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特開2024-168018ブロックポリブタジエンの製造方法、ブロックポリブタジエン、及び、ゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168018
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ブロックポリブタジエンの製造方法、ブロックポリブタジエン、及び、ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/70 20060101AFI20241128BHJP
   C08F 136/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08F4/70
C08F136/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084397
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】山元 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】鹿久保 隆志
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AS02P
4J100CA01
4J100CA12
4J100CA15
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA09
4J100FA19
4J100FA34
4J100FA41
4J100GA06
4J100GC07
4J100GC25
4J100JA29
4J128AA01
4J128AB00
4J128AC47
4J128BA00A
4J128BA01B
4J128BB00A
4J128BB01B
4J128BC25B
4J128CA32B
4J128CB87B
4J128EA02
4J128EB13
4J128EC01
4J128ED06
4J128ED08
4J128EF03
4J128FA02
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物に用いたときに優れた破断強度及び破断伸びを示すポリブタジエン、上記ポリブタジエンの製造方法、及び、上記ポリブタジエンを含有するゴム組成物を提供する。
【解決手段】金属触媒を用いて1,3-ブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックを得る工程Aと、
上記工程Aの後に、重合系にスイッチ化合物及び極性化合物を添加することで、上記ポリブタジエンブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合して、ブロックポリブタジエンを得る、工程Bとを備え、
上記工程A及び上記工程Bの少なくとも一方において、有機アルミニウムを添加する、ブロックポリブタジエンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒を用いて1,3-ブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックを得る工程Aと、
前記工程Aの後に、重合系にスイッチ化合物及び極性化合物を添加することで、前記ポリブタジエンブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合して、ブロックポリブタジエンを得る、工程Bとを備え、
前記工程A及び前記工程Bの少なくとも一方において、有機アルミニウムを添加する、ブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記極性化合物が、アルコール、アミン及び水からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項3】
前記金属触媒又は前記スイッチ化合物に対する、前記極性化合物の割合が、0.001~0.1モル等量である、請求項1に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項4】
前記有機アルミニウムが、トリアルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムハライド及びアルミノキサンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項5】
前記スイッチ化合物が、二硫化炭素及び単座芳香族ホスフィンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項6】
前記金属触媒が、ネオジム、コバルト、及び、チタン、並びに、これらの化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項7】
-70~120℃の温度で行われる、請求項1に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のブロックポリブタジエンの製造方法によって製造された、ブロックポリブタジエン。
【請求項9】
重量平均分子量が、1,000~10,000,000である、請求項8に記載のブロックポリブタジエン。
【請求項10】
分子量分布が、1.5~3.0である、請求項8に記載のブロックポリブタジエン。
【請求項11】
シス-1,4構造の割合が10~90質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が10~90質量%である、請求項8に記載のブロックポリブタジエン。
【請求項12】
請求項8に記載のブロックポリブタジエンを含有する、ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックポリブタジエンの製造方法、ブロックポリブタジエン、及び、ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック及びシンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロックから構成される立体規則性ジブロックポリブタジエンが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6574190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らが特許文献1に記載のジブロックポリブタジエンについて検討したところ、将来的な要求まで考慮した場合、ゴム組成物に用いたときの破断強度や破断伸びのさらなる向上が望ましいことが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、ゴム組成物に用いたときに優れた破断強度及び破断伸びを示すポリブタジエン、上記ポリブタジエンの製造方法、及び、上記ポリブタジエンを含有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、極性化合物を用いた特定の製造方法によって製造されたポリブタジエンを用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 金属触媒を用いて1,3-ブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックを得る工程Aと、
上記工程Aの後に、重合系にスイッチ化合物及び極性化合物を添加することで、上記ポリブタジエンブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合して、ブロックポリブタジエンを得る、工程Bとを備え、
上記工程A及び上記工程Bの少なくとも一方において、有機アルミニウムを添加する、ブロックポリブタジエンの製造方法。
(2) 上記極性化合物が、アルコール、アミン及び水からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(1)に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
(3) 上記1,3-ブタジエンに対する、上記極性化合物の割合が、0.001~3mol%である、上記(1)又は(2)に記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
(4) 上記有機アルミニウムが、トリアルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムハライド及びアルミノキサンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
(5) 上記スイッチ化合物が、二硫化炭素及び単座芳香族ホスフィンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
(6) 上記金属触媒が、ネオジム、コバルト、及び、チタン、並びに、これらの化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
(7) -70~120℃の温度で行われる、上記(1)~(6)のいずれかに記載のブロックポリブタジエンの製造方法。
(8) 上記(1)~(7)のいずれかに記載のブロックポリブタジエンの製造方法によって製造された、ブロックポリブタジエン。
(9) 重量平均分子量が、1,000~10,000,000である、上記(8)に記載のブロックポリブタジエン。
(10) 分子量分布が、1.5~3.0である、上記(8)又は(9)に記載のブロックポリブタジエン。
(11) シス-1,4構造の割合が10~90質量%であり、シンジオタクチック-1,2構造の割合が10~90質量%である、上記(8)~(10)のいずれかに記載のブロックポリブタジエン。
(12) 上記(8)~(11)のいずれかに記載のブロックポリブタジエンを含有する、ゴム組成物。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、ゴム組成物に用いたときに優れた破断強度及び破断伸びを示すポリブタジエン、上記ポリブタジエンの製造方法、及び、上記ポリブタジエンを含有するゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
また、加硫後のゴム組成物について破断強度が大きいことを、破断強度が優れるとも言う。また、加硫後のゴム組成物について破断伸びが大きいことを、破断伸びが優れるとも言う。
【0010】
[1]ブロックポリブタジエンの製造方法
本発明のブロックポリブタジエンの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも言う)は、
金属触媒を用いて1,3-ブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックを得る工程Aと、
上記工程Aの後に、重合系にスイッチ化合物及び極性化合物を添加することで、上記ポリブタジエンブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合して、ブロックポリブタジエンを得る、工程Bとを備え、
上記工程A及び上記工程Bの少なくとも一方において、有機アルミニウムを添加する、ブロックポリブタジエンの製造方法である。
【0011】
本発明の製造方法はこのような構成をとるため、上述した課題を解決するものと考えられる。その理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
本発明の製造方法では、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(以下、「cisブロック」とも言う)を得てから(工程A)、重合系にスイッチ化合物及び極性化合物を添加することで、上記cisブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合する(工程B)。ここで、後述のとおり、スイッチ化合物は、工程Aの金属触媒(特にコバルト系触媒)の金属原子(特にコバルト)に配位することで、シス-1,4構造を得る重合生成を、シンジオタクチック-1,2構造を得る重合生成へと、重合反応を切り変える化合物である。そのため、工程Bでは、工程Aで得られたcisブロックに続けてシンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロック(以下、「synブロック」とも言う)が生成されるものと考えられる。一方で、工程Bではスイッチ化合物に加えて極性化合物を添加するため、スイッチ化合物が徐々に失活して、再度cisブロックが生成するものと考えられる。そのため、本発明の製造方法で得られるブロックポリブタジエンは、cisブロックとsynブロックとのマルチブロックポリブタジエンと推測される。
そして、このようにして得られたブロックポリブタジエンを用いたゴム組成物は、ジブロックポリブタジエンを用いた場合と比較して、剛直なシンジオタクチック-1,2構造のブロックと柔軟なシス-1,4構造のブロックとが交互に(より均質に)存在するものと考えられる。結果として、本発明のブロックポリブタジエンは極めて優れた強靭性(破断強度、破断伸び)を示すものと考えられる。このことは、cisブロックとsynブロックとのジブロックポリブタジエンである比較BR1~2を用いた場合には破断強度及び破断伸びが不十分となることからも推測される。
【0012】
以下、各工程について説明する。
【0013】
[工程A]
工程Aは、金属触媒を用いて1,3-ブタジエンを重合することで、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(cisブロック)を得る工程である。ここで、ブロックとは連鎖を意味する。
【0014】
〔金属触媒〕
【0015】
<具体例>
金属触媒の具体例としては、鉄、ネオジム、コバルト、及び、チタン、並びに、これらの化合物が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、コバルト系触媒(コバルト、コバルト化合物)が好ましい。
コバルト系触媒は、本発明の効果がより優れる理由から、コバルト化合物(特に二塩化コバルト)であることが好ましい。
【0016】
<使用量>
金属触媒の使用量は、本発明の効果がより優れる理由から、1,3-ブタジエンに対して、1~0.0001mol%であることが好ましく、0.1~0.001mol%であることがより好ましい。
【0017】
〔cisブロック〕
cisブロックの重合度は、特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、200~100000であることが好ましく1000~50000であることがより好ましい。
【0018】
[工程B]
工程Bは、上述した工程Aの後に、重合系にスイッチ化合物及び極性化合物を添加することで、工程Aで得られたcisブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合して、ブロックポリブタジエンを得る工程である。
【0019】
〔スイッチ化合物〕
上述のとおり、工程Bでは、工程Aの後に、重合系にスイッチ化合物を添加する。
スイッチ化合物は、工程Aの金属触媒(特にコバルト系触媒)の金属原子(特にコバルト)に配位することで、シス-1,4構造を得る重合生成を、シンジオタクチック-1,2構造を得る重合生成へと、重合反応を切り変える化合物である。
【0020】
<具体例>
スイッチ化合物の具体例としては、二硫化炭素及び単座芳香族ホスフィンが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、単座芳香族ホスフィンが好ましい。
単座芳香族ホスフィンの具体例としては、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、n-プロピルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、シクロヘキシルジフェニルホスフィンが好ましい。
【0021】
<使用量>
スイッチ化合物の使用量は、本発明の効果がより優れる理由から、金属触媒に対して、0.01~4モル等量であることが好ましく、0.1~3モル等量であることがより好ましい。なお、例えば、スイッチ化合物の使用量が金属触媒に対して1モル等量とは、スイッチ化合物の使用量(モル数)と金属触媒のモル数とが同じであることを意味する。
【0022】
〔極性化合物〕
上述のとおり、工程Bでは、工程Aの後に、重合系に極性化合物を添加する。
【0023】
<具体例>
極性化合物は、特に制限されないが、具体例としては、アルコール、アミン及び水等が挙げられる。極性化合物は、本発明の効果がより優れる理由から、水であることが好ましい。
【0024】
<使用量>
極性化合物の使用量は、本発明の効果がより優れる理由から、1,3-ブタジエンに対して、0.001~3mol%であることが好ましく、0.1~2mol%であることがより好ましい。
【0025】
極性化合物の使用量は、本発明の効果がより優れる理由から、金属触媒又はスイッチ化合物に対して、0.0001~1モル等量であることが好ましく、0.001~0.1モル等量であることがより好ましい。
【0026】
〔synブロック〕
工程Bでは、少なくともsynブロックが生成されるものと考えられる。
synブロックの重合度は、特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、200~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0027】
[有機アルミニウム]
本発明の製造方法においては、工程A及び工程Bの少なくとも一方において、有機アルミニウムを添加する。本発明の効果がより優れる理由から、少なくとも工程Aにおいて、有機アルミニウムを添加するのが好ましい。なお、有機アルミニウムは助触媒として機能する。
【0028】
有機アルミニウムの具体例としては、トリアルキルアルミニウム、アルキルアルミニウムハライド、アルミノキサン等が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる理由から、アルミノキサンが好ましい。
【0029】
アルミノキサンは、トリアルキルアルミニウムと水との反応により得られる生成物である。アルミノキサンとしては、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサンなどが例示できる。これらのアルミノキサンは、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。アルミノキサンは、本発明の効果がより優れる理由から、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサンなどのモデファイドメチルアルミノキサン(修飾メチルアルミノキサン)(MMAO)であることが好ましい。
【0030】
<使用量>
有機アルミニウムの使用量は、本発明の効果がより優れる理由から、金属触媒に対して、0.01から100モル等量であることが好ましく、0.1から10モル等量であることがより好ましい。
【0031】
[その他の工程]
本発明の製造方法は、上述した工程以外の工程(その他の工程)を備えていてもよい。
その他の工程としては、例えば、重合停止剤(例えば、メタノール)を添加する重合停止工程、溶媒を乾燥する溶媒除去工程、等が挙げられる。
【0032】
[温度]
本発明の製造方法は、本発明の効果がより優れる理由から、-70℃~120℃の温度で行われるのが好ましい。
【0033】
[2]ブロックポリブタジエン
本発明のブロックポリブタジエンは、上述した本発明の製造方法によって製造されたブロックポリブタジエン(ポリブタジエンブロックを有するポリブタジエン)である。
【0034】
[不可能・非実際的事情]
後述する実施例欄に示されるように、金属触媒を用いた工程Aとスイッチ化合物を用いて工程Bによって製造された比較BR1~2(ジブロックポリブタジエン)と比較して、工程Bでスイッチ化合物に加えて極性化合物を添加した特定BR1~2(本発明のブロックポリブタジエン)は、ゴム組成物に用いたときに、優れた、破断強度及び破断伸びを示す。本発明のブロックポリブタジエンは、比較BR1~2と同様に、工程Aでcisブロックが形成され、工程Bでsynブロックが形成されるものと考えられるが、上述のとおり破断強度及び破断伸びの向上が見られることから、工程Bで極性化合物を添加することで、工程Bでsynブロックに加えてそれ以外の構造も形成されているものと考えられる。
この点、本発明者らは、本発明の製造方法の場合、工程Bでsynブロックに加えてcisブロックも形成されて、マルチブロックポリブタジエンが得られているものと推察するものの、その確証は得られていない。まず、本発明の製造方法は、精密重合によってブロックポリマーを製造するものではないため、製造方法の観点から本発明のブロックポリブタジエンがマルチブロックポリブタジエンであると断言することは難しい。また、ジブロックポリマーとマルチブロックポリマーではポリマーブロック同士の連結部分の個数が異なる(例えば、ジブロックポリマーの場合は1つの連結部分、トリブロックポリマーの場合は2つの連結部分)ものの、構造解析によって連結部分の個数を調べることはおよそ実際的ではない。
そのため、本発明のブロックポリブタジエンは、ブロックポリブタジエンを得るためのプロセスによって初めて特定することが可能なものである。
【0035】
[cis量]
本発明のブロックポリブタジエンにおいて、シス-1,4構造の割合(以下、「cis量」とも言う)は、本発明の効果がより優れる理由から、10~90質量%であることが好ましく、40~85質量%であることがより好ましい。
なお、cis量は、ブロックポリブタジエンの鎖1本あたりのシス-1,4構造を有するブタジエン単位が占める平均の割合である。
【0036】
[syn量]
本発明のブロックポリブタジエンにおいて、シンジオタクチック-1,4構造の割合(以下、「syn量」とも言う)は、本発明の効果がより優れる理由から、10~90質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましい。
なお、syn量は、ブロックポリブタジエンの鎖1本あたりのシンジオタクチック-1,2構造を有するブタジエン単位が占める平均の割合である。シンジオタクチック-1,2構造は少なくとも2つのブタジエン単位からなる。
【0037】
[分子量]
本発明のブロックポリブタジエンの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましく、200,000~1,000,000であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明のブロックポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる理由から、1.5~3.0であることが好ましい。
【0039】
なお、本明細書において重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0040】
[用途]
本発明のブロックポリブタジエンは、例えば、タイヤ、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。特に、タイヤ(特にトレッド)に好適に用いられる。
【0041】
[3]ゴム組成物
本発明のゴム組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う)は、上述した本発明のブロックポリブタジエンを含有するゴム組成物である。
【0042】
[任意成分]
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに他の成分(任意成分)を含有することができる。
上記任意成分としては、例えば、上述した本発明のブロックポリブタジエン以外のゴム成分、充填剤(例えば、シリカ、カーボンブラック)、シランカップリング剤、テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、上述したフェニレンジアミン系老化防止剤以外の老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0043】
[用途]
本発明の組成物の用途は上述した本発明のブロックポリブタジエンと同じである。
【実施例0044】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
[ブロックポリブタジエンの製造]
以下のとおり、各ブロックポリブタジエン(特定BR1、特定BR2、比較BR1、比較BR2)を製造した。
なお、特定BR1及び特定BR2は、上述した工程Aと上述した工程Bとを備える方法によって製造されたブロックポリブタジエンであるため、上述した本発明のブロックポリブタジエンに該当する。一方で、比較BR1及び比較B2は、工程Bで水を添加していないため、上述した本発明のブロックポリブタジエンに該当しない。
【0046】
〔特定BR1〕
【0047】
<工程A>
2ツ口フラスコ(300mL)に0.02gの二塩化コバルト(無水)(金属触媒)を加え、室温下で窒素置換した。次に60mL(50g)の1,3-ブタジエンの15%トルエン溶液(ブタジエンとして約7.5g)及びトルエン溶液中の修飾メチルアルミノキサン(MMAO-3A)5mLを加え、30分間撹拌した。
【0048】
<工程B>
次に、0.02gのシクロヘキシルジフェニルホスフィン(PCyPh)(スイッチ化合物)を10mLの脱水トルエンで希釈した溶液を加えるとともに、極性化合物としてマイクロシリンジで水(金属触媒に対する割合:0.01モル等量)を加え、続けて30分間撹拌することで、工程Aで得られたシス-1,4構造を有するポリブタジエンブロックに続けてさらに1,3-ブタジエンを重合した。
その後、10%の塩酸を含有する5mLのメタノールの添加によりクエンチした。次に、良溶媒にトルエン、貧溶媒にメタノールを用いて2回精製し、60℃で真空乾燥した。このようにして、ブロックポリブタジエンを得た。得られたブロックポリブタジエンを特定BR1とする。
【0049】
特定BR1についてNMR(核磁気共鳴法)スペクトルを測定したところ、cis量は50質量%であり、syn量は50質量%であった。また、特定BR1のMwは、385,000であった。
【0050】
〔特定BR2〕
工程Aの反応時間(撹拌時間)を50分間に変更し、工程Bの反応時間(撹拌時間)を10分間に変更した点以外は、特定BR1と同様の手順に従って、ブロックポリブタジエンを得た。得られたブロックポリブタジエンを特定BR2とする。
【0051】
特定BR2についてNMRスペクトルを測定したところ、cis量は80質量%であり、syn量は20質量%であった。また、特定BR2のMwは、418,000であった。
【0052】
〔比較BR1〕
工程Bで水を添加しなかった点以外は、特定BR1と同様の手順に従って、ブロックポリブタジエンを得た。得られたブロックポリブタジエンを比較BR1とする。
【0053】
比較BR1は、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(cisブロック)と、シンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロック(synブロック)とからなる、ジブロックポリブタジエンである。
【0054】
比較BR1についてNMR(核磁気共鳴法)スペクトルを測定したところ、cis量は50質量%であり、syn量は50質量%であった。また、比較BR1のMwは、340,000であった。
【0055】
〔比較BR2〕
工程Bで水を添加しなかった点以外は、特定BR2と同様の手順に従って、ブロックポリブタジエンを得た。得られたブロックポリブタジエンを比較BR2とする。
【0056】
比較BR2は、シス-1,4構造を有するポリブタジエンブロック(cisブロック)と、シンジオタクチック-1,2構造を有するポリブタジエンブロック(synブロック)とからなる、ジブロックポリブタジエンである。
【0057】
比較BR2についてNMR(核磁気共鳴法)スペクトルを測定したところ、cis量は80質量%であり、syn量は20質量%であった。また、比較BR2の重量平均分子量は、471,000であった。
【0058】
[ゴム組成物の調製]
下記表1の各成分を同表に示す組成(質量部)で混合した。
具体的には、まず、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を1.8Lの密閉型混合機で130℃の条件下で5分間混合し、マスターバッチを放出した。その後、上記マスターバッチに硫黄及び加硫促進剤を加えてオープンロールを用い90℃の条件下で2分間混合して、各ゴム組成物を調製した。
【0059】
[評価]
得られた各ゴム組成物を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、150℃で30分間プレス加硫して、各加硫ゴムシートを作製した。
得られた各加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で破断強度(TB)及び破断伸び(EB)を測定した。
結果を表1に示す。結果は、比較例1を100とする指数で表した。指数が大きい程、破断強度又は破断伸びが大きいことを意味する。実用上、TBは130以上であることが好ましく、EBは110以上であることが好ましい。
【0060】
【表1】
【0061】
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・cisBR:シス-1,4-ポリブタジエン(シス-1,4構造の割合:99質量%以上、シンジオタクチック-1,2構造の割合:1質量%以下)
・synBR:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(シス-1,4構造の割合:5質量%以下、シンジオタクチック-1,2構造の割合:95質量%以上)
・比較BR1~2:上述のとおり製造した比較BR1~2
・特定BR1~2:上述のとおり製造した特定BR1~2
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR(日本油脂社製)
・ZnO:亜鉛華3種(正同化学工業社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
・加硫促進剤(CZ):ノクセラーCZ(大内新興化学工業社製)
【0062】
なお、表1中、「cis量」は、上述したシス-1,4構造の割合(cis量)を表し、「syn量」は、上述したシンジオタクチック-1,2構造の割合(syn量)を表す。
【0063】
表1から分かるように、工程Bで極性化合物を添加せずに製造した比較BR1~2と比較して、工程Bで極性化合物を添加して製造した特定BR1~2は、ゴム組成物に用いたときに、優れた、破断強度及び破断伸びを示した(実施例1~2)。なかでも、cis量が60質量%以上である実施例2は、より優れた、破断強度及び破断伸びを示した。