(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024167984
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】エアモビリティ管制システムおよびエアモビリティ管制方法
(51)【国際特許分類】
G08G 5/02 20060101AFI20241128BHJP
G08G 5/04 20060101ALI20241128BHJP
B64F 1/36 20240101ALI20241128BHJP
【FI】
G08G5/02 A
G08G5/04 A
B64F1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084345
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】松尾 一毅
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴廣
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA26
5H181BB04
5H181EE08
5H181FF03
5H181FF22
(57)【要約】
【課題】エアモビリティの飛行中に、機体に異常が発生した緊急時に、速やかに緊急着陸を行うことができるエアモビリティ管制システムを提供する。
【解決手段】エアモビリティ管制システム100、100Aは、エアモビリティ106の飛行制御を行うエアモビリティ制御部101と、エアモビリティ106の航空管制を行い、エアモビリティ制御部101から得られる情報に基づいて、飛行ルートと緊急時の着陸地点を選定する航空管制部102と、地上の交通に対して、エアモビリティ106の飛行ルート及び緊急時の着陸地点に基づいて、地上交通に対する動作の指示を生成する地上交通管制部104と、地上交通管制部104からの指示に基づいて、地上の交通手段に対して制御を行う地上交通制御部105と、航空管制部102と地上交通管制部104との間で情報の相互通信を行う航空管制・地上交通管制間インターフェース103と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアモビリティの飛行制御を行うエアモビリティ制御部と、
前記エアモビリティの航空管制を行い、前記エアモビリティ制御部から得られる情報に基づいて、飛行ルートと緊急時の着陸地点を選定する航空管制部と、
地上の交通に対して、前記エアモビリティの前記飛行ルート及び前記緊急時の着陸地点に基づいて、地上交通に対する動作の指示を生成する地上交通管制部と、
前記地上交通管制部からの指示に基づいて、地上の交通手段に対して制御を行う地上交通制御部と、
前記航空管制部と前記地上交通管制部との間で情報の相互通信を行う航空管制・地上交通管制間インターフェースと、
を備えることを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
前記エアモビリティ制御部は、前記エアモビリティの機体の故障発生状態とそのときの前記エアモビリティの制御性能、前記エアモビリティの前記機体の前記故障発生状態により最も大きな影響が出る前記制御性能を、前記航空管制部、前記地上交通管制部、および前記地上交通制御部と相互通信により共有し、
前記航空管制部は、選定した前記飛行ルートおよび緊急時の前記着陸地点をエアモビリティ制御部、前記地上交通管制部、および前記地上交通制御部と共有し、
前記地上交通管制部は、前記地上交通に対する動作の指示を、前記エアモビリティ制御部、前記航空管制部、および前記地上交通制御部と共有することを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項3】
請求項2に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
前記航空管制部は、前記エアモビリティの前記機体の前記制御性能に最も大きな影響が出る前記制御性能、前記エアモビリティの正常時における離陸地点、前記エアモビリティの正常時における着陸地点、前記エアモビリティの周辺に存在する着陸可能地点、及び前記エアモビリティが着陸可能な幹線道路の位置情報に基づいて、前記エアモビリティの前記飛行ルートを決定することを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項4】
請求項2に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
前記地上交通管制部からの指示を前記地上交通に、前記エアモビリティから直接的、もしくは間接的に、視覚、聴覚、触覚を通じて通知することを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項5】
請求項2に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
地上の人流情報を取得し、取得した地上の前記人流情報を、前記エアモビリティ制御部、前記航空管制部、前記地上交通管制部および前記地上交通制御部と共有する地上人流情報保存部を備える事を特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項6】
請求項5に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
前記航空管制部は、前記エアモビリティの前記機体の前記制御性能に最も大きな影響が出る前記制御性能、前記エアモビリティの正常時における離陸地点、前記エアモビリティの正常時における着陸地点、前記エアモビリティの周辺に存在する着陸可能地点、前記エアモビリティが着陸可能な幹線道路の位置情報、および前記地上の人流情報に基づいて、前記エアモビリティの飛行ルートを決定することを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項7】
請求項2に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
前記地上交通制御部105は、前記エアモビリティの緊急時の着陸地点として選定された幹線道路にて、前記エアモビリティの前記機体に故障が発生したときに、地上の交通を制限することを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項8】
請求項2に記載のエアモビリティ管制システムにおいて、
前記エアモビリティ制御部は、気象変動により前記エアモビリティの飛行性能が損なわれ、機器が正常に作動しない場合も、前記エアモビリティの前記機体に故障が発生したと判断することを特徴とするエアモビリティ管制システム。
【請求項9】
エアモビリティの航空管制を行い、前記エアモビリティの飛行ルートと緊急時の着陸地点を選定し、
地上の交通に対して、前記エアモビリティの前記飛行ルート及び前記緊急時の着陸地点に基づいて、地上交通に対する動作の指示を生成し、
前記動作の指示に基づいて、地上の交通手段に対して制御を行うことを特徴とするエアモビリティ管制方法。
【請求項10】
請求項9に記載のエアモビリティ管制方法において、
前記エアモビリティに最も大きな影響が出る制御性能、前記エアモビリティの正常時における離陸地点、前記エアモビリティの正常時における着陸地点、前記エアモビリティの周辺に存在する着陸可能地点、及び前記エアモビリティが着陸可能な幹線道路の位置情報に基づいて、前記エアモビリティの前記飛行ルートを決定することを特徴とするエアモビリティ管制方法。
【請求項11】
請求項9に記載のエアモビリティ管制方法において、
前記地上交通に対する動作の指示を、前記エアモビリティから直接的、もしくは間接的に、視覚、聴覚、触覚を通じて前記地上交通に通知することを特徴とするエアモビリティ管制方法。
【請求項12】
請求項9に記載のエアモビリティ管制方法において、
前記エアモビリティの機体に最も大きな影響が出る制御性能、前記エアモビリティの正常時における離陸地点、前記エアモビリティの正常時における着陸地点、前記エアモビリティの周辺に存在する着陸可能地点、前記エアモビリティが着陸可能な幹線道路の位置情報、および地上の人流情報に基づいて、前記エアモビリティの飛行ルートを決定することを特徴とするエアモビリティ管制方法。
【請求項13】
請求項9に記載のエアモビリティ管制方法において、
前記エアモビリティの緊急時の着陸地点として選定された幹線道路にて、前記エアモビリティの機体に故障が発生したときに、地上の交通を制限することを特徴とするエアモビリティ管制方法。
【請求項14】
請求項9に記載のエアモビリティ管制方法において、
気象変動により前記エアモビリティの飛行性能が損なわれ、機器が正常に作動しない場合も、前記エアモビリティの機体に故障が発生したと判断することを特徴とするエアモビリティ管制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアモビリティの管制システムおよびエアモビリティ管制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアモビリティは次世代の交通手段として注目されている。エアモビリティが飛行中、機体に何らかの異常が発生した場合、即座に地上の安全な地点へ着陸することが求められる。しかし、都市部においてはエアモビリティが着陸可能な地点の確保は、必要とする面積が広いことから難しい。
【0003】
そのため、エアモビリティを都市部上空に飛行させる際の緊急時着陸地点を設定できないことから、都市部上空を飛行させるルートを選定できないという問題がある。このため、都市部においてどのように緊急時の着陸可能地点を設定するかという点がエアモビリティの社会実装への課題となっている。
【0004】
エアモビリティの緊急時着陸可能地点を設定するための技術として、予め決められた着陸候補地点を常に確保するものが挙げられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エアモビリティの緊急時着陸地点を都市部に確保するためには、エアモビリティの機体に発生する異常に応じて設定される飛行制御性能で安全に着陸可能かつ、人や物などの障害物が存在しない領域を、エアモビリティの飛行ルート沿いに設定する必要がある。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の技術においては、既存の離着陸場や空き地、公園の広場など、予め障害物が存在しない広い空間のみが緊急時の着陸可能地点として設定されている。
【0008】
特に、エアモビリティの大きな需要が見込まれる都市部においては、このような障害物が存在しない広い空間は都市開発の対象になりやすく、既存の都市部においてエアモビリティの緊急時着陸地点を設定することは難しい。
【0009】
このため、エアモビリティの機体に異常が発生した緊急時において、着陸可能地点を動的に確保する手段を提供することが課題となる。
【0010】
本発明の目的は、エアモビリティの飛行中に、機体に異常が発生した緊急時に、速やかに緊急着陸を行うことができるエアモビリティ管制システムおよびエアモビリティ管制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成される。
【0012】
エアモビリティ管制システムは、エアモビリティの飛行制御を行うエアモビリティ制御部と、前記エアモビリティの航空管制を行い、前記エアモビリティ制御部から得られる情報に基づいて、飛行ルートと緊急時の着陸地点を選定する航空管制部と、地上の交通に対して、前記エアモビリティの前記飛行ルート及び前記緊急時の着陸地点に基づいて、地上交通に対する動作の指示を生成する地上交通管制部と、前記地上交通管制部からの指示に基づいて、地上の交通手段に対して制御を行う地上交通制御部と、前記航空管制部と前記地上交通管制部との間で情報の相互通信を行う航空管制・地上交通管制間インターフェースと、を備える。
【0013】
また、エアモビリティ管制方法は、エアモビリティの航空管制を行い、前記エアモビリティの飛行ルートと緊急時の着陸地点を選定し、地上の交通に対して、前記エアモビリティの前記飛行ルート及び前記緊急時の着陸地点に基づいて、地上交通に対する動作の指示を生成し、前記動作の指示に基づいて、地上の交通手段に対して制御を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飛行中に、異常が発生した場合に着陸する適切な領域の設定、飛行ルートの設定、地上交通の規制について動的に確保し、速やかに緊急着陸を行うことができるエアモビリティ管制システムおよびエアモビリティ管制方法を提供することができる。
これによって、都市に多く存在する幹線道路の上空においてエアモビリティが飛行可能になるため、エアモビリティの普及を促進することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1におけるエアモビリティ管制システムの構成図である
【
図2】本発明の実施例1におけるエアモビリティ運用システムにおける航空管制・地上交通管制間インターフェースのフロー図である
【
図3】着陸地点に必要な形状の求め方の例を示す図である。
【
図4】エアモビリティの飛行ルート選定手法の例を示す図である。
【
図5】地上の交通に対する通行止めの通知方法の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2におけるエアモビリティ運用システムの構成図である。
【
図7】本発明の実施例2におけるエアモビリティ飛行ルートの決定フローである。
【
図8】本発明の実施例2におけるエアモビリティの飛行ルート選定手法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例1~3について、図面を用いて説明する。実施例1にて言及された符号の意味は、同義として他の実施例の説明にも援用する。
【実施例0017】
(実施例1)
実施例1では、エアモビリティの飛行ルートを緊急時着陸地点が確保可能な道路上に設定する。エアモビリティの機体に何らかの異常が発生した場合、道路上の一部の区域に予め設定された緊急着陸地点に着陸、もしくは目的地に着陸する。
【0018】
緊急着陸地点に地上の人や車といった交通手段による障害物が入らないよう、機体から地上の交通手段に対して直接的もしくは間接的に交通の指示を常に出すことを特徴とする。
【0019】
図1は、実施例1におけるエアモビリティ管制システム100のシステム構成図である。
【0020】
図1において、エアモビリティ管制システム100は、エアモビリティ106(
図4に示す)の機体に存在するエアモビリティ制御部101と、エアモビリティ106に対して飛行ルートなどの指示を行う航空管制部102と、エアモビリティ106の航空管制と、徒歩や自動車などの地上交通手段に対して指示を行う地上交通管制部104と、航空管制部102システムと地上交通管制部104の間で情報をやり取りするためのインターフェースである航空管制・地上交通管制間インターフェース103と、地上航空管制部102からの指示を基に、地上の交通手段に対して制御を行う地上交通制御部105と、からなる。
【0021】
エアモビリティ制御部101の構成例として、エアモビリティ106の機体に搭載された制御用コンピュータが挙げられる。
【0022】
エアモビリティ制御部101は、エアモビリティ106の飛行制御を行う。また、エアモビリティ制御部101は、エアモビリティ106の機体の故障発生状態とそのときのエアモビリティ106の制御性能と、エアモビリティ106の故障において機体の制御性能に最も大きな影響が出る際の機体の制御性能と、を航空管制部102、地上交通管制部104および地上交通通制御部105と共有可能なように相互に通信することができる。
【0023】
航空管制部102の構成例として、地上に設置された管制用コンピュータが挙げられる。
【0024】
航空管制部102は、エアモビリティ106の航空管制を行い、エアモビリティ制御部106から得られる情報を基に、飛行ルートと緊急時の着陸地点を選定する。そして、選定した飛行ルートおよび緊急時の着陸地点を、エアモビティ制御部101、地上交通管制部104および地上交通制御部105と共有可能なように相互に通信することができる。
【0025】
航空管制・地上交通管制間インターフェース103の構成例として、航空管制部102と地上交通管制部104の間で共有された領域を持つ共有メモリが挙げられる。
【0026】
地上交通管制部104の構成例として、地上交通と接続され、地上交通に指令を出すことができる管制用コンピュータが挙げられる。
【0027】
地上交通管制部104は、地上の交通に対して、エアモビリティ106の飛行ルート及び緊急時の着陸地点を基に、地上交通に対して動作の指示を生成する。生成した動作の指示は、エアモビティ制御部101、航空管制部102および地上交通制御部105と共有可能なように相互に通信することができる。
【0028】
地上交通制御部105の構成例として、実際の地上交通に指令を出すスピーカー、信号機器などの情報提示機器と、情報提示機器の制御を行うコンピュータが挙げられる。
【0029】
地上交通制御部105は、エアモビリティ106に故障が発生したことを相互通信により共有することができる。
【0030】
図2は、実施例1におけるエアモビリティ飛行ルートの決定フローである。
【0031】
図2において、まず、航空管制部102において、エアモビリティ制御部101から得られるエアモビリティ106の正常時における離陸地点と正常時における着陸地点の情報を基に、2点間を線分で結ぶ処理201を行う。
【0032】
次に、航空管制部102において、処理201で求めた線分の周囲に存在する既知の緊急着陸地点をマッピングする処理202を行う。
【0033】
次に、地上交通管制部104が処理201で求めた線分の周囲に存在する着陸可能な幹線道路の情報をマッピングする処理203を行う。そして、地上交通管制部104は、航空管制・地上交通管制間インターフェース103を経由して、航空管制部102にマッピング結果を送信する。
【0034】
次に、航空管制部102において、マッピングした幹線道路上で緊急着陸可能な幹線道路上の領域をマッピングする処理204を行う。
【0035】
最後に、処理205において、航空管制部102は、エアモビリティ106の機体の制御性能に最も大きな影響が出る際の機体の制御性能、エアモビリティ106の正常時における離陸地点、エアモビリティ106の正常時における着陸地点、エアモビリティ106の周辺に存在する着陸可能地点、及びエアモビリティ106が着陸可能な幹線道路の位置情報に基づいて、エアモビリティ106の飛行ルートを決定する。
【0036】
つまり、航空管制部102は、緊急着陸可能な幹線道路上の区間を通り、かつ処理202でマッピングした着陸地点、離陸地点、着陸地点を通るルートについて後述する式(1)を用いて選定する処理205を行う。選定したルートは航空管制部102からエアモビリティ制御部101、及び地上交通制御部105に共有される。
【0037】
実施例1では、エアモビリティ106の飛行時に、一定以上の確率で発生が想定される故障モードのなかで、エアモビリティ106の飛行性能が最も損なわれる故障モード(以下、最大故障モードと記す)においても、安全上十分に着陸可能な緊急着陸地点を常に確保することが特徴である。最大故障モードにおけるエアモビリティ106の飛行性能を数値として、予めエアモビリティ制御部101は保持し、航空管制部102と共有する。
【0038】
航空管制部102では、最大故障モードにおけるエアモビリティ106の飛行性能から、着陸地点を選定する。航空管制部102に飛行性能を共有することで、最大故障モード発生時に着陸が不可能な着陸候補地点に依存しない飛行ルートを選定可能になるため、安全なエアモビリティ106の飛行ルートを設定できる。
【0039】
このとき、安全上十分に着陸可能な緊急着陸地点を定義するためには、必要となる着陸地点の形状を求める必要がある。この着陸地点の形状を最大故障モードにおけるエアモビリティ106の飛行性能から算出する。
【0040】
図3は、着陸地点に必要な形状の求め方の例を示す図である。最大故障モードにおけるエアモビリティ106の飛行性能について、エアモビリティ106がホバリング指令を受け取った際の目標位置から実際の位置の標準偏差(以降、ホバリング時の位置偏差)を用いてもよい。なお、飛行性能を表す方法として他の指標を用いてもよい。
【0041】
エアモビリティ106が緊急着陸を行う際、機体が緊急着陸地点から逸脱することを避けるためには、最大故障モードにおけるエアモビリティ106の飛行性能から十分に余裕を持った着陸地点の領域を持つ必要がある。ホバリング時の位置偏差が正規分布を取ると仮定すると、標準偏差の三倍の値を取った場合、全データの99.7%をカバーできる。これを用いて、ホバリング時の位置偏差の三倍の長さ301を半径とした円302が着陸地点の内部に収まるような形状の着陸可能領域303であれば、最大故障モードが発生した場合において、少なくとも99.7%他の物体に干渉されずに着陸可能と求めることができる。
【0042】
緊急着陸地点に必要な面積を求めた後、緊急着陸地点を確保できる飛行ルートを選定する。エアモビリティ106の初期位置と目的地、周辺の離着陸可能な地点、及び上空を飛行可能であり、緊急着陸を行う際十分な面積を確保できる道路の上空を選定し、これらを結んだ経路をエアモビリティ106の飛行ルートとして選定する。飛行ルート選定における評価関数の例を次式(1)に示す。
【0043】
【0044】
式(1)において、fは評価関数、klengthは飛行ルートに対するゲイン、Lは飛行ルート長、kladingsiteは緊急着陸地点までの距離に対するゲイン、Psは飛行ルート離陸地点、Pgは飛行ルート着陸地点、Dladingsite(x)は最寄りの緊急着陸地点までの距離、xは飛行ルート上の一点(三次元ベクトル)である。
【0045】
このとき、式(1)中のDladingsite(x)は次式(2)のように定義可能である。
【0046】
【0047】
図4は、式(1)を用いたエアモビリティ106の飛行ルート選定手法の例を示す図である。
【0048】
図4において、エアモビリティ106の離陸地点401から着陸地点402までを直線的に結んだルートA403では、緊急着陸地点がルートA403の近辺に存在しないため選定されない。一方、幹線道路404沿いに飛行するルートB405では、幹線道路404を緊急着陸地点として利用できるため、選定される。幹線道路406沿いに飛行するルートC407では、ルートB405と比較してルート長が長くなるため選定されない。
【0049】
エアモビリティ106の飛行ルートを決定した後、エアモビリティ106を決定した飛行ルートに沿って目的地まで飛行させる。このとき、先に選定した道路上空を飛行させる際は、どのタイミングでエアモビリティ106の機体が最大故障モードに陥ったとしても、すぐに着陸可能とするために、エアモビリティ106に異常が発生してない状態においても、少なくともエアモビリティ106の直下は人・車を含むすべての地上の交通を通行止めとする。
【0050】
図5は、地上の交通に対する通行止めの通知方法の例を示す図である。
【0051】
図5において、地上の交通に対する通行止めの通知方法は、エアモビリティ106から音や光などを用いて、機体から地上に対して指示を直接、視覚、聴覚を用いて通知する方法や、地上側の設備・通信装置といった媒体を通じて間接的に、視覚、聴覚、触覚を用いて通知する方法が考えられる。光を用いる例としては、プロジェクトマッピングを使用することが考えられる。
【0052】
図5に示したように、視覚による間接的な方法は、地上の情報媒体(スマートフォンやカーナビ)への情報の通知、地上の看板による通行止めの通知、地上の信号による通行止めの通知、地上の車線の操作(例えば、中央線を夜間と昼間とで変更)等である。
【0053】
また、聴覚による間接的な方法は、地上の街頭スピーカー、地上配置係員、ロボットなどを通じて情報を通知等である。
【0054】
また、触覚による間接的な方法は、車両のハンドルを振動させることによる通知、もしくはハンドル操作に介入して回避を促すことによる通知等である。
【0055】
エアモビリティ106が飛行中、実際に機体に異常が発生した場合、エアモビリティ106の緊急着陸地点を、先のルート上に設定された緊急着陸地点とするか、もしくは目的地とするかの検討を行う。このとき、発生した故障モードが最大故障モードではない場合、エアモビリティ106の飛行性能は、最悪想定よりも良好である。
【0056】
このため、緊急着陸地点に必要な形状が縮小可能であるため、飛行ルート選定時に設定した緊急着陸地点以外においても着陸可能な地点が発生する。よって、新たに発生した着陸可能な地点を加味し、緊急着陸地点を選定する。現在位置に最も近い緊急着陸地点が目的地よりも遠い場合は、目的地まで飛行を行う。
【0057】
なお、エアモビリティ106は気象変動を検知することが可能であり、気象変動によりエアモビリティ106の飛行性能が損なわれ、機器が正常に作動しない場合においても、エアモビリティ106の機体に故障が発生したとエアモビリティ制御部101が判断し、航空管制部102、地上交通管制部104、および地上交通制御部105が動作して、緊急着陸地点、及び飛行ルートを選定し、交通規制を行うことができる。
【0058】
上述したように、本発明の実施例1は、エアモビリティ106の飛行ルートの近隣の幹線道路に、着陸可能な領域を設定し、飛行中に、異常が発生した場合に着陸する適切な領域の設定、飛行ルートの設定、地上交通の規制について動的に確保するように構成されている。
【0059】
このため、本発明の実施例1によれば、エアモビリティ106の飛行中に、機体に異常が発生した緊急時に、速やかに緊急着陸を行うことができるエアモビリティ管制システムおよびエアモビリティ管制方法を提供することができる。
【0060】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0061】
実施例2のエアモビリティ管制システムは、実施例1に加えて地上の人流状況を飛行ルートの選定に考慮する点が異なる。これにより、実施例1と比較してより人流の少ない地域の上空をルートとして選定することが可能となるため、エアモビリティ106の飛行による地上への影響を抑えることができる。
【0062】
図6は、実施例2におけるエアモビリティ管制システム100Aのシステム構成図である。
図1に示した実施例1との差異は、航空管制・信号管制間インターフェース103に対し、地上の人流情報を追加する地上人流情報保存部601を追加する部分である。
【0063】
地上人流情報保存部601で保持される人流情報は、各種情報機器の位置情報や街頭のカメラ画像などから算出したリアルタイムデータを用いても良いし、過去のデータを統計的に処理したデータを用いても良い。地上人流情報保存部601の構成例として、ハードディスクやSSDのような情報機器が挙げられる。
【0064】
図7は、実施例2におけるエアモビリティ106の飛行ルートの決定フローである。実施例1と実施例2の差異は、緊急着陸地点を確保できる飛行ルートを選定する際に、飛行ルート直下の人流情報を加味し、エアモビリティ106が飛行する際に直下の人流がなるべく少なくなるようにルート選択を行う部分である。つまり、
図7は、
図2の処理205が処理705となっている。処理205と処理705との相違点は、処理205がルートを、式(1)を用いて選定しているのに対して、処理705はルートを、後述する式(3)を用いて選定している点である。
【0065】
実施例1で既に考慮している、エアモビリティ106の初期位置と目的地、周辺の離着陸可能な地点、及び上空を飛行可能かつ緊急着陸可能な道路情報以外に、人流情報を考慮して飛行ルート選定を行う評価関数の例を次式(3)に示す。
【0066】
【0067】
式(3)において、ktraficは交通量に対するゲイン、Tdensity(x)は飛行ルート上のある一点の直下の交通量である。
【0068】
図8は、式(3)を用いたエアモビリティの飛行ルート選定手法の例である。
図8において、幹線道路404沿いに飛行するルートB405では、幹線道路404の周辺に交通量が多い領域808があるため、評価関数が大きくなる。一方、幹線道路406沿いに飛行するルートC407では、ルートB405と比較してルート長が長くなるものの、幹線道路406の周辺に交通量が少ない領域809があるため、評価関数がルートB405よりも小さくなり、このルートB405が選定される。
【0069】
本発明の実施例2によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、人流の少ない地域の上空をルートとして選定することが可能となるため、エアモビリティ106の飛行による地上への影響を抑えることができるという効果が得られる。
【0070】
なお、実施例1と同様に、実施例2においても、エアモビリティ106は気象変動を検知することが可能であり、気象変動によりエアモビリティ106の飛行性能が損なわれる場合においても、同様に緊急着陸地点、及び飛行ルートを選定することができる。
【0071】
(実施例3)
次に、本発明の実施例にについて説明する。
【0072】
上述した実施例1においては、エアモビリティ106の機体が最大故障モードに陥ったとしても、すぐに着陸可能とするために、エアモビリティ106に異常が発生してない状態でも、少なくともエアモビリティ106の直下は人・車を含むすべての地上の交通を通行止めとする。
【0073】
これに対して、実施例3のエアモビリティ管制システムは、エアモビリティ106の機体に異常(故障)が発生するまでは地上の交通に対する制限を極力設けず、異常発生時(故障発生時)に緊急着陸地点を設けられるように地上の交通の回避経路を確保し、地上の交通を制限する点が異なる。
【0074】
これにより、地上の交通に対する交通規制を最小限にとどめることができる。
【0075】
実施例3におけるエアモビリティ管制システムの構成は、実施例1におけるエアモビリティ管制システム100と同様な構成となるので、図示は省略する。
【0076】
実施例1に示した地上交通管制部104および地上交通制御部105の動作が上述した点で実施例1と実施例3とで異なっている。
【0077】
なお、実施例2で追加した人流情報をエアモビリティの飛行ルート選定に加味する手法を実施例3に組み入れてもよい。
【0078】
実施例3では地上の交通への影響を極力抑えるために、地上交通の通行止めを伴わない形でエアモビリティ104の飛行を行う。この際、エアモビリティ106の飛行中に機体に異常が発生し、最寄りの緊急着陸地点としてエアモビリティ106直下の幹線道路が選択される可能性が常に存在する。
【0079】
このため、エアモビリティ106が通過する幹線道路では、常にエアモビリティ106直下の領域から地上交通を回避可能とする必要がある。地上交通への回避経路伝達方法は
図5で示した方法を用いる。
【0080】
エアモビリティ106が幹線道路上空を飛行中、その直下の幹線道路では、エアモビリティ106の機体が最大故障モードに陥った場合に備えて常に緊急着陸地点を確保する。このとき、最大故障モードにおいて必要な緊急着陸地点の形状は
図3で示したものを用いる。
【0081】
ここで、幹線道路上で緊急着陸地点の形状を満たす領域を確保でき、かつ飛行中のエアモビリティ106から最も近い領域を「幹線道路上の最寄り緊急着陸地点」とする。幹線道路上の最寄り緊急着陸地点の領域内においては、実際にその緊急着陸地点がエアモビリティ106からの最寄りの緊急着陸地点である期間内は、常に領域内の交通に対して、緊急着陸地点からの回避経路の提供、もしくは交通の制限を行う。
【0082】
回避経路を提供する場合、幹線道路上の緊急着陸地点の領域内にいる地上交通は、エアモビリティ106が緊急着陸するという情報を受け取った場合、予め受け取っている回避経路に則って、即座に幹線道路上の緊急着陸地点領域内から移動する。回避経路を提供できない、もしくは予め提示された回避経路に沿った移動を実現できない交通に関しては、緊急着陸地点領域内の通行を認めない形での交通制限を行う。
【0083】
実施例3によれば、実施例1と同様な効果が得られる他、地上の交通に対する交通規制を最小限にとどめることができるという効果が得られる。
100、100A・・・エアモビリティ管制システム、101・・・エアモビリティ制御部、102・・・航空管制部、103・・・航空管制・地上交通管制間インターフェース、104・・・地上交通管制部、105・・・地上交通制御部、106・・・エアモビリティ、301・・・機体ホバリング時の位置偏差の三倍の長さ、302・・・301を半径とした円、303・・・着陸可能領域、401・・・離陸地点、402・・・着陸地点、403・・・ルートA、404、406・・・幹線道路、405・・・ルートB、407・・・ルートC、601・・・地上人流情報保存部、808・・・交通量が多い領域、809・・・交通量が少ない領域