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  • 特開-酸素還元触媒の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168122
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】酸素還元触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20241128BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241128BHJP
   C25B 11/042 20210101ALI20241128BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20241128BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241128BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20241128BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241128BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J37/08
C25B11/042
C25B11/04
H01M4/88 K
H01M4/90 X
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084553
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勲
(72)【発明者】
【氏名】向井 紳
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐作
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB11A
4G169BB11B
4G169BB15A
4G169BB15B
4G169BC35B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EC27
4G169FB06
4G169FB29
4G169FB49
4G169FB57
4G169FB58
4G169FC06
4G169FC07
4K011AA01
4K011AA16
4K011AA17
4K011AA69
4K011BA01
4K011DA11
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB01
5H018EE11
5H018HH00
5H018HH08
5H018HH10
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】酸素還元時にHの生成が抑制された酸素還元触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】ラマンスペクトルにおいて、1550~1620cm-1の範囲にピーク頂を有するピークを1つ以上有するFe-N-C化合物を、マイクロ波加熱または誘導加熱により700~1200℃の温度に加熱することを含む、酸素還元触媒の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマンスペクトルにおいて1550~1620cm-1の範囲にピーク頂を有するピークを1つ以上有するFe-N-C化合物を、マイクロ波加熱または誘導加熱により700~1200℃の温度に加熱することを含む、酸素還元触媒の製造方法。
【請求項2】
前記Fe-N-C化合物を、前記マイクロ波加熱により前記温度に加熱することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記温度までの平均昇温速度が2℃/秒以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記温度における加熱時間が300秒以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は酸素還元触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子燃料電池等の酸素還元触媒として、現在、高価で希少な白金が用いられている。一方、低コスト化のために、白金を代替する酸素還元触媒の研究が盛んである。
【0003】
特許文献1は、所定の窒素含有炭素材料の製造方法を開示している。特許文献1によれば、当該窒素含有炭素材料は、遷移金属を含み、高い酸素還元活性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-256093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような窒素含有炭素材料のうち、遷移金属がFe、CoまたはMnの材料は高い酸素還元活性を示し、その中でもFeの材料(以下「Fe-N-C化合物」とも称する)は、特に高い酸素還元活性を示し得る。しかしながら、Fe-N-C化合物からなる酸素還元触媒は、酸素還元時にHを多く生成し、その分解生成物(ヒドロキシラジカル)が上記触媒を失活させるという問題があった。
【0006】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、酸素還元時に従来よりもHの生成を抑制できる酸素還元触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
ラマンスペクトルにおいて1550~1620cm-1の範囲にピーク頂を有するピークを1つ以上有するFe-N-C化合物を、マイクロ波加熱または誘導加熱により700~1200℃の温度に加熱することを含む、酸素還元触媒の製造方法である。
【0008】
本発明の態様2は、
前記Fe-N-C化合物を、前記マイクロ波加熱により前記温度に加熱することを含む、態様1に記載の製造方法である。
【0009】
本発明の態様3は、
前記温度までの平均昇温速度が2℃/秒以上である、態様1または2に記載の製造方法である。
【0010】
本発明の態様4は、
前記温度における加熱時間が300秒以下である、態様1~3のいずれか1つに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、酸素還元時に従来よりもHの生成を抑制できる酸素還元触媒の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、試料No.1~5の酸素還元触媒を用いて得た、酸素還元時のLSV(リニアスイープボルタンメトリー)曲線を示す。
図2図2は、試料No.1~5の酸素還元触媒を用いて得た、酸素還元時の過酸化水素生成量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、酸素還元時に従来よりもHの生成を抑制できる酸素還元触媒の製造方法を実現するべく、様々な角度から検討した。
【0014】
通常、固体高分子燃料電池などの正極反応では、下記式(1)および(2)の反応が起こり得る。

+4H+4e→2HO ・・・(1)
+2H+2e→H ・・・(2)
【0015】
白金を酸素還元触媒に用いた場合、上記式(1)の4電子反応がおこる。一方、Fe-N-C化合物を酸素還元触媒に用いた場合、4電子反応に加え、上記式(2)の2電子反応が起こり、過酸化水素が生成する。この過酸化水素が、Fe-N-C化合物中の主に酸素還元活性を有し得るFeサイトと反応すること等により触媒性能が劣化すると考えられる。
【0016】
上記に対して、本発明者らは、マイクロ波加熱または誘導加熱で所定温度に加熱することにより過酸化水素生成を抑制できることを見出した。これは以下のようなメカニズムによると考えられる。上記式(2)の反応は、Fe-N-C化合物中のFeサイト周辺に存在し得る酸素官能基(C=O、C-O等)で主に起こると考えられる。そこでFe-N-C化合物をマイクロ波加熱または誘導加熱で加熱することにより、Fe-N-C化合物全体の平均温度に対してFeサイトおよびその周辺をより高温に加熱可能であり(このとき例えば、Fe-N-C化合物の全体の平均温度が700~1200℃である一方、Feサイトおよびその周辺においてはそれよりも高温(場合によっては1200℃超)であり得る)、Fe-N-C化合物の主骨格を維持しつつ、Feサイト周辺に存在し得る酸素官能基を低減でき、それにより過酸化水素生成を抑制できると考えられる。
なお、上記メカニズムにより本発明の技術的範囲が制限されるものではない。
以下、本発明の実施形態の各要件について詳述する。
【0017】
本発明の実施形態に係る酸素還元触媒の製造方法は、ラマンスペクトルにおいて1550~1620cm-1の範囲にピーク頂を有するピークを1つ以上有するFe-N-C化合物を、マイクロ波加熱または誘導加熱により700~1200℃の温度に加熱することを含む。これにより、酸素還元時に従来よりもHの生成を抑制することができる。
【0018】
Fe-N-C化合物は、Fe、NおよびCを含み、ラマンスペクトルにおいて1550~1620cm-1の範囲にピーク頂を有するピークを1つ以上有する。当該ピークは6員環構造に由来すると考えられる。このような化合物は、良好な酸素還元活性を有し得る。
【0019】
Fe-N-C化合物は、Feを0.001質量%以上含むことが好ましい。Fe含有量は、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、よりさらに好ましくは1.0質量%以上である。これにより、Fe-N-C化合物の酸素還元活性がより向上し得る。
Fe含有量の上限は、特に制限されないが、例えば20質量%以下であってもよい。
Fe含有量は、後述する実施例の方法により求めることができる。
【0020】
Fe-N-C化合物は、Nを1~20原子%含むことが好ましい。これにより、Fe-N-C化合物の酸素還元活性がより向上し得る。
N含有量は、後述する実施例の方法により求めることができる。
【0021】
Fe-N-C化合物は、FeおよびNの他、Cを含む。C含有量は、特に制限されないが例えば50質量%以上95質量%以下であり得る。C含有量は、公知の測定方法で求めてよい。
【0022】
Fe-N-C化合物は、F、NおよびCの他、Oを例えば0原子%超又は0.1原子%以上含んでもよい。Oは、多すぎると酸素還元時の過酸化水素生成に寄与するおそれがあり、例えば10原子%以下であることが好ましい。その他の元素としては、通常原料等に含まれ得るH、Sなどが挙げられ、それらの含有量は特に制限されないが、合計で10原子%以下であり得る。
【0023】
Fe-N-C化合物は、例えばChem. Rev. 2018, 118, 2313-2339(特にFigure2)に記載のような公知の方法で準備してよく、例えば、Fe、N及びはCを含む前駆体を700~1200℃に加熱する工程(以下、「第1加熱工程」とも称する)と、を含む方法によって準備してもよい。
【0024】
前駆体は、例えばChem. Rev. 2018, 118, 2313-2339(特にFigure2)に記載のようなFe-N-C化合物を形成可能な素材であれば特に制限されない。前駆体は、例えば、Fe、N及びはCをそれぞれ含む化合物の混合物であってもよく、含窒素有機化合物と、Fe化合物(Fe塩)との混合であってもよく、6員環構造を有しない(又は6員環構造が少ない)Fe、N及びCを含む化合物であってもよい。前駆体として、Feを含むZIF-8(zeolitic imidazole framework -8、多孔性金属錯体とも称する)またはFeを含むポリアニリン(もしくはポリアニリン誘導体)が好ましい。
【0025】
第1加熱工程において、加熱温度が700℃未満だと、前駆体からFe-N-C化合物が十分に形成されないおそれがある。一方で1200℃超だとFe及びNが顕著に脱離するおそれ、及び/又は酸素還元反応を阻害するおそれのあるFe粒子が顕著に生成するおそれがある。より好ましくは、加熱温度は1100℃以下である。
上記加熱温度までの昇温速度は特に制限されない。なお、上記加熱温度は、前駆体(及び/又はFe-N-C化合物)の全体の平均温度を指す。
【0026】
第1加熱工程において、加熱方法は特に制限されず、公知の方法で行うことができる。加熱時の雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、水素、アンモニア含有ガス雰囲気等が挙げられる。不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素、希ガス、真空等が挙げられる。
【0027】
第1加熱工程において、上記加熱温度における加熱時間は、例えば5分~50時間であることが好ましい。加熱時間が5分以上であることにより、6員環構造の形成反応を十分に促進できる。また、加熱時間が50時間以下であることにより、Fe及びNの脱離ならびにFe粒子の生成を抑制できる。
【0028】
第1加熱工程後、必要に応じて他の工程を行ってもよい。例えば、加熱後にFe-N-C化合物とともに、酸化還元反応を阻害するおそれのあるFe粒子が生成し得るため、加熱後のF-N-C化合物を酸処理することにより、当該Fe粒子を除去してもよい。処理に用いる酸としては、特に限定されず、公知のものを使用してよい。
【0029】
上記のように準備したFe-N-C化合物を、マイクロ波加熱または誘導加熱により700~1200℃の温度に加熱する(以下、「第2加熱工程」とも称する)。これにより、酸素還元時に、従来よりも過酸化水素生成を抑制できる。従来は、抵抗加熱等により加熱するのが一般的であったが、その方法では、(Fe-N-C化合物全体の平均温度を700~1200℃にした上で)Feサイトおよびその周辺をより高温に加熱することが困難である等の理由により、過酸化水素生成を十分に抑制できない。
【0030】
マイクロ波加熱および誘導加熱は、公知の方法で行うことができる。
マイクロ波加熱は、300MHz~300GHzのマイクロ波を用いることができる。マイクロ波加熱は、複雑な形状でも比較的容易に加熱できるため、好ましい場合がある。マイクロ波加熱には、シングルモードとマルチモードがあり、適宜選択し得る。シングルモードのマイクロ波加熱において、電界強度が最大となる位置で加熱を行うことが好ましい。
誘導加熱は、例えば0.05~3kHzの低周波を用いた低周波誘導加熱であってもよいし、3kHz~300MHz(又は3kHz~30MHz)の高周波を用いた高周波誘導加熱であってもよい。高周波誘導加熱の方が、低周波誘導加熱よりも昇温速度を高くすることができ好ましい。
【0031】
第2加熱工程の加熱温度が700℃未満だと、過酸化水素生成を抑制するためのFeサイトおよびその周辺の加熱が十分にできないおそれがある。一方で第2加熱工程の加熱温度が1200℃超だとFe及びNが顕著に脱離するおそれ、及び/又はFe粒子が顕著に生成するおそれがある。より好ましくは、加熱温度は1100℃以下である。なお、上記加熱温度は、Fe-N-C化合物の全体の平均温度を指す。また、上記加熱温度は、放射温度計で測定できる。
【0032】
第2加熱工程の加熱温度までの平均昇温速度は0.2℃/秒以上であることが好ましく、2℃/秒以上がより好ましい。これにより、Fe粒子の生成を抑制できる。
【0033】
第2加熱工程の、上記加熱温度での加熱時間は、3000秒以下であることが好ましく、より好ましくは300秒以下、更に好ましくは100秒以下、一層好ましくは5秒以下である。これにより、Fe粒子の生成を抑制できる。上記加熱温度での加熱時間の下限は特に制限されず0秒超であり得る。
【0034】
本発明の実施形態に係る酸素還元触媒の製造方法は、本発明の目的を逸脱しない範囲で他の工程を含んでもよい。
【実施例0035】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0036】
<試料作製>
Chem.Rev.2018,118,2313-2339(特にFigure2)に開示されているような公知の方法でFe-N-C化合物の前駆体(Feを含むZIF-8)粉末を得た。具体的には、硝酸亜鉛六水和物(富士フイルム和光純薬、純度99.9%)6.25質量部、2-メチルイミダゾール(Sigma Aldrich、純度99%)43.75質量部、鉄(III)アセチルアセトナート(富士フイルム和光純薬、純度99%)6.25質量部をメタノール(富士フイルム和光純薬、純度99.8%)中で24時間攪拌混合し、得られた粉末を遠心分離により洗浄後、60℃で一晩乾燥した。乾燥後の粉末を窒素中、電気炉(アサヒ理化製作所、ARF-30KC)を用いて、窒素ガス(エア・ウォーター(株)、純度99.99%)を50mL/分を導入しながら350℃で1時間加熱し、さらに900℃まで昇温した後、900℃で3時間加熱し、Fe-N-C化合物の粉末を得た。加熱後の粉末において、Fe粒子を除去するよう酸処理(0.5M HSO中で攪拌)した。酸処理後のFe-N-C化合物粉末について、顕微ラマンマイクロスコープシステム(inVia Reflex、RENISHAW)を用いて結晶性の評価を行った。測定条件は、励起レーザー波長532nm、対物レンズの倍率20倍、露光時間10秒、積算回数1回、レーザーパワー10%とした。その結果、得られたラマンスペクトルにおいて、1550~1620cm-1の範囲にピーク頂を有するピークを1つ有していた。
【0037】
酸処理後のFe-N-C化合物粉末に、マイクロ波(周波数:2.45GHz)を照射することにより、当該Fe-N-C化合物粉末を加熱した。当該加熱は、半導体式発振器(Wattsine、SOLID STATE MICROWAVE GENERATOR、WSPS-2450-1500、2.45GHz)を有するシングルモードのマイクロ波照射装置を用いて、Fe-N-C化合物粉末を試料室(石英管)内のマイクロ波の電界強度が最大となる位置に配置し、試料室内に、窒素ガス(エア・ウォーター(株)、純度>99.99%)を15mL/分を導入しながら行った。このとき、放射温度計(ジャパンセンサー(株)、PWCX)を用いて粉末の平均温度を測定し、加熱温度は900℃(±10℃)とし、後述の表1に示すように、加熱温度までの昇温速度および当該加熱温度での加熱時間を変化させることにより、試料No.1~4の酸素還元触媒を得た。なお、比較として、酸処理後のFe-N-C化合物粉末を、従来の加熱方法として、電気炉を用いて900℃(±10℃)で1時間加熱(抵抗加熱)して、試料No.5の酸素還元触媒を得た。
【0038】
<酸素還元反応(ORR)活性及び過酸化水素生成量評価>
まず、評価前の吸着水を除去する為に、真空条件下で試料を150℃で12h以上乾燥を行った。乾燥後、各触媒2.5質量部と、触媒1mg当たりに対して、蒸留水およびエタノールをそれぞれ120μLと、Nafion分散液(Sigma-Aldrich、溶媒:1-プロパノール48±3質量%、水45±3質量%、エタノール<4質量%)10μLと、を混合した。当該混合物を氷冷しながら30分超音波処理した後、得られた溶液をグラッシーカーボン電極(ビー・エー・エス(株)、電極径4mm)に滴下し、700rpmで回転させながら室温で約30分乾燥させることで、酸素還元触媒量が255μg/cmである作用極を作製した。
【0039】
上記作用極を回転電極装置(ビー・エー・エス(株)、RRDE-3A)に取り付けた。参照極はAg/AgCl(ビー・エー・エス(株)、RE-1CP飽和KCl銀塩化銀参照電極)、対極はPt線(直径0.20mm、株式会社ニラコ)、電解液は0.5M HSO溶液(和光純薬(株)、f=0.999(293K))を使用して、LSVリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定することにより酸素還元反応(ORR)活性及び過酸化水素生成量を評価した。
【0040】
回転電極装置はディスク電極とリング電極に分かれており、ディスク電極ではLSV測定によって上記式(1)及び(2)の反応を検出し、リング電極では定電位を印加してディスク電極で生成した過酸化水素の酸化反応を検出した。具体的には、まずNバブリングを30分行い、溶存酸素を除去した。その状態で、電極回転速度を1700rpmで回転させ、掃引速度1mV/秒で、ディスク電極側では1.0~-0.2V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲で掃引し、リング電極側では0.98V(vs.Ag/AgCl)の定電位を印加して電流値を記録した。その後、流量約10mL/分の酸素ガス(エア・ウォーター(株)、純度99.5%)で約30分バブリングすることで電解液を酸素飽和させ、掃引速度1mV/秒で、ディスク電極側では1.0~-0.2V(vs.Ag/AgCl)の電位範囲で掃引し、リング電極側では0.98V(vs.Ag/AgCl)の定電位を印加して電流値を記録した。得られた結果について、ディスク電極側、リング電極側それぞれについて、バックグラウンドとして溶存酸素を取り除いて測定した電流値を減算した。
また、得られた結果につき、下記式(3)を用いて、Ag/AgClを基準とした電位(E(vs.Ag/AgCl))を標準電極電位(E(vs.RHE))に変換した。

E(vs.RHE)=E(vs.Ag/AgCl)+0.198+0.059×pH ・・・(3)
ここで、pH=0.293とした。
【0041】
また、ディスク電極側のLSV曲線から、電流密度の値が初めて10μA/cm超となる電位をORR開始電位とした。過酸化水素生成量(%)は、下記式(4)に基づいて計算を行った。

(%)=200×I/(NI+I) ・・・(4)

ここで、Iはリング電極側の電流(mA)、Iはディスク電極側の電流(mA)、Nは捕捉率(=0.425)である。
【0042】
さらに、ディスク電極側のLSV曲線から、x軸を電流密度の常用対数log|i|、y軸を電位V(vs.RHE)としたTafelプロットを作成した。得られたTafelプロットについて、ORR開始電位の前後50点で線形近似を行い、得られた傾きをTafel勾配とした。
【0043】
図1は、試料No.1~5の酸素還元触媒を用いた場合の、酸素還元時のディスク電極側のLSV曲線である。図1に示すように、試料No.1~5の酸素還元触媒を用いた場合、ORR開始電位はどれも同等の値を示した。
【0044】
図2は、試料No.1~5の酸素還元触媒を用いた場合の、酸素還元時の過酸化水素生成量を示すグラフである。従来の抵抗加熱により作製した試料No.5を用いた場合に対して、本発明の実施形態に係る加熱により作製した試料No.1~4を用いた場合は、酸素還元時の過酸化水素生成量が大きく低下した。
以上の結果を表1にまとめる
【0045】
【表1】
【0046】
表1から、以下のことがわかる。試料No.1~4は、本発明の実施形態の要件を全て満たす例であり、従来技術に相当する試料No.5と比較して、過酸化水素生成量が低減した。ここで、一般的に、酸素還元触媒量が多い方が過酸化水素生成を抑制できるところ、本実施例では、255μg/cmという非常に少ない触媒量で過酸化水素生成量を十分に低い値(例えば1.5%以下、最小で0.4%)にできるという顕著な効果を示した。
さらに、試料No.1~3は、本発明の実施形態に係る好ましい要件として、平均昇温速度2℃/秒以上を満たしていたため、0.5Vおよび0.6V(vs.RHE)における電流密度の絶対値がより高い値であった。また試料No.1~3を比較すると、加熱時間が短ければ短いほど当該電流密度の絶対値がより高い値であった。これらは、平均昇温速度の増大および加熱時間の短縮により、酸素還元反応を阻害し得るFe粒子の生成が抑制されたためであると考えられる。
一方で、試料No.5は本発明の実施形態の要件を満たさない例であり、過酸化水素水生成量が多かった。
なお、試料No.5は、平均昇温速度が極めて遅く、加熱時間が長いにもかかわらず、電流密度の絶対値は、試料No.4よりも高かった。これは、試料No.5の抵抗加熱ではFeサイトおよびその周辺がより高温に加熱されておらず、Fe粒子の生成がマイクロ波加熱と比較して起きにくいことに起因すると考えられる。
【0047】
試料No.1~4のORR開始電位は、試料No.5と同等の値であった。また、それぞれのTafel勾配も、Feを含むZIF-8を前駆体として作製されたFe-N-C化合物からなる酸素還元触媒で得られる公知のTafel勾配の値と比較して同等であった。これらの結果は、加熱によるFe-N-C化合物の劣化がないことを示唆している。
【0048】
上記結果をさらに考察するために、試料No.1~5の組成(Fe含有量、N含有量、O含有量)分析を行った。
【0049】
Fe含有量(質量%)は、ICP発光分析装置(島津製作所、ICPE-9000)を用いて測定した。まず、5~10質量部の試料No.1~5に、試料1mgあたり0.4mlのHNOを加えて10秒間超音波洗浄処理した後、100℃で加温分解し、再度10秒間超音波洗浄処理し、冷却後に超純水を、上記試料1mg当たりに対して全量が10mlとなるようにした後、0.45μmのフィルターを通して、測定用試料を作製した。その後、以下の測定条件でFe含有量を測定した:
高周波パワー:1.20kW、プラズマガス:10L/分、補助ガス:0.60L/分、キャリアガス:0.70L/分、露光時間:30秒、感度:ワイドレンジ、観測方向:軸、ソルベントリンス時間:Low60秒、High0秒、サンプルリンス時間:Low60秒、High0秒、ペリスタルティックポンプ回転数:Low20rpm、High60rpm。
【0050】
N含有量およびO含有量(それぞれ原子%)は、X線光電子分光(XPS)分析装置(JPS-9200,日本電子株式会社)を用いて測定した。Alオープン型試料容器(日立ハイテクサイエンス、GAA-0068、φ5.2、H2.5mm)に、インジウム箔(NILACO、品番:IN-203260)を入れ、その上に各試料とTi板(ノーブランド、フリープレート(シャーリング切断)、幅、長さ、厚さ全て2mm)を乗せた後、錠剤成型器(ジャスコエンジニアリング、MP-1 Mini press)でプレスして測定用試料とした。その後、以下の測定条件でN含有量およびO含有量を測定した(表2):
X線源:MgKα(1253.6eV)、X線源の電圧:10kV、フィラメントの電流値:3.5A、レンズモード(測定領域径):1.0mmφ、Wideスキャンのパスエネルギー:50eV、Narrowスキャンのパスエネルギー:10eV、Narrowスキャンのステップ幅:0.1eV、Cスキャン範囲:296~280eV、Cスキャン積算回数:30回、Oスキャン範囲:540~525eV、Oスキャン積算回数100回、Nスキャン範囲:410~380eV、Nスキャン積算回数:100回、測定時間:約3時間/1サンプル
【0051】
【表2】
【0052】
表2の結果を考察する。
本発明の実施形態に係る加熱を行った試料No.1~4は、抵抗加熱を行った試料No.5と比較して、Fe、NおよびOの含有量が低かった。これらの結果について、詳細なメカニズムは不明であるが、本発明の実施形態に係る加熱によりFeサイトおよびその周辺がより高温に加熱されたことに起因すると考えられる。特に、本発明の実施形態に係る加熱により、Feサイト周辺に存在し得る酸素官能基を低減でき、過酸化水素生成を抑制できたと考えられるところ、表2に示す試料No.1~3の低酸素含有量は、Feサイト周辺の酸素官能基が低減されたことを少なからず反映していると考えられる。
図1
図2