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特開2024-167772免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物
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  • 特開-免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167772
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/02 20060101AFI20241127BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241127BHJP
   A61K 36/05 20060101ALI20241127BHJP
   A61K 35/748 20150101ALI20241127BHJP
【FI】
A61K36/02
A61P37/04
A61K36/05
A61K35/748
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084082
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】593206964
【氏名又は名称】マイクロアルジェコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智広
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕行
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕司
【テーマコード(参考)】
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA10
4C087NA14
4C087ZB09
4C088AA12
4C088AA15
4C088AC16
4C088CA12
4C088CA17
4C088CA25
4C088NA14
4C088ZB09
(57)【要約】
【課題】新規な免疫賦活用組成物を提供する。
【解決手段】免疫賦活用組成物は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する免疫賦活用組成物。
【請求項2】
前記細胞外膜小胞の粒子径は、450nm以下である請求項1に記載の免疫賦活用組成物。
【請求項3】
前記細胞外膜小胞の平均粒子径は、150nm以上250nm以下である請求項2に記載の免疫賦活用組成物。
【請求項4】
前記微細藻類は、緑藻綱ボルボックス目の藻体、珪藻綱羽状目の藻体、藍藻綱ユレモ目の藻体、藍藻綱ネンジュモ目の藻体、及びハプト藻綱円石藻目の藻体から選ばれる少なくとも一種である請求項1~3のいずれか一項に記載の免疫賦活用組成物。
【請求項5】
誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を誘導する発現誘導用組成物であって、
微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する発現誘導用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内において、一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素によってアルギン酸と酸素から合成される。一酸合成酵素には、誘導型一酸化窒素合成酵素、神経型一酸化窒素合成酵素、及び内皮型一酸化窒素合成酵素の3つのアイソフォームが知られている。誘導型一酸化窒素合成酵素は、感染等によって誘導されたインターフェロン-γ及びインターロイキン-1等により転写レベルでその発現が誘導される。そして、誘導型一酸化窒素合成酵素は、炎症反応に重要な役割を果たす一酸化窒素を合成するとともに、一連の生体防御機構を活性化させる。
【0003】
細胞外膜小胞は、細胞から分泌される粒子状の膜小胞である。細胞外膜小胞は、その内部に核酸やタンパク質等の多様な生体分子を含む。これらの生体分子は、情報伝達物質として機能する。近年、細胞外膜小胞を用いて生体機能を調節する研究が行われている。例えば、特許文献1には、ウシの乳由来の細胞外膜小胞を用いてアポトーシスを抑制する技術が開示されている。また、特許文献2には、酵母由来の細胞外膜小胞を用いて、紫外線や熱等の外的刺激から皮膚を保護する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-56119号公報
【特許文献2】特開2022-31173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本研究者らは、鋭意研究の結果、微細藻類由来の細胞外膜小胞を細胞に投与することにより、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を誘導すること、及び一酸化窒素の産生を誘導することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する免疫賦活用組成物は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。
上記免疫賦活用組成物の一態様における前記細胞外膜小胞の粒子径は、450nm以下である。
【0007】
上記免疫賦活用組成物の一態様における前記細胞外膜小胞の平均粒子径は、150nm以上250nm以下である。
上記免疫賦活用組成物の一態様における前記微細藻類は、緑藻綱ボルボックス目の藻体、珪藻綱羽状目の藻体、藍藻綱ユレモ目の藻体、藍藻綱ネンジュモ目の藻体、及びハプト藻綱円石藻目の藻体から選ばれる少なくとも一種である。
【0008】
上記課題を解決する発現誘導用組成物は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な免疫賦活用組成物が提供される。また、本発明によれば、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を誘導する新規な発現促進用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】微細藻類由来の細胞外膜小胞の投与とNO産生量との関係を示すグラフである。
図2】微細藻類由来の細胞外膜小胞の投与とiNOSの発現量との関係を示すウエスタンブロット解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の組成物(以下、本組成物と記載する。)は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。
【0012】
[微細藻類]
まず、本組成物が含有する細胞外膜小胞を分泌する微細藻類について説明する。
微細藻類は、1μm~1mm程度の顕微鏡サイズの大きさの藻類である。具体的な微細藻類としては、例えば、緑藻綱ボルボックス目の藻体、珪藻綱羽状目の藻体、藍藻綱ユレモ目の藻体、藍藻綱ネンジュモ目の藻体、及びハプト藻綱円石藻目の藻体が挙げられる。なお、微細藻類は、これらの藻体に限定されない。
【0013】
緑藻綱ボルボックス目の藻体としては、例えば、Dunaliella salina、Dunaliella tertiolecta、Dunaliella bardawil等のデュナリエラ属に属する藻体、及びChlorogonium sp.、Chlorogonium capillatum、Chlorogonium euchlorum、Chlorogonium elegans、Chlorogonium elongatum、Chlorogonium fusiforme、Chlorogonium kasakii、Chlorogonium neglectum等のクロロゴニウム属に属する藻体が挙げられる。
【0014】
珪藻綱羽状目の藻体としては、例えば、Nitzschia acicularis、Bacillaria paxillifer、Cylindrotheca Closterium、Neodenticula seminae、Nitzchia levidensis、Nitzchia martiana、Nitzchia pungens、Nitzchia tenuiarcuata、Pseudo-nitzschia multistriata、/Pseudoeunotia doliolus等のニッチア科ニッチア属に属する藻体、及びPhaeodactylum tricornutum等のニッチア科フェオダクチラム属に属する藻体が挙げられる。
【0015】
藍藻綱ユレモ目の藻体の藻体としては、例えば、Arthrospira(Spirulina) platensis、Arthrospira(Spirulina) subsalsa等のアルスロスピラ属に属する藻体が挙げられる。
藍藻綱ネンジュモ目の藻体としては、例えば、Nostoc commune、Nostoc flagelliforme、Nostoc sphaericum、Nostoc verrucosum、Nostoc linckia、Nostoc muscorum、Nostoc punctiforme等のネンジュモ属に属する藻体、及びAphanizomenon flosaquae等のアファニゾメノン属に属する藻体が挙げられる。
【0016】
ハプト藻綱円石藻目の藻体としては、例えば、Pleurochrysis carterae、Pleurochrysis roscoffensis等のプレウロクリシス属属する藻体が挙げられる。
微細藻類は、天然に自生する藻体であってもよいし、人工的に培養した藻体であってもよい。なお、安定供給が可能である点や品質保持が容易である点から、人工的に培養した藻体を用いることが工業的に好適である。
【0017】
[細胞外膜小胞]
次に、本組成物が含有する細胞外膜小胞について説明する。
細胞外膜小胞は、上記の微細藻類から分泌された粒子状の物質であって、リン脂質を主成分とする膜で覆われた膜小胞である。細胞外膜小胞は、その内部に核酸やタンパク質等の生体分子を含む。上記核酸としては、例えば、miRNA、mRNA、DNAが挙げられる。
【0018】
細胞外膜小胞の大きさは、特に限定されない。細胞外膜小胞は、粒子径が200nm以下であるsEVs(small Extracellular Vesicles)、粒子径が200nm以上であるm/l EVs(medium/large Extracellular Vesicles)を含む。
【0019】
細胞外膜小胞の粒子径は、例えば、450nm以下であり、好ましくは220nm以下である。本明細書において、細胞外膜小胞の粒子径が特定値以下であることは、孔径が特定値であるメンブレンフィルタを通過する大きさであることを意味する。
【0020】
細胞外膜小胞の平均粒子径は、例えば、150nm以上であり、好ましくは170nm以上である。また、細胞外膜小胞の平均粒子径は、例えば、250nm以下であり、好ましくは210nm以下である。細胞外膜小胞の平均粒子径は、散乱光とブラウン運動の両方の特性によって測定するナノ粒子トラッキング解析法(NTA)によって測定できる。
【0021】
[細胞外膜小胞の調製方法]
次に、細胞外膜小胞の調製方法について説明する。なお、細胞外膜小胞の調製方法は、以下に記載する方法に限定されない。
【0022】
細胞外膜小胞の調製方法の一例は、微細藻類を培養して培養液を得る培養工程と、培養液から微細藻類を除去して培養上清を分離する分離工程と、培養上清から細胞外膜小胞を精製する精製工程とを含む。
【0023】
培養工程における微細藻類の培養方法は、特に限定されるものでなく、対象となる微細藻類に応じた公知の培養方法を適用できる。培養工程に用いる培養液としては、例えば、水、及び水を含む水系培養液が挙げられる。
【0024】
分離工程における分離方法は、特に限定されるものでなく、公知の固液分離方法を適用できる。公知の固液分離方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、超遠心分離、分画遠心分離、平衡密度勾配遠心分離、密度勾配、透析、自由流動電気泳動、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
超遠心分離-サイズ排除フィルタ混法による精製工程の一例を以下に記載する。まず、培養工程にて得られた培養液に対して、超遠心分離を行うことにより、培養液に含まれている細胞外膜小胞を沈降させる。超遠心分離は、例えば、80000~100000rpm、2~4時間の条件で行う。次いで、細胞外膜小胞を含む沈降物を回収し、これをリン酸緩衝液等の溶解液に溶解させる。その後、得られた溶解液に対して、フィルタを用いたろ過処理を行うことにより、細胞外膜小胞よりも大きい不要物を除去する。ろ過処理に用いるフィルタとしては、例えば、孔径が220~450nmであるメンブレンフィルタが挙げられる。
【0026】
分離工程及び精製工程を行う際の温度は、特に限定されるものではないが、例えば、4℃以上10℃以下で行うことが好ましい。
[本組成物]
本組成物は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。本組成物に含有される細胞外膜小胞は、1種のみであってもよいし、由来の異なる2種以上の組み合わせであってもよい。例えば、本組成物は、緑藻綱ボルボックス目の藻体由来の細胞外膜小胞、珪藻綱羽状目の藻体由来の細胞外膜小胞、藍藻綱ユレモ目の藻体由来の細胞外膜小胞、藍藻綱ネンジュモ目の藻体由来の細胞外膜小胞、及びハプト藻綱円石藻目の藻体由来の細胞外膜小胞のうちの1種のみを含有するものであってもよいし、2種以上を含有するものであってもよい。
【0027】
本組成物を細胞等の生体に投与することにより、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現が誘導される。したがって、本組成物は、誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を誘導する発現促進用組成物として適用できる。また、本組成物を生体に投与することにより、一酸化窒素の産生量が増加する。生体内において、少量の一酸化窒素は、病原体などに対する生体防御に働く。したがって、本組成物は、一酸化窒素の産生に基づいて免疫を賦活する効果を奏する免疫賦活用組成物として適用できる。
【0028】
本組成物からなる免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物の各々は、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等の各分野に適用できる。
飲食品としては、例えば、各種飲料類(果汁又は野菜汁入り飲料、清涼飲料、ミネラル飲料、スポーツドリンク、茶類飲料、コーヒー、炭酸飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、各種菓子類が挙げられる。飲食品には、ペクチンやカラギーナンなどのゲル化剤、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の糖類・甘味料、香料等の食品添加剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を適宜含有させることができる。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用できる。
【0029】
医薬品、医薬部外品、化粧品として使用する場合の投与方法は特に限定されるものではない。具体的な投与方法としては、例えば、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、経皮投与、腹腔内投与が挙げられる。また、医薬品、医薬部外品、化粧品として使用する場合の剤形は特に限定されるものではない。具体的な剤形としては、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤が挙げられる。また、添加剤として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を含有してもよい。
【0030】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)免疫賦活用組成物は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。上記構成の免疫賦活用組成物を投与することにより、生体内における一酸化窒素の産生量を増加させる。したがって、上記構成の免疫賦活用組成物は、一酸化窒素の産生に基づいて免疫を賦活する効果を奏する。また、上記構成の免疫賦活用組成物に基づく一酸化窒素の産生量の増加は、同様の効果を奏する既知物質であるインターフェロン-γを投与した場合と比較して穏やかである。そのため、上記構成の免疫賦活用組成物は、生体内における一酸化窒素の産生量を僅かに増加させる用途、又は緩やかに増加させる用途に適している。
【0031】
(2)発現誘導用組成物は、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する。上記構成の発現誘導用組成物を投与することにより、生体内における誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を誘導できる。また、上記構成の発現誘導用組成物に基づく誘導型一酸化窒素合成酵素の発現量の増加は、同様の効果を奏する既知物質であるインターフェロン-γを投与した場合と比較して穏やかである。そのため、上記構成の発現誘導用組成物は、生体内における誘導型一酸化窒素合成酵素の発現量を僅かに増加させる用途、又は緩やかに増加させる用途に適している。
【0032】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物の各々は、それぞれの目的とする作用を損なわない範囲において、細胞外膜小胞以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0033】
・免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物の各々における細胞外膜小胞の含有量は、特に限定されない。
・免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物の各々の摂取量及び摂取期間は、特に限定されず、摂取者の身体機能の状態、年齢、性別、及びその他の条件を考慮し、適宜、決定される。
【0034】
・免疫賦活用組成物及び発現誘導用組成物の各々は、ヒトを対象として適用することができるのみならず、例えば、家畜等の飼養動物を対象として適用してもよい。
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
【0035】
[付記1]
誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を誘導する発現誘導用組成物であって、微細藻類由来の細胞外膜小胞を有効成分として含有する発現誘導用組成物。
【0036】
[付記2]
前記細胞外膜小胞の粒子径は、450nm以下である[付記1]に記載の発現誘導用組成物。
【0037】
[付記3]
前記細胞外膜小胞の平均粒子径は、150nm以上250nm以下である[付記2]に記載の発現誘導用組成物。
【0038】
[付記4]
前記微細藻類は、緑藻綱ボルボックス目の藻体、珪藻綱羽状目の藻体、藍藻綱ユレモ目の藻体、藍藻綱ネンジュモ目の藻体、及びハプト藻綱円石藻目の藻体から選ばれる少なくとも一種である[付記1]~[付記3]のいずれか1つに記載の発現誘導用組成物。
【0039】
[付記5]
[付記1]~[付記4]のいずれか1つに記載の発現誘導用組成物を含有する免疫賦活用組成物。
【実施例0040】
以下に試験例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
[細胞外膜小胞溶液の調製]
(試験例1)
Dunaliella Salina(TZ)の培養液に対して遠心分離(14000×g、4℃、20分間)を行った後、上清を回収した。回収した上清に対して超遠心分離(290000×g、4℃、60分間)を行った後、沈降物を回収した。次いで、回収した沈降物を200μLのリン酸緩衝液(PBS)に溶解させた。その溶解液をメンブレンフィルタ(アドバンテック東洋株式会社社製0.45μm DISMIC Filter)を用いてろ過した。ろ液を回収し、これを試験例1の細胞外膜小胞溶液とした。
【0041】
得られた細胞外膜小胞溶液の希釈溶液を作製し、希釈溶液に含まれる細胞外膜小胞のブラウン運動を撮影した。得られた動画をナノ粒子トラッキング解析法により解析することにより、希釈溶液に含まれる細胞外膜小胞の平均粒子径を算出した。その結果を表1に示す。
【0042】
また、試験例1の細胞外膜小胞溶液のタンパク質濃度を測定した。タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準物質として、DC Protein Assayキット(Bio-Rad社製)を用いて測定した。
【0043】
(試験例2~8)
Dunaliella Salina(TZ)の培養液を下記表1に記載の微細藻類の培養液に変更した点を除いて、試験例1と同様の方法により、試験例2~8の細胞外膜小胞溶液を得た。また、試験例1と同様の方法により、細胞外膜小胞の平均粒子径を算出した。それらの結果を表1に示す。また、試験例1と同様の方法により、試験例2~8の細胞外膜小胞溶液のタンパク質濃度を測定した。
【0044】
【表1】
[免疫賦活作用の評価]
試験例1~8を投与した細胞における一酸化窒素産生量(NO産生量)を測定することに基づいて、試験例1~8の免疫賦活作用を評価した。
【0045】
マウスマクロファージRAW264.7細胞(2×10cells/mL)を24ウェルマルチプレートに500μLずつ播種し、12時間、前培養した。その後、各試験例を終濃度(タンパク質濃度)1μg/mLとなるように培地に添加し、24時間処理した。また、未処理の比較例として、試験例に代えてPBSを添加し、24時間処理した。陽性対照の比較例として、リポ多糖(LPS)及びインターフェロン-γ(IFNγ)を添加し、24時間処理した。LPSは、終濃度が200ng/mLとなるように添加した。IFNγは、終濃度が25ng/mLとなるように添加した。
【0046】
24時間の処理後、RAW264.7細胞が産出した一酸化窒素の分解生成物である亜硝酸(NO )をGriess試薬により発色させるとともに、プレートリーダを用いて、540nmにおける吸光度を測定した。そして、測定された吸光度に基づいて間接的にNO産生量を測定した。NO産生量の測定は、サンプル数を9として行うとともに、各処理後のNO産生量の平均値及び標準誤差を求めた。その結果を図1に示す。
【0047】
図1に示すように、LPS及びIFNγで刺激した細胞(陽性対照)におけるNO産生量は、未処理の約8.4倍であった。また、各試験例を添加した細胞におけるNO産生量はいずれも、未処理の約3.3倍であった。これらの結果から、微細藻類由来の細胞外膜小胞を細胞に投与することにより、LPS及びIFNγにより刺激した場合と比較して、一酸化窒素の産生量が穏やかに増加することが分かる。したがって、微細藻類由来の細胞外膜小胞は、一酸化窒素の穏やかな産生誘導に基づいて免疫を賦活する効果を奏することが示唆される。
【0048】
図1に示すように、試験例1~8のいずれを用いた場合にも、NO産生量は同程度であった。また、詳細な試験結果は省略するが、試験例1に用いたDunaliella Salina(TZ)と種が異なるDunaliella Salina(SL)由来の細胞外膜小胞について、上記と同様の試験を行っている。その結果、Dunaliella Salina(SL)由来の細胞外膜小胞の平均粒子径は186nmであった。そして、当該細胞外膜小胞を用いた場合のNO産生量は、Dunaliella Salina(TZ)由来の細胞外膜小胞を用いた場合と同程度であった。これらの結果から、微細藻類由来の細胞外膜小胞による一酸化窒素の産生を誘導する効果は、由来する微細藻類の分類上の属や種にかかわらず、微細藻類由来の細胞外膜小胞の全般が有する効果であることが示唆される。
【0049】
[誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現誘導の評価]
(サンプル溶液の調製)
RAW264.7細胞(2×10cells/mL)を6ウェルマルチプレートに2mLずつ播種し、12時間、前培養した。その後、各試験例を終濃度(タンパク質濃度)5μg/mLとなるように培地に添加し、24時間処理した。また、未処理の比較例として、試験例に代えてPBSを添加し、24時間処理した。陽性対照の比較例として、LPS及びIFNγを添加し、24時間処理した。LPSは、終濃度が200ng/mLとなるように添加した。IFNγは、終濃度が25ng/mLとなるように添加した。
【0050】
24時間の処理後、ホスファターゼ阻害剤を含むRIPA緩衝液(25mM Tris-HCl(pH7.6),150mM NaCl,1%NP-40,1%sodium deoxycholate,0.1%Sodium dodecyl sulfate(SDS))で細胞を溶解することにより細胞溶解液を得た。細胞溶解液に対して、超音波破砕機を用いた破砕処理(10秒間×3回)、及び遠心分離(13500×g、4℃、15分間)を順に行った後、上清を回収した。
【0051】
次いで、回収した上清中のタンパク質濃度を測定した後、タンパク質濃度が特定値となるように上清を希釈した。タンパク質濃度は、牛血清アルブミンを標準物質として、DC Protein Assayキット(Bio-Rad社製)を用いて測定した。上清の希釈溶液に対して、10%メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液を加えた後、ヒートブロックにて98℃で5分間加熱したものをサンプル溶液とした。
【0052】
(ウエスタンブロット解析)
各サンプル溶液中に含まれるタンパク質を12%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離するとともに、これをPVDF(polyvinylidene fluoride)膜に転写した。次いで、転写されたPVDF膜を1×T-TBSにより溶解した1%スキムミルク溶液に浸して1時間のブロッキング処理を行った。ブロッキング処理後のPVDF膜に対して、1×T-TBSを用いた振とう洗浄(5分×3回)、及び一次抗体溶液に浸して4℃で一晩の振とうすることによる一次抗体処理を順に行った。一次抗体溶液には、iNOS及びβ-アクチン(β-Actin)を抗体希釈液(ウシ血清アルブミン:2%,アジ化ナトリウム:0.05%)により1000倍希釈したものを用いた。
【0053】
一次抗体処理後のPVDF膜に対して、1×T-TBSを用いた振とう洗浄(5分×3回)、及び二次抗体溶液に浸して1時間振とうすることによる二次抗体処理を順に行った。二次抗体溶液には、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ標識二次抗体を、1%脱脂粉乳含有T-TBS溶液により10000倍希釈したものを用いた。次いで、二次抗体処理後のPVDF膜に対して、1×T-TBSを用いた振とう洗浄(5分×3回)を行った。その後、PVDF膜を化学発光検出試薬(GE Healthcare社製)にて処理することにより、PVDF膜上の抗原-抗体複合体を化学発光させるとともに、その化学発光を化学発光検出装置により検出した。その結果を図2に示す。
【0054】
図2に示すように、未処理の細胞においては、iNOSは確認できなかった。一方、LPS及びIFNγで刺激した細胞(陽性対照)並びに各試験例を添加した細胞においては、iNOSが確認できた。また、各試験例を添加した細胞においては、陽性対照と比較してiNOSの発現量が低い結果であった。これらの結果から、微細藻類由来の細胞外膜小胞を細胞に投与することにより、LPS及びIFNγにより刺激した場合と比較して、iNOSの発現量を穏やかに増加させることが分かる。また、上記結果におけるiNOSの発現量の増加の傾向は、上述した免疫賦活作用の評価の試験結果におけるNO産生量の増加の傾向と一致する。したがって、微細藻類由来の細胞外膜小胞が投与された細胞においては、iNOSの発現量の増加に基づいてNO産生量が増加していると考えられる。また、詳細な試験結果は省略するが、Dunaliella Salina(SL)由来の細胞外膜小胞について、同様の試験を行った。その結果、当該細胞外膜小胞を用いた場合のiNOSの発現量も、Dunaliella Salina(TZ)由来の細胞外膜小胞を用いた場合と同程度であった。
図1
図2