(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167786
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】推進装置、推進制御装置及び推進制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B64D 27/24 20240101AFI20241127BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20241127BHJP
【FI】
B64D27/24
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084109
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽介
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505CC04
5H505EE08
5H505EE41
5H505EE60
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】省エネルギ化を実現することができる推進装置、推進制御装置及び推進制御プログラムを提供する。
【解決手段】推進装置15は、モータ装置60及びインバータ装置80を有している。モータ装置60は、モータ61を有している。インバータ装置80は、インバータ制御部81及びインバータ回路85を有している。インバータ制御部81は、インバータ回路85を介してモータ61を制御する。インバータ制御部81は、eVTOL10の状態に応じて電流ベクトルの電流位相を調整する。インバータ制御部81は、指令トルクに応じて電流位相を調整可能である。また、インバータ制御部81は、eVTOL10の異常状態に応じて電流位相を調整可能である。さらに、インバータ制御部81は、eVTOL10の飛行状態に応じて電流位相を調整可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(10)を推進させる推進装置(15)であって、
前記移動体を推進させるために駆動するモータ(61)と、
前記移動体の状態を取得する状態取得部(S101)と、
前記状態取得部により取得された前記移動体の状態に応じて、前記モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整する位相調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)と、
を備えている推進装置。
【請求項2】
前記位相調整部は、
前記移動体の状態としての前記モータの制御状態に応じて前記電流位相を調整する制御用調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113)と、
前記移動体の状態としての前記移動体の異常の有無を含む異常状態に応じて前記電流位相を調整する異常用調整部(S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S506)と、
前記移動体の状態としての前記移動体の移動状態に応じて前記電流位相を調整する移動用調整部(S405~S415)と、
の少なくとも1つを有している請求項1に記載の推進装置。
【請求項3】
前記モータを駆動させるモータ駆動部(80,801,802)、を備え、
前記位相調整部は、
前記モータのモータトルク(T)について前記モータ駆動部に要求される要求トルク(T*)に応じて前記電流位相を調整するトルク用調整部(S104,S107,S109,S110,S112,S113)と、
を有している請求項1又は2に記載の推進装置。
【請求項4】
前記トルク用調整部は、
前記モータトルクが前記要求トルクになる範囲で前記モータ電流が最も小さくなるように前記電流位相を調整する最小調整部(S104,S107)、を有している請求項3に記載の推進装置。
【請求項5】
前記最小調整部は、前記要求トルクが大きいほど前記電流位相が大きくなるように前記電流位相を調整する、請求項4に記載の推進装置。
【請求項6】
前記トルク用調整部は、
前記電流位相について、前記モータトルクが前記要求トルクになる範囲で前記モータ電流が最も小さい最小用位相(θim)を算出する最小算出部(S104)と、
前記最小用位相が前記電流位相の許容範囲である位相範囲(Ui)に含まれている場合に、前記最小用位相を前記電流位相の目標値である目標位相(θi*)として設定する許容設定部(S107)と、
を有している請求項3に記載の推進装置。
【請求項7】
前記トルク用調整部は、
前記最小用位相が前記位相範囲に含まれていない場合に、前記モータトルクが前記要求トルクになる範囲での前記位相範囲の限界値である限界位相(θin)を前記目標位相として設定する上限設定部(S109,S110)、を有している請求項6に記載の推進装置。
【請求項8】
前記トルク用調整部は、
前記限界位相に対応した電流振幅(Ai)である限界振幅(Ain)が前記電流振幅の許容範囲である振幅範囲(UAi)に含まれていない場合に、前記モータトルクが前記要求トルクよりも小さくなるように前記電流位相を調整するトルク削減部(S112,S113)、を有している請求項7に記載の推進装置。
【請求項9】
前記位相調整部は、
前記モータに関連するモータ関連異常が発生していない場合に、前記電流位相が正常用位相になるように前記電流位相を調整する正常時調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113)と、
前記モータ関連異常が発生した場合に、前記電流位相が異常用位相になるように前記電流位相を調整する異常時調整部(S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S506)と、
を備えている請求項1又は2に記載の推進装置。
【請求項10】
前記移動体は、前記モータの駆動により飛行する飛行体(10)であり、
前記位相調整部は、
前記飛行体の飛行状態に応じて前記電流位相を調整する飛行用調整部(S405~S415)、を有している請求項1又は2に記載の推進装置。
【請求項11】
前記位相調整部は、
前記移動体の重量と、前記移動体の移動履歴と、前記モータに電力を供給する蓄電装置(31)の残量と、前記モータの温度と、の少なくとも1つに応じて前記電流位相を調整する特定調整部(S408~S415)、を有している請求項1又は2に記載の推進装置。
【請求項12】
前記移動体は、前記モータの駆動により飛行する飛行体(10)であり、
前記位相調整部は、
前記飛行体の離陸に合わせて前記電流位相を調整する離陸用調整部(S408,S409)と、
前記飛行体の着陸に合わせて前記電流位相を調整する着陸用調整部(S410,S411)と、
前記飛行体の水平飛行に合わせて前記電流位相を調整する水平用調整部(S412,S413)と、
の少なくとも1つを有している請求項1又は2に記載の推進装置。
【請求項13】
前記モータは、前記モータ電流が流れるステータ(62)と、前記ステータに対して回転するロータ(63)と、を有しており、
前記電流位相は、前記ロータの磁極に対する前記モータ電流の位相である、請求項1又は2に記載の推進装置。
【請求項14】
移動体(10)を推進させるために駆動するモータ(61)を有する推進装置(15)、を制御する推進制御装置(81)であって、
前記移動体の状態を取得する状態取得部(S101)と、
前記状態取得部により取得された前記移動体の状態に応じて、前記モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整する位相調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)と、
を備えている推進制御装置。
【請求項15】
移動体(10)を推進させるために駆動するモータ(61)を有する推進装置(15)、を制御する推進制御プログラムであって、
少なくとも1つの処理部(82)に、
前記移動体の状態を取得させ(S101)、
取得された前記移動体の状態に応じて、前記モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整させる(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)、推進制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、推進装置、推進制御装置及び推進制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転翼の回転により飛行する電動航空機について記載されている。この電動航空機には、回転翼を回転させるためのモータと、モータを制御するためのモータ制御システムと、が複数ずつ設けられている。所定のモータを制御するモータ制御システムに異常が発生した場合、このモータは、他のモータ制御システムにより制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、モータ制御システムの異常が発生した場合に、他のモータ制御システムによりモータを制御することが、モータの駆動停止を回避することになっても、モータの効率を高めることにはならない。このため、電動航空機等の移動体について、省エネルギ化を図ることについて改善の余地がある。
【0005】
本開示の主な目的は、省エネルギ化を実現することができる推進装置、推進制御装置及び推進制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲及びこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するため、開示された態様は、
移動体(10)を推進させる推進装置(15)であって、
移動体を推進させるために駆動するモータ(61)と、
移動体の状態を取得する状態取得部(S101)と、
状態取得部により取得された移動体の状態に応じて、モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整する位相調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)と、
を備えている推進装置である。
【0008】
上記推進装置によれば、移動体の状態に応じてモータ電流の電流位相が調整される。この構成では、モータ電流の電流位相が調整されることで、モータトルクを調整することが可能である。このため、モータ電流の大きさを増加させなくても、モータトルクを増加させることができる。このようにモータ電流の電流位相を調整することでモータの効率を高めることができるため、推進装置の省エネルギ化を実現できる。
【0009】
開示された態様は、
移動体(10)を推進させるために駆動するモータ(61)を有する推進装置(15)、を制御する推進制御装置(81)であって、
移動体の状態を取得する状態取得部(S101)と、
状態取得部により取得された移動体の状態に応じて、モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整する位相調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)と、
を備えている推進制御装置である。
【0010】
上記推進制御装置によれば、上記推進装置と同様の効果を実現できる。
【0011】
開示された態様は、
移動体(10)を推進させるために駆動するモータ(61)を有する推進装置(15)、を制御する推進制御プログラムであって、
少なくとも1つの処理部(82)に、
移動体の状態を取得させ(S101)、
取得された移動体の状態に応じて、モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整させる(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)、推進制御プログラム。
【0012】
上記推進制御装置によれば、上記推進装置と同様の効果を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態におけるeVTOLの構成を示す図。
【
図3】推進システムの電気的な構成を示すブロック図。
【
図4】インバータ制御部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図5】モータトルクと電流振幅と電流位相との関係を示す図。
【
図6】dq座標系でのMTPA特性及び等トルク線を示す図。
【
図9】MTPA点が電流制限線の内側にある例を示す図。
【
図10】MTPA点が電流制限線の外側にあり、且つトルク実現点が振幅上限線の内側にある例を示す図。
【
図11】MTPA点が電流制限線の外側にあり、且つトルク実現点が振幅上限線の外側にある例を示す図。
【
図12】第2実施形態におけるインバータ制御部の電気的な構成を示すブロック図。
【
図13】dq座標系でのMTPA特性及び等トルク線を示す図。
【
図14】第3実施形態における推進制御処理の手順を示すフローチャート。
【
図15】飛行用制御処理の手順を示すフローチャート。
【
図16】第4実施形態における推進装置の構成を示す概略図。
【
図17】推進システムの電気的な構成を示すブロック図。
【
図18】異常判定処理の手順を示すフローチャート。
【
図19】第5実施形態における推進装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0015】
<第1実施形態>
図1に示す推進システム30は、eVTOL10に搭載されている。eVTOL10は、電動垂直離着陸機である。電動垂直離着陸機は、電動式の垂直離着陸機であり、垂直離着陸することが可能である。eVTOLは、electric Vertical Take-Off and Landing aircraftの略称である。eVTOL10は、大気中を飛行する電動式の飛行体であり、電動飛行体と称されることがある。eVTOL10は、電動式の航空機でもあり、電動航空機と称されることがある。eVTOL10は、乗員が乗る有人飛行体である。eVTOL10の乗員には、操縦者としてのパイロットが含まれる。推進システム30は、eVTOL10を推進させるために駆動するシステムである。推進システム30は、飛行システムと称されることがある。
【0016】
eVTOL10は、機体11及びプロペラ20を有している。機体11は、機体本体12、翼13を有している。機体本体12は、機体11の胴体であり、例えば前後に延びた形状になっている。機体本体12は、乗員が乗るための乗員室を有している。翼13は、機体本体12から延びており、機体本体12に複数設けられている。翼13は固定翼である。複数の翼13には、主翼、尾翼などが含まれている。
【0017】
プロペラ20は、機体11に複数設けられている。eVTOL10は、少なくとも3つのプロペラ20を有するマルチコプタである。例えばプロペラ20は、機体11に少なくとも6つ設けられている。プロペラ20は、機体本体12及び翼13のそれぞれに設けられている。プロペラ20は、プロペラ軸線を中心に回転する。プロペラ軸線は、例えばプロペラ20の中心線である。プロペラ20は、eVTOL10に推力や揚力を生じさせることが可能である。プロペラ20は、ロータや回転翼と称されることがある。
【0018】
eVTOL10では、プロペラ20が複数あることで、機体バランスを維持しやすくなっている。eVTOL10では、1つのプロペラ20でプロペラ出力が意図せずに低下したとしても、残りのプロペラ20により飛行を継続することが可能である。プロペラ出力としては、プロペラ20の回転数やトルクなどがある。
【0019】
プロペラ20は、ブレード、ボス及びプロペラシャフトを有している。ブレードは、プロペラ軸線の周方向に複数並べられている。ボスは、複数のブレードを連結している。プロペラシャフトは、プロペラ20の回転軸であり、ボスからプロペラ軸線に沿って延びている。
【0020】
eVTOL10の飛行モードとしては、垂直離陸や垂直着陸、クルーズ、ホバリング等がある。飛行モードは、飛行態様と称されることがある。垂直離陸では、eVTOL10が滑走せずに離陸可能である。垂直離陸では、eVTOL10が垂直方向に上昇してもよく、斜め上方に上昇してもよい。垂直着陸では、eVTOL10が滑走せずに着陸可能である。垂直着陸では、eVTOL10が垂直方向に下降してもよく、斜め下方に下降してもよい。
【0021】
クルーズは、水平飛行と称されることがある。クルーズでは、eVTOL10が上下方向に移動せずに水平方向に飛行してもよく、上下方向に移動しながら水平方向に飛行してもよい。ホバリングは、停止飛行と称されることがある。ホバリングでは、eVTOL10が空中の所定位置に停止したように飛行していてもよく、eVTOL10が所定位置から上下方向や水平方向にずれてもよい。
【0022】
また、eVTOL10の飛行モードには、リフトが含まれている。リフトでは、eVTOL10が上下方向に移動する。eVTOL10は、リフトとして、斜め上方に上昇してもよく、斜め下方に下降してもよい。eVTOL10は、上方にリフトすることで垂直離陸する。eVTOL10は、下方にリフトすることで垂直着陸する。
【0023】
複数のプロペラ20には、リフト用プロペラ21及びクルーズ用プロペラ22が含まれている。リフト用プロペラ21は、eVTOL10をリフトさせるためのプロペラである。リフト用プロペラ21は、eVTOL10を垂直離陸や垂直着陸、ホバリングさせることが可能である。リフト用プロペラ21は、ホバリング用プロペラと称されることがある。クルーズ用プロペラ22は、eVTOL10をクルーズさせるためのプロペラである。
【0024】
なお、eVTOL10は、チルトロータ機であってもよい。チルトロータ機では、プロペラ20のチルト角が調整可能になっている。チルトロータ機では、1つのプロペラ20をリフト用プロペラ及びクルーズ用プロペラの両方として機能させることが可能になっている。
【0025】
eVTOL10は、EPU50を有している。EPU50は、プロペラ20を駆動回転させるために駆動する装置であり、駆動装置に相当する。EPUは、Electric Propulsion Unitの略称である。EPU50は、電駆動装置及び電駆動システムと称されることがある。EPU50は、複数のプロペラ20のそれぞれに対して個別に設けられている。EPU50は、プロペラ軸線に沿ってプロペラ20に並べられている。複数のEPU50はいずれも、機体11に固定されている。EPU50は、プロペラ20を回転可能に支持している。EPU50は、プロペラ20に接続されている。プロペラ20は、EPU50を介して機体11に固定されている。
【0026】
eVTOL10は、推進装置15を有している。推進装置15は、プロペラ20及びEPU50を含んで形成されている。推進装置15は、eVTOL10を推進させるための装置である。推進装置15は、プロペラ20を回転させることでeVTOL10を飛行させる。eVTOL10は、推進装置15により移動する移動体でもある。推進装置15は、eVTOL10に複数設けられている。1つの推進装置15には、プロペラ20と、このプロペラ20を駆動させるためのEPU50と、が1つずつ含まれている。なお、プロペラ20及びEPU50のうちEPU50だけが推進装置15と称されてもよい。
【0027】
図2に示すように、EPU50は、モータ装置60及びインバータ装置80を有している。モータ装置60は、モータ61及びモータハウジング70を有している。モータハウジング70は、筐体であり、モータ61を収容している。モータ61は、複数相の交流モータである。モータ61は、複数相交流方式の回転電機である。モータ61は、eVTOL10の飛行駆動源であり、電動機として機能する。モータ61は、プロペラ20を駆動回転させることでeVTOL10を飛行可能にする。モータ61は、eVTOL10を飛行させるための飛行用モータである。EPU50は、モータ61の駆動によりプロペラ20を駆動回転させる。モータ61としては、例えばブラシレスモータが用いられている。
【0028】
図3に示すように、モータ61は、モータステータ62及びモータロータ63を有している。モータ61は、モータステータ62を有している。モータステータ62は、固定子であり、モータハウジング70に固定されている。モータロータ63は、モータステータ62に対して相対的に回転する。モータ61は、例えばアキシャルギャップ式のモータである。モータ61では、モータステータ62とモータロータ63とが軸方向ADに並べられている。
【0029】
モータ61は、モータステータ62に電力が供給されることで駆動する。モータステータ62は、図示しないモータコイルを有している。モータコイルは、複数相のコイルである。モータコイルは、電機子を形成している。モータステータ62に電力が供給された場合、モータコイルに電流が流れることでモータロータ63が回転する。モータロータ63は、図示しない磁石を有している。磁石は、界磁を形成する永久磁石である。
【0030】
本実施形態では、ロータの内側に磁石が埋め込まれた状態になっている。例えば、モータ61は、IPM式のモータである。IPMは、interior permanent magnetの略称である。なお、磁石は、ロータの表面に設けられていてもよい。例えば、モータ61は、SPM式のモータでもよい。SPMは、Surface Permanent Magnetの略称である。
【0031】
図2において、軸方向ADは、モータ軸線Cmが延びた方向である。モータ軸線Cmは、モータロータ63の回転軸線である。モータロータ63は、モータ軸線Cmを中心に回転する。モータ軸線Cmは、モータロータ63の中心線である。モータ軸線Cmは、回転軸線と称されることがある。モータ軸線Cmについては、軸方向ADと周方向CDと径方向RDとが互いに直交している。なお、径方向RDの外側は、径方向外側や外周側と称されることがある。径方向RDの内側は、径方向内側や内周側と称されることがある。
【0032】
モータ61は、図示しないモータシャフトを有している。モータシャフトは、モータロータ63と共に回転する。モータシャフトは、モータロータ63を支持している。モータシャフトは、モータ軸線Cmに沿って軸方向ADに延びている。
【0033】
モータ装置60は、空冷式の装置である。モータ装置60は、モータフィン70aを有している。モータフィン70aは、モータ装置60の熱を外部空気に放出する。モータフィン70aは、放熱フィンであり、モータハウジング70に含まれている。モータフィン70aは、モータハウジング70の外面に設けられている。例えば、モータフィン70aは、モータハウジング70の外周面から径方向外側に向けて延びている。モータフィン70aは、周方向CDに直交する板状に方向に延びており、周方向CDに複数並べられている。
【0034】
インバータ装置80は、モータ装置60に電力を供給することでモータ装置60を駆動させる。インバータ装置80は、モータ61を駆動させるための駆動部であり、モータ駆動部に相当する。インバータ装置80は、インバータ回路85及びインバータハウジング90を有している。インバータハウジング90は、筐体であり、インバータ回路85を収容している。インバータ回路85は、モータ61に供給される電力を変換する。インバータ回路85は、インバータや電力変換部、制御回路と称されることがある。インバータ回路85は、複数相のそれぞれについて電力変換を行う。モータ61は、インバータ回路85から供給される電圧や電流に応じて駆動する。
【0035】
インバータ装置80は、空冷式の装置である。インバータ装置80は、インバータフィン90aを有している。インバータフィン90aは、インバータ装置80の熱を外部空気に放出する。インバータフィン90aは、放熱フィンであり、インバータハウジング90に含まれている。インバータフィン90aは、インバータハウジング90の外面に設けられている。例えば、インバータフィン90aは、インバータハウジング90の外周面から径方向外側に向けて延びている。インバータフィン90aは、周方向CDに直交する方向に板状に延びており、周方向CDに複数並べられている。
【0036】
図2、
図3に示すように、EPU50は、EPUシャフト51及びギア53を有している。EPUシャフト51は、ギア53を介してモータ61とプロペラ20とを接続している。EPUシャフト51は、EPU軸線Cepuを中心に回転する。EPU軸線Cepuは、EPUシャフト51の中心線である。EPU軸線Cepuは、軸方向ADに延びている。EPUシャフト51は、モータロータ63と共に回転する。
【0037】
ギア53は、モータ61とプロペラ20とを機械的に接続している。ギア53は、軸方向ADにおいてモータ装置60とプロペラ20との間に設けられている。ギア53は、EPUシャフト51等を介してモータロータ63の回転をプロペラ20に伝達する。ギア53は、減速機を有している。
【0038】
推進装置15は、空冷式の装置である。推進装置15では、モータフィン70aやインバータフィン90aにより空冷が可能になっている。推進装置15では、モータフィン70a等の放熱フィンがギア53に設けられていてもよい。推進装置15では、外部空気等の気体が推進装置15の内部に流入してもよい。例えば、気体がモータハウジング70の内部やインバータハウジング90の内部を通過してもよい。空冷式の推進装置15では、推進装置15の少なくとも一部が気体により冷却されればよい。
【0039】
図3に示すように、eVTOL10は、バッテリ31を有している。バッテリ31は、EPU50に電力を供給する。例えば、バッテリ31は、インバータ装置80を介してモータ装置60に電力を供給する。バッテリ31は、インバータ回路85を介してモータ61に通電可能に接続されている。バッテリ31は、充放電可能な2次電池を有している。この2次電池としては、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などがある。バッテリ31は、電力を蓄えることが可能な蓄電装置である。バッテリ31は、電源部と称されることがある。なお、電源部としては、バッテリ31に加えて又は代えて、燃料電池や発電機などが用いられてもよい。
【0040】
図3に示すように、インバータ装置80は、インバータ制御部81を有している。インバータ制御部81は、インバータ回路85を介してモータ制御を行う。モータ制御は、モータ61を駆動させるための制御である。また、インバータ制御部81は、推進制御を行う。推進制御は、推進装置15を駆動させるための制御である。推進制御には、モータ制御が含まれている。インバータ制御部81は、推進制御装置に相当する。推進制御は、EPU50を制御するための制御でもあり、EPU制御と称されることがある。
【0041】
インバータ制御部81は、例えばECUである。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。インバータ制御部81は、コンピュータを主体として構成されている。このコンピュータは、プロセッサ82、メモリ83、入出力インターフェース、これらを接続するバス等を有している。インバータ制御部81は、メモリ83に記憶された制御プログラムをプロセッサ82により実行することで、推進制御などを行うための各種処理を実行する。
【0042】
プロセッサ82は、メモリ83に結合された演算処理のためのハードウェアである。プロセッサ82は、メモリ83へのアクセスにより飛行制御処理等の各種処理を実行する。メモリ83は、制御プログラム等を記憶した記憶媒体である。例えば、メモリ83は、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。非遷移的実体的記憶媒体は、non-transitory tangible storage mediumであり、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。
【0043】
メモリ83には、推進制御を行うための制御プログラムなどが記憶されている。プロセッサ82が推進装置15を制御するための制御プログラムが推進制御プログラムに相当する。メモリ83に記憶されたプログラムは、プロセッサ82に様々な機能を実行させるコンピュータ可動命令を含んでいる。プロセッサ82は、メモリ83に記憶されたプログラムに含まれる命令を実行することで、所定の処理を実行する処理部である。
【0044】
eVTOL10は、統括ECU40を有している。統括ECU40は、インバータ制御部81に通信可能に接続されている。統括ECU40とインバータ制御部81とは、無線通信可能でもよい。統括ECU40は、複数の推進装置15の駆動を統括するための統括制御を行う。統括制御では、複数のインバータ制御部81のそれぞれが行う推進制御が統括される。
【0045】
統括ECU40は、コンピュータを主体として構成されている。このコンピュータは、プロセッサ42、メモリ43、入出力インターフェース、これらを接続するバス等を有している。統括ECU40は、メモリ43に記憶された制御プログラムをプロセッサ42により実行することで、飛行制御を行うための飛行制御処理等の各種処理を実行する。
【0046】
プロセッサ42は、メモリ43に結合された演算処理のためのハードウェアである。プロセッサ42は、メモリ43へのアクセスにより飛行制御処理等の各種処理を実行する。メモリ43は、制御プログラム等を記憶した記憶媒体である。例えば、メモリ43は、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。メモリ43には、統括制御を行うための制御プログラムなどが記憶されている。
【0047】
統括ECU40は、推進制御に必要な情報をインバータ制御部81に対して出力する。統括ECU40は、インバータ制御部81にとっての上位ECUである。統括ECU40は、eVTOL10の飛行モードなどに応じて、複数の推進装置15を個別に制御する。統括ECU40は、推進装置15の出力を推進装置15ごとに個別に調整可能である。例えば、統括ECU40は、1つの推進装置15に要求する要求出力を、複数の推進装置15のそれぞれに対して算出する。そして、統括ECU40は、要求出力を推進装置15に対して出力する。推進装置15に対する要求出力としては、推進装置15に要求されるトルクなどがある。このトルクは、プロペラ20を回転させるために必要なトルクである。1つの推進装置15に対するトルクは、統括ECU40が出力する指令信号に含まれている。なお、要求出力としては、トルクや電流、電圧、プロペラ回転数などが用いられてもよい。
【0048】
インバータ制御部81は、統括ECU40からの要求出力に応じてモータ61を制御する。例えば、インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力に応じてモータ出力を調整する。モータ出力は、例えばモータ61の出力トルクである。出力トルクは、モータ61が出力するモータトルクである。モータトルクは、モータロータ63を回転させるためのトルクである。インバータ制御部81は、モータトルクを制御する。なお、モータ出力としては、トルクや電流、電圧、モータ回転数などが用いられてもよい。
【0049】
インバータ制御部81は、統括ECU40からの指令信号や、各種センサからの検出信号などを用いてモータ制御を行う。各種センサは、インバータ制御部81に通信可能に接続されている。各種センサとしては、モータセンサやバッテリセンサ、インバータセンサなどがある。モータセンサとしては、モータ装置60やモータ61の温度を検出する温度センサ、モータ61の回転数や回転角度を検出する回転センサなどがある。また、モータセンサとしては、モータ61の電流を検出する電流センサ、モータ61の電圧を検出する電圧センサなどがある。
【0050】
バッテリセンサとしては、バッテリ31の温度を検出する温度センサ、バッテリ31の残量を検出する残量センサなどがある。バッテリ31の残量は、バッテリ31に蓄えられている電力の残り量である。インバータセンサとしては、インバータ装置80の温度を検出する温度センサや、インバータ回路85への印加電圧を検出する電圧センサなどがある。印加電圧は、バッテリ31からインバータ回路85に印加される電圧であり、インバータ回路85に供給される電力の電圧でもある。
【0051】
図2に示すように、EPU50は、モータ装置60を1つだけ有している一方で、インバータ装置80を複数有している。EPU50は、インバータ装置80として、第1インバータ装置801及び第2インバータ装置802を有している。第1インバータ装置801と第2インバータ装置802とは、軸方向ADに並べられている。インバータ装置801,802は、モータ軸線Cmに沿ってモータ装置60に並べられている。インバータ装置801,802は、軸方向ADにおいてモータ装置60を介してプロペラ20とは反対側に設けられている。インバータ装置801,802は、モータ駆動部に相当する。
【0052】
図3に示すように、第1インバータ装置801のインバータ制御部81と第2インバータ装置802のインバータ制御部81とは、電気配線等により通信可能に接続されている。これらインバータ制御部81は、統括ECU40を介さない直接的な通信と、統括ECU40を介した間接的な通信との両方が可能になっている。
【0053】
インバータ装置801,802には、別々のバッテリ31から電力が供給される。eVTOL10は、バッテリ31として、第1バッテリ311及び第2バッテリ312を有している。第1バッテリ311は、第1インバータ装置801のインバータ回路85を介してモータ61に通電可能に接続されている。第1インバータ装置801は、第1バッテリ311の電力を用いてモータ61を駆動する。第2バッテリ312は、第2インバータ装置802のインバータ回路85を介してモータ61に通電可能に接続されている。第2インバータ装置802は、第2バッテリ312の電力を用いてモータ61を駆動する。
【0054】
EPU50では、インバータ装置801,802の両方がモータ61の制御を行う。インバータ装置801,802では、それぞれのインバータ回路85がモータステータ62に電力を供給する。また、インバータ装置801,802では、それぞれのインバータ制御部81がモータ制御を行う。モータ61は、2×n相のモータである。nは自然数である。インバータ装置801,802のうち一方がn相のモータを駆動させ、他方が残りn相のモータを駆動させる。例えば、モータ61は、モータコイルとして2×n相のコイルを有している。インバータ装置801,802では、一方のインバータ回路85がn相のコイルに電力を供給し、他方のインバータ回路85が残りn相のコイルに電力を供給する。
【0055】
インバータ装置801,802では、それぞれのインバータ制御部81がモータ出力を制御する。これらインバータ制御部81は、モータ61に供給する電力をインバータ装置801,802で分担するように、それぞれのインバータ回路85を制御する。例えば、これらインバータ制御部81は、第1インバータ装置801からの電力により生じるモータトルクと、第2インバータ装置802からの電力により生じるモータトルクと、が同じになるようにモータ制御を行う。
【0056】
図2、
図3では、モータ61をMOT、インバータ回路85をINV、統括ECU40図示している。
図3では、第1インバータ装置801をINVD1、第2インバータ装置802をINVD2、第1バッテリ311をBAT1、第2バッテリ312をBAT2、と図示している。インバータ制御部81をICD、プロセッサ82をPRO、メモリ83をMEM、統括ECU40をECU、プロセッサ42をPRO、メモリ43をMEM、と図示している。モータステータ62をSTA、モータロータ63をROT、ギア53をGear、と図示している。
【0057】
インバータ制御部81は、モータ制御としてベクトル制御を行う。インバータ制御部81は、ベクトル制御として、dq座標系において電流ベクトルiを制御する。
図4において、インバータ制御部81は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて電流ベクトルiを制御する。電流ベクトルiは、モータ61に流れる電流であり、モータ電流に相当する。d軸電流Idは、モータロータ63に磁束を発生させる電流成分である。q軸電流Iqは、モータ61のトルクを発生させる電流成分である。dq座標系では、電流ベクトルiのd軸成分がd軸電流Idである。また、電流ベクトルiのq軸成分がq軸電流Iqである。
【0058】
インバータ制御部81は、電流ベクトルiを制御することで電流振幅Ai及び電流位相θiを制御する。電流振幅Aiは、電流ベクトルiの振幅である。電流振幅Aiは、電流ベクトルiの大きさを示している。電流振幅Aiは、d軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて算出される。例えば、電流振幅Aiは、
図6に示す式F2を用いて算出される。電流ベクトルiは、電流位相θiを有している。
【0059】
電流位相θiは、電流ベクトルiの位相である。電流位相θiは、モータロータ63に対する電流ベクトルiの相対的な位相である。電流位相θiは、モータロータ63の磁極に対する電流ベクトルiの位相である。例えば、電流位相θiは、モータロータ63の磁極と電流ベクトルiとの位相差である。モータロータ63の磁極は、磁石の磁極である。電流位相θiは、モータロータ63の磁極位置を基準とした電流ベクトルiの位相である。モータロータ63の磁極位置は、モータロータ63やモータ61の回転角度に応じて変化する。
【0060】
d軸電流Idは、電流振幅Aiにcosθiを乗じて算出される値である。例えば、d軸電流Idは、電流振幅Aiにcosθiを乗じ、更に係数Kを乗じた値である。q軸電流Iqは、電流振幅Aiにsinθiを乗じて算出される値である。例えば、q軸電流Iqは、電流振幅Aiにsinθiを乗じ、更に係数Kを乗じた値である。係数Kは、任意の定数である。
【0061】
インバータ制御部81は、モータ制御としてMTPA制御を行う。インバータ制御部81は、MTPA制御において、所定の電流振幅Aiに対してモータトルクTが最大になるように電流ベクトルiを制御する。換言すると、インバータ制御部81は、MTPA制御において、所定のモータトルクTに対して電流振幅Aiが最小になるように電流ベクトルiを制御する。MTPAは、Maximum Torque Per Ampereの略称である。インバータ制御部81は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを制御することで、MTPA制御を行う。インバータ制御部81は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを制御することで、電流振幅Ai、電流位相θiを制御する。
【0062】
図5に示すように、電流振幅Aiが所定振幅で一定である場合、モータトルクTは、電流位相θiの変化に応じて増減する。この場合、モータトルクTは、所定の電流振幅AiにおいてMTPA点Pmで最大になる。MTPA点Pmは、モータトルクTが最大トルクTmaxになる点である。MTPA点Pmでの電流位相θiは、MTPA電流位相θimである。MTPA電流位相θimは、所定の電流振幅AiにおいてモータトルクTが最大トルクTmaxになる電流位相θiである。例えば、電流振幅Ai1,Ai2,Ai3のMTPA点Pm1,Pm2,Pm3では、モータトルクTが最大トルクTmax1,Tmax2,Tmax3になる。また、MTPA点Pm1,Pm2,Pm3では、電流位相θiがMTPA電流位相θim1,θim2,θim3になる。
【0063】
MTPA特性を示すMTPA線Lmは、電流振幅Aiごとの最大トルクTmaxを通って延びている。MTPA線Lmは、電流振幅Aiと最大トルクTmaxとの関係を示している。MTPA線Lmは、所定の電流振幅Aiについて、最大トルクTmaxとMTPA電流位相θimとの関係を示している。最大トルクTmaxは、MTPA点Pmでの電流振幅Aiが大きいほど大きい。また、最大トルクTmaxは、MTPA点Pmでの電流位相θiが大きいほど大きい。なお、
図5では、電流振幅Ai1が最も大きく、電流振幅Ai3が最も小さい。
【0064】
図6に示すMTPA線Lmは、dq座標系でのMTPA特性を示している。MTPA線Lmは、MTPA点Pmについて、d軸MTPA電流Idmとq軸MTPA電流Iqmとの組み合わせを示す線である。MTPA点Pmは、dq座標系においてMTPA制御での電流ベクトルiを示す点である。d軸MTPA電流Idmは、MTPA点Pmでのd軸電流Idである。q軸MTPA電流Iqmは、MTPA点Pmでのq軸電流Iqである。
【0065】
MTPA線Lmは、所定のMTPA点Pmについて、MTPA電流振幅AimとMTPA電流位相θimとの組み合わせを示す線である。MTPA電流振幅Aimは、MTPA点Pmでの電流振幅Aiである。MTPA線Lmは、MTPA電流振幅Aimが大きいほどMTPA電流位相θimが大きくなるように、d軸とq軸との交点から曲がりながら延びている。例えば、MTPA点Pm1,Pm2,Pm3では、MTPA電流振幅Aim1及びMTPA電流位相θim1が最も大きく、MTPA電流振幅Aim3及びMTPA電流位相θim3が最も小さい。
【0066】
MTPA特性では、モータトルクTに応じてMTPA電流振幅Aim及びMTPA電流位相θimの両方が変化する。また、本実施形態のMTPA特性では、モータトルクTに応じてd軸MTPA電流Idm及びq軸MTPA電流Iqmの両方が変化する。例えば、本実施形態のMTPA線Lmでは、モータトルクTの変化に伴うq軸MTPA電流Iqmの増減が、モータトルクTの変化に伴うd軸MTPA電流Idmの増減よりも大きい。
【0067】
dq座標系では、モータトルクTの等トルク線LTが、MTPA線Lmに交差するように延びている。等トルク線LTは、所定のモータトルクTについて、d軸電流Idとq軸電流Iqとの組み合わせを示す線である。MTPA点Pmは、MTPA線Lmと等トルク線LTとが交差する位置にある。MTPA点Pmは、所定の等トルク線LTにおいて電流振幅Aiが最小になる点である。MTPA点Pmは、所定の等トルク線LTにおいてd軸とq軸との交点までの距離が最も短い点でもある。また、MTPA点Pmは、所定の等トルク線LTにおいて、インバータ回路85がモータ61に供給する供給電流の実効値が最小になる点でもある。例えば、等トルク線LT1,LT2,LT3には、MTPA点Pm1,Pm2,Pm3が含まれている。
【0068】
等トルク線LTは、d軸電流Idの変化量がq軸電流Iqの変化量よりも大きくなるように延びている。等トルク線LTでは、d軸電流Idが正側に大きいほどq軸電流Iqが正側に大きく、且つd軸電流Idが負側に大きいほどq軸電流Iqが正側で小さい。また、モータトルクTが大きい等トルク線LTほど、q軸電流Iqが正側に大きい位置にある。例えば、等トルク線LT1,LT2,LT3では、モータトルクTが最も大きい等トルク線LT1が最もq軸電流Iqが正側に大きい位置にある。また、モータトルクTが最も小さい等トルク線LT3が、q軸電流Iqが最も小さい位置にある。
【0069】
IPM式のモータでは、等トルク線LTがd軸に対して傾斜するように延びたトルク特性になりやすい。なお、SPM式のモータでも、等トルク線LTがd軸に対して傾斜するように延びたトルク特性になることがある。また、IPM式のモータでは、MTPA線Lmがd軸とq軸との交点から曲がりながら延びたMTPA特性になりやすい。なお、SPM式のモータでも、MTPA線Lmがd軸とq軸との交点から曲がりながら延びたMTPA特性になることがある。
【0070】
dq座標系では、電流ベクトルiの電流振幅線LAiが、MTPA線Lmに交差するように延びている。MTPA点Pmは、MTPA線Lmと電流振幅線LAiとが交差する位置にある。電流振幅線LAiは、所定のMTPA電流振幅Aimを有する電流ベクトルiについて、d軸電流Idとq軸電流Iqとの組み合わせを示す線である。MTPA点Pmは、電流振幅線LAiにおいてモータトルクTが最大になる点である。例えば、MTPA点Pm1,Pm2,Pm3は、電流振幅線LAi,LA2,LA3においてモータトルクTが最大になる点である。MTPA点Pmは、電流振幅線LAiがモータトルクTに接する点である。
【0071】
インバータ制御部81は、モータ制御を行うための機能を有している。例えば、インバータ制御部81は、MTPA特性を用いてMTPA制御を行う。
図4に示すように、インバータ制御部81は、機能ブロックとして、MTPA算出部91、電流指令部92、電流制御部93、電圧上限部94、電圧指令部95、電圧差分部96及び変更情報部97を有している。
【0072】
MTPA算出部91は、指令トルクT*を用いてd軸MTPA電流Idm及びq軸MTPA電流Iqmを算出する。指令トルクT*は、統括ECU40からの指令信号等に応じて算出される。指令トルクT*は、モータトルクTの指令値である。このため、インバータ制御部81は、モータトルクTが指令トルクT*になるようにモータ制御を行う。指令トルクT*は、モータ61を駆動させるためにインバータ装置80に要求されるトルクである。指令トルクT*は、要求トルクに相当する。指令トルクT*は、モータトルクTにとっての目標値であり、目標トルクと称されることがある。指令トルクT*は、インバータ装置80ごとに個別に設定されている。例えば、指令トルクT*は、インバータ装置801,802のそれぞれについて個別に設定されている。指令トルクT*は、モータ制御において目標として制御される目標制御量である。目標制御量としては、トルクや電流、電圧、モータ回転数などが用いられてもよい。
【0073】
MTPA算出部91は、MTPA情報を用いて指令トルクT*からMTPA電流Idm,Iqmを算出する。MTPA情報は、MTPA特性を示すMTPA線Lm等の情報である。MTPA情報は、MTPA特性でのモータトルクTと電流ベクトルiとの相関を示す相関情報である。MTPA情報には、モータトルクTとd軸電流Idやq軸電流Iq、電流振幅Ai、電流位相θiとの相関などが含まれている。上述したように、本実施形態のMTPA線Lmでは、モータトルクTに応じてd軸MTPA電流Idm及びq軸MTPA電流Iqmの両方が変化する。このため、MTPA算出部91は、モータトルクTに応じてd軸MTPA電流Idm及びq軸MTPA電流Iqmの両方を可変設定することになる。
【0074】
MTPA算出部91にとっては、MTPA電流Idm,Iqmを算出することが、MTPA電流振幅Aim及びMTPA電流位相θimを算出することになる。MTPA電流振幅Aimは、MTPA点Pmでの電流振幅Aiであり、MTPA電流位相θimは、MTPA点Pmでの電流位相θiである(
図6参照)。また、MTPA算出部91にとっては、MTPA電流Idm,Iqmを算出することが、MTPA点Pmの位置を取得することになる。
【0075】
MTPA情報としては、マップや演算式、関数などがある。マップとしては、指令トルクT*をMTPA電流Idm,Iqmに変換するための変換マップなどがある。この変換マップには、モータトルクTとd軸電流Id及びq軸電流Iqとの相関が含まれている。演算式としては、指令トルクT*をMTPA電流Idm,Iqmに変換するための変換式などがある。この変換式には、モータトルクTとd軸電流Id及びq軸電流Iqとの相関が含まれている。
【0076】
電流指令部92は、d軸MTPA電流Idm及びq軸MTPA電流Iqmを用いるなどして、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出する。d軸指令電流Id*は、d軸電流Idの指令値である。q軸指令電流Iq*は、q軸電流Iqの指令値である。電流指令部92にとっては、指令電流Id*,Iq*を算出することが、指令電流ベクトルi*、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出することになる。指令電流ベクトルi*は、電流ベクトルiの指令値である。指令電流振幅Ai*は、電流振幅Aiの指令値である。指令電流位相θi*は、電流位相θiの指令値である。
【0077】
電流指令部92は、指令保持部92a及び指令変更部92bを有している。指令保持部92aは、指令電流Id*,Iq*をMTPA電流Idm,Iqmと同じ値にする。例えば、指令保持部92aは、MTPA電流Idm,Iqmを指令電流Id*,Iq*に代入する。指令変更部92bは、指令電流Id*,Iq*をMTPA電流Idm,Iqmとは異なる値にする。指令変更部92bは、指令トルクT*やeVTOL情報を用いるなどして指令電流Id*,Iq*を算出する。なお、MTPA算出部91に加えて電流指令部92にも、指令トルクT*が入力される。
【0078】
電流制御部93は、フィードバック制御等により電流制御を行う。電流制御部93は、モータ61の電流Id,Iqが指令電流Id*,Iq*になるように、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を算出する。d軸指令電圧Vd*は、d軸電圧Vdの指令値である。q軸指令電圧Vq*は、q軸電圧Vqの指令値である。例えば、インバータ制御部81では、モータセンサの検出結果を用いるなどしてd軸電流Id及びq軸電流Iqが算出される。電流制御部93は、電流Id,Iqと指令電流Id*,Iq*との偏差がゼロになるように指令電圧Vd*,Vq*を算出する。
【0079】
インバータ制御部81は、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を用いてモータ制御を行う。例えば、インバータ制御部81では、指令電圧Vd*,Vq*が複数相の指令電圧に変換される。そして、インバータ制御部81では、複数相の指令電圧を用いるなどして駆動指令が生成され、この駆動指令がインバータ回路85に対して出力される。インバータ回路85は、駆動指令に応じて電力変換を行う。そして、インバータ回路85は、複数相の電流を供給電流としてモータ61に供給する。
【0080】
電流指令部92は、電圧上限部94や電圧指令部95、電圧差分部96、変更情報部97などからeVTOL情報を取得する。eVTOL情報は、eVTOL10の状態を示す情報である。eVTOL情報としては、飛行情報や機体情報、EPU情報、バッテリ情報などが含まれている。
【0081】
飛行情報は、eVTOL10の飛行状態を示す情報である。eVTOL10の飛行状態は、飛行モードに応じて変化する。飛行情報としては、eVTOL10の飛行モードや飛行高度、飛行速度、飛行時間、飛行履歴に関する情報などがある。飛行時間としては、eVTOL10が継続して飛行している継続飛行時間などがある。飛行履歴は、eVTOL10の過去の飛行に関する情報である。飛行時間は、飛行履歴に含まれていてもよい。eVTOL10の飛行状態は、移動体の移動状態に相当する。eVTOL10の飛行情報は、移動体の移動情報に相当する。eVTOL10の移動履歴は、移動体の移動履歴に相当する。移動情報は、移動体の移動状態に関する情報である。
【0082】
機体情報は、機体11の状態を示す情報である。機体情報としては、eVTOL10の重量に関する情報や、eVTOL10の異常の有無に関する情報などがある。eVTOL10の重量としては、機体11や乗員、積載物、荷物の重量などがある。eVTOL10の異常に関する情報としては、異常情報などがある。異常情報としては、eVTOL10での異常の有無を示す情報や、eVTOL10にて発生した異常の態様を示す情報などがある。異常情報は、eVTOL情報に含まれている。異常情報には、後述する、EPU50やモータ装置60、インバータ装置80での異常の有無に関する情報が含まれている。
【0083】
EPU情報は、EPU50の状態を示す情報である。EPU情報としては、EPU50の駆動時間に関する情報や、EPU50での異常の有無に関する情報、EPU50の駆動履歴に関する情報などがある。また、EPU情報としては、モータ情報やインバータ情報などがある。駆動履歴は、EPU50の過去の駆動に関する情報である。EPU50について、駆動時間は駆動履歴に含まれていてもよい。
【0084】
モータ情報は、モータ装置60の状態を示す情報である。モータ情報としては、モータ61の温度や回転数、駆動時間、駆動履歴に関する情報などがある。モータ61の温度としては、モータステータ62やモータロータ63の温度などがある。モータロータ63の温度としては、磁石の温度などがある。モータ61の駆動時間としては、モータ61が継続して駆動している駆動継続時間などがある。また、モータ情報としては、モータ装置60での異常の有無に関する情報などがある。駆動履歴は、モータ装置60の過去の駆動に関する情報である。モータ装置60について、駆動時間は駆動履歴に含まれていてもよい。
【0085】
インバータ情報は、インバータ装置80の状態を示す情報である。インバータ情報としては、インバータ装置80の温度や駆動時間、駆動履歴に関する情報などがある。インバータ装置80の駆動時間としては、インバータ制御部81がインバータ回路85を継続して駆動させている駆動継続時間などがある。また、インバータ情報としては、インバータ装置80での異常の有無に関する情報などがある。駆動履歴は、インバータ装置80の過去の駆動に関する樹夫法である。インバータ装置80について、駆動時間は駆動履歴に含まれていてもよい。
【0086】
バッテリ情報は、バッテリ31の状態を示す情報である。バッテリ情報としては、バッテリ31の温度や残量に関する情報などがある。また、バッテリ情報としては、バッテリ31での異常の有無に関する情報などがある。
【0087】
電圧上限部94は、eVTOL情報を用いるなどして電圧上限値Vulを算出する。電圧上限値Vulは、インバータ回路85がモータ61に出力可能な電圧の上限値である。電圧上限値Vulは、バッテリ31からインバータ回路85に印加される電圧に応じて算出される。例えば、電圧上限部94は、電圧上限値Vulをバッテリ31の電圧と同じ値にする。
【0088】
電圧指令部95は、指令電圧振幅Av*を算出する。指令電圧振幅Av*は、指令電圧ベクトルV*の振幅である。指令電圧振幅Av*は、指令電圧ベクトルV*の大きさを示している。指令電圧ベクトルV*は、電圧ベクトルVの指令値である。指令電圧ベクトルV*は、指令電圧Vd*,Vq*により算出される。電圧指令部95は、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を用いて指令電圧振幅Av*を算出する。例えば、電圧指令部95は、
図4に示す式F1を用いて指令電圧振幅Av*を算出する。電圧指令部95には、電流制御部93からd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*が入力される。
【0089】
電圧差分部96は、電圧上限値Vul及び指令電圧振幅Av*を用いて電圧差ΔVを算出する。電圧差ΔVは、電圧上限値Vulと指令電圧振幅Av*との差分である。電圧差分部96は、電圧上限値Vulから指令電圧振幅Av*を引いた値を差分として算出する。
【0090】
変更情報部97は、変更情報を取得する。変更情報は、指令変更部92bが指令電流Id*,Iq*をMTPA電流Idm,Iqmから変更するために必要な情報である。変更情報は、eVTOL情報に含まれている。例えば、変更情報としては、バッテリ31の残量や温度、モータ61の温度や駆動継続時間、インバータ装置80の温度や駆動継続時間などがある。また、変更情報としては、eVTOL10の離陸や着陸を含む飛行モードを示す情報などがある。
【0091】
電流指令部92は、電圧差ΔVや変更情報を用いるなどして指令電流Id*,Iq*を算出する。例えば、電圧差ΔVが、指令電圧振幅Av*が電圧上限値Vul以下であることを示す値である場合、電流指令部92は、指令保持部92aにより指令電流Id*,Iq*を算出する。一方、電圧差ΔVが、指令電圧振幅Av*が電圧上限値Vulよりも大きいことを示す値である場合、電流指令部92は、指令変更部92bにより指令電流Id*,Iq*を算出する。指令変更部92bは、eVTOL情報のうち変更情報を用いるなどして指令電流Id*,Iq*を算出する。
【0092】
図4では、MTPA算出部91をMTPA、電流指令部92をCCD、指令保持部92aをCHP、指令変更部92bをCCP、電流制御部93をFBU、と図示している。また、電圧上限部94をULS、電圧指令部95をVCU、変更情報部97をIAU、と図示している。
【0093】
インバータ制御部81は、推進制御処理を行う。推進制御処理について、
図7のフローチャートを参照しつつ説明する。インバータ制御部81は、推進制御処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。インバータ制御部81は、推進制御処理の各ステップの処理を実行する機能を有している。
【0094】
本実施形態では、インバータ装置801,802のそれぞれのインバータ制御部81が推進制御処理を行う。これらインバータ制御部81のそれぞれが実行する推進制御処理は、基本的に同じである。ここでは、基本的に、第1インバータ装置801にて実行される推進制御処理について説明する。
【0095】
第1インバータ装置801が実行する推進制御処理では、第1インバータ装置801が自インバータ装置と称され、第2インバータ装置802が他インバータ装置と称されることがある。
図8では、第1インバータ装置801が自INV、第2インバータ装置802が他INV、と図示されている。
【0096】
なお、第2インバータ装置802では、第1インバータ装置801と同様に、推進制御処理が実行される。第2インバータ装置802にて実行される推進制御処理では、第2インバータ装置802が自インバータ装置に該当し、第1インバータ装置801が他インバータ装置に該当する。本実施形態では、第2インバータ装置802にて実行される推進制御処理については説明を省略する。
【0097】
図7に示すように、インバータ制御部81は、ステップS101においてeVTOL情報を取得する。eVTOL情報は、移動体情報や飛行体情報に相当する。インバータ制御部81は、eVTOL10情報を取得することで、eVTOL10の状態を取得する。eVTOL10の状態には、eVTOL10の飛行状態や、モータ61の制御状態、eVTOL10の異常態様などが含まれている。インバータ制御部81におけるステップS101の処理を実行する機能が状態取得部に相当する。
【0098】
インバータ制御部81は、ステップS102において指令トルクT*を算出する。インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力などに応じて指令トルクT*を算出する。1つの推進装置15に対する要求出力は、eVTOL情報に含まれている。このため、インバータ制御部81は、eVTOL情報を用いて指令トルクT*を算出している。指令トルクT*は、インバータ制御部81によるモータ61の制御状態を示すパラメータである。指令トルクT*は、モータ61の制御に関する情報であり、制御情報に相当する。制御情報は、インバータ制御部81がモータ制御を行うための情報である。制御情報は、モータ61の制御状態を示す情報でもある。なお、モータ61の制御状態を示すパラメータとしては、指令電流Id*,Iq*や指令電流振幅Ai*、指令電圧振幅Av*などが用いられてもよい。
【0099】
例えば、統括ECU40が1つの推進装置15に対する要求出力をインバータ制御部81に対して出力した場合を想定する。この場合、インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力をインバータ装置801,802で分担するように、インバータ装置801,802のそれぞれについて指令トルクT*を算出する。例えば、インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力をインバータ装置801,802で50%ずつ負担するように、第1インバータ装置801に対する指令トルクT*を算出する。また、指令トルクT*に関する情報は、インバータ装置801,802の各インバータ制御部81が互いに授受することで、インバータ装置801,802で共有されてもよい。
【0100】
インバータ制御部81は、ステップS103において異常判定処理を行う。異常判定処理については、
図8のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0101】
図8に示すように、インバータ制御部81は、ステップS201においてモータ装置60の異常判定を行う。この異常判定では、eVTOL情報を用いて、モータ装置60の異常が発生したか否かの判定が行われる。モータ装置60の異常が発生した場合、インバータ制御部81は、ステップS202に進む。モータ装置60の異常は、EPU異常に含まれる。モータ装置60の異常としては、モータ61の異常や、モータハウジング70の異常などがある。
【0102】
EPU異常は、EPU50の異常である。EPU異常は、モータ61に関連する異常であり、モータ関連異常に相当する。EPU異常としては、モータ装置60の異常やインバータ装置80の異常などがある。EPU異常は、推進装置15にて発生した異常である。このため、EPU異常には、プロペラ20の異常やギア53の異常なども含まれる。
【0103】
インバータ制御部81は、ステップS202においてモータ61の駆動を停止させる。例えば、モータ61の駆動を停止させることを示す情報がインバータ装置801,802で共有される。そして、インバータ装置801,802の各インバータ制御部81がモータ61への電力供給を停止させる。インバータ制御部81は、ステップS203においてモータ異常処理を行う。このモータ異常処理では、モータ装置60の異常が発生したことや、モータ61の駆動を停止させたことなどが、統括ECU40やパイロットなどに報知される。
【0104】
モータ装置60の異常が発生していない場合、インバータ制御部81は、ステップS204に進み、第1インバータ装置801の異常判定を行う。すなわち、ステップS204では、自インバータ装置の異常判定が行われる。この異常判定では、eVTOL情報を用いて、第1インバータ装置801の異常が発生したか否かの判定が行われる。第1インバータ装置801の異常が発生した場合、インバータ制御部81は、ステップS205に進む。第1インバータ装置801の異常は、EPU異常に含まれる。第1インバータ装置801の異常としては、インバータ回路85の異常やインバータ制御部81の異常、インバータハウジング90の異常などがある。
【0105】
インバータ制御部81は、ステップS205において第1インバータ装置801の駆動を停止させる。すなわち、ステップS205では、自インバータ装置の駆動が停止される。例えば、インバータ制御部81は、第1インバータ装置801からモータ61への電力供給を停止させる。
【0106】
インバータ制御部81は、ステップS206において、第1インバータ装置801についてのインバータ異常処理を行う。すなわち、ステップS206では、自インバータ装置についてのインバータ異常処理が行われる。このインバータ異常処理では、第1インバータ装置801の異常が発生したことや、第1インバータ装置801の駆動を停止させたことなどが、統括ECU40やパイロット、第2インバータ装置802などに報知される。
【0107】
第1インバータ装置801の異常が発生していない場合、インバータ制御部81は、ステップS207に進み、第2インバータ装置802の異常判定を行う。すなわち、ステップS207では、他インバータ装置の異常判定が行われる。この異常判定では、eVTOL情報を用いて、第2インバータ装置802の異常が発生したか否かの判定が行われる。第2インバータ装置802の異常が発生した場合、インバータ制御部81は、ステップS208に進む。第2インバータ装置802の異常は、EPU異常に含まれる。が駆動部異常に相当する。この駆動部異常は、第2インバータ装置802でのインバータ回路85に関する異常である。
【0108】
インバータ制御部81は、ステップS208において第2インバータ装置802の駆動を停止させるための処理を行う。すなわち、ステップS208では、他インバータ装置の駆動を停止させるための処理が行われる。例えば、インバータ制御部81は、第2インバータ装置802の駆動を停止させるための信号を第2インバータ装置802に対して出力する。
【0109】
インバータ制御部81は、ステップS209において、第1インバータ装置801についての指令トルクT*を再算出する。すなわち、ステップS209では、自インバータ装置についての指令トルクT*が再算出される。インバータ制御部81は、第2インバータ装置802に関する異常情報を用いて指令トルクT*を算出する。この異常情報には、第2インバータ装置802の異常態様を示す情報などが含まれている。インバータ制御部81は、上記ステップS102にて算出した指令トルクT*を、本ステップS209にて算出した指令トルクT*に更新する。例えば、インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力の全てを第1インバータ装置801が負担するように、第1インバータ装置801に対する指令トルクT*を算出する。
【0110】
インバータ制御部81は、ステップS210において、第2インバータ装置802についてのインバータ異常処理を行う。すなわち、ステップS210では、他インバータ装置についてのインバータ異常処理が行される。このインバータ異常処理では、第2インバータ装置802の異常が発生したことや、第2インバータ装置802の駆動を停止させたことなどが、統括ECU40やパイロットなどに報知される。
【0111】
第2インバータ装置802に異常が発生していない場合、インバータ制御部81は、ステップS211に進み、推進異常判定を行う。推進異常判定では、他の推進装置15が駆動停止したか否かを判定する。他の推進装置15が駆動停止した場合としては、他の推進装置15が有するプロペラ20の回転が停止した場合などがある。推進異常としては、eVTOL10において少なくとも1つのプロペラ20が停止することなどがある。など、推進異常には、少なくとも1つの推進装置15の出力が低下することが含まれていてもよい。この場合、モータ61の出力トルクが低下することが推進異常に含まれることがある。
【0112】
インバータ制御部81は、ステップS212において、第1インバータ装置801についての指令トルクT*を再算出する。インバータ制御部81は、他の推進装置15に関する異常情報を用いて指令トルクT*を算出する。インバータ制御部81は、上記ステップS102にて算出した指令トルクT*を、本ステップS212にて算出した指令トルクT*に更新する。他の推進装置15が駆動停止した場合、統括ECU40は、eVTOL10の飛行を継続するために残りの推進装置15の出力を変更することがある。この場合、統括ECU40は、1つの推進装置15に対する要求出力を変更し、変更した要求出力をインバータ制御部81に対して出力する。インバータ制御部81は、変更された要求出力などに応じて指令トルクT*を算出する。
【0113】
インバータ制御部81は、ステップS213において推進異常処理を行う。この推進異常処理では、他の推進装置15が駆動停止したことなどが、統括ECU40やパイロットなどに報知される。
【0114】
図7に戻り、異常判定処理の後、インバータ制御部81は、ステップS104に進み、MTPA電流Idm,Iqmを算出する。すなわち、インバータ制御部81は、MTPA算出部91によりMTPA電流振幅Aim及びMTPA電流位相θimを算出する。MTPA電流位相θimは、モータトルクTが指令トルクT*になる範囲で最も小さい電流位相θiであり、最小用位相に相当する。インバータ制御部81におけるステップS104の処理を行う機能が最小算出部に相当する。
【0115】
インバータ制御部81は、ステップS105において電流制限線Uiを算出する。電流制限線Uiは、インバータ回路85が出力可能な電流ベクトルiの範囲を示している。例えば、電流制限線Uiは、インバータ回路85が出力可能なd軸電流Id及びq軸電流Iqの範囲を示している。電流制限線Uiの内側領域は、電流ベクトルiについてインバータ回路85が出力可能な範囲である。電流制限線Uiの外側領域は、電流ベクトルiについてインバータ回路85が出力しない範囲や出力できない範囲である。電流制限線Uiの外側領域は、インバータ回路85からの電流ベクトルiの出力が制限される電流制限範囲である。なお、電流制限線Uiは、電流制限線Uiの内側領域に含まれている。
【0116】
電流制限線Uiの位置や大きさは、eVTOL10の状態に応じて変化する。例えば、電流制限線Uiの位置や大きさは、モータ装置60やインバータ装置80、バッテリ31の状態などに応じて変化する。電流制限線Uiの位置や大きさが変化することは、モータ61が出力可能なモータトルクTの範囲や、モータ61に供給される電流ベクトルiの範囲が変化することを示す。インバータ制御部81は、モータ情報やインバータ情報、バッテリ情報などのeVTOL情報を用いて電流制限線Uiの位置や大きさを算出する。
【0117】
図9に示すように、電流制限線Uiは、制限中心点PLを中心として円状に延びた線である。電流制限線Uiの位置は、制限中心点PLの位置により決まる。制限中心点PLは、d軸上にある。例えば、制限中心点PLは、
図9に示す座標C1にある。座標C1では、Ldがd軸定常インダクタンスであり、φmが永久磁石によるコイル鎖交磁束である。
【0118】
電流制限線Uiの半径は、モータ61やプロペラ20が低速回転であるほど大きくなり、モータ61やプロペラ20が高速回転であるほど小さくなりやすい。また、電流制限線Uiの半径は、バッテリ31の電圧が正常範囲内で高いほど大きくなりやすく、バッテリ31の電圧が低いほど小さくなりやすい。すなわち、電流制限線Uiの半径は、インバータ回路85への印加電圧が正常範囲内で高いほど大きくなりやすく、インバータ回路85への印加電圧が低いほど小さくなりやすい。さらに、電流制限線Uiの半径は、バッテリ31の温度が正常範囲で高いほど大きくなりやすく、バッテリ31の温度が低いほど小さくなりやすい。バッテリ31の温度が正常範囲を越えて高い場合、電流制限線Uiの半径は小さくなりやすい。また、電流制限線Uiの半径は、モータ装置60やインバータ装置80の温度が高いほど電流制限線Uiの半径が小さくなりやすい。
【0119】
電流制限線Uiは、インバータ回路85が出力可能な電流振幅Aiの範囲や電流位相θiの範囲を示している。電流制限線Uiは、電流振幅Ai及び電流位相θiの許容範囲を示している。例えば、電流制限線Uiの内側領域が、電流振幅Ai及び電流位相θiにとっての許容範囲である。電流制限線Uiの内側領域は、位相範囲に相当する。電流位相θiにとっては、電流制限線Uiが位相範囲の限界値である。例えば、電流制限線Uiは、電流位相θiにとっての位相範囲の下限値を示している。
【0120】
図7に戻り、インバータ制御部81は、ステップS106においてインバータ制御部81がMTPA制御を実行可能であるか否かを判定する。この判定では、モータ装置60やインバータ装置80、バッテリ31などの状態がMTPA制御を実行可能な状態であるか否かの判定が行われる。インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にあるか否かを判定する。インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にある場合、MTPA制御を実行可能であると判断する。
【0121】
インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にあるか否かを判定することで、MTPA電流位相θimが電流位相θiの許容範囲に含まれているか否かを判定する。インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にある場合に、MTPA電流位相θimが電流位相θiの許容範囲に含まれていると判断する。
【0122】
例えば、
図9において、電流制限線Uiが電流制限線Ui1又は電流制限線Ui2である場合、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にあると判断する。一方、
図10において、電流制限線Uiが電流制限線Ui3又は電流制限線Ui4である場合、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にないと判断する。なお、
図9、
図10では、等トルク線LTのモータトルクTが指令トルクT*である。
【0123】
インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能である場合、インバータ制御部81は、ステップS107に進み、指令保持処理を行う。インバータ制御部81は、指令保持処理において、指令保持部92aによりMTPA電流Idm,Iqmを指令電流Id*,Iq*として設定する。換言すれば、インバータ制御部81は、MTPA電流振幅Aim及びMTPA電流位相θimを指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*として設定する。指令電流位相θi*は、電流位相θiの目標値であり、目標位相に相当する。インバータ制御部81におけるステップS107の処理を実行する機能が許容設定部に相当する。
【0124】
インバータ制御部81は、ステップS104,S107の処理により、モータトルクTが指令トルクT*になる範囲で電流振幅Aiが最も小さくなるように電流位相θiを調整する。また、インバータ制御部81は、ステップS104,S107の処理により、指令トルクT*が大きいほど電流位相θiが大きくなるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS104,S107の処理を実行する機能が最小調整部に相当する。
【0125】
インバータ制御部81は、ステップS104,S107の処理により、指令トルクT*に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS104,S107の処理を実行する機能がトルク用調整部に相当する。また、インバータ制御部81は、ステップS102,S104,S107の処理により、モータ61の制御状態やeVTOL10の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるS102,S104,S107の処理を実行する機能が制御用調整部及び位相調整部に相当する。
【0126】
インバータ制御部81は、異常判定処理のステップS209,S212にて指令トルクT*の再算出を行った場合に、ステップS209,S212,S104,S107の処理により、eVTOL10の異常状態等の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS209,S212,S104,S107の処理を実行する機能が異常用調整部及び位相調整部に相当する。
【0127】
異常判定処理のステップS209,S212にて指令トルクT*の再算出が行われた場合、ステップS104,S107にて算出される指令電流位相θi*は、異常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS209,S212,S104,S107において、電流位相θiが異常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS209,S212,S104,S107の処理を実行する機能が異常時調整部に相当する。異常用位相は、モータ異常が発生したことを示す電流位相である。異常用位相は、後述する正常用位相とは異なる位相である。
【0128】
一方、ステップS102にて指令トルクT*が算出された後、ステップS209,S212での指令トルクT*の再算出が行われない場合、ステップS104,S107にて算出される指令電流位相θi*は、正常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS102,S104,S107において、電流位相θiが正常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS102,S104,S107の処理を実行する機能が正常時調整部に相当する。正常用位相は、モータ異常が発生していないことを示す電流位相θiである。
【0129】
インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を設定した後、指令電流Id*,Iq*を介してMTPA電流Idm,Iqmによりモータ制御を行う。すなわち、インバータ制御部81は、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を介してMTPA電流振幅Aim及びMTPA電流位相θimによりモータ制御を行う。
【0130】
インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能でない場合、インバータ制御部81は、ステップS108に進む。インバータ制御部81は、ステップS108において、モータ61が指令トルクT*を出力可能であるか否かを判定する。この判定では、モータ装置60やインバータ装置80、バッテリ31などの状態が、モータ61に指令トルクT*を出力させることが可能な状態であるか否かの判定が行われる。インバータ制御部81は、トルク実現点Pnが振幅上限線UAiの内側にあるか否かを判定する。振幅上限線UAiは、インバータ制御部81により算出される。インバータ制御部81は、トルク実現点Pnが振幅上限線UAiの内側にある場合に、モータ61が指令トルクT*を出力可能であると判断する。なお、振幅上限線UAiの内側とは、振幅上限線UAiを含む領域である。
【0131】
図10において、振幅上限線UAiは、インバータ回路85が出力可能な電流振幅Aiの範囲を示している。振幅上限線UAiは、電流振幅Aiの許容範囲を示している。振幅上限線UAiの内側領域が、電流振幅Aiにとっての許容範囲であり、振幅範囲に相当する。電流振幅Aiにとっては、振幅上限線UAiが振幅範囲の限界値である。例えば、振幅上限線UAiは、電流振幅Aiにとっての振幅範囲の上限値を示している。
【0132】
振幅上限線UAiの内側領域は、電流振幅Aiについてインバータ回路85が出力可能な範囲である。振幅上限線UAiの外側領域は、電流振幅Aiについてインバータ回路85が出力しない範囲や出力できない範囲である。振幅上限線UAiは、d軸とq軸との交点を中心として円状に延びた線である。振幅上限線UAiの大きさは、eVTOL10の状態に応じて変化する。例えば、振幅上限線UAiの大きさは、モータ装置60やインバータ装置80の状態などに応じて変化する。インバータ制御部81は、モータ情報やインバータ情報、バッテリ情報などのeVTOL情報を用いて振幅上限線UAiの大きさを算出する。
【0133】
トルク実現点Pnは、指令トルクT*を実現するための電流ベクトルiを示す点である。トルク実現点Pnは、指令トルクT*を示す等トルク線LTにある。トルク実現点Pnは、電流振幅線LAiの外側にある。トルク実現点Pnは、電流振幅線LAiの外側にあることで、インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能でないことを示している。また、トルク実現点Pnは、電流振幅線LAiの外側にあることで、実現電流振幅AinがMTPA電流振幅Aimよりも大きいこと、及び実現電流位相θinがMTPA電流位相θimよりも大きいこと、を示している。実現電流振幅Ainは、トルク実現点Pnでの電流振幅Aiである。実現電流位相θinは、トルク実現点Pnでの電流位相θinである。
【0134】
また、トルク実現点Pnは、所定の等トルク線LTにおいて、MTPA点Pmよりもd軸電流Idが負側に大きいことを示している。例えば、d軸実現電流Idnは、d軸MTPA電流Idmよりも負側に大きい。d軸実現電流Idnは、トルク実現点Pnでのd軸電流Idである。さらに、トルク実現点Pnは、所定の等トルク線LTにおいて、MTPA点Pmよりもq軸電流Iqが正側に大きいことを示している。例えば、q軸実現電流Iqnは、q軸MTPA電流Iqmよりも正側に大きい。q軸実現電流Iqnは、トルク実現点Pnでのq軸電流Iqである。
【0135】
トルク実現点Pnは、振幅上限線UAiの内側にある。トルク実現点Pnは、振幅上限線UAiの内側にあることで、インバータ回路85がトルク実現点Pnでの電流振幅Ainを出力可能であることを示している。すなわち、トルク実現点Pnは、モータ61が指令トルクT*を出力可能であることを示している。
【0136】
トルク実現点Pnは、等トルク線LTと電流制限線Uiとの交点である。トルク実現点Pnは、等トルク線LTと電流制限線Uiとの交点であることで、インバータ回路85が出力可能な電流ベクトルiの上限を示している。例えば、トルク実現点Pnは、インバータ回路85が出力可能な電流振幅Aiの上限値及び電流振幅Aiの上限値を示している。
【0137】
例えば、
図10において、電流制限線Uiが電流制限線Ui3又は電流制限線Ui4である場合、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側になく、且つトルク実現点Pn3,Pn4が振幅上限線UAiの内側にあると判断する。この場合、インバータ制御部81は、インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能ではない一方で、モータ61が指令トルクT*を出力可能であるとして、ステップS109,S110の処理を行う。
【0138】
インバータ制御部81は、ステップS109,S110において、指令変更部92bにより指令電流Id*,Iq*を算出する。インバータ制御部81は、ステップS109において、d軸実現電流Idn及びq軸実現電流Iqnを算出する。インバータ制御部81にとっては、実現電流Idn,Iqnを算出することが、トルク実現点Pnを取得することである。また、インバータ制御部81にとっては、実現電流Idn,Iqnを算出することが、実現電流振幅Ain及び実現電流位相θinを算出することでもある。トルク実現点Pnは、インバータ制御部81がMTPA制御を実行できない場合でも、モータトルクTを指令トルクT*に保持可能な点である。
【0139】
例えば、
図10において、電流制限線Uiが電流制限線Ui3である場合、インバータ制御部81は、トルク実現点Pnとしてトルク実現点Pn3を取得する。トルク実現点Pn3は、指令トルクT*を示す等トルク線LTと電流制限線Ui3との交点である。トルク実現点Pn3での実現電流振幅Ain3は、MTPA電流振幅Aimより大きい。また、トルク実現点Pn3での実現電流位相θin3は、MTPA電流位相θimより大きい。
【0140】
電流制限線Uiが電流制限線Ui4である場合、インバータ制御部81は、トルク実現点Pnとしてトルク実現点Pn4を取得する。トルク実現点Pn3は、指令トルクT*を示す等トルク線LTと電流制限線Ui4との交点である。トルク実現点Pn4での実現電流振幅Ain4は、MTPA電流振幅Aim及び実現電流振幅Ain3より大きい。また、トルク実現点Pn4での実現電流位相θin4は、MTPA電流位相θim及び実現電流位相θin3より大きい。
【0141】
MTPA点Pmとトルク実現点Pn3,Pn4との間では、d軸MTPA電流Idmとd軸実現電流Idnとの差が、q軸MTPA電流Iqmとq軸実現電流Iqnとの差よりも大きい。このため、電流ベクトルiがMTPA点Pmからトルク実現点Pn3,Pn4に変更される場合、d軸電流Idの変化量がq軸電流Iqの変化量よりも大きい。例えば、インバータ制御部81は、ステップS109において、d軸MTPA電流Idmからのd軸実現電流Idnの変化量がq軸MTPA電流Iqmからのq軸実現電流Iqnの変化量よりも大きくなるように、実現電流Idn,Iqnを算出する。
【0142】
図7に戻り、インバータ制御部81は、ステップS110において指令変更処理を行う。インバータ制御部81は、実現電流Idn,Iqnを指令電流Id*,Iq*として設定する。換言すれば、インバータ制御部81は、実現電流振幅Ain及び実現電流位相θinを指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*として設定する。そして、インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を介して実現電流Idn,Iqnによりモータ制御を行う。
【0143】
実現電流位相θinは、モータトルクTが指令トルクT*になる範囲での位相範囲の限界値である。実現電流位相θinは、限界位相に相当する。インバータ制御部81におけるステップS109,S110の処理を実行する機能が上限設定部に相当する。
【0144】
インバータ制御部81は、ステップS109,S110の処理により、指令トルクT*に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS109,S110の処理を実行する機能がトルク用調整部に相当する。また、インバータ制御部81は、ステップS102,S109,S110の処理により、モータ61の制御状態やeVTOL10の状態に応じてeVTOL情報を用いて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるS102,S109,S110の処理を実行する機能が制御用調整部及び位相調整部に相当する。
【0145】
インバータ制御部81は、異常判定処理のステップS209,S212にて指令トルクT*の再算出を行った場合に、ステップS209,S212,S109,S110の処理により、eVTOL10の異常状態等の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS209,S212,S109,S110の処理を実行する機能が異常用調整部及び位相調整部に相当する。
【0146】
異常判定処理のステップS209,S212にて指令トルクT*の再算出が行われた場合、ステップS109,S110にて算出される指令電流位相θi*は、異常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS209,S212,S109,S110において、電流位相θiが異常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS209,S212,S109,S110の処理を実行する機能が異常時調整部に相当する。
【0147】
一方、ステップS102にて指令トルクT*が算出された後、ステップS209,S212での指令トルクT*の再算出が行われない場合、ステップS109,S110にて算出される指令電流位相θi*は、正常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS102,S109,S110において、電流位相θiが正常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS102,S109,S110の処理を実行する機能が正常時調整部に相当する。
【0148】
インバータ制御部81は、ステップS111においてMTPA異常処理を行う。このMTPA異常処理では、モータ61のMTPA制御が実行されていないことなどが、統括ECU40やパイロットなどに報知される。例えば、MTPA異常処理では、MTPA制御の実行時に比べて、モータ61の電流が増加しやすいことや、モータ61の温度が上昇しやすいことなどが報知される。また、MTPA異常処理では、モータ61が指令トルクT*を出力可能であることが報知される。例えば、MTPA異常処理では、モータ61のMTPA制御が実行されていなくてもモータトルクTが不足しにくいことなどが報知される。
【0149】
例えば、
図11において、電流制限線Uiが電流制限線Ui5である場合、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側になく、且つトルク実現点Pn5が振幅上限線UAiの内側にないと判断する。トルク実現点Pn5は、指令トルクT*を示す等トルク線LTと電流制限線Ui5との交点である。例えば、トルク実現点Pn5は、振幅上限線UAiの外側にある。この場合、インバータ制御部81は、インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能ではなく、且つモータ61が指令トルクT*を出力可能でないとして、ステップS112,S113の処理を行う。
【0150】
インバータ制御部81は、ステップS112,S113において、指令変更部92bにより指令電流Id*,Iq*を算出する。インバータ制御部81は、ステップS112において、d軸削減電流Ido及びq軸削減電流Iqoを算出する。インバータ制御部81にとっては、削減電流Ido,Iqoを算出することが、トルク削減点Poを取得することになる。トルク削減点Poは、指令トルクT*を示す等トルク線LTに対してモータトルクTを削減するための点である。トルク削減点Poは、電流制限線Ui及び振幅上限線UAiの両方の内側にあり、且つ指令トルクT*を示す等トルク線LTに最も近い点である。トルク削減点Poは、インバータ制御部81がMTPA制御を実行できず、且つモータ61が指令トルクT*を出力できない場合に、モータトルクTが極力不足しないようにするための点である。
【0151】
例えば、トルク削減点Poは、電流制限線Uiと振幅上限線UAiとの交点である。
図11において、電流制限線Uiが電流制限線Ui5である場合、トルク削減点Poは、電流制限線Ui5と振幅上限線UAiとの交点である。
【0152】
トルク削減点Poは、振幅上限線UAiの外側にあるトルク実現点Pn5に対して、削減電流振幅Aioが実現電流振幅Ainよりも小さい点である。削減電流振幅Aioは、トルク削減点Poでの電流振幅Aiである。また、トルク削減点Poは、トルク実現点Pn5に対して、削減電流位相θioが実現電流位相θinよりも大きい点である。削減電流位相θioは、トルク削減点Poでの電流位相θiである。インバータ制御部81にとっては、削減電流Ido,Iqoを算出することが、削減電流振幅Aio及び削減電流位相θioを算出することでもある。
【0153】
図7に戻り、インバータ制御部81は、ステップS113において指令変更処理を行う。インバータ制御部81は、指令変更処理として、削減電流Ido,Iqoを指令電流Id*,Iq*に代入することで、指令電流Id*,Iq*を算出する。そして、インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を介して削減電流Ido,Iqoによりモータ制御を行う。
【0154】
実現電流振幅Ainは、実現電流位相θinに対応した電流振幅Aiであり、限界振幅に相当する。インバータ制御部81は、ステップS112,S113において、モータトルクTが指令トルクT*よりも小さくなるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS112,S113の処理を実行する機能がトルク削減部に相当する。
【0155】
インバータ制御部81は、ステップS112,S113の処理により、指令トルクT*に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS112,S113の処理を実行する機能がトルク用調整部に相当する。また、インバータ制御部81は、ステップS102,S112,S113の処理により、モータ61の制御状態やeVTOL10の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるS102,S112,S113の処理を実行する機能が制御用調整部及び位相調整部に相当する。
【0156】
インバータ制御部81は、異常判定処理のステップS209,S212にて指令トルクT*の再算出を行った場合に、ステップS209,S212,S112,S113の処理により、eVTOL10の異常状態等の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS209,S212,S112,S113の処理を実行する機能が異常用調整部及び位相調整部に相当する。
【0157】
異常判定処理のステップS209,S212にて指令トルクT*の再算出が行われた場合、ステップS112,S113にて算出される指令電流位相θi*は、異常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS209,S212,S112,S113において、電流位相θiが異常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS209,S212,S112,S113の処理を実行する機能が異常時調整部に相当する。
【0158】
一方、ステップS102にて指令トルクT*が算出された後、ステップS209,S212での指令トルクT*の再算出が行われない場合、ステップS112,S113にて算出される指令電流位相θi*は、正常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS102,S112,S113において、電流位相θiが正常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS102,S112,S113の処理を実行する機能が正常時調整部に相当する。
【0159】
インバータ制御部81は、ステップS114においてトルク異常処理を行う。このトルク異常処理では、モータ61のMTPA制御が実行されていない状態で、モータ61が指令トルクT*を出力可能でないことなどが、統括ECU40やパイロットなどに報知される。例えば、トルク異常処理では、MTPA異常処理で報知される内容に加えて、モータトルクTが不足しやすいことなどが報知される。
【0160】
EPU50では、電流ベクトルi等の電流が小さいほど発熱量を抑えることができる。EPU50では、発熱が大きいほど冷却性能を確保するための機構が必要になるため、重くなりやすい。例えば、空冷式のEPU50では冷却性能が不足しやすいため、EPU50の発熱量を低減できないのであれば液冷を採用せざるを得ない。この場合、EPU50では、冷却液を循環させるための通路やポンプが必要になることで、重量が増加しやすい。また、空冷式のEPU50で冷却性能が不足しないようにするには、大型の空冷ファンや多量の放熱フィンをEPU50に設ける必要が生じてしまい、重量が増加しやすい。
【0161】
このようにEPU50の重量が増加することに対して、MTPA制御により最小電流で要求トルクを実現することは、EPU50が軽量であることが強く求められる航空機において極めて有用である。
【0162】
車両や船舶では、要求トルクを実現できないことが、要求速度や要求加速度を実現できないことを意味する。これに対して、eVTOL10等の航空機では、要求トルクを実現できないことが、飛行中の機体姿勢が不安定になりやすいことを意味する。このため、航空機では、要求トルクを実現できないと、車両や船舶より深刻な事態を招くことが懸念される。したがって、航空機では、通常時は最小電流となる電流位相でモータ制御を行う。そして、通常時でも、要求トルクを実現できても最小電流を実現できないという場合には、電流が大きくなっても要求トルクを実現できるように電流位相を調整する、ということは、航空機の電動推進装置の制御において極めて重要である。
【0163】
推進装置15では、設計段階でMTPA点Pmと電流制限線Uiとの関係を調整することが可能である。例えば、モータ61の駆動条件として、モータ出力が連続定格出力以下になるような駆動条件では、インバータ回路85が出力可能な電流範囲として電流制限線Uiの内側にMTPA点Pmが存在するように、推進装置15が設計されることが好ましい。また、モータ出力が連続定格出力を超えるような駆動条件では、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側に存在しないように、推進装置15が設計されてもよい。モータ出力が定格出力を超える場合としては、モータ出力が有限時間における定格出力を超える場合や、モータ出力が設計上の最大出力を超える場合などがある。
【0164】
モータ61の駆動条件としてあらゆる駆動条件でMTPA点Pmが電流制限線Uiの内側に存在するように推進装置15が設計された構成では、通常時に多く利用される連続定格出力以下の条件でかえってモータ61の効率が低下することが懸念される。また、この構成では、電源系が過度な設計になって重量やコスト増の要因になることが懸念される。例えば、想定されるワーストケースにおいても、MTPA特性が仕様範囲のうち電流制限範囲内に入るように設計されると、モータ61の効率が低下することや、推進装置15の重量及びコストが増加すること、などが懸念される。
【0165】
これに対して、モータ61の駆動条件として、使用頻度の高い定格連続定格出力以下の条件では、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側に存在することでMTPAを実現できるように、推進装置15が設計されることが好ましい。また、モータ61の駆動条件として、使用頻度の低い連続定格出力を超える条件では、電流位相をずらして要求トルクを実現できるように推進装置15が設計されることが好ましい。これらのように推進装置15が設計されることで、モータ61の効率や重量、コスト、トルク性能の最適化を図ることができる。
【0166】
ここまで説明した本実施形態によれば、インバータ制御部81は、電流ベクトルiについてeVTOL10の状態に応じて電流位相θiを調整する。この構成では、電流位相θiが調整されることで、モータトルクTを調整することが可能である。このため、電流ベクトルiについて電流振幅Aiを増加させなくても、モータトルクTを増加させることが可能である。このように電流位相θiを調整することでモータ61の効率を高めることができるため、推進装置15の省エネルギ化を実現できる。
【0167】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、モータ61の制御状態及びeVTOL10の異常状態に応じて電流位相θiを調整する。この構成では、モータ61の制御状態が変化しても、モータ61の効率が最も良くなるように電流位相θiを調整可能である。また、eVTOL10の異常が発生しても、モータ61の効率が最も良くなるように電流位相θiを調整可能である。これらのように、eVTOL10やモータ61の状態が変化したとしても、モータ61の効率が低下するということを電流位相θiの調整により抑制できる。
【0168】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、指令トルクT*に応じて電流位相θiを調整する。この構成では、指令トルクT*を実現できる電流ベクトルiのうち、電流振幅Aiが最も小さくなるように電流位相θiを調整することが可能である。このため、電流位相θiを調整することで、指令トルクT*に対するモータ61の効率を最も高くすることが可能である。
【0169】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、モータトルクTが指令トルクT*になる範囲で電流振幅Aiが最も小さくなるように電流位相θiを調整する。すなわち、インバータ制御部81は、要求トルクを実現するために必要なモータ61への供給電流の実効値が最小になるように電流位相θiを調整する。この構成では、指令トルクT*に対するモータ61の効率を最も高くすることができる。したがって、推進装置15では、指令トルクT*に対するエネルギ消費を最小にすることが可能になる。
【0170】
推進装置15では、電流振幅Aiが同じでも電流位相θiが異なることで、電流ベクトルiにより出力可能なモータトルクTの大きさが異なる。このため、指令トルクT*を実現するための電流振幅Aiが最小になるように電流位相θiを調整することで、指令トルクT*をモータ61にとって最も効率の良い条件で実現できる。すなわち、インバータ回路85からモータ61への供給電流の実効値が最小になるように電流位相θiを調整することで、モータ61の効率を最も良くすることが可能である。
【0171】
モータ61は、最大トルクTmaxが大きいほどMTPA電流振幅Aimが大きいというMTPA特性を有していることがある。すなわち、モータトルクTが大きいほど、所定のモータトルクTに対する電流振幅Aiが最小になる電流位相θiが大きい、という特性をモータ61が有していることがある。
【0172】
これに対して、本実施形態によれば、インバータ制御部81は、指令トルクT*が大きいほど電流位相θiが大きくなるように電流位相θiを調整する。この構成では、単に、指令トルクT*が大きいほど指令電流位相θiが大きい値に調整されることで、所定の指令トルクT*に対する指令電流振幅Ai*が最小になりやすい。このため、指令トルクT*が大きいほど電流位相θiを大きくするという簡易な位相調整が行われることで、モータ61の効率を最も高い状態にすることが可能である。
【0173】
本実施形態では、インバータ回路85に供給される電力の電圧が変動すると、モータ61が出力可能なモータトルクTの範囲や、モータ61に供給される電流ベクトルiの範囲が変化する。例えば、通常時にインバータ回路85に通常電圧が印加されることで、指令トルクT*を満たすための指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*が実現されるとする。これに対して、インバータ回路85への印加電圧が通常電圧よりも低下すると、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を実現できないことが懸念される。
【0174】
これに対して、本実施形態では、モータトルクTが指令トルクT*になるように、インバータ回路85への印加電圧に応じて、電流制限線Uiを介して電流位相θiが調整される。例えば、インバータ回路85への印加電圧が通常電圧よりも低下した場合、電流制限線Uiの半径が小さくされることで電流位相θiが調整される。この場合、インバータ回路85に通常電圧が印加された場合に比べて電流振幅Aiが増加するという条件を許容することで、モータトルクTが指令トルクT*になるようにモータ61が駆動される。このように、インバータ回路85への印加電圧が変化しても、電流振幅Aiの増加など所定の条件を許容することで、モータ61について指令トルクT*を実現することができる。
【0175】
インバータ回路85への印加電圧と同様に、本実施形態では、モータ回転数が変動すると、モータ61が出力可能なモータトルクTの範囲や、モータ61に供給される電流ベクトルiの範囲が変化する。例えば、通常時にモータ回転数が通常回転数であることで、指令トルクT*を満たすための指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*が実現されるとする。これに対して、モータ回転数が通常回転数よりも増加すると、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を実現できないことが懸念される。
【0176】
これに対して、本実施形態では、モータトルクTが指令トルクT*になるように、モータ回転数に応じて、電流制限線Uiを介して電流位相θiが調整される。例えば、モータ回転数が通常回転数よりも増加した場合、電流制限線Uiの半径が小さくされることで電流位相θiが調整される。この場合、モータ回転数が通常回転数である場合に比べて電流振幅Aiが増加するという条件を許容することで、モータトルクTが指令トルクT*になるようにモータ61が駆動される。このように、モータ回転数が変化しても、電流振幅Aiの増加など所定の条件を許容することで、モータ61について指令トルクT*を実現することができる。
【0177】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、MTPA電流位相θimを有するMTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にある場合に、MTPA電流位相θimを指令電流位相θiとして設定する。この構成では、モータトルクTが指令トルクT*になる範囲で電流振幅Aiを最小にすることができる。このように、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にある場合には、指令トルクT*に対するエネルギ消費を最小化することができる。
【0178】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にない場合に、トルク実現点Pnが有する実現電流位相θinを指令電流位相θiとして設定する。トルク実現点Pnでは、MTPA点Pmに比べて電流振幅Aiが大きくなることを許容すれば、モータトルクTが指令トルクT*になるように電流位相θiが調整される。このように、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にない場合でも、指令トルクT*を実現することができる。このため、eVTOL10の推進にとってモータトルクTが不足するということを回避できる。
【0179】
本実施形態では、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にない場合、電流ベクトルiがMTPA点Pmからトルク実現点Pnに変更される。この場合、インバータ制御部81は、d軸MTPA電流Idmからd軸実現電流Idnへの変化量がq軸MTPA電流Iqmからq軸実現電流Iqnの変化量よりも大きくなるように、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出する。すなわち、インバータ制御部81は、電流ベクトルiのd軸成分がq軸成分よりも大きく変化するように、指令電流位相θiを算出する。したがって、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にない場合でも、電流ベクトルiのd軸成分をq軸成分よりも優先的に調整することで、モータトルクTが不足するということを抑制できる。
【0180】
dq座標系では、インバータ回路85が出力可能な電流範囲が、d軸上にある制限中心点PLを中心とした電流制限線Uiにより円で示される。インバータ回路85の出力可能範囲が変わるとは、電流制限線Uiの半径が変わることや制限中心点PLの位置が変わることを意味する。dq座標系では、電流制限線Uiに加えて等トルク線LTが描かれると、電流制限線Uiと等トルク線LTとの交点がトルク実現点Pnになる。電流制限線Uiの半径の変化に対するトルク実現点Pnの位置の変化については、d軸方向の変化量がq軸方向の変化量よりも大きい。このため、インバータ回路85の出力可能範囲がバッテリ31の電圧低下などの影響で変化した場合、電流ベクトルiのd軸成分をq軸成分よりも優先的に調整することで、モータトルクTの不足を回避する観点で電流位相θiを適切に調整することができる。
【0181】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、トルク実現点Pnが振幅上限線UAiの内側にない場合に、モータトルクTが指令トルクT*よりも小さくなるように電流位相θiを調整する。この場合、インバータ制御部81は、トルク削減点Poが有する削減電流位相θioを指令電流位相θi*に設定する。トルク削減点Poでは、モータトルクTが指令トルクT*より小さくなること、及び電流振幅Aiが指令電流振幅Ai*よりも小さくなることを許容すれば、モータトルクTが極力大きくなるように電流位相θiが調整される。このように、トルク実現点Pnが振幅上限線UAiの内側にない場合には、モータトルクTの不足分を極力小さくすることができる。
【0182】
本実施形態によれば、EPU異常が発生していない場合、インバータ制御部81は、電流位相θiが正常用位相になるように電流位相θiを調整する。この場合、電流位相θiの調整によりモータ61の効率を向上させることができる。一方、EPU異常が発生した場合、インバータ制御部81は、電流位相θiが異常用位相になるように電流位相θiを調整する。この場合、インバータ制御部81は、異常用位相を正常用位相とは異なる位相にすることなどにより、EPU異常の態様などに合わせて電流位相θiを適正に調整できる。
【0183】
例えば、EPU異常の発生に伴って第2インバータ装置802が停止されたとしても、1つの推進装置15が出力するトルクが不足しないように、第1インバータ装置801の出力で第2インバータ装置802の出力停止分を補うことが可能である。そして、EPU異常の発生に伴って第1インバータ装置801に対する指令トルクT*が変更された場合には、第1インバータ装置801において、指令トルクT*の変更に合わせて指令電流位相θi*が変更されることで最適な電流位相θiを得ることができる。このように、1つの推進装置15が複数のインバータ装置80を有していることで、eVTOL10の冗長性を高めることができる。
【0184】
本実施形態によれば、電流位相θiは、モータロータ63の磁極に対する電流ベクトルiの位相である。このため、電流位相θiを調整することでモータトルクTが増減する構成を実現できる。すなわち、電流位相θiを調整することでモータ61の効率が向上する構成を実現できる。
【0185】
本実施形態では、推進装置15により推進する移動体がeVTOL10である。電流位相θiを調整することでモータ61の効率を高めることは、eVTOL10の飛行安全性を高める上で効果的である。eVTOL10等の航空機では、推進装置15が軽量であり、且つ推進装置15の安全性が高いことが求められる。この推進装置15において、電流位相θiの調整による最小電流の実現は、電費改善や発熱抑制などの効果を得ることができ、さらに、重量面や安全面でも有効である。
【0186】
本実施形態では、電流位相θiの調整によりモータ61の効率を高めることで、モータ61の発熱やインバータ回路85の発熱を抑制することができる。すなわち、推進装置15の発熱を抑制することができる。このため、空冷による推進装置15の冷却効果が、例えば液冷式による冷却効果より低いとしても、電流位相θiの最適化で推進装置15での発熱自体を抑制することにより、推進装置15の温度が過剰に高くなるということを抑制できる。したがって、推進装置15を軽量化できるという空冷式の利点を推進装置15に付与した上で、推進装置15の温度上昇を抑制できる。
【0187】
なお、推進装置15に液冷式が適用されたeVTOL10では、冷却用の液体やこの液体を循環させる液冷モータがeVTOL10や推進装置15に搭載される。このため、eVTOL10の重量が冷却用の液体や液冷モータの分だけ増加しやすい。
【0188】
eVTOL10がマルチコプタであるため、eVTOL10での異常発生に伴って一部のプロペラ20が停止しても、残りのプロペラ20によりeVTOL10の飛行を継続することが可能である。ただし、一部のプロペラ20の停止に伴って駆動可能なプロペラ20の数が少なくなるため、駆動可能なプロペラ20に対して要求される出力が変わる。このため、駆動可能なプロペラ20を駆動させるインバータ制御部81にとって、最適な電流位相θiが変わることになる。
【0189】
これに対して、本実施形態では、推進異常により他のプロペラ20が停止した場合に、指令トルクT*の再算出が行われることで、他のプロペラ20の停止に合わせて電流位相θiが調整される。このため、インバータ制御部81は、他のプロペラ20が停止した分の出力を補うようにモータ61の出力トルクを増加させることが可能である。
【0190】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能でない場合に、インバータ制御部81は、d軸指令電流Id*をd軸MTPA電流Idmから変更し、且つq軸指令電流Iq*をq軸MTPA電流Iqmから変更する。これに対して、第2実施形態では、インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能でない場合に、インバータ制御部81は、d軸指令電流Id*をd軸MTPA電流Idmから変更する一方で、q軸指令電流Iq*をq軸MTPA電流Iqmから変更しない。第2実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第2本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0191】
図12に示すように、インバータ制御部81は、機能ブロックとして、MTPA算出部101及び電流指令部102を有している。MTPA算出部101は、上記第1実施形態のMTPA算出部91と同様に、指令トルクT*に応じてMTPA電流Idm,Iqmを算出する。MTPA算出部101は、MTPA線Lm等のMTPA情報を用いて指令トルクT*からMTPA電流Idm,Iqmを算出する。
【0192】
MTPA算出部101が用いるMTPA情報では、d軸MTPA電流IdmがモータトルクTと共に増減する一方で、q軸MTPA電流Iqmがほぼ増減しない。
図13に示すように、MTPA算出部101が用いるMTPA線Lmは、d軸にほぼ平行に延びている。例えば、MTPA線Lmは、q軸に重なる位置にある。所定のMTPA線Lmでは、モータトルクTに応じてd軸MTPA電流Idmが変化する一方で、モータトルクTに関係なくq軸MTPA電流Iqmが所定値に保たれる。本実施形態のMTPA線Lmでは、上記第1実施形態のMTPA線Lmと同様に、モータトルクTに応じてMTPA電流振幅Aim及びMTPA電流位相θimの両方が変化する。
【0193】
本実施形態では、等トルク線LTがq軸にほぼ平行に延びている。すなわち、本実施形態の等トルク線LTは、MTPA線Lmに直交する方向に延びている。モータトルクTが大きい等トルク線LTほど、d軸の負側に大きい位置にある。
【0194】
本実施形態では、ロータの表面に磁石が設けられている。例えば、モータ61は、SPM式のモータである。SPM式のモータでは、等トルク線LTがd軸に平行に延びたトルク特性になりやすい。また、SPM式のモータでは、MTPA線Lmがq軸に平行に延びたMTPA特性になりやすい。
【0195】
MTPA点Pmは、上記第1実施形態と同様に、MTPA線Lmと等トルク線LTとが交差する位置にある。また、MTPA点Pmは、上記第1実施形態と同様に、電流振幅線LAiに接する点である。例えば、
図13に示すようにMTPA点Pmがq軸上にある場合、MTPA算出部101は、q軸電流Iqの大きさをq軸MTPA電流Iqmとして算出する。この場合、MTPA算出部101は、d軸MTPA電流Idmをゼロと算出する。
【0196】
図12に戻り、MTPA算出部101は、q軸指令電流Iq*を算出する。MTPA算出部101は、q軸指令電流Iq*をq軸MTPA電流Iqmと同じ値にする。例えば、MTPA算出部101は、q軸MTPA電流Iqmをq軸指令電流Iq*に代入する。
【0197】
電流指令部102は、d軸指令電流Id*を算出する。電流指令部102は、指令保持部102a及び指令変更部102bを有している。指令保持部102aは、d軸指令電流Id*をd軸MTPA電流Idmと同じ値にする。例えば、指令保持部102aは、d軸MTPA電流Idmをd軸指令電流Id*に代入する。指令変更部102bは、d軸指令電流Id*をd軸MTPA電流Idmとは異なる値にする。指令変更部102bは、指令トルクT*やeVTOL10情報を用いるなどしてd軸指令電流Id*を算出する。電流指令部102は、電圧上限部94や電圧指令部95、電圧差分部96、変更情報部97などからeVTOL情報を取得する。
【0198】
なお、MTPA算出部101に加えて電流指令部102にも、指令トルクT*が入力される。また、MTPA算出部101から電流指令部102にd軸MTPA電流Idmが入力される。
図12では、MTPA算出部101をMTPA、電流指令部102をCCD、指令保持部102aをCHP、指令変更部102bをCCP、と図示している。
【0199】
MTPA算出部101は、q軸指令電流Iq*を電流制御部93に対して出力する。電流指令部102は、d軸指令電流Id*を電流制御部93に対して出力する。電流制御部93は、MTPA算出部101から入力されるq軸指令電流Iq*と、電流指令部102から入力されるd軸指令電流Id*と、を用いて電流制御を行う。
【0200】
インバータ制御部81は、上記第1実施形態と同様に、
図7に示す推進制御処理においてステップS101~S114の処理を行う。例えば、インバータ制御部81は、ステップS104において、MTPA算出部101によりMTPA電流Idm,Iqmを算出する。
【0201】
例えば
図13において、電流制限線Uiが電流制限線Ui11である場合、インバータ制御部81は、ステップS106において、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側にあると判断する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS107に進み、指令保持部102aにより指令電流Id*,Iq*を算出する。
【0202】
例えば
図13において、電流制限線Uiが電流制限線Ui12又は電流制限線Ui13である場合、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側になく、且つトルク実現点Pn12,Pn13が振幅上限線UAiの内側にあると判断する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS109,S110において、指令変更部102bにより指令電流Id*,Iq*を算出する。インバータ制御部81は、ステップS109において、上記第1実施形態と同様にd軸実現電流Idnを算出する一方で、q軸実現電流Iqnにq軸MTPA電流Iqmを代入してq軸実現電流Iqnを算出する。インバータ制御部81は、電流制限線Uiに対するトルク実現点Pnの位置調整として、d軸MTPA電流Idmに対するd軸実現電流Idnの調整を行う一方で、q軸MTPA電流Iqmに対するq軸実現電流Iqnの調整を行わない。
【0203】
インバータ制御部81は、上記第1実施形態と同様に、ステップS110において指令変更処理を行う。なお、インバータ制御部81は、ステップS109においてd軸実現電流Idnを算出せず、ステップS110においてd軸MTPA電流Idmをd軸指令電流Id*に代入してもよい。
【0204】
例えば
図13において、電流制限線Uiが電流制限線Ui14である場合、インバータ制御部81は、MTPA点Pmが電流制限線Uiの内側になく、電流制限線Uiの外側にトルク実現点Pnが存在しないと判断する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS112,S113において、指令変更部92bにより指令電流Id*,Iq*を算出する。インバータ制御部81は、上記第1実施形態と同様に、ステップS112において削減電流Ido,Iqoを算出することでトルク削減点Poを取得する。
【0205】
<第3実施形態>
第3実施形態では、インバータ制御部81がMTPA制御を実行可能でない場合に、eVTOL10の飛行モードに応じて電流位相θiが調整される。第3実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第3本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0206】
本実施形態では、推進制御処理について、
図14に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
図14において、インバータ制御部81は、上記第1実施形態と同様に、ステップS101~S107の処理を行う。ステップS106についてインバータ制御部81がMTPA制御を実行可能でない場合、インバータ制御部81は、ステップS301に進み、飛行用制御処理を行う。飛行用制御処理については、
図15に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0207】
図15に示すように、インバータ制御部81は、ステップS401において飛行モードを取得する。例えば、インバータ制御部81は、飛行モードを含む飛行情報を取得する。
【0208】
インバータ制御部81は、ステップS402においてeVTOL10の重量を取得する。インバータ制御部81は、eVTOL10の重量に関する重量情報を取得する。例えば、eVTOL10の重量には、基準重量及び追加重量が含まれている。基準重量は、eVTOL10の総重量から追加重量を除いた重量である。基準重量としては、機体11の重量などがある。追加重量は、eVTOL10の総重量のうち増減する重量である。追加重量としては、例えば乗員や積載物、荷物の重量などがある。
【0209】
インバータ制御部81は、ステップS403において推進システム30の状態を取得する。インバータ制御部81は、推進システム30の状態に関するシステム情報を取得する。システム情報には、バッテリ31の残量や温度、モータ装置60の温度、インバータ装置80の温度などが含まれている。インバータ装置80の温度としては、インバータ回路85の温度や、インバータ制御部81の温度、インバータハウジング90の温度などがある。
【0210】
インバータ制御部81は、ステップS404において飛行履歴を取得する。例えば、インバータ制御部81は、飛行履歴を含む飛行情報を取得する。
【0211】
インバータ制御部81は、ステップS405~S415において、eVTOL10の飛行状態やeVTOL10の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS405~S415の処理を実行する機能が飛行用調整部、移動用調整部及び位相調整部に相当する。
【0212】
インバータ制御部81は、ステップS405においてeVTOL10が離陸するか否かを判定する。eVTOL10の離陸としては、垂直離陸がある。eVTOL10が離陸する場合としては、eVTOL10が離陸の準備中である場合や、eVTOL10が離陸中である場合などがある。
【0213】
eVTOL10が離陸する場合、インバータ制御部81は、ステップS408に進み、離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1を算出する。離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1は、eVTOL10を離陸させるために必要な電流振幅Ai及び電流位相θiである。離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1は、試験等によりあらかじめ定められた値であり、メモリ83等に記憶されている。
【0214】
インバータ制御部81にとっては、離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1を算出することが、d軸離陸電流Idf1及びq軸離陸電流Iqf1を算出することでもある。d軸離陸電流Idf1及びq軸離陸電流Iqf1は、eVTOL10を離陸させるために必要なd軸電流Idである。
【0215】
インバータ制御部81は、ステップS409において、離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1を用いて指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。換言すれば、インバータ制御部81は、離陸電流Idf1,Iqf1を用いて指令電流Id*,Iq*を算出する。そして、インバータ制御部81は、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を介して離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1によりモータ制御を行う。換言すれば、インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を介して離陸電流Idf1,Iqf1によりモータ制御を行う。
【0216】
インバータ制御部81は、ステップS408,S409により、eVTOL10の離陸に合わせて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS408,S409の処理を実行する機能が離陸用調整部に相当する。
【0217】
また、インバータ制御部81は、ステップS409において、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて、離陸電流振幅Aif1及び離陸電流位相θif1から指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。インバータ制御部81は、ステップS408,S409により、eVTOL10の重量と、eVTOL10の飛行履歴と、バッテリ31の残量と、モータ61の温度と、の少なくとも1つに応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS408,S409の処理を実行する機能が特定調整部に相当する。
【0218】
eVTOL10が離陸するのではない場合、インバータ制御部81は、ステップS406に進み、eVTOL10が着陸するか否かを判定する。eVTOL10の着陸としては、垂直着陸がある。eVTOL10が着陸する場合としては、eVTOL10が着陸の準備中である場合や、eVTOL10が着陸中である場合などがある。
【0219】
eVTOL10が着陸する場合、インバータ制御部81は、ステップS410に進み、着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2を算出する。着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2は、eVTOL10を着陸させるために必要な電流振幅Ai及び電流位相θiである。着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2は、試験等によりあらかじめ定められた値であり、メモリ83等に記憶されている。
【0220】
インバータ制御部81にとっては、着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2を算出することが、d軸着陸電流Idf2及びq軸着陸電流Iqf2を算出することでもある。d軸着陸電流Idf2及びq軸着陸電流Iqf2は、eVTOL10を着陸させるために必要なd軸電流Idである。
【0221】
インバータ制御部81は、ステップS411において、着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2を用いて指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。換言すれば、インバータ制御部81は、着陸電流Idf2,Iqf2を用いて指令電流Id*,Iq*を算出する。そして、インバータ制御部81は、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を介して着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2によりモータ制御を行う。換言すれば、インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を介して着陸電流Idf2,Iqf2によりモータ制御を行う。
【0222】
インバータ制御部81は、ステップS410,S411により、eVTOL10の着陸に合わせて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS410,S411の処理を実行する機能が着陸用調整部に相当する。
【0223】
また、インバータ制御部81は、ステップS411において、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて、着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2から指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。例えば、インバータ制御部81は、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて着陸電流振幅Aif2及び着陸電流位相θif2を補正する。インバータ制御部81は、ステップS410,S411により、eVTOL10の重量と、eVTOL10の飛行履歴と、バッテリ31の残量と、モータ61の温度と、の少なくとも1つに応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS410,S411の処理を実行する機能が特定調整部に相当する。
【0224】
eVTOL10が離陸するのでもなく着陸するのでもない場合、インバータ制御部81は、ステップS407に進み、eVTOL10が水平飛行するか否かを判定する。eVTOL10が水平飛行する場合としては、eVTOL10が水平飛行の準備中である場合や、eVTOL10が水平飛行中である場合などがある。
【0225】
eVTOL10が水平飛行する場合、インバータ制御部81は、ステップS412に進み、水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3を算出する。水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3は、eVTOL10を水平飛行させるために必要な電流振幅Ai及び電流位相θiである。水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3は、試験等によりあらかじめ定められた値であり、メモリ83等に記憶されている。
【0226】
インバータ制御部81にとっては、水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3を算出することが、d軸水平電流Idf3及びq軸水平電流Iqf3を算出することでもある。d軸水平電流Idf3及びq軸水平電流Iqf3は、eVTOL10を水平飛行させるために必要なd軸電流Idである。
【0227】
インバータ制御部81は、ステップS413において、水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3を用いて指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。換言すれば、インバータ制御部81は、水平電流Idf3,Iqf3を用いて指令電流Id*,Iq*を算出する。そして、インバータ制御部81は、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を介して水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3によりモータ制御を行う。換言すれば、インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を介して水平電流Idf3,Iqf3によりモータ制御を行う。
【0228】
インバータ制御部81は、ステップS412,S413により、eVTOL10の水平飛行に合わせて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS412,S413の処理を実行する機能が水平用調整部に相当する。
【0229】
また、インバータ制御部81は、ステップS413において、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて、水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3から指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。例えば、インバータ制御部81は、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて水平電流振幅Aif3及び水平電流位相θif3を補正する。インバータ制御部81は、ステップS412,S413により、eVTOL10の重量と、eVTOL10の飛行履歴と、バッテリ31の残量と、モータ61の温度と、の少なくとも1つに応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS412,S413の処理を実行する機能が特定調整部に相当する。
【0230】
eVTOL10が離陸するのでもなく着陸するのでもなく水平飛行するのでもない場合、インバータ制御部81は、eVTOL10が停止飛行すると判断する。eVTOL10が停止飛行する場合としては、eVTOL10が停止飛行の準備中である場合や、eVTOL10が停止飛行中である場合などがある。
【0231】
eVTOL10が停止飛行する場合、インバータ制御部81は、ステップS414に進み、停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4を算出する。停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4は、eVTOL10を着陸させるために必要な電流振幅Ai及び電流位相θiである。停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4は、試験等によりあらかじめ定められた値であり、メモリ83等に記憶されている。
【0232】
インバータ制御部81にとっては、停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4を算出することが、d軸停止電流Idf4及びq軸停止電流Iqf4を算出することでもある。d軸停止電流Idf4及びq軸停止電流Iqf4は、eVTOL10を着陸させるために必要なd軸電流Idである。
【0233】
インバータ制御部81は、ステップS415において、停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4を用いて指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。換言すれば、インバータ制御部81は、停止電流Idf4,Iqf4を用いて指令電流Id*,Iq*を算出する。そして、インバータ制御部81は、指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を介して停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4によりモータ制御を行う。換言すれば、インバータ制御部81は、指令電流Id*,Iq*を介して停止電流Idf4,Iqf4によりモータ制御を行う。
【0234】
インバータ制御部81は、ステップS414,S415により、eVTOL10の着陸に合わせて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS414,S415の処理を実行する機能が着陸用調整部に相当する。
【0235】
また、インバータ制御部81は、ステップS415において、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて、停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4から指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*を算出する。例えば、インバータ制御部81は、重量情報、システム情報及び飛行情報の少なくとも1つを用いて停止電流振幅Aif4及び停止電流位相θif4を補正する。インバータ制御部81は、ステップS414,S415により、eVTOL10の重量と、eVTOL10の飛行履歴と、バッテリ31の残量と、モータ61の温度と、の少なくとも1つに応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるステップS414,S415の処理を実行する機能が特定調整部に相当する。
【0236】
図14に戻り、インバータ制御部81は、ステップS301の飛行用制御処理の少なくとも一部等により、eVTOL10の飛行状態に合わせて電流位相θiを調整する。また、インバータ制御部81は、ステップS103の異常判定処理等により、eVTOL10の異常状態に応じて電流位相θiを調整する。さらに、インバータ制御部81は、ステップS102,S104,S107の処理等により、モータ61の制御状態に応じて電流位相θiを調整する。
【0237】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、モータ61の制御状態と、eVTOL10の異常状態と、eVTOL10の飛行状態と、に応じて電流位相θiを調整する。この構成では、モータ61の制御状態が変化した場合、eVTOL10の異常が発生した場合、eVTOL10の飛行状態が変化する場合、のいずれにおいてもモータ61の効率が最も良くなるように電流位相θiを調整可能である。したがって、上記第1実施形態と同様に、eVTOL10やモータ61の状態が変化したとしても、モータ61の効率が低下するということを電流位相θiの調整により抑制できる。
【0238】
eVTOL10では、eVTOL10が飛行するために必要な推進装置15の出力が、飛行状態に応じてある程度決まった値になりやすいと考えられる。すなわち、eVTOL10を飛行させるために必要な電流位相θiが、飛行状態に応じてある程度決まった値になりやすいと考えられる。
【0239】
これに対して、本実施形態によれば、インバータ制御部81は、eVTOL10の飛行状態に応じて電流位相θiを調整する。この構成では、インバータ制御部81が、都度の指令トルクT*を用いて指令電流位相θi*を算出するという必要がない。このため、eVTOL10の飛行に際してインバータ制御部81の処理負担を低減できる。しかも、電流位相θiは、eVTOL10の飛行状態に応じて調整されるため、都度の飛行状態にとってモータ61の出力トルクの過不足が生じるということを抑制できる。したがって、インバータ制御部81の処理負担を低減しつつ、eVTOL10の安全性を高めることができる。
【0240】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、eVTOL10の重量と、eVTOL10の飛行履歴と、バッテリ31の残量と、モータ61の温度と、の少なくとも1つに応じて電流位相θiを調整する。この構成では、eVTOL10の重量や飛行履歴、バッテリ31の残量、モータ61の温度に応じて、電流位相θiを介してモータトルクTを制御できる。このため、eVTOL10の重量や飛行履歴、バッテリ31の残量、モータ61の温度に対してモータトルクTの過不足が生じるということを抑制できる。
【0241】
eVTOL10では、離陸開始直後などの飛行開始直後と着陸完了直前などの飛行終了直前とで、バッテリ31の残量や、バッテリ31の温度、モータ装置60の温度、インバータ装置80の温度など、機体11や推進システム30の状態が大きく異なる。例えば、バッテリ31の残量が少なくなるとインバータ回路85が出力可能な電流範囲が狭くなりやすい。また、バッテリ31やモータ装置60、インバータ装置80の温度が適温範囲から高温側や低温側にずれると、インバータ回路85が出力可能な範囲が狭くなりやすい。モータ61では、磁石の温度によって磁束の状態が変わりやすい。eVTOL10では、飛行を継続することで、バッテリ31の残量が減りやすい。また、モータ装置60やインバータ装置80では、駆動による発熱が生じることで、eVTOL10の飛行開始直後に比べるとモータ61やインバータ回路85の温度が上がりやすい。
【0242】
これに対して、本実施形態では、バッテリ31の残量やモータ61の温度に応じて電流位相θiが調整される。このため、eVTOL10の飛行に際して、バッテリ31の残量の減り度合いや、モータ61の温度の上り度合いどに合わせて電流位相θiを適正に調整できる。また、本実施形態では、eVTOL10の飛行時間やモータ61の駆動履歴に応じて電流位相θiが調整される。このため、eVTOL10の飛行に際して、飛行に伴って減少するバッテリ31の残量や、飛行に伴って上昇するモータ61の温度などに合わせて、電流位相θiを適正に調整できる。
【0243】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、離陸、着陸及び水平飛行を含む飛行モードに合わせて電流位相θiを調整する。このため、インバータ制御部81は、eVTOL10の離陸、着陸及び水平飛行のそれぞれについて個別に指令トルクT*を算出する、という必要がない。このため、eVTOL10が離陸や着陸、水平飛行を行う場合に、インバータ制御部81の処理負担を低減できる。
【0244】
eVTOL10では、eVTOL10の状態や飛行条件などによって指令トルクT*が変化しやすい。飛行条件としては、飛行モードや天候、飛行速度、追加重量などがある。特に、翼13等の固定翼があるeVTOL10では、eVTOL10の飛行モードに応じて指令トルクT*が変化しやすい。
【0245】
例えば、eVTOL10が垂直離陸する場合、離陸に必要な力を全てプロペラ20の回転によって生み出す必要がある。eVTOL10が垂直離陸する場合は、飛行モードの中で最も大きなモータトルクTが必要になりやすい。このため、eVTOL10が垂直離陸するために要求される指令トルクT*は、他の飛行モードで要求される指令トルクT*に比べて大きくなりやすい。eVTOL10の離陸が垂直離陸でなくても、eVTOL10の離陸時には、他の飛行モードに比べて指令トルクT*が大きくなりやすい。
【0246】
eVTOL10が離陸する場合、eVTOL10が目的地まで飛行するためにバッテリ31が満充電に近い状態になっている可能性が高い。このため、インバータ回路85が出力可能な電流範囲が広くなりやすい。
【0247】
eVTOL10が水平飛行する場合、水平飛行のために必要なモータトルクTは、eVTOL10が離陸するために必要なモータトルクTに比べて小さくなりやすい。このため、水平飛行時の指令トルクT*は、離陸時の指令トルクT*より小さくなりやすい。特に、固定翼があるeVTOL10では、水平飛行時の指令トルクT*が離陸時の指令トルクT*よりも小さくなりやすい。eVTOL10では、水平飛行に必要な力を固定翼が生み出す浮力に頼ることができる。
【0248】
eVTOL10が着陸する場合、着陸のために必要なモータトルクTは、eVTOL10が離陸するために必要なモータトルクTに比べて小さくなりやすい。このため、着陸時の指令トルクT*は、離陸時の指令トルクT*より小さくなりやすい。eVTOL10の着陸が垂直着陸の場合、垂直着陸時の指令トルクT*は、水平飛行時の指令トルクT*よりも大きくなりやい。このように、垂直着陸時の指令トルクT*は、飛行モードの中で離陸時の指令トルクT*に次いで大きくなりやすい。一方、eVTOL10の着陸が垂直着陸でない場合、着陸時の指令トルクT*は、水平飛行時の指令トルクT*と同等の指令トルクT*になりやすい。
【0249】
これらのように、eVTOL10の離陸時と水平飛行時と着陸時とでは、指令トルクT*に差が生じやすい。このため、本実施形態のように、eVTOL10の離陸時に必要な指令トルクT*を試験等により取得し、この取得結果から電流位相θif1~θif4を算出しておくことで、電流位相θiをeVTOL10の飛行モードに応じて調整できる。この場合、電流位相θiを指令トルクT*に応じて調整する構成に比べて、モータ61の効率が若干低下しやすくなるが、電流位相θiを調整するための処理を簡素化できる。
【0250】
また、eVTOL10では、指令トルクT*が飛行モードに加えてeVTOL10の重量に応じて変化しやすい。このため、電流位相θiが飛行モードとeVTOL10の重量とに応じて調整されることで、モータ61の効率が低下しにくくなる。
【0251】
<第4実施形態>
上記第1実施形態では、EPU50がモータ装置60を1つだけ有している一方で、インバータ装置80を複数有している。これに対して、第4実施形態では、EPU50がモータ装置60及びインバータ装置80を複数ずつ有している。第4実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第4本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0252】
図16に示すように、EPU50は、モータ装置60として、第1モータ装置601及び第2モータ装置602を有している。第1モータ装置601は、第1インバータ装置801に軸方向ADに並べられている。第2モータ装置602は、第2インバータ装置802に軸方向ADに並べられている。第1モータ装置601と第2モータ装置602とは、径方向RDに並べられている。第1インバータ装置801と第2インバータ装置802とは、上記第1実施形態とは異なり、径方向RDに並べられている。
【0253】
なお、モータ装置601,602及びインバータ装置801,802は、推進装置15に含まれていれば、どのように並べられていてもよい。例えば、第1モータ装置601と第2モータ装置602とが軸方向ADに並べられていてもよい。また、第1インバータ装置801と第2インバータ装置802とが軸方向ADに並べられていてもよい。
【0254】
本実施形態では、
図17において、1つのインバータ装置80が1つのモータ装置60を制御する。例えば、第1インバータ装置801が第1モータ装置601を制御する。第1インバータ装置801では、インバータ回路85が第1モータ装置601のモータステータ62に電力を供給する。第1インバータ装置801は、第1バッテリ311の電力を用いて第1モータ装置601を駆動する。第2インバータ装置802は、第2モータ装置602を制御する。第2インバータ装置802では、インバータ回路85が第2モータ装置602のモータステータ62に電力を供給する。第2インバータ装置802は、第2バッテリ312の電力を用いて第2モータ装置602を駆動する。
【0255】
インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力をモータ装置601,602で分担するように、インバータ装置801,802のそれぞれについて指令トルクT*を算出する。例えば、インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力をモータ装置601,602で50%ずつ負担するように、第1インバータ装置801に対する指令トルクT*を算出する。
【0256】
インバータ制御部81は、上記第1実施形態と同様に、推進制御処理及び異常判定処理を行う。本実施形態では、異常判定処理について、
図18のフローチャートを参照しつつ説明する。ここでは、上記第1実施形態と同様に、第1インバータ装置801にて実行される異常判定処理について説明する。
【0257】
本実施形態では、第1インバータ装置801が実行する推進制御処理について、第1モータ装置601が自モータ装置と称され、第2モータ装置602が他モータ装置と称されることがある。
図18では、第1モータ装置601が自MOT、第2モータ装置602が他MOT、と図示される。
【0258】
なお、第2インバータ装置802では、上記第1実施形態と同様に、第1インバータ装置801と同様に、推進制御処理が実行される。第2インバータ装置802にて実行される推進制御処理では、第2モータ装置602が自モータ装置に該当し、第1モータ装置601が他モータ装置に該当する。本実施形態では、上記第1実施形態と同様に、第2インバータ装置802にて実行される推進制御処理については説明を省略する。
【0259】
図18に示すように、インバータ制御部81は、ステップS501において第1モータ装置601の異常判定を行う。すなわち、ステップS501では、自モータ装置の異常判定が行われる。この異常判定では、eVTOL情報を用いて、第1モータ装置601の異常が発生したか否かの判定が行われる。第1モータ装置601の異常が発生した場合、インバータ制御部81は、ステップS502に進む。第1モータ装置601の異常は、EPU異常に含まれる。第1モータ装置601の異常としては、モータ61の異常やモータハウジング70の異常などがある。
【0260】
インバータ制御部81は、ステップS502において第1モータ装置601の駆動を停止させる。すなわち、ステップS502では、自モータ装置の駆動が停止される。例えば、インバータ制御部81は、第1インバータ装置801から第1モータ装置601への電力供給を停止させる。
【0261】
インバータ制御部81は、ステップS503において第1モータ装置601についてのモータ異常処理を行う。すなわち、ステップS503では、自モータ装置についてのモータ異常処理が行われる。このモータ異常処理では、第1モータ装置601の異常が発生したことや、第1モータ装置601の駆動を停止させたことなどが、第2インバータ装置802や統括ECU40、パイロットなどに報知される。
【0262】
第1モータ装置601に異常が発生していない場合、インバータ制御部81は、ステップS504に進み、第2モータ装置602の異常判定を行う。すなわち、ステップS504では、他モータ装置の異常判定が行われる。この異常判定では、eVTOL情報を用いて、第2モータ装置602の異常が発生したか否かの判定が行われる。第2モータ装置602に異常が発生した場合、インバータ制御部81は、ステップS505に進む。第2モータ装置602の異常は、EPU異常に含まれる。第2モータ装置602の異常としてはモータ61の異常やモータハウジング70の異常などがある。
【0263】
インバータ制御部81は、ステップS505において第2モータ装置602の駆動を停止させるための処理を行う。すなわち、ステップS505では、他モータ装置の駆動を停止させるための処理が行われる。例えば、インバータ制御部81は、第2モータ装置602の駆動を停止させるための信号を第2インバータ装置802に対して出力する。
【0264】
インバータ制御部81は、ステップS506において、第1インバータ装置801についての指令トルクT*を再算出する。すなわち、ステップS506では、自インバータ装置についての指令トルクT*が再算出される。インバータ制御部81は、1つの推進装置15に対する要求出力の全てを第1モータ装置601が出力するように、第1インバータ装置801に対する指令トルクT*を算出する。
【0265】
インバータ制御部81は、ステップS507において第2モータ装置602についてのモータ異常処理を行う。すなわち、ステップS507では、他モータ装置についてのモータ異常処理が行われる。このモータ異常処理では、第2モータ装置602の異常が発生したことや、第2モータ装置602の駆動を停止させたことなどが、統括ECU40やパイロットなどに報知される。
【0266】
第2モータ装置602に異常が発生していない場合、インバータ制御部81は、上記第1実施形態と同様に、ステップS204~S213の処理を行う。
【0267】
インバータ制御部81は、ステップS507にて指令トルクT*の再算出を行った場合に、ステップS507,S104,S107,S109,S110,S112,S113の処理により、eVTOL10の異常状態等の状態に応じて電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるS507,S104,S107,S109,S110,S112,S113の処理を実行する機能が異常用調整部及び位相調整部に相当する。
【0268】
ステップS507にて指令トルクT*の再算出が行われた場合、ステップS104,S107,S109,S110,S112,S113にて算出される指令電流位相θi*は、異常用位相に相当する。この場合、インバータ制御部81は、ステップS504,S104,S107,S109,S110,S112,S113において、電流位相θiが異常用位相になるように電流位相θiを調整する。インバータ制御部81におけるS504,S104,S107,S109,S110,S112,S113の処理を実行する機能が異常時調整部に相当する。
【0269】
本実施形態によれば、インバータ制御部81は、EPU異常の発生に伴って第2モータ装置602が停止された場合に、第1モータ装置601の出力トルクで第2モータ装置602の停止分を補うことが可能である。この場合、1つの推進装置15が出力するトルクが不足する、ということを第1モータ装置601により抑制できる。第2モータ装置602の停止に伴って第1モータ装置601に対する指令トルクT*が変更された場合には、第1インバータ装置801において、指令トルクT*の変更に合わせて指令電流位相θi*が変更されることで最適な電流位相θiを得ることができる。このように、1つの推進装置15が複数のモータ装置60を有していることで、eVTOL10の冗長性を高めることができる。
【0270】
<第5実施形態>
上記第1実施形態では、EPU50がインバータ装置80を複数有している一方で、モータ装置60を1つだけ有している。これに対して、第5実施形態では、EPU50がモータ装置60及びインバータ装置80を1つずつ有している。第5実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については上記第1実施形態と同様である。第5本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0271】
図19に示すように、EPU50では、1つのモータ装置60と、1つのインバータ装置80とが軸方向ADに並べられている。なお、モータ装置60とインバータ装置80とは、径方向RDに並べられていてもよい。
【0272】
本実施形態では、上記第4実施形態と同様に、1つのインバータ装置80が1つのモータ装置60を制御する。一方で、1つの推進装置15では、モータ装置60及びインバータ装置80のうち一方の駆動が異常発生などに伴って停止された場合、プロペラ20の回転が停止される。すなわち、推進装置15の駆動が停止される。この場合、eVTOL10では、残りのプロペラ20により飛行が継続される。残りの推進装置15では、1つの推進装置15の駆動停止に伴って、プロペラ20やモータ61に対する要求トルクが変更される。
【0273】
<他の実施形態>
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、又は組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0274】
上記各実施形態において、インバータ制御部81は、モータ61の制御状態と、eVTOL10の異常状態と、eVTOL10の飛行状態と、の少なくとも1つに応じて電流位相θiを調整してもよい。インバータ制御部81は、モータ61の制御状態と、eVTOL10の異常状態と、eVTOL10の飛行状態と、のうち1つだけに応じて電流位相θiを調整してもよい。
【0275】
上記各実施形態において、インバータ制御部81は、離陸、着陸及び水平飛行の少なくとも1つに合わせて電流位相θiを調整してもよい。例えば、上記第3実施形態において、インバータ制御部81は、離陸、着陸及び水平飛行の1つだけに合わせて電流位相θiを調整してもよい。また、インバータ制御部81は、離陸、着陸、水平飛行及び停止飛行の少なくとも1つに合わせて電流位相θiを調整してもよい。
【0276】
上記各実施形態において、インバータ制御部81は、電流振幅Ai及び電流位相θiを用いてモータ制御を行ってもよい。例えば、上記第1実施形態において、インバータ制御部81は、電流振幅Ai及び電流位相θiが指令電流振幅Ai*及び指令電流位相θi*になるように、指令電圧Vd*,Vq*を算出してもよい。
【0277】
上記各実施形態において、モータ装置60の異常判定とインバータ装置80の異常判定とは、どちらが先に行われてもよい。例えば上記第1実施形態では、第1インバータ装置801の異常判定及び第2インバータ装置802の異常判定の少なくとも一方が行われた後に、モータ装置60の異常判定が行われてもよい。また、上記第3実施形態では、第1インバータ装置801の異常判定及び第2インバータ装置802の異常判定の少なくとも一方が行われた後に、第1モータ装置601の異常判定及び第2モータ装置602の異常判定の少なくとも一方が行われてもよい。例えば、第1モータ装置601の異常判定及び第1インバータ装置801の異常判定が行われた後に、第2モータ装置602の異常判定及び第2インバータ装置802の異常判定が行われてもよい。
【0278】
上記各実施形態において、インバータ制御部81及び統括ECU40の少なくとも一方が推進制御処理を行ってもよい。例えば上記第1実施形態において、統括ECU40が第1インバータ装置801及び第2インバータ装置802のそれぞれについてモータ制御を行ってもよい。
【0279】
上記各実施形態において、メモリ43,83に記憶されたプログラムの少なくとも一部は、OTAなど無線通信を介して書き換えられてもよい。OTAは、Over the Airの略称である。
【0280】
上記各実施形態において、統括ECU40が搭載される垂直離着陸機は、少なくとも1つのプロペラ20を少なくとも1つのEPU50が駆動するという電動式の垂直離着陸機であればよい。例えば、1つのプロペラ20を複数のEPU50が駆動する構成でもよく、複数のプロペラ20を1つのEPU50が駆動する構成でもよい。
【0281】
上記各実施形態において、EPU50が搭載される飛行体は、電動式であれば、垂直離着陸機でなくてもよい。例えば、飛行体は、電動航空機として、滑走を伴う離着陸が可能な飛行体でもよい。さらに、飛行体は、回転翼機又は固定翼機でもよい。飛行体は、人が乗らない無人飛行体でもよい。また、パイロットは、飛行体を遠隔操作してもよい。
【0282】
上記各実施形態において、EPU50が搭載される移動体は、回転体の回転により移動可能であれば、飛行体でなくてもよい。例えば、移動体は、車両、船舶、建設機械、農業機械であってもよい。例えば、移動体が車両や建設機械などである場合、回転体は移動用の車輪などであり、出力軸部は車軸などである。移動体が船舶である場合、回転体は推進用のスクリュープロペラなどであり、出力軸部はプロペラ軸などである。
【0283】
上記各実施形態において、統括ECU40やインバータ制御部81は、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、ハードウェアである少なくとも1つのプロセッサを含む。このプロセッサをハードウェアプロセッサと称すると、ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、又は(iii)により提供することができる。
【0284】
(i)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、プログラム及びデータの少なくとも一方を格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0285】
(ii)ハードウェアプロセッサは、少なくとも1つのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、例えばCPUと称される。メモリは、記憶媒体とも称される。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラム及びデータの少なくとも一方」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。
【0286】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、又は共通のチップの上に配置される。
【0287】
すなわち、統括ECU40やインバータ制御部81が提供する手段及び機能の少なくとも一方は、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組み合わせにより提供することができる。
【0288】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0289】
(技術的思想1)
移動体(10)を推進させる推進装置(15)であって、
前記移動体を推進させるために駆動するモータ(61)と、
前記移動体の状態を取得する状態取得部(S101)と、
前記状態取得部により取得された前記移動体の状態に応じて、前記モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整する位相調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)と、
を備えている推進装置。
【0290】
(技術的思想2)
前記位相調整部は、
前記移動体の状態としての前記モータの制御状態に応じて前記電流位相を調整する制御用調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113)と、
前記移動体の状態としての前記移動体の異常の有無を含む異常状態に応じて前記電流位相を調整する異常用調整部(S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S506)と、
前記移動体の状態としての前記移動体の移動状態に応じて前記電流位相を調整する移動用調整部(S405~S415)と、
の少なくとも1つを有している技術的思想1に記載の推進装置。
【0291】
(技術的思想3)
前記モータを駆動させるモータ駆動部(80,801,802)、を備え、
前記位相調整部は、
前記モータのモータトルク(T)について前記モータ駆動部に要求される要求トルク(T*)に応じて前記電流位相を調整するトルク用調整部(S104,S107,S109,S110,S112,S113)と、
を有している技術的思想1又は2に記載の推進装置。
【0292】
(技術的思想4)
前記トルク用調整部は、
前記モータトルクが前記要求トルクになる範囲で前記モータ電流が最も小さくなるように前記電流位相を調整する最小調整部(S104,S107)、を有している技術的思想3に記載の推進装置。
【0293】
(技術的思想5)
前記最小調整部は、前記要求トルクが大きいほど前記電流位相が大きくなるように前記電流位相を調整する、技術的思想4に記載の推進装置。
【0294】
(技術的思想6)
前記トルク用調整部は、
前記電流位相について、前記モータトルクが前記要求トルクになる範囲で前記モータ電流が最も小さい最小用位相(θim)を算出する最小算出部(S104)と、
前記最小用位相が前記電流位相の許容範囲である位相範囲(Ui)に含まれている場合に、前記最小用位相を前記電流位相の目標値である目標位相(θi*)として設定する許容設定部(S107)と、
を有している技術的思想3~5のいずれか1つに記載の推進装置。
【0295】
(技術的思想7)
前記トルク用調整部は、
前記最小用位相が前記位相範囲に含まれていない場合に、前記モータトルクが前記要求トルクになる範囲での前記位相範囲の限界値である限界位相(θin)を前記目標位相として設定する上限設定部(S109,S110)、を有している技術的思想6に記載の推進装置。
【0296】
(技術的思想8)
前記トルク用調整部は、
前記限界位相に対応した電流振幅(Ai)である限界振幅(Ain)が前記電流振幅の許容範囲である振幅範囲(UAi)に含まれていない場合に、前記モータトルクが前記要求トルクよりも小さくなるように前記電流位相を調整するトルク削減部(S112,S113)、を有している技術的思想7に記載の推進装置。
【0297】
(技術的思想9)
前記位相調整部は、
前記モータに関連するモータ関連異常が発生していない場合に、前記電流位相が正常用位相になるように前記電流位相を調整する正常時調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113)と、
前記モータ関連異常が発生した場合に、前記電流位相が異常用位相になるように前記電流位相を調整する異常時調整部(S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S506)と、
を備えている技術的思想1~8のいずれか1つに記載の推進装置。
【0298】
(技術的思想10)
前記移動体は、前記モータの駆動により飛行する飛行体(10)であり、
前記位相調整部は、
前記飛行体の飛行状態に応じて前記電流位相を調整する飛行用調整部(S405~S415)、を有している技術的思想1~9のいずれか1つに記載の推進装置。
【0299】
(技術的思想11)
前記位相調整部は、
前記移動体の重量と、前記移動体の移動履歴と、前記モータに電力を供給する蓄電装置(31)の残量と、前記モータの温度と、の少なくとも1つに応じて前記電流位相を調整する特定調整部(S408~S415)、を有している技術的思想1~10のいずれか1つに記載の推進装置。
【0300】
(技術的思想12)
前記移動体は、前記モータの駆動により飛行する飛行体(10)であり、
前記位相調整部は、
前記飛行体の離陸に合わせて前記電流位相を調整する離陸用調整部(S408,S409)と、
前記飛行体の着陸に合わせて前記電流位相を調整する着陸用調整部(S410,S411)と、
前記飛行体の水平飛行に合わせて前記電流位相を調整する水平用調整部(S412,S413)と、
の少なくとも1つを有している技術的思想1~11のいずれか1つに記載の推進装置。
【0301】
(技術的思想13)
前記モータは、前記モータ電流が流れるステータ(62)と、前記ステータに対して回転するロータ(63)と、を有しており、
前記電流位相は、前記ロータの磁極に対する前記モータ電流の位相である、技術的思想1~12のいずれか1つに記載の推進装置。
【0302】
(技術的思想14)
移動体(10)を推進させるために駆動するモータ(61)を有する推進装置(15)、を制御する推進制御装置(81)であって、
前記移動体の状態を取得する状態取得部(S101)と、
前記状態取得部により取得された前記移動体の状態に応じて、前記モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整する位相調整部(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)と、
を備えている推進制御装置。
【0303】
(技術的思想15)
移動体(10)を推進させるために駆動するモータ(61)を有する推進装置(15)、を制御する推進制御プログラムであって、
少なくとも1つの処理部(82)に、
前記移動体の状態を取得させ(S101)、
取得された前記移動体の状態に応じて、前記モータに流れるモータ電流(i)の電流位相(θi)を調整させる(S102,S104,S107,S109,S110,S112,S113,S209,S212,S405~S415,S506)、推進制御プログラム。
【符号の説明】
【0304】
10…移動体及び飛行体としてのeVTOL、15…推進装置、61…モータ、62…ステータとしてのモータステータ、63…ロータとしてのモータロータ、81…推進制御装置としてのインバータ制御部、82…処理部としてのプロセッサ、Ai…電流振幅、Ain…限界振幅としての実現電流振幅、UAi…振幅範囲としての振幅上限線、i…モータ電流としての電流ベクトルUi…位相範囲としての電流制限線、θi…電流位相、θim…最小用位相としてのMTPA電流位相、θin…限界位相としての実現電流位相、θi*…目標位相としての指令電流位相。