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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167857
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】人工皮革製制振材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20241127BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20241127BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241127BHJP
   B32B 5/06 20060101ALI20241127BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20241127BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20241127BHJP
   D06M 15/05 20060101ALI20241127BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B32B27/12
D03D1/00 A
B05D7/00 G
B32B5/06 Z
D06N3/00
D06M15/564
D06M15/05
F16F15/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023094401
(22)【出願日】2023-05-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 納品日 令和4年5月23日 納品場所 株式会社ハートウエル 〔刊行物等〕 試験日 令和4年6月17日 試験場所 京都リサーチパークASTEM棟8F 〔刊行物等〕 試験日 令和4年7月22日 試験場所 京都リサーチパークASTEM棟8F 〔刊行物等〕 展示日 令和4年10月13日 展示会名 第34回大商談会 中信ビジネスフェア2022
(71)【出願人】
【識別番号】305037732
【氏名又は名称】株式会社 RIYONX
(72)【発明者】
【氏名】上田 晋
【テーマコード(参考)】
3J048
4D075
4F055
4F100
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
3J048BD01
3J048BD04
3J048BD05
3J048BD07
4D075AE03
4D075AE19
4D075CA05
4D075DA04
4D075DB16
4D075DB20
4D075EA06
4D075EA10
4D075EA17
4D075EB38
4D075EC07
4F055AA01
4F055BA02
4F055BA12
4F055EA22
4F055FA15
4F055FA39
4F055GA03
4F055HA18
4F100AJ04B
4F100AJ04C
4F100AJ10A
4F100AK51B
4F100AL09B
4F100AL09C
4F100AL09D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100DG12A
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100JB16D
4F100JH02
4F100JK07
4L033AB04
4L033AB09
4L033AC15
4L033CA03
4L033CA50
4L048CA18
4L048DA24
(57)【要約】
【課題】振動体が振動する方向は必ずしも一方向とは限らず、特に移動体においては直交方向で異なる特性の制振性が求められ場合があり、できるかぎりその特性に合わせた振動を抑制する制振材が求められる。
【解決手段】
内部に織物を有した人工皮革と、その人工皮革の一方及び/又は他方の面に、ナノセルロースが混合された熱可塑性エラストマーを有し、更にそれを有しない面側か、あるいは両面に有した方の片側面の外方に熱可塑性エラストマーを有した制振材により解決される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1)と、該熱可塑性エラストマー(B1)に混合されたナノセルロース(C1)と、からなる制振材(11)。
【請求項2】
内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1)と、該熱可塑性エラストマー(B1)に混合されたナノセルロース(C1)と、前記人工皮革(A)の他方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(D)と、からなる制振材(12)。
【請求項3】
内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方及び他方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1、B2)と、それらの熱可塑性エラストマー(B1、B2)の双方に混合されたナノセルロース(C1、C2)と、からなる制振材(13)。
【請求項4】
内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方及び他方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1、B2)と、それらの熱可塑性エラストマー(B1、B2)の双方に混合されたナノセルロース(C1、C2)と、前記それらの熱可塑性エラストマー(B1、B2)のうち、一方又は他方の外側面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(D)と、からなる制振材(14)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革を用いた制振材に関する。特に、経緯方向で制振性を違えることにより、被制振体の動きを的確に制御しながら制振性を付与した制振材及び、これを用いた製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車、船舶、鉄道、航空機などの移動産業、機械産業、建設産業、電気モバイル産業、スポーツ産業、生活資材産業などの分野において振動を抑制するための制振材が幅広く使われてきた。特に近年は様々な分野において各部品・部材が高度化や小型化するなかで、制振材についても単に振動を抑えるだけでなく、各部材・部品に適した機能の付加や高度化・小型化した制振材が求められるようになってきた。
【0003】
例えば、スポーツ分野のシューズのインソールにおいて、かかと接地時における振動吸収性と地面をキックするときの高弾性の二面性が求められるものでる。また、自動車などの移動体などにおいても、振動を低減する制振性が求められる一方、加速時などの運動性との両立技術が必要となってくる。
【0004】
これらの二面性を追求した技術開発が近年なされており、特許文献1には制振性及び反発弾性を有する積層体が開示されており、基布層と、基布層の少なくとも一方の面に制振層と、基布層および/または制振層の最外面に反発弾性層とを有する積層体は、良好な制振性と反発弾性を併せ持つとし、基布層としては、適度な厚みと充実感を有し、かつ柔軟な風合を有するシート状の繊維質基材であればよく、中でも従来から人工皮革様の積層体の製造に用いられる各種の繊維質基材を好ましく用いることができ、絡合不織シートや編織物シートなどの繊維質シートが挙げられるとしている。
【0005】
特許文献2には制振性と、強度や硬度などの機械的特性とを両立できる制振性ゴム組成物が開示され、ゴム成分と、制振付与剤と、9,9位にアリール基を有するフルオレン化合物が結合した修飾セルロースナノ繊維とを組み合わせて、ゴム組成物を調製することにより成しえるものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-108646号公報
【特許文献2】特開2020-019886号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】環境省「セルロースナノファイバー利活用ガイドライン」令和3年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては基布について繊維質基材であればよいとしていることから、主にその柔軟性だけに着目しているだけであり、また制振層及び反発弾性層は何れも熱可塑性エラストマーにより構成されることから、経緯による異方性を積極的に使っていこうとする観点は考慮されていない。
【0009】
特許文献2においては、その明細書に記載のとおり、一般に制振性と機械的強度とは相いれないものとなってしまうものであるが、カーボンブラックとCNFの違いによるTanデルタにおいて40%の低下は決して小さいとは言えない。また、経緯による異方性を積極的に使っていこうとする観点は見いだせない。
【0010】
前記の従来技術にみられるような単に制振性と高弾性又は機械的強度の両立を図るだけでは、主に制振性が必要な方向性と主に高弾性が必要となる方向性、更には歪量が必要な方向性に対し対応できないという問題があった。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は、前記の従来技術にみられた問題点を解決し、経緯の方向性によって制振性の違いや貯蔵弾性率の違いを積極的に生み出し、振動の源となる被制振体の運動特性に即した制振材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の制振材(11)は、内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1)と、該熱可塑性エラストマー(B1)に混合されたナノセルロース(C1)と、からなる。
【0013】
本発明の別の一態様の制振材(12)は、内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1)と、該熱可塑性エラストマー(B1)に混合されたナノセルロース(C1)と、前記人工皮革(A)の他方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(D)と、からなる。
【0014】
また本発明の別の一態様の制振材(13)は、内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方及び他方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1、B2)と、それらの熱可塑性エラストマー(B1、B2)の双方に混合されたナノセルロース(C1、C2)と、からなる。
【0015】
更に本発明の別の一態様の制振材(14)は、内部に織物(a)を有した人工皮革(A)と、該人工皮革(A)の一方及び他方の面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(B1、B2)と、それらの熱可塑性エラストマー(B1、B2)の双方に混合されたナノセルロース(C1、C2)と、前記それらの熱可塑性エラストマー(B1、B2)のうち、一方又は他方の外側面に塗布により設けられた熱可塑性エラストマー(D)と、からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内部に織物を有した人工皮革を基布として使うことにより、織物の経方向と緯方向によって異なる弾性、制振性、ひずみ性を持つことが可能になる。それにより、弾性が必要な方向、制振性が必要な方向、ひずみ性が必要な方向に合わせることができ、被振動体の動きに即した制御が可能となる。
【0017】
また、人工皮革に振動などによって外力により屈曲性の応力が掛かる場合、内部の織物が圧縮側と引張側との間に位置し、一方と他方の面がそれぞれ圧縮側と引張側に分かれて、不等価あるいは等価となることで、貯蔵弾性率の可変や制振性の向上といったより積極的な制振制御が可能となる。
【0018】
しかも、高弾性化だけでなく、並列的に構成されているにも関わらず、あたかもバネの直列接続のように貯蔵弾性率を低下させることが可能となる。
【0019】
更に、ナノセルロースが混合された熱可塑性エラストマーを人工皮革の双方の面に配し、更に片側の面だけにナノセルロースが混合されていない熱可塑性エラストマーを配することで、あたかもナノセルロース混合層が片方ずつに非拘束層と拘束層に相対する構造となり、より制振性が向上するものとなる。
【0020】
更にまた、数値には表れないが、ナノセルロースを混合することで、熱可塑性エラストマーの界面がしなやかになり、開発した制振材を折り曲げて使用しても被振動体の動きを妨げない効果が得られるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は実施の形態1における制振材の断面図である。
図2図2は実施の形態2における制振材の断面図である。
図3図3は実施の形態3における制振材の断面図である。
図4図4は実施の形態4における制振材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の制振材の形態は、その含まれる素材によって二つに大別され、一つは織物を内蔵した人工皮革と、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーからなるもの。二つ目は織物を内蔵した人工皮革と、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーと、熱可塑性エラストマーと、からなるもので、以下本発明について説明を行うことにする。
【0023】
(人工皮革)
まず、まず基布となる人工皮革は、マイクロファイバーなど細かな繊維を絡み合わせた不織布構造をなし、それにウレタンなどの樹脂を含侵させて作ったもので、銀付きタイプと呼ばれるものとスエードタイプと呼ばれるものとの二つに大別される。本発明の人工皮革は用途に応じて銀付きタイプかスエードタイプを選択すればよいものとするが、好ましくはスエードタイプの方を用いるのがよいであろう。
【0024】
そして、人工皮革の内部の織物はスクリムとも呼ばれ、細かな繊維を絡み合わせた不織布構造の内部に位置させたもので、寸法安定性、ストレッチ性、強度の向上といった目的により本来は設けられているが、本制振材としては前記で述べたように経緯方向での異方性の付与と、圧縮側と引張側の中間部として機械的特性のために内部に位置させるものである。
【0025】
製造工程の一例としては、極細繊維を短くカットし織物の表面に不織布層を造り、高圧水流で繊維と織物、繊維と繊維を絡ませてその繊維と繊維の隙間にポリウレタンを含侵させる工程を経て作成される。極細繊維はマイクロファイバーと呼ばれる0.1デシテックス程度の繊維を立体的に絡ませていき、その細さの違いによって表面側と裏面側に分けて三層構造としてもよく、一部極細繊維を束ねた層を形成して作成されてもよい。また、染色・防汚・静電・撥水などの処理が行われて製造されてもよい。
【0026】
織物の組成や絡み合わせた繊維の組成は、用途に応じてレーヨン、テンセルなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリルなどの有機系合成繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などの合成繊維の化学繊維、綿、麻などの植物系繊維、羊毛、絹などの動物系繊維の天然繊維を用いればよく、単独で用いても2種以上の混紡あるいは混合繊維として用いてもよい。好ましくはポリエステルやポリウレタンの有機系合成繊維を用いるのがよいであろう。
【0027】
織物は経糸を並列し、この経糸に互い違いに交差させるように緯糸を挿入していくことで形成され、この交差点である組織点を織物のたて方向とよこ方向に順序と組合せをどのようにするかにより平織、斜文織、朱子織の3原組織に大別される。この3原組織を基に変化組織も作られていくが、何れの組織であっても差し支えなく、好ましくは平織を用いるのがよいであろう。
【0028】
人工皮革全体の厚みは0.3mm程度~2.0mm程度、目付は100g/平方メートル程度~500g/平方メートル程度、単糸繊度は0.03デシテックス程度~0.3デシテックス程度で、用途に合わせて適宜選択すればよい。
【0029】
人工皮革と類似素材として合成皮革があるが、合成皮革は編物や織物などの基布に樹脂を塗って繊維を接着して作るのに対し、本制振材に用いる人工皮革は前述のとおり、織物と不織布層との織物と繊維、繊維と繊維を絡ませてウレタン等の樹脂を含侵させて作り、この製造方法の違いにより繊維が微小領域で動きやすくなり、ナノセルロースを混合させた熱可塑性エラストマーを人工皮革の表面に塗布したとき、人工皮革の繊維にナノセルロースがまとわりつくことで、制振効果が向上するものと考えられる。
【0030】
また、糸を交錯して形成した構造には織物の他、編物、組物、レース、綱があるが、編物は糸がループ状に交錯しているのに対し、織物は面方向からみた場合糸が直線的に交錯しており、この構造によってせん断変形が起こりやすくなり、ナノセルロースの繊維間の水素結合が離れやすくなるものと考えられる。
【0031】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーは、粘弾性を持ちゴム弾性を示すソフトセグメントと高温では流動性を持つが常温では塑性変形を防ぐハードセグメントから成り立っており、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系がある。本発明の制振材では、用途に応じて選択すればよいものとするが、好ましくはウレタン樹脂系やアクリル樹脂系がよいであろう。
【0032】
熱可塑性エラストマーの人工皮革への塗布時の形態としては、主に乳化重合で作られ樹脂微粒子を水中に分散させたエマルジョン形、懸濁重合で作られる水性樹脂サスペンション形、水溶性形、溶剤形、無溶剤形があり用途に応じて選択すればよい。
【0033】
この熱可塑性エラストマーを内部に織物を有した人工皮革の一方及び/又は他方の面に塗布することで、人工皮革の水平方向の引張に対してその伸びに対応しつつ、かつ面方向への強度が確保され、被制振体が布製の柔らかいものからプラスチック成型体など硬いものまで対応が可能となる。
【0034】
また、熱可塑性エラストマーを、織物を有した人工皮革の双方の面に設けた場合であっても、人工皮革の極細繊維及び織物を介する構造となり、互いに相手に影響されずに変位することが可能となる。
【0035】
(ナノセルロース)
ナノセルロースは、木材など植物の細胞壁などの主成分であるセルロースの繊維のうち、その縦、横、高さのいずれかが1~100ナノメートルの範囲内にある繊維のことで、セルロースはグルコースが直鎖状に結合した天然高分子からなり、このセルロース分子鎖が束になってその径が3~100ナノメートルの範囲内にある植物由来の繊維のことを一般にはセルロースナノファイバーと言っている。
【0036】
その製造方法によって幾つかの種類に分類され、機械解繊などの物理的な方法で細かくしたセルロースナノファイバー(CNF又はセルロースナノフィブリルともいう)、TEMPO酸化に代表される化学処理と簡単な機械解繊で細かくしたセルロースナノファイバー(特にTEMPO酸化セルロースナノファイバーのことをTOCNFという)、セルロース繊維の非晶領域を酸で加水分解したセルロースナノクリスタル(CNC又はセルロースナノウィスカーという)。また、酢酸菌などの微生物によってグルコースなど糖質を炭素源としてセルロースを合成するバクテリアセルロース(BNCまたはBCという)などに大別される。
【0037】
そして、前記製造方法によってその繊維の径に違いが生じ、TEMPO酸化セルロースナノファイバーでは3~5ナノメートル、機械解繊のセルロースナノファイバーでは3~数マイクロメートル、セルロースナノクリスタルで3~50ナノメートル、バクテリアセルロースは20~100ナノメートル程度の範囲の幅があるとされている。
【0038】
また、繊維の長さについてもそれぞれ範囲を持ち、セルロースナノファイバーでは100マイクロメートル未満、セルロースナノクリスタルでは100~500ナノメートル、バクテリアセルロースは1.5~5マイクロメートルとされている。(ナノセルロースの詳細は非特許文献1参照)
【0039】
本発明の制振材に用いるナノセルロースは、機械解繊、化学処理、微生物による合成の何れの製造方法であってもよい。また繊維自体が親水性と疎水性の両親媒性をもつものでもよく、その他溶剤を配合するなどして両親媒性を持たせるようにしてもよい。熱可塑性エラストマーも含め、適宜用いればよいものとする。
【0040】
また、繊維の径が100ナノメートルを超えたものが混じっていてもすぐさま効果が得られないということもないことから、ある程度100ナノメートル未満の径の繊維が混在していればよいものとする。また、繊維の長さについても各々用途に応じて用いればよいものとする。好ましくは、繊維の長さを繊維の径で除したアスペクト比が10を下回らない方がよいであろう。
【0041】
(その他添加剤)
その他の添加剤としては、水、精製水、蒸留水、顔料、染料、硬化剤、架橋剤、防腐剤、静電防止剤、難燃剤など名目に関わらず、本発明の意義に反しないものであれば、可塑性エラストマーに添加あるいは混合しても差し支えないものとする。
【0042】
(実施の形態1)
以上の素材を用いて、実施の形態1は、内部に織物を有した人工皮革の一方の面に、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーを塗布によって設ける形態とした。
【0043】
熱可塑性エラストマーに混合するナノセルロースは、単独の種類であっても2種類以上の複合したものであってもよい。
【0044】
熱可塑性エラストマーとナノセルロースの混合について、その製造工程において避けなければならない要素としては、接触摩擦による局所帯電が挙げられる。
【0045】
静電気の帯電には、摩擦帯電、接触帯電、剥離帯電、誘導体電があり、元々の素材の製造過程において局所帯電が考えられるうえ、熱可塑性エラストマーの樹脂は比較的マイナスに帯電しやすく、ナノセルロースの木質系は比較的プラスに帯電しやすいことから、これらを混合する際に局所的に帯電する可能性がある。帯電を起こすと品質にばらつきが出ること等から、どの製造工程においても静電気対策をして帯電を極力避けなければならないのは言うまでもない。
【0046】
帯電防止策として帯電防止剤を添加剤として使う方法もあるが、弱い外力であっても制振性を発揮させるために、熱可塑性エラストマー内の歪性を確保できるよう混合台や混合容器の帯電特性を考慮して組み合わせ、局所帯電を抑える方法とした。
【0047】
また、熱可塑性エラストマーとナノセルロースの混合工程において、一般にはナノセルロースの繊維が凝集しないように均一分散を心掛けて分散剤などの助剤を使う場合があるが、本発明の制振材の構成は各素材の緩やかな結合が実施形態の特徴をなしており、特に分散剤などの助剤は必要としない。
【0048】
本発明の制振材は、ナノセルロースの繊維同士がある程度凝集することで、熱可塑性エラストマーとナノセルロースとの間での摩擦による熱損失だけでなく、人工皮革の極細繊維と熱可塑性エラストマーとの間、人工皮革の極細繊維とナノセルロースとの間、更には凝集したナノセルロースの繊維同士の間で摩擦による熱損失が生じるように構成したものである。
【0049】
人工皮革への塗布方法は、ヘラ、刷毛、ローラー、スプレー、ステンシル、シルクスクリーン、塗布機、塗工機など手動式・機械式を問わず用途に合わせて適宜選択すればよい。また、塗布工程においても静電気対策を十分に考慮して行うものとする。
【0050】
人工皮革の塗布面である一方の面は表面でも裏面でも差支えはない。また、塗布範囲は人工皮革の一方の面の全面であっても一部分だけであってもよく、「○○○」といった図形や「ABC」といった文字にして塗布を行ってもよい。
【0051】
熱可塑性エラストマーの人工皮革への塗布量は、乾燥時の厚さで人工皮革の表面繊維に含侵している分を含め0.1マイクロメーター程度~1ミリメートル程度とし、好ましくは1マイクロメーター程度~0.5ミリメートル程度の範囲がよい。
【0052】
内部に織物を有した人工皮革の一方の面に、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーを塗布によって設ける形態とすることで、人工皮革の持つしなやかさや風合いを残しつつ、低周波領域での引張方向の制振性を付与することが可能となる。
【0053】
(実施の形態2)
実施の形態2では、内部に織物を有した人工皮革の一方の面に、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーを塗布によって設け、人工皮革の他方の面には熱可塑性エラストマーを塗布によって設ける形態とした。
【0054】
実施の形態1と同様に、熱可塑性エラストマーに混合するナノセルロースは、単独の種類であっても2種類以上の複合したものであってもよい。
【0055】
ナノセルロースが混合されている熱可塑性エラストマーと、ナノセルロースが混合されていない熱可塑性エラストマーとは、その種類を同じものにしても異なった種類としても差し支えなく、用途に合わせて選択すればよいものとする。
【0056】
またその他のことについては、実施の形態1と同様とする。
【0057】
このように構成することで、単純引張での制振性は実施の形態1と比べて劣るものの、実施の形態2は二つ折りにした場合でも、圧縮側と引張側でナノセルロースが混合されている熱可塑性エラストマーとナノセルロースが混合されていない熱可塑性エラストマーとで弾性力が異なることになり、それにより人工皮革内にせん断力が生じることになり、そしてナノセルロースがあることにより制振性の維持が可能となる。
【0058】
(実施の形態3)
実施の形態3では、内部に織物を有した人工皮革の一方及び他方の面の双方に、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーを塗布によって設ける形態とした。
【0059】
実施の形態3についても、熱可塑性エラストマーに混合されるナノセルロースは、人口皮革の一方の面側の種類と他方の面側の種類とが同じであっても異なる種類のものであってもよく、それぞれの面側で単独の種類であっても2種類以上の複合したものであってもよい。
【0060】
また熱可塑性エラストマーにおいても、人口皮革の一方の面側の熱可塑性エラストマーの種類と、他方の面側の熱可塑性エラストマーの種類とは、同じものであっても異なる種類のものであってもよい。
【0061】
またその他のことについては、実施の形態1と同様とする。
【0062】
このように構成することで、引張での制振性の向上は得られないものの、人工皮革の面に垂直方向の制振性の向上が期待できるものである。
【0063】
(実施の形態4)
実施の形態4では、内部に織物を有した人工皮革の一方及び他方の面に塗布に、ナノセルロースを混合した熱可塑性エラストマーを塗布によって設け、それらの熱可塑性エラストマーのうち一方又は他方の外側面には熱可塑性エラストマーを塗布によって設ける形態とした。
【0064】
実施の形態4についても、熱可塑性エラストマーに混合されるナノセルロースは、人口皮革の一方の面側の種類と他方の面側の種類とが同じであっても異なる種類のものであってもよく、それぞれの面側で単独の種類であっても2種類以上の複合したものであってもよい。
【0065】
また熱可塑性エラストマーにおいても、ナノセルロースが混合されたそれぞれの熱可塑性エラストマーで同じ種類でも異なった種類でもよく、ナノセルロースが混合されていない熱可塑性エラストマーも同様に同じ種類でも異なった種類でもよい。
【0066】
ナノセルロースが混合されていない熱可塑性エラストマーの塗布量は、ノセルロースが混合された塑性エラストマーの塗布量と同程度で差し支えなく、人工皮革への含侵分がほぼないことから少し薄くしてもよい。
【0067】
またその他のことについては、実施の形態1と同様とする。
【0068】
このように構成することで、実施の形態1~実施の形態3の特徴を総合的に持つことが可能となる。また、人工皮革の一方の面側と他方の面側のナノセルロースが混合された熱可塑性エラストマーに注目すると、人工皮革の内部の織物をセンターにして、非拘束性の形態と拘束性の形態となる。更に、ナノセルロースが混合されていない熱可塑性エラストマーまでを含めると、人工皮革の内部の織物をセンターにして、非対称性の構成となり、数値として現れないが被振動体が移動している場合であっても、制振性が維持されるものとなる。
【0069】
また、二つ折りにして衣類などの柔らかいものに縫製取り付けであっても、発泡材に貼り付けても、またプラスチック製や金属製などの硬いものに貼り付けても、制振性を発揮することが可能となり、様々な用途に対応できることとなる。
【実施例0070】
以下に、各実施例により本発明の制振材を具体的に説明するが、本発明の制振材はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
〔人工皮革〕
内部に織物を有した人工皮革として厚さ0.6ミリメートル[東レ株式会社製;製品名「ultrasuede」(登録商標)LX CB1]のスエード調のものを用いた。また比較用の内部に織物を有しない人工皮革には厚さ0.7ミリメートル[東レ株式会社製;製品名「エクセーヌ」(登録商標)旧製品オレンジ]のスエード調のものを用いた。
【0072】
前記人工皮革において、経繊維方向10センチメートル、緯繊維方向5センチメートルにカットし、人工皮革製制振材の基布とした。
【0073】
〔熱可塑性エラストマー〕
熱可塑性エラストマーは、主にウレタン樹脂系の布製品プリント用のバインダーを用いた。
【0074】
〔ナノセルロース〕
ナノセルロースは、主にTEMPO酸化のセルロースナノファイバーを用い、機械解繊のセルロースナノファイバー、バクテリアセルロースも用いた。
【0075】
〔混合方法〕
熱可塑性エラストマーとナノセルロースとの混合方法は二通り実施した。一つは比較的ざらついた表面の実験台にて、混合台として厚さ15ミリメートルの木板(シナ)と厚さ9ミリメートルのコルク板を、混合容器としてガラス製シャーレとステンレス製シャーレをそれぞれ組合せ、樹脂製ペンティングナイフ(Richeson社製)にて熱可塑性エラストマーとナノセルロースとの混合を行った。二つ目は比較的滑らかなテーブル台にて、キュプラ[旭化成株式会社製;製品名「ベンベルグ」(登録商標)AK850]を敷き、混合容器としてガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフ(Richeson社製)とで熱可塑性エラストマーとナノセルロースとの混合を行った。
【0076】
〔塗布方法〕
人工皮革への熱可塑性エラストマーの塗布方法も二通り実施した。一つは厚さ12ミリメートルの檜集成材を塗布台として人工皮革をその上に置き、マスキングテープで留め、樹脂製ペンティングナイフ(Richeson社製)をヘラとして直接塗布を行った。二つ目は、同じく檜集成材を塗布台にしてマスキングテープで留め、三層シートでテトロン80番手紗の矩形状の版を作成して、樹脂スキージでシルクスクリーン製法にて塗布を行った。
【0077】
〔乾燥方法〕
塗布後の熱可塑性エラストマーの表面乾燥はドライヤーで熱風を2分間当てた。その後、定温乾燥機で110度3分乾燥としたものと、自然乾燥の二通りとした。
【0078】
〔評価用試験片〕
評価用試験片として、熱可塑性エラストマーが十分乾燥後に人工皮革製制振材から、縦方向と横方向にそれぞれ8ミリメートルと30ミリメートルにカットし、試験片とした。
【0079】
〔評価方法〕
評価方法としては、動的粘弾性測定装置[ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製;「DMA Q800」]を用い、前記の評価用試験片を周波数依存の引張り試験方法にて、貯蔵弾性率(E′)、損失弾性率(E″)及び E′/E″の損失正接(Tanδ)の周波数1Hzの値を求め、貯蔵弾性率(E′)と損失正接(Tanδ)の測定値を評価対象とした。尚、つかみ間隔は約20ミリメートルとし、ひずみ割合は0.1%とした。
【0080】
この方法で得られた測定値は、試験片に1Hzの正弦波の力を与えて変形させ、約20マイクロメーターのひずみを生じさせた時の弾性を表す貯蔵弾性率と粘性を表す損失弾性率を計測し、その割合を損失正接として求めたものである。言い換えると、貯蔵弾性率は試験片に約20マイクロメーターのひずみを生じさせるために必要な弾性力であり、損失正接はその時の試験片の粘性割合であるといえる。
【実施例0081】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)針葉樹パルプ 解繊強]を用いた。尚、解繊強はその繊維の幅が概ね5ナノメートル~200ナノメートルの範囲に解繊されたものをさす。
【0082】
混合方法は、水性ウレタンエマルジョンを100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、木板(シナ)を混合台にして、ガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0083】
塗布方法は、人工皮革の表面に機械解繊の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンを、樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥として、実施の形態1の構成とした。
【0084】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例1として以下の表で示す。
【実施例0085】
素材及び混合方法までは実施例1に同じとし、塗布方法は、人工皮革の表面に機械解繊のセルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンを、人工皮革の裏面に水性ウレタンエマルジョンを、樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥として、実施の形態2の構成とした。
【0086】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例2として以下の表で示す。
【実施例0087】
素材及び混合方法までは実施例1に同じとし、塗布方法は、人工皮革の表面と裏面の双方に機械解繊のセルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンを、樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥として、実施の形態3の構成とした。
【0088】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例3として以下の表で示す。
【実施例0089】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーはアクリル系樹脂ペースト[株式会社松井色素化学工業所製;製品名「Stretch Clear 701B」]を用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)広葉樹パルプ 解繊強]を用いた。尚、解繊強はその繊維の幅が概ね5ナノメートル~200ナノメートルの範囲に解繊されたものをさす。
【0090】
混合方法は、アクリル系樹脂ペーストを100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、コルク板を混合台にして、ガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0091】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、機械解繊の広葉樹セルロースナノファイバーを混合したアクリル系樹脂ペーストを樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側の広葉樹セルロースナノファイバーを混合したアクリル系樹脂の外側面に、ナノセルロースを混合していないアクリル系樹脂を樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0092】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例4として以下の表で示す。
【実施例0093】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは水性アクリル・シリコン樹脂[株式会社カンペハピオ製;商品名「ヌーロ」クリヤーコートとうめい]を用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)針葉樹パルプ 解繊強]を用いた。
【0094】
混合方法は、水性アクリル・シリコン樹脂を100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、コルク板を混合台にして、ステンレス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0095】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、機械解繊の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性アクリル・シリコン樹脂を樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性アクリル・シリコン樹脂の外側面に、ナノセルロースを混合していない水性アクリル・シリコン樹脂を樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0096】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例5として以下の表で示す。
【実施例0097】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-810]と水性ウレタンエマルジョンチタン分散物[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-820]とを用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)針葉樹パルプ 解繊強]を用いた。
【0098】
混合方法は、水性ウレタンエマルジョンを100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、また水性ウレタンエマルジョンチタン分散物を100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、木板(シナ)を混合台にして、ステンレス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0099】
塗布方法は、人工皮革の表面に、機械解繊の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンチタン分散物を樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行った。また人工皮革の裏面に、機械解繊の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンを樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンの外側面に、ナノセルロースを混合していない水性ウレタンエマルジョンを樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0100】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例6として以下の表で示す。
【実施例0101】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは、水性アクリル酸エステル樹脂[タナカケミカル株式会社;製品名「タナカラバーNo.600バインダー」]と、水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)針葉樹パルプ 解繊強]を用いた。
【0102】
混合方法は、水性アクリル酸エステル樹脂を100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、木板(シナ)を混合台にして、ガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0103】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、機械解繊の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性アクリル酸エステル樹脂を樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性アクリル酸エステル樹脂の外側面に、ナノセルロースを混合していない水性ウレタンエマルジョンを樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0104】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例7として以下の表で示す。
【実施例0105】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは、水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)針葉樹パルプ 解繊中]を用いた。尚、解繊中はその繊維の幅が概ね5ナノメートル~500ナノメートルの範囲に解繊されたものをさす。
【0106】
混合方法は、水性ウレタンエマルジョンを100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部とし、木板(シナ)を混合台にして、ガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0107】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、機械解繊の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンを樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側の針葉樹セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンの外側面に、ナノセルロースを混合していない水性ウレタンエマルジョンを樹脂製ペンティングナイフにて直接塗布を行い、乾燥は定温乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0108】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例8として以下の表で示す。
【実施例0109】
ナノセルロースにTEMPO酸化セルロースナノファイバー[第一工業製薬株式会社製;製品名「レオクリスタ」I-2SX](防腐剤入り)を用いた以外は、素材及び製造方法とも前記の実施例8と同様とした。
【0110】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例9として以下の表で示す。
【実施例0111】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは、水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用いた。また、ナノセルロースはTEMPO酸化セルロースナノファイバー[日本製紙株式会社製;製品名「セレンピア」TC-01A3%]を用いた。
【0112】
混合方法は、水性ウレタンエマルジョンを100質量部とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを40質量部とし、キュプラを下に敷いてガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0113】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法にて塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側のTEMPO酸化セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンの外側面に、ナノセルロースを混合していない水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法で塗布を行い、乾燥は自然乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0114】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例10として以下の表で示す。
【実施例0115】
ナノセルロースを混合していない水性ウレタンエマルジョンを、人工皮革表面側のTEMPO酸化セルロースナノファイバーを混合した水性ウレタンに塗布した以外は、素材及び製造方法とも前記の実施例10と同様とした。
【0116】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例11として以下の表で示す。
【実施例0117】
ナノセルロースにTEMPO酸化セルロースナノファイバー[第一工業製薬株式会社製;製品名「レオクリスタ」I-2AX](極性溶剤配合)を用いた以外は、素材及び製造方法とも前記の実施例10と同様とした。
【0118】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例12として以下の表で示す。
【実施例0119】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは、水性樹脂[株式会社ミノグループ製;製品名「アクアPEX」]を用い、添加剤として硬化剤[株式会社ミノグループ製;製品名「アクアP硬化剤」]を用いた。また、ナノセルロースはTEMPO酸化セルロースナノファイバー[日本製紙株式会社製;製品名「セレンピア」TC-01A3%]を用いた。
【0120】
混合方法は、水性樹脂を100質量部とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを20質量部および硬化剤を少量添加し、キュプラを下に敷いてガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0121】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを混合した水性樹脂をシルクスクリーン方法で塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側のTEMPO酸化セルロースナノファイバーを混合した水性樹脂の外側面に、ナノセルロースを混合していない水性樹脂をシルクスクリーン方法にて塗布を行い、乾燥は自然乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0122】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例13として以下の表で示す。
【実施例0123】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは、水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用いた。また、ナノセルロースは機械解繊のセルロースナノファイバー[増幸産業株式会社製;製品名「フィブリマ」(登録商標)広葉樹パルプ 解繊中]と、バクテリアセルロース[草野作工株式会社;製品名「ファイブナノ」(登録商標)HP-NFBC]を用いた。また、添加剤として水性顔料[大日精化工業株式会社製;製品名「ニューラクチミンカラー」Blue]を用いた。
【0124】
混合方法は、水性ウレタンエマルジョンを100質量部と機械解繊のセルロースナノファイバーを60質量部、及びバクテリアセルロースを60質量部とし、キュプラを下に敷いてガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。また、水性ウレタンエマルジョンに水性顔料を少量添加し、ガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0125】
塗布方法は、人工皮革の表面及び裏面に、前記の2種類のナノセルロースを混合した水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法にて塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革裏面側の2種類のナノセルロースを混合した水性ウレタンの外側面に、水性顔料を添加した水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法にて塗布を行った。乾燥は自然乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0126】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例14として以下の表で示す。
【実施例0127】
人工皮革は内部に織物を有したものを使用し、熱可塑性エラストマーは、水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用いた。また、ナノセルロースはTEMPO酸化セルロースナノファイバー[日本製紙株式会社製;製品名「セレンピア」TC-01A3%]を用いた。また、添加剤として水性顔料[大日精化工業株式会社製;製品名「ニューラクチミンカラー」Blue]と、ベチバー蒸留水とを用いた。
【0128】
混合方法は、水性ウレタンエマルジョンを100質量部とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを40質量部、および水性顔料を少量とし、キュプラを下に敷いてガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。また、水性ウレタンエマルジョンを100質量部とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを40質量部、およびベチバー蒸留水を少量とし、キュプラを下に敷いてガラス製シャーレと樹脂製ペンティングナイフにて混合した。
【0129】
塗布方法は、まず人工皮革の表面にマスキングテープを貼り、幅1センチメートル分の塗布となるようにし、そこにTEMPO酸化セルロースナノファイバーと水性顔料を混合した水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法にて幅1センチメートルとして塗布を行った。そして、表面乾燥を行った後、人工皮革の裏面側にTEMPO酸化セルロースナノファイバーとベチバー蒸留水を混合した水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法にて塗布を行った。更に、人工皮革裏面側のTEMPO酸化セルロースナノファイバーとベチバー蒸留水を混合した水性ウレタンの外側面に、水性ウレタンエマルジョンをシルクスクリーン方法にて塗布を行った。乾燥は自然乾燥とし、実施の形態4の構成とした。
【0130】
十分に乾燥の後、評価用試験片を人工皮革の表面側のTEMPO酸化セルロースナノファイバーと水性顔料を混合した水性ウレタン部分の幅1センチメートル部分が試験片の概ね中央に位置するよう作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は実施例15として以下の表で示す。
【0131】
〔比較例1〕
内部に織物のない人工皮革[東レ株式会社製;製品名「エクセーヌ」(登録商標)旧製品オレンジ]をそのまま評価用試験片として作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は比較例1として以下の表で示す。
【0132】
〔比較例2〕
比較例1で用いた人工皮革を用いた以外は、素材及び製造方法とも前記の実施例10と同様とした。
【0133】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は比較例2として以下の表で示す。
【0134】
〔比較例3〕
内部に織物を有した人工皮革[東レ株式会社製;製品名「ultrasuede」(登録商標)LX CB1]をそのまま評価用試験片として作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は比較例3として以下の表で示す。
【0135】
〔比較例4〕
内部に織物を有した人工皮革を使用し、熱可塑性エラストマーは、水性ウレタンエマルジョン[大日精化工業株式会社製;製品名「Seikaprene」UD-910]を用い、ナノセルロースは混合せず、人工皮革の表面側に1層、裏面側に2層塗布を行った。塗布方法は前記の実施例10と同様とした。
【0136】
十分に乾燥の後、評価用試験片を作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は比較例4として以下の表で示す。
【0137】
〔参考例〕
参考として、天然ゴム厚さ1ミリメートルをそのまま評価用試験片として作成し、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率(E‘)と損失正接(Tanδ)を計測した。その数値は参考例として以下の表で示す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1の計測数値より、まず人工皮革の内部に織物が有る分と無い分を比較すると、人工皮革の縦方向において何れの実施例のTanδも数値の向上がみられ、本発明の制振性の向上という効果が得られるものとなった。
【0140】
また、内部に織物を有する人工皮革のみと比べると、実施例3は同程度になったのを除いて何れの実施例もTanδの数値の向上が見られた。実施例3は貯蔵弾性率が向上していることから、面方向の膜振動的な要素に期待が持てるものと考える。尚、比較例3の横方向は計測不安定であったため、数値記載せずとした。
【0141】
更に、貯蔵弾性率をみると、内部に織物を有する人工皮革のみと比べ、熱可塑性エラストマーとナノセルロースの組み合わせにより、あたかもバネの直列接続と並列接続のように高くも低くもすることが可能となっている。
【0142】
また、参考例の天然ゴムでは、縦方向と横方向で貯蔵弾性率もTanδも同程度に対して、内部に織物を有する人工皮革を基布とすることで、縦方向と横方向で貯蔵弾性率もTanδも差をつけることが可能となり、被制振体の特性に合わせた設計が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
以上のことから、本発明の制振材は縦方向と横方向とで、貯蔵弾性率(言い換えると弾性力)とTanδ(言い換えると損失係数)とを変化させることができ、据え置き型の被制振体のみならず、一定方向や自由に動くような場合であっても対応することが可能となる。例えば、またスポーツ用品のように身体の動きにより、上下動の動きと前後方向あるいは水平方向の振動特性および運動特性は異なっており、その特性に合わせて本発明の制振材を使用することにより、身体の振動抑制と運動性を阻害せず運動安定性を確保することが可能となる。
【0144】
また、スポーツ用品に留まらず、車、電車、船舶、航空機などの移動する室内空間などにおいて、その場所特有の振動は抑制しつつ進行方向の運動性には抵抗にならないようにする必要があり、本発明の制振材を使用することによって、その方向性を緻密に制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0145】
11、12、13、14 制振材
A 人工皮革
a 織物
BC1、BC2 ナノセルロースが混合された熱可塑性エラストマー
B1、B2 熱可塑性エラストマー
C1、C2 ナノセルロース
D 熱可塑性エラストマー
図1
図2
図3
図4