T比に代えて、CaO/SiO比を用いることを特徴とする請求項2に記載のバイオマス焼却灰の選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体の圧縮強度の推定方法およびバイオマス焼却灰の選定方法に関し、特に、バイオマス焼却灰を含むセメント組成物を硬化させて得られるセメント硬化体の圧縮強度の推定方法および前記セメント組成物用のバイオマス焼却灰の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長期的な資源確保および産業廃棄物量の減少の観点から、従来、石炭ボイラから排出されるフライアッシュ(石炭灰)がコンクリート材料として活用されている。例えば、非特許文献1および2には、石炭灰を大量に用いたセメント硬化体が開示されている。
【0003】
また、再生可能エネルギーは、2012年7月から開始した固定価格買取制度(FIT)の後押しもあって近年急速に成長してきている電源構成であり、この再生可能エネルギーの中でもバイオマス発電は安定供給が可能な発電形式として期待されている。
【0004】
しかし、バイオマス発電では副産物としてバイオマス焼却灰が350億kWhの発電量に対して17万~81万t発生すると推計されており、これらバイオマス焼却灰の多くは産業廃棄物として処理されていることから、有効利用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高木亮一、坂本守、森本良、古川園健朗著、「福島第一原子力発電所港湾関係工事における石炭灰活用の取組み」、コンクリート工学、第58巻第12号、第944~951頁、2020年12月、公益社団法人日本コンクリート工学会発行
【非特許文献2】「石炭灰混合材料を地盤・土構造物に利用するための技術指針(案)」、コンクリートライブラリー159、2021年3月、公益社団法人土木学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のバイオマス焼却灰の再利用のため、発明者らがバイオマス焼却灰をセメント硬化体の製造に利用したところ、得られたセメント硬化体の圧縮強度にばらつきが生じることがわかった。
【0007】
セメント硬化体の圧縮強度のばらつきは、バイオマス焼却灰の品質の変動が大きいことに起因すると考えられるが、バイオマス焼却灰をセメント硬化体に適用した事例がほとんどないこともあり、バイオマス焼却灰の何の品質がセメント硬化体の圧縮強度に影響するかは現在までに明らかになっていない。
【0008】
上記課題に鑑みてなされた本願発明の目的は、バイオマス焼却灰の品質からこのバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度を推定する方法、およびバイオマス焼却灰の品質に基づき、得られたセメント硬化体に要求される圧縮強度を満たすと推定されるバイオマス焼却灰の選定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的達成に向け鋭意検討を行った。その結果、バイオマス焼却灰のNBO/T比、すなわち、四面体形成イオン数あたりの非架橋酸素数の比率が、そのバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度と高い相関を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の前記目的は、四面体形成イオン数あたりの非架橋酸素数の比率(NBO/T比)が未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を測定するNBO/T比測定工程と、予め求めた、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、前記NBO/T比が測定されたバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度を推定する推定工程と、を含むことを特徴とするセメント硬化体の圧縮強度の推定方法によって達成されることが見いだされた。
【0011】
また、本発明の前記目的は、予め求めた、バイオマス焼却灰の四面体形成イオン数あたりの非架橋酸素数の比率(NBO/T比)と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の要求強度に対応するバイオマス焼却灰のNBO/T比を閾値として定める閾値決定工程と、NBO/T比未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を測定するNBO/T比測定工程と、前記測定されたNBO/T比を前記閾値と比較し、比較結果によりセメント組成物用材料として選定するかどうかを判定する判定工程と、を含むことを特徴とするバイオマス焼却灰の選定方法によっても達成することができる。
【0012】
さらに、バイオマス焼却灰がバイオマス発電所から得られたものであることが好ましく、特にバイオマス発電所の炉が循環流動層式であることが好ましい。
【0013】
そのうえ、NBO/T比が蛍光X線分析により得られることが好ましい。
【0014】
また、判定工程の判定が、前記測定されたNBO/T比を前記閾値と比較し、前記閾値より大きければセメント組成物用材料として選定する判定を行うものであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の前記目的は、前記バイオマス焼却灰の選定方法において、NBO/T比に代えて、CaO/SiO比を用いることによっても達成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセメント硬化体の圧縮強度の推定方法によれば、バイオマス焼却灰のNBO/T比から、このバイオマス焼却灰を含むセメント硬化体の圧縮強度を推定できる。よって、多くのバイオマス焼却灰の中から、それらのバイオマス焼却灰のNBO/Tを指標として、圧縮強度を満たすと推定されるバイオマス焼却灰を選定することができる。
【0017】
また、本発明のバイオマス焼却灰の選定方法によれば、バイオマス焼却灰のNBO/T比からこのバイオマス焼却灰を含むセメント硬化体の圧縮強度を推定できることから、バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の要求強度に対応するバイオマス焼却灰のNBO/T比を閾値として定めることで、その閾値を基準して、セメント組成物に添加され、セメント硬化体が得られた場合に、当該セメント硬化体が前記要求硬度を満たすかどうかを各バイオマス焼却灰のNBO/T比により選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のセメント硬化体の圧縮強度の推定方法を示すフロー図である。
図2】本発明のバイオマス焼却灰の選定方法を示すフロー図である。
図3】バイオマス焼却灰のNBO/T比とセメント硬化体の圧縮強度との関係式(近似式)を示す模式図である。
図4】判定工程S230の一例を示すフロー図である。
図5】実施例の、バイオマス焼却灰のNBO/T比とセメント硬化体の圧縮強度との関係から算出した関係式(近似式)を示す図である。
図6】実施例の、セメント硬化体の要求強度を関係式に当てはめたNBO/T比の閾値の設定の説明図である。
図7】実施例の、バイオマス焼却灰のCaO/SiO比とNBO/T比との関係から算出した関係式(近似式)を示す図である。
図8】実施例の、バイオマス焼却灰のCaO/SiO比とセメント硬化体の圧縮強度との関係から算出した関係式(近似式)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<バイオマス焼却灰の選定方法>
図2は、本発明のバイオマス焼却灰の選定方法を示すフロー図である。図示のように、本発明のバイオマス焼却灰の選定方法は、閾値決定工程(S210)と、NBO/T比測定工程(S220)と、判定工程(S230)と、を有する。
【0020】
バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称であり、例えば、林地残材、製材廃材、農業残渣(稲わら、トウモロコシ残渣、籾殻、麦わら、バガス等)、家畜排泄物(鶏ふん、牛豚糞尿等)、建築廃材、食品加工廃棄物、水産加工廃棄物、下水汚泥、し尿、厨芥ごみ、古紙、糖・でんぷん、甘藷、菜種、パーム油、産業食用油などが挙げられ、バイオマス焼却灰とは、バイオマス焼却後に生じる灰である。
【0021】
バイオマス焼却灰としては、上記バイオマス焼却後に生じる灰であればどのようなものであってもよいが、バイオマス発電の副産物として生じるバイオマス焼却灰の利用促進の観点から、バイオマス焼却灰がバイオマス発電所から得られたものであることが好ましい。
【0022】
セメント組成物への配合用のバイオマス焼却灰は、例えば、JIS R 5201の8.1(比表面積試験、ブレーン方法)による比表面積が1,000g/cm以上であり、1,200g/cm以上であることが好ましい。
【0023】
上記比表面積が1,000g/cm以上のバイオマス焼却灰は、循環流動層式のバイオマス発電所の炉から高い割合で得られることから、バイオマス焼却灰が得られるバイオマス発電所の炉は、循環流動層式であることが好ましい。
【0024】
ここで、閾値決定工程(S210)を説明する前に、本発明では、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係を利用することから、予め上記バイオマス焼却灰のNBO/T比とセメント硬化体の圧縮強度との関係式を求める必要がある。
【0025】
NBO/Tは、Siなどの四面体形成イオン数あたりの非架橋酸素数の比率をいい、以下の数式(1)
【数1】
(式中、NBOは非架橋酸素数を、Tは四面体形成イオン数を、Xは四面体網目構造を形成する原子のモル数をそれぞれ示す。)で表すことができる。
【0026】
NBO/T比の算出の元となる化学成分(Al、SiO、CaO、NaO、KO、MgO、FeO、TiO)の質量比は、バイオマス焼却灰の蛍光X線分析により得ることができる。
【0027】
バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係が高い理由は定かでは無いが、以下のように推測される。すなわち、バイオマス焼却灰は、SiO-CaO-Alの3元系における化学組成(図示せず)に着目すれば、混和材料としては石炭灰(フライアッシュ)と高炉スラグ微粉末の両方の性質を有している可能性があり、バイオマス焼却灰の中でもCaO量が大きい(すなわち、NBO/T比が大きい)バイオマス焼却灰は、潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末に近い性状を示す可能性がある。
【0028】
それゆえ、バイオマス焼却灰のNBO/T比が大きければ大きいほど得られたセメント硬化体の圧縮強度も大きくなる、という両者の相関関係が得られるものと推測される。
【0029】
次に、数式(1)の関係式を求めるためにはセメント硬化体の圧縮強度を求める必要があるため、セメント組成物およびこのセメント組成物からのセメント硬化体の製造についても説明する。
【0030】
セメント組成物は、セメント焼却灰を含む。セメント組成物中のバイオマス焼却灰の添加量は、コンクリート、モルタル、石炭灰混合材料など、用途に応じて適宜に決定することができる。
【0031】
特に、石炭灰混合材料は、フライアッシュにセメント等固化材、水、必要に応じて土砂、石膏等を混合して製造されるものであり(非特許文献2参照)、本発明では、石炭灰の代替としてバイオマス焼却灰を用いた場合も石炭灰混合材料に含まれることとする。
【0032】
地盤材料として使用する石炭灰混合材料は、その形態により、粒状材、塑性材、およびスラリー材に大別される。粒状材は砕石・粗粒土に、塑性材はセメント改良土に、スラリー材は気泡混合軽量土や流動化処理土に類似した地盤材料として用いることができる。
【0033】
石炭灰混合材料の用途でバイオマス焼却灰をセメント組成物中に添加する場合、バイオマス焼却灰とセメントの質量比は、バイオマス焼却灰100質量部に対してセメントが2質量部以上40質量部以下、好ましくは4質量部以上30質量部以下となる質量比となる。
【0034】
また、石炭灰混合材料(粒状材または塑性材)の用途でバイオマス焼却灰をセメント組成物中に添加する場合、バイオマス焼却灰と水の質量比は、バイオマス焼却灰100質量部に対して水が15質量部以上50質量部以下、好ましくは20質量部以上40質量部以下となる質量比となる。
【0035】
さらに、石炭灰混合材料(スラリー材)の用途でバイオマス焼却灰をセメント組成物中に添加する場合、バイオマス焼却灰と水の質量比は、バイオマス焼却灰100質量部に対して水が30質量部以上200質量部以下、好ましくは40質量部以上150質量部以下となる質量比となる。
【0036】
セメント組成物は、バイオマス焼却灰以外に土砂などの骨材を含んでいてもよく、固化材の副添加剤として消石灰、石膏を含んでいても良い。また、石炭灰混合材料がスラリー材である場合、気泡剤、硬化促進剤等の他の添加剤を含ませることも可能である。
【0037】
セメント組成物の原料の混合後、原料練り混ぜ、敷き均し、養生等の工程を経て、セメント硬化体が得られる。セメント硬化体の圧縮強度は目的とする時点の圧縮強度を任意に設定することができるが、一般には、JIS A 5308 レディミクストコンクリートにおける管理材齢が28日目であるため、材齢28日目の圧縮強度が用いられる。セメント硬化体の圧縮強度は、JIS A 1108 コンクリートの圧縮強度試験方法に準拠して測定することができる。
【0038】
バイオマス焼却灰のNBO/T比とセメント硬化体の圧縮強度との関係式は、複数のロット違いのバイオマス焼却灰についてNBO/T比およびセメント硬化体の圧縮強度の値から、例えば最小二乗法による回帰直線(y=ax+b)として得ることができる。関係式の算出は、電子計算機(コンピュータ)により行われてもよく、手計算により行われても良い。なお、関係式は高い相関関係を有することが優先され、上記回帰直線に限らず、回帰曲線であっても良い。
【0039】
図3は、ロット違いの複数のバイオマス焼却灰のNBO/T比とセメント硬化体の圧縮強度の値から算出し得る近似式を示す模式図である。縦軸はバイオマス焼却灰のNBO/T比を、横軸はセメント硬化体の圧縮強度を示す。
【0040】
関係式(近似式)の決定係数(R)は、例えば、0.8以上であり、関係式の信頼性の観点からは、0.85以上であることが好ましい。以下、本発明について説明する。
【0041】
[閾値決定工程(S210)]
本工程では、予め求めた、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の要求強度に対応するバイオマス焼却灰のNBO/T比を閾値として定める。
【0042】
上記相関関係に基づくバイオマス焼却灰のNBO/T比の閾値の設定を、以下に説明する。
【0043】
すなわち、予め求めた、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係については、上記のように求めた図3の関係式(近似式)を用いることができる。
【0044】
例えば、地盤材料としての材齢28日のセメント硬化体に対して15N/mmの圧縮強度が要求される場合、すなわち、要求強度S=15N/mmである場合、図3の関係式に当てはめた結果、バイオマス焼却灰のNBO/T比は1.48となったとする。この場合、要求強度Sが15N/mmを超えるためには、バイオマス焼却灰のNBO/T比は1.48超となることが必要となり、この値がバイオマス焼却灰のNBO/T比の閾値(NBO/T)となる。なお、要求強度Sは15N/mmに限らず、用途に応じてセメント硬化体に要求される圧縮強度を任意に設定することができ、また、材齢についても必要な時点で任意に設定することが可能である(以上、閾値決定工程(S210))。
【0045】
[NBO/T比測定工程(S220)]
本工程では、NBO/T比未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を測定する。
【0046】
バイオマス焼却灰のNBO/T比の測定は、具体的には、バイオマス焼却灰の蛍光X線分析によりバイオマス焼却灰中の化学成分(Al、SiO、CaO、NaO、KO、MgO、FeO、TiO)の質量比を測定し、この質量比を上記数式(1)に当てはめてNBO/T比を求めることにより行われる(以上、NBO/T比測定工程(S120))。
【0047】
[判定工程(S230)]
本工程では、NBO/T比測定工程(S220)で測定されたNBO/T比を前記閾値と比較し、比較結果によりセメント組成物用材料として選定するかどうかを判定する。
【0048】
図4は、判定工程(S230)の一例を示すフロー図であり、判定工程(S230)は、例えば、このフロー図に従って行うことができる。すなわち、ステップS230-1では、NBO/T比測定工程(S220)で測定された、NBO/T比未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を前記閾値と比較する。
【0049】
測定されたNBO/T比が前記閾値より大きければ(Yes判定)、ステップS230-2に移行し、測定されたNBO/T比が前記閾値以下であれば(No判定)、ステップS230-3に移行する。
【0050】
ステップS230-2では、バイオマス焼却灰をセメント組成物用材料として選定する。一方、ステップS230-3では、バイオマス焼却灰をセメント組成物用材料として選定しない(以上、判定工程(S230))。
【0051】
以上、本発明のバイオマス焼却灰の選定方法によれば、バイオマス焼却灰のNBO/T比からこのバイオマス焼却灰を含むセメント硬化体の圧縮強度を推定できることから、バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の要求強度に対応するバイオマス焼却灰のNBO/T比を閾値として定めることで、その閾値を基準して、セメント組成物に添加され、セメント硬化体が得られた場合に、当該セメント硬化体が前記要求硬度を満たすかどうかを各バイオマス焼却灰のNBO/T比により選定することができる。したがって、バイオマス焼却灰の品質変動が生じた場合にもバイオマス焼却灰のNBO/T比の閾値にしたがって採用できるバイオマス焼却灰のみを選定することができる。
【0052】
また、セメント硬化体の要求硬度に応じてNBO/T比の閾値を変更することで、その要求硬度に対応し得るバイオマス焼却灰のみを選定することも可能となる。
【0053】
さらに、本発明のバイオマス焼却灰の選定方法によれば、バイオマス焼却灰のNBO/T比を閾値として設定し、この閾値を基準としてバイオマス焼却灰の選定できることから、バイオマス焼却灰のNBO/T比の測定の度にこのバイオマス焼却灰を含むセメント硬化体の圧縮強度を推定する作業が不要となる。
【0054】
なお、上記判定工程(S230)では、測定されたNBO/T比が前記閾値より大きい場合にバイオマス焼却灰をセメント組成物用材料として選定しているが、測定されたNBO/T比が前記閾値以上である場合にバイオマス焼却灰をセメント組成物用材料として選定する判定としても構わない。
【0055】
<セメント硬化体の圧縮強度の推定方法>
図1は、本発明のセメント硬化体の圧縮強度の推定方法を示すフロー図である。図示のように、本発明のセメント硬化体の圧縮強度の推定方法は、NBO/T比測定工程(S110)と、圧縮強度の推定工程(S120)と、を有する。
【0056】
[NBO/T比測定工程(S110)]
本工程では、NBO/T比未知のバイオマス焼却灰のNBO/T比を測定する。バイオマス焼却灰のNBO/T比の測定の具体的な方法については、バイオマス焼却灰の選定方法のNBO/T比測定工程(S220)における測定と変わるところが無いので、ここではその説明を省略する(以上、NBO/T比測定工程(S110))。
【0057】
[NBO/T比測定工程(S110)]
本工程では、予め求めた、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、前記NBO/T比が測定されたバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度を推定する。
【0058】
バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係、すなわち、関係式の算出方法についてはバイオマス焼却灰の選定方法の項目で説明済みであるので、ここではその説明を省略する。
【0059】
そして、例えば、図3の関係式が得られた場合に、その関係式にNBO/T比測定工程(S220)で測定されたバイオマス焼却灰のNBO/T比を代入し、そのバイオマス灰を使用したセメント硬化体の圧縮強度の推定値を得ることができる。
【0060】
したがって、本発明のセメント硬化体の圧縮強度の推定方法によれば、バイオマス焼却灰のNBO/T比から、このバイオマス焼却灰を含むセメント硬化体の圧縮強度を推定できる。よって、多くのバイオマス焼却灰の中から、それらのバイオマス焼却灰のNBO/Tを指標として、圧縮強度を満たすと推定されるバイオマス焼却灰を選定することができる。
【0061】
なお、上記本発明のバイオマス焼却灰の選定方法、および本発明のセメント硬化体の圧縮強度の推定方法では、予め求めた、バイオマス焼却灰のNBO/T比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係に基づき、それぞれバイオマス焼却灰を選定し、あるいはセメント硬化体の圧縮強度を推定しているが、NBO/T比に代えて、CaO/SiO比を用いることとしても良い。
【0062】
後述する実施例に示すように、CaO/SiO比はNBO/T比と高い相関関係を有しており、バイオマス焼却灰のCaO/SiO比はバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度とも高い相関関係を有する。
【0063】
バイオマス焼却灰のCaO/SiO比と該バイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係を利用することで、本発明の課題を解決することができ、さらに、CaO/SiO比はCaOおよびSiOの2成分を測定するだけで求めることができるので、NBO/T比を用いるよりも簡易的に本発明を実施することができる。
【実施例0064】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
<1.バイオマス焼却灰のNBO/T比とセメント硬化体の圧縮強度との関係式の算出>
本試験では、循環流動層ボイラを採用する3発電所から、バイオマス焼却灰の発生元の燃料が異なる時期でそれぞれ4~5ロットずつバイオマス焼却灰を入手し、各バイオマス焼却灰について、粉末X線回折装置Mini FlexII(Rigaku社製)によるリーベルト解析を行い、各バイオマス焼却灰の化学成分比を求めると共に、得られた化学成分比を上記数式(1)に代入し、NBO/T比を求めた。
【0066】
各バイオマス焼却灰の化学成分比、密度およびNBO/T比を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
これらバイオマス焼却灰を骨材として使用してセメント組成物を調製した。セメント組成物の配合を表2に示す。
【0069】
表2で示す各配合のセメント組成物をホバート型モルタルミキサで2分間練り混ぜ、混練物を得た。混練物を直径5cm×高さ10cmの型枠内に入れ、テーブルバイブレータを使用して60秒間締め固めて供試体を作製した。試験体作成後、材齢7日目までは封緘養生、その後、28日まで標準水中養生を実施し、セメント硬化体を得た。得られたセメント硬化体の圧縮強度は、JIS A 1108 コンクリートの圧縮強度試験方法に準拠して測定した。測定された圧縮強度を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
※1:W/C 水セメント比の百分率
※2:W/P 水粉体比の百分率(粉体はC、GS及び灰の合計量である)
※3:W 人工海水(密度1.03(g/cm))
※4:C 高炉セメントB種(密度3.04(g/cm))
※5:GS 脱硫石膏(密度2.15(g/cm))
【0072】
また、No.1~No.13のバイオマス焼却灰の各測定値のうち、NBO/T比を縦軸とし、これらバイオマス焼却灰を骨材して使用したセメント組成物の硬化体の材齢28日の圧縮強度を横軸としてプロットし、最小二乗法により算出した関係式を図5に示す。
【0073】
図示のように、算出された関係式(近似式)の決定係数(R)は0.8783と高い値となっており、バイオマス焼却灰のNBO/T比とこれらバイオマス焼却灰を骨材して使用したセメント組成物の硬化体の材齢28日の圧縮強度との間に高い相関があることがわかる。
【0074】
<2.NBO/T比の閾値の決定とバイオマス焼却灰の選定>
次に、セメント硬化体に要求される材齢28日の圧縮強度(要求強度)を15N/mmに設定した。これは、人口地盤材料の設計強度10N/mmに対して安全率を考慮し、さらに工事や要求性能を考慮して設定したものである。すると、要求強度15N/mm超を満たすためには、図6に示すように、関係式からバイオマス焼却灰のNBO/T比は1.48より大きいことが必要となり、NBO/T比の閾値は1.48となる。
【0075】
さらに、No.1~No.13のバイオマス焼却灰が得られた上記3発電所のいずれかのバイオマス焼却灰であって、燃料の供給時期が異なるNo.14~No.16のバイオマス焼却灰についてNBO/T比を測定し、上記NBO/T比の閾値に基づいて選定した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示すように、バイオマス焼却灰のNBO/T比から、No.14およびNo.15のバイオマス焼却灰が、骨材として使用したセメント組成物から得られたセメント硬化体が要求強度を満たすものとしてセメント組成物用材料として選定されるべきものと判定され、No.16のバイオマス焼却灰については当該要求強度を満たさず、セメント組成物用材料として選定しないと判定された。
【0078】
<3.NBO/T比に代えてCaO/SiO比を用いる場合の妥当性の検討>
上記No.1~No.13のバイオマス焼却灰についてCaO/SiO比を算出した。表4は、No.1~No.13のバイオマス焼却灰のCaO/SiO比と、NBO/T比と、上記材齢28日目の圧縮強度とを比較する表である。
【0079】
【表4】
【0080】
また、CaO/SiO比を横軸とし、NBO/T比を縦軸として、No.1~No.13のバイオマス焼却灰のCaO/SiO比とNBO/T比とをプロットし、算出した関係式(近似式)を図7に示す。
【0081】
さらに、上記No.1~No.13のバイオマス焼却灰についてCaO/SiO比を縦軸とし、これらバイオマス焼却灰を骨材して使用したセメント組成物の硬化体の材齢28日の圧縮強度を横軸としてプロットし、算出した関係式(近似式)を図8に示す。
【0082】
図7に示されるように、CaO/SiO比とNBO/T比との間にも高い相関があることが確認できたことから、バイオマス焼却灰のCaO/SiO比とこのバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との間にも相関関係があることが示唆された。
【0083】
そこで、バイオマス焼却灰のCaO/SiO比とこのバイオマス焼却灰を含むセメント組成物の硬化体の圧縮強度との相関関係の有無を確認したところ、図8に示すように、CaO/SiO比とセメント硬化体の圧縮強度との間にも高い相関関係があることがわかった。
【0084】
よって、NBO/T比に代えて、CaO/SiO比を用いることによっても上記相関関係に基づきバイオマス焼却灰の選定を行うことができることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8