(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167810
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及び高周波増幅装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
A61B5/055 355
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084154
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久徳
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB42
4C096AC01
4C096AC04
4C096AC05
4C096AC06
4C096AC08
4C096AD10
4C096CC31
4C096CC32
4C096CC37
4C096CC38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】RFコイル及び被検体を少なくとも含む負荷において、負荷インピーダンスが変動した場合であっても、高周波増幅装置のリニアリティを維持可能にすること。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、被検体に高周波信号を伝送するRFコイルと、入力された高周波信号を増幅してRFコイル及び被検体を含む負荷に出力する高周波増幅装置と、を備える。高周波増幅装置は、高周波増幅回路と、情報取得部と、決定部と、補償部と、を有する。当該回路は、入力された高周波信号を増幅する。情報取得部は、第1スキャンにおいて負荷の負荷インピーダンスに係る情報を取得する。決定部は、この情報に基づいて、高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する。補償部は、補償データに基づいて、第2スキャンにおいて高周波増幅回路から出力される高周波信号を、振幅毎に補償する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に高周波信号を伝送するRFコイルと、
入力された高周波信号を増幅して前記RFコイル及び前記被検体を少なくとも含む負荷に出力する高周波増幅装置と、を備え、
前記高周波増幅装置は、
前記入力された高周波信号を増幅する高周波増幅回路と、
第1のスキャンにおいて前記負荷の負荷インピーダンスに係る情報を取得する情報取得部と、
前記負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、前記高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する決定部と、
決定された前記補償データに基づいて、第2のスキャンにおいて前記高周波増幅回路から出力される高周波信号を、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償する補償部と、を有する、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記高周波増幅装置は、複数の負荷インピーダンスに対応した複数のリニアリティ補償テーブルを記憶する記憶回路、をさらに備え、
前記決定部は、前記入力された高周波信号の振幅と位相とを前記振幅毎に補償するためのリニアリティ補償テーブルを、前記負荷インピーダンスに係る情報に基づいて前記複数のリニアリティ補償テーブルから選択して、前記補償データとして決定する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記負荷インピーダンスに係る情報は、(a)複素負荷インピーダンス、(b)複素負荷アドミタンス、(c)電圧定在波比(VSWR)及び進行波と反射波との間の位相角、(d)複素反射係数、及び、(e)S11パラメータ、のうち少なくとも1つを含む情報である、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記複数のリニアリティ補償テーブルは、所定の基準負荷インピーダンスに対応した基準リニアリティ補償テーブルと、前記基準負荷インピーダンスとは異なる変動負荷インピーダンスに対応した少なくとも1つの変動リニアリティ補償テーブルとからなる、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記複数のリニアリティ補償テーブルは、所定の基準負荷インピーダンスに対応した基準リニアリティ補償テーブルと、前記基準負荷インピーダンスとは異なる変動負荷インピーダンスの前記基準負荷インピーダンスに対する差分からなる差分負荷インピーダンスに対応した少なくとも1つの差分補償テーブルとからなる、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記差分補償テーブルが、前記高周波増幅装置と構成を同等にする高周波増幅装置において共通に用いることができる、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記基準負荷インピーダンスは50Ωである、
請求項4又は請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記高周波増幅装置は、複数の負荷インピーダンスに対応した複数のリニアリティを補償するリニアリティ補償値を算出するための演算式を記憶する記憶回路、をさらに備え、
前記決定部は、前記負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、前記入力された高周波信号の振幅と位相とを前記振幅毎に補償するための前記リニアリティ補償値を前記演算式によって算出し、前記リニアリティ補償値を前記補償データとして決定する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記高周波増幅装置は、前記第1のスキャンにおいて、前記第1のスキャンの前記負荷インピーダンスに対応した1のリニアリティ補償テーブルを生成する生成部、をさらに備え、
前記決定部は、前記生成部で生成された前記1のリニアリティ補償テーブルを、前記補償データとして決定する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記複数のリニアリティ補償テーブルは、前記第1のスキャン及び前記第2のスキャンにおいて頻度が高いと想定される前記負荷における負荷インピーダンス付近におけるリニアリティ補償テーブルを、前記頻度が低いと想定される前記負荷の負荷インピーダンス付近におけるリニアリティ補償テーブルよりも多く有している、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
被検体に高周波信号を伝送するRFコイルと、
入力された高周波信号を増幅して出力する高周波増幅装置と、を備え、
前記高周波増幅装置は、
前記入力された高周波信号を増幅させる電力増幅素子を有する高周波増幅回路と、
前記被検体を撮像するスキャンにおいて設定された、少なくともパルス幅、デューティー、及び平均電力値を含む撮像条件を取得する条件取得部と、
前記撮像条件に基づいて、前記高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する決定部と、
決定された前記補償データに基づいて、前記スキャンにおいて前記高周波増幅回路から出力される高周波信号を、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償する補償部と、を有する、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記高周波増幅装置は、前記パルス幅、前記デューティー、及び前記平均電力値の組み合わせに対応した前記電力増幅素子の温度変動を補償するための複数のリニアリティ補償テーブルを記憶する記憶回路、をさらに備え、
前記決定部は、前記入力された高周波信号の振幅と位相とを前記振幅毎に補償するためのリニアリティ補償テーブルを、前記撮像条件に基づいて前記複数のリニアリティ補償テーブルから選択して、前記補償データとして決定する、
請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記高周波増幅装置は、DPD(Digital Pre-Distortion)フィードフォワード補償によって、前記高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償する、
請求項1又は請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
入力された高周波信号を増幅して、被検体に伝送するRFコイル及び前記被検体を少なくとも含む負荷に出力する磁気共鳴イメージング装置用の高周波増幅装置であって、
前記入力された高周波信号を増幅する高周波増幅回路と、
第1のスキャンにおいて前記負荷の負荷インピーダンスに係る情報を取得する情報取得部と、
前記負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、前記高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する決定部と、
決定された前記補償データに基づいて、第2のスキャンにおいて前記高周波増幅回路から出力される高周波信号を、前記入力された高周波信号の振幅毎に補償する補償部と、を有する、
高周波増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び高周波増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF:Radio Frequency)信号で励起し、励起に伴って被検体から発生する磁気共鳴信号(MR信号)を再構成してMR画像を生成する撮像装置である。
【0003】
従来、MRI装置において、高周波を増幅する高周波増幅装置が用いられている。高周波増幅装置において、負荷インピーダンスが所定の基準値から変動することによって生じるインピーダンス不整合が、リニアリティの低下の要因となり得る。
【0004】
そのため、高周波増幅装置において、リニアリティの低下を低減するための技術が用いられている。例えば、高周波増幅回路と出力端子との間に、アイソレータ等を設けて出力端子側から高周波増幅回路への反射波電力を除去することにより、反射波電力による負荷インピーダンスの変動を抑制し、リニアリティの低下を低減する高周波増幅装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、RFコイル及び被検体を少なくとも含む負荷において、負荷インピーダンスが変動した場合であっても、高周波増幅装置のリニアリティを維持できるようにすることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、被検体に高周波信号を伝送するRFコイルと、入力された高周波信号を増幅してRFコイル及び被検体を少なくとも含む負荷に出力する高周波増幅装置と、を備える。高周波増幅装置は、高周波増幅回路と、情報取得部と、決定部と、補償部と、を有する。高周波増幅回路は、入力された高周波信号を増幅する。情報取得部は、第1のスキャンにおいて負荷の負荷インピーダンスに係る情報を取得する。決定部は、負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する。補償部は、決定された補償データに基づいて、第2のスキャンにおいて高周波増幅回路から出力される高周波信号を、入力された高周波信号の振幅毎に補償する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の全体構成例を示す概略図。
【
図2】第1の実施形態に係る高周波増幅装置の構成例を示す概略図。
【
図3】第1の実施形態に係る高周波増幅装置のリニアリティ補償の全体の流れの一例を示すフローチャート。
【
図4】複素インピーダンス等を表すスミスチャートについての説明図。
【
図5】第1の実施形態に係る第1補償テーブル群についての説明図。
【
図6】基準補償テーブル、差分補償テーブル、及び変動補償テーブルについての説明図。
【
図7】第1の実施形態に係る第2補償テーブル群についての説明図。
【
図8】第1の実施形態に係る高周波増幅装置のリニアリティ補償において入力された高周波信号が出力されるまでの流れの一例を示すフローチャート。
【
図9】比較例の高周波増幅装置の構成例を示す概略図。
【
図10】第2の実施形態に係る高周波増幅装置の構成例を示す概略図。
【
図11】第2の実施形態に係る高周波増幅装置のリニアリティ補償の全体の流れの一例を示すフローチャート。
【
図12】第3の実施形態に係る高周波増幅装置の構成例を示す概略図。
【
図13】第3の実施形態に係る高周波増幅装置のリニアリティ補償の全体の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、磁気共鳴イメージング装置及び高周波増幅装置の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
(磁気共鳴イメージング装置の全体構成)
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置)1は、磁気共鳴イメージング技術を利用可能である。
図1は、実施形態に係るMRI装置1の全体構成例を示す概略図である。MRI装置1は、磁石架台100と、制御キャビネット300と、例えば、コンソール等の画像処理装置400と、寝台500とを備えて構成される。
【0011】
磁石架台100と寝台500は、例えば、検査室と呼ばれるシールドルームに配置される。一方、制御キャビネット300は、例えば、機械室に配置され、画像処理装置400は、例えば、操作室に配置される。なお、画像処理装置400は、MRI装置1とネットワークを介して接続されて操作室と離れた遠隔地に設置されてもよい。
【0012】
磁石架台100は、静磁場磁石10と、傾斜磁場コイル11と、WB(Whole Body)コイル12等を備える。磁石架台100の静磁場磁石10は、磁石が円筒形状の磁石構造である円筒型と、撮像空間を挟んで上下に一対の磁石が配置された開放型とに大別される。ここでは、磁石架台100が円筒型のMRI装置1について説明するが、開放型のMRI装置であってもよい。なお、開放型のMRI装置は、磁石架台を構成する静磁場磁石と、傾斜磁場コイルと、WBコイルとが、平行平板状をなしている以外は、円筒型のMRI装置1と同様の構成を備える。
【0013】
静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体Pが搬送されるボア内に静磁場を発生する。ボアとは、磁石架台100の円筒内部の空間のことである。静磁場磁石10は、例えば、液体ヘリウムを保持するための筐体と、液体ヘリウムを極低温に冷却するための冷凍機と、筐体内部の超伝導コイルとによって構成される。なお、静磁場磁石10は、永久磁石によって構成されてもよい。以下、静磁場磁石10が、超伝導コイルを有する場合について説明する。
【0014】
静磁場磁石10は、超伝導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超伝導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場電源から供給される電流を超伝導コイルに印加することで静磁場を発生する。その後、永久電流モードに移行すると、静磁場電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は、長時間、例えば、1年以上に亘って、静磁場を発生し続ける。
【0015】
傾斜磁場コイル11は、静磁場磁石10と同様に概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に設置される。傾斜磁場コイル11は、X軸用、Y軸用、Z軸用の3つの傾斜磁場コイルから構成されている。夫々の傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)から傾斜磁場電流(電力)を供給されることにより、X軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を発生し、被検体Pに印加する。ここで、Z軸方向は静磁場に沿った方向、Y軸方向は垂直方向、X軸方向はZ軸とY軸それぞれに直交する方向である。
【0016】
WBコイル12は、全身用コイルとも呼ばれ、傾斜磁場コイル11の内側に被検体Pを取り囲むように概略円筒形状に設置されている。WBコイル12は、送信コイルとして機能する。つまり、WBコイル12は、RF送信器32から伝送された高周波(RF:Radio Frequency)信号に従ってRFパルスを被検体Pに向けて送信する。一方、WBコイル12は、RFパルスを送信する送信コイルとしての機能に加え、受信コイルとしての機能を備える場合もある。その場合、WBコイル12は、受信コイルとして、原子核の励起によって被検体Pから放出されるMR信号を受信する。なお、WBコイル12は、RFコイルの一例である。
【0017】
MRI装置1は、WBコイル12の他、ローカルコイル20を備える場合もある。ローカルコイル20は、被検体Pの体表面に近接して配置される。ローカルコイル20は、複数のコイル要素を備えてもよい。また、ローカルコイル20には、頭部コイル、胸部コイル、腹部コイル、脊椎コイル、膝コイル等の幾つかの種別がある。なお、
図1では、ローカルコイル20が、胸部コイルである場合が示されているが、その場合に限定されるものではない。
【0018】
ローカルコイル20は、受信コイルとして機能する。つまり、ローカルコイル20は、前述のMR信号を受信する。なお、ローカルコイル20は、MR信号を受信する受信コイルとしての機能に加え、RFパルスを送信する送信コイルとしての機能を備える送受信コイルでもよい。つまり、ローカルコイル20は、送信専用、受信専用、送受信兼用の種別を問わない。ローカルコイル20は、RFコイルの一例である。
【0019】
寝台500は、寝台本体50と天板51とを備える。寝台本体50は天板51を上下方向及び水平方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体Pを所定の高さまで移動させる。その後、撮像時には天板51を水平方向に移動させて被検体Pをボア内に移動させる。
【0020】
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)と、RF送信器32と、RF受信器33と、シーケンスコントローラ34とを備える。
【0021】
傾斜磁場電源31は、X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とについて傾斜磁場を発生するコイルそれぞれを駆動する各チャンネル用の傾斜磁場電源31x,31y,31zを備える。傾斜磁場電源31x,31y,31zは、シーケンスコントローラ34の指令により、必要な電流を各チャンネル独立に出力する。
【0022】
RF送信器32は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて高周波信号を生成する。RF送信器32は、生成した高周波信号をRFコイル(すなわち、WBコイル12、又はローカルコイル20)に伝送する。RF送信器32は、実施形態に係る高周波増幅装置32によって構成される。実施形態に係る高周波増幅装置32の詳細な説明は後述する。
【0023】
WBコイル12やローカルコイル20で受信したMR信号は、RF受信器33に伝送される。RF受信器33は、WBコイル12やローカルコイル20からのMR信号をアナログ-デジタル(AD:Analog to Digital)変換して、シーケンスコントローラ34に出力する。デジタルに変換されたMR信号は、生データ(Raw Data)と呼ばれることもある。
【0024】
シーケンスコントローラ34は、画像処理装置400による制御の下、傾斜磁場電源31と、RF送信器32と、RF受信器33とをそれぞれ駆動することによって被検体Pの撮像を行う。撮像によってRF受信器33から生データを受信すると、シーケンスコントローラ34は、その生データを画像処理装置400に送信する。
【0025】
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備する。この処理回路は、例えば、所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
【0026】
続いて、画像処理装置400の説明に移る。画像処理装置400は、処理回路40と、記憶回路41と、ディスプレイ42と、入力インターフェース43と、通信回路44とを備える。
【0027】
処理回路40は、専用、又は汎用のプロセッサを有し、記憶回路41に記憶された、又は処理回路40内に直接組み込まれたプログラムを実行することによるソフトウェア処理によって、各種の機能を実現する。処理回路40は、シーケンスコントローラ34の動作を制御し、パルスシーケンスに従った撮像を実行してMR画像を生成する機能を実現する。処理回路40は、FPGAやASIC等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、ソフトウェア処理とハードウェア処理とを組みわせて、各種の機能を実現してもよい。
【0028】
記憶回路41は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等を備える。記憶回路41は、USB(Universal Serial Bus)メモリ、DVD(Digital Video Disk)等の可搬型メディアを備えてもよい。記憶回路41は、処理回路40において用いられる各種処理プログラムや、プログラムの実行に必要なデータや、医用画像を記憶する。
【0029】
ディスプレイ42は、例えば、液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等の一般的な表示出力装置により構成される。ディスプレイ42は、処理回路40の制御に従って各種情報を表示する。なお、ディスプレイ42は、表示デバイスであると共に、例えば、タッチパネル等のユーザからの各種操作を受け付けることができるGUI(Graphical User Interface)であってもよい。
【0030】
入力インターフェース43は、ユーザによって操作が可能な入力デバイスと、入力デバイスからの信号を入力する入力回路とを含む。入力デバイスは、トラックボール、スイッチ、マウス、キーボード、タッチパッド、タッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力デバイス、音声入力デバイス等によって実現される。ユーザにより入力デバイスが操作されると、入力回路はその操作に応じた信号を生成して処理回路40に出力する。
【0031】
通信回路44は、有線、又は、無線で、ネットワークに接続された通信を行うためのインターフェースを含む。通信回路44は、例えば、ネットワークと記憶回路41との間で各種データのやり取りを行うことができる。
【0032】
これらの各構成品によって、画像処理装置400は、MRI装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等のユーザによる、マウスやキーボード等の入力インターフェース43の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信されたデータに基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ42に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
【0033】
ここで、前述したように、高周波増幅装置32は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて高周波信号を生成する。より具体的には、高周波増幅装置32は、入力された高周波信号を増幅して、被検体Pに伝送するRFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷に出力する。
【0034】
高周波増幅装置32は、所定の基準負荷インピーダンスにおいて、入力側と出力側のインピーダンスが整合するように設計されている。基準負荷インピーダンスは、例えば、50Ω±j0Ωが用いられる。しかしながら、高周波増幅装置32において、入力側と出力側のインピーダンスが整合しない負荷不整合(インピーダンス不整合)の状態となる場合がある。
【0035】
インピーダンス不整合は、例えば、負荷インピーダンスの変動や高周波増幅回路315の電力増幅素子における温度変動等により生じる。負荷インピーダンスは、例えば、個々の被検体Pの体重や身長等の大きさ、体脂肪の量の変化、RFコイルの種類、RFコイル内での被検体Pの位置や動き等に応じて変動する。
【0036】
負荷インピーダンスの変動等によりインピーダンス不整合が生じると、高周波増幅装置32のリニアリティは低下する。実施形態に係るMRI装置1に備えられる高周波増幅装置32は、RFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷において、負荷インピーダンスが変動した場合であっても、高周波増幅装置32のリニアリティを維持できる。以下に、高周波増幅装置32についての詳細な説明をする。
【0037】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態に係る高周波増幅装置32の構成例を示す概略図である。
図2に示すように、高周波増幅装置32は、入力端子310と、DPD(Digital Pre-Distortion)フィードフォワード補償回路311と、デジタル変調回路313と、デジタル-アナログ(D/A:Digital to Analog)変換回路314と、高周波増幅回路315と、カプラ316と、出力端子317と、制御回路330と、記憶回路340とを備える。
【0038】
高周波増幅装置32は、例えば入力端子310を介してシーケンスコントローラ34に接続され、シーケンスコントローラ34から、送信電力や送信波形の振幅及び位相を規定する送信波形データを入力する。
【0039】
DPDフィードフォワード補償回路311は、制御回路330の制御の下、入力された送信波形データに対して、高周波増幅装置32のリニアリティを補償するための処理を行う。前述したように、負荷インピーダンスが変動することによって、高周波増幅回路315と負荷320との間でインピーダンス不整合の状態が発生すると、負荷320からの反射波が発生すると共に、高周波増幅回路315のリニアリティが劣化する。リニアリティが劣化するということは、高周波増幅回路315の入出力特性が線形ではなくなることであり、また、本来一定であるべき高周波増幅回路315の利得(GAIN)が入力信号の大きさに依存して変化することを意味している。また、リニアリティが劣化するということは、高周波増幅回路315に入力された高周波信号の波形が、高周波増幅回路315の出力において歪むことを意味している。
【0040】
そこで、DPDフィードフォワード補償回路311は、高周波増幅回路315で発生する歪みが相殺されるように、高周波増幅回路315に入力される高周波信号の波形を事前に歪ませる役目を担っている。具体的には、DPDフィードフォワード補償回路311は、入力された送信波形データに対応する送信波形の振幅と位相とを、送信波形の振幅毎に調整することにより、高周波増幅回路315で発生する歪みを相殺するための逆歪を発生させている。
【0041】
このようにして、高周波増幅回路315で入力信号を増幅させる前に、入力信号の振幅毎に高周波増幅装置32のリニアリティを補償する。つまり、高周波増幅装置32のリニアリティの補償は、入力信号の振幅、及び位相の調整によって行われる。これにより、高周波増幅装置32に入力される高周波信号と出力される増幅信号との関係は高精度に制御される。すなわち、DPDフィードフォワード補償によって、高周波増幅回路315から出力される高周波信号のリニアリティが、入力された高周波信号の振幅毎に補償される。
【0042】
デジタル変調回路313は、デジタルキャリア信号312によって、DPDフィードフォワード補償回路311によって補償された入力信号をデジタル変調する(すなわち、デジタル領域で入力信号をアップコンバージョンする)。その後、デジタル-アナログ変換回路314によって、デジタル変調後の入力信号はアナログ変換されて、高周波増幅回路315に入力される。
【0043】
高周波増幅回路315は、入力された高周波信号を増幅して増幅信号を出力する。高周波増幅回路315は、DPDフィードフォワード補償回路311によって振幅、及び位相が補償された後の入力信号を増幅する。高周波増幅回路315が出力した増幅信号は、出力端子317を介してRFコイルに供給される。高周波増幅回路315は、例えば、FET(Field Effect Transistor)等の電力増幅素子によって、入力された高周波信号を増幅させる。
【0044】
カプラ316は、高周波増幅回路315と出力端子317との間に設けられる方向性結合器である。カプラ316は、高周波増幅回路315から出力された増幅信号を出力端子317に出力する。出力端子317は、高周波増幅回路315により増幅された増幅信号をRFコイルに出力する。すなわち、高周波増幅装置32は、入力された高周波RF信号を増幅してRFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷320に出力する。
【0045】
また、カプラ316は、増幅信号の進行波電力(Forward Power)と、出力端子317からの反射波電力(Reflected Power)とをモニタ用に抽出して、制御回路330に出力できる。高周波増幅装置32は、さらに、出力断制御回路318を備えてもよい。出力断制御回路318が備えられている場合には、カプラ316は、進行波電力と反射波電力とモニタ結果を出力断制御回路318にも出力する。出力断制御回路318は、増幅信号の進行波電力と反射波電力とのモニタ結果において、短絡や過負荷などの異常な状態を検知した場合に高周波増幅装置32の動作を停止する。
【0046】
制御回路330は、所定のプログラムを記憶回路340から読み出し、実行することので、各種プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。記憶回路340は、制御回路330において用いられる各種プログラムや、プログラムの実行に必要なデータや、後述する補償データを決定するための複数のリニアリティ補償テーブルや演算式等を記憶する。
【0047】
制御回路330は、情報取得機能331と、決定機能332と、補償機能333とを備える。前述したように、高周波増幅装置32のリニアリティの補償は、入力信号の振幅、及び位相の調整によって行われる。
図3のフローチャートを用いて、第1の実施形態に係る高周波増幅装置32のリニアリティ補償の全体の流れを説明する。
【0048】
なお、以下の説明において、第2のスキャンは、例えば、診断用のMR画像の撮像のために、被検体Pを本スキャンすることをいう。また、第1のスキャンは、位置決め用のMR画像の撮像等のために、第2のスキャンの前に被検体Pをプリスキャンすることをいう。第1のスキャンは、第2のスキャン毎に予め行われてもよいし、複数の第2のスキャンに対して1の第1のスキャンが行われてもよい。
図3のフローチャートに先駆けて、RFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷320が静磁場磁石10内に搬入される。
【0049】
ステップST10において、画像処理装置400の処理回路40は、MRI装置1全体を制御して、第1のスキャンを開始する。第1のスキャンは、例えば、入力インターフェース43におけるユーザの操作等により開始される。処理回路40は、シーケンスコントローラ34に第1のスキャン開始の指示、及び各種撮像条件等を送信する。また、シーケンスコントローラ34は、傾斜磁場31、RF送信器(高周波増幅装置)32、及びRF受信器33を制御することによって、被検体Pの第1のスキャンを実行する。
【0050】
ステップST20において、情報取得機能331は、第1のスキャンにおいて負荷の負荷インピーダンスに係る情報を取得する。負荷インピーダンスに係る情報は、例えば、カプラ316からの増幅信号の進行波電力と、出力端子317からの反射波電力とがモニタされて、制御回路330に出力されることによって取得される。負荷インピーダンスに係る情報を取得する方法は、これに限らず、以下に示す負荷インピーダンスに係る情報を取得できる公知の取得方法でよい。
【0051】
負荷インピーダンスに係る情報は、例えば、(a)複素負荷インピーダンス、(b)複素負荷アドミタンス、(c)電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)及び進行波と反射波との間の位相角、(d)複素反射係数、(e)S11パラメータ等が挙げられる。負荷インピーダンスに係る情報は、後述するステップST40において、高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定するための情報となる。
【0052】
(a)複素負荷インピーダンスは、その実部は抵抗、虚部はリアクタンスを表す、複素電圧と複素電流の比で定義される複素数である。(b)複素負荷アドミタンスは、その実部はコンダクタンス、虚部はサセプタンスを表す、複素負荷インピーダンスの逆数で定義される複素数である。(c)電圧定在波比は進行波と反射波とで構成される定常波における最大及び最小の振幅の比率であり、進行波と反射波との間の位相角はいわゆる初期位相ともいう。(d)複素反射係数は、反射波と進行波の振幅の比で定義される振幅反射係数に位相を含めた複素数である。(e)S11パラメータは、ネットワークアナライザ等において測定される反射特性である。
【0053】
そして、ステップST30の第1のスキャンの終了後に、ステップST40において、決定機能332は、負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する。
【0054】
補償データは、複数のリニアリティ補償テーブルから選択して決定される。複数のリニアリティ補償テーブルは、複数の負荷インピーダンスに対応したテーブルである。複数のリニアリティ補償テーブルは、例えば、記憶回路340に記憶される。決定機能332は、入力された高周波信号の振幅と位相とを振幅毎に補償するためのリニアリティ補償テーブルを、負荷インピーダンスに係る情報に基づいて複数のリニアリティ補償テーブルから選択して、補償データとして決定する。
【0055】
ここで、複数のリニアリティ補償テーブルについて、
図4~
図7を用いて説明する。
図4は、複素インピーダンス等を表すスミスチャートについての説明図である。
図4では、スミスチャート上に、VSWRを表す同心円と、進行波と反射波との間の位相角φをプロットしている。スミスチャートの中心が、高周波増幅回路315の基準負荷インピーダンス(例えば、50Ω)の位置に対応し、また、VSWR=1.0の位置に対応している。スミスチャートでは、負荷インピーダンスと、VSWR及び位相角φ(進行波と反射波との間の位相角φ)とを対応づけることができる。例えば、スミスチャートでは、負荷インピーダンスが基準負荷インピーダンスの50Ωと異なる値に変化して、スミスチャートの中心から円の外周に向かって移動すると、VSWRが、例えば、中心の1.0の位置から、2.0や3.0に変化する様子や、進行波と反射波との間の位相角φが、-180度~+180度と変化する様子を把握することができる。
【0056】
負荷インピーダンス(すなわち、複素負荷インピーダンス)が基準負荷インピーダンス(例えば、50Ω)と異なると、高周波増幅回路315のリニアリティは理想的な状態から変化し、また、負荷インピーダンスの値によって、高周波増幅回路315のリニアリティの変化の状態は異なる。このため、高周波増幅回路315から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データは、負荷インピーダンスの値に応じて異なる。
【0057】
複素負荷インピーダンスと、VSWR及び位相角の組み合わせとは、1対1に対応している。したがって、言い換えると、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データは、VSWR及び位相角の値に応じて(例えば、VSWRが1.0で位相角φが0度、VSWRが1.2で位相角φが10度、VSWRが1.4で位相角φが15度、VSWRが1.6で位相角φが20度、・・・VSWRが2.0で位相角φが30度等)、それぞれのリニアリティを補償するための補償データが異なる。
【0058】
よって、それぞれのリニアリティを補償するための複数の補償データが予め用意されていれば、負荷320によって負荷インピーダンスが変動した場合であっても、実際の負荷320の補償に最適な補償データを決定することが可能となる。複数の補償データは、例えば、複数のリニアリティ補償テーブルである。
図5、及び
図7に示すように、リニアリティ補償テーブルは、例えば、特定の負荷に対して、入力される高周波信号の電力値(振幅)[dBm]に対して必要な利得(GAIN)補償値[dB]及び位相(PHASE)補償値[deg]として与えられる。
【0059】
複数のリニアリティ補償テーブルは、例えば、高周波増幅装置32の開発や製造時に予め作成可能なテーブルであり、記憶回路340に記憶される。複数のリニアリティ補償テーブルが予め作成され記憶されていれば、病院等の施設において実際の負荷320の補償をするためのリニアリティ補償テーブルの生成は不要とすることができる。
【0060】
図5は、複数のリニアリティ補償テーブルの一例である第1補償テーブル群についての説明図である。
図5に示すように、複数のリニアリティ補償テーブルは、所定の基準負荷インピーダンスに対応した基準リニアリティ補償テーブルと、少なくとも1つの差分補償テーブルとからなる。差分補償テーブルとは、基準負荷インピーダンスとは異なる変動負荷インピーダンスの基準負荷インピーダンスに対する差分からなる差分負荷インピーダンスに対応したリニアリティ補償テーブルである。言い換えれば、差分補償テーブルは、基準負荷インピーダンスとは異なる変動負荷インピーダンスに対応した変動リニアリティ補償テーブルと基準リニアリティ補償テーブルとの差分である。基準負荷インピーダンスは、例えば、50Ωである。
【0061】
なお、所定の基準負荷インピーダンスに対応した基準リニアリティ補償テーブルは、高周波増幅装置32の個体間で異なる。そのため、例えば、製造時などに、高周波増幅装置32毎に所定の基準負荷インピーダンスに対応した補償データを取得する必要がある。これに対して、差分補償テーブルは、高周波増幅装置32の個体間で異ならない。そのため、例えば、開発時などに、一度取得した補償データを、同一設計の他の高周波増幅装置で用いることができる。すなわち、差分補償テーブルは、高周波増幅装置32と構成を同等にする高周波増幅装置において共通に用いることができる。
【0062】
図6は、基準補償テーブル、差分補償テーブル、及び変動補償テーブルについての説明図である。
図6に示すように、変動補償テーブルは、基準補償テーブルと差分補償テーブルとの合成によって作成可能である。
図6から判るように、基準補償テーブルと差分補償テーブルとを予め合成して、異なる負荷インピーダンス(或いは、異なるVSWRと位相角)に対応する複数の変動補償テーブルを生成して、第2補償テーブル群として記憶するようにしてもよい。
【0063】
図7は、複数のリニアリティ補償テーブルの一例である第2補償テーブル群についての説明図である。
図7に示すように、複数のリニアリティ補償テーブルは、例えば、所定の基準負荷インピーダンスに対応した基準リニアリティ補償テーブルと、基準負荷インピーダンスとは異なる変動負荷インピーダンスに対応した少なくとも1つの変動リニアリティ補償テーブルとからなる。基準負荷インピーダンスは、例えば、50Ωである。なお、
図2では、記憶回路340に、第1補償テーブル群と第2補償テーブル群との両方が記憶されているが、いずれか一方が記憶されていてもよい。
【0064】
図3に戻り、ステップST50において、例えば、入力インターフェース43におけるユーザの操作等により、画像処理装置400の処理回路40は、MRI装置1全体を制御して、第2のスキャンを開始する。
【0065】
ステップST60において、すなわち、第2のスキャンにおいて、補償機能333は、決定された補償データに基づいて、高周波増幅回路から出力される高周波信号を、入力された高周波信号の振幅毎に補償する。
図8のフローチャートを用いて、ステップST61~ステップST66で構成されるステップST60の流れの一例を具体的に説明する。
【0066】
ステップST61において、シーケンスコントローラ34から高周波増幅装置32に送信波形データが入力される。
【0067】
ステップST62において、DPDフィードフォワード補償回路311は、制御回路330の制御の下、高周波増幅装置32のリニアリティを補償する。DPDフィードフォワード補償回路311は、入力される高周波信号の電力値(振幅)に対して必要な利得(GAIN)補償値及び位相(PHASE)補償値を、入力された送信波形データに対応する送信波形の振幅及び位相のそれぞれに加算や減算をすることによって、高周波増幅装置32のリニアリティを補償する。振幅補償値及び位相補償値は、例えば、基準補償テーブルや変動補償テーブルなどの補償データから与えられる。
【0068】
ステップST63において、デジタル変調回路313は、デジタルキャリア信号312によって、DPDフィードフォワード補償回路311によって補償された入力信号をデジタル変調する。
【0069】
ステップST64において、デジタル-アナログ変換回路314によって、デジタル変調後の入力信号はアナログ変換される。
【0070】
ステップST65において、高周波増幅回路315は、入力された高周波信号を増幅して増幅信号を出力する。
【0071】
ステップST66において、高周波増幅回路315によって増幅された増幅信号は、出力端子317を介してRFコイルに出力される。すなわち、高周波増幅装置32は、入力された高周波RF信号を増幅してRFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷320に出力する。
【0072】
そして、第2のスキャンが終了(ステップST70)すると、本フローチャートの処理は終了する。
【0073】
図9は、比較例としての従来の高周波増幅装置の構成例を示す概略図である。
図9に示すように、比較例の高周波増幅装置では、高周波増幅回路と出力端子との間に、アイソレータが設けられている。そして、アイソレータによって、負荷インピーダンスが変動してインピーダンス不整合が起きた場合であっても、反射波電力が高周波増幅回路に到達することを防止することができる。この結果、負荷インピーダンスが変動しても、高周波増幅器のリニアリティを維持することができる。つまり、
図9に示す比較例は、アイソレータの存在によって高周波増幅器のリニアリティを維持する構成となっている。
【0074】
これに対して、第1の実施形態に係る高周波増幅装置32によれば、前述したように、RFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷320において、負荷インピーダンスが変動し、インピーダンス不整合が生じた場合であっても、インピーダンス不整合の状態に応じて高周波増幅装置32に入力される送信波形に逆歪を発生させることにより、高周波増幅回路315のリニアリティ補償を行っている。このため、高周波増幅回路315のリニアリティを維持するためのアイソレータが不要となり、高周波増幅装置32の小型化やコストダウンが可能となる。
【0075】
(第1の実施形態の変形例1)
前述したように、第1の実施形態のステップST40において、決定機能332は、負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する。第1の実施形態では、この補償データは、複数のリニアリティ補償テーブルから選択することにより決定されている。
【0076】
この他、リニアリティ補償テーブルを保有する構成に換えて、決定機能332が、負荷インピーダンスに係る情報に基づいて、入力された高周波信号の振幅と位相とを振幅毎に補償するためのリニアリティ補償値を演算式によって算出して、補償データを決定する構成としてもよい。演算式は、複数の負荷インピーダンスに対応した複数のリニアリティを補償するリニアリティ補償値を算出するための式である。演算式は、例えば、記憶回路340に記憶される。演算式には、例えば、予め取得された複数のリニアリティ補償テーブルを近似した近似式や公知の数式等が用いられる。
【0077】
(第1の実施形態の変形例2)
第1の実施形態のステップST40において、補償データの決定で用いられる複数のリニアリティ補償テーブルは、第1のスキャン及び第2のスキャンにおいて頻度が高いと想定される負荷における負荷インピーダンス付近におけるリニアリティ補償テーブルを、頻度が低いと想定される負荷の負荷インピーダンス付近におけるリニアリティ補償テーブルよりも多く有していてもよい。
【0078】
具体的には、例えば、個々の被検体Pの体重や身長等の大きさ、体脂肪の量、使用されるRFコイルの種類等、第1のスキャン及び第2のスキャンにおいて頻度が高いと想定される負荷のリニアリティ補償テーブルを多く有していてもよい。例えば、VSWRを0.1刻みで、位相角φを5度刻みで複数のリニアリティ補償テーブルを作成していたところを、頻度が高いと想定される負荷についてはVSWRを0.05刻みで、位相角φを1度刻みとするようにリニアリティ補償テーブルの分解能を上げてもよい。
【0079】
また、第1のスキャン及び第2のスキャンにおいて頻度が低いと想定される負荷のリニアリティ補償テーブルを少なくして、リニアリティ補償テーブル全体のテーブル数を抑えることもできる。なお、頻度が高いと想定される負荷のリニアリティ補償テーブルをテーブル数が多くなるように高分解能で有していれば、より最適なリニアリティ補償テーブルの選択が可能になり、高周波増幅装置32から出力される高周波RF信号の精度が高くなる。
【0080】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係る高周波増幅装置32の構成例を示す概略図である。
図10に示すように、第2の実施形態は、制御回路330に、生成機能334をさらに備える点で第1の実施形態と異なる。
図2に示す高周波増幅装置32と実質的に異ならない構成、及び機能には同一符号を付して説明を省略する。
【0081】
具体的には、第1の実施形態は、高周波増幅装置32におけるリニアリティ補償データの決定において記憶回路340に記憶された複数のリニアリティ補償テーブルから選択していた。これに対して、第2の実施形態は、第1のスキャンによって生成された1のリニアリティ補償テーブルを用いる点で異なる。
図11のフローチャートに示すように、第2の実施形態に係る高周波増幅装置32において、生成機能334はステップST25を、決定機能332はステップST45実現する。
図3に示す第1の実施形態と同等の他のステップには同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0082】
図11に示すように、第2の実施形態に係る高周波増幅装置32では、ステップST20において、情報取得機能331が、RFコイル及び被検体Pを含む負荷320の負荷インピーダンスに係る情報を取得した後に、ステップST25が開始される。
【0083】
ステップST25において、生成機能334は、第1のスキャンの負荷インピーダンスに対応した1のリニアリティ補償テーブルを生成する。なお、ステップST25は、
図11ではステップST20とステップST30との間で行われているが、ステップST30の第1のスキャン終了後に行われてもよい。
【0084】
ステップST30の第1のスキャン終了後に、ステップST45において、決定機能332は、生成機能334で生成された1のリニアリティ補償テーブルを、補償データとして決定する。ステップST45の後に、ステップST50~ステップST70が行われる。
【0085】
第2の実施形態に係る高周波増幅装置32によれば、第1のスキャンにおいて、実際の負荷インピーダンスに対応した1のリニアリティ補償テーブルが生成されて、第2のスキャンの補償データとして用いられる。つまり、実際のRFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷320に基づいて補償データが決定されるため、高周波増幅装置32のリニアリティを高精度で維持できる。
【0086】
(第3の実施形態)
図12は、第3の実施形態に係る高周波増幅装置32の構成例を示す概略図である。
図12に示すように、第3の実施形態は、制御回路330に、情報取得機能331に代えて条件取得機能335を備える点で第1の実施形態と異なる。
図2に示す高周波増幅装置32と実質的に異ならない構成、及び機能には同一符号を付して説明を省略する。
【0087】
具体的には、第1の実施形態は、高周波増幅装置32におけるリニアリティ補償データの決定は、情報取得機能331が取得する負荷インピーダンスに係る情報に基づいて行われていた。これに対して、第3の実施形態は、条件取得機能335が取得するスキャンにおいて設定された、少なくともパルス幅、デューティー、及び平均電力値を含む撮像条件に基づいて行われる点で異なる。
図13のフローチャートを用いて、第3の実施形態に係る高周波増幅装置32のリニアリティ補償の全体の流れの一例を説明する。なお、後述するスキャンは、第1のスキャンでもよいし、第2のスキャンでもよい。
【0088】
ステップST110において、条件取得機能335は、被検体Pを撮像するスキャンにおいて設定された、少なくともパルス幅、デューティー、及び平均電力値を含む撮像条件を取得する。各種撮像条件は、例えば、入力インターフェース43においてユーザの操作等により設定される。処理回路40は、シーケンスコントローラ34に各種撮像条件を送信する。
【0089】
ステップST120において、決定機能332は、撮像条件に基づいて、高周波増幅回路から出力される高周波信号のリニアリティを、入力された高周波信号の振幅毎に補償するための補償データを決定する。
【0090】
ここで、補償データは、例えば、複数のリニアリティ補償テーブルから選択して決定される。複数のリニアリティ補償テーブルは、例えば、第3補償テーブル群であり、記憶回路340に記憶される。第3補償テーブル群は、パルス幅、デューティー、及び平均電力値の組み合わせに対応した電力増幅素子の温度変動を補償するための複数のリニアリティ補償テーブルである。決定機能332は、入力された高周波信号の振幅と位相とを振幅毎に補償するためのリニアリティ補償テーブルを、撮像条件に基づいて複数のリニアリティ補償テーブルから選択して、補償データとして決定する。
【0091】
第3補償テーブル群も、第1補償テーブル群や第2補償テーブル群と同様に、例えば、特定の負荷に対して、入力される高周波信号の電力値(振幅)[dBm]に対して必要な利得(GAIN)補償値[dB]及び位相(PHASE)補償値[deg]として与えられてもよい。
【0092】
ステップST130において、画像処理装置400の処理回路40は、MRI装置1全体を制御して、スキャンを開始する。スキャンは、例えば、入力インターフェース43におけるユーザの操作等により開始される。例えば、処理回路40は、シーケンスコントローラ34にスキャン開始の指示、及び各種撮像条件を送信する。また、シーケンスコントローラ34は、傾斜磁場31、RF送信器32、及びRF受信器33を制御することによって、被検体Pのスキャンを実行する。
【0093】
ステップST140において、補償機能333は、決定された補償データに基づいて、スキャンにおいて高周波増幅回路から出力される高周波信号を、入力された高周波信号の振幅毎に補償する。なお、ステップST140におけるリニアリティ補償は第1実施形態に係る高周波増幅装置32のステップST60と実質的に異ならないため、重複する説明を省略する。
【0094】
そして、スキャンが終了(ステップST150)すると、本フローチャートの処理は終了する。
【0095】
第3の実施形態に係る高周波増幅装置32によれば、パルス幅、デューティー、及び平均電力値の撮像条件から、予め、電力増幅素子の温度変動を推定してリニアリティ補償する。すなわち、RFコイル及び被検体Pを少なくとも含む負荷320において、電力増幅素子の温度変動による影響をフィードフォワードによって補償することができる。
【0096】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、RFコイル及び被検体を少なくとも含む負荷において、高周波増幅装置32のリニアリティを維持できる。
【0097】
なお、上記実施形態において、「プロセッサ」という文言は、例えば、専用又は汎用のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又は特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びFPGA)等の回路を意味するものとする。プロセッサは、記憶媒体に保存されたプログラムを読み出して実行することにより、各種機能を実現する。
【0098】
また、上記実施形態では処理回路の単一のプロセッサが各機能を実現する場合の例について示したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサが各機能を実現してもよい。また、プロセッサが複数設けられる場合、プログラムを記憶する記憶媒体は、プロセッサごとに個別に設けられてもよいし、1つの記憶媒体が全てのプロセッサの機能に対応するプログラムを一括して記憶してもよい。
【0099】
なお、実施形態の説明における情報取得機能331、決定機能332、補償機能333、生成機能334、及び条件取得機能335は、夫々、特許請求の範囲の記載における、情報取得部、決定部、補償部、生成部、及び条件取得部の一例である。
【0100】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0101】
1…磁気共鳴イメージング装置(MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置) 12…WB(Whole Body)コイル(RFコイル) 20…ローカルコイル(RFコイル) 32…高周波増幅装置 311…DPD(Digital Pre-Distortion)フィードフォワード補償回路 315…高周波増幅回路 320…負荷 330…制御回路 340…記憶回路 331…情報取得機能 332…決定機能 333…補償機能 334…生成機能 335…条件取得機能 P…被検体