(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167838
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】遠隔支援方法及び遠隔支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/09 20060101AFI20241127BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241127BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20241127BHJP
【FI】
G08G1/09 V
G08G1/16 D
G05D1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084193
(22)【出願日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉越 千尋
(72)【発明者】
【氏名】木村 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠秀
【テーマコード(参考)】
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF27
5H181FF33
5H181FF35
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
5H181LL15
5H181MC19
5H301AA03
5H301AA10
5H301CC03
5H301CC06
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301FF11
5H301GG09
5H301LL03
5H301LL04
5H301LL06
5H301LL11
5H301LL12
(57)【要約】
【課題】通信に遅延が発生しても適切な遠隔支援を実行できる遠隔支援方法及び遠隔支援装置を提供する。
【解決手段】対象車両10の外部にある遠隔支援装置20が、走行中の走行車線L1と異なる他車線L2に進入する対象車両10の走行制御を支援する場合に、他車線L2のうち対象車両10が進入する進入範囲に向かって走行している他車両が存在すると判定したときは、対象車両10の撮像装置11により対象車両10の周囲が撮像されてから、遠隔支援装置20を操作する操作者に対象車両10の周囲の画像が表示されるまでの遅延時間を算出し、進入範囲を、他車両の進行方向の反対側に、他車両の走行速度と遅延時間とに基づいた長さだけ拡張した注視範囲A3を設定し、注視範囲A3を走行している他車両が注視車両であることを操作者に示す表示を、表示装置22に出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象車両の外部から前記対象車両の走行制御を支援する遠隔支援装置の遠隔支援方法において、
前記遠隔支援装置は、
前記対象車両が、走行中の走行車線と異なる他車線に進入する場合は、前記他車線のうち前記対象車両が進入する進入範囲に向かって走行している他車両が存在するか否かを判定し、
前記進入範囲に向かって走行している前記他車両が存在すると判定したときは、前記対象車両の撮像装置により前記対象車両の周囲が撮像されてから、前記遠隔支援装置を操作する操作者に前記対象車両の前記周囲の画像が表示されるまでの遅延時間を算出し、
前記進入範囲を、前記他車両の進行方向の反対側に、前記他車両の走行速度と前記遅延時間とに基づいた長さだけ拡張した注視範囲を設定し、
前記注視範囲を走行している前記他車両が注視車両であることを前記操作者に示す表示を、表示装置に出力する、遠隔支援方法。
【請求項2】
前記遠隔支援装置は、
前記他車両の前記走行速度を検出し、
前記他車両の前記走行速度と、前記遅延時間とを乗算して拡張距離を算出し、
前記進入範囲を、前記他車両の前記進行方向の前記反対側に、前記拡張距離だけ前記他車線に沿って拡張した前記注視範囲を設定する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項3】
前記遠隔支援装置は、
前記他車両の前記走行速度を検出し、
前記対象車両が前記進入範囲に進入してから退出するまでの通過時間を算出し、
前記他車両の前記走行速度と、前記通過時間及び前記遅延時間の和とを乗算して前記他車両の走行距離を算出し、
前記他車両の前記走行距離に対応する長さを有する、前記他車線に沿った前記注視範囲を設定する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項4】
前記遠隔支援装置は、
前記対象車両が前記進入範囲に進入してから退出するまでの通過時間を算出し、
前記対象車両の前記走行速度と、前記通過時間及び前記遅延時間との和を乗算して前記対象車両の走行距離を算出し、
前記対象車両の前記走行距離に対応する長さを有する、前記他車線に沿った前記注視範囲を設定する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項5】
前記遠隔支援装置は、
前記進入範囲に進入する前に前記対象車両の前記走行速度を取得し、
前記対象車両が前記走行速度で走行した場合に前記進入範囲に進入してから退出するのに要する時間を前記通過時間として算出する、請求項4に記載の遠隔支援方法。
【請求項6】
前記遠隔支援装置は、
前記画像と共に、前記撮像装置が前記対象車両の前記周囲を撮像した撮像時刻の情報を取得し、
前記撮像時刻と、前記画像を受信した受信時刻との差から前記画像の転送時間を算出し、
前記転送時間に、前記画像を受信してから前記表示装置に前記画像を表示するまでの表示時間を加えることで前記遅延時間を算出する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項7】
前記遠隔支援装置は、
前記他車線が前記走行車線の隣接車線であり、前記対象車両が前記隣接車線を走行して前記走行車線の障害物を回避する場合は、前記対象車両から前記障害物までの距離と、前記対象車両の進行方向の、前記障害物の長さに対応する距離と、前記障害物の側方を通過した後、前記隣接車線から前記走行車線に車線変更するための距離とに基づき、前記対象車両が前記障害物の回避を終了する、前記走行車線上の終了位置を算出し、
前記隣接車線において、前記対象車両の現在位置に対応する位置から、前記終了位置に対応する位置までを前記進入範囲として設定する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項8】
前記遠隔支援装置は、
前記対象車両が交差点を右折又は左折して前記他車線に進入する場合は、前記対象車両が、前記交差点に進入してから前記他車線に沿った走行を開始するまでに走行する範囲を前記進入範囲として設定する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項9】
前記遠隔支援装置は、
前記対象車両が走行中の道路に設置された車外撮像装置から前記画像を取得し、
前記車外撮像装置が前記画像を取得してから、前記表示装置に前記画像を表示するまでの時間を前記遅延時間として算出する、請求項1に記載の遠隔支援方法。
【請求項10】
前記遠隔支援装置は、
前記注視車両の周囲に枠を表示することと、前記他車両を前記注視車両より高い透明度で表示することとのうち少なくとも一方を実行する、請求項1~9のいずれか一項に記載の遠隔支援方法。
【請求項11】
前記遠隔支援装置は、
前記画像を時系列で表示する動画を取得し、
前記動画に、周囲と異なる色を有する、前記注視範囲に対応した表示部分を表示する第1編集処理を実行し、及び/又は、前記動画に、前記注視範囲の端部のうち前記他車両の前記進行方向の前記反対側の端部に対応する位置に線を表示する第2編集処理を実行し、
前記操作者に、前記第1編集処理及び前記第2編集処理のうち少なくとも一方を実行した前記動画を表示する、請求項1~9のいずれか一項に記載の遠隔支援方法。
【請求項12】
対象車両の外部にあり、前記対象車両の走行制御を支援する遠隔支援装置であって、
前記対象車両が、走行中の走行車線と異なる他車線に進入する場合に、前記他車線のうち前記対象車両が進入する進入範囲に向かって走行している他車両が存在するか否かを判定する判定部と、
前記判定部が、前記進入範囲に向かって走行している前記他車両が存在すると判定したときは、前記対象車両の撮像装置により前記対象車両の周囲が撮像されてから、前記遠隔支援装置を操作する操作者に前記対象車両の前記周囲の画像が表示されるまでの遅延時間を算出する算出部と、
前記進入範囲を、前記他車両の進行方向の反対側に、前記他車両の走行速度と、前記算出部が算出した前記遅延時間とに基づいた長さだけ拡張した注視範囲を設定する設定部と、
前記設定部が設定した前記注視範囲を走行している前記他車両が注視車両であることを前記操作者に示す表示を、表示装置に出力する表示部とを備える、遠隔支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔支援方法及び遠隔支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動運転支援センタと自動運転車との間の通信状態、及び自動運転車の周囲の環境状態の少なくとも一方に基づき、自動運転車に対してオペレータが実施可能な遠隔支援を制限する遠隔支援システムが知られている(特許文献1)。一例として、当該遠隔支援システムでは、左前方又は右前方の動画の表示に遅延が発生した場合は、左側又は右側への車線変更の支援を実行不可とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、車線変更が必要な走行シーンであっても、車両と遠隔支援装置との間の通信に遅延が発生した場合は、車線変更の支援を実行不可とするため、通信に遅延が発生した場合に、走行シーンに適した遠隔支援が実行できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、通信に遅延が発生しても適切な遠隔支援を実行できる遠隔支援方法及び遠隔支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、対象車両の外部にある遠隔支援装置が、走行中の走行車線と異なる他車線に進入する対象車両の走行制御を支援する場合に、他車線のうち対象車両が進入する進入範囲に向かって走行している他車両が存在すると判定したときは、対象車両の撮像装置により対象車両の周囲が撮像されてから、遠隔支援装置を操作する操作者に対象車両の周囲の画像が表示されるまでの遅延時間を算出し、進入範囲を、他車両の進行方向の反対側に、他車両の走行速度と遅延時間とに基づいた長さだけ拡張した注視範囲を設定し、注視範囲を走行している他車両が注視車両であることを操作者に示す表示を、表示装置に出力することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、通信に遅延が発生しても適切な遠隔支援を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る遠隔支援システムの実施形態の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す遠隔支援システムにより運転支援を実行する走行シーンの一例を示す平面図である。
【
図3】
図2の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例を示す図である。
【
図4】
図2の走行シーンにおいて実行される運転支援の一例を示す平面図である(その1)。
【
図5】
図2の走行シーンにおいて実行される運転支援の一例を示す平面図である(その2)。
【
図6】
図1に示す遠隔支援システムにより運転支援を実行する走行シーンの他の例を示す平面図である。
【
図7】
図6の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例を示す図である。
【
図8】
図1に示す遠隔支援システムにより運転支援を実行する走行シーンのまた他の例を示す平面図である。
【
図9】
図8の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例を示す図である。
【
図10】
図1に示す遠隔支援システムにより運転支援を実行する走行シーンのさらに他の例を示す平面図である。
【
図11】
図10の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例を示す図である。
【
図12】
図1の遠隔支援システムにおける処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図1の遠隔支援システムにおける処理手順の他の例を示すフローチャートである(その1)。
【
図14】
図1の遠隔支援システムにおける処理手順の他の例を示すフローチャートである(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は、左側通行の法規を有する国で、車両が左側通行で走行することを前提とする。右側通行の法規を有する国では、以下の説明の左と右を対称にして読み替えるものとする。
【0010】
[遠隔支援システムの構成]
図1は、本発明に係る遠隔支援システム1を示すブロック図である。遠隔支援システム1は、車両の外部の操作者(オペレータ)が車両の運転支援を行うためのシステムである。例えば、自律走行制御により走行している車両が自律走行制御による走行を継続できなくなった場合に、遠隔支援システム1により、車両の外部の操作者が車両を遠隔操作する。車両の外部とは、車両の車体から離間した位置であれば特に限定されず、車両の走行を集中的に管理する管理センタなどの遠隔地が挙げられる。
【0011】
自律走行制御とは、車両の制御器を用いて車両の走行動作を自律的に制御することを言い、当該走行動作には、加速、減速、発進、停車、転舵など、あらゆる走行動作が含まれる。また、自律的に走行動作を制御するとは、車両の制御器が、車両の装置を用いて走行動作の制御を行うことをいう。制御器は、予め定められた範囲内でこれらの走行動作を制御し、制御器により制御されない走行動作については、運転者による手動の操作が行われる。自律走行制御によらず、運転者の手動運転により車両が走行する場合は、制御器は走行動作の自律制御を行わず、運転者の操作により車両の走行動作が制御される。
【0012】
図1に示すように、遠隔支援システム1は、車両10と遠隔支援装置20とを備える。車両10と遠隔支援装置20とは、図示しないサーバを介して互いに情報を授受する。車両10、遠隔支援装置20及びサーバは、相互に情報を授受するためのネットワークに接続している。ネットワークとは、インターネットなどの電気通信回線網のことを言い、通信には、有線通信、無線通信、モバイル通信などが利用できる。
【0013】
車両10は、撮像装置11、第1制御器12及び車両制御装置13を備える。これらの装置は、CAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続され、互いに情報を授受できる。以下、車両10のことを対象車両10とも言う。
【0014】
撮像装置11は、車両10の周囲の対象物を撮像するための装置であり、例えば、CCDなどの撮像素子を備えたカメラ、赤外線カメラなどのカメラである。対象物を撮像できない死角を減らすため、撮像装置11は、車両10のフロントグリル、サイドミラー、リアバンパなどに複数配置する。撮像装置11により取得された画像は、必要に応じ、第1制御器12により取得される。また、車両10は、図示しない測距装置(ミリ波レーダ、LiDAR(light detection and ranging)ユニットなど)を備えていてもよい。
【0015】
撮像装置11及び測距装置の検出する対象物は、道路の車線境界線、中央線、路面標識、中央分離帯、ガードレール、縁石、道路標識、信号機、横断歩道などである。また、対象物には、車両10以外の自動車(他車両)、自動二輪車(オートバイ)、自転車、歩行者など、車両10の走行に影響を与え得る障害物も含まれる。撮像装置11及び測距装置の検出結果は、必要に応じ、第1制御器12により取得される。第1制御器12は、取得した検出結果から、車両10の周囲の対象物及び走行環境を認識する。
【0016】
第1制御器12は、車両10の各装置を制御して協働させることで車両10の走行を制御し、設定された目的地まで車両10を走行させるための装置である。第1制御器12は、例えばコンピュータであり、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)、及びアクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)を備える。CPUは、ROMに格納されたプログラムを実行し、第1制御器12が有する機能を実現するための動作回路である。
【0017】
車両制御装置13は、電子制御ユニットなどの車載コンピュータであり、車両10の走行を律する車載機器を電子的に制御する。車両制御装置13は、第1制御器12から入力された制御信号に応じて、車両10の駆動装置及び操舵装置の動作を自律的に制御する。
【0018】
遠隔支援装置20は、車両10の外部の操作者が車両10の運転支援に用いる装置であり、第2制御器21、表示装置22及び入力装置23を備える。これらの装置は、互いに情報を授受できるようにLANなどにより接続されている。
【0019】
第2制御器21は、遠隔支援装置20の各装置を制御して協働させることで操作者に必要な情報を提供し、操作者による車両10の走行制御の支援を実行するための装置である。車両10の走行制御は、上述の自律走行制御と、車両10を停車させる制御、車両10を退避させる制御、運転者の手動運転による制御などの、自律走行制御以外の走行制御とを含む。第2制御器21は、例えばコンピュータであり、第1制御器12と同様にCPU、ROM及びRAMを備える。CPUは、ROMに格納されたプログラムを実行し、第2制御器21が有する機能を実現するための動作回路である。
【0020】
表示装置22は、遠隔支援装置20を操作する操作者に対して映像を表示するための装置であり、液晶ディスプレイ、プロジェクターなどが挙げられる。映像には、動画と静止画とが含まれる。なお、操作者の詳細については後述する。
【0021】
入力装置23は、遠隔支援装置20の操作者が、車両10の運転支援に必要な支援情報を入力するための装置である。入力装置23は、タッチパネル、キーボード、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダルなどで構成される。なお、支援情報の詳細については後述する。
【0022】
[機能ブロックの機能]
第2制御器21は、第1制御器12に支援情報を送信して車両10を自律走行させる遠隔支援機能を有する。第2制御器21のROMに格納されたプログラムは、遠隔支援機能を実現するためのプログラムであり、第2制御器21のCPUがROMに格納されたプログラムを実行することで、遠隔支援機能が実現される。
図1には、遠隔支援機能を実現する機能ブロックである判定部31、算出部32、設定部33、検出部34、表示部35及び支援部36を便宜的に抽出して示す。
【0023】
以下、
図1に示す各機能ブロックが有する機能について、
図2を用いて説明する。
【0024】
図2は、第2制御器21が遠隔支援機能により車両10の走行制御を実行する走行シーンの一例を示す平面図である。
図2に示す道路は、車線L1,L2を有する2車線の道路である。車線L1を走行する車両は、図面の左側から右側に向けて走行し、車線L2を走行する車両は、図面の右側から左側に向けて走行するものとする。以下、車線L1を走行車線とも言い、車線L2を他車線又は隣接車線とも言う。
【0025】
図2に示す走行シーンでは、車両10は、図面右側の目的地Pxに向かって、走行車線L1の位置P1を走行している。また、他車両V1が、他車線L2の位置Q1を走行しており、他車両V2が、走行車線L1の位置R1に駐車している。自律走行制御による走行を継続するには、車両10は、他車線L2に進入して他車両V2を回避し、他車両V2の回避後に走行車線L1に戻る必要がある。ところが、検出範囲の死角などにより、車両10の検出装置(撮像装置、測距装置など)で他車線L2の障害物を認識できない場合は、第1制御器12は車両10が他車線L2に進入できるか否かを判定できず、他車両V2の後方に停車(スタック)してしまう。
【0026】
車両10がスタックした場合は、手動運転により車両10を走行させ、徐行(例えば5km/h以下の走行速度)により他車線L2に進入し、他車両V1との接触を回避しつつ他車両V2を追い越す。市街地などの駐車車両が多い場所では、車両10が頻繁にスタックするおそれがあり、スタックのたびに運転者が手動運転で駐車車両を回避することになると、断続的な駐車車両の回避により運転者に不快感を与えてしまうおそれがある。そこで、第1制御器12は、車両10がスタックした場合に、運転者に代わり操作者が駐車車両を回避する運転操作を行うため、遠隔支援装置20に遠隔支援の要請を送信する。
【0027】
また、
図2に示す走行シーンにおいて、運転経験の少ない運転者が車両10を手動運転により走行させる場合は、運転者が、駐車中の他車両V2を回避する際に他車両V1との接触に不安を覚えることがある。このような場合も、運転者に代わり操作者が車両10を走行させるため、運転者の操作により遠隔支援装置20に遠隔支援の要請を送信する。
【0028】
第1制御器12は、遠隔支援装置20に遠隔支援の要請を送信する機能を有する。遠隔支援とは、車両10の外部にいる操作者が、車両10の外部から第1制御器12を介して車両10を遠隔操作すること、又は当該操作者が、第1制御器12又は車両10の運転者に情報を提供することを言う。操作者は、例えば、一又は複数の車両10の走行を管理する管理センタにおり、車両10からの要請に応じて又は車両10からの要請によらず、車両10に必要な情報を提供し、車両10を遠隔操作する。
【0029】
遠隔支援の要請には、車両10の自律走行制御が停止していることを示す情報と、操作者が車両10の運転支援を行うために必要な情報とが含まれる。遠隔支援の要請は、例えば、車両10の走行状況を含む。走行状況とは、例えば走行シーンのことであり、走行状態と、走行計画と、周辺の走行環境とを含む。
【0030】
走行状態とは、車速、加速度、ヨーレート、転舵角などを含み、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサなどの各種センサ(図示しない)から取得する。走行計画とは、車両10が目的地まで走行するための情報であり、走行経路などを含む。走行経路は、少なくとも、車両10が走行する道路、走行車線及び車両10の進行方向の情報を含む。走行計画は、図示しないナビゲーション装置から取得する。周辺の走行環境とは、車両10の周囲の対象物(特に障害物)の状態のことを言い、撮像装置11、測距装置などの検出結果から、パターンマッチングなどの手法を用いて取得する。
【0031】
図2に示す走行シーンでは、第1制御器12は、車両10の車速を取得し、車両10の車速と共に車両10が停車中であることを遠隔支援装置20に送信する。また、第1制御器12は、目的地Pxの位置情報と、設定された走行経路とを遠隔支援装置20に送信する。さらに、第1制御器12は、撮像装置11から、他車線L2を含む車両10の周囲の画像を取得し、遠隔支援装置20に送信する。そして、遠隔支援の要請を受信した遠隔支援装置20は、第2制御器21の遠隔支援機能による車両10の運転支援を開始する。
【0032】
判定部31は、車両10が、走行中の走行車線L1と異なる他車線L2に進入する場合に、他車線L2のうち車両10が進入する進入範囲に向かって走行している他車両が存在するか否かを判定する機能を有する。第2制御器21は、車両10の走行状況に基づいて、車両10が走行車線L1から他車線L2に進入するか否かを判定する。例えば、車両10の前方に駐車車両が検出され、駐車車両の側方を通過するために他車線L2を走行する必要がある場合は、車両10が走行車線L1から他車線L2に進入すると判定する。これに対し、車両10の前方に障害物が検出された場合であっても、障害物を回避しつつ走行車線L1に沿った走行を継続できる場合は、車両10が走行車線L1から他車線L2に進入しないと判定する。
【0033】
走行車線L1上の障害物を回避するときなど、車両10が他車線L2に進入した後に走行車線L1に戻る場合は、第2制御器21は、他車線L2への進入から他車線L2からの退出までに車両10が走行する範囲を進入範囲として設定する。一方、走行経路に沿って車線変更するときなど、車両10が他車線L2に進入した後に走行車線L1に戻らない場合は、第2制御器21は、他車線L2への進入から他車線L2に沿った走行の開始までに車両10が走行する範囲を進入範囲として設定する。
【0034】
図2に示す走行シーンでは、第2制御器21は、車両10から、障害物である他車両V2までの距離D1と、車両10の進行方向(図面の左右方向)に沿う、他車両V2の長さに対応する距離D2と、他車両V2の側方を通過した後、他車線L2から走行車線L1に車線変更するための距離D3とに基づき、他車線L2に進入範囲A1を設定する。具体的には、距離D1,D2,D3から車両10が他車両V2の回避を終了する、走行車線L1上の終了位置Pyを算出し、他車線L2において、車両10の現在位置P1に対応する位置P1aから、終了位置Pyに対応する位置Pyaまでを進入範囲A1として設定する。
【0035】
距離D1は、車両10の測距装置の検出結果から取得する。距離D2は、車種ごとの所定値が設定されており、認識した他車両V2の車種に応じた距離をROMなどの記憶媒体から取得する。例えば、普通車の距離D2は3~5mに設定し、トラックなどの大型車の距離D2は5~10mに設定する。距離D3は、ある一定の値(例えば15~30m)が予め設定されている。またこれに代え、車両10の走行速度と、走行車線L1及び他車線L2の幅員とに基づいて距離D3を算出してもよい。
【0036】
進入範囲A1を設定した後、第2制御器21は、車両10の周囲を走行する他車両を検出する。
図2に示す走行シーンでは、他車線L2を走行する他車両V1が検出されるので、他車両V1の進行方向を取得する。そして、他車両V1の進行方向が進入範囲A1に向かっているか否かを判定する。他車両V1の進行方向が進入範囲A1に向かっていないと判定した場合は、第2制御器21は、通常の自律走行制御により他車両V2を回避する。これに対し、他車両V1の進行方向が進入範囲A1に向かっていると判定した場合は、算出部32の機能による処理を実行する。
【0037】
算出部32は、撮像装置11が車両10の周囲を撮像してから、遠隔支援装置20を操作する操作者に車両10の周囲の画像が表示されるまで(つまり、表示装置22に画像が表示されるまで)の遅延時間を算出する機能を有する。遠隔支援装置20は、判定部31の機能により、進入範囲A1に向かって走行している他車両V1が存在すると判定した場合は、撮像装置11により取得された画像と共に、撮像装置11が車両10の周囲を撮像した撮像時刻の情報を取得する。次に、撮像時刻と、遠隔支援装置20(又は第2制御器21)が画像を受信した受信時刻との差から、車両10から遠隔支援装置20までの画像の転送時間を算出する。そして、転送時間に、遠隔支援装置20が画像を受信してから操作者に画像を表示するまでの表示時間を加えて遅延時間を算出する。
【0038】
撮像時刻の情報として、第2制御器21は、撮像装置11により取得された画像に重ねられた、撮像時刻を示すコードと、当該画像に重ねられた、撮像時刻を示す数字とのうち少なくとも一方を取得する。また、遠隔支援装置20は、車両10が備える撮像装置11に代えて、車両10が走行中の道路に設置された車外撮像装置から画像を取得してもよい。車外撮像装置を用いることで、車両10の撮像装置11及びセンサから取得できない情報に基づいて遠隔支援を行うことができる。この場合、道路に設置された車外撮像装置が画像を取得してから、操作者に画像を表示するまでの時間を遅延時間として算出する。遅延時間は、主にネットワークの通信速度による。また、表示時間は、第2制御器21の処理能力と表示装置22の表示能力に応じた、ある一定の時間を予め設定してもよい。
【0039】
設定部33は、車両10が他車線L2に進入した場合に車両10により走行が阻害される他車両が走行する範囲である注視範囲を設定する機能を有する。第2制御器21は、進入範囲A1を、他車線L2を走行する他車両の進行方向の反対側に拡張した範囲を注視範囲として設定する。第2制御器21は、他車両の走行速度と、算出部32の機能により算出された遅延時間とに基づいた長さだけ進入範囲A1を拡張する。具体的には、他車線L2を走行する他車両の走行速度を検出し、他車両の走行速度と、遅延時間とを乗算して拡張距離を算出する。そして、進入範囲A1を、他車両の進行方向の反対側に、他車線L2に沿って拡張距離だけ拡張した注視範囲を設定する。
【0040】
図2に示す走行シーンでは、第2制御器21は、測距装置などを用いて、他車線L2を走行する他車両V1の走行速度を検出し、他車両V1の走行速度と、遅延時間とを乗算して拡張距離Dxを算出する。そして、進入範囲A1を、他車両V1の進行方向の反対側に(図面右側方向に)、他車線L2に沿って拡張距離Dxだけ拡張した注視範囲を設定する。他車両V1の進行方向は、例えば、測距装置などで検出した、他車両V1の走行位置の変化又は車両10との車間距離の変化から求める。
図2には、進入範囲A1と、拡張された部分である拡張範囲A2とを示す。注視範囲は、
図2に示す進入範囲A1と拡張範囲A2とからなる範囲である。
【0041】
検出部34は、他車線L2を走行する他車両のうち、注視範囲を走行している注視車両を検出する機能を有する。第2制御器21は、検出部34の機能により、他車線L2を走行する他車両から注視車両を抽出する。
図2に示す走行シーンでは、他車線L2の位置Q1を走行している他車両V1が拡張範囲A2に進入しているため、第2制御器21は、他車両V1を注視車両として検出する。第2制御器21は、他車両V1の位置が注視範囲内である場合は、他車両V1が注視範囲を走行していると判定し、他車両V1の位置が注視範囲内でない場合は、他車両V1が注視範囲を走行していないと判定する。
【0042】
表示部35は、注視車両を他車両と区別して操作者に表示する機能を有する。第2制御器21は、注視範囲を走行している他車両が注視車両であることを操作者に示す表示を、表示装置22に出力する。表示は特に限定されないが、例えば、画像、文字、図形などが挙げられる。表示装置22に出力する表示として、第2制御器21は、例えば、注視車両の周囲に枠を表示することと、他車両を注視車両より高い透明度で表示することとのうち少なくとも一方を実行する。また、第2制御器21は、撮像装置11から取得した画像を時系列で表示する動画を取得又は生成し、動画に、注視車両と他車両とを区別するための編集処理を実行し、編集処理を実行した動画を、表示装置22を用いて操作者に表示してもよい。編集処理としては、周囲と異なる色を有する、注視範囲に対応した表示部分を表示する第1編集処理と、動画に、注視範囲の端部のうち他車両の進行方向の反対側の端部に対応する位置に線を表示する第2編集処理とが挙げられる。第2制御器21は、第1編集処理及び第2編集処理のうち少なくとも一方を実行する。
【0043】
図3は、
図2の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例である。
図3の左側の車線が走行車線L1であり、右側の車線が他車線L2であり、図面上側が目的地Pxに向かう方向である。走行車線L1には、車両10と駐車中の他車線L2とが表示され、他車線L2には、図面上側から下側に走行する他車両V1が表示されている。また、注視範囲A3が、周囲と異なるハッチングが付された矩形の表示部分として、他車線L2上に表示されている。
図3に示すように、他車両V1は注視範囲A3に進入しているため、注視車両である他車両V1の周囲には枠Xが表示されている。これにより、操作者は、車両10により走行が阻害される他車両V1の存在を容易に且つ直感的に把握できる。また、遅延時間に応じて進入範囲A1を拡張したことで、通信に遅延が発生しても他車両V1の走行を阻害しない遠隔支援を実行できる。
【0044】
図1に戻り、支援部36は、第1制御器12に対して遠隔支援に必要な支援情報を送信する機能を有する。操作者は、
図3に示す画像などから車両10の走行状況を把握したうえで、入力装置23を用いて支援情報を入力する。
【0045】
支援情報とは、操作者が入力装置23に入力した、遠隔支援に必要な情報であり、例えば、第1制御器12に、ある走行動作を自律走行制御により実行させる実行指示と、第1制御器12が、自律走行制御による走行動作を設定するための判断情報とを含む。実行指示には、車両10を停車状態から発進させる指示、車両10を走行車線L1から隣接車線に車線変更させる指示、車両10の方向指示器を点滅させる指示などが含まれる。一例として、
図2に示す走行シーンにおいて、操作者が車両10を徐行で他車線L2に進入させる場合は、第1制御器12は、アクセルペダル(入力装置23)の操作情報を支援情報として受信し、車両10を停車状態から発進させる。
【0046】
一方、判断情報には、車両10の走行状況の他に、例えば、新たな目的地と、新たな走行経路と、車両10の周囲に存在する障害物の種別とのうち少なくとも1つが含まれる。新たな目的地と、新たな走行経路とは、図示しないナビゲーション装置から取得し、障害物の種別は、車両10の検出装置の検出結果から取得する。障害物の種別とは、障害物の属性であり、例えば、障害物の種類、大きさ、動作、車両10の走行に与える影響などのことを言う。一例として、
図2に示す走行シーンにおいて、車両10を徐行で他車線L2に進入した場合は、撮像装置11により他車線L2の走行状況を取得できる。この場合、第1制御器12は、操作者が判断した他車線L2への進入可否の情報を判断情報として受信する。
【0047】
第1制御器12は、第2制御器21から支援情報を受信した場合は、支援情報に基づく自律走行制御を実行するよう、車両制御装置13に制御信号を出力する。
図2に示す走行シーンでは、注視範囲A3を走行する他車両V1が検出されたため、操作者は、
図4に示すように、車両10が位置P1で停車し、他車両V1が位置Q1から位置Q2に到達するまで待機するよう、入力装置23のブレーキペダルを操作する。すると、操作者のブレーキペダルの操作に応じた支援情報が第1制御器12に送信され、支援情報を受信した第1制御器12は、ブレーキを作動させる制御信号を車両制御装置13に出力する。
【0048】
そして、他車両V1が車両10の側方を通過した後、
図5に示す走行軌跡T1に沿って走行して他車両V2を回避するよう、操作者は、入力装置23のステアリングホイールとアクセルペダルとを操作する。操作者のステアリングホイールとアクセルペダルの操作に応じた支援情報が第1制御器12に送信され、支援情報を受信した第1制御器12は、駆動装置と操舵装置を動作させる制御信号を車両制御装置13に出力する。こうして、車両10は位置P1から位置P2まで走行し、他車両V2を回避しつつ自律走行制御による走行を継続する。
【0049】
遠隔支援装置20は、他車両V1の走行速度を検出し、車両10が進入範囲A1に進入してから退出するまでの通過時間を算出し、他車両V1の走行速度と、通過時間及び遅延時間の和とを乗算して他車両V1の走行距離を算出し、他車両V1の走行距離に対応する長さを有する、他車線L2に沿った注視範囲A3を設定してもよい。また、遠隔支援装置20は、車両10の通過時間を算出した後、車両10の走行速度と、通過時間及び遅延時間との和を乗算して車両10の走行距離を算出し、車両10の走行距離に対応する長さを有する、他車線L2に沿った注視範囲A3を設定してもよい。この場合、進入範囲A1に進入する前に車両10の走行速度を取得し、車両10が当該走行速度で走行した場合に進入範囲A1に進入してから退出するまでに要する時間を通過時間として算出する。
【0050】
図6は、第2制御器21が遠隔支援機能により車両10の走行を自律制御する走行シーンの他の例を示す平面図である。
図6に示す道路は、走行車線L1及び他車線L2を有する2車線の道路であり、
図2に示す走行シーンと異なり、走行車線L1及び他車線L2を走行する車両は、図面の左側から右側に向けて走行するものとする。つまり、
図6の走行シーンは、
図2に示す対向車線に進入する走行シーンと異なり、走行車線から追い越し車線に進入する走行シーンである。
【0051】
図6に示す走行シーンでは、車両10は、図面右側の目的地Pxに向かって、走行車線L1の位置P3を走行している。また、他車両V1が、他車線L2の位置Q3を走行しており、他車両V2が、走行車線L1の位置R2に駐車している。自律走行制御による走行を継続するには、車両10は、他車線L2に進入して他車両V2を回避し、その後、走行車線L1に戻る必要がある。ところが、車両10が比較的高速で走行している場合は、運転者又は第1制御器12による他車線L2への進入可否の判定が遅れ、他車線L2へ進入できないまま他車両V2の後方に停車してしまう。この場合、第1制御器12は、自律走行制御による走行を継続できないため、遠隔支援装置20に遠隔支援の要請を送信する。
【0052】
遠隔支援の要請を受信した第2制御器21は、判定部31の機能により、
図2に示す走行シーンと同様に進入範囲A1を設定する。進入範囲A1を設定した後、第2制御器21は、車両10の周囲を走行する他車両を検出する。
図6に示す走行シーンでは、他車線L2を走行する他車両V1が検出され、また、他車両V1の進行方向は図面右側であり、進入範囲A1に向かっているため、進入範囲A1に向かって走行している他車両V1が存在すると判定する。
【0053】
次に、第2制御器21は、算出部32の機能により、撮像装置11から取得した画像のコードから撮像時刻を取得し、撮像時刻と画像の受信時刻との差から画像の転送時間を算出し、転送時間に表示時間を加えて遅延時間を算出する。次に、第2制御器21は、設定部33の機能により、他車両V1の走行速度を検出し、他車両V1の走行速度と、遅延時間とを乗算して拡張距離を算出する。そして、進入範囲A1を、他車両V1の進行方向の反対側に(図面左側方向に)、他車線L2に沿って拡張した注視範囲を設定する。
【0054】
図7は、
図6の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例である。
図7の右側の車線が走行車線L1であり、左側の車線が他車線L2であり、図面下側が目的地Pxに向かう方向である。走行車線L1には、車両10が表示され、他車線L2には、図面上側から下側に走行する他車両V1が表示されている。また、注視範囲A3が、周囲と異なるハッチングが付された矩形の表示部分として、他車線L2上に表示されている。
図7では、他車両V1は注視範囲A3を走行しておらず、注視車両ではないため、車両10(又は他車両V1以外の他車両)より高い透明度で表示されている。このように、本実施形態の遠隔支援機能は、走行車線から追い越し車線に進入する走行シーンにも適用できる。
【0055】
図8は、第2制御器21が遠隔支援機能により車両10の走行を自律制御する走行シーンのまた他の例を示す平面図である。
図8に示す走行シーンでは、図面の上下方向に延在する道路K1と、図面の左右方向に延在する道路K2とが存在し、2つの道路K1,K2が交差する部分に交差点Cが存在している。道路K1,K2は、片側1車線の道路である。道路K1の車線L1~L4及び道路K2の車線L5~L8を走行する車両は、交差点Cを右折、左折又は直進できるものとする。
【0056】
図8に示す走行シーンでは、車両10は、図面左側の目的地Pxに向かって、走行車線L1の位置P4を走行している。また、他車両V1が、車線L7の位置Q4を走行している。車両10は、目的地Pxに向かうために交差点Cを左折し、走行軌跡T2に沿って位置P5まで走行する。この場合に、障害物などにより位置P4から車線L5の状況が検出できず、自律走行制御による左折が実行できないときは、第1制御器12は遠隔支援装置20に遠隔支援の要請を送信する。
【0057】
遠隔支援の要請を受信した第2制御器21は、判定部31の機能により、車両10が、交差点Cに進入してから他車線L5に沿った走行を開始するまでに走行する範囲を進入範囲A1として設定する。
図8に示す走行シーンでは、車両10は位置P5にて他車線L5に沿った走行を開始するため、
図8に示す進入範囲A1を設定する。また、進入範囲A1の設定後、第2制御器21は、車両10の周囲を走行する他車両を検出する。
図8に示す走行シーンでは、他車線L7の位置Q4を走行する他車両V1が検出され、また、他車両V1の進行方向は図面左側方向であり、進入範囲A1に向かっているため、進入範囲A1に向かって走行している他車両V1が存在すると判定する。
【0058】
次に、第2制御器21は、算出部32の機能により遅延時間を算出し、設定部33の機能により、他車両V1の走行速度を検出し、他車両V1の走行速度と、遅延時間とを乗算して拡張距離を算出する。そして、進入範囲A1を、交差点Cに直進して進入する他車両V1の進行方向の反対側に(図面右側方向に)、他車線L7に沿って拡張した注視範囲を設定する。
【0059】
図9は、
図8の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例である。走行車線L1には、車両10が表示されている。また、注視範囲A3が、周囲と異なるハッチングが付された矩形の表示部分として、他車線L5と、交差点Cと、他車線L7とに渡って表示されている。このように、本実施形態の遠隔支援機能は、車両10が交差点に進入する走行シーンにも適用できる。
【0060】
図10に示す走行シーンは、
図8に示す走行シーンと異なり、車両10が交差点Cを右折する走行シーンである。
図10に示す走行シーンでは、車両10が図面右側の目的地Pxに向かって、走行車線L1の位置P4を走行している。車両10は、目的地Pxに向かうために交差点Cを右折し、走行軌跡T3に沿って位置P6まで走行する。また、他車両V1が、車線L6の位置Q5を走行している。この場合に、交差点Cの信号機の表示が頻繁に切り替わり、自律走行制御での交差点Cの右折が難しいときは、第1制御器12は遠隔支援装置20に遠隔支援の要請を送信する。
【0061】
遠隔支援の要請を受信した第2制御器21は、判定部31の機能により、車両10が、交差点Cに進入してから他車線L8に沿った走行を開始するまでに走行する範囲を進入範囲A1として設定する。
図10に示す走行シーンでは、車両10は位置P6にて他車線L8に沿った走行を開始するため、
図10に示す進入範囲A1を設定する。また、進入範囲A1の設定後、第2制御器21は、車両10の周囲を走行する他車両を検出する。
図10に示す走行シーンでは、他車線L6の位置Q5を走行する他車両V1が検出され、また、他車両V1の進行方向は図面右側方向であり、進入範囲A1に向かっているため、進入範囲A1に向かって走行している他車両V1が存在すると判定する。
【0062】
次に、第2制御器21は、算出部32の機能により遅延時間を算出し、設定部33の機能により、他車両V1の走行速度を検出し、他車両V1の走行速度と、遅延時間とを乗算して拡張距離を算出する。そして、進入範囲A1のうち、車両10が進入する他車線L8に対応する部分を、交差点Cに直進して進入する他車両V1の進行方向の反対側に(図面左側方向に)、他車両V1が走行する他車線L6に沿って拡張した注視範囲を設定する。
【0063】
また、第2制御器21は、交差点Cに左折して進入する他車両が走行する範囲を注視範囲A3に含めてもよい。例えば、
図10に示す車線L4の範囲A2aを拡張範囲として注視範囲A3に含める。なお、範囲A2aの車線L4方向の長さは、交差点Cの手前の車線変更ができない範囲に対応する長さ(例えば15~30m)とする。
【0064】
図11は、
図10の走行シーンにおいて操作者に表示される画像の一例である。走行車線L1には、車両10が表示されている。また、注視範囲A3が、周囲と異なるハッチングが付された矩形の表示部分として表示されている。
【0065】
[遠隔支援システムにおける処理]
図12~14を参照して、第2制御器21が情報を処理する際の手順を説明する。
図12は、本実施形態の遠隔支援システム1において実行される、情報の処理を示すフローチャートの一例である。以下に説明する処理は、遠隔支援装置20が備えるプロセッサ(CPU)により実行される。
【0066】
まず、ステップS1にて、判定部31の機能により、車両10の周囲の走行状況を取得し、続くステップS2にて、車両10が走行車線L1と異なる他車線L2に進入するか否かを判定する。車両10が他車線L2に進入しないと判定した場合は、ステップS1に進む。これに対し、車両10が他車線L2に進入すると判定した場合は、ステップS3に進む。
【0067】
ステップS3にて、他車線L2に進入範囲A1を設定し、続くステップS4にて、車両10の検出装置の検出結果などから、進入範囲A1に向かって走行している他車両が存在するか否かを判定する。進入範囲A1に向かって走行している他車両が存在しないと判定した場合は、通常の自律走行制御による走行を行う。これに対し、進入範囲A1に向かって走行している他車両が存在すると判定した場合は、ステップS5に進む。
【0068】
ステップS5にて、算出部32の機能により遅延時間を算出し、ステップS6にて、設定部33の機能により、進入範囲A1を他車両の進行方向の反対側に拡張した注視範囲を設定する。ステップS7にて、検出部34の機能により、注視範囲を走行している注視車両を検出し、ステップS8にて、表示部35の機能により、注視車両と他車両とを区別して操作者に表示する。その後、ルーチンの実行を終了する。
【0069】
次に、
図13~14は、本実施形態の遠隔支援システム1において実行される、情報の処理を示すフローチャートの他の例である。以下に説明する処理は、遠隔支援装置20が備えるプロセッサ(CPU)により実行される。
【0070】
まず、
図13のステップS11にて、判定部31の機能により、車両10から支援要請を受信したか否かを判定する。車両10から支援要請を受信していないと判定した場合は、ステップS11を繰り返す。これに対し、車両10から支援要請を受信したと判定した場合は、ステップS12に進む。ステップS12にて、撮像装置11から車両10の周囲の画像を取得し、続くステップS13にて、取得した画像から車両10の周囲の障害物を検出する。続くステップS14にて、図示しないナビゲーション装置から車両10の走行経路を取得する。
【0071】
続くステップS15にて、車両10の周囲の障害物の位置と、走行経路とに基づいて、車両10が隣接車線に進入するか否かを判定する。車両10が隣接車線に進入しないと判定した場合は、ステップS11に進む。これに対し、車両10が隣接車線に進入すると判定した場合は、ステップS16に進む。
【0072】
ステップS16にて、車両10が障害物の回避を終了する、走行車線L1上の終了位置を算出し、続くステップS17にて、現在位置と終了位置とに基づいて隣接車線に進入範囲A1を設定する。続くステップS18にて、進入範囲A1に向かって走行している他車両が存在するか否かを判定する。進入範囲A1に向かって走行している他車両が存在しないと判定した場合は、ステップS30に進む。これに対し、進入範囲A1に向かって走行している他車両が存在すると判定した場合は、ステップS19に進む。
【0073】
ステップS19にて、算出部32の機能により、画像に表示されたコードなどから、撮像装置が車両10の周囲を撮像した撮像時刻を取得し、続くステップS20にて、撮像時刻と画像の受信時刻との差から画像の転送時間を算出し、続くステップS21にて、転送時間に、受信した画像を表示装置22に表示するための表示時間を加えて遅延時間を算出する。
【0074】
図14に進み、ステップS22にて、設定部33の機能により、他車両の走行速度を検出し、続くステップS23にて、他車両の走行速度と遅延時間とを乗算して拡張距離を算出し、続くステップS24にて、進入範囲A1を拡張距離だけ拡張した注視範囲を設定する。ステップS25にて、検出部34の機能により、注視範囲A3を走行している注視車両を検出すると共に、ステップS26にて、表示部35の機能により、撮像装置11から取得した画像データから、画像を時系列で表示する動画を生成する。続くステップS27にて、生成した動画を操作者に表示する。
【0075】
ステップS28にて、注視範囲A3を走行している注視車両が存在するか否かを判定する。注視車両が存在しないと判定した場合は、ステップS27に進み、生成した動画の表示を継続する。これに対し、注視車両が存在すると判定した場合は、ステップS29に進み、検出した注視車両の周囲に枠Xを表示する。
【0076】
操作者に動画を表示した後、ステップS30にて、支援部36の機能により、操作者が入力装置23に入力した入力情報を取得し、続くステップS31にて、車両10の第1制御器12に支援情報を送信し、支援情報に基づいた自律走行制御を実行させる。その後、ルーチンの実行を終了する。
【0077】
[本発明の実施態様]
以上のとおり、本実施形態によれば、対象車両10の外部から前記対象車両10の走行制御を支援する遠隔支援装置20の遠隔支援方法において、前記遠隔支援装置20は、前記対象車両10が、走行中の走行車線L1と異なる他車線L2に進入する場合は、前記他車線L2のうち前記対象車両10が進入する進入範囲A1に向かって走行している他車両V1が存在するか否かを判定し、前記進入範囲A1に向かって走行している前記他車両V1が存在すると判定したときは、前記対象車両10の撮像装置11により前記対象車両10の周囲が撮像されてから、前記遠隔支援装置20を操作する操作者に前記対象車両10の前記周囲の画像が表示されるまでの遅延時間を算出し、前記進入範囲A1を、前記他車両V1の進行方向の反対側に、前記他車両V1の走行速度と前記遅延時間とに基づいた長さだけ拡張した注視範囲A3を設定し、前記注視範囲A3を走行している前記他車両が注視車両であることを前記操作者に示す表示を、表示装置22に出力する、遠隔支援方法が提供される。これにより、通信に遅延が発生しても適切な遠隔支援を実行できる。
【0078】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記他車両V1の前記走行速度を検出し、前記他車両V1の前記走行速度と、前記遅延時間とを乗算して拡張距離Dxを算出し、前記進入範囲A1を、前記他車両V1の前記進行方向の前記反対側に、前記拡張距離Dxだけ前記他車線L2に沿って拡張した前記注視範囲A3を設定する。これにより、他車両V1の走行状態に応じた注視範囲A3が設定できる。
【0079】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記他車両V1の前記走行速度を検出し、前記対象車両10が前記進入範囲A1に進入してから退出するまでの通過時間を算出し、前記他車両V1の前記走行速度と、前記通過時間及び前記遅延時間の和とを乗算して前記他車両V1の走行距離を算出し、前記他車両の前記走行距離に対応する長さを有する、前記他車線L2に沿った前記注視範囲A3を設定する。これにより、走行シーンに適した注視範囲A3が設定できる。
【0080】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記対象車両10が前記進入範囲A1に進入してから退出するまでの通過時間を算出し、前記対象車両10の前記走行速度と、前記通過時間及び前記遅延時間との和を乗算して前記対象車両10の走行距離を算出し、前記対象車両10の前記走行距離に対応する長さを有する、前記他車線L2に沿った前記注視範囲A3を設定する。これにより、走行シーンに適した注視範囲A3が設定できる。
【0081】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記進入範囲A1に進入する前に前記対象車両10の前記走行速度を取得し、前記対象車両10が前記走行速度で走行した場合に前記進入範囲に進入してから退出するのに要する時間を前記通過時間として算出する。これにより、通過時間をより正確に算出できる。
【0082】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記画像と共に、前記撮像装置11が前記対象車両10の前記周囲を撮像した撮像時刻の情報を取得し、前記撮像時刻と、前記画像を受信した受信時刻との差から前記画像の転送時間を算出し、前記転送時間に、前記画像を受信してから前記表示装置22に前記画像を表示するまでの表示時間を加えることで前記遅延時間を算出する。これにより、遅延時間をより正確に算出できる。
【0083】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記他車線L2が前記走行車線L1の隣接車線であり、前記対象車両10が前記隣接車線を走行して前記走行車線L1の障害物を回避する場合は、前記対象車両10から前記障害物までの距離D1と、前記対象車両10の進行方向の、前記障害物の長さに対応する距離D2と、前記障害物の側方を通過した後、前記隣接車線から前記走行車線L1に車線変更するための距離D3とに基づき、前記対象車両10が前記障害物の回避を終了する、前記走行車線L1上の終了位置Pyを算出し、前記隣接車線において、前記対象車両10の現在位置P1に対応する位置P1aから、前記終了位置Pyに対応する位置Pyaまでを前記進入範囲A1として設定する。これにより、走行車線L1上の障害物を回避する走行シーンに適した遠隔支援が実行できる。
【0084】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記対象車両10が交差点Cを右折又は左折して前記他車線に進入する場合は、前記対象車両10が、前記交差点Cに進入してから前記他車線に沿った走行を開始するまでに走行する範囲を前記進入範囲A1として設定する。これにより、交差点Cを右折又は左折する走行シーンにおいて遠隔支援が実行できる。
【0085】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記対象車両10が走行中の道路に設置された車外撮像装置から前記画像を取得し、前記車外撮像装置が前記画像を取得してから、前記操作者に前記画像を表示するまでの時間を前記遅延時間として算出する。これにより、道路に設置された撮像装置11を用いた遠隔支援が実行できる。
【0086】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記注視車両の周囲に枠Xを表示することと、前記他車両V1を前記注視車両より高い透明度で表示することとのうち少なくとも一方を実行する。これにより、注視車両と他車両と区別して表示できる。
【0087】
また、本実施形態の遠隔支援方法によれば、前記遠隔支援装置20は、前記画像を時系列で表示する動画を取得し、前記動画に、周囲と異なる色を有する、前記注視範囲A3に対応した表示部分を表示する第1編集処理を実行し、及び/又は、前記動画に、前記注視範囲A3の端部のうち前記他車両V1の前記進行方向の前記反対側の端部に対応する位置に線を表示する第2編集処理を実行し、前記操作者に、前記第1編集処理及び前記第2編集処理のうち少なくとも一方を実行した前記動画を表示する。これにより、注視車両と他車両と区別して表示できる。
【0088】
また、本実施形態によれば、対象車両10の外部にあり、前記対象車両10の走行制御を支援する遠隔支援装置20であって、前記対象車両10が、走行中の走行車線L1と異なる他車線L2に進入する場合に、前記他車線L2のうち前記対象車両10が進入する進入範囲A1に向かって走行している他車両V1が存在するか否かを判定する判定部31と、前記判定部31が、前記進入範囲A1に向かって走行している前記他車両V1が存在すると判定したときは、前記対象車両10の撮像装置11により前記対象車両10の周囲が撮像されてから、前記遠隔支援装置20を操作する操作者に前記対象車両10の前記周囲の画像が表示されるまでの遅延時間を算出する算出部32と、前記進入範囲A1を、前記他車両V1の進行方向の反対側に、前記他車両V1の走行速度と、前記算出部32が算出した前記遅延時間とに基づいた長さだけ拡張した注視範囲A3を設定する設定部33と、前記設定部33が設定した前記注視範囲A3を走行している前記他車両が注視車両であることを前記操作者に示す表示を、表示装置22に出力する表示部35とを備える、遠隔支援装置20が提供される。これにより、通信に遅延が発生しても適切な遠隔支援を実行できる。
【符号の説明】
【0089】
1…遠隔支援システム、10…車両(対象車両)、11…撮像装置、12…第1制御器、13…車両制御装置、20…遠隔支援装置、21…第2制御器、22…表示装置、23…入力装置、31…判定部、32…算出部、33…設定部、34…検出部、35…表示部、36…支援部、A1…進入範囲、A2…拡張範囲、A3…注視範囲、D1,D2,D3…距離、Dx…拡張距離、K1,K2…道路、L1…走行車線、L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8…他車線、P1,P2,P3,P4,P5,P6…位置、Px…目的地、Py…終了位置、P1a,Pya…位置、Q1,Q2,Q3,Q4,Q5…位置、R1,R2…位置、T1,T2,T3…走行軌跡、V1,V2…他車両、X…枠