(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168085
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】層状アルミノシリケート、層状アルミノシリケートの製造方法、両親媒性低分子化合物の回収方法、両親媒性低分子化合物の濃縮装置、および両親媒性低分子化合物の濃度の低減方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/26 20060101AFI20241128BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C01B33/26
B01D15/00 Z
B01D15/00 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084490
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】山本 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】馬 卿
【テーマコード(参考)】
4D017
4G073
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017AA06
4D017BA04
4D017CA13
4D017CB01
4D017DA01
4D017EA03
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BB03
4G073BB08
4G073BB40
4G073BB58
4G073BD21
4G073CM30
4G073FB21
4G073FB41
4G073FB42
4G073FC03
4G073FC13
4G073FD01
4G073FD12
4G073FD21
4G073GA03
4G073GA19
4G073UA06
4G073UB40
(57)【要約】
【課題】エタノールなどの両親媒性低分子化合物を選択的に吸着することができる層状アルミノシリケート等を提供する。
【解決手段】ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケート。
下記原料(A)~(D)を含む原料混合物を混合工程と、前記混合物を加水分解して加水分解物とする加水分解工程と、前記加水分解物を加熱してアルミノシリケートを合成する水熱合成工程と、を有する層状アルミノシリケートの製造方法。
原料(A)ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシラン
原料(B)アルミニウム化合物
原料(C)アルカリ金属水酸化物および/または有機四級アンモニウム水酸化物
原料(D)水
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記原料(A)~(D)を含む原料混合物を調製する混合工程と、
前記原料混合物を加水分解して加水分解物とする加水分解工程と、
前記加水分解物を加熱してアルミノシリケートを合成する水熱合成工程と、
を有する層状アルミノシリケートの製造方法。
原料(A)ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシラン
原料(B)アルミニウム化合物
原料(C)アルカリ金属水酸化物および/または有機四級アンモニウム水酸化物
原料(D)水
【請求項2】
前記原料混合物における、前記原料(A):前記原料(B)のアルミニウム元素:前記原料(C):前記原料(D)のモル比が、
1:0.2~0.5:0.5~8:2~40である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料(A)が、ビニルトリメトキシシランであり、
前記原料(B)が、アルミナおよび/または水酸化アルミニウムであり、
前記原料(C)が、水酸化ナトリウムである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加水分解工程が、10~50℃で、24時間以上、撹拌しながら行うものであり、
前記水熱合成工程が、80℃以上で、72時間以上行うものであり、
前記水熱合成工程の後に、前記アルミノシリケートを濾別して乾燥し、前記アルミノシリケートを回収する回収工程を有する、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケート。
【請求項6】
ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、前記処理対象物に含まれる前記両親媒性低分子化合物を、前記層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する両親媒性低分子化合物の濃縮方法。
【請求項7】
前記両親媒性低分子化合物が、アルコール類、および/またはカルボニル化合物である、請求項6に記載の濃縮方法。
【請求項8】
ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを収容した吸着槽を有する、両親媒性低分子化合物の濃縮装置。
【請求項9】
さらに、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物を収容した処理対象物槽と、
前記処理対象物槽から、前記吸着槽に前記処理対象物を送液するための第一の送液ラインと、を有する、請求項8に記載の両親媒性低分子化合物の濃縮装置。
【請求項10】
前記吸着槽から、前記処理対象物槽に、前記処理槽内の液を送液するための第二の送液ラインと、
前記吸着槽から、前記吸着槽の前記層状アルミノシリケートが吸着した、前記両親媒性低分子化合物を濃縮するための濃縮ラインとを有し、
前記処理対象物槽が、バイオエタノールを発酵する発酵槽である、請求項9に記載の濃縮装置。
【請求項11】
ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、前記処理対象物に含まれる前記両親媒性低分子化合物を、前記層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する前記処理対象物の両親媒性低分子化合物の濃度の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状アルミノシリケート、および層状アルミノシリケートの製造方法に関する。また、本発明は、両親媒性低分子化合物の濃縮方法、両親媒性低分子化合物の濃縮装置、および両親媒性低分子化合物の濃度の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーのひとつであるバイオエタノールは、植物由来のバイオマス資源の糖質を発酵させて得られるカーボンニュートラルなエネルギーである。バイオマス資源が入手しやすい東南アジア諸国ではバイオエタノール生産が国策として行われるなど世界各地で実用生産されており、原料の非可食バイオマスへの展開のような研究開発も盛んに行われている。
【0003】
我が国では循環型社会の形成と地域活性化の両面から、例えば山形県新庄市ではコウリャンを、福岡県北九州市では食品廃棄物を用いるなど、地域独自の様々なバイオマス資源を活用した地域分散型のエタノール生産が実証実験として行われたが、それらはみな継続的な生産には至っていない(資源エネルギー庁「バイオエタノールの導入に関するこれまでの取組と最近の動向」)。その原因のひとつは5~10%程度の低濃度で得られる発酵アルコールを99.5%以上の高濃度エタノールに濃縮するプロセスのコストが高いことにある。
【0004】
現在エタノールの濃縮は蒸留により行われているが、蒸留によりエタノール1kgを得るためには6000kJのエネルギーが必要とされており、バイオエタノールから得られるエネルギーの多くを生産時点で消費することになっている。分離膜を使った濃縮方法も提案されているが、膜による分離は低濃度アルコールを昇圧することにより膜の内外の差圧をつくらなければならないため、設備費などの初期導入コストや運転コストが高くなる。
【0005】
エタノールの濃縮は、典型的には蒸留により行われる。蒸留以外による濃縮に関する技術は限られ、例えば次のようなものがある。特許文献1は、糖質原料をエタノール発酵させて得られるエタノール含有発酵液を、活性炭吸着処理工程、次にpH調整工程を経て、シリル化されたシリカライト膜を有するエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離装置中を通過させて高濃度エタノールを製造することを特徴とする高濃度エタノールの製造方法を開示している。
【0006】
また、他の手法として、特許文献2は、原料パルプを糖化発酵槽で発酵させてバイオエタノールを含む発酵液とする糖化発酵工程と、前記糖化発酵工程で得られる発酵液と、発酵に使用される原料パルプとを接触させて、発酵液に含まれる酵素と酵母を発酵液から原料パルプに移行させる酵素と酵母の回収工程と、前記回収工程で酵素と酵母の低減された発酵液を濃縮機に供給し、前記濃縮機でもって発酵液に含まれるバイオエタノールを濃縮する濃縮工程とからなり、前記糖化発酵工程において、酵素と酵母の移行された原料パルプを前記糖化発酵槽に供給して発酵させ、前記濃縮工程において、酵素と酵母の低減された発酵液を前記濃縮機に供給して発酵液に含まれるバイオエタノールを濃縮することを特徴とするバイオエタノールの製造方法を開示している。
【0007】
また非特許文献1は、本発明者らが研究した物質に関する文献である。この文献で、本発明者らは、特異な層間吸着能を持つ層状シリケート物質KCS-11を合成し、この物質が低濃度エタノールからエタノールを選択的に層間吸着できること、吸着したエタノールは大気下で容易に脱離することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-63259号公報
【特許文献2】特開2018-64514号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Materials Letters 288 (2021) 129332
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、分離膜を用いた高濃度バイオエタノールの製造方法を扱っている。しかし、その分離能は限定的である。また、分離膜による濃縮は宿命的に高圧を必要とするため設備費や運転コストが高くなる。
【0011】
特許文献2は、低濃度アルコールを超音波振動によりミスト化することにより濃縮している。しかし、超音波振動させるため濃縮装置は複雑化することに加え、超音波振動により水も同時にミスト化するため、原理的に高い濃度まで濃縮できないと考えられる。
【0012】
また、非特許文献1の材料は、エタノールを層間に吸着するためにはエタノール濃度は10wt%以上でなければならず、使用できる条件が限定的なものだった。
【0013】
蒸留や膜分離のプロセスでは大規模化してスケールメリットを出すことでコスト低減が図られる。しかし、そのためには広く分散して存在するバイオマス資源あるいは各地で生産された低濃度バイオエタノールを輸送・集約する必要がある。このため、大規模化するほど輸送のためのエネルギー消費が増大するというジレンマもある。すなわち、小規模でも運用可能な低コストエタノール濃縮プロセスを開発できれば、バイオエタノール生産を高集約型から地域分散型に転換させることができ、それにより持続的なバイオエタノール生産が実現できることになる。
【0014】
かかる状況下、本発明は、エタノールなどの両親媒性低分子化合物を選択的に吸着することができる層状アルミノシリケート等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0016】
<1> 下記原料(A)~(D)を含む原料混合物を調製する混合工程と、前記原料混合物を加水分解して加水分解物とする加水分解工程と、前記加水分解物を加熱してアルミノシリケートを合成する水熱合成工程と、を有する層状アルミノシリケートの製造方法。
原料(A)ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシラン
原料(B)アルミニウム化合物
原料(C)アルカリ金属水酸化物および/または有機四級アンモニウム水酸化物
原料(D)水
<2> 前記原料混合物における、前記原料(A):前記原料(B)のアルミニウム元素:前記原料(C):前記原料(D)のモル比が、1:0.2~0.5:0.5~8:2~40である、前記<1>に記載の製造方法。
<3> 前記原料(A)が、ビニルトリメトキシシランであり、前記原料(B)が、アルミナおよび/または水酸化アルミニウムであり、前記原料(C)が、水酸化ナトリウムである、前記<1>または<2>に記載の製造方法。
<4> 前記加水分解工程が、10~50℃で、24時間以上、撹拌しながら行うものであり、前記水熱合成工程が、80℃以上で、72時間以上行うものであり、前記水熱合成工程の後に、前記アルミノシリケートを濾別して乾燥し、前記アルミノシリケートを回収する回収工程 を有する、前記<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5> ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケート。
<6> ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、前記処理対象物に含まれる前記両親媒性低分子化合物を、前記層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する両親媒性低分子化合物の濃縮方法。
<7> 前記両親媒性低分子化合物が、アルコール類、および/またはカルボニル化合物である、前記<6>に記載の濃縮方法。
<8> ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを収容した吸着槽を有する、両親媒性低分子化合物の濃縮装置。
<9> さらに、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物を収容した処理対象物槽と、前記処理対象物槽から、前記吸着槽に前記処理対象物を送液するための第一の送液ラインと、を有する、前記<8>に記載の両親媒性低分子化合物の濃縮装置。
<10> 前記吸着槽から、前記処理対象物槽に、前記処理槽内の液を送液するための第二の送液ラインと、前記吸着槽から、前記吸着槽の前記層状アルミノシリケートが吸着した、前記両親媒性低分子化合物を濃縮するための濃縮ラインとを有し、前記処理対象物槽が、バイオエタノールを発酵する発酵槽である、前記<9>に記載の濃縮装置。
<11> ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、前記処理対象物に含まれる前記両親媒性低分子化合物を、前記層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する前記処理対象物の両親媒性低分子化合物の濃度の低減方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる層状アルミノシリケートは、エタノールなどの両親媒性低分子化合物を選択的に吸着することができる。また、本発明は、このような層状アルミノシリケートを用いたエタノールの濃縮等に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】本発明の製造方法の各工程における反応の概要図である。
【
図3】本発明の層状アルミノシリケートの構造の概要図である。
【
図4】本発明の層状アルミノシリケートの粉末X線回折パターンである。
【
図5】本発明の層状アルミノシリケートの複数の状態での粉末X線回折パターンである。
【
図7】実施例におけるエタノール吸着試験の結果を示す図である。
【
図9】実施例のエタノール吸着後の層状アルミノシリケートからの脱離試験の図である。
【
図10】本発明の層状アルミノシリケートのエタノール蒸気吸着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0020】
[本発明の層状アルミノシリケートの製造方法(本発明の製造方法)]
本発明の層状アルミノシリケートの製造方法は、原料(A)~(D)を含む原料混合物を調製する混合工程と、前記原料混合物を加水分解して加水分解物とする加水分解工程と、前記加水分解物を加熱してアルミノシリケートを合成する水熱合成工程と、を有する。なお、本願において、本発明の層状アルミノシリケートの製造方法を、単に「本発明の製造方法」と記載する場合がある。
【0021】
原料(A)~(D)は、以下のものである。
原料(A):ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシラン
原料(B):アルミニウム化合物
原料(C):アルカリ金属水酸化物および/または有機四級アンモニウム水酸化物
原料(D):水
【0022】
[本発明の層状アルミノシリケート]
本発明の層状アルミノシリケートは、ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケート。
【0023】
[本発明の両親媒性低分子化合物の濃縮方法]
本発明の両親媒性低分子化合物の濃縮方法は、ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、前記処理対象物に含まれる前記両親媒性低分子化合物を、前記層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する。なお、本願において、本発明の両親媒性低分子化合物の濃縮方法を、単に「本発明の濃縮方法」と記載する場合がある。
【0024】
[本発明の両親媒性低分子化合物の濃縮装置]
本発明の両親媒性低分子化合物の濃縮装置は、ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを収容した吸着槽を有する。なお、本願において、本発明の両親媒性低分子化合物の濃縮装置を、単に「本発明の濃縮装置」と記載する場合がある。
【0025】
[本発明の両親媒性低分子化合物の低減方法]
本発明の両親媒性低分子化合物の低減方法は、ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、前記処理対象物に含まれる前記両親媒性低分子化合物を、前記層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する前記処理対象物の両親媒性低分子化合物の濃度の低減方法である。なお、本願において、本発明の両親媒性低分子化合物の低減方法を、単に「本発明の低減方法」と記載する場合がある。
【0026】
なお、本願において本発明の製造方法で、本発明の層状アルミノシリケートを製造することができる。また、本発明の層状アルミノシリケートや本発明の製造方法で製造された層状アルミノシリケートは、本発明の濃縮装置や本発明の濃縮方法、本発明の低減方法に用いることができる。また、本発明の濃縮装置を用いて、本発明の濃縮方法や本発明の低減方法を行うこともできる。本願において、これらのそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0027】
本発明者らは、特定の原料を用いて製造した層状アルミノシリケートが、エタノールなどの両親媒性低分子化合物を選択的に吸着できることを見出した。これは、水とエタノールの混合物から、両親媒性を有するエタノールのみを選択的に分離することもできる特性であり、例えば、5重量%以下の低濃度エタノール水溶液からエタノールを効率的に層間吸着することができ、更に驚いたことには、3重量%程度という非常に低濃度のエタノール水溶液からでもエタノールを層間吸着することができることを見出した。また、エタノールを吸着した後に、この層状アルミノシリケートから、吸着させていたエタノールは脱離して回収することもできる。本発明は、このような極めて特別な物性を有する層状アルミノシリケートや、その製法、その利用方法等に関する。
【0028】
[層状アルミノシリケートの製造]
図1は、本発明の製造方法のフロー例である。本発明の層状アルミノシリケートの製造は、例えば、以下のようなステップにより行うことができる。ステップS11は、原料を混合する工程である。ステップS21は、原料の一部を加水分解する工程である。ステップS31は、加水分解されたものからアルミノシリケートを水熱合成する工程である。ステップS41は、適宜、アルミノシリケートを回収する工程である。
図2は、このような本発明の製造方法の各工程における反応の概要図である。以下、それぞれの工程等について、より詳しく説明する。
【0029】
[混合工程]
混合工程は、原料(A)~(D)を含む原料混合物を調製する工程である。この原料混合物を用いて、層状アルミノシリケートを製造する。
【0030】
[原料(A)]
原料(A)は、ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランである。原料(A)は、加水分解により層状アルミノシリケートの骨格となる構造を形成する材料である。ビニルトリアルコキシシラン類は、例えば、ビニルトリメトキシシラン(以下、「VTMS」と略記する場合がある。)や、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシランなどである。また、ビニルトリクロロシランも同様に用いることができる。これらの中でも、適切な加水分解速度を持つVTMSが最も適している。
【0031】
[原料(B)]
原料(B)は、アルミニウム化合物である。アルミニウム化合物は、アルミナや、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウムなどを用いることができる。アルミニウム化合物由来のアルミニウムは、原料(D)由来の水を用いることから、原料混合物であるアルカリ性の水中でアルミン酸イオンとなる。このアルミン酸イオンは、層状アルミノシリケートを構成するものとなる。特に、アルミニウム化合物は、加水分解するためのpH設定等の観点などからアルミナを用いることが好ましく、特に、広い表面積を持ち、反応性に優れるヒュームドアルミナを用いることが好ましい。
【0032】
[原料(C)]
原料(C)は、アルカリ金属水酸化物および/または有機四級アンモニウム水酸化物である。原料(C)は、原料混合物を、加水分解に適したpHとするために用いる。アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムや、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。有機四級アンモニウム水酸化物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドや、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどを用いることができる。また、原料(C)のアルカリ金属イオンや有機四級アンモニウムイオンは、陽イオンとなり、層状アルミノシリケートのカウンターイオンとしても機能することが期待される。原料(C)は、層状アルミノシリケートとしたとき、最も結晶性のよい物質が得られる水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0033】
[原料(D)]
原料(D)は、水である。水は、加水分解や、水熱合成をするための原料(A)~(C)の混合や、分散、配列、合成などの場を提供するために適した分散媒等として機能する。水は、不純物が少ない一般的なものでよいが、原料(A)~(C)由来の成分による設計をより行いやすいように、水中のイオン等をより低減した超純水や、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0034】
[原料混合物]
原料混合物は、これらの原料(A)~(D)を混合したものである。原料混合物を得るための混合は、特に制限はないが、常温常圧で単に撹拌して混合したものでよい。原料混合物は、原料として、水などを用いることから、水に原料(A)~(C)を溶解・分散させた懸濁液状のものとなる。
【0035】
[混合比]
原料混合物における、原料(A)~(D)の混合比率は、各成分の種類や、加水分解工程、水熱合成工程等の後工程の条件、製造する層状アルミノシリケートの品質等を考慮して適宜設定できる。また、原料混合物における混合比、いわゆる仕込み条件によって、それに対応した層状アルミノシリケートが製造されるため、許容される層状アルミノシリケートの状態に合わせて設定してもよい。
【0036】
原料(A):原料(B)のアルミニウム元素:原料(C):原料(D)のモル比は、1:0.2~0.5:0.5~8:2~40程度とすることができる。すなわち、それぞれの原料のモル比は以下のように、層状アルミノシリケートの構造を形成する主要な原料(A)を基準となる1モルとして、以下のように設定できる。
原料(A):1モル
原料(B)のアルミニウム元素:0.2~0.5モル
原料(C):0.5~8モル
原料(D):2~40
【0037】
原料(B)は、アルミニウム化合物を用いる。アルミニウム化合物は、その種類に応じて、原料としたときの1モルあたりのアルミニウム元素のモル数を基準として利用する。例えば、アルミナの場合は、Al2O3のため、アルミナ1モルあたりにアルミニウム元素は2モル含まれる。このため、原料(A)のモル量に対して、原料(B)はアルミニウム元素としてのモル量で量を制御する。層状アルミノシリケートの構造からその理論上、層状アルミノシリケートは、原料(A)1モルに対して、アルミニウム元素は0.5モルが必要と考えられる。このため、原料(B)のアルミニウム元素が少ない場合、原料(A)が十分に用い尽くされない可能性があるものの、0.2モル以上あれば安定して層状アルミノシリケートの形成が期待できる。また、原料(B)のアルミニウム元素が多すぎても、原料(A)が不足することで収量は律速となると考えられる。原料(A)をより確実に用い尽くす観点からは、原料(B)のアルミニウム元素の上限は、0.5モル程度とすることができる。
【0038】
原料(C)は、原料混合物において、特に原料(A)の加水分解のために必要なアルカリ性を維持するために重要である。また、層状アルミノシリケートにおいて、原料(C)のアルカリ金属やアンモニウムイオンは、カウンターイオンとして利用されていると考えられる。このような観点から、pHを十分にアルカリ性として、層状アルミノシリケートのカウンターイオンの供給のために、0.5モル以上とすることが好ましい。この下限未満の場合、加水分解されにくくなる場合や、カウンターイオンが不足する場合がある。他方、後述する原料(D)が多い場合、アルカリ性を維持するため、または原料(C)/原料(D)のモル比を維持するために上限を8モルまでとして使用することがより好ましい。この上限を超える必要性はなく、過剰な原料の使用となる可能性がある。
【0039】
原料(D)は、水であり、混合組成物における他の原料の濃度を調整するものともなる。原料(D)が過剰な場合は、他の原料濃度が低い薄い状態となる。このような状態では、層状アルミノシリケートとなるための配置が起こりにくくなり、過剰な反応時間が必要となる場合がある。他方、原料(D)が少なすぎる場合は、他の原料濃度が高い濃い状態となる。このような状態では、層状アルミノシリケートを形成するための各成分の移動が十分に行われない場合がある。実験的な知見から、原料(D)は、上述したような範囲とすることで結晶性に優れた層状アルミノシリケートを効率よく製造することができる。
【0040】
代表的な混合例は、例えば、原料(A)としてVTMS 1モル、原料(B)としてアルミナ 0.2モル、原料(C)としてNaOH 1モル、原料(D)として水 5モルを用いて混合することができる。これらの混合順序は、特に制限はなく、短時間での反応性は限られ、その後の加水分解工程等で十分に撹拌しながら混合するため、採用する原料や、混合する容器等で扱いやすい順序で混合してよい。
【0041】
[加水分解工程]
加水分解工程は、原料混合物を加水分解して加水分解物とする工程である。この加水分解は、原料混合物の加水分解対象となる一部の原料を加水分解する意味である。なお、原料混合物の少なくとも一部を加水分解しているため、これを加水分解物と呼ぶ。特に、原料(A)のアルコキシ基のアルキル基や、クロロ基を、水中に分離させたりするために加水分解工程を行う。また、加水分解工程では、加水分解に伴い、水中で、層状アルミノシリケートを構成するための原料(A)、(B)等の配置が行われていると考えられる。
【0042】
加水分解工程は、10~50℃で、24時間以上、撹拌しながら行うものであることが好ましい。加水分解工程は、原料(A)の加水分解や、層状アルミノシリケートを形成するための配置を行うが、これは比較的緩やかに起こると考えられる。このため、原料(D)を用いる観点からも、過度に冷却や加熱を行わない状態で行うものでよい。加水分解工程では、冷却や加熱する理由がなく、製造に伴うエネルギー消費を低減する観点などからも、加水分解工程の温度は、常温程度で行うことができる。過度に加熱すると、層状アルミノシリケートを形成するための配置が不足したまま水熱合成される場合もあり、加熱を行わないほうが好ましい。この温度は、より好ましくは、20~40℃程度で行うことができる。
【0043】
加水分解工程の時間は、24時間以上であることが好ましい。前述したように、加水分解工程は、比較的緩やかに行うことが好ましいと考えられる。この時間よりも短い場合は、層状アルミノシリケートの結晶性が低下する恐れがある。加水分解工程は、4日(96時間)程度が最も好ましい。加水分解工程を、過度に長時間行っても、結晶性等はそれ以上向上しないと考えられるため、200時間以下や、150時間以下、120時間以下のような上限を設けて行ってもよい。
【0044】
加水分解工程は、原料が分散や、加水分解、層状アルミノシリケートを形成するための配置機会の確保等の観点から、撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌しながら加水分解工程を行うことで、製造される層状アルミノシリケートの結晶性が向上する。
【0045】
[水熱合成工程]
水熱合成工程は、加水分解物を加熱してアルミノシリケートを合成する工程である。水熱合成工程を行うことで、加水分解物の原料が、合成されて、アルミノシリケートとなる。このアルミノシリケートは、層状をなすものと考えられるため、層状アルミノシリケートと呼ぶ。
【0046】
水熱合成工程は、80℃以上で、72時間以上行うものであることが好ましい。なお、このとき、撹拌の有無はいずれでもよい。
【0047】
水熱合成工程は、原料混合物由来で、加水分解物にも含まれている水が存在する状態で行う。また、水の沸点付近などに加熱して行う。これにより、加水分解工程で、層状アルミノシリケートを形成するための配置が行われている状態から、結晶化する層状アルミノシリケートを合成することができる。
【0048】
水熱合成工程の温度は、80℃以上で行うことが好ましい。温度が低すぎる場合、水熱合成により層状アルミノシリケートが合成される速度が低下したり、合成されない恐れがある。この温度は、90℃以上や、95℃以上としてもよい。また、適宜、加圧下などで行って、例えば、120℃や150℃程度のような100℃を超えるものとしてもよい。過度に加熱すると、他の反応等が生じる恐れがあるため、180℃以下や、150℃以下で行うことが好ましい。特に、常圧で加熱することで達成できる100℃程度で行うこともできる。
【0049】
水熱合成工程の時間は、72時間以上行うものであることが好ましい。この時間が短い場合、層状アルミノシリケートの合成が十分に行われずに収率が低下する場合がある。この時間は、120時間以上や、144時間以上としてもよい。特に、100℃で、168時間(7日)程度行うことが好ましい。水熱合成工程を過度に行っても、収率は向上しないと考えられるため、この時間は、250時間以下や、200時間以下のような上限を設けてもよい。なお、水が蒸散して、濃度が大きく変更しないように、加水分解工程や水熱合成工程は、適宜、蓋をしたりした密閉性が高い容器で行うことができる。
【0050】
[回収工程]
回収工程は、水熱合成工程の後に、アルミノシリケートを濾別して乾燥し、アルミノシリケートを回収する工程である。このアルミノシリケートは層状をなしていると考えられるため、層状アルミノシリケートと呼ぶ。これにより、層状アルミノシリケートを製造することができる。
【0051】
水熱合成工程で合成されたアルミノシリケートは、結晶性であり、水中で粉状の固体などとなる。この固体を、水熱合成を行った後の原料混合物等に由来する未反応物の水等の液体と濾別することで、層状アルミノシリケートを選択的に得ることができる。
【0052】
[層状アルミノシリケート]
本発明の層状アルミノシリケートは、ビニルトリアルコキシシラン類やビニルトリクロロシランに由来の構造を有する。ビニルトリアルコキシシラン類やビニルトリクロロシランに由来の構造は、同様のものと考えられるため、これらを単に「ビニルトリアルコキシシラン類等に由来の構造」と記載する場合がある。
図3は、本発明の層状アルミノシリケートの構造の概要図である。層状アルミノシリケートは、
図3に示すように、ビニルトリアルコキシシラン類等由来の構造を有するアルミノシリケートである。層状アルミノシリケートは、RUB-15 (U. Oberhagemann et al., Angew. Chem. Int. Ed. 35, 2869 (1997)やHUS-1 (T. Ikeda et al., Inorg. Chem. 50, 2294 (2011)と同様の構造を持つ。また、これは、層状をなしている。この層間には、ビニル基が配列されているものと考えられ、この層間には、エタノール等の両親媒性低分子化合物が選択的に入り込むことができる分子構造になっているものと考えられる。
【0053】
図4は、本発明の層状アルミノシリケートの製造例にかかる、Cu Kα線を用いた反射法による粉末X線回折パターンである。この製造例の層状アルミノシリケートは、乾燥状態で、このような結晶の粉末X線回折パターンを示す。なお、この製造例の詳細は、後述する実施例で説明する。
【0054】
この層状アルミノシリケートは、表1に示すようなX線回折ピーク等を有している。表1は、主なピークの位置(2θ)とピーク強度、それぞれのピークの指数(hkl)である。本発明の層状アルミノシリケートは、このような粉末X線回折パターンのマッチングなどを行って特定することもできる。なお、表1は、ピーク位置とシミュレーション強度は、結晶構造からシミュレートした理想的な位置と強度である。
【0055】
【0056】
図5は、本発明の層状アルミノシリケートの複数の状態でのX線回折パターンである。層状アルミノシリケートを実際に測定したデータでは、結晶の配向などの理由から強度比はシミュレーションとは異なる場合がある。また、製造条件や保管状態等により層間距離が変化し、ピーク位置も部分的に変化する場合がある。また実サンプルには不純物も含まれている可能性もある。
図5は、この参考情報として、複数の測定例を併記したものである。
【0057】
なお、層状アルミノシリケートは、原料や製造条件により一部異なるX線回折パターンを示す場合もあると考えられる。また、構造が複雑なことなどからも、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情があり、本発明の層状アルミノシリケートは、場合によっては、製造方法で特定せざるを得ないことも考えられる。
【0058】
[形態・物性]
層状アルミノシリケートは、物質の理想的なモル組成が、(CH2CH-Si)2NaAlO5であり、構造欠陥が存在する場合はそれぞれの元素の存在量が1モル%程度まで少ないこともある。
【0059】
[形態・物性]
層状アルミノシリケートは、粉状の固体などである。また、層状アルミノシリケートは結晶子が平板状の形態を持つ、結晶性物質である。
【0060】
[任意成分]
層状アルミノシリケートは、そのまま両親媒性低分子化合物の吸着材等として用いることもできる。また、適宜、結合剤などを併用して、板状や、塊状などの任意の形状の成形体として用いてもよい。また、各種の成形体への固着等や、通気性や通液性を有するフィルターを用いた包装体に収容して用いることもできる。
【0061】
[濃縮装置]
図6は、本発明の濃縮装置の例を示す概要図である。濃縮装置は、処理対象物槽の一例である発酵槽と、複数の吸着槽と、濃縮槽を有する。また、これらの槽の液等を移送するための送液ラインで接続されている。濃縮装置を用いることで、両親媒性低分子化合物を選択的に濃縮することができる。
【0062】
[吸着槽]
吸着槽は、ビニルトリアルコキシシラン類および/またはビニルトリクロロシランに由来するシロキサン骨格を有する層状アルミノシリケートを収容した槽である。すなわち、吸着槽は、本発明の層状アルミノシリケート等を収容した槽である。この層状アルミノシリケートは、処理対象物に含まれる両親媒性低分子化合物を吸着する。本発明の濃縮装置は、少なくともこの吸着槽を有する。吸着槽に、処理対象物を入れて、吸着後の処理対象物と層状アルミノシリケートとを濾別などして、層状アルミノシリケートから、処理対象物に含まれていた両親媒性低分子化合物を脱離させることで両親媒性低分子化合物を濃縮できる。また、濾別された他方の吸着後の処理対象物は、両親媒性低分子化合物の濃度が低減されたものとなる。このため、両親媒性低分子化合物の濃度の低減装置とすることもできる。
【0063】
[処理対象物槽]
処理対象物槽は、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物を収容した槽である。処理対象物槽は、処理対象物に応じて選択される槽である。処理対象物は、両親媒性低分子化合物を含んでいればよく、任意のものを選択できる。処理対象物槽は、処理対象物を含む混合物を保管しているものでもよいし、槽内で反応しながら両親媒性低分子化合物が生成されているような反応槽としてもよい。例えば、
図6に示すように発酵槽を採用することができ、この発酵槽は、糖類等を原料としてアルコール発酵菌などを用いてアルコール発酵などを行っている反応中のものなどを用いることができる。典型的なものとして、処理対象物槽は、バイオエタノールを発酵する発酵槽とすることができる。
【0064】
[送液]
濃縮装置は、処理対象物槽から、吸着槽に処理対象物を送液するための第一の送液ラインを有するものとすることができる。このような送液を行うことで、発酵槽などの処理対象物槽や、吸着槽の状態などに合わせて、液を送液する。例えば、発酵槽で一定程度アルコール発酵した液を含む状態となった後に、その発酵槽の液を、吸着槽に送液する。
【0065】
[返送]
また、濃縮装置は、吸着槽から、処理対象物槽に、吸着槽内の液を送液するための第二の送液ラインを有するものとすることができる。処理対象物から、両親媒性低分子化合物を吸着槽の層状アルミノシリケートに吸着させた後の処理液を、発酵槽などの処理対象物槽に戻して、再度、発酵や、残液と混合させるなどに利用できる。
【0066】
[濃縮ライン]
また、濃縮装置は、吸着槽から、吸着槽の層状アルミノシリケートが吸着した、両親媒性低分子化合物を濃縮するための濃縮ラインを有するものとすることができる。この濃縮ラインは、層状アルミノシリケートから脱離した両親媒性低分子化合物の濃度が高い状態のものを、選択的に移送して濃縮するための配管等である。この脱離した両親媒性低分子化合物は、気体として脱離する場合もあるため、その状態に合わせて、気体や液体を移送するものとしてもよい。濃縮ラインを介して、濃縮槽に移送して、高濃度の両親媒性低分子化合物を回収することができる。
【0067】
[両親媒性低分子化合物]
本発明の層状アルミノシリケートを用いる濃縮対象の両親媒性低分子化合物は、両親媒性を有し、低分子の化合物である。これらの化合物は、選択的に、層状アルミノシリケートの層間に吸着する。両親媒性低分子化合物は、例えば、アルコール類、および/またはカルボニル化合物とすることができる。アルコール類としては、例えば、ベンジルアルコール(モル質量108.1)や、ブタノール(モル質量74.1)、エタノール(モル質量46.1)などを対象とすることができる。また、カルボニル化合物としては、アセトン(モル質量58.1)やメチルエチルケトン(モル質量72.1)などを対象とすることができる。分子量は、モル質量が、150以下や、120以下程度のものとすることができる。
【0068】
層状アルミノシリケートは、トルエンのような疎水性の化合物や、水のような極性が極めて高い化合物は吸着しない。なお、層状アルミノシリケートが、化合物を吸着したことは、X線回折パターンの2θが、乾燥状態の層状アルミノシリケートの10°付近の最も大きいピークが、対象の化合物を接触した後にシフトすることで結晶構造が変わることから確認できる。
【0069】
[吸着する工程]
本発明の濃縮方法は、吸着槽を有する本発明の濃縮装置を用いて行うことができる。この濃縮方法は、層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、処理対象物に含まれる両親媒性低分子化合物を、層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する。
【0070】
[混合比]
層状アルミノシリケートの質量に対する両親媒性低分子化合物の吸着量(両親媒性低分子化合物の吸着量(g)/層状アルミノシリケートの質量(g))は、0.1g/g程度を目安とすることができる。この目安を基に、処理対象物に含まれる両親媒性低分子化合物の濃度などを考慮して、層状アルミノシリケートと、処理対象物の混合比や、接触時間などは設定される。また、脱離速度や、濾別頻度なども適宜設定できる。
【0071】
層状アルミノシリケートと、処理対象物との接触時間は、数時間程度を目安とすることができる。例えば、30分以上や、1時間以上、2時間以上とすることができる。処理対象物の両親媒性低分子化合物の含有量や、層状アルミノシリケートの吸着可能量、両親媒性低分子化合物の生成速度や、移送速度、濃縮速度などの設計を行うことができる。吸着状態で保管してもよいため、接触時間は特に上限を設けなくてもよい。連続運転等をする場合、上限は、24時間以下や、12時間以下、8時間以下などの上限を設けてもよい。
【0072】
[低減]
本発明は、本発明の層状アルミノシリケートを、両親媒性低分子化合物を含む処理対象物と接触させて、処理対象物に含まれる両親媒性低分子化合物を、層状アルミノシリケートに吸着する工程を有する処理対象物の両親媒性低分子化合物の濃度の低減方法とすることもできる。
【0073】
本発明の濃縮方法等は、例えば、バイオエタノールの濃縮に用いることができる。従来、バイオエタノールの濃度上昇を行うには、蒸留や膜分離というプロセス自身に大きなエネルギー、コストが必要である。また、低コスト化するため濃縮を大規模化するためには原料バイオマスや低濃度発酵アルコールを移送・集約する必要があり、そのためにさらにエネルギー、コストが必要となる。このような事情からも、5~10%程度の低濃度の発酵アルコールを低コストで濃縮できるプロセスを開発することが求められている。
【0074】
吸着による分離・濃縮は単純な装置で実行可能な低コストでできるプロセスであるが、エタノールは水との親和性が非常に高いため、低濃度のエタノール水溶液からエタノールのみを選択的に吸着する吸着剤はこれまでには見られなかった。
【0075】
本発明者らが開発した非特許文献1に記載のKCS-11は、10重量%という低濃度のエタノール水溶液からエタノールのみを層間吸着することができたが、バイオエタノールはそれ以下の濃度で得られることも多く、これらには対応できない場合がある。
【0076】
本発明の層状アルミノシリケートは、3重量%程度という非常に低濃度のエタノール水溶液からでもエタノールを層間吸着することができる。このため、バイオエタノールの低コスト濃縮に利用可能と考えられる。
【0077】
またその吸着能を利用すれば、ワインや日本酒のような比較的低濃度のアルコール飲料からエタノールを除去することができる。エタノールを選択的に吸着するためアルコール飲料の風味を損なわずに近年の低アルコール志向に合わせた飲料を製造することができる。
【実施例0078】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[原料]
・VTMS:ビニルトリメトキシシラン(東京化成工業社製 >98%)
・アルミナ:ヒュームドアルミナ(Evonik社製AEROXIDE Alu C)
・NaOH:水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製 特級)
・水:蒸留後、イオン交換処理した水
・MTMS:メチルトリメトキシシラン(東京化成工業社製 >98%)
・エタノール:エタノール(富士フイルム和光純薬社製 特級)
【0080】
[測定方法]
・XRD(反射法粉末X線回折パターン)
マルバーン・パナリティカル社製 X´Pert PRO
ブラッグ・ブレンターノ法(集中型反射法)
光源:Cu Kα線
【0081】
・エタノール蒸気吸着等温線
マイクロトラック・ベル社製 Belsorp Max
前処理条件:150℃、4時間
吸着温度:25℃(エタノール飽和蒸気圧 7.958 kPa)
吸着平衡判定時間:1200秒
【0082】
[実施例1]層状アルミノシリケート(1)の製造
1)混合
VTMS1モルに対して、アルミナ0.2モル、NaOH1モル、水5モルを、常温で混合して、原料混合物を調製した。
2)加水分解
原料混合物を、室温で、4日間撹拌して、VTMS等を加水分解した。
3)水熱合成
加水分解後に、密閉して静置した状態で、100℃で7日間水熱合成して、水中に、層状アルミノシリケートを合成した。
4)固液分離
水熱合成後に、濾過により固液分離して、層状アルミノシリケート(1)を得た。
【0083】
[参考例1]層状アルミノシリケート(a)の製造
実施例1のVTMSに代えて、MTMSを用いて、同様に製造して層状アルミノシリケート(a)を製造した。
【0084】
[実施例2]層状アルミノシリケートの評価(XRD)
層状アルミノシリケート(1)をXRDでX線回折パターンを評価した。評価結果を、
図4に示す。
【0085】
[実施例3]層状アルミノシリケートの評価(エタノールの吸着)
エタノールを、水と混合して、複数の濃度のエタノール混合液を調製した。このエタノール混合液を、実施例1や参考例1の層状アルミノシリケートと接触させて、エタノールの層間への吸着性を評価した。
図7は、実施例におけるエタノール吸着試験の結果を示す図である。
図7に、エタノール吸着の評価条件と評価結果を示す。
図7は、XRDで評価したものであり、吸着が起こると、処理前のXRDのピークが、左側にシフトする。
【0086】
図7において、「〇%EtOH」の表記は、〇の中の数値の重量%濃度のエタノール水溶液を用いたことを示す。また、「〇h」の表記は、〇の中の数値の時間、接触させたことを示す。
【0087】
図8は、実施例1および参考例1の液分散性を試験した像である。参考例1の層状アルミノシリケート(a)は、エタノール水溶液と混合しても十分に分散されず、上層の層状アルミノシリケートと、下層のエタノール水溶液に分離する。一方で、実施例1の層状アルミノシリケート(1)は、エタノール水溶液と混合して十分に均一な分散液となることが確認された。
【0088】
[実施例4]層状アルミノシリケートの評価(エタノールの脱離)
実施例3の10重量%エタノール吸着後のサンプルを用いて、エタノールの脱離試験を行った。
図9は、実施例のエタノール吸着後の層状アルミノシリケートからの脱離試験の図である。
【0089】
参考例の層状アルミノシリケート(a)を用いたとき、3時間程度から、エタノールが脱離したことによる、乾燥状態の層状アルミノシリケートに相当するピークと、エタノールが吸着した状態のピークとが併存した状態が確認される。時間経過とともに、エタノールが吸着した状態のピークは低下していくが、45時間経過後もエタノールが吸着した状態のピークは残り、エタノールが完全には脱離していないことが確認された。
【0090】
実施例の層状アルミノシリケート(1)を用いた時、2時間程度で、ほぼ乾燥状態の層状アルミノシリケートに相当するピークのみとなり、4時間程度で、エタノールが吸着した状態のピークは特定が困難なものとなっている。
【0091】
このことから、層状アルミノシリケート(1)は、吸着したエタノールを容易に脱離することができることが確認できる。この脱離されたエタノールは、気化したものと考えられる。このため、脱離したときの気相を回収して、冷却や圧力調整して、凝縮することで、エタノールを選択的に回収することができる。
【0092】
[実施例5]層状アルミノシリケートの評価(蒸気吸着等温線)
図10は、層状アルミノシリケート(1)のエタノール蒸気吸着等温線である。相対圧力が低い条件から、層状アルミノシリケート(1)は、エタノールを吸着することが確認された。