(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167890
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】紡糸巻取設備及び糸通し補助装置
(51)【国際特許分類】
D02J 1/22 20060101AFI20241127BHJP
D01D 7/00 20060101ALI20241127BHJP
D01D 5/088 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
D02J1/22 F
D01D7/00 Z
D01D5/088
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077387
(22)【出願日】2024-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2023083855
(32)【優先日】2023-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】小島 匠吾
【テーマコード(参考)】
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA49
4L045AA05
4L045DA08
4L045DA19
4L045DC01
4L045DC21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】糸通し作業を容易に行うことを可能にした紡糸巻取設備、及び紡糸巻取設備への糸通し作業を容易にすることができる糸通し補助装置を提供する。
【解決手段】口金24から溶融ポリマーPを下方に紡出する紡糸機2と、紡糸機2の下方に配置され、口金24から紡出された溶融ポリマーPが通過可能な紡糸筒50を有し、溶融ポリマーPを糸に冷却する冷却装置5と、紡糸筒50を、紡糸機2に対して近接する方向と離間する方向とに移動させることが可能な移動機構6と、溶融ポリマーPを紡糸筒50に通す糸通し作業を補助する糸通し補助装置60とを備える。糸通し補助装置60は、糸条の出口部56に対して押し当てるように取り付けることで紡糸筒50の内部が負圧となる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸機と、
前記紡糸機の下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーが通過可能な紡糸筒を有し、前記溶融ポリマーを冷却固化して糸条に形成する冷却装置と、
前記紡糸筒を、前記紡糸機に対して近接する方向と離間する方向とに移動させることが可能な移動機構と、
前記溶融ポリマーを前記紡糸筒に通す糸通し作業を補助する糸通し補助装置と、
を備え、
前記糸通し補助装置は、
前記糸条の出口部に対して配置することで前記紡糸筒の内部が負圧となるように構成されてなる、
紡糸巻取設備。
【請求項2】
前記糸通し補助装置は、前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置されてなる、
請求項1に記載の紡糸巻取設備。
【請求項3】
前記冷却装置は、前記紡糸筒に冷却風を供給する冷却風供給装置を有し、
前記紡糸巻取設備は、少なくとも前記糸通し作業が行われるときは、前記冷却風の供給を停止又は抑制する制御装置をさらに備える、
請求項1または2に記載の紡糸巻取設備。
【請求項4】
前記冷却装置は複数の前記紡糸筒を有しており、
前記糸通し補助装置は、
前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して配置可能に構成されてなる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項5】
前記糸通し補助装置は、
前記紡糸筒の内部を負圧にする負圧発生部と、
前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置可能であり、前記糸条の出口部と前記負圧発生部との間に設けられる筒状部と、を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項6】
前記筒状部は、前記糸条の出口部に対して押し当てる部位の開口領域が、前記糸条の出口部の開口領域よりも大きい、
請求項5に記載の紡糸巻取設備。
【請求項7】
前記筒状部には、前記糸条を捕捉する捕捉部が設けられてなる、
請求項5または6に記載の紡糸巻取設備。
【請求項8】
前記糸通し補助装置は、
一つの前記負圧発生部に対して複数の前記筒状部を含み、
前記複数の筒状部のそれぞれが、前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して押し当てるように配置可能に構成されてなる、
請求項5~7のいずれか1項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項9】
前記糸通し補助装置は、
前記紡糸筒の内部を吸引し、前記紡糸筒の上方から下方に向けて空気の流れを発生させることが可能である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項10】
前記紡糸機、前記冷却装置、及び前記移動機構をそれぞれ複数備え、
少なくとも前記冷却装置は上階に設けられ、当該冷却装置で冷却された糸を下階で引き取るように構成されており、
前記糸通し補助装置は、
前記複数の紡糸機、前記複数の冷却装置、及び前記複数の移動機構よりも少ない数であって、前記上階を移動可能に設けられることで、前記複数の冷却装置が有する複数の紡糸筒のいずれについても内部を負圧とすることが可能に構成されてなる、
請求項1~9のいずれか1項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項11】
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸機と、
前記紡糸機の下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーが通過可能な紡糸筒を有し、前記溶融ポリマーを糸条に冷却する冷却装置と、
前記紡糸筒を、前記紡糸機に対して近接する方向と離間する方向とに移動させることが可能な移動機構と、
を備える紡糸巻取設備への糸通し作業を補助する糸通し補助装置であって、
前記糸通し補助装置は、
前記糸条の出口部に対して配置することで前記紡糸筒の内部が負圧となるように構成されてなる、
糸通し補助装置。
【請求項12】
前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置されてなる、
請求項11に記載の糸通し補助装置。
【請求項13】
前記糸通し補助装置は、
前記紡糸筒に冷却風を供給する冷却風供給装置と、少なくとも前記糸通し作業が行われるときは前記冷却風の供給を停止又は抑制する制御装置と、をさらに備える紡糸巻取設備への糸通し作業を補助するものである、
請求項11または12に記載の糸通し補助装置。
【請求項14】
前記冷却装置が複数の前記紡糸筒を有する紡糸巻取設備に対して配置可能であり、
前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して配置可能に構成されてなる、
請求項11~13のいずれか1項に記載の糸通し補助装置。
【請求項15】
前記紡糸筒の内部を負圧にする負圧発生部と、
前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置可能であり、前記糸条の出口部と前記負圧発生部との間に設けられる筒状部と、を含む、
請求項11~14のいずれか1項に記載の糸通し補助装置。
【請求項16】
前記筒状部は、前記糸条の出口部に対して押し当てる部位の開口領域が、前記糸条の出口部の開口領域よりも大きい、
請求項15に記載の糸通し補助装置。
【請求項17】
前記筒状部には、前記糸条を捕捉する捕捉部が設けられてなる、
請求項15または16に記載の糸通し補助装置。
【請求項18】
一つの前記負圧発生部に対して複数の前記筒状部を含み、
前記複数の筒状部のそれぞれが、前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して押し当てるように配置可能に構成されてなる、
請求項15~17のいずれか1項に記載の糸通し補助装置。
【請求項19】
前記紡糸筒の内部を吸引し、前記紡糸筒の上方から下方に向けて空気の流れを発生させることが可能である、
請求項11~18のいずれか1項に記載の糸通し補助装置。
【請求項20】
前記紡糸巻取設備は、上階に設けられた前記紡糸機から紡出される複数の糸を下階で引き取るように構成され、
前記上階には、複数の前記紡糸巻取設備が並べて配置されており、
前記糸通し補助装置は、
前記上階を移動可能とすることで、前記上階に配置される複数の前記紡糸巻取設備のいずれについても、前記紡糸筒の内部を負圧とすることが可能に構成されてなる、
請求項11~19のいずれか1項に記載の糸通し補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸巻取設備、及び紡糸巻取設備に配置可能な糸通し補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸巻取設備は、高温の溶融ポリマーを口金から紡出する紡糸機の下方に、冷却装置を備えている。この冷却装置は、口金から紡出された高温の溶融ポリマーが通過可能な紡糸筒を有しており、紡糸筒に冷却風を供給して高温の溶融ポリマーに対して冷却風を吹き付けて冷却固化し、糸を形成している。
【0003】
この種の紡糸巻取設備では、生産性・糸品質維持のため、口金面の掃除(以下「面掃」と称する)や紡糸パックを交換するために、定期的にメンテナンスが行われる。例えば特許文献1(特に段落[0023]を参照)には、糸条冷却装置を降下させて、紡糸パックの交換や面掃等のメンテナンスを行えるようにした糸条冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、糸条冷却装置を降下させてメンテナンスを行う場合、口金から紡出される溶融ポリマーの紡出を停止し、メンテナンス終了後に、口金からの溶融ポリマーの紡出を再開する。溶融ポリマーの紡出を再開した後、オペレータは、口金から紡出される溶融ポリマーを手で切断して紡糸筒に通す糸通し作業を行う。
【0006】
しかし、上述の糸通し作業は、熟練を要する困難な作業である。とくに、口金からは溶融ポリマーが紡出され続けるため、紡糸筒に通すことができなかった溶融ポリマーが冷却装置の上部に堆積し、紡糸巻取設備の運転再開に時間を要してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、糸通し作業を容易に行うことを可能にした紡糸巻取設備、及び紡糸巻取設備への糸通し作業を容易にすることができる糸通し補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の紡糸巻取設備は、
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸機と、
前記紡糸機の下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーが通過可能な紡糸筒を有し、前記溶融ポリマーを冷却固化して糸条に形成する冷却装置と、
前記紡糸筒を、前記紡糸機に対して近接する方向と離間する方向とに移動させることが可能な移動機構と、
前記溶融ポリマーを前記紡糸筒に通す糸通し作業を補助する糸通し補助装置と、
を備え、
前記糸通し補助装置は、
前記糸条の出口部に対して配置することで前記紡糸筒の内部が負圧となるように構成されてなる、
ことを特徴とする。
【0009】
上記(1)に記載の紡糸巻取設備によれば、糸条の出口部に対して糸通し補助装置が配置されると紡糸筒の内部が負圧となり、紡糸筒の内部において上方から下方に向かう空気の流れが発生し、糸通し作業が補助される。そのため、糸通し作業を容易に行うことが可能となり、紡糸巻取設備の運転再開までに要する時間を短縮することが可能となる。
【0010】
(2)本発明の紡糸巻取設備において、
前記糸通し補助装置は、前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置されてなる、
ことが好ましい。
【0011】
上記(2)に記載の紡糸巻取設備によれば、糸条の出口部に対して糸通し補助装置が押し当てるように配置されるため、紡糸筒の内部を効率よく負圧にすることができる。
【0012】
(3)本発明の紡糸巻取設備において、
前記冷却装置は、前記紡糸筒に冷却風を供給する冷却風供給装置を有し、
前記紡糸巻取設備は、少なくとも前記糸通し作業が行われるときは、前記冷却風の供給を停止又は抑制する制御装置をさらに備える、
ことが好ましい。
【0013】
上記(3)に記載の紡糸巻取設備によれば、口金及び口金周辺の温度低下を抑制しつつ、糸通し作業を容易に行うことが可能となる。すなわち、紡糸筒に冷却風を供給することで溶融ポリマーを冷却固化することができるが、紡糸筒への糸通し作業を行う際には、口金及び口金周辺の温度低下を抑制するために紡糸筒への冷却風の供給を停止又は抑制することが好ましい。しかし、紡糸筒への冷却風の供給を停止又は抑制すると、紡糸筒への糸通し作業が困難となる。そこで、少なくとも糸通し作業が行われるときは冷却風の供給を停止又は抑制しつつ糸通し補助装置により紡糸筒の内部を負圧にすることで、口金及び口金周辺の温度低下を抑制できることに加えて、糸通し作業を容易に行うことが可能となる。
【0014】
(4)本発明の紡糸巻取設備において、
前記冷却装置は複数の前記紡糸筒を有しており、
前記糸通し補助装置は、
前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して配置可能に構成されてなる、
ことが好ましい。
【0015】
上記(4)に記載の紡糸巻取設備によれば、複数の紡糸筒のそれぞれに対して糸通し補助装置を配置可能であるため、糸通し作業において生じうるロスが少なく、効率よく糸通し作業を行うことが可能となる。
【0016】
(5)本発明の紡糸巻取設備において、
前記糸通し補助装置は、
前記紡糸筒の内部を負圧にする負圧発生部と、
前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置可能であり、前記糸条の出口部と前記負圧発生部との間に設けられる筒状部と、を含む、
ことが好ましい。
【0017】
上記(5)に記載の紡糸巻取設備によれば、糸条の出口部に対して筒状部を押し当てることで、紡糸筒の内部を効率よく負圧にすることができる。
【0018】
(6)本発明の紡糸巻取設備において、
前記筒状部は、前記糸条の出口部に対して押し当てる部位の開口領域が、前記糸条の出口部の開口領域よりも大きい、
ことが好ましい。
【0019】
上記(6)に記載の紡糸巻取設備によれば、紡糸筒からのリークを防止できるだけでなく、糸条の出口部に対して筒状部を容易に押し当てて接続することができる。
【0020】
(7)本発明の紡糸巻取設備において、
前記筒状部には、前記糸条を捕捉する捕捉部が設けられてなる、
ことが好ましい。
【0021】
上記(7)に記載の紡糸巻取設備によれば、糸条が捕捉部で捕捉されるため、糸条が原因となって生じうる糸通し補助装置のトラブルを防止することが可能となる。
【0022】
(8)本発明の紡糸巻取設備において、
前記糸通し補助装置は、
一つの前記負圧発生部に対して複数の前記筒状部を含み、
前記複数の筒状部のそれぞれが、前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して押し当てるように配置可能に構成されてなる、
ことが好ましい。
【0023】
上記(8)に記載の紡糸巻取設備によれば、複数の紡糸筒への糸通し作業を一つの負圧発生部で補助できるため、コストを削減できるとともに、糸通し補助装置の設置スペースが徒に大きくなってしまうことを抑制できる。
【0024】
(9)本発明の紡糸巻取設備において、
前記糸通し補助装置は、
前記紡糸筒の内部を吸引し、前記紡糸筒の上方から下方に向けて空気の流れを発生させることが可能である、
ことが好ましい。
【0025】
上記(9)に記載の紡糸巻取設備によれば、紡糸筒の内部が吸引されることによって上方から下方に向けて空気の流れが発生するため、糸通し作業を、より一層容易に行うことが可能となる。
【0026】
(10)本発明の紡糸巻取設備において、
前記紡糸機、前記冷却装置、及び前記移動機構をそれぞれ複数備え、
少なくとも前記冷却装置は上階に設けられ、当該冷却装置で冷却された糸を下階で引き取るように構成されており、
前記糸通し補助装置は、
前記複数の紡糸機、前記複数の冷却装置、及び前記複数の移動機構よりも少ない数であって、前記上階を移動可能に設けられることで、前記複数の冷却装置が有する複数の紡糸筒のいずれについても内部を負圧とすることが可能に構成されてなる、
ことを特徴とする。
【0027】
上記(10)に記載の紡糸巻取設備によれば、糸通し補助装置が上階を自由に移動できるため、上階に配置される複数の冷却装置がそれぞれ有する紡糸筒のいずれに対しても着脱可能である。そのため、複数の冷却装置がそれぞれ有する複数の紡糸筒のうち任意の紡糸筒の内部を負圧にすることができ、効率よく糸通し作業を行うことが可能となる。
【0028】
(11)本発明の糸通し補助装置は、
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸機と、
前記紡糸機の下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーが通過可能な紡糸筒を有し、前記溶融ポリマーを糸条に冷却する冷却装置と、
前記紡糸筒を、前記紡糸機に対して近接する方向と離間する方向とに移動させることが可能な移動機構と、
を備える紡糸巻取設備への糸通し作業を補助する糸通し補助装置であって、
前記糸通し補助装置は、
前記糸条の出口部に対して取り付けることで前記紡糸筒の内部が負圧となるように構成されてなる、
ことを特徴とする。
【0029】
上記(11)に記載の糸通し補助装置によれば、糸条の出口部に対して取り付けられると紡糸筒の内部が負圧となり、紡糸筒の内部において上方から下方に向かう空気の流れが発生し、糸通し作業が補助される。そのため、糸通し作業を容易に行うことが可能となり、紡糸巻取設備の運転再開までに要する時間を短縮することが可能となる。
【0030】
(12)本発明の糸通し補助装置において、
前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置されてなる、
ことが好ましい。
【0031】
上記(12)に記載の糸通し補助装置によれば、糸条の出口部に対して押し当てるように配置されるため、紡糸筒の内部を効率よく負圧にすることができる。
【0032】
(13)本発明の糸通し補助装置は、
前記紡糸筒に冷却風を供給する冷却風供給装置と、少なくとも前記糸通し作業が行われるときは前記冷却風の供給を停止又は抑制する制御装置と、をさらに備える紡糸巻取設備への糸通し作業を補助するものである、
ことが好ましい。
【0033】
上記(13)に記載の糸通し補助装置によれば、口金及び口金周辺の温度低下を抑制しつつ、糸通し作業を容易に行うことが可能となる。すなわち、紡糸筒に冷却風を供給することで溶融ポリマーを冷却固化することができるが、紡糸筒への糸通し作業を行う際には、口金及び口金周辺の温度低下を抑制するために紡糸筒への冷却風の供給を停止又は抑制することが好ましい。しかし、紡糸筒への冷却風の供給を停止又は抑制すると、紡糸筒への糸通し作業が困難となる。そこで、少なくとも糸通し作業が行われるときは冷却風の供給を停止又は抑制しつつ糸通し補助装置により紡糸筒の内部を負圧にすることで、口金及び口金周辺の温度低下を抑制できることに加えて、糸通し作業を容易に行うことが可能となる。
【0034】
(14)本発明の糸通し補助装置において、
前記冷却装置が複数の前記紡糸筒を有する紡糸巻取設備に対して配置可能であり、
前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して配置可能に構成されてなる、
ことが好ましい。
【0035】
上記(14)に記載の糸通し補助装置によれば、複数の紡糸筒のそれぞれに対して糸通し補助装置を配置可能であるため、糸通し作業において生じうるロスが少なく、効率よく糸通し作業を行うことが可能となる。
【0036】
(15)本発明の糸通し補助装置において、
前記紡糸筒の内部を負圧にする負圧発生部と、
前記糸条の出口部に対して押し当てるように配置可能であり、前記糸条の出口部と前記負圧発生部との間に設けられる筒状部と、を含む、
ことが好ましい。
【0037】
上記(15)に記載の糸通し補助装置によれば、糸条の出口部に対して筒状部を押し当てることで、紡糸筒の内部を効率よく負圧にすることができる。
【0038】
(16)本発明の糸通し補助装置において、
前記筒状部は、前記糸条の出口部に対して押し当てる部位の開口領域が、前記糸条の出口部の開口領域よりも大きい、
ことが好ましい。
【0039】
上記(16)に記載の糸通し補助装置によれば、紡糸筒からのリークを防止できるだけでなく、糸条の出口部に対して筒状部を容易に押し当てて接続することができる。
【0040】
(17)本発明の糸通し補助装置において、
前記筒状部には、前記糸条を捕捉する捕捉部が設けられてなる、
ことが好ましい。
【0041】
上記(17)に記載の糸通し補助装置によれば、糸条が捕捉部で捕捉されるため、糸条が原因となって生じうるトラブルを防止することが可能となる。
【0042】
(18)本発明の糸通し補助装置において、
一つの前記負圧発生部に対して複数の前記筒状部を含み、
前記複数の筒状部のそれぞれが、前記複数の紡糸筒のそれぞれに対して押し当てるように配置可能に構成されてなる、
ことが好ましい。
【0043】
上記(18)に記載の糸通し補助装置によれば、一つの負圧発生部で、複数の紡糸筒への糸通し作業を補助できるため、コストを削減できるとともに、糸通し補助装置の設置スペースが徒に大きくなってしまうことを抑制できる。
【0044】
(19)本発明の糸通し補助装置において、
前記紡糸筒の内部を吸引し、前記紡糸筒の上方から下方に向けて空気の流れを発生させることが可能である、
ことが好ましい。
【0045】
上記(19)に記載の糸通し補助装置によれば、紡糸筒の内部を吸引することによって上方から下方に向けて空気の流れを発生させることができるため、糸通し作業を、より一層容易に行うことが可能となる。
【0046】
(20)本発明の糸通し補助装置において、
前記紡糸巻取設備は、上階に設けられた前記紡糸機から紡出される複数の糸を下階で引き取るように構成され、
前記上階には、複数の前記紡糸巻取設備が並べて配置されており、
前記糸通し補助装置は、
前記上階を移動可能とすることで、前記上階に配置される複数の前記紡糸巻取設備のいずれについても、前記紡糸筒の内部を負圧とすることが可能に構成されてなる、
ことが好ましい。
【0047】
上記(20)に記載の糸通し補助装置によれば、上階を自由に移動することで、上階に配置される複数の紡糸巻取設備のいずれに対しても着脱可能である。そのため、複数の紡糸巻取設備のうち任意の紡糸巻取設備が備える紡糸筒の内部を負圧にすることができ、効率よく糸通し作業を行うことが可能となる。
【0048】
本発明に係る紡糸巻取設備は、上記(1)~(10)に記載された構成の全部を備えることは必須でない。例えば、本発明に係る紡糸巻取設備は、上記(1)のみに記載された構成のみであってもよい。また、整合を図ることができる範囲で、上記(1)に記載された構成と、上記(2)~(10)の少なくともいずれかに記載された構成の全部または一部の構成と、を任意に組み合わせたものを、本発明に係る紡糸巻取設備とすることもできる。同様に、本発明に係る糸通し補助装置は、上記(11)~(20)に記載された構成の全部を備えることは必須でない。例えば、本発明に係る糸通し補助装置は、上記(11)のみに記載された構成のみであってもよい。また、整合を図ることができる範囲で、上記(11)に記載された構成と、上記(12)~(20)の少なくともいずれかに記載された構成の全部または一部の構成と、を任意に組み合わせたものを、本発明に係る糸通し補助装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、糸通し作業を容易に行うことを可能にした紡糸巻取設備、及び紡糸巻取設備への糸通し作業を容易にすることができる糸通し補助装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本実施の形態に係る紡糸巻取設備の一部を右側方から見た場合の概略図の一例である。
【
図2】
図1に示される紡糸巻取設備の一部を前方から見た場合の概略図の一例である。
【
図3】本実施の形態に係る紡糸巻取設備の運転を停止し、冷却装置を下降させたときの紡糸巻取設備の状態を示す概略図の一例である。
【
図4】本実施の形態に係る紡糸巻取設備の電気的構成の概略を示すブロック図の一例である。
【
図5】本実施の形態に係る紡糸巻取設備を構成する各種構成のうち、冷却装置及び糸通し補助装置を上方から見た場合の概略斜視図の一例である。
【
図6】紡糸巻取設備を構成する各種構成のうち、冷却装置及び糸通し補助装置を下方から見た場合の概略斜視図の一例である。
【
図7】紡糸巻取設備の一部を右側方から見た場合の概略図の一例であって、冷却装置に糸通し補助装置が取り付けられた状態を示す図である。
【
図8】本実施の形態に係る紡糸巻取設備を構成する各種構成のうち、冷却装置を上方から見た場合の概略斜視図の一例であり、複数の紡糸筒のそれぞれに糸通しが行われたときの態様を示す図である。
【
図9】第1変形例の紡糸巻取設備のうち冷却装置及び糸通し補助装置を下方から見た場合の概略斜視図の一例である。
【
図10】第2変形例の紡糸巻取設備のうち冷却装置及び糸通し補助装置を下方から見た場合の概略斜視図の一例である。
【
図11】第3変形例の糸通し補助装置を説明するための図であって、紡糸巻取設備の一部を前方から見た場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明の便宜上、上下方向、左右方向、及び、前後方向の各方向を、後述する各図に示されるとおりとする。
【0052】
先ず、本発明の実施の形態(以下、単に「本実施の形態」と称する。)に係る紡糸巻取設備1の概要について説明する。
図1は、本実施の形態に係る紡糸巻取設備1の一部を右側方から見た場合の概略図の一例である。
図2は、
図1に示される紡糸巻取設備1の一部を前方から見た場合の概略図の一例である。
図1及び
図2は、いずれも紡糸巻取設備1が運転中(生産中)であるときの図である。
図3は、本実施の形態に係る紡糸巻取設備1の運転を停止し、冷却装置5を下降させたときの紡糸巻取設備1の状態を示す概略図の一例である。
図3では、溶融ポリマーPの紡出が停止されている。なお、
図1及び
図3において、便宜上、
図2に示されるポリマータンク25及びポリマー配管26の図示を省略している。
【0053】
本実施の形態に係る紡糸巻取設備1は、合成繊維からなる糸条を生産するための設備である。例えば
図1に示されるように、紡糸巻取設備1は、少なくとも、紡糸機2と、冷却装置5と、移動機構6と、を備える。また、紡糸巻取設備1は、これらの他に、油剤付与装置8、引取装置(不図示)、及び、巻取装置(不図示)等も備えるが、ここでは説明を省略する。
【0054】
(紡糸機)
図1又は
図2に示されるように、紡糸機2は、糸条Yの材料である溶融ポリマーPを紡出するように構成された溶融紡糸機である。紡糸機2は、概ね直方体形状の紡糸ビーム21と、紡糸ビーム21に形成された複数のパックハウジング22と、複数のパックハウジング22にそれぞれ装着された複数(例えば複数のパックハウジング22と同数)の紡糸パック23と、ポリマーが収容されたポリマータンク25と、各紡糸パック23とポリマータンク25とを接続する複数のポリマー配管26とを有する。
【0055】
なお、
図2では、便宜上、パックハウジング22及び紡糸パック23の数が3個として図示されているが、これに限られず、パックハウジング22及び紡糸パック23の数はこれより多い数(例えば12個)であってもよい。
【0056】
ポリマータンク25内のポリマーは、複数のポリマー配管26を介して、複数の紡糸パック23へと送られる。ポリマータンク25から紡糸パック23にポリマーが送られるとき、ポリマータンク25及びポリマー配管26の内部のポリマーは、所定の温度(例えば300℃)まで加熱され、溶融ポリマーとなる。
【0057】
各紡糸パック23には、ポリマー配管26から、高温に加熱された液状の溶融ポリマーが供給される。各紡糸パック23の下端部には、口金24が配置されている。すなわち、口金24の数は、紡糸パック23と同数である。口金24は、例えば複数のノズル(不図示)を有する。紡糸パック23は、溶融ポリマーPを口金24の複数のノズルからそれぞれ吐出する。複数のノズルから吐出された複数の溶融ポリマーPは、冷却装置5で冷却固化されて、複数のフィラメントからなる1本の糸条となる。すなわち、1つの口金24からは、1本の糸条の糸材料が紡出される。なお、各口金24が複数のノズルを有することは必須でなく、1つのノズルのみを有していても良い。
【0058】
(冷却装置)
図1に示されるように、冷却装置5は、紡糸機2の下側に配置される紡糸筒50と、紡糸筒50に接続されたダクト32と、ダクト32を介して紡糸筒50に冷却風CFを供給する圧空源37とを有する。本実施の形態では、冷却装置5として、例えば環状糸冷却装置が用いられる。紡糸筒50は、例えば、中空の箱体であって、口金24から紡出された溶融ポリマーPを囲うように(溶融ポリマーPが中空部54を通過するように)、中空部54が上下方向に延びている。紡糸筒50は内部に整流板33を有しており、圧空源37から供給された冷却用の空気(以下、この空気を「冷却風CF」と称する)は、ダクト32内を通って紡糸筒50の下部空間(整流板33よりも下方の空間)内に供給される。紡糸筒50の下部空間に流入した冷却風CFは、整流板33を通過して上向きに整流され、紡糸筒50の上部空間(整流板33よりも上方の空間)へ流れる。フィルタ部材36の真下の位置には、複数の仕切筒35が配置されている。仕切筒35は、冷却風CFを仕切筒35の径方向に透過させないように構成されているため、紡糸筒50の下部空間から中空部54には、冷却風CFが直接的には流れ込まない。紡糸筒50の上部空間に流入した冷却風CFは、例えばパンチングフィルタ及び冷却フィルタで構成されるフィルタ部材36を通過する際に整流されて、中空部54に流れ込む。これにより、フィルタ部材36の外側全周から糸材料に冷却風CFが吹き付けられ、糸材料が冷却されて糸条Yになる。なお、紡糸ビーム21と紡糸筒50とが当接する部位にはシール部材40が設けられている。このシール部材40により、紡糸ビーム21と紡糸筒50との当接面からのリークを防止できる。上記の圧空源37は、本発明の「冷却風供給装置」に相当する。
【0059】
(移動機構)
移動機構6は、例えばエアシリンダで構成されており(以下、移動機構6をエアシリンダ6と称する)、冷却装置5を昇降移動可能に構成されている。より詳細には、エアシリンダ6は、例えば工場の床面に立設されている。エアシリンダ6は、ピストンロッド7が上下方向に長く、上下方向に拡縮可能に配置されている。紡糸筒50の下端には、下側へ延びた壁部材10が固定されている。壁部材10の側面には、ピストンロッド7の先端部が固定されている。このような構成において、冷却装置5全体が、エアシリンダ6の作動によって、紡糸巻取設備1が運転しているときの第1位置(
図1を参照)と、第1位置よりも下側の第2位置(
図3を参照)との間で移動可能である。冷却装置5は、エアシリンダ6のピストンロッド7が拡方向(
図1における上方向)に作動すると上昇し、ピストンロッド7が縮方向(
図1における下方向)に作動すると下降する。冷却装置5が第1位置に位置しているとき、糸条Yを生成することが可能である。冷却装置5が第1位置に位置しているとき、冷却装置5は、エアシリンダ6によって上側(紡糸ビーム21側)に向かう力を加えられている。冷却装置5が第2位置に位置しているとき、上下方向における紡糸機2(より詳しくは紡糸ビーム21)と冷却装置5との間に、作業空間として機能する間隙が形成される。
【0060】
なお、上記の第1位置に向かう方向すなわち上方向が本発明の「紡糸機に対して近接する方向」に相当し、上記の第2位置に向かう方向すなわち下方向が本発明の「紡糸機に対して離間する方向」に相当する。
【0061】
(制御装置)
図4は、紡糸巻取設備1の電気的構成の概略を示すブロック図の一例である。制御装置4は、紡糸巻取設備1の運転にかかわる処理を実行するものである。制御装置4は、例えば、口金24からの溶融ポリマーPの紡出及び紡出の停止、エアシリンダ6の作動又は停止、圧空源37の作動又は停止、及び、圧空源37から紡糸筒50すなわち中空部54に供給される冷却風CFの流量制御等を行う。
【0062】
制御装置4は、CPU、ROM及びRAM等を有する。制御装置4は、オペレータが操作可能なボタン等で構成される操作部42、冷却装置5が上端にあることを検出する上端検出センサ44、及び、冷却装置5が下端にあることを検出する下端検出センサ46等に接続されている。制御装置4は、操作部42、上端検出センサ44及び下端検出センサ46等から信号を受信可能である。
【0063】
さらに、制御装置4は、口金24から溶融ポリマーPを紡出させることが可能なギアポンプ28、圧空源37、エアシリンダ6を作動させることが可能な電磁弁48等に接続されている。制御装置4は、操作部42、上端検出センサ44及び下端検出センサ46等からの各種信号を受信したことに基づいて、ギアポンプ28、圧空源37、及び電磁弁48等の制御を行う。制御装置4は、電磁弁48を制御することによって、エアシリンダ6の作動を制御する。
【0064】
制御装置4は、圧空源37の運転開始及び運転停止を制御するとともに、圧空源37から紡糸筒50に供給される冷却風CFの流量(以下、「風量」と称する)を制御する。
【0065】
なお、制御装置4は、圧空源37を制御することで紡糸筒50に供給される冷却風CFの風量を制御するが、これに限定されない。制御装置4は、圧空源37を制御することに代えて、例えばダクト32よりも上流側に自動弁を設けてこの自動弁の開度を制御することにより、紡糸筒50に供給される冷却風CFの風量を制御するようにしてもよい。
【0066】
(メンテナンス)
紡糸巻取設備1では、定期的にメンテナンスが行われる。メンテナンスは、
図3に示されるように、溶融ポリマーPの紡出を停止し、エアシリンダ6を縮方向に作動させて、紡糸ビーム21に対して冷却装置5を下降させて行われる。メンテナンスの内容は、口金24の面掃、紡糸パック23の交換等であるが、これに限定されない。
【0067】
なお、メンテナンスが行われるとき、圧空源37から紡糸筒50への冷却風CFの供給が停止されることが好ましい。口金24及び口金24の周辺温度の低下を抑制するためである。口金24及び口金24の周辺温度が大きく低下すると、メンテナンス終了後に生産を開始した後、口金24や口金24の周辺温度が元の温度に復帰するまでに時間を要する。口金24や口金24の周辺温度が低下した状態で生産された糸は物性が低下し、廃棄される糸も増えてしまう。よって、口金24及び口金24の周辺温度の低下を抑制するために、冷却装置5を上昇させるまでの間は、極力、圧空源37から紡糸筒50への冷却風CFの供給が停止されることが好ましい。
【0068】
メンテナンスが行われた後、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を開始(再開)する。溶融ポリマーPの紡出が再開された後、オペレータは、復帰作業として、冷却装置5すなわち紡糸筒50を紡糸ビーム21に対して下降させた状態で、口金24から紡出された溶融ポリマーP(又は冷却固化された糸条Y)を紡糸筒50に通す糸通し作業を行う。
【0069】
口金24から紡出された溶融ポリマーPを紡糸筒50の中空部54に通す糸通し作業は、オペレータによる手作業で行われるが、口金24から絶え間なく溶融ポリマーPが紡出され、しかも溶融ポリマーPが高温であるため、非常に困難な作業である。熟練者であっても、口金24から紡出された溶融ポリマーPを紡糸筒50の中空部54に通すことが難しく、紡糸筒50の上部等に溶融ポリマーP又は冷却固化された糸条Yが大量に堆積してしまうおそれがある。さらに、上記の糸通し作業に手間取って時間を要してしまうと、廃棄される糸条Yが増えるだけでなく、紡糸巻取設備1が正常運転状態となるまでの復帰時間も長くなり、生産性の観点からも好ましくない。
【0070】
そこで、本実施の形態の紡糸巻取設備1は、溶融ポリマーPを紡糸筒50の中空部54に通す糸通し作業を補助する糸通し補助装置60(後述の
図5~
図7を参照)を備える。この糸通し補助装置60は、紡糸巻取設備1に対して着脱可能に構成されており、紡糸巻取設備1の運転中は紡糸巻取設備1から取り外され、少なくとも紡糸筒50への糸通し作業を行うときに、冷却装置5に取り付けられる。
【0071】
(糸通し補助装置60)
図5は、本実施の形態に係る紡糸巻取設備1を構成する各種構成のうち、冷却装置5及び糸通し補助装置60を上方から見た場合の概略斜視図の一例である。
図6は、本実施の形態に係る紡糸巻取設備1を構成する各種構成のうち、冷却装置5及び糸通し補助装置60を下方から見た場合の概略斜視図の一例である。
図5及び
図6において、糸通し補助装置60は、便宜上、1つのみ示されているが、本実施の形態では、複数備えられている。より詳しくは、1つの紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60が備えられている。
【0072】
図5及び
図6に示されるように、紡糸筒50は、入口部52と出口部56とを有し、入口部52と出口部56との間に中空部54を有する。紡糸筒50への糸通し作業は、口金24(
図1~
図3を参照)から紡出された溶融ポリマーPが中空部54を経て出口部56から出るように、かかる溶融ポリマーPを入口部52から通す作業である。
図5では、便宜上、複数の紡糸筒50のうち1つの紡糸筒50のみ、中空部54及び出口部56を破線で示している。また、
図6では、便宜上、複数の紡糸筒50のうち1つの紡糸筒50のみ、入口部52及び中空部54を破線で示している。
【0073】
糸通し補助装置60は、負圧発生源62と、吸引管64とを備える。負圧発生源62は、例えば吸引により紡糸筒50の中空部54を負圧にするものであり、例えば駆動源としてのモータにより作動(回転)するブロアが用いられる。上記の負圧発生源62は、本発明の「負圧発生部」に相当する。
【0074】
吸引管64は、例えば端部が円形に開口された筒状の部材であり、紡糸筒50の出口部56と負圧発生源62とを接続するものである。吸引管64は、一方の端部が負圧発生源62に接続されており、他方の端部の開口部64a(以下、単に「吸引管64の開口部64a」と称する)が紡糸筒50の出口部56に接続されている。このようにして、糸通し補助装置60が冷却装置5に取り付けられる。吸引管64と紡糸筒50との接続(より詳しくは吸引管64の開口部64aと紡糸筒50の出口部56との接続)は、吸引管64の開口部64aを紡糸筒50の出口部56に押し当てて密着させることによって行われる。このように、吸引管64の開口部64aを紡糸筒50の出口部56に押し当てて密着させて吸引管64と紡糸筒50とを接続することで、吸引エアーの洩れ(リーク)を防止でき、紡糸筒50の内部を負圧にすることができる。なお、紡糸筒50の出口部56に対して開口部64aを押し当てる押付力は、作業者が手で押し付ける程度の押付力でよい。上記の吸引管64は、本発明の「筒状部」に相当する。
【0075】
本実施の形態では、吸引管64の開口部64aの径が紡糸筒50の出口部56の開口領域の径よりも僅かに大きく、吸引管64が出口部56を外挿できるように構成されている。このようにすることで、紡糸筒50からのリークを防止できるだけでなく、紡糸筒50の出口部56に対して吸引管64を容易に押し当てて接続することができる。吸引管64を出口部56に外挿した後、出口部56から吸引管64が離脱しないように、例えば接続部材72によって吸引管64と出口部56とが固定される。吸引管64と出口部56との接続部からリークしないように、吸引管64が出口部56に外挿されたとき、吸引管64の内周面と出口部56の外周面との間にシール部材を設けることが好ましい。上記の「開口部64a」は、本発明の「糸条の出口部に対して押し当てる部位の開口領域」に相当する。また、上記の「紡糸筒50の出口部56」は、本発明の「糸条の出口部」に相当する。
【0076】
なお、吸引管64の開口部64aの径が紡糸筒50の出口部56の開口領域の径よりも大きいことは必須でなく、吸引管64の開口部64aを紡糸筒50の出口部56に押し当てて密着させることができれば、吸引管64の開口部64aの径が紡糸筒50の出口部56の開口領域の径より小さくてもよい。
【0077】
また、吸引管64の開口部64aと紡糸筒50の出口部56とを完全に密着させることが好ましい。ただし、吸引管64の開口部64aと紡糸筒50の出口部56とを完全に密着させることは必須でなく、紡糸筒50の内部(中空部54)が10kpa程度の負圧(大気圧よりも10kPa程度小さい圧力)となるように密着させることができればよい。紡糸筒50の内部(中空部54)を10kpa程度の負圧にすることができれば、紡糸筒50への糸通し作業を容易化させることができる。
【0078】
なお、出口部56への吸引管64の接続は、紡糸筒50の中空部54を負圧にして入口部52から出口部56に向かう空気の流れを発生させることができれば、上記の態様に限定されない。例えば、吸引管64が出口部56に内挿することで両者を接続する態様であってもよいし、出口部56の下端部と吸引管64の上端部とを当接させて両者を接続する態様であってもよい。
【0079】
吸引管64は、フレキシブルに変形できるものであることが好ましい。吸引管64をフレキシブルに変形できるものとすることで、吸引管64と、紡糸筒50の出口部56又は/及び負圧発生源62との接続を容易に行うことができるだけでなく、紡糸筒50の出口部56と負圧発生源62との間の経路を自在にすることもできる。
【0080】
また、吸引管64は、紡糸筒50の出口部56と接続される側の開口部64aに、捕捉部70が設けられている。捕捉部70は、上記の開口部64aの全部を覆うことが可能な例えばメッシュシートが用いられる。捕捉部70は、紡糸筒50の出口部56から出てきた糸条Yを捕捉するものであり、糸条Yの線径よりも目開きが小さいメッシュであることが好ましい。出口部56から出てきた糸条Yが捕捉部70で捕捉されるようにすることで、糸条Yが原因となって負圧発生源62が故障することを防止できる。
【0081】
なお、捕捉部70を設ける箇所は、紡糸筒50の出口部56に接続される側の吸引管64の開口部64aに限定されず、出口部56と負圧発生源62との間であれば特定の箇所に限定されない。出口部56から出た糸条Yを、負圧発生源62にたどりつくまでの間に捕捉できれば、捕捉部70を設ける箇所は特定の箇所に限定されない。
【0082】
図7は、本実施の形態に係る紡糸巻取設備1の一部を右側方から見た場合の概略図の一例であって、冷却装置5に糸通し補助装置60が取り付けられた状態を示す図である。
【0083】
紡糸筒50の出口部56と負圧発生源62とが接続された状態で負圧発生源62が作動すると、紡糸筒50の内部(すなわち中空部54)が負圧発生源62により吸引されて負圧となる。紡糸筒50の中空部54が負圧になると、紡糸筒50の中空部54には、上方から下方に向かう空気の流れが発生する(
図7に示される矢印を参照)。そのため、口金24から紡出された溶融ポリマーPは、紡糸筒50の入口部52に近付けるだけで、紡糸筒50の内部に吸い込まれやすくなる。
【0084】
このように、口金24から紡出された溶融ポリマーPが紡糸筒50の内部に吸い込まれやすくなると、
図8に示されるように、複数の口金24から紡出された溶融ポリマーPを、それぞれ、対応する紡糸筒50に通すことが容易となる。その結果、紡糸巻取設備1の運転再開までに要する時間を短縮することが可能となる。なお、
図8は、本実施の形態に係る紡糸巻取設備1を構成する各種構成のうち、冷却装置5を上方から見た場合の概略斜視図の一例であり、複数の紡糸筒50のそれぞれに糸通しが行われたときの態様を示す図である。
図8では、便宜上、複数の紡糸筒50のうち1つの紡糸筒50のみ、中空部54及び出口部56を破線で示している。また、各紡糸筒50の出口部56のそれぞれには糸通し補助装置60(
図5~
図7を参照)が接続されているが、
図8では、便宜上、糸通し補助装置60の図示を省略している。
【0085】
また、本実施の形態において、紡糸巻取設備1は、上述のとおり、複数の紡糸筒50の出口部56のそれぞれに吸引管64を押し当てて密着させることで両者が接続されるように構成されている。すなわち、1つの紡糸筒50の出口部56に対して1つの糸通し補助装置60を配置することができる。このようにすることで、複数の紡糸筒50それぞれの中空部54を確実に負圧にすることができ、効率よく糸通し作業を行うことが可能となる。
【0086】
ところで、上述したとおり、とくに冷却装置5を上昇させるまでの間は、極力、圧空源37(
図4参照)から紡糸筒50への冷却風CF(
図1参照)の供給を停止することが好ましい。しかし、紡糸筒50への冷却風CFの供給を停止すると、紡糸筒50への糸通し作業が困難となる。そこで、少なくとも糸通し作業が行われるときは紡糸筒50への冷却風CFの供給を停止して糸通し補助装置60により紡糸筒の内部を負圧にすることで、口金24及び口金24周辺の温度低下を抑制できることに加えて、糸通し作業を容易に行うことが可能となる。
【0087】
紡糸筒50への冷却風CFの停止は、制御装置4(
図4参照)の制御により行われることが好ましい。例えば、オペレータは、メンテナンスを行うときに圧空源37(
図4参照)の運転を停止するために操作部42(
図4参照)を操作する。制御装置4は、操作部42が操作されたことに基づいて、圧空源37の停止を制御する。ただし、紡糸筒50に供給される冷却風CFの風量を、例えばダクト32よりも上流側に設けられた自動弁(不図示)の開度によって調整する場合、制御装置4は、かかる自動弁が閉じられるように制御することにより、紡糸筒50に冷却風CFが供給されないようにしてもよい。
【0088】
制御装置4(
図4参照)は、紡糸筒50に供給される冷却風CF(
図1参照)の風量制御を、操作部42(
図4参照)が操作されたことに基づいて行うことに限定されない。例えば、制御装置4は、上端検出センサ44(
図4参照)が検出されていないとき(すなわち紡糸筒50が上端にないとき)に、紡糸筒50に冷却風CFが供給されないようにしてもよい。また、制御装置4は、下端検出センサ46(
図4参照)が検出されているとき(すなわち紡糸筒50が下端にあるとき)に、紡糸筒50に冷却風CFが供給されないようにしてもよい。さらには、上端検出センサ44及び下端検出センサ46のいずれも検出されていないときや、上端検出センサ44と下端検出センサ46との間に別の検出センサを設けてこのセンサが検出されているとき等、紡糸筒50が上下方向において上端と下端との間にあるときに、紡糸筒50に冷却風CFが供給されないようにしてもよい。
【0089】
なお、紡糸筒50への糸通し作業が行われるときは、紡糸筒50への冷却風CF(
図1参照)の供給を停止した方が好ましいが、完全に停止することは必須でない。例えば、口金24及び口金24周辺の温度低下を抑制することができれば、紡糸巻取設備1の運転時と比べて少量の風量(例えば極微量の風量)が紡糸筒50に供給される態様を排除するものでない。
【0090】
(変形例)
本発明に係る紡糸巻取設備1は上述の実施の形態において説明したとおりであるが、本発明に係る紡糸巻取設備は上述の紡糸巻取設備1に限定されない。以下に、第1変形例及び第2変形例について説明する。なお、以下に説明する第1変形例及び第2変形例では、上述の本実施の形態と異なる構成について主に説明し、その他の構成については、極力、説明を省略するものとする。また、上述の本実施の形態の紡糸巻取設備1が備える各種構成と共通する構成については、共通の符号を用いるものとする。
【0091】
(第1変形例)
上述の本実施の形態では、1つの紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60が備えられている。これに対し、第1変形例は、糸通し補助装置の数を、紡糸筒50の数よりも少なくしたものである。以下、第1変形例に係る紡糸巻取設備1Aについて説明する。
【0092】
紡糸巻取設備1Aは、紡糸巻取設備1が備える糸通し補助装置60に代えて、糸通し補助装置60Aを備えている。紡糸巻取設備1Aが備える各種構成は、糸通し補助装置60Aを除いて、紡糸巻取設備1が備える各種構成と共通する。
【0093】
図9は、第1変形例の紡糸巻取設備1Aのうち冷却装置5及び糸通し補助装置60Aを下方から見た場合の概略斜視図の一例である。
図9では、便宜上、複数の紡糸筒50のうち1つの紡糸筒50のみ、入口部52及び中空部54を破線で示している。
【0094】
紡糸巻取設備1Aは、複数の紡糸筒50の数よりも少ない数として、例えば1つの糸通し補助装置60Aを備えている。
【0095】
糸通し補助装置60Aは、例えば、1つの負圧発生源62Aと吸引管64Aとを備える。負圧発生源62Aは、糸通し補助装置60が備える負圧発生源62と同様に、紡糸筒50の中空部54を負圧にするものであり、例えば駆動源としてのモータにより作動(回転)するブロアが用いられる。ただし、負圧発生源62Aの吸引力は、負圧発生源62の吸引力よりも大きい方が好ましい。
【0096】
吸引管64Aは、負圧発生源62Aに接続される例えば1つの集合管641Aと、この集合管641Aに接続される複数の枝管642Aとを備える。集合管641Aは、負圧発生源62Aに接続されている。複数の枝管642Aは、それぞれ、一方の端部が集合管641Aに接続されている。複数の枝管642Aの数は複数の紡糸筒50の数と同じであり、複数の枝管642Aは、それぞれ、他方の端部が対応する紡糸筒50の出口部56に接続可能に構成されている。なお、上述の吸引管64の他に、枝管642Aも本発明の「筒状部」に相当する。
【0097】
吸引管64と同様に、複数の枝管642Aは、それぞれ、対応する(接続される)紡糸筒50の出口部56に外挿することができるように、対応する出口部56の径よりも僅かに大きな径となっている。複数の枝管642Aのそれぞれを対応する出口部56に外挿した後、出口部56から枝管642Aが離脱しないように、例えば接続部材72によって枝管642Aと出口部56とが固定される。枝管642Aと出口部56との接続部からリークしないように、枝管642Aが出口部56に外挿されたとき、枝管642Aの内周面と出口部56の外周面との間にシール部材を設けることが好ましい。ただし、複数の紡糸筒50の中空部54を負圧にすることができれば、上記の態様に限定されない。
【0098】
また、複数の枝管642Aは、吸引管64と同様に、フレキシブルに変形できるものであることが好ましい。
【0099】
このように、複数の紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60Aを備えることにより、糸通し補助装置60Aの台数を少なくすることができ、糸通し補助装置60Aの設置スペースを抑制しつつ、糸通し作業の容易化を図ることが可能となる。また、複数の紡糸筒50に対する糸通し補助装置60Aの接続作業の負荷軽減ひいては作業時間の短縮を図ることが可能となる。
【0100】
なお、上述の第1変形例では、複数の紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60A(より詳しくは1つの負圧発生源62A)を備えているが、紡糸巻取設備1Aが備える糸通し補助装置60Aの数は1つに限定されない。例えば、紡糸巻取設備1Aが備える紡糸筒50の数が12個である場合、12個の紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60Aが備えられていてもよいし、6個の紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60Aが備えられていてもよい。後者の場合、紡糸巻取設備1Aが備える糸通し補助装置60Aの数は2つである。
【0101】
(第2変形例)
上述の本実施の形態及び第1変形例では、吸引管64または枝管642Aを、対応する紡糸筒50の出口部56に接続させているが、第2変形例は、冷却装置5に接続させるようにしたものである。以下、第2変形例に係る紡糸巻取設備1Bについて説明する。
【0102】
紡糸巻取設備1Bは、紡糸巻取設備1が備える糸通し補助装置60に代えて、糸通し補助装置60Bを備えている。紡糸巻取設備1Bが備える各種構成は、糸通し補助装置60Bを除いて、紡糸巻取設備1が備える各種構成と共通する。
【0103】
図10は、第2変形例の紡糸巻取設備1Bのうち冷却装置5及び糸通し補助装置60Bを下方から見た場合の概略斜視図の一例である。
図10では、便宜上、複数の紡糸筒50のうち1つの紡糸筒50のみ、入口部52及び中空部54を破線で示している。
【0104】
糸通し補助装置60Bは、例えば、負圧発生源62Bと、吸引管64Bと、箱状のカバー部材66Bとを備える。負圧発生源62Bは、糸通し補助装置60が備える負圧発生源62と同様に、紡糸筒50の中空部54を負圧にするものであり、例えば駆動源としてのモータにより作動(回転)するブロアが用いられる。ただし、負圧発生源62Bの吸引力は、負圧発生源62の吸引力よりも大きい方が好ましい。
【0105】
吸引管64Bは、一方の端部が負圧発生源62Bに接続され、他方の端部がカバー部材66Bに接続されている。
【0106】
カバー部材66Bは、冷却装置5の例えば下面に押し当てて密着させて両者を接続可能に構成されている。カバー部材66Bが冷却装置5に接続されると、複数の紡糸筒50の出口部56がカバー部材66Bに覆われる。
【0107】
冷却装置5にカバー部材66Bが接続された状態で負圧発生源62Bが作動すると、カバー部材66Bの内部ひいては紡糸筒50の中空部54が負圧発生源62Bにより吸引されて負圧となる。よって、紡糸筒50の中空部54には上方から下方に向かう空気の流れが発生し、口金24から紡出された溶融ポリマーPは、紡糸筒50の入口部52に近付けるだけで、紡糸筒50の内部に吸い込まれやすくなる。
【0108】
このように、複数の紡糸筒50の出口部56のそれぞれに、吸引管64または吸引管64Aを直接接続させなくとも、紡糸筒50の中空部54に、上方から下方に向かう空気の流れを発生させることが可能である。すなわち、紡糸筒50の中空部54を負圧にすることができれば、口金24から紡出された溶融ポリマーPを紡糸筒50の入口部52に近付けるだけの従来よりも簡単な作業で、紡糸筒50への糸通し作業を行うことが可能となる。
【0109】
(第3変形例)
上述の本実施の形態では、1つの紡糸筒50に対して1つの糸通し補助装置60が備えられている。また、上述の第1変形例では、紡糸筒50の数よりも少ない数の糸通し補助装置60Aが備えられている。さらに、上述の第2変形例では、糸通し補助装置60B(より詳しくは吸引管64または枝管642A)を、冷却装置5に接続させるように構成されている。上述の糸通し補助装置60,60A,60Bは、いずれも、1つの紡糸巻取設備1に対して設けられているが、これに限定されない。以下、第3変形例に係る糸通し補助装置60Cについて、
図11を参照して説明する。
【0110】
図11は、第3変形例の糸通し補助装置60Cを説明するための図であって、紡糸巻取設備1Cの一部を前方から見た場合の概略図である。
【0111】
紡糸巻取設備1Cは、複数の紡糸機2Cと、複数の冷却装置5Cと、複数の移動機構(不図示)と、1つの糸通し補助装置60Cを備えている。複数の紡糸機2C、複数の冷却装置5C、及び複数の移動機構は、それぞれ、
図11に示される左右方向に並べられている。なお、
図11では、便宜上、2つの紡糸機2Cと、2つの冷却装置5Cとが示されているが、左右方向に3つ以上が並べられているものを排除する趣旨ではない。また、
図11では、便宜上、糸通し補助装置60Cが備える吸引管等の図示を省略している。
【0112】
紡糸巻取設備1Cは仕切床100によって下階(例えば1階)と上階(例えば2階)とに仕切られており、少なくとも複数の紡糸機2Cと複数の冷却装置5Cと1つの糸通し補助装置60Cとについては上階に配置されている。このようにして、紡糸巻取設備1Cは、上階に設けられた紡糸機2Cから紡出され、冷却装置5Cで冷却された糸を下階で引き取ることができる。
【0113】
仕切床100には、上階に配置された各紡糸機2Cから紡出された複数の糸条Yが通過可能な開口80が、
図11の紙面左右方向に複数形成されている。各開口80の周縁部の下側には、糸揺れ等を防止するため、仕切床100から下方に突出する筒状のカバー部材82が設置されている。また、各開口80の周縁部の上側には、上階から糸通し補助装置60C等が落下することを防止するため、仕切床100から上方に突出する筒状の落下防止壁84が設置されている。
【0114】
糸通し補助装置60Cは、車輪を備えており、上階を自由に移動することができる。ただし、これに限定されず、糸通し補助装置60Cが車輪を備えることに代えて、台車に糸通し補助装置60Cを載置して上階を自由に移動できるようにしてもよいし、上階にレールを設けて上階を自由に移動できるようにしてもよい。すなわち、上階に配置された複数の冷却装置5Cがそれぞれ備える複数の紡糸筒50Cのいずれに対しても着脱できるように、糸通し補助装置60Cが上階を自由に移動することができれば、その態様はとくに限定されない。
【0115】
糸通し補助装置60Cは、移動機構により冷却装置5Cを下降させた後、この冷却装置5Cが備える紡糸筒50Cに対して着脱可能となっている。この糸通し補助装置60Cは、本実施形態において説明した糸通し補助装置60、第1変形例において説明した糸通し補助装置60A、及び第2変形例において説明した糸通し補助装置60Bのうちいずれかと同じ構成であってもよいし、これらと異なる構成であってもよい。
【0116】
また、糸通し補助装置60Cの数は、2つの紡糸機2C、2つ冷却装置5C、及び2つの移動機構(不図示)に対して1つの糸通し補助装置60Cを備えていてもよいし、5つの紡糸機2C、5つ冷却装置5C、及び5つの移動機構(不図示)に対して1つの糸通し補助装置60Cを備えていてもよい。すなわち、糸通し補助装置60Cの数は、複数の紡糸機2C、複数の冷却装置5C、及び複数の移動機構よりも少ない数であればよい。また、紡糸機2C、冷却装置5C、及び移動機構示の数は任意の数とすることができ、例えば10以上であってもよい。
【0117】
このような第3変形例の糸通し補助装置60Cによれば、上階を自由に移動することで複数の冷却装置5Cがそれぞれ備える複数の紡糸筒50Cのいずれに対しても着脱可能である。そのため、複数の紡糸機2Cのうち任意の紡糸機2C(例えばメンテナンス対象の紡糸機2C)に対応して設けられる冷却装置5Cが備える紡糸筒50Cの内部(すなわち中空部54C)を負圧にすることができ、効率よく糸通し作業を行うことが可能となる。
【0118】
なお、本実施の形態及び第1変形例に示されるように紡糸筒50の出口部56に対して吸引管64または吸引管64Aを押し当てて密着させて両者を接続する態様、及び、第2変形例に示されるように冷却装置5に対してカバー部材66Bを押し当てて密着させて両者を接続する態様は、いずれも、本発明において糸通し補助装置を「糸条の出口部に対して押し当てるように配置する」ことに相当する。また、「糸条の出口部」は、紡糸筒50の出口部56のみを意味するのではなく、例えば冷却装置5の下方のように、紡糸筒50の中空部54を負圧にして上方から下方に向けて空気の流れを発生させることができる部位であれば、特定の部位に限定されない。
【0119】
今回開示された実施形態及び変形例は全ての点で例示であり、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の基本的な範囲は、上記の実施形態または変形例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
1 紡糸巻取設備
2 紡糸機
5 冷却装置
6 エアシリンダ
24 口金
50 紡糸筒
60,60A,60B 糸通し補助装置
62,62A,62B 負圧発生源
70 捕捉部
P 溶融ポリマー
Y 糸条