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特開2024-16777土砂大量還元工法と半埋没型堰堤、及び土砂撒き出し工法,土砂撒き出し補助工法,濁度軽減工法,軟弱河床地盤の改良工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016777
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】土砂大量還元工法と半埋没型堰堤、及び土砂撒き出し工法,土砂撒き出し補助工法,濁度軽減工法,軟弱河床地盤の改良工法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/18 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
E02B3/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022129110
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】506101805
【氏名又は名称】近藤 正佳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正佳
(57)【要約】
【課題】近年の豪雨は、雨量の局地化と降雨量の極端な増加を招いている。ダムの堆砂対策の遅れが洪水調節機能の低下を招き、甚大な被害をもたらす恐れがある。対策の遅れの要因は近距離の堆砂処分地の確保の困窮がある。
【解決手段】ダム下流河川を工区分けして河床の嵩上げをする土砂大量還元工法である。その方法は新規の河床高,河床勾配の形成基礎となる河川水及び土砂を堰き止める複数の半埋没型堰堤を築造し、ダム貯水池の堆砂を浚渫してダムの側方に設置した圧送装置を装備した土砂中継ホッパーに投入し、さらにそこから排砂管路で各工区に圧送し、半埋没型堰堤の構造で規定される高さ,勾配に合わせて土砂を撒き出すものである。この工法によって、ダム機能及び下流の河川環境を同時に復旧させるという効果をもたらした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの堆砂活用の土砂大量還元工法おいて、ダム下流河川の堆砂大量活用区間を工区分けして河床の嵩上げをするものであるが、その方法は河床勾配が緩和された新規の河床高,河床勾配の形成基礎となる河川水及び土砂を堰き止める複数の半埋没型堰堤を工区境に築造し、ダム貯水池の堆砂を浚渫してダムの側方に設置した圧送装置を装備した土砂中継ホッパーに投入し、さらにそこから排砂管路で各工区に圧送し、複数の半埋没型堰堤の構造で規定される高さ,勾配に合わせて土砂を撒き出すもので、半埋没型堰堤の埋没部分が河床の嵩上げ部分となり、これによりダム下流河川の河床嵩上げによるダムの堆砂活用が図れること、河床のアーマーコート化の解消が図られること、並びに河床勾配の緩和を図ることなどでダム機能及び河川環境の同時復旧を成すことを特徴とするダムの堆砂活用の土砂大量還元工法。
【請求項2】
請求項1の複数の半埋没型堰堤において、当該堰堤の構造は竪壁の中間に水叩き棚を設け、前記堰堤の水叩き棚と次の下流の堰堤の天端を結ぶ緩和を図った縦断勾配をダム堆砂の活用による河床の嵩上げによって新規の河床勾配とすることで、水叩き棚より下の竪壁と底版は当該堰堤の遮水壁の機能を確保してさらに構造の安定性を高め、また、複数の落差工の機能を確保することで、ダム堆砂の大量活用と河床のアーマーコート化の解消と河川の流下エネルギーを低減させることを特徴とする複数の半埋没型堰堤。
【請求項3】
請求項1の土砂撒き出し工法において、前記土砂中継ホッパーから排砂管路を最終工区まで延長し、排砂管路には工区境ごとに工区仕切弁と仕切弁のある複数の土砂吐き出し管を設けて土砂撒き出し排砂管路を形成するもので、撒き出し方法は任意の対象工区を臨機応変に選定し、この工区境までの工区仕切弁を開として下流直後を閉とし、対象工区の土砂吐き出し管の仕切弁を開とすると共に対象工区より上流工区の仕切弁を閉とし、さらに土砂中継ホッパーの中のダム堆積土の土質性状を確認し、これが圧送に不適な含水比ならばこれを調整してから圧送装置を稼動し、前記の任意の対象工区の土砂吐き出し管から土砂を撒き出すことを特徴とする土砂撒き出し工法。
【請求項4】
請求項1の土砂撒き出しの補助工法において、浮体本体の底面から下方に突き出した複数のバイブレーターを装備した浮体式振動撒き出し機を撒き出し土砂に接地させ、複数のバイブレーターを稼動させることで土砂を流動化させて、土砂撒き出し距離を拡大させることを特徴とする土砂撒き出しの補助工法。
【請求項5】
請求項1の土砂撒き出し工法において、各工区に滞留した河川水をポンプアップして土砂中継ホッパーに戻し、土砂圧送に必要な河川水を繰り返し使用することを特徴とする土砂撒き出し工法。
【請求項6】
請求項1の土砂の撒きだし過程で発生する濁水の濁度軽減工法において、当該工法の濁度軽減装置は最終工区の半埋没型堰堤に仕切弁付き排水溝を設けると共に、この堰堤の背面には隙間を空けて取り付けた剛性多孔板に固定した細粒土等の排除用フィルターと、フィルターに吸着した細粒土等を削ぎ落すブレード装置と半埋没型堰堤に支持される剛性枠組みに固定した粗粒土等の排除用の剛性スクリーンから成り、第1段階は粗粒土以上の大きさのものを剛性スクリーンで堰き止め、第2段階はフィルターに張り付いた細粒土等を削ぎ落として堰き止めることで、スクリーン,フィルターの2段階を経て、河川水のみを排水講から下流へ放流することで濁水の影響を軽減することを特徴とする濁水の濁度軽減工法。
【請求項7】
請求項1の細粒土の撒き出しで造成される軟弱河床地盤の改良工法において、前記土砂中継ホッパーで細粒土が確認されて軟弱地盤の発生が予測されたならば、これを軟弱地盤対策工区に圧送してまとめて地盤改良を行うもので、その改良工法の工程は事前に対策工区の現河床地盤面に水平ドレーンシートの敷設とこのドレーンシートに連結する真空経路を設置する工程、次に軟弱土が堆積してから軟弱土の表面を覆う水平ドレーンシート及び気密シートを敷設する工程、次にそれぞれの気水分離タンクを設置してそれぞれの水平ドレーンシートを真空経路で接続する工程、次に気水分離タンクを高真空にする工程を経て、現河床地盤面の水平ドレーンシートと軟弱土の表面を覆う水平ドレーンシートの両面排水とする真空圧密工法を特徴とする軟弱河床地盤の改良工法。
【請求項8】
請求項1の土砂撒き出し工法において、土砂中継ホッパーの中のダム堆積土の土質性状を確認し、ダム下流河川の河床嵩上げを複数層に分け、層別で土砂の河床材料としての土質性状の使い分けを行って新河床地盤の合理的な施工管理をすることを特徴とする土砂撒き出し工法。
【請求項9】
請求項1のダムの堆砂活用の土砂大量還元工法における良質粗粒土の分別工法において、前記土砂中継ホッパーで良質粗粒土が確認されたならば、これを良質粗粒土の貯留工区に圧送し、他の土砂と分別貯留することで良質粗粒土の採取を容易とし、ダムの堆砂をコンクリート骨材等の資源として有効活用することを特徴とする良質粗粒土の分別工法。
【請求項10】
請求項1のダムの堆砂活用の土砂大量還元工法おける海岸線の砂浜後退対策工法において、前記土砂中継ホッパーで砂浜後退対策に適した砂質土が確認されたならば、これを下流河川の土運船発着施設に備えた第2の土砂中継ホッパーまで圧送し、さらに土運船に積替えて養浜海域まで運搬することで、ダムの堆砂を養浜資源として有効活用することを特徴とする砂浜後退対策工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム貯水池の堆砂を下流河川の河床嵩上げと河川環境改善に再利用することで、ダム機能及び河川環境の復旧に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムは、自然環境を大規模かつ人為的に改変するため、環境にあたえる影響が大きい。ダム貯水池の堆砂は古くて新しい社会的課題である。ダムは河水を堰き止めるが、同時に流砂も堰き止め、流砂のサイクルを寸断する。そしてダム貯水池は流入土砂により埋没が進行する。ダムの使用目的は大きく分けて、治水と利水の2つがある。ダムの治水とは主に下流河川の洪水・氾濫対策である。ダム貯水池が流入土砂により埋没することは、治水・利水の機能を損なうばかりでなく、ダム貯水池の低層地盤では堆積土のヘドロ化が起こり、上流河川では河床が上昇して河川氾濫の原因となる。また、下流の河川では土砂の量が減少し、粗い礫で河床が覆われる粗粒化(アーマーコート化)が進み、河川の石に付着した藻類の剥離更新が進まないなど、河川の新陳代謝が低下することが懸念されている。また、河口付近では海岸線の後退といった問題も起きている。
【0003】
ダム貯水池における堆砂問題は、ダムの機能を適切に発揮させる上で重要な課題である。近年、地球温暖化に伴う集中豪雨は、雨量の局地化・集中化と降雨量の極端な増加を招いている。こうした気候変動などにより洪水時の土砂流出量が増加し、ダムの堆砂率が増加傾向にある。治水ダム・多目的ダムにおいては、堆砂が洪水調節機能の低下に直結するので甚大な被害をもたらす恐れがある。
【0004】
下流河川の土砂量の減少対策として土砂還元が実施されるようになった。土砂還元とはダム貯水池に流入した堆砂の一部を浚渫後、ダム下流河道へ運搬して置き土し、洪水と共に置き土した土砂を流下させて下流河川への土砂還元が試みられている。下流河川土砂還元には、(A)ダムから排砂する堆砂対策、(C)土砂の流下による下流河川環境の改善、(B)両者の組合せの3つの目的がある他、(D)恒久的な堆砂対策を実施する前の排砂の影響評価としての役割もある。下流河川土砂還元は、多くの排砂量は期待できないものの、特別な設備を用いることなく実施できる手法であり、調査結果を分析・評価しながら、当初の実施計画を見直すことが容易であるといった柔軟な対応が可能となる。このため、実施目的に応じた置き土方法(地点、量、質、形状)を適切に設定する。土砂還元には、ダムを放流する際に水と共に堆砂を下流河川へ排砂する人工出水の方法もある。このフラッシュ放流と置き土を組み合わることによって効果は高まることが見込まれている。(非特許文献1参照)
【0005】
ダムの堆砂対策で関連してくる問題に軟弱土対策がある。下流河川の土砂還元は、流水の掃流力を利用して運搬,撒き出しする。従って、細粒土は流水と混合され高含水比の超軟弱土となる。このため、土砂還元は、再利用土砂の選別が行われている。
【0006】
現在、飽和粘性土(細粒土)の急速圧密工法として、真空沸騰圧密工法の研究開発が進行している。この原理は、飽和粘土の間隙水に対してその温度を沸点とする飽和蒸気圧まで減圧すると沸騰し、その結果急速な圧密現象が生じるというものである。いずれにしても、減圧沸騰させる高真空の圧密システムが必要である。従来の真空圧密システムでは不可能である。この高真空圧密システムは、従来の真空圧密システムにおける気水分離タンクから真空ポンプに至る真空経路の途中に、高真空貯留タンクとコールドトラップを組み込み、複数の真空経路をネットワーク化したものである。従来の真空圧密システムは、気密シート下の減圧は-70~80kPa程度である。これに対して高真空圧密システムは-99.6kPa程度を持続させる。沸騰効果を除いてもこれだけで25%~40%の圧密促進となる。(非特許文献2参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】下流河川土砂還元マニュアル(案)第二版 平成23年3月 国土交通省河川局河川環境課
【0008】
【非特許文献2】近藤正佳 他/次世代の真空圧密工法「真空沸騰圧密工法」と脱炭素社会に向けたブルーカーボン/第14回環境地盤工学シンポジウム発表論文集/地盤工学会(Japanese Geotechnical Society)2021年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
激甚化する豪雨災害に対してダムの堆砂対策が遅れ、洪水調節機能の低下から甚大な被害をもたらす恐れが生じている。ダムの堆砂対策の遅れの要因の一つは近距離における堆砂処分地の確保の困窮がある。処分地が遠距離の場合、ダンプトラック運搬になれば大量のダンプトラックがひっきりなしに行き交うことになり二次交通公害が発生する恐れがある。工事費用も莫大になる。
【0010】
まず、基本的な課題は理想的な堆砂処分地の確保である。そのヒントは下流河川への土砂還元にある。前述のように土砂還元はダム下流に堆砂を置き土し、流水の掃流力を利用して運搬,撒き出しするものである。土砂還元は河川環境の改善が目的であるから大量の排砂が期待できない。しかし、経済性や実現性が比較的高いことから注目されている。新たな基本的課題は土砂還元方式で如何にして、ダム堆砂対策としての大量の堆砂を再利用し、且つ河川環境の改善を図る土砂大量還元ができるかである。
【0011】
改めて従来の土砂還元を整理すると、目的は河川環境の改善で、堆砂は小量活用である。従って、土砂撒き出しにおける流水の掃流力はエネルギーが小さくて良い。従って、土砂撒き出しは自然出水,人工出水いずれでも実績がある。増水程度の出水でも洪水でも問題はない。また、工期の制約もない。従って、降水による自然出水に任せでも問題はない。また、土砂撒き出しに伴う濁水問題は砂質土砂の選定で対応できる。
【0012】
これに対して土砂大量還元は、ダム堆砂対策と河川環境の改善の両方である。還元土砂は大量である。これは土砂撒き出しにおける流水の掃流力のエネルギーが強力でなければならない。増水程度の出水や小規模な人工出水では効率が悪い。洪水時は工事ではなく安全対策が中心になる。土砂大量還元であるから、細粒土も対象となる。これは土砂撒き出しで濁水、軟弱土の課題が発生する。土砂大量還元は、環境への負荷が極めて大きいため、下流及び海岸まで含めた流域全体への配慮が欠かせない。しかも、排砂の際も治水・利水というダム本来の役割を維持することが求められる。土砂大量還元方式は、ダム貯水の人工出水に大きく依存することはできない。特に課題となるのは天候,降雨量に大きく左右されることが最大の課題である。従って、土砂大量還元は、従来の土砂還元方式の適用はできない。なお、ダム貯水池には上流から落ち葉等の有機物が池底に蓄積し、酸素の少ないところで分解されることでヘドロ化している。土砂還元はこのヘドロ層を対象としない。ヘドロ対策は別途行うものである。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、まず、第1の課題はダム堆砂対策と河川環境の改善の両立である。第2の課題は、降雨による自然出水に任せるのではなく、しかもダム貯水に負担をかけない土砂撒き出し方法の確立である。第3の課題は、土砂撒き出しで発生する濁水である。第4の課題は軟弱土対策である。第5の課題は、ダム堆積土の臨機応変な有効活用である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の下流河川の土砂還元の目的は、原則ダムの堆砂対策に重点を置く。あくまでも原則であり、下流河川の環境改善を疎かにするものではない。どちらに重点が置かれるかは河川流域全体の状況から判断される。ダム建設の適地は建設需要,地形,地質から決定される。地形的には渓谷で川幅が狭くなっていて、両岸の岩が高くきりたったようなところが多い。土砂還元の視点で考察すると、一般にダム下流河川の上流区間は河床を嵩上げしても余裕がある。従って、上流区間は堆砂対策の堆砂大量活用区間、下流区間が環境改善の堆砂少量活用区間となることが想定される。前者はアーマーコート化の解消等に寄与する。一方、後者は少量ではあるが堆砂対策に寄与する。
【0015】
第1の課題はダム堆砂対策と河川環境の改善の両立である。本発明の問題解決手段は、ダム堆砂を活用する下流河川の土砂大量還元工法である。当該工法において、ダム下流河川の堆砂大量活用区間を工区分けして河床の嵩上げをするものである。その方法は河床勾配が緩和された新規の河床高,河床勾配の形成基礎となる河川水及び土砂を堰き止める複数の半埋没型堰堤を工区境に築造する。そして、ダム貯水池の堆砂を浚渫してダムの側方、例えば、川岸に設置した圧送装置を装備した土砂中継ホッパーに投入し、さらにそこから排砂管路で各工区に圧送する。浚渫の一例としてポンプ浚渫がある。また、圧送装置の一例として圧送ポンプがある。土砂の撒き出し方法は複数の半埋没型堰堤の構造で規定される高さ,勾配に合わせて撒き出すものである。ここで、半埋没型堰堤の埋没部分が河床の嵩上げ部分となる。ただし、河床嵩上げ高さは、治水安全に支障をきたさない範囲が前提である。ダム下流河川の河床嵩上げによりダムの堆砂対策が図れること、河床のアーマーコート化の解消が図られること、並びに河床勾配の緩和を図ることでダム機能及び堆砂大量活用区間の河川環境が同時復旧を成すものである。また、堆砂大量活用区間の河床嵩上げ土砂は従来の土砂還元の置き土に相当する。洪水時には土砂を流下させて下流河川への土砂還元となり、下流河川の河川環境の復旧となる。洪水後、置き土として消費された河床土は補充される。補充される土砂量は嵩上げとは異なり多くはないので、排砂管路の圧送でなくても十分可能である。また、本発明の土砂大量土砂還元工法は、細粒土も利用されるのでこれに関する課題を解決しておくことになる。
【0016】
本発明の複数の半埋没型堰堤は河川水及び土砂を堰き止める機能を有するもので、その構造は竪壁の中間に水叩き棚を設けたものである。そして、前記堰堤の水叩き棚と次の下流の堰堤の天端を結ぶ緩和を図った縦断勾配をダム堆砂の再利用による河床の嵩上げによって新規の河床勾配とする。これにより、水叩き棚より下の竪壁と底版は当該堰堤の遮水壁の機能を確保し、さらに構造の安定性を高め、また、複数の落差工の機能を確保することで、ダム堆砂の大量活用が可能となり、河床のアーマーコート化の解消となる。なお、天端と水叩き棚の高低差が河川流水の落差となり、2m以内に抑えて計画される。複数の落差工が河川流水の流下エネルギーを落下方向に向けることで低減させる。また、河床勾配を緩くすることで河川流水の流下エネルギーを低減させる。これらの効果が治水をさらに向上させる。
【0017】
第2の課題は、降雨による自然出水に任せるのではなく、しかもダム貯水に負担をかけない土砂撒き出し方法の確立である。本発明の問題解決手段は、排砂管路で土砂と河川水混合の流動体を圧送する土砂撒き出し方法である。当該土砂撒き出し工法において、ダムの側方に圧送装置を装備した土砂中継ホッパーを設置して、さらにそこから排砂管路を最終工区まで延長する。そして、排砂管路には各工区の境ごとに工区仕切弁と仕切弁のある複数の土砂吐き出し管を設けて土砂撒き出しの排砂管路を形成する。撒き出し方法は任意の対象工区を臨機応変に選定し、この工区境までの工区仕切弁を開とし、下流直後を閉とする。そして、対象工区の土砂吐き出し管の仕切弁を開とすると共に対象工区より上流工区の仕切弁を閉とする。そして、土砂中継ホッパーの中の堆積土の土質性状を確認し、これが圧送に適していない含水比ならばこれを調整してから圧送装置を稼動し、前記対象工区の土砂吐き出し管から土砂を高圧で撒き出す工法である。ここで、圧送に適した含水比とする調整は、土砂の種類によって異なる。試験稼動により最適含水比を把握しておく必要がある。ダム堆砂の浚渫がグラブ浚渫の場合は土砂中継ホッパーにおいて、加水して含水比の調整を図る可能性が高い。
【0018】
本発明の土砂撒き出しは、排砂管路の土砂吐き出し管で行われる。しかし、工区全体に行き渡らせることが難しいこともある。この場合、土砂撒き出しの補助工法が使われる。当該補助工法は浮体本体の底面から下方に突き出した複数のバイブレーターを装備した浮体式振動撒き出し機が使われる。この振動撒き出し機を撒き出し土砂に接地させ、複数のバイブレーターを稼動させることで土砂を流動化させて、土砂撒き出し距離を拡大させるものである。
【0019】
本発明の土砂撒き出しは、ダム貯水に極力負担をかけない方法である。そこで、本発明の土砂撒き出し工法は、必要に応じて各工区に滞留した河川水をポンプアップして土砂中継ホッパーに戻し、土砂圧送に必要な河川水を繰り返し使用する。これにより、天候の影響を最小限とすることで通常の工程管理を可能とした。
【0020】
第3の課題は、土砂撒き出しで発生する濁水である。本発明の土砂大量還元工法は細粒土も対象土砂となる。当該工法による下流への影響で、最も多いのが土砂の撒き出しによる濁水である。ここで、稀に起こる洪水は対象とはならず、洪水時の河川流水は、半埋没型堰堤の天端を通過することになる。当該工法の濁水の濁度軽減の対象は工事期間中の土砂撒き出しによる濁水である。本発明の問題解決手段は、濁度軽減装置が使われる。当該装置の構成は、最終工区の半埋没型堰堤に仕切弁付き排水溝を設けると共に、この堰堤の背面には隙間を空けて取り付けた剛性多孔板に張り付けて固定した細粒土等の排除用フィルターと、フィルターに吸着した細粒土等を削ぎ落すブレード装置と半埋没型堰堤に支持される剛性枠組に固定した粗粒土等の排除用の剛性スクリーンから成る。当該工法の第1段階は粗粒土以上の大きさのものを剛性スクリーンで堰き止め、第2段階はフィルターに張り付いた細粒土等を削ぎ落として堰き止めることで、スクリーン,フィルターの2段階を経て、河川水のみを排水講から下流へ放流することで濁水の影響を軽減するものである。
【0021】
第4の課題は軟弱土対策である。本発明の土砂大量還元工法は細粒土も対象土砂とする以上、軟弱な河床地盤を造りだすことは避けられない。表層の軟弱河床地盤は、今後に起こる洪水で簡単に洗掘され、濁水となり下流に影響を及ぼす。本発明の問題解決手段は、軟弱地盤を真空圧密工法で地盤改良をする。通常の真空圧密工法の地盤改良は、鉛直ドレーン工法を併用するが本発明の地盤改良は用いない。本発明の土砂大量還元工法における河床嵩上げ高は2m程度であるから、鉛直ドレーン工法を採用する意味がない。
【0022】
本発明の軟弱河床地盤の改良工法において、前記土砂中継ホッパーで細粒土が確認されて軟弱地盤の発生を予測したならば、これを軟弱地盤対策工区に圧送し、まとめて地盤改良を行う。その改良工法の工程は、事前に対策工区の現河床地盤面に水平ドレーンシートの敷設とこのドレーンシートに連結する真空経路を設置する工程、次に軟弱土が堆積してから軟弱土の表面を覆う水平ドレーンシート及び気密シートを敷設する工程、次に気水分離タンクをそれぞれ設置してそれぞれの水平ドレーンシートを真空経路で接続する工程、次に気水分離タンクを高真空にする工程を経て、現河床地盤面の水平ドレーンシートと表面を覆う水平ドレーンシートの両面排水とする真空圧密工法で軟弱河床地盤の改良を行う。そして、必要に応じて粗粒土、礫等で覆土を行う。また、軟弱地盤対策工区でなくても、必要に応じて新規河床地盤面に表面を覆う水平ドレーンシート及び気密シートを敷設して、片排水とする真空圧密工法で地盤改良を行う。なお、良質な砂が現場で得られるならば、水平ドレーンシートに代えてサンドマットとしても良い。
【0023】
第5の課題は、ダム堆積土の臨機応変な有効活用である。本発明の土砂大量還元工法における土砂撒き出しは、第一工区から順番に河床嵩上げを行う必要性はない。また、工区の河床嵩上げは着工したならば連続して完工しなければならないということもない。本発明の問題解決手段は、土砂中継ホッパーに投入されたダム堆積土の土質性状を確認し、ダム下流河川の河床嵩上げを複数層に分け、層別で土砂の河床材料としての土質性状の使い分けを行って新河床地盤の合理的な施工管理をすることである。例えば、下層地盤を細粒土、上層地盤を粗粒土とする。また、このような地盤構成であっても事前に現河床地盤面に水平ドレーンシートを敷設して置くことで、下層地盤の細粒土だけを先行して両面排水の真空圧密工法で改良することも、下層地盤の細粒土と上層地盤の粗粒土を同時に両面排水の真空圧密工法で改良することも可能である。
【0024】
また、第5の課題の解決手段として、本発明の土砂大量還元工法における良質粗粒土の分別工法において、前記土砂中継ホッパーで良質粗粒土が確認されたならば、ダムの堆砂活用の一環として、これを良質粗粒土の貯留工区に圧送し、他の土砂と分別貯留する。これにより良質粗粒土の採取を容易とし、ダムの堆砂を資源として有効活用する。なお、良質粗粒土はコンクリート骨材等に使われる。また、貯留工区は、良質粗粒土を搬出するのにアクセスの良い工区が選定される。
【0025】
また、第5の課題の解決手段として、本発明の土砂大量還元工法における海岸線の砂浜後退対策工法において、前記土砂中継ホッパーで砂浜後退対策に適した砂質土が確認されたならば、下流河川の土運船発着施設に備えた第2の土砂中継ホッパーまで圧送し、さらに土運船に積替えて養浜海域まで運搬することで、ダムの堆砂を養浜資源として有効活用する。従来、ダム堆砂を養浜に活用する発想はあった。しかし、ダムは渓谷を流れる支川に建設されることが多く、堆砂を大量に搬出,運搬する手段がなかった。ダンプトラック運搬はアクセスが悪く、工事用道路の建設は費用対効果が成立しない。水運は水量の減少で利用できない。そこで本発明は、土砂を選定して土運船が航行できる本川までポンプ圧送するものである。
【発明の効果】
【0026】
ダムの堆砂対策の遅れが洪水調節機能の低下を招き、甚大な被害をもたらす恐れが生じている。遅れの要因は近距離の堆砂処分地の確保の困窮がある。これに対する解決手段はダムの堆砂を大量に活用する下流河川の土砂大量還元工法である。この工法によって、ダム機能及び下流の河川環境を同時に復旧させるという効果をもたらした。
【0027】
土砂大量還元工法における複数の半埋没型堰堤は、河川水及び土砂を堰き止める機能を有するもので、その構造は竪壁の中間に水叩き棚を設け、前記堰堤の水叩き棚と次の堰堤の天端を結ぶ緩和を図った縦断勾配を新規の河床勾配とした。これはダム堆砂の再利用で河床の嵩上げを行うものである。加えて複数の落差工の機能を確保することで、ダム堆砂の大量活用と治水向上,河床のアーマーコート化等の解消となり、下流河川の土砂大量還元工法を確立するという効果をもたらした。
【0028】
本発明のダム堆砂の土砂撒き出し方法は、ダム堆砂を土砂中継ホッパーで河川水と調整混合して圧送に適当な流動体にし、排砂管路で各工区に圧送して撒き出しをする。土砂圧送に必要な河川水は、必要に応じて各工区に滞留した河川水をポンプアップして土砂中継ホッパーに戻して繰り返し使用する。天候の影響を最小限にし、しかもダム貯水に負担を極力かけない土砂撒き出し方法により、下流河川の土砂大量還元工法を確立するという効果をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】 本発明の半埋没型堰堤の正面図
図2】 同平面図
図3】 同任意の工区の縦断面図
図4】 本発明の土砂撒き出しにおける土砂中継ホッパーと排砂管路の配置図
図5】 本発明の浮体式振動撒き出し機の側面図
図6】 同平面図
図7】 本発明の濁度軽減工法に使用する濁度軽減装置の側面図
図8】 本発明の両面排水の圧密工法による軟弱河床地盤改良の概要図
図9】 本発明の圧密工法に高真空圧密システムを利用した場合のシステムの概要図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図1図9に基づいて説明する。
【0031】
図1は本発明の半埋没型堰堤の一例を示す正面図で、図2は平面図である。図において1は半埋没型堰堤である。11は堰堤竪壁,12は水叩き棚,13は堰堤底版,14は堰堤袖,15は堰堤側壁,16は堰堤補強壁,7は押さえ盛土である。なお、半埋没型堰堤1の天端と水叩き棚12の高低差が河川流水の落差となる。押さえ盛土7は現河床のアーマーコート化が進んだ粗い礫等を用いるのが好適である。また、必要に応じて堰堤1の天端の中央部分には最大洪水量を通過させる断面積の水通しを設けることもある。
【0032】
図3は同じく二つの半埋没型堰堤1に挟まれたの任意の工区の縦断面図である。図において8は現河床地盤,9は新河床地盤,10は新規河床勾配線である。なお、新規河床勾配線10は上流の堰堤1の水叩き棚12と次の下流の堰堤1の天端を結ぶ縦断勾配で、現河床勾配よりも緩く計画されている。また、必要に応じて全工区の現河床面に連続して暗渠を敷設することもある。これは嵩上げた新河床地盤9の地下水の排水を考慮したものである。
【0033】
図4は本発明の土砂撒き出しにおける土砂中継ホッパーと排砂管路の配置図の一例である。図において、2は土砂中継ホッパー,3は排砂管路である。31は工区仕切弁,32は土砂吐き出し管である。土砂中継ホッパー2は圧送装置を装備している。そして、ここでホッパーの中のダム堆積土である撒き出し土砂の土質性状の確認作業が行われる。例えば、土砂の含水比が圧送に適した含水比であるか、あるいは軟弱地盤となる細粒土か、あるいは良質粗粒土であるかなどである。また、配置図は排砂管路3を河川の両岸に配置した例である。土砂吐き出し管32の位置は新規河床勾配線10より上となる。
【0034】
図5は本発明の浮体式振動撒き出し機の一例を示す側面図、図6は同平面図である。図において、4は浮体式振動撒き出し機である。41は浮体本体,42はバイブレーター,43は電源ルーム,44は移動装置,45はクレーン用の吊り金具である。移動装置44は伸縮自在のアームの先端に反力版を固定したもので、反力版はアームの30度程度の回転で上下動する。また、左右の移動装置44を操作することで方向変更する。浮体式振動撒き出し機4の操作は遠隔操作で行われる。
【0035】
図7は本発明の濁度軽減工法に使用する濁度軽減装置の一例を示す側面図である。図において、5は濁度軽減装置である。51は剛性多孔板,52はフィルター,53はブレード装置,54は剛性枠組,55は剛性スクリーン,17は仕切り弁付き排水溝である。堰堤1の背面には隙間を空けて剛性多孔板51を取り付けた。これは鉛直排水路を確保するもので濁水処理された河川流水はここを経由して排水講17へと流れる。フィルター52に吸着した細粒土等を削ぎ落すブレード装置53の動力は、複動式油圧シリンダーが好適である。ブレード装置53の操作は遠隔操作で行われる。
【0036】
図8は本発明の両面排水の真空圧密工法による軟弱河床地盤の改良概要図である。図において、6Aは気水分離タンク,61は現河床面の水平ドレーンシート,62は現河床面の水平ドレーンシートに連結する真空経路,63は軟弱な新河床地盤表面の水平ドレーンシート,64は気密シートである。図の真空経路62は半埋没型堰堤1に事前に沿わせて設置した例である。なお、新河床地盤9の嵩上げ高さは2m程度であるから、気水分離タンク6Aは新河床地盤9の上ではなく川岸の上に設置されたものである。
【0037】
図9は本発明の軟弱河床地盤の改良に高真空圧密システムを利用した場合のシステムの概要図である。図において、6Aは気水分離タンク,6Bは真空ポンプ,6Cは高真空貯留タンク,6Dはコールドトラップ,6Eは真空経路である。各装置の働きであるが、気水分離タンク6Aは、真空圧で集積された空気と水をここで分離し、水は水中ポンプで外部へ排出して空気だけを真空ポンプ6Bへ送り出す。水は真空中では活発に蒸発する。この時の体積は約1700倍に激増する。このまま送り出すと真空ポンプ6Bの負担が大き過ぎることになる。そこで、真空経路6Eの途中でコールドトラップ6Eが空気中の水蒸気を氷(霜)として冷却捕集する。そして、空気を乾いた状態で真空ポンプ6Bへ送り出す。これにより真空ポンプ6Bを最大限に機能させる。高真空貯留タンク6Cは、気水分離タンク6Aを所定の高真空とするのには相応の時間がかかる。そこで事前に高真空にしておいて、気水分離タンク6Aに一気に高真空を送り出す。
【符号の説明】
【0038】
1 半埋没型堰堤
11 堰堤竪壁
12 水叩き棚
13 堰堤底版
14 堰堤袖
15 堰堤側壁
16 堰堤補強壁
17 仕切り弁付き排水溝
2 土砂中継ホッパー
3 排砂管路
31 工区仕切弁
32 土砂吐き出し管
4 浮体式振動撒き出し機
41 浮体本体
42 バイブレーター
43 電源ルーム
44 移動装置
45 吊り金具
5 濁度軽減装置
51 剛性多孔板
52 フィルター
53 ブレード装置
54 剛性枠組
55 剛性スクリーン
6A 気水分離タンク
61 現河床面の水平ドレーンシート
62 現河床面の水平ドレーンシートに連結する真空経路
63 軟弱河床表面の水平ドレーンシート
64 気密シート
6B 真空ポンプ
6C 高真空貯留タンク
6D コールドトラップ
6E 真空経路
7 押え盛土
8 現河床地盤
9 新河床地盤(嵩上げ地盤)
10 新規河床勾配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9