IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

特開2024-167834RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金
<>
  • 特開-RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金 図1
  • 特開-RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金 図2
  • 特開-RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金 図3
  • 特開-RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金 図4
  • 特開-RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167834
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】RFeB系磁石製造方法、及び該方法に用いる粒界拡散処理用合金
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/00 20210101AFI20241127BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20241127BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241127BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241127BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241127BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241127BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B22F3/00 F
H01F1/057 170
B22F3/24 K
C22C1/04 K
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
C22C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084189
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 真由
(72)【発明者】
【氏名】吉見 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】久保 博一
(72)【発明者】
【氏名】中村 通秀
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018CA11
4K018DA11
4K018DA21
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040NN17
(57)【要約】
【課題】高温における保磁力及び角型比を従来よりも大きくすることができるRFeB系磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るRFeB系磁石製造方法は、希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系合金の焼結体又は該合金の熱間塑性加工体から成る基材を準備する基材準備工程と、 Dy、Tb及びHoのうちのいずれか1種又はそれらの2種以上の混合物である拡散対象重希土類元素RHdとCuから成り、Cuの含有率が20質量%以上40質量%以下であるRHdCu合金を含有する付着物を準備する付着物準備工程と、前記付着物を前記基材の表面に付着させる付着工程と、前記付着物を付着させた前記基材を、前記拡散対象重希土類元素RHdが該基材の粒界に拡散する所定温度に加熱する加熱工程とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系合金の焼結体又は該合金の熱間塑性加工体から成る基材を準備する基材準備工程と、
Dy、Tb及びHoのうちのいずれか1種又はそれらの2種以上の混合物である拡散対象重希土類元素RHdとCuから成り、Cuの含有率が20質量%以上40質量%以下であるRHdCu合金を含有する付着物を準備する付着物準備工程と、
前記付着物を前記基材の表面に付着させる付着工程と、
前記付着物を付着させた前記基材を、前記拡散対象重希土類元素RHdが該基材の粒界に拡散する所定温度に加熱する加熱工程と
を有する、RFeB系磁石製造方法。
【請求項2】
前記付着物が前記RHdCu合金の粉末を含有する、請求項1に記載のRFeB系磁石製造方法。
【請求項3】
前記基材が、Cの含有率が0.10質量%以下であってOの含有率が0.10質量%以下である、請求項1又は2に記載のRFeB系磁石製造方法。
【請求項4】
希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系合金の焼結体又は該合金の熱間塑性加工体から成る基材に付着させたうえで所定温度に加熱することにより、Dy、Tb及びHoのうちのいずれか1種又はそれらの2種以上の混合物である拡散対象重希土類元素RHdを該基材の粒界に拡散させる粒界拡散処理に用いる合金であって、
前記拡散対象重希土類元素RHdとCuから成り、Cuの含有率が20質量%以上40質量%以下であるRHdCu合金である、粒界拡散処理用合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素(以下、「R」とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系焼結磁石又はRFeB系熱間塑性加工磁石(これらを「RFeB系磁石」と総称する)の製造方法、及び該方法に用いる合金に関する。なお、RFeB系焼結磁石はRFeB系の原料粉末を磁界中で配向した後に焼結したものをいい、RFeB系熱間塑性加工磁石はRFeB系の原料粉末に対して熱間プレス加工を行った後に熱間塑性加工を行うことで結晶粒の結晶軸の向きを揃えた磁石をいう。
【背景技術】
【0002】
RFeB系磁石は残留磁束密度等の種々の磁気特性が他の永久磁石よりも良いという特長を有する。初期のRFeB系磁石は磁気特性の一つである保磁力が比較的低いという欠点を有していたが、その後、RFeB系磁石の結晶粒の表面付近に、Dy、Tb及びHo(以下、これら3種の元素を「重希土類元素」と総称する)のうちの1種又は複数種を存在させることによって保磁力を向上させることができることが見出された。
【0003】
重希土類元素は、RFeB系磁石の結晶粒の表面付近に存在する限り、保磁力以外の磁気特性にほとんど悪影響を及ぼさないものの、結晶粒の内部に多く存在すると残留磁束密度を低下させてしまうという欠点を持つ。そこで従来より、粒界拡散法と呼ばれるRFeB系磁石の製造方法が用いられている(例えば特許文献1及び2)。粒界拡散法では、RFeB系磁石の原料粉末を焼結させた焼結体から成る基材を作製したうえで、重希土類元素を含有する合金等から成る付着物を基材の表面に付着させ、所定の温度範囲内(典型的には700~1000℃)の温度に加熱する。すると、付着物の重希土類元素が基材である焼結体の結晶粒の粒界を通って焼結体内に拡散してゆき、結晶粒の表面付近に侵入するが、結晶粒の内部にはほとんど侵入しない。これにより、重希土類元素が結晶粒の表面付近には十分に存在しつつ結晶粒の内部にはほとんど存在せず、保磁力が高く且つ残留磁束密度が低下することが抑えられたRFeB系磁石を得ることができる。
【0004】
特許文献1には、上記付着物として、Tbを86質量%、重希土類元素以外の元素であるCuを14質量%含有するTbCu合金を用いることが記載されている。また、特許文献2には、上記付着物として、Tbを85.4質量%、Cuを14.6質量%含有するTbCu合金を用いることが記載されている(なお、特許文献2では、Tb, Cu及びAlを含有するTbCuAl合金を用いる場合との比較例としてTbCu合金が記載されている)。Cuは、特許文献1では重希土類元素が結晶粒内に侵入することを抑制する役割を有するとされ、特許文献2では粒界に存在することで結晶粒同士の磁気的相互作用を遮断する役割を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-092121号公報
【特許文献2】特開2020-013975号公報
【特許文献3】特開2006-019521号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日置敬子、服部篤 著、「超急冷粉末を原料とした省Dy型Nd-Fe-B系熱間加工磁石の開発」、素形材 第52巻第8号第19~24頁、一般財団法人素形材センター、2011年8月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁石では一般に、温度が高くなるほど保磁力及び角型比が小さくなることが知られている。ここで角型比は、磁化曲線の第2象限(減磁曲線)において磁化が残留磁束密度の90%となるときの逆磁界Hkと保磁力Hcjの比Hk/Hcjで表される値である。角型比の値が大きいほど、磁界の変動に伴う磁化の変動が小さく、変動磁界中で安定した特性を有することを意味する。そして、自動車の走行用モータでは使用時に温度が130℃程度まで上昇することから、そのようなモータにRFeB系磁石を使用するためには130℃程度の高温における保磁力及び角型比を大きくすることが求められる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高温における保磁力及び角型比を従来よりも大きくすることができるRFeB系磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRFeB系磁石製造方法は、
希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系合金の焼結体又は該合金の熱間塑性加工体から成る基材を準備する基材準備工程と、
Dy、Tb及びHoのうちのいずれか1種(である重希土類元素)又はそれらの2種以上の混合物である拡散対象重希土類元素RHdとCuから成り、Cuの含有率が20質量%以上40質量%以下であるRHdCu合金を含有する付着物を準備する付着物準備工程と、
前記付着物を前記基材の表面に付着させる付着工程と、
前記付着物を付着させた前記基材を、前記拡散対象重希土類元素RHdが該基材の粒界に拡散する所定温度に加熱する加熱工程と
を有する。
【0010】
RHdCu合金は、不可避的不純物が混入することは許容されるものの、それ以外には拡散対象重希土類元素RHd及びCuのみを含有する合金である。従って(不可避的不純物を無視すると)、Cuの含有率を定めれば拡散対象重希土類元素RHdの含有率は一意的に定まる。例えば、Cuの含有率が20質量%であれば拡散対象重希土類元素RHdの含有率は80質量%であり、Cuの含有率が40質量%であれば拡散対象重希土類元素RHdの含有率は60質量%である。
【0011】
本発明者が行った実験により、粒界拡散処理に用いる付着物に含有させるRHdCu合金におけるCuの含有率を、特許文献1及び2に記載の14~14.6質量%よりも高い20質量%とすることで、粒界拡散処理を施したRFeB系磁石の130℃における保磁力及び角型比が向上することが明らかになった。また、RHdCu合金におけるCuの含有率を20質量%よりも増加させてゆくと、該含有率が40質量%までの範囲内ではこのような大きい保磁力及び角型比が得られるものの、該含有率が40質量%を超えると保磁力及び角型比が小さくなることが明らかになった。そのため、本発明に係るRFeB系磁石製造方法では、Cuの含有率が20質量%以上、40質量%以下であるRHdCu合金を含有する付着物を用いて粒界拡散処理を行う。
【0012】
また、本発明者が行った実験によれば、RHdCu合金中のCuの含有率を20質量%以上、40質量%以下とすることによってさらに、130℃における残留磁束密度の温度変化率α及び保磁力の温度変化率βの絶対値を、該含有率が20質量%未満及び40質量%を超える場合よりも小さくすることができる。ここで温度変化率α(又はβ)は、温度を横軸、残留磁束密度(又は保磁力)を縦軸とするグラフにおける傾きを表す値であり、その絶対値が小さくなるほど、温度変化に伴う残留磁束密度(又は保磁力)の変化が小さくなることを意味する。特に、残留磁束密度の温度変化率αはRHdCu合金中のCuの含有率が20質量%未満になると顕著に低下し、保磁力の温度変化率βは同含有率が40質量%を超えると顕著に低下することから、同含有率を20質量%以上、40質量%以下とすることによって、残留磁束密度と保磁力の双方で安定した特性を得ることができる。
【0013】
なお、本発明において、基材準備工程と付着物準備工程の順序は問わない。基材準備工程と付着物準備工程のうちの一方を先に、他方を後に行ってもよいし、両工程を同時並行に行ってもよい。
【0014】
本発明において、付着物の形態は特に問わない。例えば、RHdCu合金の塊、箔、粉末等をそのまま基材の表面に付着(接触)させてもよいし、RHdCu合金の粉末を液体やグリース等の分散剤に分散させた付着物を作製したうえで該分散剤を基材の表面に付着させてもよい。粉末を用いる場合には、RHdCu合金中のCuの含有率が高くなるほど合金塊を粉砕し難くなり、該含有率が40質量%を超えると粒径を小さく(例えば中央値で10μm以下に)することが困難になるが、本発明ではCuの含有率を40質量%以下とするため、粉砕に関する問題は生じない。
【0015】
本発明において、前記基材は、C(炭素)の含有率が0.10質量%以下であってO(酸素)の含有率が0.10質量%以下であることが望ましい。また、これらの含有率は、C、O共に0.05質量%以下であることがより望ましい。このように基材におけるC及びOの含有率を低くすることにより、基材の粒界にC及びOが存在し難くなるため、加熱工程時に拡散対象重希土類元素RHdが粒界を通って基材内に拡散することがC及びOによって妨げられることを抑えることができる。そのため、拡散対象重希土類元素RHdが基材内の結晶粒の表面付近に行き渡り易くなるため、保磁力を一層向上させることができる。
【0016】
本発明に係る粒界拡散処理用合金は、希土類元素R、Fe及びBを含有するRFeB系合金の焼結体又は該合金の熱間塑性加工体から成る基材に付着させたうえで所定温度に加熱することにより、Dy、Tb及びHoのうちのいずれか1種又はそれらの2種以上の混合物である拡散対象重希土類元素RHdを該基材の粒界に拡散させる粒界拡散処理に用いる合金であって、
前記拡散対象重希土類元素RHdとCuから成り、Cuの含有率が20質量%以上40質量%以下であるRHdCu合金である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るRFeB系磁石製造方法及び粒界拡散処理用合金により、高温における保磁力及び角型比が従来よりも大きいRFeB系磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態及び比較例のRFeB系磁石製造方法で用いた粒界拡散処理用合金のCuの含有率と、製造されたRFeB系焼結磁石の残留磁束密度Brの関係を温度130℃における実験で求めた結果を示すグラフ。
図2】本実施形態及び比較例のRFeB系磁石製造方法で用いた粒界拡散処理用合金のCuの含有率と、製造されたRFeB系焼結磁石の保磁力Hcjの関係を温度130℃における実験で求めた結果を示すグラフ。
図3】本実施形態及び比較例のRFeB系磁石製造方法で用いた粒界拡散処理用合金のCuの含有率と、製造されたRFeB系焼結磁石の角型比SQの関係を温度130℃における実験で求めた結果を示すグラフ。
図4】本実施形態及び比較例のRFeB系磁石製造方法で用いた粒界拡散処理用合金のCuの含有率と、製造されたRFeB系焼結磁石の残留磁束密度の温度変化率αの関係を温度130℃における実験で求めた結果を示すグラフ。
図5】本実施形態及び比較例のRFeB系磁石製造方法で用いた粒界拡散処理用合金のCuの含有率と、製造されたRFeB系焼結磁石の保磁力の温度変化率βの関係を温度130℃における実験で求めた結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図5を用いて、本発明に係るRFeB系磁石製造方法及び粒界拡散処理用合金の実施形態を説明する。本実施形態のRFeB系磁石製造方法では、基材準備工程、付着物準備工程、付着工程、加熱工程の各工程を実行する。基材準備工程と付着物準備工程はいずれを先に実行してもよいし、両工程を同時に実行してもよい。付着工程は基材準備工程及び付着物準備工程の後に実行し、加熱工程は付着工程の後に実行する。
【0020】
基材準備工程では、希土類元素R(典型的には軽希土類元素であるNd又は/及びPr)、Fe並びにBを含有するRFeB系焼結体又はRFeB系熱間塑性加工体から成る基材を作製する。このうちRFeB系焼結体は、原料のRFeB系合金粉末を磁界により配向させながらプレス成形を行った後に焼結するプレス法で作製してもよいし、特許文献3に記載のようにRFeB系合金粉末をプレス成形することなくモールド中で磁界により配向させたうえでそのまま焼結するPLP(Press-less process)法で作製してもよい。保磁力をより高くすることができるという点、及び機械加工をすることなく複雑な形状のRFeB系焼結磁石体を作製することができるという点で、PLP法の方が好ましい。RFeB系熱間塑性加工磁石体は、非特許文献1に記載の方法で作製することができる。
【0021】
RとFeとBの組成比は、典型的には原子比で2:14:1であるが、この比から多少ずれていてもよい。また、R、Fe及びB以外の元素が添加されていてもよい。例えば、Feの一部がCo及び/又はNiに置換されていてもよいし、Cu, Al, Ga等の添加元素を含んでいてもよい。また、C、N、Oといった不可避的不純物を含有することも許容される。基材の形状は特に問わず、例えば直方体としてもよいし、直方体を弓形に湾曲させた形状としたり、直方体の6つの面のうちの1面を凸の弓形の曲面に変更した形状としてもよい。
【0022】
付着物準備工程では、本実施形態の粒界拡散処理用合金であるRHdCu合金を含有する付着物を準備する。RHdCu合金は拡散対象重希土類元素RHdとCuから成り、不可避的不純物を除いて、それらRHd及びCu以外の元素を含有しない。RHdCu合金が含有するRHdは、Dy、Tb及びHoから成る重希土類元素RHのうちの1種類のみ、又は2種類若しくは3種類が混合したものである。RHdCu合金におけるRHdの含有率は60質量%以上80質量%以下の範囲内であって、残部はCuである。従って、Cuの含有率は20質量%以上40質量%以下である。このようなRHd及びCuの含有率を有するRHdCu合金を含有する付着物を用いて後述のように粒界拡散処理を施すことにより、RFeB系磁石の130℃における保磁力及び角型比を大きくすることができる。
【0023】
付着物が含有するRHdCu合金の形態は、塊状、箔状、粉末状等とすることができる。粉末状のRHdCu合金を作製する際には、RHdCu合金中のCuの含有率が高くなるほど合金塊を粉砕し難くなるが、本実施形態ではCuの含有率を40質量%以下とすることにより、小さい粒径(例えば中央値で10μm以下)を有する粉末状のRHdCu合金を容易に作製することができる。粉末状のRHdCu合金は、そのまま付着物として用いてもよいし、液体やグリース等の分散剤に分散させて用いてもよい。後述の実施例では、粉末状のRHdCu合金をシリコーングリースと混合して用いる。
【0024】
付着工程では、基材準備工程で作製した基材の表面に、付着物準備工程で作製した付着物を付着させる。塊状や箔状の付着物を用いる場合にはそれらを基材の表面に接触させる。粉末状の付着物を用いる場合には、粉末のまま基材の表面に付着させてもよいが、上記のように分散剤に分散させた状態で付着させる方が基材から剥がれ難くなるため好ましい。
【0025】
加熱工程では、基材の表面に付着物が付着した状態で、それらを所定の温度に加熱する。この加熱の際の温度は、例えば600~1000℃の範囲内の温度とする。但し、前記所定の温度はこの範囲内には限定されず、拡散対象重希土類元素RHdが基材の粒界を通して基材内に拡散する温度であればよい。
【実施例0026】
以下、本実施形態のRFeB系磁石製造方法及び粒界拡散処理用合金を用いてRFeB系磁石を製造した実施例、及び比較例について説明する。これら実施例及び比較例ではいずれも同じ組成を有するRFeB系磁石粉末を用いてPLP法により作製したRFeB系焼結体を24mm×15mm×9.4mmの直方体に切断加工した基材を用いた。当該RFeB系焼結体の組成は、Nd:25.0質量%、Pr:4.7質量%、Co:1.4質量%、B:0.98質量%、Al:0.2質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.2質量%、Zr:0.1質量%、C:0.04質量%、O:0.04質量%、N:0.03質量%、Fe:残部(不可避的不純物等を除く)である。RFeB系磁石粉末(及び該粉末から作製されるRFeB系焼結体、基材)が含有する希土類元素は上掲のNd及びPrのみ(合計で29.66質量%)であり、重希土類元素は含有していない。また、この基材はC及びOの含有率がいずれも0.10質量%以下、さらには0.05質量%以下という低い値を有する。これにより、この基材を用いて以下に述べる粒界拡散処理を行うことにより、拡散対象重希土類元素RHdが粒界を通って基材内に拡散することがC及びOによって妨げられることを抑えることができるため、拡散対象重希土類元素RHdが基材内の結晶粒の表面付近に行き渡り易くなるため、保磁力を一層向上させることができる。
【0027】
粒界拡散処理用合金として、実施例1~3ではそれぞれ、拡散対象重希土類元素RHdとしてTbを用い、Tb及びCuの含有率が本実施形態の範囲内にあるRHdCu(TbCu)合金を準備した。また、比較例の粒界拡散処理用合金として、Tbの含有率が本実施形態よりも少ないTbCu合金(比較例1、2)、Tbの含有率が本実施形態よりも多いTbCu合金(比較例3、4)、Tbのみを含有する合金(比較例5)、TbとAlのみを含有する(Cuを含有しない)TbAl合金(比較例6)、及びTbとCuとAlを含有するTbCuAl合金(比較例7)を用意した。これら実施例及び比較例の粒界拡散処理用合金の組成を表1に示す。表1には併せて、一部の粒界拡散処理用合金につき、粉砕効率(後述)を示す。
【表1】
【0028】
実施例及び比較例の粒界拡散処理用合金はいずれも、アーク溶解により合金塊を作製した後、以下の方法で粉砕することにより、粉末状の粒界拡散処理用合金として製造した。まず、合金塊を水素雰囲気中で400~500℃の範囲内の温度に加熱することにより、該合金塊に水素を吸蔵させた。このように水素を吸蔵させることにより、合金塊は脆化する。次に、水素を吸蔵した合金塊を真空中で400~500℃の範囲内の温度に加熱することにより、合金塊から水素を離脱させた。その後、合金塊を窒素雰囲気下でジェットミルにより粉砕し、所定の粒径以下に粉砕された粒子を回収することにより、粒径の中央値が約10μmである粒界拡散処理用合金の粉末を得た。
【0029】
表1に示した粉砕効率は、ジェットミルにより所定の粒径以下に粉砕されて回収された粉末の質量を、ジェットミルに投入した合金塊の質量で除して求められる割合を百分率で示したものである。粉砕効率は、Cuの含有率が多くなるほど低下し、比較例4(Tb:50質量%、Cu:50質量%)ではわずか12.9%となるが、本実施形態(実施例1~3)ではCuの含有率が40質量%以下であるため比較例4よりも粉砕効率を高くすることができる。
【0030】
以上のように得られた実施例1~3及び比較例1~3、5~7での粒界拡散処理用合金の粉末をシリコーングリースと混合することにより付着物を作製した(なお、粉砕効率が低い比較例4に関しては、以降の実験を行っていない)。この付着物を、直方体である基材のうちの2面(24mm×15mmの面)に塗布した。付着物の塗布量は、いずれの実施例及び比較例においても、基材の2つの面で合わせて、付着物に含まれるTbの質量が基材の質量の0.8%となるように調整した。
【0031】
そのうえで、各実施例及び比較例1~3、5~7につき、付着物を付着させた基材を温度915℃に加熱して30時間維持することにより、粒界拡散処理を行った。さらに、時効処理として400~500℃で30分間加熱した後、付着物を付着させた2つの面をそれぞれ0.15mm研削して24mm×15mm×9.1mmの直方体に成形し、最後に7mm×7mm×9.1mmの直方体に切断加工することにより、RFeB系焼結磁石を得た。
【0032】
各実施例及び比較例1~3、5~7で得られたRFeB系焼結磁石につき、自動車の走行用モータの使用時の温度に相当する130℃において各種の磁気特性の測定を行った(なお、比較例7に関しては製造ロットが異なる2つのRFeB系焼結磁石について測定した)。測定した磁気特性は、残留磁束密度Br、保磁力Hcj、角型比SQ(=Hk/Hcj)、残留磁束密度の温度変化率α、及び保磁力の温度変化率βである。得られた磁気特性の値を表2に示す。また、使用した粒界拡散処理用合金のCuの含有率と各磁気特性との関係を、残留磁束密度Brに関しては図1に、保磁力Hcjに関しては図2に、角型比SQに関しては図3に、残留磁束密度の温度変化率αに関しては図4に、保磁力の温度変化率βに関しては図5に、それぞれグラフで示す。各グラフでは、実施例1~3を黒丸印で示し、比較例1~3、5~7を白抜きの記号で示した。各比較例を示す白抜きの記号のうち、丸印はTbCu(但し、Cuの含有率が本実施形態の範囲外である20質量%未満か、又は40質量%を超えている)を、正三角形印はTb単体、正方形印はTbAlを、菱形印はTbCuAlを、それぞれ粒界拡散処理用合金として用いたものを示している。
【表2】
【0033】
これらの実験結果より、残留磁束密度Br、保磁力Hcj及び角型比SQは、比較例7における保磁力Hcj及び角型比SQを除いていずれも、実施例1~3の方が比較例1~3、5~7よりも高くなった。なお、比較例7は、保磁力Hcjが実施例1~3よりも僅かに大きいと共に、角型比SQが実施例1よりも僅かに大きいものの、残留磁束密度Brが実施例1~3よりも(さらには他の比較例よりも)小さくなった。このように、実施例1~3のRFeB系焼結磁石は、残留磁束密度Brの低下を抑えつつ、比較例のRFeB系焼結磁石よりも高温(130℃)における保磁力Hcj及び角型比SQを大きくすることができる。特に、RHdCu合金(TbCu合金)のCuの含有率が20~30質量%としたとき(実施例1、2)には保磁力Hcjが顕著に高くなる。一方、RHdCu合金(TbCu合金)のCuの含有率を30~40質量%としたとき(実施例2、3)には(保磁力Hcjの低下を抑えつつ)残留磁束密度Brが高くなる。
【0034】
130℃における残留磁束密度の温度変化率αは、いずれの実施例及び比較例においても負の値を有する。これは、温度が上昇するほど残留磁束密度の値が小さくなるためである。得られたαの値は、実施例1~3の方が比較例1~3、5~7よりも絶対値が小さい。αの絶対値が小さいことは、130℃付近において温度変化が生じたときに、残留磁束密度Brの変化が小さく安定していることを意味する。比較例では特に粒界拡散処理用合金のCuの含有率が20質量%未満である比較例1、2、5~7におけるαの絶対値が大きいことから、同含有率を20質量%以上とすることにより顕著にαを改善することができる。
【0035】
130℃における保磁力の温度変化率βは、αの場合と同様にいずれの実施例及び比較例においても負の値を有し、温度が上昇するほど保磁力の値が小さくなることを示している。βの値は、実施例1~3の方が比較例1~3、5、6よりも絶対値が小さい。このβの絶対値が小さいことは、130℃付近において温度変化が生じたときに、保磁力Hcjの変化が小さく安定していることを意味する。比較例では特に、粒界拡散処理用合金のCuの含有率が40質量%を超えている比較例3におけるβの絶対値が大きいことから、同含有率を40質量%以下とすることにより顕著にβを改善することができる。なお、比較例7は、実施例1~3よりも僅かにβの絶対値が小さいものの、前述のαの絶対値が実施例1~3よりも(さらには、粒界拡散処理用合金のCuの含有率がより小さい比較例2よりも)大きくなっている。
【0036】
本発明は上記実施形態及び実施例には限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施例では重希土類元素としてTbのみを含有するTbCu合金を粒界拡散処理用合金として用いたが、重希土類元素としてDyのみ、Hoのみ、TbとDy、TbとHo、DyとHo、又はTbとDyとHoを含有するRHdCu合金を粒界拡散処理用合金として用いてもよい。
【0037】
上記実施例ではRHdCu合金の粉末をシリコーングリースと混合したものを付着物として基材に付着させたが、当該粉末をシリコーングリース以外のグリースや液体と混合したものを付着物として用いてもよい。また、RHdCu合金の粉末の代わりに、箔状のRHdCu合金や塊状のRHdCu合金を付着物として用い、それらを基材に付着(接触)させた状態で加熱することで粒界拡散処理を行ってもよい。
【0038】
上記実施例では特定の組成を有するRFeB系磁石粉末から作製した基材を用いたが、RFeB系磁石粉末の組成は上記の例には限定されない。例えば、重希土類元素を含有するRFeB系磁石粉末から作製した基材を用いてもよい。また、上記実施例ではRFeB系焼結磁石を基材として用いたが、RFeB系熱間塑性加工磁石を基材として用いてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5