(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168063
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】スタンディングパウチ
(51)【国際特許分類】
B65D 30/10 20060101AFI20241128BHJP
B65D 30/16 20060101ALI20241128BHJP
B65D 77/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B65D30/10 G
B65D30/16 C ZAB
B65D77/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084456
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】武井 寿郎
(72)【発明者】
【氏名】吉永 遼
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 佑美
【テーマコード(参考)】
3E064
3E067
【Fターム(参考)】
3E064AB23
3E064BA26
3E064BA27
3E064BA28
3E064BA30
3E064BA60
3E064BC18
3E064EA07
3E064FA04
3E064GA04
3E064HF09
3E064HF10
3E064HG03
3E064HG07
3E064HM01
3E064HN05
3E067AA03
3E067AB01
3E067AB81
3E067AB99
3E067AC01
3E067BA12A
3E067BB15A
3E067BB16A
3E067BB18A
3E067BB25A
3E067CA07
3E067CA24
3E067EA06
3E067ED06
3E067EE38
3E067EE40
3E067FA01
3E067FB07
3E067FC01
(57)【要約】
【課題】耐落下衝撃性を高めやすい構成を有するスタンディングパウチを提供する。
【解決手段】一対の側面シートと、底面シート13とを備え、一対の側面シートの間に2つ折りにされた底面シートが挟まれた状態で、周縁部が接合されたスタンディングパウチ1は、一対の側面シートどうしが接合された部位である一対のサイドシール21と、側面シートと底面シートとが接合された部位であるボトムシール23とを備える。サイドシールの各々は、それぞれもう一方のサイドシールに向かって突出した突出部25を有する。突出部において、突出量が最大である部位を含む一部は円弧形状であり、かつ円弧形状の曲率半径が25mm以上150mm以下である。サイドシールとボトムシールとの接続部位からスタンディングパウチの上端までの距離Lを1とした場合に、接続部位から突出部の下端までの距離Dがゼロ以上0.1以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の側面シートと、底面シートとを備え、前記一対の側面シートの間に2つ折りにされた前記底面シートが挟まれた状態で、周縁部が接合されたスタンディングパウチであって、
前記一対の側面シートどうしが接合された部位である一対のサイドシールと、
前記側面シートと前記底面シートとが接合された部位であるボトムシールと、
を備え、
前記サイドシールの各々は、それぞれもう一方のサイドシールに向かって突出した突出部を有し、
前記突出部において、突出量が最大である部位を含む一部が円弧形状であり、かつ前記円弧形状の曲率半径が25mm以上150mm以下であり、
前記サイドシールと前記ボトムシールとの接続部位から前記スタンディングパウチの上端までの距離Lを1とした場合に、前記接続部位から前記突出部の下端までの距離Dがゼロ以上0.1以下である、
スタンディングパウチ。
【請求項2】
前記突出部の最大突出量が、1mm以上8mm以下である、
請求項1に記載のスタンディングパウチ。
【請求項3】
前記一対の側面シートおよび前記底面シートは、基材層とシーラント層とを含み、前記基材層および前記シーラント層がポリオレフィン樹脂で形成されている、
請求項1に記載のスタンディングパウチ。
【請求項4】
前記一対の側面シートおよび前記底面シートの厚さが50μm以上300μm以下である、
請求項1に記載のスタンディングパウチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンディングパウチに関する。
【背景技術】
【0002】
液体状の薬剤、洗剤、柔軟剤、および食品などの種々の液体を保存するための容器として、スタンディングパウチが広く用いられている。スタンディングパウチは、液体を収容している状態において自立性を有する。一対の側面シートと、一対の側面シート間にガゼット部を形成するように挟み込まれた底面シートとがヒートシールされることによって、袋状のスタンディングパウチが形成される。スタンディングパウチは、一対の側面シートから形成される胴部を備え、一対の側面シートがヒートシールで接合されることによって形成されたサイドシール部が胴部の左右方向両端に位置している。
【0003】
スタンディングパウチは、製造過程のみならず、搬送、保管、陳列、販売といった経路を経て消費者に購入された後、使用される。このような多くのプロセスの中で、スタンディングパウチに落下等の衝撃が加わる場合があるため、内部の液体が外部に漏れ出さないように、スタンディングパウチには、耐落下衝撃性が求められる。
この問題に関して、特許文献1に記載のスタンディングパウチでは、一対の側面シートと底面シートとが接合されるボトムシール線の形状を工夫することにより、耐落下衝撃性の向上を狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境への負荷を低減するために単一材料(モノマテリアル)で構成される積層体を用いたスタンディングパウチが求められているが、複数の異種材料を用いる従来の積層構成に比べて、耐落下衝撃性が劣る傾向がある。
特許文献1に記載のスタンディングパウチは、耐落下衝撃性の向上効果を有するが、モノマテリアルで構成される場合も考慮すると、さらに耐落下衝撃性を向上できる手法の確立が望まれる。
【0006】
発明者は、上記事情を踏まえ、ボトムシール線の形状とは異なるアプローチでスタンディングパウチの耐落下衝撃性を向上するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、耐落下衝撃性を高めやすい構成を有するスタンディングパウチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一対の側面シートと、底面シートとを備え、一対の側面シートの間に2つ折りにされた底面シートが挟まれた状態で、周縁部が接合されたスタンディングパウチである。
このスタンディングパウチは、一対の側面シートどうしが接合された部位である一対のサイドシールと、側面シートと底面シートとが接合された部位であるボトムシールとを備える。サイドシールの各々は、それぞれもう一方のサイドシールに向かって突出した突出部を有する。
突出部において、突出量が最大である部位を含む一部は円弧形状であり、かつ円弧形状の曲率半径が25mm以上150mm以下である。
サイドシールとボトムシールとの接続部位からスタンディングパウチの上端までの距離Lを1とした場合に、接続部位から突出部の下端までの距離Dがゼロ以上0.1以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐落下衝撃性を高めやすい構成を有するスタンディングパウチを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスタンディングパウチを示す正面図である。
【
図4】(a)および(b)は試験例に用いたシートの物性を示すグラフである。
【
図5】有限要素解析における比較例に係るスタンディングパウチの落下時変形を示す図である。
【
図6】有限要素解析における発明例に係るスタンディングパウチの落下時変形を示す図である。
【
図7】有限要素解析における比較例および発明例に係るスタンディングパウチの落下時変形を示す部分拡大図である。
【
図8】比較例および発明例に係るスタンディングパウチの落下衝撃過程を高速度カメラで撮影した画像である。
【
図9】突出部の曲率半径と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。
【
図10】突出部の位置と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。
【
図11】突出部の最大突出量と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、
図1から
図11を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るスタンディングパウチ1を示す正面図であり、内容物が充填されていない、平坦に近い状態を示している。
図2は、
図1のI-I線における断面図である。
【0012】
スタンディングパウチ1は、
図1および
図2に示すように、一対の側面シート11、12と、底面シート13とを備えて袋状に構成されている。スタンディングパウチ1は、側面シートの下側における側面シート11、12間に2つ折りにされた底面シート13が折り目を上側にして位置する状態で、正面視における周縁がヒートシールにより接合されて形成されており、その基本構造は公知である。
スタンディングパウチ1の下側においては、底面シート13が側面シート11および12とそれぞれ接合されるとともに、底面シート13に設けられた抜き部13aにおいて側面シート11と12とが直接対向し、接合されている。それ以外の部位では、側面シート11と12とが概ね一定幅で接合されており、これによってスタンディングパウチ1の左右方向両側で上下方向に延びる一対のサイドシール21と、スタンディングパウチ1の上端部で左右方向に延びる上部シール22とが形成されている。
通常、スタンディングパウチ1は、上部シール22が形成されていない状態で出荷され、内容物を充填した後に上部シール22が形成されることで、内容物が密封されたスタンディングパウチが完成する。
【0013】
側面シート11、12および底面シート13は、いずれも合成樹脂で形成された積層体であり、少なくとも基材層と、シーラント層とを有する。
基材層およびシーラント層の材料は、リサイクル適性の観点から、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂)が好ましい。ポリエチレン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)が挙げられる。ポリプロピレン樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン及び変性ポリプロピレンが挙げられる。また、無延伸ポリプロピレン(CPP)及び延伸ポリプロピレン(OPP)も用いることができる。ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせてもよい。
【0014】
基材層とシーラント層の組成は、同一であってもよく、異なっていてもよい。基材層とシーラント層は、それぞれ単一の層から構成されていてもよく、複数の層から構成されていてもよい。基材層の厚さは例えば、10μm以上50μm以下であってよい。シーラント層の厚さは、例えば、40μm以上250μm以下であってよい。
側面シート11、12および底面シート13のすべてで同系の樹脂のみを用いることで、スタンディングパウチをモノマテリアル構成とすることができ、リサイクルしやすくすることで環境負荷を低減できる。例えば、ポリエチレンとポリプロピレンはいずれもポリオレフィン樹脂であるため、本明細書においては同系と定義する。
ポリオレフィン樹脂の含有量は、リサイクル適性の観点から、スタンディングパウチ50の全量を基準として、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。90質量%以上であれば、スタンディングパウチ50はモノマテリアル構成であると言える。
【0015】
基材層とシーラント層とを熱処理によりラミネートする方法としては、大きく以下の方法が挙げられる。
(1)接着性樹脂を、あらかじめ製膜した基材層とシーラント層との間に押出し、ラミネートする方法。
(2)シーラント層と接着性樹脂とを共押出しし、基材層とラミネートする方法。
(3)上記(1)もしくは(2)の方法で得られたラミネート基材を、更に熱ロールで加熱・加圧することにより接着させる方法。
(4)上記(1)もしくは(2)の方法で得られたラミネート基材を、更に高温雰囲気下で保管する、あるいは高温雰囲気下の乾燥・焼付け炉を通過させる方法。
【0016】
熱処理によるラミネート方法で用いられる接着性樹脂としては、酸変性ポリオレフィンなどが挙げられる。また、上記の方法では押出ラミネートにより基材層とヒートシール層とを積層しているが、押出ラミネートを行わずに、酸変性ポリオレフィン系コーティング剤(溶解型、分散型)をあらかじめ基材層上に塗工形成した後、ヒートシール層を熱処理により積層させることも可能である。
【0017】
このほか、例えば基材層とシーラント層との間に接着層を備えてもよい。接着層を形成する接着剤は、接着方法に合わせて選定することができるが、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤などを用いることができる。
接着層は、塩素を含まないことが好ましい。接着層が塩素を含まないことで、接着層や樹脂が再溶融時に着色したり、加熱処理によって臭いが発生したりすることを防ぐことができる。また、接着剤に含まれる化合物にはバイオマス材料を使用することが、環境配慮の観点から好ましい。更に、環境配慮の観点から、接着剤は溶剤を含まないものが好ましい。接着剤からなる接着層を備えた構成であっても、スタンディングパウチ50の全量を基準として、同系樹脂の占める割合が90質量%以上であれば、モノマテリアル構成となる。
【0018】
本実施形態に係るシートは、基材層およびシーラント層以外に、バリア層や印刷層等の他の層を有してもよい。これらの層は、例えば基材層とヒートシール層との間に設けてもよく、ヒートシール層において基材層とは反対側の面に設けてもよい。
印刷層を設ける場合、印刷インキには塩素を含まないものを用いることが、印刷層が再溶融時に着色したり、臭いが発生したりすることを防ぐ観点から好ましい。また、印刷インキに含まれる化合物にはバイオマス材料を使用することが、環境配慮の観点から好ましい。
【0019】
左右のサイドシール21は、概ね一定の幅を有するが、
図1に示すように、底面シート13が側面シート11および12とそれぞれ接合されるボトムシール23との境界付近の一部の幅が大きくなっている。これにより、左右のサイドシール21は、それぞれ左右方向端部から遠ざかる方向、すなわち左右方向内側に突出する突出部25を有する。これにより、左右のサイドシール21の各々に設けられた突出部25は、
図1に示されるスタンディングパウチ1の正面視において、もう一方のサイドシールに向かって突出している。
【0020】
図3は、
図1のA部の拡大図である。本実施形態の突出部25は、上端25aから下端25bまでの範囲が円弧状に突出する形状を有し、上端25aおよび下端25bとの間で最も突出している。
【0021】
一般的なスタンディングパウチにおいては、幅が均一で突出部に相当する部位を有さないサイドシールが設けられる。
発明者らは、スタンディングパウチの耐落下衝撃性を向上すべく鋭意検討した。その結果、詳細は試験例も交えて説明するが、所定の態様の突出部を所定の位置に設けることで、耐落下衝撃性を向上できることを見出した。サイドシールに均一でない部位が存在すると、そこに応力が集中することにより破袋しやすくなるというのが一般的な当業者の認識であると考えられるところ、発明者らが見出した上記知見は、当業者にとって予測が著しく困難なものであると言える。
以下、試験例について詳細に説明する。
【0022】
(試験例1)
試験例1では、スタンディングパウチのサイドシールに突出部を設けることの有用性について、有限要素解析により検討した。解析には、有限要素解析ソフト(LS-DYNA R12.1、ANSYS社製)を用いた。
【0023】
この解析においては、スタンディングパウチを四辺形シェル要素としてモデリングした。解析モデルは、まず2次元の平面状態のモデルを作成し、内圧をかけることで底面シートを立体的に展開し、スタンディングパウチ内に収容される液体をALE(Arbitrary Lagrangian and Eulerian)法でモデリングした。スタンディングパウチの幅を200mm、高さを300mmにそれぞれ設定し、底面シートの折り込み高さを50mmとした。したがって、底面シートの折り返し線の交点からスタンディングパウチの上端までの長さLは250mmとなる。なお、このLは、スタンディングパウチの上下方向におけるサイドシールの寸法に等しい。
スタンディングパウチは左右対称形状であるため、計算時間を短縮するために幅方向において半分に分割し、1/2の対称形状として解析した。スタンディングパウチ内に収容される液体は1200mlの水とした。
【0024】
側面シートおよび底面シートは、基材層1(HDPEフィルム、厚さ32μm)、基材層2(HDPEフィルム、厚さ30μm)、およびシーラント層(LLDPEフォルム、厚さ150μm)からなる3層構成のポリエチレンフィルムとした。したがって、試験例1に係るスタンディングパウチは、モノマテリアル構成である。シートの力学特性は引張試験で得られた結果をそのまま用いた。引張試験ではダンベル試験片(JIS K7127 type5に準拠)を作製し、引張試験装置を用いて行った。引張試験装置として、小型卓上試験機(島津製作所社製 EZ-LX)と、接触式伸び計(島津製作所社製 DSES-1000)と用い、試験速度は100mm/minとした。シートをMD方向(製造時の繰り出し及び巻取り方向)に引く引張試験によって得られた公称応力-公称ひずみ曲線の結果を
図4の(a)に、真応力-真ひずみ曲線の結果を
図4の(b)に、それぞれ示す。
図4の結果に基づいて、等方性の弾塑性体とし、ヤング率390MPa、ポアソン比0.35、塑性領域を多直線近似として解析に用いた。
【0025】
解析は、高さ1mから垂直方向にスタンディングパウチを落下する落下試験を想定して行った。具体的には、高さ1.0mから落としたときの床面への衝突速度4.4m/sを初速度として、自立した状態のスタンディングパウチを剛体壁に衝突させる条件で解析した。剛体壁に衝突してから跳ね返るまでの0.020秒間における、サイドシールの内部空間側縁部(内側シール線)に接する要素の中立面の最大主ひずみを出力した。出力した最大主ひずみのうち、すべての時間履歴における最大主ひずみの最大値を採用した。スタンディングパウチを構成するシートは引張応力によって破断が生じるため、最大主ひずみの最大値を低減することにより、落下衝撃によるスタンディングパウチの破袋の抑制が期待できる。
【0026】
上記解析を用いて、突出部を有さない、全範囲にわたり幅が均一なサイドシールを設けた比較例と、突出部を有するサイドシールを設けた発明例とを比較した。発明例の突出部は、円弧状部分の曲率半径が50mmであり、突出部の下端はサイドシールとボトムシールとの接続部分に一致させた。サイドシールにおいて、幅が均一な部位を基準とした突出部の最大突出量は2mmである。
【0027】
図5および
図6に、有限要素解析モデルにより作成されたスタンディングパウチの落下時形状を示す。
図5が比較例、
図6が発明例であり、それぞれ、(1)剛体壁と衝突する直前(0.000秒)、(2)0.005秒後、(3)0.010秒後、(4)0.015秒後、(5)0.020秒後の変形の状態を示している。
【0028】
図7に、0.010秒後の比較例および発明例の部分拡大図を示す。いずれの例においても、落下時の衝撃により、破線で囲まれた、サイドシールとボトムシールの境界周辺に鋭い屈曲が生じているが、発明例においては、屈曲の鋭さが緩和されている。これは、サイドシールに突出部が設けられていることによると考えられる。
【0029】
有限要素解析における最大主ひずみの最大値は、比較例において0.344、発明例において0.242であった。すなわち、比較例の最大主ひずみは、発明例の1.4倍を超えており、突出部を設けることにより、落下時の衝撃を約30%低減できることが示された。
【0030】
図8に、比較例および発明例と同一構成のスタンディングパウチを作製し、実際に落下させて高速度カメラで撮影した写真を示す。いずれの例においても、サイドシールとボトムシールの境界周辺において、
図7に示した有限要素解析と概ね同様の変形が生じていることがわかる。
各例のスタンディングパウチを繰り返し落下させたところ、比較例は5回目で破袋したのに対し、発明例は10回落下させても破袋しなかった。このように、サイドシールに突出部を設けることにより、実際に落下衝撃耐性を向上できることが示された。
【0031】
(試験例2)
続く試験例2では、突出部のより有効な態様について、有限要素解析により検討した。
発明者らは、突出部に関するパラメータのうち、
・円弧状部分の曲率半径R
・サイドシールとボトムシールとの交点と、突出部の下端との、スタンディングパウチの上下方向における距離(
図1に示すD)
・突出部の最大突出量(
図3に示すH)
の3つに着目し、これらを様々に変化させた例を用いて有限要素解析を行った。表1に、解析を行った例の一覧を示す。距離Dについては、スタンディングパウチのサイズを反映させることを考慮して、スタンディングパウチの上下方向におけるサイドシールの寸法Lとの比D/Lを検討パラメータとした。
【0032】
【0033】
図9は、突出部の円弧状部位の曲率半径Rと最大主ひずみとの関係を示すグラフで、表1に示した例の一部をプロットしたものである。このグラフでは、突出部の最大突出量Hを2mmに固定し、突出部の位置を示すD/Lが0および0.1の場合を示しており、横軸に曲率半径Rを、縦軸に有限要素解析で得られた最大主ひずみの値を示している。
【0034】
図9に示すように、いずれのD/Lにおいても、曲率半径Rが25mm以上150mm以下である場合に、比較例に対して最大主ひずみの値を十分に低減できていることがわかる。
図9には、比較例の最大主ひずみの値3.44を併せて示している。
曲率半径Rが25mm未満の場合は、曲率半径が小さいために落下衝撃時に突出部の形状に沿って生じる変形が鋭利な屈曲になってしまうことで最大主ひずみの値が大きくなっていると考えられた。一方、曲率半径Rが150mmよりも大きい場合は、落下衝撃時に突出部に沿った変形が発現せず、サイドシールとボトムシールの境界の交点近傍で鋭利な屈曲が生じることで最大主ひずみの値が大きくなっていると考えられた。
【0035】
図10は、突出部の位置を示すD/Lと最大主ひずみとの関係を示すグラフで、
図9と同様の手順で作成している。このグラフでは、突出部の最大突出量Hを2mmに固定し、曲率半径Rが25mmおよび150mmの場合を示しており、横軸にD/Lを、縦軸に最大主ひずみの値を示している。
【0036】
図10に示すように、いずれの曲率半径Rにおいても、D/Lがゼロ以上0.1以下である場合に、比較例に対して最大主ひずみの値を十分に低減できていることがわかる。
一方、D/Lが0.1よりも大きい場合は、いずれの曲率半径Rにおいても最大主ひずみの値が比較例より大きくなった。これは、落下衝撃時に突出部に沿った変形が発現せず、サイドシールとボトムシールの境界の交点近傍で鋭利な屈曲が生じることが一因と考えられた。
【0037】
図11は、突出部の最大突出量Hと最大主ひずみとの関係を示すグラフで、
図9および
図10と同様の手順で作成している。このグラフでは、曲率半径Rを25mm、D/Lをゼロに、それぞれ固定しており、横軸に最大突出量Hを、縦軸に最大主ひずみの値を示している。
【0038】
図11に示すように、最大突出量Hが1mm以上10mm以下である場合に、比較例に対して最大主ひずみの値を十分に低減できていることがわかる。
図11においては、最大突出量Hが上記範囲を外れることによる最大主ひずみの値の増加傾向は認められなかったものの、最大突出量Hが8mmを超えると、スタンディングパウチの自立状態において、サイドシールが突出部付近で折れ曲がる現象が起きやすくなった。したがって、落下衝撃耐性の観点からは、突出部の最大突出量Hの値に上限や下限は存在しないが、陳列時の良好な外観等の観点からは、最大突出量Hが上記範囲内であると、自立状態での陳列において、サイドシールに折れやくびれが生じないため、好ましいと言える。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【0040】
例えば、突出部は必ずしも全体が円弧状である必要はなく、一部が直線状であったり、円弧でない曲線状であったりしてもよい。
【0041】
本発明に係るスタンディングパウチは、様々なものの容器として利用でき、充填される内容物は、流体および固体のいずれでもよい。流体の場合、例えば高粘度液体であってもよく、密度が0.9~1.1g/cm3または粘度1~10000mPa・s程度であってもよい。内容物の量は制限されるものではないが、350ml以上であるとより効果的であり、1000~1200mlであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 スタンディングパウチ
11、12 側面シート
13 底面シート
21 サイドシール
23 ボトムシール
25 突出部
25a 突出部の上端
25b 突出部の下端
D (サイドシールとボトムシールとの接続部位と、突出部の下端との)距離
H (突出部の)最大突出量
L (サイドシールとボトムシールとの接続部位からスタンディングパウチの上端までの)距離