(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167913
(43)【公開日】2024-12-04
(54)【発明の名称】老化の進行抑制剤、およびこれを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
A61K 38/06 20060101AFI20241127BHJP
C07K 5/093 20060101ALI20241127BHJP
C07K 5/062 20060101ALI20241127BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20241127BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20241127BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20241127BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20241127BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241127BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241127BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241127BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241127BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241127BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
A61K38/06
C07K5/093
C07K5/062
C07K14/78
A23L33/18
A61P17/14
A61P17/18
A61P17/00
A61P25/16
A61P27/02
A61P1/16
A61P19/02
A61K38/05
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024144388
(22)【出願日】2024-08-26
(62)【分割の表示】P 2021533957の分割
【原出願日】2020-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019137126
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 聖子
(57)【要約】 (修正有)
【課題】頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する効果、あるいは抗酸化作用の増強効果を得ることが可能となる老化の進行抑制剤を提供する。
【解決手段】Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する、老化の進行抑制剤が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する、老化の進行抑制剤。
【請求項2】
前記ペプチドは、コラーゲン由来である、請求項1に記載の老化の進行抑制剤。
【請求項3】
前記老化の進行抑制剤は、コラーゲンペプチド混合物である、請求項1または請求項2に記載の老化の進行抑制剤。
【請求項4】
前記コラーゲンペプチド混合物は、その重量平均分子量が100Da以上5000Da以下である、請求項3に記載の老化の進行抑制剤。
【請求項5】
前記老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現促進剤、またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現促進剤である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の老化の進行抑制剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の老化の進行抑制剤を含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化の進行抑制剤、およびこれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
老化の原因の一つとして、活性酸素種、過酸化物などが各種の細胞に与える酸化ストレスを挙げることができる。たとえば下記非特許文献1では、上記活性酸素種または過酸化物が毛包を構成する細胞に蓄積することによって、頭髪の白髪化(以下、「脱色素化」とも記す)が進行することが報告されている。さらに老化に伴う頭髪の脱毛および脱色素化は、17型コラーゲンの減少によって促進することが下記非特許文献2および下記非特許文献3において報告されている。特開2009-161509号公報(特許文献1)は、17型コラーゲンが頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する機能を有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J M Wood et al., FASEB J, 2009年, Vol 23, No.7, pp.2065-75
【非特許文献2】Matsumura H et al., Science, 2016年, Vol 351,pp.575, add4395-1,2
【非特許文献3】Tanimura S et al., Cell Stem Cell, 2011年, Vol 8,pp.177-87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、コラーゲンまたはゼラチンに対し、公知のタンパク質分解酵素を用いて加水分解することにより得られるコラーゲンペプチド混合物が公知である。このコラーゲンペプチド混合物は、生体内の関節、骨、軟骨、皮膚などにおいて様々な生理活性を有することが報告されている。しかしながら上記コラーゲンペプチド混合物において、頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する作用を有することは、これまで報告されていない。また活性酸素種、過酸化物を生体から除去する所謂抗酸化作用を示すペプチドとしてグルタチオンが知られるが、このグルタチオンの合成に上記コラーゲンペプチド混合物が関与するという報告もされていない。このためコラーゲンペプチド混合物、およびこれに含まれるコラーゲン由来のペプチドが有する新たな生理活性として、老化の進行を抑制する作用、具体的には、上述の頭髪における脱毛および脱色素化を抑制する作用、グルタチオンの合成を促進する作用などを探索する研究が鋭意進められている。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明は、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用の少なくともいずれかを奏するペプチドなどを含むことにより、頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する効果、あるいは抗酸化作用の増強効果を得ることが可能となる老化の進行抑制剤、およびこれを含む飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、コラーゲンペプチド混合物が有する新たな生理活性を探索する中で、コラーゲンペプチド混合物に含まれる所定のペプチドにおいて、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、あるいはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用の少なくともいずれかを奏することを知見した。この知見に基づき、上記ペプチドを含むことによって頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する効果、あるいは抗酸化作用の増強効果を得ることができる老化の進行抑制剤に到達し、もって本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、具体的には以下のとおりである。
本発明に係る老化の進行抑制剤は、Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。
【0009】
上記ペプチドは、コラーゲン由来であることが好ましい。
上記老化の進行抑制剤は、上記ペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物であることが好ましい。
【0010】
上記コラーゲンペプチド混合物は、その重量平均分子量が100Da以上5000Da以下であることが好ましい。
【0011】
上記老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現促進剤、またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現促進剤であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る飲食品は、上記老化の進行抑制剤を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する効果、あるいは抗酸化作用の増強効果を得ることが可能となる老化の進行抑制剤、およびこれを含む飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について、さらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0015】
[老化の進行抑制剤]
本発明に係る老化の進行抑制剤は、Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。このような特徴を備える老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、あるいはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用の少なくともいずれかを奏することができ、もって頭髪の脱毛および脱色素化を抑制する効果、あるいは抗酸化作用の増強効果を得ることが可能となる。
【0016】
〔Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体〕
上述のとおり老化の進行抑制剤は、Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。本明細書において上記ペプチドを構成する「アミノ酸」については、別段の表記がない限り、3文字表記の略号で表される。さらに「アミノ酸」は、別段の表記がない限り、L型アミノ酸を意味する。さらに本明細書において「ペプチド」は、たとえば「Gly-Pro」であれば、N末端側からグリシン、プロリンの順にC末端側へ向けて配列したペプチド(ジペプチド)を意味し、「Glu-Hyp-Gly」であれば、N末端側からグルタミン酸、ヒドロキシプロリン、グリシンの順にC末端側へ向けて配列したペプチド(トリペプチド)を意味する。このことは、「Gly-Pro」および「Glu-Hyp-Gly」以外のペプチドの記載についても同様である。
【0017】
老化の進行抑制剤は、Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有することが好ましい。この場合、老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、あるいはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用をより顕著に示すことができる。
【0018】
上記ペプチドの「塩」は、たとえば上記ペプチドの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機塩基塩などとして形成される。
【0019】
上記ペプチドの「化学修飾体」とは、構成単位であるアミノ酸残基が有する遊離の官能基が化学修飾された化合物を意味する。化学修飾は、たとえばヒドロキシプロリンの水酸基、N末(アミノ末端)側のアミノ酸のアミノ基およびC末(カルボキシル末端)側のアミノ酸のカルボキシル基に対して実行することができる。化学修飾の具体的手段およびその処理条件は、従来公知のアミノ酸およびペプチドを対象とした化学修飾技術が適用される。このような化学修飾によって、上記アミノ酸およびペプチドの化学修飾体は、弱酸性から中性で溶解性が向上する効果、他の有効成分との相溶性が向上する効果などを奏することができる。
【0020】
たとえばGlu-Hyp-Glyのトリペプチドに対し、ヒドロキシプロリンにおける水酸基の化学修飾として、O-アセチル化などを行うことができる。このO-アセチル化は、たとえば水溶媒中または非水溶媒中で無水酢酸を作用させることによって実行することができる。グリシンにおけるカルボキシル基の化学修飾として、エステル化、アミド化などを行うことができる。上記エステル化は、上記ペプチドをメタノールに懸濁した後、これに乾燥塩化水素ガスを通気することによって実行することができる。上記アミド化は、上記ペプチドにカルボジイミドなどを作用させることによって実行することができる。
【0021】
さらにペプチド中の遊離のアミノ基の化学修飾として、メチル化を行うことができる。ペプチド中の遊離の水酸基の化学修飾として、リン酸化および硫酸化の少なくともいずれかを行うことができる。
【0022】
上記ペプチドは、コラーゲン由来であることが好ましい。この場合、原料としてのコラーゲンは、たとえば牛、豚、羊、鶏、ダチョウなどに代表される動物の皮、皮膚、骨、軟骨、腱など、あるいは魚類の骨、皮、鱗などに対して従来公知の脱脂または脱灰処理、抽出処理などを実行することにより得ることができる。さらに上記ペプチドの原料として、ゼラチンを用いることもできる。ゼラチンは、上述のようにして得たコラーゲンを熱水抽出などの従来公知の方法で処理することにより得ることができる。コラーゲンおよびゼラチンは、市販のものを原料として用いることもできる。
【0023】
上記ペプチドは、上記コラーゲンおよびゼラチンの両方またはいずれか一方に対し、エンド型プロテアーゼおよびエキソ型プロテアーゼの2種以上を組み合わせて加水分解することによって得ることができる。上記ペプチドは、上記の加水分解によって他のコラーゲンペプチドとともに混在するコラーゲンペプチド混合物として得られるが、このコラーゲンペプチド混合物自体、およびこれを部分精製した混合物を本発明に係る老化の進行抑制剤として用いることができる。すなわち老化の進行抑制剤は、コラーゲンペプチド混合物であることが好ましい。さらに、上記コラーゲンペプチド混合物をさらに精製することにより、上述したペプチドを含む精製物を高純度で得ることができる。上記ペプチドは、コラーゲン由来である場合、後述するコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法を用いることにより得ることが好ましい。
【0024】
さらに上記コラーゲンペプチド混合物は、その重量平均分子量が100Da以上5000Da以下であることが好ましい。上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、より好ましくは120Da以上3500Da以下であり、さらに好ましくは150Da以上3000Da以下である。上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量が上述した範囲内である場合、老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、あるいはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用をより十分に得ることができる。上記重量平均分子量が5000Daを超える場合、老化の進行抑制剤は、上述した効果が不十分となる恐れがある。
【0025】
上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、以下の測定条件の下でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を実行することにより求めることができる。
機器 :高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel(登録商標)G2000SWXL
カラム温度:40℃
カラムサイズ:7.8mmI.D.×30cm、5μm
溶離液:45質量%アセトニトリル(0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む)
流速 :1.0mL/min
注入量:10μL
検出 :UV214nm
分子量マーカー:以下の5種を使用
Cytochrom C Mw:12000
Aprotinin Mw:6500
Bacitracin Mw:1450
Gly-Gly-Tyr-Arg Mw:451
Gly-Gly-Gly Mw:189。
【0026】
具体的には、約0.2gの上記コラーゲンペプチド混合物を含む試料を約100mlの蒸留水に添加し、撹拌した後、0.2μmフィルターを用いてろ過することにより、重量平均分子量を測定する試料(被測定物)を調製する。この被測定物を上述したサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより、上記コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量を求めることができる。
【0027】
〔老化の進行抑制剤の製造方法〕
老化の進行抑制剤に含まれる上記ペプチドは、従来公知の方法により得ることができる。たとえば上記ペプチドは、市販のアミノ酸を購入することにより得ることができる。上記ペプチドは、コラーゲンまたはゼラチンを加水分解する方法を用いることにより得ることもできる。
【0028】
上記ペプチド(Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方)は、従来公知の液相または固相のペプチド合成方法、あるいはコラーゲンまたはゼラチンを加水分解する方法を用いることによりそれぞれ得ることができる。上記ペプチドは、効率性の観点から後述するアミノ酸を用いた化学合成方法、あるいは後述するコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法を用いることにより製造することが好ましい。さらに上記ペプチドは、コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法に代えて、1次酵素を省略し2次酵素のみにより酵素処理する方法、1次酵素および2次酵素による酵素処理を同時に行う方法を用いることにより製造することも可能である。以下、老化の進行抑制剤に含まれるペプチドのうち「Glu-Hyp-Gly」に着目し、これを製造する方法を、老化の進行抑制剤に含まれるペプチドの製造方法の例示として説明する。
【0029】
<化学合成方法>
上記ペプチドは、一般的なペプチド合成法を用いて得ることができる。このペプチド合成法としては、固相合成法および液相合成法が公知である。固相合成法には、Fmoc法とBoc法とが知られている。上記ペプチドは、Fmoc法およびBoc法のいずれの方法を用いても得ることができる。ペプチドの固相合成法として、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドの合成方法は、次のように行うことができる。
【0030】
まず表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズを固相として準備する。縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミドを別途準備する。次に、上記アミノ酸配列においてC末(カルボキシル末端)側のアミノ酸であるグリシンのアミノ基をFmoc(fluorenyl-methoxy-carbonyl)基で保護するとともに、上記縮合剤を用いた脱水反応により上記グリシンのカルボキシル基と上記固相の上記アミノ基とをペプチド結合させる。さらに上記固相を溶媒で洗浄することにより、残存する縮合剤およびアミノ酸を除去した後、上記固相にペプチド結合しているグリシンのアミノ基の保護基を除去(脱保護)する。
【0031】
続いて、Fmoc基でアミノ基を保護したヒドロキシプロリンを準備し、このヒドロキシプロリンのカルボキシル基と、上記グリシンの脱保護したアミノ基とを上記縮合剤を用いることによりペプチド結合させる。以後、同様の要領で上記ヒドロキシプロリンのアミノ基の脱保護、Fmoc基で保護したグルタミン酸の準備、ならびにこのグルタミン酸と上記ヒドロキシプロリンとをペプチド結合させる反応を実行することにより、上記固相にGlu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを合成する。最後に、上記グルタミン酸のアミノ基の脱保護を行い、さらに上記固相から上記トリペプチドをトリフルオロ酢酸で温浸して切り離すことにより、上記トリペプチドを製造することができる。
【0032】
<コラーゲンまたはゼラチンを用いた製造方法>
さらにコラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理することにより、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチドを製造する方法は、次のように行うことができる。
【0033】
ここでコラーゲンまたはゼラチンを「2段階で酵素処理する」とは、次のことを意味する。すなわち、コラーゲンまたはゼラチンのペプチド結合を切断する従来公知の方法により1次酵素処理を実行した後に、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、アミノペプチダーゼN活性およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を併有する酵素、またはアミノペプチダーゼN活性を有する酵素およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の組合せにより2次酵素処理を実行することをいう。1次酵素処理を実行することにより、コラーゲンペプチド混合物前駆体を得ることができる。さらに2次酵素処理を実行することにより、上記コラーゲンペプチド混合物前駆体から上記Glu-Hyp-Glyを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法について、以下さらに詳述する。
【0034】
(1次酵素処理)
1次酵素処理で用いる酵素としては、コラーゲンまたはゼラチンのペプチド結合を切断することが可能な酵素であれば、特に限定されるべきではなく、任意のタンパク質分解酵素を用いることができる。具体的には、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼなどを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記チオールプロテアーゼとしては、植物由来のキモパパイン、パパイン、ブロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼなどを用いることができる。セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンDなどを用いることができる。酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモトリプシンなどを用いることができる。1次酵素処理で用いる酵素としては、本発明に係る老化の進行抑制剤を医薬、特定保健用食品などに用いることを考慮した場合、病原性微生物由来の酵素を用いることなく、それ以外の酵素を用いることが好ましい。
【0035】
1次酵素処理における酵素量としては、たとえばコラーゲンまたはゼラチン100質量部に対し上述した酵素を0.1~5質量部とすることが好ましい。1次酵素処理における処理温度は30~65℃とし、処理時間は10分~72時間とすることが好ましい。上記1次酵素処理により得られるコラーゲンペプチド混合物前駆体の重量平均分子量は、好ましくは500~20000Da、より好ましくは500~10000Da、さらに好ましくは500~8000Daである。重量平均分子量が上述の範囲にあれば、分子量が適切なペプチドが十分に生成しているといえる。1次酵素処理の後に、必要に応じて酵素を失活させることができる。この場合の失活温度としては、たとえば70~100℃とすることが好ましい。コラーゲンペプチド混合物前駆体の重量平均分子量は、上述したSECを用いる方法によって求めることができる。
【0036】
(2次酵素処理)
2次酵素処理で用いる酵素としては、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、アミノペプチダーゼN活性およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を併有する酵素、またはアミノペプチダーゼN活性を有する酵素およびプロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の組合せを挙げることができる。ここで本明細書において「アミノペプチダーゼN活性を有する酵素」とは、ペプチド鎖のN末側からアミノ酸を遊離させる働きを有するペプチダーゼであって、N末側から2番目にプロリンあるいはヒドロキシプロリン以外のアミノ酸が存在する場合に作用する酵素をいう。本明細書において「プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素」とは、N末側から3番目がプロリンあるいはヒドロキシプロリンであるペプチドから、N末側の3アミノ酸残基のみを遊離するペプチダーゼをいう。2次酵素処理で用いる酵素も、本発明に係る老化の進行抑制剤を医薬、特定保健用食品などに用いることを考慮した場合、病原性微生物由来の酵素を用いることなく、それ以外の酵素を用いることが好ましい。
【0037】
アミノペプチダーゼN活性を有する酵素としては、たとえばアミノペプチダーゼN(EC3.4.11.2.;T.Yoshimoto et al., Agric. Biol. Chem., 52:217-225(1988))などを挙げることができる。またたとえば、Aspergillus属由来のアミノペプチダーゼN活性を有する酵素を挙げることができる。プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素としては、たとえばプロリルトリぺプチジルアミノペプチダーゼ(EC3.4.14.;A.Banbula et al., J.Biol. Chem., 274:9246-9252(1999))などを挙げることができる。
【0038】
2次酵素処理を実行することにより、上記コラーゲンペプチド混合物前駆体に含まれていなかったペプチド含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。具体的には、上記Glu-Hyp-Glyを含むコラーゲンペプチド混合物を得ることができる。
【0039】
2次酵素処理における酵素量としては、たとえば上記コラーゲンペプチド混合物前駆体100質量部に対して上述した酵素を0.01~5質量部とすることが好ましい。2次酵素処理における処理温度は30~65℃とし、処理時間は10分~72時間とすることが好ましい。上記2次酵素処理により得られるコラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量は、好ましくは100~5000Da、より好ましくは120~3500Da、さらに好ましくは150~3000Daである。コラーゲンペプチド混合物の重量平均分子量も、上述したSECを用いる方法によって求めることができる。
【0040】
2次酵素処理は、上述したGlu-Hyp-Glyのトリペプチドを生成することを主たる目的として実行される。このため上記コラーゲンペプチド混合物前駆体に含まれるペプチドが過剰に加水分解されてしまわないように、2次酵素処理における酵素量、処理温度、処理時間およびpHを調整することが好ましい。これによりコラーゲンペプチド混合物を上述した重量平均分子量の範囲内とすることが好ましい。2次酵素処理の後に、酵素を失活させる必要がある。この場合の失活温度としては、たとえば70~100℃とすることが好ましい。さらに120℃で数秒以上の殺菌処理を行うことが好ましい。また、これに200℃以上の熱をかけて噴霧乾燥させることも可能である。
【0041】
2次酵素処理では、上記アミノペプチダーゼN活性を有する酵素、プロリルトリペプチジルアミノペプチダーゼ活性を有する酵素の他に、異なる活性を併有する酵素を用いることができ、かつ異なる活性を有する酵素を2種以上併用することもできる。これにより副生成物を分解し除去することが可能となる。この場合において用いる酵素としては、原料となるコラーゲンの種類、1次酵素処理に用いる酵素の種類に応じて適宜選択することが好ましい。上述した異なる活性としては、たとえばプロリダーゼ活性、ヒドロキシプロリダーゼ活性などのジペプチダーゼ活性を挙げることができる。これにより副生成物となるジペプチドなどを分解除去することができる。
【0042】
さらにアミノペプチダーゼN活性は、基本的にN末端側のアミノ酸を1つずつ遊離させる活性である。このため1次酵素処理によって得られるコラーゲンペプチド混合物前駆体に分子量が極めて大きいペプチドが含まれる場合、2次酵素処理をアミノペプチダーゼN活性を有する酵素のみで実行したとき、その処理時間が著しく長期化する。このような場合に対応するため、2次酵素処理では、たとえばプロリンのカルボキシル基側を加水分解する活性(プロリダーゼ活性)を有するエンドペプチダーゼであるプロリルオリゴペプチダーゼを用いることができる。これにより2次酵素処理を効率的に行うことができる。
【0043】
コラーゲンまたはゼラチンを2段階で酵素処理する方法では、1次酵素処理によって比較的分子量の大きなペプチドを生成することができる。このペプチドは、たとえば[X1-Gly-X2-Glu-Hyp-Gly](X1およびX2≠Hyp)で表されるアミノ酸配列を有することができる。続く2次酵素処理では、上記[X1-Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドにアミノペプチダーゼN活性を有する酵素が作用し、N末端のX1が遊離することにより[Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが得られる。次に、上記[Gly-X2-Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドに、アミノペプチダーゼN活性を有する酵素が2度作用し、グリシンおよびX2が遊離することにより、[Glu-Hyp-Gly]で表されるペプチドが得られる。
【0044】
(コラーゲンペプチド混合物の精製)
上述した2段階での酵素処理を実行することにより、Glu-Hyp-Glyを含むコラーゲンペプチド混合物を製造することができる。上記コラーゲンペプチド混合物には、Glu-Hyp-Glyで表されるトリペプチド以外のペプチドも含まれているため、必要に応じて精製することが好ましい。この場合の精製方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば限外濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの各種液体クロマトグラフィーなどを用いることができる。
【0045】
具体的には、コラーゲンペプチド混合物を以下の操作により精製することができる。すなわち上記コラーゲンペプチド混合物の約2g/10mLをイオン交換カラム(たとえば商品名:「トヨパール(登録商標)DEAE-650」、東ソー株式会社製)に負荷した後、蒸留水で溶出される第1ボイドボリューム画分を回収する。次いで、第1ボイドボリューム画分を上記イオン交換カラムとは逆のイオン交換基を有するカラム(たとえば商品名:「トヨパール(登録商標)SP-650」、東ソー株式会社製)に負荷した後、蒸留水で溶出される第2ボイドボリューム画分を回収する。
【0046】
次に、第2ボイドボリューム画分をゲル濾過カラム(たとえば商品名:「セファデックスLH-20」、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に負荷し、30質量%メタノール水溶液で溶出することにより、Glu-Hyp-Glyのトリペプチドが含まれる画分を回収する。最後に、この画分に対して逆相カラム(たとえば商品名:「μBondasphere 5μC18 300Åカラム」、ウォーターズ社製)を装填した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、0.1質量%トリフルオロ酢酸を含む32質量%以下のアセトニトリル水溶液の直線濃度勾配で分画することにより、Glu-Hyp-Glyを高純度で得ることができる。
【0047】
〔17型コラーゲンの遺伝子発現促進剤またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現促進剤〕
本発明に係る老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現促進剤、またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現促進剤であることが好ましい。老化の進行抑制剤は、上述のようにGly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。これにより、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用を奏することができる。したがって老化の進行抑制剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現促進剤として17型コラーゲンの遺伝子発現を促進し、もって頭髪の脱毛および脱色素化を抑制することができる。17型コラーゲンの遺伝子発現促進剤は、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進することから、加齢性薄毛、脱毛および白髪の進行を抑制する効果、ならびに美肌の促進効果などを期待することができる。
【0048】
さらに老化の進行抑制剤は、上記ペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有することから、グルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用を奏することができる。したがって老化の進行抑制剤は、グルタチオン合成酵素の遺伝子発現促進剤としてグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進し、もって生体内から活性酸素種、過酸化物などを除去することができる。グルタチオン合成酵素の遺伝子発現促進剤は、生体内から活性酸素種、過酸化物などを除去することができるため、炎症による色素沈着を抑制することに基づいた美白、湿疹の抑制などに基づいた美肌、角膜損傷の治癒促進、肝機能の改善およびパーキンソン病改善などの効果を奏することも期待することができる。
【0049】
老化の進行抑制剤は、経口的にまたは非経口的に種々の形態で投与することができる。その形態としては、経口的に投与する場合、たとえば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉剤、液剤、懸濁製剤、乳化製剤などの剤型とすることができる。さらに上述した剤型の老化の進行抑制剤を、飲食品に混合することもできる。老化の進行抑制剤は、上述したペプチドを含むが、これらは腸管で迅速に吸収されるため、経口投与による摂取が可能である。
【0050】
老化の進行抑制剤は、非経口的に投与する場合、たとえば軟膏、クリーム、ローションなどの外用剤、経皮剤などの剤型とすることができる。さらに頭皮に直接塗り込むための液剤または塗布剤とすることもできる。老化の進行抑制剤を塗布剤とした場合、塗布剤に含まれる上記ペプチドなどの濃度は、0.001~5質量%であることが好ましい。
【0051】
老化の進行抑制剤の投与量は、対象者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、製剤の種類などによって異なる。上記老化の進行抑制剤を経口投与する場合、投与量は、たとえば成人1日あたり0.0001~2500mg/kgであることが好ましく、0.0001~500mg/kgであることがより好ましい。老化の進行抑制剤は、その剤型がたとえば錠剤である場合、1錠当たり0.001~80質量%で老化の進行抑制剤が含まれる錠剤とし、たとえば粉剤である場合、0.001~100質量%で老化の進行抑制剤が含まれる粉剤とすることができる。上記投与量は、非経口的に投与する場合、その他の形態の製剤によって投与する場合などにおいて、経口投与の場合の投与量を参考にして適宜決めることができる。老化の進行抑制剤は、1日1~数回に分けて投与することができ、あるいは1~数日に1回投与することもできる。
【0052】
老化の進行抑制剤は、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、他の有効成分、製剤用の担体などを適宜含有させることができる。他の有効成分として、イヌリン、コーヒー酸、キナ酸およびこれらの誘導体、マジョラムからの抽出物、金不換、ヒメハギ(遠志)および白眉草、仮鷹爪などの各種の生薬、ローヤルゼリー、エキナセアからの抽出物、アサイーからの抽出物、クプアスからの抽出物などを挙げることができる。さらに医薬製剤に製剤化する際に用いる薬学上許容される担体としては、希釈剤、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガカント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(乳糖、ショ糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(バレイショデンプン)および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)などを挙げることができる。
【0053】
〔用途発明〕
本発明に係る老化の進行抑制剤は、上述のようにGly-ProおよびGlu-Hyp-Glyの両方またはいずれか一方のペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体を含有する。老化の進行抑制剤は、上述したペプチドの属性として17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、あるいはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用の少なくともいずれかを奏することができる。換言すれば、本発明は、上記の属性に基づき新たに老化の進行を抑制する用途を見出したペプチド、またはその塩、もしくはその化学修飾体であるといえる。
【0054】
[飲食品]
本発明に係る飲食品は、上記老化の進行抑制剤を含む。たとえば老化の進行抑制剤に含まれることが好ましい上記のペプチドは、上述のとおり腸管で迅速に吸収されるため、経口投与による摂取が可能である。したがって、本発明は、上記老化の進行抑制剤を含む飲食品として食事または飲料に混ぜて摂取することができる。さらに本発明に係る老化の進行抑制剤は、特定保健用食品、または機能性表示食品として用いることもできる。飲食品に含まれる老化の進行抑制剤の濃度としては、0.001~100質量%であることが好ましい。
【実施例0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
〔試料の準備〕
<ペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物の準備>
以下の表1~4に示すペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物を、上述した方法により製造し、または後述するメーカーから入手することにより準備した。上記ペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物は、後述する表皮細胞における17型コラーゲン遺伝子のメッセンジャーRNA量(mRNA量)、およびグルタチオン合成酵素遺伝子のmRNA量に影響を与えるか否かを評価するための検体となるものである。
【0057】
ここで表1および表2中に表されるペプチドは、これを構成するアミノ酸を一文字で表記する略号を用いる。表1中、「EO」は、グルタミン酸-ヒドロキシプロリンで表されるジペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。「GP」は、グリシン-プロリンで表されるジペプチド(商品名:「G-3015」、BACHEM社製)である。「EOG」は、グルタミン酸-ヒドロキシプロリン-グリシンで表されるトリペプチド(株式会社ピーエイチジャパン製)である。
【0058】
さらに、表3中に表されるコラーゲンペプチド混合物A(商品名:「コラペプPU」、新田ゼラチン株式会社製、重量平均分子量(Mw):約630Da)は、後述する条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、「EOG」および「GP」およびを以下の量含んでいた。
Glu-Hyp-Gly:4ppm、Gly-Pro:2379ppm、合計:2383ppm。
【0059】
次に、表4中に表されるコラーゲンペプチド混合物B(商品名:「TYPE-S」、新田ゼラチン株式会社製、重量平均分子量(Mw):約750Da)は、後述する条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、「EOG」および「GP」を以下の量含んでいた。
Glu-Hyp-Gly:9ppm、Gly-Pro:1159ppm、合計:1168ppm。
【0060】
表4中に表されるコラーゲンペプチド混合物Cは、新田ゼラチン株式会社が開発中のコラーゲンペプチド混合物(重量平均分子量(Mw):約450Da)であって、後述する条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、「EOG」および「GP」を以下の量含んでいた。
Glu-Hyp-Gly:24ppm、Gly-Pro:26387ppm、合計:26411ppm。
【0061】
LC-MS/MSによる定量解析は、次の条件で実行した。
HPLC装置:「ACQUITY UPLC H-Class Bio」、Waters
Corporation製)
カラム:「Hypersil GOLD PFP 2.1×150mm、5μm(Thermo Fisher Scientific. Inc製)
カラム温度:40℃(リニアグラジエント)
移動相:(A)0.2%ギ酸および2mM酢酸アンモニウム含有水溶液
(B)100%メタノール
(グラジエント設定)
Time(分) 流速(μL/分) 移動相(A)の質量%
イニシャル 200 98
3.50 200 98
3.51 400 5
7.00 400 5
7.10 200 98
17.00 200 98
注入量:0.5μl。
【0062】
MS/MS装置:「Xevo TQ-XS」、Waters Corporation社製
イオン化法:Positive ESI
Capilary (kV):1
Desolvation temperature(℃):500
Source temperature(℃):150
MRM条件:
ペプチド(略号) precursor ion(m/z) product ion(m/z)
Gly-Pro(GP) 173 116
Glu-Hyp-Gly(EOG) 318 225。
【0063】
<表皮細胞の準備>
まず表皮細胞としてヒト正常表皮角化細胞NHEK(NB)(倉敷紡績株式会社製)を入手した。上記細胞を必要数の市販のφ60mmシャーレにそれぞれ1.25×104個(0.25×104細胞/mLの濃度を有する細胞分散液を5mL)播種し、無血清培地(商品名:「HuMedia KG-2」、倉敷紡績株式会社製)により2日間、培養した。次いで、上記細胞が上記シャーレ内でサブコンフルエントになっていることを確認後、上記シャーレ内の培地を基礎培地(商品名:「HuMedia KB-2」、倉敷紡績株式会社製)に置き換えた。これにより17型コラーゲン遺伝子のmRNA量、およびグルタチオン合成酵素遺伝子のmRNA量を評価するための表皮細胞を準備した。
【0064】
<遺伝子発現試験>
各シャーレ中の基礎培地に対し、上記ペプチドまたはコラーゲンペプチド混合物を表1~4のとおりの濃度となるようにそれぞれ添加するとともに、37℃、二酸化炭素濃度5体積%の雰囲気下で72時間培養することにより、遺伝子発現試験に供する各試料を準備した。また上記シャーレ中の基礎培地に対し、イオン交換水のみを添加した対照試料(以下、「Blank」とも記す)を準備した。この対照試料についても37℃、二酸化炭素濃度5体積%の雰囲気下で72時間培養した。
【0065】
次に、RNA抽出キット(商品名:「TRIzol(登録商標)Reagent」、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を上記キットに付属したプロトコールに従って用いることにより、上記シャーレ中の表皮細胞から全RNAを抽出し、もって全RNAを含む抽出物を上記試料毎に得た。続いて、この抽出物中のRNAに対し、cDNA作製キット(商品名(品番):「High Capacity RNA-to-cDNA Kit(4387406)」、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)を上記キットに付属したプロトコールに従って用いることにより逆転写を実行し、もって上記抽出物中のRNAからcDNAを得た。さらに上記cDNAに対し、リアルタイム(RT)-PCRをDNA増幅装置(商品名:「Step One Plus(TM)リアルタイムPCRシステム」、アプライドバイオシステムズ製)により実行した。
【0066】
上記RT-PCRでは、標的遺伝子として17型コラーゲン(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製、プライマー:Hs009900361_ml)、およびグルタチオン合成酵素(GSS、ライフテクノロジーズジャパン株式会社製、プライマー:Hs01547656_ml)のmRNA量を測定した。内部標準(補正遺伝子)にはGAPDHを選択した。mRNA量の計算には、検量線法を用いた。上記RT-PCRに用いるプライマーおよびプローブは、試薬キット(商品名:「TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays」、アプライドバイオシステムズ社製)に付属のものを用いた。
【0067】
上記RT-PCRから得られたデータは、以下のようにして解析した。まず各試料および対照試料において、上述した2種の標的遺伝子(17型コラーゲンおよびグルタチオン合成酵素)のmRNA量(遺伝子発現量)をそれぞれ算出した。次に、2種の標的遺伝子のmRNA量を、補正遺伝子としたGAPDHのmRNA量で補正することにより各試料および対照試料における補正値を得た。具体的には、2種の標的遺伝子のmRNA量をGAPDHのmRNA量で割った値(相対値)をそれぞれ求めた。
【0068】
次いで、対照試料の補正値を100とし、上記対照試料の補正値に対する各試料において得られた補正値の比率(遺伝子発現上昇率(%))を求めた。これにより上記表皮細胞において、上記ペプチドおよびコラーゲンペプチド混合物を添加したことに基づく17型コラーゲン遺伝子のmRNA量、およびグルタチオン合成酵素遺伝子のmRNA量の影響(遺伝子発現促進作用の有無)を評価した。
【0069】
さらに上記遺伝子発現上昇率(%)を統計処理することにより、各試料における17型コラーゲン遺伝子およびグルタチオン合成酵素遺伝子の遺伝子発現促進作用の有意性を評価した。この有意性の評価は、統計処理としてソフトウエア(商品名:「エクセル統計(Ver2.1)」、株式会社社会情報サービス製)を用い、Smirnov-Grubbs(両側検定)を実行し、かつ有意水準(P値)として0.01をしきい値に設定した。その後、Student’s t-test(t検定)を実行することにより判断することとした。結果を、表1~4に示す。表1~4中、「++」が付された試料において、上記遺伝子の発現促進作用に有意性があると判断された。「+」が付された試料では、遺伝子発現上昇率(%)が100を超えた。「-」が付された試料においては、上記遺伝子の発現促進作用に有意性がないと判断された。
【0070】
ここで表1は、「EO」、「GP」および「EOG」の各ペプチドをそれぞれ表皮細胞に添加した場合における17型コラーゲン遺伝子の遺伝子発現上昇率を示す。表2は、「GP」および「EOG」の各ペプチドをそれぞれ表皮細胞に添加した場合におけるグルタチオン合成酵素遺伝子の遺伝子発現上昇率を示す。表3は、上述した「コラーゲンペプチド混合物A」をそれぞれ表皮細胞に添加した場合における17型コラーゲン遺伝子の遺伝子発現上昇率を示す。表4は、上述した「コラーゲンペプチド混合物B」および「コラーゲンペプチド混合物C」をそれぞれ表皮細胞に添加した場合におけるグルタチオン合成酵素遺伝子の遺伝子発現上昇率の増加量を示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
〔考察〕
表1~4によれば、Gly-Pro(GP)およびGlu-Hyp-Gly(EOG)の両方またはいずれか一方のペプチドを含有する試料では、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用の少なくともいずれかを有することが理解される。これらのペプチドを含むコラーゲンペプチド混合物A~Cも、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用、またはグルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進する作用の少なくともいずれかを有していた。一方、Glu-Hyp(EO)で表されるペプチドを含有する試料は、明確な17型コラーゲンの遺伝子発現を促進する作用を示さなかった。これにより上記Gly-ProおよびGlu-Hyp-Glyのペプチド、ならびにこれらを含むコラーゲンペプチド混合物は、老化の進行抑制剤として、17型コラーゲンの遺伝子発現を促進することにより、頭髪における脱毛および脱色素化を抑制する効果があることが示唆された。さらに上記ペプチド、ならびにこれらを含むコラーゲンペプチド混合物は、老化の進行抑制剤として、グルタチオン合成酵素の遺伝子発現を促進することにより、グルタチオンの合成を促進し、もって生体内から活性酸素種、過酸化物などを除去する抗酸化効果があることが示唆された。
【0076】
[実施例2]
〔試料の準備〕
<コラーゲンペプチド混合物の準備>
Gly-Pro(GP)およびGlu-Hyp-Gly(EOG)の両方またはいずれか一方のペプチドを含有するコラーゲンペプチド混合物として、コラーゲンペプチド混合物D(商品名:「コラゲネイド」、新田ゼラチン株式会社製、重量平均分子量(Mw):約4000Da)を準備した。コラーゲンペプチド混合物Dは、上述した[実施例1]と同じ条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、「EOG」および「GP」を合計で132ppm含んでいた。
【0077】
〔ヒトを対照とした老化の進行抑制試験〕
コラーゲンペプチド混合物Dを、年齢層が10~70代である合計95名の被験者(男性2名、女性92名)に摂取させた場合に、上記被験者が老化の進行抑制効果を感じるか否かについて調べた。具体的には、上記95名の被験者に1日当たり4~6gのコラーゲンペプチド混合物Dを、摂取時間を指定しないで10~20日間(平均14日間)経口摂取させた。その後、被験者に対して老化の進行抑制効果を感じた場合に、その部位とともに、上記効果の詳細(具体的な内容)について聞き取り調査(アンケート調査)を実行した。
【0078】
結果を表5~10に示す。表5は、老化の進行抑制効果を感じた部位、および当該部位で老化の進行抑制効果を感じた人数(複数回答アリ)を示す。表6は、肌において老化の進行抑制効果を感じた場合の具体的な内容、および当該内容を回答した人数(複数回答アリ)を示す。表7は、髪において老化の進行抑制効果を感じた場合の具体的な内容、および当該内容を回答した人数(複数回答アリ)を示す。表8は、爪において老化の進行抑制効果を感じた場合の具体的な内容、および当該内容を回答した人数(複数回答アリ)を示す。表9は、関節において老化の進行抑制効果を感じた場合の具体的な内容、および当該内容を回答した人数(複数回答アリ)を示す。表10は、その他の部位において老化の進行抑制効果を感じた場合の具体的な内容、および当該内容を回答した人数(複数回答アリ)を示す。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
〔考察〕
表5~10によれば、Gly-Pro(GP)およびGlu-Hyp-Gly(EOG)の両方またはいずれか一方のペプチドを含有するコラーゲンペプチド混合物D(老化の進行抑制剤)は、肌、髪、爪、関節およびその他の部位において老化の進行抑制効果を奏することが理解される。
【0086】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
さらに、表3中に表されるコラーゲンペプチド混合物A(商品名:「コラペプPU」、新田ゼラチン株式会社製、重量平均分子量(Mw):約630Da)は、後述する条件で実行したLC-MS/MSによる定量解析において、「EOG」および「GP」を以下の量含んでいた。
Glu-Hyp-Gly:4ppm、Gly-Pro:2379ppm、合計:2383ppm。