(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167865
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】肝線維症の治療及び/又は予防のための医薬品の製造におけるチャネル遮断薬の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241127BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241127BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241127BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241127BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241127BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241127BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241127BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/16
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K31/4166
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195463
(22)【出願日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】202310583492.0
(32)【優先日】2023-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】520422566
【氏名又は名称】遵義医科大学附属医院
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】謝 睿
(72)【発明者】
【氏名】徐 靖宇
(72)【発明者】
【氏名】宮 幗唯
(72)【発明者】
【氏名】杜 倩
(72)【発明者】
【氏名】胡 艶霞
(72)【発明者】
【氏名】丁 建紅
(72)【発明者】
【氏名】呉 先麗
(72)【発明者】
【氏名】楊 暁旭
(72)【発明者】
【氏名】婁 俊
(72)【発明者】
【氏名】劉 奇
(72)【発明者】
【氏名】李 卓
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C084AA17
4C084MA16
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肝線維症を効果的に治療でき、安全で信頼性が高く、安価である医薬品を提供する。
【解決手段】医薬品の製造におけるチャネル遮断薬の使用を提供する。好ましくは、チャネル遮断薬は、ナトリウムチャネル遮断薬であり、より好ましくは、ナトリウムチャネル遮断薬は、フェニトインナトリウムを含むことを特徴とする、使用である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝線維症の治療及び/又は予防のための医薬品の製造におけるチャネル遮断薬の使用。
【請求項2】
前記チャネル遮断薬は、ナトリウムチャネル遮断薬であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ナトリウムチャネル遮断薬は、フェニトインナトリウムを含むことを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記肝線維症は、四塩化炭素誘発性肝線維症を含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記医薬品は、薬学的に許容可能な補助材料をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬品の剤形は、医学的に認められる任意の剤形であることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬品の剤形は、粉剤、注射液、カプセル、錠剤、経口液剤を含むことを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
肝臓組織のオートファージーを抑制するための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用。
【請求項9】
肝星細胞増殖を抑制するための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用。
【請求項10】
肝細胞α-SMAをダウンレギュレートするための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の技術分野に関し、特に、肝線維症の治療及び/又は予防のための医薬品の製造におけるチャネル遮断薬の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性肝疾患は、人々の生活の質に深刻な影響を与える世界的な難題であり、肝硬変及び原発性肝細胞癌の発病率及び死亡率はいずれも非常に高く、肝線維症は、これらの慢性肝疾患の病理学的基礎であり、肝硬変、肝癌の発病メカニズムでもある。肝線維症は、アルコール、ウイルス、医薬品、毒素、免疫及び代謝障害などを含む様々な原因で引き起こされる可能性があることが、多数の研究により確認されている。これらの物質の持続的な刺激は、深刻な肝臓損傷を引き起こす可能性がある。肝線維症の発生メカニズムも様々な要因に関連し、肝星細胞(hepatic stellate cells、HSCs)の活性化はその発症メカニズムにおける重要な要因の一つである。様々な要因の影響を受け、肝実質細胞は持続性の炎症性壊死を引き起こし、HSCsが活性化され、さらに大量に増殖し、同時に大量の細胞外マトリックス(extracellular matrix、ECM)を放出する。これらの物質は線維性結合組織の大量増殖を促進し、最終的には線維性瘢痕を形成し、さらに肝臓の構造及び機能に損傷を与え、最終的には肝線維症を引き起こす。したがって、活性化されたHSCsの抑制は、肝線維症の治療において重要な意味を有する。
【0003】
現在、肝線維症の治療は依然として萌芽段階にあり、いくつかの有効な医薬品が発見されているが、多くは病因治療であり、治療期間が長く、治療効果が低く、副作用が多いなどの欠点が存在し、その治療法は世界の医学界を困惑させている。肝線維症を引き起こす要因を早期に発見し、さらに慢性肝疾患への進行をタイムリーに抑制することは現在の主要なタスクの一つである。したがって、肝線維症の発病メカニズムを研究し、新たな治療標的を探し、肝線維症を効果的に治療でき、安全で信頼性が高く、安価である医薬品を開発することは、非常に重要な社会的及び医学的意義を有する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、肝線維症を治療及び/又は予防する医薬品の製造におけるチャネル遮断薬の使用を提供することにより、上記の従来技術に存在する問題を解決することである。
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を提供する。
本発明は、肝線維症の治療及び/又は予防のための医薬品の製造におけるチャネル遮断薬の使用を提供する。
【0006】
好ましくは、前記チャネル遮断薬はナトリウムチャネル遮断薬である。
【0007】
好ましくは、前記ナトリウムチャネル遮断薬はフェニトインナトリウムを含む。
【0008】
好ましくは、前記肝線維症は四塩化炭素誘発性肝線維症を含む。
【0009】
好ましくは、前記医薬品は薬学的に許容可能な補助材料をさらに含む。
【0010】
好ましくは、前記医薬品の剤形は医学的に認められる任意の剤形である。
【0011】
好ましくは、前記医薬品の剤形は、粉剤、注射液、カプセル、錠剤、経口液剤を含む。
【0012】
本発明は、肝臓組織のオートファージーを抑制するための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用をさらに提供する。
【0013】
本発明は、肝星細胞増殖を抑制ためのする医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用をさらに提供する。
【0014】
本発明は、肝細胞α-SMAをダウンレギュレートするための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用をさらに提供する。
【0015】
本発明は、肝細胞LC3をダウンレギュレートするための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用をさらに提供する。
【0016】
本発明は、肝細胞P62をアップレギュレートするための医薬品の製造におけるフェニトインナトリウムの使用を提供する。
【0017】
本発明は、以下の技術的効果を開示する。
本発明は、細胞レベルでフェニトインナトリウムがオートファージーを制御することにより肝星細胞の活性化に影響を与えて肝線維症を改善することができることを証明した。また、本発明は、さらに疾患モデルを確立することにより、動物レベルでフェニトインナトリウムの肝線維症に対する治療効果を検証した結果、肝線維症の治療及び/又は予防のための医薬品の製造に使用できることを証明した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】マウス肝線維症モデル及びフェニトインナトリウム治療後のマウス肝機能への影響を示す図である(A:各群のマウス肝臓の一般的な形態;B:各実験群のマウスのALT統計図;C:各実験群のマウスのASTの統計図)。
【
図2】HE、Masson、ピクロシリウスレッドで染色して各群のマウスの肝線維症を観察する場合である(A:HE染色、B:Masson染色、C:テンシドク染色)。
【
図3】免疫組織化学技術により検出された各実験群におけるα-SMAの発現状況(A)及び統計図(B)である。
【
図4】Western blotにより検出された各群の実験マウスの肝臓組織における肝線維症指標及び自己関連指標の発現、並びに統計図である(A、D:各群の実験マウス肝臓組織におけるα-SMAの発現状況及び統計図;B、E:各群の実験マウス肝臓組織におけるLC3の発現状況及び統計図;C、F:各群の実験マウス肝臓組織におけるP62の発現状況及び統計図)。
【
図5】
図5はCCK8法による肝星細胞HSC増殖に対するフェニトインナトリウムの影響の検出を示す。
【
図6】CCK8法によるHSCs増殖に対するTGF-β1の影響及びTGF-β1誘発HSCs増殖に対するフェニトインナトリウムの影響の検出を示す。
【
図7】Western blotにより検出された異なる実験群細胞におけるα-SMA、LC3、P62の発現及び統計図である(A、D:各実験群のHSC細胞におけるα-SMAの発現状況及び統計図;B、E:各実験群のHSCsにおけるLC3の発現状況及び統計図;C、F:各実験群のHSCsにおけるP62の発現状況及び統計図)。
【
図8】Western blot実験技術により検出されたラパマイシン添加後のHSCsにおけるα-SMA及びオートファージー関連タンパク質LC3、P62の発現及び統計図である(ここで、A、D:HSCsにおけるα-SMAの発現状況及び統計図;B、E:HSCsにおけるLC3の発現状況及び統計図;C、F:HSCsにおけるP62の発現状況及び統計図)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の様々な例示的な実施形態を詳細に説明するが、以下の詳細な説明は本発明を限定するものではなく、本発明のいくつかの態様、特性及び実施形態をより詳細に説明するものと理解すべきである。
【0020】
実施例1:フェニトインナトリウムの動物実験
1.肝線維化マウスモデルの確立及び治療
1.1実験ステップ及び方法
(1)実験群分け:モデル群、治療群、正常群及び医薬品群(各群15匹の健康な雄C57マウス(重慶騰シン生物技術有限会社から購入)、合計60匹のマウス)
【0021】
(2)肝線維化マウスモデルの確立:正常に飼育された雄C57マウスの体重が20gに達した時点でモデル確立を開始した。モデル群、治療群のマウスに20%CCl4オリーブ油溶液(5mL/kg)を週2回、合計8週間胃内投与した。全てのマウスはいずれも正常に飼育した。
【0022】
(3)フェニトインナトリウムによる予防・治療:モデル確立の2週目後に、治療群及び医薬品群にフェニトインナトリウム(1mM;10mL/kg)を腹腔内注射し、毎日1回腹腔内注射し、モデル群のモデル確立に成功した後は注射を停止した。正常群及びモデル群のマウスに、同じ体積の生理食塩水を腹腔内注射した。
【0023】
(4)サンプル採取:モデリングに成功した後に各群のマウスを解剖し、眼球血を採取して血清学的指標を測定した。肝臓を採取して肝臓の外観を肉眼で観察し、撮影して記録し、肝臓組織から2つのサンプルを採取し、ホルマリンで固定し、パラフィンで包埋し、最終的にはパラフィン切片を作成し、HE、ピクリン酸ピクロシリウスレッド、Masson染色及び免疫組織化学に用い、残りの組織を-80℃で凍結保存して使用に備えた。
【0024】
(5)肝臓切片のHE染色:マウスの肝臓組織をホルマリンで固定し、それをパラフィン内に包埋し、粘着スライドガラスを使用してパラフィン切片を作成し、70℃の恒温器内に入れ、1-2時間ベーキングした後、通常の脱パラフィン処理し(キシレン溶液Iに10分間、キシレン溶液IIに10分間、無水エタノールに5分間、95%エタノールに5分間、80%エタノールに5分間、75%エタノールに5分間、50%エタノールに5分間浸漬し、最後にPBSバッファーで3回洗浄し(各回10分間))、その後、染色し(ヘマトキシリンで5分間染色した後、塩酸エタノールで10秒間分化し、次に、青色に回復するまで水道水で10分間洗浄し、次に、0.5%エオシン液で3分間染色し、さらに流水で5分間洗浄し)、最後に、サンプルを脱水し(50%エタノールで1分間、75%エタノールで1分間、80%エタノールで1分間、95%エタノールで1分間、無水エタノールで1分間)、中性ゴムでスライドを密封し、最後に顕微鏡で観察し、撮影して保存した。
【0025】
(6)肝臓切片のMassonトリクローム染色:肝臓のパラフィン切片を脱パラフィン処理し、調製されたWeigert鉄ヘマトキシリン染料を組織に滴下して5-10分間染色し、次に、酸性エタノール分化液で5-15秒分化し、水洗し、さらにMassonブルーイング液で3-5分間ブルーイングし、蒸留水で1分間洗浄し、ポンソーレッドマゼンタ染色液で5-10分間染色し、次に、蒸留水と弱酸溶液を2:1の比率で用いて弱酸作動液を調製し、弱酸作動液で1分間洗浄した。リンモリブデン酸溶液で1-2分間洗浄し、弱酸作動液で1分間洗浄し、アニリンブルー染色液で1-2分間染色し、弱酸作動液で1分間洗浄し、95%エタノールで迅速に脱水し、無水エタノールで3回(毎回5-10秒)脱水し、キシレンで3回(毎回1-2分間)透明にし、中性ゴムで封入し、顕微鏡で撮影して記録した。
【0026】
(7)肝臓切片のピクリン酸ピクロシリウスレッド染色:清潔な環境において、肝臓のパラフィン切片を脱パラフィン処理し、次に、ヘマトキシリン溶液に入れて2分間浸漬し、さらに水道水で10分間洗浄し、最後に1%の塩酸エタノールで5秒間分化し、さらに水道水で10分間洗浄し、最後にピクリン酸ピクロシリウスレッド染色液に20分間浸漬し、さらに水道水で5分間洗浄した。最後に脱水し、封入し、顕微鏡で撮影して記録した。
【0027】
(8)免疫組織化学:肝臓のパラフィン切片を脱パラフィン処理し、パラフィン切片を3%H2O2溶液に浸漬し、5-10分間インキュベートを継続し、次に、蒸留水で洗浄し、さらにPBSで5分間洗浄し、2回繰り返し、クエン酸ナトリウムで抗原を修復し、PBSで5分間洗浄した。α-SMA抗体を滴下し、4℃で一晩撹拌した。30min再加熱した後、PBSで洗浄し、3回(毎回5分間)繰り返し、酵素標識モノクローナル抗体マウスウサギIgGを滴下し、37℃で30分間インキュベートした後、PBSで洗浄した。発色剤で1分間発色させ(DAB)、次に、水で徹底的に洗浄し、再び染色し、脱水し、透明にし、最後に封入し、顕微鏡で写真を取って分析した。
【0028】
(9)タンパク質免疫ブロット実験(Western-Blot):
1)タンパク質原液の抽出
細胞タンパク質の抽出:インキュベータから、タンパク質を抽出する必要がある細胞を取り出し、調製されたPBS溶液で2回洗浄し、清潔な濾紙に置き、残ったPBSを乾燥し、次に、細胞の成長状況に応じて特定量のRIPAタンパク質溶解液を添加し、約30分間静置してタンパク質を分解させた。次に、分解したタンパク質原液をセルスクレーパーで掻き取って、準備したEPチューブに入れ、次に、高速遠心機に入れ、4℃の条件で12000rpmで30min遠心分離し、遠心分離終了後、上清を取って次のタンパク質の定量を行った。
【0029】
2)タンパク質の定量
EPチューブを取り、そこに標準タンパク質BSA 25μL及びPBS 75μLを添加し、0.5mg/mLのBSA標準タンパク質溶液を調製した。次に、96ウェルプレートを取り、ウェルにそれぞれ特定量のPBS及びBSAを添加し、標準曲線を作成し、次に、タンパク質原液を希釈し、EPチューブにPBS溶液87μLを添加し、次に、遠心分離したタンパク質原液(30倍希釈)を3μL添加した。次に、A液とB液を用いて50:1の濃度配合比でBCA作動液を調製し、96ウェルプレートの各ウェルに200μLを加え、恒温器中で30分間静置し、温度を37℃に設定した。最後にマイクロプレートリーダーでタンパク質原液の濃度を検出し、濃度配合比を計算した後、RIPAプロテアーゼ溶解液をタンパク質原液に添加し、タンパク質原液が同じ濃度になるように調整した後、各EPチューブに等量の5×ローディングバッファーを添加し、沸騰水中で5分間煮沸して、冷却した後、-20℃の冷蔵庫に入れた。
【0030】
3)Western-Blot実験手順
a.電気泳動ゲルの調製
b.ローディングとゲルランニング:調製した電気泳動ゲルを電気泳動タンク内に入れ、電気泳動液を添加し、ローディング櫛を引き抜き、冷蔵庫内からタンパク質Markerを取り出し、4μL取って孔内に加え、残りの孔に目的タンパク質を添加し、カバーをかけ、電圧を80Vに調整してゲルランニングを開始し、タンパク質Markerバンドが複数のバンドに分けられたときに、電圧を120Vに調整し、所望の目的タンパク質の位置が現れたときに、電気泳動を終了させた。
c.転写:PVDF膜を取り出し、必要な大きさに切り出した後、メタノール溶液中で5-10分間浸漬し、電気泳動タンク内のゲルを取り出し、目的タンパク質の分子量に応じてMarkerバンドに合わせて必要なゲルを切り取り、マーキングしたPVDF膜を対応するゲルに覆い、順に濾紙及びスポンジを置き、次に、電気転写タンク内に入れ、電気転写液を添加し、電圧を90Vに調整し、目的タンパク質の分子量に応じて電気転写時間を設定した。
d.ブロッキング:電気転写終了後、PVDF膜を取り出し、TBSTで5min洗浄し、次に、TBSTを捨て、調製した5%タンパク質ブロッキング液を添加し、揺動シェーカーで1.5時間揺動した。
e.一次抗体のインキュベーション:ブロッキングされたPVDF膜をTBSTで3回洗浄し(毎回10分間)、次に、PVDF膜を調製した一次抗体に移転して一晩静置した。
f.二次抗体のインキュベーション:一次抗体からPVDF膜を取り出し、TBSTで3回洗浄し(毎回10分間)、次に、二次抗体に入れて2時間揺動し、PVDF膜を取り出し、さらにTBSTで3回洗浄した(毎回10分間)。
g.発色:現像剤をPVDF膜に滴下して露光させた。
h.結果分析:露光結果についてソフトウェアImage Jを用いてバンドのグレー値分析統計を行った。
【0031】
1.2.実験結果
(1)モデリング過程において、モデル群のマウスの精神状態が徐々に悪くなり、活動が低下し、摂食量及び飲水が減少し、CCl4の存在により肝臓の損傷をもたらし、それによりマウスの健康な成長に影響を与えることを示している。治療群はモデル群と比較して、毛皮が滑らかではないが、活動が明らかに上昇した一方、正常群及び医薬品群のマウスは、毛皮が滑らかで、活動が活発で、摂食量及び飲水量も正常であった。
【0032】
(2)モデリングに成功した後、マウスを解剖し、肉眼で肝臓の外観を観察し、撮影し記録した。
図1Aに示すように、各群のマウス肝臓の外観の違いと変化が、明らかに認められた。正常群と医薬品群は、マウス肝臓に明らかな違いがなく、肝臓の質が柔らかく、表面が滑らかであった。モデル群のマウスは、肝臓の質が硬く、光沢度が低く、表面が粗く、肝臓全体が黄変していた。治療群のマウスは、肝臓の質がモデル群よりも柔らかいが、正常群よりも硬く、光沢度が低かった。
【0033】
(3)肝機能の検出(ALT、AST):各群のマウスに対して、眼球血を採取し、遠心分離して血清を採取し、病院検査科に送ってデバイスを用いてアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を測定した。
図1B及び
図1Cに示すように、モデル群のアミノトランスフェラーゼは、正常群よりも高く、肝線維化モデルの確立に成功したことを示している。治療群のアミノトランスフェラーゼは、モデル群よりも低下し、その差は統計学的に有意であり(p<0.05)、フェニトインナトリウムが肝線維症を改善できることを示している。医薬品群と正常群は、アミノトランスフェラーゼに明らかな違いがなく、この医薬品が肝臓に対して損傷しないことを示唆している。
【0034】
(4)肝臓切片のHE、Massonトリクローム、ピクリン酸ピクロシリウスレッド染色:正常群及び医薬品群は、マウス肝臓組織の肝小葉が完全であり、構造も正常であった。モデル群は、マウス肝臓組織の門脈域の周囲に大量のコラーゲン沈着が見られ、門脈域と中央静脈との間に線維間隔の形成が観察され、肝小葉の構造が乱れていたのに対し、治療群は、肝線維化の程度がモデル群と比較して軽減し(
図2)、フェニトインナトリウムがマウス肝臓でのコラーゲン含有量を低減し、肝線維化の程度を軽減できることを示している。
【0035】
(5)肝臓切片を用いる免疫組織化学による異なる実験群組織におけるα-SMA発現の検出:
図3に示すように、正常群及び医薬品群は、肝門静脈及び少量の中央静脈の辺縁にのみ少量の陽性発現が存在し、モデル群は、門脈域及び小葉内炎症壊死領域の周囲及び肝類洞壁内に大量の陽性発現が見られ、治療群は、モデル群と比較して陽性発現量が低下し、その結果は統計学的に有意であった(p<0.05)。
【0036】
(6)Western blotによる異なる実験群組織におけるα-SMA、LC3、P62の発現の検出:正常群と比較して、モデル群は肝臓組織における肝線維症指標α-SMA及びオートファージー関連指標LC3の発現が上昇し、P62の発現が低下し、治療群は、モデル群と比較して肝線維症指標α-SMA及びオートファージー関連指標LC3の発現が低下し、P62の発現が上昇し、その差は統計学的に有意であった(p<0.05)(
図4)。以上の結果は、フェニトインナトリウムが肝線維症病変を改善でき、オートファージー経路に関連する可能性があることを示している。
【0037】
実施例2:フェニトインナトリウムの細胞実験
1.肝線維症に対するフェニトインナトリウムの影響の細胞レベルでの検証
1.1.実験方法
(1)細胞培養
1)細胞蘇生
クリーンベンチ用紫外線ランプで30分間照射した後、白色灯及び循環気流をオンにし、遠心管を取り、そこに3mLの培地を添加し、直ちに-80℃の冷蔵庫から凍結保存された細胞を取り出して37℃の恒温水槽に入れて解凍し、次に、クリーンベンチ内で細胞を吸引して準備した遠心管に入れ、密封して遠心分離機に入れて5分間遠心分離し(回転速度:1000rpm)、次に、培養フラスコを準備し、細胞名及び日付をマーキングし、遠心分離終了後に上清を捨て、新しい培地を添加して均一に混合し、最後に均一に混合した細胞をマーキングした培養フラスコに入れ、75%アルコールでフラスコをスプレーした後に恒温インキュベータに入れて培養した。
【0038】
2)細胞継代:DMEM完全培地、トリプシン及び滅菌PBSをクリーンベンチに入れ、30分間再加熱し、白色灯及び循環気流をオンにし、アルコールランプを点火し、インキュベータから継代する必要がある細胞を取り出し、培地を捨て、滅菌PBSを添加して2回洗浄し、次に、PBSを捨て、フラスコに1mLのトリプシンを添加し、顕微鏡下に置いて観察し、細胞間の間隔が大きくなり、細胞が丸くなったとき、直ちにトリプシンを捨て、3-5mLの培地をフラスコに入れて消化を停止させ、次に、ピペットを用いて細胞をピペッティングし、新しい培養フラスコに均一に分注し、フラスコに細胞名、継代回数及び継代時間をマーキングした。最後に75%のアルコールでフラスコをスプレーした後に恒温インキュベータに入れて引き続き培養した。
【0039】
3)細胞凍結保存:必要な試薬を再加熱し、インキュベータから凍結保存する必要がある細胞を取り出し、滅菌PBSを添加して2回洗浄し、次に、PBSを除去し、トリプシンを加えて細胞を消化し、あるレベルに達したら、3-5mLの培地をフラスコに入れて消化を停止させ、次に、ピペットを用いて細胞をピペッティングし、新しい遠心管に移し、遠心分離を行い、遠心分離終了後、上清を捨て、遠心管に0.5-1mLの凍結保存液を添加して均一に混合し、最後に均一に混合した液をマーキングした凍結保存管内に添加し、密封して-80℃の冷蔵庫内に入れて凍結保存した。
【0040】
(2)CCK-8実験
状態が良好な細胞を消化し、次に、細胞計数を行い、濃度配合比を計数した後、対応する体積の細胞懸濁液及び培地を取って実験に必要な細胞濃度に調整し、十分に均一に混合した後に96ウェルプレートに添加し、実験要件に応じて細胞にさまざまな介入を行い、48時間後に各ウェルに10%CCK8溶液(培地とCCK8との比は10:1)を添加し、インキュベータに入れて引き続き1-4時間培養した後、マイクロプレートリーダーで吸光度を検出し、最後に結果を分析統計した。
【0041】
(3)Western-Blot実験:実施例1の動物実験と同じである。
1.2.実験結果
(1)CCK8法による肝星細胞HSC増殖に対するフェニトインナトリウムの影響の検出及びIC50値の計算:CCK8法により肝星細胞HSC増殖に対するフェニトインナトリウムの影響を検出し、HCS細胞に対する異なる濃度のフェニトインナトリウムの増殖抑制率を計算した結果、肝星細胞に対するフェニトインナトリウムのIC50値は234μMであった(
図5)。
【0042】
(2)CCK-8法によるTGF-β1誘発HSCsの増殖に対するフェニトインナトリウムの影響の検出:IC50値に基づいて医薬品の濃度を確定し、PHTの濃度を200μMにして細胞レベルの相関実験を行った。CCK8法によりHSCs増殖に対するTGF-β1の影響を検出したところ、結果として、正常群と比較して、TGF-β1刺激後にHSCsの増殖が促進され、フェニトインナトリウムを添加した後、TGF-β1により促進されたHSCsの増殖が抑制され、結果は統計学的に有意であった(p<0.05)(
図6)。
【0043】
(3)Western blotによる異なる実験群細胞におけるα-SMA、LC3、P62の発現の検出:
図7に示すように、TGF-β1とフェニトインナトリウムの共刺激群は、TGF-β1単独刺激群と比較して、共刺激群のα-SMA発現が明らかに低下し、その差は統計学的に有意であった(p<0.05)。また、Western-Blot実験の結果から分かるように、TGF-β1単独刺激群と比較して、フェニトインナトリウムとTGF-β1の共刺激下で、オートファージー関連タンパク質LC3の発現量は顕著に低下し、オートファージー基質タンパク質P62の発現量は顕著に上昇し、その差は統計学的に有意であった(p<0.05)。これらの結果から分かるように、TGF-β1は、HSCの活性化過程におけるオートファージーの発生を促進できるのに対し、フェニトインバツとTGF-β1の共培養は、HSC活性化過程におけるオートファージーの発生を抑制し、HSCの活性化を抑制することにより、肝線維症の発生の進行に影響を与える可能性がある。
【0044】
(4)フェニトインナトリウムによるHSCsの活性化の逆転がオートファージー発生の抑制によることがWestern blotにより実証された:
図8に示すように、フェニトインナトリウムとTGF-β1でHSCsを共培養した後のα-SMA及びオートファージー関連タンパク質LC3の発現が低下し、P62の発現が上昇し、オートファージーアゴニストであるラパマイシンを添加した後、フェニトインナトリウム及びTGF-β1群と比較して、ラパマイシン、フェニトインナトリウム及びTGF-β1を加えた群は、α-SMA及びオートファージー関連タンパク質LC3の発現が上昇し、オートファージー基質タンパク質P62の発現が低下し、差は統計学的に有意であった(p<0.05)。オートファージーアゴニストを添加した後に、結果が回復されたことを示しており、フェニトインナトリウムが確かにオートファージー経路を調整することにより肝星細胞の活性化に影響を与え、さらに肝線維化を改善する作用を発揮することを示している。
【0045】
上述の実施例は、本発明の好ましい形態を説明するものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の設計思想から逸脱しない前提で、当業者が本発明の技術的手段に対してなされる各種の変形及び改善は、いずれも本発明の特許請求の範囲によって確定される保護範囲内に含まれるべきである。