(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167792
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】高速3次元データ生成システム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/245 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
G01B11/245 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084117
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】390005164
【氏名又は名称】株式会社フォトロン
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 剛史
(72)【発明者】
【氏名】福永 泰大
(72)【発明者】
【氏名】安 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】長濱 司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敦
(72)【発明者】
【氏名】瀧水 隆
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD06
2F065FF01
2F065FF04
2F065FF09
2F065FF42
2F065HH06
2F065HH12
2F065HH14
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ08
2F065JJ26
2F065QQ01
2F065QQ24
2F065QQ25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】超高速で移動する対象物の動態や、極めて短時間で形状が変化する対象物、例えば、膨張途中のエアバッグの時々刻々の形状変化を、任意の方向及び任意の位置から、高精度、且つ、高い時間分解能で計測する高速3次元データ生成システムを提供する。
【解決手段】高速3次元データ生成システム1は、対象物の表面にパターンを投影する少なくとも1つのプロジェクタと、前記パターンが表面に投影された前記対象物が変形または移動する様子を複数方向から、500fps(frame per second)以上の高フレームレートで撮影する複数台の高速度カメラと、前記複数台の高速度カメラが撮影した各フレームについて、前記複数台の高速度カメラの撮影データに含まれる前記パターンにもとづいて前記対象物の3次元データを生成する生成部である3Dデータ再構成機能、レンダリング機能及び表示制御機能を有する高速3次元データ生成装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面にパターンを投影する少なくとも1つのプロジェクタと、
前記パターンが表面に投影された前記対象物が変形または移動する様子を複数方向から、500fps(frame per second)以上の高フレームレートで撮影する複数台の高速度カメラと、
前記複数台の高速度カメラが撮影した各フレームについて、前記複数台の高速度カメラの撮影データに含まれる前記パターンにもとづいて前記対象物の3次元データを生成する生成部と、
を備えた高速3次元データ生成システム。
【請求項2】
ディスプレイをさらに備え、
前記生成部は、
前記各フレームについて生成された前記対象物の3次元データを、超スロービデオを含む任意のフレームレートの動画として前記ディスプレイに表示させる、
請求項1記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項3】
前記対象物の形状及び位置の少なくとも一方の時間的変化をコンピュータで算出したシミュレーションデータを取得する取得部と、
をさらに備えた請求項2に記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項4】
前記生成部は、
前記シミュレーションデータと、前記各フレームについて生成された前記対象物の3次元データとを、比較前記ディスプレイに、両者を比較可能な態様で表示させる、
請求項3記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項5】
前記シミュレーションデータと、前記各フレームについて生成された前記対象物の3次元データと、を比較し差分を求める解析部、
をさらに備えた請求項3または4に記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項6】
前記生成部は、
前記シミュレーションデータと、前記各フレームについて生成された前記対象物の3次元モデルとの差分を前記ディスプレイに表示させる、
請求項5に記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのプロジェクタは複数のプロジェクタであり、
前記複数のプロジェクタは、
複数方向から前記対象物の表面に所定の前記パターンを投影する、
請求項1記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項8】
前記対象物はエアバッグであり、
前記複数台の高速度カメラは、
前記パターンが表面に投影された前記エアバッグの展開を複数方向から撮影する、
請求項1記載の高速3次元データ生成システム。
【請求項9】
前記プロジェクタが投影する前記パターンは格子パターンである、
請求項1記載の高速3次元データ生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速3次元データ生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、映像技術の一分野として、ボリュメトリックキャプチャと呼ばれる技術が知られている。ボリュメトリックキャプチャとは、被写体(即ち、撮影の対象物)を3次元で動画のように撮影、或いは、計測する手法である。ボリュメトリックキャプチャで作成されたデータはボリュメトリックビデオと呼ばれている。
【0003】
ボリュメトリックキャプチャでは、多数のカメラで対象物を多方向から撮影し、各カメラで収集された多数の動画を所定の処理方法によって再構成することによって3次元動画、即ち、ボリュメトリックビデオを生成している。ボリュメトリックキャプチャは、多数のカメラや、専用のスタジオ等を必要とするため、従来は、比較的規模の大きなエンターテインメントのコンテンツの作成や、バスケットボールやサッカー等のスポーツ観戦のためのコンテンツの作成などに用いられることが多かった。
【0004】
一方、ボリュメトリックキャプチャとは異なる映像技術の一分野として、超高速カメラを用いた超高速撮影技術が知られている。例えば、500~10,000fps(frame per second)以上の超高速フレームレートで撮影することにより、肉眼では視認不可能な対象物の動きを観察、或いは、計測することが可能となる。超高速撮影技術によれば、超高速で移動する対象物の動態や、極めて短時間で形状や状態が変化する対象物(例えば、薬剤の爆発によって発生するガスによって瞬時に膨張するエアバッグ)の挙動を正確に計測することが可能となる。超高速撮影技術は、例えば、科学技術の分野や、製造現場での品質管理の分野等に広く用いられつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題の一つは、上述したボリュメトリックキャプチャと超高速撮影技術とを融合させることにより、超高速で移動する対象物の動態や、極めて短時間で形状が変化する対象物、例えば、膨張途中のエアバッグの時々刻々の形状変化を、任意の方向及び任意の位置から、高精度に、且つ、高い時間分解能で計測できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態の高速3次元データ生成システムは、対象物の表面にパターンを投影する少なくとも1つのプロジェクタと、前記パターンが表面に投影された前記対象物が変形または移動する様子を複数方向から、500fps(frame per second)以上の高フレームレートで撮影する複数台の高速度カメラと、前記複数台の高速度カメラが撮影した各フレームについて、前記複数台の高速度カメラの撮影データに含まれる前記パターンにもとづいて前記対象物の3次元データを生成する生成部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る高速3次元データ生成システムのシステム構成例を示す図。
【
図2】第1の実施形態の高速3次元データ生成装置の構成例を示すブロック図。
【
図3】第1の実施形態の高速3次元データ生成システムの動作例を示すフローチャート。
【
図4】高速3次元データ生成システムの動作概念を示す図。
【
図5】本発明に係る高速3次元データ生成システムの第1の課題を説明する図。
【
図7】本発明に係る高速3次元データ生成システムの第2の課題の解決手段を説明する図であって、同期信号の第1の配信方法を説明する図。
【
図9】本実施形態の高速3次元データ生成システムを用いて、車両用エアバッグを撮影した3次元データの一例を示す図。
【
図10】第2の実施形態に係る高速3次元データ生成装置の構成例を示すブロック図。
【
図11】第2の実施形態の高速3次元データ生成システムの動作例を示すフローチャート。
【
図12】第2の実施形態に係る高速3次元データ生成システムの動作概念を示す第1の図。
【
図13】第2の実施形態に係る高速3次元データ生成システムの動作概念を示す第2の図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る高速3次元データ生成システム1のシステム構成例を示す図である。
図1に示すように、高速3次元データ生成システム1は、高速3次元データ生成装置10、複数の高速度カメラ20、プロジェクタ30、及び、信号発生器40、を少なくとも備えて構成される。
【0011】
本発明の高速3次元データ生成システム1は、例えば、500fps(frame per second)以上の高フレームレートで撮影する多数の高速度カメラ20の撮影データを用いて、500fps以上の高フレームレートの3次元データを再構成することが可能なボリュメトリックキャプチャ技術を実現するものであり、HSVC(High-Speed Volumetric Capture)システムとも呼ばれる。
【0012】
図1に示した高速度カメラ20は、上述したように、例えば、500fps以上の高フレームレートで撮影可能なカメラである。本高速3次元データ生成システム1では、複数の高速度カメラ20、例えば、40台以上の高速度カメラ20が被写体である撮影対象物の周囲に配置され、撮影対象物を様々な方向から撮影する。高速度カメラ20は、対象物に対して、水平方向の周囲の360度に亘って配置されるだけでなく、例えば、対象物の真上の位置も含めて、高さ方向(即ち、仰角方向)にも異なる位置に配置される。
【0013】
プロジェクタ30は、撮影対象物に所定のパターン、例えば、格子模様のパターンを投影するために撮影対象物の周囲に配置される。プロジェクタ30の数は1つでもよいが、撮影対象物の表面を隙間なく覆うという観点からは、複数台のプロジェクタ30を異なる位置に配置するのが好ましい。所定のパターンを撮影対象物に投影する理由については、後述する。
【0014】
信号発生器40は、各高速度カメラ20に配信する同期信号を生成する。例えば、信号発生器40は、高速度カメラ20のフレームレートに相当する周波数のクロック信号を同期信号として生成する。同期信号の具体的な配信方法についても、後述する。
【0015】
高速3次元データ生成装置10は、各高速度カメラ20が複数方向から撮影した2次元画像であるフレーム画像を、各高速度カメラ20からフレーム毎に入力し、入力した多方向からのフレーム画像をマルチビューステレオ法などの手法を用いて再構成することで、3次元データをフレーム毎に生成する。以下、高速3次元データ生成装置10の具体的な構成及び動作について説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態の高速3次元データ生成装置10の構成例を示すブロック図である。
図2に示したように、高速3次元データ生成装置10は、処理回路100、記憶回路110、ユーザI/F(インタフェース)120、ディスプレイ130、及び、入力I/F140等を備えて構成される。高速3次元データ生成装置10は、例えば、パーソナルコンピュータやワークステーションとして構成されてもよい。
【0017】
前述したように、高速3次元データ生成装置10には、複数の高速度カメラ20が接続され、各高速度カメラ20が高フレームレートで撮影したフレーム画像のデータが入力される。これらのフレーム画像のデータは、入力I/F140を介して処理回路100に入力される。
【0018】
処理回路100は、専用、又は、汎用のプロセッサを有し、記憶回路110に記憶させるプログラムを実行することによるソフトウェア処理によって、後述する各種の機能を実現する。処理回路100は、ASIC(Application Specific Integration Circuit)や、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブル論理デバイス等のハードウェアを備えて構成されてもよい。これらのデバイスを用いたハードウェア処理によっても、後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路100は、ソフトウェア処理とハードウェア処理とを組みわせて、後述する各種の機能を実現してもよい。
【0019】
ユーザI/F120は、ユーザによって操作が可能な入力デバイスと、入力デバイスからの信号を入力する入力回路とを含む。入力デバイスは、トラックボール、スイッチ、マウス、キーボード、操作面に触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力デバイス、及び音声入力デバイス等によって実現される。
【0020】
ディスプレイ130は、たとえば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等の一般的な表示出力装置により構成される。
【0021】
記憶回路110は、処理回路100において用いられる各種処理プログラムや、プログラムの実行に必要なデータや、各種の画像を記憶する。記憶回路110は、磁気的若しくは光学的記憶媒体、又は、半導体メモリ等の、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体を含んで構成される。
【0022】
高速3次元データ生成装置10は、上記の構成の他、有線/無線LAN、インターネット、公衆電話回線、ブルートゥース(登録商標)等の近接無線回線、等の各種の電気通信回線とのインタフェース回路を備えてもよい。また、磁気ディスクや光学ディスクなどの記憶媒体、USBメモリや各種メモリカード等の記憶媒体のインタフェース回路を備えてもよい。
【0023】
図2に示すように、処理回路100は、3Dデータ再構成機能F01、レンダリング機能F02、及び、表示制御機能F03等の各機能を実現する。例えば、記憶回路110に記憶された所定のプログラムを実行することにより、上記の各機能を実現する。
【0024】
図3は、上述した各機能の処理を含む高速3次元データ生成システム1の動作例を示すフローチャートである。また、
図4は、高速3次元データ生成システム1の動作概念を示す図である、以下、
図4を参照しつつ、
図3のフローチャートに沿って高速3次元データ生成システム1の動作を説明する。なお、
図4では、撮影対象物として直方体の物体が、その大きさや向きを時間的に変化させる例を示している。
【0025】
まず、ステップST100で、プロジェクタ30で対象物に所定のパターンを投影させながら、各高速度カメラ20を同期させて対象物を撮影する。
【0026】
ステップST101では、各高速度カメラ20から出力されるフレーム画像を取得する。
図4の上段に示したように、各高速度カメラ20(例えば、高速度カメラ(1)~高速度カメラ(N))では、夫々の高速度カメラ20の位置から撮像対象物を撮影したフレーム画像(2次元画像)が、時刻tの経過に沿ってフレームタイム毎に収集される。
【0027】
次のステップST102では、フレーム毎に、各高速度カメラの2次元画像を再構成して3次元データを生成する。より具体的には、ステップST102において、3Dデータ再構成機能F01は、各高速度カメラ20が複数方向から撮影した2次元画像であるフレーム画像を、マルチビューステレオ法などの手法を用いて再構成して、3次元データ(即ち、ボリュームデータ)を生成する。各高速度カメラ20からは、高フレームレート(例えば、500fps以上のフレームレート)のフレーム画像が出力されるため、生成される3次元データも500fpsのフレームレートに対応した時系列の3Dデータとして生成される。
【0028】
図4の下段には、フレームタイム毎に生成された3次元データを、t=t1からt=tnまで、時系列に配置した例を図示している。上述したように、
図4に示す例では、大きさや向きを変化させる直方体の3次元データが、例えば、500fps以上の高フレームレートに対応して生成される。
【0029】
ステップST103では、例えばユーザによって指示された方向、及び位置に基づいて3次元データをレンダリング処理し、レンダリング画像を生成する。ステップST103の処理は、処理回路100のレンダリング機能F02が行う。レンダリングの方向や位置は、例えば、マウス、ジョイスティック、タッチパネル等のユーザI/F120を介してユーザが指示してもよいし、予めプログラミングした方向や位置の変化を処理回路100内のプロセッサが指示するようにしてもよい。
【0030】
次のステップST104で、生成されたレンダリング画像を、指示された再生速度にしたがってディスプレイに表示する。ステップST104の処理は、例えば、処理回路100の表示制御機能F03が行う。再生速度を調整することにより、超スロービデオとして再生することもできるし、再生速度をユーザの所望の値に変化させることもできる。
【0031】
図5は、本発明に係る高速3次元データ生成システム1に特有の第1の課題を説明する図であり、
図6は、その解決手段を説明する図である。
【0032】
上述したように、本発明の高速3次元データ生成システム1は、例えば、500fps以上の高フレームレートでの高速度撮影で収集されたフレーム画像を用いて、3次元データを生成する、高速ボリュメトリックキャプチャシステムである。したがって、
図5の左列に示したように、1つ1つのフレーム画像のフレーム時間は短く、露光時間も短くなり、通常の照明では、露光量が低下することになる。そこで、露光量の低下を避けるため、通常よりも高輝度の照明を多数用いることになる。
【0033】
一方、撮像対象物の中には、車両に用いられるエアバッグのように表面が無地の物体も多くある。特に、表面が白色無地の物体や、金属製の物体が撮像対象物の場合、これらの物体に強い光が照射されると、所謂、「白飛び」という現象が発生する。そして、「白飛び」が発生した領域では、諧調が消滅する。この結果、マルチビューステレオ法において必要となる、隣接する高速度カメラのフレーム画像間のパタンマッチング処理が適正に行われなくなり、再構成処理の異常が発生する。このため、
図5の右上部に例示したように、本来の対象物の形状とは大きく異なる異常な形状の対象物として再構成されることになる。
【0034】
図6は、このような不都合の発生を防止するために採用されている、本発明の高速3次元データ生成システム1での解決手段を示している。具体的には、
図6に示すように、本発明の高速3次元データ生成システム1は、異なる位置に配置された複数のプロジェクタ30を備え、これら複数のプロジェクタ30から、撮影対象物に対して、所定のパターンを投影するようにしている。パターンの種類は特に限定するものではないが、例えば、格子パターンを使用することができる。
【0035】
白色無地の撮影対象物であっても、このようなパターンを投影することにより、隣接する高速度カメラのフレーム画像間において、このパターンを用いたパタンマッチング処理が可能となる。この結果、高輝度照明下においても「白飛び」現象の発生を防止することができ、上述した再構成処理の異常を回避することができる。
【0036】
図7は、本発明に係る高速3次元データ生成システム1に特有の第2の課題の解決手段を説明する図である。2次元のカメラ画像から空間的に滑らかに連続する3次元データを生成するためには、撮影対象物の周囲に配置するカメラの数は多い方が有利である。このため、本発明の高速3次元データ生成システム1では、例えば、40台程度の高速度カメラ20が用いられる。
【0037】
一方、一般に、2次元の動画から3次元の動画を生成するボリュメトリックキャプチャ技術では、各カメラのフレーム画像間で同期をとる必要があり、共通の同期信号を各カメラに配信するといった手法がとられる。従来のエンタテイメント用やスポーツ用のボリュメトリックキャプチャでは、全てのカメラに対する同期信号の配信は、直列的な配信方法(所謂、数珠繋ぎ、或いは、デイジーチェーンと呼ばれる配信方法)が取られている。このような直列的な配信方法を用いた場合、同期信号の発信源に近い位置と遠い位置とでは遅延時間に差が発生する。しかしながら、従来のボリュメトリックキャプチャでは、フレームレートが30fps程度と低いため、遅延時間が大きくなくても、それ程問題にはならなかった。
【0038】
これに対して、本発明の高速3次元データ生成システム1は、500fps以上の高フレームレートの高速度カメラ20を用いている。このため、同期信号の配信では、できるだけ遅延時間を低く抑えて、各高速度カメラ20間における同期信号のタイミングの差異を極力小さくする必要がある。
【0039】
そこで、本発明の高速3次元データ生成システム1の第1の配信方法では、
図7に示すように、高速度カメラ20の全体を複数のグループ(例えば、グループ(1)からグループ(N)のN個のグループ)に分割し、各グループに対しては、信号発生器40から並列に同期信号を配信する構成としている。このような並列配信方法によって、各グループに対しては、遅延時間がほぼ同一の同期信号を配信することができる。なお、各グループ内では、遅延時間の差が許容できる範囲内で、デイジーチェーンによる配信を用いてもよい。
また、更に高いフレームレートを用いる場合には、上記の第1の配信方法では、各グループ内での遅延時間が許容できなくなる場合も起こり得る。この場合には、第2の配信方法を用いることもできる。
図8は、本発明の高速3次元データ生成システム1の第2の配信方法を示す図である。この第2の配信方法では、信号発生器40で生成する同期信号を信号分配器で、高速度カメラ20の数だけ分配し、デイジーチェーンを用いることなく、分配した同期信号を各高速度カメラ20に直接配信するようにしている。さらに、信号分配器から各高速度カメラ20までの同期信号の配信用伝送路の長さを略同一にしている。このような第2の配信方法により、全ての高速度カメラ20に対して、遅延時間の差異が実質的にゼロとなるような同期信号を配信することが可能となり、各高速度カメラ20で撮影するフレーム画像の撮影タイミングをほぼ完全に一致させることができる。
【0040】
図9は、本実施形態の高速3次元データ生成システム1を用いて、車両用エアバッグを撮影した3次元データの一例を示す図である。
【0041】
車両用エアバッグ(以下、単にエアバッグと呼ぶ)は、事故等によって車両が大きな衝撃を受けたときに、運転者や同乗者の安全を確保するために設けられている装置である。エアバッグは、通常時は、車両内の所定の位置に折りたたまれた状態で収納されている。車両が衝突などで大きな衝撃を受けると、センサが衝撃を検知して、エアバッグ装置が具備している着火装置を動作させる。着火装置の動作によって薬剤が爆発し、ガスが発生して、折りたたまれていたエアバッグを瞬時に膨張させる。センサが衝撃を検出してからエアバッグが膨張しきるまでの時間は、約30ms程度となるように、エアバッグ装置は構成されている。
【0042】
高速度カメラ20のフレームレートが500fpsの場合、フレーム画像は2msごとに得られることになり、再構成処理によって生成される3Dデータも、2msごとに得ることができる。
【0043】
図9は、運転ハンドルに設けられるエアバッグの膨張時の形状変化の様子を複数台の高速度カメラ20で撮影し、撮影した複数方向の2次元画像データから3次元データを再構成し、さらに、再構成した3Dデータを、運転ハンドルの側面方向と正面方向からレンダリング処理した画像を、時系列的に示した模式図である。センサが衝撃を検出した時刻(t=0ms)から、37.5ms(t=37.5ms)までの期間のレンダリング画像を、t=7.5ms、15ms、22.5ms、30ms、のタイミングで抜き取って図示したものである。
【0044】
車両事故では、正面だけでなく斜めや側方から衝突することもあり、運転者の頭や上半身の位置は必ずしも運転ハンドルの正面方向にあるわけではない。このため、運転者の安全を確保するためには、膨張時に変化するエアバッグの形状は、正面方向だけでなく側方を含めた全体的な形状が重要となってくる。実施形態の高速3次元データ生成システム1では、肉眼や30fps程度の通常のフレームタイムのビデオカメラで到底観察できないような、短時間での(例えば、30ms以内での)エアバッグの全体的な形状変化を、非常に短いフレーム時間毎に(例えば、2ms毎に)、所望のレンダリング方向から観察することが可能となる。この結果、実施形態の高速3次元データ生成システム1は、エアバッグの研究、開発において、或いは、エアバッグの品質管理において、極めて有用なデータや情報を提供することができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係る高速3次元データ生成装置10の構成例を示すブロック図である。第1実施形態との相違点は、第2の実施形態の処理回路100が、第1の実施形態の各機能(
図2参照)に加えて、取得機能F04と解析機能F05とを実現するように構成されている点である。
【0046】
図11は、第2の実施形態における取得機能F04と解析機能F05の処理を含む高速3次元データ生成システム1の動作例を示すフローチャートである。また、
図12及び
図13は、第2の実施形態に係る高速3次元データ生成システム1の動作概念を示す図である、以下、
図12、
図13を参照しつつ、
図11のフローチャートに沿って高速3次元データ生成システム1の動作を説明する。なお、
図11のステップST100からステップST104までの処理は、前述した第1の実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0047】
図11のステップST200では、撮影対象物の形状や位置等の時間的変化をコンピュータで算出したシミュレーションデータ、即ち、撮像対象物のCAE(Computer Aided Engineering)データを外部から取得する。シミュレーションデータは、インターネットや有線/無線LAN等の電気通信回線を介して取得してもよいし、USBメモリ等の携帯型記憶媒体に記憶されたしミューレションデータを、高速3次元データ生成装置10の媒体I/F150を介して取得してもよい。ステップST200の処理は、処理回路100の取得機能F04が行う。
【0048】
シミュレーションデータの種類は特に限定するものではないが、例えば、極めて短時間(例えば、100ms以下)の時間内での物体の形状や物理量の変化、或いは、複数物体間の状態や物理量の変化を、計算機等によるシミュレーションで求めたデータである。以下では、シミュレーションデータとして、センサで衝撃を検出した直後におけるエアバッグの形状変化や物理量の変化を例に挙げて説明する。
【0049】
ステップST201で、取得したシミュレーションデータと、ステップST102で生成した3Dデータ(或いはステップST103で生成したレンダリング画像)とを用いた解析を実施する。ステップST201の処理は、処理回路100の解析機能F05が行う。解析の一例は、例えば、取得したシミュレーションデータと、生成した3Dデータとを、比較可能な態様で高速3次元データ生成装置10のディスプレイ130に表示することである。これに換えて、或いは、これに加えて、シミュレーションデータと生成した3Dデータとの差分を解析処理で算出し、算出した差分をディスプレイ130に表示してもよい。
【0050】
図12は、高速度カメラ20の撮影データに基づく3Dデータ(
図9と同じ図)に、シミュレーションデータを重ねて時系列的に並べて表示した図である。
図9と同様に、センサが衝撃を検出した時刻をt=0msとし、t=0ms、7.5ms、15ms、22.5ms、30ms、37.5msの各時刻で、3Dデータとシミュレーションデータとを比較可能な態様で重ねて表示している。比較可能な表示の態様としては、この他、3Dデータとシミュレーションデータとを並べて表示してもよいし、両者を時間的に切り替えながら表示してもよい。
【0051】
前述したように、衝撃を受ける前のエアバッグは、運転ハンドルの内部に折り畳まれた状態で収納されている。膨張時におけるエアバッグの形状の変化の挙動は、エアバッグ自体の材質のみならず、収納時におけるエアバッグの折り畳み方にも依存することが知られている。
【0052】
エアバッグの開発者は、エアバッグの材質や折り畳み方に基づいて、膨張時におけるエアバッグの形状の変化をシミュレーションで算出し、評価するといったプロセスを繰り返すことによって、最適な折り畳み方や材質を決定し、試作する。しかしながら、そのようにして試作されたエアバッグの膨張時の形状変化の挙動は、膨張する時間があまりにも短いため、肉眼や、30fps程度の通常のフレームタイムのビデオカメラでは評価することができない。
【0053】
これに対して、本実施形態の高速3次元データ生成システム1によれば、
図12に示したように、3Dデータとして表示される実際のエアバッグの形状変化の挙動と、シミュレーションデータとを、高速度カメラ20の時間分解能で(例えば、2msの時間分解能で)一目瞭然の態様で比較することができる。エアバッグの開発者は、これらの比較データに基づいて、試作品を適正に改善することができ、開発の期間とコストを低減することができる。
【0054】
3Dデータとシミュレーションデータとの比較は、形状の時間的な変化だけでなく、種々の物理量の変化として比較することも可能である。例えば、エアバッグの体積や、膨張時の温度等の物理量の変化を比較することもできる。
【0055】
図13(a)は、センサが衝撃を検出してから40ms経過後までにおけるエアバッグの体積の変化を、高速度カメラ20の撮影データに基づく3Dデータから算出した体積と、シミュレーションデータに基づく体積とで比較したグラフを模式的に示した図である。
【0056】
高速度カメラ20は、可視光のカメラの他、赤外線の検出が可能な高速赤外線カメラとして構成することもできる。この場合、撮影対象物の温度変化を、500fpsの高フレームレートで撮影することが可能となる。
【0057】
図13(b)は、センサが衝撃を検出してから40ms経過後までにおけるエアバッグの温度の変化を、高速赤外線カメラの撮影データに基づく3Dデータから算出した温度と、シミュレーションデータに基づく温度とを比較したグラフを模式的に示した図である。
【0058】
図13(a)や
図13(b)に例示したように、体積や温度などの物理量を、試作品の実測に基づく3Dデータから算出したものと、シミュレーションデータに基づくものとで比較することにより、試作品の性能を客観的にかつ適正に評価することが可能となり、試作品のさらなる改善のためのデータを得ることができる。
【0059】
ここまで各実施形態について説明してきたが、各実施形態に係る高速3次元データ生成システム1とこれらの説明における、3Dデータ再構成機能、レンダリング機能、及び、表示制御機能は、特許請求の範囲における生成部の一例である。また、各実施形態に係る高速3次元データ生成システム1とこれらの説明における、取得機能及び解析機能は、夫々、特許請求の範囲における取得部及び解析部の一例である。
【0060】
以上説明してきた各実施形態の高速3次元データ生成システムによれば、超高速で移動する対象物の動態や、極めて短時間で形状が変化する対象物、例えば、膨張途中のエアバッグの時々刻々の形状変化を、任意の方向及び任意の位置から、高精度に、且つ、高い時間分解能で計測できる。
【0061】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせ、を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 高速3次元データ生成システム
10 高速3次元データ生成装置
20 高速度カメラ
100 処理回路
110 記憶回路
120 ユーザI/F(インタフェース)
130 ディスプレイ
140 入力I/F(インタフェース)
150 媒体I/F(インタフェース)
F01 3Dデータ再構成機能
F02 レンダリング機能
F03 表示制御機能
F04 取得機能
F05 解析機能