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特開2024-167951電動機制御装置および電動機駆動システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167951
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電動機制御装置および電動機駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084293
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 一弥
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505HA06
5H505HA09
5H505HA10
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL45
5H505LL58
5H505MM16
(57)【要約】
【課題】インバータ回路の電源電圧の変動に伴う、インバータ回路の出力電流および電動機のトルクが変動する事を抑制し、電動機駆動システムの出力安定化を目的としている。
【解決手段】電源電圧の傾きに基づいて、電動機のトルクの変動が少なくなるように、各相それぞれの出力指令を補正する。具体的には、インバータ回路のスイッチングを制御する手段に、交流電動機を駆動するための出力指令値を計算する出力指令計算手段と、電源電圧の傾きを計算する電圧傾き計算手段と、電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きに応じて、交流電動機のトルク変動を抑制する補正量で出力指令値を補正する出力指令補正手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と交流電動機との間に接続され、前記直流電源の直流電力を交流電力に変換して前記交流電動機を駆動制御する電動機制御装置であって、
前記直流電力を前記交流電力に変換するためのスイッチング素子を有する電力変換回路、
前記スイッチング素子のオン、オフを制御するスイッチング制御手段、を備え、
前記スイッチング制御手段は、前記交流電動機を駆動するための出力指令値を計算する出力指令計算手段と、前記直流電源の電圧の傾きを計算する電圧傾き計算手段と、前記電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きに応じて、前記交流電動機のトルク変動を抑制する補正量を算出し、この補正量で前記出力指令値を補正する出力指令補正手段と、を有していることを特徴とする電動機制御装置。
【請求項2】
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、前記電力変換回路から前記3相交流電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記直流電源の電圧増加時に前記各相に流れる電流のうち、電流振幅が最も高い相の出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項3】
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、前記電力変換回路から前記3相交流電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記電流検出部で検出された各相の電流のうち、あらかじめ定められた電流閾値を超えた相の出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項4】
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、各相の電流振幅が最も高くなる出力指令値の判定範囲をあらかじめ設定し、判定範囲内の相の出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項5】
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、前記電力変換回路から前記3相交流電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記直流電源の電圧減少時に前記各相の出力指令値のうち、最も高い出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項6】
前記補正量は、少なくとも前記電圧の傾きおよび前記電力変換回路から前記交流電動機に出力する出力電流のいずれか、あるいは組合せにより算出されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項7】
前記電圧の傾きが大きくなるほど、前記補正量を大きくすることを特徴とする請求項6に記載の電動機制御装置。
【請求項8】
前記出力電流が大きくなるほど、前記補正量を大きくすることを特徴とする請求項6に記載の電動機制御装置。
【請求項9】
駆動される前記交流電動機の温度が高いほど前記補正量を小さくすることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項10】
前記電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きに応じて設定された前記補正量を、前記電圧の傾き算出時点からの経過時間に比例して減少させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項11】
前記電圧傾き計算手段により算出された傾きがゼロとなった時点からの経過時間に比例して前記補正量を減少させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項12】
前記電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きがあらかじめ定められた電圧傾き閾値より大きいときに前記補正量で補正することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項13】
前記電圧傾き計算手段は、前記直流電源の検出電圧の変動に基づいて算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項14】
前記電圧傾き計算手段は、前記電力変換回路への入力電流、前記電力変換回路からの出力電流、および前記電力変換回路の出力電圧の少なくともいずれか1つに基づいて算出されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項15】
前記スイッチング素子は、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電動機制御装置。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置、前記電動機制御装置に接続される交流電動機を備えた電動機駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電動機制御装置および電動機駆動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力の出力形態を変換する電動機制御装置および電動機駆動システムとしては、交流電力を直流電力へ変換するAC/DCコンバータ(Alternate Current/Direct Current Converter)、直流電力から交流電力へ変換するインバータ(Inverter)、等が一般的である。これらの電動機制御装置および電動機駆動システムは、半導体スイッチング素子を備えた構成が知られている。
【0003】
ここで、電動機制御装置および電動機駆動システムは、直流電源と、コンデンサと複数の半導体スイッチとからなり、直流電源に接続されるインバータ回路と、インバータ回路に負荷として接続された交流電動機とから構成される。特に、電気自動車の駆動システムの電源として、リチウムイオンバッテリおよびリチウムイオンを介した昇圧コンバータ付きのシステムからなる事が多い。
【0004】
インバータ回路は、複数の半導体スイッチをあらかじめ定められたスイッチング周波数でオンオフすることにより、直流電源の直流電力を交流電力に変換して、負荷である交流電動機のトルクおよび回転速度を調節する。また、交流電動機は、動作状況によっては発電機として動作し、発電によって生じた回生電力を直流電源に充電する。なお、電気自動車に適用される交流電動機としては、効率の良い永久磁石3相同期電動機がよく用いられる。
【0005】
3相同期電動機を用いた駆動システムにおいて、インバータ回路は、上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子とが直列に接続された3組の直列回路が、それぞれ直流電源と並列に接続されて構成され、3組の直列回路のそれぞれの中点と3相同期電動機のu相、v相、w相のそれぞれの入力とが接続されている。
【0006】
また、インバータ回路の各相に設けられるスイッチング素子を順次オンおよびオフさせることにより、3相同期電動機の各相に互いに位相が120度ずつ異なる交流電力を供給して3相同期電動機を駆動させる。以下、特に断らない限り、電動機は3相同期電動機を指すものとする。なお、インバータ回路の動作原理については、一般的に広く知られているので、ここでは説明を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-104708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように電動機制御装置は、外部より電源電圧を供給して電動機を駆動する。しかし、電源電圧の動作が不安定な場合、供給する電圧も不安定になる。この場合、インバータの出力電流が急増減することにより、電動機のトルクも急増減するように変動する。
【0009】
このようなトルク変動を抑制する抑制要素として、電圧平滑用の平滑コンデンサを入力電源装置と駆動システムの間に接続し、平滑コンデンサの静電容量を大きくする事によって、電源電圧の変動を抑制する場合がある。しかし、平滑コンデンサの静電容量を大きくすることで、駆動システムのサイズ、重量、コストが増加するという課題がある。
【0010】
このような課題の対策として、駆動システムの電源電圧が急変動する場合はそれを検知し、一定周期における電源電圧が所定の閾値を超えた時、電源電圧の変動幅/基準電圧補正幅より補正幅を計算し、インバータの出力電流を制限するように、電流制限基準電圧を通常値より低下させるように補正する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
しかしながら、出力電流を制限する事によって、電動機のトルクが低下してしまう恐れがある。すなわち、特許文献1において、一定周期における電源電圧が所定の閾値を超えた時、補正幅を計算し、電流制限基準電圧を通常値より低下させるように補正している。この時、電流制限基準電圧を通常値より低下させる事で、電圧指令が低減するようにインバータの出力電流が制限され、インバータの出力電流が通常値より低下する。その結果、電動機のトルクが通常値より低下するという課題が生じる。
【0012】
本願は、上述のような問題を解決するためになされたもので、電動機のトルクの変動を低減する事ができ、安定した電動機の動作が実現できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願に開示される電動機制御装置は、直流電源と交流電動機との間に接続され、直流電源の直流電力を交流電力に変換して交流電動機を駆動制御するものであって、直流電力を交流電力に変換するためのスイッチング素子を有する電力変換回路、スイッチング素子のオン、オフを制御するスイッチング制御手段、を備え、スイッチング制御手段は、交流電動機を駆動するための出力指令値を計算する出力指令計算手段と、直流電源の電圧の傾きを計算する電圧傾き計算手段と、電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きに応じて、交流電動機のトルク変動を抑制する補正量を算出し、この補正量で出力指令値を補正する出力指令補正手段と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願に開示される電動機制御装置によれば、電源電圧の傾きに応じて、交流電動機のトルク変動を抑制する補正量で出力指令値を補正することで電動機のトルクの変動を低減し、安定した電動機の動作を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1に係る電動機制御装置が搭載された電動機駆動システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る電動機制御装置のスイッチング制御手段のハードウエアの一例を説明する図である。
図3】実施の形態1に係る電動機制御装置の電圧傾き計算手段の機能を説明するブロック図である。
図4】実施の形態1に係る電動機制御装置の出力指令計算手段の機能を説明するブロック図である。
図5】実施の形態1に係る電動機制御装置の出力指令補正手段の機能を説明するブロック図である。
図6】実施の形態1に係る電動機制御装置の出力指令補正手段の動作を説明するフローチャートである。
図7】実施の形態1に係る電動機制御装置の電源電圧、各相電流、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。
図8】実施の形態1に係る電動機制御装置の効果を説明する図である。
図9】実施の形態2に係る電動制御装置の出力指令補正手段の動作を説明するフローチャートである。
図10】実施の形態2に係る電動機制御装置の電源電圧、各相電流、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。
図11】実施の形態2に係る電動機制御装置の効果を説明する図である。
図12】実施の形態3に係る電動機制御装置の出力指令補正手段の機能を説明するブロック図である。
図13】実施の形態3に係る電動機制御装置の出力指令補正手段の動作を説明するフローチャートである。
図14】実施の形態3に係る電動機制御装置の電源電圧、各相電圧指令値、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。
図15】実施の形態3に係る電動機制御装置の効果を説明する図である。
図16】実施の形態4に係る電動機制御装置の出力指令補正手段の動作を説明するフローチャートである。
図17】実施の形態4に係る電動機制御装置の電源電圧、各相電圧指令値、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。
図18】実施の形態4に係る電動機制御装置の効果を説明する図である。
図19】実施の形態5に係る電源電圧の傾きと補正量との関係を説明する図である。
図20】実施の形態5に係る電源電圧の傾きと補正量との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願に係る電動機制御装置および電動機駆動システムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付し、その詳しい説明は省略する。以降の実施形態も同様に、同一符号を付した構成について重複した説明は省略する。
て説明する。
【0017】
一般に、電動機は、電力を駆動力に変換して力行運転するものであるが、そのままの構造で駆動力を電力に逆変換して回生運転することも可能である。また、ジェネレータとも称される発電機は、駆動力を電力に変換して回生運転するものであるが、そのままの構造で電力を駆動力に逆変換して力行運転することも可能である。すなわち、電動機と発電機とは、基本的に同一構造を有するものであり、どちらも力行運転および回生運転することが可能である。したがって、本明細書においては、電動機および発電機の双方の機能を持つ回転電機を単に電動機と称するものとする。
【0018】
実施の形態1.
図1を用いて、実施の形態1に係る電動機制御装置1の構成及び動作について説明する。電動機制御装置1は、電力開閉器70を介して直流母線21a,21bが直流電源90と接続され、駆動電力あるいは回生電力が直流電源90と授受される。また、電動機制御装置1は、交流母線2により電動機10と接続され、駆動電力あるいは回生電力が電動機10と授受される。
【0019】
また、電動機10には、電動機10の永久磁石の温度を検出する温度検出部50(以下温度センサ50と称す)、電動機10のロータの回転角から回転速度を検出する回転速度検出部60(以下回転角センサ60と称す)が備えられている。
なお、電動機10は、負荷を回転駆動させるとともに、負荷の回転エネルギーを電気エネルギーとして回生可能であり、永久磁石3相交流同期電動機を始めとする3相ブラシレス電動機などが使用される。
【0020】
電動機制御装置1は、インバータ回路20とスイッチング制御手段40とで構成されている。インバータ回路20は、電源入力側の直流母線21a,21b間に接続されたコンデンサ22と、インバータ回路20の直流母線21a,21b間の電圧を検出する電圧検出手段23と、スイッチング素子31から36がフルブリッジ接続されて構成され、直流から交流、あるいは交流から直流の電力変換を行う電力変換回路30と、電動機10の交流母線2に流れる電流を検出する電流検出部24とを備えている。
【0021】
コンデンサ22は、直流母線電圧のリップルを抑制する機能、インバータ回路20の電源インピーダンスを低下させてインバータ回路20の交流電流駆動能力を向上させる機能、あるいはサージ電圧を吸収する機能を有している。
【0022】
また、電圧検出手段23は、例えば直流母線21a,21b間の電圧を分圧抵抗によりスイッチング制御手段40で読み取ることができる電圧に分圧し、スイッチング制御手段40に直流母線電圧情報を出力する。
【0023】
電力変換回路30は、図1に示すように、スイッチング素子31とスイッチング素子32、スイッチング素子33とスイッチング素子34、およびスイッチング素子35とスイッチング素子36が、それぞれ互いに直列に接続されてアームが形成され、直流電源90に対して並列に接続されている。また、スイッチング素子31とスイッチング素子32の中点は、電動機10のu相の入力に接続され、スイッチング素子33とスイッチング素子34の中点は、電動機10のv相の入力に接続され、スイッチング素子35とスイッチング素子36の中点は、電動機10のw相の入力に接続されている。ここで、直流電源90の正極側、すなわち直流母線21aに接続されるスイッチング素子31,33,35を上段側スイッチング素子と称し、直流電源90の負極側、すなわち直流母線21bに接続されるスイッチング素子32,34,36を下段側スイッチング素子と称する。
【0024】
スイッチング素子31から36は、後述するスイッチング制御信号生成手段41からのオン、オフ制御信号によりオン、オフ動作され、直流電力を交流電力に変換して電動機10に供給するとともに、電動機10の回生状態において発生する回生電力を直流電源90に充電する。
【0025】
スイッチング素子としては、例えば、図2に示すMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いてもよく、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いてもよい。なお、スイッチング素子31から36の各MOSFETと並列に、直流電源90の負極側から正極側へ向かう方向、すなわち下段側から上段側へ向かう方向を順方向として、フリーホイールダイオード(FWD:Free Wheel Diode)が設けられている。
【0026】
電流検出部24は、交流母線2を流れる電動機電流を検出するものであり、電流を電圧に変換して電動機電流情報をスイッチング制御手段40に出力する。図1では、例として、シャント抵抗により電流を検出する構成を示している。なお、電流検出部24は、ホール素子を用いた電流センサであってもよい。
【0027】
回転角センサ60は、レゾルバあるいはエンコーダなど、電動機10のロータの回転角を検出するものである。回転角センサ60にて検出されたロータの回転角は、スイッチング制御手段40に出力され、スイッチング制御手段40において、回転速度として使用される。
【0028】
温度センサ50は、例えば、サーミスタによって構成され、電動機10の永久磁石の温度を検出する。検出された永久磁石の温度は、スイッチング制御手段40に出力される。なお、永久磁石の温度を検出代わりに巻き線温度を検出もしくは推定する装置により温度センサを構成してもよい。
【0029】
スイッチング制御手段40は、電動機制御装置1の全体の制御を担うもので、マイクロコントローラを始めとする駆動回路などにより構成され、スイッチング制御信号生成手段41、電圧傾き計算手段42、出力指令計算手段44、出力指令補正手段45、および電流検出手段43を有している。これらの各手段は、一部を専用のハードウエアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。スイッチング制御手段40内のマイコンのハードウエアの一例を図2に示す。プロセッサ150と記憶装置200から構成され、図示していないが、記憶装置はランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ150は、以下に説明するスイッチング制御信号生成手段41、電圧傾き計算手段42、電流検出手段43、出力指令計算手段44、出力指令補正手段45の各機能を、記憶装置200から入力されたプログラムを実行することにより行う。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ150にプログラムが入力される。また、プロセッサ150は、演算結果等のデータを記憶装置200の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0030】
スイッチング制御信号生成手段41は、電力変換回路30を構成する複数のスイッチング素子31から36をオン、オフ制御するためのオン、オフ制御信号を生成する。
スイッチング制御信号生成手段41は、図1に示すように(1)電圧検出手段23から直流母線電圧情報、(2)回転角センサ60からの電動機10の回転角情報(回転速度)、(3)電流検出部24からの電動機電流情報、(4)出力指令補正手段45からの出力、これら(1)~(4)の情報と外部から入力される電動機10の電動機のトルク指令値および電流指令値に従って、電力変換回路30の各スイッチング素子31から36へのオン、オフ制御信号を生成し、電力変換回路30へオン、オフ制御信号を出力する。
【0031】
電圧傾き計算手段42は、電圧検出手段23で検出した電源電圧の傾きを計算する。例えば図3に示すように、検出した電源電圧検出値を検出値保持部421に保持し、保持された前回検出値と今回検出値により電圧傾き計算部422において電源電圧の傾きを計算する。
【0032】
電源電圧の傾きは、一例として下記のような計算方法がある。
・電源電圧の傾き=(今回検出値電源電圧値-前回検出電源電圧値)/検出時間
・電源電圧の傾き=(今回検出値電源電圧値-前回検出電源電圧値)/今回検出電源電圧値
・電源電圧の傾き=(今回検出値電源電圧値-前回検出電源電圧値)/前回検出電源電圧値
・電源電圧の傾き=(今回検出値電源電圧値-前回検出電源電圧値)/公称電圧値
【0033】
電流検出手段43は、電流検出部24の出力結果より、電動機10に流れている検出電流値iu、iv、iwと回転角センサ60で検出された電動機の角度θより3相/dq変換を行いd軸電流検出値idと、q軸電流検出値iqを出力する。
【0034】
出力指令計算手段44は、図4中に示すように、上位の制御装置より授与されたd軸電流指令値id*と、電流検出手段43により検出されたd軸電流検出値idとをd軸電流制御部441で比較してd軸電圧指令値vd*を算出する。また、q軸電流指令値iq*と、電流検出手段43により計算されたq軸電流検出値iqとをq軸電流制御部442で比較してq軸電圧指令値vq*を算出する。算出したd軸電圧指令値vd*、q軸電圧指令値vq*と電動機10の回転位置情報を2相3相変換部443に入力し、電動機10を構成するu相、v相、w相の各巻線の電圧指令値Vuc*、Vvc*、Vwc*を出力する。
【0035】
出力指令補正手段45は、図5に示すように、電圧傾き計算手段42で計算された電源電圧の傾きと、u相、v相、w相それぞれの電圧指令値Vuc*、Vvc*、Vwc*と、電流検出部24で検出されたu相、v相、w相のそれぞれの検出電流値iu、iv、iwと、を入力として用いて3相それぞれの電圧指令値を補正した補正後の電圧指令値を出力する。
【0036】
出力指令補正手段45の動作を、図6図7に基づいて説明する。図6は、出力指令補正手段45の動作を説明するフローチャート、図7は、電源電圧、各相電流、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。
【0037】
電圧検出手段23は、インバータ回路20の動作により生じるノイズを除去するため、ローパスフィルタなどのフィルタを備えている。しかし、ローパスフィルタの影響により、検出遅れが発生し、電源電圧が増加する時、インバータ回路20の出力電圧指令値生成に用いられる電源電圧の情報の反映が遅れ、指令した電圧値よりも大きな電圧を出力してしまい(図6中ステップS1)、出力電流が通常より大きくなり、出力トルクが増加する方向に変動する事象がある。
【0038】
このような電源電圧増加の事象に対し、電源電圧の傾きを検出する。検出した電源電圧の傾きにより、電源電圧が増加している場合(図6中、ステップS1)、3相を制御するインバータ回路20のうち、3相のうちの1相の電流がピークの時、他の相の電流の大きさが-1/2倍になる比例関係があることを利用して、電流振幅が最も高い相を判別するとともに(ステップS2~S3、図7中、P、Q、R)、補正量ΔAddを計算し(ステップS7)、判別された相の電圧指令値(図6中、ステップS4~S6)を補正量ΔAddで補正する(図6中ステップS8、図7中ΔAdd)。そして、電流振幅が最も高い相以外の他の相の電圧指令値を、それぞれ-1/2×ΔAddで補正する(図6中、ステップS9、図7中、ΔAdd×0.5)ことで、各相の電流振幅の増加を抑制することができ、電動機10のトルク変動を抑制する効果を得られる。そのため、電動機10のトルクが変動することなく、安定に動作する電動機駆動システムを得る事ができる。なお、電源電圧が増加していない場合は、電圧指令値を補正しない(ステップS10)。
【0039】
上述した補正量ΔAddは、トルク変動を抑制するためのものであり、電源電圧の傾きと、相電流の絶対値が最も大きい相の電流値と公称電流値の比と、相電流の絶対値が最も大きい相の電圧指令値と公称電圧値の比と、補正係数と、のいずれか、または組み合わせを加味して出力指令補正手段45にて計算する。電源電圧の傾きが大きい場合と、検出電流値iu、iv、iwと指令電流の差分が大きい場合は、出力電流の変動量と電動機10のトルク変動量が大きいので、電圧指令値の補正量ΔAddを大きくする。補正係数は、インバータ回路20に存在する検出遅延、制御遅延、およびパラメータ誤差、による出力電圧指令値と、実際に電動機10に印加する電圧との誤差を補正する。このような出力指令補正手段45で行われる計算方法を用いる事で、電源電圧の傾きに応じて、電源電圧の変動に伴う電動機10のトルク変動を抑制する事ができ、出力トルクが変動しない安定した動作の電動機駆動システムを得る事ができる。
【0040】
具体的な例を示して説明すると、補正量ΔAddは、電源電圧の傾きvmoveと、相電流の絶対値が最も大きい相の電流値iphaseと公称電流値imax*の比と、相電流の絶対値が最も大きい相の電圧指令値vphase*と公称電圧値vmax*の比と、より精度良く動作できるための実機補正係数K_cと、前回電圧検出値vdet(z-1)及び今回電圧検出値vdet(z)に基づいて計算する。例えば、以下の式(1)のように計算する。ただし、この式(1)は一例であり、これに限るものではない。
【0041】
ΔAdd = vmove × iphase / imax* × vphase* / vmax* × K_c・・(1)
ΔAdd:電圧指令補正量
vmove:電源電圧の傾き
iphase:相電流の絶対値が最も大きい相の電流値
imax*:公称電流値(定格最大値)
vphase*:相電流の絶対値が最も大きい相の電圧指令値
vmax*::公称電圧値(定格最大値)
K_c:実機調整用係数(調整しない時は1)
なお、ここでは、vmove=vdet(z)-vdet(z-1)/vdet(z)とするが、前述の通り、他の電源電圧の傾きの計算方法を使用してもよい。
【0042】
前記電源電圧の増加判定は、電源電圧の傾き閾値を設定しても良い。通常動作時、インバータ回路20の動作により電源電圧端子に電圧リプルが生じ、電圧検出手段23で傾きが変動したかのように誤検知する可能性がある。このような誤検知を排除するために、過剰に電動機10のトルクを抑制しないように、電源電圧の傾き閾値を設ける事で、通常の動作状態での電源電圧の増加による傾きの変動と、電圧リプル発生時の誤検知による傾きの変動とを区別する。例えば、電源電圧端子の電圧リプルをあらかじめ測定し、この値を電源電圧の傾き閾値とする。これにより、通常動作時に発生する電圧リプルを誤検知することなく、安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0043】
また、温度センサ50からの温度情報により、電圧指令値の補正量ΔAddを調整しても良い。電動機10の温度が高い場合、電動機駆動システム100の負荷側の電気抵抗成分が大きいので、電源電圧の変動に伴う電流および電動機10のトルク変動量が小さくなる。そのため、電動機10の温度が高い場合は電圧指令値の補正量ΔAddを低く、電動機の温度が低い場合は電圧指令値の補正量ΔAddを高くする。この方法を用いる事で、電動機駆動システム100の状態に応じ、より適切な補正量を算出でき、より適切なトルク変動の抑制により安定した動作が可能な電動機駆動システム100を得る事ができる。
【0044】
これにより、図示されていない車両ECUを始めとする他の制御装置から、CAN(Controller Area Network)を介して電動機10の目標電動機のトルクあるいは目標電流がスイッチング制御手段40に入力され、電圧検出手段23から入力される直流母線21a、21bの電圧情報、回転角センサ60から入力される電動機10の回転角情報、および電流検出部24から入力される電動機電流情報を用いて、電流フィードバック制御を実行し、電動機10の適切な目標電動機のトルクあるいは目標電流が得られるよう電力変換回路30の各スイッチング素子31から36へのオン、オフ制御信号を演算し、電力変換回路30へオン、オフ制御信号を出力する。なお、電流フィードバック制御については、公知であるのでここでは詳細な説明は省略する。
【0045】
なお、電力変換回路30に適用されるスイッチング素子31から36の半導体の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、ワイドバンドギャップ半導体を用いることができる。ワイドバンドギャップ半導体素子としては、例えば、炭化珪素(SiC)を始め、窒化ガリウム(GaN)系材料またはダイヤモンド(C)により形成されたものを使用することができる。
【0046】
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子で構成されたインバータ回路20は、従来のシリコン(Si)によって形成されたスイッチング素子で構成されたインバータ回路と比較して、高耐電圧、低損失であり、高周波駆動が可能であるという特徴がある。以下、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子で構成されたインバータ回路をワイドバンドギャップインバータ回路と称し、シリコン(Si)によって形成されたスイッチング素子で構成されたインバータ回路をシリコンインバータ回路と称する。
【0047】
したがって、ワイドバンドギャップインバータ回路を用いた電動機制御装置では、シリコンインバータ回路を用いた電動機制御装置と比較して、スイッチング素子のスイッチング速度が高いため、スイッチング速度を高くする事ができ、出力指令を高速かつ精度よく実現する事ができる。以降に説明する実施の形態2~4についても、同様にワイドバンドギャップ半導体を用いることで、上述した効果を得ることができる。
【0048】
<実施の形態1を適用した場合の効果>
図8(a)、図8(b)に基づいて、実施の形態1を適用した場合の効果を示す。図8(a)は、実施の形態1の制御を用いない比較例の場合、図8(b)は実施の形態1の制御を用いた場合を示す。図8(a)では、各相の電圧指令補正量はゼロであるが、図8(b)に示すように、電源電圧の増加を検出して、電流振幅が低減するように、電流振幅が最も高い相の電圧指令値に補正量ΔAddで補正し、他の相の電圧指令値にそれぞれ-1/2×ΔAddの補正量で補正する。これにより、3相インバータ回路20では1相の電流がピークになる時、他の相との大きさが-1/2になる比例関係を持つことを利用し、各相の電流振幅を低減するように抑制できる。さらに、電源電圧の傾きが大きければ電圧指令値の補正量ΔAddを大きくする事で、電源電圧の増加に起因する出力電流の増加を抑制する効果が得られ、電動機のトルク増加を抑制できる。その結果、安定した動作を行う電動機駆動システムを得る事ができる。
【0049】
実施の形態2.
以下、実施の形態2に係る回転電機制御装置の構成および動作について、図9図11に基づいて、実施の形態1と実施の形態2との差異を中心に説明する。なお、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
【0050】
図9図10に基づいて実施の形態2の動作を説明する。図9は、出力指令補正手段45の動作を説明するフローチャートであり、図10は、電源電圧、各相電流、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。実施の形態2の出力指令補正手段は、各相の電流情報とあらかじめ定めた電流閾値を比較し(図9中、ステップS11、S12、S13、図10中、S、T、U)電流閾値を超えた相の電圧指令値を判別するとともに(図9中、ステップS14、S15、S16)、補正量ΔAddを計算し(ステップS7)、判別された相の電圧指令値に補正量ΔAddで補正する(図9中、ステップS8、図10中、ΔAdd)。そして電流閾値を超えていない他の相の電圧指令値を、それぞれ、-1/2×ΔAddで補正する(図9中、ステップS9、図10中、ΔAdd×0.5)ことで、各相の電流振幅の増加を抑制することができ、電動機10のトルク変動を抑制する効果を得られる。これにより、各相の電流振幅の増加を抑制することができ、電動機10のトルク変動を抑制する効果を得られる。そのため、電動機10のトルクが変動することなく、安定に動作する電動機駆動システムを得る事ができる。なお、電源電圧が増加していない場合は、電圧指令値を補正しない(ステップS10)。
【0051】
電流閾値は、インバータ回路20の定格電流とインバータ回路20の動作時に生じる電流リプルの和以上、過電流(OC:Over Current)閾値以下に設定してもよい。この電流閾値を制御に使用することで、電源電圧が変動している時は、電流が通常動作の電流範囲におさまっており、電流を抑制する必要がないため、出力電流を過剰に抑制せず、安定した動作の電動機駆動システムを得る事ができる。
【0052】
なお、電流閾値は、可変にしても良い。例えば、閾値電流として指令電流を用いる事で、指令値を超えた時のみ制限操作を行うので、指令値通りに動作している通常動作状態を誤検知する事なく、安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0053】
<実施の形態2を適用した場合の効果>
図11(a)、図11(b)に基づいて、実施の形態2を適用した場合の効果を示す。図11(a)は、実施の形態2の制御を用いない比較例の場合、図11(b)は実施の形態2の制御を用いた場合を示す。図11(a)では、各相の電圧指令補正量はゼロであるが、図11(b)に示すように、電源電圧の増加を検出して、電流振幅が低減するように、補正量ΔAddで補正し、他の相の電圧指令値にそれぞれ-1/2×ΔAddの補正量で補正する。これにより、電源電圧が変動してもインバータ回路20の出力電流の変動がないだけでなく、電動機のトルクの変動がない場合、過剰に電動機の出力トルクを制限することなく、安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0054】
実施の形態3.
以下、実施の形態3に係る回転電機制御装置の構成および動作について、図12図15に基づいて、実施の形態1と実施の形態3との差異を中心に説明する。なお、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
【0055】
図12に基づいて、実施の形態3の出力指令補正手段45の入出力要素について説明する。実施の形態3は実施の形態1と同じく、入力として、電源電圧の傾き、u相、v相、w相それぞれの電圧指令値Vuc*、Vvc*、Vwc*を使用する。しかし、電動機の電流検出部24で検出されたu相、v相、w相のそれぞれの検出電流値iu、iv、iwが不要な点と、補正量を計算するための相に電圧指令を使用する事が異なる。
【0056】
図13図14に基づいて実施の形態3の動作を説明する。図13は、出力指令補正手段45の動作を説明するフローチャートであり、図14は、電源電圧、各相電圧指令値、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。実施の形態3の出力指令補正手段は、u相、v相、w相のそれぞれの電圧指令値Vuc*、Vvc*、Vwc*より、電圧指令値の判定範囲をあらかじめ設け(図14中「電圧指令判定範囲」参照)、電圧指令値の大きさが電圧指令値の判定範囲内か否かを判別する(図13中、ステップS17、S18、S19)。電圧指令値の大きさが電圧指令値の判定範囲内の相を抽出するとともに(図13中、ステップS20、S21、S22)、補正量ΔAddを計算し(ステップS7)、判別された相の電圧指令値を補正量ΔAddで補正する(図13中、ステップS8、図14中、ΔAdd)。そして、電圧指令値の判定範囲外の相を、それぞれ-1/2×ΔAddで補正する(図13中、ステップS9、図14中、ΔAdd×0.5)ことで、各相の電流振幅の増加を抑制することができ、電動機10のトルク変動を抑制する効果を得られる。そのため、電動機10のトルクが変動することなく、安定に動作する電動機駆動システムを得る事ができる。さらに、電流センサを使用することなく、小型、低コストで安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。なお、電源電圧が増加していない場合は、電圧指令値を補正しない(ステップS10)。
【0057】
電圧指令値の判定範囲は、力率と、相電圧と、相電流との関係より3相のうち、電流がピークになっている相を抽出できるように設定する。例えば、力率が1の時、相電圧の指令値を相電圧とみなし、振幅がピーク値の-1/2倍~1/2倍の間にある相の電流がピークになる。力率と、相電圧と、相電流との関係は公知の技術であり、ここでの説明は省略する。前記手段を用いる事で、異なった相の電流振幅を低減するように補正し、過剰に電動機のトルクを抑制することなく、電源電圧の増加に伴う電流変動と電動機のトルクの変動を抑制でき、安定した動作が可能な電動機駆動システムを得る事ができる。
【0058】
<実施の形態3を適用した場合の効果>
図15(a)、図15(b)に基づいて、実施の形態3を適用した場合の効果を示す。図15(a)は、実施の形態3の制御を用いない比較例の場合、図15(b)実施の形態3の制御を用いた場合を示す。図15(a)では各相の電圧指令補正量はゼロであるが、図15(b)に示すように、相電圧と、相電流と、力率の関係を利用し、相電圧指令値を相電圧とみなし、相電流がピークになっている相を抽出できるように電圧指令値の判定範囲を設定する。電圧指令値の判定範囲内の相に電圧指令値の補正量ΔAddで補正し、他の相の電圧指令値にそれぞれ-1/2×ΔAddの補正量で補正する。これにより、電流センサを使用することなく、小型、低コストで安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0059】
実施の形態4
以下、実施の形態4に係る回転電機制御装置の構成および動作について、図16図18に基づいて、実施の形態1と実施の形態4との差異を中心に説明する。なお、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
【0060】
図16図17に基づいて、実施の形態4の動作を説明する。実施の形態1と異なるのは、電源電圧減少の場合、電流振幅が大きくなるように補正を行う。図16は、出力指令補正手段45の動作を説明するフローチャートであり、図17は、電源電圧、各相電圧指令値、各相電圧指令補正量の時系列の変化を説明するタイミングチャートである。実施の形態3の出力指令補正手段は、電源電圧が減少する時、電流振幅が大きくなるように、電圧指令値が最も大きい相の電圧指令値を補正量ΔAddで補正し、他の相の電圧指令値にそれぞれ-1/2×ΔAddで補正することで、電源電圧の減少に伴うインバータ回路20の出力電流の変動と電動機のトルクの変動を抑制でき、安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0061】
電圧検出手段23は、インバータ回路20の動作により生じるノイズを除去するため、ローパスフィルタなどのフィルタを備えている。しかし、ローパスフィルタの影響により、検出遅れが発生し、電源電圧が減少する時、インバータ回路20の出力電圧指令値生成に用いられる電源電圧の情報が反映されず、実際に出力する電圧は指令電圧値より小さい出力となり、出力電流が通常より小さくなるため、出力トルクが減少する方向に変動する事象がある。
【0062】
このような電源電圧減少の事象に対し、電源電圧の傾きを検出する。検出した電源電圧の傾きにより、電源電圧が減少している場合(図16中、ステップS23)、3相のうちの1相の電流がピークになる時、他の相の電流の大きさが-1/2倍になる比例関係があることを利用して、電圧指令値が最も高い相の電圧指令値を判別するとともに(ステップS24、25、図17中、A、B、C)、補正量ΔAddを計算し(ステップS7)、判別された最も高い相(ステップS26、S27、S28)を補正量ΔAddで補正する(図16中ステップS8、図17中ΔAdd)。そして、電流振幅が最も高い相以外の他の相の電圧指令値を、それぞれ-1/2×ΔAddで補正する(図6中、ステップS9、図7中、ΔAdd×0.5)ことで、各相の電流振幅が減少する方向に変動するのを抑制することができるので、電動機のトルクの変動を抑制する効果が得られる。そのため、電動機のトルクが変動することなく、安定した動作が出来る電動機駆動システム100を得る事ができる。なお、電源電圧が増加していない場合は、電圧指令値を補正しない(ステップS10)。
【0063】
上述した補正量ΔAddは、電源電圧の傾きと、電流検出部24で検出された検出電流の大きさと、補正係数と、上位の制御装置により授与された指令電流と、のいずれか、またはそれらの組み合わせにより、出力指令補正手段45にて計算する。電源電圧の傾きが大きい場合あるいは、検出電流値iu、iv、iwと指令電流値の差分が大きい場合は、出力電流の変動量と電動機10のトルクの変動量が大きいので、電圧指令値の補正量ΔAddを大きくする。補正係数は、インバータ回路20に存在する検出遅延と、制御遅延と、およびパラメータ誤差と、による出力電圧指令値と実際に電動機10に印加する電圧の誤差を補正する。このような出力指令補正手段45で行われる計算方法を用いる事で、電源電圧の傾きに応じて、電源電圧減少に伴う電源電圧の変動及び出力電流の変動量に応じて、電動機のトルクの変動を抑制でき、安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0064】
<実施の形態4を適用した場合の効果>
図18(a)、図18(b)に基づいて、実施の形態4を適用した場合の効果を示す。図18(a)は、実施の形態4の制御を用いない比較例の場合、図18(b)は実施の形態4の制御を用いた場合を示す。図18(a)では、各相の電圧指令補正量はゼロであるが図18(b)に示すように、電源電圧の減少を検出して、電流振幅が大きくなるように電圧指令値が最も高い相の電圧指令値にΔAddで補正し、他の相の電圧指令値にそれぞれ-1/2×ΔAddの補正量で補正する。これにより、各相それぞれの電流振幅が低下しないように抑制する事が出来る。その結果、電流センサを使用することなく、小型、低コストで安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0065】
実施の形態5.
<その他の方法>
上述した実施の形態1~4のと、他の電流制御方法と組み合わせて使用しても良い。他の電流制御方法とは、例えば、電流フィードバック制御にPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller:比例-積分-微分制御)を用いた電流制御であり、実施の形態1~4にPID制御を組合わせる方法を説明する。
【0066】
実施の形態1~4は、電源電圧の増加、減少に対する応答に一定の時間を必要とするPID制御と異なり、電源電圧の傾きを検出した時点より応答が可能である。そのため、PID制御の応答に必要な過渡期間中に瞬時的に制御を開始し、出力電流を抑制することにより、電動機10のトルクの変動を抑制する。その後PID制御により、徐々に補正量を小さくなるように変化させ、電流制御の出力指令電圧を徐々に大きくする事が出来るので、安定した制御を実現できる。その結果、電源電圧の変動に伴う電流変動と電動機のトルクの変動を抑制でき、安定した動作が出来る電動機駆動システムを得る事ができる。
【0067】
例えば、図19のように、電源電圧の傾きを算出した後、電圧指令値の補正量ΔAddがt1に示す期間中、経過時間に比例して減少させる。また、図20のように、電源電圧の傾きがゼロとなった時点からの経過時間に比例して補正量ΔAddをt2に示す期間中、減少させる。
【0068】
また、実施の形態1~4は、電源電圧を検出し電源電圧の傾きを計算すると説明したが、電源電圧の傾きを検出する手段として、インバータ回路20の入力電流、出力電流、出力電圧のいずれか、もしくは組み合わせにより推定するとしても良い。例えば、電源電圧=出力電圧×出力電流/入力電流で計算するなどの方法がある。このように電源電圧を推定することで、(1)電源電圧もしくは電源電圧の傾きの検知が困難な駆動システムで利用する場合、(2)コストを低減するために電源電圧の検出を行わない場合、(3)VVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御を代表とするフィードフォワード制御を用いる場合、においても安定した動作が可能な電動機駆動システムを得る事ができる。
【0069】
また、3相インバータ回路20の駆動時、各相の電圧指令補正量の関係をΔAddと-1/2×ΔAddに固定せず、位相関係により計算しても良い。例えば、3相インバータ回路20の場合、u相電流をiu、v相電流iv=-2/3×iu、w相電流iw=-1/3×iuとする。電源電圧が変動する時、3相の電流の和が0になる関係を利用し、u相電圧指令値にΔAdd、v相電圧指令値に-2/3×ΔAdd、w相電圧指令値に-1/3× ΔAddの補正量を補正する事で、インバータ回路20の出力電流の振幅を低減し、電動機10のトルク変動を低減し、安定した動作が可能な電動機駆動システムを得る事ができる。
【0070】
なお、上記実施の形態はあくまで一例を示すものであり、本願が適用できるものであれば、上述した実施の形態1~4に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施の形態1および2では、直流電源90と電動機制御装置1とを直接接続する場合について説明したが、直流電源90と電動機制御装置1との間に昇圧あるいは降圧を行うDC/DCコンバータを配置する構成としてもよく、交流電源の交流電力を直流電力に変換する整流器あるいはAC/DCコンバータを介して交流電源と接続される構成としてもよい。
【0071】
また、上述した実施の形態1~4は電動機制御装置としての特徴および動作について説明したが、電動機制御装置1と電動機10を含めた電動機駆動システム100に適用してもよく、その場合には電動機制御装置1の小型化と電動機10の小型化の利点を同時に享受することができる。
【0072】
また、上述した実施の形態1~4は、電動機制御装置を例に挙げて説明したが、電気自動車あるいはエンジンと電動機とを併用するハイブリッド車両に適用してもよく、さらには車両に限定されるものではない。
【0073】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのものではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に公開される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0074】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0075】
(付記1)
直流電源と交流電動機との間に接続され、前記直流電源の直流電力を交流電力に変換して前記交流電動機を駆動制御する電動機制御装置であって、
前記直流電力を前記交流電力に変換するためのスイッチング素子を有する電力変換回路、
前記スイッチング素子のオン、オフを制御するスイッチング制御手段、を備え、
前記スイッチング制御手段は、前記交流電動機を駆動するための出力指令値を計算する出力指令計算手段と、前記直流電源の電圧の傾きを計算する電圧傾き計算手段と、前記電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きに応じて、前記交流電動機のトルク変動を抑制する補正量を算出し、この補正量で前記出力指令値を補正する出力指令補正手段と、を有していることを特徴とする電動機制御装置。
(付記2)
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、前記電力変換回路から前記3相交流電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記直流電源の電圧増加時に前記各相に流れる電流のうち、電流振幅が最も高い相の出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする付記1に記載の電動機制御装置。
(付記3)
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、前記電力変換回路から前記3相交流電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記電流検出部で検出された各相の電流のうち、あらかじめ定められた電流閾値を超えた相の出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする付記1に記載の電動機制御装置。
(付記4)
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、各相の電流振幅が最も高くなる出力指令値の判定範囲をあらかじめ設定し、判定範囲内の相の出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする付記1に記載の電動機制御装置。
(付記5)
前記交流電動機は、3相交流電動機であって、前記電力変換回路から前記3相交流電動機の各相に流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、前記直流電源の電圧減少時に前記各相の出力指令値のうち、最も高い出力指令値を第1の補正量で補正するとともに、それ以外の相の出力指令値を前記第1の補正量の1/2の第2の補正量で補正することを特徴とする付記1に記載の電動機制御装置。
(付記6)
前記補正量は、少なくとも前記電圧の傾きおよび前記電力変換回路から前記交流電動機に出力する出力電流のいずれか、あるいは組合せにより算出されることを特徴とする付記1から5のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記7)
前記電圧の傾きが大きくなるほど、前記補正量を大きくすることを特徴とする付記6に記載の電動機制御装置。
(付記8)
前記出力電流が大きくなるほど、前記補正量を大きくすることを特徴とする付記6に記載の電動機制御装置。
(付記9)
駆動される前記交流電動機の温度が高いほど前記補正量を小さくすることを特徴とする付記1から8のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記10)
前記電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きに応じて設定された前記補正量を、前記電圧の傾き算出時点からの経過時間に比例して減少させることを特徴とする付記1から9のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記11)
前記電圧傾き計算手段により算出された傾きがゼロとなった時点からの経過時間に比例して前記補正量を減少させることを特徴とする付記1から9のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記12)
前記電圧傾き計算手段により算出された電圧の傾きがあらかじめ定められた前記電圧傾き閾値より大きいときに前記補正量で補正することを特徴とする付記1から11のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記13)
前記電圧傾き計算手段は、前記直流電源の検出電圧の変動に基づいて算出することを特徴とする付記1から12のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記14)
前記電圧傾き計算手段は、前記電力変換回路への入力電流、前記電力変換回路からの出力電流、および前記電力変換回路の出力電圧の少なくともいずれか1つに基づいて算出されることを特徴とする付記1から12のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
(付記15)
前記半導体スイッチング素子は、ワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることを特徴とする付記1から14の何れか1項に記載の電動機制御装置。
(付記16)
付記1から15のいずれか1項に記載の電動機制御装置、前記電動機制御装置に接続される交流電動機を備えた電動機駆動システム。
【符号の説明】
【0076】
1:電動機制御装置、10:電動機、2:交流母線、20:インバータ回路、21a、21b:直流母線、22:コンデンサ、23:電圧検出手段、24:電流検出部、30:電力変換回路、31~36:スイッチング素子、40:スイッチング制御手段、41:スイッチング制御信号生成手段、42:電圧傾き計算手段、43:電流検出手段、44:出力指令計算手段、45:出力指令補正手段、50:温度センサ、60:回転角センサ、70:電力開閉器、90:直流電源、100:電動機駆動システム。
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