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特開2024-167817廃棄物溶融処理方法および廃棄物溶融処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167817
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】廃棄物溶融処理方法および廃棄物溶融処理装置
(51)【国際特許分類】
   F23G 5/50 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
F23G5/50 F
F23G5/50 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084162
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 契一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 純也
【テーマコード(参考)】
3K062
【Fターム(参考)】
3K062AA16
3K062AB03
3K062AC01
3K062BB01
3K062DA40
3K062DB30
(57)【要約】
【課題】廃棄物溶融処理装置において燃料を増加させることなく連続出滓を可能とすること。
【解決手段】溶融炉内で少なくとも廃棄物の熱分解およびガス化を行うことにより生じる灰分を溶融炉内で溶融する廃棄物溶融処理方法であって、溶融炉内に廃棄物と燃料とスラグとを投入し、燃料の燃焼によって廃棄物の灰分およびスラグを溶融させ、溶融した灰分が溶融したスラグとして排出される量を、溶融炉に投入するスラグの投入量によって調整する。排出されたスラグに対して水砕処理を行い、水砕処理がされて生成された水砕スラグの一部または全部を溶融炉内に投入するスラグとして用いる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉内で少なくとも廃棄物の熱分解およびガス化を行うことにより生じる灰分を前記溶融炉内で溶融する廃棄物溶融処理方法であって、
前記溶融炉内に前記廃棄物と燃料とスラグとを投入し、
前記燃料の燃焼によって前記廃棄物の灰分および前記スラグを溶融させ、
溶融した前記灰分が溶融した前記スラグとして排出される量を、前記溶融炉に投入する前記スラグの投入量によって調整する
廃棄物溶融処理方法。
【請求項2】
前記排出されたスラグに対して水砕処理を行い、
水砕処理がされて生成された水砕スラグの一部を前記溶融炉内に投入する前記スラグとして用いる
請求項1に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項3】
前記排出されたスラグに対して水砕処理を行い、
水砕処理がされて生成された水砕スラグの全部を前記溶融炉内に投入する前記スラグとして用いる
請求項1に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項4】
前記溶融炉から排出されるスラグの排出量が所定値以上になるように、前記溶融炉に投入するスラグの投入量を調整する
請求項1に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項5】
前記所定値は、150kg/h以上の範囲内に設定される
請求項4に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項6】
前記所定値は、200kg/h以上の範囲内に設定される
請求項4に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項7】
廃棄物に対して熱分解およびガス化を行うことにより生じる灰分を溶融可能に構成された廃棄物溶融処理装置であって、
燃料の燃焼による熱によって前記灰分を溶融させる溶融炉と、
前記溶融炉内に前記廃棄物と前記燃料とスラグとを投入可能に構成された供給部と、
溶融した灰分をスラグとして排出可能に構成された出滓口と、
前記出滓口から排出されたスラグに対して水砕処理を行う水砕部と、を備え、
前記溶融炉内に前記排出されたスラグの少なくとも一部を循環させる搬送経路が設けられている
廃棄物溶融処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物溶融処理方法および廃棄物溶融処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融スラグを製造する条件として、灰分の供給が十分な量であることを前提として考案されている。スラグの量が増加すると溶融のための燃料量を調整することが必要になる。小型なごみや低灰分のごみを処理するガス化溶融炉においては、連続的なスラグの排出が実行できず、出滓口を間欠的に開け閉めする間欠出滓が行われていた。間欠出滓とは、マッド材によって出滓口を閉止し、一定時間が経過した後に開口機によって穴を開口し、鉄製のパイプからなるランスに酸素を流通させ、先端を燃焼させた熱によって固着したスラグを溶融する作業である。
【0003】
特許文献1には、スラグの排出量に応じてコークス量や主羽口の酸素(O2)の条件の調整が必要であることが開示されている。特許文献2には、スラグの組成を調整するために、溶融炉に製鋼スラグを投入することが開示されている。特許文献3には、連続出滓を目的として、出滓が悪化した時には灰分の供給を削減または停止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-28122号公報
【特許文献2】特許第6639725号公報
【特許文献3】特許第6611626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、ガス化溶融炉において間欠出滓が必要であることから、作業者の人件費や種々の材料費などの運転コストを増加させる要因となっていた。小規模に廃棄物を処理するガス化溶融炉や、低灰分の廃棄物を処理するガス化溶融炉などの廃棄物溶融処理装置において、スラグの排出を連続的に実行できず、間欠出滓が必要となる要因として、灰分の投入量が少ないことが原因であると考えられる。そのため、スラグになる投入物を増加させるとスラグ自体は増加するが、投入物の増加に伴ってコークスなどの燃料も同様に増加させる必要があることが一般認識であって、コークスなどの燃料の増加も必要であった。さらに、連続出滓を実現できる条件についても考慮されていない。そのため、ガス化溶融炉において、燃料を増加させることなく連続出滓を可能とする技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、廃棄物溶融処理装置に供給する燃料を増加させることなく連続出滓を可能とする廃棄物溶融処理方法および廃棄物溶融処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理方法は、溶融炉内で少なくとも廃棄物の熱分解およびガス化を行うことにより生じる灰分を前記溶融炉内で溶融する廃棄物溶融処理方法であって、前記溶融炉内に前記廃棄物と燃料とスラグとを投入し、前記燃料の燃焼によって前記廃棄物の灰分および前記スラグを溶融させ、溶融した前記灰分が溶融した前記スラグとして排出される量を、前記溶融炉に投入する前記スラグの投入量によって調整する。
【0008】
本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理方法は、上記の発明において、前記排出されたスラグに対して水砕処理を行い、水砕処理がされて生成された水砕スラグの一部を前記溶融炉内に投入する前記スラグとして用いる。
【0009】
本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理方法は、上記の発明において、前記排出されたスラグに対して水砕処理を行い、水砕処理がされて生成された水砕スラグの全部を前記溶融炉内に投入する前記スラグとして用いる。
【0010】
本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理方法は、上記の発明において、前記溶融炉から排出されるスラグの排出量が所定値以上になるように、前記溶融炉に投入するスラグの投入量を調整する。
【0011】
本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理方法は、この構成において、前記所定値は、150kg/h以上の範囲内に設定される。また、本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理方法は、この構成において、前記所定値は、200kg/h以上の範囲内に設定される。
【0012】
本発明の一態様に係る廃棄物溶融処理装置は、廃棄物に対して熱分解およびガス化を行うことにより生じる灰分を溶融可能に構成された廃棄物溶融処理装置であって、燃料の燃焼による熱によって前記灰分を溶融させる溶融炉と、前記溶融炉内に前記廃棄物と前記燃料とスラグとを投入可能に構成された供給部と、溶融した灰分をスラグとして排出可能に構成された出滓口と、前記出滓口から排出されたスラグに対して水砕処理を行う水砕部と、を備え、前記溶融炉内に前記排出されたスラグの少なくとも一部を循環させる搬送経路が設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る廃棄物溶融処理方法および廃棄物溶融処理装置によれば、廃棄物溶融処理装置に供給する燃料を増加させることなく連続出滓が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態によるガス化溶融炉の構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に基づいた実施例および従来技術に基づいた比較例を示す表である。
図3図3は、従来技術によるガス化溶融炉の構成を示す図である。
図4図4は、従来技術によるガス化溶融炉の炉底部を示す上面図である。
図5図5は、従来技術によるガス化溶融炉における間欠出滓を説明するためのガス化溶融炉の炉底部を示す側面図である。
図6図6は、本発明の実施形態によるガス化溶融炉における連続出滓を説明するためのガス化溶融炉の炉底部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。
【0016】
本発明の実施形態について説明するにあたり、本発明者が行った鋭意検討について説明する。図3は、従来技術によるガス化溶融炉を示す図である。図4および図5はそれぞれ、従来技術によるガス化溶融炉の炉底部を示す上面図および側面図であり、特に間欠出滓を説明するための図である。
【0017】
図3に示すように、従来技術によるガス化溶融炉100は、シャフト炉式のガス化溶融炉である。ガス化溶融炉100に廃棄物133とともにコークス132を投入する。ガス化溶融炉100においては、投入したコークス132の燃焼熱によって廃棄物133のガス化および溶融が行われる。
【0018】
ガス化溶融炉100の上方には、コークス132、都市ごみなどの廃棄物133、および石灰石(CaCO3)134を供給する供給装置が配設されている。なお、図3において供給装置の図示は省略する。石灰石134は、ガス化溶融炉100内で生成されるスラグの融点や粘度を低下させるための成分調整材として使用される。
【0019】
ガス化溶融炉100の上部に投入口102が設けられている。コークス132、廃棄物133、および石灰石134は、供給装置から搬送コンベアにより搬送され、投入口102から炉内に投入される。なお、図3において搬送コンベアの図示は省略する。また、ガス化溶融炉100の炉上部の側方には、ガス排出口103が設けられている。ガス排出口103は、炉内で発生した可燃性ガスを二次燃焼室(図示せず)に排出する排出口である。
【0020】
ガス化溶融炉100は、内部空間が縦方向に3つの領域に大別されている。具体的に内部空間は、下方から、下部シャフト部121、中部シャフト部122、およびフリーボード部123に大別されている。
【0021】
下部シャフト部121は、炉内に投入されて堆積したコークス132を燃焼させて高温燃焼帯を形成する領域である。下部シャフト部121に形成される高温燃焼帯上には、炉内に投入された廃棄物133が堆積して廃棄物層が形成される。下部シャフト部121の炉壁には、主羽口105が設けられている。主羽口105は、高温燃焼帯を形成するための酸素富化空気が吹き込まれる羽口である。
【0022】
下部シャフト部121の下部における炉底側面には、出滓口104が設けられている。出滓口104は、廃棄物133の灰分が溶融したスラグ、および廃棄物133の金属が溶融した溶融金属を排出するための排出口である。排出されたスラグおよび金属は、水槽135に供給されて水砕処理が行われる。排出されたスラグおよび金属は、水槽135において冷却固化され、金属は粒状になって排出され磁選機により回収でき、スラグは砂状の水砕スラグ136として排出される。
【0023】
中部シャフト部122は、下部シャフト部121の上に位置する。中部シャフト部122は、高温燃焼帯上に形成された廃棄物層の廃棄物133を熱分解させる領域である。中部シャフト部122の炉壁には、副羽口106が設けられている。副羽口106は、投入されて堆積した廃棄物133を緩やかに流動させながら熱分解と燃焼をさせる空気が吹き込まれる羽口である。
【0024】
フリーボード部123は、中部シャフト部122の上に位置する。フリーボード部123は、廃棄物133の熱分解により生成された可燃性ガスの一部を燃焼させる領域である。フリーボード部123の炉壁には、三段羽口107が設けられている。三段羽口107は、廃棄物133の熱分解によって生成された可燃性ガスの一部を燃焼させて炉内部を所定温度に維持するための空気が吹き込まれる。
【0025】
以上のように構成されたガス化溶融炉100において、本発明者の知見によれば、ガス化溶融炉100の炉下部に形成されたコークスベッドが、主羽口105から吹き込まれた酸素富化空気によって燃焼されて得られた熱により投入物の灰分が溶融される。また、間欠出滓になるか否かは、炉の規模や底径に関係なくスラグの排出量によって決定される。
【0026】
本発明者は種々実験を行った結果、スラグの排出量が100kg/h未満の場合には間欠出滓となることが判明した。これは、灰分が溶融して生じたスラグが炉の中心部を流下し、下部シャフト部121の炉底を出滓口104に向かって流れる流路によって溶融状態を維持するために必要な最小の熱容量である。スラグの排出量を増加させて、100kg/h以上150kg/h未満とした場合には、出滓口104を閉止することなく操業が可能となる。しかしながら、出滓が不安定になって頻繁に停止する可能性も高いため、酸素を用いたランス作業が必要になる。
【0027】
これらのことから本発明者は、ガス化溶融炉100からのスラグの排出量(出滓量)は、典型的には150kg/h以上、好適には200kg/h以上を確保することが望ましいことを知見した。これにより、良好な出滓を維持することができる。出滓量を150kg/h未満とすると、溶融したスラグが出滓口104に到達する前に放熱により温度が低下して固着する可能性が生じる。
【0028】
すなわち、スラグの閉塞は、スラグの流路の一部を起点として生じるため、ボトルネック部の閉塞を抑制することによって、流路全体の流れを維持できる。図4に示すように、スラグの流路は炉全体に遍在せずに、炉の中心部を流下して炉底を出滓口に向かって流れる流路104a(湯道)となる。なお、炉の底面のコークス132などに夾雑物がほとんど含まれず、スラグが流れるトンネル状の流路104aが炉中央から出滓口まで形成されている場合もある。
【0029】
図5に示すように、炉底部にコークス132が蓄積して形成されるコークス層に、灰が溶融される領域と生成したスラグの流路とが形成される。コークス層の最下部においては、横方向の流路が存在する。また、横方向の流路の上部におけるコークス層は、蓄積した高融点のスラグの再固化物を含むことから、スラグの流れは阻害されるが、中央部には融点を超えたスラグ131aが流下する流路が存在する。スラグの流路の閉塞は、流路内に存在するボトルネック部、すなわち狭小化された流路の部分で生じる。そのため、ボトルネック部において最小の流路径を確保するために、炉規模や炉底径に関わらず、一定のスラグ量が必要になる。
【0030】
一方、図6に示すように、炉底におけるスラグ131aが横方向に沿った流路に到達できた場合、流路を広く確保できるので、その後はスラグ131aに対する流れ抵抗が低抵抗になる。そのため、スラグ131aは、流路長にあまり影響されることなく、横方向に沿った流路を速やかに流動して出滓口104まで到達する。
【0031】
廃棄物133の投入量が少ない小型のガス化溶融炉100においては、灰分投入量が少なくなる。また、灰分含有量の少ない廃棄物133を投入するガス化溶融炉100においても出滓量が小さくなる。そこで本発明者は鋭意検討を行い、出滓量を所定量以上に維持するために、ガス化溶融炉の炉頂から例えば水砕スラグなどのスラグを投入する方法を想到した。これにより、溶融のための燃料であるコークスやバイオマス炭や非炭化バイオマス成形品など(以下、コークスなど)の増量や、炉内に供給する酸素の増量や酸素濃度の増加を行うことなく、スラグの排出を一定量以上に確保でき、安定した連続出滓を実現できる。
【0032】
さらに、本発明者は、溶融物を増加させるとともにコークス132などの投入量も増加させて溶融熱を確保する可能性について検討を行った。すなわち、本発明者は、コークス132などの熱量の消費について鋭意検討を行った。本発明者は、灰分の昇温および溶融に消費される熱量を、スラグの比熱および溶融熱に基づいて演算したところ、コークス132などの燃焼熱に対して10%程度に相当する量であることを知見した。すなわち、残りの燃焼熱は、廃棄物のガス化、ガスの昇温、および放熱補償などに消費されていると考えられる。そのため、本発明者は、廃棄物の灰分と同量のスラグを投入する場合であっても、投入するコークスなどの量は2倍に増加させる必要はなく、10%程度の増加でまかなえることを知見した。
【0033】
さらに、廃棄物133の灰分は組成が均一ではなく、多くの灰粒子の融点は、灰分が完全混合した組成のスラグの融点、例えば1200℃を超え、一部は2000℃を超える場合もある。すなわち、灰分の溶融に必要な温度は、スラグの融点を超える高温である必要があった。一方、組成の異なる高融点の灰分を一旦溶融させて、適切な組成になるように混合させると、融点が低下する。これにより、スラグは1150~1300℃程度の融点において溶融するため、灰を溶融するための温度より低温で溶融が生じることになる。
【0034】
さらに、溶融したスラグは周囲の高融点灰を取り込んで融解させるため、溶融に必要な熱量はさらに低下する。本発明者が実験を行った結果、スラグの投入量が廃棄物の灰分量の2.3倍以下とした場合、コークス132などの増量が不要であることが判明した。コークス132などの増量を行わない場合、熱バランスの観点から、可燃性ガスの温度はやや低下する可能性がある。そこで、本発明者はさらに検討を行い、副羽口106の空気量を増加させて潜熱を顕熱に変換させることによって、ガス排出口103から排出される可燃性ガスの温度を維持する方法を案出した。
【0035】
また、従来、スラグの量が少なく連続出滓が困難になった場合、発生させる熱量を増加させて下部シャフト部121の温度を過度に上げて溶融を維持することが行われていた。これに対し、本発明者がさらに種々実験を行った結果、水砕スラグを循環させた場合においては、炉下部の温度をスラグの溶融温度程度に抑制でき、コークスなどの燃料投入量が低減する場合もあった。なお、主羽口からはコークスなどを燃焼させるために十分な酸素を供給していることから、コークスなどの燃料を増量しない限り、酸素の供給量および酸素の濃度の変更は不要である。以下に説明する本発明の一実施形態は、本発明者による以上の鋭意検討により案出されたものである。
【0036】
(廃棄物溶融処理装置)
図1は、本発明の一実施形態による廃棄物溶融処理装置としてのガス化溶融炉を示す。図1に示すように、ガス化溶融炉1は上述したガス化溶融炉101においてさらに、脱水された水砕スラグ31の供給装置(図示せず)、および水槽135と同様の水槽35から水砕スラグ36の少なくとも一部を分離させて、脱水装置8を経由して脱水された水砕スラグ31の供給装置に搬送する搬送経路が設けられる。その他の構成は、上述したガス化溶融炉100と同様に構成される。
【0037】
すなわち、本実施形態においては、ガス化溶融炉1に廃棄物33とともに水砕スラグ31およびコークス32を投入する。ガス化溶融炉1においては、投入したコークス32の燃焼熱によって廃棄物33のガス化、廃棄物33の灰分および水砕スラグ31の溶融が行われる。
【0038】
ガス化溶融炉1の上方には、水砕スラグ31、コークス32、都市ごみなどの廃棄物33、および石灰石34を供給する供給部としての供給装置が配設されている。なお、図1において供給装置の図示は省略する。石灰石34は、ガス化溶融炉1で生成されるスラグの成分調整材として使用される。なお、水砕スラグは、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化カルシウム(CaO)、酸化鉄(FeO)、および酸化マグネシウム(MgO)などが選択的に含有される。また、水砕スラグ31に含有されるCaOに対するSiO2の比率(CaO/SiO2)の下限としては、典型的には0.5以上(0.5≦CaO/SiO2)、好適には0.6以上(0.6≦CaO/SiO2)であり、上限としては0.8以下(CaO/SiO2≦0.8)である。また、水砕スラグ31に含有されるAl23の含有比率は、典型的には20%以下(Al23/スラグ≦20%)、好適には15%以下(Al23/スラグ≦15%)が望ましい。
【0039】
ガス化溶融炉1は、炉上部に投入口2が設けられている。水砕スラグ31、コークス32、廃棄物33、および石灰石34は、供給装置から搬送コンベアにより搬送され、投入口2から炉内に投入される。なお、図1において搬送コンベアの図示は省略する。水砕スラグ31およびコークス32は、それぞれ別のホッパに入れ、それぞれ所定量を切り出して供給装置に投入してもよい。また、水砕スラグ31およびコークス32を混合して1つのホッパに入れ、1ヶ所から切り出して供給装置に投入してもよい。ガス化溶融炉1の炉上部の側方に設けられたガス排出口3は、ガス排出口103と同様に構成される。
【0040】
本実施形態によるガス化溶融炉1の下部シャフト部21は、炉内に投入されて堆積したコークス32を燃焼させて高温燃焼帯を形成する領域である。ガス化溶融炉1の内部に投入された水砕スラグ31は、この領域に到達して溶融される。下部シャフト部21に形成される高温燃焼帯上には、炉内に投入された廃棄物33が堆積して廃棄物層が形成される。下部シャフト部21における出滓口4および主羽口5はそれぞれ、下部シャフト部121における出滓口104および主羽口105と同様に構成される。
【0041】
中部シャフト部22およびフリーボード部23はそれぞれ、中部シャフト部122およびフリーボード部123と同様に構成され、副羽口6および三段羽口7もそれぞれ、副羽口106および三段羽口107と同様に構成される。
【0042】
本実施形態によるガス化溶融炉1においては、水砕部としての水槽35によって水砕処理がされた水砕スラグ36の一部または全部が脱水装置8に供給される。脱水装置8は、遠心分離機、振動篩、送風乾燥機、天日乾燥、または重力脱水などを用いることができる。脱水装置8は、水槽35において急冷された砂状のスラグを脱水し、脱水されたスラグは水砕スラグ31の供給装置に搬送される。これにより、ガス化溶融炉1において、水砕スラグ31,36が循環される。以上により本実施形態によるガス化溶融炉1が構成される。
【0043】
(廃棄物溶融処理方法)
次に、以上のように構成されたガス化溶融炉1による廃棄物溶融処理方法について説明する。供給装置から供給される水砕スラグ31、コークス32、廃棄物33、および石灰石34は、それぞれ所定量ずつ投入口2から炉内へ投入される。炉内には主羽口5から酸素富化空気が吹き込まれる。また、炉内には副羽口6および三段羽口7から空気が吹き込まれる。
【0044】
投入口2から投入された廃棄物33は、炉内で中部シャフト部22に堆積して廃棄物層を形成する。この廃棄物層は、下部シャフト部21の高温燃焼帯から上昇してくる高温ガスおよび副羽口6から吹き込まれる空気により発生する燃焼ガスによって乾燥され、次いで熱分解される。廃棄物33の熱分解により生成された可燃性ガスは、フリーボード部23にて、一部が三段羽口7から吹き込まれる空気により燃焼されて850℃以上の温度に保たれ、有害ガスとタール分を分解させる処理が施されてから炉外に設けられた二次燃焼室(図示せず)に供給される。
【0045】
コークス32の燃焼により生じる燃焼ガスは、廃棄物層へ上昇して廃棄物33を熱分解およびガス化させる。中部シャフト部22の廃棄物層で熱分解およびガス化した廃棄物33の灰分は水砕スラグ31および石灰石34とともに下降し、高温燃焼帯が形成されている下部シャフト部21に達する。下部シャフト部21においては、コークス32の間の隙間により火格子が形成する。また、下部シャフト部21においてコークス32が燃焼する。この燃焼の熱によって灰分は水砕スラグ31および石灰石34とともに溶融し、スラグおよび溶融した金属になる。この溶融したスラグおよび溶融した金属は、コークス32により形成された火格子の隙間を降下し、出滓口4から排出される。
【0046】
炉外に排出されたスラグおよび金属は、水砕装置としての水槽35に供給されて水砕されつつ冷却固化されて回収される。これにより、粒子間の空隙に水を含有する砂状の水砕スラグ36が形成される。
【0047】
冷却固化された水砕スラグ36は少なくとも一部が分離されて脱水装置8に供給されて脱水される。脱水された水砕スラグ31は供給装置に搬送されて投入口2からガス化溶融炉1に投入されて循環される。なお、冷却固化された水砕スラグ36の全部を脱水装置8に供給して脱水した後、水砕スラグ31の供給装置に搬送してもよい。このように、ガス化溶融炉1内において、水砕スラグ31を循環させると、融点が低いスラグを循環させることができるため、下部シャフト部21の下部の温度をスラグの溶融温度程度に抑制でき、コークス32などの燃料の投入量を低減させることが可能となる。
【0048】
投入口2から投入される水砕スラグ31の供給量(供給流量)は、出滓口4から出滓されるスラグの排出量(排出流量)に基づいて調整することが可能である。例えば、出滓口4から排出されるスラグの排出量が所定値のM(kg/h)未満であった場合、投入口2から投入する水砕スラグ31の供給量を増加させる。反対に、出滓口4から排出されるスラグの排出量が所定値のN(kg/h)より大きい場合、投入口2から投入する水砕スラグ31の供給量を減少させる。すなわち、出滓口4から排出されるスラグの排出量がM(kg/h)以上N(kg/h)以下になるように、投入口2から投入する水砕スラグ31の供給量を調整することが望ましい。ここで、本発明者の知見によれば、上述したM(kg/h)は150kg/h以上200kg/hの範囲内から設定することが好ましい。また、本発明者の知見によれば、上述したN(kg/h)は、200kg/h以上300kg/hの範囲内から設定することが好ましい。
【0049】
(実施例および比較例)
次に、以上のように構成されたガス化溶融炉1による廃棄物溶融処理の実施例と、実施例の効果を説明するための比較例について説明する。図2は、本実施形態によるガス化溶融炉による廃棄物溶融処理方法に基づいた実施例および従来技術に基づいた比較例を示す表である。
【0050】
図2に示すように、本発明者は、図1に示すガス化溶融炉1を用いた操業試験を2箇所(A工場およびB工場)において行い、ガス化溶融炉1からの出滓の状態を測定した。図2において、A工場における比較例(第1比較例)およびA工場における実施例(第1,第2実施例)と、A工場とは異なるB工場における比較例(第2比較例)とB工場における実施例(第3,第4実施例)を示す。
【0051】
(A工場)
まず、第1比較例の条件に基づいて操業試験を行った場合、スラグの排出量が132kg/hの場合、出滓が頻繁に停止することが確認され、1~2時間に1回程度の酸素ランス作業が必要であることが確認された。
【0052】
これに対し、第1実施例の条件に基づいて操業試験を行った場合、投入口2から水砕スラグ31を20kg/hの流量で投入すると、スラグの排出量を150kg/hに調整できて出滓状況が改善され、酸素ランス作業はほとんど実施しない状態になったことが確認された。また、第1実施例において、水砕スラグ31を投入した場合においても、コークス32の投入量は初期条件から変更する必要がなく、出滓口4の直下において測定したスラグの温度も1320℃から低下していないことが確認された。なお、図2のA工場において、コークス投入量は、第1比較例におけるコークスの投入量を基準(100%)とした場合の比率を示し、第1実施例におけるコークス投入量は第1比較例と同量(100%)である。また、主羽口5の条件は第1比較例と同様であり、初期条件から変更していない。
【0053】
また、第2実施例の条件に基づいて操業試験を行った場合、投入口2から水砕スラグ31を60kg/hの流量で投入すると、スラグの排出量を194kg/hに調整できて出滓状況が改善され、酸素ランス作業は不要になったことが確認された。また、第2実施例において、水砕スラグ31を投入した場合においても、コークス32の投入量は初期条件から変更する必要がなく、出滓口4の直下において測定したスラグの温度も1330℃と10℃程度上昇したことが確認された。この温度上昇は、スラグの熱容量の増加に起因すると考えられる。なお、コークス投入量は、第1比較例におけるコークス投入量と同量(100%)である。また、主羽口5の条件は第1比較例および第1実施例と同様であり、初期条件から変更していない。
【0054】
(B工場)
次に、第2比較例の条件に基づいて操業試験を行った場合、スラグの排出量が90kg/hの場合、間欠出滓にしなければ操業ができない状態であることが確認された。この場合、スラグの溶融状態を維持するために、コークスを過度に投入して燃焼させた熱の供給が必要であった。コークスの過度な供給によって、スラグの温度は1400℃と高温になったことも確認された。
【0055】
これに対し、第3実施例の条件に基づいて操業試験を行った場合、投入口2から水砕スラグ31を120kg/hの流量で投入すると、スラグの排出量を209kg/hに調整できて出滓状況は良好になり、酸素ランス作業が不要となったことが確認された。また、第3実施例において、水砕スラグ31を投入した場合においても、コークス32の投入量は初期条件から変更する必要がなく、出滓口4の直下において測定した連続出滓されているスラグの温度も1390℃と若干低下した程度であることが確認された。なお、図2のB工場において、コークス投入量は、第2比較例におけるコークスの投入量を基準(100%)とした場合の比率を示し、第3実施例におけるコークス投入量は第2比較例と同量(100%)である。また、主羽口5の条件は第2比較例と同様であり、初期条件から変更していない。また、第2比較例の条件下において間欠に一時排出されるスラグの温度は、熱容量が大きいため放熱の影響を受けにくく、第3実施例におけるスラグの温度よりも高温であることが確認された。
【0056】
また、第4実施例の条件に基づいて操業試験を行う場合において、連続出滓時におけるスラグの温度は、第3実施例における1390℃以下であってもよい。そこで、第1実施例によるA工場のガス化溶融炉1におけるスラグの温度と同程度の温度(1320℃)にするために、コークス32の投入量を第2比較例および第3実施例に比して低減させた。具体的に、第4実施例において、スラグの温度が1320℃程度になるために必要なコークス32の投入量は、第2比較例および第3実施例の75%であった。すなわち、コークス32の投入量は、第3実施例に比して25%低減可能となった。なお、主羽口5の条件は第2比較例および第3実施例と同様であり、初期条件から変更していない。
【0057】
上述したように図2から、ガス化溶融炉1に廃棄物33およびコークス32に加えて水砕スラグ31を供給することによって、コークス32などの燃料の供給量を増加させることなく、連続出滓が可能になり、出滓状況を向上させ、酸素ランス作業の実施を低減、さらには酸素ランス作業を不要にできることが確認された。
【0058】
以上説明した一実施形態によれば、ガス化溶融炉1において、炉に供給する燃料の供給量を増加させることなく、安定した連続出滓を実現できる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよく、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【0060】
上述した水砕スラグ31は、必ずしもガス化溶融炉1から排出された水砕スラグ31に限定されず、外部から供給されたスラグや水砕スラグであってもよい。また、ガス化溶融炉1から排出されたスラグから形成された水砕スラグ36と外部から供給されたスラグや水砕スラグを混合したスラグをガス化溶融炉1に供給してもよい。
【0061】
また、上述したコークス32は、バイオマス炭などの炭化物燃料に置き換えることができる。さらに、これらの炭化物燃料の一部は、バイオマス成形品などの非炭化物燃料で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ガス化溶融炉
2 投入口
3 ガス排出口
4 出滓口
5 主羽口
6 副羽口
7 三段羽口
8 脱水装置
21 下部シャフト部
22 中部シャフト部
23 フリーボード部
31 水砕スラグ
32 コークス
33 廃棄物
34 石灰石
35 水槽
36 水砕スラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6