(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167884
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241127BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20241127BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20241127BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20241127BHJP
B29C 55/08 20060101ALI20241127BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
H04R7/02 G
H04R7/02 D
C08J5/04 CEZ
C08J9/00 Z
B29C55/08
B32B5/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065885
(22)【出願日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2023083612
(32)【優先日】2023-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222406
【氏名又は名称】東レプラスチック精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩田 凌太郎
【テーマコード(参考)】
4F071
4F072
4F074
4F100
4F210
5D016
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA50
4F071AA54
4F071AA55
4F071AA62
4F071AA77X
4F071AB03
4F071AD01
4F071AD06
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4F071BC16
4F072AA02
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4F210AB25
4F210QC03
4F210QG01
4F210QG17
5D016HA07
(57)【要約】
【課題】薄い横延伸された熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを得る。
【解決手段】熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートと前記基材シートが炭素繊維を5~60重量%含有し、前記全炭素繊維中、繊維長が0.01~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上であり、前記基材シートの厚さが0.05~10.0mmである熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートかつ前記全炭素繊維中20重量%以上の炭素繊維がシート押出製造方向に対して30°以上の多方向に配向していることを特徴とする熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートであって、前記基材シートが炭素繊維を5~60重量%含有し、前記全炭素繊維中、繊維長が0.01~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上であり、前記基材シートの厚さが0.05~2.5mmであり、
前記熱可塑性樹脂が、少なくとも粘度の異なる第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を含み、熱可塑性樹脂の融点、またはガラス転移点、または軟化点から20~50℃の高い温度において、前記第2の熱可塑性樹脂の粘度が前記第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍であり、
前記全炭素繊維中40重量%以上の炭素繊維がシート押出製造方向に対して30°以上の多方向に配向している、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項2】
動的摩擦係数が0.10~0.55である、請求項1の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項3】
表面抵抗値が1X1010~1X1014(単位:Ω)である、請求項1または2に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項4】
表面粗度Raが0.05~0.2μmである、請求項1または2に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニルスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1または2に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項6】
表面がガラスコートされている、請求項1または2に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項7】
複数の貫通孔を有する、請求項1または2に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
【請求項8】
請求項1に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの製造方法であって、熱可塑性樹脂の融点または軟化点から20~50℃低い温度で加熱しながら、一方向に配向する炭素繊維からなるシートを横方向に加熱延伸する、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを用いた、音響用の振動板。
【請求項10】
請求項8に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの製造方法で得られる熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを用いた、音響用の振動板。
【請求項11】
請求項9または10に記載の音響用の振動板を用いた、半導体を有する電子機器部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学特性の向上が図られる熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートおよびその製造方法である。
【0002】
特に電子機器のマイクロスピーカー、マイクロフォンに用いられる振動板に関するシート素材およびその製造方法である。
【背景技術】
【0003】
従来、炭素繊維に液状の熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを準備し、これを高温高圧化でオートクレーブ処理することで、炭素繊維複合材料を得ていた。しかしながら、プリプレグを低温下で保管するための低温設備や、オートクレーブのための高温設備などの高価な設備が必要となり、これらの設備を有することが大きな負担となっていた。
【0004】
そこで、従来の熱硬化性樹脂の代わりに取り扱いやすい熱可塑性樹脂を用いる方法として、特許文献1には、連続した炭素繊維束のまわりに熱可塑性樹脂が被覆されてなる成形用材料で、成形材料が50mm以下に切断されているものが開示されている。
【0005】
しかしながら、従来の熱硬化型からなる炭素繊維強化樹脂(CFRP)シートや特許文献1に記載のシートは厚みが厚く、薄物を必要とする用途には向かなかった。さらに、特許文献2のシートでは、プレスによるシートを得る方法であり、サイズが大きくできないばかりか、ロール状の巻物として得られないので、取り扱いにくく連続生産性も乏しいので、工業的に安価でかつ汎用的な用途に使用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2877052号公報
【特許文献2】特開2014-198756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、薄い熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは以下の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂および炭素繊維を含む熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートであって、前記基材シートが炭素繊維を5~60重量%含有し、前記全炭素繊維中、繊維長が0.01~0.5mmである炭素繊維の割合が60重量%以上であり、前記基材シートの厚さが0.05~2.5mmであり、
前記熱可塑性樹脂が、少なくとも粘度の異なる第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を含み、熱可塑性樹脂の融点、またはガラス転移点、または軟化点から20~50℃の高い温度において、前記第2の熱可塑性樹脂の粘度が前記第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍であり、
前記全炭素繊維中40重量%以上の炭素繊維がシート押出製造方向に対して30°以上の多方向に配向している、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(2)動的摩擦係数が0.10~0.55である、(1)の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(3)表面抵抗値が1X1010~1X1014(単位:Ω)である、(1)または(2)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(4)表面粗度Raが0.05~0.2μmである、1)または(2)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(5)前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニルスルフォキサイドからなる群から選ばれる少なくとも一つである、(1)または(2)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(6)表面がガラスコートされている、(1)または(2)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(7)複数の貫通孔を有する、(1)または(2)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート。
(8)(1)または(2)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの製造方法であって、熱可塑性樹脂の融点または軟化点から20~50℃低い温度で加熱しながら、一方向に配向する炭素繊維からなるシートを横方向に加熱延伸する、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの製造方法。
(9)(1)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを用いた、音響用の振動板。
(10)(8)に記載の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの製造方法で得られる熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを用いた、音響用の振動板。
(11)(9)または(10)に記載の音響用の振動板を用いた、半導体を有する電子機器部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは、炭素繊維を有するので、弾性率が高いため硬く、かつ、摺動性、平滑性もあり、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の振動減衰率が高く、静電気も少なく、かつ、異方性が少ない。そのようなシートが得られるので、電子部品、自動車部品、音響部品に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの実施形態の一例を示した斜視図である。
【
図2】
図1の本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの上面拡大図である。
【
図3】
図1の本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートのA-A’上面拡大図である。
【
図4】
図1の本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートのB-B’上面拡大図である。
【
図5】
図1の延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの実施形態の一例を示した斜視図である。
【
図6】
図5の延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの上面拡大図である
【
図7】
図5の延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートのC-C’上面拡大図である。
【
図8】
図5の延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートのD-D’上面拡大図である。
【
図9】振動減衰性の測定に用いる装置の一例を概略的に示す説明図である。
【
図10】振動減衰性の測定データの一例を示す説明図である。
【
図11】
図10の減衰振動波形の極大値をプロットした説明図である。
【
図12】実施例1のシート振動減衰性の測定結果を示す説明図である。
【
図13】比較例1のシート振動減衰性の測定結果を示す説明図である。
【
図14】本発明の一実施態様に係る炭素繊維複合材料を用いてなるシートの上面を電子顕微鏡において、炭素繊維の配向方向を観察した結果を示す模式図である。
【
図15】本発明の一実施態様に係る炭素繊維複合材料を用いてなるシートの断面を電子顕微鏡において、炭素繊維の配向方向を観察した結果を示す模式図である。
【
図16】本発明の一実施態様に係る炭素繊維複合材料を用いてなる多孔構造体の概略斜視図である。
【
図17】ガラスコートされた熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1の、本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、1の上面方向7から撮影した
図2の炭素繊維22および熱可塑性樹脂23を含む複合材料、いわゆる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物2により形成される。
【0012】
図1の、本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、
図5の延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51をシート押出製造方向4に対して、横延伸方向5の方向に加熱横延伸されることで得られる。
【0013】
図5の延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51は、例えば特許第5608818号公報に記載の方法で製造される。
【0014】
(横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51を横延伸することで得られるので、樹脂構成は同じである。
【0015】
(横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1の構成)
本発明における炭素繊維として、例えばポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維が挙げられるが、いずれの炭素繊維でも好ましく用いることができる。炭素繊維の単繊維径は、特に限定されるものではないが、好ましくは5~10μm、より好ましくは6~8μmである。なお、本発明における炭素繊維は、長繊維(ロービング)、短繊維(チョップドストランド)のいずれでも良いが、好ましくは短繊維である。
【0016】
本発明における熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリスチレン)、ポリアミド(例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、芳香族ナイロン)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォキサイド、ポリテトラフルオロエチレン、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオキシメチレン等が好ましく挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂の誘導体や変性体、これらの熱可塑性樹脂の共重合体、さらにそれらの混合物でも良い。
【0017】
本発明における熱可塑性樹脂としてはポリアミド、ポリエステル、ポリフェニルスルフォキサイド、それらの誘導体もしくは共重合体、または、これらの少なくとも1つを含む混合物がより好ましく、ナイロン6、ナイロン66がさらに好ましい。
【0018】
ポリアミドは靭性と吸水性を有するので、パンチング加工やスリット加工などの衝撃性の高い後加工には、靭性と耐久性があり好ましい。
【0019】
また、熱可塑性樹脂としてはポリオレフィンも好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンを使用することはできる。これは比重が軽いので金属代替として好ましい。また耐薬品性も有していることも好ましい。
【0020】
本発明における熱可塑性樹脂として、ポリフェニルスルフォキサイドは、耐熱性が高く耐薬品性も高いく好ましい。
【0021】
本発明における熱可塑性樹脂は、互いに粘度の異なる第1の熱可塑性樹脂、および、第2の熱可塑性樹脂を少なくとも含むことが好ましい。互いに粘度の異なる2以上の熱可塑性樹脂を含むことにより、溶融成形時にスプリングバックを起こすことができる。本発明では、熱可塑性樹脂の融点から20~50℃の高い所定温度において、第2の熱可塑性樹脂の粘度が第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍であることが好ましく、5~50倍であることがより好ましく、10~30倍であることがさらに好ましい。第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂は、分子量や共重合成分を相違させた同じ組成の熱可塑性樹脂であると良い。
【0022】
熱可塑性炭素繊維樹脂基材では、粘度の高い樹脂と粘度の低い樹脂の一方が極端に多く含まれていると、スプリングバックが大き過ぎ、破れやシート自体の強度が低下する。その一方で、粘度の高い樹脂が極端に多い場合、樹脂と炭素繊維との密着性が悪く、割れの原因になる。また、粘度の高い樹脂を用いての溶融混練は、樹脂温度が上がりすぎて、樹脂が分解してしまう。これは、特に炭素繊維と高粘度の樹脂を混合すると発熱が高く分解し易い。さらに、射出成形において、炭素繊維と樹脂とを混合したものを射出成形しても、流動性が低いため、シートを作製することは難しい。
【0023】
上述した熱可塑性炭素繊維樹脂基材における粘度の異なる樹脂の比率は、重量で低粘度樹脂が高粘度樹脂に対して0.3~5.0倍であることが好ましく、0.5~2.0倍であることがより好ましい。
【0024】
本発明における熱可塑性樹脂23および炭素繊維22を含む複合材料100重量%中、炭素繊維22が好ましくは5~60重量%、より好ましくは10~40重量%である。さらに好ましくは、炭素繊維22の含有量を20~40重量%の範囲にすることにより、熱可塑性炭素繊維樹脂基材の振動減衰特性を安定させることができる。
【0025】
前記熱可塑性樹脂が、少なくとも粘度の異なる第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂を含み、熱可塑性樹脂の融点、またはガラス転移点、または軟化点から20~50℃の高い温度において、前記第2の熱可塑性樹脂の粘度が前記第1の熱可塑性樹脂の粘度の3~70倍であり、
前記全炭素繊維中40重量%以上の炭素繊維が、シート押出製造方向4に対して30°以上の多方向に配向している、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートであることが好ましい。
【0026】
(延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51のシート製造法)
次に、横延伸される延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51のシート製造方法について、以下に説明する。
【0027】
上述の熱可塑性炭素繊維樹脂のペレットを溶融シート押出成形後に、炭素繊維22が一方向に配列しているシートからなる前記熱可塑性炭素繊維樹脂基材として成形する。
【0028】
特に、溶融シート押出により成形することが好ましく、金属と同等の強度を有すると共に、軽量で振動減衰率の高い熱可塑性炭素繊維樹脂基材を得ることができる。さらに、この熱可塑性炭素繊維樹脂基材からなるシートを成形することで、振動減衰性が高く、弾性率の高い、静電気の発生を抑えた、平滑で、炭素繊維の配向が高く、動的摩擦係数が低い、産業上利用性に優れた熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを得ることができる。
【0029】
上述した熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51の製造方法において、熱可塑性炭素繊維樹脂基材を冷却する際に、その片側の面を金属賦形面と接触させることで、熱可塑性炭素繊維樹脂基材における金属賦形面との非接触面にスプリングバックを生起させることもできる。これにより、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの表面は均一な鏡面と凹凸面を、表面と裏面に形成させることもできる。これにより梨地面の生成や他の樹脂との密着時に勘合効果をもたらすことができる。
【0030】
(延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51の炭素繊維配向)
図5、
図6で、延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51を上面方向58から見るとシート押出製造方向4に対して60%以上の繊維が30°以内に配向している。さらに好ましくは80%以上の繊維が30°以内に配向している。さらに好ましくは90%以上の繊維が30°以内に配向している。さらに好ましくは95%以上の繊維が30°以内に配向している。
【0031】
この結果、
図5、
図7で、延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51をC-C’断面から見ると炭素繊維22が一方向に押出製造方向4に配向しているので、炭素繊維22の断面が見える。
【0032】
この結果、
図5、
図8で、延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51をD-D’断面から見ると炭素繊維22が一方向に配向している。
【0033】
炭素繊維22の配向方向は、
図6、7、8において、電子顕微鏡で拡大撮影することで、シートの押出方向に対して、
図14、
図15に示すような範囲で、配向方向を確認することができる。
【0034】
炭素繊維22の60重量%以上を所定の方向からシート押出製造方向4に対して30°以内に配向させるには、上記の粘度差の2つの熱可塑性樹脂23と平均繊維長が0.01~0.5mmの炭素繊維22からなるペレットを用いて、上述のように、一軸の押出機で溶融しながら、ダイスより一定方向に押し出し、ロールに接触定着させる方法が採用できる。
【0035】
本発明における延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51は、炭素繊維22が配向するので、弾性率が高いことが好ましく、特に炭素繊維22の配向方向の弾性率が8GPa~20GPaであることが好ましく、さらには10~17GPaが好ましく、さらには10~15GPaが好ましい。なお炭素繊維22の横方向の弾性率は、配向方向と90°となるので縦方向の1/2~1/4の弾性率になる。
【0036】
(横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1の製造法)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、
図5に示すシート押出製造方向4に、短繊維炭素繊維が高配向したシートである延伸前の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート51を、樹脂の融点および軟化点から15℃~60度低い温度で加熱しながら、一方向に配向する短繊維炭素繊維からなるシートを横延伸方向5に加熱延伸することで、横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1が得られる。さらに好ましくは樹脂の融点および軟化点から20℃~50度低い温度で加熱延伸することが好ましい。さらに好ましくは樹脂の融点および軟化点から20℃~35度低い温度で加熱しながら、加熱延伸することが好ましい。
【0037】
また延伸倍率は1.5倍から5倍が好ましく、さらに好ましくは1.8倍から3.5倍、さらに好ましくは1.9倍から2.5倍である。
【0038】
さらに高倍率延伸は1回で一気に延伸するのではなく、2回、3回と多段階的に延伸することが、安定的に延伸出来て好ましい。
【0039】
また、延伸後のシート厚さは、冷却後の収縮が発生するので、シート厚みが延伸直後より15~10%ほど厚くなる。この結果、延伸倍率が引き延ばされたシートの薄さに正比例しない。
(シートの厚さ)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの厚さは0.05~2.5mmであり、好ましくは0.1~0.5mmであり、より好ましくは0.1~0.3mmである。
【0040】
横延伸でできるだけ薄くしたい場合、配向をできるだけ一方向に向けず分散させるためには、基材シートに対して、横延伸した結果1/1.5~1/5薄くすることで、目的のシートが得られる。
【0041】
横延伸の設備としては、例えば特開平9-39088号公報に記載において、クリップによりシートをつかみ横方向に広げる設備などがある。
【0042】
横延伸により炭素繊維22の配向が1方向から、横に引っ張られたことで、分散したために、配向が多方向となる。その結果シートの縦と横の弾性率に差がなくなる。
【0043】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1の弾性率は、シートの方向に関係なく、弾性率が2GPa~15GPaであることが好ましく、さらには3~10GPaが好ましく、さらには5~8GPaが好ましい。なおシートの縦方向と横方向で弾性率が逆転することもある。
【0044】
すなわち、元のシートの縦方向の弾性率は横延伸で1/2~1/4に、逆に横方向の弾性率は2~4倍になる。その縦方向と横方向の差は1.2~0.8倍の差になる。
【0045】
(横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1の炭素繊維22の配向方向)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、横延伸された結果、
図2で上面撮影拡大して見ると、シート押出製造方向4に対して30%以上の繊維が30°以上に多方向に分散している。さらに40%以上の繊維が30°以上に多方向に分散していることが好ましい。さらに好ましくは50%以上の繊維が30°以上に多方向に分散している。さらに好ましくは60%以上の繊維が30°以上に多方向に分散している。
【0046】
この結果、
図3で本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1をA-A’断面から見ると炭素繊維22が斜めに多方向配向しており、この結果、
図4で本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1をB-B’断面から見ると炭素繊維22が斜めに多方向配向している。
【0047】
(横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1の特性)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートにおいて、熱可塑性樹脂23および炭素繊維22を含む複合材料は、その対数振動減衰率が0.07~0.30であることが好ましい。複合材料の対数振動減衰率が0.07未満であると、激しくマウスを使用したときに熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの振動が長時間残り、誤操作を起こすことがある。また、対数振動減衰率が0.30を超えると、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの振動が過度に抑えられてしまい、反発が伝わり違和感をあたえることがある。対数振動減衰率は、0.08~0.30の範囲が好ましく、0.10~0.30の範囲がより好ましく、0.15~0.30の範囲がさらに好ましい。
【0048】
対数振動減衰率と損失係数の関係として、対数振動減衰率は損失係数に円周率π を掛けたものに等しい(対数振動減衰率=損失係数×π)。複合材料の対数振動減衰率が、同じ厚さの金属、例えばステンレスと比べて5倍である場合、この複合材料を用いた熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの振動はステンレス製のものと比べて1/5の時間に短縮される。すなわち、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの残振動が5倍早く消えるため、次の操作へ非常に明瞭に反応することができる。一方、金属は同じ厚さの複合材料と比べて対数振動減衰率が小さいので、金属シートの振動は比較的残り易い。
【0049】
そのため、本発明に用いられる熱可塑性炭素繊維樹脂基材において、複合材料の損失係数は0.02以上、さらに0.025以上であることは好ましい。複合材料の損失係数は、0.03以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.06以上が最も好ましい。
【0050】
(音響用途)
このことから、振動減衰が高く、残音の少ない音響部品、例えばスピーカー筐体、スピーカーコーン(振動板)、ツイータ、ウーハー、スピーカーカバー(グリル)に好適に使用できる。
【0051】
(音響用途の振動板とその半導体およびその部品)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを用いた音響用の振動板、またはその振動板を用いた半導体を有する電子機器及びその部品とは、例えば以下のものを示す。
特に、薄型化が要求されるマイクロスピーカーにおいて、薄膜用の振動板として用いることができる。さらに、マイクロスピーカーの一種で、さらに薄肉化が要求されるMEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)スピーカーに好適に用いられる。
【0052】
これは、炭素繊維を含有するシートは、比弾性が高くかつ振動減衰性も高いので、音速に優れ、ビビリ音が少ないので、音響特性に優れていることから、特に本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは薄肉化されたことにより、音響部品がより小型化、薄型化が可能となる。
【0053】
同様に、薄型化が要求されるマイクロフォンにおいて、薄膜用の振動板として用いることができる。さらに、マイクロスピーカーの一種で、さらに薄肉化が要求されるMEMSマイクにも好適に用いられる。特に、薄肉化で音圧が向上し、炭素繊維による剛性と内部損失の向上で歪みが削減される。
【0054】
MEMS素子は、圧電素子を有する隔膜を電子部品で小型化、薄肉化、省電力化が可能となり、携帯電話、スマートフォン、ワイヤレスイヤホン、タブレット、モバイルPCなど、モバイルデバイスへの活用できる。
【0055】
(精密用動作用途)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは、振動を早期に抑えることができるので、精密な動作を必要とする部材に使用できる。
【0056】
(制電用途)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1に用いられる熱可塑性炭素繊維樹脂基材は、炭素繊維22を含有するので、炭素繊維を含有しない樹脂製品と比べて静電気の発生を抑えることができる。そのため、冬場における静電気の発生によるトラブルも少ない。
【0057】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、表面抵抗値が1X109~1X1015であることが好ましく、さらに好ましくは1X1010~1X1014、さらに好ましくは1X1011~1X1013である。
【0058】
(摺動用途)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、摩擦係数が低いことが好ましく、摩擦が小さければ小さいほど、摺動材の性が向上する。そのため動的摩擦係数が0.10~0.55であることが好ましく、さらには0.3~0.5であり、さらに好ましくは0.35~0.45である。
【0059】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、表面粗度が小さく一定であることが好ましく、操作する際に粗度が低く一定であることで、安定した部品ができる。
【0060】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、表面粗度R(a)が低いことが好ましく0.02μm~0.25μmが好ましく、0.05μm~0.20μmがより好ましく、さらに0.08~0.15μmが好ましい。
【0061】
(パンチング用途)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1は、パンチング加工した熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートとして用いることができる。これは、例えば特許第6122375号公報に記載の方法を用いて製造することができる。
【0062】
その場合、
図16で、概略斜視図に示すように、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは複数の貫通孔163を有する熱可塑性炭素繊維樹脂基材2であり、熱可塑性炭素繊維樹脂基材2の厚さは好ましくは0.05mm~10.0mm、より好ましくは0.1mm~2.0mm、貫通孔163の孔径は好ましくは0.1mm~10.0mm、より好ましくは0.5mm~5.0mm、さらに好ましくは1.0mm~3.0mm、複数の貫通孔163の開口部面積の合計はシート全面の面積に対して好ましくは5%~75%、より好ましくは20%~70%、さらに好ましくは30%~60%である。
【0063】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1に用いられる熱可塑性炭素繊維樹脂基材は、パンチング加工時に破損し難く、加工性に優れている。さらに、熱可塑性炭素繊維樹脂基材は、耐水性能や耐汚性能を向上させ、剛性を向上させることもできる
(強度用途)
上述した本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1に用いられる熱可塑性炭素繊維樹脂基材は、短繊維の炭素繊維が所定の割合で含まれているので、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートとして十分な硬さを保つことができる。
【0064】
(ガラスコート用途)
また、本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1にガラスコート172する方法は例えば特開2022-101765号公報に記載の方法を用いることができる。
【0065】
構造は
図17に示すようにガラスコートされた熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートの断面
図171において、本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1を薄膜のガラスコート172でコートすることで、シートの剛性を10~20%上げることもできる。また、ガラスコート172の代わりに樹脂のラミネートシートでカバーすることもできる。
【0066】
(貼り合わせ用途)
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1の後加工についても説明する。
【0067】
本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは、熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートと接着剤と発泡材から構成することもできる。また、本発明の熱可塑性炭素繊維樹脂基材シート1を一部に含んで構成することもできる。高い振動減衰性を有する上記熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを組み合わせて構成されているので、シート単体でも、積層品でも、音響や車載部品、IT部品や、PC周辺機器、AI、ロボット用途、航空機、ドローン、自転車、バイク、車いす、ベッド、建設備品などに用いることができる。
【0068】
なお積層するものは特に限定されず、基材シートとの密着性が高く、軽量が好ましい。例えば、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリスチレン)、ポリアミド(例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、芳香族ナイロン)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォキサイド、ポリテトラフルオロエチレン、アクロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリオキシメチレン等でもよく、発泡しているものでもよい。
【0069】
特に例えば、ポリウレタンなどの熱硬化樹脂でもよく、金属、シリコーン樹脂、繊維の織物や編み物、不織布でもよい。自然由来の木製や石板など、ガラス、石英など無機物でもよい。またこれらを複数種類で何層に重ねてもよい。
【0070】
裏面マットと熱可塑性炭素繊維樹脂基材の接合には、両面テープや接着剤を用いることができる。これらの接着剤は限定されるものではない。熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂との接合も可能であり、パソコンのマウスパッドに好適である。
【0071】
また熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートを加熱して、マットとの接合や、マットを加熱して熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートと接合することも可能である。
【実施例0072】
次に、実施例について説明する。各実施例および比較例において、使用した材料および測定方法は以下の通りである。
【0073】
(1)使用した材料
(A)炭素繊維
A1:繊維径が7μmの炭素繊維である。
【0074】
(B)第1の熱可塑性樹脂
B1:ナイロン6(融点225℃、275℃における粘度:80poise)
B2:ナイロン66(融点:255℃、305℃における粘度:250poise)
B3:PP(融点:170℃、220℃における粘度:70poise)
B4:ABS(ガラス転移点(軟化点):190℃、240℃における粘度:120poise)
B5:PPS(融点:285℃、335℃における粘度:260poise)
B6:PC(軟化点:146℃、290℃における粘度:125poise)。
【0075】
(C)第2の熱可塑性樹脂
C1:ナイロン6(融点:225℃、275℃における粘度:1,100pois e)
C2:ナイロン66(融点:255℃、305℃における粘度:5,500poise)
C3:PP(融点:170℃、220℃における粘度:1,770poise)
C4:ABS(軟化点:190℃、240℃ における粘度:2,520poise)
C5:PPS(融点:285℃、335℃における粘度:8,060poise)
C6:PC(軟化点:146℃、290℃における粘度:1,890poise)。
【0076】
(D)複合材料
D1:A1を25重量%、B1を50重量%、C1を25重量%含有
D2:A1を35重量%、B1を25重量%、C1を40重量%含有
D3:A1を30重量%、B2を55重量%、C2を15重量%含有
D4:A1を25重量%、B3を35重量%、C3を40重量%含有
D5:A1を35重量%、B4を25重量%、C4を40重量%含有
D6:A1を40重量%、B5を30重量%、C5を30重量%含有
D7:A1を30重量%、B6を30重量%、C6を40重量%含有。
【0077】
(E)金属
E1:ステンレス(SUS304)。
【0078】
(2)炭素繊維の繊維長の測定
炭素繊維22の繊維長の測定には、マイクロフォーカスX線透過透視装置(島津製作所製のSMX-1000 PLUS)を用いた。
【0079】
(3)振動減衰特性の測定
振動減衰特性は
図9に示す振動減衰測定機91を用いた試験方法により測定した。この方法はJIS G0602(1993年)に基づくものである。具体的には、片端固定打撃加振法によるもので、測定条件を片持ち梁の突出し長さを100mmとし、加振位置を片持ち梁自由端側とし、加振方法をステップ弛緩加振として測定を行った。また、測定装置として、CCDレーザー変位計94はキーエンス社製のLK-G30、FFTアナライザー96はエアブラウン社製のフォトンIを用いた。測定の方法は、形状に応じてJIS G0602(1993年)に基づき適宜使用した。
【0080】
(4)損失係数および対数振動減衰率の算出
損失係数は下記式(1)により算出した。また、得られた損失係数に円周率πを乗じて対数振動減衰率を算出した。
η=2×ln(tanθ)/√((2π)
2+[ln(tanθ)]
2) (1)
式中、ηは減衰振動率、θは
図11に示すグラフの原点を通り各点を結ぶ直線の傾きである。なお、
図11は
図10の減衰振動波形の極大値をプロットしたグラフであり、さらに詳しくは、
図10に示す減衰自由振動波形から応答変位の極大値X0、X1・・・を読み取り、横軸にXk+1、縦軸にXkとしたグラフ、すなわち、点(X2,X1)、(X3,X2)、(X4,X3)をプロットしたグラフである。
【0081】
(5)吸水率の算出
あらかじめ真空乾燥機で60℃X12時間で乾燥させた複合材料100gを25℃X65%RH環境下で1週間放置し、増加分の重量を100で割った値である。
【0082】
(6)表面抵抗値の算出
導電性プラスチックの4探針法による抵抗率JIS 7194(1994年)方法にて測定した値である。
【0083】
(7)動的摩擦係数の算出(鈴木式)
プラスチックの滑り摩耗試験方法 JIS 7218(1986年)にて測定した。
【0084】
(8)弾性率の算出方法
引張試験の試験方法 JIS K7161(2014年)にて測定した。
【0085】
(9)表面粗度の算出
表面粗度の算出粗さJIS B0601(1994年) にて測定した。
【0086】
[実施例1]
上記複合材料D1を用いて、厚さ1.0mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.25mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が65重量%、損失係数は0.054、表面粗度Raは0.075μm、炭素繊維22の配向で弾性率は10.1GPa、炭素繊維22の横配向で弾性率は3.2GPaであった。表面抵抗値は3.1X1011Ω、動的摩擦係数は0.38であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は98%であった(表1)。
【0087】
これを200mm幅にカットし、横方向に180℃で3.0倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.35mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.25mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が65重量%、損失係数は0.055、表面粗度Raは0.065μm、炭素繊維22の配向で弾性率は3.5GPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は4.1GPaであった。表面抵抗値は2.5X1011Ω、動的摩擦係数は0.26であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。シート押出製造方向4に対して55%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0088】
また、さらに、
図12に示すように、実施例1の横延伸された熱可塑性炭素繊維樹脂基材シートは、後述する比較例1ステンレスの
図13に比べて早期に変位121が減衰しており、振動が早期に抑制されている。
【0089】
[実施例2]
上記複合材料D2を用いて、厚さ0.3mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.31mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が70重量%、損失係数は0.082であった。表面粗度Raは0.077μm、炭素繊維22の配向で弾性率は15.5GPa、炭素繊維22の横配向で弾性率は3.8GPaであった。表面抵抗値は1.4X1010Ω、動的摩擦係数は0.38であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は97%であった。
【0090】
これを200mm幅にカットし、横方向に190℃で2.7倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.12mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.31mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が70重量%、損失係数は0.089、表面粗度Raは0.055μm、炭素繊維22の配向で弾性率は5.3GPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は5.6GPaであった。表面抵抗値は1.9X1011Ω、動的摩擦係数は0.25であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。シート押出製造方向4に対して63%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0091】
[実施例3]
上記複合材料D3を用いて、厚さ0.5mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.45mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が68重量%、損失係数は0.040であった。表面粗度Raは0.079μm、炭素繊維22の配向で弾性率は9.0GPaであった。炭素繊維22の横配向で弾性率は3.3GPaであった。
【0092】
表面抵抗値は4.9X1011Ω、動的摩擦係数は0.36であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は98%であった。
【0093】
これを200mm幅にカットし、横方向に220℃で2.0倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.26mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.45mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が68重量%、損失係数は0.039、表面粗度Raは0.071μm、炭素繊維22の配向で弾性率は3.2MPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は3.5MPaであった。表面抵抗値は2.1X1011Ω、動的摩擦係数は0.28であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。シート押出製造方向4に対して45%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0094】
[実施例4]
上記複合材料D4を用いて、厚さ1.5mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.40mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が71重量%、損失係数は0.045であった。表面粗度Raは0.088μm、炭素繊維22の配向で弾性率は8.8MPaであった。炭素繊維22の横配向で弾性率は2.5MPaであった。表面抵抗値は4.8X1012Ω、動的摩擦係数は0.43であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は95%であった。
【0095】
これを200mm幅にカットし、横方向に130℃で5.0倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.33mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.40mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が71重量%、損失係数は0.048、表面粗度Raは0.079μm、炭素繊維22の配向で弾性率は2.8MPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は3.0MPaであった。表面抵抗値は5.2X1013Ω、動的摩擦係数は0.35であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は35%であった(表1)。
【0096】
[実施例5]
上記複合材料D5を用いて、厚さ0.35mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.2mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が66重量%、損失係数0.115であった。表面粗度Raは0.090μm、炭素繊維22の配向で弾性率は8.6MPaであった。炭素繊維22の横配向で弾性率は2.6MPaであった。表面抵抗値は8.3X1011Ω、動的摩擦係数は0.51であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は88%であった。
【0097】
これを200mm幅にカットし、横方向に140℃で2.1倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.17mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.20mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が66重量%、損失係数は0.108、表面粗度Raは0.064μm、炭素繊維22の配向で弾性率は2.8MPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は3.1MPaであった。表面抵抗値は9.6X1013Ω、動的摩擦係数は0.52であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。押出製造方向4に対して40%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0098】
[実施例6]
上記複合材料D6を用いて、厚さ0.8mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.23mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が80重量%、損失係数0.026であった。表面粗度Raは0.112μm、炭素繊維22の配向で弾性率は16.1MPaであった。炭素繊維22の横配向で弾性率は5.3MPaであった。表面抵抗値は6.3X1013Ω、動的摩擦係数は0.56であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は97%であった。
【0099】
これを200mm幅にカットし、横方向に245℃で2.2倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.41mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.23mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が80重量%、損失係数は0.025、表面粗度Raは0.108μm、炭素繊維22の配向で弾性率は5.1MPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は6.3MPaであった。表面抵抗値は1.0X1013Ω、動的摩擦係数は0.58であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。押出製造方向4に対して41%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0100】
[実施例7]
上記複合材料D7を用いて、厚さ0.5mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.32mm、0.01~0.5mmである炭素繊維22の割合が、全炭素繊維中の76重量%、損失係数0.056であった。表面粗度Raは0.099μm、炭素繊維22の配向で弾性率は9.9MPaであった。炭素繊維22の横配向で弾性率は3.5MPaであった。表面抵抗値は4.7X1012Ω、動的摩擦係数は0.51であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の配向率は6%であった。
【0101】
これを200mm幅にカットし、横方向に150℃で1.9倍に炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.33mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.32mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が76重量%、損失係数は0.057、表面粗度Raは0.089μm、炭素繊維22の配向で弾性率は3.1MPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は4.5MPaであった。表面抵抗値は2.8X1013Ω、動的摩擦係数は0.50であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。押出製造方向4に対して36%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0102】
[実施例8]
実施例1の横延伸シートを孔径が1.5mm、開口率が51%、ピッチが2.0mmの60°千鳥で貫通孔163を配置した多孔構造体(パンチング材)を作製した。
【0103】
[実施例9]
実施例3で得た横延伸シートに、厚さ7μmのガラスコート172を被覆した。損失係数は0.039、表面粗度Raは0.079μm、炭素繊維22の配向で弾性率は3.8MPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は4.0MPaであった。表面抵抗値は5.0X1014Ω、動的摩擦係数は0.21であった。
[実施例10]
上記複合材料D2を用いて、厚さ0.3mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.31mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が70重量%、損失係数は0.082であった。表面粗度Raは0.077μm、炭素繊維22の配向で弾性率は15.5GPa、炭素繊維22の横配向で弾性率は3.8GPaであった。表面抵抗値は1.4X1010Ω、動的摩擦係数は0.38であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。炭素繊維22の同一方向への配向は97%であった。
【0104】
これを100mm幅にカットし、横方向に195℃で6.2倍に2段階で延伸して、炭素繊維22の配向に対して横方向延伸し、厚さ0.05mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、炭素繊維22の平均繊維長は0.31mm、全炭素繊維中、繊維長が0.01mm~0.5mmである炭素繊維22の割合が70重量%、損失係数は0.090、表面粗度Raは0.056μm、炭素繊維22の配向で弾性率は5.3GPaであった。炭素繊維22の横方向の弾性率は5.5GPaであった。表面抵抗値は1.9X1011Ω、動的摩擦係数は0.25であった。また、炭素繊維22の繊維長は正規分布に近い形で分布していた。シート押出製造方向4に対して70%の繊維が30°以上に多方向に分散していた(表1)。
【0105】
[実施例11]
実施例10で得た横延伸シートを振動板として、マイクロスピーカーの一種であるMEMSスピーカーに搭載した。さらに、これを携帯電話やイヤホンに搭載した。
[実施例12]
実施例2で得た横延伸シートを振動板として、マイクロイヤホンの一種であるMEMSマイクに搭載した。さらに、これを携帯電話やイヤホンに搭載した。
【0106】
[比較例1]
上記金属E1を用いて、厚さ0.15mmのシートを作製した。得られたシートにおいて、損失係数は0.016であった。表面粗度Raは0.210μm、弾性率は195GPaであった。表面抵抗値は5.6X10
-5Ω、動的摩擦係数は0.62であった。弾性率は高いが、粗度も高く、損失係数も高く。その結果、摺動材や音響部材への使用に向かなかった。実際、
図13に示すように、比較例1の素材は、変位121が減衰するのに時間122がかかり、実施例1に比べて振動の抑制効果は低かった。(表1)。
【0107】
[比較例2]
炭素繊維22の入っていない上記樹脂B2を用いて、厚さ0.15mmのシートを作製した。損失係数は0.11であった。表面粗度Raは0.028μm、弾性率は2.6GPaであった。表面抵抗値は7.2X10-14Ω、動的摩擦係数は0.59であった。弾性率は低いが、動摩擦係数が高く。その結果、摺動材や音響部材への使用はできなかった。
【0108】
[比較例3]
比較例1のシートを用いて、孔径が2mm、開口率が40%、ピッチが3mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製した(表1)。海沿いの屋外でフィルターとして使用した際に、錆びてしまい利用できなかった。これは、ステンレスの酸化被膜が、パンチングにより破壊され、錆が加速されたためである。
【0109】
[比較例4]
比較例2のシートを用いて、孔径が2mm、開口率が40%、ピッチが3mmの60°千鳥で貫通孔を配置したパンチング材を作製しようとしたが、パンチングによる加熱と延伸で、シートが伸びてパンチング材が得られなかった。
【0110】
【0111】