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特開2024-167878金属材の製造方法及びその製造方法に用いられる冷間塑性加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167878
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】金属材の製造方法及びその製造方法に用いられる冷間塑性加工装置
(51)【国際特許分類】
   B21C 9/00 20060101AFI20241127BHJP
   B21C 1/22 20060101ALI20241127BHJP
   B21C 1/00 20060101ALI20241127BHJP
   B21C 23/32 20060101ALI20241127BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
B21C9/00 M
B21C9/00 K
B21C1/22 Z
B21C1/00 Z
B21C23/32
B21B45/02 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014704
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2023083835
(32)【優先日】2023-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小西 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】小山田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝之
【テーマコード(参考)】
4E029
4E096
【Fターム(参考)】
4E029LA01
4E096EA02
4E096EA04
4E096EA05
4E096EA06
4E096EA12
4E096EA14
4E096EA16
4E096FA01
4E096HA09
4E096HA10
4E096JA01
4E096JA13
4E096JA15
4E096KA01
4E096KA14
(57)【要約】
【課題】冷間塑性加工後の金属材の表面疵の発生を抑制可能な金属材の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態による金属材の製造方法は、潤滑液付着工程と、冷間塑性加工工程とを含む。潤滑液付着工程では、ファインバブルを含有する潤滑液(LU)を、塑性加工工具(2)及び金属素材(W)の少なくとも一方に付着させる。冷間塑性加工工程では、潤滑液(LU)を塑性加工工具(2)の表面及び金属素材(W)の表面の少なくとも一方に付着させた後、塑性加工工具(2)を用いて金属素材(LU)に対して冷間塑性加工を実施して、金属材を製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファインバブルを含有する潤滑液を、塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させる潤滑液付着工程と、
前記潤滑液を前記塑性加工工具の表面及び前記金属素材の表面の少なくとも一方に付着させた後、前記塑性加工工具を用いて前記金属素材に対して冷間塑性加工を実施して、金属材を製造する冷間塑性加工工程と、
を備える、
金属材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属材の製造方法であって、
前記ファインバブルの平均粒径は、0.01μm以上50.00μm以下である、
金属材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の金属材の製造方法であって、
前記ファインバブルの平均粒径は、0.01μm以上1.00μm未満である、
金属材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属材の製造方法であって、
前記金属材は、アルミニウム、鋼、チタン、及び銅のいずれか1種を主成分とする、
金属材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属材の製造方法であって、
前記潤滑液中の前記ファインバブルの個数密度を50個/mL以上とする、
金属材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属材の製造方法であって、
前記塑性加工工具はダイスであり、
前記冷間塑性加工工程では、
前記ダイスを用いて、前記金属素材に対して伸線加工を実施して、金属線である前記金属材を製造する、
金属材の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属材の製造方法であって、
1又は複数の前記ダイスを用いて前記伸線加工を実施し、
1又は複数の前記ダイスのうち、最終の前記ダイスの貫通孔の直径をd(μm)としたとき、
前記ファインバブルの平均粒径を、0.6dμm以下とする、
金属材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属材の製造方法であって、
前記塑性加工工具はダイスであり、
前記冷間塑性加工工程では、
前記ダイスを用いて、前記金属素材に対して冷間引抜加工を実施して、金属棒材又は金属管である前記金属材を製造する、
金属材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属材の製造方法であって、
前記塑性加工工具はダイスであり、
前記冷間塑性加工工程では、
前記ダイスを用いて、前記金属素材に対して冷間押出加工を実施して、金属棒材又は金属管である前記金属材を製造する、
金属材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の金属材の製造方法であって、
前記塑性加工工具はワークロールであり、
前記冷間塑性加工工程では、
前記ワークロールを用いて、前記金属素材に対して冷間圧延を実施して、金属棒材、金属管及び金属板のいずれか1種である前記金属材を製造する、
金属材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の金属材の製造方法であって、
前記冷間塑性加工工程では、
1又は複数の前記塑性加工工具を用いて前記冷間塑性加工を実施し、
前記塑性加工工具がダイスであり、前記冷間塑性加工が伸線加工又は冷間引抜である場合、前記各塑性加工工具での前記金属素材の減面率を10.0%以上23.5%未満とし、
前記塑性加工工具がダイスであり、前記冷間塑性加工が冷間押出である場合、前記各塑性加工工具での前記金属素材の減面率を50.0%以上95.0%以下とし、
前記塑性加工工具がワークロールであり、前記冷間塑性加工が冷間圧延である場合、前記各塑性加工工具での前記金属素材の減面率を50.0%以上95.0%以下とし、
前記潤滑液付着工程では、
前記各塑性加工工具での前記冷間塑性加工ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、前記潤滑液中の前記ファインバブルの個数密度を、前記最低個数密度N個/mLの最大値以上とする、
金属材の製造方法。
N=50×(P/100)×V (1)
ここで、式(1)中のPには、式(2)で定義される前記塑性加工工具での減面率(%)が代入され、Vには前記塑性加工工具の出側での前記金属素材の移動速度V(mpm)が代入される。
P={(A0-A1)/A0}×100 (2)
ここで、式(2)中のA0には前記塑性加工工具での前記冷間塑性加工前の前記金属素材の長手方向に垂直な断面積(mm)が代入され、A1には前記塑性加工工具での前記冷間塑性加工後の前記金属素材の断面積(mm)が代入される。
【請求項12】
金属素材に対して冷間塑性加工を実施可能な冷間塑性加工装置であって、
塑性加工工具と、
ファインバブルを含有する潤滑液を生成するファインバブル生成装置と、
前記冷間塑性加工前に、又は、前記冷間塑性加工中に、前記塑性加工工具の表面、及び、前記金属素材の表面の少なくとも一方に、前記ファインバブルを含有する前記潤滑液を付着させる潤滑液付着装置と、を備える、
冷間塑性加工装置。
【請求項13】
請求項12に記載の冷間塑性加工装置であって、
前記潤滑液付着装置は、
前記塑性加工工具の表面、及び、前記金属素材の表面の少なくとも一方に、前記ファインバブルを含有する前記潤滑液を排出するノズルと、
前記ノズルに前記ファインバブルを含有する前記潤滑液を供給する供給装置と、を含む、
冷間塑性加工装置。
【請求項14】
請求項13に記載の冷間塑性加工装置であって、
前記ノズルは、前記塑性加工工具の入側に配置され、前記塑性加工工具の入側から、前記塑性加工工具の表面、及び、前記金属素材の表面の少なくとも一方に、前記ファインバブルを含有する前記潤滑液を排出する、
冷間塑性加工装置。
【請求項15】
請求項12~請求項14のいずれか1項に記載の冷間塑性加工装置であって、
前記塑性加工工具は、前記金属素材に対して伸線加工又は冷間引抜が可能なダイスであり、
前記冷間塑性加工装置はさらに、
前記金属素材を前記塑性加工工具から引き抜く引抜装置を備える、
冷間塑性加工装置。
【請求項16】
請求項15に記載の冷間塑性加工装置であって、
前記冷間塑性加工装置は、前記金属素材に対して前記伸線加工を実施可能であり、
前記潤滑液付着装置は、
前記ファインバブルを含有する前記潤滑液を貯留可能な貯留槽と、
前記ダイスの入側で前記ダイスを通過する前の前記金属素材を前記貯留槽の前記潤滑液に浸漬させる浸漬機構を、を含み、
前記ダイスは、前記貯留槽の前記潤滑液に浸漬される位置に配置される、
冷間塑性加工装置。
【請求項17】
請求項16に記載の冷間塑性加工装置であってさらに、
前記ダイスの出側で前記ダイスを通過した後の前記金属素材を前記貯留槽の前記潤滑液から引き出す引き出し機構を備える、
冷間塑性加工装置。
【請求項18】
請求項12に記載の冷間塑性加工装置であって、
前記塑性加工工具は、前記金属素材を冷間押出加工が可能なダイスであり、
前記冷間塑性加工装置はさらに、
前記金属素材を収納するコンテナと、
前記コンテナに収納されている前記金属素材を前記ダイスから押し出すステムと、
を備える、
冷間塑性加工装置。
【請求項19】
請求項12~請求項14のいずれか1項に記載の冷間塑性加工装置であって、
前記塑性加工工具は、前記金属素材を冷間圧延可能なワークロールである、
冷間塑性加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の製造方法及びその製造方法に用いられる冷間塑性加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属素材に対して冷間塑性加工を実施して金属材を製造する方法が知られている。
冷間塑性加工には、大きく分けて、(1)伸線加工、(2)冷間引抜加工、(3)冷間押出加工、及び、(4)冷間圧延、が存在する。
【0003】
スチールコードやアルミニウムワイヤ、銅ワイヤ及びチタンワイヤ等の金属線では、線径が1mm未満となる場合がある。このような極細の金属線は、冷間塑性加工の一種である伸線加工を実施して製造される。伸線加工では、金属素材をダイスに通した後、金属素材をダイスから引き抜いて、金属線を製造する。
【0004】
棒鋼、アルミニウム棒材、銅棒材及びチタン棒材等の金属棒材や、鋼管、アルミニウム管、銅管及びチタン管等の金属管は、冷間塑性加工の一種である冷間引抜加工により製造される。冷間引抜加工では、金属素材をダイスに通した後、金属素材をダイスから引き抜いて、金属材(金属棒材又は金属管)を製造する。
【0005】
型鋼、アルミニウム型材、銅型材、チタン型材等は、冷間塑性加工の一種である冷間押出により製造される。冷間押出では、ステムを用いて金属素材をダイスから押し出して、金属材(金属型材)を製造する。
【0006】
鋼板、アルミニウム板、銅板及びチタン板等の金属板は、冷間塑性加工の一種である冷間圧延により製造される。また、上述の金属線、金属棒材や金属管も、冷間圧延により製造されてもよい。冷間圧延では、ワークロールを用いて金属素材を冷間圧延して、金属材(金属板、金属線、金属棒材、金属管)を製造する。
【0007】
これらの冷間塑性加工による金属材の製造技術は、これまでも複数提案されている。例えば、金属線の伸線加工技術は、特開2011-147963号公報(特許文献1)や特開2014-151357号公報(特許文献2)に開示されている。特許文献1では、伸線加工において、潤滑性能が劣化した潤滑剤を再生処理する技術が開示されている。また、特許文献2では、めっき線材を伸線加工する際に発生するめっき屑を潤滑剤から効率よく除去して、潤滑剤を再利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-147963号公報
【特許文献2】特開2014-151357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、冷間塑性加工により金属材を製造する場合、製造後の金属材の表面に、疵が発生する場合がある。例えば、伸線加工により金属線を製造する場合、金属線の線径が細くなるほど、金属線の強度が低下する。そのため、伸線加工時に金属線の表面に疵が発生しやすくなる。特許文献1及び特許文献2では、潤滑剤の再利用に関する技術は開示するものの、冷間塑性加工後の金属材の表面疵の抑制に関する検討はされていない。
【0010】
本発明の目的は、冷間塑性加工後の金属材の表面疵の発生を抑制可能な金属材の製造方法、及び、その製造方法に用いられる冷間塑性加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の金属材の製造方法は、潤滑液付着工程と、冷間塑性加工工程とを含む。潤滑液付着工程では、ファインバブルを含有する潤滑液を、塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させる。冷間塑性加工工程では、潤滑液を塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させた後、塑性加工工具を用いて金属素材に対して冷間塑性加工を実施して、金属材を製造する。
【0012】
本実施形態の冷間塑性加工装置は、金属素材に対して冷間塑性加工を実施可能である。冷間塑性加工装置は、塑性加工工具と、ファインバブル生成装置と、潤滑液付着装置とを備える。ファインバブル生成装置は、ファインバブルを含有する潤滑液を生成する。潤滑液付着装置は、冷間塑性加工前に、又は、冷間塑性加工中に、塑性加工工具の表面、及び、金属素材の表面の少なくとも一方に、ファインバブルを含有する潤滑液を付着させる。
【発明の効果】
【0013】
本実施形態の金属材の製造方法では、冷間塑性加工後の金属材の表面疵の発生を抑制できる。本実施形態の冷間塑性加工装置は、冷間塑性加工後の金属材の表面疵の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、図1とは異なる、他の構成の冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、図1及び図2とは異なる、他の構成の冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図4図4は、図1図3とは異なる、他の構成の冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図5図5は、第2の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図6図6は、第3の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図7図7は、図6の冷間塑性加工装置を用いた冷間塑性加工を説明するための模式図である。
図8図8は、図6と異なる、第3の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
図9図9は、図8の冷間塑性加工装置を用いた冷間塑性加工を説明するための模式図である。
図10図10は、第4の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の金属材の製造方法は、潤滑液付着工程と、冷間塑性加工工程とを含む。潤滑液付着工程では、ファインバブルを含有する潤滑液を、塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させる。冷間塑性加工工程では、潤滑液を塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させた後、塑性加工工具を用いて金属素材に対して冷間塑性加工を実施して、金属材を製造する(第1の構成)。
【0016】
金属素材に対して冷間塑性加工を実施する場合、金属素材は、ダイスやワークロール等の塑性加工工具に拘束され、塑性変形する。塑性変形時に、金属素材の表面には新生面が生成する。新生面は塑性加工工具の表面に溶着しやすい。仮に、新生面の一部が塑性加工工具の表面に溶着した場合、塑性加工工具の表面で、溶着した部分が凝固して凝固部を形成する。この凝固部が、塑性加工工具を通過中の金属素材と接触して、金属素材(金属材)の表面に疵を形成する。
【0017】
第1の構成の金属材の製造方法では、塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に、ファインバブルを含有する潤滑液を付着させた後、冷間塑性加工を実施する。この場合、潤滑液中のファインバブルが、冷間塑性加工中の塑性加工工具の表面と、金属素材の表面との間に介在する。このとき、ファインバブルは、塑性加工工具の表面と金属素材の表面との間で、塑性加工工具の表面と金属素材の表面との直接衝突を和らげる緩衝作用を奏すると考えられる。この緩衝作用により、ファインバブルは、塑性加工工具の表面と、金属素材の新生面とが強く接触するのを抑制する。そのため、金属素材の新生面が、塑性加工工具の表面に融着しにくくなる。その結果、冷間塑性加工後の金属材の表面において、疵の発生が抑制される。
【0018】
第2の構成の金属材の製造方法は、第1の構成の金属材の製造方法であって、ファインバブルの平均粒径は、0.01μm以上50.00μm以下である。
【0019】
第2の構成の金属材の製造方法の場合、ファインバブルは、ファインバブル又はウルトラファインバブルである。この場合、ファインバブルは、塑性加工工具の表面と、金属素材の表面との間に容易に介在できる。その結果、塑性加工工具の表面と金属素材の表面との間に介在したファインバブルの緩衝作用により、金属材の表面での疵の発生を抑制できる。
【0020】
第3の構成の金属材の製造方法は、第2の構成の金属材の製造方法であって、ファインバブルの平均粒径は、0.01μm以上1.00μm未満である。
【0021】
第3の構成の金属材の製造方法の場合、ファインバブルはウルトラファインバブルである。そのため、ファインバブルは、塑性加工工具の表面と、金属素材の表面との間にさらに容易に介在できる。
【0022】
第4の構成の金属材の製造方法は、第1~第3のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、金属材は、アルミニウム、鋼、チタン、及び銅のいずれか1種を主成分とする。
【0023】
第5の構成の金属材の製造方法は、第1~第4のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、潤滑液中のファインバブルの個数密度を50個/mL以上とする。
【0024】
第5の構成の金属材の製造方法の場合、ファインバブルの個数密度が50個/mL以上であるため、潤滑液中に十分な量のファインバブルが含有されている。そのため、冷間塑性加工時において、塑性加工工具の表面と金属素材の表面との間に、十分な量のファインバブルが介在する。その結果、冷間塑性加工後の金属材において、表面疵の発生を抑制できる。
【0025】
第6の構成の金属材の製造方法は、第1~第5のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、塑性加工工具はダイスである。冷間塑性加工工程では、ダイスを用いて、金属素材に対して伸線加工を実施して、金属線である金属材を製造する。
【0026】
第7の構成の金属材の製造方法は、第6の構成の金属材の製造方法であって、1又は複数のダイスを用いて伸線加工を実施し、1又は複数のダイスのうち、最終のダイスの貫通孔の直径をd(μm)としたとき、ファインバブルの平均粒径を、0.6dμm以下とする。
【0027】
第7の構成の金属材の製造方法では、ダイスの貫通孔の表面と金属素材の表面との間に、十分な量のファインバブルが介在できる。その結果、冷間塑性加工後の金属材において、表面疵の発生をさらに抑制できる。
【0028】
第8の構成の金属材の製造方法は、第1~第5のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、塑性加工工具はダイスである。冷間塑性加工工程では、ダイスを用いて、金属素材に対して冷間引抜加工を実施して、金属棒材又は金属管である金属材を製造する。
【0029】
第9の構成の金属材の製造方法は、第1~第5のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、塑性加工工具はダイスである。冷間塑性加工工程では、ダイスを用いて、金属素材に対して冷間押出加工を実施して、金属棒材又は金属管である金属材を製造する。
【0030】
第10の構成の金属材の製造方法は、第1~第5のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、塑性加工工具はワークロールである。冷間塑性加工工程では、ワークロールを用いて、金属素材に対して冷間圧延を実施して、金属棒材、金属管、及び金属板のいずれか1種である金属材を製造する。
【0031】
第11の構成の金属材の製造方法では、第1~第4のいずれか1つの構成の金属材の製造方法であって、冷間塑性加工工程では、1又は複数の塑性加工工具を用いて冷間塑性加工を実施する。塑性加工工具がダイスであり、冷間塑性加工が伸線加工又は冷間引抜である場合、各塑性加工工具での金属素材の減面率を10.0%以上23.5%未満とする。塑性加工工具がダイスであり、冷間塑性加工が冷間押出である場合、各塑性加工工具での金属素材の減面率を50.0%以上95.0%以下とする。塑性加工工具がワークロールであり、冷間塑性加工が冷間圧延である場合、各塑性加工工具での金属素材の減面率を50.0%以上95.0%以下とする。潤滑液付着工程では、各塑性加工工具での冷間塑性加工ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、潤滑液中のファインバブルの個数密度を、最低個数密度N個/mLの最大値以上とする。
N=50×(P/100)×V (1)
ここで、式(1)中のPには、式(2)で定義される塑性加工工具での減面率(%)が代入され、Vには塑性加工工具の出側での金属素材の移動速度V(mpm)が代入される。
P={(A0-A1)/A0}×100 (2)
ここで、式(2)中のA0には塑性加工工具での冷間塑性加工前の金属素材の長手方向に垂直な断面積(mm)が代入され、A1には塑性加工工具での冷間塑性加工後の金属素材の断面積(mm)が代入される。
【0032】
第11の構成の金属材の製造方法では、潤滑液中のファインバブルの個数密度をN個/mLの最大値以上とする。この場合、冷間塑性加工の種類及び製造条件を考慮した上で、適切な量のファインバブルが潤滑液中に含有されている。そのため、冷間塑性加工時において、塑性加工工具の表面と金属素材の表面との間に、十分な量のファインバブルが介在する。その結果、冷間塑性加工後の金属材において、表面疵の発生をより有効に抑制できる。
【0033】
第12の構成の冷間塑性加工装置は、金属素材に対して冷間塑性加工を実施可能である。冷間塑性加工装置は、塑性加工工具と、ファインバブル生成装置と、潤滑液付着装置とを備える。ファインバブル生成装置は、ファインバブルを含有する潤滑液を生成する。潤滑液付着装置は、冷間塑性加工前に、又は、冷間塑性加工中に、塑性加工工具の表面、及び、金属素材の表面の少なくとも一方に、ファインバブルを含有する潤滑液を付着させる。
【0034】
第12の構成の冷間塑性加工装置では、ファインバブル生成装置により、ファインバブルを含有する潤滑液を生成する。さらに、潤滑液付着装置は、塑性加工工具の表面、又は、金属素材表面に、ファインバブルを含有する潤滑液を付着させる。そのため、冷間塑性加工時において、塑性加工工具の表面と金属素材の表面との間に、潤滑液中のファインバブルが介在する。その結果、冷間塑性加工後の金属材において、表面疵の発生を抑制できる。
【0035】
第13の構成の冷間塑性加工装置は、第12の構成の冷間塑性加工装置であって、潤滑液付着装置は、ノズルと、供給装置とを含む。ノズルは、塑性加工工具の表面、及び、金属素材の表面の少なくとも一方に、ファインバブルを含有する潤滑液を排出する。供給装置は、ファインバブルを含有する潤滑液をノズルに供給する。
【0036】
第13の構成の冷間塑性加工装置は、供給装置及びノズルにより、塑性加工工具の表面、及び/又は、金属素材の表面に、ファインバブルを含有する潤滑液を付着させることができる。
【0037】
第14の構成の冷間塑性加工装置は、第13の構成の冷間塑性加工装置であって、ノズルは、塑性加工工具の入側に配置される。当該ノズルは、塑性加工工具の入側から、塑性加工工具の表面、及び、金属素材の表面の少なくとも一方に、ファインバブルを含有する潤滑液を排出する。
【0038】
第14の構成の冷間塑性加工装置では、塑性加工工具の入側から、塑性加工工具の表面及び/又は金属素材の表面に、ファインバブルを含有する潤滑液を排出する。そのため、塑性加工が実施される前に、塑性加工工具の表面及び/又は金属素材の表面に、ファインバブルを含有する潤滑液が付着される。
【0039】
第15の構成の冷間塑性加工装置は、第12~第14のいずれか1つの構成の冷間塑性加工装置であって、塑性加工工具は、金属素材に対して伸線加工又は冷間引抜が可能なダイスである。冷間塑性加工装置はさらに、引抜装置を備える。引抜装置は、金属素材を塑性加工工具から引き抜く。
【0040】
第16の構成の冷間塑性加工装置は、第15の構成の冷間塑性加工装置であって、冷間塑性加工装置は、金属素材に対して伸線加工を実施可能である。潤滑液付着装置は、貯留槽と、浸漬機構とを含む。貯留槽は、ファインバブルを含有する潤滑液を貯留可能である。浸漬機構は、ダイスの入側でダイスを通過する前の金属素材を貯留槽の潤滑液に浸漬させる。ダイスは、貯留槽の潤滑液に浸漬される位置に配置される。
【0041】
第16の構成の冷間塑性加工装置は、貯留槽の潤滑液にダイスを浸漬させて、さらに、ダイスの入側で金属素材を貯留槽の潤滑液に浸漬させる。そのため、ダイスを通る前の金属素材の表面、及び、ダイスの貫通孔の表面に、ファインバブルを含有する潤滑液を付着させることができる。
【0042】
第17の構成の冷間塑性加工装置は、第16の構成の冷間塑性加工装置であってさらに、引き出し機構を備える。引き出し機構は、ダイスの出側でダイスを通過した後の金属素材を貯留槽の潤滑液から引き出す。
【0043】
第17の構成の冷間塑性加工装置は、冷間塑性加工後の金属材を、貯留槽の潤滑液から引き出す。そのため、貯留槽の外で、金属材を巻き取ることができる。
【0044】
第18の構成の冷間塑性加工装置は、第12の構成の冷間塑性加工装置であって、塑性加工工具は、金属素材を冷間押出加工が可能なダイスである。冷間塑性加工装置はさらに、金属素材を収納するコンテナと、コンテナに収納されている金属素材をダイスから押し出すステムとを備える。
【0045】
第19の構成の冷間塑性加工装置は、第12~第14の構成の冷間塑性加工装置であって、塑性加工工具は、金属素材を冷間圧延可能なワークロールである。
【0046】
以下、本実施形態の金属材の製造方法及び冷間塑性加工装置について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0047】
[本実施形態の金属材の製造方法について]
本実施形態の金属材の製造方法は、潤滑液付着工程と、冷間塑性加工工程とを含む。潤滑液付着工程では、ファインバブルを含有する潤滑液を、塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させる。冷間塑性加工工程では、潤滑液を塑性加工工具の表面及び金属素材の表面の少なくとも一方に付着させた後、塑性加工工具を用いて金属素材に対して冷間塑性加工を実施して、金属材を製造する。
【0048】
ここで、冷間塑性加工は、(1)伸線加工、(2)冷間引抜加工、(3)冷間押出加工、及び、(4)冷間圧延、を含む。第1の実施形態では、冷間塑性加工が伸線加工である場合を例として、本実施形態の金属材の製造方法について説明する。
【0049】
[第1の実施形態]
[冷間塑性加工装置について]
図1は、本実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。図1を参照して、冷間塑性加工装置は、塑性加工工具2と、ファインバブル生成装置4と、潤滑液付着装置5とを備える。図1に示す冷間塑性加工装置は、伸線加工装置である。以下、各構成について説明する。
【0050】
[塑性加工工具2について]
図1において、塑性加工工具2はダイスである。第1の実施形態において、以降の説明では、塑性加工工具2をダイス2ともいう。
ダイス2は、中央に貫通孔を有する。ダイス2は周知の構成でよい。ダイス2の貫通孔は例えば、ダイス2の入側から出側に向かって順に、アプローチ及びリダクション部と、ベアリング部と、バックリリーフ部とを含む。アプローチ及びリダクション部の内径は、ダイス2の入側から出側に向かって小さくなる。アプローチ及びリダクション部は、金属線である金属素材Wをダイス2に導入し、かつ、金属素材Wを縮径する役割を有する。ベアリング部の内径は一定である。ベアリング部の内径がダイス径に相当する。ベアリング部は、金属素材Wを拘束して金属素材Wの外径を一定にする。バックリリーフ部の内径は、ダイス2の入側から出側に向かって大きくなる。バックリリーフ部は、金属素材Wによりダイス2が損傷するのを抑制する。
【0051】
冷間塑性加工装置が伸線加工装置である場合、冷間塑性加工装置はさらに、引抜装置3を備える。引抜装置3は、金属素材Wをダイス2から引き抜く。引抜装置3は、巻取装置32と、支持リール33とを含む。巻出装置31は、コイル状の金属素材Wを巻き出す。巻取装置32は、巻出装置31から巻き出されてダイス2を通る金属素材Wを、ダイス2から引抜く。巻取装置32はさらに、ダイス2から引き抜かれた金属素材Wをコイル状に巻き取る。支持リール33は、ダイス2の入側及び/又は出側に配置され、伸線加工中の金属素材Wを支持する。引抜装置3は、支持リール33を含まなくてもよい。
【0052】
なお、引抜装置3は上記構成に限定されない。引抜装置3は、金属素材Wをダイス2から引き抜く構成であれば、上記構成以外の構成であってもよい。
【0053】
[ファインバブル生成装置4について]
ファインバブル生成装置4は、ファインバブルを含有する潤滑液LUを生成する。ファインバブル生成装置4は、潤滑液LUが貯留された貯留槽511の外側に配置されている。図1では、1台のファインバブル生成装置4が配置されている。しかしながら、ファインバブル生成装置4の配置位置及び数は、特に限定されない。ファインバブル生成装置4は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0054】
ファインバブル生成装置4は、配管41と、配管42と、ファインバブル生成器43とを含む。配管41及び配管42は、貯留槽511とファインバブル生成器43とを接続する。貯留槽511からの潤滑液LUは、配管41を介してファインバブル生成器43に導入される。ファインバブル生成器43は、潤滑液LU中にファインバブルを生成する。
【0055】
ファインバブル生成器43によるファインバブルの生成方法は特に限定されない。ファインバブル生成器43は、旋回液流式により、潤滑液LU中の溶存気体を用いてファインバブルを生成してもよい。ファインバブル生成器43は、エジェクター式、ベンチュリー式、加圧溶解式、及び、細孔式のいずれかを採用して、潤滑液LUに外部気体を取り込んで、ファインバブルを生成してもよい。ファインバブル生成器43は、公知のファインバブル生成器から適宜選択することができる。ファインバブルを含有した潤滑液LUは、配管42を介して貯留槽511に戻される。
【0056】
潤滑液LUは、水と、界面活性剤とを含有する。つまり、本実施形態の製造方法で利用される潤滑液LUは、水溶性潤滑液である。界面活性剤は周知のものでよい。界面活性剤は例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び、陽イオン性界面活性剤からなる群から選択される1種以上である。
【0057】
非イオン性界面活性剤は例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシ(エチレン及び/又はプロピレン)アルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール又はエチレンオキサイドと高級脂肪酸(例えば炭素数12~18)とからなるポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンとポリエチレングリコールと高級脂肪酸(例えば炭素数12~18)とからなるポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等である。
陰イオン性界面活性剤は例えば、脂肪酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、ジチオリン酸エステル塩等である。
両性界面活性剤は例えば、アミノ酸型及びベタイン型のカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等である。
陽イオン性界面活性剤は例えば、脂肪族アミン塩、第四級アンモニウム塩等である。
【0058】
潤滑液LUは、水及び界面活性剤以外の他の成分を含有してもよい。他の成分は例えば、極圧添加剤、防錆剤、防腐剤、摩擦低減剤等である。
【0059】
本明細書において、ファインバブルとは、JIS B 8741-1:2019で定義されるとおり、粒径が100μm未満の微細気泡を意味する。なお、マイクロバブルは、粒径が1.00μm以上100.00μm未満の微細気泡を意味する。本明細書においてウルトラファインバブルは、粒界が0.01μm以上1.00μm未満の微細気泡を意味する。
【0060】
[潤滑液付着装置5]
潤滑液付着装置5は、ダイス2を通る前の金属素材Wの表面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。図1において、潤滑液付着装置5は、供給装置51と、潤滑液ノズル52とを含む。
【0061】
供給装置51は、貯留槽511と、配管512と、駆動源513とを含む。貯留槽511は、ファインバブルを含有する潤滑液LUを貯留可能である。配管512の一端は、貯留槽511に貯留される潤滑液中に浸漬している。配管512の他端は、潤滑液ノズル52とつながっている。駆動源513は、貯留槽511中の潤滑液LUを、配管512を介して、潤滑液ノズル52に供給する。駆動源513は例えばポンプである。
【0062】
潤滑液ノズル52は、ダイス2の入側に配置される。潤滑液ノズル52は、配管512から、ファインバブルを含有する潤滑液LUの供給を受ける。そして、潤滑液ノズル52は、ファインバブルを含有する潤滑液LUを外部に排出して、ダイス2を通る前の金属素材Wの表面に、潤滑液LUを付着させる。
【0063】
冷間塑性加工装置はさらに、潤滑液回収装置6を備えてもよい。潤滑液回収装置6は、回収パン61と、回収配管62とを含む。回収パン61は、潤滑液ノズル52から排出された潤滑液LUを回収するための受け皿として機能する。回収配管62は、回収パン61に貯留する潤滑液LUを、貯留槽511に排出する。潤滑液回収装置6により、潤滑液LUを循環させて利用することができる。なお、冷間塑性加工装置は、潤滑液回収装置6を備えなくてもよい。
【0064】
[冷間塑性加工装置を用いた金属材の製造方法]
本実施形態の金属材の製造方法では、上述の冷間塑性加工装置を用いて、金属素材Wに対して冷間塑性加工を実施する。以下、本実施形態の金属材の製造方法について説明する。
【0065】
本実施形態の金属材の製造方法では、ファインバブルを含有する潤滑液LUを準備する。上述のとおり、ファインバブル生成装置4により、ファインバブルを含有する潤滑液LUを生成する。
【0066】
さらに、冷間塑性加工の対象となる金属素材Wを準備する。金属素材Wは金属からなる素材であれば、特に限定されない。金属素材Wは例えば、アルミニウム、鋼、チタン、及び、銅からなる群から選択されるいずれか1種を主成分とした金属からなる。ここで、「主成分」とは、当該成分が質量%で50%以上含有されていることを意味する。
【0067】
アルミニウムを主成分とする金属素材Wは例えば、アルミニウムからなる素材、又は、アルミニウム合金からなる素材である。
【0068】
本実施形態では、金属素材Wは線材である。そこで、準備した金属素材Wを、例えば、リールにコイル状に巻かれた状態で、巻出装置31に取り付ける。
【0069】
以上の準備を行った後、金属素材Wに対して冷間塑性加工(伸線加工)を実施する。このとき、冷間塑性加工前の金属素材Wの表面、及び、ダイス2の表面(貫通孔の表面、つまり、ダイスの内面)の少なくとも一方に、上述のファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。具体的には、ダイス2の入側において、潤滑液付着装置5の潤滑液ノズル52からファインバブルを含有する潤滑液LUを排出して、ダイス2を通過する前の金属素材Wの表面、及び/又は、ダイス2の表面(内面)に、潤滑液LUを付着させる。
【0070】
ファインバブルを含有する潤滑液LUを金属素材Wの表面、及び/又は、ダイス2の表面(内面)に付着させた後、金属素材Wを、ダイス2に通して冷間塑性加工(伸線加工)する。具体的には、引抜装置3により、金属素材Wをダイス2の入側から出側に引き抜く。この場合、金属素材Wは、ファインバブルを含有する潤滑液LUを表面に付着した状態で、ダイス2を通過する。以上の工程により、本実施形態の製造方法では、金属素材Wに対して冷間塑性加工を実施する。その結果、製造された金属材(金属線)において、表面疵の発生が顕著に抑制される。
【0071】
本実施形態の製造方法により、製造された金属線の表面疵が顕著に抑制される理由として、次の事項が考えられる。
【0072】
金属素材Wに対して冷間塑性加工を実施する場合、金属素材Wは、全周をダイス2に拘束される。そして、金属素材Wは、ダイス2からの外力を全周に受けて、冷間塑性変形(縮径)する。つまり、冷間塑性加工では、切削加工のように、被加工材の全周のうちの一部に外力が掛かる加工とは異なり、実質的に全周を拘束された状態での加工となる。
【0073】
このように、冷間塑性加工では、全周をダイス2に拘束される過酷な状態で塑性変形するため、塑性加工により、金属素材Wの表面には新生面が生成する。新生面は活性状態であるため、ダイス2の貫通孔の内面に溶着しやすい。仮に、新生面の一部がダイス2の内面に溶着した場合、溶着した部分が凝固して凸状の凝固部を形成する。伸線加工中にダイス2を通過する金属素材Wが、溶着により形成された凝固部と接触することにより、金属素材Wの表面に、金属素材Wの軸方向に伸びる線状の疵が形成される。
【0074】
本実施形態では、上述のとおり、ダイス2の入側で、金属素材Wの表面、又は、ダイス2の内面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。この場合、ダイス2の貫通孔の表面全体と、金属素材Wの表面全体との間に、ファインバブルを含有する潤滑液LUが介在する。このとき、ファインバブルは、ダイス2の貫通孔の表面と金属素材Wの表面との間で、緩衝作用を奏する。この緩衝作用により、ファインバブルは、ダイス2の貫通孔の表面と、金属素材Wの表面とが強く接触するのを抑制する。ファインバブルはさらに、潤滑液LU中の界面活性剤を凝集する作用を有する。この凝集作用により、ファインバブルは、ダイス2の貫通孔の表面、及び、金属素材Wの表面において、界面活性剤の吸着性を高める。
【0075】
以上の2つの作用により、潤滑液LU中のファインバブルは、ダイス2の強い拘束により生じる金属素材Wの新生面が、ダイス2の貫通孔の表面と強く接触するのを抑制する。これにより、金属素材Wの新生面が、ダイス2の貫通孔の表面に融着しにくくなり、ダイス2の貫通孔の表面に凝固部が生成しにくくなる。その結果、冷間塑性加工後の金属材の表面において、疵の発生が顕著に抑制される。
【0076】
図1では、冷間塑性加工装置が1つの塑性加工工具(ダイス)2を備える。しかしながら、冷間塑性加工装置は複数の塑性加工工具(ダイス)2を備えてもよい。
【0077】
図2は、図1とは異なる、他の構成の冷間塑性加工装置の一例の模式図である。図2を参照して、冷間塑性加工は、複数のダイス2を備える。複数のダイス2は、一列に配列される。冷間塑性加工装置のその他の構成は、図1の冷間塑性加工装置の構成と同じである。
【0078】
図2の冷間塑性加工装置を用いた金属材の製造方法も、図1の冷間塑性加工装置を用いた金属材の製造方法と同じである。具体的には、ダイス2の入側において、潤滑液ノズル52により、金属素材Wの表面、及び/又は、ダイス2の内面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。そして、金属素材Wの表面、及び/又は、ダイス2の内面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させた後、金属素材Wを複数のダイス2に通して、冷間塑性加工(伸線加工)する。以上のとおり、冷間塑性加工装置が複数のダイス2を備える場合であっても、ファインバブルを含有する潤滑液LUを金属素材Wの表面、及び/又は、ダイス2の内面に付着させることにより、ファインバブルの緩衝作用及び凝集作用を利用することができる。その結果、伸線加工後の金属材の表面において、疵の発生が抑制される。
【0079】
冷間塑性加工装置が複数の塑性加工工具(ダイス)2を備える場合、好ましくは、図3に示すとおり、各塑性加工工具(ダイス)2の入側に潤滑液ノズル52を備える。この場合、各塑性加工工具(ダイス)2に挿入される前の金属素材Wの表面、及び/又は、塑性加工工具(ダイス)2の表面(内面)に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを十分な量で付着させることができる。そのため、冷間塑性加工後の金属材の表面において、疵の発生がより有効に抑制される。
【0080】
[ファインバブルの好ましい平均粒径D]
本実施形態の金属材(金属線)の製造方法において、1又は複数のダイス2のうち、最終のダイス2の貫通孔の直径(最小の内径)をd(μm)とする。このとき、好ましくは、ファインバブルの平均粒径Dを、0.6dμm以下とする。
ここで、ダイス2の貫通孔の最小の内径d(μm)は例えば、ダイス2の貫通孔のベアリング部の内径である。
【0081】
上述のとおり、ファインバブルは、ダイス2の貫通孔の内面と金属素材Wの表面との間に介在することにより、緩衝作用と凝集作用とを発揮する。そのため、ファインバブルはダイス2の貫通孔の内面と、金属素材Wの表面との間に侵入可能なサイズである方が好ましい。上述のとおり、金属素材Wの線径が細くなるほど、金属素材Wの強度が低下する。そのため、線径が細い金属素材Wほど、疵が発生しやすくなる。したがって、1又は複数のダイス2を用いて連続して伸線加工を実施する場合、ファインバブルの平均粒径を、最終の伸線加工を実施するダイス2の貫通孔の内面と、そのダイス2に伸線加工される金属素材Wの表面との間に挿入可能なサイズに調整するのが好ましい。
【0082】
ファインバブルの平均粒径Dが0.6dμm以下であれば、ダイス2の貫通孔の最小の内径dに対して十分に小さい。そのため、ファインバブルは、ダイス2の貫通孔の内面と、金属素材Wの表面との間に容易に侵入できる。その結果、ダイス2の貫通孔の内面と金属素材Wの表面との間に介在したファインバブルの緩衝作用及び凝集作用により、線径が細い金属素材Wであっても、疵の発生を抑制できる。
【0083】
なお、ファインバブルの平均粒径の下限は特に限定されない。ファインバブルの平均粒径の好ましい下限は0.01μmである。
【0084】
[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その1)]
本実施形態の金属材の製造方法について、潤滑液LU中のファインバブルの個数密度は特に限定されない。好ましくは、潤滑液LU中のファインバブルの個数密度NDを50個/mL以上とする。
【0085】
ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であれば、潤滑液LU中に十分な量のファインバブルが含有されている。そのため、冷間塑性加工時において、ダイス2の貫通孔の内面と金属素材Wの表面との間に、十分な量のファインバブルが介在する。その結果、冷間塑性加工後の金属線において、疵の発生をより有効に抑制できる。
【0086】
ファインバブルの個数密度NDの好ましい下限は60個/mLであり、さらに好ましくは70個/mLであり、さらに好ましくは80個/mLであり、さらに好ましくは90個/mLであり、さらに好ましくは100個/mLである。
ファインバブルの個数密度NDの上限は特に限定されない。ファインバブルの個数密度NDの上限は例えば、60000個/mLであり、例えば、50000個/mLであり、例えば、40000個/mLである。
【0087】
[ファインバブルの平均粒径D及び個数密度NDの測定方法]
ファインバブルの平均粒径D(μm)及び個数密度ND(個/mL)は次の方法で測定する。ファインバブルを含有する潤滑液LUを10mL採取する。採取した潤滑液LUに対して、粒度分布測定装置を用いた定量レーザー回折・散乱法により、潤滑液LU中のファインバブルの粒子径分布を求める。ファインバブルにレーザーを照射し、散乱光を前方散乱光センサ、側方散乱光センサ、及び、後方散乱光センサで検出し、その光強度分布パターンからファインバブルの粒子径分布を求め、得られた粒子径分布のメディアン径を平均粒径D(μm)と定義する。さらに、定量レーザー回折・散乱法において、個数密度が既知のポリスチレンラテックス標準粒子を用いてキャリブレーション(校正)を行い、さらに、ファインバブル(空気)とポリスチレンラテックスの屈折率の差異を、ミー散乱理論を用いて補正する。以上の方法により、ファインバブルの個数密度ND(個/mL)を求める。
【0088】
[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]
本実施形態の製造方法において、好ましくは、1又は複数の塑性加工工具(ダイス)2を用いて冷間塑性加工を実施し、さらに、伸線加工における各塑性加工工具(ダイス)2での金属素材Wの減面率を10.0%以上23.5%未満とする。この場合、各塑性加工工具(ダイス)2ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、好ましくは、潤滑液LU中のファインバブルの個数密度NDを、最低個数密度N個/mLの最大値以上とする。
N=50×(P/100)×V (1)
ここで、式(1)中のPには、式(2)で定義される塑性加工工具(ダイス)2での減面率(%)が代入され、Vには塑性加工工具(ダイス)2出側での金属素材Wの移動速度V(mpm)が代入される。
P={(A0-A1)/A0}×100 (2)
ここで、式(2)中のA0には塑性加工工具での冷間塑性加工前の金属素材の長手方向に垂直な断面積(mm)が代入され、A1には塑性加工工具での冷間塑性加工後の金属素材の断面積(mm)が代入される。
【0089】
より具体的には、ファインバブルの個数密度NDを次のとおり求める。
1つの塑性加工工具(ダイス)2のみを用いて冷間塑性加工(伸線加工)を実施して金属材を製造する場合、当該冷間塑性加工(ダイス)2における最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた最低個数密度N個/mLを、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【0090】
一方、複数の塑性加工工具(ダイス)2を用いて冷間塑性加工(伸線加工)を連続して1回実施して金属材を製造する場合、つまり、巻出装置31から巻き出された金属素材Wが巻取装置32に巻き取られるまでの間に、複数の塑性加工工具(ダイス)2を用いた伸線加工を実施する場合、次の方法により、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限を求める。各塑性加工工具(ダイス)2ごとの最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた複数の最低個数密度N個/mLのうちの最大値を、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【0091】
冷間塑性加工において、減面率Pが高いほど、塑性加工工具(ダイス)2を通過中の金属素材Wの新生面が、塑性加工工具(ダイス)2の貫通孔の内面と融着しやすい。また、移動速度Vが速いほど、塑性加工工具(ダイス)2を通過中の金属素材Wの新生面が、塑性加工工具(ダイス)2の貫通孔の内面と融着しやすい。したがって、減面率P及び金属素材Wの移動速度Vに応じて、好ましいファインバブルの個数密度NDは変動する。また、複数の塑性加工工具(ダイス)2を用いて伸線加工を1回実施する場合はさらに、各塑性加工工具(ダイス)での減面率P及び金属素材Wの移動速度Vに応じて、好ましいファインバブルの個数密度NDが変動する。
【0092】
潤滑液LU中のファインバブルの個数密度NDが最低個数密度N個/mLの最大値以上であれば、冷間塑性加工の製造条件のうちの最も過酷な条件を考慮した上で、適切な量のファインバブルが潤滑液LU中に含有されている。そのため、冷間塑性加工時において、塑性加工工具(ダイス)2の貫通孔の内面と金属素材Wの表面との間に、十分な量のファインバブルが介在する。その結果、冷間塑性加工後の金属材において、疵の発生をより有効に抑制できる。
【0093】
なお、塑性加工工具の出側での金属素材の移動速度V(mpm)は、塑性加工工具の出側に配置された速度計により求めることができる。
【0094】
[他の冷間塑性加工装置(伸線加工装置)の例]
図1図3では、冷間塑性加工装置の潤滑液付着装置5が複数の潤滑液ノズル52を備え、潤滑液ノズル52により、潤滑液LUを伸線加工前の金属素材Wの表面に付着させる。しかしながら、潤滑液付着装置5は、他の構成であってもよい。
【0095】
図4は、図1図3とは構成が異なる、他の冷間塑性加工装置(伸線加工装置)の一例の模式図である。図4を参照して、本例の冷間塑性加工装置(伸線加工装置)は、図1図3と比較して、潤滑液付着装置5の構成が異なる。本例の冷間塑性加工装置の他の構成は、図1図3の冷間塑性加工装置の構成と同じである。
【0096】
潤滑液付着装置5は、貯留槽511と、浸漬機構53と、引き出し機構54と、支持リール55とを含む。貯留槽511は、ファインバブルを含有する潤滑液LUを貯留可能である。さらに、ダイス2は、貯留槽511内に浸漬される。
【0097】
浸漬機構53は、ダイス2の入側でダイス2を通る前の金属素材Wを貯留槽511の潤滑液LUに浸漬させる。
浸漬機構53は例えば、方向転換リール531及び532を含む。浸漬機構53は、巻出装置31から巻き出された金属素材Wが貯留槽511に浸漬されているダイス2の入側に進行するように、金属素材Wの進行方向を転換する。具体的には、方向転換リール531は、巻出装置31から巻き出された金属素材Wがダイス2の入側で貯留槽511内の潤滑液LU内に浸漬するように、金属素材Wの進行方向を転換する。さらに、方向転換リール532は、潤滑液LUに浸漬した金属素材Wの中心軸が、ダイス2の貫通孔の中心軸と同軸になるように、金属素材Wの進行方向を転換する。
浸漬機構53により貯留槽511の潤滑液LUに浸漬した金属素材W及びダイス2の表面に潤滑液LUが十分に付着した状態で、冷間塑性加工(伸線加工)が実施される。
【0098】
引き出し機構54は、ダイス2を通過した金属素材Wを貯留槽511の潤滑液LUから引き出す。
引き出し機構54は例えば、方向転換リール541及び542を含む。引き出し機構54は、ダイス2を通過した金属素材Wが貯留槽511の潤滑液LUの外に進行するように、金属素材Wの進行方向を転換する。具体的には、方向転換リール541は、ダイス2の出側で、ダイス2を通過した後の金属素材Wが貯留槽511の潤滑液LUの外に引き出されるように、金属素材Wの進行方向を転換する。さらに、方向転換リール542は、貯留槽511の潤滑液LUの外に引き出された金属素材Wが、巻取装置32に向かうように、金属素材Wの進行方向を転換する。
引き出し機構54により貯留槽511の潤滑液LUから引き出された金属素材Wは、巻取装置32に巻き取られる。
【0099】
支持リール55は、ダイス2の入側及び/又は出側に配置され、冷間塑性加工中の金属素材Wを支持する。潤滑液付着装置5は、支持リール55を含まなくてもよい。
【0100】
本例の冷間塑性加工装置の場合、ダイス2が貯留槽511の潤滑液LUに浸漬されており、さらに、ダイス2を通過する前の金属素材Wも、ダイス2の入側で、貯留槽511の潤滑液LUに浸漬する。そのため、伸線加工時において、ダイス2の貫通孔の表面、及び、金属素材Wの表面に、十分な量の潤滑液LUを付着させることができる。そのため、冷間塑性加工時において、潤滑液LU中のファインバブルの緩衝作用及び凝集作用を十分に活用することができる。その結果、冷間塑性加工後の金属線において、疵の発生をより有効に抑制できる。
【0101】
なお、図4の冷間塑性加工装置は、1つのダイス2を備える。しかしながら、図4の冷間塑性加工装置は、複数のダイス2を備えてもよい。この場合、複数のダイス2は、貯留槽511の潤滑液LUに浸漬して配置される。
【0102】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、冷間塑性加工が伸線加工である場合の金属材の製造方法について説明した。しかしながら、本実施形態の金属材の製造方法は、伸線加工以外の他の冷間塑性加工にも適用可能である。第2の実施形態では、冷間塑性加工が冷間引抜加工である場合の金属材の製造方法について説明する。
【0103】
図5は、第2の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。図5を参照して、冷間塑性加工装置は、塑性加工工具2と、ファインバブル生成装置4と、潤滑液付着装置5とを備える。図5に示す冷間塑性加工装置は、冷間引抜装置である。以下、各構成について説明する。
【0104】
図5において、塑性加工工具2はダイスである。図5の冷間塑性加工装置はさらに、引抜装置3を備える。本例の引抜装置3は、チャック36を備える。チャック36は、金属素材Wの先端を把持する。図5の冷間塑性加工装置では、引抜装置3がチャック36に把持された金属素材Wを引き抜くことにより、引抜加工が施される。図5の冷間塑性加工装置はさらに、プラグ7を備える。プラグ7は、金属管である金属素材Wの内部に配置され、所定の位置で固定される。プラグ7により、冷間引抜加工時において、冷間引抜加工後の金属材(金属管)の内径が一定に維持される。なお、図5に示す引抜装置3及びプラグ7は周知の構成である。
【0105】
図5の冷間塑性加工装置のファインバブル生成装置4の構成は、図1図4に示すファインバブル生成装置4の構成と同じである。また、図5の冷間塑性加工装置の潤滑液付着装置5の構成は、図1に示す潤滑液付着装置5の構成と同じである。
【0106】
図5では、金属素材Wが金属管である場合の冷間塑性加工装置(冷間引抜装置)を示すが、本実施形態の製造方法は、金属素材Wを金属棒材としてもよい。この場合、冷間塑性加工装置中のプラグ7が省略される。
【0107】
本実施形態の金属材の製造方法も、第1の実施形態と同様の工程を含む。具体的には、ファインバブル生成装置4により生成したファインバブルを含有する潤滑液LUを、潤滑液付着装置5を用いて、金属素材Wの表面、及び、塑性加工工具(ダイス)2の少なくとも一方に付着させる。そして、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させた後、塑性加工工具(ダイス)2を用いて金属素材に対して冷間塑性加工(冷間引抜)を実施して、金属材(金属棒材又は金属管)を製造する。
なお、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した、[ファインバブルの好ましい平均粒径D]、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その1)]、及び、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]を採用できる。
【0108】
ただし、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]では、冷間引抜加工における各塑性加工工具(ダイス)2での金属素材Wの減面率を10.0%以上23.5%以下とする。この場合、各塑性加工工具(ダイス)2ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、好ましくは、潤滑液LU中のファインバブルの個数密度NDを、最低個数密度N個/mLの最大値以上とする。
N=50×(P/100)×V (1)
ここで、式(1)中のPには、式(2)で定義される塑性加工工具(ダイス)2での減面率(%)が代入され、Vには塑性加工工具(ダイス)2での金属素材Wの移動速度V(mpm)が代入される。
P={(A0-A1)/A0}×100 (2)
ここで、式(2)中のA0には塑性加工工具での冷間塑性加工前の金属素材の長手方向に垂直な断面積(mm)が代入され、A1には塑性加工工具での冷間塑性加工後の金属素材の断面積(mm)が代入される。
【0109】
より具体的には、ファインバブルの個数密度NDを次のとおり求める。
1つの塑性加工工具(ダイス)2のみを用いて冷間塑性加工(冷間引抜加工)を実施して金属材を製造する場合、当該冷間塑性加工(ダイス)2における最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた最低個数密度N個/mLを、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【0110】
一方、複数の塑性加工工具(ダイス)2を用いて冷間塑性加工(冷間引抜加工)を連続して1回実施して金属材を製造する場合、次の方法により、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限を求める。各塑性加工工具(ダイス)2ごとの最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた複数の最低個数密度N個/mLのうちの最大値を、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【0111】
[第3の実施形態]
本実施形態の金属材の製造方法は、伸線加工及び冷間引抜加工以外の他の冷間塑性加工にも適用可能である。第3の実施形態では、冷間塑性加工が冷間押出加工である場合の金属材の製造方法について説明する。
【0112】
図6は、第3の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。図6を参照して、冷間塑性加工装置は、塑性加工工具2と、ファインバブル生成装置4と、潤滑液付着装置5とを備える。塑性加工工具2はダイスである。冷間塑性加工装置はさらに、コンテナ70と、ステム80とを備える。なお、図6に示すコンテナ70及びステム80は周知の構成である。図6に示す冷間塑性加工装置は、直接押出の冷間塑性加工装置である。冷間塑性加工装置はさらに、図6に示すとおり、潤滑液回収装置6を備えてもよい。
【0113】
図6の冷間塑性加工装置のファインバブル生成装置4の構成は、図1図4に示すファインバブル生成装置4の構成と同じである。また、図6の冷間塑性加工装置の潤滑液付着装置5の構成は、図1に示す潤滑液付着装置5の構成と同じである。
【0114】
図6に示す冷間塑性加工装置では、潤滑液付着装置5は、潤滑液ノズル52を用いて、コンテナ70に挿入される前の金属素材Wの表面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。潤滑液付着装置5はさらに、潤滑液ノズル52を用いて、冷間押出加工前の塑性加工工具(ダイス)2の内面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。
【0115】
金属素材Wの表面及び塑性加工工具(ダイス)2の内面にファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させた後、図7に示すとおり、金属素材Wをコンテナ70に挿入し、ステム80により金属素材Wに圧力を加えて、冷間押出を実施する。この冷間塑性加工装置では、ステム80の進む方向に金属素材Wを押し出す。
【0116】
図6では、潤滑液付着装置5が、潤滑液ノズル52を用いて、冷間押出を実施する前の金属素材Wの表面にファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させた。しかしながら、潤滑液付着装置5は潤滑液ノズル52と異なる構成を有していてもよい。例えば、潤滑液付着装置5は、ファインバブルを含有する潤滑液LUを貯留する貯留槽を備えてもよい。この場合、潤滑液付着装置5は、冷間押出を実施する前の金属素材Wを貯留槽内に浸漬させて、金属素材Wの表面にファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。
【0117】
冷間押出を実施する冷間塑性加工装置は、図6及び図7に限定されない。図8は、図6と異なる構成を有する、冷間押出を実施する冷間塑性加工装置の他の例を示す模式図である。図8に示す冷間塑性加工装置は、間接押出の冷間塑性加工装置である。
図8の冷間塑性加工装置は、塑性加工工具2と、ファインバブル生成装置4と、潤滑液付着装置5とを備える。塑性加工工具2はダイスである。冷間塑性加工装置はさらに、コンテナ70と、ステム80とを備える。なお、塑性加工工具(ダイス)2は、ステム80の端部に取り付けられている。ステム80は貫通孔を有する。ステム80の貫通孔は、塑性加工工具(ダイス)2の貫通孔と同軸に配置される。冷間塑性加工装置はさらに、図8に示すとおり、潤滑液回収装置6を備えてもよい。
【0118】
図8の冷間塑性加工装置のファインバブル生成装置4の構成は、図1図4に示すファインバブル生成装置4の構成と同じである。また、図8の冷間塑性加工装置の潤滑液付着装置5の構成は、図1に示す潤滑液付着装置5の構成と同じである。
【0119】
図8に示す冷間塑性加工装置では、潤滑液付着装置5は、潤滑液ノズル52を用いて、コンテナ70に挿入される前の金属素材Wの表面に、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。潤滑液付着装置5はさらに、潤滑液ノズル52を用いて、冷間押出加工前の塑性加工工具(ダイス)2の内面ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させる。なお、図8に示すとおり、潤滑液付着装置5はさらに、潤滑液ノズル52を用いて、ステム80の貫通孔の内面にも潤滑液LUを付着させてもよい。
【0120】
金属素材Wの表面及び塑性加工工具(ダイス)2の内面にファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させた後、図9に示すとおり、金属素材Wをコンテナ70に挿入し、ステム80により金属素材Wに圧力を加えて、冷間押出を実施する。この冷間塑性加工装置では、ステム80の進む方向と反対方向に、金属素材Wを押し出す。
【0121】
上述の冷間押出用の冷間塑性加工装置では、冷間押出を実施する前の金属素材Wの表面及び塑性加工工具(ダイス)2の内面にファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させ、その後、冷間押出を実施する。これにより、熱間押出後の金属材において、疵の発生をより有効に抑制できる。
【0122】
なお、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した、[ファインバブルの好ましい平均粒径D]、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その1)]、及び、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]を採用できる。
【0123】
ただし、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]では、冷間押出における各塑性加工工具(ダイス)2での金属素材Wの減面率を50.0%以上95.0%以下とする。この場合、各塑性加工工具(ダイス)2ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、好ましくは、潤滑液LU中のファインバブルの個数密度NDを、最低個数密度N個/mLの最大値以上とする。
N=50×(P/100)×V (1)
ここで、式(1)中のPには、式(2)で定義される塑性加工工具(ダイス)2での減面率(%)が代入され、Vには塑性加工工具(ダイス)2での金属素材Wの移動速度V(mpm)が代入される。
P={(A0-A1)/A0}×100 (2)
ここで、式(2)中のA0には塑性加工工具での冷間塑性加工前の金属素材の長手方向に垂直な断面積(mm)が代入され、A1には当該塑性加工工具での冷間塑性加工後の金属素材の断面積(mm)が代入される。
【0124】
より具体的には、ファインバブルの個数密度NDを次のとおり求める。
1つの塑性加工工具(ダイス)2のみを用いて冷間塑性加工(冷間押出)を実施して金属材を製造する場合、当該冷間塑性加工(ダイス)2における最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた最低個数密度N個/mLを、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【0125】
[第4の実施形態]
本実施形態の金属材の製造方法は、伸線加工、冷間引抜加工、及び冷間押出以外の他の冷間塑性加工にも適用可能である。第4の実施形態では、冷間塑性加工が冷間圧延である場合の金属材の製造方法について説明する。
【0126】
図10は、第4の実施形態の金属材の製造方法で使用される冷間塑性加工装置の一例を示す模式図である。図10を参照して、冷間塑性加工装置は、塑性加工工具2と、ファインバブル生成装置4と、潤滑液付着装置5とを備える。図10に示す冷間塑性加工装置は、冷間圧延装置である。以下、各構成について説明する。
【0127】
図10において、塑性加工工具2はワークロールである。具体的には、図10は、塑性加工工具2として、一対のワークロールが配置される。一対のワークロール2の各々は、対応するサポートロール20により、支持されている。図10の冷間塑性加工装置のファインバブル生成装置4の構成は、図1図4に示すファインバブル生成装置4の構成と同じである。また、図10の冷間塑性加工装置の潤滑液付着装置5の構成は、図1に示す潤滑液付着装置5の構成と同じである。
【0128】
図10では、金属素材Wが金属板である場合の冷間塑性加工装置(冷間圧延装置)を示す。しかしながら、本実施形態の製造方法は、金属素材Wを金属線、金属棒材、及び、金属管のいずれかとしてもよい。これらの場合、一対のワークロールにはカリバーが形成され、一対のワークロールで孔型が形成される。金属素材Wが金属線、金属棒材、及び、金属管のいずれかである場合、冷間塑性加工装置は、3以上のワークロールを含んでもよい。冷間塑性加工装置が3つのワークロールを含む場合、各ワークロールは金属素材Wの中心軸周りに120°ピッチで配置される。この場合、3つのワークロールで孔型が形成される。冷間塑性加工装置が4つのワークロールを含む場合、各ワークロールは金属素材Wの中心軸周りに90°ピッチで配置される。この場合、4つのワークロールで孔型が形成される。
【0129】
本実施形態の金属材の製造方法も、第1の実施形態と同様の工程を含む。具体的には、ファインバブル生成装置4により生成したファインバブルを含有する潤滑液LUを、潤滑液付着装置5を用いて、金属素材Wの表面、及び、塑性加工工具(ワークロール)2の少なくとも一方に付着させる。そして、ファインバブルを含有する潤滑液LUを付着させた後、塑性加工工具(ワークロール)2を用いて金属素材Wに対して冷間塑性加工(冷間圧延)を実施して、金属材を製造する。
なお、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した、[ファインバブルの好ましい平均粒径D]、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その1)]、及び、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]を採用できる。
【0130】
ただし、[ファインバブルの好ましい個数密度ND(その2)]では、冷間圧延における各塑性加工工具(ワークロール)2での金属素材Wの減面率を50.0%以上95.0%以下とする。この場合、各塑性加工工具(ワークロール)2ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、好ましくは、潤滑液LU中のファインバブルの個数密度NDを、最低個数密度N個/mLの最大値以上とする。
N=50×(P/100)×V (1)
ここで、式(1)中のPには、式(2)で定義される塑性加工工具(ワークロール)2での減面率(%)が代入され、Vには塑性加工工具(ワークロール)2での金属素材Wの移動速度V(mpm)が代入される。
P={(A0-A1)/A0}×100 (2)
ここで、式(2)中のA0には塑性加工工具での冷間塑性加工前の金属素材の長手方向に垂直な断面積(mm)が代入され、A1には当該塑性加工工具での冷間塑性加工後の金属素材の断面積(mm)が代入される。
【0131】
より具体的には、ファインバブルの個数密度NDを次のとおり求める。
1つの塑性加工工具(ワークロール)2のみを用いて冷間塑性加工(冷間圧延)を実施して金属材を製造する場合、当該冷間塑性加工(ワークロール)2における最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた最低個数密度N個/mLを、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【0132】
一方、複数の塑性加工工具(ワークロール)2を用いて冷間塑性加工(冷間圧延)を連続して実施して金属材を製造する場合、次の方法により、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限を求める。各塑性加工工具(ワークロール)2ごとの最低個数密度N個/mLを、式(1)及び式(2)に基づいて求める。得られた複数の最低個数密度N個/mLのうちの最大値を、ファインバブルの好ましい個数密度NDの下限とする。
【実施例0133】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0134】
表1に示す各試験番号の金属線(金属素材)に対して、ファインバブルを含有する潤滑液と、ファインバブルを含有しない潤滑液とを用いた伸線加工を実施した。以下、ファインバブルを含有する潤滑液を用いた伸線加工を「伸線加工A」とする。また、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた伸線加工を「伸線加工B」とする。
【0135】
【表1】
【0136】
表1中の「金属素材」欄には、各試験番号で用いた金属線の種類を示す。「Al」は、金属線がアルミニウムを主成分とする金属線であったことを意味する。「Fe」は、金属線が鋼線であったことを意味する。「Cu」は、金属線がCuを主成分とする金属線であったことを意味する。「Ti」は、金属線がTiを主成分とする金属線であったことを意味する。
【0137】
各試験番号において、伸線加工Aでは、図4に示す構成の伸線加工装置を用いた。伸線加工Bでは、図4に示す構成の伸線加工装置を用いたが、ファインバブル生成装置4を停止して用いた。
【0138】
伸線加工A及び伸線加工B共に、潤滑液は、水と、界面活性剤とを含有した。界面活性剤はいずれも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(3質量%)を用いた。潤滑液中の界面活性剤の濃度は、全ての試験番号で同じとし、各試験番号の伸線加工A及び伸線加工Bにおいても同じとした。
【0139】
伸線加工Aでは、ファインバブル生成装置4を用いて、潤滑液中に表1の「平均粒径D(μm)」欄に示す平均粒径のファインバブルを、表1の「個数密度ND(個/mL)」欄に示す個数密度で含有させた。
【0140】
各試験番号において、伸線加工A及び伸線加工B共に、金属線を、1又は複数のダイス2を用いて、複数回の伸線加工を実施して、表1の「伸線加工後直径(μm)」欄に記載の直径の金属線とした。なお、各試験番号において、最終のダイス2の貫通孔の直径d(μm)は、表1の「伸線加工後直径(μm)」に記載の直径と同じであった。各試験番号で使用したダイスの数を、表1中の「使用ダイス数」欄に示す。伸線加工を複数回実施する場合、図4の伸線加工装置において、1回の伸線加工を実施した後、ダイス2を交換して、次の伸線加工を実施した。なお、各ダイスでの減面率を10.0%以上23.5%未満とした。
【0141】
各試験番号では、伸線加工A及び伸線加工B共に、各ダイスでの減面率及び移動速度は同じ条件とした。表1の「最大N時の減面率P(%)」欄、及び、「最大N時の移動速度V(mpm)」欄には、各試験番号での伸線加工において、最大N時の減面率P(%)及び移動速度V(mpm)をそれぞれ示す。ここで、「最大N時」とは、各ダイスでの伸線加工ごとに、式(1)で定義される最低個数密度N個/mLを求めたとき、各ダイスで得られた複数の最低個数密度N個/mLのうちの最大値の最低個数密度N/mLが得られた伸線加工時を意味する。また、「最大N」欄には、各ダイスで得られた複数の最低個数密度N個/mLのうちの最大値を示す。
【0142】
以上の条件により、各試験番号において、伸線加工A、伸線加工Bを実施した。各伸線加工を実施して製造された金属線から、10m長さのサンプルを採取した。サンプルの表面において、金属線の軸方向に50μm以上の長さの疵の数をカウントした。疵の確認は光学顕微鏡による100倍の倍率での観察により行った。確認された疵の数に基づいて、1m当たりの疵個数密度(個/m)を求めた。各試験番号において、伸線加工Aで得られた金属線の疵個数密度と、伸線加工Bで得られた金属線の疵個数密度とを求めた。得られた疵個数密度に基づいて、次の式で、疵個数密度比Xを求めた。
疵個数密度比X=伸線加工Aでの疵個数密度/伸線加工Bでの疵個数密度
得られた疵個数密度比を表1の「疵個数密度比X」欄に示す。
【0143】
[評価結果]
表1を参照して、いずれの試験番号においても、疵個数密度比は1.0未満であった。つまり、ファインバブルを含有する潤滑液を用いた伸線加工を実施することにより、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた伸線加工と比較して、製造された金属線の疵の発生が抑制された。
【0144】
なお、試験番号1、13、21、及び33では、ファインバブルの平均粒径が0.6dμm以下の範囲外であった。また、試験番号8、9、12、20、28、29、32及び40では、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL未満であった。そのため、これらの試験番号の製造方法では、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた伸線加工よりも、金属線の疵の発生は抑制されたものの、他の試験番号と比較すると、疵個数密度比は高かった。
【0145】
試験番号11、18、19、31、38及び39では、ファインバブルの平均粒径が0.6dμm以下であり、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であったものの、ファインバブルの個数密度NDが最低個数密度Nの最大値未満であった。そのため、ファインバブルの平均粒径が0.6dμm以下であり、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であり、かつ、ファインバブルの個数密度NDが最低個数密度Nの最大値以上であった試験番号2~4、7、10、14、15、22~24、27、30、34、35、41~44と比較して、疵個数密度比が高かった。
【0146】
試験番号5、6、16、17、25、26及び36では、ファインバブルの平均粒径が1.00μm未満であり、ウルトラファインバブルであった。そのため、他の試験番号を比較して、疵個数密度比が顕著に低かった。
【実施例0147】
表2に示す各試験番号の金属棒(金属素材)に対して、ファインバブルを含有する潤滑液と、ファインバブルを含有しない潤滑液とを用いた冷間押出加工を実施した。以下、ファインバブルを含有する潤滑液を用いた冷間押出加工を「冷間押出加工A」とする。また、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた冷間押出加工を「冷間押出加工B」とする。
【0148】
【表2】
【0149】
表2中の「金属素材」欄には、各試験番号で用いた金属棒(金属素材)の種類を示す。各試験番号において、冷間押出加工Aでは、図6に示す構成の冷間押出装置を用いた。冷間押出加工Bでは、図6に示す構成の冷間押出装置を用いたが、ファインバブル生成装置4を停止して用いた。
【0150】
冷間押出加工A及び冷間押出加工B共に、潤滑液は、水と、界面活性剤とを含有した。界面活性剤はいずれも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(3質量%)を用いた。潤滑液中の界面活性剤の濃度は、全ての試験番号で同じとし、各試験番号の冷間押出加工A及び冷間押出加工Bにおいても同じとした。
【0151】
冷間押出加工Aでは、ファインバブル生成装置4を用いて、潤滑液中に表1の「平均粒径D(μm)」欄に示す平均粒径のファインバブルを、表2の「個数密度ND(個/mL)」欄に示す個数密度で含有させた。
【0152】
各試験番号において、冷間押出加工A及び冷間押出加工B共に、金属素材(金属棒)に対して、ダイス2を用いた冷間押出を1回実施した。
【0153】
各試験番号では、冷間押出加工A及び冷間押出加工B共に、各ダイスでの減面率及び移動速度は同じ条件とした。表2の「最大N時の減面率P(%)」欄、及び、「最大N時の移動速度V(mpm)」欄には、各試験番号での冷間押出加工において、最大N時(本実施例では1回の冷間押出加工での最低個数密度N時)の減面率P(%)及び移動速度V(mpm)をそれぞれ示す。
【0154】
以上の条件により、各試験番号において、冷間押出加工A、冷間押出加工Bを実施して、金属棒を製造した。製造された金属棒から、軸方向に500mm長さのサンプルを採取した。サンプルの表面(外周面)において、金属棒の軸方向に50μm以上の長さの疵の数をカウントした。疵の確認は光学顕微鏡による100倍の倍率での観察により行った。確認された疵の数に基づいて、1m当たりの疵個数密度(個/m)を求めた。各試験番号において、冷間押出加工Aで得られた金属棒の疵個数密度と、冷間押出加工Bで得られた金属棒の疵個数密度とを求めた。得られた疵個数密度に基づいて、次の式で、疵個数密度比Xを求めた。
疵個数密度比X=冷間押出加工Aでの疵個数密度/冷間押出加工Bでの疵個数密度
得られた疵個数密度比を表2の「疵個数密度比X」欄に示す。
【0155】
[評価結果]
表2を参照して、いずれの試験番号においても、疵個数密度比は1.0未満であった。つまり、ファインバブルを含有する潤滑液を用いた冷間押出加工を実施することにより、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた冷間押出加工と比較して、製造された金属棒の疵の発生が抑制された。
【0156】
なお、試験番号1では、ファインバブルの平均粒径が50.00μmを超えた。また、試験番号8、9、12及び20では、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL未満であった。そのため、これらの試験番号の製造方法では、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた冷間押出加工よりも、金属棒の疵の発生は抑制されたものの、他の試験番号と比較すると、疵個数密度比は高かった。
【0157】
試験番号11、18、及び、19では、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であったものの、ファインバブルの個数密度NDが最低個数密度Nの最大値未満であった。そのため、ファインバブルの平均粒径が50.00μm以下であり、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であり、かつ、ファインバブルの個数密度NDが最低個数密度Nの最大値以上であった試験番号2~7、10、及び13~17と比較して、疵個数密度比が高かった。
【0158】
試験番号5、6、16及び17では、ファインバブルの平均粒径が1.00μm未満であり、ウルトラファインバブルであった。そのため、他の試験番号を比較して、疵個数密度比が顕著に低かった。
【実施例0159】
表3に示す各試験番号の金属板(金属素材)に対して、ファインバブルを含有する潤滑液と、ファインバブルを含有しない潤滑液とを用いた冷間圧延を実施した。以下、ファインバブルを含有する潤滑液を用いた冷間圧延を「冷間圧延A」とする。また、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた冷間圧延を「冷間圧延B」とする。
【0160】
【表3】
【0161】
表3中の「金属素材」欄には、各試験番号で用いた金属板(金属素材)の種類を示す。各試験番号において、冷間圧延Aでは、図10に示す構成の冷間圧延装置を用いた。冷間圧延Bでは、図10に示す構成の冷間押出装置を用いたが、ファインバブル生成装置4を停止して用いた。
【0162】
冷間圧延A及び冷間圧延B共に、潤滑液は、水と、界面活性剤とを含有した。界面活性剤はいずれも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(3質量%)を用いた。潤滑液中の界面活性剤の濃度は、全ての試験番号で同じとし、各試験番号の冷間圧延A及び冷間圧延Bにおいても同じとした。
【0163】
冷間圧延Aでは、ファインバブル生成装置4を用いて、潤滑液中に表3の「平均粒径D(μm)」欄に示す平均粒径のファインバブルを、表3の「個数密度ND(個/mL)」欄に示す個数密度で含有させた。
【0164】
各試験番号において、冷間圧延A及び冷間圧延B共に、金属素材(金属板)に対して、ワークロール2を用いた冷間圧延を1回実施した。
【0165】
各試験番号では、冷間圧延A及び冷間圧延B共に、各ワークロールでの減面率及び移動速度は同じ条件とした。表3の「最大N時の減面率P(%)」欄、及び、「最大N時の移動速度V(mpm)」欄には、各試験番号での冷間圧延において、最大N時(本実施例では1回の冷間圧延での最低個数密度N時)の減面率P(%)及び移動速度V(mpm)をそれぞれ示す。
【0166】
以上の条件により、各試験番号において、冷間圧延A、冷間圧延Bを実施して、金属板を製造した。製造された金属板から、圧延方向に500mm長さのサンプルを採取した。サンプルの表面(外周面)において、金属板の圧延方向に50μm以上の長さの疵の数をカウントした。疵の確認は光学顕微鏡による100倍の倍率での観察により行った。確認された疵の数に基づいて、1m当たりの疵個数密度(個/m)を求めた。各試験番号において、冷間圧延Aで得られた金属板の疵個数密度と、冷間圧延Bで得られた金属板の疵個数密度とを求めた。得られた疵個数密度に基づいて、次の式で、疵個数密度比Xを求めた。
疵個数密度比X=冷間圧延Aでの疵個数密度/冷間圧延Bでの疵個数密度
得られた疵個数密度比を表3の「疵個数密度比X」欄に示す。
【0167】
[評価結果]
表3を参照して、いずれの試験番号においても、疵個数密度比は1.0未満であった。つまり、ファインバブルを含有する潤滑液を用いた冷間圧延を実施することにより、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた冷間圧延と比較して、製造された金属板の疵の発生が抑制された。
【0168】
なお、試験番号1では、ファインバブルの平均粒径が50.00μmを超えた。また、試験番号8、9及び12では、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL未満であった。そのため、これらの試験番号の製造方法では、ファインバブルを含有しない潤滑液を用いた冷間圧延よりも、金属板の疵の発生は抑制されたものの、他の試験番号と比較すると、疵個数密度比は高かった。
【0169】
試験番号2~7及び11では、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であったものの、ファインバブルの個数密度NDが最低個数密度Nの最大値未満であった。そのため、ファインバブルの平均粒径が50.00μm以下であり、ファインバブルの個数密度NDが50個/mL以上であり、かつ、ファインバブルの個数密度NDが最低個数密度Nの最大値以上であった試験番号10、及び13~17と比較して、疵個数密度比が高かった。
【0170】
試験番号16及び17では、ファインバブルの平均粒径が1.00μm未満であり、ウルトラファインバブルであった。そのため、他の試験番号を比較して、疵個数密度比が顕著に低かった。
【0171】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0172】
2 ダイス
3 引抜装置
4 ファインバブル生成装置
5 潤滑液付着装置
53 浸漬機構
54 引き出し機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10