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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167920
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20241128BHJP
   F16F 9/44 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F16F9/32 N
F16F9/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084227
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 有佑
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC15
3J069CC33
3J069EE06
3J069EE11
3J069EE39
3J069EE44
(57)【要約】
【課題】ピストン速度に応じて減衰力の大きさを調整できる緩衝器を提供すること。
【解決手段】緩衝器(10)は、流体が充填されている第1筒体(24)と、この第1筒体(24)の内部に一端が臨んでいると共に、第1筒体(24)の内部を軸方向に変位可能に設けられている中空状かつ棒状の第1部材(40)と、この第1部材(40)に連結されているとともに、第1筒体(24)内に第1室(R1)および第2室(R2)を画成するピストン(33)と、を備えている。第1部材(40)は、第1室(R1)から一端に流入した流体を第2室(R2)に導くよう開けられている第1連通部(41a)を有している。第1部材(40)には、第1連通部(41a)を開閉可能なバルブである第1バルブ(37)と、この第1バルブ(37)に閉じ方向への力を付与する第1弾性体(36)と、が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体によって構成され内部に流体が充填されている第1筒体と、
この第1筒体の内部に少なくとも一端が臨む中空状かつ棒状の第1部材と、
この第1部材に連結されているとともに、前記第1筒体内の第1室および第2室を画成するピストンと、を備え、
前記第1部材は、前記第1室から前記一端に流入した前記流体を前記第2室に導くよう開けられている第1連通部を有し、
前記第1部材には、前記第1連通部を開閉可能なバルブである第1バルブと、この第1バルブに閉じ方向への力を付与する第1弾性体と、が設けられている緩衝器。
【請求項2】
前記第1部材には、前記第1バルブと共に前記第1弾性体を挟んでいる棒状の第1ロッドと、この第1ロッドの軸線方向の位置を調節可能な第1調節部と、が設けられている、請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記第1室から流出した前記流体が流入するケースと、
このケースの内部に設けられ、前記ケースに流入した前記流体の一部が一端から流入可能な中空状かつ棒状の第2部材と、を備え、
前記第2部材は、前記第2部材の内部と外部とを連通している第2連通部を有し、
前記第2部材には、前記第2連通部を開閉可能なバルブである第2バルブと、この第2バルブに閉じ方向への力を付与する第2弾性体と、が設けられている、請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記ケースには、前記第2バルブと共に前記第2弾性体を挟み込むように前記第2部材の軸線方向に変位可能な変位部材と、この変位部材の軸線方向の位置を調節可能な第2調節部と、が設けられている、請求項3に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記第2バルブを前記第2部材の軸線方向に変位させ、前記第2バルブの位置を調節可能な第3調節部が設けられている、請求項3に記載の緩衝器。
【請求項6】
筒体によって構成され内部にオイルが充填されている第1筒体と、
この第1筒体の内部に一端が臨み、前記第1筒体の軸線方向に移動可能な中空状かつ棒状の第1部材と、
この第1部材に連結されているとともに、前記第1筒体内の第1室および第2室を画成するピストンと、
前記第1室から流出した前記オイルが流入するケースと、
このケースの内部に設けられ、前記ケースに流入した前記オイルの一部が一端から流入可能な中空状かつ棒状の第2部材と、を備え、
前記第1部材は、前記第1室から前記一端に流入した前記流体を前記第2室に導くよう径方向に向かって開けられている第1連通部を有し、
前記第1部材には、前記第1連通部を開閉可能なニードルバルブである第1バルブと、この第1バルブに閉じ方向への力を付与するコイルばねによって構成される第1弾性体と、前記第1バルブと共に前記第1弾性体を挟んでいる棒状の第1ロッドと、この第1ロッドの軸線方向の位置を調節可能な第1調節部と、が設けられ、
前記第2部材は、前記第2部材の内部と外部とを連通している第2連通部を有し、
前記第2部材には、前記第2連通部を開閉可能なニードルバルブである第2バルブと、この第2バルブに閉じ方向への力を付与しコイルばねによって構成される第2弾性体と、が設けられ、
前記ケースには、前記第2バルブと共に前記第2弾性体を挟み込むように前記第2部材の軸線方向に変位可能な変位部材と、この変位部材の軸線方向の位置を調節可能な第2調節部と、前記第2バルブを前記第2部材の軸線方向に変位させ、前記第2バルブの位置を調節可能な第3調節部と、が設けられている緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの鞍乗り型車両には、緩衝器が設けられている。緩衝器に関する従来技術として特許文献1に開示される技術がある。
【0003】
特許文献1に示されるような、緩衝器は、筒体によって構成され内部にオイルが充填されているシリンダと、このシリンダの内部に設けられている筒状の第2のロッドと、この第2のロッドの先端に設けられた第2のピストンと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-62845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ストローク速度(ピストン速度)が高いほど、緩衝器では大きな減衰力が発生する。例えば、乗り心地性向上の観点から、所定のピストン速度領域における減衰力を調整する等、ピストン速度に応じて減衰力の大きさを調整できることが好ましい。
【0006】
本発明は、ピストン速度に応じて減衰力の大きさを調整できる緩衝器の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、流体が充填されている第1筒体の内部をピストンによって第1室と第2室とに分け、第1室から第2室へ流体が流れる流路に流路を開閉可能な第1バルブを設け、この第1バルブを第1弾性体によって閉じ方向へ付勢することにより、所望のピストン速度領域における減衰力の大きさを調整可能であることを知見した。本発明は、当該知見に基づいて完成させた。
【0008】
以下、本開示について説明する。
【0009】
本開示の1つの態様によれば、筒体によって構成され内部に流体が充填されている第1筒体と、この第1筒体の内部に少なくとも一端が臨む中空状かつ棒状の第1部材と、この第1部材に連結されているとともに、前記第1筒体内の第1室および第2室を画成するピストンと、を備え、前記第1部材は、前記第1室から前記一端に流入した前記流体を前記第2室に導くよう開けられている第1連通部を有し、前記第1部材には、前記第1連通部を開閉可能なバルブである第1バルブと、この第1バルブに閉じ方向への力を付与する第1弾性体と、が設けられている緩衝器が提供される。
【0010】
本開示の他の態様によれば、筒体によって構成され内部にオイルが充填されている第1筒体と、この第1筒体の内部に一端が臨み、前記第1筒体の軸線方向に移動可能な中空状かつ棒状の第1部材と、この第1部材に連結されているとともに、前記第1筒体内の第1室および第2室を画成するピストンと、前記第1室から流出した前記オイルが流入するケースと、このケースの内部に設けられ、前記ケースに流入した前記オイルの一部が一端から流入可能な中空状かつ棒状の第2部材と、を備え、前記第1部材は、前記第1室から前記一端に流入した前記流体を前記第2室に導くよう径方向に向かって開けられている第1連通部を有し、前記第1部材には、前記第1連通部を開閉可能なニードルバルブである第1バルブと、この第1バルブに閉じ方向への力を付与するコイルばねによって構成される第1弾性体と、前記第1バルブと共に前記第1弾性体を挟んでいる棒状の第1ロッドと、この第1ロッドの軸線方向の位置を調節可能な第1調節部と、が設けられ、前記第2部材は、前記第2部材の内部と外部とを連通している第2連通部を有し、前記第2部材には、前記第2連通部を開閉可能なニードルバルブである第2バルブと、この第2バルブに閉じ方向への力を付与しコイルばねによって構成される第2弾性体と、が設けられ、前記ケースには、前記第2バルブと共に前記第2弾性体を挟み込むように前記第2部材の軸線方向に変位可能な変位部材と、この変位部材の軸線方向の位置を調節可能な第2調節部と、前記第2バルブを前記第2部材の軸線方向に変位させ、前記第2バルブの位置を調節可能な第3調節部と、が設けられている緩衝器が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ピストン速度に応じて減衰力の大きさを調整できる緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例による緩衝器の斜視図である。
図2図1に示された緩衝器の要部断面図である。
図3図1に示された減衰力発生ユニットの断面図である。
図4図4Aは、比較例によるピストン速度と減衰力との関係を示すグラフ、図4Bは、実施例によるピストン速度と減衰力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。
【0014】
<実施例>
図1を参照する。緩衝器10は、例えば、鞍乗り型車両のリヤクッションとして用いられる。より具体的には、後輪の近傍から車体に掛け渡されるようにして取り付けられ、路面の凹凸から後輪に伝わった振動等を減衰するものである。図1に示される状態において、緩衝器10は、最も圧縮された状態にある。
【0015】
緩衝器10は、車体に接続される上部本体部20と、一端(上端)が上部本体部20に挿入され他端(下端)が後輪の側部に接続される下部本体部30と、これらの上部本体部20と下部本体部30とが互いに離間する方向に力を付与しているばね13と、上部本体部20に接続され上部本体部20から流出したオイル(流体)が流れ込むと共に減衰力を発生させる減衰力発生ユニット50と、この減衰力発生ユニット50を経由して余剰なオイルが流れ込むサブタンク15と、を有する。
【0016】
上部本体部20は、車体に接続される車体側接続部21aが形成されている上部蓋部21を有している。
【0017】
図2を参照する。図2には、最も伸長した状態の緩衝器10の要部が示されている。図1に示されたばね13は、説明の便宜上、外された状態とされている。上部本体部20は、上部蓋部21(図1参照)に上端が閉じられている略筒状の外部筒体22と、この外部筒体22の下端の内部に設けられ外部筒体22の下端を閉じている下部蓋部23と、この下部蓋部23に下端が固定され内部にオイル(流体)が充填されている筒状の第1筒体24と、を有している。
【0018】
下部本体部30は、下端に位置し後輪の側部に接続される下部固定部31と、この下部固定部31に下端が固定され上端が第1筒体24の内部まで延びる中空状かつ棒状の第1部材40と、この第1部材40の上端に接続され外周面が第1筒体24の内周面に当接しているピストン33と、第1部材40の内部に設けられている棒状の第1ロッド34と、この第1ロッド34の軸線方向の位置を調節するために下部固定部31に設けられている第1調節部35と、第1ロッド34の先端に当接しコイルばねによって構成される第1弾性体36と、この第1弾性体36によって上方に向かって付勢されニードル弁によって構成される第1バルブ37と、を有している。
【0019】
図3を参照する。減衰力発生ユニット50は、上部本体部20(図2参照)から流出したオイルが流入する有底筒状のケース51と、このケース51の開口を閉じているユニット蓋部52と、このユニット蓋部52に固定されケース51に流入したオイルの一部が一端から流入可能な第2部材70と、この第2部材70の外周とケース51の内周との間に設けられ圧縮行程時に減衰力を発生させる圧縮時減衰力発生部54と、第2部材70の外周とケース51の内周との間に設けられ伸長行程時に減衰力を発生させる伸長時減衰力発生部55と、を有している。
【0020】
図1を参照する。ここで圧縮行程とは、ばね13に圧縮方向の力が加わる際の行程をいい、伸長行程とは、圧縮されたばね13が伸長する際の行程をいう。
【0021】
図3を参照する。減衰力発生ユニット50は、第2部材70に設けられニードル弁によって構成される第2バルブ80と、この第2バルブ80に当接し第2バルブ80に閉じ方向の力を付与している第2弾性体57と、この第2弾性体57に当接し第2部材70の軸線方向に変位可能な変位部材58と、この変位部材58の軸線方向の位置を調節可能な第2調節部62と、この第2調節部62を支持していると共にユニット蓋部52の内部に設けられ第2バルブ80の軸線方向の位置を調節可能な第3調節部63と、を有している。
【0022】
図2を参照する。外部筒体22の下部の内周面は、雌ねじ状に形成されている。雌ねじ状に形成された部位に、下部蓋部23が締結されている。
【0023】
下部蓋部23は、略O字状に形成されている。下部蓋部23の外周面の一部は、雄ねじ状に形成され、外部筒体22に締結されている。下部蓋部23の中心部には、第1部材40が軸線CL1に沿って変位可能に貫通している。
【0024】
第1筒体24の内部は、ピストン33によって第1室R1と第2室R2とに区画されている。第1室R1は、ピストン33の上方の領域であり、圧縮行程時に体積が小さくなり、伸長行程時に体積が大きくなる。第2室R2は、ピストン33の下方の領域である。第2室R2には、ピストン33を支持している第1部材40の一部が進入している。第2室R2は、圧縮行程時に体積が大きくなり、伸長行程時に体積が小さくなる。
【0025】
また、第1筒体24と外部筒体22との間には、第3室R3が形成されている。第1筒体24の下部には、複数の第1筒体穴部24aが開けられている。ピストン33が下降(伸長)する際には、矢印91で示されるように、第2室R2内のオイルは、第1筒体穴部24aを通過して第3室R3へ流れる。
【0026】
図1を参照する。下部固定部31には、例えば、サスペンションアームに接続される下部接続部31aが形成されている。
【0027】
図2を参照する。下部固定部31の上端は、凹状に形成され、第1調節部35が収納されている第1調節部収納部31bとされている。
【0028】
第1部材40は、内部に第1ロッド34が収納されている中空状かつ棒状の第1部材本体41と、この第1部材本体41の上部に締結されている第1部材先端部42と、を有している。
【0029】
第1部材本体41の上部には、第1部材40の内部と第2室R2とを連通する第1連通部41aが径方向に複数開けられている。また、第1部材40の下部の内周には、雌ねじ状の第1部材雌ねじ部41bが形成されている。
【0030】
第1部材先端部42は、第1部材本体41の先端に締結されている。第1部材先端部42は、第1バルブ37の先端を収容可能な穴が中心に開けられている。
【0031】
ピストン33には、第1室R1から第1部材40にオイルを導くピストン流路部33aが形成されている。ピストン33が上昇すると、第1室R1内のオイルは、矢印92で示すように、ピストン流路部33aから第1部材40を流れ、第1連通部41aから第2室R2へ流れる。
【0032】
第1ロッド34は、回転可能且つ軸線方向に変位可能に第1部材本体41の内部に設けられている。第1ロッド34の下端には、径方向に突出した第1ロッド突出部34aが形成されている。第1ロッド突出部34aは、ピン等の別部材によって構成されていても良いし、第1ロッド34の他の部位と一体的に構成されていても良い。
【0033】
また、第1ロッド34の下部には、第1部材雌ねじ部41bに締結される雄ねじ状の第1ロッド雄ねじ部34bが形成されている。第1ロッド34を回転させると、第1ロッド34は、第1部材雌ねじ部41bに沿って軸線CL1に沿って移動する。
【0034】
第1ロッド34の先端は、第1弾性体36をガイドすると共に座屈することを抑制する第1ロッド側ガイド部34cとされている。
【0035】
第1調節部35は、一部が下部固定部31から露出し(図1参照)乗員が回転させることができる第1調節部操作部35aと、この第1調節部35を回転させた際に乗員にクリック感を付与する第1調節部クリック機構35bと、を有している。
【0036】
第1調節部操作部35aの中心部は、第1ロッド34が貫通している。第1ロッド34の下端に第1ロッド突出部34aが形成されていることにより、第1調節部操作部35aを回転させた際に、確実に第1ロッド34を回転させることができる。
【0037】
第1調節部操作部35aが回転すると、第1調節部操作部35aと共に第1ロッド34が回転する。第1ロッド34は回転することにより軸線CL1に沿って変位し、第1弾性体36の圧縮量を変化させることができる。第1弾性体36の圧縮量を変化させることによって、第1バルブ37が第1部材先端部42に押し付けられる力や第1バルブ37の変位可能な量が変化する。
【0038】
第1弾性体36は、例えば、コイルばねによって構成されている。
【0039】
第1バルブ37は、一端に先細りテーパ状の弁体である第1バルブ弁体37aが形成されている。通常時において、第1バルブ弁体37aは、第1部材先端部42の内周面に当接し、第1連通部41aを閉じている。
【0040】
また、第1バルブ37は、他端に第1弾性体36をガイドすると共に座屈することを抑制する第1バルブ側ガイド部37bが形成されている。第1バルブ側ガイド部37bは、第1ロッド側ガイド部34cに対向している。第1バルブ側ガイド部37bによって第1ロッド34の前進限を規定することも可能である。例えば、軸線CL1方向における第1部材雌ねじ部41bの長さよりも、第1バルブ側ガイド部37bから第1ロッド側ガイド部34cまでの距離を短くすることにより、第1バルブ側ガイド部37bによって第1ロッド34の前進限を規定することができる。
【0041】
図3を参照する。ケース51は、上部蓋部21(図1参照)に一体的に形成されている、ということもできるし、上部蓋部21の一部ということもできる。ケース51は、圧縮行程時に第1室R1(図2参照)から流出したオイルが流入する圧側流入部51aと、伸長行程時に第3室R3(図2参照)から流出したオイルが流入する伸側流入部51bと、サブタンク15に連通しているサブタンク連通部51cと、を有している。
【0042】
なお、圧側流入部51aと伸側流入部51bとを逆とすることも可能である。
【0043】
圧側流入部51aは、伸長行程時には、伸側流入部51bから流入したオイルが流出する流出口となる。圧側流入部51aから流出したオイルは、第1室R1(図2参照)へ流れる。また、伸側流入部51bは、圧縮行程時には、圧側流入部51aから流入したオイルが流出する流出口となる。伸側流入部51bから流出したオイルは、第3室R3(図2参照)へ流れる。
【0044】
ユニット蓋部52は、第2調節部62及び第3調節部63が貫通している略O字板状の蓋底部52aと、この蓋底部52aの外縁から周方向に連続して立ち上げられている蓋側壁部52bと、を有している。蓋側壁部52bは、内周面が雌ねじ状に形成され、外周面が雄ねじ状に形成されている。蓋側壁部52bは、ケース51の内周面に締結されている。ユニット蓋部52は、減衰力の調整作業において回転しない。
【0045】
第2部材70は、ユニット蓋部52に締結されている略有底筒状の第2部材基部71と、この第2部材基部71の中心から軸線CL2に沿って延びる中空状かつ棒状の第2部材棒状部72と、を有する。
【0046】
第2部材基部71の側壁には、オイルが通過可能な基部穴部71aが複数開けられている。
【0047】
第2部材棒状部72は、外径が略一定である一方、内径は略中央にて先端に向かって小径となるようテーパ状に変化している。第2部材棒状部72の内径が変化する部位は、第2バルブ80が当接し弁座の役割を果たす第2部材弁座部72aとされている。
【0048】
第2部材棒状部72の第2部材弁座部72aよりも第2部材基部71に近い部位には、第2部材棒状部72の内部と外部とを連通している第2連通部72bが径方向に向かって開けられている。
【0049】
圧縮時減衰力発生部54は、圧縮行程時にオイルが通過可能な圧側第1流路54aと、この圧側第1流路54aの端部に重なり板ばねで構成される圧側板ばね54bと、伸長行程時にオイルが通過可能な圧側第2流路54cと、伸長行程時に圧側第2流路54cへのオイルの流入を防ぐ圧側逆止弁54dと、を有する。
【0050】
矢印93で示すように、圧縮行程時にケース51に流入したオイルは、圧側第1流路54aを通過し、圧側板ばね54bの力に抗して圧側板ばね54bを弾性変形させることにより、圧縮時減衰力発生部54を通過する。圧縮行程時に圧縮時減衰力発生部54をオイルが通過することにより、減衰力が発生する。一方、伸長行程時にオイルが圧側第2流路54cを通過する際には、圧側逆止弁54dは、減衰力の発生にはほとんど寄与しない。
【0051】
伸長時減衰力発生部55は、伸長行程時にオイルが通過可能な伸側第1流路55aと、この伸側第1流路55aの端部に重なり板ばねで構成される伸側板ばね55bと、圧縮行程時にオイルが通過可能な伸側第2流路55cと、圧縮行程時に伸側第2流路55cへのオイルの流入を防ぐ伸側逆止弁55dと、を有する。
【0052】
矢印97で示すように、伸長行程時にケース51に流入したオイルは、伸側第1流路55aを通過し、伸側板ばね55bの力に抗して伸側板ばね55bを弾性変形させることにより、伸長時減衰力発生部55を通過する。伸長行程時に伸長時減衰力発生部55をオイルが通過することにより、減衰力が発生する。一方、圧縮行程時にオイルが伸側第2流路55cを通過する際には、伸側逆止弁55dは、減衰力の発生にはほとんど寄与しない。
【0053】
第2バルブ80は、一端に先細りテーパ状の弁体である第2バルブ弁体81が形成されている。第2バルブ80の他端は、第2部材棒状部72の外部に露出し、雄ねじ状に形成された部位に鍔付きナットによって構成されるナット部82が固定されている。
【0054】
ナット部82の鍔の一面は、第2弾性体57に当接し、第2弾性体57からの力を受けている。ナット部82の鍔の他面は、第3調節部63に当接している。
【0055】
圧縮行程時において、矢印94で示すように、圧側流入部51aからケース51の内部に流入したオイルの一部は、第2弾性体57の付勢力に抗して第2バルブ80を押下げ、第2部材70の内部を流れる。第2部材70の内部を流れるオイルは、第2連通部72bから第2部材70の外部に流れる。第2バルブ80が第2部材70を閉じているとき、伸長行程時において、第2部材70の内部にオイルは流れない。
【0056】
なお、圧側流入部51aと伸側流入部51bとを逆にした場合には、伸長行程時にのみ第2部材70にオイルが流れる。この場合、第2バルブ80が第2部材70を閉じているとき、圧縮行程時には第2部材70にオイルは流れない。
【0057】
第2弾性体57は、例えば、コイルばねによって構成されている。
【0058】
変位部材58は、雄ねじ状に形成され第2調節部62に差し込まれている変位部材差し込み部58aと、この変位部材差し込み部58aの端部に一体的に形成され第3調節部63の内周面に締結され内周面に沿って変位可能な変位部材本体58bと、この変位部材本体58bに一体的に形成され第2弾性体57をガイドしている変位部材側ガイド部58cと、を有している。
【0059】
第2調節部62は、乗員が回転させることができる第2調節部操作部62aと、この第2調節部62を回転させた際に乗員にクリック感を付与する第2調節部クリック機構62bと、を有している。
【0060】
第2調節部62を回転させた際、変位部材58は、軸線CL2に沿って直線的に変位する。変位部材58が変位することにより、第2弾性体57の圧縮量を変化させることができる。第2弾性体57の圧縮量を変化させることによって、第2バルブ80が第2部材弁座部72aに押し付けられる力や第2バルブ80の変位可能な量が変化する。
【0061】
第3調節部63は、概ね有底筒状に形成されている。第3調節部63の底部には、第2弾性体57によって付勢されているナット部82が当接している。第3調節部63の先端部分は、乗員が回転させることができる第3調節部操作部63aとされている。
【0062】
第3調節部63の外周面には雄ねじ状に形成された第3調節雄ねじ部63bが形成されている。第3調節雄ねじ部63bは、蓋側壁部52bに締結されている。第3調節部63の内周面には、雌ねじ状の雌ねじ部63cが形成されている。
【0063】
第3調節部操作部63aを回転させると、第3調節部63は、回転しながら軸線CL2に沿って変位する。第3調節部63を後退させると、第2バルブ80が後退する。これにより、通常時において第2バルブ80を第2部材弁座部72aから離間させることができる。開放量を調整することにより、発生する減衰力についても調整することができる。第3調節部63を前進させると、第2弾性体57の付勢力によって第2バルブ80が追従し、第2部材70を閉じる方向に変位する。
【0064】
以上に説明した緩衝器10の作用について説明する。
【0065】
図1を参照する。鞍乗り型車両の走行中に、路面の凹凸により後輪を通じて下部本体部30に上方向の力が加わることがある。このとき、ばね13の力に抗して下部本体部30は上部本体部20に対して上昇する。つまり、緩衝器10に圧縮方向の力が加わる。
【0066】
図2を参照する。圧縮行程において、第1部材40の先端及びピストン33は、第1筒体24の内部に進入し、オイルは、矢印92で示すように、ピストン33から第1部材40の内部に流入する。オイルは、第1弾性体36の力に抗して第1バルブ37を下降させ、第1部材40の内部を流れ、第1連通部41aから第2室R2へ流れる。このとき、減衰力が発生する。
【0067】
伸長行程において、ピストン33は、第1筒体24の内部を降下する。伸長行程時には、第1部材40の内部をオイルが流れない。第2室R2内のオイルは、矢印91で示すように、ピストン33に押されて第1筒体穴部24aを通過して第3室R3に流れる。
【0068】
図3を参照する。圧縮行程において、オイルは、圧側流入部51aからケース51内部に流れる。一部のオイルは、矢印93で示すように、圧縮時減衰力発生部54を通過して、この時に減衰力が発生する。また、オイルの一部は、矢印94で示すように、第2部材70の内部に流入する。このオイルは、第2バルブ80を押下げて第2部材70の内部を流れ、第2連通部72bから第2部材70の外部へ流れる。
【0069】
圧縮時減衰力発生部54を通過したオイル、及び、第2連通部72bから第2部材70の外部へ流れたオイルは、矢印95で示すように、伸長時減衰力発生部55を通過する。このとき、ほとんど減衰力は発生しない。
【0070】
伸長時減衰力発生部55を通過したオイルは、矢印96で示すように、伸側流入部51bから第3室R3(図2参照)へ戻る。図2を参照する。第3室R3へ流れたオイルは、第1筒体穴部24aを通過して第2室R2に流れる。
【0071】
特に、圧縮行程において、第1部材40が第1筒体24の内部に進入すると、第1部材40の体積分のオイルは余剰なオイルとなる。図3を参照する。この余剰なオイルは、サブタンク連通部51cからサブタンク15へ流れる。伸長行程時には、逆に、第1部材40(図2参照)が後退した分、サブタンク15からケース51へオイルが流れる。
【0072】
伸長行程において、オイルは、矢印97で示すように、伸側流入部51bからケース51内部に流入する。ケース51の内部へ流入したオイルは、伸長時減衰力発生部55を通過して、この時に減衰力が発生する。
【0073】
伸長時減衰力発生部55を通過したオイルは、矢印98で示すように、圧縮時減衰力発生部54を通過する。このとき、ほとんど減衰力は発生しない。
【0074】
圧縮時減衰力発生部54を通過したオイルは、圧側流入部51aから第2室R2(図2参照)へ戻る。
【0075】
以上に説明した緩衝器10について、以下に纏める。
【0076】
図2を参照する。第1に、緩衝器10は、筒体によって構成され内部に流体が充填されている第1筒体24と、この第1筒体24の内部に少なくとも一端が臨む中空状かつ棒状の第1部材40と、この第1部材40に連結されているとともに、第1筒体24内の第1室R1および第2室R2を画成するピストン33と、を備えている。第1部材40は、第1室R1から一端に流入した流体を第2室R2に導くよう開けられている第1連通部41aを有している。第1部材40には、第1連通部41aを開閉可能なバルブである第1バルブ37と、この第1バルブ37に閉じ方向への力を付与する第1弾性体36と、が設けられている。
【0077】
図4Aを併せて参照する。図4Aには、比較例による緩衝器によるピストン速度と減衰力との関係が示されている。横軸はピストンの移動速度[m/s]であり、縦軸は減衰力[N]である。比較例による緩衝器においては、第1弾性体36が設けられていない。
【0078】
一番下に示される線(MIN)は、流路が最も広い状態におけるピストンの移動速度と減衰力との関係である。一番上に示される線(MAX)は、流路が最も狭い状態におけるピストンの移動速度と減衰力との関係である。これらの間に示される線(MID)は、流路の広さが中間の状態におけるピストンの移動速度と減衰力との関係である。
【0079】
何れの場合においても、設定した流路の広さは、ピストン速度が変化した場合であっても変わらず、ピストン速度が速くなるのにつれて減衰力も高くなっている。
【0080】
図2図4Bを参照する。図4Bには、実施例による緩衝器10によるピストン速度と減衰力との関係が示されている。横軸はピストンの移動速度[m/s]であり、縦軸は減衰力[N]である。実施例による緩衝器10は、第1バルブ37を閉じ方向に付勢する第1弾性体36を有している。
【0081】
一番下に示される線(MIN)は、第1弾性体36による付勢力が最も小さい状態におけるピストンの移動速度と減衰力との関係である。一番上に示される線(MAX)は、第1弾性体36による付勢力が最も大きい状態におけるピストンの移動速度と減衰力との関係である。これらの間に示される線(MID)は、第1弾性体36による付勢力が中間の状態におけるピストンの移動速度と減衰力との関係である。
【0082】
一番下に示される線(MIN)を参照する。ピストン速度が一定の速度に達するまで(左から3つ目の黒丸点参照)の領域と、この速度を超えた領域とで、ピストン速度の増加量に対する、減衰力の増加量が変化している。
【0083】
ピストン33が動いていない状態において、第1バルブ37によって第1連通部41aは、閉じられている。この状態からピストン33が変位する際に、オイルは、第1弾性体36の付勢力に抗して第1バルブ37を移動させ、第1連通部41aを開放する。ピストン33の変位する速度が速くなると、さらにオイルによって第1バルブ37は移動させられ、第1連通部41aの開放量が大きくなる。ピストン速度が一定の速度に達すると、第1バルブ37は下降限まで達し、第1連通部41aの開放量は最大となる。さらにピストン速度が速くなった場合、第1連通部41aの開放量は変わらない。
【0084】
以上のように、ピストン速度が一定の速度に達するまでは、オイルの通過する流路の広さが徐々に広がり、一定の速度を超えた後は、流路の面積が一定であった。これにより、流路面積が変化している領域と流路面積が一定である領域とにおいて、ピストン速度の増加量に対する減衰力の増加量に変化が生じたものと考えられる。
【0085】
第1弾性体36による付勢力を変更した場合(MID、MAX参照)においても同様の傾向が見られた。
【0086】
流体が充填されている第1筒体24の内部をピストン33によって第1室R1と第2室R2とに分け、第1室R1から第2室R2へ流体が流れる流路に流路を開閉可能な第1バルブ37を設け、この第1バルブ37を第1弾性体36によって閉じ方向へ付勢することとした。これにより、第1バルブ37が徐々に流体の流路面積を広げる領域と流路面積が一定となる領域とを分けることができる。これらを分けることにより、ピストン速度に応じて減衰力の大きさを調整できる。つまり、ピストン速度に応じて減衰力の大きさを調整できる緩衝器10を提供することができる。
【0087】
第2に、第1の緩衝器10であって、第1部材40には、第1バルブ37と共に第1弾性体36を挟んでいる棒状の第1ロッド34と、この第1ロッド34の軸線方向の位置を調節可能な第1調節部35と、が設けられている。第1ロッド34の位置によって第1弾性体36の付勢力を変化させることができる。第1弾性体36の付勢力を変化させることにより、発生する減衰力の特性を変えることができる。つまり、発生する減衰力の特性を選択可能(MIN、MID、MAX参照)となる。
【0088】
図3を参照する。第3に、第1又は第2の緩衝器であって、緩衝器10は、第1室R1(図2参照)から流出した流体が流入するケース51と、このケース51の内部に設けられ、ケース51に流入した流体の一部が一端から流入可能な中空状かつ棒状の第2部材70と、をさらに備えている。第2部材70は、第2部材70の内部と外部とを連通している第2連通部72bを有している。第2部材70には、第2連通部72bを開閉可能なバルブである第2バルブ80と、この第2バルブ80に閉じ方向への力を付与する第2弾性体57と、が設けられている。第1弾性体36及び第1バルブ37(図2参照)とは別にさらに第2弾性体57及び第2バルブ80を設けることにより、発生する減衰力の大きさをさらに細かく調整できる。
【0089】
第4に、第3の緩衝器10であって、ケース51には、第2バルブ80と共に第2弾性体57を挟み込むように第2部材70の軸線方向に変位可能な変位部材58と、この変位部材58の軸線方向の位置を調節可能な第2調節部62と、が設けられている。変位部材58の位置によって第2弾性体の付勢力を調整し、発生する減衰力の特性を変えることができる。
【0090】
第5に、第3又は第4の緩衝器10であって、第2バルブ80を第2部材70の軸線方向に変位させ、第2バルブ80の位置を調節可能な第3調節部63が設けられている。第2バルブ80の位置によって第2部材70の内部を常時開状態とすることも可能である。これにより、さらに発生する減衰力の特性を変化させることが可能となる。
【0091】
なお、本発明による緩衝器は、鞍乗り型車両のリヤクッションを例に説明したが、フロントフォーク等にも適用可能であり、これらの形式のものに限られるものではない。
【0092】
また、第1部材は、全体が第1筒体の内部に固定されていても良く、必ずしも軸線方向に変位可能とされる必要はない。
【0093】
即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の緩衝器は、鞍乗り型車両のリヤクッションに好適である。
【符号の説明】
【0095】
10…緩衝器、24…第1筒体、33…ピストン、34…第1ロッド、35…第1調節部、36…第1弾性体、37…第1バルブ、40…第1部材、41a…第1連通部、51…ケース、57…第2弾性体、58…変位部材、62…第2調節部、63…第3調節部、70…第2部材、72b…第2連通部、80…第2バルブ、R1…第1室、R2…第2室。
図1
図2
図3
図4