(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167824
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末、及びセラミックス粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/63 20060101AFI20241127BHJP
【FI】
C04B35/63 030
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084172
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩明
(72)【発明者】
【氏名】江口 舞奈
(57)【要約】
【課題】セラミックス粉末と均一に混合することができ、セラミックス添加材として有用な希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末を提供すること。
【解決手段】本発明は、希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末であって、SEM-EDXにて測定し酸化物換算した、希土類酸化物と二族元素酸化物の質量濃度の比(二族元素酸化物/希土類酸化物)のCV値が、35%以下である、粉末を提供する。粉末は、二族元素酸化物の含有量と希土類酸化物の含有量の合計量が90質量%以上であることが好ましい。粉末は、ICP発光分光法により測定したときに、希土類酸化物と二族元素酸化物の合計量を100質量%とした場合の二族元素酸化物の含有量の割合が0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末であって、SEM-EDXにて測定し酸化物換算した、希土類酸化物と二族元素酸化物の質量濃度の比(二族元素酸化物/希土類酸化物)のCV値が、35%以下である、粉末。
【請求項2】
二族元素酸化物の含有量と希土類酸化物の含有量の粉末全質量に対する合計量が90質量%以上である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
ICP発光分光法により測定したときに、希土類酸化物と二族元素酸化物の合計量を100質量%とした場合の二族元素酸化物の含有量の割合が0.05質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の粉末。
【請求項4】
前記二族元素がマグネシウムである、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項5】
前記希土類酸化物が、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム及び酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項6】
BET1点法で測定する比表面積が30m2/g以上45m2/g以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項7】
水と混合して前記粉末を10質量%含有する水スラリーとした後、以下(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、最小となる平均粒子径Ddが40nm以上110nm以下となる、請求項1又は2に記載の粉末。
(A):直径0.05mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。
ここで最小となる平均粒子径Ddとは、前記(A)の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。)。
【請求項8】
水と混合して前記粉末を10質量%含有する水スラリーとした後、以下(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに最小となる平均粒子径Ddを測定し、更に、比表面積換算の1次粒子径Dsを測定したときに、
比率Ds/Ddが0.3以上である、請求項1又は2に記載の粉末。
(A):直径0.05mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。
ここで最小となる平均粒子径Ddとは、前記(A)の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。)。
【請求項9】
水と混合して前記粉末を10質量%含有する水スラリーとした後、直径0.05mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに60分間のビーズミル処理を行ったときの、動的光散乱法により測定した平均粒子径が150nm以下となる、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項10】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が1μm以上25μm以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項11】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径D90が3μm以上90μm以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項12】
セラミックス主材と混合して用いられるセラミックス添加材である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項13】
セラミックス主材の焼結助剤である、請求項12に記載の粉末。
【請求項14】
希土類酸化物と二族元素酸化物を含む粉末を含有するセラミックス粉末の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の粉末とセラミックス粉末とを溶媒中にてビーズミルで湿式混合処理した後に溶媒を除去する、セラミックス粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末及びそれを用いたセラミックス粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類酸化物と二族元素酸化物は共に添加材として使用される。添加材としての希土類酸化物及び二族元素酸化物の用途は、セラミックスの焼結助剤、コンデンサー用誘電体あるいは内部電極、蛍光体、光学ガラス用屈折率調整剤、酸素センサー、触媒、耐火物等で用いられている。その使用形態は様々であり、コーティング(塗膜)、微量添加、成型体(焼結体を含む)等がある。
【0003】
一般に希土類酸化物粉末は凝集しやすく、二族元素酸化物粉末も凝集性がみられる性質があり、希土類酸化物粉末及び二族元素酸化物粉末をそれぞれセラミックス粉末に均一に混合することが難しい。このような事情から、上記の用途では、通常、セラミックス粉末などの主材に対して希土類酸化物粉末と二族元素酸化物粉末を添加するにあたり、まず希土類酸化物粉末と二族元素酸化物粉末とをメディアなどを使用して混合した後、次いで主材と混合することが行われることがある(例えば特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粉末状のセラミックス主材と、粉末状の希土類酸化物および二族元素酸化物を一層細かく均一に分散させることができる技術が要求されている。
【0006】
従って本発明の課題は、セラミックス粉末等に対し、高分散可能な希土類酸化物及び二族元素酸化物の粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討したところ、希土類酸化物及び二族元素酸化物の存在比率のCV値を特定値以下とすることで、上記の課題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明は、前記知見に基づくものであり、希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末であって、SEM-EDXにて測定し酸化物換算した、希土類酸化物と二族元素酸化物の質量濃度の比(二族元素酸化物/希土類酸化物)のCV値が、35%以下である、粉末を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記粉末とセラミックス粉末とを溶媒中にてビーズミルで湿式混合処理した後に溶媒を除去する、セラミックス粉末の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によればセラミックス粉末と均一に混合することができ、セラミックス添加材として有用な希土類酸化物と二族元素酸化物を含む粉末が提供される。
また、本発明によれば、本発明の粉末を用いることで、セラミックス粉末への希土類酸化物及び二族元素酸化物の分散性が良好なセラミックス粉末を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたY
2O
3とMgOの混合物の粉末の外観を示すSEM像である。また、SEM(走査型電子顕微鏡)-EDX(エネルギー分散型X線分析装置)にて測定した9点も示している。
【
図2】実施例1で得られたチタン酸バリウム及びY
2O
3とMgOの混合物の粉末をビーズミルで解砕し、乾燥させた後の外観を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
<粉末>
本発明では、希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末中における、SEM(走査型電子顕微鏡)-EDX(エネルギー分散型X線分析装置)にて測定した希土類酸化物と二族元素酸化物の濃度比が、粉末中で均一であることを特徴の一つとしている。具体的には、希土類酸化物及び二族元素酸化物を含む粉末中における、SEM-EDXにて測定した希土類酸化物と二族元素酸化物の濃度比(二族元素酸化物/希土類酸化物)のCV値(Coefficient of Variation)、つまり標準偏差Sdに対する平均値Avの比率(CV=Sd/Av)が35%以下である。CV値は、濃度比のばらつきを示す指標であり、数値が小さいほど濃度比のばらつきが少なく均一性が高いと判断することができる。
【0014】
本発明者は、セラミックなどの主材に対して希土類酸化物と二族元素酸化物を均一に混合できる方法を鋭意検討した。その結果、希土類酸化物と二族元素酸化物の濃度比のCV値を35%以下とすることで、課題を解決できることを見出した。この理由としては本開示によれば、希土類酸化物と二族元素酸化物とが一次粒子の中に共存する状態で分散状態を形成していること、および、両酸化物が分散状態にある一次粒子の表面電化が、希土類酸化物又は二族元素酸化物の何れか一方のみからなる一次粒子の表面電化とは異なることが考えられる。このように低いCV値は、粒子中や粉末中の希土類酸化物及び二族元素酸化物の分布が均一であることを示す。
【0015】
本発明において、上記CV値は、好適には32%以下である。上記CV値のCV値の下限は特に限定されない。上記CV値の下限は限定されず、0%以上であってもよく、3%以上であってもよく、5%以上であってもよい。
【0016】
SEM-EDXにおける標準偏差Sd及び平均値Avは、倍率5000倍のSEM像の3視野を縦方向(
図1のY方向)に3等分、横方向(
図1のX方向)に3等分した合計9個の部分画像における各中心点Cにて、全質量に対する二族元素及び希土類元素の存在量を質量ベースで求め、それを酸化物換算して、3視野分、合計27個の質量基準の濃度比(二族元素酸化物/希土類酸化物)データを求め、その平均値Av及び標準偏差Sdを求めることで、得ることができる。前記の中心点Cとは、前記部分画像における縦方向Yに延び横方向Xを二等分する中心線と、横方向Xに延び縦方向Yを二等分する中心線との交差点である。
【0017】
上記CV値を有する粉末は、後述する好適な製造方法により製造することができる。
【0018】
粉末は、全体質量に対する希土類酸化物と二族元素酸化物の含有量をICP発光分光法により測定して、希土類酸化物と二族元素酸化物のみの質量の合計を100質量%とした場合の二族元素酸化物の含有量が0.05質量%以上50質量%以下であることがより好適である。この範囲であることで、高分散可能な状態で希土類酸化物と二族元素酸化物の比率を任意に調整することが可能となる利点がある。また、0.1質量%以上50質量%以下がより好適であり、2質量%以上50質量%以下が更に一層好適である。ICP発光分光法により測定される希土類酸化物及び二族元素酸化物の含有量は、粉末を硝酸、塩酸又は硫酸で溶解して得られる液中の希土類金属及び二族金属量をICP発光分光法で測定し、それを酸化物換算した値を、粉末の全体質量で除することで求めることができる。なお、ICP発光分光法は、JIS1688:2010に準拠する方法で行った。
【0019】
粉末は、希土類酸化物及び二族元素酸化物からなるものであってもよく、希土類酸化物及び二族元素酸化物に加えて別の成分を含有するものであってもよい。希土類酸化物及び二族元素酸化物に加えて別の成分を含有するか否かは蛍光X線分析により確認できる。
【0020】
また、粉末は、ICP発光分光法により測定される二族元素酸化物の含有量と希土類酸化物の含有量の合計量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
ICP発光分光法により測定される二族元素酸化物の含有量と希土類酸化物の含有量の質量比率(希土類酸化物:二族元素酸化物)は、1:0.9~1000が好ましい。
【0021】
本発明において希土類酸化物としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一種の酸化物が挙げられる。これらの元素の各酸化物としては、それぞれ、Sc2O3、Y2O3、La2O3、CeO、Pr6O11、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb4O7、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3及びLu2O3が挙げられる。
【0022】
従来の凝集抑制の困難さによる本発明の効果の意義に優れる点から、希土類元素の酸化物としては、特にCe以外の酸化物が好ましく、中でもY、La、Pr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er及びYbから選ばれる元素の酸化物が好ましく、特に、Y、Gd、Dy、Ho、及びYbから選ばれる元素の酸化物、つまり、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム及び酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0023】
本発明において、二族金属としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)などが挙げられ、高温における固溶抑制の点から、マグネシウムが好適である。二族金属元素Mの酸化物の組成式はMOである。酸化マグネシウムは希土類酸化物とまぜても固溶しないため、高温でも各々が酸化物の状態で存在でき、別の化学物質(結晶構造)の変化が生じない。
【0024】
粉末の一次粒子径が一定の小さい範囲であることが好ましい。本発明では、このように小さな一次粒子径を有し、凝集しやすい条件においてCV値が小さなことに技術的意義が高いものである。この観点から、粉末の一次粒子径は10~100nmであることが好適であり、15~80nmであることがより好適であり、20~50nmであることが更に一層好適である。
【0025】
本発明において、粉末の一次粒子径は、比表面積換算の一次粒子径であり、具体的には、JISZ8830に基づきBET1点法より測定された比表面積S(m2/g)から求めた粒径である。例えば、一次粒子径d(nm)はd=6000/(ρs)である。(ρは真密度(g/cm3))。希土類酸化物と二族元素酸化物が混ざり合っている粉末の真密度ρは1/((希土類酸化物質量濃度/希土類酸化物の真密度)+(二族元素酸化物濃度/二族元素酸化物の真密度))から定義した。
【0026】
大きな比表面積を有し、凝集しやすい条件においてCV値が小さなことに技術的意義が高い点から、粉末の比表面積は、30m2/g以上45m2/g以下が好ましく、31m2/g以上43m2/g以下が特に好ましい。
【0027】
本発明の粉末は特定の解砕処理における凝集粒径が特定範囲であることが好ましい。具体的には、本発明の粉末は、純水と混合して粉末を10質量%含有する水スラリーとした後、(A)の操作を、平均粒子径が前回測定値より大きくなるまで繰り返し行ったときに、所定範囲内となることがより好ましい。粉末を10質量%含有する水スラリーとする方法としては、4.6gの水と42gの粉末とを混ぜてスラリーとする方法が挙げられる。この際、スラリーには分散剤として、フローレンGW-1500(共栄社化学株式会社)を粉末に対して0.15倍質量(具体的には0.69g)を添加する。
(A):直径0.05mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(A)の操作は、具体的には下記(a)とする。
(a):直径0.05mmのジルコニア製ビーズで、スラリー:ビーズの質量比を45:230とし、ベッセルの有効容積80ccのビーズミルにおいて、周速4m/s以上6m/s以下の条件で10分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
(ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する)。
ただし、ここで最小となる平均粒子径(Dd)とは、前記ビーズミル処理時10分間の処理毎にサンプリングして測定した動的光散乱法による平均粒子径の最小値の意味である。なお、平均粒子径はnm単位で表示して小数点以下の数値がある場合には小数点第1位を四捨五入して整数表示したときの値にて大小を判断する。
【0028】
上記のような測定により得られる最小の平均粒子径(Dd)とは、金属酸化物微粉末のスラリーに係る技術分野で一般的な解砕処理であるビーズ解砕処理による最小の凝集径を示している。最小となる平均粒子径(Dd)が110nm以下となることが好ましい。当該最小の平均粒子径(Dd)を110nm以下とすることで、セラミックス粉末などへの主材への分散性に一層優れたものとなる。この観点から最小の平均粒子径(Dd)は105nm以下が一層好ましい。また当該最小の平均粒子径(Dd)は、40nm以上が好ましく、55nm以上がより好ましい。この下限を所定値以上とすることでスラリーの分散安定性を高めることができる。
【0029】
また、最小の平均粒子径(Dd)の測定時における多分散指数(PI)は、0.250以下であることが粒度分布がシャープであり、よりスラリーとしたときの高分散性が維持されやすい点で好ましく、0.210以下であることがより好ましい。なお、多分散指数(PI)は、粒子径分布の広がりを示す無次元指標である。
【0030】
上記最小の平均粒子径(Dd)及び多分散指数を有する粉末は、後述する好適な製造方法により製造することができる。
【0031】
ベッセルの有効容積とは、ビーズ及びスラリーが収容される容器(ベッセル)の内容積を指す。また、ビーズミルの周速は周速4m/s以上6m/s以下のいずれの周速を採用してもよいが、より好ましくは周速4m/s以上5m/s以下であり、更に好ましくは周速4m/sである。
【0032】
動的光散乱法(光子相関法)による平均粒子径及び多分散指数(PI)の測定には、動的光散乱光度計に測定試料を充填して行う。測定試料は、上記のスラリーの一部を取り出し、分散媒として湿式解砕時に用いた溶媒を用いて、超音波処理を施さない試料とする。測定試料の濃度は、1000~10000容量倍の範囲において、動的光散乱光度計が適正濃度と判定する希釈倍率とする。動的光散乱光度計としては、光子相関法で求めた自己相関関数よりキュムラント法解析で平均粒子径及び多分散指数(PI)を求める方法を採用する装置を採用でき、例えば、大塚電子製ELSZ-2000ZSを用いることができる。
なお、キュムラント法については、JIS Z 8828:2019「粒子径解析―動的光散乱法」の「9.2.1 キュムラント法」及び同JISの附属書Aの「A.1.2キュムラント法」に記載されている。
【0033】
更に、本発明の粉末は、上記の平均粒子径(Dd)と、比表面積換算の1次粒子径Dsの比率Ds/Ddが0.3以上であることが好ましい。比率Ds/Ddは、凝集程度を示す。比率Ds/Ddが大きいほど、一次粒子径と二次粒子径の差が小さく、凝集が抑制されていることを示す。この点から、比率Ds/Ddは0.34以上が特に好ましい。
一方、上記の比率の上限は、0.7以下であることが粒子表面の活性を抑えられる点で好ましく、0.6以下であることが更に好ましい。Ds>Ddとなる場合、粒子は粉砕されることとなる。粉砕されると粒子表面が活性され、メカノケミカル反応が起こり粒子表面と溶媒とが反応し、表面の組成が変わることがある。
【0034】
上記最小の平均粒子径(Dd)と上記の一次粒子径(Ds)の比率を有する粉末は、後述する好適な製造方法により製造することができる。
【0035】
本発明の粉末は別の解砕処理における凝集粒径が特定値以下であることが好ましい。具体的には、本発明の粉末は、水と混合して粉末を10質量%含有する水スラリーとした後、直径0.05mmのジルコニア製ビーズを用いて、スラリーに60分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定したときの平均粒子径Dd1が150nm以下であることが好ましい。粉末を10質量%含有する水スラリーとする方法としては、最小の平均粒子径(Dd)での説明と同様の方法が挙げられる。
ビーズミル処理は、直径0.05mmのジルコニア製ビーズを用い、スラリー:ビーズの質量比を45:230とし、ベッセルの有効容積80ccのビーズミルにおいて、周速4m/sの条件で60分間のビーズミル処理を行い、その後、動的光散乱法により平均粒子径を測定する。
このように、比較的短時間の解砕であっても凝集を抑制できる粉末は、セラミックス粉末と一層混合しやすい点で好ましい。このことから、平均粒子径Dd1は100nm以下がより好ましい。なお上記の平均粒子径Dd1の下限としては10nm以上が粉砕が発生しにくく活性面が少なくなる点で好ましい。
【0036】
平均粒子径Dd1が上記比率を有する粉末は、後述する好適な製造方法により製造することができる。
【0037】
本発明の粉末は、解砕前は一定の凝集径を有していることが特定のCV値を有することによる技術的意義にすぐれる点で好ましい。この点から、超音波照射後のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準のD50(累積体積50容量%における体積累積粒径)は1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。また、前記の凝集径D50は25μm以下が好ましく、21μm以下がより好ましい。
【0038】
D50は、超音波照射後に測定するものである。
上記の超音波照射とは、より具体的には、300Wの超音波、周波数19.5kHzにて5分間分散させる処理である。照射装置としては、レーザー回折散乱式粒子径測定装置に付属のものが挙げられ、例えば0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に粉末を添加した試料に照射されるものである。超音波照射時の分散液中の粉末の濃度は、粒子径測定装置が粒径測定の適正濃度と判断した濃度が好ましく挙げられ、通常0.002~0.2質量%の範囲内である。超音波照射は具体的には実施例に記載の方法にて行われるが、同等の照射装置であれば、測定に用いるレーザー回折散乱式粒子径測定装置に付属のもの以外の装置で照射を行ってもよい。ただし、測定に用いるレーザー回折散乱式粒子径測定装置に付属のもの以外の装置を用いて照射を行う場合は、約100mlの0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に、0.2gの試料を入れ、超音波照射後、超音波照射後のスラリーを試料循環装置に粒子径測定装置が粒径測定の適正濃度と判断するまで添加した後、測定を実施する。
【0039】
更に特定のCV値を有することによる技術的意義にすぐれる点で、本発明の粉末は、超音波照射後のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準のD90(累積体積90容量%における体積累積粒径)が3μm以上90μm以下であることが好ましく、4μm以上85μm以下であることが更に一層好ましい。
【0040】
特定のCV値を有することによる技術的意義にすぐれる点で、分散指数D90/D50が特定の範囲であってよい。具体的にはD90/D50が1.0以上5.0以下が好ましく、1.5以上4.0以下がより好ましい。
【0041】
上述したD50及びD90並びに分散指数を得るためには、後述する好適な粉末の製造方法を採用すればよい。
【0042】
次いで本発明の粉末の好適な製造方法について説明する。
本製造方法は、アルカリ剤水溶液(以下「A液」ともいう。)と希土類元素の水溶性塩及び二族元素の水溶性塩を含む水溶液(以下「B液」ともいう。)とを反応槽を同時に投入して、混合液のpHが6~10となるように高速撹拌下に混合してアルカリ剤と希土類元素の水溶性塩及び二族元素の水溶性塩とを反応させ、A液とB液の混合開始から5分以内に固液分離を開始する反応・固液分離工程と、反応・固液分離工程で得られた残渣を水で洗浄する洗浄工程と、洗浄した残渣を、焼成する焼成工程とを含むものである。
【0043】
本発明の粉末を首尾よく得る点から、好適には、B液である水溶性塩水溶液における酸化物換算の水溶性塩濃度が酸化物換算で10~400g/Lであることが好ましく、25~350g/Lであることがより好ましく、特に好適には30~300g/Lである。ここでいう酸化物換算の水溶性塩とは、酸化物換算の金属水溶性塩の濃度をいい、酸化物換算の希土類元素の水溶性塩の量と、酸化物換算の二族元素の水溶性塩の量を含む。
【0044】
(反応・固液分離工程)
アルカリ剤水溶液であるA液において、アルカリ剤は、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩や水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物等が挙げられ、製造時の固液分離の容易性の点から炭酸塩が好ましい。本明細書でいう炭酸塩とは正塩だけでなく酸性塩である炭酸水素塩を含む。とりわけ、混合液のpHの調整が容易な点及び不純物を低減する点から、炭酸水素アンモニウム又は炭酸アンモニウムが好ましい。特に、ICP発光分校分析による二族元素酸化物含有量が1.0質量%未満の粉末を製造する際には、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩が好ましい。また、二族元素酸化物含有量が1.0質量%以上の粉末を製造する際には、炭酸アンモニウムなどの正塩としての炭酸塩が好ましい。
【0045】
希土類元素及び二族元素の水溶性塩水溶液であるB液において、希土類元素の水溶性塩及び二族元素の水溶性塩としては、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体、塩化物が挙げられ、混合液のpHの調整が容易な点や生産性の観点から硝酸塩が好ましい。希土類元素の水溶性塩の陰イオンと二族元素の水溶性塩の陰イオンは同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
本製造方法において、炭酸塩水溶液であるA液と、希土類元素および二族元素の水溶性塩水溶液であるB液とは、両者の混合液のpHが6~10となるように反応槽に同時に投入される。ここでいうpHは両者の混合液の温度でのpHである。混合液のpHが一定以下であることは、一次粒子が大きくなることを低減できる利点がある。またpHが一定以上であることは、B液中の希土類イオン及び二族イオンの大部分を沈殿できる利点がある。特に、ICP発光分光分析による二族元素酸化物含有量が1.0質量%未満の粉末を製造する際には、A液とB液の混合液のpHは6~9が好ましく、6.5~7がより好適である。また一方で、ICP発光分光分析による二族元素酸化物含有量が1.0質量%以上の粉末を製造する際には、A液とB液の混合液のpHは7~10が好ましく、7~8がより好適である。
【0047】
A液及びB液は投入時点で加温しても加温しなくてもよい。A液及びB液は、いずれも反応槽への投入時点で5~50℃であることが好適である。CV値を好適な範囲内とするために、反応を極短時間で行い、すぐに濾過することが好ましい。このために、混合液のpHは、A液及びB液の反応槽の投入開始時点(A液とB液との混合開始時点)から反応生成物が生じる時点(より具体的には固液分離開始時点)まで上記の範囲内であるように両液の投入のタイミング及び投入速度を調整して、pHを上記範囲に一定に維持することが好適である。pHが上記範囲となることで反応進行がスムーズに起こる。
【0048】
A液とB液とが同時に添加されるとは、反応槽においてA液が投入される時点と、B液が投入される時点とが一部でも同時となることを意味する。上述した通り、混合液のpHが、A液及びB液の反応槽の投入開始時点(A液とB液との混合開始時点)から反応生成物が生じる時点(より具体的には固液分離開始時点)まで上記範囲内であるためには、それぞれの投入開始をほぼ同時とし、投入速度を一定とすることが好ましい。またA液とB液の投入速度は、A液とB液の混合開始から5分以内、より好適には3分以内に固液分離を開始できるように調整することが好ましい。
反応槽にアルカリ剤を有するA液と希土類及び二族元素の水溶性塩を含むB液を同時投入し、且つ所定pHを維持した条件で短時間で反応を済ませることで、希土類元素及び二族元素が同時に沈殿を開始し、反応開始から終了までに亘り希土類元素と二族元素の析出する比率を一定に保つことができる。また、反応を短時間とすることにより、希土類元素と二族元素の凝集を防ぐことができるため、解砕しやすく、セラミックス粉末への分散性に優れた粉末を得ることができる。
【0049】
本製造方法では、反応槽においてA液とB液の混合液は上記のように同時に投入されて所定pH条件下で高速撹拌されることが好ましい。このような態様により、上記CV値、平均粒子径Dd、Dd1、Ds/Dd等が上記所定範囲である粉末が好適に得やすいものとなる。高速撹拌としては回転数が10,000~25,000rpmの撹拌が挙げられ、18,000~21,000rpmがより好ましい。これらの撹拌は混合液の反応槽における攪拌子が上記回転を行う場合に、反応槽の容量としては50ml~1Lであることが好適であり、100ml~500mlであることがより好適である。このような高速撹拌により短時間で反応を済ませることができる。
【0050】
上記CV値、平均粒子径Dd、Dd1、Ds/Ddをより得やすい点から、A液におけるアルカリ剤の濃度は5~25質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。
【0051】
(洗浄工程)
上記の固液分離工程で得られた残渣(「固形状物」ともいう。)は、水で洗浄する。洗浄に用いる水の量は、使用する希土類酸化物1gに対して、0.1L~10Lであることが好ましく、0.5L~5Lであることがより好ましく、1L~3Lであることが更に好ましい。ここでいう量は、純水を数回残渣に通液して洗浄する場合にはその総量である。洗浄に用いる水としては純水又は超純水を用いることが好適である。
【0052】
(焼成工程)
焼成温度は、1000℃以下であることが、凝集抑制の点、及び結晶成長の抑制の点で好ましく、800℃以下であることがより好ましい。焼成温度は、500℃以上であることが、炭素含有量低減の点で好ましい。この観点から、焼成温度は500℃以上1000℃以下であることがより好適であり、500℃以上800℃以下が更に好適である。焼成は、大気雰囲気などの酸素ガス含有雰囲気下、及びアルゴンや窒素などの不活性雰囲気下で行うことができるが、酸素ガス含有雰囲気下、特に大気雰囲気下で行うことが炭素含有量低減及びコストの点で好ましい。
【0053】
(解砕工程)
焼成して得られた粉末は粗粒を解砕することが好ましい。解砕には、乾式粉砕機を用いることができ、例えば、粉砕機(商品名:フォースミル、大阪ケミカル製)を用いることができる。
【0054】
次いで、上記のようにして得られた粉末はその分散容易性を生かし、各種用途に用いることができる。例えば、セラミックスの焼結助剤、コンデンサー用誘電体あるいは内部電極、蛍光体、光学ガラス用屈折率調整剤、酸素センサー、合金への添加材、触媒、耐火物、レーザー結晶原料、半導体製造装置用耐食材料等が挙げられる。その際の使用方法は様々であり、コーティング(塗膜形成)、微量添加、成型体(焼結体含む)等の各種形態に適用することができる。特に本発明の粉末はセラミックス粉末への分散性が良好であることから、セラミックス主材に混合させて用いる添加材に好適に用いることができ特に均一にセラミックス主材中に分散させて高品位なセラミックスを得る点から、セラミックス粉末の焼結助剤に好適に用いることができる。セラミックス主材とは、セラミックス粉末からなる主材を指す。主材とは、全体の51質量%以上を占める材料を指し、75質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
本発明の粉末は、セラミックスへの分散性が高いため、大きなエネルギーで分散しなくてもセラミックス粒子を分散させることが可能であり、セラミックス粒子が粉砕や摩耗されることで本来の性能が低下させることができる。
【0055】
<セラミックス粉末の製造方法>
以下、本発明のセラミックス粉末の製造方法を説明する。本発明のセラミックス粉末の製造方法は、本発明の粉末と主材であるセラミックス粉末とを溶媒中にてビーズミルで湿式混合処理した後に溶媒を除去するものである。
【0056】
本発明の粉末とセラミックス粉末とを溶媒中にてビーズミルで湿式混合処理する際には、溶媒と粉末とセラミックス粉末とを同時に容器に入れて混合してもよく、また、溶媒と粉末とを混合して粉末の分散液を得て、この分散液をセラミックス粉末と混合してもよい。後者の場合、溶媒と粉末とを混合して粉末の分散液を得るとともに、セラミックス粉末と溶媒とを混合してセラミックス粉末の分散液を得、両分散液を混合してもよい。
【0057】
溶媒としては、水、一価アルコールが挙げられ、特に水が好ましい。粉末の分散液とてセラミックス粉末の分散液をそれぞれ調製する場合、両分散液の溶媒は同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
セラミックス粉末としては一次粒子径が0.05μm以上5μm以下であることが好ましい。一次粒子径が0.05μm以上であることで、セラミックス粉末の凝集が抑制され、セラミックス粉末に粉末を分散させやすい利点がある。また、セラミックス粉末の一次粒子径が5μm以下であることで、粉末のセラミックス粉末への分散性を向上させる本発明の技術的意義が大きなものとなる利点がある。この観点から、セラミックス粉末は一次粒子径が0.1μm以上1μm以下であることがより好ましい。一次粒子径は、BET法より測定された比表面積s(m2/g)から求めた粒径である。一次粒子径d(μm)はd=6/(ρs)である(ρは真密度(cm3/g))。なおセラミックス粉末のBET比表面積の測定方法は、実施例において後述する粉末の比表面積の測定方法と同様である。
【0059】
セラミックス粉末の材質としては、限定されるものではないが、チタン酸バリウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。
【0060】
更に、溶媒の使用量は、溶媒、セラミックス粉末と粉末との混合物中、固形分濃度が1質量%以上80質量%以下であることが均一に粉末をセラミックス粉末に付着させる点及び粘度を下げて操作性を高める点で好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
本発明の粉末は、主材であるセラミックス粉末100質量部に対し、0.01質量部以上20質量部以下となるように混合することが、得られるセラミックの品位や物性のバランスがとれる点で好ましく、1質量部以上15質量部以下となるように混合することがより好ましい。
【0062】
セラミックス粉末と本発明の粉末と溶媒との混合に分散メディアを用いる場合、分散メディアの材質としては、特に限定されないが、金属不純物の混入を抑制する観点から、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミック製のメディアが好ましく挙げられる。ここでいうジルコニアにはYSZやPSZ等の安定化ジルコニアを含む。
【0063】
分散時間短縮や分散性向上の点から、分散メディアの粒径としては0.015mm以上5mm以下が好ましく、0.05mm以上1mm以下がより好ましい。
【0064】
得られた粉末とセラミックス粉末及び水の混合物から溶媒分を除去し、粉末状とする。溶媒分の除去には、乾燥を行うことが便宜的である。乾燥はスプレードライ等の噴霧乾燥法によるものであってもよく、当該工程において顆粒化を行ってもよい。乾燥の例としては、例えば50℃~200℃で行うことができる。乾燥雰囲気としては、例えば、大気雰囲気などの酸素ガス含有雰囲気下、及びアルゴンや窒素などの不活性雰囲気下、真空雰囲気下等が挙げられる。本条件の乾燥にて、セラミック粒子の表面を粉末で被覆することが可能になる。
【実施例0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0066】
(実施例1)
炭酸水素アンモニウムが13質量%溶解している炭酸水素アンモニウム水溶液(A液、25℃)10kgを準備した。
また、酸化物換算であるY2O3とMgOの合計濃度が50g/Lとなるように硝酸イットリウムと硝酸マグネシウム混合水溶液(B液、25℃)を40L準備した。このときの硝酸塩水溶液中の硝酸イットリウムと硝酸マグネシウムの比率はそれぞれY2O3とMgOの質量に換算したときに、換算後の質量比で100:18とした。
B液の流量が220mL/minであり、A液とB液をその混合液のpHが6.5になるような流量にて同一の反応槽(内容積100mL)に同時に投入して混合した。投入時に容器内の混合液を20000rpmで撹拌させた。容器からあふれ出た懸濁液を逐次的に20秒間濾過した後、両液の投入及び撹拌を止め、濾物である残渣を5Lの超純水で通液洗浄した。この通液洗浄作業は15回繰り返した。洗浄後の残渣を大気雰囲気下700℃で焼成することでY2O3とMgOの混合物を10g得た。得られたY2O3とMgOの混合物をフォースミル(大阪ケミカル社製)にて30秒間解砕し、粉末を得た。
【0067】
(実施例2)
炭酸アンモニウムが13質量%溶解している炭酸アンモニウム水溶液(A液、25℃)10kgを準備した。
また、酸化物換算であるY2O3とMgOの合計濃度が50g/Lとなるように硝酸イットリウムと硝酸マグネシウム混合水溶液(B液、25℃)を40L準備した。このときの硝酸塩水溶液中の硝酸イットリウムと硝酸マグネシウムの比率はそれぞれY2O3とMgOの質量に換算したときに、換算後の質量比で100:18とした。
B液の流量が200mL/minであり、A液とB液をその混合液のpHが7.5になるような流量にて同一の反応槽(内容積100mL)に同時に投入して混合した。それらの点以外は実施例1に記載の内容と同じとした。
【0068】
(実施例3)
B液である硝酸塩水溶液中の硝酸イットリウムと硝酸マグネシウムの比率は、それぞれY2O3とMgOの質量に換算したときに、換算後の質量比で1:9とした以外は実施例2に記載の内容と同じとした。
【0069】
以下、比較例1~3は、炭酸水素アンモニウムと硝酸イットリウムを反応させてY2O3を得て、これをMgO粉末と混合した例である。
(比較例1~3)
炭酸水素アンモニウムが13質量%溶解している炭酸水素アンモニウム水溶液(A液、25℃)10kgを準備した。
また、酸化物換算で50g/Lの濃度で硝酸イットリウムを含有する水溶液(B液、25℃)40Lを準備した。
B液の流量が200mL/minであり、A液とB液をその混合液のpHが6.5になるような流量にて同一の反応槽(内容積100mL)に同時に投入して混合した。投入時に容器内の混合液を20000rpmで撹拌させた。容器からあふれ出た懸濁液を逐次的に20秒間濾過した後、両液の投入及び撹拌を止め、濾物である残渣を5Lの超純水で通液洗浄した。この通液洗浄作業は15回繰り返した。洗浄後の残渣を大気雰囲気下700℃で焼成することでY2O3粉末を得た。
得られたY2O3粉末をMgOと表1の比率で混合し、フォースミル(大阪ケミカル社製)にて30秒間解砕し、粉末を得た。
ここで、MgOとしては、Skyspring nanomaterials社製製品番号4810NHを用いた。
得られた粉末について、下記方法にてMgO含有量、40L、比表面積S(m2/g)、一次粒子径Ds(nm)、体積累計粒径(D50、D90)、及び所定解砕条件での平均粒子径を算出したほか、チタン酸バリウム粉末との分散性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(MgO含有量)
得られた粉末を硝酸で溶解した後、ICP発光分光分析法によってMg量を測定し、これをMgO換算して求めた。
【0071】
(CV値)
走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL社製JST-IT500)及びエネルギー分散型X線分析装置(EDX、JEOL社製JST-IT500)を用いた。SEMは大電流モード、倍率5000倍、加速電圧が20kV、ワーキングディスタンス10.0mmで測定した。画像の縦横比は3:4であった。前記観察条件で、EDXを用いて画像を取り込み、画像を縦に3等分、横に3等分させた9等分した中心点9点について観測し、粉末の全質量に対するMg元素の合計含有量と、Y元素の合計含有量を算出した。
分析ソフト:SMILE VIEW Lab
CPS:10,000以上
3画像のそれぞれ9点、つまり27点において、全質量に対するMg元素の合計含有量と、Y元素の合計含有量とを測定し、酸化物換算して、27カ所分のMgO/Y2O3質量比を求め、その平均値Av及び標準偏差Sdを求め、CV=Sd/Av×100(%)を求めた。
【0072】
(比表面積S)
マウンテック社製全自動比表面積計Macsorb model―1201を用いてBET1点法にて測定した。使用ガスは、窒素ヘリウム混合ガス(窒素30vol%)とした。測定の前処理としてガラスセルに粉末を入れ装置にセットし、セットしたガラスセルに窒素ガスを流通させて300℃で60分間脱気させた。
【0073】
(一次粒子径Dsの算出方法)
BET1点法より測定された比表面積S(m2/g)から求めた粒径を次式にて求めた。一次粒子径Ds(nm)はDs=6000/(ρs)(ρは真密度(g/cm3))。真密度については、Y2O3が5.01(g/cm3)、MgOが3.58(g/cm3)とした。なお、混合状態の真密度は1/((Y2O3濃度/ρY2O3)+(MgO濃度/ρMgO))と定義した。
【0074】
(体積累計粒径(D50、D90))100mLガラスビーカーに、粉末の状態の試料を約0.4g入れ、次いで分散媒として0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を、ビーカーの100mLの線まで入れる。株式会社日本精機製作所製の超音波ホモジナイザーUS-300T型(出力300W)に、粒子と分散媒の入ったビーカーをセットして5分間超音波処理を行い、測定用スラリーとする。この測定用スラリーを、0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液が入った日機装株式会社製マイクロトラックMT3300EXIIの試料循環器のチャンバーに、適正濃度であると装置が判定するまで滴下してからD50、D90を測定した。
【0075】
(ビーズミル分散後の物性)
上記で得られた各実施例と比較例の粉末をそれぞれ用いて、粉末の濃度が10質量%のスラリー(分散媒:純水)45gを調製し、分散材としてフローレンGW-1500(共栄社化学株式会社)を粉末に対して0.15質量倍の量、添加した。直径0.05mmのジルコニア製ビーズ230g、周速4m/s、ビーズミル(広島メタル&マシナリー社製 アペックスLABO/A-LABO、有効容量80cc)で60分間解砕した。解砕後の平均粒子径Dd1及びPIについて以下の方法にて測定した。
【0076】
-平均粒子径及び多分散指数の測定方法-
大塚電子製ELSZ-2000ZSを用いて適正濃度であると装置が判定してから平均粒子径を測定した。スラリーは溶媒として純水を用い、1000倍~10000倍の範囲で適正範囲であると判定される希釈倍率にて希釈した。JIS Z 8828:2019に準拠して測定した、動的光散乱法(光子相関法)によって得られた平均粒子径及び多分散指数を採用した。測定は同一サンプルを3回測定して、3回の平均値を平均粒子径とした。ただし、各回の測定値と3回の平均値との差の絶対値が3回の平均値に対して、1つでも2%を超えていた場合はその測定結果は採用せず、新たに3回の再測定を実施した。測定は25℃にて行った。
【0077】
(解砕評価:平均粒子径の測定)
上記で得られた粉末を用いて、粉末の濃度が10質量%のスラリー(分散媒:水)45gを調製し、分散剤としてフローレンGW-1500(共栄社化学株式会社)を粉末に対して0.15質量倍の量、添加した。直径0.05mmのジルコニア製ビーズ230g、周速4m/s、ビーズミル(広島メタル&マシナリー社製アペックスLABO/A-LABO、有効容量80cc)で解砕した。10分間隔で解砕を止めて下記方法にて平均粒子径を測定した。ただし、平均粒子径が前回測定値より大きくなった場合にその時点でビーズミル処理を終了し、20回(A)を繰り返して2回目から20回目までの各回において前回測定値より平均粒子径が大きくならない場合も、20回(A)を繰り返した時点で終了する。最大20回の繰り返しで最小となる粒径を最小の平均粒子径(Dd)とした。
【0078】
(セラミックス粉末との分散性試験)
チタン酸バリウム粉末(一次粒子径0.1μm、共立マテリアル社製BTHP-100)4.6gと上記粉末(実施例1~3及び比較例1~3の粉末)0.2gと純水を混合して固形分濃度9.6質量%のスラリーを得た。分散材としてフローレンGW-1500(共栄社化学株式会社)を0.92g添加した。直径0.05mmのジルコニア製ビ-ズ(製)を236g入れて、ビーズミル(広島メタル&マシナリー社製アペックスLABO/A-LABO、有効容量80cc)で60分間解砕した。
(CV値)
解砕後、混合物を大気雰囲気下にて120℃で10時間乾燥させた(
図2は実施例1のSEM像、倍率5000倍)。
次いで、上記のようにして得られたチタン酸バリウム粉末と各実施例・比較例の粉末との解砕及び乾燥品のSEM像について、上記「(CV値)」に記載の内容と同じようにMgO/Y
2O
3を9点測定してCV値を測定した。
【0079】
【0080】
希土類酸化物と二族元素酸化物を含む粉末であって、SEM-EDXにて測定し酸化物換算した希土類酸化物と二族元素酸化物の質量濃度の比(Y2O3/MgO質量比)のCV値が、35%以下である、各実施例の粉末は、セラミックス粉末との分散性が良好であった。
一方、前記のCVが35%超である比較例1~3ではセラミックス粉末との分散性に劣ることが示された。
以上より、本発明の粉末はセラミックス粉末と均一に混合することが求められる焼結助剤等に有用であることが明らかである。