(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167730
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】金属管用熱処理設備及び金属管用ガスパージ方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/08 20060101AFI20241127BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20241127BHJP
C21D 1/74 20060101ALI20241127BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20241127BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20241127BHJP
F27B 9/38 20060101ALI20241127BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20241127BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20241127BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20241127BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C21D9/08 J
C21D9/08 H
C21D1/26 A
C21D1/74 F
C21D1/74 Q
C21D1/00 C
C21D1/00 112M
C21D11/00 105
F27B9/38
F27D7/02 Z
F27D19/00 D
F27D21/00 A
F27D7/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083996
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】川手 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康輔
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智也
【テーマコード(参考)】
4K034
4K038
4K042
4K050
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4K034AA05
4K034AA06
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4K063DA13
4K063DA15
4K063DA19
4K063DA33
4K063DA34
(57)【要約】
【課題】生産効率の向上を図ることができる金属管用熱処理設備及び金属管用ガスパージ方法を提供する。
【解決手段】金属管用熱処理設備10は、雰囲気ガス中で金属管Wを熱処理する雰囲気炉11と、金属管Wを搬送する搬入装置12と、パージ装置13と、を備え、パージ装置13は、置換室311と置換室311へ金属管Wを出し入れする一対の開口部312とを有する装置本体31と、置換室311を排気により負圧状態にする排気装置32と、を備え、雰囲気炉11とパージ装置13との距離D[m]が金属管Wの長さL[m]よりも短く(D<L)、パージ装置13の装置本体31が有する一対の開口部312が開放状態で保持され、搬入装置12により搬送される金属管Wを、他端部がパージ装置13の置換室311に位置したまま、一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入された状態とし、その状態で金属管Wの搬送を停止することなく、管内ガスを雰囲気ガスに置換する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に満たされた雰囲気ガス中で金属管を熱処理する雰囲気炉と、熱処理前の前記金属管を前記雰囲気炉へ搬送する搬入装置と、前記搬入装置上に配設されて前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するパージ装置と、を備える金属管用熱処理設備であって、
前記パージ装置は、
内部に設けられた置換室と前記置換室へ前記金属管を出し入れする一対の開口部とを有する装置本体と、
前記装置本体と接続されて前記置換室を排気により負圧状態にする排気装置と、を備えており、
前記雰囲気炉と前記パージ装置との距離D[m]が、前記金属管の長さL[m]よりも短く(D<L)、
前記パージ装置の前記装置本体が有する一対の前記開口部が、開放された状態で保持され、
前記搬入装置により搬送される前記金属管を、他端部が前記パージ装置の前記置換室に位置したまま、一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された状態とし、その状態で前記金属管の搬送を停止することなく、前記管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する、ことを特徴とする金属管用熱処理設備。
【請求項2】
前記パージ装置の前記置換室の圧力を検出する圧力センサと、
前記搬入装置による搬送の途上における前記金属管の位置を検出する位置センサと、
前記圧力センサ及び前記位置センサの検出値に基づき、前記置換室の圧力を制御する圧力制御システムと、を備え、
前記圧力制御システムは、
前記圧力センサの検出値に基づき、前記排気装置による前記置換室からの排気量を調整し、常態の前記置換室を負圧状態に保持する通常モードと、
前記位置センサの検出値に基づき、前記金属管の他端部が前記置換室に位置しており、且つ前記金属管の一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入されていると判定した場合に、前記排気装置による前記置換室からの排気量を前記通常モードよりも増大し、前記置換室を前記常態よりも大きな負圧状態にするパージモードと、を有する、請求項1に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項3】
前記排気装置を駆動するインバータ装置を備え、
前記インバータ装置によって駆動される前記排気装置が、
前記通常モードで前記置換室を、圧力P0[Pa]に維持し、
前記パージモードで前記置換室を、圧力P1[Pa]に維持しており、
前記圧力P0、P1は、ゲージ圧の絶対値で示されるものとして、P0<P1の関係式を満たす、請求項2に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項4】
前記圧力P0[Pa]は、前記金属管の内径D[m]及び長さL[m]に基づき算出される配管抵抗値PT[Pa]以上である(PT≦P0)、請求項3に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項5】
前記通常モードにおける前記雰囲気炉への前記雰囲気ガスの供給量をSV0[m3/h]とし、
前記パージモードにおける前記雰囲気炉への前記雰囲気ガスの供給量をSV1[m3/h]として、
SV1[m3/h]が、SV0[m3/h]よりも増量されている(SV0<SV1)、請求項2に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項6】
前記通常モードにおいて、
前記排気装置による前記置換室からの排気量EX1[m3/h]は、前記開口部の開口面積に基づき算出される前記置換室の空気吸込量EX0[m3/h]よりも多く(EX1>EX0)なるように調整される、請求項2に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項7】
前記開口部の開口面積を調節する調節手段を備えている、請求項6に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項8】
前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]は、前記金属管の一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された時点を開始時とし、前記金属管の他端部が前記置換室から抜け出した時点を終了時とする、前記置換室における前記金属管の滞留時間T1[sec]以下である(T0≦T1)、請求項1に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項9】
前記雰囲気ガスは、水素ガス、窒素ガス、RXガス及びDXガスの群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の金属管用熱処理設備。
【請求項10】
炉内が雰囲気ガスで満たされた雰囲気炉を用いて金属管を熱処理するに際し、前記金属管の前記雰囲気炉への搬送の途上に配設されたパージ装置を使用して、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する金属管用ガスパージ方法であって、
前記パージ装置は、内部に設けられた置換室と前記置換室へ前記金属管を出し入れする開口部とを有する装置本体と、前記装置本体と接続されて前記置換室を排気により負圧状態にする排気装置と、を備えており、
前記金属管を、他端部が前記パージ装置の前記置換室に位置したまま、一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された状態とする第1の工程と、
前記状態とした前記金属管を介して、負圧状態の前記置換室へ前記雰囲気炉の炉内の前記雰囲気ガスを吸引し、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する第2の工程と、を備え、
前記第1の工程及び前記第2の工程を、前記金属管の搬送を停止することなく実行する、ことを特徴とする金属管用ガスパージ方法。
【請求項11】
負圧状態の前記置換室の圧力を、前記金属管の内径D[m]及び長さL[m]に基づき算出される配管抵抗値PT[Pa]に応じて変える、請求項10に記載の金属管用ガスパージ方法。
【請求項12】
前記金属管の一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された時点を開始時として、前記金属管の他端部が前記置換室から抜け出した時点を終了時とする前記金属管の滞留時間T1[sec]を、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]以上(T0≦T1)とする、請求項10に記載の金属管用ガスパージ方法。
【請求項13】
通常時は、前記置換室を負圧状態で圧力P0[Pa]に維持し、
前記第2の工程の実行時は、前記置換室を、通常時よりも大きな負圧状態で圧力P1[Pa](P0<P1)に維持する、請求項10に記載の金属管用ガスパージ方法。
【請求項14】
前記第2の工程の実行時は、前記雰囲気炉の炉内への前記雰囲気ガスの供給量を増量する、請求項10に記載の金属管用ガスパージ方法。
【請求項15】
前記雰囲気ガスは、水素ガス、窒素ガス、RXガス及びDXガスの群から選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の金属管の管内パージ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管を雰囲気ガス中で熱処理するための金属管用熱処理設備、及びその熱処理に際して金属管の管内ガスを雰囲気ガスに置換する金属管用ガスパージ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、金属を材料に用いた部品や製品等は、応力の除去、硬さの調整、加工性の向上等のために焼鈍(焼なまし)等の熱処理を施されるが、その熱処理は、炉内を雰囲気ガスで満たした雰囲気炉を使用して実行される。
熱処理を施される部品や製品等として、金属管は、その内部に空気等の管内ガスが存在し、その管内ガスが残ったまま熱処理をすると、雰囲気炉の炉内雰囲気が汚染される、金属管内面の酸化、脱炭が生じる等の不具合が発生する。このため、金属管の熱処理を行う場合には、管内ガスをパージ(置換)する必要がある。
特許文献1には、鋼管のパージ方法が開示されている。この鋼管のパージ方法は、上流側および下流側に鋼管の装入扉と抽出扉を備えるとともに排気手段を接続したパージボックスを鋼管用雰囲気熱処理炉の装入テーブルに配設し、鋼管の一端部を熱処理炉内に、他端部をパージボックス内に位置させた状態で排気手段によりパージボックス内を排気して炉内雰囲気で鋼管内の空気をパージすることを特徴とする。
特許文献1には、鋼管のパージ方法について、「まず、パージボックス装入扉7およびパージボックス抽出扉8を開き」と記載され、「パージボックス装入扉7およびパージボックス抽出扉8を閉じるとともに、排気ファン11aを駆動してパージボックス6内を強制排気する」と記載されている(段落[0011])。また、特許文献1には「鋼管W内の空気がパージされると、前記排気ファン11aを停止し、炉内搬送ローラ3および装入テーブル4のローラを駆動することにより鋼管Wを熱処理炉1内に装入する』と記載されている(段落[0012])。これらの記載から、特許文献1の鋼管のパージ方法は、パージの際に鋼管(金属管)の搬送を停止した状態にして、パージボックスの鋼管(金属管)を装入する扉と鋼管(金属管)を抽出する扉とを閉じ、パージボックス内部を実質的に密閉し、強制排気して、パージを実行する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の鋼管のパージ方法は、鋼管(金属管)をパージする間、鋼管(金属管)の搬送を停止した状態を保持しなければならず、また、扉を開閉操作してパージボックス内部を実質的に密閉し、強制排気をしなければならない。
つまり、上記の鋼管のパージ方法は、炉で熱処理される前の金属管を、炉への搬送を停止してパージする必要がある。このため、上記の鋼管のパージ方法では、搬送を停止してパージする時間がロスとなって、炉で熱処理される金属管の単位時間当たりの処理数を増加させることが難しく、生産効率の向上を図ることが困難であった。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、生産効率の向上を図ることができる金属管用熱処理設備及び金属管用ガスパージ方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の金属管用熱処理設備の発明は、炉内に満たされた雰囲気ガス中で金属管を熱処理する雰囲気炉と、熱処理前の前記金属管を前記雰囲気炉へ搬送する搬入装置と、前記搬入装置上に配設されて前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するパージ装置と、を備える金属管用熱処理設備であって、
前記パージ装置は、
内部に設けられた置換室と前記置換室へ前記金属管を出し入れする一対の開口部とを有する装置本体と、
前記装置本体と接続されて前記置換室を排気により負圧状態にする排気装置と、を備えており、
前記雰囲気炉と前記パージ装置との距離D[m]が、前記金属管の長さL[m]よりも短く(D<L)、
前記パージ装置の前記装置本体が有する一対の前記開口部が、開放された状態で保持され、
前記搬入装置により搬送される前記金属管を、他端部が前記パージ装置の前記置換室に位置したまま、一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された状態とし、その状態で前記金属管の搬送を停止することなく、前記管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する、ことを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記パージ装置の前記置換室の圧力を検出する圧力センサと、
前記搬入装置による搬送の途上における前記金属管の位置を検出する位置センサと、
前記圧力センサ及び前記位置センサの検出値に基づき、前記置換室の圧力を制御する圧力制御システムと、を備え、
前記圧力制御システムは、
前記圧力センサの検出値に基づき、前記排気装置による前記置換室からの排気量を調整し、常態の前記置換室を負圧状態に保持する通常モードと、
前記位置センサの検出値に基づき、前記金属管の他端部が前記置換室に位置しており、且つ前記金属管の一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入されていると判定した場合に、前記排気装置による前記置換室からの排気量を前記通常モードよりも増大し、前記置換室を前記常態よりも大きな負圧状態にするパージモードと、を有する、ことを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記圧力センサと電気的に接続されたインバータ装置を備え、
前記インバータ装置によって駆動される前記排気装置が、
前記通常モードで前記置換室を、圧力P0[Pa]に維持し、
前記変態モードで前記置換室を、圧力P1[Pa]に維持しており、
前記圧力P0、P1は、ゲージ圧の絶対値で示されるものとして、P0<P1の関係式を満たす、ことを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記圧力P0[Pa]は、前記金属管の内径D[m]及び長さL[m]に基づき算出される配管抵抗値PT[Pa]以上である(PT≦P0)、ことを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記通常モードにおける前記雰囲気炉への前記雰囲気ガスの供給量をSV0[m3/h]とし、
前記パージモードにおける前記雰囲気炉への前記雰囲気ガスの供給量をSV1[m3/h]として、
SV1[m3/h]が、SV0[m3/h]よりも増量されている(SV0<SV1)、ことを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記通常モードにおいて、
前記排気装置による前記置換室からの排気量EX1[m3/h]は、前記開口部の開口面積に基づき算出される前記置換室の空気吸込量EX0[m3/h]よりも多く(EX1>EX0)なるように調整される、ことを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記開口部の開口面積を調節する調節手段を備えている、ことを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]は、前記金属管の一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された時点を開始時とし、前記金属管の他端部が前記置換室から抜け出した時点を終了時とする、前記置換室における前記金属管の滞留時間T1[sec]以下である(T0≦T1)、ことを要旨とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記雰囲気ガスは、水素ガス、窒素ガス、RXガス及びDXガスの群から選択される少なくとも1種である、ことを要旨とする。
請求項10に記載の金属管用ガスパージ方法の発明は、
炉内が雰囲気ガスで満たされた雰囲気炉を用いて金属管を熱処理するに際し、前記金属管の前記雰囲気炉への搬送の途上に配設されたパージ装置を使用して、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する金属管用ガスパージ方法であって、
前記パージ装置は、内部に設けられた置換室と前記置換室へ前記金属管を出し入れする開口部とを有する装置本体と、前記装置本体と接続されて前記置換室を排気により負圧状態にする排気装置と、を備えており、
前記金属管を、他端部が前記パージ装置の前記置換室に位置したまま、一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された状態とする第1の工程と、
前記状態とした前記金属管を介して、負圧状態の前記置換室へ前記雰囲気炉の炉内の前記雰囲気ガスを吸引し、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する第2の工程と、を備え、
前記第1の工程及び前記第2の工程を、前記金属管の搬送を停止することなく実行する、ことを要旨とする。
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、負圧状態の前記置換室の圧力を、前記金属管の内径D[m]及び長さL[m]に基づき算出される配管抵抗値PT[Pa]に応じて変える、ことを要旨とする。
請求項12に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記金属管の一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された時点を開始時として、前記金属管の他端部が前記置換室から抜け出した時点を終了時とする前記金属管の滞留時間T1[sec]を、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]以上(T0≦T1)とする、ことを要旨とする。
請求項13に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、通常時は、前記置換室を負圧状態で圧力P0[Pa]に維持し、
前記第2の工程の実行時は、前記置換室を、通常時よりも大きな負圧状態で圧力P1[Pa](P0<P1)に維持する、ことを要旨とする。
請求項14に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記第2の工程の実行時は、前記雰囲気炉の炉内への前記雰囲気ガスの供給量を増量する、ことを要旨とする。
請求項15に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記雰囲気ガスは、水素ガス、窒素ガス、RXガス及びDXガスの群から選択される少なくとも1種である、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、搬送中の金属管がその内部を介して雰囲気炉の炉内と置換室とを一時的に連通させた状態となり、その状態で雰囲気炉の炉内の雰囲気ガスが負圧状態とした置換室へ吸引されることを利用することで、金属管を搬送しながら管内ガスを置換することができ、雰囲気炉に搬入されて熱処理される金属管の単位時間当たりの処理数の増加を図ることができることから、生産効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の金属管用熱処理設備の一形態を示す概略側面図。
【
図2】パージ装置の装置本体の開口部を示す一部を拡大した斜視図。
【
図3】(a)はパージの開始時点における金属管の一端部の位置を説明する説明図であり、(b)はパージの終了時点における金属管の他端部の位置を説明する説明図。
【
図4】本発明の金属管用ガスパージ方法を説明するフローチャート。
【
図5】圧力制御に係る通常モードを説明するフローチャート。
【
図6】圧力制御に係るパージモードを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
なお、本発明において、置換室の「圧力」とは、大気圧をゼロ(ゲージ圧;0)とし、大気圧よりも高い圧力を正圧(+)、大気圧よりも低い圧力を負圧(-)として、相対的な圧力を表示するゲージ圧であるものとする。
また、本発明において、置換室の圧力は、ゲージ圧の絶対値で示されるものとする。つまり、置換室の圧力(ゲージ圧)を具体的な数値や記号等で示す場合、置換室が負圧状態であっても、その圧力は、「-(マイナス)」の記号を付けずに記載するものとする。
【0011】
[1]金属管用熱処理設備
本発明の金属管用熱処理設備は、
炉内に満たされた雰囲気ガス中で金属管Wを熱処理する雰囲気炉11と、熱処理前の前記金属管Wを前記雰囲気炉11へ搬送する搬入装置12と、前記搬入装置12上に配設されて前記金属管Wの管内ガスを前記雰囲気ガスに置換するパージ装置13と、を備える金属管用熱処理設備10であって、
前記パージ装置13は、
内部に設けられた置換室311と前記置換室311へ前記金属管Wを出し入れする一対の開口部312とを有する装置本体31と、
前記装置本体31と接続されて前記置換室311を排気により負圧状態にする排気装置32と、を備えており、
前記雰囲気炉11と前記パージ装置13との距離D[m]が、前記金属管の長さL[m]よりも短く(D<L)、
前記パージ装置13の前記装置本体31が有する一対の前記開口部312が、開放された状態で保持され、
前記搬入装置12により搬送される前記金属管Wを、他端部が前記パージ装置13の前記置換室311に位置したまま、一端部が前記雰囲気炉11の炉内に挿入された状態とし、その状態で前記金属管Wの搬送を停止することなく、前記管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する、ことを特徴とする(
図1参照)。
【0012】
金属管用熱処理設備10は、金属管Wの管内ガスを雰囲気ガスにパージ(置換)し、そのパージ後の金属管Wに熱処理するためのもの、つまり、金属管Wにパージ処理及び熱処理の2つの処理を施すためのものであり、雰囲気炉11と、搬入装置12と、パージ装置13と、を備えている。
雰囲気炉11は、金属管Wの熱処理を行うものであり、搬入装置12は、その金属管Wを雰囲気炉11へと搬送するものであり、パージ装置13は、搬入装置12によって搬送中の熱処理前の金属管Wにパージ処理を施すものである。
【0013】
ここで、パージ処理とは、金属管Wの内部(管内)に存在する空気、特に酸素や二酸化炭素等のガス(以下、「管内ガス」と記載する)を、雰囲気炉11の炉内を満たす雰囲気ガスに置換(パージ)する処理である。
管内ガスは、熱処理時の金属管Wの内面を酸化、脱炭等させ、スケール(酸化皮膜)を発生させるが、このスケール(酸化皮膜)が金属管Wの品質低下の原因となる場合がある。
金属管用熱処理設備10は、雰囲気炉11で熱処理する前の金属管Wに対し、パージ装置13がパージ処理を施し、管内ガスを雰囲気ガスに置換(パージ)する、換言すれば、品質低下の原因となる管内ガスを取り除くことにより、熱処理時のスケールの発生を防止することができる。
【0014】
(1)雰囲気炉
雰囲気炉11は、炉内に収容された金属管Wを熱処理するためのものであり(
図1参照)、その熱処理に適用可能であれば、金属管Wの処理・搬送方式、構成、使用材料、形状、大きさ、炉内の容積、加熱・冷却方式等は、特に問わない。
雰囲気炉11の処理・搬送方式は、金属管Wの熱処理に係る加熱処理や冷却処理等の各処理を連続的に行う連続式のものとすることができ、あるいは、各処理を断続的に行うバッチ式のものとすることができるが、生産効率の向上の観点から、連続式のものが好ましい。
【0015】
雰囲気炉11は、金属管Wを炉内に挿入するための入口111を備えることができる(
図1参照)。また、炉体11は、金属管Wを炉内から取り出す出口(図示略)を備えることができる。
入口111には、扉等の開閉手段を設けることによって開閉可能とすることができるが、雰囲気炉11が連続式の場合、開閉に伴う時間的ロスを低減する観点から、開放状態とすることが好ましい。この場合、開閉手段は、金属管Wの外径に応じて入口111の開口高さ(入口111の上下方向の幅長)を調整可能な調整機構を備えるものとすることができる。
つまり、調整機構を備える開閉手段は、例えば、金属管Wが外径の細い細径のものであれば開口高さを低く調整し、金属管Wが外径の太い太径のものであれば開口高さを高く調整することができる。この場合、雰囲気炉11の入口111を、金属管Wの外径に応じた開口高さに絞ることができ、開放状態とされた入口111を介した雰囲気炉11の炉内への外気(空気)の流入、及び、炉内からの雰囲気ガスの流出を抑制することができる。
【0016】
雰囲気炉11は、金属管Wを熱処理するために炉内に設けられる室を、1室のみとすることができ、あるいは、複数室とすることができる。特に、雰囲気炉11が連続式の場合、炉内を区画して複数室を設け、それら複数室を、金属管Wの熱処理に係る加熱処理、冷却処理等の各処理を施すための室、例えば、加熱室や冷却室等とすることが好ましい。
つまり、連続式の雰囲気炉11は、炉内に加熱室や冷却室等の複数の室を備えるものとすることにより、炉内での金属管Wの搬送を止めることなく、熱処理を施すことができ、生産効率の向上を図ることができる。
加熱室や冷却室等の各処理を施すための室は、内部の構成、構造等について、特に限定されず、各処理の目的に応じたものとすることができる。
例えば、加熱室であれば、通常、金属管Wを加熱処理するための電気ヒーターや燃焼式バーナー等といった昇温装置が設けられた構成とすることができる。冷却室であれば、金属管Wを冷却処理するためのクーラ、ファン、ブロア等のような降温装置が設けられた構成とすることができる。
【0017】
雰囲気炉11は、炉内に加熱室を備える場合、加熱室よりも入口111側に前室(図示略)を備える構成とすることができる。前室は、炉内に金属管Wを挿入するための室であり、金属管Wの挿入時に加熱室へ外気が流れ込むことを抑制する室である。特に、入口111に開閉手段を設けず開放状態とする場合、前室は、加熱室への外気の流入を抑制する観点で有用なものとなる。
雰囲気炉11は、炉内に冷却室を備える場合、冷却室よりも出口側に後室(図示略)を備える構成とすることができる。後室は、金属管Wを炉内から抜き出すための室であり、金属管Wの抜出時に冷却室へ外気が流れ込むことを抑制する室である。
【0018】
金属管Wに施される熱処理とは、金属管Wを加熱及び冷却することにより、金属管Wの金属組織を調整して、硬さ、強さ、軟らかさ等の性質について目的とする性質を金属管Wに付与するための処理である。
雰囲気炉11は、金属管Wに施す熱処理に応じて、その熱処理を施すのに適したものとすることができる。
熱処理の具体例としては、焼なまし(焼鈍)、焼ならし、焼入れ、焼戻し等を挙げることができ、これらの中で1種のみ、又は2種以上を施すことができる。例えば、熱処理として、金属管Wに焼鈍のみ又は焼ならしのみを施すことができ、あるいは、金属管Wに焼入れ及び焼戻しを施すことができる。
【0019】
上述した熱処理の中でも、焼鈍は、内部の歪みを取り除く、組織を軟化させる、展延性を向上させる等を目的とする熱処理であり、例えば、成形型を使用して所定形状に形成された金属製品や金属部品の多くが焼鈍されることから、金属管に施される熱処理として有用である。
また、焼鈍の中でも光輝焼鈍は、無酸化焼鈍とも呼称され、熱処理前の金属管Wが有していたその表面(外面及び内面)の金属光沢を、熱処理後も維持することができ、熱処理後の金属管Wの表面(外面及び内面)からスケール(酸化皮膜)等を除去する作業が不要であることから、金属管Wに施される熱処理として特に有用である。
なお、金属管Wの用途が精密機械の製造分野や医療分野である場合に、光輝焼鈍は、特に有用である。つまり、光輝焼鈍された金属管Wは、熱処理前に有していたその表面の金属光沢を維持できる、言い換えるとその表面の平滑化や鏡面化を図ることができるため、金属管Wの表面のうち特に内面に関し、コンタミネーション防止等を要求される精密機械の製造分野や医療分野での用途において、有用である。
【0020】
雰囲気炉11は、炉内で金属管Wを搬送するための搬送機構112を備えるものとすることができる(
図1参照)。
搬送機構112は、金属管Wを搬送することが可能であれば、搬送方式、構成等について、特に限定されない。通常、搬送機構112には、ローラーハース式、メッシュベルト式、フープベルト式等のコンベアを用いることができる。
雰囲気炉11の炉内において、金属管Wは、搬送機構112によって、入口111から出口へ一定の速度で搬送することができる。
【0021】
雰囲気炉11の炉内は、金属管Wの熱処理に適した雰囲気とするために、雰囲気ガスで満たされている。
雰囲気ガスには、還元性ガス、不活性ガス、吸熱型変成ガス、及び発熱型変成ガスの群から選択される少なくとも1種を使用することができる。
つまり、雰囲気ガスには、還元性ガス、不活性ガス、吸熱型変成ガス、及び発熱型変成ガスの群から選択される1種のみを単独で使用することができ、あるいは、選択される2種以上を混合し、混合ガスとして使用することができる。
【0022】
還元性ガスは、炉内を還元雰囲気、及び/又は、酸素の無い雰囲気(無酸化雰囲気)として、熱処理時における金属管Wの酸化や脱炭を防止するガスであり、具体例として、水素ガスやアンモニアガス等を挙げることができる。
不活性ガスは、炉内を金属に対して不活性の雰囲気とすることにより、熱処理時における金属管Wの酸化、脱炭等を抑制するガスであり、具体例として、窒素ガスやアルゴンガス等を挙げることができる。
吸熱型変成ガス及び発熱型変成ガスは、プロパンガス等の炭化水素ガスを変性して得られるガスであり、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO2)ガス、水素ガス、水蒸気(H2O)、窒素ガス等を含み、熱処理時における金属管Wの酸化等を抑制することができる。吸熱型変成ガスは、自己発熱をせず、ヒーター等の昇温装置によって加熱する場合に適するガスであり、具体例として、RXガス等を挙げることができる。発熱型変成ガスは、自己発熱をするため、バーナー等の昇温装置によって加熱する場合に適するガスであり、具体例としてDXガス等を挙げることができる。
【0023】
熱処理が光輝焼鈍の場合、金属管Wの表面(外面及び内面)、特に内面でスケール(酸化皮膜)の形成を防止するために、炉内を酸素の無い雰囲気(無酸化雰囲気)とすることが好ましい。
熱処理が光輝焼鈍の場合に用いられる雰囲気ガスは、水素ガス、窒素ガス、RXガス及びDXガスの群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、水素ガス及び窒素ガスの群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、水素ガスであることがさらに好ましい。
【0024】
水素ガスは、雰囲気炉11の炉内を還元性の雰囲気とすることができることに加えて、炉内に残留等している酸素ガスと反応し、これを奪うことにより、炉内を良好な無酸化雰囲気にすることができるため、光輝焼鈍に用いる雰囲気ガスとして有用である。
窒素ガスは、金属管Wに用いられた金属に対して不活性であるため、金属管Wの外面及び内面の酸化や脱炭を抑制することができ、入手が容易であるから、その使用に係るコストを抑えることができる。
水素ガスは、一酸化炭素等の炭素系ガスを用いることなく、還元雰囲気や無酸化雰囲気の達成が可能であり、脱炭素(カーボンニュートラル)を図ることができることから、環境的な観点でも有用である。
また、水素ガスの使用は、コストの高騰を招くが、窒素ガスは、不活性である故に水素ガスによる炉内の雰囲気を維持できるため、水素ガスとの併用が可能であり、そうした併用によって金属管Wの酸化及び脱炭を防止する雰囲気を維持しながら、コスト低減を図ることができる。
【0025】
雰囲気炉11は、雰囲気ガスを炉内に供給するガス供給系113を備えることができる(
図1参照)。
雰囲気炉11に対するガス供給系113の接続箇所は、特に限定されず、雰囲気炉11の何れの箇所ともすることができる。雰囲気炉11が炉内に上述の加熱室や前室を備える場合、ガス供給系113は、加熱室、前室の何れか一方のみ、又は両方に接続することができる。
【0026】
ガス供給系113には、系路を開閉するバルブを接続することができる。このバルブは、その種類等について、特に問わず、電動弁、電磁弁、逆止弁等を用いることができるが、これらの中で電動弁は、雰囲気炉11の炉内へ供給される雰囲気ガスの供給量を調整することができるため、有用である。
雰囲気炉11に接続されるガス供給系113の系路の数は、特に問わない。雰囲気ガス供給系の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることもできる。
【0027】
例えば、雰囲気ガスとして水素ガスと窒素ガスを併用する場合、ガス供給系113は、系路の数を2つとして、水素ガスを供給する第1供給系と、窒素ガスを供給する第2供給系とを備える構成とすることができる。
この構成について、水素ガスと窒素ガスは、各個別に雰囲気炉11の炉内への供給量を調整することができ、例えば、水素ガスの使用量を必要最小限に留めて、運用コストの低減を図る等の効果を得ることができる。
また、この構成について、窒素ガスを供給する第2供給系を雰囲気炉11の前室に接続し、水素ガスを供給する第1供給系を雰囲気炉11の加熱室に接続したりすることができる。
【0028】
あるいは、雰囲気ガスとして水素ガスと窒素ガスを併用する場合に、ガス供給系113の系路の数を1つのみとして、水素ガスと窒素ガスを混合した状態で、雰囲気炉11の炉内に供給することもできる。
この構成について、ガス供給系113の構成を簡易化することができる。
【0029】
なお、雰囲気炉11とパージ装置13との間には、第2の置換室を内部に有するパージボックスを配置することができる。
パージボックスは、第2の置換室が、雰囲気炉11の炉内と入口111を介して連通するように、雰囲気炉11と繋がるものとし、第2の置換室に、例えば、雰囲気ガスとして不活性ガス等を貯留して、パージボックスの第2の置換室と、パージ装置13の装置本体31の置換室311との間でパージ処理を行うことができる。
あるいは、雰囲気炉11の炉内に前室が設けられている場合、その前室を上述の第2の置換室とすることができ、また、雰囲気炉11の炉内において、入口111の直近位置に上述の第2の置換室を設けることができる。
【0030】
(2)金属管
本発明に供される金属管Wの形状は、管状であれば、特に限定されないが、その管状は、直線状に伸びる直管状とすることができ、弧状、曲線状、L字状等に伸びる曲管状とすることができる。通常、熱処理に供される金属管Wの形状は、処理数を増やす観点から、直管状が有用である。
金属管Wの形状として、軸線と直交方向の断面形状は、特に限定されないが、例えば、真円形状、楕円形状等の円形状、三角形状、四角形状、六角形状、八角形状等の多角形状とすることができる。
金属管Wの材質は、特に限定されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、銀、タングステン等の金属、炭素鋼、ステンレス鋼、チタン合金、ニッケル合金、銅合金等の合金を挙げることができる。これらの中でも、特にステンレス鋼からなる金属管Wは、種々の用途に向けて多くの量が必要とされ、また、多くのものが光輝焼鈍の対象となることから、生産効率の向上を図ることが可能な本発明に供されるものとして、有用である。
【0031】
金属管Wのサイズについて、長さL[m]は、特に限定されないが、金属管Wは長いものほど、管内に存在する空気等のガス(以下、「管内ガス」と記載する)をパージ(置換)し難くなることから、金属管Wは、長さL[m]が長いものほど本発明に供されるものとして有用である、ということができる。
具体的に、金属管Wの長さL[m]の下限は、好ましくは0.3m以上(0.3≦L)、より好ましくは0.7m以上(0.7≦L)、さらに好ましくは1m以上(1.0≦L)とすることができる。
金属管Wの長さL[m]の上限は、特に限定されないが、通常、15m以下(L≦15)とすることができる。
【0032】
金属管Wのサイズについて、内径D[m]は、特に限定されないが、金属管Wは小径なものほど、管内ガスをパージし難くなることから、金属管Wは、内径D[m]が小さなものほど本発明に供されるものとして有用である、ということができる。
具体的に、金属管Wの内径D[m]の上限は、好ましくは150×10-3m以下(D≦150×10-3)、より好ましくは80×10-3m以下(D≦80×10-3)、さらに好ましくは10×10-3m以下(D≦10×10-3)とすることができる。
金属管Wの内径D[m]の下限は、特に限定されないが、通常、1×10-3m以上(1×10-3≦D)とすることができる。
【0033】
なお、金属管Wは、内部をガス等の流体が流動する際、金属管Wと流体との摩擦による損失が生じ、この損失は、配管抵抗値Pr[Pa]として、金属管Wの長さL[m]及び内径D[m]に基づき、下記の式(1)から算出することができる。
Pr=λ×(L/D)×〔(ρ×V2)/2〕 ・・・(1)
但し、式(1)において、λ;管摩擦係数、L;金属管の長さ[m]、D;金属管の内径[m]、ρ;流体の密度[kg/m3]、V;流体の速度(流速)[m/sec]である。
【0034】
金属管Wは、配管抵抗値(損失)が大きくなるほど、その内部を流体が流動し難くなる、つまり、管内ガスが流動し難くなるため、パージ(置換)が難くなる。
また、上記の式(1)から、配管抵抗値Pr[Pa]は、金属管Wの長さL[m]が長くなるにつれ大きくなり、また、金属管Wの内径D[m]が小さくなるにつれ大きくなることから、パージ(置換)が難くなるということができる。
【0035】
(3)搬入装置
搬入装置12は、熱処理に供される金属管Wを雰囲気炉11へ搬送するためのものである(
図1参照)。
搬入装置12は、金属管Wを搬送することが可能であれば、搬送方式、構成等について、特に限定されない。通常、搬入装置12には、ローラーハース式、メッシュベルト式、フープベルト式等のコンベアを用いることができる。
また、搬入装置12は、雰囲気炉11へ金属管Wを一定の搬送速度で搬送するものとされており、雰囲気炉11への搬送中に金属管Wを停止させないもの、とすることができる。
【0036】
搬入装置12による金属管Wの搬送形態は、特に限定されない。
通常、搬入装置12によって搬送される金属管Wは、直線状の場合、その伸び方向(軸線方向)を搬送方向として、搬送方向の前側に一端部(先端部)を向け、搬送方向の後側に他端部(基端部)を向けた搬送形態とすることができる。
また、生産効率の向上を図る観点から、金属管Wは、複数本をまとめて搬送することができ、その場合、金属管Wが直線状であれば、相互に平行となるように複数本を搬送方向と直交する方向に並べた搬送形態とすることができる(例えば、
図2参照)。
【0037】
搬入装置12は、雰囲気炉11の入口111において、搬送機構112と連続するように配設することができる。
搬入装置12による金属管Wの搬送速度は、特に限定されないが、雰囲気炉11の搬送機構112による搬送速度と同期させることができる。
雰囲気炉11の搬送機構112による搬送速度に、搬入装置12による搬送速度を同期させた場合、金属管Wの雰囲気炉11への搬入のタイミングを、金属管Wの雰囲気炉11の炉内での搬送のタイミングと同期させることができる。
この場合、雰囲気炉11が連続式であって、複数ロットの金属管Wを処理するのに有用であり、各ロット間におけるタイミング差による時間的ロスの発生を抑制することができ、作業時間の短縮化を図ることができる。
【0038】
(4)パージ装置
パージ装置13は、金属管Wにパージ処理を施すためのものである(
図1参照)。
パージ装置13は、装置本体31と、装置本体31に接続された排気装置32と、を備えている。
装置本体31は、内部に置換室311が設けられた箱状に形成されており、その装置本体31を、搬入装置12が内部に囲い込まれるように設けることにより、パージ装置13が搬入装置12上に配設されている。
装置本体31は、搬入装置12上に固定して設けることができるが、移動自在に設けることもできる。
パージ装置13は、搬入装置12上における固定位置を変更する、搬入装置12上で装置本体31を移動させる等することにより、雰囲気炉11との距離D[m]を変更することができる。この距離D[m]は、金属管の長さL[m]に応じて調整することができる。そして、雰囲気炉11とパージ装置13との距離D[m]は、金属管Wが直管状である場合、金属管Wの長さL[m]よりも短く(D<L)なるように調整されている。
【0039】
装置本体31には、置換室311へ金属管Wを出し入れするための一対の開口部312が設けられている。これら開口部312は、開放された状態で保持されている。このため、搬入装置12によって搬送される金属管Wは、その搬送を停止することなく、常時、開口部312を介して、置換室311に出し入れすることができる。
開口部312の形状は、特に限定されず、金属管Wを出し入れ可能な孔状であれば、何れの形状とすることもできる。生産効率の向上を図ることができるという観点において、開口部312の形状は、複数本の金属管Wを出し入れ可能な長孔状とすることができる。例えば、
図2に示すように、複数本の金属管Wを搬送方向に対して横方向(左右方向)に並べ、その横並びにした複数本の金属管Wを出し入れできるように、開口部312の形状は、搬送方向に対して横方向に長尺な長方形状とすることができる。
【0040】
装置本体31には、置換室311と連通する排気路313が設けられており、排気装置32は、その排気路313に接続されている。
排気装置32は、排気路313を介して置換室311のガスを外部へ排気することができ、その排気により、置換室311を負圧状態にすることができる。
排気装置32の種類等は、置換室311を排気により負圧状態にすることができるのであれば、特に限定されないが、具体例として、軸流ファン、遠心ファン、ブロアファン、エゼクタ、真空ポンプ、吸引ポンプ等を挙げることができる。
【0041】
パージ装置13の装置本体31は、開口部312の開口面積を調節する調節手段を備えることができる。
すなわち、パージ装置13の装置本体31において、開口部312は、開放された状態で保持されているため、排気装置32によって置換室311を排気により負圧状態とした場合、外気(空気)が開口部312を介して置換室311に吸い込まれる。
調節手段は、開口部312の開口面積を、金属管のサイズ(外径)や処理本数等に応じた大きさに調節することができることから、外気(空気)が開口部312を介して置換室311に吸い込まれることを抑制して、置換室311を排気により負圧状態とする排気装置32への負荷を低減することができる。
【0042】
調節手段は、開口部312の開口面積を調節することが可能であれば、種類、構成等について特に限定されない。
調節手段は、例えば、
図2に示すように、装置本体31の開口部312が設けられる側壁314を、上下方向に並べた複数の分割壁314A,314Bからなるものとし、それら複数の分割壁314A,314Bによって構成することができる。
すなわち、
図2に示すように、装置本体31の側壁314は、上下方向に並べた複数(
図2中では2つ)の分割壁314A,314Bによって構成されており、2つの分割壁314A,314Bをそれらの間に間隙を設けて上下方向に並べることにより、その間隙によって開口部312が形成されている。
複数の分割壁314A,314Bは、それぞれ上下方向の幅長が異なり、幅長が異なる分割壁314A,314Bの組み合わせを変える、何れかの分割壁314A,314Bをそれとは上下方向の幅長が異なる他の分割壁と交換する等により、開口部312の上下幅を変えて開口面積を調節することができる。
【0043】
調節手段は、
図2に示すような複数の分割壁314A,314Bによるもの以外に、例えば、開口部312の内側に設けられた、上下方向に昇降自在な昇降板によって構成することができる。この場合、昇降板を昇降させることにより、開口部312の上下幅を変えて開口面積を調節することができる。
また、調節手段は、開口部312を覆う、例えば、短冊状をなす複数の不織布からなる、すだれ(簾)、カーテン、金属箔等によって構成することができる。
この場合、すだれ(簾)、カーテン、金属箔等によって開口部312は覆われることになるが、こうしたすだれ(簾)、カーテン、金属箔等は、開口部312に金属管Wを出し入れする際に、金属管Wに押される等して柔軟に可撓し、開口部312を開放するため、開口部312を実質的に開放された状態で保持することができる。
そして、開口部312は、すだれ(簾)、カーテン、金属箔等によって覆われることにより、その開口面積が狭まることから、外気(空気)が開口部312を介して置換室311に吸い込まれることを抑制して、置換室311を排気により負圧状態とする排気装置32への負荷を低減することができる。
なお、調節手段には、分割壁314A,314Bと、すだれ(簾)、カーテン、金属箔等との両方をともに用いることもできる。
【0044】
パージ装置13は、搬入装置12上に配設されており、その装置本体31に設けられた一対の開口部312は開放された状態で保持されている(
図1参照)。このため、搬入装置12により搬送される金属管Wは、搬送を停止させることなく、装置本体31の置換室311に挿入し、その置換室311を通過させることができ、置換室311を通過した後、雰囲気炉11にその入口から挿入することができる。
雰囲気炉11とパージ装置13との距離D[m]は、金属管Wの長さL[m]よりも短く(D<L)なるように調整されている。このため、搬送中の金属管Wは、置換室311を通過しようとする際、搬送方向の前側を一端側とし、後側を他端側として、他端部がパージ装置13の置換室311に位置したまま、一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入された状態とすることができる(
図1参照)。
【0045】
上述の状態において、雰囲気炉11の炉内と、パージ装置13の置換室311とは、金属管Wの内部を介して互いに連通する。
また、パージ装置13の装置本体31の置換室311は、排気装置32による排気によって、常に負圧状態とされている。なお、雰囲気炉11の入口111の周囲において、炉内の圧力と炉外の圧力とは、その入口111を介することにより、略平衡を保たれている。
このため、雰囲気炉11の炉内と、パージ装置13の置換室311とが金属管Wの内部を介して連通した上記の状態において、炉内と置換室311との間には、圧力差によるガスの流動が生じる。そのガスの流動方向は、負圧状態とされている置換室311を吸引側として、炉内から置換室311へと向かう方向となる。
上述のガスの流動により、置換室311に位置する金属管Wの他端部からは管内ガスが吸い出され、炉内に挿入された金属管Wの一端部からは雰囲気ガスが吸い込まれて、金属管Wの内部において、雰囲気ガスが管内ガスを圧し出すことにより、管内ガスを雰囲気ガスへと置換(パージ)することができる。
【0046】
つまり、搬入装置12によって搬送される金属管Wは、その搬送中に、他端部をパージ装置13の置換室311に位置させたまま、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入した状態となる。
その状態で、雰囲気炉11の炉内とパージ装置13の置換室311とは、金属管Wの内部を介して連通することができる。
金属管Wの内部を介して連通した雰囲気炉11の炉内とパージ装置13の置換室311とは、負圧状態とされた置換室311で金属管Wの管内ガスに対して吸引作用が働くことにより、雰囲気炉11の炉内からパージ装置13の置換室311へ雰囲気ガスを流動させることができる。
よって、搬送中の金属管Wが、
図3(a)に示されるように、他端部をパージ装置13の置換室311に位置させたまま、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入した状態となったとき、パージ処理を開始することができる。
【0047】
金属管Wは、パージ装置13により管内ガスを雰囲気ガスへと置換(パージ)されながらも、搬入装置12による雰囲気炉11への搬送が停止されることなく継続されている。
この搬送の継続により、金属管Wの他端部は、やがて置換室311から開口部312を介して外部へ抜け出すことができる。
雰囲気炉11の入口111の周囲において、炉内の圧力と炉外の圧力とは、その入口111を介することにより、略平衡を保たれているため、金属管Wには、他端部が置換室311から抜け出した状態で、負圧状態とした置換室311によるガスの吸引作用が働かなくなる。
よって、搬送中の金属管Wが、
図3(b)に示されるように、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入したまま、他端部をパージ装置13の置換室311(開口部312)から抜け出させた状態となったとき、パージ処理を終了することができる。
【0048】
パージ(置換)された金属管Wの管内ガスは、パージ装置13の装置本体31において、負圧状態の置換室311に吸い出された後、置換室311から排気路313を介して排気装置32により、装置本体31の外部へ排気される。
つまり、パージ(置換)された管内ガスは、負圧状態の置換室311に吸引されて外部へ排気されることにより、パージ処理の際の雰囲気炉11への流入を防止されている。
このため、金属管Wの内部の管内ガスが雰囲気炉11の炉内へ流入して、炉内の雰囲気が損なわれることを防止することができる。
また、管内ガスは、主に空気であるから、パージ装置13の装置本体31の外部へ排気されても、作業環境を悪化させ難い。
【0049】
(5)圧力センサ
金属管用熱処理設備10は、パージ装置13の装置本体31において、置換室311の圧力を検出する圧力センサ14を備えることができる(
図1参照)。
圧力センサ14は、置換室311の圧力を検出することができるのであれば、種類、取付位置等について、特に限定されない。
圧力センサ14は、金属管用熱処理設備10が置換室311の圧力を制御する圧力制御システムを備える場合、その圧力制御システムの制御器16と電気的に接続することができる。この場合、圧力制御システム(制御器16)は、圧力センサ14の検出値に基づき、置換室311の圧力を制御することができる。
【0050】
(6)位置センサ
金属管用熱処理設備10は、搬入装置12による搬送の途上において、金属管Wの位置を検出する位置センサ15A,15Bを備えることができる。
位置センサ15A,15Bは、金属管Wの位置を検出することができるのであれば、種類、取付位置等について、特に限定されない。
位置センサ15A,15Bは、金属管用熱処理設備10が置換室311の圧力を制御する圧力制御システムを備える場合、その圧力制御システムの制御器16と電気的に接続することができる。この場合、圧力制御システム(制御器16)は、位置センサ15A,15Bの検出値に基づき、置換室311の圧力を制御することができる。
【0051】
また、圧力制御システム(制御器16)による置換室311の圧力の制御下で実行されるパージ処理は、搬送中の金属管Wが、他端部をパージ装置13の置換室311に位置させたまま、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入した状態となったときに開始され、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入したまま、他端部をパージ装置13の置換室311から抜け出させた状態となったときに終了する。
このため、位置センサ15A,15Bは、金属管Wの一端部の位置を検出する第1位置センサ15Aと、金属管Wの他端部の位置を検出する第2位置センサ15Bとを備えることが好ましい(
図1、
図3参照)。
【0052】
(7)圧力制御システム
金属管用熱処理設備10は、パージ装置13の装置本体31において置換室311の圧力を制御する圧力制御システムを備えることができる。この場合、パージ装置13による金属管Wのパージ処理は、圧力制御システムによる置換室311の圧力の制御下で実行される。
【0053】
具体的に、圧力制御システムは、制御器16と、その制御器16に搭載された制御プログラム等とを有している。
制御器16は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を備える電子計算機(コンピュータ)を内蔵しており、制御プログラムを実行するものである。
制御器16には、圧力センサ14及び位置センサ15A,15Bと、排気装置32とが電気的に接続されている。
圧力制御システムは、制御器16に接続された圧力センサ14及び位置センサ15A,15Bの検出値に基づき、制御プログラムを実行し、パージ処理中の排気装置32を操作することにより、置換室311の圧力を制御することができる。
【0054】
圧力制御システムは、パージ処理中以外にも、排気装置32を操作することにより、常態の置換室311の圧力を制御して、負圧状態に保持することができる。
また、圧力制御システムは、パージ処理を好適に実行する観点から、インバータ装置321を介して排気装置32を操作することにより、パージ処理中の置換室311の圧力を適宜制御することができる。
【0055】
具体的に、圧力制御システムは、常態の置換室311の圧力を制御する通常モードと、パージ処理中の置換室311の圧力を制御するパージモードと、を有している(
図4~6参照)。
通常モードは、圧力センサ14の検出値に基づき、排気装置32による置換室311からの排気量を調整し、常態の置換室311を負圧状態に保持するモードである。
【0056】
パージモードは、排気装置32による置換室311からの排気量を通常モードよりも増大し、置換室311を常態よりも大きな負圧状態にするモードである。
このパージモードは、位置センサ15A,15Bの検出値に基づき、金属管Wの他端部が置換室311に位置しており、且つ金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入されていると判定した場合に実行されるものとすることができる。
また、パージモードは、金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入されており、且つ金属管Wの他端部が置換室311から抜け出したと判定した場合に終了されるものとすることができ、その終了に応じ、圧力制御システムは、上述の通常モードに復帰するものとすることができる。
【0057】
圧力制御システムは、排気装置32を駆動するインバータ装置321を備えることができる(
図1参照)。このインバータ装置321は、制御器16と排気装置32との間に、電気的に接続されている。インバータ装置321は、電圧形、電流形等の種類について、特に問わない。
インバータ装置321は、圧力制御システムによる制御下において、排気装置32の排気量を任意且つ適宜に変更、調整することにより、負圧状態とした置換室311の圧力を所望する一定の値に保持することができる。
圧力制御システムによる制御下において、インバータ装置321によって駆動される排気装置32は、通常モードで置換室311を、圧力P
0[Pa]に維持することができる。
また、圧力制御システムによる制御下において、インバータ装置321によって駆動される排気装置32は、パージモードで置換室311を、圧力P
1[Pa]に維持することができる。
P
0及びP
1は、置換室311の圧力を、ゲージ圧の絶対値で示しており、P
0<P
1の関係式を満たすことができる。つまり、圧力P
1[Pa]に維持されたパージモードの置換室311は、圧力P
0[Pa]に維持された通常モードの置換室311に比べ、大きな負圧状態とすることができる。
【0058】
通常モードの圧力P0[Pa]は、特に限定されないが、パージ処理の際に金属管Wの内部でガスを好適に流動させることができる観点から、上記した金属管Wの配管抵抗値PT[Pa]以上(PT≦P0)とすることができる。
具体的に、圧力P0[Pa]の下限は、好ましくは0.98Pa(0.1mmAq)以上、より好ましくは2.9Pa(0.3mmAq)以上、さらに好ましくは4.9Pa(0.5mmAq)以上、とすることができる。
圧力P0[Pa]の上限は、好ましくは49.0Pa(5.0mmAq)以下、より好ましくは29.4Pa(3.0mmAq)以下、さらに好ましくは9.8Pa(1.0mmAq)以下、とすることができる。
【0059】
パージモードの圧力P1[Pa]は、P0との間でP0<P1の関係を満たすのであれば、特に限定されない。
具体的に、圧力P1[Pa]は、P0との差(P1-P0)が、好ましくは0.98Pa(0.1mmAq)以上14.7Pa(1.5mmAq)以下、より好ましくは2.9Pa(0.3mmAq)以上11.8Pa(1.2mmAq)以下、さらに好ましくは4.9Pa(0.5mmAq)以上9.8Pa(1.0mmAq)以下、とすることができる。
すなわち、圧力P1[Pa]の下限は、好ましくは1.96Pa(0.2mmAq)以上、より好ましくは3.9Pa(0.4mmAq)以上、さらに好ましくは5.9Pa(0.6mmAq)以上、とすることができる。
圧力P1[Pa]の上限は、好ましくは63.7Pa(6.5mmAq)以下、より好ましくは44.1Pa(4.5mmAq)以下、さらに好ましくは24.5Pa(2.5mmAq)以下、とすることができる。
【0060】
金属管用熱処理設備10は、上述の圧力制御システムによる置換室311の圧力の制御によって、パージ処理中に、金属管Wの管内ガスの全量を雰囲気ガスに置換することができる。
具体的に、金属管用熱処理設備10において、金属管Wの管内ガスを雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]は、金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入された時点を開始時とし、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出した時点を終了時とする、置換室311における金属管Wの滞留時間T1[sec]以下(T0≦T1)とすることができる。
パージ時間T0[sec]が滞留時間T1[sec]以下(T0≦T1)とは、金属管Wの管内ガスの全量を雰囲気ガスに置換するのに実際に要する時間(T0)が、置換室311に金属管Wの他端部が滞留している時間(T1)と比べて、等しいか又は短い、ということである。
つまり、パージ時間T0[sec]が滞留時間T1[sec]以下(T0≦T1)とは、置換室311に金属管Wの他端部が滞留している間に、金属管Wの管内ガスの全量が雰囲気ガスに置換される、ということである。
【0061】
置換室311における金属管Wの滞留時間T
1[sec]に関して、パージ処理の間、金属管Wの他端部は、置換室311に滞留しており、滞留時間T
1[sec]は、パージ処理の時間と同じであるということができる。
つまり、滞留時間T
1[sec]の開始時は、金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入された時点であり、
図3(a)に示されるように、搬送中の金属管Wが、他端部をパージ装置13の置換室311に位置させたまま、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入した状態となったパージ処理の開始と同じである。
また、滞留時間T
1[sec]の終了時は、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出した時点であり、
図3(b)に示されるように、搬送中の金属管Wが、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入したまま、他端部がパージ装置13の置換室311(開口部312)から抜け出した状態となったパージ処理の終了と同じである。
【0062】
滞留時間T1[sec]は、搬入装置12による金属管Wの搬送速度に応じて定めることができる。
通常、搬入装置12による金属管Wの搬送速度は、雰囲気炉11における金属管Wの熱処理に要する時間に応じて、一定速となるように設定されている。
【0063】
金属管Wの管内ガスを雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]に関して、このパージ時間T0[sec]は、金属管Wの管内ガスの全量を雰囲気ガスに置換(パージ)するのに実際に要する時間であるということができる。
パージ時間T0[sec]は、置換室311の圧力、金属管Wの長さ等によって定めることができる。
【0064】
すなわち、パージ処理において、金属管Wの内部を流動するガスの流速は、ベルヌーイの定理の応用から、下記の式(2)を用いて算出することができる。
V=(2×P÷ρ)0.5 ・・・(2)
但し、式(2)において、Vはガスの流速[m/sec]、Pは置換室311の圧力[Pa]、ρはガスの流体密度[kg/m3]を示すものとする。
ここで、金属管Wの内部を流動するガスとは、パージ処理で金属管Wから吸い出される管内ガスであり、その管内ガスは、主に空気である。
【0065】
金属管Wの内部を流動するガスの流量と流速は、下記の式(3)の関係を満たすことができる。
Q=C×A×V ・・・(3)
但し、式(3)において、Qはガスの流量[m3/sec]、Cはガスの流量係数、Aは金属管Wの開口面積[m2]、Vはガスの流速[m/sec]を示す。
【0066】
パージ時間T0[sec]は、ガスの流量Q[m3/sec]と、金属管Wの内部容積ca[m3]とを用い、下記の式(4)を用いて算出することができる。
T0=ca/Q ・・・(4)
ここで、金属管Wの内部容積ca[m3]は、金属管Wの開口面積A[m2]×金属管Wの長さL[m]の式から算出することができ、この式を式(4)に代入すると、下記の式(5)となる。
T0=(A×L)/Q ・・・(5)
【0067】
式(5)に式(3)に代入すると、下記の式(6)となる。
T0=(A×L)/(C×A×V)=L/(C×V) ・・・(6)
そして、式(6)に式(2)を代入すると、下記の式(7)となる。
T0=L/〔C×(2×P÷ρ)0.5〕 ・・・(7)
但し、式(7)において、Cはガスの流量係数、ρはガスの流体密度[kg/m3]であり、これらは定数である。
【0068】
上記の式(7)から、パージ時間T0[sec]は、置換室311の圧力Pと、金属管Wの長さLに応じた値となる。
すなわち、金属管用熱処理設備10は、圧力制御システムによって置換室311の圧力を制御することにより、パージ時間T0[sec]を調整することができる。
そして、圧力制御システムは、パージ時間T0[sec]を滞留時間T1[sec]以下(T0≦T1)とすることにより、置換室311に金属管Wの他端部が滞留している間に、金属管Wの管内ガスの全量を雰囲気ガスに置換することができる。
【0069】
通常、滞留時間T1[sec]は、搬入装置12による金属管Wの搬送速度に依存して、一定速とされている。
圧力制御システムは、通常モードにより常態の置換室311を圧力P0[Pa]の負圧状態としておき、パージ処理の際には、パージモードにより置換室311を圧力P1[Pa]とし、置換室311を常態よりも大きな負圧状態にして、パージ時間T0[sec]を調整し、これを滞留時間T1[sec]以下とする。
【0070】
具体的に、圧力制御システムは、滞留時間T1[sec]とパージ時間T0[sec]との差分dT[sec](dT=T1-T0)を考慮し、滞留時間T1[sec]に基づき、差分dT[sec]が所定の範囲内となるように、パージ時間T0[sec]を調整する。
このパージ時間T0[sec]は、上記の式(7)に基づき、パージモードの圧力P1[Pa]に応じて調整することができる(つまり、式(7)において、P=P1)。
すなわち、パージモードの圧力P1[Pa]は、金属管Wの長さL[m]、パージ時間T0[sec](但し、T0≦T1)、差分dT[sec]、排気装置32への負荷等を考慮して、定めることができる。
【0071】
なお、通常モードの圧力P0[Pa]は、置換室311が圧力P0[Pa]から圧力P1[Pa]へ変わるのに要する時間と、排気装置32への負荷とを考慮して、定めることができる。
圧力P0[Pa]から圧力P1[Pa]へ変わるのに要する時間は、実質的に、上述の差分dT[sec]と同じか、僅かに短い時間とすることができる。
差分dT[sec]に関し、圧力を変えるのに要する時間的ロス等によって管内ガスの全量を雰囲気ガスにパージ(交換)できなくなることを抑制する観点から、下限は、好ましくは0.1sec以上(0.1≦dT)、より好ましくは0.3sec以上(0.3≦dT)、さらに好ましくは0.5sec以上(0.5≦dT)、とすることができる。
差分dT[sec]に関し、管内ガスのみならず雰囲気ガスまでもが置換室311に吸引されることを抑制し、雰囲気ガスの使用量を抑える観点から、上限は、好ましくは10sec以下(dT≦10)、より好ましくは5sec以下(dT≦5)、さらに好ましくは2sec以下(dT≦2)、とすることができる。
【0072】
圧力制御システムは、上述した置換室311の圧力制御を、排気装置32を操作することによって実行するが、具体的には、排気装置32を操作し、置換室311からの排気量EX1[m3/h]を適宜変更し、調整することによって実行する。
また、圧力制御システムは、排気装置32を操作し、置換室からの排気量EX1[m3/h]を増加させることにより、置換室311を圧力P0[Pa]から圧力P1[Pa]に変えることができる。
排気量EX1[m3/h]は、置換室311を圧力P0[Pa]、圧力P1[Pa]とすることができる排気量であれば、特に限定されない。
【0073】
金属管用熱処理設備10において、パージ装置13の装置本体31は、一対の開口部312が開放された状態で保持されており、置換室311を負圧状態とした場合、これら開口部312からも置換室311に外気(空気)が吸い込まれる。
このため、開口部312から置換室311へ吸い込まれる空気の量を、置換室311の空気吸込量EX0[m3/h]として、排気量EX1[m3/h]は、空気吸込量EX0[m3/h]よりも多く(EX1>EX0)なるように調整することができる。
【0074】
空気吸込量EX0[m3/h]は、開口部312の開口面積に基づき、吸い込まれる空気の流速を利用して算出することができる。
すなわち、開口部312から置換室311に吸い込まれる空気の流速V[m/sec]は、ベルヌーイの定理の応用から、上記した式(1)を用いて算出することができる。
そして、開口部312の開口面積に関し、一対の開口部312の開口面積の合計をM[m2]とした場合、空気吸込量EX0[m3/h]は、EX0=M×V×602の式から算出することができる。
【0075】
圧力制御システムは、雰囲気炉11がガス供給系113を備える場合、ガス供給系113を制御器16と電気的に接続することができ、パージ処理に伴う置換室311の圧力制御に応じて、雰囲気炉11への雰囲気ガスの供給量を調整することができる。
すなわち、パージ処理では、雰囲気炉11の炉内の雰囲気ガスを金属管Wの内部へ吸い込むことで、管内ガスを雰囲気ガスへとパージ(置換)しており、そのパージ(置換)に使用された分、雰囲気炉11の炉内からは雰囲気ガスが減る。
このように雰囲気炉11の炉内から雰囲気ガスが減ると、雰囲気ガスの減量によって炉内が減圧され、入口111等から外気(空気)が入り込みやすくなり、異常燃焼が生じる、炉内の雰囲気が汚れる等の不具合が生じる。
圧力制御システムは、雰囲気炉11への雰囲気ガスの供給量を調整することにより、パージ(置換)に使用された雰囲気ガスの減量分を補填し、上記の不具合が生じることを抑制することができる。
【0076】
具体的には、通常モードにおける雰囲気炉11への雰囲気ガスの供給量をSV0[m3/h]とし、パージモードにおける雰囲気炉11への雰囲気ガスの供給量をSV1[m3/h]として、圧力制御システムは、SV1[m3/h]が、SV0[m3/h]よりも増量されている(SV0<SV1)ものとすることができる。
供給量SV0[m3/h]、SV1[m3/h]は、金属管Wの熱処理において、雰囲気炉11の炉内を満たすのに必要十分な量であれば、特に限定されない。
また、供給量の増量分、つまりSV1[m3/h]とSV0[m3/h]との差分(SV1-SV0)は、パージ(置換)に使用された雰囲気ガスの減量分を補填するのに必要十分な量であれば、特に限定されない。
【0077】
SV1[m3/h]とSV0[m3/h]との差分(SV1-SV0)は、実質的に、パージ処理における雰囲気ガスの使用量とすることができ、その使用量は、パージ処理に供された金属管Wの内部容積ca[m3]の総計とすることができる。
つまり、金属管Wは1本のみをパージ処理することもできるが、生産効率の向上を図る観点から複数本をまとめてパージ処理することができる。
よって、パージ処理で金属管Wの管内ガスの全量が雰囲気ガスに置換されるものとして、雰囲気ガスの使用量は、パージ処理に供される金属管Wの本数をn[本]とした場合、内部容積ca[m3]×n[本]の式から算出することができる。
従って、差分(SV1-SV0)は、金属管Wの内部容積ca[m3]の総計(ca×n)とほぼ等しいものとすることができる(SV1-SV0≒ca×n(但し、nは1以上の整数))。
【0078】
上述のように、金属管Wは、小径(細径)のものほど、管内ガスのパージそのものが難くなるが、これは、金属管Wの内径Dが小さくなるに従い、配管抵抗値(損失)が大きくなる、つまり、内部をガス等の流体が流動する際に生じる損失が大きくなるためである(式(1)を参照)。
対して、金属管Wは、大径(太径)のものほど、配管抵抗値(損失)が小さくなるため、内部をガス等の流体が流動しやすくなるが、金属管Wの内部の容積が増すことで、パージが不十分となり、内部に管内ガスが残留しやすくなる。こうした金属管Wの内部に残留する管内ガスは、パージ時において異常燃焼や異常燃焼音を発生させる。
【0079】
本発明は、金属管Wの内部を介して雰囲気炉11の炉内と、パージ装置13の装置本体31の置換室311とを連通させた状態とし、さらに置換室311を負圧状態とすることにより、雰囲気炉11の炉内と置換室311との圧力差を利用して、管内ガスのパージを実行している。
つまり、炉内では、置換室311との圧力差により、金属管Wの一端部へ雰囲気ガスを吸い込ませることにより、金属管Wの内部に雰囲気ガスを圧入することができ、負圧状態とされた置換室311では、金属管Wの内部に圧入された雰囲気ガスによって、金属管Wの他端部から圧し出される管内ガスを吸引して吸い出すことができる。このため、金属管Wの内部における管内ガスの残留を抑えることができる。
【0080】
また、金属管Wが大径(太径)となるに従い、内部の容積が増すと、雰囲気ガスの使用量が多くなり、パージに係るコストが嵩む。
本発明は、通常モードにおける雰囲気炉11への雰囲気ガスの供給量をSV0[m3/h]とし、パージモードにおける雰囲気炉11への雰囲気ガスの供給量をSV1[m3/h]として、SV1[m3/h]をSV0[m3/h]よりも増量(SV0<SV1)することができる。
すなわち、パージを実際に実行するパージモードでは雰囲気ガスの供給量を増量するが、パージを実行していない通常モードでは雰囲気ガスの供給量を抑えることで、雰囲気ガスの使用量を抑えることができる。このため、雰囲気ガスの使用量の増加によるコストの高騰を抑えることができる。
【0081】
(8)制御プログラム
制御プログラムは、圧力制御システムによる置換室311の圧力制御下で、金属管の管内ガスの雰囲気ガスへの置換(パージ)を実行させるためのプログラムである。
また、制御プログラムは、金属管用熱処理設備10に本発明の金属管用ガスパージ方法を実施させるためのものとすることができる。
図4は、制御プログラムの具体例を示すフローチャートである。
【0082】
制御プログラムは、
圧力制御システムによる圧力制御を通常モードとするステップ(S11)と、
金属管Wの搬送位置を検出するステップ(S21)、その搬送位置から、金属管Wの他端部が置換室311に位置しているか判断するステップ(S22)、及び金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入されているか判断するステップ(S23)と、
金属管Wの搬送位置に応じて、排気量を増大するステップ(S31)、及び雰囲気ガスの供給量を増量するステップ(S32)と、
圧力制御システムによる圧力制御をパージモードとするステップ(S41)と、
パージ処理として、雰囲気ガスを吸引するステップ(S51)、及び管内ガスを雰囲気ガスに置換するステップ(S52)と、
パージ処理中において、金属管Wの搬送位置を検出するステップ(S61)、及びその搬送位置から、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出ているか判断するステップ(S62)と、
金属管Wの搬送位置に応じて、排気量を減少するステップ(S71)、及び雰囲気ガスの供給量を減量するステップ(S72)と、
圧力制御システムによる圧力制御を通常モードに復帰させるステップ(S81)と、
を備えている。
【0083】
ステップ(S11)では、圧力制御システムによる圧力制御が通常モードで実行される。つまり、ステップ(S11)では、置換室311を負圧状態の圧力P0[Pa]に維持された状態とする。置換室311は、その状態を通常の状態、つまり常態として、パージ処理に係る条件が満たされない場合、常態で保持される。
ステップ(S21)では、雰囲気炉11へ搬送中の金属管Wの搬送位置が検出される。このステップ(S21)の金属管Wの搬送位置の検出は、位置センサ15A,15Bからの金属管Wの一端部及び他端部の検出値に基づき実行される。
ステップ(S21)で検出された金属管Wの搬送位置について、ステップ(S22)では、金属管Wの他端部が置換室311に位置しているか判断され、ステップ(S23)では、金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入されているか判断される。
ステップ(S22)において、金属管Wの他端部が置換室311に位置していないと判断された場合(S22;no)、ステップ(S21)が実行され、一方、金属管Wの他端部が置換室311に位置していると判断された場合(S22;yes)、ステップ(S23)が実行される。
ステップ(S23)において、金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入されていないと判断された場合(S23;no)、ステップ(S21)が実行され、一方、金属管Wの一端部が炉内に挿入されていると判断された場合(S23;yes)、ステップ(S31)及びステップ(S32)が実行される。
【0084】
ステップ(S22)で金属管Wの他端部が置換室311に位置していると判断され、且つステップ(S23)で金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入されていると判断された場合、雰囲気炉11の炉内とパージ装置13の装置本体31の置換室311とが、金属管Wの内部を介して連通した状態となっており、パージ処理の開始の条件が満たされる。
そして、パージ処理の開始の条件が満たされたことにより、パージ処理を開始するべく、ステップ(S31)及びステップ(S32)が実行される。
【0085】
ステップ(S31)では、圧力制御システムの制御器16が、パージ装置13の排気装置32を操作し、排気量を増大させる。
ステップ(S32)では、圧力制御システムの制御器16が、雰囲気炉11のガス供給系113を操作し、雰囲気ガスの供給量を増量させる。
ステップ(S41)では、圧力制御システムによる圧力制御がパージモードで実行される。つまり、ステップ(S41)では、ステップ(S31)における排気装置32の排気量の増大に応じて、置換室311を常態よりも大きな負圧状態の圧力P1[Pa]に維持された状態とし、パージ処理中の置換室311は、その状態で保持される。
【0086】
ステップ(S51)では、負圧状態とされた置換室311に生じる吸引作用を利用し、雰囲気ガスを吸引する。つまり、雰囲気炉11の炉内とパージ装置13の装置本体31の置換室311とは、金属管Wの内部を介して連通した状態となっているため、置換室311に生じる吸引作用により、雰囲気炉11の炉内の雰囲気ガスは、金属管Wの内部を介して、置換室311へと吸引される。
ステップ(S52)では、ステップ(S51)における雰囲気ガスの吸引を利用し、管内ガスを雰囲気ガスに置換する。つまり、雰囲気炉11の炉内から金属管Wの内部を介して置換室311へ吸引される雰囲気ガスは、その過程で金属管Wの内部の管内ガスを置換室311へと圧し出すため、これを利用し、管内ガスを雰囲気ガスに置換する。
【0087】
ステップ(S61)では、雰囲気炉11へ搬送中の金属管Wの搬送位置が検出される。ステップ(S61)は、ステップ(S21)と実質的に同様の作業で実行することができる。
ステップ(S62)では、ステップ(S61)で検出された金属管Wの搬送位置について、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出しているかを判断される。
ステップ(S62)において、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出していないと判断された場合(S62;no)、ステップ(S61)が実行され、一方、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出していると判断された場合(S62;yes)、ステップ(S71)及びステップ(S72)が実行される。
【0088】
ステップ(S62)で金属管Wの他端部が置換室311から抜け出していると判断された場合、雰囲気炉11の炉内と置換室311とが金属管Wの内部を介して連通した状態が解消されて、金属管Wには置換室311による吸引作用が働かなくなっており、パージ処理の終了の条件が満たされる。
そして、パージ処理の終了の条件が満たされたことにより、パージ処理を終了するべく、ステップ(S71)及びステップ(S72)が実行される。
【0089】
ステップ(S71)では、圧力制御システムの制御器16が、パージ装置13の排気装置32を操作し、排気量を減少させる。
ステップ(S72)では、圧力制御システムの制御器16が、雰囲気炉11のガス供給系113を操作し、雰囲気ガスの供給量を減量させる。
ステップ(S81)では、圧力制御システムによる圧力制御が通常モードで実行される。つまり、ステップ(S81)では、ステップ(S71)における排気装置32の排気量の減少に応じて、置換室311を負圧状態の圧力P1[Pa]に維持された状態、つまりは常態に復帰させることにより、パージ処理が終了される。
【0090】
パージ処理の終了後は、圧力制御システムによる圧力制御が通常モードで実行されて、置換室311が常態で保持され、上記したステップ(S11)からステップ(S81)を繰り返すことにより、金属管Wへのパージ処理が連続して施される。
また、制御プログラムは、「金属管の搬送を停止」を実行するステップを備えておらず、つまり、金属管の搬送を停止させることなく、搬送を継続しながら、上記したステップ(S11)からステップ(S81)を実行する。
従って、ステップ(S21)及びステップ(S61)の「金属管の搬送位置を検出」については、ステップ(S21)からステップ(S61)までの間、継続して実行するものとすることができる。
【0091】
(9)圧力制御(通常モード)
制御プログラムのステップ(S11)では、圧力制御システムによる圧力制御を通常モードで実行している。
図5は、通常モードの圧力制御の具体例を示すフローチャートである。
通常モードの圧力制御について、
図5を用いて説明する。
【0092】
通常モードの圧力制御は、
置換室311の圧力を検出するステップ(S111)と、
置換室311圧力が負圧状態であるかを判断するステップ(S112)と、
ステップ(S112)の判断に応じて排気装置32の排気量を増大するステップ(S113)と、
置換室311圧力がP0[Pa]であるかを判断するステップ(S114)と、
ステップ(S114)の判断に応じて排気装置32の排気量を調整するステップ(S115)と、
置換室311圧力をP0[Pa]に保持するステップ(S116)と、
を備えている。
【0093】
ステップ(S111)では、置換室311の圧力が検出される。このステップ(S111)の置換室311の圧力の検出は、置換室311の圧力を測定する圧力センサ14からの検出値に基づき実行される。
ステップ(S112)では、ステップ(S111)で検出された置換室311の圧力について、その置換室圧力が負圧状態であるか判断される。ステップ(S112)において、置換室圧力が負圧状態でないと判断された場合(S112;no)、ステップ(S113)が実行され、置換室圧力が負圧状態であると判断された場合(S112;yes)、ステップ(S114)が実行される。
【0094】
ステップ(S113)では、排気装置32が操作され、排気量を増大する。つまり、ステップ(S113)は、ステップ(S112)で置換室圧力が負圧状態でないと判断された場合に、排気装置32による排気量を増大することで、置換室圧力を負圧状態にする。
ステップ(S114)では、置換室圧力がP0であるか判断される。ステップ(S114)において、置換室圧力がP0でないと判断された場合(S114;no)、ステップ(S115)が実行され、置換室圧力がP0であると判断された場合(S114;yes)、ステップ(S116)が実行される。
【0095】
ステップ(S115)では、排気装置32が操作され、排気量を調整する。つまり、ステップ(S115)は、ステップ(S114)で置換室圧力がP0でないと判断された場合に、排気装置32による排気量を増大又は減少させて調整することで、置換室圧力をP0にする。
ステップ(S116)では、排気装置32が適宜操作され、置換室圧力をP0に保持する。つまり、ステップ(S116)は、ステップ(S114)で置換室圧力がP0であると判断された場合に、置換室圧力がP0に保持されるように、排気装置32を適宜操作する。
なお、ステップ(S116)における排気装置32の操作に関し、排気装置32がインバータ装置321と接続されている場合、圧力の微細な変動に応じて排気量を柔軟に調整することができ、圧力のファジィな制御を可能とすることができる。
【0096】
(10)圧力制御(パージモード)
制御プログラムのステップ(S41)では、圧力制御システムによる圧力制御をパージモードで実行している。
図6は、パージモードの圧力制御の具体例を示すフローチャートである。
パージモードの圧力制御について、
図6を用いて説明する。
【0097】
パージモードの圧力制御は、
置換室311の圧力を検出するステップ(S411)と、
置換室311圧力がP1[Pa]であるかを判断するステップ(S412)と、
ステップ(S412)の判断に応じて排気装置32の排気量を調整するステップ(S413)と、
置換室311圧力をP1[Pa]に保持するステップ(S414)と、
を備えている。
【0098】
ステップ(S411)では、置換室311の圧力が検出される。このステップ(S411)の置換室311の圧力の検出は、置換室311の圧力を測定する圧力センサ14からの検出値に基づき実行される。
ステップ(S412)では、置換室圧力がP1であるか判断される。ステップ(S412)において、置換室圧力がP1でないと判断された場合(S412;no)、ステップ(S413)が実行され、置換室圧力がP1であると判断された場合(S412;yes)、ステップ(S414)が実行される。
【0099】
ステップ(S413)では、排気装置32が操作され、排気量を調整する。つまり、ステップ(S413)は、ステップ(S412)で置換室圧力がP1でないと判断された場合に、排気装置32による排気量を増大又は減少させて調整することで、置換室圧力をP1にする。
なお、パージモードの圧力制御において、置換室311は、通常モードで圧力制御された常態で既に負圧状態となっており、また、排気装置32は、制御プログラムのステップ(S31)で既に排気量を増大されている。
よって、パージモードの圧力制御では、置換室圧力を常態のP0からP1へ変更することに主眼が置かれる。
【0100】
ステップ(S414)では、排気装置32が適宜操作され、置換室圧力をP1に保持する。つまり、ステップ(S414)は、ステップ(S412)で置換室圧力がP1であると判断された場合に、置換室圧力がP1に保持されるように、排気装置32を適宜操作する。
なお、ステップ(S414)における排気装置32の操作に関し、排気装置32がインバータ装置321と接続されている場合、圧力の微細な変動に応じて排気量を柔軟に調整することができ、圧力のファジィな制御を可能とすることができる。
【0101】
[2]金属管用ガスパージ方法
本発明の金属管用ガスパージ方法は、炉内が雰囲気ガスで満たされた雰囲気炉を用いて金属管を熱処理するに際し、前記金属管の前記雰囲気炉への搬送の途上に配設されたパージ装置を使用して、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する金属管用ガスパージ方法であって、
前記パージ装置は、内部に設けられた置換室と前記置換室へ前記金属管を出し入れする開口部とを有する装置本体と、前記装置本体と接続されて前記置換室を排気により負圧状態にする排気装置と、を備えており、
前記金属管を、他端部が前記パージ装置の前記置換室に位置したまま、一端部が前記雰囲気炉の炉内に挿入された状態とする第1の工程と、
前記状態とした前記金属管を介して、負圧状態の前記置換室へ前記雰囲気炉の炉内の前記雰囲気ガスを吸引し、前記金属管の管内ガスを前記雰囲気ガスに置換する第2の工程と、を備え、
前記第1の工程及び前記第2の工程を、前記金属管の搬送を停止することなく実行する、ことを特徴とする。
【0102】
金属管用ガスパージ方法は、上記した金属管用熱処理設備10を用いて実施することができる。
すなわち、金属管用ガスパージ方法は、上記の金属管用熱処理設備10を使用した金属管Wの熱処理において、金属管Wの雰囲気炉11への搬送の途上に配設されたパージ装置13により、金属管Wの管内ガスを雰囲気ガスに置換する方法である、ということができる。
【0103】
金属管用ガスパージ方法では、パージ装置が用いられる。
パージ装置は、内部に設けられた置換室と置換室へ金属管を出し入れする開口部とを有する装置本体と、装置本体と接続されて置換室を排気により負圧状態にする排気装置と、を備えている。
このパージ装置に関して、上記の金属管用熱処理設備10が備える上述したパージ装置13と同じものを使用することができる。
よって、ここでは、パージ装置に関する説明を省略する。
【0104】
第1工程は、金属管Wを、他端部がパージ装置13の置換室311に位置したまま、一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入された状態とする工程、である。
具体的に、第1工程において、雰囲気炉11へ搬送中の金属管Wは、その他端部を置換室311に位置させたまま、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入させた状態、つまり、その内部を介して雰囲気炉11の炉内と置換室311とを連通させる状態とする(
図1参照)。
【0105】
パージ装置13において、置換室311は、排気装置32による排気によって負圧状態とされており、この置換室311に位置する金属管Wの他端部には、負圧状態とされた置換室311による吸引作用が働く。
このため、置換室311では、雰囲気炉11の炉内から金属管Wの内部を介して雰囲気ガスが吸引される。
また、上記の制御プログラムにおいて、ステップ(S21)からステップ(S23)は、第1工程に係るステップであり、第1工程は、制御プログラムのステップ(S21)からステップ(S23)により、実行することができる(
図4参照)。
【0106】
第2工程は、他端部を置換室311に位置させたまま、一端部を雰囲気炉11の炉内に挿入させた状態とした金属管Wを介して、負圧状態の置換室311へ雰囲気炉11の炉内の雰囲気ガスを吸引し、金属管Wの管内ガスを雰囲気ガスに置換する工程、である。
具体的に、金属管Wの内部を介して雰囲気炉11の炉内と連通された置換室311は、負圧状態とされていることから、金属管Wの内部を介して雰囲気炉11の炉内の雰囲気ガスを吸引する。
【0107】
雰囲気ガスは、雰囲気炉11の炉内において、金属管Wの一端部から内部へ吸い込まれ、内部を流動し、金属管Wの他端部から置換室311へ吸引されるが、その内部を流動する際、金属管Wの内部の管内ガスを他端部へ向けて圧し出す。
この金属管Wの内部から他端部へ向けて圧し出された管内ガスは、金属管Wの他端部から置換室311、つまりは金属管Wの外部へ吸引される。
【0108】
このため、金属管Wは、内部から管内ガスが抜き取られ、その内部を管内ガスに代わって雰囲気ガスが満たすことにより、管内ガスが雰囲気ガスに置換される。
また、上記の制御プログラムにおいて、ステップ(S51)及びステップ(S52)は、第2工程に係るステップであり、第2工程は、制御プログラムのステップ(S51)及びステップ(S52)により、実行することができる(
図4参照)。
【0109】
上述したように、制御プログラムは、「金属管の搬送を停止」を実行するステップを備えていない(
図4参照)。
つまり、金属管用ガスパージ方法において、第1の工程及び第2の工程は、金属管Wの搬送を停止することなく実行される。
このため、第1の工程及び第2の工程の実行時に、金属管Wの搬送を停止するという時間的ロスが生じることを抑えることができ、金属管Wの単位時間当たりの処理数の増加を図ることができるため、生産効率の向上を図ることができる。
【0110】
金属管用ガスパージ方法において、負圧状態の置換室311の圧力は、金属管Wの内径D[m]及び長さL[m]に基づき算出される配管抵抗値PT[Pa]に応じて変えることができる。
配管抵抗値PT[Pa]は、金属管Wが直管である場合、金属管Wの内径D[m]及び長さL[m]に基づき、下記の式(1)を用いて算出することができる。
PT=λ×(L/D)×〔(ρ×V2)/2〕 ・・・(1)
但し、式(1)において、λは管摩擦係数、ρはガスの流体密度[kg/m3]、Vはガスの流速[m/sec]を示すものとする。
また、ガスとは、パージされる管内ガスであり、その管内ガスは、主に空気であるから、管摩擦係数λと流体密度ρは、管内ガス(空気)に応じた定数となる。
なお、ガスの流速Vは、上述の式(2)を用いて算出することができる。
【0111】
具体的に、負圧状態の置換室311の圧力は、通常モードの圧力P0[Pa]に関し、金属管Wの内部でガスを好適に流動させることができる観点から、金属管Wの配管抵抗値PT[Pa]以上(PT≦P0)とすることができる。
また、パージモードの圧力P1[Pa]は、圧力P0[Pa]よりも大きいことから、圧力P0が配管抵抗値PT以上であれば、当然、圧力P1は配管抵抗値PT以上とすることができる。
【0112】
金属管用ガスパージ方法において、金属管Wの一端部が雰囲気炉11の炉内に挿入された時点を開始時として、金属管Wの他端部が置換室311から抜け出した時点を終了時とする金属管Wの滞留時間T1[sec]は、金属管Wの管内ガスを雰囲気ガスに置換するのに要するパージ時間T0[sec]以上(T0≦T1)とすることができる。
滞留時間T1[sec]は、搬入装置12による金属管Wの搬送速度に応じて定めることができ、通常、搬送速度は、雰囲気炉11における金属管Wの熱処理に要する時間に応じて、一定速となるように設定される。
パージ時間T0[sec]は、上述の式(6)から、置換室311の圧力Pと、金属管Wの長さLに応じた値となり、置換室311の圧力を制御することによって調整することができる。
【0113】
金属管用ガスパージ方法において、通常時は、置換室311を負圧状態で圧力P0[Pa]に維持し、第2の工程の実行時は、置換室311を、通常時よりも大きな負圧状態で圧力P1[Pa](P0<P1)に維持することができる。
すなわち、上述した圧力制御システムを用い、常態の置換室311を、通常モードの圧力制御により圧力P0に維持し、第2の工程の実行時、つまりパージ処理時には、置換室311を、パージモードの圧力制御により圧力P1に維持することができる。
なお、上記の制御プログラムにおいて、ステップ(S11)は、置換室311を負圧状態で圧力P0[Pa]に維持するのに係るステップであり、ステップ(S41)は、置換室311を負圧状態で圧力P1[Pa]に維持するのに係るステップである。
【0114】
金属管用ガスパージ方法において、第2の工程の実行時は、雰囲気炉11の炉内への雰囲気ガスの供給量を増量することができる。
すなわち、第2の工程の実行時(パージ処理時)は、パージに使用された分、雰囲気炉11の炉内の雰囲気ガスが減量するため、雰囲気ガスの供給量を増量することにより、その減量分を補填することができる。
なお、上記の制御プログラムにおいて、ステップ(S32)は、雰囲気炉11の炉内への雰囲気ガスの供給量を増量するのに係るステップである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、雰囲気炉で熱処理が施される金属管に対して、雰囲気炉への搬送中に管内ガスを雰囲気ガスに置換するパージ処理を施すことができ、特に搬送を停めることなく、金属管を搬送しながらパージ処理を施すことができるため、雰囲気炉に搬入されて熱処理される金属管の単位時間当たりの処理数の増加を図ることができるから、生産効率の向上を図る観点で有用である。
【符号の説明】
【0116】
W;金属管、
10;金属管用熱処理設備、
11;雰囲気炉、111;入口、112;搬送機構、113;ガス供給系、
12;搬入装置、
13;パージ装置、31;装置本体、32;排気装置、311;置換室、312;開口部、313;排気路、314;側壁、314A,314B;分割壁、321;インバータ装置、
14;圧力センサ、
15A;第1位置センサ、15B;第2位置センサ、
16;制御器。