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  • 特開-再生重油の改質処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168051
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】再生重油の改質処理方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 17/02 20060101AFI20241128BHJP
   C10G 31/10 20060101ALI20241128BHJP
   C10M 175/02 20060101ALI20241128BHJP
   C10N 80/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C10G17/02
C10G31/10
C10M175/02
C10N80:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084444
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】500099618
【氏名又は名称】山建プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】小村 洋司
(72)【発明者】
【氏名】中川 博文
【テーマコード(参考)】
4H104
4H129
【Fターム(参考)】
4H104JA04
4H104JA20
4H129AA02
4H129CA17
4H129DA05
4H129DA10
4H129HA04
4H129HA08
4H129HA16
4H129HB01
4H129NA05
4H129NA09
4H129NA21
4H129NA33
4H129NA35
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】安全で環境負荷が少なく操作性の良い再生重油の品質を上げる方法を提供する。
【解決手段】この発明の方法は、改質処理の対象となる再生重油に炭酸ナトリウム水溶液を加えて混合撹拌する第1の混合撹拌工程)と、混合撹拌によって生成された固体成分及び水分と油成分とを遠心分離する第1の遠心分離工程2と、該遠心分離によって分離回収された油成分に予め加温した又は加温しながらクエン酸水溶液を加えて混合撹拌する第2の混合撹拌工程4と、混合撹拌された処理油を混合撹拌によって生成された固体成分及び水分と油成分とに遠心分離する第2の遠心分離工程5とからなる。
上記各処理工程1,2,4,5において、処理油を予め又は処理中に20℃~90℃に加温するとともに、第2の混合撹拌工程4と第2の遠心分離工程5を2回以上繰り返して行う反復処理工程6を付加することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質処理の対象となる再生重油に炭酸ナトリウム水溶液を加えて混合撹拌する第1の混合撹拌工程(1)と、混合撹拌によって生成された固体成分及び水分と油成分とを遠心分離する第1の遠心分離工程(2)と、該遠心分離によって分離回収された油成分に予め加温した又は加温しながらクエン酸水溶液を加えて混合撹拌する第2の混合撹拌工程(4)と、混合撹拌された処理油を混合撹拌によって生成された固体成分及び水分と油成分とに遠心分離する第2の遠心分離工程(5)とからなる再生重油の改質処理方法。
【請求項2】
上記各処理工程(1),(2),(4),(5)において、処理油を予め又は処理中に20℃~90℃に加温する請求項1に記載の再生重油の改質処理方法。
【請求項3】
各処理工程(1),(2),(4),(5)において、処理油を予め又は処理中に20℃~90℃に加温するとともに、第2の混合撹拌工程(4)と第2の遠心分離工程(5)を2回以上繰り返して行う反復処理工程(6)を付加する請求項1に記載の再生重油の改質処理方法。
【請求項4】
再生処理の再生重油又は再生処理途中の油成分に添加する炭酸ナトリウム水溶液とクエン酸水溶液の濃度を1wt%~45wt%とした請求項1~3のいずれかに記載の再生重油の改質処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は主として市販されている再生重油の品質をグレードアップさせるための再生重油の改質処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエンジンオイル等の潤滑油や油圧作動油等の使用済機械油(廃油)は、再生油としてリサイクルされ、燃料油や再度潤滑油として再利用される(非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、リサイクルされた再生重油には、潤滑油等の添加剤として化学的には、殆どが極性化合物,高分子化合物,高分子極性化合物およびハロゲン, リン(P),硫黄(S)等からなる金属成分が灰分として含まれている。これらの成分は特に燃料油として用いる場合熱効率を低下させることが知られており、一般的な再生重油の灰分は1.0質量%である。
【0004】
このため重油JIS 1種(A重油)の灰分の0.05質量%以下、同3種(C重油)の0.1質量%以下の品質基準に比して、再生重油1.0質量%以下の価値は大幅に低いものと評価されている。
【0005】
これに対し、特許文献1に示す廃油の再生処理方法では、A重油以下の灰分量まで再生処理する旨の方法が公知であるが、再生重油自体を改質するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-134938号公報
【非特許文献1】「再生重油 虎の巻」-簡略版- 平成29年10月 全国オイルリサイクル協同組合発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように従来の一般的な再生重油の灰分は1.0質量%以下あり、重油JIS 1種又は3種に及ばない品質であるため低評価を免れない。
他方、特許文献1の方法によれば、再生処理によって処理重油の灰分をA重油並みに低下させる点では優れているが、処理対象となる廃油自体の灰分を直接A重油並みの品質にしようとするため、処理自体の工程数も多く且つ複雑で全体としてコスト高になるほか、再生処理に硫酸アンモニウムや好ましい薬剤として濃硫酸,塩酸等の強酸剤を使用するため、取扱い上各種の制約を伴うほか処理後の廃棄物の環境に対する負荷が大きくなるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の方法は、第1に改質処理の対象となる再生重油に炭酸ナトリウム水溶液を加えて混合撹拌する第1の混合撹拌工程1と、混合撹拌によって生成された固体成分及び水分と油成分とを遠心分離する第1の遠心分離工程2と、該遠心分離によって分離回収された油成分に予め加温した又は加温しながらクエン酸水溶液を加えて混合撹拌する第2の混合撹拌工程4と、混合撹拌された処理油を混合撹拌によって生成された固体成分及び水分と油成分とに遠心分離する第2の遠心分離工程5とからなることを特徴としている。
【0009】
第2に、上記各処理工程1,2,4,5において、処理油を予め又は処理中に20℃~90℃に加温することを特徴としている。
【0010】
第3に、各処理工程1,2,4,5において、処理油を予め又は処理中に20℃~90℃に加温するとともに、第2の混合撹拌工程4と第2の遠心分離工程5を2回以上繰り返して行う反復処理工程6を付加することを特徴としている。
【0011】
第4に、再生処理の再生重油又は再生処理途中の油成分に添加する炭酸ナトリウム水溶液とクエン酸水溶液の濃度を1wt%~45wt%としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成される本発明によれば、再生重油であるにもかかわらず、JIS重油1種と同等以上の高品質の重油を得ることができるほか、廃棄物も自然界の土壌や水質等に対する環境負荷も小さく且つ処理工程も比較的簡単であるという利点がある。また第2の混合撹拌及び遠心分離工程を必要に応じて反復することにより、処理油の性状に応じて求める品質の再生油を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施形態につき説明する。
図1は本発明の方法を示すフロー図で、使用済潤滑油を一般的な公知の方法により処理した再生重油は予め所定温度(90℃程度)に加熱された状態で、別途調整され90℃程度に加温されたNaCO(炭酸ナトリウム)水溶液を添加混合し、その混合油を上記同様90℃程度の加熱下で混合し、さらに60分程度撹拌する(第1の混合撹拌工程1)。
【0015】
ここで炭酸ナトリウム水溶液を添加するのは、廃油中に含まれる灰分の主たる要素の1つであるP(リン)等を反応させて除去するためである。また上記処理物を加温(加熱)するのは、再生重油の流動性を高めて水溶液との混合を促進し且つ添加剤との反応を活性化するためである。
【0016】
上記撹拌処理された再生重油は、30分程度遠心分離機に掛けて添加剤との反応によって生じた沈殿物(固体成分=灰分)を含む水分と油成分とに分離され(第1の遠心分離工程2)、静置分離による上澄み液(油成分)を回収し、分離水と固体物ゲルは別途回収して最終処分する(回収処分工程3)。
【0017】
他方、第1の遠心分離工程2で採取された上澄み液(油成分)には、予め濃度40%に調整されたクエン酸(C)水溶液を添加して再度上記同様に混合撹拌する(第2の混合撹拌工程4)。この工程でも再生重油は前記同様に予め90℃程度に加熱され、混合撹拌中も加熱は継続される。
【0018】
ここで加熱する目的は前述した場合と同様であり、ここでクエン酸水溶液を添加するのは、混合油を酸性化させると共に再生重油中の灰分内の金属元素 アルミニウム(Al),鉄(Fe),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na),カリウム(K)をクエン酸水溶液との反応による沈殿物の生成(ゲル化)を行わせるためであり、次工程での油成分との分離を実現するためである。
【0019】
この第2の混合撹拌工程4で処理された再生重油は、次工程の遠心分離機による第2の遠心分離工程5で、再生重油に水分と共に含まれる灰分の反応沈殿物(ゲル化成分)と、油成分とに上記同様に遠心分離される。遠心分離された混合液は、分離水及びゲル化と上澄み油とに分離回収され、再度上記処理工程3~5と共通の処理工程に再度各1回掛けられて再処理され(反復処理工程6)、最終的に改質処理された改質再生重油が回収される(再生油回収工程7)。
【0020】
即ち、反復処理工程6では、遠心分離工程5で生じた分離水及びゲル(灰分)(注:これらはいずれも別途回収処分)を除去した上澄み油に、さらにクエン酸水溶液を加えて再度混合撹拌及び遠心分離され、改質再生重油が採取(回収)される。
【0021】
この反復処理工程6でも再生重油の加熱は前記同様に行われる。またこの反復処理は本実施形態では1回のみで目的達成できたが、処理原料油の灰分の含有量その他の条件に応じて2回以上行うことにより、より確実に灰分値0.05%以下の数値が得られる。処理原料油の状態により各1回の混合撹拌と遠心分離のみで足りる場合は、反復処理を省略することも可能である。
【0022】
尚、上記各工程の加温は外気温等にもよるが、処理中の加温以外に予め加温をする方法方に代え両方法を併用してもよい。その他上記実施形態ではクエン酸水溶液等の添加によって生成された油中の固体成分(主として灰分)はゲル化されているが、厳密にゲル化される場合の他、固体成分がコロイド状に液中に分散している場合もあるものと解される。
【0023】
上記使用済油の処理工程において使用した材料及び使用機器その他の条件は次の通りである。
1.使用機器及び使用条件
(1)計量器
新光電子株式会社製電気式計量器
型式:CJ-3200
(2)攪拌機
アズワン株式会社製デジタルホットプレートスターラー
型式:DP-1M
回転数:750rpm
(3)恒温水槽
株式会社いすず製作所製ウォーターバス
型式:MW-14
回転数:750rpm
(4)遠心分離機
久保田製作所製遠心分離機
型式:2410
回転数:4000rpm
遠心力:2500G
2.試料及び条件
(1)処理原料油
使用済自動車用エンジンオイル500ml
加温:90℃(40℃~90℃の範囲で可能)
(2)炭酸ナトリウム水溶液
炭酸ナトリウム100g、水150ml
濃度40%以上(但し、有効作用上は1%以上が望ましく、45%以上の濃度は必ずしも必要ないと認められた。)
(3)クエン酸水溶液
クエン酸100g、水150ml
濃度40%(但し、有効作用上は1%以上が望ましく、45%以上は必ずしも必要ないと認められた。)
(4)その他
最終処理後に回収された再生油 約400ml
【0024】
上記の条件下で島根県下の再生処理業者によって処理された再生重油の単一のサンプルにつき、JIS K2272規定の灰分試験方法に基づく分析結果及びテスト条件を以下に示す。各サンプルにおいてクエン酸濃度が2回示されているのは、第2の混合・撹拌工程と反復処理におけるそれぞれのクエン酸水溶液のクエン酸濃度を示したものである。尚、ここに示す試験は島根県産業技術センターによるものである。
【0025】
<第1回試験>
・添加剤 炭酸ナトリウム(5%)、クエン酸(40%)、クエン酸(20%)
・灰分 処理後:0.018wt%
未処理:0.462wt%
<第2回試験>
・添加剤 炭酸ナトリウム(1%)、クエン酸(40%)、クエン酸(20%)
・灰分 処理後:0.015wt%
未処理:0.462wt%
注)各試験のクエン酸水溶液の濃度が2回示されているのは、前記同様第2の混合・撹拌工程と反復処理工程で使用した添加剤の濃度を示している。
【0026】
以上の第1~第3サンプルの試験結果が示すように、改質処理で用いる添加剤の濃度はかなり広い範囲で適用可能であり、厳格な濃度管理は必ずしも必要ないものと解される。
【0027】
以上のように本発明の処理方法によれば、食品添加物としても使用され又は食品自体にも含まれる環境に対して安全性が確認されている炭酸ナトリウムとクエン酸を処理用添加物として使用することにより、取扱いや環境に対する安全の確保ができる他、処理工程も簡単でコスト的にも効率的にも優位性が期待できるものである。
【符号の説明】
【0028】
1 第1の混合撹拌(処理)工程
2 第1の遠心分離(処理)工程
4 第2の混合撹拌(処理)工程
5 第2の遠心分離(処理)工程
6 反復処理工程
7 改質再生油回収工程
図1