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特開2024-167978癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167978
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241128BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241128BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241128BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P35/04
C12Q1/02
C12Q1/686 Z
G01N33/53 M
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084327
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折茂 彰
(72)【発明者】
【氏名】白木原 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】目澤 義弘
(72)【発明者】
【氏名】陳 経権
(72)【発明者】
【氏名】丸山 玲緒
(72)【発明者】
【氏名】粂川 昂平
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA13
2G045DA14
2G045FB02
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS33
4B063QX02
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC411
(57)【要約】
【課題】CAFsと癌細胞の相互作用により、癌細胞の増殖、浸潤、転移などに関与する新たな因子を提供すること。
【解決手段】]FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制剤及び癌組織の浸潤性、転移性の抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FOXQ1又はFOXQ1誘導剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換促進剤。
【請求項2】
FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制剤。
【請求項3】
FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の浸潤性、転移性の抑制剤。
【請求項4】
癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換性の測定方法。
【請求項5】
癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の浸潤性、転移性の測定方法。
【請求項6】
被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換の促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の浸潤性、転移性の促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の中には癌細胞だけでなく非癌間質細胞も多く存在し、癌微小環境を形成する。腫瘍中に豊富に存在する線維芽細胞は癌関連線維芽細胞(CAFs:Carcinoma-Assosiated Fibroblasts)と呼ばれ、相互作用した癌細胞の増殖や浸潤、転移、抗癌剤耐性などを促進すると考えられている(非特許文献1)が、その分子メカニズムの理解は未だ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Matsumura Y et al.,Life Science Alliance,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、CAFsと癌細胞の相互作用により、癌細胞の増殖、浸潤、転移などに関与する新たな因子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、低浸潤・転移性のヒト乳癌細胞(DCIS)をCAFsとマウスに共移植して、高転移性の癌細胞DCISCAF2cyを樹立した(非特許文献1)。このDCISCAF2cyのマイクロアレイ解析から、CAFsとの相互作用によって乳癌で誘導される多くの遺伝子を見出した。そしてこれらの遺伝子のCAFsとDCIS相互作用に与える影響について種々検討したところ、これらの遺伝子の中で唯一の転写調節因子であるFOXQ1が、CAFsと相互作用したDCISにおいて腺上皮-扁平上皮化生様の分化転換を促進し、その結果としてDCISの浸潤性、転移性を促進していることを見出した。また、当該DCISCAF2cyのFOXQ1をノックダウンすると、腺上皮-扁平上皮化生分化転換が抑制され、その結果としてDCISCAF2cyの肺への転移が抑制されることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[7]を提供するものである。
[1]FOXQ1又はFOXQ1誘導剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換促進剤。
[2]FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制剤。
[3]FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の浸潤性、転移性の抑制剤。
[4]癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換性の測定方法。
[5]癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の浸潤性、転移性の測定方法。
[6]被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換の促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法。
[7]被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の浸潤性、転移性の促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
FOXQ1又はFOXQ1誘導剤を用いれば、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換が促進される。また、FOXQ1抑制剤を用いれば、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換が抑制される。また、癌組織におけるFOXQ1発現量を測定すれば、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換が促進又は抑制されることを判定できる。被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定すれば、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転の促進剤又は抑制剤をスクリーニングできる。
上皮細胞の癌組織中には、癌細胞以外にCAFsが共存しており、相互作用している。従って、本発明によって得られる癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制剤は、癌組織の浸潤性、転移性の抑制剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】DCIScntとDCISCAFの単細胞解析結果を示す。左側は、DCIScntとDCISCAFを構成する個々の細胞の遺伝子転写動態を特徴空間上に次元圧縮し、それぞれの細胞群が近傍でクラスター形成する様子を示す。右側は、標的遺伝子から推測したFOXQ1の転写活性強度を個々の細胞について示す。
図2】FOXQ1を過剰発現したDCISにおける、腺上皮化生に特徴的な遺伝子(マーカー)の発現誘導を示す。
図3】FOXQ1を過剰発現したDCISにおける、扁平上皮化生に特徴的な遺伝子(マーカー)の発現誘導を示す。
図4】三次元腫瘍浸潤アッセイ方法を示す概略図である。
図5】ドキシサイクリン依存的にFOXQ1を発現誘導するコンストラクトを導入したDCISから抽出したタンパク質を使用したFOXQ1とalpha-tubulinのWestern blot。
図6】ドキシサイクリン依存的にFOXQ1を発現誘導したDCISが、細胞外基質を含むゲルへの浸潤を促進することを示す。
図7】FOXQ1をノックダウンしたDCISCAF2cyにおける、腺上皮化生に特徴的な遺伝子(マーカー)のmRNA発現量の低下。
図8】FOXQ1をノックダウンしたDCISCAF2cyにおける、扁平上皮化生に特徴的な遺伝子(マーカー)のmRNA発現量の低下。
図9】DCIScnt2cyもしくはDCISCAF2cyを尾静脈へ注入したマウスの肺転移を示す。コントロールのGFPノックダウンと比較し、FOXQ1をノックダウンしたDCISCAF2cyでは肺転移が抑制されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様は、FOXQ1又はFOXQ1誘導剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換促進剤である。
また、本発明の別の一態様は、FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制剤である。
また、本発明の別の一態様は、FOXQ1抑制剤を有効成分とする、癌組織の浸潤性、転移性の抑制剤である。
【0010】
FOXQ1は、FOXタンパク質の一種であり、FOXタンパク質は、細胞の成長、増殖、分化、そして長寿に関係する遺伝子の発現調節に重要な役割を果たす、転写因子のファミリーである。FOXQ1遺伝子が、CAFsと共存している癌細胞に対してどのような作用をするのかについては、全く知られていない。
前述のように、本発明者は、CAFsと共移植されて高転移性になった癌細胞すなわち、CAFsとの相互作用した癌細胞には、FOXQ1が高発現しており、当該癌組織は、腺上皮-扁平上皮化生分化転換を促進し、その結果として癌組織の浸潤性、転移性を促進していることを見出した。また、当該癌組織のFOXQ1をノックダウンすると、腺上皮-扁平上皮化生分化転換が抑制され、その結果として例えば乳癌組織の肺への転移が抑制されることを見出した。
従って、FOXQ1又はFOXQ1誘導剤は、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換促進剤として有用である。また、FOXQ1抑制剤は、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制剤として有用である。さらに、FOXQ1抑制剤は、癌組織の浸潤性、転移性の抑制剤として有用である。
【0011】
用いられるFOXQ1は、FOXQ1タンパク質でもよいし、FOXQ1遺伝子でもよい。ヒトのFOXQ1タンパク質及びFOXQ1遺伝子は、既に知られており、遺伝子組み換え技術により容易に入手することができる。
FOXQ1誘導剤は、FOXQ1タンパク質を誘導する成分であればよく、FOXQ1遺伝子でもよいし、FOXQ1遺伝子を含有するベクターでもよい。
FOXQ1抑制剤は、FOXQ1タンパク質の作用を抑制する機能を有する成分であればよく、例えば抗FOXQ1抗体、FOXQ1遺伝子発現抑制剤、FOXQ1タンパク質安定性抑制剤などが挙げられる。
【0012】
本発明で対象となる癌組織としては、CAFsが共存する癌組織であればよく、具体的には、上皮性癌(呼吸器癌、消化器癌、泌尿生殖器癌、分泌系癌、皮膚癌等)、中皮腫、乳癌、肉腫、中枢神経系腫瘍、末梢神経系腫瘍等が挙げられる。呼吸器癌としては、例えば、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌等)等が挙げられる。消化器癌としては、例えば、食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌等)、膵臓癌、大腸癌、結腸直腸癌(結腸癌、直腸癌等)等が挙げられる。泌尿生殖器癌としては、例えば、卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌等)、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍等が挙げられる。分泌系癌としては、神経内分泌腫瘍等が挙げられる。中皮腫としては、例えば、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫、精巣中皮腫等が挙げられる。肉腫としては、例えば、消化管間質腫瘍、骨・軟部腫瘍等が挙げられる。中枢神経系腫瘍としては、例えば、脳腫瘍等が挙げられる。末梢神経系腫瘍としては、例えば、悪性神経鞘腫等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、消化管間質腫瘍、乳癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、卵巣癌及び大腸癌であり、肺癌のうち、非小細胞肺癌が好ましい。
【0013】
本発明において、腺上皮-扁平上皮化生分化転換とは、癌の上皮腫瘍成分(腺癌)が扁平上皮へ分化したものである。癌胞巣で角化あるいは細胞間橋がみられ、腺癌成分と混在することが多い。扁平上皮化生が生じると、一般的に急速な増大や転移など悪性度が高く、化学療法に対する予後も悪くなることが知られている。従って、癌組織において腺上皮-扁平上皮化生分化転換が促進されると、当該癌組織は浸潤性、転移性が高くなる。
すなわち、FOXQ1抑制剤は、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換抑制用医薬として有用である。さらに、FOXQ1抑制剤は、癌組織の浸潤性、転移性の抑制用医薬として有用である。
【0014】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的又は非経口的に投与することができる。非経口投与としては静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、吸入、直腸内、鼻腔内投与、外用投与等が挙げられる。
本発明の医薬としては、有効成分であるFOXQ1抑制剤をそのまま患者に投与してもよいが、好ましくは、有効成分と薬学的に許容し得る添加剤とを含む医薬組成物の形態として投与すべきである。薬学的に許容し得る添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0015】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、又はシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する製剤としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤又は外用剤(貼付、軟膏、クリーム、ゲル、ローション、スプレーなどを含む)などを挙げることができる。
経口投与に適する製剤には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D-マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
注射、点滴用剤に適する製剤には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成し得る溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の製剤用添加物を用いることができる。
坐剤に適する製剤には、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリド等の基剤、及び必要に応じて非イオン界面活性剤のような界面活性剤等の添加物を用いることができる。
軟膏剤に適する製剤には、通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて用いられる。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
貼付剤に適する製剤としては、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布したものが挙げられる。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シートが適当である。
【0016】
また、本発明の医薬は、癌細胞に直接作用する他の抗癌剤と併用することも有用である。そのような併用できる他の抗癌剤としては、抗癌効果を有する抗癌剤であれば特に限定されないが、腫瘍細胞傷害性を有する抗癌剤であることが、相乗効果を得る点で特に好ましい。
当該他の抗癌剤としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管阻害剤、抗生物質抗癌剤、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、分子標的薬、ホルモン剤、生物製剤などが挙げられる。
アルキル化剤としては、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、プロカルバジン、ラニムスチン等が挙げられる。
代謝拮抗剤としては、例えば、エノシタビン、カルモフール、カペシタビン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、クラドリビン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、メルカプトプリン等が挙げられる。
微小管阻害剤としては、例えば、ビンクリスチン等のアルカロイド系抗がん剤、ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系抗がん剤が挙げられる。
抗生物質抗がん剤としては、例えば、マイトマイシンC、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマー等が挙げられる。
トポイソメラーゼ阻害剤としてはトポイソメラーゼI阻害作用を有するCPT-11、イリノテカン、ノギテカン、トポイソメラーゼII阻害作用をもつエトポシド、ソブゾキサンが挙げられる。
白金製剤としては、例えば、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等が挙げられる。
ホルモン剤としては、例えば、デキサメタゾン、フィナステリド、タモキシフェン、アストロゾール、エキセメスタン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、ビカルタミド、フルタミド、ブレドニゾロン、リュープロレリン、レトロゾール、エストラムスチン、トレミフェン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン等が挙げられる。
生物製剤としては、例えば、インターフェロンα、β及びγ、インターロイキン2、ウベニメクス、乾燥BCG等が挙げられる。
分子標的薬としては、例えば、リツキシマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、テムシロリムス、ベバシズマブ、VEGF trap、スニチニブ、ソラフェニブ、トシツズマブ、ボルテゾミブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タミバロテン、トレチノイン等が挙げられる。
さらに、ヒト上皮性増殖因子受容体2阻害剤、上皮性増殖因子受容体阻害剤、Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤、上皮性増殖因子チロシンキナーゼ阻害剤、mTOR阻害剤、血管内皮増殖因子受容体2阻害剤(α-VEGFR-2抗体)等の血管新生を標的にした阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤などの各種チロシンキナーゼ阻害剤、サイトカインを標的とした阻害剤、プロテアソーム阻害剤、抗体―抗がん剤配合体等の分子標的薬なども使用できる。
これらの他の抗癌剤のうち、細胞傷害活性を特徴とするアルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管阻害剤、抗生物質抗がん剤、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、分子標的薬等が特に好ましい。具体的には、ゲムシタビン、5-FU、CPT-11、エトポシド、シスプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ダカルバジン、ドキソルビシン、ベバシズマブ、セツキシマブ、抗血管内皮増殖因子受容体2阻害抗体、上皮性増殖因子チロシンキナーゼ阻害剤等が特に好ましい。
【0017】
本発明の医薬の投与量は、疾患の進行状況又は症状の程度、患者の年齢や体重などの諸条件に応じて適宜選択可能であるが、例えば経口投与の場合、一日当たり1mgから300mgを1回から3回程度に分けて投与することができる。
【0018】
本発明の別の一態様は、癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換性の測定方法である。
また、本発明の別の一態様は、癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の浸潤性、転移性の測定方法である。
本発明によれば、癌組織におけるFOXQ1発現量を測定し、その発現量が健常者又は他の癌患者に比べて高ければ、その癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換性が高く、その癌組織の浸潤性、転移性が高いと判定することができる。
測定対象は、被験者の癌組織である。FOXQ1発現量の測定手段としては、組織診や手術検体から採取した癌組織試料からパラフィン包埋組織ブロックを作製し、薄切により組織切片を作製し、FOXQ1抗体を用いた組織染色にて検出する。あるいは、組織診や手術検体から採取した癌組織試料からmRNAを抽出し、定量的PCR法にてFOXQ1発現量を測定する。
FOXQ1発現量の判定は、健常者の発現量又は転移などを生じなかった癌患者の発現量をコントロールとして行うことができる。
【0019】
本発明の別の一態様は、被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換の促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法である。
また、本発明の別の一態様は、被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定することを特徴とする、癌組織の浸潤性、転移性の促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法である。
本発明によれば、被験物質を添加又は投与した癌組織におけるFOXQ1発現量を測定し、その発現量が被験物質を投与しなかった場合と対比すれば、癌組織の腺上皮-扁平上皮化生分化転換の促進剤又は抑制剤、及び癌組織の浸潤性、転移性の促進剤又は抑制剤をスクリーニングすることができる。
試験に用いられる癌組織は、癌細胞とCAFsが共存する癌組織であればよく、例えば前記の癌組織が挙げられる。FOXQ1発現量の測定手段も、前記と同様である。
【実施例0020】
次に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1
(高転移性の癌細胞DCISCAF2cyの樹立)
低浸潤・転移性のヒト乳癌細胞(DCIS)とCAFsを混合して免疫不全マウスに移植し、形成した腫瘍を切除して再培養し、癌細胞DCISCAF1cyを樹立した。DCISCAF1cyとCAFsを混合して免疫不全マウスに移植し、形成した腫瘍を切除して再培養し、高転移性の癌細胞DCISCAF2cyを樹立した。コントロールとしてDCISと線維芽細胞を共移植し、DCIScnt1cy,DCIScnt2cyを樹立した(非特許文献1)。
(マイクロアレイ解析の方法と結果)
DCISとCAFsを共にマウスへ2度移植して形成した腫瘍からDCISCAF2cyを独立して4回樹立し、同様にDCISとコントロールの線維芽細胞の共移植からDCIScnt2cyを独立して4回樹立した。4種のDCISCAF2cyと4種のDCIScnt2cyからそれぞれmRNAを抽出し、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Arrays(Affymetrix社)を用いて遺伝子発現解析を行った(非特許文献1)。DCIScnt2cyでは転写因子FOXQ1、扁平上皮に特徴的な遺伝子群SCEL、SERPINB1、SERPINB2、SERPINB3、SPRR1A、SPRR3、TGM2、腺上皮に特徴的な遺伝子群CEACAM5、CEACAM6の発現誘導が認められた。
【0022】
実施例2
(DCIScntとDCISCAFの単細胞解析)
(方法)
CAFsと共にマウスへ1度もしくは2度移植したDCIS(DCISCAF1cy, DCISCAF2cy)と、コントロールの線維芽細胞と共移植したDCIS(DCIScnt1cy, DCIScnt2cy)の4群の転写動態をsingle cell assay for transposase-accessible chromatin(ATAC)-seqにて解析した。4群から個々の細胞からSureCell ATAC-seqライブラリー調製キット(BioRad社)にて試料調製を行い、オープンクロマチン領域を次世代シーケンサーにて網羅的に解読した。
(結果)
図1に示すように、FOXQ1はDCISCAF2cyの多くの細胞で強く転写が活性化していた。遺伝子転写動態を特徴空間上に次元圧縮すると、DCISCAF1cy, DCISCAF2cy, DCIScnt1cy, DCIScnt2cyを構成する個々の細胞は各々クラスターを形成した。標的遺伝子から推測したFOXQ1の転写活性はDCIScnt1cyクラスターで最も低く、DCISCAF2cyクラスターで最も高かった。
【0023】
実施例3
(FOXQ1過剰発現による遺伝子発現誘導)
(方法)
レンチウイルスを用いた遺伝子導入により、FOXQ1もしくはコントロールのGFPをDCISで過剰発現した。GFPやFOXQ1の安定発現株からmRNAを抽出してcDNAへ逆転写後、各種遺伝子の発現量を定量的PCR法にて解析した。
(結果)
図2及び図3に示すように、FOXQ1を過剰発現したDCISでは、腺上皮-扁平上皮化生に特徴的な遺伝子群のmRNAが発現誘導された。
【0024】
実施例3
(FOXQ1過剰発現による浸潤能の亢進)
(方法)
正常線維芽細胞を含む細胞外基質ゲル(マトリゲルとI型コラーゲンの混合物)の上からDCISを重層して12日間培養を行った。その後、パラフィンに包埋して薄切した切片をヘマトキシリン・エオジンにて染色し、細胞外基質層への癌細胞浸潤を観察した(図4)。
(結果)
図5に、ドキシサイクリン依存的にFOXQ1を過剰発現するDCISにてFOXQ1タンパク質が誘導される様子をウェスタンブロットで検出した結果を示す。培養液中にドキシサイクリンを10~1000ng/mlの濃度で添加し、24時間培養後に細胞内総タンパク質を回収した。図6に、1μg/mlのドキシサイクリンを添加して12日間培養したDCISの細胞外基質層への浸潤が亢進している様子を示す。これらの結果から、ドキシサイクリン依存的にFOXQ1を過剰発現したDCISでは浸潤能が亢進した。
【0025】
実施例4
(FOXQ1ノックダウンによる遺伝子発現変化)
(方法)
レンチウイルスを用いた遺伝子導入により、FOXQ1を標的とする2種類のshRNAもしくはコントロールのGFPを標的とするshRNAをDCIScnt2cyに遺伝子導入した。GFPやFOXQ1をノックダウンした細胞からmRNAを抽出してcDNAへ逆転写後、各種遺伝子の発現量を定量的PCR法にて解析した。
(結果)
DCISCAF2cyのFOXQ1をノックダウンすると、腺上皮-扁平上皮化生に特徴的な遺伝子群のmRNAが発現抑制された(図7図8)。
【0026】
実施例5
(DCISCAF2cyの肺転移へのFOXQ1の寄与)
(方法)
コントロールのGFPをノックダウンしたDCIScnt2cy、GFPをノックダウンしたDCISCAF2cy、2種類のFOXQ1をノックダウンしたDCISCAF2cyをそれぞれマウス尾静脈に注入し、30日後に切除して実体顕微鏡にて観察を行った。
(結果)
FOXQ1をノックダウンしたDCISCAF2cyは、コントロールGFPのノックダウンと比べて肺への転移が抑制された(図9)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9