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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168107
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】グラウト再注入工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20241128BHJP
   B24C 3/32 20060101ALI20241128BHJP
   B24C 9/00 20060101ALI20241128BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20241128BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20241128BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20241128BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20241128BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E01D19/12
B24C3/32 Z
B24C9/00 G
B24C11/00 D
B24C9/00 D
E04G21/12 104D
E04G23/02 B
E01D22/00 A
E01D1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084533
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】本庄 慧
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG39
2E176AA01
2E176BB13
(57)【要約】
【課題】交通規制を伴わずに効率よく既設PC構造物のシースへグラウトを再注入することが可能なグラウト再注入工法を提供する。
【解決手段】PC構造物のシース内のグラウト未充填部分にグラウトを再注入するグラウト再注入工法において、PC構造物の下面からPC鋼材が挿通されたシースの直下の脇からシース近傍へ上方に縦孔を穿孔する縦孔穿孔工程と、前記縦孔に直角噴射治具を挿入し、この直角噴射治具からウォータージェットを噴射して前記シース周りのコンクリートを除去する横穿孔工程と、前横穿孔工程により露出した前記シースの露出部を開削するにシース開削工程と、前記シース開削工程で開削したシースの開削部分からグラウトを注入するグラウト注入工程と、を行う。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設PC構造物のシース内のグラウト未充填部分にグラウトを再注入するグラウト再注入工法であって、
既設PC構造物の下面からPC鋼材が挿通されたシースの直下の脇から上方に縦孔を穿孔する縦孔穿孔工程と、
前記縦孔に直角噴射治具を挿入し、この直角噴射治具からウォータージェットを噴射して前記シース周りのコンクリートを除去する横穿孔工程と、
前横穿孔工程により露出した前記シースの露出部を開削するシース開削工程と、
前記シース開削工程で開削したシースの開削部分からグラウトを注入するグラウト注入工程と、を備えること
を特徴とするグラウト再注入工法。
【請求項2】
前記シース開削工程では、前記横穿孔工程で露出したシース露出部にブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射して開削すること
を特徴とする請求項1に記載のグラウト再注入工法。
【請求項3】
前記シース開削工程では、前記横穿孔工程で露出したシース露出部にブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射して前記シース露出部に陥没部又は開削部を設け、その後、前記陥没部又は前記開削部に螺旋状の鋭利な先端を有する開削治具の前記先端を押し込んで開削すること
を特徴とする請求項1に記載のグラウト再注入工法。
【請求項4】
前記シース開削工程では、前記ブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射するとともに、集塵機で前記縦孔内を吸引することにより、前記ブラストショット装置で噴射された研磨材を回収すること
を特徴とする請求項2又は3に記載のグラウト再注入工法。
【請求項5】
前記シース開削工程で噴射する前記研磨材は、珪砂であること
を特徴とする請求項2又は3に記載のグラウト再注入工法。
【請求項6】
前記グラウト注入工程では、真空ポンプでシース内を減圧し、その負圧を利用してグラウト注入し、その後、スネークポンプにより追加注入を行い、最後に加圧してシース内の空洞部にグラウトを充填すること
を特徴とする請求項1に記載のグラウト再注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC構造物のシース内のグラウト未充填部分にグラウトを再注入するグラウト再注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PC構造物におけるグラウトの再充填工事が活発化してきているが、その多くは主ケーブルに対する再充填工事が殆どである。また、PC構造が採用されている部材は、主桁に加えて、例えば床版が挙げられる。床版の場合、PC鋼材PC1は床版横締めや主ケーブルなど水平方向に配置されるのが一般的である(図1参照)。これらのPC鋼材PC1のシースS1内にグラウトが充填されていない場合を想定すると、グラウトの再充填を行う場合には、空洞部Caに対して注入孔を設ける必要がある(図2参照)。
【0003】
このため、端的に言うと、床版上面からの施工は容易であるが、床版上面から施工する場合、一般車両の通行を規制する必要があり、時間的制約や短時間で少数の施工を繰り返す必要があるなど、規制に伴う労務増や作業の効率化が図れないという問題がある。
【0004】
交通規制を伴わない方法を考案するならば、床版下面から空洞部Caへアプローチすることが必然であるが、シースのグラウト充填状況は既設のPC構造物の状況に応じて様々である。このため、例えば全断面が未充填であれば床版下面からの施工でも容易であるが、グラウトG1が幾らか充填されていれば床版下面から注入孔を設けようとしても、シース直下からではグラウトに直面することとなり、空洞部Caへの注入孔を設けることが困難となる。さらには、シースS1直下からの削孔を行えば、PC鋼材PC1を損傷させる恐れも十分にあり、PC構造物の性能を阻害する可能性がある。
【0005】
このような背景から、図2に示すように、シースS1の直下X1からの削孔ではなく、シースS1脇直下X2から施工することが考えられる。しかし、シースS1脇直下X2から縦孔Vhの削孔を行えば、シースS1上部側の斜線部のコンクリートC1が残ることとなり、別途、この斜線部のコンクリートC1を除去する方法が求められる。さらには、残ったコンクリートC1の先にあるシースS1を開削しなければ注入孔は完成しない。
【0006】
このため、図3に示すように、回転系のドリルD1等で先端を湾曲させて削孔する場合には斜線部のコンクリートC1の削孔やシースS1を開削することはできるが、シースS1内部のPC鋼材PC1を損傷させてしまうおそれがある。また、湾曲させるが故に、必要な曲げ半径を大きく確保しなければならず、縦孔Vhの削孔径が大きくしなければならず、PC構造物を損傷し、耐久性が低下するという問題が発生する。
【0007】
そのため、PC鋼材PC1を損傷させない方法としてウォータージェットによりコンクリートC1とシースS1の開削を実施しようとした場合には、シースS1がウォータージェットで開削される場合もあるが安定した作業性を確保することが困難である。以上のように、床版下面からのグラウト再充填には課題が多い。このため、交通規制を伴わずに床版下面からの施工でシースS1内のグラウトG1充填状況にかかわらず、効率よく作業ができ、PC鋼材PC1を損傷させるおそれもないPC構造物のグラウト再注入工法の開発が求められている。
【0008】
一方、ウォータージェットを直角に噴射する手段としては、特許文献1に、オープンケーソン1の内部空間に、高圧送水管3を垂下し、高圧送水管3の先端部には、高圧送水管3と直角にウォータージェット噴射管5を接続し、ウォータージェット噴射管5からオープンケーソン刃口内面へ向けて圧力水を噴射するオープンケーソンの施工方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0007]~[0009]、図面の図1図3等参照)。
【0009】
また、特許文献2には、床版の上面を維持したまま床版ハンチ部の側方から床版ハンチ部のコンクリートをウォータージェットで所定の区間除去する段階と、コンクリートを除去した区間に補強部材を設置する段階と、床版上の通行を止めた後、補強部材を撤去して床版を撤去する段階とを含み、前記コンクリートを所定の区間除去する段階と補強部材を設置する段階とを区間を変えながら繰り返し、床版を撤去する区間の床版ハンチ部のコンクリートを除去する合成桁橋の床版の撤去方法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0021]~[0058]、図面の図1図7等参照)。
【0010】
しかし、特許文献1に記載のオープンケーソンの施工方法や特許文献2に記載の合成桁橋の床版の撤去方法には、ウォータージェットを噴射管の直角方向に噴射することが記載されているものの、PC構造物におけるグラウトの再充填工事にそのまま適用できるものではなかった。
【0011】
さらに、特許文献3等には、研磨材が混入された加工用流体をノズルから噴射させて切断加工するアブレシブウォータージェット加工機も開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0023]~[0054]、図面の図1図2等参照)。
【0012】
しかし、特許文献3に記載の発明などの従来の流体に研磨材を混入して噴射するアブレシブウォータージェット関連の発明では、アブレシブウォータージェットをPC構造物におけるグラウトの再充填工事に適用するという着想もないし、PC構造物におけるグラウトの再充填工事にそのまま適用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9-279598号公報
【特許文献2】特開2019-105031号公報
【特許文献3】特許第5205481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、交通規制を伴わずに効率よく既設PC構造物のシースの未充填部分へグラウトを再注入することが可能なグラウト再注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係るグラウト再注入工法は、既設PC構造物のシース内のグラウト未充填部分にグラウトを再注入するグラウト再注入工法であって、既設PC構造物の下面からPC鋼材が挿通されたシースの直下の脇から上方に縦孔を穿孔する縦孔穿孔工程と、前記縦孔に直角噴射治具を挿入し、この直角噴射治具からウォータージェットを噴射して前記シース周りのコンクリートを除去する横穿孔工程と、前横穿孔工程により露出した前記シースの露出部を開削するシース開削工程と、前記シース開削工程で開削したシースの開削部分からグラウトを注入するグラウト注入工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項2に係るグラウト再注入工法は、請求項1に係るグラウト再注入工法において、前記シース開削工程では、前記横穿孔工程で露出したシース露出部にブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射して開削することを特徴とする。
【0017】
請求項3に係るグラウト再注入工法は、請求項1に係るグラウト再注入工法において、前記シース開削工程では、前記横穿孔工程で露出したシース露出部にブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射して前記シース露出部に陥没部又は開削部を設け、その後、前記陥没部又は前記開削部に螺旋状の鋭利な先端を有する開削治具の前記先端を押し込んで開削することを特徴とする。
【0018】
請求項4に係るグラウト再注入工法は、請求項2又は3に係るグラウト再注入工法において、前記シース開削工程では、前記ブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射するとともに、集塵機で前記縦孔内を吸引することにより、前記ブラストショット装置で噴射された研磨材を回収することを特徴とする。
【0019】
請求項5に係るグラウト再注入工法は、請求項2又は3に係るグラウト再注入工法において、前記シース開削工程で噴射する前記研磨材は、珪砂であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に係るグラウト再注入工法は、請求項1に係るグラウト再注入工法において、前記グラウト注入工程では、真空ポンプでシース内を減圧し、その負圧を利用してグラウ注入し、その後、スネークポンプにより追加注入を行い、最後に加圧してシース内の空洞ト部にグラウトを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1~6に係る発明によれば、交通規制を伴わずに効率よく床版等の既設PC構造物のPC鋼材が挿通されたシースのグラウト未充填部分へグラウトを再充填することができる。
【0022】
特に、請求項2に係る発明によれば、前記シース開削工程では、前記横穿孔工程で露出したシース露出部にブラストショット装置を用いて高圧エアーで研磨材を噴射して開削するので、シース内のPC鋼材に誤って傷をつけるおそれがほとんどない。
【0023】
特に、請求項3に係る発明によれば、陥没部又は前記開削部に螺旋状の鋭利な先端を有する開削治具の前記先端を押し込んで開削するので、グラウト注入に必要な開削部をブラストショットで全部開削する場合と比べて短時間で開削することができる。
【0024】
特に、請求項4に係る発明によれば、ブラストショット装置で噴射された研磨材を回収するので、研磨材で縦孔内が充満してしまってシースの開削ができなくなる事態を防ぐことができる。このため、ブラストショットを必要な時間継続することができる。
【0025】
特に、請求項5に係る発明によれば、研磨材が珪砂であるので、短時間で効率よくブラストショットによりシースを開削することができる。
【0026】
特に、請求項6に係る発明によれば、切換え式グラウト注入方法によりグラウトを注入するので、グラウト未充填部分に隙間なくグラウトを充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、従来のPC桁断面図である。
図2図2は、床版横締め断面図である。
図3図3は、回転ドリルにより残コンクリート部分を削孔する場合を示す図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係るグラウト再注入工法の縦孔穿孔工程を示す工程説明図である。
図5図5は、同上のグラウト再注入工法の横穿孔工程を示す工程説明図である。
図6図6(a)は、同上のグラウト再注入工法の横穿孔工程でハンドガンに直角噴射治具を装着して作業している状況を示す写真であり、図6(b)は、直角噴射治具1を示す写真である。
図7図7は、従来のハンドガンで斜め上方へウォータージェットを噴射して穿孔する場合を示す断面図である。
図8図8は、実験により直角噴射治具を用いてウォータージェットにより横穿孔工程を行ってシース周りのコンクリートを除去した状態を縦孔に内視鏡を挿入して撮影した写真である。
図9図9は、実験によりウォータージェットによりシースが部分的に開削された状態を縦孔に内視鏡を挿入して撮影した写真である。
図10図10は、同上のグラウト再注入工法のシース開削工程を示す工程説明図である。
図11図11(a)は、シース開削工程で用いるブラストショット装置の概要を示す写真であり、図11(b)は、ブラストノズルの仕組を説明する説明図である。
図12図12は、ブラストショット装置の全体概要を示す写真である。
図13図13は、同上のブラストショット装置の主に研磨材回収蓋を示す写真である。
図14図14は、同上のグラウト再注入工法のシース開削状況を示す実験写真である。
図15図15は、同上のブラストショット装置のブラストノズルを示す写真である。
図16図16は、同上のブラストノズルの構成を示す構成説明図である。
図17図17は、同上のブラストショット装置の研磨材回収蓋の構成を示す構成説明図であり、(a)が側面図、(b)が平面図である。
図18図18は、実験にてブラストショットによる開削後のシースを示す写真である。
図19図19は、本発明の実施形態に係る開削治具を示す写真である。
図20図20は、同上の開削治具を用いてシースを開削する場合の開削中を示す写真である。
図21図21は、同上の開削治具を用いてシースを開削する場合の開削後を示す写真である。
図22図22は、ブラストショットによりPC鋼棒(PC鋼材)が損傷するか否かの実験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るグラウト再注入工法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図4図22を用いて、本発明の実施形態に係るグラウト再注入工法について説明する。本実施形態に係るグラウト再注入工法では、既設PC構造物として既設橋梁の床版FbにPC横締めや主ケーブルなど水平方向に配置されたPC鋼材PC1を挿通するシースS1内のグラウトG1の未充填部分(空洞部)CaにグラウトG1を再注入して充填する場合を例示して説明する(図4等参照)。本実施形態に係るグラウト再注入工法は、既設PC構造物のシースS1内のグラウト未充填部分にグラウトを再注入するグラウト再注入工法である。
【0030】
(縦孔穿孔工程)
図4は、本実施形態に係るグラウト再注入工法の縦孔穿孔工程を示す工程説明図である。図4に示すように、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、PC構造物である床版Fbの下面からPC鋼材PC1が挿通されたシースS1の直下の脇X2からシースS1近傍へ上方に縦孔Vhを穿孔する縦孔穿孔工程を行う。本実施形態では、小径のコアドリルによる削孔を想定しているが、ハンマードリルなどの他の削孔機による削孔や、ウォータージェットによる穿孔でも良いことは云うまでもない。
【0031】
本工程で削孔(穿孔)する縦孔Vhの径は、PC構造物を損傷しない観点から小さいに越したことはないが、後工程で用いる直角噴射治具等を挿通できる径とする必要があることから、直径φD2=25mm~40mmの孔が適当である。また、削孔(穿孔)深さは、床版Fbの下面からシースS1の頂部をさらに1cm~2cm超えた高さまで縦孔Vhを削孔(穿孔)する。
【0032】
また、本工程では、削孔(穿孔)する縦孔VhとシースS1との位置関係は、図4に示すように、シースS1を損傷しない程度にシースS1の脇をかすめるようになるべくシースS1の直下X1の脇X2からシースS1の近傍となるように床版Fbの下面Fbaから上方に削孔(穿孔)する。
【0033】
(横穿孔工程)
図5は、本実施形態に係るグラウト再注入工法の横穿孔工程を示す工程説明図であり、図6(a)は、本実施形態に係るグラウト再注入工法の横穿孔工程でハンドガンに直角噴射治具1を装着して作業している状況を示す写真であり、図6(b)は、直角噴射治具1を示す写真である。次に、図5図6に示すように、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、前工程で穿孔した縦孔Vhに直角噴射治具1を挿入し、この直角噴射治具1からウォータージェットを噴射して横方向(水平方向)に穿孔してシースS1の外側のシース周りの斜線部のコンクリートC1を除去する横穿孔工程を行う。
【0034】
但し、図7に示すように、従来のハンドガンでも9°程度であれば斜め上方へウォータージェットを噴射して穿孔することも可能であるが、この場合、必要以上にシースS1周りのコンクリートを除去してしまい、PC構造物である床版Fbを損傷してしまうという問題が生じる。特に、床版Fbでは、交通規制を行っていない路面(床版上面Fbb)まで貫通してコンクリートを穿孔してしまうと大事故に繋がるおそれがあり、従来のウォータージェットのハンドガンを用いて本工程を行うことはできない。
【0035】
そこで、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、図5図6に示すように、新たに開発した直角噴射治具1を用いてウォータージェットを縦孔Vhの軸方向(鉛直方向)に対して90°直交する横方向(水平方向)に噴射して穿孔してシースS1の外側のシース周りの斜線部のコンクリートC1を除去する。この直角噴射治具1は、噴射ノズル1aを含めて直径28mm程度の円形の小径の孔に挿入可能な大きさの金属製の治具であり、ハンドガンタイプのウォータージェットのハンドガンに装着されて、ハンドガンの水の噴射方向を90°直角に変更して噴射する治具である。
【0036】
図8は、直角噴射治具1を用いてウォータージェットにより横穿孔工程を行ってシースS1周りのコンクリートC1を除去した状態を縦孔Vhに内視鏡を挿入して撮影した写真である。図8に示すように、シース側面からシース頂部にかけて縦孔とシース上部の間に存在する残コンクリート部分C1(図5参照)がウォータージェットにより綺麗に除去された様子が分かる。
【0037】
また、本工程を行うことで、図9に示すように、ウォータージェットにより金属製のシースが部分的に開削される場合がある。図9は、ウォータージェットによりシースS1が部分的に開削された状態を縦孔Vhに内視鏡を挿入して撮影した写真である。このようにシースが本工程により開削されていれば、後述のブラストショットにより開削工程を行う必要がない。
【0038】
(シース開削工程)
図10は、本実施形態に係るグラウト再注入工法のシース開削工程を示す工程説明図である。また、図11(a)は、シース開削工程で用いるブラストショット装置10の概要を示す写真であり、図11(b)は、ブラストノズル11の仕組を説明する説明図である。そして、図12は、ブラストショット装置10の全体概要を示す写真であり、図13は、ブラストショット装置10の主に研磨材回収蓋16を示す写真である。さらに、図14は、本実施形態に係るグラウト再注入工法のシース開削状況を示す実験写真であり、図15は、ブラストノズル11を示す写真である。また、図16は、ブラストノズル11の構成を示す構成説明図であり、図17は、研磨材回収蓋16の構成を示す構成説明図であり、(a)が側面図、(b)が平面図である。
【0039】
次に、図10に示すように、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、前横穿孔工程により側面から頂部にかけて露出したシース露出部S1aの金属製(鋼製)の管体を切り開いて開削するシース開削工程を行う。
【0040】
具体的には、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、ブラストショット装置10を用いて高圧エアーで研磨材Abをシース露出部S1aに噴射して開削する。
【0041】
ブラストショット装置10は、図11図13に示すように、ブラストノズル11、高圧エアー供給ホース12、コンプレッサー13、研磨材供給ホース14、研磨材容器15、研磨材回収蓋16、集塵用ホース17、集塵機18など、から構成されている。この高圧エアー供給ホース12は、コンプレッサー13に接続され、研磨材供給ホース14は、研磨材容器15に接続されている。
【0042】
ブラストノズル11は、図11図12図16に示すように、高圧エアー供給ホース12と研磨材供給ホース14とに接続され、図11(b)に示すように、コンプレッサー13の圧力で高圧エアー供給ホース12を通じて高圧エアーが噴射され、研磨材供給ホース14をノズル先端位置に合流させることで高圧エアーの噴射に伴い研磨材供給ホース14内に負圧を発生させて、研磨材容器15から研磨材Abを吸引して高圧エアーとともに研磨材Abをシース露出部S1aに高速で噴射してシースS1を開削する仕組みとなっている。
【0043】
なお、本実施形態に係るブラストノズル11のエアー噴出先端径は、直径φ1.5mmに設定されている(図15参照)。ブラストノズル11のノズル先端の径が、大径であれば高圧エアーの圧力が低下してしまうし、小径であれば圧力を高い状態で保持できるが噴射できる研磨材Abが小さいものに限定され、シースS1を開削するには不十分になるからである。
【0044】
なお、噴射する研磨材Abは、シースS1を開削するため、シースS1の鋼材より硬度が高く、シースS1に挿通されたPC鋼棒(PC1)の表面硬度より低い硬度の材料が好ましい。PC鋼棒(PC1)の表面に傷を付けずにシースS1を開削することができるからである。
【0045】
本実施形態に係るグラウト再注入工法では、噴射する研磨材Abは、珪砂5号としている。後述の実験により、ブラストノズル11の内径にも依存するが、珪砂5号が最適であることが判明したからである(表1,表2参照)。研磨材Abを珪砂5号とした理由は、研磨材Abの直径が大きすぎる場合は、ブラストノズル11を通過せず目詰まりを起こし、小さすぎる場合は、研磨能力が小さくなるため開削に時間がかかるからである。また、珪砂は、シースS1内に残留してもイオン化傾向の違いにより腐食が促進されることがないという異種金属腐食の観点でも採用されている。但し、本発明に係る研磨材は、所定の硬度と開削に必要な衝撃力を発生させることができる所定の重量を有した物質であれば、珪砂に限られず、ステンレスや鉄など、他の材料でも構わない。
【0046】
前述のように、ブラストショット装置10のブラストショットによりシースS1を開削することが可能になる(図18参照)。図18は、ブラストショットによる開削後のシースを示す写真である。しかし、シースS1の開削は瞬間的ではなく、ある一定時間を要する。そのため、削孔した縦孔Vh内には研磨材Abが堆積することとなり、研磨材Abで縦孔Vh内が充満してしまってはシースS1の開削が不可能となる。
【0047】
そこで、図12図13図17に示すように、ブラストショット装置10には、床版下面Fbaに面する縦孔Vhの出口に研磨材回収蓋16を設置し、この研磨材回収蓋16に集塵用ホース17を介して通じて接続する集塵機18を設け、研磨材回収蓋16から集塵用ホース17を通じて集塵機18で縦孔Vh内を吸引することにより、ブラストショットで噴射された研磨材Abを回収する。このように、高圧エアー供給ホース12から高圧エアーを供給するだけでなく、縦孔Vhの出口から集塵機18で吸引することにより、高圧エアーが密封されることなく集塵機18側へ空気が流れるため、ブラストショット装置10によるブラストショットの継続が可能となる。
【0048】
但し、ブラストショットによる開削のデメリットとしては、開削孔を大きくしようとすれば、ショット時間が長くなることと、小径の穴を経由してシース内に研磨材が流入してしまうことである。そこで、ブラストショットによる開削のメカニズムを考察すると、シースS1のブラストショットによる開削は、シースS1が研磨材の衝突により徐々に研磨され厚さが減じられ、そこにショットによる圧力が発生し続けるため、開削直前にはシースS1の一部が陥没する。ブラストショットを継続すれば陥没した箇所に応力が集中して研磨材Abの衝突荷重が作用し続け、最終的にはシースS1の鋼材が開削されることとなる。
【0049】
このようなメカニズムを踏まえて、シースS1が陥没したタイミング若しくは小径(例えば、1mm)の開削のタイミングで開削治具(図19)を用いて、陥没部若しくは開削部の中心に開削治具2の螺旋状の鋭利な先端を押し込む形で開削を実施してもよい。図19は、開削治具2を示す写真である。
【0050】
図20は、開削治具2を用いてシースS1を開削する場合の開削中を示す写真であり、図21は、開削治具2を用いてシースS1を開削する場合の開削後を示す写真である。図20図21に示すように、開削程度は縦孔Vhの削孔位置とシースS1までの距離にもよるが、開削治具2により陥没部若しくは開削部(図18参照)の付近のシースS1の鋼製の管体を剥ぐことが可能である。このように、ブラストショット装置10によるブラストショットに加え、開削治具2を用いて開削することにより、開削の時間を短縮することができるだけでなく、開削孔を大きくした場合でも、ブラストショットによりシースS1内に流入する研磨材Abも最小限若しくは無くすことができる。
【0051】
なお、図18に示したように、開削治具2は先端が渦巻き形状になっており、開削治具2を縦孔Vh内で回転させることにより、シースS1をめくれる様なことができる。但し、シースS1に凹みがない状態で開削治具2で開削しようとすれば、作業点が収まらず滑ってしまい狙いが定まらないが、ブラストショットで少なくとも陥没部を設けることで作用点が定まり、開削治具2によるシースの開削、又は開削口の拡張が容易となる。
【0052】
また、実験により、前述のブラストショット装置10のブラストショットでPCケーブルが損傷するか否かの検証を行った。具体的には、PC鋼棒(PC鋼材)を用意し、これに前述のブラストショット装置10で研磨材として珪砂5号を直接10分間連続して噴射してPC鋼棒(PC鋼材)を観察した。結果としては、図22に示すように、PC鋼棒(PC鋼材)の表面の黒皮がケレンされた程度でノギスによる直径の計測では差異を確認できなかった。したがって、PC鋼棒(PC鋼材)を損傷するようなものではないことが分かる。図22は、ブラストショットによりPC鋼棒(PC鋼材)が損傷するか否かの実験結果を示す写真である。
【0053】
(開削確認)
前述のように、ブラストショット装置10のブラストショットを一定時間継続し、その後、縦孔の出口に設置した研磨材回収蓋16を一旦取り外し、縦孔から内視鏡を挿入して開削の程度を把握し、ブラストショットの終了を判断する。具体的には、後述のグラウトの充填が可能な程度まで開削が進行していることが確認できたら、ブラストショットを終了し、高圧エアーで珪砂やシースの研磨屑を吹き飛ばし、シース及び縦孔内を清掃する。
【0054】
(グラウト注入工程)
次に、本実施形態に係るグラウト注入工法では、縦孔Vh及びシース開削工程で開削したシースの開削部分から切換え式グラウト注入方法によりグラウトG1を注入して充填するグラウト注入工程を行う。具体的には、真空ポンプでシースS1内を減圧し、その負圧を利用してグラウトG1注入し、その後、切換え弁を操作し脈動の少ないスネークポンプにより追加注入を行い、最後に加圧してシースS1内の空洞部Ca(未充填部分)にグラウトG1を充填する。
【0055】
なお、事前にシースと連通した減圧容器の圧力変化でシース内の空洞量を推定すると、充填に必要なグラウトG1の量を精度よく予め算出することができるため好ましい。本工程の終了により、本実施形態に係るグラウト再注入工法によるシース内のグラウト未充填部分にグラウトを再注入する全工程が完了する。
【0056】
<研磨材の検討実験>
次に、最適な研磨材がどの研磨材である検討するべく行った研磨材の検討実験について説明する。研磨材の種類は、0.5mm長のステンレスのカットワイヤ(硬度Hv500)、0.425~0.6mm長のセラックビーズ(硬度 Hv650~1030)、0.3~0.71mm長のステンレスグリッド(硬度 Hv400)、0.425~1.7mm長の珪砂3号(硬度 Hv6~7)、0.3~1.18mm長の珪砂4号(硬度 Hv6~7)、0.1~0.6mm長の珪砂5号(硬度 Hv6~7)、0.075~0・425mm長の珪砂6号(硬度 Hv6~7)の7種類で行った。また、ブラストノズル11のエアー噴出先端径をφ2.5mmもしくはφ1.5mmとして行った。また、本実験は、アクリル管で縦孔(削孔)を再現し、φ32のPC鋼棒とφ38の鋼製シースを配置し、研磨材や噴射位置を変えて前述のブラストショット装置10でブラストショットを所定時間継続し、噴射時間と開削された孔の直径を計測することで開削程度を把握した。噴射位置は、鋼製シースの側面から頂部位置、鋼製シースの重ね部、リブ部、標準部等である。結果について、ブラストノズル11のエアー噴出先端径をφ2.5mmで行ったものを次表1に、φ1.5mmで行ったものを次表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1,表2のステンカットワイヤの結果から分かるように、ブラストノズルの直径が2.5mmから1.5mmに小さくなると研磨能力が改善されていることがわかる。また、表1のステンカットワイヤとセラミックビーズの結果から分かるように、硬度が高いセラミックビーズを用いても研磨能力が上がるわけではなく、研磨材の形状に角がある材料の方が良いことがわかる。しかしながら、表1の珪砂4号や珪砂5号では開削ができなかったことから、角を有していても硬度がある程度高いことあるいは噴射能力を高くすることが必要であることがわかる。次に、表2の珪砂5号ではステンカットワイヤやステンレスグリッドと同程度に開削ができていることがわかる。これによって、硬度が小さくても角を有し長さが凡そ等しい場合には同程度の開削が実施できることがわかる。一方で、表2の珪砂6号は0.075~0.425mmと比較的長さの小さい研磨材では開削ができないことがわかる。研磨材はブラストノズルの内径に依存するが、珪砂5号が最適である。研磨材の直径が大きすぎてはノズルを通過せず目詰まりを起こし、小さすぎては研磨能力が小さくなるからである。
【0060】
以上説明した本実施形態に係るグラウト再注入工法によれば、PC構造物の下面からシースS1の直下の脇X2からシースS1近傍へ上方に縦孔Vhを穿孔してグラウトを再注入するので、交通規制を伴わずに効率よく床版等の既設PC構造物のシース内のグラウト未充填部分へグラウトを再充填することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るグラウト再注入工法によれば、直角噴射治具1を用いてウォータージェットを縦孔Vhの軸方向(鉛直方向)に対して90°直交する横方向(水平方向)に噴射して穿孔してシースS1の外側のシース周りの斜線部のコンクリートC1を除去するので、ウォータージェットで誤って路面まで穿孔してしまうおそれがない。このため、大事故を未然に防ぐことができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係るグラウト再注入工法によれば、ブラストショット装置10を用いて高圧エアーで研磨材Abをシース露出部S1aに噴射してシースS1を開削するので、シース内のPC鋼材を誤って損傷するおそれがほとんどない。
【0063】
また、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、陥没部又は開削部に螺旋状の鋭利な先端を有する開削治具の前記先端を押し込んで開削するので、グラウト注入に必要な開削部をブラストショットで全部開削する場合と比べて短時間で開削することができる。
【0064】
その上、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、研磨材回収蓋16から集塵用ホース17を通じて集塵機18で縦孔Vh内を吸引することにより、ブラストショットで噴射された研磨材Abを回収する。このため、研磨材で縦孔Vh内が充満してしまってシースの開削ができなくなる事態を防ぐことができ、ブラストショット装置10によるブラストショットを開削に必要な時間継続することができる。
【0065】
それに加え、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、シース開削工程で噴射する研磨材を珪砂5号としているので、短時間で効率よくブラストショットによりシースを開削することができる。
【0066】
また、本実施形態に係るグラウト再注入工法では、切換え式グラウト注入方法により真空ポンプでシースS1内を減圧し、その負圧を利用してグラウトG1注入し、その後、切換え弁を操作し脈動の少ないスネークポンプにより追加注入を行い、最後に加圧してシースS1内の空洞部Ca(未充填部分)にグラウトG1を充填するので、グラウト未充填部分に空隙を作ることなくグラウトを充填することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態に係るグラウト再注入工法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0068】
1:直角噴射治具
1a:噴射ノズル
2:開削治具
10:ブラストショット装置
11:ブラストノズル
12:高圧エアー供給ホース
13:コンプレッサー
Ab:研磨材
14:研磨材供給ホース
15:研磨材容器
16:研磨材回収蓋
17:集塵用ホース
18:集塵機
Fb:床版(PC構造物)
Fba:下面
Fbb:上面(路面)
S1:シース
S1a:シース露出部
PC1:PC鋼棒(PC鋼材)
G1:グラウト
Ca:空洞部(未充填部分)
C1:残コンクリート部分(斜線部のコンクリート)
Vh:縦孔
X1:シース直下
X2:シース脇
D1:回転系のドリル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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