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特開2024-167927GaN系半導体発光素子及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167927
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】GaN系半導体発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/36 20100101AFI20241128BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20241128BHJP
   H01S 5/11 20210101ALI20241128BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20241128BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01L33/36
H01L33/32
H01S5/11
H01S5/323 610
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084241
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159628
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅比呂
(74)【代理人】
【識別番号】100147728
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 信司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇子
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 啓次郎
【テーマコード(参考)】
4M104
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
4M104AA04
4M104BB07
4M104BB09
4M104BB14
4M104BB15
4M104CC01
4M104DD35
4M104DD79
4M104DD81
4M104FF17
4M104GG04
4M104HH05
4M104HH15
4M104HH20
5F173AB52
5F173AB90
5F173AH22
5F173AK21
5F173AP05
5F173AP09
5F173AP71
5F173AQ05
5F173AR63
5F173AR92
5F241AA21
5F241AA43
5F241CA05
5F241CA12
5F241CA40
5F241CA65
5F241CA66
5F241CA92
5F241CA93
5F241CA98
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定で優れたコンタクト特性、電気的特性を有し、かつ信頼性の高いGaN系半導体発光素子を提供する。
【解決手段】(a)GaN系半導体のn型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層を含むエピウエハを形成し、(b)エピウエハのp型半導体層上に、複数の半導体発光素子の各々に対応するp電極を形成し、(c)エピウエハの前記n型半導体層の窒素(N)極性面上に、複数の半導体発光素子の各々に対応するn電極を形成し、(d)n電極の少なくとも一部に紫外線レーザを照射してレーザ処理を行う。n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で形成され、コンタクト電極層のGa濃度は拡散防止層のGa濃度よりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)GaN系半導体のn型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層を含むエピウエハを形成し、
(b)前記エピウエハの前記p型半導体層上に、複数の半導体発光素子の各々に対応するp電極を形成し、
(c)前記エピウエハの前記n型半導体層の窒素(N)極性面上に、前記複数の半導体発光素子の各々に対応するn電極を形成し、
(d)前記n電極の少なくとも一部に紫外線レーザを照射してレーザ処理を行い、
前記n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で形成され、前記コンタクト電極層のGa濃度は前記拡散防止層のGa濃度よりも大きい、GaN系半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
(a)GaN系半導体からなり、裏面が窒素(N)極性面である半導体基板上に、n型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層を成長してエピウエハを形成し、
(b)前記エピウエハの前記p型半導体層上に、複数の半導体発光素子の各々に対応するp電極を形成し、
(c)前記半導体基板の前記裏面を研磨し、
(d)前記半導体基板の研磨面上に、前記複数の半導体発光素子の各々に対応するn電極を形成し、
(e)前記n電極の少なくとも一部に紫外線レーザを照射してレーザ処理を行い、
前記n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で形成され、前記コンタクト電極層のGa濃度は前記拡散防止層のGa濃度よりも大きい、GaN系半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ処理は、前記エピウエハのスクライビング及び溝形成のうち少なくとも1つを含む処理である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記拡散防止層は、白金(PT)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)のうち少なくとも1つを含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ処理のレーザ照射領域は、前記GaN系半導体発光素子の発光領域の同軸であるように配置されている請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ処理のレーザ照射領域は、前記n電極に対応した形状を有する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
GaN系半導体のn型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層と、
前記p型半導体層上に形成されたp電極と、
前記n型半導体層の窒素(N)極性面上に形成されたn電極と、を有し、
前記n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で前記窒素(N)極性面上に形成され、前記コンタクト電極層のGa濃度は前記拡散防止層のGa濃度よりも大きいGaN系半導体発光素子。
【請求項8】
前記拡散防止層は、白金(PT)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)のうち少なくとも1つを含む請求項7に記載のGaN系半導体発光素子。
【請求項9】
前記コンタクト電極層はチタン(Ti)を含み、前記接続金属層は金(Au)を含む請求項7又は8に記載のGaN系半導体発光素子。
【請求項10】
前記GaN系半導体発光素子はフォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)である請求項7又は8に記載のGaN系半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体発光素子及びその製造方法、特にGaN系半導体発光素子の電極に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)等の発光素子の研究開発が活発に行われている。また、このような発光素子は、産業において広く用いられ、高出力化、高信頼化の要求が一層高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、オーミック接触性、密着性や耐熱性に優れた裏面電極で、長寿命で信頼性の高い窒化物半導体素子を得ることについて開示されている。また、レーザスクライブ装置によって分割溝を形成することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、レーザスクライブによって形成された溝内壁に被膜が形成されること、またデブリを除去することで共振器端面の汚染を防止し、信頼性を向上することについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-177445号公報
【特許文献2】特開2018-195749号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters,vol.23,No.23,1784-1786(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電極部のレーザ処理によって電極金属が変質するという問題が発生し、素子の信頼性を損ねることが分かった。
【0008】
本願発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、安定で優れたコンタクト特性、電気的特性を有し、かつ信頼性の高いGaN系半導体発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1実施態様によるGaN系半導体発光素子の製造方法は、
(a)GaN系半導体のn型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層を含むエピウエハを形成し、
(b)前記エピウエハの前記p型半導体層上に、複数の半導体発光素子の各々に対応するp電極を形成し、
(c)前記エピウエハの前記n型半導体層の窒素(N)極性面上に、前記複数の半導体発光素子の各々に対応するn電極を形成し、
(d)前記n電極の少なくとも一部に紫外線レーザを照射してレーザ処理を行い、
前記n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で形成され、前記コンタクト電極層のGa濃度は前記拡散防止層のGa濃度よりも大きい、製造方法である。
【0010】
本発明の他の実施態様によるGaN系半導体発光素子の製造方法は、
(a)GaN系半導体からなり、裏面が窒素(N)極性面である半導体基板上に、n型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層を成長してエピウエハを形成し、
(b)前記エピウエハの前記p型半導体層上に、複数の半導体発光素子の各々に対応するp電極を形成し、
(c)前記半導体基板の前記裏面を研磨し、
(d)前記半導体基板の研磨面上に、前記複数の半導体発光素子の各々に対応するn電極を形成し、
(e)前記n電極の少なくとも一部に紫外線レーザを照射してレーザ処理を行い、
前記n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で形成され、前記コンタクト電極層のGa濃度は前記拡散防止層のGa濃度よりも大きい、製造方法である。
【0011】
本発明の1実施態様によるGaN系半導体発光素子は、
GaN系半導体のn型半導体層、活性層及びp型半導体層からなる発光半導体構造層と、
前記p型半導体層上に形成されたp電極と、
前記n型半導体層の窒素(N)極性面上に形成されたn電極と、を有し、
前記n電極は、コンタクト電極層、拡散防止層及び接続金属層がこの順で前記窒素(N)極性面上に形成され、前記コンタクト電極層のGa濃度は前記拡散防止層のGa濃度よりも大きいGaN系半導体発光素子である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態によるGaN系半導体からなる発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2】第1の実施形態の発光素子のn電極の詳細な構成を模式的に示す断面図である。
図3】第1の実施形態の発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
図4】第1の実施形態のn電極のレーザ処理による変化を示すn電極の表面(上面)の観察像である。
図5】比較例の場合を示し、n電極がTi層及びAu層の2層からなる比較例の場合のn電極のレーザ処理による変化を示す表面観察像である。
図6】比較例のn電極の表面に現れた変質領域(i)-(iii)及び領域(iv)を拡大して示す表面観察像である。
図7A】拡散防止層を有しない比較例のn電極の縁部にレーザ処理を行った場合を模式的示す発光素子の断面図である。
図7B】比較例のn電極の変質の進展を模式的に示す断面図である。
図7C】拡散防止層を有するn電極における変質の進展を模式的に示す断面図である。
図8A】Ga-Tiの相図である。
図8B】Ga-Auの相図である。
図8C】Ga-Ptの相図である。
図9】拡散防止層に適した金属の諸特性を示す表である。
図10A】第2の実施形態のGaN系半導体からなるPCSEL素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図10B】第2の実施形態のPCSEL素子の下面(光出射面)を模式的に示す平面図である。
図10C図10Aに示すPCSEL素子のn電極の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
図11A】PCSEL素子のn電極を示す平面図であり、n電極のレーザ処理の一例を示す図である。
図11B】PCSEL素子のn電極のレーザ処理の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
1.窒化物半導体発光素子の構造
図1は、本発明の第1の実施形態によるGaN系半導体からなる発光素子10の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、発光素子10は、基板11及びnクラッド層12からなるn型半導体層13、活性層15及びpクラッド層(p型半導体層)17がこの順に形成された発光ダイオード(LED)として構成されている。
【0015】
また、基板11の裏面上(基板11のnクラッド層12とは反対側の面)にはn電極21が設けられ、pクラッド層17にはp電極22が設けられている。n電極21及びp電極22間に電圧を印加することにより発光素子10は発光する。
【0016】
本実施形態においては、p電極22は光反射面として機能し、活性層15(発光層)からの放射光は基板11の裏面、すなわちn電極21が設けられた面から取り出される。しかしながら、活性層15からの放射光がpクラッド層17の表面から取り出されるように構成されていてもよい。
【0017】
また、p電極22はコンタクト電極層と、コンタクト電極層上に形成されたパッド金属層から構成されている(図示しない)。また、コンタクト電極層とパッド金属層間に光反射層が設けられていてもよい。
【0018】
以下に、各半導体層についてより詳細に説明する。
【0019】
基板11はn型GaN系半導体であり、例えばn-GaN(窒化ガリウム)からなる。nクラッド層12及びpクラッド層17は、例えばGaN、GaAlN等のGaN系半導体からなる。
【0020】
活性層15は、例えば量子井戸(QW:Quantum Well)層として形成されている。より詳細には、活性層15は、複数の量子井戸層及びバリア層からなる多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)層を有する。
【0021】
なお、基板11の裏面、すなわちn電極21が設けられた面は、N(窒素)原子が最表面に配列した(000-1)面、つまり、「-c」面(又はN極性面)である。-c面は、酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。また、基板11の裏面は、(000-1)面に対してさらにアルカリ処理等により(110-1)面を最表面とすることで、電気的特性を向上させることができる。
【0022】
また、nクラッド層12は、単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、異なる結晶組成の半導体層から構成されていてもよい。例えば、nクラッド層12は、GaAlN層を含んでいてもよい。また、全ての層がnドープ層(n層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。
【0023】
pクラッド層17もnクラッド層12と同様に、単一層ではなく複数の層から構成されていてもよい。また、pクラッド層17上には、p電極22とのオーミック接触性を高めるためのp半導体層(pコンタクト層)が設けられていてもよい。
【0024】
また、発光素子10は、共振器構造を有する半導体レーザ(LD:Laser Diode)として構成されていてもよい。
【0025】
図2は、発光素子10のn電極21の詳細な構成を模式的に示す断面図である。図2に示すように、n電極21は、基板11上に設けられたコンタクト電極層21Aと、コンタクト電極層21A上に設けられた拡散防止層(相変化抑制層)21Bと、拡散防止層21Bに設けられた接続金属層(パッド金属層)21Cとからなる。
【0026】
より具体的には、コンタクト電極層21Aはチタン(Ti)であるが、これに限定されない。コンタクト電極層21Aには、n型窒化物半導体とオーミックコンタクトがとれる金属を用いることができる。
【0027】
拡散防止層21Bには、例えば、白金(Pt)が用いられるが、これに限定されない。例えば、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、インジウム錫酸化物(ITO)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)などを用いることができる。
【0028】
接続金属層21Cには、例えば金(Au)が用いられるが、これに限定されない。接続金属層21Cは、ボンディングワイヤ又は実装基板(図示しない)等との接続のためのパッド電極として機能する。接続金属層21Cには、ワイヤボンディング又は接合に適した金属を用いることができる。
【0029】
なお、接続金属層21Cと拡散防止層21Bとの間に導電層、例えば、密着性の高い金属からなる金属層が設けられていてもよい。
【0030】
2.窒化物半導体発光素子の製造方法
図3は、第1の実施形態の発光素子10の製造方法を示すフローチャートである。なお、以下に説明する各工程においてSnはステップnを意味する。
(S1)発光半導体構造層の結晶成長
結晶成長方法として有機金属気相成長(MOVPE:Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用い、GaN半導体であり、成長基板である基板11上に、順次、GaN系半導体からなるnクラッド層12、活性層15及びpクラッド層17を成長した。なお、基板11の裏面はN極性面であり、結晶成長面はGa極性面であった。
【0031】
これにより、nクラッド層12、活性層15及びpクラッド層17からなる発光半導体構造層(LED構造層)を有するエピウエハが形成された。
【0032】
すなわち、後述するように、当該エピウエハに複数の半導体発光素子に対応する電極を形成し、分割することで複数の半導体発光素子に個片化することができる。
【0033】
なお、結晶成長方法はMOVPE法に限らず、分子線エピタキシー(MBE)法などの公知の結晶成長方法を用いることができる。
【0034】
(S2)p電極の形成
次に、複数の半導体発光素子に対応するp電極22を形成した。より具体的には、まず、パラジウム(Pd)膜及び金(Au)膜を電子ビーム蒸着法によりこの順に成膜した。続いて、成膜した電極金属膜をフォトリソグラフィを用いてパターニングし、複数の半導体発光素子の各々に対応するp電極22を形成した。
【0035】
(S3)GaN基板の裏面研磨
次に、GaNからなる基板11の裏面(N極性面)を研削、次いで化学的機械研磨(CMP)によって研削によるダメージ層を除去しつつ所定の厚さ(約200μm)まで薄くした。ダメージ層は半導体発光素子からの発光に対する吸収層であるため、除去することが好ましいが、必須の工程ではない。研磨した後、洗浄を行った。
【0036】
(S4)n電極の形成
次に、基板11の研磨面上に、フォトリソグラフィを用いてパターニングし、半導体発光素子の各々に対応するn電極21を形成した。より具体的には、電子ビーム蒸着法を用い、コンタクト電極層21AとしてTi(厚さ:5nm)、拡散防止層(相変化抑制層)21BとしてPt(厚さ:100nm)、接続金属層21CとしてAu(厚さ:500nm)をこの順で形成した。
【0037】
続いて、成膜したTi/Pt/Au層をリフトオフすることで複数の半導体発光素子の各々に対応するn電極21を形成した。
【0038】
(S5)レーザ処理
次に、波長が355nm(1064nmの第三次高調波)の紫外線(UV)レーザを用いてn電極21のレーザ処理を行った。尚、紫外線レーザの波長は、GaNの吸収波長帯の波長である365nmより短波長であればよい。
【0039】
より詳細には、スクライブ線に沿って紫外線レーザを掃引し、n電極21の縁部に沿ってn電極21の一部に紫外線レーザを照射した。
【0040】
ここで、紫外線レーザのパワーは315mW,周波数は100kHz、掃引速度は5mm/sec、パルス幅は40ns、スポット径は1umΦ、エネルギー密度は32J/cmであった。エネルギー密度1~50J/cmが好ましく、より好ましくは10~35J/cmである。
【0041】
なお、本実施形態においては、素子分離(個片化)のためのレーザスクライブを兼ねて紫外線レーザを照射した場合を例に説明した。しかし、レーザスクライブに限らず、溝形成を兼ねて紫外線レーザを照射してもよい。また、所望のレーザの形状になるよう、n電極21側から紫外線レーザを照射して、オーミック特性を制御することができる。
【0042】
あるいは、かかるプロセスとは別個に、n電極21の少なくとも一部に紫外線レーザを照射してもよい。例えば、n電極21の周縁部の全体又は一部、n電極21内の対称位置にある複数の領域、出光面から離れた領域、又はワイヤボンディング及び接合領域から離れた領域など、n電極21の形状、大きさ等に応じて、紫外線レーザを照射すればよい。
【0043】
以上のように、n電極21の少なくとも一部に紫外線レーザを照射することによって、コンタクト特性、電気的特性及び安定性(信頼性)に優れたn電極21を得ることができる。
【0044】
3.レーザ処理の評価
図4は、本実施形態のn電極21のレーザ処理による変化を示すn電極21の表面(上面)の観察像である。また、図5は、n電極がコンタクト電極層(Ti)及び接続金属層(Au)の2層からなる比較例の場合のn電極のレーザ処理による変化を示す表面観察像である。なお、Ti層及びAu層の厚さは本実施形態のn電極21と同一である。
【0045】
まず、図5を参照し、比較例のn電極の変化について説明する。(a) レーザ処理前においては、パターニングされたn電極(Ti/Au)の外側にn-GaNが表出し、n電極の表面には清浄なAu表面が観察されているのがわかる。
【0046】
次に、上記したのと同一のレーザ処理(上記、ステップS5を参照)を行った(図5、(b) レーザ処理直後)。より詳細には、矩形状のn電極の縁部の近傍に沿って紫外線レーザを掃引し(図中、矢印方向)、n電極21の一部に紫外線レーザを照射した。
【0047】
さらに、レーザ処理後に、250℃で1時間の熱処理を行い、N雰囲気下で4日放置した後では(図5、(c))、Au層の表面に明確な変質領域(i)及び(ii)が観察された。変質領域(i)及び(ii)は紫外線レーザが照射された領域から拡がり、その幅は約80μmであった。
【0048】
続いて、N雰囲気下でさらに3日放置した後では(図5、(d))、変質領域(i)及び(ii)の幅は約20μm拡がり、その幅は約100μmであった。
【0049】
続いて、300℃で1時間の加熱を行った後では(図5、(e))、変質領域(i)及び(ii)に加え、Au層表面に変質領域(iii)が現れ、変質領域(i)-(iii)の全体の幅は約200μmであった。
【0050】
次に、図4を参照し、本実施形態のn電極21の変化について説明する。n電極21に比較例と同様のレーザ処理を行った場合、レーザ処理後に、250℃で1時間の熱処理を行い、N雰囲気下で4日放置した後では(図4、(c))、変質領域(i)が観察されたものの、その幅は約27μmであり、比較例のn電極に比べて僅かであった。
【0051】
また、N雰囲気下でさらに8日放置した後では(図4、(d))、変質領域(i)の幅は約32μmであり、変質領域(i)の拡がりは極く僅かであった。
【0052】
図6は、比較例のn電極の表面に現れた変質領域(i)-(iii)及び領域(iv)を拡大して示す表面観察像である。変質領域(i)-(iii)がどのように変質しているかを調べるために断面SEM-EDX分析(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を行った。
【0053】
その結果、変質領域(i)の表面層にはほとんどAu原子が存在しないことがわかった。また、変質領域(ii)はGa-Au混合層であり、変質領域(iii)はGaリッチ
層であることがわかった。領域(iv)の表面層はAu層であり、変質していないことが確認された。
【0054】
以上の知見に基づき、n電極の変質は以下のように進展すると考えられた。図7Aは、拡散防止層を有しない比較例のn電極の縁部の近傍にレーザ処理を行った場合を模式的示す発光素子の断面図である。すなわち、Ti/Au層からなるn電極がn型半導体層13(n-GaN)のN極性面上に形成されている。
【0055】
図7Bは、比較例のn電極の変質の進展を模式的に示す断面図である。まず、(i)レーザ照射された領域でn-GaNからGaが遊離し始める。時間が経過するにつれ、(ii)次第に、遊離したGaとAu層のAuが相溶し始める。TiもGaと相溶し易いため、Au層までGaが到達し易い。そして、(iii)さらに時間が経過するにつれ、Au層内でのGaとAuの相溶が拡がっていき、Au層表面の変質領域も拡大する。
【0056】
図7Cは、本実施形態の拡散防止層21Bを有するn電極21における変質の進展を模式的に示す断面図である。n電極21の縁部にレーザ処理を行った場合、まず、(i)レーザ照射された領域でn-GaNからGaが遊離し始める。しかし、(ii)時間が経過しても、GaとAu層との間に拡散防止層21Bが存在するため、GaとAuの相溶は進展しにくく、相変化は起こりにくい。したがって、コンタクト電極層21Aに含まれるGaの濃度は、拡散防止層21Bに含まれるGaの濃度よりも大きい。
【0057】
GaN系半導体のN極性面では、Ti-N相の形成が良好なオーミック接触性(コンタクト特性)を得る上で重要である。レーザ処理によってTi-N相の形成を促進することで良好なオーミック接触性が得られる。一方、GaNから遊離したGaの拡散及びAuとの相溶は拡散防止層21Bによって効果的に抑制される。
したがって、拡散防止層21Bを設けることによって、良好なオーミック接触性を有するとともに、Auの変質(Auとの相溶)が抑制された電極を形成することができる。
【0058】
4.相変化
GaNなどのIII族窒化物半導体のN極性面側にUVレーザを照射すると結晶から窒素抜けが起こり、III族金属が主成分のデブリが発生する。
【0059】
図8A図8B及び図8Cは、それぞれGa-Tiの相図(https://sites.google.com/site/catcalcphase/metal/ga/ga-ti),Ga-Auの相図(https://sites.google.com/site/catcalcphase/metal/ga/ga-au)及びGa-Ptの相図(https://sites.google.com/site/catcalcphase/metal/ga/ga-pt)を示している。
【0060】
Gaは100℃以下の比較的低温で多くの金属と相変化を起こす。比較例であるTi/Auの場合、図8A及び図8Bに示すように、Ti及びAuは常温に近い領域で相変化が起こる(図中、破線で囲んだ領域)。そのため、拡散防止層を用いない場合には、図5に示したように、GaとTiとの相溶、及び、GaとAuとの相溶が発生する。
【0061】
レーザ処理をした部分に発生したGaがTiやAuと相溶し、常温付近でもその反応は徐々に進行するが、加熱処理をすることで反応が加速度的に進行する。Gaとの相溶が起こることで最表面がGa-Au合金となる。このため、ワイヤボンディング時において、Auワイヤ等の接続不良が発生しやすくなる。
【0062】
一方、本実施形態のn電極21のTi/Pt/Auでは、図8Cに示すように、PtがGaと相変化する温度が常温より高いため相変化の進行が遅い。図4に示したように、加熱処理による初期の相変化はみられるもののその後の保管での変化が非常に遅くなることがわかる。
【0063】
5.拡散防止層に適した金属
図9は、拡散防止層に適した金属の諸特性を示す表である。図9に示すように、白金(Pt)が最も汎用的な金属であるが、電気特性、熱的特性及び機械特性の点において、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)が特に優れている。すなわち、これらの金属は、低抵抗であり、耐熱性が高く、かつ変形しにくいという点において、より優れた特性を有する。
【0064】
また、この中でも、ルテニウム(Ru)及びイリジウム(Ir)が好ましく、さらに、イリジウム(Ir)は金属間化合物を生成し難く、最も好ましい。特に、融解熱が高い方が、紫外線レーザが照射されることによって発生する熱による、金属の特性の劣化を抑制することができる点において好ましい。
【0065】
以上、詳細に説明したように、拡散防止層を有するn電極を用いることによって、安定で優れたコンタクト特性、電気的特性を有し、かつ信頼性の高いGaN系半導体発光素子を提供することができる。
【0066】
[第2の実施形態]
図10Aは、本発明の第2の実施形態によるGaN系半導体からなる発光素子50の構造の一例を模式的に示す断面図である。より詳細には、第2の実施形態の発光素子50はレーザダイオード、より具体的には、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL:Photonic Crystal Surface Emitting Laser)として構成されている。以下において、第2の実施形態の発光素子をPCSEL素子50と称して説明する。
【0067】
図10Aに示すように、PCSEL素子50において、半導体構造層51が透光性の基板であるGaN基板52上に形成されている。また、半導体構造層51は、GaN系半導体からなる。
【0068】
より詳細には、GaN基板52のGa極性面上に複数の半導体層からなる半導体構造層51、すなわちn-クラッド層53、n側ガイド層54、光分布調整層63、活性層55、p側ガイド層56、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)57、p-クラッド層58、p-コンタクト層59がこの順で形成されている。
【0069】
n側ガイド層54は、下ガイド層54A、フォトニック結晶層(PC層)である空孔層54P及び埋込層54Bからなる。
【0070】
p側ガイド層56は、アンドープInGaN層であるp側ガイド層(1)56Aと、その上に形成されたアンドープGaN層であるp側ガイド層(2)56Bとからなる。
【0071】
なお、本明細書において、「n側」、「p側」は、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n側ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0072】
また、n-クラッド層53は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。p側ガイド層56、p-クラッド層58についても同様である。また、上記した全ての半導体層を設ける必要はなく、n型半導体層、p型半導体層、及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有する構成であればよい。
【0073】
また、GaN基板52の裏面、すなわちGaN基板52のN極性面上にはn電極(カソード)61が形成され、p-コンタクト層59上(上面)にはp電極(アノード)62が形成されている。半導体構造層51の側面及びGaN基板52の上部の側面は、SiO2などの絶縁膜65で被覆されている。また、p電極62の上面の縁部を覆うように、p電極62の側面及びpコンタクト層59の表面には絶縁膜65が被覆されている。また、p電極62(反射層)の表面は反射面として機能し、GaN基板52の裏面上には反射防止膜67が設けられている。
【0074】
活性層15の放射光は空孔層(PC層)54Pによって回折される。空孔層54Pによって回折され、空孔層54Pから直接放出された光(直接回折光Ld)と、空孔層14Pの回折によって放出され、p電極62によって反射された光(反射回折光Lr)とがGaN基板52の裏面(出射面)52Rの光出射領域60Lから外部に出射される。
【0075】
図10Bは、PCSEL素子50の下面(光出射面)を模式的に示す平面図である。図示するように、円環形状のn電極61が、空孔層54Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域54Rに重ならないように空孔形成領域54Rの外側に環状の電極として設けられている。また、p電極62は円形状を有し、円環形状のn電極61は、n電極61の中心軸がp電極62の中心軸CXと一致するように設けられている。すなわち、環状のn電極61は、PCSEL素子50の発光領域と同軸であるように設けられている。
また、n電極61の内側の領域が光出射領域60Lである。また、n電極61に電気的に接続され、外部からの給電用のワイヤを接続するボンディングパッド61Bを備えている。
【0076】
図10Cは、図10Aに示すPCSEL素子50のn電極61の部分Wを拡大して示す部分拡大断面図である。図示するように、n電極61は、GaN基板52のN極性面上に設けられたコンタクト電極層61Aと、コンタクト電極層61A上に設けられた拡散防止層(相変化抑制層)61Bと、拡散防止層21Bに設けられた接続金属層61Cとからなる。
【0077】
図11Aは、PCSEL素子50のn電極61を示す平面図であり、n電極61のレーザ処理の一例を示す図である。
【0078】
図示するように、紫外線レーザをn電極61の一部に照射してレーザ処理を行うことができる。より詳細には、n電極61は円環形状を有し、レーザ処理はn電極61に対応した形状(相似形状)を有するようになされていることが好ましい。すなわち、当該円環形状に沿った円周上にレーザが照射され、照射領域URが形成されている。
【0079】
当該円周上の例えば4つの円弧に沿ってレーザ照射された場合を示しているが、当該4つの照射領域URの配置の中心軸がPCSEL素子50の発光領域(p電極62)の中心軸CXと一致するように照射領域URが配置されていることが電流注入の均一化の点で好ましい。
【0080】
また、複数の照射領域URが中心軸CXに関して回転対称位置に設けられていることが好ましい。さらに、複数の照射領域URの長さ(この場合、円弧長さ)は同一であることが好ましい。
【0081】
また、照射領域URはボンディングパッド61Bを避けた位置に設けられていることが好ましい。
【0082】
図11Bは、PCSEL素子50のn電極61のレーザ処理の他の一例を示す図である。図示するように、n電極61は矩形形状を有していてもよい。この場合、照射領域URは矩形形状(同一形状)を有していることが好ましい。
【0083】
また、照射領域URは閉じた矩形環状に設けられていてもよく、あるいは、当該矩形の一部に設けられていてもよい。照射領域URが複数設けられる場合、当該複数の照射領域URの配置の中心軸がPCSEL素子50の発光領域の中心軸CXと一致することが好ましい。
【0084】
なお、n電極61の外周形状と内周形状が異なる場合には、照射領域URはn電極61の内周形状と同一の形状を有していることが好ましい。例えば、n電極61が円形の内周形状を有する場合、照射領域URは当該内周と同心の円周上又は円弧上に設けられていることが電流拡散の均一化の点で好ましい。
【0085】
以上、詳細に説明したように、GaN系半導体発光素子において、拡散防止層を有するn電極を用いることによって、安定で優れたコンタクト特性、電気的特性を有し、かつ信頼性の高いGaN系半導体発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0086】
10:発光素子
11:基板
12:nクラッド層
13:n型半導体層
15:活性層
17:p型半導体層
21:n電極
21A:コンタクト電極層
21B:拡散防止層
21C:接続金属層
22:p電極
50:発光素子(PCSEL素子)
51:半導体構造層
52:GaN基板
54P:空孔層
61:n電極
62:p電極
UR:照射領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B