(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167766
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法およびガラス溶融装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/027 20060101AFI20241127BHJP
C03B 5/235 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C03B5/027
C03B5/235
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084068
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】深田 睦
(72)【発明者】
【氏名】田中 大輔
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AD01
4G014AD04
4G014AF00
(57)【要約】
【課題】溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスの温度変動が生じるのを確実に抑制する。
【解決手段】ガラス物品の製造方法は、溶融炉2内でガラス原料Grを加熱溶融して溶融ガラスGmを生成する溶融工程を備える。溶融炉2は、溶融炉2内の所定領域に配置された電極群EGを備える。電極群EGは、複数の電極6で組をなす電極組7を備える。溶融工程では、電極群EGで溶融ガラスGmに通電される電流I
0が目標値となるように定電流制御するとともに、電極組7で溶融ガラスGmに通電される電流I
1,I
2,I
3が目標値となるように定電流制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記溶融炉は、前記溶融炉内の所定領域に配置された電極群を備え、
前記電極群は、複数の電極で組をなす電極組を備え、
前記溶融工程では、前記電極群で前記溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御するとともに、前記電極組で前記溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記溶融炉は、前記電極群を定電流制御する群制御装置と、前記電極組を定電流制御する組制御装置とを備える請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記群制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲が、前記組制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲よりも大きい請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記組制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲が、200V以下である請求項3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記群制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲が、1200V以下である請求項3又は4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融炉を備えるガラス溶融装置であって、
前記溶融炉は、前記溶融炉内の所定領域に配置された電極群を備え、
前記電極群は、複数の電極で組をなす電極組を備え、
前記溶融炉は、前記電極群で前記溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御する群制御装置と、前記電極組で前記溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御する組制御装置とをさらに備えることを特徴とするガラス溶融装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法およびガラス溶融装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や板ガラスなどのガラス物品の製造方法には、溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程が含まれる。溶融工程では、例えば、溶融ガラスに浸漬された電極による通電加熱により、ガラス原料を溶融して溶融ガラスを得る場合がある。
【0003】
電極による通電加熱を用いる場合、溶融炉内の所定領域に配置された複数の電極を含む電極群が、定電力制御されることがある(例えば、特許文献1を参照)。定電力制御では、電極群に供給される電力が所定電力に維持されるように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融炉の外的変動の影響を受け、溶融炉内の溶融ガラスの温度は大きく変動する場合がある。溶融炉の外的変動としては、例えば、溶融炉内に投入したガラス原料の粒度、流量、カレット率、温度の変動の他に、外気温の変動などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、電極群を定電力制御する場合、電極群に供給される電力は略一定であるため、発生可能な熱量も略一定である。そのため、溶融炉の外的変動により溶融ガラスの温度が大きく変動すると、得られるガラス物品で泡等の欠陥が増加する場合や、溶融ガラスの温度を早期に変動前の所望の温度に戻すのが困難になる場合がある。
【0007】
本発明は、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスの温度変動が生じるのを確実に抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、溶融炉内でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融工程を備えるガラス物品の製造方法であって、溶融炉は、溶融炉内の所定領域に配置された電極群を備え、電極群は、複数の電極で組をなす電極組を備え、溶融工程では、電極群で溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御すると共に、電極組で溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御することを特徴とする。
【0009】
溶融ガラスの電気抵抗は、溶融ガラスの温度が上昇すれば減少し、溶融ガラスの温度が低下すれば増大する温度依存性がある。そのため、電極群および電極組を定電流制御すれば、溶融ガラスの温度が低下して溶融ガラスの電気抵抗が増大した場合には、電流が流れにくくなるため、一定の電流を流すために電圧が上昇する。その結果、供給される電力が増加し、溶融ガラスの温度低下を早期に解消することができる。一方、溶融ガラスの温度が上昇して溶融ガラスの電気抵抗が減少した場合には、電流が流れやすくなるため、一定の電流を流すために電圧が減少する。その結果、供給される電力が減少し、溶融ガラスの温度上昇を早期に解消することができる。
【0010】
(2) 上記(1)の構成において、溶融炉は、電極群を定電流制御する群制御装置と、電極組を定電流制御する組制御装置とを備えることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、電極群に専用の群制御装置が設けられるため、電極群で溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御しやすくなる。同様に、電極組に専用の組制御装置が設けられるため、電極組で溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御しやすくなる。
【0012】
(3) 上記(2)の構成において、群制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲が、組制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲よりも大きいことが好ましい。
【0013】
通常、群制御装置は相対的に高圧側、組制御装置は相対的に低圧側に配置されることになるため、群制御装置の電圧調整範囲を組制御装置の電圧調整範囲よりも大きくする方が、電極群および電極組のそれぞれを効率よく定電流制御しやすくなる。その結果、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスに生じる温度変動をさらに小さくでき、温度変動をより確実に抑制できる。
【0014】
(4) 上記(3)の構成において、組制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲が、200V以下であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、組制御装置を小型化しつつ、電極組を定電流制御しやすくなる。また、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスに生じる温度変動をさらに小さくでき、温度変動をより確実に抑制できる。
【0016】
(5) 上記(3)又は(4)の構成において、群制御装置における定電流制御時の電圧調整範囲が、1200V以下であることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、群制御装置を小型化しつつ、電極群を定電流制御しやすくなる。また、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスに生じる温度変動をさらに小さくでき、温度変動をより確実に抑制できる。
【0018】
(6) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融炉を備えるガラス溶融装置であって、溶融炉は、溶融炉内の所定領域に配置された電極群を備え、電極群は、複数の電極で組をなす電極組を備え、溶融炉は、電極群で溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御する群制御装置と、電極組で溶融ガラスに通電される電流が目標値となるように定電流制御する組制御装置とをさらに備えることを特徴とする。
【0019】
このようにすれば、既に述べた対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスの温度変動が生じるのを確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造装置に含まれるガラス溶融装置を示す断面図である。
【
図3】一つの電極群周辺を拡大して示す拡大図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造装置に含まれるガラス溶融装置における一つの電極群周辺を拡大して示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。また、図中のXYZは直交座標系であり、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。X方向を流れ方向、Y方向を幅方向という場合がある。
【0023】
(第一実施形態)
図1および
図2に示すように、本実施形態に係るガラス物品の製造装置は、ガラス溶融装置1を備える。ガラス溶融装置1は、ガラス原料Grから溶融ガラスGmを形成するための溶融炉2を備える。
【0024】
本製造装置で製造されるガラス物品は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス板(ガラスフィルムを含む)、ガラスロール(巻芯と、巻芯の周りにロール状に巻かれたガラスフィルムとを備えたもの)、ガラス繊維、光学ガラス部品、ガラス管、ガラスブロック等が挙げられる。
【0025】
溶融炉2は、底壁2aと、側壁2bと、天井壁2cとを備え、これらの各構成要素2a~2cで溶融ガラスGmを収容する空間を区画形成する。側壁2bは、上流側に位置する前壁2b1と、下流側に位置する後壁2b2と、これら前壁2b1と後壁2b2とを繋ぐ左壁2b3および右壁2b4とを含む。前壁2b1は、溶融ガラスGmの液面LSよりも上方に投入口3を有する。後壁2b2は、溶融ガラスGmの液面よりも下方に排出口4を有する。
【0026】
投入口3には、ガラス原料Grを投入するためのスクリューフィーダなどの供給機5が設けられている。排出口4には、溶融炉2の下流側に溶融ガラスGmを搬送するための移送管等の移送流路が接続され、溶融炉2から溶融ガラスGmが下流側の工程に順次供給されるようになっている。なお、移送流路およびその下流側の構成は、製造するガラス物品の種類などに応じて適宜変更される。
【0027】
溶融炉2の底壁2aには、複数の棒状の電極6が設けられている。電極6は、棒状に限らず、板状やブロック状であってもよく、これらを組み合わせてもよい。また、電極6は、側壁2b(具体的には左壁2b3および右壁2b4)に設けられてもよく、天井側壁2cから溶融ガラスGmに浸漬されてもよい。電極6は、例えば、モリブデン(Mo)から形成される。電極6は、溶融ガラスGmに浸漬されると共に、溶融ガラスGmを通電加熱してガラス原料Grを溶融する。電極6は、図示は省略するが、冷却機構を備えた筒状の電極ホルダに保持された状態で、底壁2aに設けられた貫通孔内に収容される。電極6の数や配置位置は、溶融炉2の大きさ等に応じて適宜変更できる。なお、本実施形態では、溶融炉2内における溶融ガラスGmの液面LSよりも上方空間において、ガラス原料Grを溶融するためのバーナー等の加熱手段は設けられていない。つまり、本実施形態では、後述する溶融工程において、電極6による通電加熱のみでガラス原料Grを溶融する、いわゆる全電気溶融方式を採用している。
【0028】
供給機5により供給されたガラス原料Grは、電極6による通電加熱により溶融され、溶融ガラスGmが連続的に生成される。溶融ガラスGmの液面LSは、被覆層Gxで覆われている。被覆層Gxは、ガラス原料Grから形成されるバッチ層Gaと、ガラス原料Grの溶融に伴って形成される泡層Gbとを含む。泡層Gbは、ガラス原料Grに起因して炭酸ガス(COやCO
2)、O
2ガス、SO
2ガスなどのガスが発生するのに伴って形成される。このように被覆層Gxで溶融ガラスGmの液面LSを覆うことにより、溶融ガラスGmの放熱を抑制できる。その結果、溶融ガラスGmの温度を確実に保持できるため、省エネルギー化を図ることができる。なお、
図1では、泡層Gbは、溶融炉2の下流側のみに形成された状態を図示しているが、溶融炉2の上流側にも形成されうる。具体的には、例えば、溶融炉2の上流側において、泡層Gbがバッチ層Gaの幅方向Y両側などに形成されうる。また、バッチ層Gaと溶融ガラスGmの液面LSの間にも泡層Gbが形成されうる。なお、泡層Gbは形成されていなくてもよい。
【0029】
ガラス原料Grは、天然原料、化成原料に加えて、カレットを含んでいてもよい。溶融ガラスGmは、高抵抗な無アルカリガラスであることが好ましい。高抵抗な無アルカリガラスとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 12~25%、B2O3 0~12%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2O及びK2Oの合量) 0~1%未満、MgO 0~8%、CaO 0~15%、SrO 0~12%、BaO 0~15%を含有するものが挙げられる。このような無アルカリガラスを用いてガラス板を製造すれば、ディスプレイ用ガラス基板として好適に使用できる。
【0030】
図2に示すように、複数の電極6は、溶融炉2内の所定の領域(所定の電気制御区分)毎に、所定の電極群EGに分けられている。各電極群EGは、複数の電極6で組をなす電極組7を複数備える。本実施形態では、溶融炉2の幅方向Yに2つの電極群EGが設けられ、各電極群EGでは、溶融炉2の幅方向Yに間隔を置いて配置された2本の電極6が、流れ方向Xに間隔を置いて3列配置されている場合を例示する。また、本実施形態では、幅方向Yに対向する一対の電極6同士で、電極組7としての電極対を構成している場合を例示する。なお、電極群EGの配置態様や、各電極群EGに含まれる電極組7の配置態様は、溶融炉2の大きさなどに応じて適宜変更できる。
【0031】
図3に示すように、溶融炉2は、電極群EGで溶融ガラスGmに通電される電流が所定の第一目標値T1となるように定電流制御する群制御装置8と、電極組7で溶融ガラスGmに通電される電流が所定の第二目標値T2となるように定電流制御する組制御装置9とを備える。なお、
図3では、一つの電極群EGと、それに関連する群制御装置8および組制御装置9とを図示している。つまり、電極群EGが複数設けられる場合は、群制御装置8および組制御装置9も、電極群EGの数に応じて別途設けられる。
【0032】
溶融炉2内に設けられる電極群EGの数は、1個以上であることが好ましく、2個以上であることがより好ましく、4個以上であることがさらに好ましい。溶融炉2内に設けられる電極群EGの数は、30個以下であることが好ましく、20個以下であることがより好ましい。一方、一つの電極群EGに含まれる電極組7の数は、1組以上であればよく、2組以上であることが好ましい。一つの電極群EGに含まれる電極組7の数は、20組以下であることが好ましく、10組以下であることがより好ましい。なお、電極群EGの数および一つの電極群EGに含まれる電極組7の数のうちの少なくとも一方は、複数であることが好ましい。換言すれば、電極群EGの数および一つの電極群EGに含まれる電極組7の数のうちの一方が単数の場合、他方は複数であることが好ましい。
【0033】
群制御装置8は、本実施形態では、誘導電圧調整器とタップ切換器付き変圧器とを含む電圧調整装置から構成されており、電流をフィードバックすることによって一定の電流に制御する機能を有する。群制御装置8は、電極群EGで溶融ガラスGmに通電される電流が第一目標値T1となるように定電流制御する装置であれば特に限定されるものではなく、例えば、スライダック、サイリスタなどを含む他の装置で構成されていてもよい。ただし、正弦波出力が要求され、電圧調整が頻繁となる場合に、群制御装置8の長寿命化の観点からは、誘導電圧調整器とタップ切換器付き変圧器とを含む装置を用いることが好ましい。この場合、誘導電圧調整器を高圧側(電源側)、タップ切換器付き変圧器を低圧側(負荷側)に接続することが好ましい。
【0034】
組制御装置9は、本実施形態では、バランシングトランス(Balancing Transformer(BTR))を含む定電流制御装置(変圧器)から構成されている。組制御装置9は、電極組7で溶融ガラスGmに通電される電流が第二目標値T2となるように定電流制御する装置であれば特に限定されない。
【0035】
群制御装置8における定電流制御時の電圧調整範囲VR1は、組制御装置9における定電流制御時の電圧調整範囲VR2よりも大きい。組制御装置9は、群制御装置8の二次側(低圧側)に接続されるため、VR1をVR2よりも大きくした方が、定電流制御時の電圧の調整を幅広い範囲で効率よく行うことができる。その結果、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスに生じる温度変動をさらに小さくでき、温度変動をより確実に抑制できる。
【0036】
群制御装置8における定電流制御時の電圧調整範囲VR1は、1200V以下であることが好ましく、900V以下であることがより好ましく、600V以下であることがさらに好ましい。その下限は例えば100V以上とすることができる。組制御装置9における定電流制御時の電圧調整範囲VR2は、200V以下であることが好ましく、150V以下であることがより好ましく、100V以下であることがさらに好ましい。その下限は例えば25V以上とすることができる。
【0037】
電極組7a,7b,7cの一方側の電極6a,6b,6cのそれぞれは、対応する組制御装置9a,9b,9cの二次巻線の一端uに接続されている。組制御装置9a,9b,9cの二次巻線の他端vのそれぞれは、群制御装置8の二次側の一端uに並列に接続されている。また、電極組7a,7b,7cの他方側の電極6d,6e,6fのそれぞれは、対応する組制御装置9d,9e,9dの二次巻線の一端vに接続されている。組制御装置9d,9e,9dの二次巻線の他端uのそれぞれは、群制御装置8の二次側の他端vに並列に接続されている。
【0038】
一方、組制御装置9aの一次巻線の一端Vは、隣接する組制御装置9bの一次巻線の一端Uに接続されている。組制御装置9bの一次巻線の他端Vは、隣接する組制御装置9cの一次巻線の一端Uに接続されている。組制御装置9cの一次巻線の他端Vは、隣接する組制御装置9fの一次巻線の一端Uに接続されている。組制御装置9fの一次巻線の他端Vは、隣接する組制御装置9eの一次巻線の一端Uに接続されている。組制御装置9eの一次巻線の他端Vは、隣接する組制御装置9dの一次巻線の一端Uに接続されている。そして、組制御装置9dの一次巻線の他端Vは、隣接する組制御装置9aの一次巻線の他端Uに接続されている。つまり、各組制御装置9a~9fの一次巻線は、直列に接続されて一つの閉回路を構成している。
【0039】
なお、群制御装置8の一次側の端子U,V間には、送電線等を通じて高電圧が供給される。
【0040】
次に、本実施形態に係るガラス物品の製造方法を説明する。本方法では、上記のガラス物品の製造装置(ガラス溶融装置1)を用いる。
【0041】
本方法は、溶融ガラスGmに浸漬された電極6による通電加熱により、ガラス原料Grを溶融して溶融ガラスGmを得る溶融工程を含む。
【0042】
図3に示すように、溶融工程では、群制御装置8により電極群EGで溶融ガラスGmに通電される電流I
0が第一目標値T1となるように定電流制御するとともに、組制御装置9a~9fにより電極組7aで溶融ガラスGmに通電される電流I
1~I
3が第二目標値T2となるように定電流制御する。なお、本実施形態では、組制御装置9a~9fは、各電流I
1~I
3が同じ値、すなわち、第二目標値(T2=T1/3)になるように定電流制御を行う。
【0043】
投入口3(上流)側の電極組7a周辺の溶融ガラスGmは、相対的に温度が低く電気抵抗が高い。一方、排出口4(下流)側の電極組7c周辺の溶融ガラスGmは相対的に温度が高く電気抵抗が低い。具体例として、上流の電極組7aの相互間に位置する溶融ガラスGmの電気抵抗が1.1Ω、中流の電極組7bの相互間に位置する溶融ガラスGmの電気抵抗が1.0Ω、下流の電極組7cの相互間に位置する溶融ガラスGmの電気抵抗が0.9Ωであり、組制御装置9a~9fの一次巻線と二次巻線の巻数比(一次巻線の巻数/二次巻線の巻数)がそれぞれ18.3である場合について説明する。
【0044】
まず、組制御装置9a~9fを無視すると、群制御装置8の二次側の端子u,v間に100Vの電圧をかけると、それぞれの電流組7a~7cの相互間に、溶融ガラスGmの電気抵抗に応じた電流が流れる。つまり、上流の電極組7aの相互間に流れる電流I1は90A(=100V/1.1Ω)、中流の電極組7bの相互間に流れる電流I2は100A(=100A/1.0Ω)、下流の電極組7cの相互間に流れる電流I3は110A(=100V/0.9Ω)となる。
【0045】
次に、組制御装置9a~9fを考慮すると、組制御装置9a、9dの二次側に90Aの電流I1が流れると、組制御装置9a,9dの一次側には4.9A(90A/18.3)の電流ILが流れようとする。同様に、組制御装置9b,9eの二次側に100Aの電流I2が流れると、組制御装置9b,9eの一次側には5.5A(100A/18.3)の電流ILが流れようとする。組制御装置9c,9fの二次側に110Aの電流I3が流れると、組制御装置9c,9fの一次側には6.0A(110A/18.3)の電流ILが流れようとする。しかしながら、組制御装置9a~9fの一次側は直列に接続された閉回路であるため、当該閉回路にはこれら電流値の平均値である5.5A(=(4.9A+5.5A+6.0A)/3)が流れる。このように5.5Aの電流ILが流れると、組制御装置9a,9c,9d,9fにおいて、一次側と二次側に発生する磁束の不釣り合いが生じ、組制御装置9a,9c,9d,9fの二次側に磁束の不釣り合いに応じた電圧が発生する。つまり、組制御装置9a,9dには、群制御装置8の二次側の電圧と同じ方向に各5Vの電圧が発生し、組制御装置9c,9fには、群制御装置8の二次側の電圧と逆の方向に各5Vの電圧が発生する。その結果、上流の電極組7aの相互間には110V(=100V+5V×2)の電圧がかかり、中流の電極組7bの相互間には100Vの電圧がかかり、下流の電極組7cの相互間には90V(=100V-5V×2)の電圧がかかる。したがって、上流の電極組7aの相互間に流れる電流I1、中流の電極組7bの相互間に流れる電流I2、および下流の電極組7cの相互間に流れる電流I3は、それぞれ100A(I1=110V/1.1Ω、I2=100V/1.0Ω、I3=90V/0.9Ω)と同じ値に制御される。
【0046】
そして、群制御装置8の二次側の電圧の大きさは、群制御装置8によって、電極群EGで溶融ガラスGmに通電される電流I0が第一目標値T1となるように調整される。したがって、群制御装置8および組制御装置9a~9fによって、電極群EGおよび電極組7a~7cを定電流制御すれば、溶融ガラスGmの温度が低下して溶融ガラスGmの電気抵抗が増大した場合には、電流が流れにくくなるため、一定の電流を流すために電圧が上昇する。その結果、供給される電力が増加し、溶融ガラスGmの温度低下を早期に解消することができる。一方、溶融ガラスGmの温度が上昇して溶融ガラスGmの電気抵抗が減少した場合には、電流が流れやすくなるため、一定の電流を流すために電圧が減少する。その結果、供給される電力が減少し、溶融ガラスGmの温度上昇を早期に解消することができ、得られるガラス物品で泡等の欠陥が増加するのを抑制できる。
【0047】
付言すれば、組制御装置9a~9fのみを設けた場合は、一つの電極群EG内での溶融ガラスGmの温度のばらつきは抑制されるが、電極群EG毎の溶融ガラスGmの温度のばらつきは大きくなる場合がある。一方、群制御装置8および組制御装置9a~9fを設けた場合は、一つの電極群EG内での溶融ガラスGmの温度のばらつきは抑制しつつ、電極群EG毎の溶融ガラスGmの温度のばらつきも抑制できる。したがって、ガラス原料Grの溶融状態が安定し、高品質な溶融ガラスGmを生成できる。
【0048】
例えば、電極群EGで定電力制御を行うとともに、電極組7a~7cで定電流制御を行った状態で溶融炉2を5日間操業したところ、期間内の溶融ガラスGmの最高温度と最低温度の差が20℃を超え、5℃を上回る温度変動の発生回数が13回となった。一方、本実施形態のように電極群EGで定電流制御を行うとともに、電極組7a~7cで定電流制御を行った状態で溶融炉2を5日間操業したところ、期間内の溶融ガラスGmの最高温度と最低温度の差が10℃以下となり、5℃を上回る温度変動の発生回数が0回となった。この場合、オーバーフローダウンドロー法で得られたディスプレイ用ガラス基板において、泡欠陥の発生を約50%削減できた。
【0049】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態では、ガラス溶融装置1に含まれる溶融炉2の変形例を説明する。
【0050】
図4に示すように、第二実施形態に係る溶融炉2では、一つの電極群EGに含まれる各電極組7a~7cに専用の定電流制御装置21a~21cを直接接続している。具体的には、電極組7a,7b,7cの一方側の電極6a,6b,6cのそれぞれは、対応する定電流制御装置21a,21b,21cの二次巻線の一端uに接続されている。電極組7a,7b,7cの他方側の電極6d,6e,6fのそれぞれは、対応する定電流制御装置21a,21b,21cの二次巻線の一端vに接続されている。つまり、各定電流制御装置21a~21cは、互いに独立しており、各電極組7a~7cで溶融ガラスGmに通電される電流が第二目標値T2となるように定電流制御するようになっている。この場合も、各電極組7a~7cの相互間に流れる電流I
4~I
6は所定の第二目標値T2になるように定電流制御されるため、電極群EG全体に流れる電流の総和(I
4+I
5+I
6)も一定となる。したがって、電極群EGで溶融ガラスGmに通電される電流も第一目標値T1となるように定電流制御されることになる。
【0051】
なお、各定電流制御装置21a~21cの一次側の端子U,V間には、送電線等を通じて高電圧が供給される。
【0052】
定電流制御装置21a~21cとしては、第一実施形態の群制御装置8と同様に、例えば、誘導電圧調整器とタップ切換器付き変圧器とを含む装置、スライダックを含む装置、サイリスタを含む装置などを用いることができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
上記の実施形態では、溶融工程において、電極による通電加熱のみでガラス原料を溶融する全電気溶融方式を用いる場合を説明したが、ガラス原料を溶融するためのバーナー等の加熱手段を電極と併用してもよい。全電気溶融方式では、天井壁2cの温度が低く、溶融炉の外的変動によって溶融炉内の溶融ガラスの温度変動が生じやすい。このため、全電気溶融方式の溶融工程に本発明を適用すれば、溶融ガラスの温度変動を抑制する本発明の効果が顕著となる。
【0055】
上記の実施形態では、電極組を2本の電極で構成する場合を説明したが、電極組は3本以上の電極で構成してもよい。
【0056】
上記の実施形態では、電極組を構成する電極が溶融炉の幅方向に対向する場合を説明したが、電極組を構成する電極は溶融炉の流れ方向に対向していてもよい。あるいは、2組の電極が四角形をなすように配置し、その四角形の対角線に沿って電流が流れるようにしてもよい。2組の電極が一列をなすように配置し、1つ飛ばしで電流が流れるように、換言すると、先頭から順に第一電極から第四電極とした場合に、第一電極と第三電極に電流が流れると共に第二電極と第四電極に電流が流れるようにしてもよい。
【0057】
上記の実施形態では、電極群が溶融炉の幅方向に2つ設けられる場合を説明したが、電極群の配置態様はこれに限定されない。例えば、電極群は、溶融炉内で1つのみ設けられていてもよい。あるいは、電極群は、溶融炉の幅方向に3つ以上、および/又は、溶融炉の流れ方向に2つ以上設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 ガラス溶融装置
2 溶融炉
3 投入口
4 排出口
5 供給機
6 電極
7 電極組
8 群制御装置
9 組制御装置
EG 電極群
Gm 溶融ガラス
Gr ガラス原料
Gx 被覆層
Ga バッチ層
Gb 泡層