(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167794
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】筋弛緩監視装置、筋弛緩監視プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/397 20210101AFI20241127BHJP
A61B 5/276 20210101ALI20241127BHJP
A61B 5/395 20210101ALI20241127BHJP
【FI】
A61B5/397
A61B5/276 100
A61B5/395
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084124
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 弘
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA04
4C127GG15
4C127HH06
4C127LL02
4C127LL15
(57)【要約】
【課題】本発明の筋弛緩監視装置、筋弛緩監視プログラムおよび記録媒体は、手術準備時等の筋弛緩監視装置の異常に対して原因を特定可能とすることにより、異常対応を迅速に行えるようにして、手術準備等が速やかに行われるようにすることを課題とする。
【解決手段】本発明の筋弛緩監視装置は、生体に貼付した刺激電極を介して神経を刺激する刺激出力部と、前記刺激出力部による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極を介して電気信号として検出する信号検出部と、を備え、前記刺激出力部により神経を刺激し、前記信号検出部により検出した前記電気信号により設置異常原因を判定することを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の生体に貼付した刺激電極を介して神経を刺激する刺激出力部と、
前記刺激出力部による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極を介して電気信号として検出する信号検出部と、
前記刺激出力部により神経を刺激し、前記信号検出部により検出した前記電気信号により前記導出電極の設置異常原因を判定する原因判定部を備える、
ことを特徴とする筋弛緩監視装置。
【請求項2】
前記設置異常原因を報知するための報知出力部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載された筋弛緩監視装置。
【請求項3】
前記設置異常原因に応じた対応内容を報知するための報知出力部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載された筋弛緩監視装置。
【請求項4】
刺激電流の電流値設定を行う刺激電流値設定部を備え、
前記刺激電流値設定部により刺激電流の電流値設定を行う際に、前記設置異常原因の判定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載された筋弛緩監視装置。
【請求項5】
前記刺激出力部による神経の刺激の後において、生体信号が生じる期間の最高電位と最低電位の差が、通常の筋電図よりも小さい所定電圧範囲である場合に、神経の刺激不足か2つの前記導出電極の貼り付け位置接近異常と判定する、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載された筋弛緩監視装置。
【請求項6】
前記刺激出力部による神経の刺激の後の所定期間における前記電気信号が歪んでいる場合に、前記設置異常原因を前記刺激電極と前記導出電極が近すぎる異常か、接地電極の剥がれ異常と判定する、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載された筋弛緩監視装置。
【請求項7】
前記刺激出力部による神経の刺激の後において、生体信号が生じる期間より後の電位の絶対値が所定値以上である場合に、前記導出電極の剥がれ異常と判定する、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載された筋弛緩監視装置。
【請求項8】
コンピューターに、
刺激出力部により生体に貼付した刺激電極を介して神経を刺激する刺激手順と、
前記刺激出力部による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極を介して電気信号として信号検出部により検出する検出手順と、を実行させるための筋弛緩監視プログラムであって、
前記刺激出力部により神経を刺激し、前記信号検出部により検出した前記電気信号により設置異常原因を判定する判定手順と、
を実行させるための筋弛緩監視プログラム。
【請求項9】
コンピューターに、
刺激出力部により生体に貼付した刺激電極を介して神経を刺激する刺激手順と、
前記刺激出力部による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極を介して電気信号として信号検出部により検出する検出手順と、を実行させるための筋弛緩監視プログラムであって、
前記刺激出力部により神経を刺激し、前記信号検出部により検出した前記電気信号により設置異常原因を判定する判定手順と、
を実行させるための筋弛緩監視プログラムを記録したコンピューターで読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋弛緩監視装置、筋弛緩監視プログラムおよび記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者を手術する際には麻酔を使用することが一般的であるが、麻酔により患者に意識や感覚がなくても反射等により筋肉の収縮が起きる可能性がある。そのため、大きな手術の際には筋弛緩薬を患者に投与し、患者が動かないようにして手術を行いやすくしている。手術開始前に麻酔薬を投与する等の手術準備が行われるが、この際に筋弛緩薬も投与する。筋弛緩薬を投与した後には患者が筋弛緩状態になったか確認するため、筋弛緩状態の監視が行われる。また、筋弛緩薬の効果は時間と共に低下するため、筋弛緩状態を監視して手術の進捗状況に応じた筋弛緩薬の再投与を行う。筋弛緩状態を監視する装置としては、特許文献1、2に示すような、患者の神経に対して刺激を行い、刺激による筋肉の収縮を測定する筋弛緩監視装置が使用される。特許文献1は、神経刺激による筋収縮によって生じた運動を加速度で測定する筋弛緩監視装置である。
【0003】
一方、特許文献2には、神経を電気的に刺激して、その反応として筋肉に生じる生体信号を測定する筋電図方式の筋弛緩監視装置が示されている。この筋弛緩監視装置では、神経の近傍に2つの刺激電極を貼り付け、その神経により収縮する筋肉の近傍に2つの導出電極を貼り付ける。そして、刺激出力部から刺激電極を介して刺激電流を流すことにより神経を刺激し、その際に筋肉で発生する生体信号を、導出電極を介して得られる電気信号として信号検出部で検出する。
【0004】
筋電図方式の筋弛緩監視装置では刺激電流を流し、生体反応である筋電図を取得し、筋弛緩状態を監視する。基本的な使い方として、筋弛緩薬を投与する前に刺激電流の電流値設定を行い、刺激電流の電流値調節等を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-326050号公報
【特許文献2】特開2021-69724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
筋電図方式の筋弛緩監視装置は、手術の準備段階や手術中に、電極の剥がれや貼り付け位置の不具合等の設置異常が生じる場合がある。筋弛緩監視装置の設置異常の原因は種々のものがあり、異常が生じると全ての可能性を考えて対応する必要がある。そのため、筋弛緩監視装置の準備や設置異常からの回復に時間を要する場合があった。
【0007】
本発明の一実施形態は、手術準備時等の筋弛緩監視装置の異常に対して原因を特定可能とすることにより、異常対応を迅速に行えるようにして、手術準備等が速やかに行われるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態における筋弛緩監視装置は、被検者の生体に貼付した刺激電極を介して神経を刺激する刺激出力部と、前記刺激出力部による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極を介して電気信号として検出する信号検出部と、前記刺激出力部により神経を刺激し、前記信号検出部により検出した前記電気信号により前記導出電極の設置異常原因を判定する原因判定部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、手術準備中や手術中の筋弛緩監視装置の設置異常に対して原因を特定することにより、異常対応を迅速に行うことができる。そのため、手術準備や手術が速やかに行われる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態における筋弛緩監視装置を備えた筋弛緩監視システムの構成を示す図。
【
図2】実施形態において、筋弛緩薬を投与していない生体の筋電図。
【
図3】実施形態において、筋弛緩薬を投与していない生体のTOF法による筋電図。
【
図4】実施形態において、筋弛緩薬が不完全に作用しているときのTOF法による筋電図。
【
図8】実施形態における刺激電流の電流値設定時に設置異常原因を判断して表示するフロー。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、患者である被検者の上肢Lに取り付けた実施形態における筋弛緩監視システムの構成を示す。筋弛緩監視システムは、筋弛緩監視装置1、表示装置2、スピーカー3、刺激電極41、配線42、導出電極51、信号線52、接地電極61、接地線62を有している。刺激電極41と配線42は一対が設けられ、導出電極51と信号線52も一対が設けられる。表示装置2とスピーカー3は、筋弛緩監視装置1の中に組み込んでもよい。
【0012】
筋弛緩監視装置1は、制御部11、記憶部12、刺激出力部13、信号検出部14、表示出力部15、音声出力部16、操作部17を備えている。制御部11はCPUにより構成される。表示出力部15、音声出力部16は、筋弛緩監視の結果を報知するための報知出力部であるが、刺激電流の異常、設置異常原因、設置異常原因に応じた対応内容等を報知するための報知出力部としても機能する。
【0013】
記憶部12、刺激出力部13、信号検出部14、表示出力部15、音声出力部16、操作部17は、制御部11に接続する。また、刺激出力部13は、一対の配線42を介して一対の刺激電極41に接続し、信号検出部14は、一対の信号線52を介して一対の導出電極51に接続する。さらに、信号検出部14は、接地線62を介して接地電極61に接続する。刺激電極41と導出電極51、接地電極61は人体に貼付する表面電極である。筋弛緩監視装置1の表示出力部15は表示装置2に接続し、音声出力部16はスピーカー3に接続する。
【0014】
図1に示す被検者の上肢Lは、腕の内部に尺骨神経が延在している。尺骨神経は、手における母子内転筋や小指外転筋等を収縮させる神経である。筋弛緩監視装置1を使用する際には、刺激電極41と導出電極51、接地電極61を、生体に貼付する。一対の刺激電極41は、尺骨神経に対応する位置に貼付され、一対の導出電極51は、小指外転筋とその近傍の腱に対応する位置に貼付されている。また、刺激電極41と導出電極51との間には、接地電極61が貼付される。
【0015】
信号検出部14では、信号線52を介して入力された小指外転筋と腱に生じる2つの生体信号の電位差を検出している。一対の刺激電極41は、尺骨神経に沿って貼付され、刺激出力部13は配線42と刺激電極41を介してパルス状の刺激電流を流し、尺骨神経を刺激する。本実施形態では、刺激電流を流す期間は0.2msecである。そして、尺骨神経への刺激に反応した筋肉から生じる生体信号を、一対の導出電極51の間の電気信号として信号検出部14が検出する。信号検出部14は差動増幅器を有しており、一対の導出電極51の間の電位差を増幅する。そして、信号検出部14は、増幅した電圧値をA/D変換して制御部11へ送る。接地電極61は、被検者の体から上肢Lを伝わるノイズ電圧が、導出電極51を経た検出電位へ影響することを抑制する。ノイズ電圧は主に、刺激電流による電圧パルスや、刺激電流による電圧パルスが被検者の体で伝搬することにより生じる。
【0016】
信号検出部14で検出してA/D変換された導出データは制御部11に入力され、筋弛緩状態の監視が行われる。監視結果は表示出力部15を介して表示装置2に表示され、音声出力部16を介してスピーカー3から音声報知される。
【0017】
また、筋弛緩監視装置1は操作部17のスイッチ操作により刺激電流値の調整等を行う。制御部11と記憶部12は、手術の準備段階において刺激電流の調整を行って刺激電流値を設定する刺激電流値設定部としても機能する。さらに、制御部11と記憶部12は、信号検出部14により検出した電気信号により導出電極51等の設置異常原因を判定する原因判定部としても機能する。
【0018】
以上のように、筋弛緩監視システムでは、
図1に示したように筋弛緩監視装置1を被検者の上肢Lに接続して、刺激出力部13から刺激電流を流す。そして、筋肉に生じた生体信号を信号検出部14により電気信号として検出し、筋電図を得る。刺激出力部13による刺激電流は2つの刺激電極41の間に流れて尺骨神経を刺激し、尺骨神経に繋がった筋肉に生じた生体信号を2つの導出電極51の間の電圧の電気信号として信号検出部14で検出する。筋弛緩薬の作用による筋弛緩状態によって、生体信号は変化する。
【0019】
図2に、筋弛緩薬を投与していない生体の筋電図の例を示す。筋電図は、被検者の上肢Lに貼付の2つの導出電極51から得られた電気信号の電位差を示している。縦軸は電位差、横軸は時間を示す。刺激電流による直接的なノイズが図に現れることを避けるため、
図2の筋電図は、0.2msecの刺激電流のパルスが終了した直後以降の2つの導出電極51の電位差を示している。
図2の筋電図は、筋弛緩薬を投与していない生体の非投与波形Eを示す。
【0020】
図2に示す非投与波形Eは、刺激電流による残留電圧の負電位から始まり、6msecあたりで6mVの正ピーク電位PPeとなり、11msecあたりで-4mVの負ピーク電位NPeとなった後に20msecあたりで0mVの電位に収束する。
図2では、神経への刺激電流により筋肉に生体信号が生じる期間である生体信号期間Tpは、0~約20msecとなっている。非投与波形Eは、電極の貼り付け状況や生体の特性等によりピーク電位の電圧値やタイミング等が多少異なるが、概ね
図2に示すような形状となる。
【0021】
一方、筋弛緩薬を投与すると、最高の筋弛緩度では生体信号は生じずに電気信号の電位は0となり、正ピーク電位PPe、負ピーク電位NPeは生じない。また、筋弛緩度が低くなると生体信号は生じるが、短時間に複数の刺激を行った場合の各回の生体信号は、徐々に小さくなる。このことを利用して、実施形態の筋弛緩監視装置1では、TOF法(Train of Four)によって、筋弛緩度を監視することができる。なお、TOF法に限らず、筋弛緩監視装置1は種々の刺激による筋電図を得ることができる。
【0022】
図3に、筋弛緩薬の投与前に、TOF法による刺激を行った際の生体信号を表す筋電図を示す。実施形態ではTOF法を用いて、筋弛緩度を算出する。実施形態のTOF法では、500msecおきの4回の連続する刺激を1群として、15sec毎に1群を繰り返して刺激を行う。刺激を行う刺激電流の期間は、0.2msecである。刺激は、
図1に示す刺激電極41の間に刺激出力部13から刺激電流を流すことにより行う。
図3は、4回の連続する刺激により順次発生した4つの筋電位波形W1~W4を示している。縦軸は電圧値Vを、横軸は時間tを示す。
【0023】
なお、筋電位波形W1~W4の電位が変動する時間幅である生体信号期間Tpは、刺激の間隔である500msecに対して小さい。そのため、
図3の筋電位波形W1~W4は、便宜的に刺激のタイミングをつめた上で、始点を時間tの正の方向に少しずつずらして表示している。
図3における時間tの数値は、最初の刺激に対応する筋電位波形W1の時間を示す。筋電位波形W1の始点W1Sは0msecである。筋電位波形W2の始点W2Sは、t方向に500msecの時間位置にあるが、-t方向に詰めて
図3のように記載している。筋電位波形W3、W4も同様であり、始点W3SとW4Sはそれぞれ1000msec、1500msecの時間位置である。また、刺激電流によるノイズを避けるため、
図2と同様に、筋電位波形W1~W4は、刺激電流のパルスが終了した直後からの電位差を示している。
【0024】
筋弛緩薬の投与前は、筋電位波形W1~W4は、
図2に示した非投与波形Eの形状となり、筋電位波形W1~W4における生体信号期間Tpも同じ長さである。
図3には筋電位波形W1の生体信号期間Tpのみを示す。そして、
図3に示すように、筋電位波形W1~W4における、生体信号期間Tpの最高電位と最低電位の差である振幅f1~f4は、同じ大きさである。筋弛緩薬の投与前は、1群の刺激電流を付与する間に筋電位波形の振幅は減少しない。
【0025】
TOF法では、第1刺激による筋電位波形W1の振幅f1と第4刺激による筋電位波形W4の振幅f4の比(TOF比)を%で表して、筋弛緩度の指標とする。振幅f1、f4は、それぞれ筋電位波形W1、W4における生体信号期間Tpの最高電位と最低電位の差の電圧値である。筋弛緩薬が全く効いていない時には、TOF比は100%となる。筋弛緩薬の投与前の筋電図である
図3ではf1=f4であり、TOF比は100%となっている。
【0026】
筋弛緩薬が投与されて筋弛緩度が最高になると、図示しないが、筋電位波形W1~W4は全て0mVとなる。そして、振幅f1~f4も全て0mVとなる。この状態では、刺激電流により神経を刺激しても、筋肉では生体信号が発生せず、一対の導出電極51の間の電位差は0mVとなっている。
【0027】
一方、筋弛緩薬が投与されて時間が経過したときなどの、筋弛緩薬の作用が弱い筋弛緩度では、1群の刺激の中で刺激の回数が増える毎に筋電位波形の振幅fが小さくなる。
図4に、この時にTOF法による刺激を行った際の生体信号を表す筋電図を示す。
図4では、500msecおきの4回の連続する刺激を1群として、15sec毎に1群を繰り返して刺激を行う。刺激を行う刺激電流の期間は、0.2msecである。刺激は、
図1に示す刺激電極41の間に刺激電流を流すことにより行う。
【0028】
図4は、4回の連続する刺激により順次発生した4つの筋電位波形W1~W4を示している。縦軸は電圧値Vを、横軸は時間tを示す。筋電位波形W1~W4における生体信号期間Tpも同じ長さである。
図4には筋電位波形W1の生体信号期間Tpのみを示す。筋電位波形W1~W4の生体信号期間Tpは、刺激の間隔である500msecに対して小さいため、
図4においても便宜的に刺激のタイミングを詰めて、始点を時間tの正の方向に少しずつずらして表示している。
図4における時間tの数値は、最初の刺激に対応する筋電位波形W1の時間を示す。また、
図2、3と同様に、筋電位波形W1~W4は、刺激電流のパルスが終了した直後からの電位差を示している。
図4において、筋電位波形W2~W4における振幅f2~f4は、振幅f1、f4のみ記載し、振幅f2、f3の記載は省略している。
【0029】
筋弛緩薬の作用が弱い筋弛緩度において、
図4に示すように、筋電位波形W1の振幅f1は筋電図が生じる生体信号期間Tpの最高電位と最低電位の差である。
図4に示す生体信号期間Tpは、筋電位波形W1に対するものを示している。そして、筋電位波形W2~W4における振幅f2~f4も同様に筋電図が生じる期間の最高電位と最低電位の差を示す。
図4に示す筋弛緩薬の作用が弱い筋弛緩度の筋電位波形W1~W4において、振幅f1~f4はf1>f2>f3>f4となっており、徐々に小さくなる。
【0030】
図4に示す筋弛緩薬の作用が弱い筋弛緩度において、TOF比=f4/f1は、50%弱である。TOF比>70%で筋弛緩状態から回復しているとされるため、
図4の筋電図の状態では、筋弛緩状態から回復する途中であり、筋弛緩状態から回復してはいない。なお、
図4では、筋電位波形W1を非投与波形Eと同様の波形であるが、筋電位波形W1の振幅f1は非投与波形Eの振幅feよりも小さくなることがある。しかし、振幅f1が小さくなっても、それ以上に振幅f4が小さくなるため、TOF比を筋弛緩度の指標として用いることができる。
【0031】
TOF比は、手術中に監視することにより、筋弛緩薬の再投与等の判断に用いる。例えば、TOF比が40%以上になったら、筋弛緩薬を再投与する等の判断を行う。また、手術の準備段階では、TOF比により、患者が手術できる筋弛緩状態になっているか確認することができる。なお、TOF比>70%では、筋弛緩状態から回復している状態とされるが、近年では、80%や90%を基準とする場合もある。
【0032】
<筋弛緩監視装置1の使用形態>
次に、実施形態における筋弛緩監視装置1の使用形態について説明する。まず、手術の準備段階において、
図1に示すように、一対の刺激電極41と一対の導出電極51、接地電極61を被検者の上肢Lに貼付する。そして、筋弛緩薬を投与する前に、筋弛緩監視装置1の刺激電流の電流値設定を行う。
【0033】
操作部17で刺激電流値設定スイッチをオンにすると、筋弛緩監視装置1は刺激電流の電流値設定を行う。本実施形態において、設置異常原因の判定は、刺激電流値設定部により刺激電流の電流値設定を行う際に行われる。刺激電流の電流値設定では、刺激電流の電流値を徐々に上昇させ、自動的に適切な値に調節する。調整が終了した筋弛緩監視装置1でTOF法により筋電図を測定すると
図3のようになり、TOF比は100%である。
【0034】
刺激電流の電流値設定が終了した後に、被検者には筋弛緩薬が投与される。筋弛緩薬により、被検者は徐々に筋弛緩状態となる。完全な筋弛緩状態では、筋電図の電圧は0mVとなる。筋弛緩薬を投与した後において、完全な筋弛緩状態になる途上のTOF法による筋電図は、
図4のように、筋電位波形W1~W4の振幅f1~f4が、徐々に小さくなる。筋電位波形W1~W4は、500msecおきの刺激電流により順次発生した筋電図の波形である。
【0035】
完全な筋弛緩状態となる途上では、筋弛緩薬の作用により、
図4のように、筋電位波形W1~W4の振幅は、連続刺激の遅い回になるほど小さくなる。
図4では、TOF比は70%よりも小さいため、筋弛緩状態であるといえる。更に筋弛緩薬の作用が進むと、筋電位波形W1~W4はほぼ0mVとなり、筋電位波形W1~W4の振幅f1~f4もほぼ0mVとなって、完全な筋弛緩状態となる。十分な筋弛緩状態となったことを筋弛緩監視装置1で確認した後に、手術が開始される。
【0036】
筋弛緩薬の投与から時間が経過して筋弛緩薬の作用が弱くなると、再び
図4のように筋電位波形W1からW4の電位変化が現れる。そして、TOF比が一定値よりも大きくなった場合に、手術の進捗状況等に応じて、再び筋弛緩薬を投与するか否かの判断が行われる。
【0037】
以上のように、筋弛緩監視装置1では、TOF法によって、刺激手順と検出手順が行われる。刺激手順は、刺激出力部13により生体に貼付した刺激電極41を介して神経を刺激する。検出手順は、刺激出力部13による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極51を介して電気信号として信号検出部14により検出する。刺激手順と検出手順の制御は記憶部12に記憶されたプログラムにより制御部11で処理を行うことにより実行される。
【0038】
<設置異常原因の判定>
手術の準備段階で刺激電流値設定スイッチをオンした際にも、筋弛緩監視時と同様に、筋弛緩監視装置1は刺激手順と検出手順を行う。刺激手順は、刺激出力部13により生体に貼付した刺激電極41を介して神経を刺激する。検出手順は、刺激出力部13による神経への刺激に反応して筋肉から生じる生体信号を、生体に貼付した導出電極51を介して電気信号として信号検出部14により検出する。刺激手順と検出手順の制御は記憶部12に記憶されたプログラムにより制御部11で処理を行うことにより実行される。
【0039】
手術の準備段階において、刺激電流設定のために刺激手順と検出手順を実施した結果、
図2に示すような筋電図が得られず異常波形が得られた場合には、筋弛緩監視装置1の設置異常が原因として考えられる。また、手術中に異常波形が得られた場合も同様に、筋弛緩監視装置1の設置異常が原因として考えられる。異常波形は複数の形状を取り得る。筋弛緩監視装置1は、刺激出力部13により神経を刺激し、信号検出部14により検出した電気信号により設置異常原因を判定する判定手順を行う。判定手順の制御も記憶部12に記憶されたプログラムにより制御部11で処理を行うことにより実行される。
【0040】
(第1異常波形A1)
図5に、刺激出力部13による神経の刺激の後に信号検出部14で検出した第1異常波形A1の電気信号を実線で示す。点線は、
図2で示した、筋弛緩薬を投与していない生体の筋電図である非投与波形Eである。第1異常波形A1は、生体信号期間Tpに非投与波形Eよりも小さい正ピーク電位PPa1と負ピーク電位NPa1を有している。そして、筋電図が生じる期間の最高電位と最低電位の差である振幅fa1は存在するが、非投与波形Eの振幅feと比べて小さくなっている。
【0041】
第1異常波形A1のような筋電図は、神経への刺激が不足している場合に生じる。また、2つの導出電極51が近すぎると生体信号による電位差を捉えにくく、第1異常波形A1となる。このように、刺激出力部13による神経の刺激の後において、筋電図が生じる期間の最高電位と最低電位の差が、通常の筋電図よりも小さい所定電圧範囲である場合には、筋弛緩監視装置1は、第1異常波形A1である判定する。第1異常波形A1と判定することは、神経の刺激不足と、2つの導出電極51の貼り付け位置接近異常という、2つの原因の可能性がある旨の判定を意味する。
【0042】
本実施形態の筋弛緩監視装置1では、正ピーク電位PPa1と負ピーク電位NPa1の差である振幅fa1が、第1基準値SV11である0.2mV以上であり、第2基準値SV12である1.0mV以下の場合に第1異常波形A1と判定する。第1基準値SV11以上、第2基準値SV12以下の範囲は、通常の筋電図よりも小さい所定電圧範囲に相当する。第2基準値SV12は、非投与波形Eの振幅feよりも小さい値に設定される。第2基準値SV12は、非投与波形Eの振幅feの1/2以下の値とすることが好ましい。また、第1基準値SV11は、正ピーク電位PPa1と負ピーク電位NPa1が認識し得る程度の大きさに設定する。
【0043】
刺激電流の電流値設定中には電流値を徐々に大きくして複数回にわたって刺激電流を流すが、刺激電流値には上限が設けられている。そして、上限の刺激電流値となったときの刺激電流に対する筋電図が第1異常波形A1であるか否かを判定する。信号検出部14の出力により第1異常波形A1との判定は、神経の刺激不足か、2つの導出電極51の貼り付け位置が近すぎるか、貼り付け位置が腱上や筋上からずれていることなどが設置異常原因であるとの判定である。
【0044】
そして、判定結果である設置異常原因を表示出力部15から出力して表示装置2に表示させる。表示装置2では「神経の刺激不足か、導出電極の貼り付け位置接近異常です。」と表示する。表示の際には音声出力部16から音声信号を出力し、スピーカー3から「ピー」という音を出して注意喚起する。
【0045】
また、判定した際の表示を、設置異常原因に応じた対応内容を報知する表示内容としてもよい。この場合には、例えば、「刺激電極を確実に貼り付けてください。それでも異常が解消しない場合には、導出電極の位置を離して貼り付け直してください。」と表示する。
【0046】
なお、手術中の筋弛緩監視状態において第1異常波形A1が得られた場合、筋弛緩薬の作用により振幅が小さくなっている可能性がある。そのため、第1異常波形A1が得られても、神経の刺激不足等が原因とは判定しない。
【0047】
(第2異常波形A2)
図6に、刺激出力部13による神経の刺激の後に信号検出部14で検出した第2異常波形A2の電気信号を実線で示す。点線は、
図2で示した、筋弛緩薬を投与していない生体の筋電図の非投与波形Eである。第2異常波形A2は、非投与波形Eの波形が歪んだ波形であり、筋電図の初期の電圧の絶対値が異常に大きい。
図6の筋電図も刺激電流の終了時点からの筋電図の変化を表す。
【0048】
図6に実線で示した第2異常波形A2のような筋電図は、刺激電流により生じる刺激電流の終了時点の後に残留した刺激アーチファクトノイズが影響して生じると考えられる。刺激アーチファクトノイズは、接地電極61があることにより、信号検出部14で検出する電気信号への影響が抑制される。しかし、接地電極61が剥がれていると、残留した刺激アーチファクトノイズが抑制されずに、第2異常波形A2のような筋電図となる。また、刺激電極41と導出電極51が近すぎても、残留する刺激アーチファクトノイズの影響が大きくなって、第2異常波形A2となる。
【0049】
刺激アーチファクトノイズは、刺激電流の終了時点の後の所定期間に信号検出部14で検出する電気信号へ大きく影響する。刺激出力部13による神経の刺激の後の所定期間における電気信号が歪んでいる場合に、第2異常波形A2であると判定する。第2異常波形A2であるとの判定は、設置異常原因を刺激電極41と導出電極51が近すぎる異常か、接地電極61の剥がれ異常との判定を意味する。
【0050】
本実施形態の筋弛緩監視装置1では、
図6に示すように、筋電図の初期期間である第1期間Tp1における平均電圧の絶対値が20mV以上であり、第2期間Tp2における平均電圧の絶対値が10mV以下である場合に、第2異常波形A2であると判定する。第1期間Tp1は刺激電流の終了時点から1~2msecであり、第2期間Tp2は5~10msecである。このように、第1期間Tp1と第2期間Tp2における平均電圧の絶対値を判定することにより、所定期間である生体信号期間Tpにおける電気信号の歪みを判定することができる。なお、第1期間Tp1と第2期間Tp2は、筋弛緩監視装置1の製造時や使用前に適宜設定することができる。
【0051】
手術準備等における刺激電流の電流値設定中には、電流値を徐々に大きくして複数回にわたって刺激電流を流す。この場合には、最大の電流値の刺激電流に対する筋電図が第2異常波形A2であるか否かを判定する。
【0052】
信号検出部14の出力により第2異常波形A2との判定は、制御部11は、刺激電極41と導出電極51が近すぎる異常か、接地電極61の剥がれ異常が設置異常原因であるとの判定である。そして、判定結果である設置異常原因を表示出力部15から出力して表示装置2に表示させる。表示装置2では「刺激電極と導出電極が近すぎる異常か、接地電極の剥がれ異常です。」と表示する。表示の際には音声出力部16から音声信号を出力し、スピーカー3から「ピー」という音を出して注意喚起する。
【0053】
また、判定した際の表示を、設置異常原因に応じた対応内容を報知する表示内容としてもよい。この場合には、例えば、「接地電極を確実に貼り付けてください。それでも異常が解消しない場合には、刺激電極と導出電極の貼り付け位置を離してください。」と表示する。
【0054】
(第3異常波形A3)
図7に、刺激出力部13による神経の刺激の後に信号検出部14で検出した第3異常波形A3の電気信号を実線で示す。点線は、
図2で示した、筋弛緩薬を投与していない生体の筋電図の非投与波形Eである。第1異常波形A1と第2異常波形A2は、生体信号による正ピーク電位PPeと負ピーク電位NPeの痕跡が見られるが、第3異常波形A3には、これらの痕跡がない。
【0055】
第3異常波形A3は、導出電極51が剥がれている場合に現れる。導出電極51が剥がれている場合には、第3異常波形A3のような波形となる場合があるが、他の形状の波形となる場合もある。しかし、導出電極51が剥がれている場合には、何れの波形でも、生体信号期間Tpの後に0mVの電位へ収束しにくい。
図7に点線で示す非投与波形Eは、生体信号期間Tpで0mVの電位に収束する。一方、実線で示す第3異常波形A3は、生体信号期間Tpより後である刺激電流の終了時点から30msecで5mV程度の電位となっている。
【0056】
図6に示すように、第2異常波形A2においても第3異常波形A3と同様に0mVの電位への収束は遅い。そのため、本実施形態の筋弛緩監視装置1では、生体信号期間Tpより後である、刺激電流の終了時点から30msec後の判定時点Tにおける電圧の絶対値が所定値である2mV以上であり、さらに、第2異常波形A2であると判定されない場合に第3異常波形A3と判定する。判定時点Tをどの時点にするかは、筋弛緩監視装置1の製造時や使用前に適宜設定することができる。このように、刺激出力部13による神経の刺激の後において、生体信号が生じる期間より後の電位の絶対値が所定値以上である場合に、導出電極51の剥がれ異常と判定する。
【0057】
手術準備等における刺激電流の電流値設定中には電流値を徐々に大きくして複数回にわたって刺激電流を流す。この場合には、最大の電流値の刺激電流に対する筋電図が第3異常波形A3であるか否かを判定する。
【0058】
信号検出部14の出力により第3異常波形A3との判定は、制御部11は、導出電極51の剥がれ異常が設置異常原因であるとの判定である。そして、判定結果である設置異常原因を表示出力部15から出力して表示装置2に表示させる。表示装置2では「導出電極の剥がれ異常です。」と表示する。表示の際には音声出力部16から音声信号を出力し、スピーカー3から「ピー」という注意喚起音を出して注意喚起する。
【0059】
また、判定した際の表示を、設置異常原因に応じた対応内容を報知する表示内容としてもよい。この場合には、例えば、「導出電極を確実に貼り付けてください。」と表示する。
【0060】
<設置異常原因の判断フロー>
設置異常原因を判断して表示するフローを
図8に示す。フロー図の各ステップによる手順は筋弛緩監視方法を示す。また、この手順の制御は記憶部12に記憶された筋弛緩監視プログラムにより制御部11で処理を行うことにより実行される。また、この筋弛緩監視プログラムはコンピューターで読み取り可能な記録媒体に記録することができる。
【0061】
本実施形態において、設置異常原因の判定は、刺激電流値設定部により刺激電流の電流値設定を行う際に行われる。開始時点において、後述するA1~A4フラグは0となる。
図1に示す操作部17で刺激電流値設定スイッチ(図示せず)をオンにすると、刺激電流値設定開始信号が制御部11に送られる。制御部11は、刺激付与信号を刺激出力部13に送り、徐々に大きい電流値の刺激電流のパルスを繰り返すことによって刺激電流の電流値設定を行う(ステップS1)。
【0062】
図2に示すように、想定される生体信号期間Tpの間に想定される電圧範囲で正ピーク電位PPeと負ピーク電位NPeとなる筋電図が得られると、刺激電流の電流値設定は成功する。刺激電流の電流値設定の成功が判定され(ステップS2)、YESであると、そのときの刺激電流の電流値を記憶し、ステップS10に進んで刺激電流の電流値設定終了の表示を行う。刺激電流の電流値設定が成功した時の電流値は電流設定値として記憶され、TOF法の刺激電流の電流値として使用する。
【0063】
一方、刺激電流の電流値を徐々に大きくして、最大の電流値の際に
図2に示すような、想定される生体信号期間Tpの間に想定される電圧範囲で正ピーク電位PPeと負ピーク電位NPeとなる筋電図が得られず、ステップS2がNOとなると、最大の電流値の刺激電流に対する筋電図を記憶する。
【0064】
そして、記憶した筋電図が
図5に示す第1異常波形A1であるか判定する(ステップS3)。筋電図の生体信号期間Tpにおける正ピーク電位PPa1と負ピーク電位NPa1の差である振幅fa1が、第1基準値SV11である0.2mV以上であり、第2基準値SV12である1.0mV以下の場合には、第1異常波形A1と判定する。YESの第1異常波形A1であると判定された場合には、A1フラグを1とする(ステップS4)。A1フラグの1は、神経の刺激不足か、2つの導出電極51の貼り付け位置接近異常を意味する。刺激出力部13による神経の刺激の後において、生体信号が生じる期間の最高電位と最低電位の差が、通常の筋電図よりも小さい所定電圧範囲である場合に、神経の刺激不足か2つの導出電極51の貼り付け位置接近異常と判定する。以上のようにして、神経の刺激不足か、2つの導出電極51の貼り付け位置接近異常の判定が行われる。
【0065】
ステップS3で、NOの第1異常波形A1でないと判定された場合には、記憶した筋電図が
図6に示す第2異常波形A2であるか判定する(ステップS5)。筋電図が、刺激電流の終了時点から1~2msecの第1期間Tp1における平均電圧の絶対値が20mV以上であり、5~10msecの第2期間Tp2における平均電圧の絶対値が10mV以下である場合に、第2異常波形A2であると判定する。YESの第2異常波形A2であると判定された場合には、A2フラグを1とする(ステップS6)。A2フラグの1は、刺激電極41と導出電極51が近すぎる異常か、接地電極61の剥がれ異常を意味する。以上のようにして、刺激電極41と導出電極51が近すぎる異常か、接地電極61の剥がれ異常の判定が行われる。
【0066】
ステップS5で、NOの第2異常波形A2でないと判定された場合には、記憶した筋電図が
図7に示す第3異常波形A3であるか判定する(ステップS7)。筋電図が、刺激電流の終了時点から30msec後の判定時点Tにおける電圧の絶対値が2mV以上であると判定された場合には、第3異常波形A3と判定する。YESの第3異常波形A3であると判定された場合には、A3フラグを1とする(ステップS6)。A3フラグの1は、導出電極51の剥がれ異常を意味する。
【0067】
なお、このフローでは、第3異常波形A3であるか否かを判断するステップS7は、第2異常波形A2でないと判断された場合に行われる判断であるため、ステップS7において第2異常波形A2でないことの判断は不要である。以上のようにして、刺激電極41と導出電極51が近すぎる異常か、接地電極61の剥がれ異常の判定が行われる。
【0068】
A1~A3フラグが1となることは、第1異常波形A1~第3異常波形A3であることを判定することに相当する。第1異常波形A1との判定は、神経の刺激不足か、2つの導出電極51の貼り付け位置接近異常を意味する。第2異常波形A2との判定は、刺激電極41と導出電極51が近すぎる異常か、接地電極61の剥がれ異常を意味する。第3異常波形A3との判定は、導出電極51の剥がれ異常を意味する。ステップS7で、NOの第3異常波形A3でないと判定された場合には、A4フラグを1とする(ステップS9)。A4フラグの1は、その他の異常であることを意味する。
【0069】
そして、ステップS4、S6、S8、S9の後にはA1~A4フラグにより注意喚起音の発生と判定結果の表示を行う(ステップS10)。A1~A4フラグのいずれかが1である場合には、制御部11は、音声出力部16から音声出力して、スピーカー3から「ピー」という注意喚起音を発生させる。A1~A4フラグが全て0の場合には、「ピッ」という音を発生させる。また、制御部11は、表示出力部15から表示出力して、表示装置2に判定結果を表示させる。
【0070】
A1~A4フラグのいずれかが1である場合には、各フラグに対応した設置異常原因を表示する。A1フラグが1の場合には、「神経の刺激不足か、導出電極の貼り付け位置接近異常です。」と表示する。また、A2フラグが1の場合には、「刺激電極と導出電極が近すぎる異常か、接地電極の剥がれ異常です。」と表示する。A3フラグが1の場合には、「導出電極の剥がれ異常です。」と表示する。A4フラグが1の場合には、単に「設置異常です。」と表示する。また、A1~A4フラグがいずれも0である場合には、「刺激電流の電流値設定が終了しました。」と表示する。
【0071】
設置異常が報知されると、電極の貼り付け直し等が行われた後に、再び刺激電流値設定スイッチが押される。そして、
図8に示したフローにより、再び刺激電流の電流値設定と設置異常原因の判断表示が行われる。このフローは刺激電流の電流値設定が成功して終了するまで、繰り返される。
【0072】
以上の手順は、主に手術準備中における刺激電流の電流値設定時の異常判定であるが、刺激電流の電流値設定を終了した後に、TOF法により筋弛緩状態を監視している際にも同様の異常判定をしてもよい。ただし、その場合には、TOF法による刺激電流の電流値に対する筋電図で判定を行う。ただし、手術中の異常判定では、ステップS3の第1異常波形A1であるかの判定は行わない。筋弛緩薬が作用している状態では、第1異常波形A1と同様の波形となる場合があるためである。
【0073】
なお、手術中に第1異常波形A1であるか否かの判定を行う必要性は小さい。刺激電流の電流値設定を終了した後ということは、一度は設置異常原因の判断を行っているため、2つの導出電極51の貼り付け位置接近異常は生じにくい。また、刺激電極41の位置がずれて神経の刺激不足となることも生じにくいと考えられる。刺激電極41が剥離した場合には、刺激電流の監視により検知できる。
【0074】
設置異常原因の報知と対応内容の報知は両方表示してもよく、どちらか一方を表示してもよい。また、設置異常原因の報知や対応内容の報知は、スピーカー3からの音声により行ってもよい。表示装置2による設置異常原因の報知や対応内容の表示報知と、スピーカー3による対応内容の音声報知は、両方用いてもよく、どちらか一方を用いてもよい。これらのとき、表示出力部15、音声出力部16は、設置異常原因や設置異常原因に応じた対応内容を報知するための報知出力部として機能する。また、報知出力部として、筋弛緩監視装置1に別途備えられた発光素子等の点灯や筋弛緩監視装置1に備えられた振動装置を振動させるものとしてもよい。
【0075】
実施形態の筋弛緩監視装置1は、表示装置2とスピーカー3を別体としている。しかしこれらを一体とした医療機器としてもよい。また、他の医療機器と共に筋弛緩監視装置1を組み込んだ医療機器システムとしてもよく、他の医療機器の表示装置やスピーカー等を用いて、筋弛緩監視装置1の情報を報知してもよい。
【0076】
実施形態では、手術準備中における筋弛緩薬の投与前における使用について主に説明した。しかし、手術中に筋弛緩薬の作用が薄れてきた際等に、第1異常波形A1~第3異常波形A3のいずれかが生じた際にも使用することができる。
【0077】
実施形態では、刺激電極41と導出電極51は配線42と信号線が筋弛緩監視装置1に接続している。しかし、刺激電極41を刺激装置に接続して、刺激装置と筋弛緩監視装置の間をワイヤレスで接続しても良い。また、導出電極51を信号検出装置に接続して、信号検出装置と筋弛緩監視装置をワイヤレスで接続してもよい。ワイヤレスで接続することにより手術の際の配線を減少させることができる。
【0078】
その他、具体的な構成は実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の変形例は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0079】
L 上肢
E 非投与波形
PPe 非投与波形Eの正ピーク電位
NPe 非投与波形Eの負ピーク電位
fe 非投与波形Eの振幅
W1~W4 TOF法の4つの筋電位波形
f1~f4 TOF法の4つの筋電位波形の振幅
A1 第1異常波形
A2 第2異常波形
A3 第3異常波形
PPa1 第1異常波形A1の正ピーク電位
NPa1 第1異常波形A1の負ピーク電位
fa1 第1異常波形A1の振幅
Tp1 第1期間
Tp2 第2期間
Tp 生体信号期間
T 判定時点
1 筋弛緩監視装置
11 制御部
12 記憶部
13 刺激出力部
14 信号検出部
15 表示出力部
16 音声出力部
17 操作部
2 表示装置
3 スピーカー
41 刺激電極
42 配線
51 導出電極
52 信号線
61 接地電極
62 接地線