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特開2024-167899エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法
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  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図1
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図2
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図3
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図4
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図5
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図6a
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図6b
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図7a
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図7b
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図8
  • 特開-エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167899
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/33 20060101AFI20241127BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20241127BHJP
   H01G 4/08 20060101ALI20241127BHJP
   H01G 4/18 20060101ALI20241127BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20241127BHJP
   H01G 4/00 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
H01G4/33 102
C01G33/00 A
H01G4/08 Z
H01G4/18
H01G4/30 541
H01G4/30 544
H01G4/30 547
H01G4/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024081581
(22)【出願日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】10-2023-0065546
(32)【優先日】2023-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジウォン
(72)【発明者】
【氏名】リュ,アーロム
(72)【発明者】
【氏名】イム,ヘナ
(72)【発明者】
【氏名】ガン,ジョンユン
(72)【発明者】
【氏名】ペク,スンヒョプ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソングン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヒョンチョル
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジュンホ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジス
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジンサン
【テーマコード(参考)】
4G048
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC02
4G048AD02
4G048AD03
4G048AE05
5E001AB06
5E001AD04
5E001AH01
5E001AJ02
5E082AB01
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG06
5E082FG26
5E082FG34
5E082FG46
5E082FG60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】キャパシタの誘電体などに適用可能な層状構造の複合体は、下部PVDF層110、その上に備えられた無機材料誘電体ナノ薄膜120及び誘電体ナノ薄膜上に備えられた上部PVDF層130を含んでなる。これによって高分子マトリックスにナノフィラーを分散させる従来技術で生じうるフィラーの凝集現象を根本的に解消する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部PVDF層;
下部PVDF層上に備えられた誘電体ナノ薄膜;及び
誘電体ナノ薄膜上に備えられた上部PVDF層;を含んでなることを特徴とするエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項2】
前記誘電体ナノ薄膜は、一つまたは複数のナノシートからなり、該複数のナノシートは垂直方向に積層された形態をなすことを特徴とする請求項1に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項3】
ナノシートは、下記の化学式1で表されるものであることを特徴とする請求項2に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【化1】

(式中、xは0<x<0.2)
【請求項4】
ナノシートは、下記の化学式2または化学式3で表されるものであることを特徴とする請求項2に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【化2】

(式中、xは0<x<0.2)
【化3】

(式中、xは0<x<0.2)
【請求項5】
ナノシートは、Ti0.87からなるものであることを特徴とする請求項2に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項6】
誘電体ナノ薄膜は、下部PVDF層、誘電体ナノ薄膜、及び上部PVDF層の全体積に対して0.1~0.4vol%を占めることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項7】
高分子ナノ複合体の破壊電圧は400MV/m以上であり、エネルギー密度は10J/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項8】
高分子ナノ複合体の破壊電圧は500MV/m以上であり、エネルギー密度は13J/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項9】
誘電体ナノ薄膜は、ナノシートが3~9層で積層された構造をなすことを特徴とする請求項2に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体。
【請求項10】
基板上に下部PVDF層を積層する段階;
下部PVDF層上に誘電体ナノ薄膜を積層する段階;及び
誘電体ナノ薄膜上にPVDF層を積層する段階;を含むことを特徴とするエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【請求項11】
前記誘電体ナノ薄膜は、一つまたは複数のナノシートからなり、該複数のナノシートは垂直方向に積層された形態をなすことを特徴とする請求項10に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【請求項12】
ナノシートは、下記の化学式1で表されるものであることを特徴とする請求項11に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【化4】

(式中、xは0<x<0.2)
【請求項13】
ナノシートは、下記の化学式2または化学式3で表されるものであることを特徴とする請求項11に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【化5】

(式中、xは0<x<0.2)
【化6】

(式中、xは0<x<0.2)
【請求項14】
ナノシートは、Ti0.87からなるものであることを特徴とする請求項11に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【請求項15】
誘電体ナノ薄膜は、ラングミュア・プロジェット法を用いて積層することを特徴とする請求項10に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【請求項16】
バルク誘電体から剥離されたナノシートが下部PVDF層上に一つ又は複数の層で積層されることを特徴とする請求項15に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【請求項17】
誘電体ナノ薄膜は、下部PVDF層、誘電体ナノ薄膜、及び上部PVDF層の全体積に対して0.1~0.4vol%を占めることを特徴とする請求項10に記載のエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法に関する。
【0002】
参考までに、本発明は大韓民国科学技術情報通信部の支援の下、課題番号1711196532号(課題管理専門機関は韓国科学技術研究院、研究課題は「人工脳融合研究」、研究期間は2023.01.01.~2023.12.31.)及び課題番号1711184064号(課題管理専門機関は韓国研究財団、研究課題は「連続組成拡散法による透明陰極薄膜および多層陰極集電体を利用した高容量全高相透明薄膜二次電池研究」、研究期間は2023.03.01.~2024.2.29.)の国家研究開発事業である。
【背景技術】
【0003】
近年、フレキシブルウェアラブル素子、パワートランスミッション、ソフトロボティクス及び極限環境下におけるシステムに関する需要が高まるなか、誘電体材料が優れたプラットフォームとなって多くの研究が行われている。その中でも、誘電体高分子は高い電圧耐久性、低い誘電損失特性を備えており、エネルギー貯蔵分野の応用において他の材料に比べて顕著な強みを持つ。特に、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、Poly(vinylidene fluoride))は、強い疎水性と低い表面エネルギーを持つエネルギー的に非常に安定した高分子であって、電場下において高い破壊電圧(Breakdown voltage)と高い耐熱性を持つなど優れた性質を持つ。しかし、このようなPVDFも依然として内部エネルギー密度が低いため、エネルギー貯蔵素子に適用するには制限がある。
【0004】
誘電体のエネルギー密度(U)は、下記のように式1で表すことができる。
【数1】

(Uはエネルギー密度、εεは誘電率、Eは破壊電圧)
【0005】
式1に示すように、エネルギー密度(U)は誘電体の誘電率(εε)に比例するとともに、破壊電圧(E)の2乗に比例して増加する。これに基づき、エネルギー密度を向上させるために一般的に高い破壊電圧を有する高分子マトリックス材料の中に高い誘電率を有する無機粒子をフィラー(filler)として用いて高誘電性の高分子複合体を製造しようとする多くの研究が行われてきた。これに伴い、フィラーサイズ効果により低次元上のフィラーはアスペクト比(aspect ratio)が高い点をはじめ、機械的、電気的、光学的、構造的特性がバルク状態に比べて優れた特性を持ち得ることが知られ、ナノスケールのフィラーの使用は複合体の研究に新しい傾向となった。
【0006】
このようなフィラー材料として、近年、BNNSs、SrBiTi15、Ba0.6Sr0.4TiO、Na0.5Bi4.5Ti15、CaNb10などのナノ粒子が広く用いられているが、高い効能にもかかわらず、重要な短所がある。ナノ粒子同士が凝集しようとする性質があり、代表的な複合体の製造方法である直接混合(Direct mixing)の際に均一な分散が難しくなり、局所的な電界集中現象により高いエネルギー密度が得られないという問題がある。また、高い面積を有する2Dナノシートは、分散のための攪拌や超音波のような物理的混合などの過程で小さい粒子に割れることがある。
【0007】
これらの問題点とともに、誘電体複合体の製造の際に高分子マトリックスに含まれるナノフィラーの含有量が一定レベル以上になると、柔軟な機械的性質を失い、破壊電圧が顕著に低下することがある。したがって、次世代デバイスへの適用が可能な高いエネルギー密度の誘電体高分子ナノ複合体を具現するためには、新規な製造法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州公開特許公報 EP 4010193号(2022.6.15.公開)
【特許文献2】韓国登録特許公報 第1040320号(2011.6.10.公告)
【特許文献3】米国公開特許公報 US 2009-0101873号(2009.4.23.公開)
【特許文献4】韓国登録特許公報 第1495093号(2015.3.9.公告)
【特許文献5】韓国公開特許公報 第2022-77989号(2022.6.10.公開)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Dielectric and energy storage performances of PVDF-based composites with colossal permittivitied Nd-doped BaTiO3 Nanoparticles as the filler, J Wang et al 2017 AIP Advances
【非特許文献2】Dielectric Properties and Energy Storage Densities of Poly(vinylidenefluOride)Nanocomposite with Surface Hydroxylated Cube Shaped Ba0.6Sr04.TiO3 Nanoparticles, S Liu, et al 2016 Polymers
【非特許文献3】Improvement of dielectric properties and energy storage performance in sandwich-structured P(VDF-CTFE) composites with low content of GO nanosheets, Lian Cheng et al 2021 Nanotechnology
【非特許文献4】Special issue of the IEEE transactions on dielectrics and electrical insulation electrets and related phenomena, Volume:24, Issue:3, June 2017, IEEE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであって、エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための本発明に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体は、下部PVDF層;下部PVDF層上に備えられた誘電体ナノ薄膜;及び誘電体ナノ薄膜上に備えられた上部PVDF層;を含んでなることを特徴とする。
【0012】
前記誘電体ナノ薄膜は、一または複数のナノシートからなり、複数のナノシートは垂直方向に積層された形態をなす。
【0013】
ナノシートは、下記の化学式1で表されるものである。
【化1】

(式中、xは0<x<0.2)
【0014】
ナノシートは、下記の化学式2または化学式3で表されるものである。
【化2】

(式中、xは0<x<0.2)
【化3】

(式中、xは0<x<0.2)
【0015】
ナノシートは、Ti0.87からなるものである。
【0016】
誘電体ナノ薄膜は、下部PVDF層、誘電体ナノ薄膜、及び上部PVDF層の全体積に対して0.1~0.4vol%を占める。
【0017】
高分子ナノ複合体の破壊電圧は400MV/m以上であり、エネルギー密度は10J/cm以上である。さらに、高分子ナノ複合体の破壊電圧は500MV/m以上であり、エネルギー密度は13J/cm以上である。
【0018】
誘電体ナノ薄膜は、ナノシートが3~9層で積層された構造をなす。
【0019】
本発明に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法は、基板上に下部PVDF層を積層する段階;下部PVDF層上に誘電体ナノ薄膜を積層する段階;及び誘電体ナノ薄膜上にPVDF層を積層する段階;を含んでなることを特徴とする。
【0020】
誘電体ナノ薄膜はラングミュア・プロジェット法を用いて積層する。
【0021】
バルク誘電体から剥離されたナノシートが下部PVDF層上に一または複数の層で積層される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法は、次のような効果がある。
【0023】
二つのPVDF層の間に誘電体ナノ薄膜が備えられる構造をなすことにより、従来技術のナノフィラーの凝集及びナノフィラーの割れ現象を根本的に防止することができ、破壊電圧及びエネルギー密度特性を顕著に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施例に係る高分子ナノ複合体の構成図。
図2】本発明の一実施例に係る高分子ナノ複合体の製造方法を説明するためのフローチャート。
図3】本発明の一実施例に係る高分子ナノ複合体の製造方法を説明するための工程模式図。
図4】実験例2に従って製造されたSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートのFE-SEM画像。
図5】実験例2に従って製造されたSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートのAFM分析結果。
図6a】実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)の断面に対するFE-SEM画像。
図6b】実験例3に従って製造された基板上にPVDFのみが積層された誘電体の断面に対するFE-SEM画像。
図7a】実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)及びPVDFのみが積層された誘電体それぞれの絶縁破壊特性を解析するためのシミュレーション結果。
図7b】実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)及びPVDFのみが積層された誘電体それぞれの絶縁破壊特性を解析するためのシミュレーション結果。
図8】実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)及びPVDFのみが積層された誘電体それぞれの漏れ電流特性結果。
図9】実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体の破壊電圧及びエネルギー密度特性を示したもの。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、エネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた高分子ナノ複合体に関する技術を提示する。
【0026】
先の「背景技術」のところで述べたように、誘電体のエネルギー密度(U)を向上させるために、高い破壊電圧特性を持つ高分子、例えばPVDFを用いるとともに、高分子マトリックスにアスペクト比の高い低次元構造のナノフィラーを混合する技術が盛んに研究されてきたが、ナノフィラーが高分子マトリックス中で均一に分散できず凝集することで破壊電圧特性が低下する点、アスペクト比の高いナノフィラーが高分子マトリックスとの混合過程で小さい粒子に割れる点などの問題点があった。
【0027】
本発明は、従来技術の高分子マトリックス中にナノフィラーを分散させる方式に代わる新規な構造の高分子ナノ複合体を提示する。本発明に係る高分子ナノ複合体は、下部PVDF層、誘電体ナノ薄膜、上部PVDF層が順次積層された層状構造をなし、このような層状構造により、従来技術に係るナノフィラー分散方式の問題点、すなわち、ナノフィラーの凝集及びナノフィラーの割れ現象などを全て解決することができる。
【0028】
また、高分子マトリックスにナノフィラーを組み込む際に、ナノフィラーの含有量が一定レベル以上になると、高分子マトリックス固有の柔軟な機械的特性が失われ、それにより破壊電圧が顕著に低下する現象が発生するが、本発明に係る高分子ナノ複合体は、誘電体ナノ薄膜の含有量を最小化した状態で高いエネルギー密度及び破壊電圧特性を示す。
【0029】
本出願人と発明者は、韓国登録特許第1495093号(非特許文献4)と韓国公開特許第2022-779899号(非特許文献5)を通じて高誘電率及び低誘電損失特性を持つナノシートを提示したことがあり、非特許文献4及び非特許文献5に係るナノシートは、下記化学式1で表される組成を有し、セラミックキャパシタの誘電体などに適用可能である。
【化4】

(式中、xは0<x<0.2)
【0030】
本発明は、非特許文献4及び非特許文献5に開示されたナノシートの新規な用途であり且つ応用技術であって、高分子ナノ複合体の誘電体ナノ薄膜として非特許文献4及び非特許文献5に開示されたナノシートを適用することに特徴があり、さらに、高分子マトリックスにナノフィラーを分散させる従来技術の高分子ナノ複合体に代わって、二つのPVDF層の間に非特許文献4及び非特許文献5に開示されたナノシートを介在させる、いわゆる層状構造の高分子ナノ複合体を提示することにその特徴がある。
【0031】
後述する実験例によると、本発明に係る層状構造の高分子ナノ複合体は、508MV/m以上の破壊電圧と13J/cm以上のエネルギー密度特性を示す。これは、純粋PVDFの破壊電圧とエネルギー密度がそれぞれ439MV/m、9.2J/cmを示したことに比べてはるかに優れた特性である。また、非特許文献1に開示されたNd-doped BaTiOが破壊電圧350MV/m、エネルギー密度7.91J/cmを示したこと、非特許文献2に開示されたBa0.6Sr0.4TiOが破壊電圧121MV/m、エネルギー密度3.9J/cmを示したこと、非特許文献3に開示されたGO(Graphene Oxide)が破壊電圧340MV/m、エネルギー密度8.25J/cmを示しGO/Ni(OH)が破壊電圧254MV/m、エネルギー密度3.89J/cmの特性を示したことに比べても顕著に優れている。
【0032】
本発明に係る層状構造の高分子ナノ複合体、すなわち、下部PVDF層、誘電体ナノ薄膜、上部PVDF層が順次積層された構造の高分子ナノ複合体が優れた破壊電圧及びエネルギー密度特性を示す理由は以下の通りである。
【0033】
第一に、二つのPVDF層の間に誘電体ナノ薄膜が層をなして備えられる構造に起因する。従来技術のナノフィラー分散方式は、高分子マトリックス中にナノフィラーが均一に分散されず凝集することにより電気トリー(electrical tree)が生成されるが、本発明は、誘電体ナノ薄膜がPVDF層中に分散された形態で備えられるのではなく、単結晶形態の誘電体ナノ薄膜が二つのPVDF層の間に備えられる構造を形成するため、従来技術のようなナノフィラーの凝集現象を根本的に解消することができる。また、板状の誘電体ナノ薄膜が二つのPVDF層の間に積層される構造であるため、従来技術のように高分子マトリックスとナノフィラーとの混合過程でナノフィラーが割れる現象を防止することができる。
【0034】
第二に、誘電体ナノ薄膜の表面負電荷特性によって破壊電圧が低下することを防止することができる。本発明に係る誘電体ナノ薄膜を構成するSr2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)は、表面に負電荷を有しており、電界の印加の際に誘電体ナノ薄膜が電子の移動経路を遮断する役割をして、高分子ナノ複合体の破壊電圧を高める役割をする。
【0035】
一方、本発明に係る誘電体ナノ薄膜は、Sr2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)の他、下記化学式2で表されるCa2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)、化学式3で表されるBa2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)のいずれかまたはTi0.87からなるものであってよい。すなわち、最も好ましくは、誘電体ナノ薄膜の構成物質として、Sr2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)を用いてよいが、Ca2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)、Ba2(1-x)Bi2xNb10(0<x<0.2)、Ti0.87のいずれかを用いてもよい。
【化5】

(式中、xは0<x<0.2)
【化6】

(式中、xは0<x<0.2)
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の一実施例に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法について詳細に説明する。
【0037】
図1を参照すると、本発明の一実施例に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体は、下部PVDF層110、誘電体ナノ薄膜120、上部PVDF層130が順次積層された構造をなす。このような構造の積層のために、下部PVDF層110の下部に基板(図示せず)が備えられてよい。
【0038】
前記誘電体ナノ薄膜120は、一つまたは複数のナノシートからなる。具体的には、ナノシートは、化学式1で表される単結晶形態のSr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートであり、前記ナノシートが複数回繰り返し積層されて誘電体ナノ薄膜120を構成してよい。単結晶形態のSr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートは、HSr2(1-x)Bi2xNb10バルク誘電体から剥離されたものを用いてよい。
【0039】
Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートは、約2nm程度の厚さを有する。Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートの積層枚数が増すほど、すなわち、誘電体ナノ薄膜120の厚さが厚くなるほど、高分子ナノ複合体の破壊電圧及びエネルギー密度特性が向上する傾向を示す。ただし、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートの積層枚数が一定レベルを超えると、破壊電圧及びエネルギー密度特性が低減する。後述する実験例を参照すると、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートが7層積層されるまでは高分子ナノ複合体の破壊電圧及びエネルギー密度が徐々に向上するが、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートが9層積層された場合では、7層積層された場合に比べて破壊電圧及びエネルギー密度特性が低減した結果を示した。
【0040】
また、誘電体ナノ薄膜120は、下部PVDF層110、誘電体ナノ薄膜120、及び上部PVDF層130の全体積に対して0.1~0.4vol%の割合で含まれる。後述する実験例を参照すると、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートからなる誘電体ナノ薄膜120が0.3vol%の割合で含まれるにもかかわらず、508MV/m以上の破壊電圧と13J/cm以上のエネルギー密度特性を示す。
【0041】
誘電体ナノ薄膜120を構成するナノシートは、化学式1で表されるSr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートの他に、化学式2で表されるCa2(1-x)Bi2xNb10ナノシートまたは化学式3で表されるBa2(1-x)Bi2xNb10ナノシートを用いるか、Ti0.87ナノシートを用いてもよい。
【0042】
下部PVDF層110と上部PVDF層130のそれぞれは、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、Poly(vinylidene fluoride))からなり、高分子ナノ複合体の積層空間を提供する基板は、その物質が制限されるものではないが、一実施例として、シリコン基板、ガラス基板、ペロブスカイト構造をなす基板、高分子基板のいずれかを用いてよい。
【0043】
次に、図2及び図3を参照して、本発明の一実施例に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体の製造方法について説明する。
【0044】
まず、基板を準備する。基板は、上述したようにその物質は制限されるものではないが、一実施例として、シリコン基板、ガラス基板、ペロブスカイト構造をなす基板、高分子基板のいずれかを用いてよい。また、基板上には高分子ナノ複合体の破壊電圧の測定のための電極を予め備えられてもよい。
【0045】
PVDF溶液を準備する。PVDF溶液はPVDFが溶媒に溶解されたものであり、溶媒としては、一実施例としてn-ジメチルホルムアミド(n-DMF)を用いてよい。次いで、基板上にPVDF溶液をコーティングする(図3のa参照)。PVDF溶液のコーティング方法としては、一実施例としてスピンコーティングを用いてよい。しかる後、PVDF溶液がコーティングされた基板を一定の温度で加熱してPVDF溶液中の溶媒成分を蒸発させることにより、PVDFからなる下部PVDF層を基板上に形成させることができる(S201)。
【0046】
基板上に下部PVDF層が形成された状態で、下部PVDF層上に誘電体ナノ薄膜の積層過程が進められるが、誘電体ナノ薄膜の積層のために下部PVDF層の疎水性表面を親水性に改質することが先行される必要があり、このために下部PVDF層上に紫外線が照射される(S202、図3のb参照)。
【0047】
誘電体ナノ薄膜の積層は、一実施例として、ラングミュア・プロジェット法(Langmuir-Blodgett、以下、LB法という)を用いてよい(S203)。ラングミュア・プロジェット法のために、ナノシートが分散されたナノシート分散溶液を準備する。
【0048】
Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートを用いる場合を例に挙げると、まずHSr2(1-x)Bi2xNb10バルク誘電体を合成する。HSr2(1-x)Bi2xNbO-バルク誘電体の合成過程は、後述する実験例にて詳述するが、簡略に要約すると、固相合成法によりKSr2(1-x)Bi2xNb10を合成した後、KSr2(1-x)Bi2xNb10のKイオンをHイオンに置換して、Sr2(1-x)Bi2xNb10層の間にHイオンが挿入された構造のHSr2(1-x)Bi2xNb10バルク誘電体を形成させる。次いで、HSr2(1-x)Bi2xNb10バルク誘電体をテトラブチルアンモニウム(TBAOH)溶液に入れて攪拌すると、HSr2(1-x)Bi2xNb10バルク誘電体がコロイド化して単結晶形態のSr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートとして1枚ずつ剥離される。このような過程を経て、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートが剥離されたナノシートコロイド溶液が準備される。
【0049】
しかる後、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートが剥離されたナノシートコロイド溶液を超純水と混合すると、Sr2(1-x)Bi2xNb10ナノシートが分散されたナノシート分散溶液が完成する。詳細には、超純水が予め満たされているLBトラフ(Langmuir-Blodgett trough)にナノシートコロイド溶液を混合してナノシート分散溶液を準備してよい。このとき、ナノシートはナノシート分散溶液の水面上に位置するようになる。
【0050】
LBトラフにナノシート分散溶液が満たされた状態で、下部PVDF層が形成された基板をナノシート分散溶液に垂直または水平下降させ、バリアは両側から表面圧力を保持するほどの約0.5mm/secの速度で圧縮して、ナノシートを基板の下部PVDF層上に転移させる(図3のc、d参照)。このような過程により下部PVDF層上にナノシートが積層され、このようなナノシートの積層過程を繰り返すことにより、複数層のナノシートからなる誘電体ナノ薄膜を形成することができる(図3のe参照)。
【0051】
誘電体ナノ薄膜の積層が完了すると、誘電体ナノ薄膜上に上部PVDF層を形成する(S204、図3のf参照)。上部PVDF層は下部PVDF層と同じ方法にて形成される。すなわち、PVDF溶液を誘電体ナノ薄膜上にコーティングした後、PVDF溶液の溶媒成分を除去することで上部PVDF層を形成することができる。
【0052】
上部PVDF層が形成された状態で、熱処理により下部PVDF層と下部PVDF層を熱硬化させると、本発明の一実施例に係る高分子ナノ複合体の製造方法は完了する。
【0053】
以上、本発明の一実施例に係るエネルギー密度及び破壊電圧特性に優れた層状構造の高分子ナノ複合体及びその製造方法について説明した。以下では、実験例を通じて本発明をより具体的に説明することにする。
【実施例0054】
実験例1:HSr1.8Bi0.2Nb10バルク誘電体の合成
純度99%以上のKCO、SrCO、Bi及びNbを準備し、一般式KSr1.8Bi0.2Nb10を満たす組成比に従って各物質を秤量した後、エタノールを溶媒としてジルコニアボールとともにボールミル工程により24時間湿式混合した。その後、100℃のオーブンでエタノールを全て乾燥してから乾式粉砕し、粉砕された物質を1200℃で10時間か焼してKSr1.8Bi0.2Nb10を得た。合成されたKSr1.8Bi0.2Nb10粉末を7MのHNO溶液に入れ、4日間マグネチック攪拌機を用いて攪拌して、KSr1.8Bi0.2Nb10のKイオンをHイオンに置換した。ここで、Kイオンは、HNO溶液の他にHCl、HSOなどの種々の酸を用いて置換を行うことができる。置換が終わった溶液は、遠心分離機を用いて超純水で数回洗浄した。洗浄中にpHメーターを用いて溶液のpH濃度が中性に近づいたかどうかを確認した。その後、50℃で24時間乾燥すると、HSr1.8Bi0.2Nb10が生成される。生成されたHSr1.8Bi0.2Nb10を100Kgf/cmの圧力で径12m、高さ0.5~1mmのペレットに成形し、1300℃の空気雰囲気下で焼結(sintering)して、ペレット状のHSr1.8Bi0.2Nb10バルク誘電体を製造した。その後、特性分析のためにHSr1.8Bi0.2Nb10バルク誘電体の両面上に導電性ペーストを塗布しベーキング処理を施した。
【0055】
実験例2:Sr1.8Bi0.2Nb10(SBNO)ナノシートの製造
:TBA=1:1の割合でテトラブチルアンモニウム(TBAOH)溶液を準備し、実験例1に従って製造されたHSr1.8Bi0.2Nb10バルク誘電体をテトラブチルアンモニウム(TBAOH)溶液に入れてから、室温で7~14日間攪拌した。攪拌によりHSr1.8Bi0.2Nb10バルク誘電体からSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが1枚ずつ剥離され、これによりSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが剥離されたナノシートコロイド溶液が製造された。
【0056】
実験例3:PVDF溶液の準備
50mlバイアルに18.5mLのn-ジメチルホルムアミド(n-DMF、Sigma Aldrich)を入れた後、3gのPVDF(Polyvinylidene fluoride、Sigma Aldrich)を添加し、40℃の温度でマグネチックバー(magnetic bar)で24時間以上攪拌して溶解させた。
【0057】
実験例3:高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)の製造
実験例3に従って準備されたPVDF溶液をPt/Ti電極が予め形成されたシリコン基板上にスピンコーティングしてから、ホットプレートで60℃の温度で30分以上加熱し溶媒を除去して下部PVDF層を製造した。次いで、LB法を用いたSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートの積層のために下部PVDF層に紫外線を照射して、下部PVDF層の表面を親水化処理した。
【0058】
実験例2に従って製造されたSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートコロイド溶液をLBトラフに満たされた超純水に分散させた。ナノシート分散溶液の展開後、水面の安定及び下層液の温度を一定にするために30分間の安定化時間を持った後、下部PVDF層が形成された基板を垂直または水平下降させ、バリアは両側から表面圧力を保持するほどの0.5mm/secの速度で圧縮して、下部PVDF層上にSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートを転移させた。このような方法を数回繰り返して、複数層のSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートからなる誘電体ナノ薄膜を形成させた。本実験では、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートの積層枚数による高分子ナノ複合体の特性を分析するために、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートを3層、5層、7層、9層にそれぞれ積層して高分子ナノ複合体を製造した。
【0059】
次いで、誘電体ナノ薄膜上に実験例3のPVDF溶液をスピンコーティングしてから、ホットプレートで60℃の温度で30分以上加熱し溶媒を除去して上部PVDF層を製造した。その後、上部PVDF層の形成が完了した基板をコンベクションオーブン(convection oven)にて200℃の温度で10分間加熱して下部PVDF層及び上部PVDF層を熱硬化させてから、氷水を加えて冷却(quenching)させた。
【0060】
一方、特性比較のために、上述した工程に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)の他に、基板上にPVDFのみを積層した誘電体も製造した。
【0061】
実験例4:Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートのモルフォロジー(morphology)解析
Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートのモルフォロジー(morphology)分析のために、実験例2に従って製造されたSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートを基板の表面に単層転移させた後、FE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force MicrOscOpe)分析を実施した。
【0062】
図4のFE-SEM画像を見てみると、基板上に複数のSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが隣接して密接に配列されていることが分かり、図5のAFM分析から、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートの単層の厚さは約2nm、長さは約1μm程度であることが分かる。
【0063】
実験例5:高分子ナノ複合体のモルフォロジー解析
実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)の断面についてFE-SEM分析を実施し、図6aを参照すると、下部PVDF層と上部PVDF層との間にSr1.8Bi0.2Nb10ナノシート(SBNO NS)が緻密に積層されるとともに、上下部のPVDF層と明確に区分されていることが確認できる。ちなみに、図6bは、実験例に従って製造された基板上にPVDFのみが積層された誘電体のFE-SEM画像である。
【0064】
実験例6:高分子ナノ複合体の絶縁破壊及び漏れ電流特性
実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)及びPVDFのみが積層された誘電体それぞれの絶縁破壊特性を分析するために、COMSOLシミュレーションシステムを用いてこれらと同一の構造モデルを設計し、有限要素シミュレーションを実施した。構造モデルの設計の際に、PVDF、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートのそれぞれの誘電率は11、27に設定した。また、臨界電圧を超える2500Vの電界を印加した。
【0065】
シミュレーションの結果、PVDF/SBNO/PVDF構造を有する高分子ナノ複合体の場合、図7aに示すように、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが電気トリー(electrical tree)の経路伝播を遮断する役割をすることが確認できる。すなわち、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが電流密度を集中させるバリア層の役割を果たす。一方、PVDFのみが積層された誘電体の場合、図7bに示すように、電気トリーが制約なく上部から下部へと形成されることが確認でき、これにより絶縁破壊が発生する。
【0066】
一方、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが電界の印加時に電子の移動を遮断する電子遮断層としての役割を果たすかどうかを確認するために、実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)及びPVDFのみが積層された誘電体のそれぞれに対して電流密度を測定した。
【0067】
図8を参照すると、PVDFのみが積層された誘電体に比べて、実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体(PVDF/SBNO/PVDF)の漏れ電流が小さいことが分かり、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートの積層枚数が3層から7層に増加するほど漏れ電流特性も向上することが確認できる。このような結果から、電流密度がSr1.8Bi0.2Nb10ナノシートに集中してPVDFへの漏れ電流の拡散が抑制されることが分かる。
【0068】
実験例7:高分子ナノ複合体の破壊電圧及びエネルギー密度特性
実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体に対して、強誘電体テスター(Premier II、Radiant)を用いて破壊電圧特性を分析した。比較のために、基板上にPVDFのみが積層された誘電体に対しても破壊電圧特性を分析した。また、測定された破壊電圧を式1に代入してエネルギー密度(U)を算出した。
【0069】
図9を参照すると、PVDFのみが積層された誘電体の場合、439MV/mの破壊電圧と9.2J/cmのエネルギー密度を示したのに対し、実験例3に従って製造された高分子ナノ複合体の場合、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートの積層枚数に関係なくいずれもPVDFのみが積層された誘電体に比べて破壊電圧及びエネルギー密度特性が向上することが確認できる。特に、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが7層積層された誘電体ナノ薄膜が適用された高分子ナノ複合体(PSP7)の場合、508MV/mの破壊電圧と12.8J/cmのエネルギー密度を示した。ただし、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが7層積層された誘電体ナノ薄膜が適用された高分子ナノ複合体(PSP9)の場合、破壊電圧とエネルギー密度特性が低減する傾向を示した。これは、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートの積層枚数が9層以上になると、Sr1.8Bi0.2Nb10ナノシートが均一に積層されず、誘電体ナノ薄膜における欠陥として作用すると判断される。
【符号の説明】
【0070】
110:下部PVDF層 120:誘電体ナノ薄膜
130:上部PVDF層
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8
図9