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特開2024-167758定着ローラ、定着装置、画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167758
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】定着ローラ、定着装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084045
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】向山 泉
(72)【発明者】
【氏名】前田 誠亮
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA02
2H033AA09
2H033AA14
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB12
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB29
2H033BB30
2H033BE00
(57)【要約】
【課題】スポンジローラにて好適な定着性を得る。
【解決手段】定着ローラとしての上加圧ローラ51は、外側に凹凸形状を有するスポンジ層60で凹凸形状を形成するスポンジセル63のセル直径Lに対する表層61の表層膜厚dの比率をバランスさせて最適化する。これにより、表層61は、外表面64にスポンジ層60の凹凸形状による起伏を残存させることができる表層膜厚dとなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に形成されたトナー画像を記録媒体に定着させる定着装置に設けられた定着ローラにおいて、
回転軸の周囲に配置され、外側に凹凸形状を有するスポンジ層と、前記スポンジ層の外側を覆う表層と、
を備える定着ローラ。
【請求項2】
前記表層は、外表面に前記凹凸形状による起伏を残存させる厚みを有する、
請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項3】
前記スポンジ層の凹凸形状を形成するスポンジセルのセル直径Lに対する前記表層の表層膜厚dの比率が1/15<d/L<1/3である、
請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項4】
前記表層の表層膜厚dは、1<d<12(μm)である、
請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項5】
前記表層の表層膜厚dは、3<d<10(μm)、である、
請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項6】
前記スポンジ層は、オルガノポリシロキサンスポンジを有する、
請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項7】
前記表層は、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、の少なくとも何れか一つまたは、これらの混合物で構成された樹脂材料である、
請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項8】
定着ベルトと、
前記定着ベルトを軸支して、少なくとも一つが請求項1から7のいずれか一項に記載の定着ローラである二つ以上のローラと、
前記定着ベルトを加熱する加熱装置と、
前記定着ローラのうち少なくとも一つを上加圧ローラとして、前記定着ベルトを介して前記上加圧ローラに押圧される下加圧ローラと、を含む定着装置。
【請求項9】
前記上加圧ローラのローラ径は、50mm以上100mm以下である、
請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
記録媒体上にトナー画像を形成する画像形成部と、
前記記録媒体を加熱および加圧して前記トナー画像を前記記録媒体に定着させる請求項8に記載の定着装置と、を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ローラ、定着装置、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複合機などの電子写真方式の画像処理装置には、未定着のトナー画像を加熱および加圧によって紙などの記録媒体に定着させる定着装置が備えられている。定着装置は、加熱されたベルトを回転により送る上加圧ローラと、上加圧ローラに付勢されて、この上加圧ローラとの間に記録媒体を通過させる下加圧ローラと、を有している。
上加圧ローラには、所定の径方向厚み寸法を有する発泡弾性層の外側にフッ素樹脂表層を設けて被覆しているものがある。例えば特許文献1では、発泡弾性層を発泡シリコーンゴムで構成する場合、フッ素樹脂表層の厚みを10μmから100μmとして、上加圧ローラの耐久性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-141383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
定着装置は、省エネ対応として、低熱容量を達成するためにソリッドゴムローラを用いるものから、スポンジローラを使うものに変化している。スポンジローラは、低熱容量を達成することにより、高断熱でエネルギ効率を良好なものとすることができる。また、スポンジローラは、ローラ本体の外表面に設けられた凹凸形状によるタック性(摩擦)を利用して記録媒体の搬送性を向上させることができる。
【0005】
スポンジローラ本体の外表面は、下加圧ローラに付勢されて圧縮され、密着性が高すぎてしまう場合、過剰な熱がかかりホットオフセット状態となる。このような状態では、上加圧ローラの回転に必要なトルクが上昇して、上加圧ローラを回転駆動させるモータに負荷がかかり、エネルギロスを増大させてしまう。スポンジローラは更に、タック性を重視するために密着性が高すぎると離型性が低下して、トナーの定着性にも悪影響を及ぼしていた。
【0006】
本発明の定着ローラ、定着装置、画像形成装置は、このような背景を鑑みてなされたものである。すなわち、スポンジローラにて好適な定着性を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、下記の構成により解決される。
(1)記録媒体上に形成されたトナー画像を記録媒体に定着させる定着装置に設けられた定着ローラである。定着ローラは、回転軸の周囲に配置され、外側に凹凸形状を有するスポンジ層と、前記スポンジ層の外側を覆う表層と、を備える定着ローラ。
【0008】
(2)前記表層は、外表面に前記凹凸形状による起伏を残存させる厚みを有する、(1)に記載の定着ローラ。
【0009】
(3)前記スポンジ層の凹凸形状を形成するスポンジセルのセル直径Lに対する前記表層の表層膜厚dの比率が1/15<d/L<1/3である、(1)に記載の定着ローラ。
【0010】
(4)前記表層の表層膜厚dは、1<d<12(μm)である、(1)に記載の定着ローラ。
【0011】
(5)前記表層の表層膜厚dは、3<d<10(μm)、である、(1)に記載の定着ローラ。
【0012】
(6)前記スポンジ層は、オルガノポリシロキサンスポンジを有する、(1)に記載の定着ローラ。
【0013】
(7)前記表層は、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、の少なくとも何れか一つまたは、これらの混合物で構成された樹脂材料である、(1)に記載の定着ローラ。
【0014】
(8)定着装置は、定着ベルトと、前記定着ベルトを軸支して、少なくとも一つが(1)から(7)のうちいずれか一つに記載の定着ローラである二つ以上のローラと、前記定着ベルトを加熱する加熱装置と、を含む。また、定着装置は、前記定着ローラのうち少なくとも一つを上加圧ローラとして、前記定着ベルトを介して前記上加圧ローラに押圧される下加圧ローラを含む。
【0015】
(9)前記上加圧ローラのローラ径は、50mm以上100mm以下である、(8)に記載の定着装置。
【0016】
(10)画像形成装置は、記録媒体上にトナー画像を形成する画像形成部と、前記記録媒体を加熱および加圧して前記トナー画像を前記記録媒体に定着させる、(8)に記載の定着装置と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スポンジローラにて好適な定着性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る定着装置の構成図である。
図2】本実施形態に係る定着装置を備えた画像形成装置の全体構成図である。
図3】本実施形態の定着装置で、上加圧ローラのスポンジ層と表層との関係を説明する断面図である。
図4】横軸に定着ローラのセル直径に対する表層膜厚の比率を示し、縦軸のうち上グラフは密着性、下グラフは定着性を示すグラフである。
図5】セル直径に対する表層膜厚の比率が1/3で、厚みを定着範囲内とした定着ローラの断面図である。
図6】セル直径に対する表層膜厚の比率が1/15で、厚みが定着範囲内である定着ローラの断面図である。
図7】定着ローラでセル直径に対する表層膜厚の比率1/3で、厚みが定着範囲を超えている定着ローラの断面図である。
図8】上定着ローラでセル直径に対する表層膜厚の比率が1/4で、厚みが定着範囲に満たない定着ローラの断面図である。
図9】比較例の定着ローラで凹凸形状の無い平らなスポンジ層に凹凸形状を有する表層を形成しようとした場合を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[画像形成装置の構成]
以下、本発明を実施するための形態について各図を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る定着装置5の構成図である。また、図2は、定着装置5を備えた画像形成装置1の全体構成図である。まず、画像形成装置1の構成を図1図2とを用いて説明する。
【0020】
画像形成装置1は、電子写真プロセス技術を利用した中間転写方式を採用する。図2に示すように画像形成装置1は、主に、原稿などの複製対象物から画像を読み取る画像読取部11と、操作パネル12からの操作信号に基づき各構成部を制御する制御部および記憶部(図示せず)と、を備える。制御部は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等を備える。CPUは、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムと、ストレージ等の記憶部に記憶された各種データと、を協働させて画像形成装置1の各構成部を制御する。
【0021】
また、画像形成装置1は、画像読取部11で読み取られた入力画像データからトナー画像を形成する画像形成部13と、紙などの記録媒体Pを搬送する搬送部14と、搬送された記録媒体Pのトナー画像を加圧および加熱して定着させる定着装置5等と、を備える。
【0022】
このうち、画像読取部11は、ADF(Automatic document feeder)装置及びスキャナ装置を備える。ADF装置は、原稿トレイに載置された1枚以上の原稿を搬送機構により搬送してスキャナ装置へ送り出す。
スキャナ装置は、ADF装置から搬送された原稿、またはコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査する。スキャナ装置は、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサの受光面上に結像させて読み取り、入力画像データを生成する。
【0023】
画像形成部13は、画像読取部11から送られてくる入力画像データに対して、初期設定またはユーザ設定に応じたデジタル画像処理を行う。例えば、画像形成部13は、記憶部内の階調補正データ(例えば、階調補正テーブルLUT)に基づいて階調補正を行う。画像形成部13は、入力画像データに対して、階調補正の他、色補正、シェーディング補正等の各種補正処理や、圧縮処理等を実行する。
【0024】
画像形成部13は、入力画像データに基づいて、Y(イエロー)成分、M(マゼンタ)成分、C(シアン)成分、K(ブラック)成分の各有色トナーによる転写をそれぞれ行う。このうち、Y成分の画像形成部13は、露光装置21Y、現像装置22Y、感光体ドラム23Y、帯電装置24Y、及びドラムクリーニング装置25Y等を有している。
【0025】
各成分の露光装置21Y等は、半導体レーザで構成されていて各感光体ドラム23Y等に対してそれぞれの色成分の画像に対応するレーザ光を照射する。感光体ドラム23Yの電荷発生層で発生した正電荷は表面まで輸送されて表面電荷(負電荷)にて中和される。感光体ドラム23Yの表面には、周囲との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。
現像装置22Yは、感光体ドラム23Yの表面に各色成分のトナーを付着させることによりトナー像を形成する。トナー像は、静電潜像を可視化して形成される。
画像形成部13では、他のM成分、C成分、K成分についてもY成分と同様に露光装置等が設けられている。このため、画像形成部13のうち他のM成分、C成分、K成分の構成の説明を省略する。
【0026】
そして、画像形成部13は、各感光体ドラム23Y,23M,23C,23K上に形成されたY成分、M成分、C成分、K成分の各色のトナー像を無端状の中間転写ベルト2にそれぞれ一次転写する。画像形成装置1は、複数の搬送ローラにより搬送される中間転写ベルト2の上で4色のトナー像を順次転写して重ね合わせる。そして、重ね合わせられたトナー像は、給紙トレーユニット4から搬送部14により搬送された記録媒体Pの上に二次転写されてトナー画像となる。
【0027】
搬送部14では、複数のガイドローラを有する搬送路15により、給紙トレーユニット4内にストックされた記録媒体Pが定着装置5まで搬送される。定着装置5は、記録媒体Pの上のトナー画像を加熱および加圧して記録媒体Pに定着させる。そして、トナー画像を定着させた記録媒体Pは、搬送路15によって画像形成装置1の外部に搬出される。
【0028】
[定着装置の構成]
実施形態の定着装置5は、ベルト加熱方式であり中間転写ベルト2の下流側に配置されている。図1に示すように定着装置5は、記録媒体Pのトナー像が形成される定着面側(ここでは上側)の定着面側部材である無端状の定着ベルト54と、定着ベルト54を周囲に設けた加熱ローラ53と、備える。また、定着装置5は、定着ローラ50として上加圧ローラ51および下加圧ローラ52と、備える。
【0029】
このうち、上加圧ローラ51は、図示しないモータによって駆動される駆動ローラである。上加圧ローラ51は、加熱ローラ53とともに定着ベルト54を駆動する。定着ベルト54は、加熱ローラ53内の加熱装置(ヒータ)55により加熱されている。
下加圧ローラ52は、上加圧ローラ51に向けて付勢される加圧ローラであり、記録媒体Pの裏面(定着面の反対の面)側に配置される裏面側支持部材を有する。実施形態の上加圧ローラ51のローラ直径は、60mmに設定されている。また、下加圧ローラ52のローラ直径は、60mmに設定されている。
【0030】
そして、定着ベルト54の定着面側部材と下加圧ローラ52の裏面側支持部材とは、記録媒体Pを加熱および加圧しつつ挟持して搬送する定着ニップを形成している。
定着装置5は、搬送部14の搬送路15に沿って搬送された記録媒体Pを加熱および加圧する圧接された記録媒体Pは、面状の広い範囲で加熱される。これにより、定着装置5は、中間転写ベルト2から記録媒体Pの上に重ねられて二次転写されたトナー像を記録媒体Pに定着させることができる。なお、これに限られず、定着装置5は、ローラ加熱方式で構成されていてもよい。
【0031】
[上加圧ローラ]
図3は、実施形態の上加圧ローラ51を構成するスポンジ層60と表層61との関係を説明する断面図である。
上加圧ローラ51は、回転軸62(図1参照)の周囲に配置され、外側(表層61側の側面)に凹凸形状を有するスポンジ層60と、スポンジ層60の外側を覆う表層61と、備えている。表層61は、フッ素樹脂で形成されており、脆いスポンジローラ本体の弾性層を保護する。
【0032】
このうち、スポンジ層60は、オルガノポリシロキサンスポンジを有している。
スポンジ層60は、複数の気泡状のスポンジセル63を内在させている。スポンジ層60は、外側の表面(表層61側の面。以下外側と記す)にこれらのスポンジセル63の一部または全部が切り欠かれた状態でほぼ均等に分布している。これにより、スポンジ層60の外側は、上下方向(スポンジ層60の厚み方向、または上加圧ローラ51の径方向)で外側表面からの高さ寸法が交互に異なる凹凸を全面に形成している。
【0033】
また、表層61は、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、の少なくとも何れか一つまたは、これらの混合物で構成された樹脂材料である。表層61は、外表面64にスポンジ層60の外側に形成されている凹凸形状による起伏を残存させる厚みを有している。実施形態の表層61の表層膜厚dは、1<d<12(μm)、好ましくは、3<d<10(μm)となるように設定されている。表層61の表層膜厚dが薄すぎると、摺動摩擦に対して十分な耐久性が得られない。そして、表層61の表層膜厚dが厚すぎると、表面硬度が高くなり弾性層の弾性による密着性の向上効果が減少してしまう。そのため、好適な耐久性と密着性を得るため、表層膜厚dが設定されている。
【0034】
ここで、スポンジ層60に形成された各スポンジセル63の直径の平均値をLとする。そして、複数のスポンジセル63は、スポンジ層60の外側の凹凸形状を形成する。
また、表層61の表層膜厚dは、スポンジ層60の外側との接続面と、最外側面である外表面64と、の間の厚さとする。
【0035】
そして、本実施形態において、上加圧ローラ51のセル直径Lに対する表層膜厚dの比率は、1/15<d/L<1/3となるように設定されている。この際、表層31は、スポンジ層60の外側形状に追従してなぞるように外側に接着される。このため、スポンジ層60の凹凸形状は、消失することなく、表層61の外表面に凹凸形状の起伏を残存させることができる。
そして、本実施形態の表層61は、柔軟性を有する。このため、スポンジ層60の弾性による密着性の向上効果が損なわれず搬送性も良好である。さらに離型性および定着性が良好な状態でバランスする。このため、本実施形態の定着ローラによれば、トナー画像の定着品質を向上させることができる。
【0036】
また、表層61は、スポンジ層60の外側に設けられる際、全面を覆うように形成される。このため、スポンジ層60のスポンジセル63の直径の平均値をLとしたセルにより、外側の表面に形成された凹凸の大小に拘わらず、スポンジ層60の耐久性を向上させることができる。
さらに、スポンジ層60の表面積は、複数のスポンジセルが切り欠かれて形成された凹凸形状によって平坦な場合と比べて広い。このため、表層61は、平坦な場合と比較して、広い面積でかつ、左右方向での接続も含めて立体的にスポンジ層60に接続される。したがって、表層61は、薄く形成されていても擦り減って破れる虞が減少する。例えば、表層膜厚dが1μmを超えていれば、十分な耐久性が得られる。
【0037】
このように、実施形態の上加圧ローラ51は、シリコーン樹脂等にて構成された表層61がスポンジ層60の外側の凹凸形状を外表面64に残存させている。このため、本実施形態の上加圧ローラ51は、スポンジ層60のみの場合のように、ホットオフセットとなる虞が無い。
そして、表層61が、シリコーン樹脂等によってスポンジ層60の外側に形成されることにより、上加圧ローラ51の離型性を向上させることができる。このため、定着装置5が記録媒体Pを所望の状態で加熱および加圧することが可能となり、トナー画像の記録媒体Pへの定着性が確保される。したがって、実施形態の上加圧ローラ51は、トナーの定着品質を向上させることができる。
【0038】
さらに、シリコーン樹脂等にて構成されている表層61は、柔軟性を有している。また、表層61は、径方向に加えて周方向に対しても立体的にスポンジ層60と接続されている。これにより、スポンジ層60の外側の凹凸形状のうち凸部に支持されている表層61部分は、上加圧ローラ51の回転に伴う摩擦力で傾倒する凸部とともに周方向へ変形可能である。このため、表層61の外表面64にスポンジ層60の凸部形状が残存している部分は、撓み変形可能な大きさが、平面状に接続される場合(図8参照)と比して大きい。したがって、表層61は、耐久性を向上させるために比較的厚く形成されていても、所望の柔軟性が与えられて好適な密着性を有している。例えば、表層膜厚dとして10μmを超えていても12μm未満であれば、所望の密着性を得られる。
【0039】
たとえば、表層膜厚dの下限値が1μmを超えていれば、スポンジ層60の凹凸形状が表層61とともに弾性変形して、表層61との接着を維持することができる。したがって、表層膜厚dの下限値が1μmを超えていれば、十分な耐久性が得られる。
また、たとえば、表層膜厚dとして10μmを超えていても12μm未満であればよい。すなわち、柔軟性を有する表層61が弾性変形可能なスポンジ層60のうち、さらに柔軟性を有する凸状部分に接続支持されている。
このため、表層膜厚dは、凹凸形状がない平坦なスポンジ層(図8参照)の外側に設ける場合と比して所望の弾性をスポンジ層60の凹凸形状および表層61の弾性により得られて密着性が良好である。
よって、実施形態の上加圧ローラ51は、外側に凹凸形状を有するスポンジ層60の外側を覆う表層61の表層膜厚dの範囲を、凹凸形状がないスポンジ層の外側に設ける場合と比して広い範囲とすることができる。したがって、上加圧ローラ51は、トナー画像の定着に用いる定着ローラ50として好適である。
【0040】
[測定方法]
以下に図5図9において説明する各例の上加圧ローラ151,上加圧ローラ251,上加圧ローラ351,上加圧ローラ451および上加圧ローラ551について、次の測定方法で表層膜厚d(μm)およびセル直径Lを測定した。なお、権利侵害を立証する際、以下の測定方法と同様の測定方法を用いてもよい。
【0041】
第一の測定方法では、まず画像形成装置1の定着装置5に設けられた上加圧ローラ51(図3)を取り外して軸方向に沿ってまたは、軸方向と直交する方向に沿って表層61およびスポンジ層60を切断する。次に切断された断面を、断面写真として撮影する。そして撮影された断面写真は、分析されて表層膜厚d(μm)およびセル直径Lの寸法を測定する。さらに複数の測定結果の平均値を求めて測定精度を向上させてもよい。
【0042】
第二の測定方法では、切断された表層61およびスポンジ層60の断面をSEM(Scanning Electron Microscope:電子顕微鏡)観察して膜厚を測定する。
第三の測定方法では、上加圧ローラ51のスポンジ層60の外側に存在して表面の凹凸形状を形成するスポンジセル63の直径をレーザ顕微鏡により測定する。次に測定結果からSa(算術平均高さ)を算出する。
【0043】
[定着性の評価]
たとえば、図1に示す回転軸62の外周にセル径が4μmからなる厚み15mmのスポンジ層60となるシリコーンスポンジ弾性層を形成する。そして、シリコーン樹脂溶液を乾燥後の厚みが2μmになるように塗布し加硫形成してスポンジ層60の外側の凹凸形状を覆う表層61を有する定着ローラ50を作成した。
ここでは、フルカラープロダクションプリンター「Accurio Press c3070」(コニカミノルタ株式会社製)を画像形成装置1として内部の定着装置5に、作製した定着ローラ50を装着した。
また、記録媒体Pとしての紙は、A4のグロスコート紙(紙厚:140μm、坪量:128g/平方メートル)を用いた。まず、紙の上にシアンベタ画像が出力される。そして、トナー画像として定着されたシアンベタ画像を目視観察した。例えば、目視観察により下記の基準に従って定着性の評価を行うことができる。
評価I:シアンベタ画像に定着不良による欠陥が認められない。
評価II:微細な定着欠陥が散見するが、実用上問題ないレベル。
評価III:シアンベタ画像に、定着不良による明らかな欠陥が認められる。
評価IV:形成トナー画像の分離ができないため、定着性を評価できない、と評価I~IVごとに観察結果を分類した。
【0044】
図4は、図5図8に示す各例の上加圧ローラ151,251,351,451について密着性および定着性の可否を示している。各例は、セル直径Lに対する表層膜厚dの比率であるd/Lと表層61の表層膜厚dの寸法を相違させている。
【0045】
このうち、図4中の上側のグラフは、密着性の可否、下側のグラフは、定着性の可否について示している。そして、図4は、各例が所望の性能を発揮できる範囲b内(主に評価I,または評価II)であるか、または、それ以外の範囲a(主に評価IV),または範囲c(主に評価III)となることを示している。
【0046】
図5に示す上加圧ローラ151は、セル直径L1が6μmに、表層膜厚d1が2μmに設定されている。このため、d/Lの比率は、d1/L1=1/3である。また、表層膜厚d1の2μmは、好ましい表層膜厚dの範囲3<d<10(μm)には入らないが、所定の表層膜厚dの範囲1<d<12(μm)には入っている。
このため、図5に示す上加圧ローラ151は、図4では、密着性、定着性について良好で所定の範囲bの中に位置する。したがって、上加圧ローラ151は、所望の定着ローラとしての性能を発揮できることが分かる。
【0047】
図6に示す上加圧ローラ251は、セル直径L2が30μm、表層膜厚d2が2μmに設定されている。このため、d/Lの比率は、d2/L2=1/15である。また、表層膜厚d2は、3μmより小さいが1μmより大きい。このため、上加圧ローラ251は、図4では、密着性、定着性について所望の範囲bの中に位置する。
したがって、上加圧ローラ251は、所望の定着ローラとしての性能を発揮できることが分かる。
【0048】
図7に示す上加圧ローラ351は、セル直径L3が30μm、表層膜厚d3が10μmに設定されている。このため、d/Lの比率は、d3/L3=1/3であり、範囲bと範囲cとの境界線を越えている。また、表層膜厚d3の10μmは、基準となるd=10μmを超えている。
このため、上加圧ローラ351は、図4では、密着性、定着性について所望の範囲bを逸脱して範囲cの中に位置する。したがって、範囲cの中の上加圧ローラ351は、所望の定着ローラとしての性能を発揮できないことが分かる。
【0049】
図8に示す上加圧ローラ451は、セル直径L4が4μmに、表層膜厚d4が1μmに設定されている。このため、d/Lの比率は、d3/L3=1/4であり、セル直径Lに対する表層膜厚dの比率は、基準となる1/15<d/L<1/3の範囲内である。しかしながら、表層膜厚d4の1μmは、基準となる表層膜厚dの1<d<12(μm)より小さい。
このため、上加圧ローラ451は、図4では、密着性、定着性について所望の範囲b外の範囲aの中に位置する。したがって、上加圧ローラ451は、密着性が高いが、耐久性が低い。このため、所望の定着ローラとしての性能を発揮できないことが分かる。
【0050】
図9に示す比較例の上加圧ローラ551は、スポンジ層560の外側に凹凸形状がなく平坦である。このため、スポンジ層560の凹凸形状を利用して表層561の外表面564に凹凸の起伏を残存させることができない。
これに対して、図3に示す実施形態の定着ローラ50は、スポンジ層60の凹凸形状を表層膜厚dが均一な薄膜状の表層61で覆っている。これにより、スポンジ層60の凹凸形状の弾性による密着性の向上効果が阻害されにくく、少ない回転エネルギで定着ローラ50を回転させて搬送性を向上させることができる。
【0051】
また、図9に示す比較例の上加圧ローラ551は、外表面564に凹凸形状を有する表層561を形成しても、特に凸となる部分の表層膜厚d5は増大して表面硬度が高くなる。このため、比較例の上加圧ローラ551は、スポンジ層60の弾性が効果的に外表面564に伝えられず、さらにタック性(摩擦)が失われて所望の定着ローラとしての性能を発揮できないことが分かる。
【0052】
上述してきたように、実施形態の定着ローラ50、定着装置5および、画像形成装置1は、スポンジセル63のセル直径Lに対する表層61の表層膜厚dの比率をバランスさせて最適化する。すなわち、スポンジ層60を覆う表層61の表層膜厚dは、スポンジ層60の外側(表層61側)に形成された凹凸形状を考慮して設定される。
したがって、スポンジ層60の凹凸形状の弾性による密着性の向上効果を表層61の外表面64に及ぼすことができる。
【0053】
たとえば、表層膜厚dの厚さは、スポンジ層60の外側に複数のスポンジセル63によって形成された凹凸形状に対して所定の比率の範囲内となるように設定する。
これにより、表層61は、外表面64にスポンジ層60の凹凸形状による起伏が残存して、良好な密着性を得られる。
【0054】
すなわち、定着ローラ50、定着装置5および、画像形成装置1は、耐久性、搬送性が良好で離型性と定着性とをバランスさせてトナーの定着品質を向上させることができる、といった実用上有益な作用効果を発揮する。
たとえば、図4に示すように、上加圧ローラ51は、セル直径Lに対する表層膜厚dの比率を1/15<d/L<1/3の範囲bとしている。これにより、図3に示すように、表層膜厚dは、スポンジ層60の凹凸形状が外表面64から外側に向けて複数隆起する凹凸形状として残存させることができる。
【0055】
また、表層61の表層膜厚dは、1<d<12(μm)であり、好ましくは、3<d<10(μm)、に設定される。
これにより、スポンジセル63により外側に凹凸形状を有する脆いスポンジ層60であっても、薄膜状の表層61に覆われて保護される。
【0056】
さらに、スポンジ層60としてオルガノポリシロキサンスポンジを用いてもよい。また、表層61は、シリコーン樹脂(レジン系を含む)に限らず、フッ素樹脂(PFA系を含む)表層により形成してもよい。表層61を形成する方法としては、スポンジ層60の外側に霧状のフッ素樹脂を噴霧して硬化させてもよく、チューブ状のフッ素樹脂をスポンジ層60に被せてもよい。すなわち、表層61を形成しても、スポンジ層60の凹凸形状を外表面64に凹凸形状として残存させることができれば、どのような表層61の形成方法であってもよい。
【0057】
また、シリコーン樹脂(レジン系を含む)に限らず、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂など硬化後も柔軟性を有する少なくとも何れか一つまたは、これらの混合物で構成された樹脂材料であってもよい。
シリコーン樹脂にて表層61を構成する場合、表層膜厚dが薄すぎる(例えば3μm未満)と、摺動摩擦に対して十分な耐久性が得られない。そして、シリコーン樹脂表層は、表層膜厚dが厚すぎる(例えば10μmより大きい)と表面硬度が高くなり弾性層の弾性による密着性の向上効果が減少してしまう。このため、同様に上記他のポリアミドイミド等によって表層61を構成する場合、表層膜厚dは、材質の硬度、靭性および柔軟性によって適宜調整されていてもよい。
【0058】
このように、実施形態の定着ローラ(上加圧ローラ51)、定着装置5、および画像形成装置1は、耐久性、搬送性が良好である。また、上加圧ローラ51は、離型性と定着性とが比較的広い範囲でバランスして両立し、トナー画像の記録媒体Pへの定着品質を向上させることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態やその変形例について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他のさまざまな実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0060】
例えば、実施形態では、定着ローラ50として二つの上加圧ローラ51および下加圧ローラ52を備えている。しかしながら、定着ベルト54を軸支するローラは、三つ以上であってもよい。すなわち、少なくとも一つが定着ローラ50であればよく、さらに下加圧ローラ52が実施形態の上加圧ローラ51と同様に構成されていてもよい。
【0061】
また、実施形態では、上加圧ローラ51のローラ直径を60mmとしたものを示して説明したが、特にこれに限らない。例えば、定着ローラ50は、ローラ直径が50mm以上100mm未満であってもよい。
【0062】
さらに実施形態では、スポンジ層60がオルガノポリシロキサンスポンジであるものを示して説明してきた。しかしながら、特にこれに限らない。例えば、スポンジ層60として海綿動物等を加工した天然スポンジ、またはポリウレタン等の他の合成樹脂などの素材を発泡・固化させて作られた合成スポンジであってもよく、素材が限定されるものではない。すなわち、スポンジ層60として用いられるスポンジは、複数の気泡状のスポンジセル63を内在させているものであればよい。
【符号の説明】
【0063】
1 画像形成装置
5 定着装置
50 定着ローラ
51 上加圧ローラ
60 スポンジ層
61 表層
P 記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9