(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167739
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】気体分離膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20241127BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241127BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241127BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20241127BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20241127BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/52
B01D71/64
B01D71/70 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084013
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】栗原 将人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MA31
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC46X
4D006MC48
4D006MC58X
4D006MC65X
4D006NA03
4D006NA46
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB62
4D006PB63
(57)【要約】
【課題】優れた気体透過性及び強度を有する気体分離膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】気体分離膜は、気体分離層と気体分離層を支持する多孔質層を有する。気体分離層が、有機高分子からなるナノファイバーと、気体分離性能を有する多孔性高分子を含む。多孔性高分子が、固有ミクロ多孔性重合体、ポリトリメチルシリルプロピン及びポリイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する。気体分離層の厚みが、0.2μm以上5.0μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体分離層と前記気体分離層を支持する多孔質層を有する気体分離膜であって、
前記気体分離層が、有機高分子からなるナノファイバーと、気体分離性能を有する多孔性高分子を含み、
前記多孔性高分子が、固有ミクロ多孔性重合体、ポリトリメチルシリルプロピン及びポリイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、
前記気体分離層の厚みが、0.2μm以上5.0μm以下である
ことを特徴とする気体分離膜。
【請求項2】
気体分離層と前記気体分離層を支持する多孔質層を有し、
前記気体分離層が、有機高分子からなるナノファイバーと、気体分離性能を有する多孔性高分子を含み、
前記多孔性高分子が、固有ミクロ多孔性重合体、ポリトリメチルシリルプロピン及びポリイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、
前記気体分離層の厚みが、0.2μm以上5.0μm以下である
気体分離膜を製造する方法であって、
前記多孔質層上に形成された有機高分子からなるナノファイバーを含むナノファイバー層に、気体分離性能を有する多孔性高分子と溶媒を含む塗工液を塗布して前記塗工液を前記ナノファイバー層に含浸させ、しかる後、前記塗工液から前記溶媒を除去する
ことを特徴とする気体分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記塗工液の前記ナノファイバー層に対する接触角が、前記塗工液の前記多孔質層に対する接触角よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記塗工液の前記ナノファイバー層に対する接触角が、90°未満であることを特徴とする請求項3に記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜及びその製造方法に係り、さらに詳細には、優れた気体透過性及び強度を有する気体分離膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1は、優れたガス透過性と共に優れたガス分離選択性を示し、高温、高圧且つ高湿条件下で使用してもガス分離性能に優れ、さらに天然ガス中に存在するトルエン等の不純物成分の影響も受けにくいガス分離膜を開示している。特許文献1に開示されたガス分離膜は、架橋セルロース樹脂を含有してなるガス分離層を有するガス分離膜であって、架橋構造中に所定の連結構造を有し、ガス分離層が所定量の有機溶媒を含有している。また、特許文献1に開示されたガス分離膜においては、ガス分離層がセルロースナノファイバーを含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の実施例32に開示されているように、ガス分離膜は架橋セルロース樹脂を含有してなるガス分離層を有すると共に架橋構造中に所定の連結構造を有し、ガス分離層が所定量の有機溶媒を含有すると共にセルロースナノファイバーを含有しているため、ガス分離層の厚みが40μmのように厚いものとなっている。その結果、ガス分離層にセルロースナノファイバーを含有させても、気体透過性の向上効果が十分に発揮されていないという問題点があった。また、本発明者らが、ガス分離層の多孔性高分子について更に検討した結果、セルロース樹脂を含む気体分離膜の気体透過性が低いことが分かった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、優れた気体透過性及び強度を有する気体分離膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、所定の気体分離層の厚みを0.2μm以上5.0μm以下にすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の気体分離膜は、気体分離層と気体分離層を支持する多孔質層を有する。
気体分離層が、有機高分子からなるナノファイバーと、気体分離性能を有する多孔性高分子を含む。
多孔性高分子が、固有ミクロ多孔性重合体、ポリトリメチルシリルプロピン及びポリイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する。
気体分離層の厚みが、0.2μm以上5.0μm以下である。
【0008】
また、本発明の気体分離膜の製造方法は、気体分離層と気体分離層を支持する多孔質層を有し、気体分離層が有機高分子からなるナノファイバーと気体分離性能を有する多孔性高分子を含み、多孔性高分子が固有ミクロ多孔性重合体、ポリトリメチルシリルプロピン及びポリイミドからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有し、気体分離層の厚みが0.2μm以上5.0μm以下である気体分離膜を製造する方法である。
この製造方法において、多孔質層上に形成された有機高分子からなるナノファイバーを含むナノファイバー層に、気体分離性能を有する多孔性高分子と溶媒を含む塗工液を塗布して塗工液をナノファイバー層に含浸させ、しかる後、塗工液から溶媒を除去する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上述の気体分離層の厚みを0.2μm以上5.0μm以下にしたため、優れた気体透過性及び強度を有する気体分離膜及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の気体分離膜の第1実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】第2実施形態の気体分離膜を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の気体分離膜の製造方法の一実施形態を模式的に示す説明図である。
【
図4】気体分離膜の評価を行うために用いたステンレス製の気体分離膜モジュールの様子を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の気体分離膜及び気体分離膜の製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
[気体分離膜]
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の気体分離膜1は、気体分離層10と、気体分離層10を支持する不織布で形成された多孔質層20を有している。そして、この気体分離層10の厚みが、0.2μm以上0.5μm以下である。また、この気体分離層10が、有機高分子からなるナノファイバーと、気体分離性能を有する多孔性高分子としての固有ミクロ多孔性重合体(polymers of intrinsic microporosity:PIM)を含む(図示せず)。
【0013】
ここで、本発明においては、気体分離層10は、2種以上の成分を含む混合ガスから1種以上の成分を含むガスを分離する層である。気体分離層10は、例えば、酸素(O2)と窒素(N2)を含む空気からO2を分離する層や、二酸化炭素(CO2)や水蒸気(H2O)を含む空気からCO2又は水蒸気(H2O)を分離する層として適用することができる。
【0014】
また、本発明においては、多孔質層20は、気体分離層10を支持し、気体分離層10で分離された気体の透過性を担保できれば、その構造は不織布で形成されたものに特に限定されない。
【0015】
さらに、本発明において、気体分離層10の厚みは、多孔質層20の表面20aと接している面(部分)から、気体分離層10の表面10aまでの距離とする。
【0016】
本発明において、気体分離層の厚みは、次の要領で、測定・算出できる。まず、気体分離膜の任意の位置において、気体分離膜を厚み方向に沿って切断する。次いで、得られた切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等で観察し、必要に応じて、更にエネルギー分散型X繊分光法(EDS)、X繊光電子分光法(XPS)又はフーリエ変換赤外分光分析法(FT-IR)で観察し、多孔質層の表面と接している部分から、気体分離層の表面までの距離を任意の5カ所で測定する。しかる後、それら5カ所の距離の平均値を算出して、気体分離層の厚みとする。
【0017】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、上述の気体分離層の厚みが0.2μm以上5.0μm以下であるため、優れた気体透過性及び強度を実現できる。
【0018】
例えば、多孔性高分子がセルロースからなるものである場合、優れた気体透過性を実現できない。これに対して、多孔性高分子が上述した固有ミクロ多孔性重合体(PIM)や、ポリトリメチルシリルプロピン(PTMSP)、ポリイミドからなるものである場合、程度の差はあるものの、優れた気体透過性を実現できる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
また、気体分離層の厚みが0.2μm未満である場合、優れた強度を実現できない。一方、気体分離層の厚みが5.0μm超である場合、優れた気体透過性を実現できない。さらに、より優れた気体透過性及び強度を実現できるという観点からは、気体分離層の厚みが0.5μm以上であることが好ましく、4.0μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましい。
【0020】
また、
図2~
図4は、本発明の気体分離膜及びその製造方法の実施形態等を説明する図である。なお、以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同じ構成部位に同一符号を付して詳細な発明を省略する。
【0021】
(第2実施形態)
図2に示すように、本実施形態の気体分離膜2は、気体分離層10が有機高分子からなるナノファイバーと気体分離性能を有する多孔性高分子を含む気体分離内側層11と、気体分離性能を有する多孔性高分子のみを含む気体分離表側層12を有すること以外は、第1実施形態の気体分離膜1と同様の構造を有している。なお、気体分離内側層11と気体分離表側層12に含まれる気体分離性能を有する多孔性高分子の組成等は、同一であってもよく、異なってもよい。
【0022】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、気体分離層10が上述の気体分離内側層11と気体分離表側層12を有するため、第1実施形態の利点に加えて、気体選択性を向上させることができるという利点がある。
【0023】
以下、上述した実施形態の気体分離膜における構成要素の仕様、材質等について更に詳細に説明する。
【0024】
(気体分離層10)
多孔性高分子の好適例としては、PIM-1等の固有ミクロ多孔性重合体(PIM)や、芳香族ポリイミド、フッ素含有ポリイミド等のポリイミドを挙げることができる。その中でも、PIM-1を用いることがより好ましい。なお、PIM-1は、例えば、下記の式(I)で表わされる構成単位を有している。
【0025】
【0026】
上記の式(I)中、R1は、水素原子又は直鎖若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基であり、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又はシアノ基であり、R3は、水素原子、直鎖若しくは分岐状の炭素数1~4のアルキル基、又はシアノ基である。同一の構成単位中の複数のR1、R2及びR3は、それぞれ同一であっても異なってもよい。
【0027】
式(I)で示すように、PIM-1は剛直な梯子型構造及び折れ曲がり骨格を有し、層内部に微細孔を形成することができる高分子である。そのため、PIM-1を含む気体分離層10は、優れた気体透過性を有する。
【0028】
ナノファイバーを形成する有機高分子の好適例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂を挙げることができる。その中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることがより好ましい。
【0029】
また、ナノファイバーの平均繊維径は、通常500nm以下であり、より優れた気体透過性及び強度を実現できるという観点からは、ナノファイバーの平均繊維径は、1~100nmであることが好ましく、5~80nmであることがより好ましく、10~50nmであることが好ましい。さらに、このようなナノファイバーは、不織布を形成していることが好ましい。
【0030】
ここで、本発明において、ナノファイバーの平均繊維径は、次の要領で、測定・算出できる。まず、気体分離膜の任意の位置において、気体分離膜を厚み方向に沿って切断する。次いで、得られた切断面をSEMやTEM等で観察し、必要に応じて、更にEDSやXPSで観察し、ナノファイバーの繊維の軸方向に対して垂直な方向の幅を繊維径として任意の5カ所で測定する。しかる後、それらの繊維径の平均値を算出して、ナノファイバーの平均繊維径とする。
【0031】
(多孔質層20)
多孔質層を形成する材料としては、有機材料、無機材料のいずれを用いることも可能であるが、有機材料を用いることが好ましい。有機材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂を用いることが好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることがより好ましい。
【0032】
多孔質層の厚みは、高い機械的強度を付与するという観点からは、1μm以上3000μm以下であることが好ましく、5μm以上500μm以下であることがより好ましく、5μm以上200μm以下であることが更に好ましい。
【0033】
ここで、本発明において、多孔質層の厚みは、次の要領で、測定・算出できる。まず、気体分離膜の任意の位置において、気体分離膜を厚み方向に沿って切断する。次いで、得られた切断面をSEMやTEM等で観察し、必要に応じて、更にEDS、XPS又はFT-IRで観察し、多孔質層の表面20aから裏面20bまでの距離を任意の5カ所で測定する(
図1等参照)。しかる後、それら5カ所の距離の平均値を算出して、多孔質層の厚みとする。
【0034】
[気体分離膜の製造方法]
本実施形態の気体分離膜の製造方法は、上述した本発明の気体分離膜を製造する方法の一実施形態である。
【0035】
まず、
図3の上側図に示すように、多孔質層20上にナノファイバー層30が形成された基材を準備する。このような基材は、例えば、ラミネート加工により、上述した多孔質層20上にナノファイバー層30を積層して得ることができる。
【0036】
なお、このようなナノファイバー層30としては、例えば、上述したナノファイバーを含む不織布を利用することができる。ナノファイバー層の厚みは、優れた強度を実現できるという観点からは、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。また、ナノファイバー層の厚みは、優れた気体透過性を実現できるという観点からは、5.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることが更に好ましい。不織布の目付量は、例えば、0.8~1.2g/m2であることが好ましい。
【0037】
また、後述する塗工液40のナノファイバー層30に対する接触角を、塗工液40の多孔質層20に対する接触角よりも小さくすることが好ましい。さらに、後述する塗工液のナノファイバー層に対する接触角を90°未満とすることが好ましい。
【0038】
ここで、本発明において、塗工液のナノファイバー層や多孔質層に対する接触角は、次の要領で、測定・算出できる。日本工業規格 基板ガラス表面のぬれ性試験方法(JIS R 3257)に準拠して、ナノファイバー層や多孔質層の表面に後述する塗工液を滴下し、θ/2法により、測定・算出する。
【0039】
次いで、
図3の中央図に示すように、例えば、ナノファイバー層30に供給された塗工液40を加圧しないダイコーターなどの塗工装置60により、上述したナノファイバー層30に塗工液40を塗布し、塗工液40をナノファイバー層30に含浸させて、塗工液含浸層50を形成する。
【0040】
なお、塗工液40は、図示しない上述した多孔性高分子と溶媒を含む。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、イソプロピルアルコール、テトラリンを用いることができる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。例えば、PIM-1やポリイミドに適用する溶媒としては、PIM-1やポリイミドの溶解性が高い観点からは、テトラヒドロフラン(THF)が好適である。
【0041】
また、図中の矢印Aは塗工装置60の進行方向を示している。塗工装置60としては、ダイコーターに代えて、グラビアロールを有するグラビアコーターを利用することもできる。
【0042】
しかる後、
図3の下側図に示すように、上述した塗工液含浸層50に含浸された塗工液40から溶媒を除去して、必要に応じて、ナノファイバー層30への塗工液40の含浸、塗工液含浸層50に含浸された塗工液40から溶媒の除去を繰り返して、上述した本実施形態の気体分離膜を得る。
【0043】
なお、塗工液含浸層50からの塗工液40の除去は、例えば、大気雰囲気中、10℃以上40℃以下で1時間以上8時間以下乾燥すればよい。
【0044】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、ナノファイバー層に供給された塗工液を加圧してしまうこととなる塗工装置(例えば、ロールコーター、バーコーター)でなく、塗工液を加圧しないダイコーターやグラビアコーターなどの塗工装置を用いてナノファイバー層に塗工液を塗布すると、優れた気体透過性及び強度を有する気体分離膜を歩留まり良く得ることができる。特に、塗工液のナノファイバー層に対する接触角を塗工液の多孔質層に対する接触角よりも小さくするや塗工液のナノファイバー層に対する接触角を90°未満とすることにより、ナノファイバー層にのみ塗工液が浸透し、下地の多孔質層に塗工液が浸入しないので、ナノファイバー層の厚みによって気体分離層の厚みを制御することができる。また、気体分離層にナノファイバー層が含まれるので、優れた強度を実現できる。さらに、下地の多孔質層に多孔性高分子が殆ど含まれないので、優れた気体透過性を実現できる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、各実施例及び比較例は、特に限定しない限り、大気圧雰囲気下、室温(25℃)、相対湿度50%RHで行った。
【0046】
(実施例1)
第1塗工工程において、多孔質層(材質:PET、形状:不織布、厚み:100μm)上にナノファイバー層(材質:PVDF、形状:ナノファイバー不織布、ナノファイバーの平均繊維径:50nm、目付量:0.59g/m2)が積層形成された基材のナノファイバー層に、塗工液(多孔性高分子(材質:PIM-1(式(I)中のR1はメチル基、R2はシアノ基、R3は水素原子である。)、重量平均分子量(Mw)=3.1×105、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=5.4)、溶媒(材質:THF)、多孔性高分子の濃度:4質量%)をグラビアロールを備えたグラビアコーター(版・線数:150L/inch)を用いて塗工した。
【0047】
次いで、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、ナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、未塗工のナノファイバー層を有する気体分離層を形成した。
【0048】
さらに、第2塗工工程において、未塗工のナノファイバー層に、同様の塗工液を同様のグラビアコーターを用いて塗工した。
【0049】
しかる後、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、未塗工のナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、気体分離層を形成して、本例の気体分離膜を得た。
【0050】
(実施例2~実施例8)
ナノファイバー層の目付量及び気体分離層の厚みを表1に示すように替えたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、各例の気体分離膜を得た。
【0051】
(実施例9)
第1塗工工程において、多孔質層(材質:PET、形状:不織布、厚み:100μm)上にナノファイバー層(材質:PVDF、形状:ナノファイバー不織布、ナノファイバーの平均繊維径:50nm)が積層形成された基材のナノファイバー層に、塗工液(多孔性高分子(材質:PTMSP、重量平均分子量(Mw)=5.4×105、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=6.13)、溶媒(材質:THF)、多孔性高分子の濃度:4質量%)をグラビアロールを備えたグラビアコーター(版・線数:150L/inch)を用いて塗工した。
【0052】
次いで、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、ナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、未塗工のナノファイバー層を有する気体分離層を形成した。
【0053】
さらに、第2塗工工程において、未塗工のナノファイバー層に、同様の塗工液を同様のグラビアコーターを用いて塗工した。
【0054】
しかる後、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、未塗工のナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、気体分離層を形成して、本例の気体分離膜を得た。
【0055】
(実施例10)
さらに、実施例9の気体分離層に同様の塗工液を同様のグラビアコーターを用いて塗工し、しかる後、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、気体分離層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、表1に示す厚みの気体分離層を形成したこと以外は、実施例9と同様の操作を繰り返して、本例の気体分離膜を得た。
【0056】
(実施例11)
塗工液における多孔性高分子をポリイミド(6FDA-3MPA、数平均分子量(Mn)=2.5×105、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=1.7)に替えたこと以外は、実施例10と同様の操作を繰り返して、本例の気体分離膜を得た。
【0057】
(実施例12)
塗工液における多孔性高分子をポリイミド(6FDA-3MPA、数平均分子量(Mn)=2.5×105、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=1.7)に替えたこと以外は、実施例9と同様の操作を繰り返して、本例の気体分離膜を得た。
【0058】
(比較例1)
ナノファイバー層の目付量及び気体分離層の厚みを表1に示すように替えたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の気体分離膜を得た。
【0059】
(比較例2)
第1塗工工程において、多孔質層(材質:PET、形状:不織布、厚み:100μm)上にナノファイバー層(材質:PVDF、形状:ナノファイバー不織布、ナノファイバーの平均繊維径:50nm)が積層形成された基材のナノファイバー層に、塗工液(多孔性高分子(材質:PIM-1(式(I)中のR1はメチル基、R2はシアノ基、R3は水素原子である。)、重量平均分子量(Mw)=3.1×105、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=5.4)、溶媒(材質:THF)、多孔性高分子の濃度:4質量%)をグラビアロールを備えたグラビアコーター(版・線数:150L/inch)を用いて塗工した。
【0060】
次いで、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、ナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、未塗工のナノファイバー層を有する気体分離層を形成した。
【0061】
さらに、第2塗工工程において、未塗工のナノファイバー層に、同様の塗工液を同様のグラビアコーターを用いて塗工した。
【0062】
しかる後、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、未塗工のナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、気体分離層を形成した。
【0063】
さらに、上記気体分離層に同様の塗工液を同様のグラビアコーターを用いて塗工し、しかる後、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、気体分離層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、この塗工・乾燥を繰り返して、本例の気体分離膜を得た。
【0064】
(比較例3)
第1塗工工程において、多孔質層(材質:PET、形状:不織布、厚み:100μm)上にナノファイバー層(材質:PVDF、形状:ナノファイバー不織布、ナノファイバーの平均繊維径:50nm)が積層形成された基材のナノファイバー層に、塗工液(多孔性高分子(セルロース(酢酸セルロース(商品名:L-70、株式会社ダイセル製、酢化度:0.55)(酢化度は、単位重量当たりの結合酢酸の重量百分率を意味する。)))、溶媒(材質:THF)、多孔性高分子の濃度:4質量%)をグラビアロールを備えたグラビアコーター(版・線数:150L/inch)を用いて塗工した。
【0065】
次いで、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、ナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、未塗工のナノファイバー層を有する気体分離層を形成した。
【0066】
さらに、第2塗工工程において、未塗工のナノファイバー層に、同様の塗工液を同様のグラビアコーターを用いて塗工した。
【0067】
しかる後、ドラフト内で、室温(25℃)下で4時間乾燥させて、未塗工のナノファイバー層に塗工された塗工液から溶媒を除去し、気体分離層を形成して、本例の気体分離膜を得た。上記各例の仕様の一部を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1中において、「ナノファイバー層の目付量」は、ナノファイバー不織布の1m2の重さを測定し、算出した。「気体分離層の厚み」は、気体分離膜の任意の位置において、気体分離膜を厚み方向に沿って切断する。次いで、得られた切断面をSEMやTEM等で観察し、必要に応じて、更にEDS、XPS又はFT-IRで観察し、多孔質層の表面と接している部分から、気体分離層の表面までの距離を任意の5カ所で測定した。しかる後、それら5カ所の距離の平均値を算出して、気体分離層の厚みとした。また、表1には示さないが、各例において、塗工液のナノファイバー層に対する接触角及び塗工液の多孔質層に対する接触角をθ/2法により測定・算出した。これにより、塗工液のナノファイバー層に対する接触角(54°)が塗工液の多孔質層に対する接触角(80°)よりも小さいこと及び塗工液のナノファイバー層に対する接触角が80°であり、90°未満であることを確認した。
【0070】
[性能評価]
透過性試験としては、上記各例の気体分離膜について、N2透過性測定(1回目)、次いで、O2透過性測定(1回目)、しかる後、N2透過性測定(2回目)をこの順序で行った。1回目のN2透過性測定で得られた透過性を気体分離膜のN2透過性とした。得られた結果を表1に併記する。また、1回目のN2透過性測定で得られた透過性を気体分離膜の「N2透過性1」とした。以下同様である。
【0071】
また、次の式(1)で得られた透過性の増加率を強度の指標とした。得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の「強度」における「A」は増加率が3%以下であることを示し、「B」は増加率が10%以下であることを示し、「C」は増加率が10%超であることを示す。
増加率(%)=|N2透過性1-N2透過性2|/N2透過性2×100 ・・・(1)
【0072】
上記各例の気体分離膜の「N
2透過性」、「O
2透過性」及び「O
2/N
2選択性」は次の要領で、測定・算出した。具体的には、
図4の左側図及び右側図に示すステンレス製の気体分離膜モジュール71を用いて差圧法に基づいて気体分離膜の評価を行った。より具体的には、
図4の左側図に示すように、実施例及び比較例で作製した気体分離膜から切り出したサンプル73を、気体分離膜モジュール71のガスの供給側75と透過側77との間に固定した。その後、
図4の左側図に示すように、ガスの供給側75の入口75Aを閉じ、透過側77の出口77Aを真空装置に接続して真空引きして、気体分離膜モジュール71内を真空とした。その後、
図4の右側図に示すように、入口75Aから供給側75に(所定量の)ガス(N
2、O
2及びその混合ガス)を供給し、(ガス供給後、入口75A及び出口77Aを閉じた状態で)透過側77との圧力差が無くなるまでの時間を測定することで、N
2、O
2の透過速度及び透過性(透過係数)を算出した。選択性=(O
2の透過係数)/(N
2の透過係数)から選択性(無単位(-))を算出し、気体の透過係数を透過性(単位(GPU):1GPU=3.35×10
-10mol・m
-2・s
-1・Pa
-1)とした。
【0073】
なお、混合ガスの成分組成は、通常の空気と同じであり、N2:79体積%、O2:21体積%である。また、供給側と透過側の圧力(又は圧力差)は、供給側75と透過側77の内部に設けた圧力計で継続的に測定した。さらに、真空と判定する際の内圧は、0.1MPa(以下)とした。
【0074】
より具体的には、下記の式(2)~(4)を用いて、N2、O2の透過速度及び透過性(透過係数)とこれに基づく選択性を算出した。
【0075】
透過側の時間経過による圧力差は下記の式(2)により求められる。
圧力差:dP/dt=(Pe-Ps)/t ・・・(2)
ここで、式(2)中のPeは透過側の0kPa到達時の圧力、Psは透過側の測定開始時の圧力、tは0kPa到達時間を示す。
【0076】
ガスの透過速度は、下記の式(3)により求められる。
透過速度:q=V/RT・dP/dt ・・・(3)
ここで、式(3)中のVは透過体積、Rはモル気体定数、Tは実験中の絶対温度、dP/dtは式(2)で求めた圧力差を示す。なお、実験中の温度は25℃である。
【0077】
透過係数は、下記の式(4)により求められる。
透過係数:P/δ=q/Ph/A ・・・(4)
ここで、式(4)中のqは透過速度、Phは供給側のガス供給時の圧力、Aは気体分離層の有効面積、Pは透過係数(Pa)、δは気体分離層の厚み(μm)を示す。
【0078】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1~実施例12は、本発明外の比較例1~比較例3と比較して、優れた気体透過性及び強度を有することが分かる。具体的には、実施例1~実施例12は、10GPU以上、好ましくは100GPU以上のN2透過性を示すと共に、膜の微細な損傷に伴うN2透過性の増加率が10%以下に抑制されている。また、膜の微細な損傷が抑制されることにより、優れた気体選択性も実現できる。
【0079】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0080】
本発明においては、優れた気体透過性及び強度を有する気体分離膜及びその製造方法を提供すべく、上述の気体分離層の厚みが0.2μm以上5.0μm以下である構成としたことを骨子とする。
【0081】
従って、例えば、上述した構成要素は、各実施形態や実施例に示した構成に限定されるものではなく、気体分離層、多孔質層などの仕様や材質の細部を変更することや、一の実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と入れ替えて又は組み合わせて適用することも可能である。