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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167798
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20241127BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H01S5/042 612
H01S5/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084133
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(72)【発明者】
【氏名】菊地 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】濱口 達史
(72)【発明者】
【氏名】仲山 英次
(72)【発明者】
【氏名】幸田 倫太郎
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC33
5F173AC42
5F173AC46
5F173AF96
5F173AH22
5F173AK20
5F173AR23
5F173AR62
(57)【要約】
【課題】本開示では、導電膜の導電性をあげると共に、光の透過性の低下抑制が可能な発光素子を提供する。
【解決手段】上記の課題を解決するために、本開示によれば、レーザ光を生成する積層構造体と、前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜であって、異なる欠陥密度の領域を有する導電膜と、を、備える、発光素子が提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を生成する積層構造体と、
前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜であって、異なる欠陥密度の領域を有する導電膜と、
を、備える、発光素子。
【請求項2】
前記積層構造体は、第1化合物半導体層、発光層、及び、前記第1化合物半導体層と導電型の異なる第2化合物半導体層が積層され、
前記導電膜は、前記第1化合物半導体層、又は前記第2化合物半導体層に積層される、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記欠陥密度は、点欠陥、線欠陥、面欠陥、及び体積欠陥の少なくともいずれかの欠陥の密度であり、前記欠陥は、前記導電膜内に単独、もしくは複合して存在している、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記導電膜はITO(Indium Tin Oxide)、ITiO(Indium Titanium Oxide)、AZO(Al2O3-ZnO)、及びIGZO(InGaZnOx)の少なくともいずれかである、請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
前記導電膜は、レーザ光を生成する駆動時に電流経路となる、請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
前記積層構造体は、窒化物半導体から構成され、垂直共振器型面発光レーザとして構成される、請求項1に記載の発光素子。
【請求項7】
前記導電膜は、前記レーザ光の透過領域と、前記透過領域と異なる第1周辺領域とを有し、
前記透過領域と、前記第1周辺領域とで前記欠陥密度が異なる、請求項1に記載の発光素子。
【請求項8】
前記導電膜は、前記透過領域内の所定点から前記積層構造体に沿った方向の距離に応じて前記欠陥密度が異なる、請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記第1周辺領域は、電流を供給する電極と電気的に接続される、請求項7に記載の発光素子。
【請求項10】
前記積層構造体の第1面側に構成される第1光反射層と、
前記第1面と対向する第2面側にされる第2光反射層とを、更に備える、請求項1に記載の発光素子。
【請求項11】
前記第1光反射層は、凹面鏡部を有している、請求項10に記載の発光素子。
【請求項12】
前記導電膜の前記凹面鏡部に対向する面において、前記凹面鏡部により光が集中する領域とその周辺の領域とで前記欠陥密度が異なる、請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
前記凹面鏡部に対向する面において、前記凹面鏡部により光が集中する領域とその周辺の領域とで前記欠陥密度が異なる、請求項11に記載の発光素子。
【請求項14】
前記凹面鏡部の光軸から周辺部に向うにしたがい、前記欠陥密度が高くなる、請求項11に記載の発光素子。
【請求項15】
前記第2光反射層と前記導電膜との間に積層される窒化物層を、
更に備える、請求項10に記載の発光素子。
【請求項16】
前記導電膜は、前記透過領域と、前記透過領域と前記第1周辺領域との間である第2周辺領域を有し、
前記透過領域と、前記第1周辺領域と、前記第2周辺領域とで前記欠陥密度が異なる、請求項7に記載の発光素子。
【請求項17】
前記透過領域の欠陥密度を、前記第1周辺領域の欠陥密度よりも低く構成する、請求項7に記載の発光素子。
【請求項18】
前記第2周辺領域の欠陥密度を、前記透過領域、及び前記第1周辺領域よりも低く構成する、請求項16に記載の発光素子。
【請求項19】
前記第2周辺領域は、電流注入制限領域に対応する、請求項18に記載の発光素子。
【請求項20】
レーザ光を生成する積層構造体と、
前記積層構造体の第1面側に構成される第1光反射層と、
前記第1面と対向する第2面側に構成される第2光反射層と
前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜と、
前記第2光反射層と前記導電膜との間に積層される窒化物層と、
を、備える、発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光レーザ素子(VCSEL)から成る発光素子においては、通常、2つの光反射層(Distributed Bragg Reflector 層、DBR層)の間でレーザ光を共振させることによってレーザ発振が生じる。このような発光素子にあっては、例えば、第1化合物半導体層、化合物半導体から成る発光層(活性層)及び第2化合物半導体層が積層された積層構造体を形成する。そして、第2化合物半導体層上に光を透過する導電膜から成る第2電極を形成し、第2電極の上に薄膜の積層構造から成る第2光反射層を形成する。発光効率の向上のために、導電膜の導電性をあげることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-548576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、導電膜の導電性をあげると、光の透過性が低下する恐れがある。
【0005】
そこで、本開示では、導電膜の導電性をあげると共に、光の透過性の低下抑制が可能な発光素子が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示によれば、レーザ光を生成する積層構造体と、
前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜であって、異なる欠陥密度の領域を有する導電膜と、
を、備える、発光素子が提供される。
【0007】
前記積層構造体は、第1化合物半導体層、発光層、及び、前記第1化合物半導体層と導電型の異なる第2化合物半導体層が積層され、
前記導電膜は、前記第1化合物半導体層、又は前記第2化合物半導体層に積層されてもよい。
【0008】
前記欠陥密度は、点欠陥、線欠陥、面欠陥、及び体積欠陥の少なくともいずれかの欠陥の密度であり、前記欠陥は、前記導電膜内に単独、もしくは複合して存在してもよい。
【0009】
前記導電膜はITO(Indium Tin Oxide)、ITiO(Indium Titanium Oxide)、AZO(Al2O3-ZnO)、及びIGZO(InGaZnOx)の少なくともいずれかであってもよい。
【0010】
前記導電膜は、レーザ光を生成する駆動時に電流経路となってもよい。
【0011】
前記積層構造体は、窒化物半導体から構成され、垂直共振器型面発光レーザとして構成されてもよい。
【0012】
前記導電膜は、前記レーザ光の透過領域と、前記透過領域と異なる第1周辺領域とを有し、
前記透過領域と、前記第1周辺領域とで前記欠陥密度が異なってもよい。
【0013】
前記導電膜は、前記透過領域内の所定点から前記積層構造体に沿った方向の距離に応じて前記欠陥密度が異なってもよい。
【0014】
前記第1周辺領域は、電流を供給する電極と電気的に接続される、(7)に記載の発光素子。
【0015】
前記積層構造体の第1面側に構成される第1光反射層と、
前記第1面と対向する第2面側にされる第2光反射層とを、更に備えてもよい。
【0016】
前記第1光反射層は、凹面鏡部を有してもよい。
【0017】
前記導電膜の前記凹面鏡部に対向する面において、前記凹面鏡部により光が集中する領域とその周辺の領域とで前記欠陥密度が異なってもよい。
【0018】
前記凹面鏡部に対向する面において、前記凹面鏡部により光が集中する領域とその周辺の領域とで前記欠陥密度が異なってもよい。
【0019】
前記凹面鏡部の光軸から周辺部に向うにしたがい、前記欠陥密度が高くなってもよい。
【0020】
前記第2光反射層と前記導電膜との間に積層される窒化物層を、
更に備えてもよい。
【0021】
前記導電膜は、前記透過領域と、前記透過領域と前記第1周辺領域との間である第2周辺領域を有し、
前記透過領域と、前記第1周辺領域と、前記第2周辺領域とで前記欠陥密度が異なってもよい。
【0022】
前記透過領域の欠陥密度を、前記第1周辺領域の欠陥密度よりも低く構成してもよい。
前記第2周辺領域の欠陥密度を、前記透過領域、及び前記第1周辺領域よりも低く構成してもよい。
【0023】
前記第2周辺領域は、電流注入制限領域に対応してもよい。
【0024】
上記の課題を解決するために、本開示によれば、レーザ光を生成する積層構造体と、
前記積層構造体の第1面側に構成される第1光反射層と、
前記第1面と対向する第2面側に構成される第2光反射層と
前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜と、
前記第2光反射層と前記導電膜との間に積層される窒化物層と、
を、備える、発光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】開示の実施形態に発光素子の一例を示す模式的な平面図。
図2図1のAA断面図。
図3図2の発光素子においての電流非注入領域を示す図。
図4図1のBB断面図。
図5】導電膜の欠陥の分布を模式的に示す図。
図6】導電膜の結晶粒界の大きさの変化を模式的に示す図。
図7】発光部領域の拡大図。
図8図7のCC断面図。
図9図1のAA断面図での光分布を模式的に示す図。
図10図1のAA断面図での酸素がメタル側に遷移を模式的に示す図。
図11図1のAA断面図での応力が導電膜に加わる様子を模式的に示す図。
図12】シリコン窒化膜を更に構成した発光素子を模式的に示す図。
図13】第7実施形態の変形例1に係る発光素子を模式的に示す図1のAA断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、発光素子の実施形態について説明する。以下では、発光素子の主要な構成部分を中心に説明するが、発光素子には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、本開示の実施形態に発光素子1の一例を示す模式的な平面図である。図1(a)は、発光素子1全体の平面図であり、図1(b)は、発光部領域10の拡大図である。なお、本実施形態では、面発光レーザ素子から構成された半導体レーザ素子を「発光素子」と称する場合がある。
【0028】
図1(a)に示すように、発光素子1は、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するために、第1パッド電極33aと、第2パッド電極33bとを有する。パッド電極33a、33bは、例えばTi(チタン)、アルミニウム(Al)、Pt(白金)、Au(金)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有する。あるいは、パッド電極33a、33bを、Ti/Pt/Auの多層構成、Ti/Auの多層構成、Ti/Pd/Auの多層構成、Ti/Ni/Auの多層構成、Ti/Ni/Au/Cr/Auの多層構成に例示される多層構成とすることもできる。
【0029】
図1(b)に示すように、第2パッド電極33bは、光を透過する導電膜32の第1周辺領域32rと電気的に接続される。これにより、第1パッド電極33aと、第2パッド電極33bとを介して供給される電流は、光を透過する導電膜32を介して、発光層(活性層)23(後述する図2参照)に供給される。なお、本実施形態では、光を透過する導電膜32を第2電極32と称する場合があり、単に導電膜32と称する場合もある。
【0030】
導電膜32の第1周辺領域32rには、第2パッド電極33bが電気的に接続される。導電膜32の電流注入領域320の周囲には、電流の導電範囲を制限する電流非注入領域(インプラント領域)220(図3参照)に対応する第2周辺領域220rが構成される。第2周辺領域220r、及び電流注入領域320が、光の透過領域である。なお、本実施形態は、電流非注入領域220を有するが、これに限定されない。例えば、発光素子1は、電流非注入領域220を構成しない場合もある。
【0031】
発光層23(後述する図2参照)で発光した光は、共振して、レーザ発光する。本実施形態に係るレーザ光は、電流注入領域320の中心部に向けて集光される。なお、電流注入領域320、及び第1周辺領域32rは、円形に限定されず、5角形、4角形などの多角形、及び楕円形でもよい。また、本実施形態に係るレーザ光は、電流注入領域320の中心部に向けて集光されるが、これに限定されない。例えば、発光素子1は、電流注入領域320の中心部に向けて集光しない場合もある。
【0032】
ここで、図2乃至図4を用いて発光素子1の構成例を説明する。図2は、図1のAA断面図である。図3は、図2の発光素子1においての電流非注入領域220を示す図である。図4は、図1のBB断面図である。図2乃至図4に示すように、発光素子1は、第1光反射層41、積層構造体20及び第2光反射層42が積層され、構成される。そして、積層構造体20は、第1光反射層41側から、第1化合物半導体層21、発光層(活性層)23及び第2化合物半導体層22が積層されて構成される。
【0033】
積層構造体20からの光は、第1光反射層41又は第2光反射層42を介して、外部に出射される。本実施形態では、第2光反射層42を介して、外部に出射される。また、第1光反射層41は、少なくとも2種類の薄膜が、複数、交互に積層された構造を有している。同様に、第2光反射層42は、少なくとも2種類の薄膜が、複数、交互に積層された構造を有している。なお、本実施形態に係る発光素子1では、積層構造体20からの光は、第2光反射層42を介して、外部に出射されるが、これに限定されない。例えば、第1光反射層41を平坦な形状にし、第1光反射層41を介して、外部に出射してもよい。
【0034】
より具体的には、第1化合物半導体層21は、第1面21a、及び、第1面21aと対向する第2面21bを有し、第1導電型(具体的には、n型)を有する平面部の厚さが例えば数十μmである。第1面21aには、第1光反射層41が形成されている。第2面21bは、平坦な形状を有する。一方で、第1化合物半導体層21、及び第1光反射層41は、第2面21bに対して凸部領域を有する。この凸部領域は、第2化合物半導体層22側に対して凹面鏡部90を形成する。この凹面鏡部90の光軸L41は、例えば電流注入領域320(図1参照の)の中心点を通過する。なお、本実施形態に係る発光素子1は、凸部領域を有するが、これに限定されない。例えば、第1化合物半導体層21の第1面21aも平坦な形状としてもよい。同様に、第1光反射層41の第1面21a側の形状を平坦な形状としてもよい。
【0035】
第2化合物半導体層22は、第2導電型(具体的には、p型)を有する厚さが例えば数十nmである。発光層(活性層)23は、第1化合物半導体層21の第2面21bと面する。第1化合物半導体層21の厚さは、第2化合物半導体層22の厚さよりも厚く構成される。例えば、第1化合物半導体層21は、n-GaN層から成り、発光層(活性層)23はInGa(1-x)N層(障壁層)とInGa(1-y)N層(井戸層)とが積層された多重量子井戸構造から成り、第2化合物半導体層22はp-GaN層から成る。
【0036】
そして、第1化合物半導体層21の第1面21aから或る深さまでの第1光反射層41の領域、積層構造体20(第1化合物半導体層21、発光層23及び第2化合物半導体層22)、並びに、第2化合物半導体層22の第2面22bから或る深さまでの第2光反射層42の領域によって、共振器が構成される。上述のように、発光層23で発光した光は、共振器で共振して、レーザ発光する。この場合、凹面鏡部90により、レーザ光は、光軸L41側に集光され、第2周辺領域220r、及び電流注入領域320(図1参照の)を透過する。
【0037】
第1電極31(図4参照)は、第1化合物半導体層21の第2面21bの上に形成される。第1電極31は、例えばTi/Pt/Auから成る。第1電極31の上には、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するための、第1パッド電極33a(図4参照)が形成あるいは接続されている。一方、導電膜(第2電極)32は、第2化合物半導体層22の上に形成されており、第2光反射層42は導電膜32上に形成される。
【0038】
第2電極である導電膜32の上の第2光反射層42は平坦な形状を有する。導電膜32は、透明導電性材料、具体的には、ITOから成る。すなわち、この導電膜32は、ITO(Indium Tin Oxide)、または、ITiO(Indium Titanium Oxide)、AZO(Al2O3-ZnO)、IGZO(InGaZnOx)である。上述のように、導電膜32の周辺領域32rの上には、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するための、第2パッド電極33bが形成あるいは接続されている。
【0039】
絶縁層(電流狭窄層)34は、例えばSiOから成る。開口部を有する絶縁層34によって、電流狭窄領域が規定される。
【0040】
図3図4に示すように、第1電極31と導電膜(第2電極)32との間を流れる電流の流路(電流注入領域)を更に制御するために、電流注入領域320を取り囲むように電流非注入領域(インプラント領域)220を形成する。
【0041】
GaAs系面発光レーザ素子(GaAs系化合物半導体から構成された面発光レーザ素子)においては、発光層をXY平面に沿って外側から酸化することで電流注入領域320を取り囲む電流非注入領域220をインプラント領域として形成することができる。
【0042】
図5は、導電膜32の欠陥の分布を模式的に示す図である。図5に示すように、導電膜32の欠陥の分布を模式的に示す図である。本実施形態に係る導電膜32は、電流注入部320の中心部から周辺に向けての法線方向に導電膜32の欠陥密度が異なる。例えば、第2パッド電極33bと電気的に接続される第1周辺領域32rの欠陥密度を、光が透過する電流注入部320、及び第2周辺領域220rより高くする。すなわち、第1周辺領域32rの欠陥を電流注入部320、及び第2周辺領域220rより多くする。なお、本実施形態に係る導電膜32では、点欠陥、線欠陥、面欠陥、体積欠陥を欠陥と称する。また、それぞれの欠陥が単独、もしくは複合して存在している場合も欠陥と称する。
【0043】
ITOなどの導電膜32は欠陥の量により、光の吸収量が増減したり、電気抵抗が増減したりする。欠陥が減少することで光の吸収量が低下し、電気抵抗が増加する傾向を示す。逆に、欠陥が増大することで、光の吸収量が増加し、電気抵抗が低下する傾向を示す。
【0044】
これから分かるように、光が透過する電流注入部320、及び第2周辺領域220r内は欠陥を少なく、また第2パッド電極33bと電気的に接続される第1周辺領域32rの欠陥を多く構成することにより、光吸収、及び電気抵抗のいずれもより小さくできる。
【0045】
また、電流注入部320、第2周辺領域220r、及び第1周辺領域32rのそれぞれ、で欠陥の量を変更することも可能である。例えば、電流注入部320、第2周辺領域220r、及び第1周辺領域32rの順に欠陥の量を増加させてもよい。これにより、電流注入部320の中心部から周辺部に向かうにしたがい、電気伝導性があがる。一方で、導電膜32の周辺部から電流注入部320の中心部に向かうにしたがい、光の透過性があがる。
【0046】
さらにまた、第2周辺領域220rの欠陥密度を一番あげてもよい。第1周辺領域32rでは、主たる電流が第2パッド電極33b側を流れる場合がある。この場合、導電膜32の第1周辺領域32rよりも第2周辺領域220rに電流がより多く流れる場合がある。これにより、電流注入部320の中心部から第2周辺領域220rに向かうにしたがい、電気伝導性があがる。一方で、導電膜32の第2周辺領域220rから電流注入部320の中心部に向かうにしたがい、光の透過性があがる。
【0047】
また、電流注入部320の中心部から周辺部に向けた距離に応じて欠陥の量を増加させてもよい。すなわち、電流注入部320の中心部が最も欠陥密度が低く、周辺部が最も高くなる。この場合にも、電流注入部320の中心部から周辺部に向かうにしたがい、電気伝導性があがり、導電膜32の周辺部から電流注入部320の中心部に向かうにしたがい、光の透過性があがる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る発光素子1の導電膜32は、異なる欠陥密度の領域を有するように構成することとした。これにより、電気伝導性の特性と、光の透過性の特性とに応じて欠陥密度を変えることが可能となり、導電膜32の光吸収量、及び電気抵抗のいずれもより小さく構成可能となる。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る発光素子1の導電膜32は、周辺部から電流注入部320の中心部に向けて、結晶粒界の大きさを変更する点で第1実施形態に係る発光素子1と相違する。以下では、第1実施形態に係る発光素子1と相違する点を説明する。
【0050】
図6は、導電膜32の結晶粒界の大きさの変化を模式的に示す図である。矢印は、結晶粒界の大きさが大きくなる方向を模式的に示している。図6に示すように、本実施形態に係る導電膜32は、周辺部から電流注入部320の中心部に向けて、結晶粒界の大きさが大きくなるように構成する。例えば、電流注入部320の結晶粒界の大きさを第2周辺領域220rよりも大きく構成する。
【0051】
ITOなどの導電膜32は結晶粒界の大きさにより、光の吸収量が増減したり、電気抵抗が増減したりする。結晶粒界を大きくすることで光の吸収量が低下し、電気抵抗が増加する傾向を示す。逆に、結晶粒界を小さくすることで、光の吸収量が増加し、電気抵抗が低下する傾向を示す。これから分かるように、周辺部から電流注入部320の中心部に向けて、結晶粒界の大きさが大きくなるように構成することにより、導電膜32の周辺部から電流注入部320の中心部に向かうにしたがい、光の透過性をあげることができる。さらに、電流注入部320の中心部から周辺部に向かうにしたがい、電気伝導性をあげることができる。
【0052】
(第2実施形態の変形例1)
第2実施形態の変形例1に係る発光素子1は、導電膜32に電気的に接する第2パッド電極33bがリング構造になっている点で第2実施形態に係る発光素子1と相違する。以下では、第2実施形態に係る発光素子1と相違する点を説明する。
【0053】
図7は、発光部領域10の拡大図である。図8は、図7のCC断面図である。図7、及び8に示すように、第2実施形態の変形例1に係る発光素子1は、導電膜32に対して、第2パッド電極33bがリング形状として、電気的に接続される。
【0054】
図8に示すように、第2パッド電極33bから供給される電流は、第2パッド電極33bが電気的に接続される領域では、導電膜32よりも、第2パッド電極33b側を流れる。一方で、第2パッド電極33bから供給される電流は、第2パッド電極33bが電気的に接続されない領域では、導電膜32側を流れる。
【0055】
図7に示すように、本実施形態に係る導電膜32は、周辺部から電流注入部320の中心部に向けて、結晶粒界の大きさが大きくなるように構成する。例えば、電流注入部320の結晶粒界の大きさを第2周辺領域220rよりも大きく構成する。第3周辺領域220r2は、光が透過せず、且つ電流が流れる側となる。このため、導電膜32の第3周辺領域220r2の結晶粒界の大きさを、電流注入部320よりも小さくなるように構成する。これにより、第2実施形態に係る発光素子1の効果に加え、第2パッド電極33bが電気的に接続されない領域である第3周辺領域220r2の電気伝導性をあげることができる。このように、第2パッド電極33bが電気的に接続される領域とされない領域とで、導電膜32の結晶粒界の大きさを変更することにより、電気伝導性を維持しつつ、光の透過性をあげることができる。
【0056】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る発光素子1の導電膜32は、レーザ光の強度分布にしたがい欠陥密度を変更する点で第1実施形態に係る発光素子1と相違する。以下では、第1実施形態に係る発光素子1と相違する点を説明する。
【0057】
図9は、図1のAA断面図でのレーザ光310の光分布を模式的に示す図である。第3実施形態に係る発光素子1の導電膜32は、レーザ光310の光分布の強度に応じて欠陥密度を変更する。すなわち、レーザ光310の光分布の強度が強くなる領域ほど、欠陥密度をより低くする。より具体的には、凹面鏡部90の光軸L41が通過する点に周辺から向かうに従い、欠陥密度をより低くする。換言すると、凹面鏡部90の光軸L41が通過する点から周辺に向かうに従い、欠陥密度をより高くする。
【0058】
このように、導電膜32の欠陥の分布を第1光反射層41の凹面鏡部90に対向し、光が集中する領域で欠陥密度を低下させ、その周辺の領域で欠陥密度を増加させてもよい。すなわち、導電膜32の光の分布強度が高い領域の欠陥密度をより低下させ、導電膜32の光の分布強度が低い領域の欠陥密度をより増加させてもよい。これらから分かるように、導電膜32の光の分布強度と、欠陥密度とを相関させることでも、電流注入部320内の光の吸収を抑制し、第2パッド電極33bが電気的に接続される第1周辺領域32rの電気抵抗の増加を抑制できる。
【0059】
図9に示すように、酸化された発光層の領域33である電流非注入領域220は、酸化されない領域(電流注入領域)に比べて屈折率が低下する。その結果、共振器の光路長(屈折率と物理的な距離の積で表される)は、電流注入領域よりも電流非注入領域の方が短くなる。そして、これによって、一種の「レンズ効果」が凹面鏡部90の集光力と共に生じ、面発光レーザ素子の中心部にレーザ光310を光軸L41に沿った方向に閉じ込める作用をもたらす。一般に、光は回折効果に起因して広がろうとするため、共振器を往復するレーザ光は、次第に、共振器外へと散逸してしまい(回折損失)、閾値電流の増加等の悪影響が生じる。しかしながら、レンズ効果と凹面鏡部90の集光により、この回折損失を補償するので、閾値電流の増加等を抑制することができる。
【0060】
これから分かるように、光が集中する素子中央部分の電流注入部320内は欠陥を少なく、また外周部である第2周辺領域220r、及び第1周辺領域32rは欠陥を多く構成することにより、光吸収、及び電気抵抗のいずれもより小さくできる。このように、閾値電流の増加等の悪影響を抑制すると共に、光吸収量、及び電気抵抗のいずれもより小さくできる。
【0061】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る発光素子1の導電膜32は、導電膜32の酸素が第2パッド電極33b側に遷移する現象をも用いる点で第1実施形態に係る発光素子1と相違する。以下では、第1実施形態に係る発光素子1と相違する点を説明する。
【0062】
図10は、図1のAA断面図での酸素がメタル側に遷移を模式的に示す図である。矢印320は、酸素の遷移方向を模式的に示している。
【0063】
図10に示すように、金属材料の第2パッド電極33bと接する導電膜32の酸素は、第2パッド電極33b側に遷移する。これにより、導電膜32の酸素が遷移した領域では酸素空孔が形成されて、電気抵抗が低下する。このように、導電膜32と金属材料の第2パッド電極33bとを、光透過領域である電流注入部320、及び第2周辺領域220rの周辺部に構成することにより、光吸収の低下を抑制しつつ、酸素空孔密度を増加させることにより、電気抵抗をより低下させることが可能となる。
【0064】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る発光素子1の導電膜32は、導電膜32の応力をも用いる点で第1実施形態に係る発光素子1と相違する。以下では、第1実施形態に係る発光素子1と相違する点を説明する。
【0065】
図11は、図1のAA断面図での応力が導電膜32に加わる様子を模式的に示す図である。矢印330は、応力の方向及び大きさを模式的に示している。
【0066】
図11に示すように、第2光反射層42の応力330が、導電膜32の電流注入部320に係る第2光反射層42の応力330が、第1周辺領域32rよりも大きいことを示している。これにより、電流注入部320と第1周辺領域32rとで欠陥密度の生成量が相違する。このように、第2光反射層42の応力330を、光透過領域である電流注入部320により強く加わる構成とすることにより、光吸収の低下を抑制しつつ、電気抵抗をより低下させることが可能となる。
【0067】
(第6実施形態)
第6実施形態に係る発光素子1は、第2光反射層42の出射と反対側の面にシリコン窒化膜(SiN)を構成する点で第4、及び第5実施形態に係る発光素子1と相違する。以下では、第4、及び第5実施形態に係る発光素子1と相違する点を説明する。
【0068】
図12は、図1のAA断面図において、シリコン窒化膜(SiN)45を更に構成した発光素子1を模式的に示す図である。矢印320は、酸素の遷移方向を模式的に示している。図12に示すように、第2光反射層42の出射と反対側の面にシリコン窒化膜45を構成するこれにより、第5実施形態に係る発光素子1の効果に加えて導電膜32の光透過領域である電流注入部320、及び第2周辺領域220rからの酸素の遷移を抑制できる。
【0069】
また、電流注入部320、及び第2周辺領域220rを覆う領域のシリコン窒化膜45の膜厚を調整することにより、応力330(図11参照)の大きさを調整可能となる。これにより、第6実施形態に係る発光素子1の効果に加えて導電膜32の光透過領域である電流注入部320、及び第2周辺領域220rへ係る応力330(図11参照)のバランスを制御可能となる。
【0070】
(第6実施形態の変形例1)
図13は、第6実施形態の変形例1に係る発光素子1を模式的に示す図1のAA断面図である。図13に示すように、レーザ光の透過領域である電流注入部320、及び第2周辺領域220rのみを覆うようにシリコン窒化膜(SiN)45を構成してもよい。これにより、導電膜32において、レーザ光の透過領域と、それ以外の領域の特性を変更できる。
【0071】
なお、本技術は以下のような構成を取ることができる。
【0072】
(1)
レーザ光を生成する積層構造体と、
前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜であって、異なる欠陥密度の領域を有する導電膜と、
を、備える、発光素子。
【0073】
(2)
前記積層構造体は、第1化合物半導体層、発光層、及び、前記第1化合物半導体層と導電型の異なる第2化合物半導体層が積層され、
前記導電膜は、前記第1化合物半導体層、又は前記第2化合物半導体層に積層される、(1)に記載の発光素子。
【0074】
(3)
前記欠陥密度は、点欠陥、線欠陥、面欠陥、及び体積欠陥の少なくともいずれかの欠陥の密度であり、前記欠陥は、前記導電膜内に単独、もしくは複合して存在している、(1)に記載の発光素子。
【0075】
(4)
前記導電膜はITO(Indium Tin Oxide)、ITiO(Indium Titanium Oxide)、AZO(Al2O3-ZnO)、及びIGZO(InGaZnOx)の少なくともいずれかである、(1)に記載の発光素子。
【0076】
(5)
前記導電膜は、レーザ光を生成する駆動時に電流経路となる、(1)に記載の発光素子。
【0077】
(6)
前記積層構造体は、窒化物半導体から構成され、垂直共振器型面発光レーザとして構成される、(1)に記載の発光素子。
【0078】
(7)
前記導電膜は、前記レーザ光の透過領域と、前記透過領域と異なる第1周辺領域とを有し、
前記透過領域と、前記第1周辺領域とで前記欠陥密度が異なる、(1)に記載の発光素子。
【0079】
(8)
前記導電膜は、前記透過領域内の所定点から前記積層構造体に沿った方向の距離に応じて前記欠陥密度が異なる、(7)に記載の発光素子。
【0080】
(9)
前記第1周辺領域は、電流を供給する電極と電気的に接続される、(7)に記載の発光素子。
【0081】
(10)
前記積層構造体の第1面側に構成される第1光反射層と、
前記第1面と対向する第2面側にされる第2光反射層とを、更に備える、(1)に記載の発光素子。
【0082】
(11)
前記第1光反射層は、凹面鏡部を有している、(10)に記載の発光素子。
【0083】
(12)
前記導電膜の前記凹面鏡部に対向する面において、前記凹面鏡部により光が集中する領域とその周辺の領域とで前記欠陥密度が異なる、(11)に記載の発光素子。
【0084】
(13)
前記凹面鏡部に対向する面において、前記凹面鏡部により光が集中する領域とその周辺の領域とで前記欠陥密度が異なる、(11)に記載の発光素子。
【0085】
(14)
前記凹面鏡部の光軸から周辺部に向うにしたがい、前記欠陥密度が高くなる、(11)に記載の発光素子。
【0086】
(15)
前記第2光反射層と前記導電膜との間に積層される窒化物層を、
更に備える、(10に記載の発光素子。
【0087】
(16)
前記導電膜は、前記透過領域と、前記透過領域と前記第1周辺領域との間である第2周辺領域を有し、
前記透過領域と、前記第1周辺領域と、前記第2周辺領域とで前記欠陥密度が異なる、(7)に記載の発光素子。
【0088】
(17)
前記透過領域の欠陥密度を、前記第1周辺領域の欠陥密度よりも低く構成する、(7)に記載の発光素子。
【0089】
(18)
前記第2周辺領域の欠陥密度を、前記透過領域、及び前記第1周辺領域よりも低く構成する、(16)に記載の発光素子。
【0090】
(19)
前記第2周辺領域は、電流注入制限領域に対応する、(18)に記載の発光素子。
【0091】
(20)
レーザ光を生成する積層構造体と、
前記積層構造体の第1面側に構成される第1光反射層と、
前記第1面と対向する第2面側に構成される第2光反射層と
前記積層構造体に積層され、前記レーザ光を透過する導電膜と、
前記第2光反射層と前記導電膜との間に積層される窒化物層と、
を、備える、発光素子。
【0092】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1:発光素子、20:積層構造体、21:第1化合物半導体層、22:第2化合物半導体層、23:発光層(活性層)、32r:第1周辺領域、33b:第2パッド電極、41:第1光反射層、42:第2光反射層、90:凹面鏡部、220:電流非注入領域、220r:第2周辺領域、320:電流注入領域、L41:光軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-06-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
【特許文献1】国際公開2018/083877号