(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168069
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】エネルギー需要予測装置、学習装置、エネルギー需要量予測方法、学習方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20241128BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20241128BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20241128BHJP
【FI】
H02J3/00 130
G06Q10/04
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084464
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】太田 望
(72)【発明者】
【氏名】村上 宏次
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 冴恵子
(72)【発明者】
【氏名】甘粕 裕明
【テーマコード(参考)】
5G066
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AE01
5G066AE09
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】エネルギー需要の予測精度を向上させる。
【解決手段】対象エリアに対する人流を表す人流情報と前記対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習することにより、前記対象エリアのエネルギー需要量を予測する学習済みモデルに、前記対象エリアに対する将来の人流を予測した人流予測情報を入力することにより、前記将来における前記対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測する予測部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象エリアに対する人流を表す人流情報と前記対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習することにより、前記対象エリアのエネルギー需要量を予測する学習済みモデルに、前記対象エリアに対する将来の人流を予測した人流予測情報を入力することにより、前記将来における前記対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測する予測部
を有するエネルギー需要予測装置。
【請求項2】
前記対象エリアは建物であり、
前記予測部は、前記建物に対する人流を予測した人流予測情報を前記学習済みモデルに入力することにより、前記将来における前記建物内におけるエネルギー需要量を予測する
請求項1に記載のエネルギー需要予測装置。
【請求項3】
前記人流情報および前記人流予測情報は、それぞれ、前記対象エリアに人が入る位置と、前記対象エリアから人が出る位置とを含み、
前記学習済みモデルは、前記対象エリアに対して入る位置と出る位置とを含む人流情報と前記対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習しており、
前記予測部は、前記学習済みモデルに、前記対象エリアに人が入る位置と前記対象エリアから人が出る位置とを含む人流予測情報を入力することにより、前記エネルギー需要量を予測する
請求項1に記載のエネルギー需要予測装置。
【請求項4】
対象エリアに対する人流を表す人流情報を取得する人流情報取得部と、
前記対象エリアのエネルギー需要量を取得するエネルギー需要量取得部と、
前記人流情報と前記エネルギー需要量とを用いて機械学習を実行することにより、エネルギー需要量を予測する学習済みモデルを生成する学習部と
を有する学習装置。
【請求項5】
コンピュータに、
対象エリアに対する人流を表す人流情報と前記対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習することにより、前記対象エリアのエネルギー需要量を予測する学習済みモデルに、前記対象エリアに対する将来の人流を予測した人流予測情報を入力することにより、前記将来における前記対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測する予測ステップ
を実行させるエネルギー需要量予測方法。
【請求項6】
コンピュータに、
対象エリアに対する人流を表す人流情報を取得する人流情報取得ステップ、
前記対象エリアのエネルギー需要量を取得するエネルギー需要量取得ステップ、
前記人流情報と前記エネルギー需要量とを用いて機械学習を実行することにより、エネルギー需要量を予測する学習済みモデルを生成する学習ステップ
を実行させる学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー需要予測装置、学習装置、エネルギー需要量予測方法、学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や建物群のエネルギーマネジメントでは、エネルギー需要の予測が重要である。この予測には、天気や曜日などを中心とした情報が使用されている。この場合、電力需要は±5%程度、熱需要は±10~20%程度の誤差の範囲となるような精度で予測することができる。
ここで、エネルギーが電力である場合、電力需要を予測する装置がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エネルギー需要予測の大きな要因である施設の利用状況を曜日から予測する方法では、曜日だけでは利用人数が予測しづらい施設用途(不規則なイベント開催の多い施設など)の場合や、施設用途が複合化することで施設間の人の行き来も発生する場合には、エネルギー需要の予測精度が低下する場合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、エネルギー需要の予測精度を向上させることができるエネルギー需要予測装置、学習装置、エネルギー需要量予測方法、学習方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、対象エリアに対する人流を表す人流情報と前記対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習することにより、前記対象エリアのエネルギー需要量を予測する学習済みモデルに、前記対象エリアに対する将来の人流を予測した人流予測情報を入力することにより、前記将来における前記対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測する予測部を有するエネルギー需要予測装置である。
【0007】
また、本発明の一態様は、対象エリアに対する人流を表す人流情報を取得する人流情報取得部と、前記対象エリアのエネルギー需要量を取得するエネルギー需要量取得部と、前記人流情報と前記エネルギー需要量とを用いて機械学習を実行することにより、エネルギー需要量を予測する学習済みモデルを生成する学習部とを有する学習装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、コンピュータに、対象エリアに対する人流を表す人流情報と前記対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習することにより、前記対象エリアのエネルギー需要量を予測する学習済みモデルに、前記対象エリアに対する将来の人流を予測した人流予測情報を入力することにより、前記将来における前記対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測する予測ステップを実行させるエネルギー需要量予測方法である。
【0009】
また、本発明の一態様は、コンピュータに、対象エリアに対する人流を表す人流情報を取得する人流情報取得ステップ、前記対象エリアのエネルギー需要量を取得するエネルギー需要量取得ステップ、前記人流情報と前記エネルギー需要量とを用いて機械学習を実行することにより、エネルギー需要量を予測する学習済みモデルを生成する学習ステップを実行させる学習方法である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、この発明によれば、エネルギー需要の予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エネルギー需要予測システムSの構成を表す概略構成図である。
【
図2】学習フェーズにおけるエネルギー需要予測装置10の動作を説明するフローチャートである。
【
図3】実行フェーズにおけるエネルギー需要予測装置10の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】学習済みモデルについて説明する説明図である。
【
図5】対象エリアにおける人流予測情報の一例を示す図である。
【
図6】対象エリアに存在する建物毎の人流予測情報の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態によるエネルギー需要予測システムSについて図面を参照して説明する。
図1は、エネルギー需要予測システムSの構成を表す概略構成図である。
エネルギー需要予測システムSは、エネルギー需要予測装置10と、人流予測装置20と、端末装置30とがネットワークNWを介して通信可能に接続される。
【0013】
エネルギー需要予測装置10は、通信部101、記憶部102、人流情報取得部103、エネルギー需要量取得部104、学習部105、予測部106、制御部107を有する。
通信部101は、ネットワークNWを介して人流予測装置20、端末装置30と通信を行い、各種データの送受信を行う。
【0014】
記憶部102は、各種データを記憶する。
例えば、記憶部102は、人流情報とエネルギー需要量とを記憶する。
人流情報は、対象エリア内にいる人数を時刻毎に表した情報である。人流情報は、対象エリア内を通過する人と、対象エリア内に滞留する人とを含んでいてもよい。この人流情報は、対象エリアに対する人流を計測した実績値である。この実績値は、人流センサ等によって測定された測定結果であってもよいし、人流を人手によって計測することで得られた値であってもよい。
対象エリアには、対象エリアに入るまたは出ることの少なくともいずれか一方が可能な出入口が少なくとも1つ設けられる。対象エリアの出入口が2つ以上ある場合には、対象エリアに存在する人数について、いずれの出入口から入った人であるかをさらに分類した人数であってもよい。また、対象エリアの出入口が2つ以上ある場合、人流情報は、対象エリアに存在する人数について、いずれの出入口から入り、いずれの出口から出た人数が何人であるかを表すようにしてもよい。
【0015】
対象エリアは、地域であってもよいし、地域の中にある建物であってもよい。対象エリアが地域である場合、出入口は、対象エリアに接する道路、通路等であってもよい。対象エリアが建物である場合、出入口は、玄関、裏口、通路等であってもよい。また、対象エリアが駅である場合には、駅の北口、南口、西口、東口等であってもよい。
【0016】
エネルギー需要量は、対象エリアにおいて利用されるエネルギーの量を表す。この実施形態において、エネルギーは、地域冷暖房であり地域に対して供給する熱と電気(電力)とを含む場合を一例として説明するが、熱と電気(電力)のいずれか一方であってもよい。
記憶部102に記憶されるエネルギー需要量は、過去の実績値である。
【0017】
記憶部102は、記憶媒体、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、RAM(Random Access read/write Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。
この記憶部102は、例えば、不揮発性メモリを用いることができる。
【0018】
人流情報取得部103は、記憶部102に記憶された人流情報を読み出すことで取得する。
【0019】
エネルギー需要量取得部104は、記憶部102から対象エリアのエネルギー需要量を取得する。エネルギー需要量取得部104は、記憶部102にエネルギー需要量が記憶されている場合には、記憶部102からエネルギー需要量を取得する。
【0020】
学習部105は、人流情報とエネルギー需要量とを用いて機械学習を実行することにより、将来におけるエネルギー需要量を予測したエネルギー需要予測量を得る学習済みモデルを生成する。
人流情報および前記人流予測情報は、それぞれ、対象エリアに人が入る位置(出入口の位置)と、対象エリアから人が出る位置(出入口の位置)とを含んでいてもよい。この場合、学習部105は、対象エリアに対して入る位置と出る位置とを含む人流情報と対象エリアの将来のエネルギー需要量との関係を学習した学習済みモデルを生成するようにしてもよい。
また、学習部105は、対象エリアが複数ある場合には、異なる対象エリアのそれぞれについて、異なる学習済みモデルを生成するようにしてもよい。
【0021】
機械学習としての手法は、例えば、重回帰分析や、カルマンフィルター、ニューラルネットワーク(ディープラーニング)、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン等のいずれであってもよいが、例えば、ニューラルネットワーク(ディープラーニング)が用いられる。
【0022】
予測部106は、対象エリアに対する人流を表す人流情報と対象エリアのエネルギー需要量との関係を学習することにより対象エリアのエネルギー需要量を予測する学習済みモデルに、対象エリアに対する将来の人流を予測した人流予測情報を入力することにより、将来における対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測する。
【0023】
予測部106は、学習済みモデルに、対象エリアに人が入る位置と対象エリアから人が出る位置とを含む人流予測情報を入力することにより、エネルギー需要量を予測するようしてもよい。
【0024】
制御部107は、エネルギー需要予測装置10の各部を制御する。
【0025】
エネルギー需要予測装置10の通信部101、人流情報取得部103、エネルギー需要量取得部104、学習部105、予測部106、制御部107は、例えばCPU(中央処理装置)等の処理装置若しくは専用の電子回路で構成されてよい。
【0026】
人流予測装置20は、過去の人流情報を用いて人流をシミュレーションすることによって、対象エリアにおける未来の滞在者数や通行する人数を予測する。人流予測のための過去の人流情報は、携帯・通信会社や、関連会社等から提供されているため、このような人流情報を活用するようにしてもよい。
人流予測装置20がシミュレーションをする場合、AI予測モデルを作成し、当該AI予測モデルを用いて人流を予測するようにしてもよい。
人流予測(人流シミュレーション)の機能は、既に提供されているシステムを用いるようにしてもよい。
【0027】
端末装置30は、人流予測をする指示情報をエネルギー需要予測装置10に対して送信することにより、その指示情報に応じた人流予測をした結果を取得する。指示情報は、例えば、人流予測をする対象の対象エリアと、時間帯を指定する情報が含まれる。
【0028】
次に、上述したエネルギー需要予測装置10の動作を説明する。エネルギー需要予測装置10の動作は、大きく分けて学習フェーズと実行フェーズとがある。
《学習フェーズ》
図2は、学習フェーズにおけるエネルギー需要予測装置10の動作を説明するフローチャートである。
エネルギー需要予測装置10の人流情報取得部103は、対象エリアの人流情報を記憶部102から読み出す(ステップS101)。また、エネルギー需要量取得部104は、指示情報に応じた対象エリアのエネルギー需要量を記憶部102から読み出す(ステップS102)。
学習部105は、人流情報とエネルギー需要量とを用いて機械学習を実行することにより、将来におけるエネルギー需要量を予測したエネルギー需要予測量を得る学習済みモデルを生成する(ステップS103)。学習部105は、生成された学習済みもモデルを記憶部102に、いずれの対象エリアに用いることが可能な学習済みモデルであるかを示す対象エリア識別情報に関連付けて記憶する(ステップS104)。
このような学習は、対象エリア毎に行うようにしてもよい。
【0029】
《実行フェーズ》
図3は、実行フェーズにおけるエネルギー需要予測装置10の動作を説明するフローチャートである。
エネルギー需要予測装置10の制御部107は、端末装置30から送信される指示情報を取得し(ステップS201)、指示情報に含まれる対象エリアを抽出し、抽出された対象エリアに応じた学習済みモデルを記憶部102から読み出すことで特定する(ステップS202)。
【0030】
次に、予測部106は、指示情報に含まれる時間帯を抽出し、抽出された時間帯に含まれる時刻毎の人流を予測した人流予測情報を人流予測装置20から取得する(ステップS203)。ここでは、予測部106は、人流予測装置20に対象エリアを、時間帯を示す情報を取得することで、対象エリアにおける時間帯に含まれる時刻毎の人流予測情報を得ることができる。
【0031】
予測部106は、対象エリアにおける人流予測情報を取得すると、特定された学習済みモデルに入力することで、対象エリアにおけるエネルギー需要量を予測したエネルギー需要量予測量を得る(ステップS204)。
制御部107は、得られたエネルギー需要量予測量を、指示情報の送信元の端末装置30に送信する(ステップS205)。
【0032】
上述した実施形態によれば、人流予測情報を学習済みモデルに入力することで、エネルギー需要予測量を得ることができる。例えば、都市のデジタルツインなどにより、建物又は建物群の周辺のエリアを対象エリアとし、その対象エリアの人流予測情報を、エネルギー需要予測モデル(学習済みモデル)のインプットパラメータに使用することで、対象エリア内のエネルギー予測を高精度で予測することも可能となる。
【0033】
エネルギー需要予測モデルにはDNN(ディープニューラルネットワーク)などの機械学習モデルを用いることができる。また、長期間(例えば1~2週間)の人流予測情報を人流予測装置20から取得することで、長期間のエネルギー需要予測の精度の向上も可能となる。
【0034】
図4は、学習済みモデルについて説明する説明図である。学習済みモデルは、入力層、中間層、出力層を含み、入力層の入力項目(インプットパラメータ)として入力される入力データと、出力層から出力される出力データの関係について、中間層における重み計数を更新することにより学習する。入力層に入力されるインプットパラメータは、少なくとも人流情報を含む。インプットパラメータにはその他に、交通アクセス、イベント、天候、時間帯、曜日、季節、日射量、気温などをパラメータとして活用するようにしてもよい。
【0035】
また、上述した実施形態におけるエネルギー需要予測装置10によるエネルギー需要予測は、活用方法の1つとして、地域冷暖房のエネルギーマネジメントシステムに組み込むことで、より高い効果を発揮する。
例えば、近年、日本において太陽光発電などの変動性再生可能エネルギー(以下、VRE)は急増しており、地域電力の需給バランスが崩れる時間帯が増える場合がある。その一つの対策として、地域に熱と電気を供給する地域冷暖房に、上述の数日間分の規模の蓄エネ設備や大型のコージェネレーションシステム(以下、CGS)を備えることが有効である。例えば、エネルギー需要予測装置10が、上述のエネルギー需要予測装置10を用いて、人流予測情報に応じたエネルギー需要予測量を取得し、取得されたエネルギー需要予測量と、地域のVREを予測したVRE予測量との差を求め、VREが余剰気味となる将来の時間帯を特定し、VREが余剰となる時間帯に蓄エネをしておき、電力需要がひっ迫する時間帯に消費したり、CGSを稼働させることで、系統電力の平準化に寄与することができる。
【0036】
また、このような人流予測情報を用いて予測されたエネルギー需要予測量を、予測当日や予測する日の翌日だけではなく、週単位のように長期間を見据えて運転制御をするようにしてもよい。これにより、精度の高いエネルギー需要予測を活かすことができる。特に、アリーナ、大型展示場、商業施設、ホテルなど、曜日に係わらずに不規則に生じるイベント開催、イベント時の極端なエリアの人口変動、ある施設に来訪した人が他施設を利用するといった複雑な人流の発生などが生じる場合であっても、時間単位での人の増減・移動が施設のエネルギー消費傾向に大きく影響を与えることになるため、人流予測をパラメータに含め、エネルギー需要予測をすることが有効である。
【0037】
ここでは、対象エリア内である地域あるいは建物において利用人数(人流)が増えると、人が利用するコンピュータ、電子機器、電気設備、照明などの消費電力が大きくなり、また、人流の増大に伴って空調が処理する必要がある熱負荷(人の発熱、人が利用するコンピュータ、電子機器、電気設備、照明からの発熱)が増えるため、空調エネルギーも増大し、人流が減少すると、熱負荷も低下する。このように、人流とエネルギー需要量との間においては、対象エリアにおける利用人数と、エネルギー需要量との間には、相関関係があると言える。
【0038】
ここで対象エリアが地域である場合と建物である場合において、大きく2つの形態がある。
《対象エリアが地域である場合》
指示情報に含まれる時間帯における時々刻々のエリアへの人の出入りの人流が予測できる場合には、対象エリアである地域への出入りに対する人流予測をエネルギー需要予測に活用することができる。
ここでは、地域に入る人数と出る人数との人流予測から求めた対象エリア内の合計人数を求め、この合計人数を対象エリア全体のエネルギー需要予測に活用することで、地域内(敷地内等)の総エネルギー消費を予測することが可能となる。
図5は、対象エリアにおける人流予測情報の一例を示す図である。
図5において、横軸は時刻であり、縦軸は人数である。このように、人流予測情報には、時々刻々のエリアへの人の出入りの人流(人数)を予測できる場合には、その時刻に応じた人流予測情報を学習済みモデルに入力することで、対象エリアの当該時刻におけるエネルギー需要予測量を得ることができる。すなわち、対象エリアにおけるエネルギー需要予測量を時刻毎に得ることができる。
【0039】
《対象エリアが建物である場合》
指示情報に含まれる時間帯における時々刻々の建物への人の出入りの人流が予測できる場合には、対象エリアである建物毎の人流予測をエネルギー需要予測に活用することができる。
ここでは、建物毎の人流予測から求めた建物利用人数を活用することで、建物・施設毎のエネルギー消費を予測することが可能となる。これにより、建物・施設毎のエネルギー需要予測を積算することで、建物・施設内の総エネルギー消費の予測精度を向上させることができる。
図6は、対象エリアに存在する建物毎の人流予測情報の一例を示す図である。
図6において、横軸は時刻であり、縦軸は人数である。この例において、人流予測情報には、対象エリアに存在する複数の建物毎の時々刻々の人の出入りの人流(人数)が時刻毎に得られており、この人流予測情報を各建物に応じた学習済みモデルに入力することで、建物毎の当該時刻におけるエネルギー需要予測量を得ることができる。すなわち、各建物におけるエネルギー需要予測量を時刻毎に得ることができる。
この図において、符号Aに示す時間帯Aにおいては、スタジアムにおいて大型イベントが開催されており、複数の建物のうち、スタジアムの人流が最も多くなっている。また、符号Aに示す時間帯の少し前の時間帯Bでは、複数の建物のうち、商業施設における人流が多くなっており、これは、日中において商業施設に滞在した後、スタジアムに移動してイベントに参加していると推定することができる。そのため、日中では商業施設におけるエネルギー需要予測量が多く、その後、商業施設におけるエネルギー需要予測量が減少し、スタジアムのエネルギー需要予測量が多くなることが予測される。
【0040】
また、上述した実施形態におけるエネルギー需要予測装置10によって予測されたエネルギー需要予測量を、地域冷暖房の設備の統合マネジメントに用いるようにしてもよい。例えば、近年VPPを構築して複数の地域冷暖房の設備を統合マネジメントし、電力融通や節電調整・制御を行うという構想がある。統合マネジメントして大きなメリットが出るのは大規模な蓄エネ設備やCGSが備えられている場合があるが、そのエネルギー需要予測については、必ずしも十分は検討がなされていない。そこで、上述のエネルギー需要予測装置10を用いることで、各地域冷暖房の設備を統合マネジメントするマネジメントシステムにおいてそれぞれの地域冷暖房設備毎に適用し、長期エネルギー需要予測を行うことで、複数の地域冷暖房における統合マネジメントの最適制御も可能となる。
すなわち、対象エリア内の合計人数をエリア全体のエネルギー需要予測に活用することで、例えば、地域冷暖房のメインプラントの設備(蓄エネ設備やCGSなど)の運転制御に活かすこともできる。
また、対象エリアが建物である場合、1つの建物だけではなく、対象エリア内に存在するいくつかの建物について、建物毎の人流予測から求めた建物利用人数を建物毎のエネルギー需要予測に活用することで、建物毎のエネルギー需要予測を積算して、地域冷暖房全体(メインプラント)のエネルギー需要予測精度を向上させることができる。また、サブプラントの制御や2次側設備の制御に活かすこともできる。
【0041】
また、上述した実施形態において、対象エリアへの人流に基づいてエネルギー需要予測量を求める場合について説明したが、学習済みモデルを生成するにあたり、対象エリアに入る位置、対象エリアから出る位置についても、人流とともにインプットパラメータとして用いて、エネルギー需要の傾向を学習し、学習済みモデルを生成するようにしてもよい。これにより、対象エリアに出入りする人の位置も考慮してエネルギー需要予測量を得ることができる。
【0042】
また、以上説明した実施形態によれば、建物又は建物群、又は地域冷暖房のエネルギー需要予測の精度向上をすることができるため、電力会社など供給側のエネルギー(電力)の平準化、及び省エネ運転による温室効果ガス排出削減などをすることもできる。
特に、対象エリアが、アリーナ、大型展示場、商業施設、ホテルなど、不規則なイベント開催、イベント時の極端なエリアの人口変動、ある施設に来訪した人が他施設を利用するといった複雑な人流の発生などが生じるエリアである場合、本実施形態のエネルギー需要予測装置10を用いない場合に比べて、エネルギー需要予測の予測精度の向上度合いが大きい。
また、蓄エネ設備やCGSなどの創エネと組み合わせた場合に、BCP対策だけでなく、ピークカット、シフト運転が長期間(週単位)で可能となる。
【0043】
また、上述した実施形態において、学習部105は、エネルギー需要予測装置10に設けられる場合について説明したが、エネルギー需要予測装置10の外部に学習装置として設けるようにしてもよい。このとき、学習装置には、人流情報取得部103、エネルギー需要量取得部104を設けるようにし、エネルギー需要予測装置10の記憶部102から各種情報を得るようにしてもよい。
また、人流情報とエネルギー需要量は、記憶部102に記憶される場合について説明したが、エネルギー需要予測装置10の外部の記憶装置に記憶されてもよい。
なお、エネルギー需要予測装置10の各機能が異なる装置に設けられ、これらがネットワーク等を介して通信可能に接続された、いわゆるクラウドシステムとして構成されてもよい。
【0044】
また、上述した実施形態によれば、端末装置30から指示情報を送信し、エネルギー需要予測装置10からエネルギー需要予測量を得るようにしたが、この端末装置30の機能を他のシステムに搭載するようにしてもよい。例えば、端末装置30の機能を、各地域冷暖房の設備を統合マネジメントするマネジメントシステムに搭載するようにしてもよい。これにより、マネジメントシステムのような、エネルギー需要予測量を用いて各種情報処理を行うシステムとエネルギー需要予測装置10とを連携させることができる。
【0045】
上述した実施形態におけるエネルギー需要予測装置10をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0046】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0047】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係るエネルギー需要予測装置10は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0048】
10…エネルギー需要予測装置、20…人流予測装置、30…端末装置、101…通信部、102…記憶部、103…人流情報取得部、104…エネルギー需要量取得部、105…学習部、106…予測部、107…制御部