(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168077
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】有機物含有水の処理方法及び有機物含有水の処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20241128BHJP
【FI】
C02F3/12 D
C02F3/12 A
C02F3/12 M
C02F3/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084477
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 太一
(72)【発明者】
【氏名】油井 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】石井 拳人
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028AC03
4D028BB02
4D028BB06
4D028CA04
4D028CB01
4D028CC02
4D028CD00
(57)【要約】
【課題】リン源の添加量を最適化すること、及びBOD除去率の低下を抑制することを可能とする有機物含有水の処理方法を提供する。
【解決手段】有機物含有水の処理方法は、反応槽において、有機物含有水を好気条件で生物処理する生物処理工程と、前記有機物含有水にリン源を添加するリン源添加工程と、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度を0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御する制御工程と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽において、有機物含有水を好気条件で生物処理する生物処理工程と
前記有機物含有水にリン源を添加するリン源添加工程と、
前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御する制御工程と、を有することを特徴とする有機物含有水の処理方法。
【請求項2】
前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の30%以上、70%以下の範囲で設定されることを特徴とする請求項1に記載の有機物含有水の処理方法。
【請求項3】
前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の50%であることを特徴とする請求項1に記載の有機物含有水の処理方法。
【請求項4】
前記反応槽は、直列2段以上の反応槽から構成され、
前記制御工程では、前記直列2段以上の反応槽のうちの少なくとも1つの反応槽において、前記BOD容積負荷が、前記所定値を超える時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記BOD容積負荷が、前記所定値以下の時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加する前記リン源の添加量を制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の有機物含有水の処理方法。
【請求項5】
前記予め設定された所定値は、2kg/m3/dayであることを特徴とする請求項1に記載の有機物含有水の処理方法。
【請求項6】
有機物含有水を好気条件で生物処理する反応槽と、
前記有機物含有水にリン源を添加するリン源添加装置と、
前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御する制御装置と、を有することを特徴とする有機物含有水の処理装置。
【請求項7】
前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の30%以上、70%以下の範囲で設定されることを特徴とする請求項6に記載の有機物含有水の処理装置。
【請求項8】
前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の50%であることを特徴とする請求項6に記載の有機物含有水の処理装置。
【請求項9】
前記反応槽は、直列2段以上の反応槽から構成され、
前記制御装置は、前記直列2段以上の反応槽のうちの少なくとも1つの反応槽において、前記BOD容積負荷が、前記所定値を超える時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記BOD容積負荷が、前記所定値以下の時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加する前記リン源の添加量を制御することを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の有機物含有水の処理装置。
【請求項10】
前記予め設定された所定値は、2kg/m3/dayであることを特徴とする請求項6に記載の有機物含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機物含有水の処理方法及び有機物含有水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物含有水の処理としては、好気条件下で生物処理を行う方法が一般的に用いられている。生物処理では、微生物の増殖、有機物の分解を促進する等の点で、有機物含有水にリン源が添加される場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、反応槽において、好気条件で有機性排水を生物処理する方法において、前記反応槽内の溶解性リン濃度を0.5mg/L以下に維持し、且つ前記反応槽内の溶解性窒素濃度を3mg/L以上に維持して、生物処理を行うことが開示されている。特許文献1によれば、反応槽内の溶解性リン濃度を0.5mg/L以下にすることで、余剰汚泥の発生量を抑え、BOD除去速度の大幅な低下を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、有機物含有水に添加するリン源の添加量を少なくすることで、反応槽内の溶解性リン濃度を低下させて、余剰汚泥の発生量を抑えることができるが、反応槽のBOD容積負荷が高くなった際には、BOD除去率が低下する場合がある。一方、有機物含有水に添加するリン源の添加量を多くすれば、BOD除去率の低下は抑制できるが、反応槽のBOD容積負荷が低い場合には、リン源の添加量は過剰な状態となる。
【0006】
そこで、本開示の目的は、リン源の添加量を最適化すること、及びBOD除去率の低下を抑制することを可能とする有機物含有水の処理方法及び処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における有機物含有水の処理方法は、反応槽において、有機物含有水を好気条件で生物処理する生物処理工程と、前記有機物含有水にリン源を添加するリン源添加工程と、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度を0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御する制御工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記有機物含有水の処理方法において、前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の30%以上、70%以下の範囲で設定されることが好ましい。
【0009】
また、前記有機物含有水の処理方法において、前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の50%であることが好ましい。
【0010】
また、前記有機物含有水の処理方法において、前記反応槽は、直列2段以上の反応槽から構成され、前記制御工程では、前記直列2段以上の反応槽のうちの少なくとも1つの反応槽において、前記BOD容積負荷が、前記所定値を超える時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記BOD容積負荷が、前記所定値以下の時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加する前記リン源の添加量を制御することが好ましい。
【0011】
また、前記有機物含有水の処理方法において、前記予め設定された所定値は、2kg/m3/dayであることが好ましい。
【0012】
また、本開示に係る有機物含有水の処理装置は、有機物含有水を好気条件で生物処理する反応槽と、前記有機物含有水にリン源を添加するリン源添加装置と、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記反応槽のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、前記反応槽内の溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御する制御装置と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記有機物含有水の処理装置において、前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の30%以上、70%以下の範囲で設定されることが好ましい。
【0014】
また、前記有機物含有水の処理装置において、前記予め設定された所定値は、前記反応槽の最大許容BOD容積負荷の50%であることが好ましい。
【0015】
また、前記有機物含有水の処理装置において、前記反応槽は、直列2段以上の反応槽から構成され、前記制御装置は、前記直列2段以上の反応槽のうちの少なくとも1つの反応槽において、前記BOD容積負荷が、前記所定値を超える時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、また、前記BOD容積負荷が、前記所定値以下の時には、前記溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、前記有機物含有水に添加する前記リン源の添加量を制御することが好ましい。
【0016】
また、前記有機物含有水の処理装置において、前記予め設定された所定値は、2kg/m3/dayであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、リン源の添加量を最適化すること、及びBOD除去率の低下を抑制することを可能とする有機物含有水の処理方法及び処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る有機物含有水の処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る有機物含有水の処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本開示を実施する一例であって、本開示は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る有機物含有水の処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図1に示す処理装置1は、原水槽10、反応槽12、処理水槽14、制御装置16、原水ポンプ18、検出器20a,20b、流入ライン22、処理水ライン24を備える。また、
図1に示す処理装置1は、窒素源添加装置、リン源添加装置、凝集剤供給装置を備える。
図1に示す窒素源添加装置は、塩化アンモニウム等の窒素源を収容する窒素源タンク26、窒素源添加ライン28、及び窒素源添加ライン28に設置される窒素源添加ポンプ30を備える。
図1に示すリン源添加装置は、リン酸等のリン源を収容するリン源タンク32、リン源添加ライン34、及びリン源添加ライン34に設置されるリン源添加ポンプ36を備える。
図1に示す凝集剤供給装置は、PACや塩化鉄等の凝集剤を収容する凝集剤タンク38、凝集剤添加ライン40、および凝集剤添加ライン40に設置される凝集剤添加ポンプ42を備える。
【0021】
原水槽10には凝集剤添加ライン40の一端が接続され、凝集剤タンク38には凝集剤添加ライン40の他端が接続されている。原水槽10の原水出口には流入ライン22の一端が接続され、反応槽12の入口には流入ライン22の他端が接続されている。流入ライン22には原水ポンプ18が設置されている。また、流入ライン22には窒素源添加ライン28の一端が接続され、窒素源タンク26には窒素源添加ライン28の他端が接続されている。また、流入ライン22には、リン源添加ライン34の一端が接続され、リン源タンク32にはリン源添加ライン34の他端が接続されている。反応槽12の出口には処理水ライン24の一端が接続され、処理水槽14の入口には処理水ライン24の他端が接続されている。
【0022】
反応槽12内には、微生物を保持した担体44が充填されている。担体44は、特に限定されるものではないが、例えば、プラスチック製担体、スポンジ状担体、ゲル状担体等が挙げられる。
【0023】
反応槽12内の底部には、曝気装置46が設置されている。曝気装置46には、例えば、不図示のブロアが接続され、ブロアから供給される空気が、曝気装置46から反応槽12内に供給される。
【0024】
反応槽12には、検出器20a,20bが設置されている。検出器20aは、反応槽12内の溶解性窒素濃度を検出する装置である。また、検出器20bは、反応槽12内の溶解性リン濃度を検出する装置である。検出器20a,20bは、処理水槽14又は処理水ライン24に設置されてもよい。そして、検出器20a,20bにより測定された処理水の溶解性窒素濃度や溶解性リン濃度を反応槽12内の溶解性窒素濃度や溶解性リン濃度としてもよい。なお、溶解性窒素は、槽内の水に溶解した窒素や窒素化合物であり、例えば、窒素源添加装置から供給された窒素源由来の窒素、排水中に当初から含まれていたアンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素等である。また、溶解性リンは、槽内の水に溶解したリンやリン化合物であり、例えば、リン源添加装置から供給されたリン源由来のリン、排水中に当初から含まれていたリン化合物等である。
【0025】
制御装置16は、例えば、各ポンプ及び各検出器と有線又は無線で電気的に接続されている。制御装置16は、例えば、プログラムを演算するCPU、プログラムや演算結果を記憶するROMおよびRAMから構成されるマイクロコンピュータと電子回路等で構成され、ROM等に記憶された所定のプログラムを読み出し、当該プログラムを実行して、処理装置1の動作を制御する。例えば、制御装置16は、原水ポンプ18、窒素源添加ポンプ30、リン源添加ポンプ36、凝集剤添加ポンプ42の稼働・停止を制御する。
【0026】
次に、
図1に示す処理装置1の動作について説明する。
【0027】
制御装置16により、原水ポンプ18が稼働されると、原水槽10内の有機物含有水が流入ライン22を通り、反応槽12に供給される。そして、曝気装置46から空気が反応槽12に供給され、好気条件で、反応槽12内で有機物含有水が、担体44に付着した微生物等により生物処理される(生物処理工程)。反応槽12で処理された処理水は、処理水ライン24を通り処理水槽14に供給される。
【0028】
また、
図1に示す処理装置1では、制御装置16により、リン源添加ポンプ36が稼働される。これにより、リン源タンク32内のリン源が、リン源添加ライン34から、流入ライン22を通る有機物含有水に添加される。なお、リン源添加ライン34を反応槽12に接続して、リン源を反応槽12に添加するように構成してもよい。有機物含有水中のリンは、反応槽12内の微生物の栄養源となり、微生物の増殖、有機物の分解が促進される。なお、有機物含有水中のリンは、微生物の細胞内に取り込まれるため、反応槽12に流入する前の有機物含有水の溶解性リン濃度よりも、反応槽内の溶解性リン濃度の方が低くなる。
【0029】
また、制御装置16は、反応槽12のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、反応槽12内の溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御し、反応槽12のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、反応槽12内の溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、有機物含有水に添加するリン源の添加量を制御する(制御工程)。具体的には、制御装置16は、反応槽12のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超えると、リン源添加ポンプ36の出力を上げて、有機物含有水に添加されるリン源の添加量を上げて、検出器20bにより測定される溶解性リン濃度を0.1mg/L以上にする。制御装置16は、反応槽12のBOD容積負荷が、予め設定された所定値を超えている間は、検出器20bにより測定される溶解性リン濃度が0.1mg/L以上に維持されるように、リン源の添加を継続する。一方、制御装置16は、反応槽12のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下になると、リン源添加ポンプ36の出力を下げて(或いは稼働を停止して)、有機物含有水に添加されるリン源の添加量を下げて(或いはリン源の添加を停止して)、検出器20bにより測定される溶解性リン濃度を0.1mg/L未満にする。制御装置16は、反応槽12のBOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の間は、検出器20bにより測定される溶解性リン濃度が0.1mg/L未満に維持されるように、リン源の添加量を下げたり添加を停止したりする操作を継続する。反応槽12内の溶解性リン濃度を0.1mg/L未満にしたり0.1mg/L未満を維持したりする際には、制御装置16は、上記リン源の添加量の制御と共に、凝集剤添加ポンプ42を稼働させ、凝集剤タンク38内の凝集剤を凝集剤添加ライン40から原水槽10に添加することが好ましい。凝集剤添加により、有機物含有水の溶解性リン濃度を下げることができるため、例えば、反応槽12に流入する前の有機物含有水の溶解性リン濃度が高い場合でも、反応槽12内の溶解性リン濃度を0.1mg/L未満にしたり0.1mg/L未満を維持したりすることが容易となる。有機物含有水の溶解性リン濃度を低下させる方法は、有機物含有水に凝集剤を添加する方法に限定されず、例えば、処理水槽14内の処理水を原水槽10に供給し、有機物含有水を希釈する方法でもよい。
【0030】
このように、反応槽12のBOD容積負荷が、所定値を超える高負荷の場合には、リン源の添加量を上げて、反応槽12内の溶解性リン濃度を高くすることで、BOD除去速度を高めて、処理水質の悪化を抑える。一方、反応槽12のBOD容積負荷が、所定値未満の低負荷の場合には、反応槽12内の溶解性リン濃度を低くても、処理水質の悪化は抑えられるので、リン源の添加量を抑える。このように、本実施形態によれば、リン源の添加量を最適化し、また、BOD除去率の低下を抑制することができる。
【0031】
反応槽12のBOD容積負荷に対して予め設定される所定値は、例えば、リン源の添加量をより最適化すること、BOD除去率の低下をより抑制すること等の点で、反応槽12の最大許容BOD容積負荷の30%以上、70%以下の範囲で設定されることが好ましく、反応槽12の最大許容BOD容積負荷の50%であることがより好ましい。反応槽12のBOD処理性能にもよるが、具体的な所定値としては、例えば、2kg/m3/dayである。
【0032】
反応槽12のBOD容積負荷は以下の式により算出できる。
BOD容積負荷(kg/m3/day)=原水BOD濃度(kg/m3)×原水流入量(m3/day)/反応槽容量(m3)
ここで、原水流入量は、流入ライン22を流れる有機物含有水の流量であり、流入ライン22に設置した流量計により測定できる。原水BOD濃度は、反応槽12に流入する前の有機物含有水のBOD濃度であり、例えば、JIS K0102に規定される方法により測定できる。また、原水BOD濃度は、例えば、流入ライン22に設置したTOC濃度計により測定された原水TOC濃度から推定してもよい。具体的には、TOC濃度に対するBOD濃度を示す検量線等の相関情報を予め準備しておき、流入ライン22に設置したTOC濃度計により測定された原水TOC濃度を上記相関情報に当てはめて、原水BOD濃度を推定する。
【0033】
原水BOD濃度は、例えば、反応槽12内の水から放出される気体中の二酸化炭素濃度と、曝気装置46から反応槽に供給される空気の流量すなわち風量とから推定されてもよい。例えば、反応槽12の気相部に設置した二酸化炭素濃度センサで測定された二酸化炭素濃度と、曝気装置46に空気を供給する配管に設置した風量計で測定された風量との組み合わせを入力値(Xn)とし、入力値(Xn)に対応する原水BOD濃度を出力値(Yn)として、入力値と出力値との組み合わせを事前に一定数取得する。なお、事前に取得する原水BOD濃度は、例えば、原水TOC濃度から推定してもよいし、JIS K0102に規定される方法により測定してもよい。
【0034】
入力値(Xn)と出力値(Yn)との組み合わせの数は、例えば、数十から百セットとする。なお、二酸化炭素濃度と風量の測定値との組み合わせを入力値(Xn)とする代わりに、二酸化炭素濃度の測定値と風量の測定値とを乗算して得られる乗算値を入力値(Xn)としてもよい。また、風量が一定であれば、乗算値の代わりに二酸化炭素濃度の測定値だけを入力値(Xn)として用いてもよい。そして、入力値と出力値との組み合わせから、入力値の入力により、その入力値に対応する出力値を出力するモデルあるいは関係式からなる相関情報を作成する。
【0035】
そして、二酸化炭素濃度センサで測定した二酸化炭素濃度と風量計で測定した風量の測定値との組み合わせを相関情報に入力し、その結果として相関情報から原水BOD濃度を出力する。なお、出力値をBOD濃度としているが、作成される相関情報としては、二酸化炭素濃度と風量とを入力値として、BOD濃度値を明示的に算出することなく、リン源の最適な添加量を出力値としてもよい。
【0036】
入力値が入力されたときに、その入力値に対応する出力値を出力するモデルは、例えば、各種の回帰分析を用いて作成することができる。特に、出力値の精度が向上する点で、ニューラルネットワーク技術を用いて、教師あり学習によってモデルを作成することが好ましい。二酸化炭素濃度センサで得られる二酸化炭素濃度は、反応槽12の構成や大きさ、反応槽12における気相部の大きさ、生物処理の種類などによって変動することもあり、また、曝気装置46から供給される空気の風量も反応槽12の構成や大きさなどによって変化するから、モデルを反応槽12ごとに設定することが望ましい。さらに、有機物含有水の種類あるいは出所によっても、BOD濃度と、二酸化炭素濃度や風量との関係が変動する可能性があるから、有機物含有水の種類や出所ごとにモデルを用意してもよい。そして、用意された複数のモデルの中から適切なモデルを選択してもよい。
【0037】
また、反応槽12の最大許容BOD容積負荷は、以下のようにして求めることができる。まず、実装置を模擬した試験装置に有機物含有水を流入させながら、段階的に流入量を増加させる。有機物含有水の流入量の増加に伴い、BOD除去速度が増加していくが、ある段階で一定値を示すようになる。この時の値が最大BOD除去速度である。そして、本開示では、この最大BOD除去速度を最大許容BOD容積負荷と定義する。BOD除去速度は以下の式により求められる。
BOD除去速度(kg/m3/day)=原水BOD濃度kg/m3×原水流入量(m3/day)/反応槽容量(m3)×BOD除去率(%)
【0038】
また、BOD除去率は以下の式により求められる。
BOD除去率(%)=(原水BOD濃度(mg/L)-処理水BOD濃度(mg/L))/原水BOD濃度(mg/L)×100
【0039】
反応槽12内の溶解性窒素濃度は、例えば、BOD除去速度の低下を抑制する等の点で、3mg/L以上に維持することが好ましく、5mg/L以上に維持することがより好ましい。反応槽12内の溶解性窒素濃度の上限は、例えば、放流基準等を考慮して、20mg/L以下が好ましく、10mg/L以下がより好ましい。
【0040】
図1に示す処理装置1では、制御装置16により、窒素源添加ポンプ30を稼働して、窒素源タンク26内の窒素源を、窒素源添加ライン28から流入ライン22を通る有機物含有水に添加してもよい。この際、制御装置16は、検出器20aにより測定された溶解性窒素濃度に基づいて、溶解性窒素濃度が例えば3mg/L以上に維持されるように、窒素源添加ポンプ30の出力を制御して、窒素源の供給量を制御する。
【0041】
反応槽12内の溶解性リン濃度及び溶解性窒素濃度は、検出器によるオンライン分析が望ましいが、検出器を設置しない場合には、作業者によるマニュアル分析でもよい。また、例えば、検出器20a,20bを原水槽10に設置し、有機物含有水の溶解性リン濃度及び溶解性窒素濃度から、反応槽12内の溶解性リン濃度及び溶解性窒素濃度を推定してもよい。この場合、例えば、予め実験等により、反応槽12に流入する前の有機物含有水の溶解性リン濃度と反応槽12内の溶解性リン濃度の相関を示すマップ、式或いはテーブル等の相関情報を作成し、制御装置16に記憶させる。また、反応槽12に流入する前の有機物含有水の溶解性窒素濃度と反応槽12内の溶解性窒素濃度の相関を示すマップ、式或いはテーブル等の相関情報を作成し、これを制御装置16に記憶させる。そして、制御装置16は、検出器20a,20bにより測定された有機性排水の溶解性リン濃度及び溶解性窒素濃度を上記相関情報に当てはめて、反応槽12内の溶解性リン濃度及び溶解性窒素濃度を推定する。
【0042】
図2は、本実施形態に係る有機物含有水の処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
図2の処理装置2において、
図1の処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図2の処理装置2は、第1反応槽12a及び第2反応槽12bを有する反応槽群を備える。反応槽群は、第1反応槽12aを前段とし、第2反応槽12bを後段として、第1反応槽12a及び第2反応槽12bを直列配置した構成となっている。なお、反応槽群は、反応槽を3段以上に直列配置した構成でもよい。
【0043】
原水槽10の原水出口には流入ライン22aの一端が接続され、第1反応槽12aの入口には流入ライン22aの他端が接続されている。第1反応槽12aの出口には流入ライン22bの一端が接続され、第2反応槽12bの入口には流入ライン22bの他端が接続されている。第2反応槽12bの出口には処理水ライン24の一端が接続され、処理水槽14の入口には処理水ライン24の他端が接続されている。また、流入ライン22aには、窒素源添加ライン28aの一端が接続され、窒素源タンク26aには窒素源添加ライン28aの他端が接続されている。また、流入ライン22aには、リン源添加ライン34aの一端が接続され、リン源タンク32aにはリン源添加ライン34aの他端が接続されている。また、流入ライン22bには、窒素源添加ライン28bの一端が接続され、窒素源タンク26bには窒素源添加ライン28bの他端が接続されている。また、流入ライン22bには、リン源添加ライン34bの一端が接続され、リン源タンク32bにはリン源添加ライン34bの他端が接続されている。
【0044】
次に、
図2に示す処理装置2の動作について説明する。
【0045】
制御装置16により、原水ポンプ18が稼働され、原水槽10内の有機物含有水が流入ライン22aを通り、第1反応槽12aに供給される。そして、曝気装置46から空気が第1反応槽12aに供給され、好気条件で、第1反応槽12a内で有機物含有水が、担体44に付着した微生物等により生物処理される。第1反応槽12aで処理された第1処理水は、流入ライン22bを通り、第2反応槽12bに供給される。そして、曝気装置46から空気が第2反応槽12bに供給され、好気条件で、第2反応槽12b内で第1処理水が、担体44に付着した微生物等により生物処理される。第2反応槽12bで処理された処理水は、処理水ライン24を通り処理水槽14に供給される。
【0046】
また、
図2に示す処理装置2では、制御装置16により、リン源添加ポンプ36a,36bが稼働される。これにより、リン源タンク32a内のリン源が、リン源添加ライン34aから、流入ライン22aを通る有機物含有水に添加され、リン源タンク32b内のリン源が、リン源添加ライン34bから、流入ライン22bを通る第1処理水に添加される。ここで、反応槽が2段以上で構成されている場合、そのうちの少なくとも1つの反応槽において、BOD容積負荷が、予め設定された所定値を超える時には、溶解性リン濃度が0.1mg/L以上となるように、有機物含有水(第1処理水も含む)に添加するリン源の添加量が制御され、また、BOD容積負荷が、予め設定された所定値以下の時には、溶解性リン濃度が0.1mg/L未満となるように、有機物含有水に添加する前記リン源の添加量が制御される。
図2に示す処理装置2では、第1反応槽12a及び第2反応槽12bのうちの少なくとも一方において、上記のようにリン源の添加量が制御されることが好ましい。なお、1段目の反応槽で有機物の大半が除去されて、2段目の反応槽内で除去する有機物は少なくなるため、1段目の反応槽でリン源の添加量が制御されることがより好ましい。
【0047】
図2に示す処理装置2では、制御装置16により、窒素源添加ポンプ30a,30bが稼働され、窒素源タンク26a内の窒素源が、窒素源添加ライン28aから流入ライン22aを通る有機物含有水に添加され、窒素源タンク26b内の窒素源が、窒素源添加ライン28bから流入ライン22bを通る第1処理水に添加されてもよい。また、反応槽12が2段以上で構成されている場合には、そのうちの少なくとも1つの反応槽において、溶解性窒素濃度が例えば3mg/L以上に維持されるように、窒素源の添加量が制御されることが好ましい。
図2に示す処理装置2では、第1反応槽12a及び第2反応槽12bのうちの少なくとも一方において、上記のように窒素源の供給量が制御されることが好ましい。
【0048】
以下、本実施形態の処理装置の運転条件等を説明する。
【0049】
反応槽内のpHは、微生物の育成等の点から、例えば、弱酸性~弱アルカリ性に調整されることが好ましく、pH6~8の範囲に調整されることがより好ましい。
【0050】
反応槽内の溶存酸素濃度は、例えば、0.5 mg/L以上であることが好ましく、1 mg/L以上であることがより好ましい。
【0051】
反応槽の後段には、固液分離装置を設置してもよい。特に、処理水を河川放流する場合には、反応槽の後段に固液分離装置を設置することが好ましい。固液分離装置は、従来公知の装置等であり、例えば、沈澱池、加圧浮上装置、除濁膜装置、MBR等が挙げられる。
【0052】
窒素源としては、窒素化合物であれば特に制限はないが、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、尿素等が挙げられる。工場で発生した余剰の廃硫酸アンモニウム等も適用可能である。
【0053】
リン源としては、リン酸及びリン化合物であれば特に制限はないが、例えば、リン酸二カリウム,リン酸二ナトリウム,リン酸一カリウム,リン酸一ナトリウム,リン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0054】
反応槽には微量元素が添加されてもよい。微量元素は、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、マンガン等が挙げられる。
【0055】
反応槽は、好気条件下で生物処理を行うように構成されていればよいが、BOD除去性能を高めることができる点で、槽内に担体が充填されることが好ましい。担体が充填された反応槽は、担体が流動しない固定床式でもよいし、担体が流動する流動床式でもよい。なお、流動床式は原水のショートパスがおきにくい、メンテナンス性に優れる、導入コストが低い等といったメリットがある。
【0056】
担体は、例えば、プラスチック製担体、スポンジ状担体、ゲル状担体等が挙げられるが、これらの中では、コストや耐久性の点で、スポンジ状担体が好ましい。
【0057】
担体のセル数(細孔の数)は、生物処理の処理速度を向上させる点で、好ましくは30個/25mm以上であり、より好ましくは30個/25mm以上、100個/25mm以下であり、さらに好ましくは40個/25mm以上、100個/25mm以下であり、特に好ましくは46個/25mm以上、100個/25mm以下である。担体のセル数は、例えば、JIS K 65400-1(附属書1)に基づいて求められる。
【0058】
担体の表面積は、生物処理の処理速度を向上させる点で、好ましくは3000m2/m3以上であり、より好ましくは3500m2/m3以上であり、さらに好ましくは4000m2/m3以上であり、特に好ましくは4500m2/m3以上である。担体の表面積の上限は、セル数や担体の大きさ等を考慮して決めればよく、特に制限はない。
【0059】
担体の生物付着量は、生物処理の処理速度を向上させる点で、500mg/L以上であることが好ましく、1000mg/L以上であることがより好ましい。担体の生物付着量は多ければ多い方がよく、特に上限はないが、上限は、例えば、5000mg/Lである。
【0060】
担体の形状は、特に限定されず、立方体状等の四角体状、粒状、球状、ペレット状、円筒状、繊維状、フィルム状等が挙げられる。
【0061】
担体の大きさは、特に限定されず、反応槽の大きさや担体の形状等に応じて、適宜設定されればよく、例えば、立方体状であれば、一辺の長さが3~20mmの範囲が好ましく、球状であれば、径が0.5~20mm程度の範囲が好ましい。担体の大きさは、ノギスまたはマイクロスコープ等を用いて測定することができる。
【0062】
担体の比重は、反応槽内部で流動状態を形成するために、少なくとも1.0より大きく、真比重として、1.1以上、または見かけ比重として、1.01以上のものが好ましい。
【0063】
反応槽への担体の投入量は、反応槽の容積に対して10~70%の範囲が好ましい。担体の投入量が反応槽の容積に対して10%未満であると反応速度が小さくなる場合があり、70%を超えると担体が流動しにくくなり、長期運転において汚泥による閉塞等で原水がショートパスし処理水質が悪くなる場合がある。
【実施例0064】
以下、実施例および比較例を挙げ、本開示をより具体的に詳細に説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
下記に示す試験条件で、単一の反応槽に、イソプロピルアルコール含有排水を通水し、生物処理を行った。
【0066】
<試験条件>
反応槽の容積:19L
担体:疎水性ポリウレタン製のスポンジ状担体
担体充填率:嵩体積として20%充填
滞留時間:6時間
イソプロピルアルコール含有排水:BODは約490mg/L→約1000mg/L、Nは2mg/L以下、Pは0.1mg/L以下
反応槽の最大許容BOD容積負荷:4.0kg/m3/day
反応槽のHRT:5.5hrs
水温:約20℃
槽内DO:2mg/L以上
槽内pH:6.5~8.0
曝気風量:10L/min
【0067】
<比較例>
BOD濃度が約490mg/Lのイソプロピルアルコール含有排水に、尿素とリン酸を添加し、N濃度58mg/L、P濃度11mg/Lにして、反応槽へ流入させ、生物処理を行った。この時、反応槽のBOD容積負荷は、最大許容BOD容積負荷の50%となる2kg/m3/dayであり、また、反応槽内の溶解性窒素濃度は31mg/L、溶解性リン濃度は2.1mg/Lであり、BOD除去率は94%であった。その後、BOD濃度が約1000mg/Lのイソプロピルアルコール含有排水に代えて、当該排水に尿素とリン酸を添加し、N濃度58mg/L、P濃度11mg/Lにして、反応槽へ流入させ、生物処理を行った。この時、反応槽のBOD容積負荷は、最大許容BOD容積負荷となる4kg/m3/dayであり、また、反応槽内の溶解性窒素濃度は29mg/L、溶解性リン濃度は2.8mg/Lであり、BOD除去率は83%であった。
【0068】
<実施例>
BOD濃度が約490mg/Lのイソプロピルアルコール含有排水に、尿素とリン酸を添加し、N濃度29mg/L、P濃度2.4mg/Lとして、反応槽へ流入させ、生物処理を行った。この時、反応槽のBOD容積負荷は、最大許容BOD容積負荷の50%となる2kg/m3/dayであり、また、反応槽内の溶解性窒素濃度は7.7mg/L、溶解性リン濃度は0.005mg/Lであり、BOD除去率は95%であった。その後、BOD濃度が約1000mg/Lのイソプロピルアルコール含有排水に代えて、当該排水に尿素とリン酸を添加し、N濃度61mg/L、P濃度5.8mg/Lとして、反応槽へ流入させ、生物処理を行った。この時、反応槽のBOD容積負荷は、最大許容BOD容積負荷となる4kg/m3/dayであり、また、反応槽内の溶解性窒素濃度は29mg/L、溶解性リン濃度は0.1mg/Lであり、BOD除去率は83%であった。
【0069】
実施例及び比較例はいずれも、BOD濃度が変動しても、高いBOD除去率は維持できたが、実施例の方が、比較例より、リン源の添加量を抑えることができた。したがって、実施例によれば、リン源の添加量を最適化すること、及びBOD除去率の低下を抑制するができたと言える。
1,2 処理装置、10 原水槽、12 反応槽、12a 第1反応槽、12b 第2反応槽、14 処理水槽、16 制御装置、18 原水ポンプ、20a,20b 検出器、22,22a,22b 流入ライン、24 処理水ライン、26,26a,26b 窒素源タンク、28,28a,28b 窒素源添加ライン、30,30a,30b 窒素源添加ポンプ、32,32a,32b リン源タンク、34,34a,34b リン源添加ライン、36,36a,36b リン源添加ポンプ、38 凝集剤タンク、40 凝集剤添加ライン、42 凝集剤添加ポンプ、44 担体、46 曝気装置。