(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167939
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】生体リズム推定システム及び生体リズム推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20241128BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20241128BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20241128BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/00 G
A61B10/00 305A
A61B5/0245 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084271
(22)【出願日】2023-05-23
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】岡田 志麻
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 成弘
(72)【発明者】
【氏名】坂上 友介
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017BC16
4C017CC03
4C038PP05
4C038PS00
4C117XA02
4C117XB01
4C117XB18
4C117XE13
4C117XE17
(57)【要約】
【課題】心拍数の経時変化データから少なくとも睡眠及び日周期を簡易に且つ同時に推定する。
【解決手段】生体リズム推定システムは、被計測者の心拍数の経時変化データである終夜心拍数の波形データを含む各種のデータを、外部から取得する、及び外部へ出力する、インタフェース装置と、各種処理を実現する各種プログラムが格納されるメモリと、各種プログラムを実行する処理回路とを含む。処理回路が、インタフェース装置を介して取得される心拍数の経時変化データを高周波数成分から低周波数成分の複数の信号関数データに分解して出力する経時変化分解部と、複数の信号関数データから、少なくとも睡眠周期及び日周期を推定する生体周期抽出部とを備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測者の心拍数の経時変化データである終夜心拍数の波形データを含む各種のデータを、外部から取得する、及び外部へ出力する、インタフェース装置と、
各種処理を実現する各種プログラムが格納されるメモリと、
前記各種プログラムを実行する処理回路と
を含む、生体リズム推定システムであって、
前記処理回路が、
前記インタフェース装置を介して取得される前記心拍数の経時変化データを高周波数成分から低周波数成分の複数の信号関数データに分解して出力する経時変化分解部と、
前記複数の信号関数データから、少なくとも睡眠周期及び日周期を推定する生体周期抽出部と
を備える、生体リズム推定システム。
【請求項2】
前記経時変化分解部は、
前記インタフェース装置を介して取得される、心拍数の経時変化データである終夜心拍数の波形データを入力して、高周波数成分である短周期の固有モード関数データと、低周波数成分である長周期の固有モード関数データとに分解して出力する、経験的モード分解を行う波形分解部を含む、
請求項1に記載の生体リズム推定システム。
【請求項3】
前記生体周期抽出部は、更に、睡眠周期学習部を備え、
前記睡眠周期学習部は、
複数の学習用の終夜心拍数の波形データの入力により前記波形分解部が出力する学習用の短周期の固有モード関数データについて、学習用の所定のパラメータを算出する学習用パラメータ算出部と、
学習用の短周期の固有モード関数データに対応する、正解データである睡眠深度データを保持する睡眠深度データ保持部と
を含み、
前記睡眠周期学習部は、前記学習用の所定のパラメータと前記睡眠深度データとを教師データとして睡眠推定モデルを学習して、学習済み睡眠推定モデルとする、
請求項2に記載の生体リズム推定システム。
【請求項4】
前記生体周期抽出部は、更に、前記学習済み睡眠推定モデルを含む睡眠周期抽出部を備え、
前記睡眠周期抽出部は、
複数の推定対象の終夜心拍数の波形データの入力により前記波形分解部が出力する推定対象の短周期の固有モード関数データについて、抽出用の所定のパラメータを算出する抽出用パラメータ算出部を含み、
前記睡眠周期抽出部は、前記学習済み睡眠推定モデルによって、前記抽出用パラメータ算出部により算出される抽出用の所定のパラメータを説明変数として、夫々の、推定対象の短周期の固有モード関数データに対応する睡眠深度データを、目的変数として抽出し、これにより睡眠周期を算出する、
請求項3に記載の生体リズム推定システム。
【請求項5】
前記生体周期抽出部は、更に、日周期抽出部を備え、
前記日周期抽出部は、
複数の推定対象の終夜心拍数の波形データの入力により前記波形分解部が出力する推定対象の長周期の固有モード関数データについて、複数の推定対象の最低点データを算出し、更に、複数の該推定対象の最低点データにより、日周期及び日周期の推移を算出する、
請求項4に記載の生体リズム推定システム。
【請求項6】
前記生体周期抽出部は、更に、月周期学習部を備え、
前記日周期抽出部は、複数の学習用の終夜心拍数の波形データの入力により前記波形分解部が出力する学習用の長周期の固有モード関数データについて、複数の学習用の最低点データを算出し、
前記月周期学習部は、
学習用の長周期の固有モード関数データに対応する、正解データである、所定の数期により構成されるラベルデータを保持するラベルデータ保持部を含み、
前記月周期学習部は、複数の前記学習用の最低点データと前記所定の数期により構成されるラベルデータとを教師データとして学習器を学習して、学習済み学習器とする、
請求項5に記載の生体リズム推定システム。
【請求項7】
前記生体周期抽出部は、更に、前記学習済み学習器を含む月周期抽出部を備え、
前記月周期抽出部は、前記学習済み学習器によって、
前記日周期抽出部が算出する、複数の推定対象の最低点データを説明変数として、夫々の、該推定対象の最低点データの算出の元となる、複数の推定対象の長周期の固有モード関数データに対応する、ラベルデータを、目的変数として抽出し、抽出されたラベルデータにより月周期、及び、月周期の推移を算出する、
請求項6に記載の生体リズム推定システム。
【請求項8】
更に、算出された睡眠周期、日周期、及び、月周期のうちの、少なくとも一つを提示する提示部を含む、請求項7に記載の生体リズム推定システム。
【請求項9】
前記短周期の固有モード関数データは、各終夜心拍数の波形データについて行われる経験的モード分解における、最短の短周期から所定の個数の固有モード関数データであり、
前記長周期の固有モード関数データは、各終夜心拍数の波形データについて行われる経験的モード分解における、最長の長周期から所定の個数の固有モード関数データであり、
前記所定のパラメータは、微分値、移動平均、及び分散を含み、
前記ラベルデータを構成する所定の数期は、黄体期、卵胞期、月経期、及び、排卵期の四期で構成され、
前記提示部は、ディスプレイ、又は、スピーカを含む提示装置により構成される、
請求項8に記載の生体リズム推定システム。
【請求項10】
処理回路により、心拍数の経時変化データを高周波数成分から低周波数成分の複数の信号関数データに分解して出力する経時変化分解ステップと、
前記処理回路により、前記複数の信号関数データから、少なくとも睡眠周期及び日周期を推定する生体周期抽出ステップと
を含む、生体リズム推定方法。
【請求項11】
前記経時変化分解ステップは、
心拍数の経時変化データである終夜心拍数の波形データを入力して、経験的モード分解を行うことにより、高周波数成分である短周期の固有モード関数データと、低周波数成分である長周期の固有モード関数データとに分解して出力する経験的モード分解実行ステップを含む、
請求項10に記載の生体リズム推定方法。
【請求項12】
前記生体周期抽出ステップは、
複数の学習用の終夜心拍数の波形データを入力する第1の入力ステップと、
前記第1の入力ステップにおける複数の学習用の終夜心拍数の波形データによって前記経験的モード分解実行ステップにて出力される学習用の短周期の固有モード関数データについて、学習用の所定のパラメータを算出するステップと、
前記学習用の所定のパラメータと、学習用の短周期の固有モード関数データに対応する、メモリに保持される正解データである睡眠深度データとを、教師データとして、睡眠推定モデルを学習して学習済み睡眠推定モデルを生成するステップと
を含む、請求項11に記載の生体リズム推定方法。
【請求項13】
前記生体周期抽出ステップは、更に、
複数の推定対象の終夜心拍数の波形データを入力する第2の入力ステップと、
前記第2の入力ステップにおける複数の推定対象の終夜心拍数の波形データによって前記経験的モード分解実行ステップにて出力される推定対象の短周期の固有モード関数データについて、抽出用の所定のパラメータを算出するステップと、
前記学習済み睡眠推定モデルにより、算出された前記抽出用の所定のパラメータを説明変数として、夫々の、推定対象の短周期の固有モード関数データに対応する睡眠深度データを、目的変数として抽出し、これにより睡眠周期を算出するステップと
を含む、請求項12に記載の生体リズム推定方法。
【請求項14】
前記生体周期抽出ステップは、更に、
前記第2の入力ステップにおける複数の推定対象の終夜心拍数の波形データによって前記経験的モード分解実行ステップにて出力される推定対象の長周期の固有モード関数データについて、複数の推定対象の最低点データを算出して、複数の該推定対象の最低点データにより日周期及び日周期の推移を算出するステップ
を含む、請求項13に記載の生体リズム推定方法。
【請求項15】
前記生体周期抽出ステップは、更に、
前記第1の入力ステップにおける複数の学習用の終夜心拍数の波形データによって前記経験的モード分解実行ステップにて出力される学習用の長周期の固有モード関数データについて、複数の学習用の最低点データを算出するステップと、
複数の前記学習用の最低点データと、学習用の長周期の固有モード関数データに対応する、メモリに保持される正解データである、所定の数期により構成されるラベルデータとを、教師データとして、学習器を学習して学習済み学習器を生成するステップと
を含む、請求項14に記載の生体リズム推定方法。
【請求項16】
前記生体周期抽出ステップは、更に、
前記学習済み学習器により、前記日周期及び日周期の推移を算出するステップにて算出される、複数の推定対象の最低点データを説明変数として、夫々の、該推定対象の最低点データの算出の元となる、複数の推定対象の長周期の固有モード関数データに対応する、ラベルデータを、目的変数として抽出し、抽出されたラベルデータにより月周期、及び、月周期の推移を算出するステップ
を含む、請求項15に記載の生体リズム推定方法。
【請求項17】
更に、
提示部により、算出された睡眠周期、日周期、及び、月周期のうちの、少なくとも一つを提示するステップ
を含む、請求項16に記載の生体リズム推定方法。
【請求項18】
前記短周期の固有モード関数データは、各終夜心拍数の波形データについて行われる経験的モード分解における、最短の短周期から所定の個数の固有モード関数データであり、
前記長周期の固有モード関数データは、各終夜心拍数の波形データについて行われる経験的モード分解における、最長の長周期から所定の個数の固有モード関数データであり、
前記所定のパラメータは、微分値、移動平均、及び分散を含み、
前記ラベルデータを構成する所定の数期は、黄体期、卵胞期、月経期、及び、排卵期の四期で構成され、
前記提示部は、ディスプレイ、又は、スピーカを含む提示装置により構成される、
請求項17に記載の生体リズム推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体リズム推定システム及び生体リズム推定方法に、特に、人の睡眠周期、日周期、及び月周期を推定する装置及び方法に、関する。
【背景技術】
【0002】
人は、90分の睡眠周期、25時間の日周期、1ヵ月の月周期という、三つの主たる周期を保持すると言われている。
【0003】
睡眠周期は、睡眠そのものの良し悪しによって左右され得る。日周期は、生活習慣や運動習慣により左右され得る。一方で、月周期は、特に女性の場合、ホルモンの変動による月経前症候群により左右される。また、月周期は、男性も含めて、更年期障害の状態により左右される。
【0004】
これらの周期は相互に関係しあっており、人が心身共に充足した状態で生活するためには、夫々の周期を同時に知ることが望ましい。
【0005】
ところで、睡眠周期は、通常、ポリソムノグラフィによる計測が必要とされる。また、日周期は、24時間継続して計測する深部体温(例えば、直腸温)に基づいて得られるが、深部体温の値を間接的に取得するためには自律神経系の指標が用いられることから、計測時には運動制限や生活行動制限が掛けられることが必須となる。更に、黄体期、卵胞期、月経期、及び、排卵期の四期で構成される月周期は通常、毎朝、起床直後に舌下温にて体温計測をすることで計測される。但し、このときの計測値は日周期の影響を受けるので、計測されて算出される月周期の精度は必ずしも高くない。このように、各周期を計測するための計測機器や計測手法は異なるため、三つの周期を得るためには、被計測者は夫々のための機器を装着しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-025644号公報
【特許文献2】特許6534601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示における、睡眠周期、日周期、及び月周期を推定する生体リズム推定システム及び方法は、心拍数の経時変化データから、少なくとも睡眠周期及び日周期を、簡易に且つ略同時に、推定することを目的とする。更に、必要に応じて、月周期も簡易に且つ略同時に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の生体リズム推定システムは、被計測者の心拍数の経時変化データである終夜心拍数の波形データを含む各種のデータを、外部から取得する、及び外部へ出力する、インタフェース装置と、各種処理を実現する各種プログラムが格納されるメモリと、前記各種プログラムを実行する処理回路とを含む。処理回路が、
前記インタフェース装置を介して取得される前記心拍数の経時変化データを高周波数成分から低周波数成分の複数の信号関数データに分解して出力する経時変化分解部と、
前記複数の信号関数データから、少なくとも睡眠周期及び日周期を推定する生体周期抽出部と
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の生体リズム推定システム及び方法を利用することにより、一人の被計測者についての心拍数の経時変化データから、その被計測者の、少なくとも睡眠周期及び日周期を、簡易に且つ略同時に、推定することができる。更に、必要に応じて、月周期も簡易に且つ略同時に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態に係る生体リズム推定システムのシステム構成図である。
【
図1B】
図1Bは、実施の形態に係る生体リズム推定システムの全体ブロック構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態に係る生体リズム推定システムにおける、波形分解部に関するブロック図である。
【
図2B】
図2Bは、実施の形態に係る生体リズム推定システムの、学習フェーズにおけるシステムブロック図である。
【
図2C】
図2Cは、実施の形態に係る生体リズム推定システムの、推定フェーズにおけるシステムブロック図である。
【
図3】
図3は、経験的モード分解による、或る終夜心拍数の波形についての分解を示す図である。
【
図4A】
図4A(α)は、実施の形態に係る生体リズム推定システムにおける、睡眠周期の学習フェーズの処理フロー図である。
図4A(β)は、実施の形態に係る生体リズム推定システムにおける、睡眠周期の推定フェーズの処理フロー図である。
【
図4B】
図4B(α)は、IMF1~IMF4を足し合わせて一つの波形データ(IMF1234)に合成する様子を模式的に示す図である。
図4B(β)は、IMF1~IMF4が足し合わされて生成された波形データ(IMF1234)から算出される、学習用パラメータである微分値、移動平均、分散を示す図である。
【
図5】
図5は、一終夜における睡眠深度の推移の例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、実施の形態に係る生体リズム推定システムにおける、日周期の算出のための処理フロー図である。
【
図6B】
図6B(α)は、終夜心拍数の波形データ(元データ)の例である。
図6B(β)は、
図6B(α)に示す終夜心拍数の波形データ(元データ)の例における、IMF4~IMF6が足し合わされて合成された、一つの波形データ(IMF456)である。
【
図7】
図7(α)は、実施の形態に係る生体リズム推定システムにおける、月周期の学習フェーズの処理フロー図である。
図7(β)は、実施の形態に係る生体リズム推定システムにおける、月周期の推定フェーズの処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
1.[本開示に至る経緯]
人の生体リズムのうち、代表的な三つの周期、即ち、睡眠周期、日周期(サーカディアン周期)、及び月周期は、夫々に影響し合うように相互関係を持っていると言われる。
【0014】
例えば、運動習慣が極端に低くなると、睡眠の質が低下し、これによる日周期の乱れが生じる。また、日周期の乱れは月経随伴症状を重くし、月周期の乱れを引き起こす。また、よい睡眠がとれなかった(睡眠位相の後退)場合、日周期の乱れが起こり、これが翌日以降の睡眠周期を悪くする。月経随伴症状が重いことが起因して睡眠が乱れ、日周期が大幅にずれて社会的時差ボケを起こす場合もある。
【0015】
このような場合に、睡眠を良くしたい、サーカディアンリズムを整えたい、月周期を整えたい等と考えたとしても、代表的な三つの周期を簡易に且つ略同時に把握できなければ、改善の方策を提示することは困難である。
【0016】
本開示は上述の問題意識の下で為されたものである。つまり、本開示の生体リズム推定システムは、一人の被計測者についての終夜心拍数の波形データから、その被計測者の睡眠周期、日周期、及び月周期を、簡易に且つ略同時に、推定することを、実現するものである。
【0017】
2.[実施の形態]
以下、添付の図面を参照して、本開示の好ましい実施の形態を説明する。
【0018】
2.1.[システム構成]
実施の形態に係る生体リズム推定システムは、終夜心拍数の波形データから、睡眠周期、日周期、及び月周期を含む生体リズムを推定する装置である。
図1Aは、本実施の形態に係る生体リズム推定システム2のシステム構成図である。
【0019】
実施の形態に係る生体リズム推定システム2が推定する、特に月周期は、後で詳細に説明するように、女性に関するものである。なお、実施の形態に係る生体リズム推定システム2の推定する睡眠周期、及び、日周期の対象は、女性、男性の性別を問うものではない。よって、生体リズム推定システム2が推定する生体リズムは、少なくとも睡眠周期と日周期を含む。
【0020】
生体リズム推定システム2は、コンピュータ装置4及び記憶装置12を有する。コンピュータ装置4及び記憶装置12は有線または無線の通信回線で接続されており、互いにデータを送受信可能である。生体リズム推定システム2は更に外部ネットワーク16に接続されているのが望ましく、外部ネットワーク16に接続された他のコンピュータシステムとの間でデータを授受するのが望ましい。
【0021】
生体リズム推定システム2は、特に、一つ以上の心拍数データ記録装置14と直接、又は、外部ネットワーク16を介して、接続する。更に、生体リズム推定システム2は、学習サーバ18と外部ネットワーク16を介して、接続するのが望ましい。
【0022】
コンピュータ装置4は、一つ以上のプロセッサを搭載するサーバ機、パーソナルコンピュータ、若しくはワークステーションコンピュータ等である。なお、後でも説明するように、コンピュータ装置4は、スマートウオッチにおける、プロセッサを含む処理回路や制御部であってもよい。
【0023】
記憶装置12は、ディスクドライブやフラッシュメモリ等の、コンピュータ装置4の外部に設けられる記憶装置であり、コンピュータ装置4で用いられる各種データセット、及び、各種コンピュータプログラムを記憶する。記憶装置12には、例えば、後で説明する、心拍数データ記録装置14から、或いは、外部から、送信される終夜心拍数の波形データが記録される。
【0024】
心拍数データ記録装置14は、ディスクドライブやフラッシュメモリ等の、記録装置であり、特に、脈拍計や心電計によって得られる、被計測者の心拍数の経時変化データである多数の終夜心拍数の波形データを記録する。心拍数データ記録装置14は、外部ネットワーク16を介して、多数の終夜心拍数の波形データを取得するものであってもよい。心拍数データ記録装置14は、終夜心拍数の波形データをコンピュータ装置4に送信する。
【0025】
学習サーバ18は、心拍数データ記録装置14に記録される多数の終夜心拍数の波形データ、及び、正解データ等を用いて、後で説明する、機械学習モデルである学習器や睡眠推定モデルの学習を行う。コンピュータ装置4が学習サーバ18の動作を行うようにされることにより、学習サーバ18が物理的に別途設けられなくてもよい。
【0026】
外部ネットワーク16は、例えば、インターネットであり、ネットワーク端子等のインタフェース装置6を介して、コンピュータ装置4と接続する。
【0027】
更にコンピュータ装置4は、インタフェース装置6、処理回路8、及びメモリ10を含む。
【0028】
インタフェース装置6は、ネットワーク端子、映像入力端子、USB端子、キーボード、マウス等を含む、外部からデータを取得可能な、及び外部へデータを出力可能な、インタフェースユニットである。外部から、インタフェース装置6を介して、種々のデータが取得される。データは、例えば、後で説明する、被計測者の心拍数の経時変化データである終夜心拍数の波形データである。取得後、これらのデータは、記憶装置12に記録され得る。記憶装置12に記録されるデータは適宜、インタフェース装置6を介して、コンピュータ装置4内に取得され得る。
【0029】
生体リズム推定システム2により生成される各種データは、記憶装置12に適宜記録される。各種データは、例えば、後で説明する、短周期のIMFデータ(IMF1~4)、長周期のIMFデータ(IMF4~6)、最低点データ等である。このような生体リズム推定システム2により生成され記憶装置12に適宜記録される各種データは、インタフェース装置6を介して、コンピュータ装置4内に再び取得され得る。
【0030】
処理回路8は、プロセッサにより構成される。ここでのプロセッサは、CPU(Central Processing Unit;中央処理ユニット)やGPU(Graphics Processing Unit;画像処理ユニット)を包括するものである。本実施の形態に係る生体リズム推定システム2の各種処理は、各種プログラムを処理回路8が実行することによって実現される。なお、当該各種処理は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などによって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0031】
本開示における処理回路8は、複数台の信号処理回路から構成されてもよい。各信号処理回路は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)であり、「プロセッサ」と呼ばれ得る。本実施の形態に係る生体リズム推定システム2における様々な処理の一部を、あるプロセッサ(例えば、或るGPU)が実行し、他の一部の処理を、他のプロセッサ(例えば、或るCPU)が実行してもよい。
【0032】
メモリ10は、コンピュータ装置4内部のデータ書き換えが可能な記憶部であり、例えば、多数の半導体記憶素子を含むRAM(Random Access Memory)により構成される。メモリ10は、処理回路8が様々な処理を実行する際の、具体的なコンピュータプログラムや、変数値や、パラメータ値等を一時的に格納する。なおメモリ10は、いわゆるROM(Read Only Memory)を含んでもよい。ROMには、以下で説明する生体リズム推定システム2の処理を実現するコンピュータプログラムが予め格納されている。処理回路8がROMからコンピュータプログラムを読み出し、RAMに展開することにより、処理回路8が当該コンピュータプログラムを実行可能になる。
【0033】
本実施の形態に係る生体リズム推定システム2は、Python等のコンピュータ言語を用いて構築されている。本開示に係る生体リズム推定システム2の構築のために用いられ得るコンピュータ言語はこれらに限定されるものでは無く、勿論、他のコンピュータ言語が用いられてもよい。
【0034】
更に、本実施の形態に係る生体リズム推定システム2においては、学習済み機械学習モデルが構築される。本実施の形態に係る機械学習モデル(学習器、睡眠推定モデル)は、後でも説明するように、例えば、ランダムフォレストやエクストラツリー等の決定木系の構造を用いて構築される。勿論、本実施の形態に係る機械学習モデルは、他の構造、例えば、ネットワーク構造を用いて構築されてもよい。
【0035】
2.2.[生体リズム推定システムの全体ブロック構成]
図1Bは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2の全体ブロック構成を示す図である。
【0036】
生体リズム推定システム2の全体ブロックは、少なくとも、経時変化分解部21と生体周期抽出部30とにより構成される。また、生体リズム推定システム2の全体ブロックは、生体リズム提示部62を含むことがある。
【0037】
経時変化分解部21は、被計測者の心拍数の経時変化データ23を入力データとする。被計測者の心拍数の経時変化データ23は、(被計測者の)終夜心拍数の波形データ24を含む。
【0038】
経時変化分解部21は、心拍数の経時変化データを高周波数成分から低周波数成分の複数の信号関数データ25に分解して出力する。ここでの信号関数データへの分解は、高速フーリエ変換(FFT)、ウェーブレット変換、及び、経験的モード分解(EMD)などを含む。信号関数データへの分解の手法は、非定常信号の分析手法であればよい。但し、以下では、「経験的モード分解(Empirical mode decomposition:EMD)による波形分解」を取り上げる。経時変化分解部21に含まれる波形分解部22は、経験的モード分解(EMD)による波形分解を実行するものである。
【0039】
生体周期抽出部30は、心拍数の経時変化データ23に関する複数の信号関数データ25から、被計測者の生体周期(生体リズム)を推定(抽出)する。被験者の生体周期(生体リズム)は、少なくとも睡眠周期及び日周期を含む。また、特に被計測者が女性である場合、生体周期抽出部30は、月周期を推定(抽出)する。
【0040】
図1Bに示すように、生体周期抽出部30は、以下で説明する、睡眠周期学習部32a、睡眠周期抽出部32b、サーカディアン(日)周期抽出部42、月周期学習部52a、及び、月周期抽出部52bを備え得る。これらのブロックは、経時変化分解部21における波形分解部22が動作するときに、併せて動作するブロックである。なお、被計測者が女性でない場合には、月周期学習部52a及び月周期抽出部52bは動作しなくてもよい。
【0041】
これらのブロックは、
図1Aに示す実施の形態に係る生体リズム推定システム2において、コンピュータ装置4のメモリ10に適切なコンピュータプログラムが展開され、それらを処理回路8にて実行することにより実現される。
【0042】
推定(抽出)された生体周期(生体リズム)は、生体リズム提示部62にて提示され得る。
【0043】
2.3.[生体リズム推定システムのブロック構成]
図2A~
図2Cは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2のフェーズ毎の構成を示すブロック図である。つまり、
図2Aは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2における波形分解部22に関するブロック図であり、
図2Bは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2の、学習フェーズにおけるシステムブロック図であり、更に、
図2Cは、実施の形態に係る生体リズム推定システムの、推定フェーズにおけるシステムブロック図である。これらのブロック(図)も、
図1Aに示す実施の形態に係る生体リズム推定システム2において、コンピュータ装置4のメモリ10に適切なコンピュータプログラムが展開され、それらを処理回路8にて実行することにより、実現される。以下、
図2A~
図2Cに示すブロック図を説明する。
【0044】
2.3.1.[波形分解部を中心としたブロック構成]
図2Aは、生体リズム推定システム2における波形分解部22を中心としたブロック図である。ここで、波形分解部22で行われる周知の「経験的モード分解(Empirical mode decomposition:EMD)による波形分解」について概略説明する。経験的モード分解は、非定常信号の分析法のひとつであり、時系列信号を非定常・非線形な時間-周波数の空間に変換する手法である。つまり、経験的モード分解を実行するということは、概略、元の信号x(t)を固有モード関数IMF(Intrinsic Mode Function)(の和)と、残滓(ノイズ)とに分解するということである。FFTやウェーブレット変換は、sin関数等の基底を仮定して周波数領域へと変換するものであるが、経験的モード分解は、基底の仮定を置くことはなく、所謂ヒューリスティック(経験則的)な変換を行うものである。
【0045】
周知の経験的モード分解(EMD)のアルゴリズムは、以下の(1)~(7)のとおりである。
(1)入力信号x_0(t)の全ての極値を検出する。
(2)極大点と極小点をそれぞれ補間し、上側包絡線emax(t)と下側包絡線emin(t)を得る。
(3)上側包絡線と下側包絡線の局所平均m(t)=(emin(t)+emax(t))/2を算出する。
(4)入力と局所平均の差分y(t)=x(t)-m(t)を入力とみなして(1)~(4)を繰り返す。
(5)局所平均の標準偏差が閾値以下になった時点で、y(t)をIMFとみなし、((1)~(4)の)ループを終了する。
(6)入力信号とIMFの残差x_1(t)=x_0(t)-y(t)を新たな入力信号として、(1)~(6)を繰り返す。
(7)全てのIMFを抽出したら(即ち、x_n(t)の極値が一つになったら)、終了する。
【0046】
図3は、経験的モード分解(EMD)による、或る終夜心拍数の波形データについての分解の例を示す図である。1番目(1番上)には、元の終夜心拍数の波形データを示している。その下の「IMF1」、「IMF2」、「IMF3」、「IMF4」、「IMF5」、「IMF6」は、6つの高周波数成分から低周波数成分への、即ち、6つの短周期から長周期への、固有モード関数データ(IMF1~6)である。すべてのデータにおいて、横軸は、終夜の睡眠における時間(分)である。本発明者は、
図3に示すような、一つの終夜心拍数の波形データは、1~6のIMFデータに分解されることを、経験的に把握している。これらのIMFデータのうち短周期(即ち、高周波数成分)のものであるIMF1、IMF2、IMF3、IMF4は、最短の短周期から4個のIMFデータであり、本実施の形態では、後でも説明するように、足し合わせて合成して一つの波形データとした上で、睡眠周期算出のために用いている(
図4B(α)参照)。なお、IMF4データが用いられなくてもよい。
【0047】
また、長周期(即ち、低周波数成分)のものであるIMF6、IMF5、IMF4は、最長の長周期から3個のIMFデータであり、本実施の形態では、後でも説明するように、足し合わせて合成して一つの波形データとした上で、日周期算出及び月周期算出のために用いている(
図6B(β)参照)。なお、IMF4データが用いられなくてもよい。
【0048】
図2Aに戻り、経験的モード分解(EMD)を行う波形分解部22は、終夜心拍数の波形データ24を入力して、短周期のIMFデータ(IMF1~4)26と、長周期のIMFデータ(IMF4~6)28とを分解して出力する。以下に述べるように、終夜心拍数の波形データ24は、学習用のものであることもあり、推定対象のものであることもある。
【0049】
2.3.2.[生体リズム推定システムの学習フェーズにおけるブロック構成]
次に、
図2Bは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2の、学習フェーズにおけるシステムブロック図である。先ず、睡眠周期学習部32aは、学習用の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26aを、IMF1~IMF4について足し合わせて合成して一つの波形データとした(
図4B(α)参照)上で、入力データとする。更に、睡眠周期学習部32aは、学習用パラメータ算出部34a、睡眠推定モデル36a、及び、正解データ(睡眠深度データ)保持部38aを備える。各々が足し合わされて合成されて一つの波形データとされる、学習用の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26aは、複数(組)の短周期のIMFデータ(IMF1~4)であり、夫々について、睡眠深度データが正解データとして明らかとなっており、それら正解データ(睡眠深度データ)は、正解データ(睡眠深度データ)保持部38aに保持されている。
【0050】
睡眠深度データの夫々は、
図5のような一終夜の睡眠深度の推移である。前述のように、このような一終夜における睡眠深度の推移は、通常ポリソムノグラフィを用いて計測される。
【0051】
学習用パラメータ算出部34aは、夫々の、足し合わされて合成され一つの波形データとされた、学習用の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26aについて、微分値、移動平均、分散等の学習用のパラメータ(
図4B(β)参照)を算出する。学習用パラメータ算出部34aにより算出される学習用のパラメータを説明変数とし、夫々の、学習用の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26aに対応する、正解データ(睡眠深度データ)保持部38aに保持される睡眠深度データを目的変数として、睡眠推定モデル36aが学習される。
【0052】
睡眠推定モデル36aは、ランダムフォレスト、又は、エクストラツリーにより構築されることが想定されている。睡眠推定モデル36aは、他の構造、例えば、ネットワーク構造を用いて構築されてもよい。
【0053】
学習フェーズにおける、サーカディアン(日)周期抽出部42は、学習用の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28aを、IMF4~IMF6について足し合わせて合成して一つの波形データとした(
図6B(β)参照)上で、入力データとする。更に、サーカディアン(日)周期抽出部42は、最低点算出部44、及び、最低点時刻算出部46を備え、(学習用の)最低点データ48を出力する。月周期学習部52aは、(学習用の)最低点データ48を入力データとし、学習器54a、及び、正解データ(ラベルデータ)保持部56aを備える。
【0054】
生体リズム推定システム2の学習フェーズにおいて、サーカディアン(日)周期抽出部42そのものは、学習を行うものではない。生体リズム推定システム2の学習フェーズにおけるサーカディアン(日)周期抽出部42は、後続の月周期学習部52aの入力データ、即ち、学習データである最低点データ48を生成(出力)するためのものである。(学習用の)最低点データ48は、月周期を推定するための学習器54aの学習データであるから、学習用の最低点データ48は、一人の女性については少なくとも一カ月分の日毎の「最低点データ」が必要である。従って、生体リズム推定システム2の学習フェーズにおいて、サーカディアン(日)周期抽出部42の入力データである、学習用の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28aについても、一人の女性について少なくとも一カ月分の日毎のデータが必要である。
【0055】
上述のように学習用の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28aは、一人の女性については少なくとも一カ月分の日毎のデータが必要とされる、複数の長周期のIMFデータ(IMF4~6)であり、夫々について、ラベルデータが正解データとして明らかとなっており、それら正解データ(ラベルデータ)は、正解データ(ラベルデータ)保持部56aに保持されている。
【0056】
ここでの正解データとしてのラベルデータは、例えば、黄体期、卵胞期、月経期、及び、排卵期の四期で構成されるデータである。ここでのラベルデータは、四期未満の期で構成されてもよいし、四期以上の期で構成されてもよく、所定の数期で構成されるものであればよい。
【0057】
月周期学習部52aにおける学習器54aは、足し合わされて合成され一つの波形データとされた、学習用の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28aから、サーカディアン(日)周期抽出部42により抽出される最低点データの「最低点」を説明変数とし、夫々の、最低点データ、更には、その「最低点」の抽出の元となる、学習用の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28aに対応する、正解データ(ラベルデータ)保持部56aに保持されるラベルデータを目的変数として、学習される。
【0058】
学習器54aも、ランダムフォレスト、又は、エクストラツリーにより構築されることが想定されている。学習器54aは、他の構造、例えば、ネットワーク構造を用いて構築されてもよい。
【0059】
2.3.3.[生体リズム推定システムの推定フェーズにおけるブロック構成]
次に、
図2Cは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2の、推定フェーズにおけるシステムブロック図である。先ず、睡眠周期抽出部32bは、推定対象の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26bを、IMF1~IMF4について足し合わせて合成して一つの波形データとした(
図4B(α)参照)上で、入力データとする。更に、睡眠周期抽出部32bは、抽出用パラメータ算出部34b、及び、学習済み睡眠推定モデル36bを備える。
【0060】
抽出用パラメータ算出部34bは、夫々の、足し合わされて合成され一つの波形データとされた、推定対象の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26bについて、微分値、移動平均、分散等の抽出用のパラメータを算出する。抽出用パラメータ算出部34bにより算出される抽出用のパラメータを説明変数として、夫々の、推定対象の短周期のIMFデータ(IMF1~4)26bに対応するべき睡眠深度データが、学習済み睡眠推定モデル36bにより、目的変数として抽出される(即ち、推定される)。
【0061】
生体リズム提示部62は、抽出(即ち、推定)された睡眠深度データ、及び、該睡眠深度データより算出される睡眠周期を、提示する。生体リズム提示部62は、例えば、ディスプレイやスピーカ等の提示装置より構成されることで、当該睡眠深度データや睡眠周期を提示する。
【0062】
サーカディアン(日)周期抽出部42では、推定対象の長周期のIMFデータ(IMF4~6)について、夫々、足し合わされ合成され一つの波形データとされた(
図6B(β)参照)上で入力を受け、最低点算出部44及び最低点時刻算出部46により、(推定対象の)最低点データ48を生成する。最低点データをより精確に算出するためには、推定対象の長周期のIMFデータ(IMF4~6)が、一人に関しては一カ月分である等、複数であることが望ましい。
月周期抽出部52bは、(推定対象の)最低点データ48を入力データとし、学習済み学習器54bを備える。
【0063】
生体リズム推定システム2の推定フェーズにおいて、サーカディアン(日)周期抽出部42は、後続の月周期抽出部52bの入力データとして、(推定対象の)最低点データ48を生成(出力)する。(推定対象の)最低点データ48は、月周期を推定するための学習済み学習器54bへの入力データであるから、推定対象の最低点データ48は、一人の女性について少なくとも一カ月分の日毎の「最低点データ」が必要とされる。従って、生体リズム推定システム2の推定フェーズにおいて、サーカディアン(日)周期抽出部42の入力データである、推定対象の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28bについても、一人の女性については少なくとも一カ月分の日毎のデータが用意されることが望ましい。
【0064】
月周期抽出部52bにおける学習済み学習器54bは、(推定対象の)最低点データ48の「最低点」を説明変数とし、夫々の、最低点データ48、更には、その「最低点」の抽出の元となる、推定対象の長周期のIMFデータ(IMF4~6)28bに対応する、ラベルデータを、目的変数として抽出する。
【0065】
生体リズム提示部62は、抽出(即ち、推定)された最低点データ48の推移に基づく日周期、及び、日周期の推移、並びに、黄体期、卵胞期、月経期、及び、排卵期の四期を含む、所定の数期により構成されるラベルデータの推移に基づく月周期、及び、月周期の推移を、提示する。
【0066】
2.4.[システムの動作]
図4A、
図6A、及び、
図7は、夫々、本実施の形態に係る生体リズム推定システム2における、睡眠周期、日周期、及び、月周期の学習フェーズ及び推定(抽出)フェーズの処理フロー図である。これら
図4A、
図6A、及び、
図7を用いて、生体リズム推定システム2における、睡眠周期、日周期、及び、月周期の学習フェーズ及び推定(抽出)フェーズの処理の詳細を説明する。
【0067】
2.4.1.[睡眠周期の学習フェーズと推定フェーズ]
図4A(α)は、実施の形態に係る生体リズム推定システム2における、睡眠周期の学習フェーズの処理フロー図である。学習フェーズでは、先ず、複数の学習用の短周期の固有モード関数データ(IMF1~IMF4)が準備される(ステップS02)。このとき、IMF1~IMF4のデータは、足し合わされて合成され、一つの波形データとされる。
図4B(α)は、IMF1~IMF4を足し合わせて一つの波形データ(IMF1234)に合成する様子を模式的に示す図である。
図4B(α)にて、横軸は、終夜の睡眠における時間(分)である。
【0068】
次に、微分値、移動平均、分散などの学習用パラメータを算出する(ステップS04)。
図4B(β)は、IMF1~IMF4が足し合わされて生成された波形データ(IMF1234)から算出される、学習用パラメータである微分値、移動平均、分散を示す図である。
図4B(β)でも横軸は、終夜の睡眠における時間(分)である。
【0069】
次に、算出した学習用パラメータ、及び、対応する正解データ(睡眠深度データ)により睡眠推定モデルを学習し(ステップS06)、学習済み睡眠推定モデルを生成する(ステップS08)。
【0070】
続いて、
図4A(β)は、実施の形態に係る生体リズム推定システム2における、睡眠周期の推定フェーズの処理フロー図である。推定フェーズでは、先ず、睡眠深度の推定を行う、推定対象の短周期の固有モード関数データ(IMF1~IMF4)が入力される(ステップS12)。このときも、IMF1~IMF4のデータは、足し合わされて合成され、一つの波形データとされる(
図4B(α)参照)。
【0071】
次に、学習済み睡眠推定モデルにより睡眠深度の推移を推定する(ステップS14)。
図5は、一終夜における睡眠深度の推移の例を示す図である。横軸は睡眠時間(時間)である。推定される睡眠深度の推移より睡眠周期を算出し、睡眠深度の推移及び睡眠周期を生体リズム提示部62により提示する(ステップS16)。
【0072】
2.4.2.[日周期の算出]
図6Aは、実施の形態に係る生体リズム推定システム2における、日周期(サーカディアン周期)の算出のための処理フロー図である。先ず、日周期の算出対象の、複数の長周期の固有モード関数データ(IMF4~IMF6)が準備される(ステップS22)。このとき、IMF4~IMF6のデータは、足し合わされて合成され、一つの波形データとされる。
図6B(β)は、IMF4~IMF6が足し合わされて合成された、一つの波形データ(IMF456)を示している。
図6B(α)は、元のデータを示している。また、最低点データをより精確に算出するためには、推定対象の長周期のIMFデータ(IMF4~6)が、一人に関しては一カ月分である等、複数であることが望ましい。
図6B(α)(β)のいずれも横軸は終夜の睡眠における時間(分)である。
【0073】
次に、複数の、一つの波形データとされたIMF4~IMF6(IMF456)について、一終夜分毎に、心拍数最低点を算出する(ステップS24)。更に、同じく複数の、一つの波形データとされたIMF4~IMF6(IMF456)について、一終夜分毎に、心拍数最低点の時刻を算出する(ステップS26)。
図6B(β)では、IMF4~IMF6が足し合わされて合成された一つの波形データ(IMF456)における、最低点及び最低点時刻を示している。複数の最低点及び最低点時刻に関するデータ(即ち、最低点データ)により、日周期(サーカディアン周期)、及び、日周期の推移を算出し、生体リズム提示部62により提示する(ステップS28)。
【0074】
2.4.3.[月周期の学習フェーズと推定フェーズ]
図7(α)は、実施の形態に係る生体リズム推定システム2における、月周期の学習フェーズの処理フロー図である。先ず、学習用のサーカディアン周期(日周期)の最低点データ48が準備される(ステップS42)。(学習用の)最低点データ48は、月周期を推定するための学習器54aの学習データであるから、学習用の最低点データ48は、一人の女性については少なくとも一カ月分の日毎の「最低点データ」が必要とされる。
【0075】
次に、学習用の最低点データ48、及び、対応する正解データ(ラベルデータ)により学習器54aを学習し(ステップS44)、学習済み学習器54bを生成する(ステップS08)。
【0076】
続いて、
図7(β)は、実施の形態に係る生体リズム推定システム2における、月周期の推定フェーズの処理フロー図である。推定フェーズでは、先ず、月周期の推定を行う、サーカディアン周期(日周期)の最低点データ48が入力される(ステップS52)。推定対象の最低点データ48は、月周期を推定するための学習済み学習器54bへの入力データであるから、推定対象の最低点データ48は一人の女性について少なくとも一カ月分の日毎の「最低点データ」が必要とされる。
【0077】
次に、学習済み学習器により、月周期における所定の数期により構成されるラベルデータの推移を推定する(ステップS54)。推定される所定の数期の推移より月周期を算出し、月周期、及び、月周期の推移を、生体リズム提示部62により提示する(ステップS56)。
【0078】
2.5.[実施の形態のまとめ]
実施の形態に係る生体リズム推定システム2は、被計測者の心拍数の経時変化データ23である終夜心拍数の波形データ24を含む各種のデータを、外部から取得する、及び外部へ出力する、インタフェース装置6と、各種処理を実現する各種プログラムが格納されるメモリ10と、各種プログラムを実行する処理回路8とを含む。処理回路8が、インタフェース装置6を介して取得される心拍数の経時変化データ23を高周波数成分から低周波数成分の複数の信号関数データ25に分解して出力する経時変化分解部21と、複数の信号関数データ25から、少なくとも睡眠周期及び日周期を推定する生体周期抽出部30とを備える。
【0079】
本実施の形態に係る生体リズム推定システムでは、一人の被計測者についての心拍数の経時変化データのみから、少なくとも、その被計測者の睡眠周期及び日周期を、簡易に且つ略同時に、推定することができる。
【0080】
3.[他の実施の形態]
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【0081】
近年、スマートウオッチが終夜心拍数を計測し記憶できるものとなっている。そこで、実施の形態に係る生体リズム推定システムの様々な動作を実現するコンピュータプログラム、及び学習済み機械学習モデルを、スマートウオッチにおける、プロセッサを含む処理回路にロードして展開することにより、実施の形態に係る生体リズム推定システムの諸動作、即ち、睡眠周期、日周期、及び月周期を推定する動作を、該スマートウオッチにて実現することが可能となる。
【0082】
また、心拍数データ記録装置14は、マット式の心拍計測装置や無線ミリ波式の心拍計測装置によって得られる終夜心拍数の波形データを記録するものであってもよい。このようにすることで、高齢者や小児の、睡眠周期、日周期、及び月周期を含む生体リズムの自動的な見守りの仕組みの構築に、貢献できる可能性がある。
【0083】
また、実施の形態を説明するために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0084】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0085】
2・・・生体リズム推定システム、4・・・コンピュータ装置、6・・・インタフェース装置、8・・・処理回路、10・・・メモリ、12・・・記憶装置、14・・・心拍数データ記録装置、22・・・波形分解部、23・・・心拍数の経時変化データ、24・・・終夜心拍数の波形データ、25・・・信号関数データ、26・・・短周期のIMFデータ(IMF1~4)、26a・・・学習用の短周期のIMFデータ(IMF1~4)、26b・・・推定対象の短周期のIMFデータ(IMF1~4)、28・・・長周期のIMFデータ(IMF4~6)、28a・・・学習用の長周期のIMFデータ(IMF4~6)、28b・・・推定対象の長周期のIMFデータ(IMF4~6)、30・・・生体周期抽出部、32a・・・睡眠周期学習部、32b・・・睡眠周期抽出部、34a・・・学習用パラメータ算出部、34b・・・抽出用パラメータ算出部、36a・・・睡眠推定モデル、36b・・・学習済み睡眠推定モデル、38a・・・正解データ(睡眠深度データ)保持部、48・・・最低点データ、52a・・・月周期学習部、52b・・・月周期抽出部、54a・・・学習器、54b・・・学習済み学習器、56b・・・正解データ(ラベルデータ)保持部、62・・・生体リズム提示部。