(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167922
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】粉末醤油製造用原料醤油および粉末醤油の製造法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/50 20160101AFI20241128BHJP
【FI】
A23L27/50 111
A23L27/50 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084230
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保田 俊介
【テーマコード(参考)】
4B039
【Fターム(参考)】
4B039LB01
4B039LB08
4B039LC06
4B039LC12
4B039LC20
4B039LR20
(57)【要約】
【課題】吸湿性が十分に抑制されつつも、醤油の香ばしい風味が十分に感じられ、保管や、スナック菓子等の加工食品の調味にも適した新規な粉末醤油を得る。
【解決手段】粉末醤油の原料醤油として、(1)直接還元糖濃度が0.4~1.8%(w/v)かつ(2)全窒素濃度0.6~0.9%(w/v)である醤油を用い、これを適宜粉末化工程に処することにより、醤油の風味にすぐれているだけでなく、保管時の吸湿性が良好に抑えられた粉末醤油を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接還元糖濃度が0.4~1.8%(w/v)であり、かつ窒素濃度が0.6~0.9%(w/v)である粉末醤油製造用原料醤油。
【請求項2】
醤油の種別が濃口醤油または溜まり醤油である、請求項1記載の粉末醤油製造用原料醤油。
【請求項3】
請求項1記載の粉末醤油製造用原料醤油を粉末化することを特徴とする、粉末醤油の製造法。
【請求項4】
粉末化の方法がスプレードライ法またはドラムドライ法である、請求項3記載の製造法。
【請求項5】
粉末化の方法がドラムドライ法である、請求項4記載の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、吸湿性が良好に抑えられ、長期保存等に適しているだけでなく、醤油の風味を十分に感じられる粉末醤油の製造に適した粉末醤油製造用原料醤油および当該原料醤油を用いた粉末醤油の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末タイプの醤油が従来提供されており、インスタント麺に添付される粉末調味料の原料や、スナック菓子の調味など様々な加工食品の製造において活用されている。
【0003】
粉末醤油の製造および保管における課題として、粉末醤油が保管中に吸湿することで、粉末が固結してしまう点が挙げられる。固結性を改善するための試みも従来様々になされている。
【0004】
例えば、醤油に糖類および有機酸もしくは無機酸またはその塩を添加して加熱することで得た濃色醤油に醤油を加えて加熱し、グルコース濃度が3.0mg/g以下となる原料濃色醤油を粉末化することで、保存中に固結しにくく、かつ苦味のない濃色粉末醤油を得る方法(特許文献1)や、2-フェニルエタノールおよびコハク酸を高濃度含有し、固結防止安定性の高く風味良好な粉末醤油(特許文献2)などが知られている。また、粉末醤油の原料に適した醤油として、特定の香気成分の含有量が一定の数値以下、直接還元糖量1.5%(w/v)以下等の組成上の特徴を有する醤油(特許文献3)が知られている。
【0005】
また、固形物濃度42%の溜り醤油を、噴霧乾燥機能付きの造粒装置を用い、一定の低温除湿条件下で乾燥造粒することにより、風味・香り成分を保持した溜り醤油の乾燥粉末を得られることが知られている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、吸湿性が十分に抑制され、かつ醤油の風味も十分感じられる粉末醤油について、従来十分に検討されてきたとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-244712
【特許文献2】WO2011/034049
【特許文献3】特許第6433670号
【特許文献4】WO2003/068007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明の課題は、吸湿性が十分に抑制されつつも、醤油の香ばしい風味が十分に感じられ、保管や、スナック菓子等の加工食品の調味にも適した新規な粉末醤油を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、発明者は鋭意検討を行った結果、粉末醤油の原料醤油として((1)直接還元糖濃度が0.4~1.8%(w/v)かつ(2)全窒素濃度0.6~0.9%(w/v)の醤油を用い、これを適宜粉末化工程に処することにより、醤油の風味にすぐれ、かつ吸湿性が良好に抑えられた粉末醤油を得られることを見出し、本願発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の粉末醤油は、吸湿性が良好に抑えられ、固結が生じにくいなど長期保存等に適しているだけでなく、醤油の風味を十分に感じられるという食味上の特長を有しているものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明は、吸湿性が良好に抑えられ、長期保存等に適しているだけでなく、醤油の風味を十分に感じられる粉末醤油の製造に適した粉末醤油製造用原料醤油および当該原料醤油を用いた粉末醤油の製造法に関する。
【0012】
本願発明の粉末醤油製造用原料醤油は、(1)直接還元糖濃度が0.4~1.8%(w/v)、(2)全窒素濃度が0.6~0.9%(w/v)であることを特徴とする。
【0013】
醤油の種別としては、直接還元糖濃度が0.4~1.8%(w/v)かつ窒素濃度0.6~0.9%(w/v)であれば、任意の醤油を使用することができ、例えば濃口醤油、淡口醤油、溜まり醤油、再仕込み醤油、しろ醤油または濃厚醤油などから選ばれる1種であってもよく、これらを2種以上混合した醤油であっても良い。中でも濃口醤油、溜まり醤油、再仕込醤油または濃厚醤油であることが好ましく、濃口醤油または溜まり醤油であることがさらに好ましい。これらの醤油は、火入処理を行ったものでも、火入前の生(なま)醤油であっても良い。また、これらの原料醤油を、必要に応じて水や食塩水、食用アルコール等の溶媒により希釈して使用しても良い。糖濃度および窒素濃度は、本願明細書の実施例に記載した方法によって測定することが可能である。
【0014】
本願発明の方法で得られる粉末醤油は、前記の粉末醤油製造用原料醤油を、任意の方法で粉末化することにより、製造することが可能である。粉末化方法としては、ドラムドライ法やスプレードライ法、フリーズドライ法などを挙げることができ、ドラムドライ法またはスプレードライ法であることが好ましく、ドラムドライ法であることがさらに好ましい。ドラムドライ法としては、具体的には、ダブルドラム乾燥機、ツインドラム乾燥機、シングルドラム乾燥機または真空ドラム乾燥機などの公知のドラム乾燥機を用いて調製することができる。
【0015】
本願発明の方法で得られる粉末醤油は、吸湿性が良好に抑えられ、長期保存等に適しているだけでなく、醤油の風味を十分に感じられる粉末醤油を得ることができる。
【0016】
本願発明の粉末醤油は、醤油以外に、賦形剤や酸化防止剤などを1種または2種以上含有していてもよい。賦形剤の種別としては、デキストリンや加工でんぷん、ゼラチンなど公知のものを使用することができる。これら醤油以外の成分は、その性質や使用目的に応じて、粉末化の前の原料醤油に添加・混合してから粉末化を行ってもよく、粉末化後に混合してもよい。
【実施例0017】
以下、本願発明を実施例等により説明するが、本願発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0018】
(実施例1)各種粉末醤油の製造
濃口醤油または溜まり醤油を原料醤油とし、必要に応じて水や食塩を用いて所定の窒素濃度/食塩濃度となるよう調製することで、11種の原料醤油(No.1~11)を準備した。各原料醤油における全窒素、糖および食塩の量を定量した。原料醤油中の全窒素はケルダール法準拠の燃焼法による測定値(w/v)、糖は糖分分析用BF-5(王子計測機器株式会社製)を用いた比色法による直接還元糖の測定値(w/v)、食塩は電位差滴定法により測定した測定値(w/v)を示す。No.6-11の醤油には、賦形剤として加工デンプンを40%添加し、スプレードライ法またはドラムドライ法によって粉末化した。加えて、上記とは別に市販の粉末醤油(市販品)を1種、評価に供した。
【0019】
(実施例2)吸湿性の評価
上記11種の粉末醤油および市販の粉末醤油1種を用いて、吸湿性の評価を行った。試験方法としては、各粉末醤油10gを、温度30℃、湿度52%の条件下で3時間置き、試験前と試験後の水分量をそれぞれ測定した。水分量は加熱乾燥前後の水分量を測定することにより測定した。合わせて、吸湿試験後の粉末醤油をスパーテルで固結度合いを確認した。
【0020】
(実施例3)官能評価(粉末醤油)
上記11種の粉末醤油および市販の粉末醤油1種を用いて、固結度合いおよび醤油感の評価を行った。試験方法としては、各粉末醤油10gを小皿に入れ、温度30℃、湿度52%の条件下で3時間置いた。醤油感について、粉末醤油をそのまま喫食し、下記の指標に従って評価した。評価は、十分に訓練された社内パネラーによって実施した。
【0021】
<固結度合い>
◎:粉末の固結がまったく見られない。
〇:スパーテルで容易に粉末を崩せる
△:一部に固結が見られるが、スパーテルで粉末を容易に崩せる
×:完全に固結し、スパーテルで粉末を崩せない
【0022】
<醤油感>
〇:醤油風味がある
△:醤油風味があるが弱い
×:醤油風味がほとんどない
【0023】
実施例1-3の結果を表1に示す。表中、「原料醤油」「賦形剤」は、粉末化原料醤油の種別および賦形剤の添加の有無をそれぞれ示す。「製法」は、スプレードライ(SD)またはドラムドライ(DD)のいずれの製法によって粉末化したかを示す。
【0024】
【0025】
表に示されている通り、市販品(原料醤油不明、賦形剤あり、スプレードライ)は、0時間時点での水分値は低かったものの、3時間の吸湿試験後には、水分値が著しく上昇してしまった。また、一部に固結が生じていたほか、醤油の風味もほとんど感じられないものであった。なお、0時間時点での水分値に差があるのは、粉末醤油がきわめて速やかに、空気中の水分を吸収してしまうため、この水分の吸着のしやすさを反映していると考えられた。
【0026】
次に、濃口醤油を原料醤油として、窒素濃度、糖および食塩濃度が異なる原料醤油を製造し、粉末化した(No.1から3)ほか、溜まり醤油を原料醤油として、窒素濃度および糖濃度が異なる原料醤油を製造し、粉末化した(No.4および5)。結果、濃口醤油、溜まり醤油のどちらの場合も、全窒素を0.50%(w/v)まで低下させると固結性が改善したが、一方で醤油の風味は失われてしまった。
【0027】
賦形剤は、しばしば粉末食品の吸湿や固結を防止する目的で用いられる。しかしながら、No.1とNo.6を比較すると分かるように、賦形剤の添加は必ずしも吸湿性の改善や固結性の改善にはつながらないケースがあることが明らかになった。No.6に近い組成の醤油で、粉末化の方法をドラムドライに替えると(No.7)、吸湿性や固結性にはやや改善がみられたものの、焦げ臭く苦味を感じる味となってしまっていた。
【0028】
No.8-11は、全窒素濃度0.75%(w/v)の濃口醤油(糖濃度1.64%(w/v)または溜まり醤油(糖濃度0.51%(w/v))を原料醤油に用い、スプレードライまたはドラムドライにより粉末化した結果を示す。これらの粉末醤油は、固結性にすぐれると共に、醤油の風味も十分に感じられるものであった。中でも、No.11の粉末醤油は、水分値も極めて低く抑えられているだけでなく、固結性および醤油感の結果も非常に良好なものであり、使用に最適のすぐれた粉末醤油であることが分かった。
【0029】
(実施例4)官能評価(ポテトチップス)
薄切りにしたじゃがいもを油で揚げて、ここに上記表1中のNo.6、9、11の粉末醤油をまぶすことでポテトチップスを調理した。得られたポテトチップスにつき、食感および醤油の風味を下記の指標に従って評価した。評価は、訓練された社内パネラーにより実施した。
【0030】
<食感>
〇:揚げ立ての食感を維持している
△:やや吸湿しており、揚げ立ての食感がやや消失している
×:完全に吸湿し、揚げたての食感が消失している
【0031】
<醤油の風味>
〇:醤油風味がある
△:醤油風味があるが弱い
×:醤油風味がほとんどない
【0032】
官能評価の結果を表2に示す。結果、本発明の粉末醤油をまぶしたポテトチップス(No.11)は、従来品よりも吸湿することなく、揚げ立ての食感を維持していた。No.9がこれに続いたが、食感はやや吸湿がみられ、醤油風味も、やや弱くなっていた。
【0033】
一方、No.6の粉末醤油を使用した場合には、ポテトチップスがすみやかに吸湿し、揚げたてのぱりっとした食感を維持できないだけでなく、醤油の風味もほぼ感じることができないなど、不適であった。
【0034】